特許異議申立
2023-701132
セラミック板、半導体装置および半導体モジュール
- 審判番号
- 2023-701132
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-223615
- 登録番号
- 7264627
- 請求日
- 2023年10月23日
- 審決日
- 2025年03月07日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】京セラ株式会社
- 【権利者代理人】荒船 博司
- 【権利者代理人】荒船 良男
- 【異議申立人】小松 茂夫
- 審判長/審判官
- 審判長 河本 充雄
- 審判官 中野 浩昌
- 審判官 棚田 一也
- 分類
- P1651.121-YAA(H01L) / P1651.536-YAA(H01L) / P1651.537-YAA(H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7264627号発明「セラミック板、半導体装置および半導体モジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7264627号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3、4、6~11〕、2、5について訂正することを認める。
特許第7264627号の請求項1、3、4、6~11に係る特許を維持する。
特許第7264627号の請求項2、5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7264627号の請求項1~11に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成30年11月29日(優先権主張 平成29年12月21日)に出願され、令和 5年 4月17日にその特許権の設定登録がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 5年10月23日 :特許異議申立人小松茂夫(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和 6年 1月17日付け :取消理由通知書
令和 6年 3月25日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 6年 5月 8日 :申立人による意見書の提出
令和 6年 6月26日付け :取消理由通知書(決定の予告)
令和 6年 8月23日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 6年11月 1日 :特許権者による令和 6年8月23日提出の訂正請求書についての手続補正書(方式)の提出
なお、令和 6年11月13日付けで申立人に対して訂正請求があった旨を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人から応答はなかった。
第2 訂正の適否
令和 6年11月 1日提出の手続補正書(方式)により補正された令和 6年 8月23日提出の訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)について検討する。
1 本件訂正の趣旨
本件訂正の請求の趣旨は、特許第7264627号の明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~11について訂正することを求める、というものである。
なお、令和 6年 3月25日提出の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
2 訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正事項1~9よりなるものであって、以下のとおりである(下線は当審にて付した)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記第1相および前記第2相の間に粒界相が存在し、前記粒界相の弾性率は前記第1結晶および前記第2結晶よりも小さく、断面視における前記粒界相の面積の割合が5%以上20%以下であり、断面視における、前記第1相の面積の割合が40%以上であり、前記第2相の面積の割合が20%以上である」と記載されているのを、「前記第1相および前記第2相の間に粒界相が存在し、前記粒界相の弾性率は前記第1結晶および前記第2結晶よりも小さく、断面視における前記粒界相の面積の割合が5%以上20%以下であり、断面視における、前記第1相の面積の割合が40%以上であり、前記第2相の面積の割合が20%以上であり、前記第2結晶の平均粒径は、前記第1結晶の平均粒径の3~50倍であり、前記第1結晶は長軸長さが0.1~1.0μmであり、前記第2結晶は長軸長さが2~6μmである」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~11も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記第2結晶は、単結晶である、請求項1又は2に記載のセラミック板。」と記載されているのを、「前記第2結晶は、単結晶である、請求項1に記載のセラミック板。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「前記第1相は、多結晶である、請求項1~3のいずれかに記載のセラミック板。」と記載されているのを、「前記第1相は、多結晶である、請求項1又は3に記載のセラミック板。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「前記複数の第2結晶は柱状であり、前記第2結晶同士が互いに接している、請求項1~5のいずれかに記載のセラミック板。」と記載されているのを、「前記複数の第2結晶は柱状であり、前記第2結晶同士が互いに接している、請求項1、3、4のいずれかに記載のセラミック板。」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「前記第2結晶同士が互いに接している部分のうち中央部に、厚みが5nm以下のガラス層が存在する、請求項1~6のいずれかに記載のセラミック板。」と記載されているのを、「前記第2結晶同士が互いに接している部分のうち中央部に、厚みが5nm以下のガラス層が存在する、請求項1、3、4、6のいずれかに記載のセラミック板。」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~8のいずれかに記載のセラミック板と、前記セラミック板の表面に配置された半導体素子と、を備える半導体装置。」と記載されているのを、「請求項1、3、4、6、7、8のいずれかに記載のセラミック板と、前記セラミック板の表面に配置された半導体素子と、を備える半導体装置。」に訂正する。
(9)訂正事項9
願書に添付した明細書の段落【0006】に「前記第1相および前記第2相の間に粒界相が存在し、前記粒界相の弾性率は前記第1結晶および前記第2結晶よりも小さく、断面視における前記粒界相の面積の割合が5%以上20%以下であり、断面視における、前記第1相の面積の割合が40%以上であり、前記第2相の面積の割合が20%以上である」と記載されているのを、「前記第1相および前記第2相の間に粒界相が存在し、前記粒界相の弾性率は前記第1結晶および前記第2結晶よりも小さく、断面視における前記粒界相の面積の割合が5%以上20%以下であり、断面視における、前記第1相の面積の割合が40%以上であり、前記第2相の面積の割合が20%以上であり、前記第2結晶の平均粒径は、前記第1結晶の平均粒径の3~50倍であり、前記第1結晶は長軸長さが0.1~1.0μmであり、前記第2結晶は長軸長さが2~6μmである」に訂正する。
(10)一群の請求項、及び別の訂正単位とする求めについて
訂正前の請求項2~11が、本件訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~11〕について請求されている。
また、訂正後の請求項2、5に係る訂正について、特許権者は、当該訂正が認められるときに請求項1とは別の訂正単位として扱われることを求めている。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1に記載された「第1結晶」及び「第2結晶」について、「第2結晶の平均粒径は、前記第1結晶の平均粒径の3~50倍であり、前記第1結晶は長軸長さが0.1~1.0μmであり、前記第2結晶は長軸長さが2~6μmである」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の請求項2及び5に記載されているから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
さらに、訂正事項1は、上記のとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3及び4について
訂正事項3及び4は、訂正事項2により訂正前の請求項2が削除されたことに伴い、請求項3及び4の引用請求項から請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、及び、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項5について
訂正事項5による訂正は、請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項6~8について
訂正事項6~8は、訂正事項2及び5により訂正前の請求項2及び5が削除されたことに伴い、請求項6、7及び9の引用請求項から請求項2及び5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、及び、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)訂正事項9について
訂正事項9は、訂正事項1による訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図ることを目的とする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(7)特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1~11について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1~11に係る訂正事項1~9に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(8)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正した明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3、4、6~11〕、2、5について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~11に係る発明(以下、「本件発明1~11」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正した特許請求の範囲の請求項1~11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
窒化ケイ素の第1結晶を複数含む第1相と、
前記第1結晶よりも大きい窒化ケイ素の第2結晶を複数含み、前記複数の第2結晶同士が接している第2相と、を備えており、
前記第1相および前記第2相の間に粒界相が存在し、前記粒界相の弾性率は前記第1結晶および前記第2結晶よりも小さく、断面視における前記粒界相の面積の割合が5%以上20%以下であり、
断面視における、前記第1相の面積の割合が40%以上であり、前記第2相の面積の割合が20%以上であり、
前記第2結晶の平均粒径は、前記第1結晶の平均粒径の3~50倍であり、
前記第1結晶は長軸長さが0.1~1.0μmであり、前記第2結晶は長軸長さが2~6μmである、セラミック板。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記第2結晶は、単結晶である、請求項1に記載のセラミック板。
【請求項4】
前記第1相は、多結晶である、請求項1又は3に記載のセラミック板。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記複数の第2結晶は柱状であり、前記第2結晶同士が互いに接している、請求項1、3、4のいずれかに記載のセラミック板。
【請求項7】
前記第2結晶同士が互いに接している部分のうち中央部に、厚みが5nm以下のガラス層が存在する、請求項1、3、4、6のいずれかに記載のセラミック板。
【請求項8】
前記第2結晶同士の接触部位に介在している前記ガラス層は、前記第1結晶同士が互いに接している部分のうち中央部に存在しているガラス厨よりも厚みが小さい、請求項7に記載のセラミック板。
【請求項9】
請求項1、3、4、6、7、8のいずれかに記載のセラミック板と、
前記セラミック板の表面に配置された半導体素子と、を備える半導体装置。
【請求項10】
請求項9に記載の半導体装置と、
前記半導体素子と接している放熱体と、を備える半導体モジュール。
【請求項11】
前記半導体素子と電気的に接続された外部接続導体、をさらに備える請求項10に記載の半導体モジュール。」
第4 取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由について
1 取消理由の概要
(1)取消理由1 請求項1、3、4、6~11に係る発明は、「第1結晶」に該当する複数の結晶の大きさの範囲と、「第2結晶」に該当する複数の結晶の大きさの範囲が不明であり、また、それに伴い、「第1結晶を複数含む第1相」の範囲と、「第2結晶を複数含み、前記複数の第2結晶同士が接している第2相」の範囲が不明であり、さらに、ある具体的なセラミック板が、本件発明1、3、4、6~11の「断面視における、前記第1相の面積の割合が40%以上であり、前記第2相の面積の割合が20%以上である」構成を有するか否かを判断することができないから、明確ではない。
よって、請求項1、3、4、6~11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
(1)取消理由1について
ア 本件訂正により、本件発明1は、「前記第1結晶は長軸長さが0.1~1.0μmであり、前記第2結晶は長軸長さが2~6μmである」ものとなった。
したがって、本件発明1において、「第1結晶」に該当する複数の結晶の大きさの範囲は、「長軸長さが0.1~1.0μmであり」、「第2結晶」に該当する複数の結晶の大きさの範囲は、「長軸長さが2~6μmである」から、本件発明1は、「第1結晶」に該当する複数の結晶の大きさの範囲と、「第2結晶」に該当する複数の結晶の大きさの範囲が明確なものになった。
イ 上記アのとおり、本件発明1において、「第1結晶」に該当する複数の結晶の大きさの範囲と、「第2結晶」に該当する複数の結晶の大きさの範囲が明確になったから、本件発明1は、「第1結晶を複数含む第1相」の範囲と、「第2結晶を複数含み、前記複数の第2結晶同士が接している第2相」の範囲も明確なものになった。
ウ 上記イのとおり、本件発明1において、「第1結晶を複数含む第1相」の範囲と、「第2結晶を複数含み、前記複数の第2結晶同士が接している第2相」の範囲が明確であるから、本件発明1は、ある具体的なセラミック板が、「断面視における、前記第1相の面積の割合が40%以上であり、前記第2相の面積の割合が20%以上である」構成を有するか否かを判断することができるものとなり、明確になった。
エ 請求項3、4、6~11の記載は、請求項1の記載を引用するものであり、本件発明3、4、6~11は、本件発明1の構成をすべて有するものであるから、本件発明3、4、6~11についても、上記ア~ウにおける検討と同様のことがいえる。
オ 上記ア~エのとおりであるから、本件発明1、3、4、6~11は明確であり、本件特許の特許請求の範囲は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものであるから、取消理由1は解消した。
(2)小括
以上のとおりであるから、請求項1、3、4、6~11に係る特許を、取消理由1によって取り消すことはできない。
第5 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の概要
取消理由において採用しなかった、申立人が主張する特許異議申立理由(以下、「申立理由」という。)は、以下の申立理由1~申立理由4のとおりのものである。なお、申立人が提出した甲第1号証~甲第5号証を、以下、「甲1」~「甲5」という。
(1)申立理由1(実施可能要件)
本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項1~11に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、請求項1~11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)申立理由2(サポート要件)
請求項1、3~11に係る発明は、本件特許に係る願書に添付した明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1、3~11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)申立理由3(明確性要件)
請求項1~11に係る発明は、明確でないから、請求項1~11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)申立理由4(進歩性)
請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明と、甲2又は甲3に記載された技術事項とに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、請求項2~6に係る発明は、甲1に記載された発明と、甲2~甲4に記載された技術事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項7~11に係る発明は、甲1に記載された発明と、甲2~甲5に記載された技術事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<甲号証>
甲1:特開平9-328365号公報
甲2:You Zhou et al.、“Development of high-thermal-conductivity silicon nitride ceramics”、Journal of Asian Ceramic Societies、2015年4月7日、第221頁~第229頁
甲3:平尾 喜代司 他3名、“組織制御による窒化ケイ素の高熱伝導化と放熱基板への展開”、Journal of the Japan Society of Powder and Powder Metallurgy、Vol.64,No.8、2017年8月、第439頁~第444頁
甲4:特開平5-105522号公報
甲5:特開2008-63187号公報
2 当審の判断
(1)申立理由1(実施可能要件)について
ア(ア)申立人は、特許異議申立書の第8頁第15行~第9頁第5行において、請求項1には、「粒界相の弾性率は前記第1結晶および前記第2結晶よりも小さく」と記載されているが、発明の詳細な説明からは、「弾性率」の測定方法が不明であるため、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、請求項1~11に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない旨、主張している。
(イ)上記(ア)の主張について検討する。
例えば、特許権者が提出した乙第3号証(中上明光 他1名、“ナノインデンテーション法による薄膜の機械的特性評価”、神戸製鋼技報、Vol.52、No.2、2002年9月、第74頁~第77頁)の第74頁左欄第8行~第15行に「微小領域の硬さとヤング率の測定を、ナノインデンテーション(押込み)法によって、極低過重の押込み試験を高精度で行うことが可能となってきた。」「本手法の適用により」「セラミックス」「などの極薄膜や微小領域における硬さ,ヤング率が得られる。」と記載されているように、セラミックスの極微小領域のヤング率が、ナノインデンテーション法によって測定することができることは技術常識である。
そして、ヤング率が弾性率であることは技術常識であることを踏まえると、本件発明1、3、4、6~11においてセラミックスの「第1結晶」、「第2結晶」、及び「粒界相」の「弾性率」が、ナノインデンテーション法によってヤング率を測定することによって得られるものであると理解できるから、発明の詳細な説明は、請求項1、3、4、6~11に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
よって、上記(ア)の主張を採用することはできない。
イ(ア)申立人は、特許異議申立書の第9頁第8行~第18行において、請求項3には「前記第2結晶は、単結晶である」と記載され、請求項4には「前記第1相は、多結晶である」と記載されているが、発明の詳細な説明からは、どのようにして単結晶と多結晶を識別するのか、どのようにして単結晶および/または多結晶を含む構成を実現することができるのかが不明瞭であるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項3及び4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない旨、主張している。
(イ)上記(ア)の主張について検討する。
a 発明の詳細な説明の段落0016に「第1結晶1および第2結晶2は」「柱状または長球状」「等の形状である。」及び「第1結晶1および第2結晶2の大きさは、例えば、柱状のものの長さまたは長球状のものの長軸の長さ(本明細書において両者を区別せずに長軸長さともいう。)によって特定する。これらの長軸長さは」「セラミック板10の断面をSEMなどの電子顕微鏡を用いた観察によって測定することができる。」と記載され、段落0020に「第1結晶1および第2結晶2は柱状」「の結晶である」と記載されている。ここで、「柱状」「の結晶」が単結晶であることは技術常識から明らかであるから、上記発明の詳細な説明の記載から、SEMなどの電子顕微鏡を用いて、「第1結晶」及び「第2結晶」が柱状の結晶、すなわち単結晶であることを識別することができるといえる。
b また、多結晶が複数の単結晶から構成されるものであることは技術常識であるところ、請求項1には「窒化ケイ素の第1結晶を複数含む第1相」と記載され、「第1相」は、「第1結晶」を複数含むものであるから、上記aのとおり、SEMなどの電子顕微鏡を用いて「第1結晶」が単結晶であることを観察することにより、「第1相」が複数の単結晶を含む多結晶であることを識別することができることも、明らかである。
c そして、発明の詳細な説明の段落0040~段落0044には、「第1結晶1」及び「第2結晶2」を有する「セラミック板10」の製造方法が記載されているから、多結晶である「第1相」及び単結晶である「第2結晶」含む構成を実現する方法が記載されているといえる。
d 上記a~cのとおりであるから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明3及び4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
上記(ア)の主張を採用することはできない。
ウ 上記ア及びイのとおりであるから、請求項1、3、4、6~11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
よって、申立理由1は理由がない。
(2)申立理由2(サポート要件)について
ア 申立人は、特許異議申立書の第9頁下から8行~第10頁下から10行において、請求項1には、「断面視における前記粒界相の面積の割合が5%以上20%以下であり、断面視における、前記第1相の面積の割合が40%以上であり、前記第2相の面積の割合が20%以上」と記載され、第1相、第2相、粒界の面積の割合は定義されているが、第1結晶及び第2結晶の大きさは定義されていないところ、発明の詳細な説明に開示された「第1結晶1の大きさは、例えば0.1~1.0μm程度であり、第2結晶2の大きさは、例えば2~6μm程度である」場合の第1相、第2相、粒界相の面積の割合を、第1結晶及び第2結晶の大きさが定義されない場合の第1相、第2相、粒界相の面積の割合にまで拡張ないし一般化することはできないから、本件発明1~11は、発明の詳細な説明に記載されたものではない旨、主張している。
イ 上記アの主張について検討する。上記第4の2(1)アのとおり、本件訂正により、本件発明1は、「前記第1結晶は長軸長さが0.1~1.0mであり、前記第2結晶は長軸長さが2~6μmである」ものとなり、「第1結晶」及び「第2結晶」の大きさは定義されるものとなったから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものとなった。
また、請求項3、4、6~11の記載は、請求項1の記載を引用するものであるところ、本件発明3、4、6~11は、本件発明1の構成をすべて備えるものであるから、本件発明3、4、6~11も、発明の詳細な説明に記載されたものとなった。
したがって、上記アの主張を採用することはできない。
イ よって、請求項1、3、4、6~11に係る特許が、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由2は理由がない。
(3)申立理由3(明確性要件)について
ア 申立人は、特許異議申立書の第10頁下から4行~第11頁第5行において、請求項1に記載された「弾性率」が、理論値を指しているものなのか、測定値を指しているものなのかが不明であるから、本件発明1~11は、明確ではない旨主張している。
イ 上記アの主張について検討する。
上記(1)ア(イ)の検討によれば、本件発明1、3、4、6~11の「弾性率」が、ヤング率として測定されるものであることは明らかである。
したがって、本件発明1、3、4、6~11は明確であるから、上記アの主張を採用することはできず、請求項1、3、4、6~11に係る特許が、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
よって、申立理由3は理由がない。
(4)申立理由4(進歩性)について
ア 甲号証の記載
(ア)甲1の記載と甲1発明について
a 甲1には、以下の記載がある。
「【0011】又、本発明は、焼結体の切断面の観察において中心部と周辺部が識別できる窒化珪素粒子を含有する窒化珪素焼結体であって、前記中心部の短軸径が0.5μm以下の窒化珪素粒子を前記中心部と周辺部が識別できる窒化珪素粒子全体の80個数%以上含有することを特徴とする窒化珪素焼結体であり、焼結体の切断面の観察において中心部と周辺部が識別できる窒化珪素粒子を含有する窒化珪素焼結体であって、前記中心部の短軸径が0.5μm以下の窒化珪素粒子を前記中心部と周辺部が識別できる窒化珪素粒子全体の70~95個数%含有し、しかも短軸径が1.0μm以上の窒化珪素粒子を前記中心部と周辺部が識別できる窒化珪素粒子全体の5~30個数%含有することを特徴とする窒化珪素焼結体である。」
「【0041】本発明の回路基板の製造方法としては、板状の窒化珪素焼結体又は研削加工等により板状に加工した窒化珪素焼結体と金属板とを接合した後、エッチング等の手法により回路を形成して製造することができる。・・・(中略)・・・
【0043】
【実施例】
〔実施例1~7、比較例1~5〕純度98重量%で比表面積が2m2/gの金属珪素粉末100重量部にα率が90重量%で比表面積が7m2/gの窒化珪素粉末10重量部を添加混合し、嵩密度が0.7g/cm3に成形し、窒素分圧0.09MPaの窒素-アンモニアガス雰囲気下、温度1100~1450℃に加熱して窒化珪素インゴット(インゴットA)を合成した。一方、純度98重量%で比表面積が2m2/gの金属珪素粉末100重量部にα率が5重量%で比表面積が7m2/gの窒化珪素粉末100重量部を添加混合し、同様に成形、窒化して窒化珪素インゴット(インゴットB)を作製した。得られた窒化珪素インゴットについて粗砕後、乳鉢で粉砕して粉末X線回折法で測定したα率は、インゴットAが94重量%であり、インゴットBが10重量%であった。
【0044】次に、それぞれの窒化珪素インゴットから、ジョークラッシャー及びロールクラッシャーで粗砕し、ボールミル及び振動ミルで粉砕して窒化珪素粉末A及び窒化珪素粉末Bを製造した。窒化珪素粉末Bからは、更にメタノール中で窒化珪素製のポット及びボールを用いて遊星ミルで50Hr粉砕して微粉末とした(以下窒化珪素微粉末Bという)。
【0045】得られた窒化珪素粉末A、B及び窒化珪素微粉末Bを表1に示す配合比で添加し、ボールミルで1Hr混合して窒化珪素粉末を製造した。これらの窒化珪素粉末は、粉末X線回折法によるα率、BET一点法による比表面積、レーザ回折散乱法による粒度分布及び酸素/窒素同時分析計(LECO社:TC-436)による酸素量の測定を行った。
・・・(中略)・・・
【0048】
【表1】
[図:0001423440000001.jpg]
【0049】次に、前記窒化珪素粉末91重量%に焼結助剤としてY2O35重量%及びAl2O34重量%を添加し、媒体としてメタノールを用いた湿式ボールミルにより20Hr混合し、濾過・乾燥し、メノウ乳鉢で解砕後、200メッシュの篩い通しを行って混合粉末を作製した。次いで、これらの混合粉末を10MPaの圧力で金型成形した後、200MPaの圧力でCIP成形して30×50×8mmの成形体を得た。これらの成形体は、カーボン容器中に窒化珪素粉末、焼結助剤及びBN粉末の混合粉末に包埋して、カーボン発熱体の電気炉で、1MPaの窒素加圧雰囲気下、1800℃で8時間焼成して焼結体を作製した。
【0050】得られた焼結体は所定の形状に研削加工し、JIS-R1601に準じた4点曲げ及びJISーR1607に準じたIF法による破壊靱性の測定を行った。この結果を表2に示す。
【0051】次に、焼結体の表面を鏡面研磨した後、8%の酸素ガスを含むCF4ガス中において50Wの出力で高周波プラズマを発生させて、2分間エッチングを行った。そしてエッチングした焼結体を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。得られたSEM写真より、窒化珪素粒子中で中心部と周辺部が識別できるか否か、並びに中心部の短軸径を測定し、その結果を表2にまとめた。また、これらのSEM写真より、各焼結体中の窒化珪素粒子の短軸径及び長軸径を測定し、平均粒子径及び平均アスペクト比を算出した。ここで、平均アスペクト比は、全窒化珪素粒子のアスペクト比を測定し、大きい方から10個数%の平均値を平均アスペクト比として用いた。
【0052】前記SEM写真の一例として、図1に実施例2のSEM写真を示す。本発明のの窒化珪素焼結体の組織は、窒化珪素粒子中に中心部と周辺部とが識別できることが分かる。」
「【0078】
・・・(中略)・・・
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例2の窒化珪素焼結体を研磨・エッチングした面のSEM写真。白色部が粒界相であり、黒色部が窒化珪素粒子である。」
「【図1】
[図:0001423440000002.jpg]
」
b 上記aによれば、以下のことがいえる。
(a)段落0013には、「その焼結機構は」「窒化珪素粒子の再配列が起こり、更に窒化珪素粒子が液相に溶解し、高温で安定な結晶相のβ型窒化珪素として析出することにより進行することが知られている。」と記載されている。
よって、窒化珪素粒子は結晶相のβ型窒化珪素であるといえる。
(b)段落0041には「本発明の回路基板の製造方法としては、板状の窒化珪素焼結体」「と金属板とを接合した後、エッチング等の手法により回路を形成して製造することができる。」と記載されている。
よって、甲1には、回路基板を製造するための、板状の窒化珪素焼結体が記載されている。
(c)段落0045には「得られた窒化珪素粉末A、B及び窒化珪素微粉末Bを表1に示す配合比で添加し、ボールミルで1Hr混合して窒化珪素粉末を製造した。」と記載され、表1には、実施例2において窒化珪素粉末A及び窒化珪素微粉末Bをそれぞれ95wt%及び5wt%の配合比で添加することが記載されている。
(d)段落0052には「前記SEM写真の一例として、図1に実施例2のSEM写真を示す。」と記載され、段落0078には【図1】について「白色部が粒界相であり、黒色部が窒化珪素粒子である。」と記載され、図1から、窒化珪素焼結体は、長軸長さが小さい複数の窒化珪素粒子と、長軸長さが大きい複数の窒化珪素粒子と、すべての窒化珪素粒子同士の間の粒界相とを含み、長軸長さが大きい複数の窒化珪素粒子は互いに接することが見て取れる。
(e)上記a及び上記(a)~(d)によれば、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。(当審注:各段落の後の括弧内は根拠となる甲1の段落番号等である。)
<甲1発明>
「回路基板を製造するための、板状の窒化珪素焼結体であって、(上記b)
窒化珪素焼結体は、
純度98重量%で比表面積が2m2/gの金属珪素粉末100重量部にα率が90重量%で比表面積が7m2/gの窒化珪素粉末10重量部を添加混合し、嵩密度が0.7g/cm3に成形し、窒素分圧0.09MPaの窒素-アンモニアガス雰囲気下、温度1100~1450℃に加熱して窒化珪素インゴット(インゴットA)を合成し、
一方、純度98重量%で比表面積が2m2/gの金属珪素粉末100重量部にα率が5重量%で比表面積が7m2/gの窒化珪素粉末100重量部を添加混合し、同様に成形、窒化して窒化珪素インゴット(インゴットB)を作製し、(段落0043)
それぞれの窒化珪素インゴットから、ジョークラッシャー及びロールクラッシャーで粗砕し、ボールミル及び振動ミルで粉砕して窒化珪素粉末A及び窒化珪素粉末Bを製造し、窒化珪素粉末Bから、更にメタノール中で窒化珪素製のポット及びボールを用いて遊星ミルで50Hr粉砕して微粉末とし(以下窒化珪素微粉末Bという)、(段落0044)
窒化珪素粉末A及び窒化珪素微粉末Bをそれぞれ95wt%及び5wt%の配合比で添加し、ボールミルで1Hr混合して窒化珪素粉末を製造し、(上記c、段落0045)
前記窒化珪素粉末91重量%に焼結助剤としてY2O35重量%及びAl2O34重量%を添加し、媒体としてメタノールを用いた湿式ボールミルにより20Hr混合し、濾過・乾燥し、メノウ乳鉢で解砕後、200メッシュの篩い通しを行って混合粉末を作製し、次いで、これらの混合粉末を10MPaの圧力で金型成形した後、200MPaの圧力でCIP成形して30×50×8mmの成形体を得て、これらの成形体を、カーボン容器中に窒化珪素粉末、焼結助剤及びBN粉末の混合粉末に包埋して、カーボン発熱体の電気炉で、1MPaの窒素加圧雰囲気下、1800℃で8時間焼成して作製した窒化珪素焼結体であり、(段落0049)
窒化珪素焼結体は、長軸長さが小さい複数の窒化珪素粒子と、長軸長さが大きい複数の窒化珪素粒子と、すべての窒化珪素粒子同士の間の粒界相とを含み、長軸長さが大きい複数の窒化珪素粒子は互いに接し、(上記d)
窒化珪素粒子は結晶相のβ型窒化珪素である、(上記a)
板状の窒化珪素焼結体。」
(イ)甲2の記載について
甲2には、以下の記載がある。
「
[図:0001423440000003.jpg]
」(当審訳:「図7 1900℃で24時間焼結したSRBSN材料内の亀裂経路(左から右に伝播)の走査型電子顕微鏡写真」)
「
[図:0001423440000004.jpg]
」(当審訳:「図8 (a)F0、(b)F0.1、(c)F1、(d)F5のさまざまな量のFeを添加したSRBSNの説明材料の研磨およびプラズマエッチングされた表面のSEM画像」)
「
[図:0001423440000005.jpg]
」(当審訳:「図9 (a)Al-0、(b)Al-1、(c)Al-2、(d)Al-3 さまざまな量のAlを添加したSRBSN材料の研磨およびプラズマエッチングされた表面のSEM画像」)
(ウ)甲3の記載について
甲3には、以下の記載がある。
「
[図:0001423440000006.jpg]
」(当審訳:「図2は、窒化ケイ素セラミックの熱伝導率に影響を与える微細構造要因」)
「
[図:0001423440000007.jpg]
」(当審訳:「図5 (a)SRBSNと、(b)従来のガス圧焼結Si3N4(焼結条件:1900℃、24h、0.9MPa N2)の走査型電子顕微鏡写真」)
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明において、「窒化珪素粒子は結晶相」であるから、「長軸長さが小さい」「窒化珪素粒子」及び「長軸長さが大きい」「窒化珪素粒子」は、それぞれ、本件発明1の「窒化ケイ素の第1結晶」及び「前記第1結晶よりも大きい窒化ケイ素の第2結晶」に相当する。
また、甲1発明の「長軸長さが小さい複数の窒化珪素粒子」は、「結晶相」である「窒化珪素粒子」を複数含むものであるといえるから、本件発明1の「窒化ケイ素の第1結晶を複数含む第1相」に相当する。
さらに、甲1発明の「長軸長さが大きい複数の窒化珪素粒子」は、「結晶相」である「窒化珪素粒子」を複数含むものであり、かつ、「長軸長さが大きい複数の窒化珪素粒子は互いに接」するから、本件発明1の「前記第1結晶よりも大きい窒化ケイ素の第2結晶を複数含み、前記複数の第2結晶同士が接している第2相」に相当する。
b 甲1発明の「すべての窒化珪素粒子同士の間の粒界相」「を含」むことは、「長軸長さが小さい複数の窒化珪素粒子」と「長軸長さが大きい複数の窒化珪素粒子」との間に「粒界相」が存在することに他ならないから、本件発明1の「前記第1相および前記第2相の間に粒界相が存在」することに相当する。
c 甲1発明の「板状の窒化珪素焼結体」は、窒化珪素焼結体がセラミックスであることは技術常識であるから、上記a及びbを踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、「第1相」と、「第2相」とを備え、「前記第1相および前記第2相の間に粒界相が存在」する「セラミック板」である点で共通する。
d 上記a~cによれば、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「窒化ケイ素の第1結晶を複数含む第1相と、
前記第1結晶よりも大きい窒化ケイ素の第2結晶を複数含み、前記複数の第2結晶同士が接している第2相と、を備えており、
前記第1相および前記第2相の間に粒界相が存在する、
セラミック板。」
<相違点1>
本件発明1は、「前記粒界相の弾性率は前記第1結晶および前記第2結晶よりも小さ」いのに対し、甲1発明は、「粒界相」、「長軸長さが小さい複数の窒化珪素粒子」及び「長軸長さが大きい複数の窒化珪素粒子」の弾性率が不明である点。
<相違点2>
本件発明1は、「断面視における前記粒界相の面積の割合が5%以上20%以下であり、断面視における、前記第1相の面積の割合が40%以上であり、前記第2相の面積の割合が20%以上であり、前記第2結晶の平均粒径は、前記第1結晶の平均粒径の3~50倍であり、前記第1結晶は長軸長さが0.1~1.0μmであり、前記第2結晶は長軸長さが2~6μmである」のに対し、甲1発明は、「粒界相」、「長軸長さが小さい複数の窒化珪素粒子」及び「長軸長さが大きい複数の窒化珪素粒子」が、そのような面積の割合及び長軸長さを有することが特定されていない点。
(イ)上記相違点について検討する。
a 事案に鑑み、相違点2から検討する。
相違点2に係る本件発明1の構成である「断面視における前記粒界相の面積の割合が5%以上20%以下」であること、「断面視における、前記第1相の面積の割合が40%以上」であること、「前記第2相の面積の割合が20%以上」であること、「前記第2結晶の平均粒径は、前記第1結晶の平均粒径の3~50倍」であること、「前記第1結晶は長軸長さが0.1~1.0μm」であること、「前記第2結晶は長軸長さが2~6μm」であることは、相互に関連する一体不可分の構成であるといえるところ、甲2~甲5のいずれにも、相違点2に係る本件発明1の相互に関連する一体不可分の構成は記載されていない。
そうすると、甲1発明に甲2~甲5に記載された事項を適用しても、相違点2に係る本件発明1の構成は得られない。
b したがって、甲2~甲5に記載された事項を参照しても、甲1発明を、相違点2に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(ウ)小括
上記(イ)のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明と、甲2~甲5に記載された事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明3、4、6~11について
請求項3、4、6~11の記載は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであるところ、本件発明3、4、6~11は、本件発明1の構成をすべて備えるものであるから、甲1発明と、少なくとも相違点2と同様の点で相違するものであり、上記イ(イ)と同様の理由により、甲1発明と、甲2~甲5に記載された事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 申立理由4についてのまとめ
上記イ及びウによれば、請求項1、3、4、6~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
よって、申立理由4は、理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1、3、4、6~11に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては取り消すことはできない。
また、請求項2、5は、本件訂正により削除されたため、請求項2、5に係る特許に対する特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701132