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特許異議申立

2023-700159

積層不織布および衛生材料

審判番号
2023-700159
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-538222
登録番号
7124972
請求日
2023年02月14日
審決日
2024年06月28日
公報発行日
2024年10月25日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】東レ株式会社
  • 【異議申立人】笠原 佳代子
  • 【異議申立人】前田 桂子
審判長/審判官
  • 審判長 金丸 治之
  • 審判官 森藤 淳志
  • 審判官 田口 傑
分類
P1651.113-YAA(D04H) / P1651.121-YAA(D04H) / P1651.537-YAA(D04H)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7124972号発明「積層不織布および衛生材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7124972号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。 特許第7124972号の請求項2~10に係る特許を維持する。 特許第7124972号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7124972号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和3年6月8日(優先権主張令和2年6月11日)を国際出願日とする特願2021-538222号に係る出願であって、令和4年8月16日にその特許権の設定登録がされ、令和4年8月24日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和5年 2月14日:特許異議申立人笠原佳代子(以下「申立人1」とい う。)による請求項1~10に係る特許に対する特 許異議の申立て 令和5年 2月24日:特許異議申立人前田桂子(以下「申立人2」という 。)による請求項1~10に係る特許に対する特許 異議の申立て 令和5年 8月23日付け:取消理由通知書 令和5年10月25日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和5年11月30日 :申立人1による意見書の提出 令和5年12月 5日 :申立人2による意見書の提出 令和6年 1月23日 :取消理由通知書(決定の予告) 令和6年 3月25日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和6年 5月23日 :申立人2による意見書の提出 なお、令和5年10月25日に提出された訂正請求書は、取り下げられたものと見なす(特許法120条の5第7項)。 第2 訂正の請求について 1 訂正の内容 令和6年3月25日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。また、訂正自体を「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求めるものであり、その内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 (2) 訂正事項2 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2において、 「前記不織布層(A)に接して積層する不織布層(B)のうち少なくとも一方について、下記式(2)で計算される繊維間空隙サイズRb(μm)と前記Raとの比Rb/Raが1.1以上である、請求項1に記載の積層不織布。 Rb=(100×Tb×db)/(Wb×Db)-Db ・・・式(2) ここで、 Tb: 不織布層(B)の厚み(μm)」 と記載されているのを、 「熱可塑性樹脂繊維からなる不織布層が積層されてなる積層不織布であって、前記不織布層のうち平均単繊維直径が最も小さい不織布層(A)において、下記式(1)で計算される繊維間空隙サイズRa(μm)が30μm以上100μm以下であり、前記不織布層(A)に接して積層する不織布層(B)のうち少なくとも一方について、下記式(2)で計算される繊維間空隙サイズRb(μm)が100μm以上500μm以下であり、Rb(μm)と前記Raとの比Rb/Raが1.1以上であり、前記不織布層同士がエンボス加工により熱接着されてなる、積層不織布。 Ra=(100×Ta×da)/(Wa×Da)-Da ・・・式(1) Rb=(100×Tb×db)/(Wb×Db)-Db ・・・式(2) ここで、 Ta: 不織布層(A)の厚み(μm) da: 不織布層(A)を構成する熱可塑性樹脂繊維の繊度(dtex) Wa: 不織布層(A)の目付(g/m2) Da: 不織布層(A)を構成する熱可塑性樹脂繊維の平均単繊維直径(μm) Tb: 不織布層(B)の厚み(μm)」 と訂正する。(請求項2の記載を直接的または間接的に引用する請求項3~10も同様に訂正する。) (3) 訂正事項3 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3において、「請求項1または2に記載の積層不織布。」と記載されているのを「請求項2に記載の積層不織布。」と訂正し、また、「配水比率(%)=100×W1/W0」と記載されているのを「配水比率(%)=100×W1/W0 ・・・式(3)」と訂正する。(請求項3の記載を引用する請求項4~10も同様に訂正する。) (4) 訂正事項4 訂正前の請求項5において「請求項1~4のいずれかに記載の積層不織布。」と記載されているのを「請求項2~4のいずれかに記載の積層不織布。」と訂正する。(請求項5の記載を直接的または間接的に引用する請求項6~10も同様に訂正する。) (5) 訂正事項5 訂正前の請求項6において「請求項1~5のいずれかに記載の積層不繊布で構成されてなる」と記載されているのを「請求項2~5のいずれかに記載の積層不織布で構成されてなる」に訂正する。(請求項6の記載を直接的または間接的に引用する請求項7~10も同様に訂正する。) (6) 訂正事項6 訂正前の請求項10において「請求項7記載の」と記載されているのを、「請求項6記載の」と訂正する。 なお、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~10〕に対して請求されたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1は、請求項1を削除するというものであるから、当該訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項1は、請求項1を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1は、請求項1を削除するというものであるから、実質上特許請求の囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2) 訂正事項2について ア 訂正の目的 訂正事項2のうち、「熱可塑性樹脂繊維からなる不織布層が積層されてなる積層不織布であって、前記不織布層のうち平均単繊維直径が最も小さい不織布層(A)において、下記式(1)で計算される繊維間空隙サイズRa(μm)」、「Ra=(100×Ta×da)/(Wa×Da)-Da ・・・式(1)」、及び「Ta: 不織布層(A)の厚み(μm) da: 不織布層(A)を構成する熱可塑性樹脂繊維の繊度(dtex) Wa: 不織布層(A)の目付(g/m2) Da: 不織布層(A)を構成する熱可塑性樹脂繊維の平均単繊維直径(μm)」とする訂正は、訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用する記載であるところ、訂正事項1で請求項1が削除されたことに伴い、請求項1を引用しないものとするものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とすると共に、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものでもある。 さらに、訂正事項2のうち、「繊維間空隙サイズRa(μm)が30μm以上100μm以下であり、」とする訂正は、繊維間空隙サイズRa(μm)について、数値の範囲をより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項2のうち、「Rb(μm)が100μm以上500μm以下であり」とする訂正は、繊維間空隙サイズRb(μm)について、その数値の範囲をさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 加えて、訂正事項2のうち、「前記不織布同士がエンボス加工により熱接着されてなる」とする訂正は、積層不織布について、その構成を更に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項2のうち、請求項間の引用関係を解消して独立形式の請求項へ改める訂正は、実質的な内容の変更を伴うものではない。また、「繊維間空隙サイズRa(μm)が30μm以上100μm以下であり、」とする訂正は、明細書の【0051】、【0052】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 さらに、「Rb(μm)が100μm以上500μm以下であり」とする訂正は、明細書の【0061】、【0062】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 加えて、「前記不織布同士がエンボス加工により熱接着されてなる」とする訂正は、明細書の【0108】、【0111】、【0127】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項2は、訂正前の請求項2について、特定事項の数値の範囲を特定すること及び数値の範囲をより限定すること、及び、積層体の構成を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかである。 (3) 訂正事項3について ア 訂正の目的 訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1または2の記載を引用していたところ、訂正事項1で請求項1が削除されたことに伴い、請求項1を引用しないようにするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、さらに、訂正前の請求項3の「配水比率(%)=100×W1/W0」の式について、当該式が式(3)であることを「配水比率(%)=100×W1/W0 ・・・式(3)」と訂正して、明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 上記アから明らかなように、明瞭でない記載の釈明を目的とする当該訂正事項3は、実質的な内容の変更を伴うものではなく、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であることは明らかである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項3は、実質的な内容の変更を伴うものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4) 訂正事項4について ア 訂正の目的 訂正事項4は、訂正前の請求項5が請求項1の記載を引用する記載であるところ、訂正事項1で請求項1が削除されたことに伴い、請求項1を引用しないものとするものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもある。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項4は、請求項1を引用しないものとするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項4は、請求項1を引用しないものとするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5) 訂正事項5について ア 訂正の目的 訂正事項5は、訂正前の請求項6が請求項1の記載を引用する記載であるところ、訂正事項1で請求項1が削除されたことに伴い、請求項1を引用しないものとするものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもある。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項5は、請求項1を引用しないものとするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項5は、請求項1を引用しないものとするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (6) 訂正事項6について ア 訂正の目的 訂正事項6は、訂正前の請求項10が請求項7の記載を引用する記載であるところ、訂正前の請求項10は、「衛生材料がマスクであり」とされ、訂正前の請求項7は、「衛生材料がおむつである」とされていて、不明確であったところ、訂正前の請求項7が引用する請求項6の衛生材料」を引用することにより、その記載を明確にするものであり、当該訂正事項6は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもある。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項6は、上記アから明らかなように、明瞭でない記載の釈明を目的とする当該訂正事項6は、実質的な内容の変更を伴うものではなく、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であることは明らかである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項6は、実質的な内容の変更を伴うものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号、又は第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 本件特許の請求項2~10に係る発明(以下「本件発明2」~「本件発明10」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項2~10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項2】 熱可塑性樹脂繊維からなる不織布層が積層されてなる積層不織布であって、前記不織布層のうち平均単繊維直径が最も小さい不織布層(A)において、下記式(1)で計算される繊維間空隙サイズRa(μm)が30μm以上100μm以下であり、前記不織布層(A)に接して積層する不織布層(B)のうち少なくとも一方について、下記式(2)で計算される繊維間空隙サイズRb(μm)が100μm以上500μm以下であり、Rb(μm)と前記Raとの比Rb/Raが1.1以上であり、前記不織布層同士がエンボス加工により熱接着されてなる、積層不織布。 Ra=(100×Ta×da)/(Wa×Da)-Da ・・・式(1) Rb=(100×Tb×db)/(Wb×Db)-Db ・・・式(2) ここで、 Ta: 不織布層(A)の厚み(μm) da: 不織布層(A)を構成する熱可塑性樹脂繊維の繊度(dtex) Wa: 不織布層(A)の目付(g/m2) Da: 不織布層(A)を構成する熱可塑性樹脂繊維の平均単繊維直径(μm) Tb: 不織布層(B)の厚み(μm) db: 不織布層(B)を構成する熱可塑性樹脂繊維の繊度(dtex) Wb: 不織布層(B)の目付(g/m2) Db: 不織布層(B)を構成する熱可塑性樹脂繊維の平均単繊維直径(μm)。 【請求項3】 前記積層不織布の両側の面それぞれについて下記の手順により生理食塩水を吸収させたときの、生理食塩水を吸収させた表面である吸収面およびその反対側の表面の4面のうち、少なくとも一つの表面において、下記式(3)により定義される配水比率が40%以下である、請求項2に記載の積層不織布。 手順1:積層不織布から、5cm×5cmのサンプルを切り出す。 手順2:JIS P3801の2種に準拠したろ紙を5cm×5cmに切り出したものを1回の測定につき2枚用意し、それぞれ質量を測定する。 手順3:ポリプロピレン製のフィルムの上に、生理食塩水0.250±0.005mLを滴下する。この際、滴下する生理食塩水の質量を測定しておく。 手順4:滴下した生理食塩水の上から、これを吸収させる吸収面を下向きにして積層不織布を乗せ、1分間保持する。 手順5:前記手順4の保持後に積層不織布を前記ポリプロピレン製のフィルムから外し、前記ろ紙の1枚目の上に前記吸収面を上向きにして乗せ、さらにその上から前記ろ紙の2枚目を速やかに乗せる。 手順6:前記2枚目のろ紙の上から圧力が5g/cm2となるように125gの重りをのせ、1分間保持する。 手順7:前記手順6の保持後に重りを外し、各ろ紙の質量を測定し、それぞれのろ紙の質量増加分を算出する。 手順8:下記式から、前記積層不織布におけるそれぞれの表面の配水比率を算出する。 配水比率(%)=100×W1/W0 ・・・式(3) ここに、 W0:上記手順3において滴下した生理食塩水の質量(g) W1:上記手順7においてその表面に当てたろ紙の質量増加分(g)。 【請求項4】 前記配水比率が40%以下である表面の反対側の面の配水比率が50%以上である、請求項3に記載の積層不織布。 【請求項5】 少なくとも一方の表面において、JISL1907:2010の滴下法により測定される吸水速度が20秒以下である、請求項2~4のいずれかに記載の積層不織布。 【請求項6】 少なくとも一部が請求項2~5のいずれかに記載の積層不織布で構成されてなる、衛生材料。 【請求項7】 前記衛生材料がおむつである、請求項6記載の衛生材料。 【請求項8】 トップシートが前記積層不織布で構成されてなる、請求項7記載の衛生材料。 【請求項9】 ウエスト部の少なくとも一部が前記積層不織布で構成されてなる、請求項7記載の衛生材料 【請求項10】 前記衛生材料がマスクであり、当該マスクの内面層が前記積層不織布で構成されてなる、請求項6記載の衛生材料。」 第4 申立書理由の概要 1 申立人1の申立理由の概要 申立人1が主張する特許異議の申立ての理由の要旨は下記(1)~(4)であり、証拠方法は下記(5)のとおりである。 (1) 申立理由1-1(甲第1-1号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1-1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、同条第1項の規定に違反してされたものである。 また、本件特許の請求項1~10に係る発明は、甲第1-1号証に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~10に係る特許は、同条第2項の規定に違反してされたものである。 (2) 申立理由1-2(甲第1-2号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1~8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1-2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の請求項1~8に係る特許は、同条第1項の規定に違反してされたものである。 また、本件特許の請求項1~10に係る発明は、甲第1-2号証に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同条第2項の規定に違反してされたものである。 (3) 申立理由1-3(甲第1-3号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1-3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当に該当するから、本件特許の請求項1に係る特許は、同条第1項の規定に違反してされたものである。 また、本件特許の請求項1、6~10に係る発明は、下記の甲第1-3号証に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同条第2項の規定に違反してされたものである。 (4) 申立理由1-4(サポート要件) 本件特許の請求項1~10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 ア 本件請求項1の積層不織布全体についての技術的裏付けの欠如 本件請求項1は、不織布層(A)の厚み、繊度、目付、構成する熱可塑性樹脂繊維の平均単繊維直径は、式(1)の関係さえ満たせば、どのような数値でも良く、その数値の組合せは多岐にわたる。一方で、実施例は、本件請求項1に記載された組合せの中のごく一部のものにすぎない。従って、本件請求項1に記載された積層不織布全体についての技術的裏付けが、発明の詳細な説明に記載されているということはできない。 イ 熱可塑性樹脂繊維と繊維間空隙サイズRaについて 本件請求項1には、「熱可塑性樹脂繊維」と記載されているものの、実施例は「PP」、「共重合PET」のみであるから、全ての「熱可塑性樹脂繊維」において本件発明の効果が得られるかが不明である。また、本件請求項1は、不織布層(A)の繊維刷空隙サイズRaが特定されているが、「0μm」の場合も含むものであるところ、繊維間空隙サイズRaが0μmの場合にどのようにして良好な速乾性を得ることができるのかが不明である。 (5) 証拠方法 甲第1-1号証:特開2017-113670号公報 甲第1-2号証:特開2019-183293号公報 甲第1-3号証:国際公開第2020/022260号 以下、順に「甲1-1」のようにいう。 2 申立人2の申立理由の概要 申立人2が主張する特許異議の申立ての理由の要旨は下記(1)~(5)であり、証拠方法は下記(6)のとおりである。 (1) 申立理由2-1(サポート要件) 本件特許の請求項1~10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 ア 本件発明の課題の達成度合いを示す配水比率と吸水速度はRaと相関がないから、請求項1に係る発明では課題を解決できない。 イ 配水比率とRb/Raには相関が認められるものの、請求項2の「Rb/Raが1.1以上」との特定を満たす実施例6、7は比較例1よりも吸水速度が劣っているから、請求項2に係る発明では課題を解決できない。 ウ 明細書には、配水比率の制御方法に関する要件及び吸水速度の制御方法に関する要件が記載されているが、請求項1では構成要件となっていない。 エ 請求項1の「熱可塑性樹脂繊維からなる不織布層」には、バルプや再生繊維を含む積層不織布が含まれるが、明細書にはパルプや再生繊維を含む積層不織布が記載されていない。 (2) 申立理由2-2(明確性) 本件特許の請求項1~10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 ア 請求項1の「前記不織布層のうち平均単繊維直径が最も小さい不織布層(A)」に関し、二つの不織布層の平均単繊維直径が等しくかつ最小の場合にいずれの不織布層を不繊布層(A)とするのか不明確である。 イ 式(1)の前提となる「不織布層に含まれる識維が格子状に規則的に配置されているモデル」(段落【0050】)がどのようなモデルかの説明がなく、そのモデルからどのようにして式(1)が導出されたかも説明がないので請求項1に記載の発明特定事項で発明の効果を得られる積層不織布の範囲が不明確である。 ウ 請求項3の「下記式(3)により定義される配水比率が」と記載されているが、同請求項には「式(3)」が記載されていない。 エ 請求項10の衛生材料は、末尾において「請求項7記載の衛生材料。」とされている。ここで、請求項7で特定しているのは「おむつ」である一方、請求項10では「衛生材料がマスクであり」と記載されており、請求項10における限定内容が不明確である。 (3) 申立理由2-3(甲第2-1号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1~10に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2-1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、本件特許の請求項1~10に係る特許は、同条第1項の規定に違反してされたものである。 また、本件特許の請求項1~10に係る発明は、甲第2-1号証に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同条第2項の規定に違反してされたものである。 (4) 申立理由2-4(甲第2-2号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1~10に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2-2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の請求項1~10に係る特許は、同条第1項の規定に違反してされたものである。 また、本件特許の請求項1~10に係る発明は、甲第2-2号証に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~10に係る特許は、同条第2項の規定に違反してされたものである。 (5) 申立理由2-5(甲第2-3号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1~10に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2-3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の請求項1~10に係る特許は、同条第1項の規定に違反してされたものである。 また、本件特許の請求項1~10に係る発明は、甲第2-3号証に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~10に係る特許は、同条第2項の規定に違反してされたものである。 (6) 証拠方法 甲第2-1号証:特開2020-56119号公報 甲第2-2号証:特開平7-178133号公報 甲第2-3号証:特開平9-31823号公報 甲第2-4号証:特開2008-23326号公報 甲第2-5号証:特開2018-104846号公報 甲第2-6号証:化学せんい(冊子ダウンロード 2014年2月版)日本化学繊維協会、42頁 https://www.jcfa.gr.jp/img/about_kasen/knowledge/ebook/index/chemical_fiber_book.pdf、印刷日2023年2月23日 甲第2-7号証:ランシール(登録商標) https://www.exlan.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2018/09/lanseal_jp_cn.pdf、印刷日2023年2月24日 証拠の表記は特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲2-1」のようにいう。 第5 取消理由(決定の予告)の概要 令和6年1月23日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由は、取り下げられたものとみなす令和5年10月25日付け訂正請求書により訂正された請求項に対するものであり、その概要は次のとおりである。 1.取消理由1-1(甲1-1に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項2~6に係る発明は、甲1-1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の請求項2~6に係る特許は、同条第1項の規定に違反してされたものである。 また、本件特許の請求項2~6、10に係る発明は、甲1-1に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項2~6、10に係る特許は、同条2項の規定に違反してされたものである。 2.取消理由1-2(甲1-2に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項2~10に係る発明は、甲1-2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、また、甲1-2に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項2~10に係る特許は、同条第1項又は同条2項の規定に違反してされたものである。 3.取消理由2-1(甲2-1に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項2~10に係る発明は、甲2-1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、また、甲2-1に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項2~10に係る特許は、同条第1項又は同条2項の規定に違反してされたものである。 第6 取消理由(決定の予告)についての判断 1 取消理由1-1(甲1-1の比較例1に基づく新規性・進歩性)について (1) 甲1-1に記載された発明 甲1-1の比較例1についてみると、その通気性不織布aは、実施例1と同様の通気性不織布aであること(【0099】)、メルトブロー不織布は、同様の方法により得ていること(【0100】)を考慮すると、甲1-1の比較例1として、「傾斜ワイヤー方式の湿式抄紙方法により、0.4dtexのポリエステル繊維を15質量%、7dtexのビニロン繊維を30質量%、17dtexのビニロン繊維を40質量%、2dtexの熱融着のポリエステル繊維を15質量%から構成された目付30g/m2の繊維集積体を作製し、その後、該繊維集積体をスチレンアクリル重合体(ガラス転移温度Tg30℃)固形分15%と難燃剤(リン酸メラミン)固形分15%の分散液に含浸後、乾燥熱処理して目付50g/m2、厚み0.45mm、剛難度480mg、平均孔径88mmの通気性不織布aを作製し(【0064】)、 熱可塑性樹脂として、温度230℃で21.18N負荷時におけるMFRが860g10分、融点163℃のポリプロピレン樹脂を用い、これに“キマソーブ”(登録商標)944(BASFジャパン(株)製)を1質量%添加したポリプロピレン樹脂組成物を使用し、押出機およびギヤポンプ、メルトブロー口金(孔ピッチ:1.0mm、孔径0.30mm)、圧縮空気発生装置および空気加熱機、捕集コンベア、および巻取機からなる装置を用いて、メルトブロー不織布の製造を、押出機に、前記ポリプロピレン樹脂組成物を投入し、加熱溶融させ、ギヤポンプを用いて一定量で計量し、メルトブロー口金に導き吐出し、口金下の鉛直方向に対して、シート進行方向の後方に捕集ドラムの中心が配されるように調整し、前記口金から溶融された熱可塑性樹脂をメルトブロー繊維流として噴射し、前記メルトブロー繊維流を、その捕集ドラムに対し、シート進行方向側に傾けて捕集するように噴射流量を調整しシート化した後、純水サクション法によってエレクトレット加工を行い、目付が30g/m2、平均繊維径が9.6μm、厚みが0.21mm、嵩密度が0.143g/cm3、平均孔径が84μm、平均繊維配向度が48度のメルトブロー不織布eを得(【0065】、【0066】及び【0100】)、 前記通気性不織布a上にホットメルト樹脂(低密度ポリエチレン(融点98℃、MI200g/10min))を散布し、さらにその上からメルトブロー不織布eをかぶせ熱プレスして得られた、エアフィルター用濾材H(【0068】及び【0101】)。」が記載されている。 この比較例1のエアフィルター用濾材Hを構成している通気性不織布aを形成している各繊維の単位長さ当たりの重量比は、それぞれの繊度の比となり、それぞれの繊維の含有量を前記重量比で除すことで、長さ比となり、0.4dtexのポリエステル繊維、7dtexのビニロン繊維、17dtexのビニロン繊維、2dtexの熱融着のポリエステル繊維の長さ比は、それぞれ0.375、0.043、0.024、0.075であり、長さ比の合計は0.516である。 このエアフィルター用濾材Hを構成している通気性不織布aを形成している各繊維の平均繊度を求めると、以下となる。 0.4dtexのポリエステル繊維の通気性不織布aにおける平均繊度 0.4×0.375/0.516 = 0.290(dtex) 7dtexのビニロン繊維の通気性不織布aにおける平均繊度 7×0.043/0.516 = 0.581(dtex) 17dtexのビニロン繊維の通気性不織布aにおける平均繊度 17×0.024/0.516 = 0.775(dtex) 2dtexの熱融着ポリエステル繊維の通気性不織布aにおける平均繊度 2×0.075/0.516 = 0.290(dtex) 上記計算値より、通気性不織布aの平均繊度は、0.29+0.581+0.775+0.290=1.94(dtex)となる。 この比較例1のエアフィルター用濾材Hを構成している通気性不織布aを形成している各繊維の繊維径は、本件明細書の段落【0045】から、構成する樹脂ごとに求めると以下のとおりとなる。なお、計算に際して、ポリエステル(PET)、ビニロンの一般的な比重として、それぞれ、1.38g/cc、1.28g/ccを用いた。 0.4dtexのポリエステル繊維の平均繊維経 6.1(μm) 7dtexのビニロン繊維の平均繊維径 26.4(μm) 17dtexのビニロン繊維の平均繊維径 41.1(μm) 2dtexの熱溶融ポリエステル繊維の平均繊維径 13.6(μm) これを利用して、このエアフィルター用濾材Hを構成している通気性不織布aを形成している各繊維の長さ比を考慮した平均繊維径を求めると、0.4dtexのポリエステル繊維の通気性不織布aにおける平均繊維径 6.1×0.375/0.516 = 4.43(μm) 7dtexのビニロン繊維の通気性不織布aにおける平均繊維径 26.4×0.043/0.516 = 2.2(μm) 17dtexのビニロン繊維の通気性不織布aにおける平均繊維径 41.1×0.024/0.516 = 1.91(μm) 2dtexの熱融着ポリエステル繊維の通気性不織布aにおける平均繊維径 13.6×0.075/0.516 = 1.98(μm) 上記計算値より、通気性不織布aの平均繊維径は、4.43+2.2+1.91+1.98=10.5(μm)となる。 通気性不織布aの厚みは、0.45(mm)、平均繊度が1.94(dtex)、目付が50g/m2、平均繊維径が10.5(μm)であるから、通気性不織布aの本件発明でいうところの「繊維間空隙サイズ」は156(=(100×450×1.94)/(50×10.5)-10.5)(μm)となる。 次に、この比較例1のエアフィルター用濾材Hを構成しているメルトブロー不織布eを形成しているポリプロピレン樹脂組成物は、「“キマソーブ”(登録商標)944(BASFジャパン(株)製)を1質量%添加した」のみであるから、一般的なポリプロピレン樹脂の比重0.91g/ccを用い、繊維の平均繊維径は9.6μmであることから、その平均繊度を本件明細書の段落【0045】に従い求めると、(π×0.91×(9.6)2)/400=0.659(dtex)となり、この数値と、エアフィルター用濾材Hを構成しているメルトブロー不織布eの厚みが0.21mm、目付が30g/m2であることから、メルトブロー不織布eの本件発明でいうところの「繊維間空隙サイズ」は38(=(100×210×0.659)/(30×9.6)-9.6)(μm)となる。 上記のことを踏まえて、上記比較例1として記載されているエアフィルター濾材Hを、上記の計算した通気性不織布aの平均繊維径、繊維間空隙サイズ及びメルトブロー不織布eの繊維間空隙サイズを併記して表記すると、甲1-1には、比較例1として以下の発明が記載されていると認められる。 <甲1-1発明> 「傾斜ワイヤー方式の湿式抄紙方法により、0.4dtexのポリエステル繊維を15質量%、7dtexのビニロン繊維を30質量%、17dtexのビニロン繊維を40質量%、2dtexの熱融着のポリエステル繊維を15質量%から構成された目付30g/m2の繊維集積体を作製し、その後、該繊維集積体をスチレンアクリル重合体(ガラス転移温度Tg30℃)固形分15%と難燃剤(リン酸メラミン)固形分15%の分散液に含浸後、乾燥熱処理して目付50g/m2、厚み0.45mm、剛難度480mg、平均孔径88mmであって、繊維間空隙サイズが156μmであり、平均繊維径が10.5μmである通気性不織布aを作製し、 熱可塑性樹脂として、温度230℃で21.18N負荷時におけるMFRが860g10分、融点163℃のポリプロピレン樹脂を用い、これに“キマソーブ”(登録商標)944(BASFジャパン(株)製)を1質量%添加したポリプロピレン樹脂組成物を使用し、押出機およびギヤポンプ、メルトブロー口金(孔ピッチ:1.0mm、孔径0.30mm)、圧縮空気発生装置および空気加熱機、捕集コンベア、および巻取機からなる装置を用いて、メルトブロー不織布の製造を、押出機に、前記ポリプロピレン樹脂組成物を投入し、加熱溶融させ、ギヤポンプを用いて一定量で計量し、メルトブロー口金に導き吐出し、口金下の鉛直方向に対して、シート進行方向の後方に捕集ドラムの中心が配されるように調整し、前記口金から溶融された熱可塑性樹脂をメルトブロー繊維流として噴射し、前記メルトブロー繊維流を、その捕集ドラムに対し、シート進行方向側に傾けて捕集するように噴射流量を調整しシート化した後、純水サクション法によってエレクトレット加工を行い、目付が30g/m2、平均繊維径が9.6μm、厚みが0.21mm、嵩密度が0.143g/cm3、平均孔径が84μm、平均繊維配向度が48度であり、繊維間空隙サイズが38μmであるメルトブロー不織布eを得、 前記通気性不織布a上にホットメルト樹脂(低密度ポリエチレン(融点98℃、MI200g/10min))を散布し、さらにその上からメルトブロー不織布eをかぶせ熱プレスして得られた、エアフィルター用濾材H。」 (2) 本件発明2と甲1-1発明との対比・判断 本件発明2と甲1-1発明とを対比する。 甲1-1発明の「通気性不織布a」及び「メルトブロー不織布e」は、本件発明2の「熱可塑性樹脂繊維からなる不織布層」に相当し、それぞれの平均繊維直径が、10.5μm及び9.6μmであることから、甲1-1発明の「メルトブロー不織布e」が、本件発明2の「前記不織布層のうち平均単繊維直径が最も小さい不織布層(A)」に相当する。 そして、甲1-1発明の「メルトブロー不織布e」の繊維間空隙サイズは、38μmであるから、Raが38μmということになり、甲1-1発明は、本件発明1の「下記式(1)で計算される繊維間空隙サイズRa(μm)が200μm以下である、積層不織布。 Ra=(100×Ta×da)/(Wa×Da)-Da ・・・式(1) ここで、 Ta: 不織布層(A)の厚み(μm) da: 不織布層(A)を構成する熱可塑性樹脂繊維の繊度(dtex) Wa: 不織布層(A)の目付(g/m2) Da: 不織布層(A)を構成する熱可塑性樹脂繊維の平均単繊維直径(μm)。」を満たす。 甲1-1発明の「通気性不織布a」が本件発明2の「不織布層(A)に接して積層する不織布層(B)」に相当し、その繊維間空隙サイズは、本件発明2の「繊維間空隙サイズRb」に相当し、本件発明2の「Rb=(100×Tb×db)/(Wb×Db)-Db ・・・式(2)ここで、」、「Tb: 不織布層(B)の厚み(μm) db: 不織布層(B)を構成する熱可塑性樹脂繊維の繊度(dtex) Wb: 不織布層(B)の目付(g/m2) Db: 不織布層(B)を構成する熱可塑性樹脂繊維の平均単繊維直径(μm)。」に従いRbを計算すると、156μmとなり、甲1-1発明においても、「Rb/Ra」は、4.1(=156/38)であるから、本件発明2の「前記不織布層(A)に接して積層する不織布層(B)のうち少なくとも一方について、下記式(2)で計算される繊維間空隙サイズRb(μm)と前記Raとの比Rb/Raが1.1以上である」を満足している。 そうすると、本件発明2と甲1-1発明は、以下の点で相違し、その余の点では一致している。 <相違点1-1-1> 積層不織布のそれぞれの層の接合方法について、本件発明2は、「前記不織布層同士がエンボス加工により熱接着されてなる」ものであるのに対し、甲1-1発明は、「前記通気性不織布a上にホットメルト樹脂(低密度ポリエチレン(融点98℃、MI200g/10min))を散布し、さらにその上からメルトブロー不織布eをかぶせ熱プレスして得られた」ものである点 以下、相違点について検討する。 本件発明2のエンボス加工により熱接着されてなる積層不織布と甲1-1発明のホットメルト樹脂を散布して熱プレスして得られる積層不織布とは構造が異なるから、相違点1-1-1は実質的な相違点である。よって、本件発明2は、甲1-1発明であるとはいえない。 そこで、相違点1-1-1に係る本件発明2の構成の容易想到性について検討する。 まず、積層不織布の接着方法としては、エンボス加工による熱接着と熱プレスとは、いずれも周知の手法ではあるものの、甲1-1において、比較例1であるところの甲1-1発明について、接着方法の変更を示唆する記載はない。 また、上記対比において本件発明2のRa、Rb及びRb/Raに倣って計算された甲1-1発明の各不織布層の厚みは、各不織布層の結合方法によって影響を受けるところ、甲1-1発明において接着方法を熱プレスからエンボス加工に変更した場合に、熱プレスの場合と同じ値となることを示す証拠はない上、得られる積層不織布の構造が異なることも踏まえると、かかる接着方法の変更によって、各不織布層の厚みは相違した値となると解するのが相当であるから、かかる接着方法の変更は、新たな相違点を生じる改変である。 そうすると、相違点1-1-1に係る本件発明2の構成は、当業者といえども容易に想到し得たものとはいえない。 よって、本件発明2は、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3) 本件発明3~6及び10について 本件発明3~6及び10は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであって、請求項2に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明2と同様に、甲1-1発明であるとはいえないし、また、甲1-1発明及びその他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4) 甲1-1における他の実施例及び比較例を引用発明とした場合について 甲1-1発明(比較例1)以外の甲1-1に記載された実施例又は比較例(以下「その余の実施例等」という。)に基づいて発明を認定し、かかる発明と本件発明2を対比すると、上記(2)の相違点1-1-1に加えて、以下の点でも相違する。 <相違点1-1-2> 本件発明2は、「不織布層(A)において、下記式(1)で計算される繊維間空隙サイズRa(μm)が30μm以上100μm以下であり」と特定するのに対し、甲1-1のその余の実施例等に係る発明のRaは30μm以上100μm以下の範囲でない点。 そこで、上記相違点1-1-2について検討するに、甲1-1において、その余の実施例等についてRaに係る着想は一切記載されておらず、また、Raの値を30以上とすることを示す証拠もないから、当該相違点1-1-2に係る本件発明2の構成は、当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。 また、相違点1-1-1については上記(2)で判断したとおり、相違点1-1-1に係る本件発明2の構成は、当業者といえども容易に想到し得たものとはいえない。 よって、本件発明2は、甲1-1のその余の実施例等に係る発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5) まとめ 上記のとおりであるから、取消理由1-1は、理由がない。 2 取消理由1-2(甲1-2の比較例2に基づく新規性、進歩性)について (1) 甲1-2に記載された発明 甲1-2の比較例2についてみると、積層不織布として、「芯成分に融点が260℃で固有粘度が0.65dl/gのポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、鞘成分に融点が130℃でMFRが18g/10分の高密度ポリエチレン(HDPE)を用いた、芯鞘複合質量比率が50/50、平均単繊維直径が16.3μm、カット長が38mmの芯鞘型複合繊維を原綿として用いて、カード工程を経て、積層繊維ウェブを形成し、次いで、得られた積層繊維ウェブを、熱処理機を用いて、温度が130℃、熱風風量が3.3m/分の条件で12秒間熱処理し、目付は19.8g/m2、厚みは1.50mm、比容積は75.8cm3/gの熱融着性不織布層(A)を形成し(【0083】)、 次いで、上ロールに金属製で水玉柄の彫刻がなされた接着面積率16%のエンボスロールを、下ロールに金属製フラットロールで構成される上下一対の熱エンボスロールを用いて、線圧を300N/cm、熱接着温度を80℃の条件で熱接着し、熱融着性不織布層(A)を形成し、形成した熱融着性不織布層(A)は、目付は22.0g/m2、厚みは0.20mm、比容積は10.1cm3/gであり(【0092】)、 次に、MFRが200g/10分のホモポリマーからなるポリプロピレン樹脂を押出機で溶融し、孔径φが0.30mm、孔深度が2mmの矩形口金から、紡糸温度が235℃、単孔吐出量が0.43g/分で紡出した糸条を、冷却固化した後、矩形エジェクターでエジェクターの圧力を0.30MPaとした圧縮エアによって牽引、延伸し、前記の熱融着性不織布層(A)の積層不織布上に捕集することで目付は30.0g/m2であり、厚みが0.30mmであり、平均単繊維直径は12.9μmのスパンボンド不織布層(B)を形成し(【0083】、【0092】)、 形成した熱融着性不織布層(A)とスパンボンド不織布層(B)の積層体を、熱処理機を用いて、温度が160℃、熱風風量が3.3m/分の条件で12秒間熱処理して得られた(【0083】)、積層不織布。」が記載されている。 この比較例2の積層不織布を構成しているスパンボンド不織布層(B)は、目付が30.0g/m2であり、平均単繊維直径は、12.9μm、厚みが0.30mmである。スパンボンド不織布層(B)の繊度は記載されていないが、一般的なポリプロピレン樹脂の比重0.91g/ccを用い、平均繊度を本件明細書の段落【0045】に従い求めると、(π×0.91×(12.9)2)/400=1.19(dtex)となる。これらの数値から、スパンボンド不織布層(B)の本件発明でいうところの「繊維間空隙サイズ」は79(μm)となる。 次に、この比較例2の積層不織布を構成している熱融着性不織布層(A)は、目付が22.0g/m2であり、平均単繊維直径は、16.3μm、厚みが0.20mmである。熱融着性不織布層(A)の繊度は記載されていないが、本件明細書の段落【0045】の計算式から「芯成分に融点が260℃で固有粘度が0.65dl/gのポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、鞘成分に融点が130℃でMFRが18g/10分の高密度ポリエチレン(HDPE)を用いた、芯鞘複合質量比率が50/50」である芯鞘繊維の比重を1.17g/ccとして求めると、2.44(dtex)=(π×1.17×(16.3)2)/400となり、これらの数値から、熱融着性不織布層(A)の本件発明でいうところの「繊維間空隙サイズ」は120(μm)となる。 上記のことを踏まえて、上記比較例2として記載されている積層不織布を、上記の計算した繊度及び繊維間空隙サイズを併記して表記すると、甲1-2には、比較例2として以下の発明が記載されていると認められる。 <甲1-2発明> 「芯成分に融点が260℃で固有粘度が0.65dl/gのポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、鞘成分に融点が130℃でMFRが18g/10分の高密度ポリエチレン(HDPE)を用いた、芯鞘複合質量比率が50/50、平均単繊維直径が16.3μm、カット長が38mmの芯鞘型複合繊維を原綿として用いて、カード工程を経て、積層繊維ウェブを形成し、次いで、得られた積層繊維ウェブを、熱処理機を用いて、温度が130℃、熱風風量が3.3m/分の条件で12秒間熱処理し、目付は19.8g/m2、厚みは1.50mm、比容積は75.8cm3/g、繊度2.44dtex、繊維間空隙サイズが120μmである熱融着性不織布層(A)を形成し、次に、MFRが200g/10分のホモポリマーからなるポリプロピレン樹脂を押出機で溶融し、孔径φが0.30mm、孔深度が2mmの矩形口金から、紡糸温度が235℃、単孔吐出量が0.43g/分で紡出した糸条を、冷却固化した後、矩形エジェクターでエジェクターの圧力を0.30MPaとした圧縮エアによって牽引、延伸し、前記の熱融着性不織布層(A)の積層不織布上に捕集することで目付は30.0g/m2であり、平均単繊維直径は12.9μm、繊度1.19dtex、繊維間空隙サイズが79μmであるスパンボンド不織布層(B)を形成し、形成した熱融着性不織布層(A)とスパンボンド不織布層(B)の積層体を、熱処理機を用いて、温度が160℃、熱風風量が3.3m/分の条件で12秒間熱処理して得られた、積層不織布。」 (2) 本件発明2と甲1-2発明との対比・判断 本件発明2と甲1-2発明とを対比する。 甲1-2発明の「熱融着性不織布層(A)」及び「スパンボンド不織布層(B)」は、本件発明2の「熱可塑性樹脂繊維からなる不織布層」に相当し、スパンボンド不織布層(B)の平均単繊維直径は12.9μmであり、熱融着性不織布層(A)を構成する芯鞘型複合繊維の平均単繊維直径は16.3μmであることから、「スパンボンド不織布層(B)」が本件発明2の「前記不織布のうち平均単繊維直径が最も小さい不織布層(A)」に相当する。 そうすると、甲1-2発明の「形成した熱融着性不織布層(A)とスパンボンド不織布層(B)の積層体を、熱処理機を用いて、温度が160℃、熱風風量が3.3m/分の条件で12秒間熱処理して得られた、積層不織布」は、本件発明2の「熱可塑性樹脂繊維からなる不織布層が積層されてなる積層不織布」に相当する。 甲1-2発明の「スパンボンド不織布層(B)」の繊維間空隙サイズは79μmであるから、本件発明2のRaが79μmということになり、甲1-2発明は、本件発明2の「下記式(1)で計算される繊維間空隙サイズRa(μm)が200μm以下である、積層不織布。 Ra=(100×Ta×da)/(Wa×Da)-Da ・・・式(1) ここで、 Ta: 不織布層(A)の厚み(μm) da: 不織布層(A)を構成する熱可塑性樹脂繊維の繊度(dtex) Wa: 不織布層(A)の目付(g/m2) Da: 不織布層(A)を構成する熱可塑性樹脂繊維の平均単繊維直径(μm) 。」を満たす。 甲1-2発明の「熱融着性不織布層(A)」が本件発明2の「不織布層(A)に接して積層する不織布層(B)」に相当し、その繊維間空隙サイズは、本件発明2の「繊維間空隙サイズRb」に相当し、本件発明2の「Rb=(100×Tb×db)/(Wb×Db)-Db ・・・式(2) ここで、」「Tb: 不織布層(B)の厚み(μm) db: 不織布層(B)を構成する熱可塑性樹脂繊維の繊度(dtex) Wb: 不織布層(B)の目付(g/m2) Db: 不織布層(B)を構成する熱可塑性樹脂繊維の平均単繊維直径(μm)。」に従いRbを計算すると、120μmとなり、甲1-2発明においても、「Rb/Ra」は、7.36(=120/16.3)であるから、本件発明2の「前記不織布層(A)に接して積層する不織布層(B)のうち少なくとも一方について、下記式(2)で計算される繊維間空隙サイズRb(μm)と前記Raとの比Rb/Raが1.1以上である」を満足している。 そうすると、本件発明2と甲1-2発明は、以下の点で相違し、その余の点では一致している。 <相違点1-2-1> 積層不織布のそれぞれの層の接合方法について、本件発明2は、「前記不織布層同士がエンボス加工により熱接着されてなる」ものであるのに対し、甲1-2発明は、「形成した熱融着性不織布層(A)とスパンボンド不織布層(B)の積層体を、熱処理機を用いて、温度が160℃、熱風風量が3.3m/分の条件で12秒間熱処理して得られた」ものである点 以下、相違点について検討する。 本件発明2のエンボス加工により熱接着されてなる積層不織布と甲1-2発明の熱処理機を用いて、温度が160℃、熱風風量が3.3m/分の条件で12秒間熱処理して得られた積層不織布とは構造が異なるから、相違点1-2-1は実質的な相違点である。よって、本件発明2は、甲1-2発明であるとはいえない。 そこで、相違点1-2-1に係る本件発明2の構成の容易想到性について検討する。 まず、積層不織布の接着方法としては、エンボス加工による熱接着と熱処理機での接着とは、いずれも周知の手法ではあるものの、甲1-2において、比較例2であることころの甲1-2発明について、接着方法の変更を示唆する記載はない。 また、上記対比において本件発明2のRa、Rb及びRb/Raに倣って計算された甲1-2発明の各不織布層の厚みは、各不織布層の結合方法によって影響を受けるところ、甲1-2発明において接着方法を熱処理機での接着からエンボス加工による熱接着に変更した場合に、熱処理機での接着と同じ値になることを示す証拠はない上、得られる積層不織布の構造が異なることも踏まえると、むしろ相違した値となると解するのが相当であるから、各不織布層の厚みは、かかる接着方法の変更によって、新たな相違点を生じるものである。 そうすると、相違点1-2-1に係る本件発明2の構成は、当業者といえども容易に想到し得たものとはいえない。 よって、本件発明2は、甲1-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3) 本件発明3~10について 本件発明3~10は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであって、請求項2に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明2と同様に、甲1-2発明であるとはいえないし、甲1-2発明及びその他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4) 甲1-2におけるその余の実施例等を引用発明とした場合について ア 甲1-2の実施例6を引用発明として認定した場合 甲1-2の実施例6発明を認定し、上記(2)と同様に対比を行うと、以下の点で相違し、その余の点では一致する。なお、上記(2)の相違点1-2-1の点では相違しない。 なお、甲1-2の実施例6の熱融着性不織布層(A)(不織布層(A))は、目付が15.5g/m2であり、平均単繊維直径は、16.3μm、厚みが1.10mmである。熱融着性不織布層(A)の繊度は記載されていないが、本件明細書の段落【0045】の計算式から「芯成分に融点が260℃で固有粘度が0.65dl/gのポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、鞘成分に融点が130℃でMFRが18g/10分の高密度ポリエチレン(HDPE)を用いた、芯鞘複合質量比率が50/50」である芯鞘繊維の比重を1.17g/ccとして求めると、(π×1.17×(16.3)2)/400=2.44(dtex)となる。そして、これらの数値からRbを算出すると、 Rb=(100×Tb×db)/(Wb×Db)-Db =(100×1100×2.44)/(15.5×16.3)-16.3 =1046 であり、熱融着性不織布層(A)の本件発明でいうところの「繊維間空隙サイズ」は1046(μm)となる。 <相違点1-2-2> 本件発明2は、「不織布層(A)において、下記式(2)で計算される繊維間空隙サイズRb(μm)が100μm以上500μm以下であり)」と特定するのに対し、甲1-2の実施例6に記載の発明のRbは1046μmである点。 そこで、上記相違点1-2-2について検討するに、甲1-2において、実施例6について、Rbに係る着想は一切記載されておらず、また、Rbの値を100μm以上500μm以下とすることを示す証拠もないから、相違点1-2-2に係る本件発明2の構成は、当業者といえども容易に想到し得ないものである。 イ 甲1-2の比較例2以外の比較例、又は実施例6以外の実施例を引用発明とした場合 甲1-2の比較例2以外の比較例、又は実施例6以外の実施例を引用発明とした場合には、少なくとも上記相違点1-2-1又は上記相違点1-2-2で相違することになるので、上記(2)又は上記アと同様に判断される。 ウ まとめ 上記ア及びイのとおり、本件発明2は、甲1-2のその余の実施例等として記載されている発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5) まとめ 上記のとおりであるから、取消理由1-2は、理由がない。 3 取消理由2-1(甲2-1の実施例9bに基づく新規性・進歩性)について (1) 甲2-1に記載された発明 甲2-1には、実施例9b(実施例9aと同様の方法及び熱接着繊維により製造)として記載されているエアレイド不織布として、「ネット凹部(22)を有する樹脂製の繊維捕集ネット(27)上に、ポリエチレンの鞘及びポリエチレンテレフタレートの芯(PE/PET)を有する繊度1.7dtex及び繊維長3mmの熱接着性繊維(熱接着性芯鞘型複合繊維)(帝人(株)製、品名TJ04V4)を層厚1.8mm(段落【0081】)で堆積させた(以下「第1層」という。)後、ポリエチレンの鞘及びポリプロピレンの芯(PE/PP)を有する繊度0.2dtex及び繊維長3mmの熱接着性繊維(宇部エクシモ(株)製、品名エアリモQCE-K)を層厚1.1mm(段落【0084】)で積層し(以下「第2層」という。)、147℃で加熱して繊維間を熱融着し、層厚2.14mm(段落【0100】、【0116】の表4)として、凹部(1)及び凸部(2)を一方の主面(7a)に有する二層構造のエアレイド不織布(20)。」が記載されている。 第2層の層厚は、第1層と第2層とを熱融着させる前の第1層の層厚1.8mmと、第2層の層厚1.1mmと、これらの熱融着後の積層不織布の層厚2.14mmとから、熱融着後の第2層の層厚を比例計算により求めると、第2層の層厚は、812μm(=2.14mm×1.1/(1.8+1.1))となる。 さらに、第2層の目付は80g/m2(段落【0084】)、平均単繊維直径は、D=(d×400/π/ρ)1/2という式に対し、比重ρとして0.92g/cc(この数値は、ポリエチレンの鞘及びポリプロピレンの芯(PE/PP)からなる熱接着性繊維について、化学せんい、日本化学繊維協会、第42ページ(甲2-6)にポリエチレン(PE)の比重0.94g/cc~0.96g/cc及びポリプロピレンの比重0.91g/ccを参考に仮定したもの。)を代入することで求めると、5.3μmとなる。 上記の第2層の厚み、繊度、目付、平均単繊維直径から、第2層の本件発明でいうところの「繊維間空隙サイズ」を求めると、33μmとなる。 第1層の層厚は、第1層と第2層とを熱融着させる前の第1層の層厚1.8mmと、第2層の層厚1.1mmと、これらの熱融着後の実施例9bの積層不織布の層厚2.14mmとから、熱融着後の第1の層厚を比例計算により求めると、第1の層厚は、1328μm(=2.14mm×1.8/(1.8+1.1))となる。 また、第1層の目付は80g/m2(段落【0081】)、平均単繊維直径は、D=(d×400/π/ρ)1/2という式に対し、繊維密度ρとして1.1g/cc(この数値は、ポリエチレンの鞘及びポリエチレンテレフタレートの芯(PE/PET)を有する熱接着性繊維について、化学せんい、日本化学繊維協会、第42ページ(甲2-6)にポリエチレン(PE)の比重0.94g/cc~0.96g/cc及びポリエステルの比重1.38g/ccを参考に仮定したもの。)を代入することで求めると、14μmとなる。 上記の第1層の厚み、繊度、目付、平均単繊維直径から、第1層の本件発明でいうところの「繊維間空隙サイズ」を求めると、188μmとなる。 上記のことを踏まえて、上記実施例9bとして記載されているエアレイド不織布を、上記の厚み、繊度、目付、平均単繊維直径、繊維間空隙サイズも合わせて表記すると、甲2-1には、実施例9bとして以下の発明が記載されていると認められる。 <甲2-1発明> 「ネット凹部(22)を有する樹脂製の繊維捕集ネット(27)上に、ポリエチレンの鞘及びポリエチレンテレフタレートの芯(PE/PET)を有する繊度1.7dtex及び繊維長3mmの熱接着性繊維(熱接着性芯鞘型複合繊維)(帝人(株)製、品名TJ04V4)を層厚1.8mmで堆積させた(以下「第1層」という。)後、ポリエチレンの鞘及びポリプロピレンの芯(PE/PP)を有する繊度0.2dtex及び繊維長3mmの熱接着性繊維(宇部エクシモ(株)製、品名エアリモQCE-K)を層厚1.1mmで積層し(以下「第2層」という。)、147℃で加熱して繊維間を熱融着し、凹部(1)及び凸部(2)を一方の主面(7a)に有する二層構造のエアレイド不織布(20)であって、第1層の層厚は1328μm、目付80g/m2、繊度は1.7dtex、平均単繊維直径14μm、繊維間空隙サイズは188μmであり、第2層の層厚は812μm、目付80g/m2、繊度は0.2dtex、平均単繊維直径5.3μm、繊維間空隙サイズは33μmである、二層構造のエアレイド不織布(20)。」 (2) 本件発明2と甲2-1発明との対比・判断 本件発明2と甲2-1発明とを対比する。 甲2-1発明の「二層構造のエアレイド不織布(20)」は、本件発明2の「熱可塑性樹脂繊維からなる不織布層が積層されてなる積層不織布」に相当する。 甲2-1発明の積層不織布は、第1層と、第2層とを加熱し繊維間を熱融着させることにより得られた二層不織布であり、この第1層の平均単繊維直径は14μm、第2層の平均単繊維直径は5.3μmであるから、平均単繊維直径の小さい第2層が本件発明2の「前記不織布のうち平均単繊維直径が最も小さい不織布層(A)」に相当する。 そして、甲2-1発明の「第2層」の繊維間空隙サイズは、33μmであるから、Raが33μmということになり、甲2-1発明は、本件発明2の「下記式(1)で計算される繊維間空隙サイズRa(μm)が200μm以下である、積層不織布。 Ra=(100×Ta×da)/(Wa×Da)-Da ・・・式(1) ここで、 Ta: 不織布層(A)の厚み(μm) da: 不織布層(A)を構成する熱可塑性樹脂繊維の繊度(dtex) Wa: 不織布層(A)の目付(g/m2) Da: 不織布層(A)を構成する熱可塑性樹脂繊維の平均単繊維直径(μm)。」を満たす。 甲2-1発明の「第1層」が本件発明2の「不織布層(A)に接して積層する不織布層(B)」に相当し、その繊維間空隙サイズは、本件発明2の「繊維間空隙サイズRb」に相当し、本件発明2の「Rb=(100×Tb×db)/(Wb×Db)-Db ・・・式(2)ここで、」、「Tb: 不織布層(B)の厚み(μm) db: 不織布層(B)を構成する熱可塑性樹脂繊維の繊度(dtex) Wb: 不織布層(B)の目付(g/m2) Db: 不織布層(B)を構成する熱可塑性樹脂繊維の平均単繊維直径(μm)。」に従いRbを計算すると、188μmとなり、甲1-2発明においても、「Rb/Ra」は、5.70(=188/33)であるから、本件発明2の「前記不織布層(A)に接して積層する不織布層(B)のうち少なくとも一方について、下記式(2)で計算される繊維間空隙サイズRb(μm)と前記Raとの比R b/Raが1.1以上である」を満足している。 そうすると、本件発明2と甲2-1発明は、以下の点で相違し、その余の点で一致している。 <相違点2-1-1> 積層不織布のそれぞれの層の接合方法について、本件発明2は、「前記不織布層同士がエンボス加工により熱接着されてなる」ものであるのに対し、甲2-1発明は、層間を「147℃で加熱して繊維間を熱融着し」たものである点。 以下、相違点について検討する。 本件発明2のエンボス加工により熱接着されてなる積層不織布と甲2-1発明の147℃で加熱して繊維間を熱融着して得られた積層不織布とは構造が異なるから、相違点2-1-1は実質的な相違点である。よって、本件発明2は、甲2-1発明であるとはいえない。 そこで、相違点2-1-1に係る本件発明2の構成の容易想到性について検討する。 まず、積層不織布の接着方法としては、エンボス加工による熱接着と加熱して熱融着することとは、ともに周知の手法ではあるものの、実施例9bであるところの甲2-1発明について、接着方法の変更を示唆する記載はない。 また、上記対比において本件発明2のRa、Rb及びRb/Raの値に倣って計算された甲2-1発明の各不織布層の厚みは、各不織布層の結合方法によって影響を受けるところ、甲2-1発明において接着方法を熱融着からエンボス加工による熱接着に変更した場合に、熱融着の場合と同じ値となることを示す証拠はない上、得られる積層不織布の構造が異なることも踏まえると、かかる接着方法の変更によって、各不織布層の厚みは相違した値となると解するのが相当である。そうすると、かかる接着方法の変更は、新たな相違点を生じる改変であるから、相違点2-1-1に係る本件発明2の構成は、当業者といえども容易に想到し得たものとはいえない。 よって、本件発明2は、甲2-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3) 本件発明3~10について 本件発明3~10は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであって、請求項2に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明2と同様に、甲2-1発明であるとはいえないし、甲2-1発明及びその他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4) まとめ 上記のとおりであるから、取消理由2-1は、理由がない。 第7 取消理由(決定の予告)に採用しなかった申立理由について 申立人1の上記第4に記載の申立理由のうち、上記取消理由(決定の予告)に採用しなかった申立理由は、実質的には、申立理由1-3(甲1-3に基づく新規性、進歩性)、申立理由1-4(サポート要件)であり、申立人2の上記第4に記載の申立理由のうち、上記取消理由(決定の予告)に採用しなかった申立理由は、申立理由2-1(サポート要件)、申立理由2-2(明確性)、申立理由2-4(甲2-2に基づく新規性、進歩性)、申立理由2-5(甲2-3に基づく新規性、進歩性)であるので、記載要件については合わせて検討し、新規性及び進歩性については順に検討する。 1 申立理由2-2(明確性)について (1) 明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 そこで、検討する。 (2) 特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。 (3) 明確性要件の判断 ア 上記第4の2(2)に記載した申立理由ア、イについて 特許法第36条第6項第2号の要件は、「特許を受けようとする発明が明確であること」を要件とし、それに尽きるところ、請求項1における「前記不織布層のうち平均単繊維直径が最も小さい不織布層(A)」との記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないし、また、請求項1における式(1)はその記載自体から明確であるから、当該理由には理由がない。なお、モデルの理解と特許請求の範囲の明確性とは関係しない。 イ 上記第4の2(2)に記載した申立理由ウ、エについて 当該申立理由は、本件訂正により解消している。 (4)まとめ 以上のとおり、本件特許の請求項2~10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、申立理由2-2によって本件特許の請求項2~10に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由1-4(サポート要件)及び申立理由2-1(サポート要件)について (1) サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2) 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。 (3) 発明の詳細な説明の記載 本件特許明細書の発明の詳細な説明【0009】によると、本件発明2~10の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「衛材用不織布を用いた部材内の快適性を保つために十分な速乾性を有し、かつ吸水性に優れた積層不織布を提供すること」である。 そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0012】、【0056】~【0064】の記載から、式(1)で計算される繊維間空隙サイズRa(μm)、式(2)で計算される繊維間空隙サイズRb(μm)、及び、これらの比Rb/Raと速乾性の関係を理解することができる。 また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0113】~【0148】の記載から、本件発明2で特定するRa、Rb、Rb/Raの数値範囲を充足する積層不織布である実施例1、5~7は、本件発明2で特定するRa、Rb、Rb/Raの数値範囲を充足していない実施例2~4、比較例1に比べて、吸水速乾性に優れることが理解できる。 そうすると、本件発明2は、発明の詳細な説明に記載された発明で、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものである。また、本件発明3~10は、本許発明2における特定事項をさらに限定するものであるから、本件発明2と同様に、発明の課題を解決できると認識できるものである。 したがって、本件特許の請求項2~10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるといえない。 (4)申立人らの主張について 申立人らは、上記第4の1(4)及び上記第4の2(1)のとおり主張し、さらに、申立人2は、令和6年5月23日提出の意見書において、本件発明2の「エンボス加工」は、明細書にサポートされている範囲を超えて特許を請求している旨主張する。 しかしながら、いずれの主張も、上記(3)のとおり、発明の詳細な説明に記載された課題とその解決手段に係る説明及び具体例の開示に照らして、本件発明2~10は、発明の課題を解決できると認識できるものであるとの判断を左右するものではなく、採用できない。 3 申立理由1-3(甲1-3に基づく新規性、進歩性)について 申立人1による申立理由1-3は、本件訂正前の請求項1、6~10を対象とするものである。そして、本件発明2は、本件訂正前の請求項2で特定されていた事項を更に限定するものであるから、本発発明2は、申立理由1-3の対象ではない。また、本件発明6~10は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであって、請求項2に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明2と同様に申立理由1-3の対象ではない。 4 申立理由2-4(甲2-2に基づく新規性、進歩性)について (1) 甲2-2に記載された発明 甲2-2には、実施例1として記載されている吸収性物品の表面材として、「第1層の繊維として「ESC-HB」を混合して坪量15、繊度3、配合率100%、隙間253.7、厚み0.27のウェッブを形成し、第1層以外の層(吸収体側層)として、「NBF/ESC-HB」を混合して坪量10、繊度「2/3」、配合率「70/30」、空隙219.1、厚み0.23のウェッブを形成して積層し、上記第1層のウェッブの上面側をメッシュ上面にのせた状態で、熱風貫通式処理機によって、143℃にて10秒間処理して得られた不織布であって、全体の坪量は25、厚みは0.30、空隙は273である不織布。」が記載されている。 ここで、繊維の種類のNBFは、ポリエチレンーポリプロピレン複合繊維であり、ESC-HBは、ポリエチレン-ポリプロピレン複合繊維である(段落【0027】)。 第1層及び第2層の層厚は、全体の厚み0.30をそれぞれのもとの厚みで割り戻し、第1層は0.162mm(=0.30×(0.27/(0.27+0.23))、第2層は0.138mm(=0.30×(0.23/(0.27+0.23))となる。 第1層と第2層の繊度は、第1層は表1から3デニール(段落【0019】)、第2層は、表1の「2/3」の表記は、「NBF/ESC-HB」という複合繊維のそれぞれの繊度を表記していて、その配合比が70/30であることから、2.3デニールであるので、それぞれ単位換算すると、第1層は3.33dtex、第2層は、2.6dtexとなる。 第1層と第2層の平均単繊維直径は、本件特許明細書の段落【0045】に記載されている式を変形した式(D=(d×400/π/ρ)1/2)から求め、第1層は21.5μm、第2層は19.0μmとなる。 (この時の、繊維密度ρは0.92g/cm3とした。この数値は、化学せんい、日本化学繊維協会、第42ページ(甲6)にポリエチレン(PE)の比重0.94~0.96及びポリプロピレンの比重0.91と記載されていることに基づく。) 第1層及び第2層の目付は、坪量と同義であるから、表1から、第1層の目付は15、第2層の目付は10である。 上記の第1層及び第2層の厚み、繊度、目付、平均単繊維直径から、本件発明でいうところの「繊維間空隙サイズ」を求めると、第1層の「繊維間空隙サイズ」は、146μm(=(100×162×3.33)/(15×21.5)-21.5)であり、第2層の「繊維間空隙サイズ」は、169μm(=(100×138×2.6)/(10×19)-19)となる。 上記のことを踏まえて、上記実施例1として記載されている不織布を、上記の厚み、繊度、目付、平均単繊維直径、繊維間空隙サイズも合わせて表記すると、甲2-2には、実施例1として以下の発明が記載されていると認められる。 <甲2-2発明> 「第1層の繊維として「ESC-HB」を混合して坪量15、繊度3、配合率100%、空隙253.7、厚み0.27のウエッブを形成し、第1層以外の層(吸収体側層)として、「NBF/ESC-HB」を混合して坪量10、繊度「2/3」、配合率「70/30」、空隙219.1、厚み0.23のウエッブを形成して積層し、上記第1層のウェッブの上面側をメッシュ上面にのせた状態で、熱風貫通式処理機によって、143℃にて10秒間処理して得られた不織布であって、全体の坪量は25、厚みは0.30、空隙は273であって、第1層の厚み162μm、繊度3.33dtex、目付15、平均単繊維直径21.5μm、本件発明における繊維間空隙サイズ146μmであり、第2層の厚み138μm、繊度2.6dtex、目付10、平均単繊維直径19.0μm、本件発明における繊維間空隙サイズ169μmである、不織布。」 (2) 本件発明2と甲2-2発明との対比・判断 本件発明2と甲2-2発明とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点では一致している。 <相違点2-2-1> 本件発明2は、「不織布層(A)において、下記式(1)で計算される繊維間空隙サイズRa(μm)が30μm以上100μm以下であり、Rb(μm)と前記Raとの比Rb/Raが1.1以上であり、」と特定するのに対し、甲2-2発明のRaは169μmで、Rb/Raは0.864である点 <相違点2-2-2> 不織布層の接合について、本件発明2は、「前記不織布層同士がエンボス加工により熱接着されてなる」と特定するのに対し、甲2-2発明は、「のせた状態で、熱風貫通式処理機によって、143℃にて10秒間処理して得られた」ものである点 そこで、相違点2-2-1について検討するに、甲2-2発明において、繊維間空隙サイズRa、及びRb/Raを変化させる動機はなく、変化させて相違点2-2-1に係る本件発明2を満たすことは当業者といえども容易に想到し得たものとはいえない。 さらに、相違点2-2-2について検討するに、かかる接着方法の変更は、上記相違点2-2-2に係る数値に影響する改変である。 そうすると、本件発明2は、甲2-2発明及びその他の提示された証拠に基づいても容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3) 本件発明3~10について 本件発明3~10は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであって、請求項2に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明2と同様に、甲2-2発明であるとはいえないし、甲2-2発明及びその他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものではない。 (4) まとめ 上記のとおりであるから、申立理由2-4は、理由がない。 5 申立理由2-5(甲2-3に基づく新規性、進歩性)について (1) 甲2-3に記載された発明 甲2-3には、実施例2として記載されている積層不織布として「ポリエチレンテレフタレート(PET)重合体からなる、スパンボンド法(SB)により製造された疎水性長繊維不織布(エクーレ、東洋紡(株)製、単糸繊度1.8デニール、目付10g/m2、厚さ0.09mm)上に、親水層となるポリノジック短繊維(タフセル(TF)、東洋紡(株)製、単糸繊度1デニール、単糸長38mm)と超吸水繊維(ランシール、東洋紡(株)製、単糸繊度2.6デニール、単糸長38mm)を70:30の割合で混綿した目付60(42/18)g/m2の短繊維ウェブを乗せ、ニードルパンチ法(NP)によりPET層表面にTFが部分的に露出するよう積層した、厚さ580μmの積層不織布。」が記載されている。 実施例2として記載されている積層不織布の疎水性長繊維不織布の膜厚は、親水層と疎水層を積層した後の層厚(0.58mm=580μm)を、積層する前の親水層の目付(60g/m2)と疎水層の目付(10g/m2)で比例計算し、疎水層の膜厚は83μm(=580×10/(60+10))であり、親水層の膜厚は、497μm(=580×60/(10+60))である。 疎水層と親水層の繊度は、単位変換すると、疎水層が2dtex、親水層が1.64dtex(=(1.0×0.7+2.6×0.3)/9×10=1.48 /9×10)である。 疎水層と親水層の平均単繊維直径は、本件特許明細書の段落【0045】に記載されている式を変形した式(D=(d×400/π/ρ)1/2)から求める。この時の親水層の比重ρは1.4g/cc(この数値は、ポリノジック短繊維(タフセル(TF)、東洋紡(株)製、単糸繊度1デニール、単糸長38mm)と超吸水繊維(ランシール、東洋紡(株)製、単糸繊度2.6デニール、単糸長38mm)を70:30の割合で混綿しているので、化学せんい、日本化学繊維協会、第42頁(甲6)にポリノジック繊維の比重1.50g/cc~1.52g/cc及びアクリル系繊維の比重1.28g/ccと記載されていることに基づき、((1.50×0.7+1.28×0.3)+(1.52×0.7+1.28×0.3))/2=1.4として、仮定したもの。)を、疎水層の比重ρは1.38g/cc(ポリエステル(PET)の一般的な比重として、1.38g/ccとした。)を用いた。 そうすると、平均単繊維直径は、疎水層は21.5μm(=(2×400/π/1.38)1/2)、親水層は、12.2μm(=(1.64×400/π/1.4)1/2)である。 上記の疎水層と親水層の厚み、繊度、目付、平均単繊維直径から、本件発明でいうところの「繊維間空隙サイズ」を求めると、親水層の「繊維間空隙サイズ」は、99.1μm(=(100×497×1.64)/(60×12.2)-12.2)であり、疎水層の「繊維間空隙サイズ」は、55.7μm(=(100×83×2)/(10×21.5)-21.5)となる。 上記のことを踏まえて、上記実施例2として記載されている不織布を、上記の厚み、繊度、目付、平均単繊維直径、繊維間空隙サイズも合わせて表記すると、甲2-3には、実施例2として以下の発明が記載されていると認められる。 <甲2-3発明> 「ポリエチレンテレフタレート(PET)重合体からなる、スパンボンド法(SB)により製造された疎水性長繊維不織布(エクーレ、東洋紡(株)製、単糸繊度1.8デニール、目付10g/m2、厚さ0.09mm、)上に、親水層となるポリノジック短繊維(タフセル(TF)、東洋紡(株)製、単糸繊度1デニール、単糸長38mm)と超吸水繊維(ランシール、東洋紡(株)製、単糸繊度2.6デニール、単糸長38mm)を70:30の割合で混綿した目付60(42/18)g/m2の短繊維ウェブを乗せ、ニードルパンチ法(NP)によりPET層表面にTFが部分的に露出するよう積層した、疎水層と親水層からなる厚さ580μmの積層不織布であって、疎水層の厚み83μm、繊度2dtex、目付10g/m2、平均単繊維直径21.5μm、繊維間空隙サイズ55.7μmであり、親水層の厚み497μm、繊度1.64dtex、目付60(48/12)g/m2、平均単繊維直径12.2μm、繊維間空隙サイズは99.1μm である積層不織布。」 (2) 本件発明2と甲2-3発明との対比・判断 甲2-3発明の「積層不織布」は、熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレート(PET)重合体、ポリノジック短繊維(タフセル(TF)、東洋紡(株)製)、超吸水繊維(ランシール、東洋紡(株))を含む、2層の不織布からなるものであるから、本件発明1の「熱可塑性樹脂繊維からなる不織布層が積層されてなる積層不織布」に相当する。 甲2-3発明の「疎水層」と「親水層」の平均単繊維直径は、21.5μmと12.2μmであるから、平均単繊維直径の小さい「親水層」が本件発明1の「前記不織布のうち平均単繊維直径が最も小さい不織布層(A)」に相当する。 そして、甲2-3発明の「親水層」の繊維間空隙サイズは、99.1μmであるから、Raが99.1μmということになり、甲2-3発明は、本件発明1の「下記式(1)で計算される繊維間空隙サイズRa(μm)が30μm以上100μm以下である、積層不織布。 Ra=(100×Ta×da)/(Wa×Da)-Da ・・・式(1) ここで、 Ta: 不織布層(A)の厚み(μm) da: 不織布層(A)を構成する熱可塑性樹脂繊維の繊度(dtex) Wa: 不織布層(A)の目付(g/m2) Da: 不織布層(A)を構成する熱可塑性樹脂繊維の平均単繊維直径(μm)。」を満たす。 そうすると、本件発明2と甲2-3発明は、 「熱可塑性樹脂繊維からなる不織布層が積層されてなる積層不織布であって、前記不織布層のうち平均単繊維直径が最も小さい不織布層(A)とし、前記不織布層(A)に接して積層する不織布層(B)とする、下記式(1)で計算される繊維間空隙サイズRa(μm)が30μm以上100μm以下である、積層不織布。 Ra=(100×Ta×da)/(Wa×Da)-Da ・・・式(1) ここで、 Ta: 不織布層(A)の厚み(μm) da: 不織布層(A)を構成する熱可塑性樹脂繊維の繊度(dtex) Wa: 不織布層(A)の目付(g/m2) Da: 不織布層(A)を構成する熱可塑性樹脂繊維の平均単繊維直径(μm)。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点2-3-1> 本件発明2は、「不織布層(B)のうち少なくとも一方について、下記式(2)で計算される繊維間空隙サイズRb(μm)が100μm以上500μm以下であり、Rb(μm)と前記Raとの比Rb/Raが1.1以上であ」るのに対し、甲2-3発明のRbは55.7μm、Rb/Raは0.56(=55.7/99.1)である点 <相違点2-3-2> 不織布層の接合について、本件発明2は、「前記不織布層同士がエンボス加工により熱接着されてなる」と特定するのに対し、甲2-3発明は、「ニードルパンチ法(NP)によりPET層表面にTFが部分的に露出するよう積層した」ものである点 以下、相違点2-3-1について検討するに、甲2-3発明において、繊維間空隙サイズRb及びRb/Raを変化させる動機はなく、変化させて相違点2-3-1に係る本件発明2を満たすことは当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。 さらに、相違点2-3-2について検討するに、かかる接着方法の変更は、上記相違点2-3-2に係る数値に影響する改変である。 そうすると、本件発明2は、甲2-3発明及びその他の提示された証拠に基づいても容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3) 本件発明3~10について 本件発明3~10は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであって、請求項2に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明2と同様に、甲2-3発明であるとはいえないし、甲2-3発明及びその他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものではない。 (4) まとめ 上記のとおりであるから、申立理由2-5は、理由がない。 第8 むすび したがって、本件請求項2~10に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項2~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、請求項1に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人1及び2による特許異議の申立てについて、請求項1に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700159

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