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特許異議申立

2023-700572

構造体

審判番号
2023-700572
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-512005
登録番号
7186920
請求日
2023年06月01日
審決日
2023年09月22日
公報発行日
2023年10月27日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】太陽ホールディングス株式会社
  • 【権利者代理人】宮嶋 学
  • 【権利者代理人】浅野 真理
  • 【権利者代理人】小島 一真
  • 【異議申立人】笠原 佳代子
審判長/審判官
  • 審判長 井上 茂夫
  • 審判官 武市 匡紘
  • 審判官 西本 浩司
分類
P1651.121-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7186920号発明「構造体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7186920号の請求項1~5に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7186920号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和3年3月24日(優先権主張令和2年3月31日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和4年12月1日にその特許権の設定登録がされ、令和4年12月9日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年6月1日に特許異議申立人笠原佳代子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。 第2 本件特許 特許第7186920号の請求項1~5の特許に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 第一のフィルム、硬化性樹脂層、および第二のフィルムをこの順に備える構造体であって、 前記第一のフィルムおよび前記第二のフィルムが、前記硬化性樹脂層から剥離可能であり、 前記第一のフィルムのトラウザー引裂力と、前記第二のフィルムのトラウザー引裂力の差が-0.05N以下または+0.05N以上であり、 前記第一のフィルムと前記第二のフィルムのヘーズの差が-5%以下または+5%以上であることを特徴とする、構造体。 【請求項2】 第一のフィルム、硬化性樹脂層、および第二のフィルムをこの順に備える構造体であって、 前記第一のフィルムおよび前記第二のフィルムが、前記硬化性樹脂層から剥離可能であり、 前記第一のフィルムのトラウザー引裂力と、前記第二のフィルムのトラウザー引裂力の差が-0.05N以下または+0.05N以上であり、 前記構造体の前記第一のフィルム側から測定したLab色空間におけるL*値、a*値、b*値と前記構造体の第二のフィルム側から測定したLab色空間におけるL*値、a*値、b*値の差が、下記条件(i)~(iii): (i)L*値の差が-0.1以下または+0.1以上である、 (ii)a*値の差が-0.1以下または+0.1以上である、 (iii)b*値の差が-1以下または+1以上である、 の少なくとも1つを満たすことを特徴とする、構造体。 【請求項3】 前記第二のフィルムのトラウザー引裂力が、前記第一のフィルムのトラウザー引裂力よりも小さい、請求項1または2に記載の構造体。 【請求項4】 前記第一のフィルムが、ポリエステルフィルムおよびポリオレフィンフィルムから選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の構造体。 【請求項5】 前記第二のフィルムが、ポリエステルフィルムおよびポリオレフィンフィルムから選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の構造体。」 第3 申立理由の概要 申立人は、本件特許異議申立書に以下に記載の甲第1号証及び甲第2号証を提出して、大要、次の申立理由を主張している。 1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性) 本件発明1~5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 申立理由2(サポート要件) 本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 本件発明1~5の、解決すべき課題は第一のフィルムと第二のフィルムを見分け易く、第二のフィルムを剥がした際に樹脂層にフィルム痕が付きづらい構造体を提供することであるが、トラウザー引裂力を調整することで、フィルム痕が付きにくくすることができるのは、離型層がないフィルムを用いる場合に限られ、出願時の技術常識に照らしても、離型層がある場合を含む第一および第二のフィルムの全般にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。 [証拠方法] 甲第1号証:特開2009-263400号公報 甲第2号証:特開2013-67743号公報 (以下、甲第1号証を「甲1」という。他の甲各号証についても、同様である。) 第4 当審の判断 1 申立理由1(進歩性)について (1)甲1に記載された事項・発明 ア 甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与し、「・・・」は文章の省略を表す。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、熱硬化型粘接着テープ又はシートに関する。さらに詳細には、フレキシブル印刷回路基板等で好適に用いることができる熱硬化型粘接着テープ又はシートに関する。」 (イ)「【0034】 本発明の剥離ライナーは、剥離ライナーを剥がしたか剥がしていないかの判別を容易とする観点で、着色剤(顔料、染料)により着色されていてもよい。上記の着色する色としては、特に限定されないが、識別しやすい色、即ち、被着体の色とコントラストがハッキリしている色の組合せとなる色が好ましい。例えば、白色や黒色などに着色することが好ましい。」 (ウ)「【0090】 実施例1 (熱硬化型粘接着剤組成物) アクリル系ポリマー[東レコーテックス社製;ブチルアクリレート(BA)/アクリロニトリル(AN)/アクリル酸(AA)=75:23:2(重量比)の共重合体;重量平均分子量:60万]:100重量部を酢酸エチルに溶解させて、アクリル系ポリマーの酢酸エチル溶液(固形分濃度:40重量%)を作製した。 上記アクリル系ポリマーの酢酸エチル溶液:100重量部(固形分)に、レゾール型フェノール樹脂として商品名「スミライトレジンPR-51283」(住友ベークライト社製;重量平均分子量:55万):10重量部(固形分)を加えて、混合して撹拌させて、熱硬化型粘接着剤組成物溶液を調製した。 【0091】 (剥離ライナー(2面側)) 表1に示すように、ライナー基材として、厚み38μmの白色ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)製、商品名「ルミラー E20」、酸化チタン練り込み)を用いた。 剥離層としては、低密度ポリエチレン(LDPE)(旭化成(株)製、商品名「L1885」、密度0.918(g/cm3))を用いた。 上記ライナー基材の片面側に、上記樹脂を、厚み13μmとなるように押出ラミネートし、LDPE/白色PETフィルムからなる剥離ライナー(2面側、本発明の剥離ライナー)を作製した。 【0092】 (剥離ライナー(1面側)) 表1に示すように、ライナー基材として、厚み50μmの透明PETフィルム(東レ(株)製、商品名「ルミラー S10」)を用いた。 剥離層としては、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)((株)プライムポリマー製、商品名「モアテック 0628D」、密度0.916(g/cm3))を用いた。 上記ライナー基材の片面側に、上記樹脂を、厚み20μmとなるように押出ラミネートし、LLDPE/透明PETフィルムからなる剥離ライナー(1面側、他の剥離ライナー)を作製した。 【0093】 (熱硬化型粘接着シート) 上記熱硬化型粘接着剤組成物溶液を、乾燥後の厚みが25μmとなるように、本発明の剥離ライナー(2面側)の剥離層上に塗布し、100℃で3分間乾燥して熱硬化型粘接着剤層を形成した。さらに、前記熱硬化型粘接着剤層の表面に、上記の他の剥離ライナー(1面側)の剥離層を重ね合わせて、熱硬化型粘接着シート(ダブルセパレータタイプ)を得た。」 (エ)「【0104】 (1)剥離ライナーの剥離力 実施例および比較例で得られた熱硬化型粘接着シートから、幅50mm、長さ150mmの短冊状のシート片を切り出し、測定サンプルとした。 ダブルセパレータタイプの場合、軽剥離側(1面側)の剥離力を測定する場合には、測定サンプルをそのまま用い、重剥離側(2面側)の剥離力を測定する場合には、軽剥離側(1面側)の剥離ライナーを剥離して厚さ25μmのPETフィルムを貼付(裏打ち)したものを測定サンプルとした。 ・・・ 引張試験機を用いて、JIS Z0237に準拠して180°剥離試験を行い、剥離ライナーの180°ピール引き剥がし強度(N/50mm)を測定した。 測定は、23℃、50%の雰囲気下、剥離角度180°、引張速度300mm/分の条件で行い、剥離力を算出した。試験回数は、各試料につき3回(平均値)とした。」 (オ)「【0106】 【表1】 [図:0001402809000001.jpg] 」 イ 甲1に記載された発明 以上より、特に実施例1に着目すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「ライナー基材として、厚み38μmの白色ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)製、商品名「ルミラーE20」、酸化チタン練り込み)を用い、剥離層としては、低密度ポリエチレン(LDPE)(旭化成(株)製、商品名「L1885」、密度0.918(g/cm3))を用い、上記ライナー基材の片面側に、上記低密度ポリエチレン(LDPE)を、厚み13μmとなるように押出ラミネートし、LDPE/白色PETフィルムからなる剥離ライナー(2面側)を作製し、 アクリル系ポリマー[東レコーテックス社製;ブチルアクリレート(BA)/アクリロニトリル(AN)/アクリル酸(AA)=75:23:2(重量比)の共重合体;重量平均分子量:60万]:100重量部を酢酸エチルに溶解させて、アクリル系ポリマーの酢酸エチル溶液(固形分濃度:40重量%)を作製し、上記アクリル系ポリマーの酢酸エチル溶液:100重量部(固形分)に、レゾール型フェノール樹脂として商品名「スミライトレジンPR-51283」(住友ベークライト社製;重量平均分子量:55万):10重量部(固形分)を加えて、混合して撹拌させて、熱硬化型粘接着剤組成物溶液を調製し、 ライナー基材として、厚み50μmの透明PETフィルム(東レ(株)製、商品名「ルミラー S10」)を用い、剥離層としては、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)((株)プライムポリマー製、商品名「モアテック0628D」、密度0.916(g/cm3))を用い、上記ライナー基材の片面側に、上記直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を、厚み20μmとなるように押出ラミネートし、LLDPE/透明PETフィルムからなる剥離ライナー(1面側)を作製し、 上記熱硬化型粘接着剤組成物溶液を、乾燥後の厚みが25μmとなるように、剥離ライナー(2面側)の剥離層上に塗布し、100℃で3分間乾燥して熱硬化型粘接着剤層を形成し、さらに、前記熱硬化型粘接着剤層の表面に、上記の他の剥離ライナー(1面側)の剥離層を重ね合わせたダブルセパレートタイプの熱硬化型粘接着シート。」 (2)本件発明1について ア 甲1発明との対比 本件発明1と甲1発明を対比する。 ・甲1発明の「熱硬化型粘接着剤層」は、本件発明1の「硬化性樹脂層」に相当し、同様に、「熱硬化型粘接着シート」は、「構造体」に相当する。 ・甲1の段落【0104】を参酌すると、「熱硬化型粘接着シート」から「剥離ライナー」を剥離することから、甲1発明の「厚み38μmの白色ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム」である「ライナー基材」と「低密度ポリエチレン(LDPE)(旭化成(株)製、商品名「L1885」、密度0.918(g/cm3))」である「剥離層」を備えた「剥離ライナー(2面側)」は、本件発明1の「第二のフィルム」に相当する。 ・同様に、甲1発明の「厚み50μmの透明PETフィルム(東レ(株)製、商品名「ルミラーS10」)」である「ライナー基材」と「直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)((株)プライムポリマー製、商品名「モアテック0628D」、密度0.916(g/cm3))」である「剥離層」を備えた「剥離ライナー(1面側)」は、本件発明1の「第一のフィルム」に相当する。 ・甲1発明では、剥離ライナー(2面側)の剥離層上に、熱硬化型粘接着剤層を形成し、さらに、熱硬化型粘接着剤層の表面に、剥離ライナー(1面側)の剥離層を重ね合わせていることから、甲1発明の「熱硬化型粘接着シート」は、本件発明1の「第一のフィルム、硬化性樹脂層、および第二のフィルムをこの順に備える構造体」に相当する。 ・甲1発明の「熱硬化型粘接着シート」はダブルセパレートタイプであり、甲1の段落【0104】を参酌すると、軽剥離側(1面側)と重剥離側(2面側)の両方の剥離力を測定するために、剥離ライナーを熱硬化型粘接着剤層から剥離していることから、甲1発明の「剥離ライナー(1面側)」及び「剥離ライナー(2面側)」は、本件発明1の「前記硬化性樹脂層から剥離可能であ」る「前記第一のフィルムおよび前記第二のフィルム」に相当する。 以上のことから、本件発明1と、甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 [一致点] 「第一のフィルム、硬化性樹脂層、および第二のフィルムをこの順に備える構造体であって、 前記第一のフィルムおよび前記第二のフィルムが、前記硬化性樹脂層から剥離可能である、構造体。」 [相違点1] 本件発明1は「前記第一のフィルムのトラウザー引裂力と、前記第二のフィルムのトラウザー引裂力の差が-0.05N以下または+0.05N以上であ」るのに対し、甲1発明では、剥離ライナー(1面側)と剥離ライナー(2面側)のトラウザー引裂力の差が不明である点。 [相違点2] 本件発明1は「前記第一のフィルムと前記第二のフィルムのヘーズの差が-5%以下または+5%以上である」のに対し、甲1発明では、剥離ライナー(1面側)と剥離ライナー(2面側)のヘーズの差が不明である点。 イ 判断 まず、相違点1について検討する。 (ア)ライナー基材と剥離層を備えた剥離ライナー(1面側)及び剥離ライナー(2面側)のトラウザー引裂力について、甲1には記載されていない。 なお、甲1の段落【0080】、【0081】には、剥離ライナー(1面側)と剥離ライナー(2面側)の好ましい剥離力の範囲や、剥離ライナーの1面側と2面側で剥離力に差を付けることが好ましいことは記載されているが、剥離ライナーのトラウザー引裂力については記載されていない。 そして、甲1及び甲2を参酌しても、剥離ライナー(1面側)と剥離ライナー(2面側)のトラウザー引裂力の差を所定の範囲内とすることで、剥離ライナーを熱硬化型粘接着剤層から剥離した際に、フィルム痕が付きにくくなることは記載されていない。 したがって、甲1及び甲2に接した当業者が、剥離ライナー(1面側)と剥離ライナー(2面側)のトラウザー引裂力の差を-0.05N以下または+0.05N以上とする動機付けはない。 よって、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。 (イ)申立人は構成C(トラウザー引裂力)について、甲1の「実施例1において、剥離ライナー(2面側)の基材として、厚み38μmの白色PETフィルムが使用され、剥離ライナー(1面側)の基材として、厚み50μmの透明PETフィルムが使用されている」、「一方、本件特許公報において使用されている厚み50μmのPETフィルムであるフィルムBのトラウザー引裂力は、0.30Nであり、厚み38μmのPETフィルムであるフィルムA(0.15N)、D(0.25N)、E(0.17N)と比較して、トラウザー引裂力の差がいずれも+0.05N以上である」。従って、甲1の「実施例1においても、剥離ライナー(2面側)の基材として、厚み38μmの白色PETフィルムが使用され、剥離ライナー(1面側)の基材として、厚み50μmの透明PETフィルムが使用されているため、両者のトラウザー引裂力の差が0.05N以上である蓋然性が高い。」と主張する(異議申立書第8ページ第25行~第9ページ第11行)。 ここで、本件特許の明細書の段落【0120】及び【0125】【表1】のフィルムA、D、Eを参酌すると、トラウザー引裂力は材質(PET)と厚み(38μm、50μm)だけでなく、TD方向の引っ張り強さとMD方向の引っ張り強さにも依存するといえる。 そのため、甲1発明において、ライナー基材に用いる「厚み38μmの白色ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)製、商品名「ルミラーE20」、酸化チタン練り込み)」及びライナー基材に用いる「厚み50μmの透明PETフィルム(東レ(株)製、商品名「ルミラーS10」)」のTD方向の引っ張り強さ及びMD方向の引っ張り強さが不明であり、本件特許と同じようなトラウザー引裂力となる蓋然性が高いとはいえない。 さらに、上記「(2)ア」に示したように、本件発明1の「第一のフィルム」及び「第二のフィルム」に相当するものは、甲1発明の「ライナー基材」ではなく、「剥離層」も含めた「剥離ライナー」である。 すると、甲1発明における「剥離ライナー」のトラウザー引裂力は、「ライナー基材」だけでなく、「剥離層」も含めたトラウザー引裂力であり、仮に、申立人が主張するようにライナー基材の材質及び厚みが本件発明1の「第一のフィルム」及び「第二のフィルム」と同じであり、トラウザー引裂力が同じような値になるとしても、「剥離層」を含めた「剥離ライナー」のトラウザー引裂力、すなわち、「剥離ライナー(1面側)」と「剥離ライナー(2面側)」のトラウザー引裂力の差が、-0.05N以下または+0.05N以上である蓋然性が高いとはいえない。 (ウ)以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明2について 本件発明2と甲1発明を対比すると、少なくとも、本件発明1について上記「(2)ア」で検討した[相違点1]において相違する。 相違点1については、上記「(2)イ」で検討したものと同じ理由により、甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明3~5について 本件発明3~5は、本件発明1又は本件発明2の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記「(2)」又は「(3)」で検討したものと同じ理由により、本件発明3~5は、甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)申立理由1についてのむすび 以上のとおりであるから、申立理由1には理由がない。 2 申立理由2(サポート要件)について (1)本件発明1~5の課題について 本件発明が解決しようとする課題は、発明の詳細な説明の段落【0011】を参酌すると、「多層構造の構造体の第一のフィルムと第二のフィルムを見分け易く、第二のフィルムを剥がした際に樹脂層にフィルム痕が付きづらい構造体を提供すること」であるといえる。 (2)本件発明が解決しようとする課題の解決手段に係る記載について 上記「(1)」の課題を解決するために、発明の詳細な説明の段落【0014】を参酌すると、本件発明1~5では、(i)第一のフィルムと第二のフィルムの「各ヘーズあるいは各L*値、a*値、またはb*値に一定以上の差を付けることで、構造体の裏表の判別をし易く」すると共に、(ii)「第一のフィルムと第二のフィルムのトラウザー引裂力を調節し、各トラウザー引裂力に一定以上の差を付けることで、フィルム痕の発生を抑制」しているといえる。 (3)判断 ア 本件特許の明細書の段落【0028】には、第一のフィルムと第二のフィルムで「トラウザー引裂力の差を付けると、フィルムを剥がしたときに樹脂層にかかる負荷が、前記引裂力の差が無いものと比較して異なり、適当となる。その結果、樹脂層へのフィルム痕のつきやすさにも差が出るものと考えられる。」と記載されており、上記「(2)」に記載した課題を解決するための手段(ii)の効果が記載されている。 そして、本件特許の実施例(発明の詳細な説明の段落【0120】~【0128】)には、上記手段(ii)を有する実施例A1~A7と、手段(ii)を有さない比較例A1~A2とを比べ、手段(ii)を有する実施例A1~A7は、フィルム痕が付きにくくなるという、本件発明が解決しようとする課題を解決できることが確認されている。 そうすると、当業者は、上記本件発明の解決しようとする課題を解決するための手段(ii)を含む構造体は、本件特許の課題を解決することができると認識できる。 イ 申立人は「甲第2号証には、離型層を有するポリエステルフィルム2枚の当該離型層面が粘着層の両面にそれぞれ積層されてなる基材レス両面粘着シートが開示されており(請求項1)、第1離型フィルムを剥がした時の剥離性が評価されると共に、剥離の際の剥離スジの発生状況が評価されている。」、「これらの評価結果として、甲第2号証には、剥離強度が一定以上の場合に限り剥離スジが発生することが記載されているといえる。」、「このような観点から、本件特許公報をみると、フィルム痕が評価されている実施例と比較例で使用されているフィルムA~Eは、全て離型層がないフィルムであり、剥離強度が大きくなっているため、フィルム痕が生じているに過ぎない。このため、トラウザー引裂力を調整することで、フィルム痕が付きにくくすることができるのは、「離型層がないフィルムを使用する場合」に限られている。」、「従って、発明の詳細な説明において、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」は、「離型層がないフィルムを使用する場合」に限られているにもかかわらず、出願時の技術常識に照らしても、離型層がある場合を含む「第一および第二のフィルム」の全般にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。」と主張している。(異議申立書第18ページ第21行~第19ページ第17行) しかしながら、「離型層」の有無に関わらず、上記「(2)」、「(3)ア」で述べたように、第一のフィルムと第二のフィルムのトラウザー引裂力に一定以上の差があれば、フィルムを剥がしたときにフィルム痕が付きにくくなるという本件発明の効果を奏するといえる。すると、本件発明が解決しようとする課題を解決するためには、第一のフィルムと第二のフィルムのトラウザー引裂力に一定以上の差があればよく、第一のフィルム及び第二のフィルムが「離型層がないフィルム」でなければ、本件発明が解決しようとする課題を解決することができないとはいえない。 (4)申立理由2についてのむすび 以上のとおりであるから、申立理由2には理由がない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件発明1~5は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、また、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。 第5 むすび 以上のとおり、申立人が提出した特許異議の申立の理由及び証拠によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700572

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