特許異議申立
2023-700808
塗膜剥離組成物及び塗膜の剥離方法
- 審判番号
- 2023-700808
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-508716
- 登録番号
- 7218286
- 請求日
- 2023年08月03日
- 審決日
- 2024年08月20日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社ネオス
- 【権利者代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 【異議申立人】笠原 佳代子
- 審判長/審判官
- 審判長 門前 浩一
- 審判官 関根 裕
- 審判官 長谷川 真一
- 分類
- P1651.113-YAA(C09D) / P1651.121-YAA(C09D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7218286号発明「塗膜剥離組成物及び塗膜の剥離方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7218286号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第7218286号の請求項1、3~7に係る特許を維持する。
特許第7218286号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7218286号(以下「本件特許」ともいう。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)2月13日(優先権主張 平成29年3月28日 日本国)を国際出願日とする出願であって、令和5年1月27日にその特許権の設定登録がされ、同年2月6日に特許掲載公報が発行された。その後の経緯は、次のとおりである。
令和5年 8月 3日 :特許異議申立人 笠原佳代子(以下「申立人」という。)による、全請求項に係る特許に対する特許異議の申立て
同年12月26日付け:取消理由通知書
令和6年 3月 8日 :訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 3月12日付け:訂正請求があった旨の通知書
同年 4月11日 :意見書(申立人)
第2 訂正について
1 訂正の内容
令和6年3月8日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」ともいう。)の内容は、次の訂正事項1~10のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「水の含有量が全体量の15~60wt%であり」と記載されているのを、
「水の含有量が全体量の15~40wt%であり」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~7の記載も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「ベンジルアルコールの含有量が全体量の30~80wt%であり」と記載されているのを、
「ベンジルアルコールの含有量が全体量の45~80wt%であり」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~7の記載も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、
「セルロース誘導体の含有量が全体量の1~5wt%である」と記載されているのを、
「セルロース誘導体の含有量が全体量の1~3.5wt%であり」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~7の記載も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記ベンジルアルコールと前記水の質量比(ベンジルアルコールの質量:水の質量)が60:38.4~4.8:1の範囲にあり、」と記載を加える。
請求項1の記載を引用する請求項2~7の記載も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記セルロース誘導体がメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ブチルセルロース及びプロピルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種である」と記載を加える。
請求項1の記載を引用する請求項2~7の記載も同様に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項3に、
「セルロース誘導体がメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ブチルセルロース及びプロピルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の組成物。」と記載されているのを、
「セルロース誘導体がメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ブチルセルロース及びプロピルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の組成物。」に訂正する。
請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項4~7の記載も同様に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項4に、
「セルロース誘導体の含有量が全体量の1~3wt%である請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。」と記載されているのを、
「セルロース誘導体の含有量が全体量の1~3wt%である請求項1又は3に記載の組成物。」に訂正する。
請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5~7の記載も同様に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項5に、
「室温での粘度が3,000~110,000mPasの範囲にある、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。」と記載されているのを、
「室温での粘度が3,000~110,000mPasの範囲にある、請求項1、3及び4のいずれか1項に記載の組成物。」に訂正する。
請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6及び7の記載も同様に訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項6に、
「請求項1~5のいずれかに記載の塗膜剥離組成物を塗膜に塗布し、塗膜を剥離することを特徴とする塗膜の剥離方法。」と記載されているのを、
「請求項1及び3~5のいずれかに記載の塗膜剥離組成物を塗膜に塗布し、塗膜を剥離することを特徴とする塗膜の剥離方法。」に訂正する。
請求項6の記載を引用する請求項7の記載も同様に訂正する。
2 一群の請求項
本件訂正前の請求項1~7において、請求項2~7は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるので、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1及び2
訂正事項1及び2は、本件特許の明細書の【0012】の「本発明で用いるベンジルアルコールの配合量は、塗膜剥離組成物全量を100wt%とした場合、好ましくは30~90wt%、より好ましくは35~85wt%、さらに好ましくは40~80wt%であり、特に好ましくは45~75wt%である。本発明で用いる水の配合量は、塗膜剥離組成物全量を100wt%とした場合、好ましくは10~70wt%、より好ましくは15~60wt%、さらに好ましくは20~50wt%であり、特に好ましくは25~40wt%である。」との記載に基いて、「水の含有量」の上限を「40wt%」に限定し、「ベンジルアルコールの含有量」の下限を「45wt%」に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項3
訂正事項3は、本件特許の明細書の【0013】の「本発明で用いるセルロース誘導体の配合量は、塗膜剥離組成物全量を100wt%とした場合、0.3~5wt%、好ましくは0.4~4wt%、より好ましくは0.5~3.5wt%、さらに好ましくは0.5~3wt%であり、特に好ましくは1~3wt%であり、最も好ましくは1~2wt%である。」との記載に基いて、「セルロース誘導体の含有量」の上限を「3.5wt%」に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項4
訂正事項4は、本件特許の特許請求の範囲の【請求項2】の「ベンジルアルコールと水の質量比(ベンジルアルコールの質量/水の質量)が0.6~4.8の範囲にある」との記載及び同明細書の【0026】の【表2】の「実施例12」の「ベンジルアルコール 60、水 38.4」との記載に基いて、「前記ベンジルアルコールと前記水の質量比(ベンジルアルコールの質量:水の質量)が60:38.4~4.8:1の範囲にあり」との限定を追加するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項5
訂正事項5は、本件特許の明細書の【0012】の「本発明で用いるセルロース誘導体としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ブチルセルロース、プロピルセルロース等が挙げられる。」との記載に基いて、「前記セルロース誘導体がメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ブチルセルロース及びプロピルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種である」との限定を追加するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(5)訂正事項6
訂正事項6は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第第5項の規定にも適合するものである。
(6)訂正事項7
訂正事項7は、訂正前の請求項3の「セルロース誘導体」の選択肢から「ヒドロキシエチルセルロース」を削除し、「セルロース誘導体がメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ブチルセルロース及びプロピルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種である」ことを限定し、さらに引用する請求項から請求項2を除くものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第第5項の規定にも適合するものである。
(7)訂正事項8~10
訂正事項8~10は、訂正前の請求項2が削除されたのに伴い、訂正前の請求項4、5及び6が引用する請求項から請求項2を除くものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第第5項の規定にも適合するものである。
3 独立特許要件についての判断
本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~7に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定は課されない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
本件訂正は前記第2のとおり認められたので、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~7に係る発明(以下「本件訂正発明1」~「本件訂正発明7」ともいう。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
pHが5~8の範囲にあり、水、ベンジルアルコール及び少なくとも1種のセルロース誘導体を含み、水の含有量が全体量の15~40wt%であり、ベンジルアルコールの含有量が全体量の45~80wt%であり、セルロース誘導体の含有量が全体量の1~3.5wt%であり、
前記ベンジルアルコールと前記水の質量比(ベンジルアルコールの質量:水の質量)が60:38.4~4.8:1の範囲にあり、
前記セルロース誘導体がメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ブチルセルロース及びプロピルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種である、塗膜剥離組成物(但し、過酸化水素、N-メチル-2-ピロリドン、アンモニアを含むものを除く。)。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
セルロース誘導体がメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ブチルセルロース及びプロピルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
セルロース誘導体の含有量が全体量の1~3wt%である請求項1又は3に記載の組成物。
【請求項5】
室温での粘度が3,000~110,000mPasの範囲にある、請求項1、3及び4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1及び3~5のいずれかに記載の塗膜剥離組成物を塗膜に塗布し、塗膜を剥離することを特徴とする塗膜の剥離方法。
【請求項7】
前記塗膜がメラミン、アクリル、フタル酸、ラッカー、ウレタン又はエポキシ系の樹脂を含むことを特徴とする請求項6記載の塗膜の剥離方法。」
第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要等
1 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、次の申立理由を主張し、その証拠方法として後記3(1)の甲第1号証~甲第3号証(以下「甲1」等ともいう。)を提出した。甲1~甲3は、いずれも本件特許の優先日よりも前に公開されたものである。
(進歩性)
本件発明1~7は、甲1に記載された発明及び甲1~甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
2 令和5年12月26日付けの取消理由通知書で通知した取消理由の概要
(1)取消理由1(新規性)
本件訂正発明1、2、4、6及び7は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する発明であるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(2)取消理由2(進歩性)
本件訂正発明1~7は、甲1に記載された発明及び甲1~甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
3 証拠方法
(1)申立人が提示した証拠方法
甲第1号証:特開2013-133636号公報
甲第2号証:特開2009-203403号公報
甲第3号証:特開2013-91677号公報
(2)特許権者が意見書とともに提示した証拠方法
乙第1号証:異議2023-700808に関する実験成績証明書
乙第2号証:信越化学工業株式会社ホームページ、「メトローズ(R)((R)は○内にR)」
(URL:https://www.metolose.jp/industrial/metolose.html)
4 甲号証の記載
(1)甲1には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、例えば壁や床などに吹付け或いは貼着された既設の有機系材料の仕上げ材を撤去する有機系材料の仕上げ材の撤去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、壁や床の改修工事として、例えば壁に吹き付けられた塗膜、若しくは壁や床に貼着されたタイル等を撤去して下地面を露出させた後、その下地面に新たな仕上げ材料を施工する工事が行われている。」
「【0013】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、既設の有機系材料の仕上げ材を容易に撤去することができ、工事に伴う騒音や手間を軽減することができる有機系材料の仕上げ材撤去方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る有機系材料の仕上げ材の撤去方法は、既設の有機系材料の仕上げ材を下地面から撤去する有機系材料の仕上げ材の撤去方法であって、前記仕上げ材の表面に、有機則非該当の剥離剤を塗布する剥離剤塗布工程と、前記剥離剤が前記仕上げ材に浸透して前記仕上げ材が軟化するまで静置する静置工程と、軟化した前記仕上げ材を撤去する撤去工程と、を備えることを特徴としている。
【0015】
このような特徴により、静置工程の後、有機系材料の仕上げ材に剥離剤が浸透して、硬質材料(非可撓性)である仕上げ材が軟化(可撓化)するので、撤去工程の際、仕上げ材を容易に剥がし取ることが可能になる。」
「【0028】
次に、既設の塗膜の表面に、有機則非該当の剥離剤を塗布する剥離剤塗布工程101を行う。
詳しく説明すると、剥離剤は吹付け装置(リシンガン)等を用いて塗膜の表面(塗装壁の表面)に吹き付けられる。なお、剥離剤はローラーや刷毛等を用いて塗膜の表面に塗る方法も可能である。この剥離剤の塗布厚さは、後述する静置工程102によって、剥離剤が塗膜の厚さ方向の全体に亘って浸透し、さらに塗膜だけでなく塗膜下のパテやシーラー(下地面と塗膜との間の中間層)にも浸透するだけの厚さにする。」
「【0051】
ここで、本発明における剥離剤について説明する。
剥離剤としては、撤去対象物である有機系材料の仕上げ材(既設の塗膜又はタイル1)を軟化させることができる有機則非該当の溶剤を使用する。この剥離剤は、廃棄物処理法の特別管理産業廃棄物に該当しない溶剤を使用する。例えば、可燃物とならないように引火温度が70度以上であって、さらに、有機溶剤中毒予防規則に抵触しないように有機則該当の有機溶剤が含まれてなく、低臭気で環境に優しい溶剤を使用する。
【0052】
詳しく説明すると、上記した剥離剤の主成分としては、五員環のラクタムまたはラクトン、フェニルアルコール及びその誘導体またはフェニルグリコール及びその誘導体があり、具体的には、N-アルキル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、ベンジルアルコール、アルキレングリコールフェニルエーテルなどが挙げられる。これらは単独用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0053】
また、前記剥離剤が、脂肪酸エステルやその誘導体、二塩基酸エステル等のエステルやパラフィン系炭化水素、多価アルコールやその誘導体を含有していてもよい。多価アルコールとしては、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルスルホキシド、ポリアルキレングリコールアルキルエーテル、ポリアルキレングリコールジアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0054】
さらに、剥離剤が増粘剤を含有することが好ましく、これにより、塗布作業性を向上させることができる。増粘剤としては、セルロース誘導体、多糖類、ポリビニルアルコール、アクリル酸系の有機系増粘剤や、シリカ、カオリン、ベントナイト、セピオライト等の無機系増粘剤があり、カルボキシアルキルセルロース、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、キサンタンガム、ポリアクリル酸ナトリウムなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0055】
その他に、アニオンやノニオン、両性界面活性剤を用いることで水洗性の向上だけでなく、剥離剤の安定にも寄与する。界面活性剤としては、カルボン酸型、スルホン酸型、スルホコサク酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型、脂肪酸エステル型や、ポリオキシアルキレングリコール型、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン多価アルコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン重合型、ソルビタン脂肪酸エステル型、アルカノールアミド型や、アミノ酢酸ベタイン型、アルキルポリグルコシド等がある。
さらに、前記剥離剤が、pH調整剤として、アルキルアミンやアルカノールアミン等を少量含有することも可能である。
【0056】
図4は、上述した剥離剤の配合例を示している。なお、図4に示す表は、剥離剤の配合をパーセンテージで示した表であり、表内の数字の単位は「%」である。ただし、図5に示す剥離剤の実施例1-10は例示であり、本発明の剥離剤はここに示す配合に限定されるものではない。」
「【図4】
[図:0001416455000001.jpg]
」
(2)甲2には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、鉄系素材に液中で、特に高温液中でも錆を発生させないように腐食抑制添加成分を添加した塗膜用水系剥離剤および該塗膜用水系剥離剤を用いる塗膜剥離方法に関する。」
「【0009】
本発明は、塗膜剥離工程において、作業の安全性を確保でき、鉄系素材に液中で、特に高温液中でも錆を発生させないように、低コストで簡便な剥離処理を行うことができる塗膜用水系剥離剤、および該塗膜用水系剥離剤を用いる塗膜剥離方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、高温使用時でも鉄系素材に錆を発生させないように腐食抑制添加成分を添加した塗膜用水性剥離剤であって、1価または2価のアルコール系溶剤を5~90重量%、水を5重量%以上、腐食抑制添加成分としてグルコン酸塩を0.01~10重量%含有する塗膜用水性剥離剤を見出し本発明に至った。」
「【0021】
本発明の塗膜用水系剥離剤における水としては、水道水、蒸留水、イオン交換水、純水等いずれでもかまわない。また本発明の水は、上記アルコール系溶剤成分を希釈するものであり、剥離剤全体の5重量%以上含まれる。上限値は、1価または2価のアルコール系溶剤とグルコン酸塩の添加割合からして94.99重量%である。5重量%未満では、アルコール系溶剤成分を十分希釈することができず、その分アルコール系溶剤成分が多くなる結果、塗膜剥離効果が達成できなく実使用に耐えなくなる。また引火性も増し、作業環境上も好ましくない。」
「【0027】
本発明の塗膜用水系剥離剤のpHは5~9である。好ましくは、中性域である6.5~8.5であるが、添加成分、例えば界面活性剤などの添加や大気中の二酸化炭素の吸収によって経時的に低下することがあるので、pH5~9でも十分使用可能である。」
(3)甲3には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、船底塗膜を剥離する船底塗膜剥離剤と剥離方法に関する。」
「【0006】
本発明は、船体に損傷を与えず、人体・環境への影響を最小限に抑え、船底塗膜を作業性良く剥離することが可能な船底塗膜剥離剤と剥離方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、エアレススプレーによる塗布を可能にすることにより、作業性が良い船底塗膜剥離剤、また、主成分にアルコール系溶剤と水を使用することにより、船体に損傷を与えず、人体・環境への影響を最小限に抑えた船底塗膜剥離剤、さらに、水を含有させることにより、引火性を低減させた船底塗膜剥離剤を見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、次に関するものである。
[1]アルコール系溶剤、水、無機系増粘剤を含有する船底塗膜剥離剤。
[2]キレート剤を含有する[1]記載の船底塗膜剥離剤。
[3]非プロトン性極性溶媒を含有する[1]又は[2]記載の船底塗膜剥離剤。
[4]エアレススプレーにより、[1]~[3]のいずれかに記載の船底塗膜剥離剤を塗布し、一定時間放置後、高圧水により船底塗膜を剥離する方法。」
「【0012】
アルコール系溶剤は、好ましくは、船底塗膜剥離剤全体の40~96重量%配合される。これは、船底塗膜の膨潤・剥離性の観点から40重量%以上が好ましく、引火性の観点から96重量%以下が好ましいからである。より好ましくは50~93重量%であり、さらに好ましくは60~90重量%である。
【0013】
本発明の船底塗膜剥離剤における水は、引火性を低減させるために配合される。水としては、水道水、蒸留水、精製水、脱イオン水、純水、超純水等が例示でき、いずれでもよい。
【0014】
水は、好ましくは、船底塗膜剥離剤全体の3~40重量%配合される。これは、引火性の観点から3重量%以上が好ましく、船底塗膜の膨潤・剥離性の観点から40重量%以下が好ましいからである。より好ましくは4~30重量%であり、さらに好ましくは5~20重量%である。」
「【0023】
本発明の船底塗膜剥離剤においては、pH調整剤を配合してもよい。これは、船底塗膜剥離剤のpH値を調整するためである。pH調整剤の酸性成分としては、塩酸、リン酸等の無機酸、酢酸、リンゴ酸、クエン酸等の有機酸が例示できる。これらの中から、少なくとも1種を配合してもよく、2種以上併用してもよい。また、pH調整剤のアルカリ性成分としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ、モノエタノールアミン、モノイソプロパールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アルカリが例示できる。これらの中から、少なくとも1種を配合してもよく、2種以上併用してもよい。」
「【0026】
本発明の船底塗膜剥離剤においては、船体への影響を考慮して、pH3~12が好ましい。より好ましくはpH4~11であり、さらに好ましくはpH6~9である。
【0027】
本発明の船底塗膜剥離剤においては、スプレー性を考慮して、粘度は100~10000mPa・sが好ましい。より好ましくは300~8000mPa・sであり、さらに好ましくは500~6000mPa・sである。」
「【0036】
[実施例1~7]
アルコール系溶剤、水、無機系増粘剤、キレート剤、非プロトン性極性溶媒、pH調整剤を、表1の配合割合として、混合攪拌により船底塗膜剥離剤を作製した。
【0037】
使用した配合成分は、以下の通りである。
アルコール系溶剤1:ジエチレングリコールモノブチルエーテル(協和発酵ケミカル株式会社製品、ブチセノール20)
アルコール系溶剤2:ジエチレングリコールモノエチルエーテル(株式会社日本触媒製品、シーホゾールDG)
アルコール系溶剤3:ベンジルアルコール(東京応化工業株式会社製品、ベンジルアルコール)
水:水道水
無機系増粘剤1:シリカ(株式会社トクヤマ製品、レオロシールQS-102)
無機系増粘剤2:スメクタイト(クニミネ工業株式会社製品、スメクトンSA)
無機系増粘剤3:有機クレー(ROCKWOOD社製品、GARAMITE1958)
キレート剤:ポリアクリル酸(有効成分40%)(東亞合成株式会社製品、アロンA-10SL)
非プロトン性極性溶媒:N-メチル-2-ピロリドン(三菱化学株式会社製品、N-メチル-2-ピロリドン)
pH調整剤:pH調整剤1とpH調整剤2を適量配合
pH調整剤1:リン酸(有効成分85%)(日本化学工業株式会社製品、リン酸85%)
pH調整剤2:モノイソプロパノールアミン(ダウ・ケミカル日本株式会社製品、モノイソプロパノールアミン)」
「
[図:0001416455000002.jpg]
」
第5 当審の判断
1 甲1に記載された発明
甲1(前記第4の1参照。)の【0014】の「既設の有機系材料の仕上げ材を下地面から撤去する有機系材料の仕上げ材の撤去方法であって、前記仕上げ材の表面に、有機則非該当の剥離剤を塗布する剥離剤塗布工程と、前記剥離剤が前記仕上げ材に浸透して前記仕上げ材が軟化するまで静置する静置工程と、軟化した前記仕上げ材を撤去する撤去工程と、を備える」との記載、及び【0051】の「剥離剤としては、撤去対象物である有機系材料の仕上げ材(既設の塗膜又はタイル1)を軟化させることができる有機則非該当の溶剤を使用する。」との記載を合わせ読めば、甲1発明の「剥離剤」は、撤去対象物である既設の塗膜又はタイル等の仕上げ材の表面に剥離剤を塗布し、仕上げ材が軟化するまで静置し、軟化した仕上げ材を撤去することに用いられるものである。
そして、甲1の【図4】に示された「実施例7」に着目し、同【0056】の記載を参酌すれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲1発明)
「撤去対象物である既設の塗膜等の有機系材料の仕上げ材の表面に剥離剤を塗布し、仕上げ材が軟化するまで静置し、軟化した仕上げ材を撤去することに用いられる剥離剤であって、ベンジルアルコール 43%と、パラフィン系炭化水素 5%と、水 50%と、ヒドロキシアルキルセルロース 1%と、ソルビタン脂肪酸エステル 1%とからなる剥離剤。」
2 対比・判断
(1)本件訂正発明1
本件訂正発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「撤去対象物である既設の塗膜等の有機系材料の仕上げ材の表面に剥離剤を塗布し、仕上げ材が軟化するまで静置し、軟化した仕上げ材を撤去することに用いられる剥離剤」は、本件訂正発明1の「塗膜剥離組成物」に相当する。
甲1発明の「ヒドロキシアルキルセルロース」は、本件訂正発明1の「セルロース誘導体」に相当する。
そして、甲1発明の「%」は、体積%であるのか質量%であるのかが明示されていないが、配合中に、体積を測定するのが困難な固体や粉末状のものが含まれていることを考慮すれば、甲1発明の「%」は、質量%を意味するものと認められるから、甲1発明の「ヒドロキシアルキルセルロース 1%」は、本件訂正発明1の「セルロース誘導体の含有量が全体量の1~3.5wt%」を充足する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「水、ベンジルアルコール及び少なくとも1種のセルロース誘導体を含み、
セルロース誘導体の含有量が全体量の1~3.5wt%である、塗膜剥離組成物(但し、過酸化水素、N-メチル-2-ピロリドン、アンモニアを含むものを除く。)。」
<相違点1-1>
膜剥離組成物のpHが、本件訂正発明1は「pHが5~8の範囲」であるのに対し、甲1発明は、定かでない点。
<相違点1-2>
本件訂正発明1は「水の含有量が全体量の15~40wt%であり、ベンジルアルコールの含有量が全体量の45~80wt%であり」、「前記ベンジルアルコールと前記水の質量比(ベンジルアルコールの質量:水の質量)が60:38.4~4.8:1の範囲にあ」るのに対し、甲1発明は「ベンジルアルコール 43wt%」と「水 50wt%」であって、ベンジルアルコール:水=43:50である点。
<相違点1-3>
セルロース誘導体が、本件訂正発明1は「メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ブチルセルロース及びプロピルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種」であるのに対し、甲1発明は「ヒドロキシアルキルセルロース」である点。
事案に鑑み、まず、相違点1-2について検討する。甲1(前記第4の4(1)参照。)の【図4】には「剥離剤」の配合例として、甲1発明を認定した「実施例7」以外にも、水とベンジルアルコールの双方を含有する実施例8~10が示されているが、それらについて、ベンジルアルコールの質量:水の質量を表示すると、実施例8及び9では30:50であり、実施例10では、34:50であり、いずれも、甲1発明よりも、さらに、ベンジルアルコールの質量比が小さくなっており、本件訂正発明1のように、ベンジルアルコールの質量:水の質量が60:38.4~4.8:1の範囲となるものは皆無である。
また、甲1の【0051】~【0055】には、甲1発明の「剥離剤」に添加し得る成分の種類についての記載はあるものの、それらの添加量については記載がないから、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて、水の含有量を全体量の15~40wt%とし、ベンジルアルコールの含有量を全体量の45~80wt%とし、ベンジルアルコールと水の質量比(ベンジルアルコールの質量:水の質量)を60:38.4~4.8:1の範囲にする動機付けはなく、そのようにすることを当業者が容易になし得たということはできない。
そして、水とアルコール系溶剤を含む塗膜用水系剥離剤の水の添加量について、甲2(前記第4の4(2)参照。)の【0021】には「本発明の水は、上記アルコール系溶剤成分を希釈するものであり、剥離剤全体の5重量%以上含まれる。上限値は、1価または2価のアルコール系溶剤とグルコン酸塩の添加割合からして94.99重量%である。5重量%未満では、アルコール系溶剤成分を十分希釈することができず、その分アルコール系溶剤成分が多くなる結果、塗膜剥離効果が達成できなく実使用に耐えなくなる。また引火性も増し、作業環境上も好ましくない。」と記載され、甲3(前記第4の4(3)参照。)の【0012】~【0014】には「アルコール系溶剤は、好ましくは、船底塗膜剥離剤全体の40~96重量%配合される。これは、船底塗膜の膨潤・剥離性の観点から40重量%以上が好ましく、引火性の観点から96重量%以下が好ましいからである。・・・水は、好ましくは、船底塗膜剥離剤全体の3~40重量%配合される。これは、引火性の観点から3重量%以上が好ましく、船底塗膜の膨潤・剥離性の観点から40重量%以下が好ましいからである。」と記載されているが、いずれも、本件訂正発明1のように、セルロース誘導体とともに用いられるものではなく、また、甲2及び甲3の好ましいとされる数値範囲の記載に基づいて、甲1発明のベンジルアルコールと水の質量比(ベンジルアルコールの質量:水の質量)を60:38.4~4.8:1の範囲にすることが容易であったということもできない。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲1~甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件訂正発明3~7
本件訂正発明3~7は、本件訂正発明1で特定される事項を全て含むものであるから、前記(1)と同じ理由により、甲1発明及び甲1~甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 申立人の主張について
申立人は、令和6年4月11日の意見書において、概略次の主張をしている。
i)セルロース誘導体が、増粘効果を発揮することは技術常識であり、増粘効果を発揮することで、塗布後に垂れにくくなるという効果も、当業者であれば、当然に理解できるから、塗膜剥離組成物にセルロース誘導体を使用すること、及び、セルロース誘導体を使用することによる効果についても、当業者にとって、何ら困難性はない。
ii)乳化判定の評価が「○」となる点について、本件訂正発明1で規定する「ベンジルアルコールと水の質量比(ベンジルアルコールの質量/水の質量)が60:38.4~4.8:1の範囲」から逸脱する本件実施例3等においても、乳化判定の評価は「○」であるから、ベンジルアルコールの質量/水の質量を60:38.4~4.8:1の範囲に限定することによる技術的意義は認められず、このような訂正請求は、委任省令要件違反(特許法36条第4項1号)に該当する。
iii)甲第1号証の実施例7では、ベンジルアルコールと水の質量比は「0. 86」であり、本件明細書に好ましい範囲として記載されている「0.8~3.0」の範囲に含まれる。そのため、甲第1号証の実施例7においても、本件訂正発明1と同様の効果が得られることは明らかであり、もし、同様の効果が得られないのであれば、本件明細書の記載は不明確であり、明確性違反(特許法第36条第6項第2号)に該当する
iv)本件実施例において使用するセルロース誘導体は、「メチルセルロース、及び、ヒドロキシプロピルメチルセルロース」のみであり、これら2種類のセルロース誘導体のみの効果しか、実際に立証されていないから、本件訂正発明1の「メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ブチルセルロース及びプロピルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種」のすべてのセルロース誘導体について、本件訂正発明1の効果が得られるかは不明であり、本件訂正発明1はサポート要件違反(特許法第36第6項第1号)に該当する。
v)甲第1号証の実施例7に記載の発明と、本件訂正発明1に記載の「水の含有量」、「ベンジルアルコールの含有量」、及び、「ベンジルアルコールと水との質量比」が重複しないからといって、甲1発明に、甲第2号証及び甲第3号証に記載された内容を組み合わせる(置き換える)ことで、本件訂正発明1に容易に想到できることは明らかである。
vi)甲第1号証の実施例7に記載のヒドロキシアルキルセルロースの「アルキル基」がどのようなものを含むのか、当業者であれば、当然に理解でき、技術常識であることは明らかである。
vii)前記iii)及びv)と同趣旨。
viii)前記v)及びiv)と同趣旨。
まず、i)について、セルロース誘導体の増粘効果については予測の範囲内かもしれないが、乳化作用については、甲1~甲3に記載や示唆がされていない。
また、ii)について、ベンジルアルコールの質量/水の質量と、乳化判定との関係は、ベンジルアルコールの質量が多い方が、親油性成分が乳化しやすくなることは技術常識であるから、ベンジルアルコールの質量/水の質量を60:38.4~4.8:1の範囲に限定することによる技術的意義がないとはいえない。
また、iii)について、本件発明1の特定事項は明確であり、明確性違反には該当しない。前記「ii)について」で検討したとおり、ベンジルアルコールの質量が多い方が、親油性成分が乳化しやすくなることは技術常識であるから、甲第1号証の実施例7と本件訂正発明1とは、いずれも効果があるが、その程度において差があるものと理解すれば、不自然な点はない。
また、iv)及びvi)について、両主張は互いに矛盾するものである。そして、メチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースで効果が確認されていれば、多少の炭素鎖長の違いがあったとしても、アルキル系のセルロースやヒドロキシアルキル系のセルロースでも同様の効果が推認できるから、主張iv)は採用できない。
また、v)について、前記2(1)で検討したとおり、甲1には、甲1発明を認定した「実施例7」以外にも、水とベンジルアルコールの双方を含有する実施例8~10が示されているが、いずれも、甲1発明よりも、さらに、ベンジルアルコールの質量比が小さくなっており、本件訂正発明1のように、ベンジルアルコールの質量:水の質量が60:38.4~4.8:1の範囲となるものは皆無である。そして、甲1には、水とベンジルアルコールの添加量についての記載がない。そうすると、甲2や甲3の記載に触れた当業者であっても、ベンジルアルコールの含有量を全体量の45~80wt%とし、ベンジルアルコールと水の質量比(ベンジルアルコールの質量:水の質量)を60:38.4~4.8:1の範囲にする動機付けはなく、そのようにすることを当業者が容易になし得たということはできない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、本件訂正後の請求項1、3~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではなく、本件訂正後の請求項1、3~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、3~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により請求項2は削除されたため、請求項2についての特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700808