特許異議申立
2023-700687
毛髪洗浄剤組成物
- 審判番号
- 2023-700687
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-224414
- 登録番号
- 7201411
- 請求日
- 2023年07月04日
- 審決日
- 2023年10月30日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】川研ファインケミカル株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
- 【異議申立人】丸野 悟史
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 典之
- 審判官 赤澤 高之
- 審判官 関 美祝
- 分類
- P1651.113-Y (A61K) / P1651.121-Y (A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7201411号発明「毛髪洗浄剤組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7201411号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7201411号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願(特願2018-224414号)は、平成30年11月30日の出願であって、令和4年12月26日にその特許権の設定登録がされ、令和5年1月10日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許の全請求項に対し、同年7月4日付けで特許異議申立人 丸野 悟史(以下「申立人」という。)より、特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~3に係る発明は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
以下、本件特許の請求項1~3(以下、それぞれ請求項順に「本件請求項1」などという。)に係る発明を、それぞれ請求項順に「本件発明1」などといい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。
「【請求項1】
シリコーン化合物を含まず
(A)一般式(2)で示されるN-アシル-N-ヒドロキシエチル-β-アラニン塩
(B)両性界面活性剤
(A)/(B)=1~3でかつ(A)+(B)=8~23重量%
(C)ラウリン酸
(D)カチオン性ポリマー
(C)/(D)=1~10でかつ(C)+(D)=0.5~3重量%
の組成である毛髪洗浄剤組成物。
【化1】
[図:0001404822000001.jpg]
[式(2)中、R2は炭素数9~15の直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基を示し、M2はアルカリ金属、トリエタノールアミンを示す。]
【請求項2】
両性界面活性剤が一般式(3)で示されるアミドプロピルベタイン、一般式(4)で示されるアミドアミンのうち少なくとも1種である、請求項1記載の毛髪洗浄剤組成物。
【化2】
[図:0001404822000002.jpg]
式(3)(4)中R3、R4は炭素数7~17の直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基を示す。]
【請求項3】
カチオン性ポリマーがポリクオタニウム-10、カチオン化グアーガムのうち少なくとも1種である、請求項1記載の毛髪洗浄剤組成物。」
第3 申立理由の概要及び証拠
申立人は特許異議申立書において、証拠方法として、下記3に示す甲第1号証~甲第2号証を提出し、本件請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由として、下記1及び2に概要を示す申立ての理由(以下「申立理由1」及び「申立理由2」という。)を主張している。
なお、以下では、甲第1号証及び甲第2号証を「甲1」及び「甲2」ともいう。
1 申立理由1(新規性)
本件特許の請求項1~3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。
2 申立理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。
3 証拠方法
甲1:特開2018-58785号公報
甲2:山手重好、色部航 編著、「脂肪酸化学<改訂増補版>」、
株式会社幸書房、昭和45年8月10日、p.81-82
なお、甲2は、周知技術を示すものである。
第4 判断
当審合議体は、本件請求項1~3に係る特許は、上記第3に示した申立理由及び証拠によっては、取り消すことはできないと判断する。その理由は以下のとおりである。
なお、以下の証拠の記載事項等の摘記における下線は、当審合議体が追記した。また、証拠の記載事項等の摘記は、全て全角で表記する。
1 甲各号証の記載事項
(1)甲1の記載事項
(甲1a)「【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアシルヒドロキシエチル-β-アラニン塩を有効成分として含有することを特徴とする起泡促進剤。
【化1】
[図:0001404822000003.jpg]
(式(1)中、RCOは炭素数8~14の飽和脂肪酸残基を示し、Mはアルカリ金属原子、アルカノールアミン、アンモニウムを示す。)
【請求項2】
充分に泡立った状態での洗髪時および泡のすすぎ時の感触改善効果を有することを特徴とする請求項1に記載の起泡促進剤。
【請求項3】
アシルヒドロキシエチル-β-アラニン塩がラウロイルヒドロキシエチル-β-アラニンNaであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の起泡促進剤。
【請求項4】
下記成分(A)~(B)を含有することを特徴とする洗浄剤組成物。
(A)請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の起泡促進剤
(B)アニオン性界面活性剤または両性界面活性剤から選ばれる1種または2種以上
【請求項5】
洗浄剤組成物がシャンプー組成物であることを特徴とする請求項4に記載の洗浄剤組成物。
【請求項6】
(B)がアミドベタイン型両性界面活性剤、イミダゾリウムベタイン型両性界面活性剤、またはアミノ酸系アニオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の洗浄剤組成物。
【請求項7】
成分(A)と成分(B)の配合比が、(A)/(B)=0.2~8.0であることを特徴とする請求項4~請求項6のいずれか1項に記載の洗浄剤組成物。」
(甲1b)「【技術分野】
【0001】
本発明は起泡促進剤に関し、詳細には、基材となる界面活性剤に添加することにより、充分に泡立った状態での洗髪時に髪が絡まない滑り性に優れ、泡のすすぎ時に髪がきしまない指通り性を良好とする、洗髪時の感触を改善するとともに、界面活性剤が有する起泡性を向上させる起泡促進剤に関する。」
(甲1c)「【0004】
しかしながら、カチオン性ポリマーは剤として滑り性を向上させるものの、洗浄剤組成物が泡になった状態において、必ずしも泡の弾力(クリーミィ性)や厚みを感じさせるものではなく、洗浄剤組成物として適したものではなかった。 またカチオン性ポリマーは、配合量によっては皮膚刺激を生じさせることがあり、安全性の点において懸念がある。」
(甲1d)「【0050】
実施例6-1 シャンプー 配合量(質量%)
ラウロイルヒドロキシエチル-β-アラニンNa 10.0
パーム核油脂肪酸アミドプロピルベタイン 5.0
ラウラミドMIPA 0.3
PPG-2コカミド 0.3
ヤシ油脂肪酸PEG-7グリセリル 0.5
塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]
ヒドロキシエチルセルロース 0.4
EDTA-2Na 0.1
安息香酸Na 0.5
ジステアリン酸グリコール 2.0
香料 0.5
精製水 残余
【0051】
常法により上記組成のシャンプーを調製し、起泡力、泡弾力、充分に泡立った状態での洗髪時および泡のすすぎ時の指通りを評価したところ、いずれの特性も優れており良好な結果を得た。」
(甲1e)「【0052】
実施例6-2 シャンプー 配合量(質量%)
ココイルヒドロキシエチル-β-アラニンNa 5.0
ラウロイルメチル-β-アラニンNa 5.0
ラウロイルサルコシンTEA 2.0
パーム核油脂肪酸アミドプロピルベタイン 3.0
2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチル
イミダゾリニウムベタイン 2.0
塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体 0.3
コカミドMEA 1.0
コカミドメチルMEA 2.0
グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド 0.5
塩化ナトリウム 1.0
香料 0.5
精製水 残余
【0053】
常法により上記組成のシャンプーを調製し、起泡力、泡弾力、充分に泡立った状態での洗髪時および泡のすすぎ時の指通りを評価したところ、いずれの特性も優れており良好な結果を得た。」
(2)甲2の記載事項
(甲2a)「1.製法
1.1 第一アミド
アミドは次のような諸種の方法で合成される。
[図:0001404822000004.jpg]
(実施例1)ステアリン酸アミドの製法
30%NH3水溶液300cc(5モル)に20℃でステアリン酸クロリド60g(0.2モル)を滴下し,常温で1時間熟成後,2%NaOH1リットルで洗い,後3回水洗する。収率53g(95%)m.p96~100℃,遊離酸4.3%,アミド純度94%。
・・・
(ii)脂肪酸とNH3より酸アミドを製造する方法8〉~14〉。
脂肪酸に180℃でNH3ガスを吹込む方法であって,工業的に広く用いられている。
RCOOH+NH3-→RCONH2+H2O
この液-ガス反応においてシリカゲルが有効な触媒である10〉12〉15〉。
工程図を図VI-1に示す。
(実施例)ステアリン酸2.5kgにシリカゲル(200~250メッシュ)を125g加え,180~185℃でNH3ガス150l/hrの速度で導入し,反応により生じた水をNH3と共に留去せしめる。約8時間で酸価10以下に低下する。反応物を冷却し,130℃付近で熱時ロ過すると次の組成のアミドが得られる。遊離酸3.9%,不ケン化物3.5%,水分0.1%,アミド92%,m.p98~103℃。この反応でリン酸を触媒に使うと色の美しいアミドが得られる。」(81ページ下から7行~82ページ下から6行)
2 申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
ア 甲1の記載から認定される発明について
甲1は、一般式(1)(式及び式の説明は省略。以下、甲1及び本件発明の記載についても同様とする。)で表されるアシルヒドロキシエチル-β-アラニン塩の起泡促進剤と、アニオン性界面活性剤又は両性界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上を含有するシャンプー組成物である洗浄剤組成物に関する技術的事項を開示するものである(上記1(1)(甲1a)【請求項1】、【請求項4】及び【請求項5】。以下、上記1の甲各号証の記載事項の記載箇所を示す場合には、単に(甲1a)などと示す。)。
そして、前記シャンプー組成物の具体例を示した実施例6-1の記載(甲1d)及び実施例6-2の記載(甲1e)からみて、甲1には、次の「甲1発明1」及び「甲1発明2」が記載されていると認める。
甲1発明1:
「次の組成のシャンプー。
配合量(質量%)
ラウロイルヒドロキシエチル-β-アラニンNa 10.0
パーム核油脂肪酸アミドプロピルベタイン 5.0
ラウラミドMIPA 0.3
PPG-2コカミド 0.3
ヤシ油脂肪酸PEG-7グリセリル 0.5
塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]
ヒドロキシエチルセルロース 0.4
EDTA-2Na 0.1
安息香酸Na 0.5
ジステアリン酸グリコール 2.0
香料 0.5
精製水 残余」
甲1発明2:
「次の組成のシャンプー。
配合量(質量%)
ココイルヒドロキシエチル-β-アラニンNa 5.0
ラウロイルメチル-β-アラニンNa 5.0
ラウロイルサルコシンTEA 2.0
パーム核油脂肪酸アミドプロピルベタイン 3.0
2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチル
イミダゾリニウムベタイン 2.0
塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体 0.3
コカミドMEA 1.0
コカミドメチルMEA 2.0
グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド 0.5
塩化ナトリウム 1.0
香料 0.5
精製水 残余」
イ 申立人の主張する甲1に記載された発明について
申立人は、特許異議申立書12ページ1~16行において、甲1の請求項1~7及び実施例6-1、6-2に関する記載事項((甲1a)、(甲1d)及び(甲1e))を整理すると、甲1には、以下の<甲1発明>が記載されていると主張している。
<甲1発明>
「シリコーン化合物を含まず
ラウロイルヒドロキシエチル-β-アラニンNa、ココイルヒドロキシエチル-β-アラニンNa等のアシルヒドロキシエチル-β-アラニン塩、
パーム核油脂肪酸アミドプロピルベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等の両性界面活性剤、
塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド等のカチオン性ポリマー
を含むシャンプー。」
しかしながら、申立人の主張する<甲1発明>は、組成が全く異なる2つのシャンプーの実施例それぞれから、いくつかの成分を抜き出すとともに、「等の」という記載で上位概念化したものであって、甲1にそのとおりに記載されているものではなく、甲1に記載された洗浄剤組成物における必須の成分をまとめたものでもないから、申立人の主張する<甲1発明>を甲1に記載された発明として認定することはできない。
(2)本件発明1について
ア 甲1発明1について
(ア)対比
a 甲1発明1における「ラウロイルヒドロキシエチル-β-アラニンNa 10.0質量%」は、本件発明1における「(A)一般式(2)で示されるN-アシル-N-ヒドロキシエチル-β-アラニン塩」に相当する。
また、甲1発明1における「パーム核油脂肪酸アミドプロピルベタイン 5.0質量%」は、本件発明1における「(B)両性界面活性剤」に相当する。
そして、甲1発明1における上記2成分の含有量については、後者に対する前者の割合が「10.0/5.0=2」であり、両者の合計が「10.0質量%+5.0質量%=15.0質量%」であるから、本件発明1における「(A)/(B)=1~3でかつ(A)+(B)=8~23重量%」との条件を満たしている。
b 甲1発明1における「塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース」は、本件発明1における「(D)カチオン性ポリマー」に相当する。
c 甲1発明1の「シャンプー」は、本件発明1の「毛髪洗浄剤組成物」に相当し、シリコーン化合物を含むものではない。
そして、甲1発明1の「シャンプー」は、さらにアニオン性界面活性剤や香料などを含むが、本件明細書の【0023】には、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分を配合できることが記載されているから、この点は本件発明1との対比における相違点とはならない。
d よって、本件発明1と甲1発明1との間には、次の一致点及び相違点1-1があるものと認められる。
一致点:
「シリコーン化合物を含まず
(A)一般式(2)で示されるN-アシル-N-ヒドロキシエチル-β-アラニン塩
(B)両性界面活性剤
(A)/(B)=1~3でかつ(A)+(B)=8~23重量%
(D)カチオン性ポリマー
の組成である毛髪洗浄剤組成物。」
である点。
相違点1-1:
本件発明1は、「(C)ラウリン酸」を含有し、「(C)/(D)=1~10でかつ(C)+(D)=0.5~3重量%」であると特定されているのに対し、
甲1発明1は、そのような特定がされていない点。
(イ)判断
a 新規性について
上記(ア)dのとおり、本件発明1と甲1発明1とは相違点1-1で相違しており、相違点1-1は、具体的な成分である「(C)ラウリン酸」をさらに含有すること、及び、「(D)カチオン性ポリマー」との割合及び合計の特定に係る事項であるから、実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。
ここで、本件明細書の【0009】には、「N-アシルアミノ酸界面活性剤は、ショッテンバウマン反応などの公知の方法により製造される。N-アシルアミノ酸界面活性剤には、少量の遊離脂肪酸が含まれる。遊離脂肪酸は、原料である脂肪酸クロライドに含まれる遊離脂肪酸、アシル化の際に副成する遊離脂肪酸に由来する。遊離脂肪酸の含量は、脂肪酸クロライドの純度、アシル化条件などによって増減することがある。」との記載があり、【0020】には、「また、本発明毛髪洗浄剤組成物のA成分には少量の遊離脂肪酸が含まれ、B成分も遊離脂肪酸を含む場合がある。本発明毛髪洗浄剤組成物のC成分に包含された形で、脂肪酸総含量を計算する。」との記載があることから、本件発明1における「(C)ラウリン酸」には、「(A)一般式(2)で示されるN-アシル-N-ヒドロキシエチル-β-アラニン塩」に少量含まれる遊離脂肪酸も含まれるといえる。
そして、甲2(甲2a)に示される周知技術を参酌すると、甲1発明1の「ラウロイルヒドロキシエチル-β-アラニンNa」も、遊離脂肪酸であるラウリル酸を、場合によっては4%程度含む可能性はある。
しかしながら、甲1発明1の「ラウロイルヒドロキシエチル-β-アラニンNa」は、市販品が用いられたのか、甲1の出願人が製造したものであるのか、また、精製の程度なども明らかでなく、仮に甲1発明1のシャンプーが「ラウロイルヒドロキシエチル-β-アラニンNa」に由来するラウリル酸を含有していたとしても、その具体的な量は不明であって特定の量として定まらないから、この点を考慮しても、本件発明1は甲1に記載された発明であるとはいえない。
b 進歩性について
甲1は、一般式(1)で表されるアシルヒドロキシエチル-β-アラニン塩を起泡促進剤として、基材となるアニオン性界面活性剤又は両性界面活性剤に添加することにより、充分に泡立った状態での洗髪時やすすぎ時の指通り性を良好とする、洗髪時の感触を改善するとともに、界面活性剤が有する気泡性を向上させる技術に関するものである((甲1a)及び(甲1b))。
そして、甲1発明1のシャンプーは、その具体例の一つとして、気泡促進剤としてのラウロイルヒドロキシエチル-β-アラニンNaを、両性界面活性剤であるパーム核油脂肪酸アミドプロピルベタインと組み合わせて配合したものであり、充分に泡立った状態での洗髪時及びすすぎ時の指通りの評価をしたところ、良好な結果が得られているものであるから(甲1d)、さらにラウリン酸を配合する動機付けはない。
また、上記aで述べたとおり、甲1発明1のシャンプーには、ラウロイルヒドロキシエチル-β-アラニンNaに由来するラウリン酸が含まれている可能性があったり、甲1の【0025】に、アニオン性界面活性剤の一例として「ラウリン酸カリウム」の記載があったりするものの、甲1発明1のシャンプーについて、含まれている可能性やアニオン性界面活性剤の一例として記載されているにすぎないラウリン酸に着目して、これをさらに添加する動機付けがあるとはいえない。
ましてや、相違点1-1に係る、「(D)カチオン性ポリマー」との割合や合計の特定を満たすような量でラウリン酸を配合することを動機付けられるところはない。
そして、本件発明1は、洗浄時の指通り性、滑らかさを向上させるだけでなく、細かい泡質となる上に、すすぎが早く洗いあがりのさっぱり感が感じられるという、甲1からは予測もできない効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲1発明1及び甲2に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 甲1発明2について
(ア)対比
a 甲1発明2における「ココイルヒドロキシエチル-β-アラニンNa 5.0質量%」は、本件発明1における「(A)一般式(2)で示されるN-アシル-N-ヒドロキシエチル-β-アラニン塩」に相当する。
また、甲1発明2における「パーム核油脂肪酸アミドプロピルベタイン 3.0質量%」及び「2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン 2.0質量%」は、本件発明1における「(B)両性界面活性剤」に相当する。
そして、甲1発明2における上記3成分の含有量については、「ココイルヒドロキシエチル-β-アラニンNa 5.0質量%」に対する「パーム核油脂肪酸アミドプロピルベタイン 3.0質量%」及び「2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン 2.0質量%」の合計の割合が「5.0/(3.0+2.0)=1」であり、上記3成分の含有量の合計が「5.0質量%+3.0質量%+2.0質量%=10.0質量%」であるから、本件発明1における「(A)/(B)=1~3でかつ(A)+(B)=8~23重量%」との条件を満たしている。
b 甲1発明2における「塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体」及び「グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド」は、本件特許発明1における「(D)カチオン性ポリマー」に相当する。
c 甲1発明2の「シャンプー」は、本件発明1の「毛髪洗浄剤組成物」に相当し、シリコーン化合物を含むものではない。
そして、甲1発明2の「シャンプー」が、さらにアニオン性界面活性剤や香料などを含む点は、上記ア(ア)cと同様、本件発明1との対比における相違点とはならない。
d よって、本件発明1と甲1発明2との間には、次の一致点及び相違点1-2があるものと認められる。
一致点:
「シリコーン化合物を含まず
(A)一般式(2)で示されるN-アシル-N-ヒドロキシエチル-β-アラニン塩
(B)両性界面活性剤
(A)/(B)=1~3でかつ(A)+(B)=8~23重量%
(D)カチオン性ポリマー
の組成である毛髪洗浄剤組成物。」
である点。
相違点1-2:
本件発明1は、「(C)ラウリン酸」を含有し、「(C)/(D)=1~10でかつ(C)+(D)=0.5~3重量%」であると特定されているのに対し、
甲1発明2は、そのような特定がされていない点。
(イ)判断
a 新規性について
本件発明1と甲1発明2との一致点及び相違点1-2は、上記ア(ア)dと同様である。
そして、上記ア(イ)aで説示したのと同様に、相違点1-2は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。
また、上記ア(イ)aで説示したのと同様に、甲1発明2は、その組成中の「ラウロイルメチル-β-アラニンNa」や「ラウロイルサルコシンTEA」に、遊離脂肪酸であるラウリル酸を、場合によっては4%程度含む可能性はあるが、仮に甲1発明2がラウリル酸を含有していたとしても、その具体的な量は不明であって特定の量として定まらないから、この点を考慮しても、本件発明1は甲1に記載された発明であるとはいえない。
b 進歩性について
上記ア(イ)bで説示したのと同様に、甲1発明2のシャンプーは、甲1に示される技術の具体例の一つとして、気泡促進剤としてのココイルヒドロキシエチル-β-アラニンNaを、アニオン性界面活性剤であるラウロイルメチル-β-アラニンNa及びラウロイルサルコシンTEA、並びに両性界面活性剤であるパーム核油脂肪酸アミドプロピルベタイン及び2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインと組み合わせて配合したものであり、充分に泡立った状態での洗髪時及びすすぎ時の指通りの評価をしたところ、良好な結果が得られているものであるから(甲1e)、さらにラウリン酸を配合する動機付けはない。
また、上記aで述べたとおり、甲1発明2のシャンプーには、ラウロイルメチル-β-アラニンNa及びラウロイルサルコシンTEAに由来するラウリン酸が含まれている可能性があったり、甲1の【0025】に、アニオン性界面活性剤の一例として「ラウリン酸カリウム」の記載があったりするものの、甲1発明2のシャンプーについて、含まれている可能性やアニオン界面活性剤の一例として記載されているにすぎないラウリン酸に着目して、これをさらに添加する動機付けがあるとはいえない。
ましてや、相違点1-2に係る、「(D)カチオン性ポリマー」との割合や合計の特定を満たすような量でラウリン酸を配合することを動機付けられるところはない。
そして、本件発明1は、洗浄時の指通り性、滑らかさを向上させるだけでなく、細かい泡質となる上に、すすぎが早く洗いあがりのさっぱり感が感じられるという、甲1からは予測もできない効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲1発明2及び甲2に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~3について
本件発明2~3は、それぞれ本件発明1の特定事項を全て備えた上、さらに限定したものである。
すなわち、本件発明2は、本件発明1の「(B)両性界面活性剤」について「一般式(3)で示されるアミドプロピルベタイン、一般式(4)で示されるアミドアミンのうち少なくとも1種」であると特定したものであり、本件発明3は、本件発明1の「(D)カチオン性ポリマー」について「ポリクオタニウム-10、カチオン化グアーガムのうち少なくとも1種」であると特定したものである。
そうすると、本件発明1の全ての発明特定事項を含む本件発明2~3についても、上記(2)で検討したのと同様の理由により、甲1に記載された発明ではなく、甲1発明1又は甲1発明2及び甲2に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書16ページ8~13行において、甲1に「カチオン性ポリマーは、配合量によっては皮膚刺激を生じさせることがあり、安全性の点において懸念がある」(甲1c)と記載されていることを根拠に、甲1に記載された発明において、カチオン性ポリマーの配合量を減少し、ラウリン酸とカチオン性ポリマーの含有量の比((C)/(D))を1.0以上とすることは当業者が容易になし得ることであると主張する。
しかしながら、上記(2)で述べたとおり、甲1発明1及び甲2発明2は、ラウリン酸を含有しておらず、仮にラウリン酸を含有していたとしても、その具体的な量は不明であって特定の量として定まらないため、カチオン性ポリマーの配合量を減少するとしても、ラウリン酸との含有量を考慮してその量を変更する理由がない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(5)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)は理由がない。
第5 むすび
したがって、申立人による特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1~3に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件請求項1~3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700687