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特許異議申立

2025-700745

L-グルホシネートを作製する方法

審判番号
2025-700745
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-008439
登録番号
7631386
請求日
2025年07月18日
審決日
2025年12月09日
公報発行日
2026年01月30日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
  • 【権利者代理人】弁理士法人平木国際特許事務所
  • 【異議申立人】白井 雅恵
審判長/審判官
  • 審判長 植原 克典
  • 審判官 長井 啓子
  • 審判官 荒木 英則
分類
P1651.121-Y (C12P) / P1651.536-Y (C12P) / P1651.537-Y (C12P) / P1651.561-Y (C12P)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第3項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7631386号発明「L-グルホシネートを作製する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7631386号の請求項1に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯及び証拠方法 1 手続の経緯 特許第7631386号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、平成29年2月28日(優先権主張 2016年3月2日、2016年5月16日、及び2016年10月26日 いずれも(US)米国)を国際出願日とする特願2018-545871号の一部を令和3年2月2日に新たな特許出願(特願2021-15200号)とし、さらにその一部を令和5年1月24日に新たな特許出願(特願2023-8439号)としたものであって、令和7年2月7日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は、令和7年2月18日である。)。 その後、本件特許の請求項1に係る特許に対して、令和7年7月18日に特許異議申立人である白井 雅恵(以下、単に「申立人」という。)から特許異議申立書(以下、単に「申立書」という。)が提出され、特許異議の申立てがなされた。 第2 本件発明 請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下の事項によって特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 L-グルホシネートを作製する方法であって、D-グルホシネートを、通気しながらD-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)酵素と反応させて、PPO(2-オキソ-4-(ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル)酪酸)を形成する工程、及びアンモニアを使用して、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素によって、PPOをL-グルホシネートにアミノ化する工程を含み、前記方法がex vivoで行われる、前記方法。」 第3 特許異議申立ての理由概要と証拠方法 1 特許異議申立ての理由概要 申立人が申し立てた取消理由の概要は次のとおりである。 (1) 申立理由1(明確性要件違反;特許法第36条第6項第2号) 請求項1中、「アンモニアを使用して、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素によって、PPOをL-グルホシネートにアミノ化する工程を含み」との記載の「アンモニアを使用して」および「L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素によって」は使用方法を理解することができず不明確である。 (2) 申立理由2(補正要件違反;特許法第17条の2第3項) 請求項1中、「アンモニアを使用して」との記載は令和6年7月9日付け手続補正書による補正によって追加されており、当該記載に関する補正の根拠が出願明細書に存在しない。 (3) 申立理由3(実施可能要件違反;特許法第36条第4項第1号) 本件特許の明細書は本件発明を当業者が容易に実施可能なように記載されているとはいえず、本件特許明細書は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない。 (4) 申立理由4(サポート要件違反;特許法第36条第6項第1号) 本件発明は、特許明細書に実質的に開示された発明とはいえず、本件特許の請求項1は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない。 (5) 申立理由5(進歩性;特許法第29条第2項) 本件発明は、甲第7~13号証に記載の発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 (6) 申立理由6(進歩性;特許法第29条第2項) 本件発明は、甲第14号証に記載の発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 2 証拠方法 申立人は、証拠方法として以下に挙げる甲第1号証~甲第14号証を提出した。 (1)甲第1号証:特許7631386号公報(本件特許の特許掲載公報) (2)甲第2号証:特開2023-61954号公報(特願2023-8439号の出願公開) (3)甲第3号証:特願2023-8439号における令和6年10月9日付手続補正書 (4)甲第4号証:満倉浩一ら,生物工学会誌,2024,第102巻,第6号,pp.278-283 (4の2)甲第4号証の2:日本生物工学会ウェブサイト,2025年9月5日(印刷日),https://www.sbj.or.jp/sbj/sbj_vol102_no06.html (5)甲第5号証:Simon, R.C. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 2012, 51, pp.6713-6716 (5の2)甲第5号証の2:Wiley Online Library, 2025年9月5日(印刷日), https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/anie.201202375 (6)甲第6号証:特表2022-533444号公報 (7)甲第7号証:Hawkes, T. et al., Plant Biotechnology Journal, 2011, 9, pp.301-314 (7の2)甲第7号証の2:Wiley Online Library, 2025年9月5日(印刷日), https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1467-7652.2010.00549.x (8)甲第8号証:農薬評価書 グルホシネ-ト(第4版、令和4年3月、食品安全委員会) (9)甲第9号証:Fang, J.M. et al., J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 1995, pp.967-978 (9の2)甲第9号証の2:J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 1995, No.8の表紙 (10)甲第10号証:Gruber C.C. et al., Adv. Synth. Catal., 2006, 348, pp.1789-1805 (10の2)甲第10号証の2:Wiley Online Library, 2025年9月5日(印刷日), https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adsc.200606158 (11)甲第11号証:Nakajima, N. et al., J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1990, pp.947-948 (11の2)甲第11号証の2:PUBLISHING, 2025年9月5日(印刷日), https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/1990/c3/c399000fx049 (12)甲第12号証:国際公開第2007/015511号 (13)甲第13号証:Wakayama, M. et al., Analytical Biochemistry, 1997, 250, pp.252-253 (13の2)甲第13号証の2:SCIENCE DIRECT, 2025年9月5日(印刷日), https://www.sciencedirect.com/journal/analytical-biochemistry/vol/250/issue/2 (14)甲第14号証:特表2019-509734号公報 (特願2018-545871号の国内公表) 第4 当審の判断 当審は、申立人が主張する上記の申立理由は、以下で示すようにいずれも理由がなく、ほかに取り消すべき理由も発見できないから、本件特許の請求項1に係る特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきものと判断する。 1 甲各号証の記載事項 第3の「2 証拠方法」で挙げた、甲各号証の記載事項は以下のとおりである。英文で記載された甲号証に関しては、図表と当該図表中にある説明部分以外は訳文を示す。下線は当審で付した。 なお、甲第2~3号証は、それぞれ本件特許の出願公開及び審査時の手続補正書に関するものであり、甲第14号証は本件特許の出願の原々出願の国内公表であって、申立理由1~6に関する当審の判断においては本件特許の特許掲載公報である甲第1号証の摘示で足りるので、記載事項の摘示を省略する。 また、甲第4号証の2、甲第5号証の2、甲第7号証の2、甲第9号証の2、甲第10号証の2、甲第11号証の2、及び甲第13号証の2は、それぞれ、甲第4号証、甲第5号証、甲第7号証、甲第9号証、甲第10号証、甲第11号証、及び甲第13号証の作成年月日を示すために提出されたものであり、申立理由1~6に関する当審の判断に直接的影響を及ぼすものではないため、記載事項の摘示を省略する。 (1) 甲第1号証 ア 段落0004 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 したがって、活性L-グルホシネート形態のみ、または、主に活性L-グルホシネート形態が生産されるような方法が必要とされている。これまで、純粋なL-グルホシネート、または、L-グルホシネートに富んだDおよびL-グルホシネートの混合物を生成する、費用対効果の高い方法は利用できなかった。本明細書では、L-グルホシネートの生産に関する新たな費用対効果の高い方法を記載する。」 イ 段落0006 「【0006】 DAAO酵素は、反応を促進するために、活性を約3μmol/分*mgまたはそれを超える増加された活性を有さなくてはならない。DAAO酵素は、当該技術分野で利用可能であり、プロセスを促進するのに必要な必須増加活性を有するように修飾されたり、変異を有することができる。……それぞれの場合において、酵素は、約3μmol/分*mgに等しいか、もしくはそれを超える、約4μmol/分*mgを超える、またはそれよりも高い活性を有する必要がある。野生型酵素は、酵素が上記のような活性レベルを有する限りは、本発明の方法において使用することができる。」 ウ 段落0020~0021 「【0020】 I.合成方法 D-グルホシネートの、L-グルホシネートへの変換方法が提供される。本明細書中に記載する方法は、低コストのDおよびL-グルホシネートのラセミ混合物の原料を、L-グルホシネートに富んだより価値のある生成物に変換する手段を提供する。変換方法は、2工程を含み、それらは、1つまたは複数の別々の容器で行うことができる。第1工程は、D-グルホシネート(DおよびL-グルホシネートのラセミ混合物中に存在し得る)の、PPO(2-オキソ-4-(ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル)酪酸)への酸化的脱アミノ化である。この工程は、D-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)酵素、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(DAAD)酵素、または化学変換によって、触媒反応を進めることができる。第2の工程は、1つまたは複数のアミン供与体由来のアミン基を使用した、PPOの、L-グルホシネートへの特異的アミノ化である。かかるアミン供与体は、グルタメート、L-グルタメート、リジン、アラニン、イソプロピルアミン、sec-ブチルアミン、フェニルエチルアミン等から選択することができる。この工程は、トランスアミナーゼ(TA)酵素、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素、または化学変換によって、触媒反応を進めることができる。本明細書中に記載する方法を使用して、実質的に精製されたL-グルホシネートの組成物を得ることができる。 【0021】 図1に、D-グルホシネートをL-グルホシネートへ変換する例を記載している。上述するように、その方法は、2工程のプロセスを含む。図のように、第1工程は、D-グルホシネートの、PPOへの酸化的脱アミノ化であり、第2工程は、PPOの、L-グルホシネートへのアミノ化である。」 エ 段落0043 「【0043】 本明細書に記載する方法の第2の工程は、トランスアミナーゼ(TA)酵素、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素を使用するか、または化学的変換によるPPOの、L-グルホシネートへの変換を含む。一実施形態では、その方法は、TAによって触媒される反応である。PPOを基質として受容するのに必要とされる立体特異性を有するTAは、下記化学量論を用いて、PPOの、L-グルホシネートへのアミノ化を触媒する: PPO+アミン供与体 ⇒ L-グルホシネート+ケト酸。」 オ 段落0051 「【0051】 PPOの、L-グルホシネートへの変換を触媒するために使用される他の酵素として、PPOを基質として受容するLAAD酵素またはイミン還元酵素が挙げられる。かかるLAAD酵素は、下記化学量論を使用する: NH3+還元受容体+PPO ⇒ L-グルホシネート+H2O+受容体。」 カ 実施例4~5(段落0154~0156) 「【0154】 実施例4:トランスアミナーゼ活性の実証 非限定的な例において、トランスアミノ化アッセイに関するPPOの供給源は、DAAOによってPPOに変換されたD-グルホシネートまたはラセミD/L-グルホシネートであり得る。第1の工程では、39mMラセミD/L-グルホシネートを、0.5mg/mlの精製した、F58K、M213SであるRhodosporidium toruloidesのDAAOおよび10μg/mLのカタラーゼとともに、50mMリン酸カリウム、pH8の緩衝液中で、30℃で20時間インキュベートした。これにより、D-グルホシネートの大部分はPPOに変換された。続いて、精製したE. coli gabTを20μg/mLで添加して、L-グルタメートをアミン供与体として、50mMで添加した。適切な時点で試料を10分間沸騰し、続く等量のアセトニトリルによる沈殿によって停止させた。個々の化学種は、Chirobiotic T2カラムを用いたHPLCで分解され、真正標準物質との比較によって定量化された。 【0155】 DAAOの変異体およびトランスアミナーゼの組合せは、D-グルホシネートに対するL-グルホシネートに関して0%(すなわち、D-グルホシネートおよびL-グルホシネートの表現は等しい)で出発した鏡像異性体富化を、92%の鏡像異性体富化に改善した。これらの結果により、E. coli gabTがトランスアミナーゼ活性を有することが実証され、このアッセイを使用して、任意数の野生型および/または潜在的変異型トランスアミナーゼの活性を決定することができる。 【0156】 実施例5:単一器中でのラセミD/L-グルホシネートの脱ラセミ化 反応は、実施例4と同様に設定した。系(5.45mL、30℃)は、pH7.3のリン酸緩衝液にて実行した。pH8.0での50mMリン酸緩衝液は、アミノ酸添加を緩衝するには不十分であること、およびこの系におけるアミノ酸添加後の未調節pHは、pH6.4であることが観察された。pHは、容量5.45mLになるように1Mの塩基の塩K2HPO4を使用して調節されていたため、添加による実際の初期基質濃度は275mMになることを意味していた。反応の開始時に基本的に同時に下記試薬を添加した:D,L-グルホシネート271mg、グルタメート420mg、AC263 DAAO 15mg、カタラーゼ 50μg、およびE. coli gabTトランスアミナーゼ1.0mg。図2は、全ての試薬を添加すると、ほんのわずかのPPOの蓄積を伴って、D-PPT(D-グルホシネート)の量は、減少したことを示している。この結果は、RgDAAO/EcgabT酵素対によるD/L-グルホシネートの、L-グルホシネートへの効率的な脱ラセミ化を示している。」 キ 実施例6(段落0157~0165) 「【0157】 実施例6:DAAO酵素の改善の実証 上記で概略が述べられているタンパク質の変異誘発戦略を使用して、改良した変異体DAAO酵素を同定した。酵素は、以下に記載する手順に従ってアッセイされた。 【0158】 ストック溶液:…… 【0159】 反応ミックス:…… 【0160】 プロトコール:…… 【0161】 …… 【0162】 酵素動態を上記のように測定して、ミカエリスメンテングラフ上にプロットして、VmaxおよびKMを算出するのに使用した。変異体Ac302(54V、58Q、213S)に関して、Vmaxは、4.2μmol/分*mgであった。 【0163】 上記のように多くの変異体DAAO酵素に関してこの分析を完了させたが、但し、混合物Cのストックは、DAAOの0.2mg/mL溶液であり、DAAOのこの最終反応濃度は、50μg/mLであった。 【0164】 表1で以下に示すように、変異体DAAO酵素は、幅広い活性を示した: 【0165】 【表1】 [図:0001431158000001.jpg] 」 ク 図1 「【図1】 [図:0001431158000002.jpg] 」 (2) 甲第4号証 ア 279ページ右欄11~20行 「たとえば、ω-TAによる1,5-ジケトンの位置・エナンチオ選択的モノアミノ化では,キラルアミノケトンが生成したのち,自発的環化によりキラル環状イミンを生成する(図4A)。さらに,アラニンデヒドロゲナーゼ(AlaDH)とギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH)を用いてアラニン再生系を構築することで,キラル環状イミンの効率的な合成にも成功している.続いて,Pd/Cを用いた環状イミンの水素化により2,6-二置換ピペリジンがジアステレオ選択的(>99%de)に合成された13)。」 イ 図4(280ページ) 「 [図:0001431158000003.jpg] 」 (3) 甲第5号証 ア 6713ページ左欄21~24行 「したがって、我々は2,6-ジケトン1をモデル基質として選択し、ω-トランスアミナーゼ(ω-TA;スキーム1)を用いた不斉位置選択的アミノ化の可能性を調べた。[9, 10]」 イ 6713ページ左欄25~27行 「最初に、基質濃度50mmでのジケトン1aの変換について、さまざまな(S)-および (R)-立体選択的ω-トランスアミナーゼで試験した(表1)。」 ウ 表1(6713ページ) 「 [図:0001431158000004.jpg] 」 エ スキーム1(6713ページ右欄) 「 [図:0001431158000005.jpg] 」 オ 6713ページ右欄下から7行~下から3行 「アミンドナーとしてアラニンを用いると副生成物としてピルビン酸が生成し、これはアラニンデヒドロゲナーゼ(AlaDH)のシステムを用いて除去され、アラニンにリサイクルされた。全ての場合において、このシステムに対して完全な変換が達成された。」 (4) 甲第6号証 ア 実施例2(段落0088~0094) 「(実施例2)突然変異体酵素の比酵素活性の検出 【0088】 基質溶液の調製:…… 【0089】 酵素活性の検出方法:…… 【0090】 単位酵素活性の定義:…… 特定の反応条件(30℃)下で、1分間あたり1μmolのNADPHが減少するのに必要な酵素量。 【0091】 比酵素活性とは、酵素タンパク質1mgあたりに含まれる活性の単位であり、計算式:酵素活性/タンパク質含有量、単位はU/mg又はU/gである。結果は表4に示される。 【0092】 CN108588045Aからわかるように、野生型LsGluDH-WT(WP_012293812.1)の酵素活性は単一部位突然変異体の酵素活性よりも遥かに低く、当業者は、野生型LsGluDH-WT(WP_012293812.1)の比酵素活性も突然変異体よりも遥かに低いと結論づけることができるので、本発明では野生型LsGluDH-WT(WP_012293812.1)に対して検出しなかった。 【0093】 【表4】 [図:0001431158000006.jpg] 【0094】 以下の実施例で使用されるL-グルタミン酸デヒドロゲナーゼ粗酵素液の調製方法はいずれも上記の方法を採用する。」 (5) 甲第7号証 ア 要約(301ページ) 「除草剤グルホシネート(2-アミノ-4-(メチルホスフィニル)-ブタン酸)の不活性なD-エナンチオマーを、葯内で植物毒性のあるL-エナンチオマーに変換する化学的雄性不稔システムについて述べる。PAT(L-グルホシネートN-アセチルトランスフェラーゼ)遺伝子を発現する大腸菌株を用いた発酵と、未反応のD-エナンチオマーをイオン交換法で培養液から精製することにより、ラセミ体から98%を超えるエナンチオマー過剰率で高純度のD-グルホシネートを単離した。Rhodosporidium toruloides由来のd-アミノ酸酸化酵素(DAAO)(EC 1.4.3.3)の改変型(F58K、M213S)を設計し、in vitro試験を行った結果、D-グルホシネートを効率的にその2-オキソ誘導体(2-オキソ-4-(メチルホスフィニル)-ブタン酸)に酸化することが明らかになった。タバコ(Nicotiana tabacum)植物は、TAP1タペートム特異的プロモーターの制御下でこの改変型酸化酵素を発現するように形質転換された。得られたトランスジェニック系統の多くは、75g/haまたは200g/haのD-グルホシネートを葉面散布した直後から2週間以上完全な雄性不稔性を示したが、明らかな植物毒性症状や雌性生殖能力の測定可能な低下は見られなかった。同様に、同じコンストラクトに加え、プラストシアニンプロモーターから発現したPAT遺伝子を含む植物は、ラセミ体グルホシネートの葉面散布後に雄の稔性が大幅に低下したが、雌の稔性は低下しなかった。したがって、精製されたd-グルホシネートまたは市販の除草剤の葉面散布と、改変型DAAOの葯発現を組み合わせることで、実用的なF1雑種種子生産に必要な特性を備えた、費用対効果の高い条件付き化学的雄性不稔システムを提供できることが期待される。」 イ 302ページ右欄16~23行 「この酵素は、D-グルホシネートを2-オキソ-4-(メチルホスフィニル)-ブタン酸に効率的に酸化するように特別に設計された、ロドスポリジウム・トルロイデス(Rt)由来のD-アミノ酸酸化酵素(DAAO)の改変型(DMRtDAAO)である(図1)。この2-オキソ誘導体は、植物体内で内因性L-グルタミン酸トランスアミナーゼの活性を介して、迅速かつほぼ定量的にL-グルホシネートへ変換されるため、植物毒として作用する(Lea et al., 1984; Droge-Laser et al., 1994)。」 ウ 図1(303ページ左欄) 「 [図:0001431158000007.jpg] 」 エ 303ページ左欄11行~右欄10行 「この戦略を、D-アミノ酸を基質とし、Escherichia coliで発現した野生型RtDAAO酵素と改変RtDAAO酵素とを比較することによって検討した(表1)。野生型酵素はD-グルホシネートに対して検出可能な活性を示さず、アスパルテートに対しても、D-グルタミン酸に対しても最小限の活性しか示さなかったのに対し、いくつかの改変RtDAAOはこれらの酸性基質の一部またはすべてに対して高レベルの活性を示した。位置213にメチオニンの代わりにセリンを有し、位置58にヒスチジンまたは好ましくはリジンのいずれかを有する変異体(表1)は、D-グルホシネートを効率的に酸化した。さまざまな濃度のD-グルホシネートによる検定から、RtDAAOのF58K、M213S二重突然変異体(DMRtDAAO)のKm値とVmax値は、それぞれ12 mMおよび3.7μmol/min/mgであることが示された。野生型およびDMRtDAAOの抽出物は、25℃にて24時間インキュベーションした後にも、それぞれ初期活性の75%および46%を保持しており、酵素の安定性に対する悪影響はわずかであると思われた。」 オ 表1(303ページ右欄) 「 [図:0001431158000008.jpg] 」 (6) 甲第8号証 ア 審議の経緯(iiページ1~7行) 「<審議の経緯> -第1版関係- 1984年6月14日 初回農薬登録(グルホシネート) …… 2007年6月21日 農林水産省から厚生労働省へ農薬登録申請に係る連絡及び基準値設定依頼[新規(グルホシネートP):かんきつ、なす、トマト等]」 イ viiページ2~4行 「アミノ酸系除草剤である「グルホシネート」には光学異性体(L体及びD体)が存在し、ラセミ体であるグルホシネートと活性本体であるL体を選択的に含有するグルホシネートPがある。」 ウ 1-11ページ「2.有効成分の一般名」、「6.構造式」 「 [図:0001431158000009.jpg] [図:0001431158000010.jpg] 」 エ 2-9ページ「2.有効成分の一般名」、「6.構造式」、「7.開発の経緯」 「 [図:0001431158000011.jpg] [図:0001431158000012.jpg] 7.開発の経緯 グルホシネートPナトリウム塩は、明治製菓株式会社によって開発されたアミノ酸系除草剤である。グルタミン合成酵素阻害によりアンモニアが蓄積し、植物の生理機能を阻害して殺草活性を示すと考えられている。先に国内で登録されたグルホシネートが、光学異性体(L体及びD体)のラセミ体であるのに対して、グルホシネートPナトリウム塩は活性本体であるL体を選択的に製造したものである。グルホシネートPナトリウム塩は、我が国で2011年に農薬登録された。 第4版では、農薬取締法に基づく農薬登録申請(適用拡大:さとうきび)がなされている。」 (7) 甲第9号証 ア 973ページ右欄32行~974ページ左欄4行 「図5は、ニコチンアミド依存性の別の酵素反応を示しており、L-グルタミン酸脱水素酵素を触媒とする還元アミノ化反応により、対応するケト酸からL-ホスフィノトリエンを合成する。L-ホスフィノトリエンは天然抗生物質ビラホスの有効成分である。ビラホスはグルタミン酸合成酵素を阻害し、除草剤として広く使用されている。この合成法はいくつか報告されている。ここで述べる還元アミノ化法は、高いエナンチオマー純度の生成物を与え、大規模プロセスにも適用可能であると考えられる。しかしながら、変換率は比較的低い。 イ 図5(974ページ) 「 [図:0001431158000013.jpg] 」 ウ 975ページ左欄19行~右欄6行 「L-ホスフィノトリシンの合成 4-(ヒドロキシメチルホスフィノイル)-2-オキソブタン酸は、以前に示されたようにメチルジクロロホスフィンから合成され、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(50mg)およびグルコースデヒドロゲナーゼ(10mg)を、グルコース(173mg)、塩化ナトリウム(0.38g)、ジチオトレイトール(15mg)、塩化アンモニウム(0.533g)、NAD(10mg)および4-(ヒドロキシメチルホスフィノイル)-2-オキソブタン酸(150mg)を含むリン酸アンモニウム緩衝液(pH 7.5、50mmol dm-3;50cm3)に添加した。反応混合物を室温で撹拌し、1mo1 dm-3水酸化アンモニウムを周期的に添加してpHを一定に維持した。さらに生成物が生成しないこと(6日間)によって反応が完了したとき、溶液を80℃で15分間加熱し、15000rpmで10分間遠心分離し、デカントした。上清を濃塩酸でpH 2に酸性化し、そして4℃に一晩冷却した。得られた沈殿物を濾取し、エタノール-水から再結晶して、光学回転の比較によって測定したL-ホスフィノトリシン塩酸塩(4.5mg、25%)、融点192-196℃; [α]D19 +24.85(c 2,1mol dm-3 HCl) {lit.、65・66 mp 194-196℃および[α]D19 +21.4(c 1.4、1mol dm-3 HCl)、89.2%エナンチオマー過剰}、65・66>99%エナンチオマー過剰を得た。1H NMRデータは以前に報告されたものと同じであった。」 (8) 甲第10号証 ア 1802ページ左欄8~12行 「関連するアプローチにおいて、d-アミノ酸オキシダーゼ、カタラーゼ、ロイシンデヒドロゲナーゼ、およびホルメートデヒドロゲナーゼからなるマルチ酵素システム(スキーム18)を使用してdl-メチオニンは効率的に脱ラセミ化されてl-エナンチオマーが得られる。」 イ スキーム18(1802ページ左欄) 「 [図:0001431158000014.jpg] 」 (9) 甲第11号証 ア スキーム1(947ページ左欄) 「 [図:0001431158000015.jpg] 」 イ 図1(947ページ右欄) 「 [図:0001431158000016.jpg] 」 ウ 948ページ左欄3~28行 「著者らは、D-メチオニンが以下の条件下で最も効率的にL-エナンチオマーに変換されることを見出した。反応混合物は、DL-メチオニン(100μmol)、NADH (1μmol)、塩化アンモニウム(25μmol)、ギ酸ナトリウム(500μmol)、Tris-HCl緩衝液(pH 8.5、100μmol)、Sigmaから入手したD-アミノ酸オキシダーゼ(5ユニット)、Sigmaから入手したカタラーゼ(2ユニット)、Clostridium thermoaceticum AN 28-4由来のロイシンデヒドロゲナーゼ(10ユニット)、およびBoehringer由来のギ酸デヒドロゲナーゼ(2ユニット)を最終容量1ml中に含んでいた(図1)。反応の最適温度は約37℃であり、最適pHは8.0~8.5であった。10時間インキュベートした後、HCIを最終濃度1.0Mになるまで反応混合物に添加した。溶液をDowex 50(H+)カラム(1×10cm)に適用し、L-メチオニンを1M NH4OHで溶離した。L-メチオニンを含有する画分をプールし、少量まで濃縮し、次いで減圧下で蒸発乾固した。残渣を少量の熱80%エタノールに溶解し、L-メチオニンを4℃で結晶化させた。 ダイセルクラウンパックカラム(0.4 i.d.×50cm)を有するエナンチオ選択的HPLCは、D-メチオニンが完全にL-エナンチオマー(>99%エナンチオマー過剰、e.e.)に変換されることを示した。L‐メチオニンの収率は、使用したDL‐メチオニンに基づいて>95%であった。メチオニンのD-エナンチオマーは、エナンチオ選択的リガンド交換クロマトグラフィーまたはD-アミノ酸オキシダーゼ法によって検出されなかった。」 エ 948ページ右欄1~4行 「また、0.1M DL-アラニンをL‐エナンチオマー(>95%収率;10時間で>99%収率)に変換し、0.1M DL-ロイシンをL‐エナンチオマー(95%収率;2時間で99%収率)に変換した。」 (10) 甲第12号証 ア 実施例10([0167]~[0174]) 「(実施例10)形質転換体を利用したL-アミノ酸の合成 実施例6で得たD-アミノ酸オキシダーゼ活性を有する形質転換体エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)HB101(pCDA003)(FERM BP-10639)、およびJM109(pCDA003)(FERM BP-10638)を各培養液から遠心分離により集菌し、それぞれ、0.1M Tris-塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁して超音波により菌体を破砕後、遠心分離し、上清を粗酵素液として回収した。また、後述する方法で得たギ酸脱水素酵素活性を有する形質転換体を培養液から遠心分離により集菌し、0.1M Tris-塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁して超音波により菌体を破砕後、遠心分離し、上清を粗酵素液として回収した。また、後述する方法で得たフェニルアラニン脱水素酵素活性を有する形質転換体、およびロイシン脱水素酵素活性を有する形質転換体を各培養液から遠心分離により集菌し、それぞれ、0.1M Tris-塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁して超音波により菌体を破砕後、遠心分離し、上清を粗酵素液として回収した。それらの粗酵素液を、DL-フェニルアラニン、DL-4-フルオロ-フェニルアラニン、β-クロロ-DL-アラニン、DL-ノルバリン、またはDL-ロイシンのそれぞれに作用させて、立体反転反応により対応するL-アミノ酸を合成した。 ギ酸脱水素酵素活性を有する形質転換体の培養液は次のようにして得た。ギ酸脱水素活性を有する形質転換体であるエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)HB101(pFT002)(FERM BP-7673)を、試験管内で滅菌した10mlの培地(トリプトン16g、イーストエキス10g、塩化ナトリウム5g、水1l、滅菌前pH7)に接種して、30℃で24時間振とう培養した。また、後述する参考例1に示す方法で育種したフェニルアラニン脱水素酵素活性を有する形質転換体、および後述する参考例2に示す方法で育種したロイシン脱水素酵素活性を有する形質転換体の培養液のそれぞれは次のようにして得た。フェニルアラニン脱水素酵素活性を有する形質転換体およびロイシン脱水素酵素活性を有する形質転換体のそれぞれを、試験管内で滅菌した10mlの培地(トリプトン16g、イーストエキス10g、塩化ナトリウム5g、水1l、滅菌前pH7)に接種して、30℃で24時間振とう培養した。 (10-1)DL-フェニルアラニンからL-フェニルアラニンの合成 前記のD-アミノ酸オキシダーゼ活性を有する形質転換体エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)HB101(pCDA003)(FERM BP-10639)の培養液10ml分、前記のフェニルアラニン脱水素酵素活性形質転換体の培養液10ml分、前記のギ酸脱水素酵素活性形質転換体培養液10ml分の各菌体を、遠心分離により集菌し、それぞれ1mlの0.1M Tris-塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁して超音波により菌体を破砕した後、遠心分離し、上清を粗酵素液として回収した。得られた粗酵素液をそれぞれ50μl、DL-フェニルアラニン10mg、カタラーゼ(Catazyme25L、Novozyme社製)2μl、NAD+0.18mg、ギ酸アンモニウム7.0mg、0.1M Tris-塩酸緩衝液(pH8.0)0.85mlを使用して、30℃で13時間反応した。反応液をHClO4水溶液(pH1.5)で50倍希釈して、遠心上清をHPLCで分析し、アミノ酸を定量した。HPLC分析によるアミノ酸の定量は実施例7と同条件で実施した。その結果、対ラセミ体アミノ酸95.6mol%の反応収率で、光学純度100%eeのL-フェニルアラニンが得られた。 (10-2)DL-フェニルアラニンからL-フェニルアラニンの合成 前記のD-アミノ酸オキシダーゼ活性を有する形質転換体エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)JM109(pCDA003)(FERM BP-10638)の培養液10ml分、前記のフェニルアラニン脱水素酵素活性形質転換体の培養液10ml分、前記のギ酸脱水素酵素活性形質転換体培養液10ml分の各菌体を、遠心分離により集菌し、それぞれ1mlの0.1M Tris-塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁して超音波により菌体を破砕した後、遠心分離し、上清を粗酵素液として回収した。得られた粗酵素液をそれぞれ50μl、DL-フェニルアラニン10mg、カタラーゼ(Catazyme25L、Novozyme社製)2μl、NAD+0.18mg、ギ酸アンモニウム7.0mg、0.1M Tris-塩酸緩衝液(pH8.0)0.85mlを使用して、30℃で19時間反応した。反応液をHClO4水溶液(pH1.5)で100倍希釈して、遠心上清をHPLCで分析し、アミノ酸を定量した。HPLC分析によるアミノ酸の定量は実施例7と同条件で実施した。その結果、対ラセミ体アミノ酸95mol%の反応収率で、光学純度100%eeのL-フェニルアラニンが得られた。 (10-3)DL-4-フルオロ-フェニルアラニンからL-4-フルオロ-フェニルアラニンの合成 上記実施例(10-2)と同様に調製した各形質転換体の粗酵素液をそれぞれ50μl、DL-4-フルオロ-フェニルアラニン10mg、カタラーゼ(Catazyme25L、Novozyme社製)2μl、NAD+0.18mg、ギ酸アンモニウム7.0mg、0.1M Tris-塩酸緩衝液(pH8.0)0.85mlを使用して、30℃で19時間反応した。反応液をHClO4水溶液(pH1.5)で100倍希釈して、遠心上清をHPLCで分析し、アミノ酸を定量した。HPLC分析は実施例(9-3)と同条件で実施した。その結果、対ラセミ体アミノ酸103mol%の反応収率で、光学純度100%eeのL-4-フルオロ-フェニルアラニンが得られた。 (10-4)DL-ノルバリンからL-ノルバリンの合成 前記のD-アミノ酸オキシダーゼ活性を有する形質転換体エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)JM109(pCDA003)(FERM BP-10638)の培養液10ml分、前記のロイシン脱水素酵素活性形質転換体の培養液10ml分、前記のギ酸脱水素酵素活性形質転換体培養液10ml分の各菌体を、遠心分離により集菌し、それぞれ1mlの0.1M Tris-塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁して超音波により菌体を破砕した後、遠心分離し、上清を粗酵素液として回収した。得られたエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)JM109(pCDA003)(FERM BP-10638)の粗酵素液100μl、ロイシン脱水素酵素活性形質転換体およびギ酸脱水素酵素活性形質転換体の各粗酵素液をそれぞれ50μl、DL-ノルバリン50mg、カタラーゼ(Catazyme25L、Novozyme社製)10μl、NAD+0.89mg、ギ酸アンモニウム16.1mg、0.1M Tris-塩酸緩衝液(pH8.0)0.8mlを使用して、30℃で3時間反応した。反応液を2mM CuSO4水溶液/メタノール=19/1で100倍希釈して、遠心上清をHPLCで分析し、アミノ酸を定量した。HPLC分析は実施例(9-4)と同条件で実施した。その結果、対ラセミ体アミノ酸95.6mol%の反応収率で、光学純度100%eeのL-ノルバリンが得られた。 (10-5)DL-ロイシンからL-ロイシンの合成 上記10-4と同様に調製したエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)JM109(pCDA003)(FERM BP-10638)の粗酵素液30μl、ロイシン脱水素酵素活性形質転換体の粗酵素液25μl、およびギ酸脱水素酵素活性形質転換体の粗酵素液100μl、DL-ロイシン50mg、カタラーゼ(Catazyme25L、Novozyme社製)10μl、NAD+0.89mg、ギ酸アンモニウム16.1mg、0.1M Tris-塩酸緩衝液(pH8.0)0.8mlを使用して、30℃で6時間反応した。反応液をMilliQ水にて50倍希釈後、1NHClにて反応を停止し、遠心上清をHPLCで分析し、アミノ酸を定量した。 HPLC分析は次に示す条件で実施した。カラム:SUMICHIRAL OA-5000(4.6mm×150mm、住化分析センター社製)、溶離液:2mM CuSO4水溶液/2-プロパノ-ル=19/1、流速:0.9ml/min.、カラム温度:30℃、検出:254nm。その結果、対ラセミ体アミノ酸103.1mol%の反応収率で、光学純度100%eeのL-ロイシンが得られた。」 イ 比較例1([0194]~[0196]) 「(比較例1)D-アミノ酸オキシダーゼの活性を有する形質転換体と、ロイシン脱水素酵素及びギ酸脱水素酵素の活性を有する形質転換体とを利用したL-ノルバリンの合成 実施例6で得られた、D-アミノ酸オキシダーゼ活性を有する形質転換体エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)HB101(pCDA003)(FERM BP-10639)を、滅菌した培地Aに植菌後、37℃で30時間、振とうして好気的に培養した。得られた培養液から遠心分離により菌体を集菌し、脱イオン水にて菌体濃度が培養液の10倍になるように懸濁した。懸濁液の一部を超音波処理にかけることにより菌体を破砕して、D-アミノ酸オキシダーゼを含む粗酵素液を得た。また、後述する参考例4に示す方法で育種したロイシン脱水素酵素活性及びギ酸脱水素酵素活性を有する形質転換体エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)HB101(pFTLB)を、滅菌した培地Aに植菌後、33℃で48時間、振とうして好気的に培養した。得られた培養液から遠心分離により菌体を集菌し、脱イオン水にて菌体濃度が培養液の10倍になるように懸濁した。懸濁液の一部を超音波により菌体を破砕して、ロイシン脱水素酵素、及びギ酸脱水素酵素を含む粗酵素液を得た。 ラセミ体ノルバリン50mgに、上記エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)HB101(pCDA003)の菌体懸濁液を実施例13の場合と同量、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)HB101(pFTLB)を実施例13の場合と同量、カタラーゼ(Catazyme25L、Novozyme社製)1μl、NAD0.30mg、及びギ酸アンモニウム16mgを添加し、さらに5Mアンモニア水溶液を用いてpHを8.0に調整した後、脱イオン水を添加して1mlになるよう反応液を調製した。この反応液を試験管に入れて30℃にて振とうし、2N硫酸にて8.0にコントロールしながら9時間反応した。生成したL-ノルバリンの収率及び光学純度を実施例3と同様の方法にて分析した結果、ラセミ体に対し78.3%の反応収率で、光学純度47.9%eeのL-ノルバリンが得られた。 また、各形質転換体の菌体懸濁液の代わりに粗酵素液を同量使用して同様の反応を行なった場合は、ラセミ体に対し79.5%の反応収率で、光学純度100%eeのL-ノルバリンが得られた。この結果から、D-アミノ酸オキシダーゼの活性を有する形質転換体と、ロイシン脱水素酵素及びギ酸脱水素酵素の活性を有する形質転換体とを利用したL-ノルバリンの製造においては、未破砕の菌体を使用すると反応性が低下することが示された。」 (11) 甲第13号証 ア 252ページ左欄下から4行~最下行 「……D-Aspオキシダーゼ(D-AO)……マレイン酸デヒドロゲナーゼ(MDH)又はグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GlDH)……」 イ 252ページ右欄10行~下から6行 「D-AOとMDHまたはGlDHのカップリングのためのアッセイシステムは以下の反応工程に基づく。 [図:0001431158000017.jpg] アッセイは以下のように行った。100mmolのHepes緩衝液(pH 7.5)、0.1単位のMDH、28単位のカタラーゼ、および1.0mlの最終容量のD-AOを含むD-Asp測定用標準アッセイ混合物を、30℃で5分間プレインキュベートした。適切な量のD-Asp(最終濃度0~60μM)を添加することにより酵素反応を開始した。100μmolのHepes緩衝液(pH 7.5)、0.1μmolのNADH、0.5μmolのADP、0.1μmolのEDTA、25μmolの塩化アンモニウム、2.5単位のGlDH、28単位のカタラーゼ、および0.1単位のD-AOを含むD-Glu測定用標準アッセイ混合物を、1.0mlの最終容量にて30℃で5分間プレインキュベートした。適切な量のD-Glu(最終濃度0~60μM)を添加することにより酵素反応を開始した。D-Asp-またはD-Gluをブランク用の水に置き換えた。両アッセイにおいて、1mlの石英キュベットおよび1.0cmの光路を使用し、温度計付きHitachi U-3000分光光度計で340nmのブランクに対して吸光度の変化を追跡した。」 2 申立理由1(明確性要件違反)についての判断 (1) 申立人の主張 申立人は、以下のとおり、本件発明の「アンモニアを使用して」との記載は、どのようにアンモニアを使用するのかが明確ではなく、その意味するところが不明確であると主張する。 ア 請求項1の「アンモニアを使用して、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素によって、PPOをL-グルホシネートにアミノ化する工程を含み」との記載に関し、PPOをL-グルホシネートにアミノ化する工程での酵素反応の基質は、特許明細書ではアミン供与体と表記されており、アンモニアをアミン供与体として使用することについて特許明細書は何らの記載も含まない。アンモニアをアミン供与体として使用するとの記載がされていないことから、本件特許請求項1の「L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素によって」との記載は、「PPOをL-グルホシネートにアミノ化する」ことに直接関与するとは解されない。 イ 本件特許明細書の段落0051には、 「PPOの、L-グルホシネートへの変換を触媒するために使用される他の酵素として、PPOを基質として受容するLAAD酵素またはイミン還元酵素が挙げられる。かかるLAAD酵素は、下記化学量論を使用する: NH3+還元受容体+PPO ⇒ L-グルホシネート+H2O+受容体。」 と記載されているが、これはLAAD酵素を使用する場合の化学量論を説明するものに過ぎず、NH3を実際に基質として使用することを意味するものではない。実際、実施例で示される酵素を用いたアミノ化反応では、NH3を基質(アミン供与体)として使用する例は記載されていない。 ウ 本件特許明細書では、アンモニアの使用に関して、L-グルホシネートの精製においてL-グルホシネートの不溶性塩を形成する際に塩基として使用すること(段落0068)や、化学的還元的アミノ化によりケト基をアミン基へ変換する際にアミンとして使用すること(段落0043)が記載されているが、これらの工程が請求項1に記載の工程に包含されているかは明らかではない。 (2) 判断 請求項1の「アンモニアを使用して、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素によって、PPOをL-グルホシネートにアミノ化する工程を含み」との記載からみて、その意味するところは、「PPOをL-グルホシネートにアミノ化する工程」において、「L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素によって」アミノ化すること、及び、「アンモニアを使用」することを意図したものであるといえる。 この点に関し本件特許明細書をみると、段落0051には「PPOの、L-グルホシネートへの変換を触媒するために使用される他の酵素として、PPOを基質として受容するLAAD酵素」を用いる場合に関して、「NH3+還元受容体+PPO ⇒ L-グルホシネート+H2O+受容体」という式が記載されており(第4の「1 甲各号証の記載事項」(1)オ)、「NH3」がアンモニアの分子式であることは当業者に周知の事項である。そうすると、段落0051の記載は、「PPOの、L-グルホシネートへの変換を触媒するために」「PPOを基質として受容するLAAD酵素」を使用する際、アンモニアを使用してPPOをL-グルホシネートへ変換すること、その際のアンモニアとPPO、及びL-グルホシネートが化学量論的に等量であることが記載されたものといえ、請求項1に関する上記理解と合致したものである。 一方、本件特許明細書において、「L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素」を用いたアミノ化で使用される「アミン供与体」として、段落0020及び段落0043に記載があり、段落0020では一般的な「1つまたは複数のアミン供与体由来のアミン基を使用した、PPOの、L-グルホシネートへの特異的アミノ化」という記載とともに、アミン供与体について「グルタメート、L-グルタメート、リジン、アラニン、イソプロピルアミン、sec-ブチルアミン、フェニルエチルアミン等から選択することができる。」との記載があること、段落0043では「PPO+アミン供与体 ⇒ L-グルホシネート+ケト酸」という式中の記載があり(第4の「1 甲各号証の記載事項」(1)ウ、エ)、アンモニアという化合物名やNH3という分子式は記載されていない。しかし、上記記載のうち段落0020で列挙されたアミン供与体は、「……等から選択することができる。」と記載されているように、アミン供与体の一部が例示的に列挙されたものであって、アンモニアがアミン供与体として使用できないことを示すものではなく、その他の記載もアミン供与体を特定の化合物に限定したり、特定の化合物を対象外とすることが明示されたものではない。 また、L-グルホシネートの精製工程や還元的アミノ化によるケト基のアミン基へ変換時に使用されるアンモニアは、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素によるアミノ化とは異なる工程であることが明らかである。 よって、上記ア~ウの主張はいずれも理由がない。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立人が主張する申立理由1(明確性要件違反)は、理由がない。 3 申立理由2(補正要件違反)についての判断 (1) 申立人の主張 申立人は、以下のとおり、請求項1において「L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素によって、PPOをL-グルホシネートにアミノ化する工程」において「アンモニアを使用」することは、出願時の明細書に補正の根拠がないので、該補正は新規事項を追加する補正に該当すると主張する。 ア 本件特許明細書の段落0020には、「第2の工程は、1つまたは複数のアミン供与体由来のアミン基を使用した、PPOの、L-グルホシネートへの特異的アミノ化である。かかるアミン供与体は、グルタメート、L-グルタメート、リジン、アラニン、イソプロピルアミン、sec-ブチルアミン、フェニルエチルアミン等から選択することができる。この工程は、トランスアミナーゼ(TA)酵素、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素、または化学変換によって、触媒反応を進めることができる。」と記載され、また、段落0051にはLAAD酵素の化学量論に関して説明をする記載があり、そこでLAAD酵素によるアミノ化反応が、NH3、還元受容体、およびPPOを1分子ずつ消費して、L-グルホシネート、H2O、および受容体を一分子ずつ生成する反応に相当することが説明されるが、これらの記載はLAAD酵素の基質(アミン供与体)としてアンモニアを使用することについて記載するものではなく、LAAD酵素による反応の化学量論について説明がされているに過ぎない。 イ 酵素反応の技術分野では、例えば、2つの酵素を組み合わせて所望の生成物を得る製造方法が知られており、例えば甲第4号証、甲第5号証には、ω-トランスアミナーゼ(ω-TA)とアラニンデヒドロゲナーゼ(AlaDH)を組み合わせることにより、全体の化学量論として系中のNH3を1分子消費して、アミンを一分子得られる反応について、AlaDHはアミノ化反応を直接的には触媒せず、アンモニアもアミノ化反応の直接的な基質としては使用されていないものが記載されている。 ウ 本件特許明細書には、段落0109に、1つまたは複数のアミン供与体由来のアミン基を使用して、トランスアミナーゼ(TA)酵素によって、PPOをL-グルホシネートにアミノ化する工程について記載されているが、酵素反応の基質としてアンモニアを使用することについて一般的記載も実施例も特許明細書には含まれていない。 エ なお、例えばL-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素がアミン供与体として明細書に特定された化合物以外の化合物を基質としうるとの公知情報は、補正の根拠とはなり得えない。 (2) 判断 本件特許明細書をみると、段落0051には「PPOの、L-グルホシネートへの変換を触媒するために使用される他の酵素として、PPOを基質として受容するLAAD酵素」を用いる場合に関して、「NH3+還元受容体+PPO ⇒ L-グルホシネート+H2O+受容体」という式が記載されており(第4の「1 甲各号証の記載事項」(1)オ)、これは本件特許出願当初の明細書においても同様の記載がある(甲第2号証の段落0051)。そして、「NH3」がアンモニアの分子式であることは当業者に周知の事項である。 そうすると、段落0051の記載は、「PPOの、L-グルホシネートへの変換を触媒するために」「PPOを基質として受容するLAAD酵素」を使用する際、アンモニアを使用してPPOをL-グルホシネートへ変換すること、その際のアンモニアとPPO、及びL-グルホシネートが化学量論的に等量であることが記載されたものといえ、「L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素によって、PPOをL-グルホシネートにアミノ化する工程」において「アンモニアを使用」することは本件特許の出願当初明細書に記載された事項といえる。 一方、申立人は甲第4号証や甲第5号証の記載を挙げ、アンモニアがアミノ化反応の直接的な基質としては使用されていないものが記載されている旨を主張するが、これらの文献に記載された反応式は本件特許明細書の段落0043や0051とは記載様式が異なるとともに、これらの文献で使用されている酵素はアミノ基の転移酵素であるトランスアミナーゼであり、L-アミノ酸の脱水素酵素であるLAADとは反応様式が異なる。そうすると、甲第4号証や甲第5号証の記載を踏まえても、本件特許明細書段落0051の「NH3」がアンモニアではないことや、アンモニアではあるが酵素反応に関与しないことが明らかであったとはいえない。 よって、上記ア~エの主張はいずれも理由がない。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立人が主張する申立理由2(補正要件違反)は、理由がない。 4 申立理由3(実施可能要件)についての判断 (1) 申立人の主張 申立人は、以下のとおり、本件特許明細書は本件発明を当業者が容易に実施可能なように記載されているとはいえず、本件特許明細書は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていないと主張する。 ア 「アンモニアを使用して、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素によって、PPOをL-グルホシネートにアミノ化する工程」について (ア) 本件特許の請求項1には「アンモニアを使用して、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素によって、PPOをL-グルホシネートにアミノ化する工程を含み」との記載があり、「アンモニアを使用して」と具体的に記載される一方、本件特許明細書には、LAADによって、PPOをL-グルホシネートにアミノ化する工程について、具体的な試験結果は示されていない。また、実施例にはアミン供与体としてL-グルタメート、イソプロピルアミン、又はリシンを使用し、トランスアミナーゼを用いてPPOをL-グルホシネートにアミノ化する工程が試験結果とともに記載されているが、請求項1に記載のアミノ化工程とは使用される酵素も基質も異なり、当業者であってもアンモニアを使用してLAADによる酵素反応で所望のアミンを製造できるかどうかは理解することができない。 (イ) 甲第6号証で、野生型のLsGluDHがPPOをLーグルホシネートに変換する反応には使用できず、何らかの変異を含む酵素のみが利用可能であったことが記載されているように、LAADの全てが本件発明に利用できるわけではなく、本件発明を実施する当業者は変異の導入の検討や個々の酵素について利用可能であるかどうかの検討を行う必要があるから、当業者は過度の試行錯誤を強いられることなく本件発明を実施することができないことは明らかである。 イ 「D-グルホシネートを、通気しながらD-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)酵素と反応させて、PPO(2-オキソ-4-(ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル)酪酸)を形成する工程」について (ア) 「D-グルホシネートを、通気しながらD-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)酵素と反応させて、PPO(2-オキソ-4-(ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル)酪酸)を形成する工程」の「D-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)酵素」は全てのDAAOを包含する。一方、本件特許明細書の段落0006には「DAAO酵素は、反応を促進するために、活性を約3μmol/分*mgまたはそれを超える増加された活性を有さなくてはならない。」と記載されるとともに、実施例をみると上記活性を満たさないDAAOが含まれ、甲第7号証でも本件発明の反応には使用できないと理解されるDAAOが記載されている。「D-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)酵素」のうち、本件発明に使用可能なDAAO酵素を判断することは当業者といえども不可能であり、またDAAO変異体を作成して実験などにより活性を確認する作業は、当業者に過度の負担を強いるものである。 (2) 判断 酵素を用いた反応において、反応に使用される成分、基質や使用される酵素の反応内容が明確である場合には、当業者であれば技術常識を踏まえて進行する反応を理解できる。また、酵素の分野において、例えば、強い活性を有する酵素に多数の変異を加えたことで活性が極めて小さくなる場合や、野生型の活性が弱い場合でも変異を加えることで活性が増強される場合、同じ種類の酵素であっても由来となる微生物種が異なると活性が大きく異なる場合があることは当業者に広く知られており、酵素の由来や変異の有無、程度により酵素活性が変化を受けることは当業者に周知の事項である。さらに、酵素を用いた反応において、反応が進むためには酵素が有する活性が一定程度以上あることが求められることも当業者において周知の事項である。 本件発明では、特定の酵素を用いた特定の反応方法において、使用される酵素や試薬、基質が示されている。そうすると、酵素が有すべき活性の程度が示されておらず、任意の酵素活性である場合が包含されるよう記載されていたとしても、あらゆる酵素が条件を満足することまでが求められるわけではなく、当該反応を進めることができると当業者が理解できる程度の活性を有する酵素が本件特許明細書に開示されていたり、出願時の技術常識に基づき同程度の活性を有する酵素が当業者に知られたものであれば、発明の詳細な説明の記載に基づき本件発明を実施することができたものといえる。これを本件発明についてみると、以下のとおりであり、出願時の技術常識と発明の詳細な説明の記載に基づき本件発明を実施することができたものといえる。 (a)本件特許明細書には「アンモニアを使用して、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素によって、PPOをL-グルホシネートにアミノ化する工程」で使用される酵素、試薬、基質は特定されており、当該反応に関する試験結果は記載されていないものの、D-アミノ酸のアミノ基をカルボニル基に変換した化合物にアンモニアを有する条件下でLAADを作用させてL-アミノ酸とするという反応は、甲第10号証~甲第13号証に記載されるように、本件特許の出願時点における当業者の技術常識といえる。そうすると、上記技術常識を踏まえれば、本件特許明細書で「アンモニアを使用して、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素によって、PPOをL-グルホシネートにアミノ化する工程」の試験結果が記載されていないとしても、請求項1の記載に基づいて、当業者であれば当該反応を実施できるというべきである。 (b)「D-グルホシネートを、通気しながらD-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)酵素と反応させて、PPO(2-オキソ-4-(ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル)酪酸)を形成する工程」で使用される酵素、試薬、基質は特定されており、また、本件特許明細書では酵素が有すべき活性の下限が目安として示されるとともに、実施例ではD-グルホシネートを、通気しながらDAAOと反応させて、PPOが得られたことが示されている。そうすると、反応を進行させることができない程度に酵素活性が弱いDAAOが存在したとしても、その他に反応を進行させることのできるDAAOが存在することは本件特許明細書に記載されているから、当業者であれば当該反応を実施できるというべきである。 よって、上記ア、イの主張はいずれも理由がない。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立人が主張する申立理由3(実施可能要件違反)は、理由がない。 5 申立理由4(サポート要件)についての判断 (1) 申立人の主張 申立人は、以下のとおり、本件発明は、特許明細書に実質的に開示された発明とはいえず、本件特許の請求項1は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていないと主張する。 ア 申立理由3のアで記載したとおり、本件特許の請求項1には「アンモニアを使用して、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素によって、PPOをL-グルホシネートにアミノ化する工程を含み」と記載される一方、本件特許明細書をみても、当該工程でトランスアミナーゼを用いた場合のみであって、LAADによって、PPOをL-グルホシネートにアミノ化することに関する具体的な試験結果は示されていない。また、LAADの全てが本件発明に利用できるわけではない。そうすると、本件特許明細書をみた当業者であってもアンモニアを使用してLAADによる酵素反応でPPOをL-グルホシネートにアミノ化できるかどうかは理解することができず、本件特許明細書の記載を本件発明の範囲にまで拡張または一般化することはできない。 イ 申立理由3のイで記載したとおり、「D-グルホシネートを、通気しながらD-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)酵素と反応させて、PPO(2-オキソ-4-(ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル)酪酸)を形成する工程」の「D-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)酵素」は全てのDAAOを包含する一方、本件特許明細書の段落0006の記載も踏まえると、発明の実施に利用可能であるのは特定の条件を満たすDAAO酵素であることが明記されたものといえる。そうすると、本件特許の請求項1の「D-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)酵素」との記載は発明の実施に使用できないDAAOを含むことが明らかであり、本件特許明細書の記載を本件発明の範囲まで拡張または一般化することはできない。 (2) 判断 酵素を用いた反応及び酵素の分野における技術常識、並びに本件特許明細書の記載は、いずれも4(2)で検討したとおりである。これらの点を踏まえると、本件特許発明の「D-グルホシネートを、通気しながらD-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)酵素と反応させて、PPO(2-オキソ-4-(ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル)酪酸)を形成する工程」、及び「アンモニアを使用して、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素によって、PPOをL-グルホシネートにアミノ化する工程」は、いずれも出願時の技術常識と発明の詳細な説明の記載に基づき本件発明を実施することができたものといえ、本件特許明細書の記載を本件発明の範囲にまで拡張または一般化することができたものといえる。 よって、上記ア、イの主張はいずれも理由がない。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立人が主張する申立理由4(サポート要件違反)は、理由がない。 6 申立理由5(進歩性)についての判断 (1) 申立人の主張 申立人は、以下のとおり、本件発明は、甲第7~13号証に記載の発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであると主張する。 ア 本件発明の製造方法に関して、D-グルホシネートおよび生成物のL-グルホシネートは、アミノ酸としての化学構造を有する周知の化合物であること、グルホシネートのL体とD体のラセミ混合物であるグルホシネートは除草剤として登録されていること、ラセミ混合物のL-体が活性本体であり、L-体を選択的に製造して農薬登録されたグルホシネートPナトリウム塩が販売されていることは、甲第8号証にあるように当業者に周知の事項である。 また、D―アミノ酸を対応するL-アミノ酸に変換する手法は広く行われている技術であり、DAAOによりD-アミノ酸のアミノ基をオキソ基(O=)に酸化してα-ケトカルボン酸に変換し、その後LAADによりアミノ基に変換してL-アミノ酸を得る手法も、甲第10号証~甲第13号証にも記載されるように周知の技術である。 イ 甲第9号証には、PPOを化学合成により製造し、LAADを使用してPPOのアミノ化反応によるL-グルホシネートの製造方法が記載されている(975頁左欄~右欄、およびFig5)。また、甲第7号証には、D-グルホシネートに高い活性を示すDAAOが記載される(303頁左欄下から8行~右欄10行、Table1)とともに、Table1に示される2箇所に変異を有するRtDAAO(F58K/M213S)はD-グルホシネートに極めて高い活性を示すことが開示されている。 ウ 当業者であれば、ア、イで挙げた点を踏まえ、甲9号証では化学合成により製造しているPPOを、DAAOを用いてD-アミノ酸を対応するα-ケトカルボン酸に変換することは周知であるとともに、甲第7号証に記載されたD-グルホシネートに高い活性を示すDAAOであるRtDAAO(F58K/M213S)を使用することが公知の事項であるから、工業的に生産されているDL-アミノ酸のラセミ混合物であるDL-グルホシネートを基質として、RtDAAO(F58K/M213S)を使用してPPOを合成し、それをLAADによる反応に付すことに容易に想到することができたといえる。 そして、本件特許明細書では、本件発明に係る方法を用いた実施例が記載されておらず、申立理由3、4で主張したように、明らかに実施不能な発明を含んでいることから、本件発明について顕著な効果を参酌する余地はない。 (2) 判断 ア 甲第9号証記載の発明 甲第9号証には、メチルジクロロホスフィンから4-(ヒドロキシメチルホスフィノイル)-2-オキソブタン酸が合成されること、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(50mg)およびグルコースデヒドロゲナーゼ(10mg)を、グルコース(173mg)、塩化ナトリウム(0.38g)、ジチオトレイトール(15mg)、塩化アンモニウム(0.533g)、NAD(10mg)および4-(ヒドロキシメチルホスフィノイル)-2-オキソブタン酸(150mg)を含むリン酸アンモニウム緩衝液(pH7.5、50mmol dm-3;50cm3)に添加した。反応混合物を室温で撹拌し、1mol dm-3水酸化アンモニウムを周期的に添加してpHを一定に維持した。さらに生成物が生成しないこと(6日間)によって反応が完了したとき、溶液を80℃で15分間加熱し、15000rpmで10分間遠心分離し、デカントした。上清を濃塩酸でpH 2に酸性化し、そして4℃に一晩冷却した。得られた沈殿物を濾取し、エタノール-水から再結晶して、光学回転の比較によって測定したL-ホスフィノトリシン塩酸塩(4.5mg、25%)、融点192-196℃; [α]D19 +24.85(c 2,1mol dm-3HCl) {lit.、mp 194-196℃および[α]D19 +21.4(c 1.4、1mol dm-3HCl)、89.2%エナンチオマー過剰}、>99%エナンチオマー過剰を得たことが記載されている(第4の「1 甲各号証の記載事項」(7)ア~ウ)。 そうすると、甲第9号証には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。) 「メチルジクロロホスフィンから4-(ヒドロキシメチルホスフィノイル)-2-オキソブタン酸が合成され、グルタミン酸デヒドロゲナーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼを、塩化アンモニウムおよび4-(ヒドロキシメチルホスフィノイル)-2-オキソブタン酸を含むリン酸アンモニウム緩衝液(pH7.5、50mmol dm-3;50cm3)に添加して、反応混合物を室温で撹拌し、1mol dm-3水酸化アンモニウムを周期的に添加してpHを一定に維持して反応させ、反応後に加熱、遠心分離、デカントし、上清を濃塩酸で酸性化し、冷却、沈殿し、沈殿物を再結晶してL-ホスフィノトリシン塩酸塩を得る方法。」 イ 本件発明と引用発明との対比 本件発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「4-(ヒドロキシメチルホスフィノイル)-2-オキソブタン酸」、「グルタミン酸デヒドロゲナーゼ」、及び「ホスフィノトリシン」は、それぞれ、本件発明の「PPO(2-オキソ-4-(ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル)酪酸)」、「L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素」、及び「グルホシネート」に相当する。また、引用発明での反応に用いられた緩衝液のpHは7.5であり、これに1mo1 dm-3水酸化アンモニウムを周期的に添加してpHを一定に維持して反応を進めていたこと、アンモニアは易水溶性であって、水溶液はアルカリ性を示す物質であるから、引用発明の「水酸化アンモニウム」はアンモニアの水溶液であり、本件発明の「アンモニア」に相当する。さらに、本件特許明細書の段落0068では「精製は、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸等を含む適切な酸の添加によるL-グルホシネートの不溶性塩の形成によって成されてもよい。」と記載されているから、引用発明の「L-ホスフィノトリシン塩酸塩」はL-グルホシネートが塩酸塩の形態で精製されたものであり、本件発明の「L-グルホシネート」に相当する。そして、引用発明で記載された反応はいずれも生体外で行われたものであるから、引用発明は「ex vivoで行われ」たものである。 そうすると、本件発明と引用発明とは 「L-グルホシネートを作製する方法であって、PPO(2-オキソ-4-(ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル)酪酸)を形成する工程、及びアンモニアを使用して、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素によって、PPOをL-グルホシネートにアミノ化する工程を含み、前記方法がex vivoで行われる、前記方法。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) 本件発明では「PPO(2-オキソ-4-(ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル)酪酸)を形成する工程」が「D-グルホシネートを、通気しながらD-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)酵素と反応させ」る工程であるのに対し、引用発明では「メチルジクロロホスフィンから4-(ヒドロキシメチルホスフィノイル)-2-オキソブタン酸が合成され」る工程である点 ウ 相違点についての判断 甲第8号証には、D-グルホシネートおよび生成物のL-グルホシネートは、アミノ酸としての化学構造を有する周知の化合物であること、グルホシネートのL体とD体のラセミ混合物であるグルホシネートは除草剤として登録されていること、及び、ラセミ混合物のL-体が活性本体であり、L-体を選択的に製造して農薬登録されたグルホシネートPナトリウム塩が登録されていることが記載されており(第4の「1 甲各号証の記載事項」(6)ア~エ)、甲第8号証が既承認農薬の評価に関する文献であることを踏まえると、上記事項は当業者に周知のものといえる。しかし、甲第8号証に記載されているのはグルホシネートのL体とD体のラセミ混合物や活性本体であるL体という化合物や当該化合物を含む組成物、農薬に関する内容であって、具体的なL体の選択的製造方法が記載されているわけではない。そうすると、甲第8号証をみても、グルホシネートのL-体を選択的に製造する際、「D-グルホシネートを、通気しながらD-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)酵素と反応させ」るという工程は記載されたものと解することはできない。 一方、甲第10号証~甲第13号証には、DAAOによりD-アミノ酸のアミノ基をオキソ基(O=)に酸化してα-ケトカルボン酸に変換し、その後LAADによりアミノ基に変換してL-アミノ酸を得る手法が記載されており(第4の「1 甲各号証の記載事項」(8)~(11))、当業者に周知の技術といえる。しかし、上記反応でD-アミノ酸としてD-グルホシネートを用いることは甲第10号証~甲第13号証のいずれにも記載がなく、また、反応を「通気しながら」行うこともこれらの文献に記載されていない。 さらに、甲第7号証には「D-グルホシネートを2-オキソ-4-(メチルホスフィニル)-ブタン酸に効率的に酸化するように特別に設計された、ロドスポリジウム・トルロイデス(Rt)由来のD-アミノ酸酸化酵素(DAAO)の改変型(DMRtDAAO)」が記載されている(第4の「1 甲各号証の記載事項」(5)ア~オ)。しかし、これは植物体の葯内でL-グルタミン酸トランスアミナーゼが作用して、PPOに相当する「2-オキソ-4-(メチルホスフィニル)-ブタン酸」がL体グルホシネートへと変換される、という知見をもとに、葯内にDAAOを発現する遺伝子組換え植物を作製し、植物体葉面にD-グルホシネートを散布した場合に「2-オキソ-4-(メチルホスフィニル)-ブタン酸」を経てL体へ変換されるようにすることで、植物体に稔性低下をもたらすことを目的としてなされたものであり、野生型や改変RtDAAOの酵素活性は検討されているものの、これらはDAAOに関する遺伝子組換え体を作製するための候補を検討するためになされた試験であって、ex vivo条件下でD-グルホシネートをPPOに変換するために行われたものではない。 そうすると、甲第9号証及び甲第7号証に記載された事項、並びに、甲第8号証及び甲第10号証~甲第13号証に記載された技術常識を踏まえても、引用発明で「メチルジクロロホスフィンから4-(ヒドロキシメチルホスフィノイル)-2-オキソブタン酸が合成」している工程について、原料をD-グルホシネートにし、これを通気しながらDAAOと反応させてPPOを得るようにすることが当業者にとり容易であると解することはできない。 よって、上記ア~ウの主張はいずれも理由がない。 また、甲第7号証、甲第8号証、甲第10号証~甲第13号証の記載は上で検討したとおりであるから、これらのいずれかに基づいて引用発明を認定した場合でも、甲第9号証に基づき引用発明を認定した上の場合と同様に、本件発明に容易に想到することができたと解することはできない。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立人が主張する申立理由5(進歩性)は、理由がない。 7 申立理由6(進歩性)についての判断 (1) 申立人の主張 申立人は、以下のとおり、本件発明は、甲第14号証に記載の発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであると主張する。 ア 申立理由2に関して記載したように、本件特許は補正により追加された新規事項を含むので、本願は分割出願の要件を満たさない。したがって、本件特許の出願日は原出願日に遡及せず、実際の出願日である令和5年1月24日となる。 イ 甲第14号証は上記出願日前に公開された文献であり、請求項1において追加された新規事項である、「アンモニアを使用して、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素をよって」との記載以外は甲第14号証に開示されている。アンモニアおよびL-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素は周知の事項であるので、当業者であれば甲第14号証の記載に基づいて本件発明を容易に想到する。また本件特許明細書には本件発明について何らの実施例も開示されていないので、本件発明が顕著な効果を有するとも認定できない。 以上の理由により本件発明は、特許法第29条第2項の要件を満たさない。 (2) 判断 申立理由2については上記「3 申立理由2(補正要件違反)についての判断」で検討したとおりであって、本件特許は補正により追加された新規事項を含まず、原々出願の出願当初の明細書等との関係においても新規事項を含むものではないから、本件特許出願は分割出願の要件を満足するものといえる。そして、甲第14号証は本件特許出願の原々出願にあたる特願2018-545871号の国内公表であるところ、分割出願の要件を満足する本件特許の出願日は特願2018-545871号の出願日と同日であるから、本件発明が甲第14号証に基づき進歩性を有しないと解することのできる事情は存在しない。 よって、上記ア、イの主張はいずれも理由がない。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立人が主張する申立理由6(進歩性)は、理由がない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700745

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