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特許異議申立

2024-700149

接着性樹脂シート、プリント配線板および、電子機器。

審判番号
2024-700149
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-121487
登録番号
7342917
請求日
2024年02月19日
審決日
2024年07月10日
公報発行日
2024年08月30日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】東洋インキSCホールディングス株式会社
  • 【権利者代理人】家入 健
  • 【権利者代理人】秦 恵子
  • 【異議申立人】笠原 佳代子
  • 【異議申立人】宮前 尚祐
  • 【異議申立人】石渡 英房
審判長/審判官
  • 審判長 土居 仁士
  • 審判官 寺谷 大亮
  • 審判官 衣鳩 文彦
分類
P1651.113-Y (H05K) / P1651.121-Y (H05K) / P1651.536-Y (H05K) / P1651.537-Y (H05K) / P1651.55 -Y (H05K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第17条の2第3項、特許法第36条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7342917号発明「接着性樹脂シート、プリント配線板および、電子機器。」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7342917号の請求項1~11に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7342917号(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和3年7月26日に出願され、令和5年9月4日にその特許権の設定登録がされ、同年9月12日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和6年2月19日に特許異議申立人 笠原 佳代子(以下「申立人A」という。)が、同年3月7日に特許異議申立人 宮前 尚祐(以下「申立人B」という。)が、同年3月12日に特許異議申立人 石渡 英房(以下「申立人C」という。)が、それぞれ特許異議の申立てを行い、同年3月29日に申立人Bが、同年3月29日及び同年4月9日に申立人Cが、それぞれ、特許異議申立書の手続補正(方式)を行った。 第2 本件発明 特許第7342917号の請求項1~11の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明11」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 【請求項1】 180℃で1時間加熱した際、以下の(イ)、(ロ)、(ハ)および(ニ)を満たし、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系エラストマー、フッ素樹脂およびスチレン無水マレイン酸系樹脂から選ばれるバインダー樹脂(A)と、硬化剤(B)とを含み、ただし、酸無水物基を有する変性エラストマーと溶剤可溶性ポリイミド樹脂とを共に含むことはなく、ビスマレイミド樹脂を含まない、ことを特徴とする接着性樹脂シート。 (イ)23℃において、測定周波数10GHzでの誘電正接が0.005以下である。 (ロ)23℃において、測定周波数20GHzでの誘電正接が0.007以下である。 (ハ)23℃において、測定周波数40GHzでの誘電正接が0.01以下である。 (ニ)JIS K7120に規定された熱重量測定に準拠し、流入ガス:窒素、測定温度範囲:25℃~500℃、加熱速度:10℃/分、にて測定した質量減少率が5%であるときの温度が280℃以上である。 【請求項2】 180℃で1時間加熱した際のガラス転移温度(Tg)が、0~150℃であることを特徴とする請求項1記載の接着性樹脂シート。 【請求項3】 さらに、フィラー(C)を含有し、前記フィラー(C)の含有量が、前記接着性樹脂シートの全質量に対して50質量%以下であることを特徴とする、請求項1または2記載の接着性樹脂シート。 【請求項4】 前記フィラー(C)が、フッ素系フィラー、窒化ホウ素、液晶ポリマー、シリカおよびリン系フィラーからなる群より選ばれる少なくとも一種類を含むことを特徴とする請求項3記載の接着性樹脂シート。 【請求項5】 前記バインダー樹脂(A)が、カルボキシル基、酸無水物基、水酸基、アミノ基、シアネート基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、イミダゾール基、ピロール基、アセタール基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アルデヒド基、ヒドラジド基、ヒドラゾン基およびリン酸基から選ばれる反応性官能基を有することを特徴とする請求項1~4のいずれか記載の接着性樹脂シート。 【請求項6】 前記バインダー樹脂(A)が、窒素、リンおよび硫黄原子から選ばれる元素を有することを特徴とする請求項1~5のいずれか記載の接着性樹脂シート。 【請求項7】 前記バインダー樹脂(A)の23℃における測定周波数40GHzでの誘電正接が、0.005以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれか記載の接着性樹脂シート。 【請求項8】 前記硬化剤(B)が、エポキシ基含有化合物(B-1)、イソシアネート基含有化合物(B-3)、金属キレート化合物(B-4)およびカルボジイミド基含有化合物(B-5)から選ばれる化合物を含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか記載の接着性樹脂シート。 【請求項9】 プリント配線板用であることを特徴とする請求項1~8のいずれか記載の接着性樹脂シート。 【請求項10】 請求項1~9のいずれか記載の接着性樹脂シートの硬化物を有するプリント配線板。 【請求項11】 請求項10記載のプリント配線板を具備してなる電子機器。 第3 証拠方法、特許異議申立理由の概要 1 証拠方法 (1)申立人Aが特許異議申立書(以下「申立書A」という。)に添付した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第1号証:特開2002-249531号公報 甲第2号証:特開2019-135280号公報 甲第3号証:特開2020-94212号公報 (2)申立人Bが特許異議申立書(以下「申立書B」という。)に添付した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第1号証:特開2019-199612号公報 甲第2号証:特開2019-197867号公報 甲第3号証:国際公開第2014/147903号 甲第4号証:特開2021-54889号公報 甲第5号証:特開2020-94212号公報 甲第6号証:国際公開第2020/071154号 甲第7号証:特開2020-70434号公報 甲第8号証:国際公開第2018/212257号 甲第9号証:特開2020-200413号公報 甲第10号証:製品案内 jER、三菱ケミカル株式会社 エポキシ・実装材料事業部、2023年4月 甲第11号証:国際公開第2020/137353号、16~17頁 甲第12号証:特許第7120497号公報、15頁 甲第13号証:小椋 一郎、常識破りの最新鋭エポキシ樹脂、DIC Technical Review、No.11/2005、21~28頁 甲第14号証:特開2021-103757号公報、2~3頁 甲第15号証:特開2022-161791号公報 甲第16号証:特願2021-121487号の令和4年9月27日付け拒絶理由通知書 甲第17号証:特願2021-121487号の令和4年11月25日提出の意見書 甲第18号証:特願2021-121487号の令和4年11月25日提出の手続補正書 甲第19号証:特願2021-121487号の令和5年3月20日付け拒絶理由通知書 甲第20号証:特願2021-121487号の令和5年5月23日提出の意見書 甲第21号証:特願2021-121487号の令和5年5月23日提出の手続補正書 甲第22号証:第IV部 第2章 新規事項を追加する補正(特許法第17条の2第3項)、特許・実用新案 審査基準 (3)申立人Cが特許異議申立書(以下「申立書C」という。)に添付した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第1号証:再公表特許2016/017473号 甲第2号証:再公表特許2014/147903号 甲第3号証:再公表特許2017/029917号 甲第4号証:堤 直人 外1名、新・物質科学ライブラリ=9 基礎 高分子科学、初版、株式会社サイエンス社、2019年9月25日、90頁 甲第5号証:特許第4460426号公報 甲第6号証:公知組成物の追試結果、2024年1月25日、申立人C 以下、申立人Aによる「甲第1号証」等を、「甲A1」等といい、申立人Bによる「甲第1号証」等を、「甲B1」等といい、申立人Cによる「甲第1号証」等を、「甲C1」等という。 2 申立理由の概要 申立人A、申立人B及び申立人Cが、それぞれ申立書A、申立書B及び申立書Cで主張する異議申立理由の概要は、以下のとおりである。 (1)申立人Aの申立理由 ア 申立理由A1(新規性) 本件発明1~7、9~11は、甲A1に記載された発明であるから、本件発明1~7、9~11に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し取り消されるべきものである。 イ 申立理由A2(進歩性) 本件発明1~11は、甲A1に記載された発明並びに甲A2及び甲A3に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~11に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し取り消されるべきものである。 (2)申立人Bの申立理由 ア 甲B1を主引例とする申立理由 (ア)申立理由B1(新規性) 本件発明1~5、7~10は、甲B1に記載された発明であるから、本件発明1~5、7~10に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し取り消されるべきものである。 (イ)申立理由B2(進歩性) 本件発明6、11は、甲B1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明6、11に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し取り消されるべきものである。 (ウ)申立理由B3(進歩性) 本件発明1~11は、甲B1に記載された発明及び甲B2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~11に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し取り消されるべきものである。 (エ)申立理由B4(進歩性) 本件発明1~11は、甲B1に記載された発明並びに甲B5及び甲B7~甲B9に記載された事項に基いて、又は、甲B1に記載された発明及び甲B6~甲B9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~11に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し取り消されるべきものである。 イ 甲B3を主引例とする申立理由 (ア)申立理由B5(新規性) 本件発明1~5、7~10は、甲B3に記載された発明であるから、本件発明1~5、7~10に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し取り消されるべきものである。 (イ)申立理由B6(進歩性) 本件発明6、11は、甲B3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明6、11に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し取り消されるべきものである。 (ウ)申立理由B7(進歩性) 本件発明1~11は、甲B3に記載された発明並びに甲B1及び甲B2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~11に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し取り消されるべきものである。 ウ 甲B4を主引例とする申立理由 (ア)申立理由B8(新規性) 本件発明1、4~5、9~11は、甲B4に記載された発明であるから、本件発明1、4~5、9~11に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し取り消されるべきものである。 (イ)申立理由B9(進歩性) 本件発明3、6は、甲B4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明3、6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し取り消されるべきものである。 エ 申立理由B10(新規事項) 本件特許の特許請求の範囲についてした補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、本件発明1~11に係る特許は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、同法113条1号に該当し取り消されるべきものである。 オ 申立理由B11(実施可能) 本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~11を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、本件発明1~11に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条4号に該当し取り消されるべきものである。 カ 申立理由B12(サポート) 本件発明1~11は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件発明1~11に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条4号に該当し取り消されるべきものである。 キ 申立理由B13(明確性) 本件発明1~11は、明確でないから、本件発明1~11に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条4号に該当し取り消されるべきものである。 (3)申立人Cの申立理由 ア 甲C1を主引例とする申立理由 (ア)申立理由C1(新規性) 本件発明1~5、7~11は、甲C1に記載された発明であるから、本件発明1~5、7~11に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し取り消されるべきものである。 (イ)申立理由C2(進歩性) 本件発明1~5、7~11は、甲C1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~5、7~11に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し取り消されるべきものである。 イ 甲C2を主引例とする申立理由 (ア)申立理由C3(新規性) 本件発明1~5、7~11は、甲C2に記載された発明であるから、本件発明1~5、7~11に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し取り消されるべきものである。 (イ)申立理由C4(進歩性) 本件発明1~5、7~11は、甲C2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~5、7~11に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し取り消されるべきものである。 ウ 甲C3を主引例とする申立理由 (ア)申立理由C5(新規性) 本件発明1~5、7~11は、甲C3に記載された発明であるから、本件発明1~5、7~11に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し取り消されるべきものである。 (イ)申立理由C6(進歩性) 本件発明1~5、7~11は、甲C3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~5、7~11に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し取り消されるべきものである。 第4 申立人Aの申立理由についての当審の判断 1 甲号証の記載について 以下では、甲A1及び甲A3の記載を引用する。 (1)甲A1 ア 甲A1の記載事項 甲A1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与したものである。以下、同じ。)。 「【請求項1】 重量平均分子量が1000以下の一般式〔1〕 【化1】 [図:0001413353000001.jpg] (但し、Rは置換基を有していてもよい炭化水素骨格、R1は水素,メチル,またはエチルを示し、mは1~4、nは2以上の整数を示す。)で表される複数のスチレン基を有する架橋成分を含み、さらに、重量平均分子量5000以上の高分子量体,充填剤の少なくとも一方を含有することを特徴とする低誘電正接樹脂組成物。」 「【0017】本発明の目的は、低誘電率、低誘電正接であり、不揮発性、溶解性、各種樹脂との相溶性に優れ、硬化後の耐熱性、柔軟性が良い架橋剤を含む低誘電正接樹脂組成物、硬化性フィルム、その硬化物およびそれを絶縁体とする電気部品、その電気部品の製法を提供することにある。」 「【0051】低誘電正接樹脂組成物を硬化性フィルムの形態で用いる場合には、高分子量体はフィルム形成能を有している必要がある。こうした高分子量体の具体的な例としては、ブタジエン,イソプレン,スチレン,エチルスチレン,ジビニルベンゼン,N-ビニルフェニルマレイミド,アクリル酸エステル,アクリロニトリルから選ばれる1種以上の単独または共重合体、置換基を有していてもよいポリフェニレンオキサイド,環構造を有するポリオレフィン,ポリシロキサン,ポリエーテルイミド等が挙げられる。 【0052】ブタジエン,イソプレン,アクリル酸エステル等からなるゴム状ポリマーは、硬化物に柔軟性と接着性、塗膜の平滑性を付与し、スチレン,エチルスチレン,アクリロニトリルは先のゴム状成分と共重合することによって、その耐熱性を向上する働きを有するものである。」 「【0054】ポリフェニレンオキサイド、環構造を有するポリオレフィン,ポリシロキサン,ポリエーテルイミドは熱分解温度が高い耐熱性ポリマーであり、架橋成分とアロイ化することによって、柔軟性、接着性の付与、機械強度の向上等を図ることができる。」 「【0073】○1(当審注:○1は丸数字の1。以下、同じ。) 1,2-ビス(ビニルフェニル)エタン(BVPE)の合成 BVPEの合成は公知の方法で行った。500mlの三つ口フラスコにグリニャール反応用粒状マグネシウム(関東化学製)5.36g(220mmol)を採り、滴下ロート、窒素導入管、セプタムキャップを取り付けた。窒素気流下、スターラによってマグネシウム粒を攪拌しながら、系全体をドライヤーで加熱脱水した。 【0074】乾燥テトラヒドロフラン300mlをシリンジに採り、セプタムキャップを通じて注入した。溶液を-5℃に冷却した後、滴下ロートを用いてビニルベンジルクロライド(VBC,東京化成製)30.5g(200ml)を約4時間かけて滴下した。滴下終了後、0℃/20時間、攪拌を続けた。反応終了後、反応溶液をろ過して残存マグネシウムを除き、エバポレータで濃縮した。 【0075】濃縮溶液をヘキサンで希釈し、3.6%塩酸水溶液で1回、純水で3回洗浄し、次いで硫酸マグネシウムで脱水した。 【0076】脱水溶液をシリカゲル(和光純薬製ワコーゲルC300)/ヘキサンのショートカラムに通して精製し、真空乾燥してBVPEを得た。得られたBVPEはm体(液状)、p体(結晶)の混合物であり、収率は90%であった。1H-NMRによって構造を調べたところ、その値は文献値と一致した(6H-ビニル:α-2H,6.7、β-4H,5.7,5.2;8H-アロマティック:7.1-7.35;4H-メチレン:2.9)。本BVPEを架橋成分として用いた。 【0077】○2 その他の試薬の名称 Zeonex:日本ゼオン製、環状ポリオレフィン(Zeonex480);高分子量体(重量平均分子量約60000) DVB:和光純薬製、ジビニルベンゼン;比較例3の架橋成分 YS-10:四国化成製、硼酸アルミニウムウイスカ(繊維径0.5~1μm、繊維長10~30μm);実施例6の充填剤成分 25B:日本油脂製2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3(パーヘキシン25B);硬化触媒 トルエン:和光純薬製;ワニス化溶媒。 【0078】○3 ワニスの調製方法 所定量の高分子量体、架橋成分、硬化触媒、充填剤をトルエンに溶解、分散することによってワニスを調製した。 【0079】充填剤の分散はボールミルによる攪拌で行った。また、プレス加工用の樹脂組成物は、調製したワニスを真空乾燥して作製した。 【0080】○4 評価用樹脂板、フィルムの作製方法 実施例1~5の樹脂板は、ポリテトラフルオロエチレン製のスペーサ内に所定量の乾燥した樹脂組成物を入れ、ポリイミドフィルムと鏡板を介して真空下、加熱,加圧して作成した。加熱条件は120℃/30分、150℃/30分、180℃/100分、プレス圧力は1.5MPaの多段階加熱とした。なお、樹脂板サイズは70mm×70mm×1mmとした。 【0081】比較例1、並びに、実施例1~5の樹脂フィルムは、濃度30wt%のトルエン樹脂ワニスをPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布し、窒素気流下120℃で2時間乾燥して作製した。フィルムの厚みは約50μmとした。 【0082】比較例2,3、および、実施例6の樹脂板は、ポリテトラフルオロエチレン製スペーサを貼り付けた二枚のガラス板の間に、無溶剤の状態で樹脂組成物を注入して、密閉し加熱、硬化して作製した。加熱条件は120℃/30分、150℃/30分、180℃/100分の多段階加熱とした。樹脂板サイズは70mm×70mm×1mmとした。但し、DVBのみからなる樹脂板は、ひび割れが生じた。 【0083】○5 誘電率、誘電正接の測定 誘電率と誘電正接は、空洞共振法(アジレントテクノロジー製,8722ES型ネットワークアナライザー、関東電子応用開発製空洞共振器)によって、10GHzの値を観測した。 【0084】○6 引張強度、伸びの測定 引張強度と伸びは、島津製AGS-100G型引張試験機を用い、比較例1は厚さ50μm×幅4mm×長さ70mmのフィルムサンプルを用い、その他は厚さ1mm×幅1mm×長さ70mmの柱状サンプルを用いて、室温で支点間距離20mm、引張速度10mm/分の条件で測定した。 【0085】○7 ガラス転移温度(Tg) Tgは、アイティー計測制御製DVA-200型粘弾性測定装置(DMA)を用いて、tanδのピーク位置から求めた。サンプル形状、支点間距離は引張強度用サンプルと同じであり、昇温速度は5℃/分とした。 【0086】○8 熱分解温度 熱分解温度は、Du pont社製2950型熱重量測定装置(TGA)を用いて試料約10mg、窒素気流下(10ml/分)、昇温速度5℃/分の条件で測定し、5wt%重量減少温度を熱分解温度として求めた。 【0087】表2に、本発明の樹脂組成物の実施例1~6と比較例1~3の組成、および、その特性を示す。 【0088】 【表2】 [図:0001413353000002.jpg] (当審注:組成比欄の「BVPA」は「BVPE」の誤記と認める。) 〔比較例 1〕有機溶剤に可溶な環状ポリオレフィン樹脂であるZeonexを30wt%トルエン溶液とし、PETフィルム上に塗布、窒素気流下120℃/2時間乾燥、PETフィルムを剥離して厚さ約50μmのZeonexフィルムを得た。本フィルムは、誘電率が2.18、誘電正接が0.004と非常に低いものの、機械強度、伸び、Tgが低いことが分かった。」 「【0091】〔実施例 1~5〕実施例1~5は、高分子量体であるZeonexと架橋成分であるBVPEの配合比を変えた樹脂組成物である。」 イ 甲A1発明 前記アの表2は、樹脂組成物の実施例1~6と比較例1~3の組成及び特性を示したものであり(【0087】)、ワニス・樹脂板特性である誘電正接及び熱分解温度(℃)は、【0080】に記載の方法で作製した樹脂板を、【0083】及び【0086】に記載の方法で測定した値と解される。そして、実施例1は、高分子量であるZeonexを95重量部、架橋成分であるBVPEを5重量部、硬化触媒である25Bを0.05重量部の組成比としたものであると解されるから(【0077】、【0091】)、前記アの下線部に着目すると、実施例1の樹脂フィルム(【0081】)として、次の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されていると認められる。 500mlの三つ口フラスコにグリニャール反応用粒状マグネシウム(関東化学製)5.36g(220mmol)を採り、滴下ロート、窒素導入管、セプタムキャップを取り付け、窒素気流下、スターラによってマグネシウム粒を攪拌しながら、系全体をドライヤーで加熱脱水し、乾燥テトラヒドロフラン300mlをシリンジに採り、セプタムキャップを通じて注入し、溶液を-5℃に冷却した後、滴下ロートを用いてビニルベンジルクロライド(VBC,東京化成製)30.5g(200ml)を約4時間かけて滴下し、滴下終了後、0℃/20時間、攪拌を続け、反応終了後、反応溶液をろ過して残存マグネシウムを除き、エバポレータで濃縮し、濃縮溶液をヘキサンで希釈し、3.6%塩酸水溶液で1回、純水で3回洗浄し、次いで硫酸マグネシウムで脱水し、脱水溶液をシリカゲル(和光純薬製ワコーゲルC300)/ヘキサンのショートカラムに通して精製し、真空乾燥して得た1,2-ビス(ビニルフェニル)エタン(BVPE)を架橋成分として用い、(【0073】~【0076】) 高分子量体であるZeonex(日本ゼオン製、環状ポリオレフィン(Zeonex480);高分子量体(重量平均分子量約60000))95重量部、架橋成分であるBVPE 5重量部、硬化触媒である25B(日本油脂製2、5-ジメチル-2、5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3(パーヘキシン25B))0.05重量部をトルエンに溶解、分散することによってワニスを調製し、(【0077】、【0078】、表2) 濃度30wt%のトルエン樹脂ワニスをPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布し、窒素気流下120℃で2時間乾燥して作製した、厚みを約50μmとした樹脂フィルムであり、(【0081】) プレス加工用の樹脂組成物を、調製したワニスを真空乾燥して作製し、樹脂板を、ポリテトラフルオロエチレン製のスペーサ内に所定量の乾燥した樹脂組成物を入れ、ポリイミドフィルムと鏡板を介して真空下、加熱、加圧して作成し、加熱条件は120℃/30分、150℃/30分、180℃/100分、プレス圧力は1.5MPaの多段階加熱とし、樹脂板サイズは70mm×70mm×1mmとし、(【0079】、【0080】) 空洞共振法(アジレントテクノロジー製,8722ES型ネットワークアナライザー、関東電子応用開発製空洞共振器)によって観測した、樹脂板の10GHzの誘電正接の値が0.0011であり、(【0083】、表2) Du pont社製2950型熱重量測定装置(TGA)を用いて試料約10mg、窒素気流下(10ml/分)、昇温速度5℃/分の条件で測定し、熱分解温度として求めた、樹脂板の5wt%重量減少温度が410℃である(【0086】、表2) 樹脂フィルム。 (2)甲A3 甲A3には、次の事項が記載されている。 「【0009】 本発明の目的は、低周波数帯域~高周波数帯域の広い周波数帯域に亘って硬化物の誘電正接を低くすることができ、かつデスミア処理によってスミアを効果的に除去することができる樹脂材料を提供することである。また、本発明は、上記樹脂材料を用いた多層プリント配線板を提供することも目的とする。」 「【0029】 多層プリント配線板における絶縁層では、広い周波数帯域に亘って誘電正接が低いことが好ましい。しかしながら、上記第1の化合物を含みかつ上記第2の化合物を含まない樹脂材料を用いて絶縁層を形成した場合には、低周波数帯域(例えば1GHz以上10GHz以下)の誘電正接を低くすることができたとしても、高周波数帯域(例えば10GHz以上40GHz以下)の誘電正接を低くすることは困難である。また、上記第1の化合物を含まずかつ上記第2の化合物を含む樹脂材料を用いて絶縁層を形成した場合には、低周波数帯域(例えば1GHz以上10GHz以下)~高周波数帯域(例えば10GHz以上40GHz以下)の広い周波数帯域に亘って誘電正接を低くすることは困難である。」 「【0259】 (2)誘電正接 得られた樹脂フィルムを190℃で90分間加熱して、硬化物を得た。得られた硬化物を幅2mm、長さ80mmの大きさに裁断して10枚を重ね合わせて、関東電子応用開発社製「空洞共振摂動法誘電率測定装置CP521」及びキーサイトテクノロジー社製「ネットワークアナライザーN5224A PNA」を用いて、空洞共振法で常温(23℃)にて、周波数1.0GHzにて誘電正接を測定した。また、平板用の治具を用いて、空洞共振法で常温(23℃)にて、周波数40GHzにて誘電正接を測定した。なお、周波数1.0GHzで測定した誘電正接を誘電正接(1.0GHz)、周波数40GHzで測定した誘電正接を誘電正接(40GHz)で表す。 【0260】 [誘電正接の判定基準] ○○:誘電正接(1.0GHz)と誘電正接(40GHz)との差の絶対値が1.00×103以下 〇:誘電正接(1.0GHz)と誘電正接(40GHz)との差の絶対値が1.00×103を超え1.50×103未満 ×:誘電正接(1.0GHz)と誘電正接(40GHz)との差の絶対値が1.50×103以上」 「【0275】 【表1】 [図:0001413353000003.jpg] 」 2 本件発明1について (1)対比 本件発明1と甲A1発明とを対比する。なお、以下において、樹脂組成物(樹脂フィルム等)の誘電正接についていうときは、特に記載がなければ、該樹脂組成物を加熱したもの(熱硬化したもの)の誘電正接のことを意味する。 ア 「接着性樹脂シート」について 甲A1発明の「樹脂フィルム」は、「環状ポリオレフィン」の「Zeonex480」を主成分とするものであり、接着性を有すると解されるから、本件発明1の「接着性樹脂シート」に相当する。 イ 「アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系エラストマー、フッ素樹脂およびスチレン無水マレイン酸系樹脂から選ばれるバインダー樹脂(A)」について 甲A1発明の「環状ポリオレフィン」の「Zeonex480」は、樹脂であり、前記アのとおり、接着性を有する「樹脂フィルム」の主成分(基体)であるから、バインダー樹脂ということができ、それを「バインダー樹脂(A)」と称することは任意であるから、本件発明1と甲A1発明とは、「バインダー樹脂(A)」を含む点で共通する。 他方で、甲A1発明の「Zeonex480」は、本件発明1の「アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系エラストマー、フッ素樹脂およびスチレン無水マレイン酸系樹脂から選ばれ」たものには当たらない。 ウ 「硬化剤(B)」について 甲A1発明の「BVPE」は、「架橋成分」であるから、本件発明1の「硬化剤(B)」に相当し、本件発明1と甲A1発明とは、「硬化剤(B)」を含む点で一致する。 エ 「酸無水物基を有する変性エラストマーと溶剤可溶性ポリイミド樹脂とを共に含むことはなく」について 甲A1発明は、酸無水物基を有する変性エラストマー及び溶剤可溶性ポリイミド樹脂を含むことは特定されていないから、本件発明1とは、「酸無水物基を有する変性エラストマーと溶剤可溶性ポリイミド樹脂とを共に含むことはな」い点で一致する。 オ 「ビスマレイミド樹脂を含まない」について 甲A1発明は、ビスマレイミド樹脂を含むことは特定されていないから、本件発明1とは、「ビスマレイミド樹脂を含まない」点で一致する。 カ 「180℃で1時間加熱した際、以下の(イ)、(ロ)、(ハ)および(ニ)を満たし」及び「(イ)23℃において、測定周波数10GHzでの誘電正接が0.005以下である。(ロ)23℃において、測定周波数20GHzでの誘電正接が0.007以下である。(ハ)23℃において、測定周波数40GHzでの誘電正接が0.01以下である。(ニ)JIS K7120に規定された熱重量測定に準拠し、流入ガス:窒素、測定温度範囲:25℃~500℃、加熱速度:10℃/分、にて測定した質量減少率が5%であるときの温度が280℃以上である。」について 甲A1発明の「誘電正接」の値「0.0011」は、乾燥した「樹脂組成物」を「120℃/30分、150℃/30分、180℃/100分」加熱した「樹脂板」を周波数「10GHz」で測定した値であって、「樹脂フィルム」の測定値は不明である。また、上記加熱温度及び加熱時間も、本件発明1とは異なり、「10GHz」以外の測定周波数の値も特定されておらず、測定温度も明らかでない。 甲A1発明の「5wt%重量減少温度」の値「410℃」は、前記(ア)の「樹脂板」を測定した値であって、「昇温速度5℃/分」の条件で測定したものであり、JIS K7120に準拠した本件発明1の「5%」の「質量減少率」の温度の測定条件とは異なり、また、測定温度範囲も不明である。 キ 前記ア~カによれば、本件発明1と甲A1発明とは、次の一致点、相違点がある。 [一致点] バインダー樹脂(A)と、硬化剤(B)とを含み、ただし、酸無水物基を有する変性エラストマーと溶剤可溶性ポリイミド樹脂とを共に含むことはなく、ビスマレイミド樹脂を含まない、ことを特徴とする接着性樹脂シート。 [相違点] (相違点A1) バインダー樹脂が、本件発明1は、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系エラストマー、フッ素樹脂およびスチレン無水マレイン酸系樹脂から選ばれたものであるのに対し、甲A1発明は、環状ポリオレフィンのZeonex480である点。 (相違点A2) 相違点A1と関連し、誘電正接が、本件発明1は、接着性樹脂シートを測定したものであって、180℃で1時間加熱したものが、(イ)23℃において、測定周波数10GHzで0.005以下、(ロ)23℃において、測定周波数20GHzで0.007以下、及び(ハ)23℃において、測定周波数40GHzで0.01以下であるのに対し、甲A1発明は、樹脂板を測定したものであって、120℃/30分、150℃/30分、180℃/100分加熱されたものが、測定周波数10GHz(測定温度は不明)で0.0011である点。 (相違点A3) 相違点A1と関連し、5%質量減少率の温度が、本件発明1は、接着性樹脂シートを測定したものであって、180℃で1時間加熱したものを、JIS K7120に規定された熱重量測定に準拠して、測定温度範囲25℃から500℃で、加熱速度10℃/分で測定したときの値が280℃以上であるのに対し、甲A1発明は、樹脂板を測定したものであって、120℃/30分、150℃/30分、180℃/100分加熱されたものを、昇温速度5℃/分(測定温度範囲は不明)で測定したときの値が410℃である点。 (2)相違点についての検討 事案に鑑み、はじめに相違点A2について検討する。 ア 相違点A2について 甲A1発明における誘電正接の値0.0011は、厚み約50μmの樹脂フィルムを測定した値ではなく、厚さ1mmの樹脂板を測定した値である。また、本件特許明細書の表1~3の実施例1~25の誘電正接の測定値及び特開2021-103757号公報(後述の甲B14)の【0005】の記載を踏まえると、甲A1発明の誘電正接の値も、10GHzより大きい測定周波数でより大きな値となることが予想されるところ、甲A1発明は、10GHz以外の誘電正接の値は不明である。さらに、甲A1発明の樹脂板に対する加熱条件は、120℃/30分、150℃/30分、180℃/100分の多段階加熱であり、本件発明1の180℃で1時間の加熱条件とは温度、時間とも大きく異なり、また、測定温度が特定されておらず、加熱条件や測定温度が誘電正接の値に与える影響は不明である。そのため、甲A1発明の樹脂フィルムの誘電正接が、測定周波数10GHz、20GHz、40GHzでどのような値になるかは、甲1及びその他の証拠を参酌しても予測困難であるから、甲A1発明の誘電正接が、本件発明1の(イ)~(ハ)を満たす蓋然性が高いとまではいうことができない。なお、これは、相違点A1の存在に左右されない。 したがって、相違点A2は、実質的な相違点である。 また、前記のとおり、甲A1発明の樹脂フィルムの誘電正接は、測定周波数10GHz、20GHz、40GHzでどのような値になるか予測困難である上、甲A1発明をどのように改変すれば本件発明1の(イ)~(ハ)を満たすことができるかを具体的に示す証拠はないから、甲A1発明を改変して相違点A2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者に容易であったということはできない。 イ 小括 したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A1発明と同一ではなく、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 3 本件発明2~11について 本件発明2~11は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であり、前記2で対比した相違点に係る構成を含むものであるから、前記2に示した理由により、甲A1発明と同一ではなく、また、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 4 申立理由A1(新規性)について 申立人Aは、相違点A2について、甲A1の実施例1~6では、評価用フィルムの10GHzの誘電正接の測定結果が0.0011~0.0017であることが記載され、甲A3の表1の実施例及び比較例のプリント配線板用樹脂材料の硬化物の1GHzと40GHzでの測定結果の差は、最大でも0.0022であるから、甲A1に記載された発明も、本件発明1の(イ)~(ハ)を満たす蓋然性が高い旨主張する。(申立書A10~11、18~19頁) しかしながら、甲A1発明である実施例1を含む実施例1~6は、前記2(2)のとおり、樹脂フィルムではなく樹脂板を測定したものであり、樹脂フィルムと樹脂板の誘電正接が同じ値であるとの証拠はないから、申立人Aの主張はその前提において正しくない。また、甲A3の表1の実施例1~4及び比較例1~3の樹脂フィルムの材料は、甲A1の実施例1~6とは異なる(なお、甲A3の実施例1~4は、本件発明1が明示的に除外しているビスマレイミド樹脂を含むものである。)から、甲A3の実施例及び比較例の値を参考にすることは妥当ではない。 したがって、申立人Aの主張は採用することができず、本件発明1~7、9~11は、甲A1に記載された発明ではないから、申立理由A1は、理由がない。 5 申立理由A2(進歩性)について 申立人Aは、相違点A2について、甲A3には、誘電正接を40GHzで測定すること、その値が0.004以下であることが記載されているから、甲A1に記載された発明及び甲A3に基づいて本件発明1の(イ)~(ハ)を満たすことは当業者が容易に想到できる旨主張する。(申立書A20頁) しかしながら、甲A3を考慮することが妥当でないことは、前記4のとおりであるから、相違点A2に係る本件発明1の構成は、甲A1に記載された発明及び甲A3に基づいて当業者が容易に想到し得たということはできない。これは、甲A2の存在に左右されない。 したがって、申立人Aの主張は採用することができず、本件発明1~11は、甲A1に記載された発明並びに甲A2及び甲A3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由A2は、理由がない。 第5 申立人Bの申立理由についての当審の判断 1 甲号証の記載について 以下では、甲B1~甲B6及び甲B14の記載を引用する。 (1)甲B1 ア 甲B1の記載事項 甲B1には、次の事項が記載されている。 「【請求項1】 スチレン系ポリマーと、無機フィラーと、硬化剤と、を含む樹脂組成物であって、 前記スチレン系ポリマーが、カルボキシル基を有する酸変性スチレン系ポリマーであり、 前記無機フィラーは、シリカ及び/又は水酸化アルミニウムであり、 前記無機フィラーの粒径は、1μm以下であり、 前記無機フィラーの含有量は、前記スチレン系ポリマー100質量部に対して20~80質量部であり、 前記樹脂組成物は、25μmの厚さを有するフィルムの形態において、下記式(A)及び(B)を満たす、樹脂組成物。 X≦50…(A) Y≧40…(B) (式中、Xは、波長355nmの光の吸収率(単位:%)を表し、Yは、ヘイズ値(単位:%)を表す。)」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、樹脂組成物、接着フィルム、カバーレイフィルム、積層板、樹脂付き銅箔及び樹脂付き銅張り積層板に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、フレキシブルプリント配線板(FPC)における伝送信号の高速化に伴い、信号の高周波化が進んでいる。これに伴い、FPC用材料には、高周波領域での低誘電特性(低誘電率、低誘電正接)が一層要求されている。その中で、FPCの高密度化に伴い、3層以上に多層化することや、ブラインドビア等の径を小さくすることが行われている。これに伴い、FPCの各種部材を接着するための接着剤には、優れた低誘電特性、及び優れたUVレーザー加工性が一層求められている。」 「【0011】 そこで、本発明は、高湿度下における誘電特性、UVレーザー加工性及び密着性に優れる樹脂組成物を提供することを目的とする。」 【課題を解決するための手段】 【0012】 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のスチレン系ポリマーと、特定の無機フィラーと、硬化剤とを特定の割合で含み、光の吸収率及びヘイズ値が特定範囲内にある樹脂組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。」 「【0064】 各実施例及び比較例において用いた各成分及び材料は以下のとおりである。 [スチレン系ポリマー] (1)スチレン系ポリマーA タフテックM1913 旭化成ケミカルズ社製 水添スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、カルボキシル基当量5400g/eq、スチレン由来の単位の割合が30重量%。 (2)スチレン系ポリマーB タフテックH1041 旭化成ケミカルズ社製 水添スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、カルボキシル基なし、スチレン由来の単位の割合が30重量%。 (3)スチレン系ポリマーC アサプレンT-432 旭化成ケミカルズ社製 スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、カルボキシル基なし、スチレン由来の単位の割合が30重量% 【0065】 [無機フィラー] (1)シリカA SC2050-MB アドマテック社製、粒径0.5μm。 (2)水酸化アルミニウムA ハイジライトH-43 昭和電工社製、粒径0.75μm。 (3)シリカB VX-SR 龍森社製、粒径2.5μm。 (4)水酸化アルミニウムB B-303 アルモリックス社製、粒径4.3μm。 (5)酸化チタン タイピュアR-960 ケマーズ社製、粒径0.5μm。 (6)タルク D-600 日本タルク社製、粒径0.6μm。 (7)有機リン系フィラー OP930 クラリアント社製、粒径3.5μm。 【0066】 [硬化剤] (1)エポキシ樹脂 jER YX8800 三菱化学社製、縮合多縮型エポキシ樹脂、エポキシ当量180g/eq。 (2)カルボジイミド化合物 カルボジライトV-05 日清紡ケミカル社製、カルボジイミド当量262g/eq。 (3)オキサゾリン化合物 1,3-PBO 三國製薬工業社製、オキサゾリン当量108g/eq。」 「【0071】 [誘電率及び誘電正接] (1)サンプルの作製 厚さ38μmの片面離型処理が施されたPETフィルムの離型面側に、樹脂組成物を塗布し、乾燥後の厚さが25μmとなるように、80~180℃、1~30分の条件で半硬化状態(Bステージ)になるまで乾燥させることにより、接着層(接着フィルム)を形成した。 接着層の一方の面(接着層が露出している面)と、38μmの片面離型処理が施されたPETフィルムの離型面とが対向するようにラミネートし、プレス成形(加熱温度160℃、加熱時間1時間、圧力3MPa)を行い、サンプルを得た。使用時は離型のPETフィルムを両側共に剥がして測定を行った。 (2)測定方法 Agilent Technologies社製 Network AnalyzerN5230A SPDR(共振器法)を用いて、23℃の雰囲気下、周波数5GHzの条件で測定を行い、以下のとおりに評価した。また、40℃、90%RHの条件で96時間保管した湿熱処理済みサンプルを用いて同様の評価を行った。評価基準は以下の通りである。 (誘電率) A:2.7未満 B:2.7以上2.8未満 C:2.8以上。 (誘電正接) A:0.004未満 B:0.004以上0.006未満 C:0.006以上。」 「【0074】 [吸収率及びヘイズ] (1)サンプルの作製 [誘電率及び誘電正接](1)サンプルの作製手順によりサンプルを得た。使用時は離型のPETフィルムを剥がして測定を行った。 (2)測定方法 日立ハイテクサイエンス社製分光光度計U-4100を用いて355nmの光の全光線透過率、反射率、及び拡散透過率を測定した。吸収率及びヘイズ値は、以下の計算式により算出した。 吸収率(%)=100-全光線透過率(%)-反射率(%) ヘイズ値(%)=拡散透過率/全光線透過率×100(%) 【0075】 [実施例1] 水添スチレン系エラストマー(タフテックM1913)100質量部に対し、エポキシ樹脂(jER YX8800)6.1質量部、粒径0.5μmのシリカ(SC2050-MB)50質量部、溶解溶剤としてトルエン400質量部加えて撹拌し、接着剤ワニス(樹脂組成物)とした。 【0076】 [実施例2~8、比較例1~9] 表1及び2に示すように、各成分の種類及び含有量を変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、接着剤ワニス(樹脂組成物)を得た。」 「【0078】 【表1】 [図:0001413353000004.jpg] 」 イ 甲B1発明 前記アの下線部に着目すると、甲B1には、実施例2の接着層(接着フィルム)(【0071】)として、次の発明(以下「甲B1発明」という。)が記載されていると認められる。 水添スチレン系エラストマー(タフテックM1913 旭化成ケミカルズ社製、水添スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、カルボキシル基当量5400g/eq、スチレン由来の単位の割合が30重量%)100質量部に対し、硬化剤のエポキシ樹脂(jER YX8800 三菱化学社製、縮合多縮型エポキシ樹脂、エポキシ当量180g/eq)6.1質量部、無機フィラーの粒径0.5μmのシリカ(SC2050-MB アドマテック社製)25質量部、溶解溶剤としてトルエン400質量部加えて撹拌し、接着剤ワニス(樹脂組成物)とし、(【0064】~【0066】、【0075】~【0076】、表1) 厚さ38μmの片面離型処理が施されたPETフィルムの離型面側に、樹脂組成物を塗布し、乾燥後の厚さが25μmとなるように、80~180℃、1~30分の条件で半硬化状態(Bステージ)になるまで乾燥させることにより、形成した接着層(接着フィルム)であって、(【0071】) 接着層の一方の面(接着層が露出している面)と、38μmの片面離型処理が施されたPETフィルムの離型面とが対向するようにラミネートし、プレス成形(加熱温度160℃、加熱時間1時間、圧力3MPa)を行い、サンプルを得、(【0071】) 離型のPETフィルムを両側共に剥がして、Agilent Technologies社製 Network AnalyzerN5230A SPDR(共振器法)を用いて、23℃の雰囲気下、周波数5GHzの条件で測定を行った誘電正接が0.0024であり、(【0071】、表1) 離型のPETフィルムを剥がして、日立ハイテクサイエンス社製分光光度計U-4100を用いて355nmの光の全光線透過率、反射率、及び拡散透過率を測定し、計算式により算出した吸収率(%)が39であり、ヘイズ値(%)が57である(【0074】、表1) 接着層(接着フィルム)。 (2)甲B2 甲B2には、次の事項が記載されている。 「【0033】 無水マレイン酸で部分的に変性されたゴムは、無水マレイン酸で部分的に変性された水素添加型スチレン系エラストマであってもよい。水素添加型スチレン系エラストマは、耐候性向上などの効果も期待できる。水素添加型スチレン系エラストマは、不飽和二重結合を含むソフトセグメントを有するスチレン系エラストマの不飽和二重結合に水素を付加反応させて得られるエラストマである。無水マレイン酸で部分的に変性された水素添加型スチレン系エラストマの市販品の例としては、クレイトンポリマージャパン株式会社の「FG1901GT」、「FG1924GT」、旭化成株式会社の「タフテックM1911」、「タフテックM1913」、「タフテックM1943」がある。」 (3)甲B3 ア 甲B3の記載事項 甲B3には、次の事項が記載されている。 「[請求項1] カルボキシル基含有スチレン系エラストマー(A)と、エポキシ樹脂(B)とを含有する接着剤組成物であって、 前記エポキシ樹脂(B)の含有量は、前記カルボキシル基含有スチレン系エラストマー(A)100質量部に対して1~20質量部であり、かつ、周波数1GHzで測定した接着剤硬化物の誘電率が2.5未満であることを特徴とする接着剤組成物。」 「[0001] 本発明は、接着性及び誘電特性に優れ、電子部品、特に、フレキシブルプリント配線板(以下「FPC」ともいう)の関連製品の製造に適した接着剤組成物に関するものである。また、本発明は、この接着剤組成物を用いて得られたカバーレイフィルム、フレキシブル銅張積層板及びボンディングシートに関する。」 「[0008] しかしながら、前記の通り信号の高周波数化に伴い、特許文献1~4に記載された接着剤組成物では、極超短波のマイクロ波帯(1~3GHz)における誘電特性が不十分であるという問題がある。 [0009] 本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、ポリイミドフィルム等の絶縁フィルムに対する接着性が良好であり、かつ、優れた誘電特性を有する接着剤組成物を提供することを目的とする。」 「[0054](5)誘電率及び誘電正接 厚さ38μm離型ポリエチレンテレフタレートフィルムを用意し、その表面に、表1に記載の液状接着剤組成物を、ロール塗布した。次いで、この塗膜付きフィルムをオーブン内に静置して、90℃で3分間乾燥させて厚さ50μmの被膜(接着性層)を形成し、ボンディングシートを得た。次に、このボンディングシートをオーブン内に静置して、180℃で30分間加熱処理をした。その後、前記離型フィルムを剥がして、試験片(15×80mm)を作製した。 接着剤硬化物の誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)は、PNA-L ネットワークアナライザーN5230A(アジレント社製)を使用し、空洞共振器摂動法で、23℃、周波数1GHzの条件で測定した。 [0055]2.接着剤組成物の原料 2-1.スチレン系エラストマー (1)スチレン系エラストマーa1 旭化成ケミカルズ社製の商品名「タフテックM1913」(マレイン酸変性スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体)を用いた。この共重合体の酸価は10mgKOH/gであり、スチレン/エチレンブチレン比は30/70であり、重量平均分子量は15万である。 (2)スチレン系エラストマーa2 旭化成ケミカルズ社製の商品名「タフテックM1911」(マレイン酸変性スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体)を用いた。この共重合体の酸価は2mgKOH/gであり、スチレン/エチレンブチレン比は30/70であり、重量平均分子量は15万である。 (3)スチレン系エラストマーα 旭化成ケミカルズ社製の商品名「タフテックH1041」(スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体)を用いた。この共重合体の酸価は0mgKOH/gであり、スチレン/エチレンブチレン比は30/70であり、重量平均分子量は15万である。 [0056]2-2.エポキシ樹脂 (1)エポキシ樹脂b1 DIC社製 商品名「EPICLON HP-7200」(ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂)を用いた。 (2)エポキシ樹脂b2 DIC社製 商品名「EPICLON N-655EXP」(クレゾールノボラックエポキシ樹脂)を用いた。 (3)エポキシ樹脂b3 三菱化学社製 商品名「jER828」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)を用いた。 [0057]2-3.その他 (1)硬化促進剤 四国化成社製 商品名「キュアゾールC11-Z」(イミダゾール系硬化促進剤)を用いた。 (2)無機充填剤 トクヤマ社製 商品名「エクセリカSE-1」(シリカ)を用いた。 (3)粘着付与剤 ヤスハラケミカル社製 商品名「クリアロンP105」(テルペン樹脂)を用いた。 (4)溶剤 トルエン及びメチルエチルケトンからなる混合溶剤(質量比=90:10)を用いた。 [0058]3.接着剤組成物の製造及び評価 実施例1~7、比較例1~3 撹拌装置付き1000mlフラスコに、上記の原料を表1に示す割合で添加し、室温下で6時間撹拌して溶解することにより、固形分濃度20%の液状接着剤組成物を調製した。得られた液状接着剤組成物を用いて、上記の各種評価を行った。 [0059] [表1] [図:0001413353000005.jpg] 」 イ 甲B3発明 前記アの下線部に着目すると、甲B3には、実施例2のボンディングシートの被膜(接着性層)([0054])として、次の発明(以下「甲B3発明」という。)が記載されていると認められる。 スチレン系エラストマーa1(旭化成ケミカルズ社製、商品名「タフテックM1913」(マレイン酸変性スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体)、酸価10mgKOH/g、スチレン/エチレンブチレン比30/70、重量平均分子量15万)と、エポキシ樹脂b1(DIC社製、商品名「EPICLON HP-7200」(ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂))と、硬化促進剤(四国化成社製、商品名「キュアゾールC11-Z」(イミダゾール系硬化促進剤))と、無機充填剤(トクヤマ社製、商品名「エクセリカSE-1」(シリカ))と、溶剤(トルエン及びメチルエチルケトンからなる混合溶剤(質量比=90:10))を、それぞれ、100質量部、7質量部、0.2質量部、15質量部、400質量部の割合で添加し、溶解することにより、液状接着剤組成物を調製し、([0055]~[0058]、表1) 厚さ38μm離型ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に、前記液状接着剤組成物を、ロール塗布し、この塗膜付きフィルムをオーブン内に静置して、90℃で3分間乾燥させて厚さ50μmの被膜(接着性層)を形成して得たボンディングシートの被膜(接着性層)であって、([0054]) このボンディングシートを180℃で30分間加熱処理をして、前記離型フィルムを剥がして、試験片(15×80mm)を作製し、PNA-L ネットワークアナライザーN5230A(アジレント社製)を使用し、空洞共振器摂動法で、23℃、周波数1GHzの条件で測定した接着剤硬化物の誘電率(ε)が2.4であり、誘電正接(tanδ)が0.002である([0054]、表1) 被膜(接着性層)。 (4)甲B4 ア 甲B4の記載事項 「【請求項1】 式:(IMA)-(水酸基末端水添PO)-(IMA)で示される変性水添ポリオレフィンであり、 ここで、IMAは、一般式(1):CH2=CR-COO―R’-NCO(式中、Rは、水素またはメチル基を示し、R’は、炭素数1~3のアルキレン基である)で表されるイソシアネート基を有する(メタ)アクリレートであり、 水酸基末端水添POは、水酸基末端水添ポリオレフィンであり、 水酸基末端水添POのOH基と、IMAのNCO基とが、ウレタン結合している。」 「【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は、硬化物が低弾性率であり、かつ、はんだ耐熱性および高周波特性に優れる変性水添ポリオレフィンを提供することを課題とする。」 「【0033】 分子末端にラジカル重合可能な二重結合を有する熱硬化性樹脂としては、分子末端に不飽和二重結合を有する数平均分子量が800~4500のポリフェニレンエーテルが挙げられる。(C)成分は、樹脂組成物に、接着性、高周波特性、耐熱性を付与する。ここで、高周波特性とは、高周波領域での伝送損失を小さくする性質をいう。分子末端にラジカル重合可能な二重結合を有する熱硬化性樹脂としては、末端にスチレン基を有するポリフェニレンエーテル(以下、変性PPEともいう)が、好ましい。」 「【実施例】 【0073】 本発明について、実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、部、%はことわりのない限り、質量部、質量%を示す。」 「【0074】 〔合成例1:変性水添ポリイソプレンの合成〕 予め溶媒としてトルエンを150質量部投入した丸底フラスコに、水酸基末端水添1,4-ポリイソプレン(出光興産(株)製、商品名:エポール、水酸基含有量:0.94mol/kg)を100質量部投入し、次に、攪拌機で液が跳ねないように攪拌しながら、水酸基末端水添1,4-ポリイソプレンの水酸基等量に対して、イソシアネート当量が1:1となる量で、2-イソシアナトエチルメタクリレート(昭和電工(株)製、商品名:カレンズMOI、分子量:155.15)を16.3質量部投入し、そのまま攪拌しながら、室温で反応させた。24時間後、48時間後、7日後でサンプリングし、FT-IRにより、水酸基とイソシアネート基の反応によるイソシアネート基の減少と、ウレタン結合の生成、増加を、観察した。図1に、FT-IRのチャートを示す。図1の縦軸は、吸光度(Abs)を示し、横軸は、波数(単位:cm-1)を示す。下記の図2も、同様である。図1の「(1)」は、水酸基末端水添1,4-ポリイソプレンの単体のチャートを、「(2)」は、2-イソシアナトエチルメタクリレートの単体のチャートを、「24h」は、混合開始から24時間後の反応系のチャートを、「48h」は、混合開始から48時間後の反応系のチャートを示す。」 「【0078】 以上から、この配合において、水酸基末端水添1,4-ポリイソプレンと2-イソシアナトエチルメタクリレートは常温で容易に反応し、水酸基末端水添1,4-ポリイソプレンの末端水酸基と2-イソシアナトエチルメタクリレートのイソシアネート基が反応し、ウレタン結合を介して、メタクリロイル基が付加したメタクリロイル基末端水添ポリイソプレンとすることができたことを確認した。この配合及びこの条件では、反応は24時間では、まだ反応が不十分であり、48時間で反応が終了した。なお、7日後の不揮発分(nV)を測定したところ、55.0%であった。また、反応中の液温を測定したが、温度の変化は全くなかった。なお、下記樹脂組成物とフィルムの作製には、この不揮発分55.0%の試料を用いた。」 「【0080】 〔樹脂組成物とフィルムの作製〕 表1に示す配合(固形分換算値)で、各成分を秤量し、攪拌混合した後、湿式微粒化装置(吉田機械興業株式会社製、ナノマイザーMN2-2000AR)を用いて分散させ、液状の樹脂組成物を得た。この液状の樹脂組成物を支持体(離型処理をほどこしたPETフィルム)の片面に塗布し、100℃で10分間乾燥させることにより、支持体付のフィルム(厚さ:100μm)を得た。 【0081】 ここで、表1に記載した合成例1、2は、上記合成例1、2で得られた変性水添ポリオレフィンを、 G1652MUは、クレイトンポリマー製SEBS(スチレン比30%)を、 セプトン4044は、株式会社クラレ製SEEPS(スチレン比32%)を、 OPE-2St 2200は、三菱ガス化学(株)製スチレン末端変性PPE(分子量(Mn):2200)を、 パーブチルZは、日本油脂(株)製t-ブチルパーオキシベンゾエートを、 KBM-1403は、信越化学工業(株)製p-スチリルトリメトキシシランを、 FB-3SDXは、デンカ製球状シリカ(平均粒径:3.4μm品)を、使用した。 〔評価方法〕」 「【0083】 <比誘電率(ε)、誘電正接(tanδ)> 支持体付きフィルムを、200℃×60分で加熱硬化させ、支持体から剥離した後、50mm×70mmの大きさに裁断し、厚みを測定し、誘電体共振器法(SPDR法)(10GHz)にて、誘電率(ε)および誘電正接(tanδ)を測定した。表1に、誘電特性の結果を示す。誘電率(ε)は、3.5以下であると、好ましい。誘電正接(tanδ)は、0.003以下であると、好ましい。 【0084】 <弾性率の評価> 200℃×60分で加熱硬化させた試料を、40mm×10mmの大きさに裁断し、DMAを使用して、常温(25℃)および低温(-40℃)での弾性率を測定した。表1に、弾性率の結果を示す。25℃での弾性率は、3GPa以下であると、好ましい。-40℃での弾性率が、5GPa以下であると、好ましい。 【0085】 <はんだ耐熱性の評価> 支持体付きのフィルムから支持体を剥がした。このフィルムの両面に、銅箔(CF-T9FZSV、福田金属箔粉工業(株)製、厚さ:18μm)を、粗化面を内側にして貼り合わせ、プレス機で200℃×60分、圧力:3MPaの条件で、プレス硬化させた。これを、30mm×30mmの大きさに裁断し試験片とし、260、270、280、290、300℃の各温度に加熱したはんだ浴の表面に60秒間載せ、ふくれの発生の有無を観察した。n=3で試験し、ふくれが発生しなかったものを「○」、ふくれが発生したものを「×」と評価した。表2に、実施例5と比較例1のはんだ耐熱性の結果を示す。 【0086】 【表1】 [図:0001413353000006.jpg] 【0087】 【表2】 [図:0001413353000007.jpg] 」 イ 甲B4発明 前記アの表1の2~11行の数値は、各成分の秤量による配合(【0080】)を示すから、その単位は質量部(【0073】)と解される。そうすると、前記アの下線部に着目すると、甲B4には、実施例5の支持体付きフィルム(【0080】)として、次の発明(以下「甲B4発明」という。)が記載されていると認められる。 合成例1で得られた変性水添ポリオレフィン(予め溶媒としてトルエンを150質量部投入した丸底フラスコに、水酸基末端水添1,4-ポリイソプレン(出光興産(株)製、商品名:エポール、水酸基含有量:0.94mol/kg)を100質量部投入し、水酸基末端水添1,4-ポリイソプレンの水酸基等量に対して、イソシアネート当量が1:1となる量で、2-イソシアナトエチルメタクリレート(昭和電工(株)製、商品名:カレンズMOI、分子量:155.15)を16.3質量部投入し、室温で反応させてできたメタクリロイル基が付加したメタクリロイル基末端水添ポリイソプレン)35質量部と、スチレン系熱可塑性エラストマー(G1652MU(クレイトンポリマー製SEBS(スチレン比30%)))35質量部と、PPE(OPE-2St 2200(三菱ガス化学(株)製スチレン末端変性PPE(分子量(Mn):2200)))30質量部と、有機過酸化物(パーブチルZ(日本油脂(株)製t-ブチルパーオキシベンゾエート))0.5質量部と、シランカップリング剤(KBM-1403(信越化学工業(株)製p-スチリルトリメトキシシラン))1.4質量部と、シリカフィラー(FB-3SDX(デンカ製球状シリカ(平均粒径:3.4μm品)))286質量部と、溶剤(トルエン)適宜の配合(固形分換算値)で、各成分を秤量し、攪拌混合した後、湿式微粒化装置(吉田機械興業株式会社製、ナノマイザーMN2-2000AR)を用いて分散させ、液状の樹脂組成物を得て、(【0074】、【0078】、【0080】~【0081】、表1) この液状の樹脂組成物を支持体(離型処理をほどこしたPETフィルム)の片面に塗布し、100℃で10分間乾燥させることにより得た支持体付きフィルム(厚さ:100μm)であって、(【0080】) 支持体付きフィルムを、200℃×60分で加熱硬化させ、支持体から剥離した後、50mm×70mmの大きさに裁断し、誘電体共振器法(SPDR法)(10GHz)にて測定した誘電正接(tanδ)が0.00187である(【0083】、表1) 支持体付きフィルム。 (5)甲B5 甲B5は、甲A3と同じ特許出願公開公報であり、その記載事項は、前記第4、1(2)のとおりである。 (6)甲B6 甲B6には、次の事項が記載されている。 「[0048] 本樹脂組成物の熱硬化物は、高周波での電気特性に優れている。具体的には、本樹脂組成物の好ましい形態においては、その熱硬化物における周波数1~80GHzの領域での誘電率(ε)が、3以下である。また、本樹脂組成物のより好ましい形態においては、その熱硬化物における周波数1~80GHzの領域での誘電正接(tanδ)が、0.0022以下であり、更に好ましい形態においては、0.0020以下であり、特に好ましい形態においては、00018以下である。 本樹脂組成物の熱硬化物における周波数1~80GHzの領域での、誘電率(ε)および誘電正接(tanδ)が、上記の範囲であることにより、3GHz以上の高周波領域における電気信号損失を、低減することができる。」 (7)甲B14 甲B14には、次の事項が記載されている。 「【0005】 この点について詳しく説明すると、比誘電率は、誘電体内の分極の程度を示すパラメータであり、値が高い程、電気信号の伝搬遅延が大きくなる。したがって、電気信号の伝搬速度を高め、高速演算を可能にするためには、比誘電率は低いほうが好ましい。また、誘電正接(tanδともいう)は、誘電体内の伝搬する電気信号が熱に変換されて失われる量を示すパラメータであり、値が低い程、信号の損失が減少し、電気信号の伝達率が向上する。さらに、誘電正接は、高周波数帯域では、周波数の増加に伴って増大してしまうので、損失を少しでも抑制するためには、値を小さくすることのできる材料を用いる必要がある。」 2 甲B1を主引例とする申立理由について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲B1発明とを対比する。 (ア)「接着性樹脂シート」について 甲B1発明の「接着層(接着フィルム)」は、「樹脂組成物」を乾燥して形成したものであるから、本件発明1の「接着性樹脂シート」に相当する。 (イ)「アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系エラストマー、フッ素樹脂およびスチレン無水マレイン酸系樹脂から選ばれるバインダー樹脂(A)」について 甲B1発明の「水添スチレン系エラストマー(タフテックM1913 旭化成ケミカルズ社製、水添スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、カルボキシル基当量5400g/eq、スチレン由来の単位の割合が30重量%)100」は、本件発明1の「スチレン系エラストマー」に相当し、また、「接着層(接着フィルム)」を形成する「樹脂組成物」の主成分(基体)であるから、バインダー樹脂ということができ、それを「バインダー樹脂(A)」と称することは任意である。 したがって、本件発明1と甲B1発明とは、「アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系エラストマー、フッ素樹脂およびスチレン無水マレイン酸系樹脂から選ばれるバインダー樹脂(A)」を含む点で一致する。 (ウ)「硬化剤(B)」について 甲B1発明の「エポキシ樹脂(jER YX8800 三菱化学社製、縮合多縮型エポキシ樹脂、エポキシ当量180g/eq)」は、「硬化剤」であるから、本件発明1の「硬化剤(B)」に相当し、本件発明1と甲B1発明とは、「硬化剤(B)」を含む点で一致する。 (エ)「酸無水物基を有する変性エラストマーと溶剤可溶性ポリイミド樹脂とを共に含むことはなく」について 甲B1発明は、溶剤可溶性ポリイミド樹脂を含むことは特定されていないから、本件発明1とは、「酸無水物基を有する変性エラストマーと溶剤可溶性ポリイミド樹脂とを共に含むことはな」い点で一致する。 (オ)「ビスマレイミド樹脂を含まない」について 甲B1発明は、ビスマレイミド樹脂を含むことは特定されていないから、本件発明1とは、「ビスマレイミド樹脂を含まない」点で一致する。 (カ)「180℃で1時間加熱した際、以下の(イ)、(ロ)、(ハ)および(ニ)を満たし」及び「(イ)23℃において、測定周波数10GHzでの誘電正接が0.005以下である。(ロ)23℃において、測定周波数20GHzでの誘電正接が0.007以下である。(ハ)23℃において、測定周波数40GHzでの誘電正接が0.01以下である。(ニ)JIS K7120に規定された熱重量測定に準拠し、流入ガス:窒素、測定温度範囲:25℃~500℃、加熱速度:10℃/分、にて測定した質量減少率が5%であるときの温度が280℃以上である。」について 甲B1発明の「誘電正接」は、「接着層」を「加熱温度160℃、加熱時間1時間」で加熱したものを対象としており、本件発明1の「180℃で1時間加熱」したものとは異なる。また、甲B1発明の「誘電正接」は、「23℃の雰囲気下、周波数5GHz」の条件で測定した値が「0.0024」であり、本件発明1の前記(イ)、(ロ)及び(ハ)とは異なる。 さらに、甲B1発明は、本件発明1の「180℃で1時間加熱」したものについての前記(ニ)の「質量減少率が5%であるときの温度」は特定されていない。 (キ)前記(ア)~(カ)によれば、本件発明1と甲B1発明とは、次の一致点、相違点がある。 [一致点] アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系エラストマー、フッ素樹脂およびスチレン無水マレイン酸系樹脂から選ばれるバインダー樹脂(A)と、硬化剤(B)とを含み、ただし、酸無水物基を有する変性エラストマーと溶剤可溶性ポリイミド樹脂とを共に含むことはなく、ビスマレイミド樹脂を含まない、ことを特徴とする接着性樹脂シート。 [相違点] (相違点B1) 誘電正接が、本件発明1は、180℃で1時間加熱したものが、(イ)23℃において、測定周波数10GHzで0.005以下、(ロ)23℃において、測定周波数20GHzで0.007以下、及び(ハ)23℃において、測定周波数40GHzで0.01以下であるのに対し、甲B1発明は、160℃で1時間加熱したものが、23℃において、測定周波数5GHzで0.0024である点。 (相違点B2) 本件発明1は、180℃で1時間加熱したものが、(ニ)JIS K7120に規定された熱重量測定に準拠し、流入ガス:窒素、測定温度範囲:25℃~500℃、加熱速度:10℃/分、にて測定した質量減少率が5%であるときの温度が280℃以上であるのに対し、甲B1発明は、当該事項は特定されていない点。 イ 相違点についての検討 (ア)相違点B1について 誘電正接は、甲B14(【0005】)によれば、高周波数帯域では周波数が高くなるにつれて増大するものであり、本件特許明細書の表1~3の実施例1~25、比較例1、2の誘電正接の値も、それを裏付けるものとなっている。 甲B1発明は、本件発明1の(イ)~(ハ)よりも測定周波数が小さい5GHzでの測定値を特定するに留まり、また、甲B1には、5GHz以外の測定周波数での誘電正接の値は示されておらず、その他の証拠を参酌しても、甲B1発明の誘電正接が、5GHzより高い測定周波数のときにどの程度増大するかを予測することは困難である。さらに、本件発明1と異なる加熱温度(160℃)の影響も不明であるから、甲B1発明が、本件発明1の(イ)~(ハ)を満たす蓋然性が高いとまでいうことはできない。 よって、相違点B1は、実質的な相違点である。 また、前記のとおり、甲B1発明の誘電正接が5GHzより高い測定周波数のときにどの程度増大するかを予測することは困難なうえ、甲B1に記載された、その他の実施例1、3~8はいずれも、実施例2である甲B1発明よりも大きな誘電正接を示すものであり、甲B1発明をどのように改変すれば本件発明1の(イ)~(ハ)を満たすことができるかを具体的に示す証拠もないから、甲B1発明を改変して相違点B1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者に容易であったということはできない。 (イ)小括 したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B1発明と同一ではなく、甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (2)本件発明2~11について 本件発明2~11は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であり、前記(1)で対比した相違点に係る構成を含むものであるから、前記(1)に示した理由により、甲B1発明と同一ではなく、また、甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)申立理由B1(新規性)について 申立人Bは、相違点について、申立人Bは、甲B1発明と本件発明1の実施例6、10、11との近似性を理由に、甲B1発明は、本件発明1の(イ)~(ニ)を満たす蓋然性が高い旨主張する。(申立書B56~58頁) 誘電正接は、前記(1)イのとおり、高周波数帯域では周波数が高くなるにつれて増大するものと理解されるところ、本件発明1の実施例6、10、11の誘電正接は、測定周波数10GHzでそれぞれ0.0019、0.0015、0.0015であるのに対し、甲B1発明の誘電正接は、その1/2の周波数の5GHzにも関わらず、より大きな0.0024を示すから、誘電正接の点で、甲B1発明は、本件発明1の実施例6、10、11に近似しているとは言い難い。 組成についても、主成分のバインダー樹脂が、本件発明1の実施例6、10、11は「FG1901GT」(クレイトン社製)(本件特許明細書【0073】、表1、表2)であるのに対し、甲B1発明は「タフテックM1913」(旭化成ケミカルズ社製)であり、両者は、マレイン酸変性されたスチレン系エラストマーである(甲B2)点で共通するものの、少なくとも、重量平均分子量が前者の95,000(本件特許明細書【0073】)に対し、後者は15万(甲B3)と異なり、硬化剤、フィラーの含有量も、本件発明1の実施例6、10、11と甲B1発明とは異なっており、これらの違いが誘電正接に与える影響は明らかでない。 したがって、本件発明1の実施例6、10、11を参酌しても、前記(1)イのとおり、甲B1発明は、本件発明1の(イ)~(ハ)を満たす蓋然性が高いとまでいうことはできないから、本件発明1及び本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明2~5、7~10は、甲B1発明と同一ではなく、申立理由B1は、理由がない。 (4)申立理由B2(進歩性)について 申立理由B2は、申立理由B1を前提としたものと解されるところ(申立書B63~64頁)、前記(3)のとおり、申立理由B1は、理由がない。そして、前記(2)のとおり、本件発明6、11は、甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由B2は、理由がない。 (5)申立理由B3(進歩性)について 申立人Bは、甲B1発明の「タフテックM1913」を甲B2に記載された「FG1901GT」に替えて、本件発明1の実施例6、10、11により一層近似するものとすることで、本件発明1の(イ)~(ニ)を満たすことは、当業者であれば容易である旨主張する。(申立書B64~66頁) しかしながら、甲B1発明は、誘電特性、UVレーザー加工及び密着性に優れる樹脂組成物の提供を課題とするところ(甲B1【0011】)、「タフテックM1913」より「FG1901GT」の方が、上記誘電特性、UVレーザー加工及び密着性に優れた材料であるとの証拠はない。加えて、甲B1発明は、355nmの光の吸収率(%)が39、ヘイズ値(%)が57となる構成にして、優れたUVレーザー加工性を実現するものであり、甲B1発明の「タフテックM1913」を重量平均分子量が異なる「FG1901GT」に単に置き換えるのみで、上記の値になるかは不明であるから、申立人Bの主張する、甲B1発明の「タフテックM1913」を甲B2に記載された「FG1901GT」に替えて、本件発明1の実施例6、10、11により一層近似するものとする動機付けがあるとはいえない。 したがって、本件発明1~11は、甲B1発明及び甲B2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、申立理由B3は、理由がない。 (6)申立理由B4(進歩性)について 申立人Bは、誘電正接について、樹脂材料の硬化物における40GHzでの誘電正接を0.00334~0.00390としたこと(表1実施例1~4)等が記載された甲B5、又は、樹脂組成物の硬化物における周波数1~80GHzの誘電正接を0.0022以下とすること等が記載された甲B6に基づけば、甲B1発明の誘電正接を、本件発明1の(イ)~(ハ)のように設定することは、当業者が容易になし得たことである旨主張する。(申立書B90~92頁) しかしながら、前記(5)のとおり、甲B1発明は、355nmの光の吸収率(%)が39、ヘイズ値(%)が57となる構成にして、優れたUVレーザー加工性を実現するものであり、甲B5及び甲B6を参照しても、甲B1発明をどのように改変すると、上記吸収率等の値を維持しつつ、誘電正接を、相違点B1に係る本件発明1の(イ)~(ハ)にできるかは不明であり、この点は、甲B7~甲B9を参照しても変わらない。 したがって、本件発明1~11は、甲B1発明及び甲B5~甲B9に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由B4は、理由がない。 3 甲B3を主引例とする申立理由について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲B3発明とを対比すると、両者には、少なくとも次の相違点が存在する。 (相違点B3) 誘電正接が、本件発明1は、180℃で1時間加熱したものが、(イ)23℃、測定周波数10GHzで0.005以下、(ロ)23℃、測定周波数20GHzで0.007以下、及び(ハ)23℃、測定周波数40GHzで0.01以下であるのに対し、甲B3発明は、180℃で30分加熱したものが、23℃、測定周波数1GHzで0.002である点。 イ 相違点についての検討 誘電正接は、前記2(1)イ(ア)のとおり、高周波数帯域では周波数が高くなるにつれて増大するものと理解されるところ、甲B3発明は、本件発明1の(イ)~(ハ)よりも測定周波数が1/10以下の1GHzでの測定値を特定するに留まり、また、甲B3には、1GHz以外の測定周波数での誘電正接の値は示されておらず、その他の証拠を参酌しても、甲B3発明の誘電正接が、1GHzより高い測定周波数のときにどの程度増大するかを予測することは困難である。さらに、本件発明1と異なる加熱時間(30分)の影響も不明であるから、甲B3発明が、本件発明1の(イ)~(ハ)を満たす蓋然性が高いとまでいうことはできない。 よって、相違点B3は、実質的な相違点である。 また、前記のとおり、前記のとおり、甲B3発明の誘電正接が1GHzより高い測定周波数のときにどの程度増大するかを予測することは困難なうえ、甲B3に記載された、その他の実施例1、3~7はいずれも、実施例2である甲B3発明と同じか、より大きな誘電正接を示すものであり、甲B3発明をどのように改変すれば本件発明1の(イ)~(ハ)を満たすことができるかを具体的に示す証拠もないから、甲B3発明を改変して相違点B3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易であったということはできない。 したがって、本件発明1は、甲B3発明と同一ではなく、甲B3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (2)本件発明2~11について 本件発明2~11は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であり、相違点B3に係る構成を含むものであるから、前記(1)に示した理由により、甲B3発明と同一ではなく、また、甲B3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)申立理由B5(新規性)について 申立人Bは、甲B3発明と、本件発明1の実施例6、10との近似性を理由に、本件発明1の(イ)~(ニ)を満たす蓋然性が高い旨主張する。(申立書B71~74頁) しかしながら、本件発明1の実施例6、10の誘電正接は、測定周波数10GHzでそれぞれ0.0019、0.0015であるのに対し、甲B3発明の誘電正接は、その1/10の測定周波数の1GHzにも関わらず、より大きな0.002を示すから、誘電正接の点で、甲B3発明は、本件発明1の実施例6、10に近似しているとは言い難い。 組成についても、主成分のバインダー樹脂が、本件発明1の実施例6、10は、重量平均分子量が95,000である「FG1901GT」(クレイトン社製)(本件特許明細書【0073】、表1、表2)であるのに対し、甲B3発明は、重量平均分子量が15万の「タフテックM1913」(旭化成ケミカルズ社製)と異なっているのに加え、用いられているエポキシ樹脂とフィラー(充填剤)それぞれの製品もその含有量も、本件発明1の実施例6、10と甲B3発明とは異なっており、これらの違いが誘電正接に与える影響は明らかでない。 したがって、本件発明1の実施例6、10を参酌しても、前記(1)イのとおり、甲B3発明は、本件発明1の(イ)~(ハ)を満たす蓋然性が高いとまでいうことはできないから、本件発明1及び本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明2~5、7~10は、甲B3発明と同一ではなく、申立理由B5は、理由がない。 (4)申立理由B6(進歩性)について 申立理由B6は、申立理由B5を前提としたものと解されるところ(申立書B77~78頁)、前記(3)のとおり、申立理由B5は、理由がない。そして、前記(2)のとおり、本件発明6、11は、甲B3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由B6は、理由がない。 (5)申立理由B7(進歩性)について 申立人Bは、甲B3発明の「タフテックM1913」を甲B2に記載された「FG1901GT」に、甲B3発明の「EPICLON HP-7200」を甲B1に記載された「YX8800」にそれぞれ替えて、本件発明1の実施例6、10により一層近似するものとすることで、本件発明1の(イ)~(ニ)を満たすことは、当業者であれば容易である旨主張する。(申立書B78~80頁) しかしながら、甲B3発明は、周波数1GHzの条件で測定した接着剤硬化物の誘電率(ε)を2.5未満である2.4としたことを、課題解決手段とするものであると解されるところ([請求項1] 、[0008]~[0009])、「タフテックM1913」より「FG1901GT」の方が、低誘電率に適した材料であるとの証拠はなく、また、甲B1に記載されたいずれの実施例及び比較例も、周波数5GHzで測定した誘電率が少なくとも2.56以上である上、周波数1GHzでの誘電率は不明であるから、申立人Bの主張する、甲B3発明の「タフテックM1913」を甲B2に記載された「FG1901GT」に、甲B3発明の「EPICLON HP-7200」を甲B1に記載された「YX8800」にそれぞれ替えて、本件発明1の実施例6、10により一層近似するものとする動機付けがあるとはいえない。 したがって、本件発明1~11は、甲B3発明並びに甲B1及び甲B2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、申立理由B7は、理由がない。 4 甲B4を主引例とする申立理由について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲B4発明とを対比すると、両者には、少なくとも次の相違点が存在する。 (相違点B4) 誘電正接が、本件発明1は、180℃で1時間加熱したものが、(イ)23℃、測定周波数10GHzで0.005以下、(ロ)23℃、測定周波数20GHzで0.007以下、及び(ハ)23℃、測定周波数40GHzで0.01以下であるのに対し、甲B4発明は、200℃で60分加熱したものが、測定周波数10GHzで0.00187である点。 イ 相違点についての検討 誘電正接は、前記2(1)イ(ア)のとおり、高周波数帯域では周波数が高くなるにつれて増大するものと理解されるところ、甲B4には、10GHz以外の測定周波数での誘電正接の値は示されておらず、甲B4発明の誘電正接が、10GHzより高い測定周波数のときに0.00187からどの程度増大するかを示す証拠もない。そして、甲B4発明は、加熱温度が本件発明1とは異なる200℃であり、誘電正接の測定温度は特定されておらず、これらの誘電正接への影響は不明であることも加味すると、甲B4発明の誘電正接が、10GHzより高い測定周波数のときにどの程度増大するかを予測することは困難であるから、甲B4発明が、本件発明1の少なくとも(ロ)及び(ハ)を満たす蓋然性が高いとまでいうことはできない。 よって、相違点B4は、実質的な相違点である。 また、前記のとおり、甲B4発明の誘電正接が10GHzより高い周波数のときにどの程度増大するかを予測することは困難であり、甲B4発明をどのように改変すれば本件発明1の(イ)~(ハ)を満たすことができるかを具体的に示す証拠もないから、甲B4発明を改変して相違点B4に係る本件発明1の構成とすることは、当業者に容易であったということはできない。 したがって、本件発明1は、甲B4発明と同一ではなく、甲B4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (2)本件発明3~6、9~11について 本件発明3~6、9~11は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であり、相違点B4に係る構成を含むものであるから、前記(1)に示した理由により、甲B4発明と同一ではなく、また、甲B4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)申立理由B8(新規性)について 申立人Bは、甲B4発明は、本件発明1の(イ)~(ニ)を満たす蓋然性が高い旨主張するが(申立書B87~88頁)、前記(1)のとおり、甲B4発明は、少なくとも本件発明1の(ロ)及び(ハ)を満たす蓋然性が高いとまではいえないから、本件発明1及び本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明4~5、9~11は、甲B4発明と同一であるとはいえない。 したがって、申立理由B8は、理由がない。 (4)申立理由B9(進歩性)について 申立理由B9は、申立理由B8を前提としたものと解されるところ(申立書B89~90頁)、前記のとおり、申立理由B8は、理由がない。そして、前記(2)のとおり、本件発明3、6は、甲B4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由B9は、理由がない。 5 申立理由B10(新規事項)について 申立人Bは、申立書Bにおいて、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に「ただし、ビスマレイミド樹脂を含まない」及び「酸無水物基を有する変性エラストマーと溶剤可溶性ポリイミド樹脂とを共に含むことはなく」との記載を追加する補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない、と主張している。(申立書B94~99頁) (1)「ビスマレイミド樹脂を含まない」について 令和5年5月23日の手続補正書による補正(以下「本件補正」という。なお、本件補正は、令和4年11月25日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の全文を補正するものである。)後の特許請求の範囲の請求項1の「ビスマレイミド樹脂を含まない」との事項は、「接着性樹脂シート」のうちの「ビスマレイミド樹脂」を含む「接着性樹脂シート」を除外するものと解される。 一方、当初明細書等の記載(【0023】、【0030】~【0031】等)によれば、当初明細書等に記載された接着性樹脂シートは、その一態様としてビスマレイミド樹脂を用いた接着剤樹脂シートを含み得ると解されるところ、上記「ビスマレイミド樹脂を含まない」との事項は、接着性樹脂シートの上記一態様を単に除外するものであって、該除外により本件発明の技術的課題(【0004】等)に何らかの影響が及ぶものでもないから、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。 (2)「酸無水物基を有する変性エラストマーと溶剤可溶性ポリイミド樹脂とを共に含むことはなく」について 本件補正後の請求項1の「酸無水物基を有する変性エラストマーと溶剤可溶性ポリイミド樹脂とを共に含むことはなく」との事項は、「接着性樹脂シート」のうちの「酸無水物基を有する変性エラストマーと溶剤可溶性ポリイミド樹脂とを共に含む」「接着性樹脂シート」を除外するものと解される。 一方、当初明細書等の記載(【0014】~【0015】、【0060】等)によれば、当初明細書等に記載された接着性樹脂シートは、その一態様として酸無水物基を有する変性エラストマーと溶剤可溶性ポリイミド樹脂とをともに含む接着性樹脂シートを含み得ると解されるところ、上記「酸無水物基を有する変性エラストマーと溶剤可溶性ポリイミド樹脂とを共に含むことはなく」との事項は、接着性樹脂シートの上記一態様を単に除外するものであって、該除外により本件発明の技術的課題(【0004】等)に何らかの影響が及ぶものでもないから、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。 (3)小括 以上によれば、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の「ただし、酸無水物基を有する変性エラストマーと溶剤可溶性ポリイミド樹脂とを共に含むことはなく、ビスマレイミド樹脂を含まない」との事項は、当業者によって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとはいえない。 したがって、申立理由B10は、理由がない。 6 申立理由B11(実施可能)について (1)硬化反応について 申立人Bは、申立書Bにおいて、本件発明1~11は、バインダー樹脂(A)及び硬化剤(B)が互いに反応しない材料系により(イ)~(ニ)に規定する物性全てを満たす接着性樹脂シートを包含するものであるところ、発明の詳細な説明は、バインダー樹脂(A)及び硬化剤(B)が互いに反応しない材料系により(イ)~(ニ)に規定する物性全てを満たす接着性樹脂シートを、当業者が作製可能に記載したものではない、と主張している。(申立書B99~100頁) 本件発明の「接着性樹脂シート」は、「バインダー樹脂(A)」と「硬化剤(B)」とを含むものであるところ、本件発明の「バインダー樹脂(A)」は、「接着性樹脂シートの基体として機能する」(【0013】)樹脂であると解される。 他方、本件発明の「硬化剤(B)」について、硬化剤とは、通常、「熱硬化性樹脂に添加して橋かけを起こさせて硬化させる薬剤」(化学辞典(第2版))を意味する用語であり、本件発明の「硬化剤(B)」も、上記の通常の意味で用いられていると解される。そして、本件発明の「硬化剤(B)」が橋かけ(架橋)を起こさせて硬化させる対象は、接着性樹脂シートの基体として機能する「バインダー樹脂(A)」であると解釈するのが妥当であるから、本件発明の「バインダー樹脂(A)」と「硬化剤(B)」は、互いに反応(架橋反応)して硬化するものである。 そうすると、バインダー樹脂(A)と硬化剤(B)の架橋反応を用いた材料系で、本件発明の(イ)~(ニ)に規定する物性全てを満たす接着性樹脂シートについて具体的に記載した発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。 (2)硬化剤の添加量について 申立人Bは、申立書Bにおいて、本件発明1~11は、硬化剤(B)の添加量が特定されておらず、バインダー樹脂(A)100質量部に対して硬化剤の添加量(B)が50部や100質量部であるような材料系により(イ)~(ニ)に規定する物性全てを満たす接着性樹脂シートを包含するものであるところ、発明の詳細な説明は、硬化剤(B)が上記添加量であるような材料系により(イ)~(ニ)に規定する物性全てを満たす接着性樹脂シートを、当業者が作製可能に記載したものではない、と主張している。(申立書B100~101頁) 本件発明の硬化剤(B)は、前記(1)のとおり、バインダー樹脂(A)に反応して硬化させるためのであるから、その添加量が、バインダー樹脂(A)及び硬化剤(B)の種類等に応じた、上記反応に必要十分な量のものであることは技術常識に照らせば明らかであって、本件発明は、硬化剤(B)の添加量が不必要に大きな組成のものまで包含すると解するのは、上記技術常識に反するものである。 そして、硬化剤(B)の添加量が技術常識に照らして合理的といえる量の組成で(イ)~(ニ)に規定する物性を満たす接着性樹脂シートを具体的に記載した発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。 (3)フィラーについて 申立人Bは、申立書Bにおいて、本件発明1~11は、フィラーを含まない材料系により(イ)~(ニ)に規定する物性全てを満たす接着性樹脂シートを包含するものであるところ、発明の詳細な説明は、フィラーを含まずバインダー樹脂がポリイミド樹脂を含まない材料系により(イ)~(ニ)に規定する物性全てを満たす接着性樹脂シートを、当業者が作製可能に記載したものではない、と主張している。(申立書B101~102頁) 本件発明は、フィラーを含まないとは特定されておらず、発明の詳細な説明に記載された実施例(特に、実施例1、実施例24、比較例2)によれば、バインダー樹脂(A)及び硬化剤(B)の種類等に応じて、適宜フィラー(C)を添加して(イ)~(ニ)に規定する物性全てを満たす接着性樹脂シートを作製可能であることが理解できるから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。 (4)小括 以上のとおり、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~11を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとはいえない。 したがって、申立理由B11は、理由がない。 7 申立理由B12(サポート)について 申立人Bは、申立書Bにおいて、本件発明の課題は、「高周波数帯における優れた誘電正接を有するとともに、約280℃のはんだリフロー工程後も高いマイグレーション耐性を発揮し、同時に良好な屈曲性を発揮する接着性樹脂シートを提供すること」(【0006】)であり、課題解決手段は、公知である要件(イ)~(ニ)ではなく、バインダー樹脂(A)、硬化剤(B)及びフィラー(C)での樹脂シートの具体的な組成であって、本件発明は、課題を解決できる程度に樹脂シートの具体的な組成が特定されていないから、課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えるものである、と主張している。(申立書B103~104頁) 本件発明の課題は、申立人Bの上記主張のとおりであるところ、その課題解決手段は、【0007】等によれば、180℃で1時間加熱した際、(イ)23℃において、測定周波数10GHzでの誘電正接が0.005以下であり、(ロ)23℃において、測定周波数20GHzでの誘電正接が0.007以下であり、(ハ)23℃において、測定周波数40GHzでの誘電正接が0.01以下であり、(ニ)JIS K7120に規定された熱重量測定に準拠し、流入ガス:窒素、測定温度範囲:25℃~500℃、加熱速度:10℃/分、にて測定した質量減少率が5%であるときの温度が280℃以上である、ことを満たす接着性樹脂シートであると解され、上記(イ)~(ニ)の要件が公知かどうかには関わらない。 そして、本件発明は、上記課題解決手段が反映されたものであり、高周波数帯における優れた誘電正接を有し、高いマイグレーション耐性を発揮するものと理解できるから、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものといえる。 したがって、本件発明1~11は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえず、申立理由B12は、理由がない。 8 申立理由B13(明確性)について 申立人Bは、申立書Bにおいて、本件発明1~11の「酸無水物基を有する変性エラストマーと溶剤可溶性ポリイミド樹脂とを共に含むことはなく」との記載の「酸無水物基を有する変性エラストマー」は、令和5年3月28日発送の拒絶理由通知書の拒絶理由で引用された国際公開第2020/071154号(甲B6)に記載の「酸無水物基を有する変性エラストマー」を指すと解されるところ、上記国際公開には、「酸無水物基を有する変性エラストマー」の意味する樹脂の範囲を定める記載はなく、また、「エラストマー」とは、室温付近で弾性を示す樹脂を指す(甲B15)が、「弾性」の範囲は様々な解釈が可能であるから、「酸無水物基を有する変性エラストマー」の意味する樹脂の範囲が不明瞭である、と主張している。(申立書B105~106頁) 本件発明の「酸無水物基を有する変性エラストマー」が、エラストマーに酸無水物基を付加したものを指すことは、技術常識に照らせば明らかである。また、エラストマーは、「弾性的性質(elastic behavior, elasticity)を室温で示す材料」(化学辞典(第2版))を指す用語であるところ、本件発明の「酸無水物基を有する変性エラストマー」は、接着性樹脂シートの材料としてのものであるから、接着性樹脂シートに用いられ得る通常の範囲の弾性的性質を有するであると解するのが妥当であって、弾性率等により具体的にその範囲が特定されていないからといって、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるというということはできない。 したがって、本件発明1~11は、明確でないとはいえないから、申立理由B13は、理由がない。 第6 申立人Cの申立理由についての当審の判断 1 甲号証の記載について 以下では、甲C1~甲C4及び甲C6の記載を引用する。 (1)甲C1 ア 甲C1の記載事項 甲C1には、次の事項が記載されている。 「【請求項1】 基材フィルムと、該基材フィルムの少なくとも一方の表面に接着剤層とを備える接着剤層付き積層体であって、 前記接着剤層は、カルボキシル基含有スチレン系エラストマー(A)と、エポキシ樹脂(B)とを含有する接着剤組成物からなるものであり、前記カルボキシル基含有スチレン系エラストマー(A)の含有量が、接着剤組成物の固形分100質量部に対して50質量部以上であり、前記エポキシ樹脂(B)の含有量が、カルボキシル基含有スチレン系エラストマー(A)100質量部に対して1~20質量部であり、 前記接着剤層はBステージ状であることを特徴とする 接着剤層付き積層体。」 「【0008】 本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、ポリイミド樹脂等からなる基材フィルムや銅箔に対する高い接着性、及び優れた電気特性を有する接着剤層付き積層体を提供する。また、接着剤層がBステージ状のときの積層体の反りが少なく、積層体の貯蔵安定性も良好な接着剤層付き積層体を提供することを目的とする。」 「【0029】 本発明に用いるエポキシ樹脂としては、一分子中に2個以上のエポキシ基を有するものが好ましい。カルボキシル基含有スチレン系エラストマーとの反応で架橋構造を形成し、高い耐熱性を発現させることができるからである。また、エポキシ基が2個以上のエポキシ樹脂を用いた場合、カルボキシル基含有スチレン系エラストマーとの架橋度が十分であり、十分な耐熱性が得られる。」 「【0046】 (3)接着剤層付き積層体 本発明に係る接着剤層付き積層体の一態様として、カバーレイフィルムが挙げられる。カバーレイフィルムは、基材フィルムの少なくとも一方の表面に上記接着剤層が形成されているものであり、基材フィルムと接着剤層のはく離が困難な積層体である。 カバーレイフィルムを製造する方法としては、例えば、上記接着剤組成物及び溶媒を含有する樹脂ワニスを、ポリイミドフィルム等の基材フィルムの表面に塗布して樹脂ワニス層を形成した後、該樹脂ワニス層から前記溶媒を除去することにより、Bステージ状の接着剤層が形成されたカバーレイフィルムを製造することができる。ここで、接着剤層がBステージ状であるとは、接着剤組成物の一部が硬化し始めた半硬化状態をいい、加熱等により、接着剤組成物の硬化が更に進行する状態である。 前記溶媒を除去するときの乾燥温度は、40~250℃であることが好ましく、70~170℃であることがより好ましい。乾燥は、接着剤組成物が塗布された積層体を、熱風乾燥、遠赤外線加熱、及び高周波誘導加熱等がなされる炉の中を通過させることにより行われる。 なお、必要に応じて、接着剤層の表面には、保管等のため、離型性フィルムを積層してもよい。前記離型性フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、シリコーン離型処理紙、ポリオレフィン樹脂コート紙、TPXフィルム、フッ素系樹脂フィルム等の公知のものが用いられる。」 「【0050】 上記積層体の接着剤層を硬化させた後、周波数1GHzで測定した接着剤層付き積層体の誘電率(ε)が3.0未満であり、かつ、該誘電正接(tanδ)が0.01未満であることが好ましい。前記誘電率は、2.9以下であることがより好ましく、誘電正接は、0.005以下であることがより好ましい。誘電率が3.0未満であり、かつ、誘電正接が0.01未満であれば、電気特性の要求が厳しいFPC関連製品にも好適に用いることができる。誘電率及び誘電正接は、接着剤成分の種類及び含有量、並びに基材フィルムの種類等により調整できるので、用途に応じて種々の構成の積層体を設定することができる。なお、誘電率及び誘電正接の測定方法は後述する。 また、上記積層体の接着剤層を硬化させた後、周波数1GHzで測定した接着剤層付き積層体の誘電率(ε)が2.2以上であり、かつ、該誘電正接(tanδ)が0以上であることが好ましい。」 「【実施例】 【0055】 本発明を、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。なお、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。 【0056】 1.評価方法 (1)分子量 (以下、省略) 【0057】 (2)反り性 厚さ25μmのポリイミドフィルム(縦200mm×横200mm)を用意し、その一方の表面に、表1及び2に記載の液状接着剤組成物を、ロ-ル塗布した。次いで、この塗膜付きフィルムをオーブン内に静置して、90℃で3分間乾燥させてBステージ状の接着剤層(厚さ25μm)を形成し、カバーレイフィルムA1(接着剤層付き積層体、厚さ50μm)を得た。前記カバーレイフィルムA1を、接着剤層を上にして水平面に載置し、四隅それぞれについて垂直方向の浮き上がり高さを測定した。この4点の平均高さ(H)と、積層体の一辺の長さ(L)との比(H/L)を求め、反り性を評価した。 また、ポリイミドフィルムの厚さを12.5μmに代えて、接着剤層を37.5μmとした以外は上記と同様にして、カバーレイフィルムB1(接着剤層付き積層体、厚さ50μm)を製造して評価した。 <評価基準> ◎:H/Lが0.020未満 ○:H/Lが0.030以上0.05未満 ×:H/Lが0.10以上 【0058】 (3)はく離接着強さ 厚さ25μmのポリイミドフィルムを用意し、その一方の表面に、表1及び2に記載の液状接着剤組成物を、ロ-ル塗布した。次いで、この塗膜付きフィルムをオーブン内に静置して、90℃で3分間乾燥させてBステージ状の接着剤層(厚さ25μm)を形成し、カバーレイフィルム(接着剤層付き積層体)を得た。その後、厚さ35μmの圧延銅箔を、カバーレイフィルムの接着剤層の表面に面接触するように重ね合わせ、温度120℃、圧力0.4MPa、及び速度0.5m/分の条件でラミネ-トを行った。次いで、この積層体(ポリイミドフィルム/接着剤層/銅箔)を温度180℃、及び圧力3MPaの条件で30分間加熱圧着し、フレキシブル銅張積層板Aを得た。このフレキシブル銅張積層板Aを切断して、所定の大きさの接着試験片を作製した。 また、ポリイミドフィルムの厚さを12.5μmに代えて、接着剤層の厚さを37.5μmとした以外は上記と同様にして、フレキシブル銅張積層板Bを製造し、接着試験片を作製した。 接着性を評価するために、JIS C 6481「プリント配線板用銅張積層板試験方法」に準拠し、温度23℃及び引張速度50mm/分の条件で、各接着試験片の銅箔をポリイミドフィルムから剥がすときの180゜はく離接着強さ(N/mm)を測定した。測定時の接着試験片の幅は10mmとした。 【0059】 (4)はんだ耐熱性 JIS C 6481「プリント配線板用銅張積層板試験方法」に準拠し、次の条件で試験を行った。各接着試験片を25mm角に裁断し、120℃、30分の加熱処理を行った。その後、ポリイミドフィルムの面を上にして、所定温度のはんだ浴に10秒間浮かべて、接着試験片表面の発泡状態を観察した。この時、接着試験片に発泡が観察されない温度の上限を、はんだ耐熱性の温度とした。 【0060】 (5)樹脂流れ出し性 厚さ25μmのポリイミドフィルムを用意し、その一方の表面に、表1及び2に記載の液状接着剤組成物を、ロ-ル塗布した。次いで、この塗膜付きフィルムをオーブン内に静置して、90℃で3分間乾燥させてBステージ状の接着剤層(厚さ25μm)を形成し、カバーレイフィルム(接着剤層付き積層体)を得た。このカバーレイフィルムの接着剤層の表面に6mmφのパンチ穴を開けて、厚さ35μmの圧延銅箔を重ね合わせ、温度120℃、圧力0.4MPa、及び速度0.5m/分の条件でラミネ-トを行った。次いで、この積層体A(ポリイミドフィルム/接着剤層/銅箔)を温度180℃、及び圧力3MPaの条件で30分間加熱圧着した。この時のポリイミド穴部からの接着剤の最大流出長さを測定した。流出長さが小さいものが良好で、大きいものほど樹脂流れ出し性が劣ると判断した。 また、ポリイミドフィルムの厚さを12.5μmに代えて、接着剤層の厚さを37.5μmとした以外は上記と同様にして、積層体Bを製造して評価した。 【0061】 (6)電気特性(誘電率及び誘電正接) 厚さ25μmのポリイミドフィルムを用意し、その一方の表面に、表1及び2に記載の液状接着剤組成物を、ロ-ル塗布した。次いで、この塗膜付きフィルムをオーブン内に静置して、90℃で3分間乾燥させてBステージ状の接着剤層(厚さ25μm)を形成し、カバーレイフィルムA2(接着剤層付き積層体、厚さ50μm)を得た。次に、このカバーレイフィルムA2をオーブン内に静置して、180℃で30分間加熱硬化処理をして、試験片(120mm×100mm)を作製した。 また、ポリイミドフィルムの厚さを12.5μmに代え、接着剤層の厚さを37.5μmとした以外は上記と同様にして、カバーレイフィルムB2(接着剤層付き積層体、厚さ50μm)を得た。これを180℃で30分間加熱硬化処理をして、試験片(120mm×100mm)を作製した。 接着剤層付き積層体の誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)は、ネットワークアナライザー85071E-300(アジレント社製)を使用し、スプリットポスト誘電体共振器法(SPDR法)で、温度23℃、周波数1GHzの条件で測定した。 【0062】 (7)接着剤層付き積層体の貯蔵安定性 上記(6)電気特性と同様に作製したカバーレイフィルムA2(接着剤層付き積層体、厚さ50μm)を23℃で所定時間保管し、保管後のカバーレイフィルムA2と片面銅基板(L/S=50μm/50μm、銅厚さ18μm)とを温度180℃、圧力3MPaで3分間熱プレスを行い、樹脂の埋まり込みを評価した。樹脂が基板に埋まり込まなくなる保存期間について、以下の基準で評価を行った。 <評価基準> ○:2か月以上 △:1週間以上1か月未満 ×:1週間未満 【0063】 2.接着剤組成物の原料 2-1.スチレン系樹脂 (1)スチレン系エラストマーa1 旭化成ケミカルズ社製の商品名「タフテックM1913」(マレイン酸変性スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体)を用いた。この共重合体の酸価は10mgKOH/gであり、スチレン/エチレンブチレン比は30/70であり、重量平均分子量は15万である。 (2)スチレン系エラストマーa2 旭化成ケミカルズ社製の商品名「タフテックM1911」(マレイン酸変性スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体)を用いた。この共重合体の酸価は2mgKOH/gであり、スチレン/エチレンブチレン比は30/70であり、重量平均分子量は15万である。 (3)スチレン系エラストマーα 旭化成ケミカルズ社製の商品名「タフテックH1041」(スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体)を用いた。この共重合体の酸価は0mgKOH/gであり、スチレン/エチレンブチレン比は30/70であり、重量平均分子量は15万である。 (4)スチレン含有オリゴマー 三菱ガス化学社製の商品名「OPE-St樹脂」を用いた。 【0064】 2-2.エポキシ樹脂 (1)エポキシ樹脂b1 DIC社製 商品名「EPICLON HP-7200」(ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂)を用いた。 (2)エポキシ樹脂b2 DIC社製 商品名「EPICLON N-655EXP」(クレゾールノボラックエポキシ樹脂)を用いた。 (3)エポキシ樹脂b3 三菱ガス化学製 商品名「TETRAD-C」(グリシジルアミノ系エポキシ樹脂)を用いた。 【0065】 2-3.その他 (1)硬化促進剤 四国化成社製 商品名「キュアゾールC11-Z」(イミダゾール系硬化促進剤)を用いた。 (2)無機充填剤1 トクヤマ社製 商品名「エクセリカSE-1」(シリカ)を用いた。 (3)無機充填剤2 クラリアントジャパン社製 商品名「OP-935」を用いた。 (4)溶剤 トルエン及びメチルエチルケトンからなる混合溶媒(質量比=90:10)を用いた。 【0066】 3.接着剤組成物の製造 撹拌装置付き1000mlフラスコに、上記の原料を表1及び2に示す割合で添加し、室温下で6時間撹拌して溶解することにより、固形分濃度20%の液状接着剤組成物を調製した。 【0067】 4.接着剤層付き積層体の製造及び評価 実施例1~8、比較例1~5 上記接着剤組成物を用いて、接着剤層付き積層体を製造し評価した。結果を表1及び2に示す。 【0068】 【表1】 [図:0001413353000008.jpg] 」 イ 甲C1発明 前記アの下線部に着目すると、甲C1には、実施例2のカバーレイフィルムA2(接着剤層付き積層体)の接着剤層(【0061】)として、次の発明(以下「甲C1発明」という。)が記載されていると認められる。 スチレン系エラストマーa1(旭化成ケミカルズ社製、商品名「タフテックM1913」(マレイン酸変性スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体)、酸価10mgKOH/g、スチレン/エチレンブチレン比30/70、重量平均分子量15万)と、エポキシ樹脂b1(DIC社製、商品名「EPICLON HP-7200」(ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂))と、硬化促進剤(四国化成社製、商品名「キュアゾールC11-Z」(イミダゾール系硬化促進剤))と、無機充填剤1(トクヤマ社製、商品名「エクセリカSE-1」(シリカ))と、溶剤(トルエン及びメチルエチルケトンからなる混合溶媒(質量比=90:10))を、それぞれ、100質量部、7質量部、0.2質量部、15質量部、400質量部の割合で添加し、溶解することにより、液状接着剤組成物を調製し、(【0063】~【0066】、表1) 厚さ25μmのポリイミドフィルムの一方の表面に、前記液状接着剤組成物を、ロ-ル塗布し、この塗膜付きフィルムをオーブン内に静置して、90℃で3分間乾燥させてBステージ状の接着剤層(厚さ25μm)を形成して得たカバーレイフィルムA2(接着剤層付き積層体、厚さ50μm)の接着剤層であって、(【0061】) このカバーレイフィルムA2を180℃で30分間加熱硬化処理をして、試験片(120mm×100mm)を作製し、ネットワークアナライザー85071E-300(アジレント社製)を使用し、スプリットポスト誘電体共振器法(SPDR法)で、温度23℃、周波数1GHzの条件で測定した接着剤層付き積層体の誘電正接(tanδ)が0.004である(【0061】、表1) 接着剤層。 (2)甲C2 甲C2は、甲B3の再公表特許であり、その記載事項は、前記第5、1(3)アに示した甲B3のものと同じである。そして、甲C2には、実施例1のボンディングシートの被膜(接着性層)(【0054】)として、次の発明(以下「甲C2発明」という。)が記載されていると認められる。 スチレン系エラストマーa1(旭化成ケミカルズ社製、商品名「タフテックM1913」(マレイン酸変性スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体)、酸価10mgKOH/g、スチレン/エチレンブチレン比30/70、重量平均分子量15万)と、エポキシ樹脂b1(DIC社製、商品名「EPICLON HP-7200」(ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂))と、硬化促進剤(四国化成社製、商品名「キュアゾールC11-Z」(イミダゾール系硬化促進剤))と、溶剤(トルエン及びメチルエチルケトンからなる混合溶剤(質量比=90:10))を、それぞれ、100質量部、6質量部、0.2質量部、400質量部の割合で添加し、溶解することにより、液状接着剤組成物を調製し、(【0055】~【0058】、表1) 厚さ38μm離型ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に、前記液状接着剤組成物を、ロール塗布し、この塗膜付きフィルムをオーブン内に静置して、90℃で3分間乾燥させて厚さ50μmの被膜(接着性層)を形成して得たボンディングシートの被膜(接着性層)であって、(【0054】) このボンディングシートを180℃で30分間加熱処理をして、前記離型フィルムを剥がして、試験片(15×80mm)を作製し、PNA-L ネットワークアナライザーN5230A(アジレント社製)を使用し、空洞共振器摂動法で、23℃、周波数1GHzの条件で測定した接着剤硬化物の誘電率(ε)が2.2であり、誘電正接(tanδ)が0.002である(【0054】、表1) 被膜(接着性層)。 (3)甲C3 ア 甲C3の記載事項 甲C3には、次の事項が記載されている。 「【請求項1】 溶剤可溶性樹脂を含有し、下記(1)~(4)を満足する接着剤組成物。 (1)接着剤組成物の硬化物の周波数1MHzにおける比誘電率(εc)が3.0以下である (2)接着剤組成物の硬化物の周波数1MHzにおける誘電正接(tanδ)が0.02以下である (3)接着剤組成物で液晶ポリマーフィルムと銅箔とを貼り合せた積層体の90°剥離強度が0.5N/mm以上である (4)溶剤可溶性樹脂のトルエン溶液(固形分濃度20質量%)の溶液粘度比(溶液粘度ηB/溶液粘度ηB0)が、0.5以上3.0未満である 溶液粘度ηB0:溶剤可溶性樹脂をトルエンに溶解した直後の25℃での溶液粘度 溶液粘度ηB:溶剤可溶性樹脂をトルエンに溶解し、5℃下7日間静置貯蔵した後の25℃での溶液粘度」 「【0008】 すなわち、本発明は、ポリイミド、LCPなどの様々な樹脂基材と金属基材双方への良好な接着性を有し、且つ低誘電特性、ポットライフ性にも優れた接着剤組成物を提供することを目的とする。」 「【0069】 <実施例> 以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。実施例中および比較例中に単に部とあるのは質量部を示す。」 「【0073】 (1)剥離強度(接着性) 後述する接着剤組成物を厚さ12.5μmのポリイミドフィルム(株式会社カネカ製、アピカル)、または、厚さ25μmのLCPフィルム(株式会社クラレ製、ベクスター)に、乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布し、130℃で3分乾燥した。この様にして得られた接着性フィルム(Bステージ品)を18μmの圧延銅箔と貼り合わせた。貼り合わせは、圧延銅箔の光沢面が接着剤と接する様にして、160℃で40kgf/cm2の加圧下に30秒間プレスし、接着した。次いで140℃で4時間熱処理して硬化させて、剥離強度評価用サンプルを得た。剥離強度は、25℃において、フィルム引き、引張速度50mm/minで90°剥離試験を行ない、剥離強度を測定した。この試験は常温での接着強度を示すものである。 <評価基準> ◎:1.0N/mm以上 ○:0.8N/mm以上1.0N/mm未満 △:0.5N/mm以上0.8N/mm未満 ×:0.5N/mm未満 【0074】 (2)乾燥ハンダ耐熱性 上記と同じ方法でサンプルを作製し、2.0cm×2.0cmのサンプル片を120℃で30分乾燥処理を行い、各温度で溶融したハンダ浴に1分間フローし、膨れなどの外観変化を起こさない温度を測定した。 <評価基準> ◎:310℃以上 ○:300℃以上310℃未満 △:290℃以上300℃未満 ×:290℃未満 【0075】 (3)比誘電率(εc)及び誘電正接(tanδ) 後述する接着剤組成物を厚さ35μmの電解銅箔の光沢面に、乾燥硬化後の厚みが25μmとなるように塗布し、130℃で3分乾燥した。次いで140℃で4時間熱処理して硬化させて試験用の銅張積層板を得た。得られた試験用の銅張積層板の硬化した接着剤組成物面に、蒸発乾固型の導電性銀ペーストを直径50mmの円形にスクリーン印刷にて塗布し120℃30分乾燥硬化させ、さらに導電性銀ペーストによる円の中央に長さ30mmのリード線を導電性接着剤にて接着し平行平板コンデンサを得た。得られた平行平板コンデンサの静電容量Capと損失係数D(誘電正接)をPRECISION LCR meter HP-4284Aを用いて、22℃下、周波数1MHzの条件で測定を行い、次式より比誘電率(εc)を算出した。 εc=(Cap×d)/(S×ε0) ここに Cap:静電容量[F] d:誘電体層厚さ=25×10-6[m] S:被測定誘電体面積=π×(25×10-3)2 ε0:真空の誘電率 8.854×10-12 である。 得られた比誘電率、誘電正接について、以下の通りに評価した。 <比誘電率の評価基準> ◎:2.3以下 ○:2.3を超え2.6以下 △:2.6を超え3.0以下 ×:3.0を超える <誘電正接の評価基準> ◎:0.005以下 ○:0.005を超え0.01以下 △:0.01を超え0.02以下 ×:0.02を超える」 「【0077】 (主剤1の作製) 水冷還流凝縮器と撹拌機を備えた500mlの四つ口フラスコに、酸変性ポリスチレンエラストマー樹脂(タフテック(登録商標)M1911)を100質量部、トルエンを400質量部仕込み、撹拌しながら70℃まで昇温し、撹拌を1時間続けることで溶解した。冷却して得られた主剤1のポットライフ性を表1に示す。 【0078】 (主剤2~8の作製) 酸変性ポリスチレンエラストマー樹脂(A)を表1に示すものに変更し、主剤1と同様な方法で主剤2~8を作製した。配合量、ポットライフ性を表1に示す。 【0079】 【表1】 [図:0001413353000009.jpg] 【0080】 実施例1 主剤1を500質量部、架橋剤としてカルボジイミド樹脂V-05を5質量部、エポキシ樹脂HP-7200を10質量部配合し、接着剤組成物を得た。配合量、接着強度、ハンダ耐熱性、電気特性を表2に示す。 【0081】 実施例2~10 主剤2~4および架橋剤を表2に示すとおりに変更し、実施例1と同様な方法で実施例2~10を行った。接着強度、ハンダ耐熱性、電気特性を表2に示す。 【0082】 【表2】 [図:0001413353000010.jpg] 」 「【0085】 表1~3で用いたポリオレフィン樹脂、酸変性ポリスチレンエラストマー樹脂(A)、カルボジイミド樹脂(B)、エポキシ樹脂(C)は以下のものである。 酸変性ポリスチレンエラストマー樹脂:タフテック(登録商標)M1911(旭化成ケミカルズ社製)、酸価37当量/106g 酸変性ポリスチレンエラストマー樹脂:タフテック(登録商標)M1913(旭化成ケミカルズ社製)、酸価185当量/106g 酸変性ポリスチレンエラストマー樹脂:タフテック(登録商標)M1943(旭化成ケミカルズ社製)、酸価185当量/106g ポリスチレンスチレンエラストマー樹脂:セプトン(登録商標)8007L(クラレ社製)、酸価0当量/106g カルボキシル基含有アクリロニトリルブタジエンゴムNBR(株式会社JSR製) カルボジイミド樹脂:V-05(日清紡ケミカル社製) カルボジイミド樹脂:V-03(日清紡ケミカル社製) o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂:YDCN-700-3(新日鉄住金化学社製) ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂:HP-7200(DIC社製)」 イ 甲C3発明 前記アの下線部に着目すると、甲C3には、実施例2の銅張積層板の硬化した接着剤組成物(【0075】。以下では、便宜的に「銅張積層板の接着剤組成物層」という。)として、次の発明(以下「甲C3発明」という。)が記載されていると認められる。 酸変性ポリスチレンエラストマー樹脂(タフテック(登録商標)M1913(旭化成ケミカルズ社製)、酸価185当量/106g)を100質量部、トルエンを400質量部仕込み、撹拌しながら70℃まで昇温し、撹拌を1時間続けることで溶解して、主剤2を作製し、(【0077】~【0078】、【0085】、表1) 主剤2を500質量部、架橋剤としてカルボジイミド樹脂V-05(日清紡ケミカル社製)を5質量部、エポキシ樹脂HP-7200(DIC社製)を10質量部配合し、接着剤組成物を得て、(【0080】~【0081】、【0085】、表2) 接着剤組成物を厚さ35μmの電解銅箔の光沢面に、乾燥硬化後の厚みが25μmとなるように塗布し、130℃で3分乾燥し、次いで140℃で4時間熱処理して硬化させて得た試験用の銅張積層板の接着剤組成物層であって、(【0075】) 得られた試験用の銅張積層板の硬化した接着剤組成物面に、蒸発乾固型の導電性銀ペーストを直径50mmの円形にスクリーン印刷にて塗布し120℃30分乾燥硬化させ、さらに導電性銀ペーストによる円の中央に長さ30mmのリード線を導電性接着剤にて接着し平行平板コンデンサを得て、PRECISIONLCR meter HP-4284Aを用いて、22℃下、周波数1MHzの条件で測定を行った平行平板コンデンサの損失係数D(誘電正接)が◎(0.005以下)である(【0075】、表2) 銅張積層板の接着剤組成物層。 (4)甲C4 甲C4には、次の事項が記載されている。 「 [図:0001413353000011.jpg] 」(90頁) (5)甲C6 甲C6には、次の事項が記載されている。 「 [図:0001413353000012.jpg] 」 2 甲C1を主引例とする申立理由について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲C1発明とを対比する。 (ア)「接着性樹脂シート」について 甲C1発明の「接着剤層」は、スチレン系樹脂である「スチレン系エラストマーa1(旭化成ケミカルズ社製、商品名「タフテックM1913」(マレイン酸変性スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体)、酸価10mgKOH/g、スチレン/エチレンブチレン比30/70、重量平均分子量15万)」を主成分とするものであり、また、「フィルム」状のものであるから、本件発明1の「接着性樹脂シート」に相当する。 (イ)「アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系エラストマー、フッ素樹脂およびスチレン無水マレイン酸系樹脂から選ばれるバインダー樹脂(A)」について 甲C1発明の「スチレン系エラストマーa1(旭化成ケミカルズ社製、商品名「タフテックM1913」(マレイン酸変性スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体)、酸価10mgKOH/g、スチレン/エチレンブチレン比30/70、重量平均分子量15万)」は、本件発明1の「スチレン系エラストマー」に相当し、前記(ア)のとおり、「接着剤層」の主成分(基体)の樹脂であるから、バインダー樹脂ということができ、それを「バインダー樹脂(A)」と称することは任意である。 したがって、本件発明1と甲C1発明とは、「アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系エラストマー、フッ素樹脂およびスチレン無水マレイン酸系樹脂から選ばれるバインダー樹脂(A)」を含む点で一致する。 (ウ)「硬化剤(B)」について 甲C1発明の「エポキシ樹脂b1(DIC社製、商品名「EPICLON HP-7200」(ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂)」は、前記(イ)の「スチレン系エラストマーa1」と硬化反応をさせるための成分であることは明らかであるから、本件発明1の「硬化剤(B)」に相当し、本件発明1と甲C1発明とは、「硬化剤(B)」を含む点で一致する。 (エ)「酸無水物基を有する変性エラストマーと溶剤可溶性ポリイミド樹脂とを共に含むことはなく」について 甲C1発明は、溶剤可溶性ポリイミド樹脂を含むことは特定されていないから、本件発明1とは、「酸無水物基を有する変性エラストマーと溶剤可溶性ポリイミド樹脂とを共に含むことはな」い点で一致する。 (オ)「ビスマレイミド樹脂を含まない」について 甲C1発明は、ビスマレイミド樹脂を含むことは特定されていないから、本件発明1とは、「ビスマレイミド樹脂を含まない」点で一致する。 (カ)「180℃で1時間加熱した際、以下の(イ)、(ロ)、(ハ)および(ニ)を満たし」及び「(イ)23℃において、測定周波数10GHzでの誘電正接が0.005以下である。(ロ)23℃において、測定周波数20GHzでの誘電正接が0.007以下である。(ハ)23℃において、測定周波数40GHzでの誘電正接が0.01以下である。(ニ)JIS K7120に規定された熱重量測定に準拠し、流入ガス:窒素、測定温度範囲:25℃~500℃、加熱速度:10℃/分、にて測定した質量減少率が5%であるときの温度が280℃以上である。」について 甲C1発明における「誘電正接(tanδ)」の値「0.004」は、「接着剤層付き積層体」、すなわち甲C1発明の「接着剤層」が形成された「カバーレイフィルムA2」を、「180℃で30分間」で加熱し、「温度23℃、周波数1GHz」の条件で測定したものであり、本件発明1の前記(イ)~(ハ)の「誘電正接」とは、対象も加熱条件も測定条件も異なる。 また、甲C1発明は、本件発明1の「180℃で1時間加熱」したものについての前記(ニ)の「質量減少率が5%であるときの温度」は特定されていない。 (キ)前記(ア)~(カ)によれば、本件発明1と甲C1発明とは、次の一致点、相違点がある。 [一致点] アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系エラストマー、フッ素樹脂およびスチレン無水マレイン酸系樹脂から選ばれるバインダー樹脂(A)と、硬化剤(B)とを含み、ただし、酸無水物基を有する変性エラストマーと溶剤可溶性ポリイミド樹脂とを共に含むことはなく、ビスマレイミド樹脂を含まない、ことを特徴とする接着性樹脂シート。 [相違点] (相違点C1) 誘電正接が、本件発明1は、接着性樹脂シートを測定したものであって、180℃で1時間加熱したものが、(イ)23℃において、測定周波数10GHzで0.005以下、(ロ)23℃において、測定周波数20GHzで0.007以下、及び(ハ)23℃において、測定周波数40GHzで0.01以下であるのに対し、甲C1発明は、接着剤層が形成されたカバーレイフィルムA2を測定したものであって、該カバーレイフィルムA2を180℃で30分加熱したものが、23℃において、測定周波数1GHzで0.004である点。 (相違点C2) 本件発明1は、180℃で1時間加熱したものが、(ニ)JIS K7120に規定された熱重量測定に準拠し、流入ガス:窒素、測定温度範囲:25℃~500℃、加熱速度:10℃/分、にて測定した質量減少率が5%であるときの温度が280℃以上であるのに対し、甲C1発明は、当該事項は特定されていない点。 イ 相違点についての検討 (ア)相違点C1について 甲C1発明における誘電正接の値0.004は、接着剤層だけを測定対象としたものでなく、該接着剤層が形成されたカバーレイフィルムA2を測定対象としたものである。上記カバーレイフィルムA2の基材フィルムであるポリイミドフィルム(厚さ25μm)が上記誘電正接に影響を与えることは明らかであるところ(甲C1【0050】)、甲C1発明における具体的な影響の程度は不明であるから、接着剤層のみの誘電正接の値は不明である。 さらに、本件特許明細書の表1~3の実施例1~25や甲B14の【0005】(前記第4、1(7))によれば、甲C1発明の誘電正接は、測定周波数が高くなると増大することが予想されるが、甲C1には、測定周波数1GHz以外の誘電正接の値について示されておらず、その他の証拠を参酌しても、甲C1発明の誘電正接が、1GHzより高い測定周波数のときにどの程度増大するかを予測することは困難である。そして、甲C1発明は、本件発明1と異なる加熱時間(30分)で加熱しており、その影響も不明であるから、甲C1発明が、本件発明1の(イ)~(ハ)を満たす蓋然性が高いとまではいえない。 よって、相違点C1は、実質的な相違点である。 また、前記のとおり、甲C1発明の誘電正接が1GHzより高い測定周波数のときにどの程度増大するかを予測することは困難なうえ、甲C1発明をどのように改変すれば本件発明1の(イ)~(ハ)を満たすことができるかを具体的に示す証拠もないから、甲C1発明を改変して相違点C1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者に容易であったということはできない。 (イ)小括 したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲C1発明と同一ではなく、甲C1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (2)本件発明2~5、7~11について 本件発明2~5、7~11は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であり、前記(1)で対比した相違点に係る構成を含むものであるから、前記(1)に示した理由により、甲C1発明と同一ではなく、また、甲C1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)申立理由C1(新規性)について 申立人Cは、誘電正接について、甲C4によれば、1GHz~100GHzでは、誘電正接は周波数に依存しない低い値を示すと考えられるから、甲C1の実施例2及び3の組成物の誘電正接は、本件発明1の(イ)~(ハ)を満たす蓋然性が極めて高く、甲C6に示すように、上記実施例2及び3の組成物を作成して追試し、本件発明1の(イ)~(ハ)を全て満たすことが確認されたと主張する。(申立書C28~29頁) ア 甲C4について 甲C4の図4.30の上図は、周波数と誘電率(ε’)の関係を示すグラフであり、下図は、周波数と誘電損失率(ε”)の関係を示すグラフであると認められるところ、横軸のlog(周波数)が9から10、すなわち周波数1GHz~10GHzの範囲では、両グラフとも値がプロットされていないから、当該周波数の範囲における誘電率(ε’)、誘電損失率(ε”)の変化は明らかでない。また、log(周波数)が10から11(周波数10GHz~100GHz)の範囲では、誘電率(ε’)はほぼ一定であることが上のグラフから見て取れるのに対し、誘電損失率(ε”)は、縦軸のスケールは不明であるが、周波数の増加に伴って増加することが下のグラフから見て取れる。すなわち、両グラフは、周波数10GHz~100GHzの範囲では、誘電正接(tanδ=ε”/ε’)が、周波数の増加に伴って増大する可能性を示唆しているといえる。さらに、甲C4には、「高分子」としか記載されておらず、高分子の種類や組成、加熱等の加工の有無、測定条件等は一切記載されておらず、それらが誘電正接に影響しないとの証拠もない。 したがって、甲C4からは、甲C1発明の誘電正接が1GHz~100GHzで周波数に依存しない低い値を示すとはいえないから、甲C1の実施例2(甲C1発明)の組成物の誘電正接は、本件発明1の(イ)~(ハ)を満たす蓋然性が極めて高いとの申立人Cの主張は、採用することができない。このことは、上記実施例2と同じスチレン系エラストマーa1、エポキシ樹脂b1を原料として含み、測定周波数1GHzの誘電正接が同等の0.005を示す実施例3にもいえる。 イ 甲C6について 甲C6に示される追試結果のデータは、以下の理由で採用することができない。 (ア)甲C6には、甲C1の実施例2、実施例3の組成物の10GHz、20GHz、40GHzの誘電率、誘電正接、ガラス転移温度、5%重量分解温度を、それぞれ本件特許明細書【0078】、【0079】~【0080】、【0085】の記載に従って測定した追試結果であるとするデータが示されているが、該データからは、追試に用いたとする組成物が甲C1の実施例2及び3の組成と同一であるかを確認することはできず、また、測定方法が上記本件特許明細書に記載のものと同一であることかも確認することはできない。 (イ)誘電正接のデータについてみると、#1~#3が何を意味するかは明らかでないが、甲C1の実施例2の組成物は、10GHz、20GHz、40GHzそれぞれで、平均0.0022、0.0023、0.0023、甲C1の実施例3の組成物は、10GHz、20GHz、40GHzそれぞれで、平均0.0020、0.0018、0.0017である。これらのデータは、高周波数帯で周波数が高くなるにつれ誘電正接が増大することを示している本件特許明細書の実施例1~25のデータ及び甲C4や甲B14(前記第4、1(7))の記載とは整合しておらず、その理由は明らかでない。 (ウ)本件特許明細書【0078】に記載された誘電正接の測定方法は、両面剥離フィルム付き接着性樹脂シート4枚を、剥離フィルムを順次剥がし、露出した接着性樹脂シート同旨を重ね合わせて張り合わせたものに対して行うものである。これに対し、甲C1に実施例2及び3として記載された(本件発明1の接着性樹脂シートに相当する)接着剤層は、カバーレイフィルムの接着剤層であり(前記1(1)イ、甲C1【0057】~【0062】)、カバーレイフィルムは、基材フィルムと接着剤層の剥離が困難である(甲C1【0046】)から、上記測定方法による測定は不可能又は困難である。すなわち、甲C6に示される誘電正接のデータは、甲C1に実施例2及び3として記載された接着剤層の誘電正接のものとはいえない。 (エ)以上の理由に加え、甲C6の「2024/1/25」との記載は、証拠説明書を参酌すると、甲C6の作成日であることが一応推認できるものの、甲C6には、作成者名及びその押印がなく、さらに、追試の日時、場所、追試を実施した者の氏名もなく、甲C6自体の信用性にも疑義がないとはいえないから、甲C6に示される追試結果のデータは、採用することができない。 ウ 小括 以上のとおり、甲C4及び甲C6に基づく申立人Cの前記主張は採用することができず、甲C1の実施例2(甲C1発明)及び実施例3は、本件発明1の(イ)~(ハ)を満たす蓋然性が高いとはいえない。 したがって、本件発明1~5、7~11は、甲C1に記載された発明とはいえないから、申立理由C1は、理由がない。 (4)申立理由C2(進歩性)について 申立人Cは、本件発明1の(イ)~(ニ)と同様の物性値は、甲C1の実施例2及び3に記載されているので、本件発明1の(イ)~(ニ)は、甲C1から当業者が容易に想到し得るものである旨主張する。(申立書C29頁) しかしながら、甲C1の実施例2(甲C1発明)及び実施例3の誘電正接が、本件発明1の(イ)~(ハ)と同様の物性値を示すかどうか不明であることは、前記(1)及び(3)に示したとおりである。 したがって、本件発明1~5、7~11は、甲C1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、申立理由C2は、理由がない。 3 甲C2を主引例とする申立理由について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲C2発明とを対比すると、両者には、少なくとも次の相違点が存在する。 (相違点C3) 誘電正接が、本件発明1は、180℃で1時間加熱したものが、(イ)23℃、測定周波数10GHzで0.005以下、(ロ)23℃、測定周波数20GHzで0.007以下、及び(ハ)23℃、測定周波数40GHzで0.01以下であるのに対し、甲C2発明は、180℃で30分加熱したものが、23℃、測定周波数1GHzで0.002である点。 イ 相違点についての検討 本件特許明細書の表1~3の実施例1~25及び甲B14の【0005】(前記第5、1(7))によれば、甲C2発明の誘電正接は、測定周波数がさらに高くなると増大することが予想されるが、甲C2には、測定周波数1GHz以外の誘電正接の値について示されておらず、その他の証拠を参酌しても、甲C2発明の誘電正接が、1GHzより高い測定周波数のときにどの程度増大するかを予測することは困難である。そして、甲C2発明は、本件発明1と異なる加熱時間(30分)で加熱しており、その影響も不明であるから、甲C2発明が、本件発明1の(イ)~(ハ)を満たす蓋然性が高いとまではいえない。 よって、相違点C3は、実質的な相違点である。 また、前記のとおり、甲C2発明の誘電正接が1GHzより高い測定周波数のときにどの程度増大するかを予測することは困難なうえ、甲C2発明をどのように改変すれば本件発明1の(イ)~(ハ)を満たすことができるかを具体的に示す証拠もないから、甲C2発明を改変して相違点C3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者に容易であったということはできない。 したがって、本件発明1は、甲C2発明と同一ではなく、甲C2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (2)本件発明2~5、7~11について 本件発明2~5、7~11は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であり、相違点C3に係る構成を含むものであるから、前記(1)に示した理由により、甲C2発明と同一ではなく、また、甲C2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)申立理由C3(新規性)について 申立人Cは、誘電正接について、甲C4によれば、1GHz~100GHzでは、誘電正接は周波数に依存しない低い値を示すと考えられるから、甲C2の実施例1の組成物の誘電正接は、本件発明1の(イ)~(ハ)を満たす蓋然性が極めて高く、甲C6に示すように、上記実施例1の組成物を作成して追試し、本件発明1の(イ)~(ハ)を全て満たすことが確認されたと主張する。(申立書C31~32頁) しかしながら、甲C4については、前記2(3)アのとおりであり、また、甲C6に示された追試結果データについては、前記2(3)イ(ア)、(イ)及び(エ)と同様のことがいえるから、上記主張は採用することができず、甲C2の実施例1(甲C2発明)は、本件発明1の(イ)~(ハ)を満たす蓋然性が高いとまではいえない。 したがって、本件発明1~5、7~11は、甲C2に記載された発明ではなく、申立理由C3は、理由がない。 (4)申立理由C4(進歩性)について 申立人Cは、本件発明1の(イ)~(ニ)と同様の物性値は、甲C2の実施例1に記載されているので、本件発明1の(イ)~(ニ)は、甲C2から当業者が容易に想到し得るものである旨主張する。(申立書C32頁) しかしながら、甲C2発明(実施例1)の誘電正接が、本件発明1の(イ)~(ハ)と同様の物性値を示すかどうか不明であることは、前記(1)及び(3)に示したとおりである。 したがって、本件発明1~5、7~11は、甲C2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、申立理由C4は、理由がない。 4 甲C3を主引例とする申立理由について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲C3発明とを対比すると、両者には、少なくとも次の相違点が存在する。 (相違点C4) 誘電正接が、本件発明1は、接着性樹脂シートを測定したものであって、180℃で1時間加熱したものが、(イ)23℃、測定周波数10GHzで0.005以下、(ロ)23℃、測定周波数20GHzで0.007以下、及び(ハ)23℃、測定周波数40GHzで0.01以下であるのに対し、甲C3発明は、銅張積層板の接着剤組成物層の面に導電性銀ペーストを塗布、乾燥硬化させて得た平行平板コンデンサを測定したものであって、接着剤組成物の硬化のために140℃で4時間、さらに導電性銀ペーストの乾燥硬化のために120℃で30分の加熱をしたものが、22℃、周波数1MHzで0.005以下である点。 イ 相違点についての検討 甲C3発明における誘電正接の値0.005は、接着剤組成物層だけを測定対象としたものでなく、該接着剤組成物層を絶縁体として用いた平行平板コンデンサを測定したものである。上記平行平板コンデンサに含まれる電解銅箔及び導電性銀ペーストを乾燥硬化したものが上記誘電正接に影響を与えることは技術常識に照らせば明らかであるところ、甲C3発明における具体的な影響の程度は不明であるから、接着剤組成物層のみの誘電正接の値は不明である。 さらに、甲C3発明の誘電正接は、測定周波数1MHzでの値であり、それより10000倍以上高い本件発明1の(イ)~(ハ)の測定周波数のときの測定値を予測することは困難である上、本件発明1と異なる加熱温度及び加熱時間(140℃で4時間、120℃で30分)で加熱したものを異なる測定温度(22℃)で測定したものであって、これらの影響も不明であるから、甲C3発明が、本件発明1の(イ)~(ハ)を満たす蓋然性が高いとまではいえない。 よって、相違点C4は、実質的な相違点である。 また、前記のとおり、甲C3発明の誘電正接が、本件発明1の(イ)~(ハ)の測定周波数のとき、どのような値かを予測することは困難なうえ、甲C3発明をどのように改変すれば本件発明1の(イ)~(ハ)を満たすことができるかを具体的に示す証拠もないから、甲C3発明を改変して相違点C4に係る本件発明1の構成とすることは、当業者に容易であったということはできない。 したがって、本件発明1は、甲C3発明と同一ではなく、甲C3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (2)本件発明2~5、7~11について 本件発明2~5、7~11は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であり、相違点C4に係る構成を含むものであるから、前記(1)に示した理由により、甲C3発明と同一ではなく、また、甲C3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)申立理由C5(新規性)について 申立人Cは、誘電正接について、甲C4によれば、1GHz~100GHzでは、1MHzよりもかなり低い値を示すから、甲C3の実施例2の組成物の誘電正接は、1GHz~100GHzで0.005以下となり、本件発明1の(イ)~(ハ)を満たす蓋然性が極めて高く、甲C6に示すように、上記実施例2の組成物を作成して追試し、本件発明1の(イ)~(ハ)を全て満たすことが確認されたと主張する。(申立書C33~34頁) しかしながら、前記(1)イのとおり、甲C3の実施例2の組成物(甲C3発明)の誘電正接の値は、接着剤組成物層を含む平行平板コンデンサの値であって、接着剤組成物層の1MHzの誘電正接が0.005以下であるかは明らかではない。加えて、甲C4については、前記2(3)アのとおりであり、甲C6に示された追試結果データについては、前記2(3)イ(ア)~(エ)と同様のことがいえるから、甲C3の実施例2の組成物の誘電正接が、1GHz~100GHzで0.005以下となるかは明らかでなく、本件発明1の(イ)~(ハ)を満たす蓋然性が高いとまではいえない。 したがって、申立人Cの主張は採用することができず、本件発明1~5、7~11は、甲C3に記載された発明ではなく、申立理由C5は、理由がない。 (4)申立理由C6(進歩性)について 申立人Cは、本件発明1の(イ)~(ニ)と同様の物性値は、甲C3の実施例2に記載されているので、本件発明1の(イ)~(ニ)は、甲C3から当業者が容易に想到し得るものである旨主張する。(申立書C34~35頁) しかしながら、甲C3発明(実施例2)の誘電正接が、本件発明1の(イ)~(ハ)と同様の物性値を示すかどうか不明であることは、前記(1)及び(3)に示したとおりである。 したがって、本件発明1~5、7~11は、甲C3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、申立理由C6は、理由がない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、申立書A~Cに記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700149

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