特許異議申立
2024-700681
硬化性樹脂組成物、硬化物及び電子部品
- 審判番号
- 2024-700681
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-026539
- 登録番号
- 7449713
- 請求日
- 2024年07月19日
- 審決日
- 2025年06月30日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】太陽ホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
- 【異議申立人】竹口 美穂
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 岡谷 祐哉
- 審判官 細井 龍史
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7449713号発明「硬化性樹脂組成物、硬化物及び電子部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7449713号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第7449713号の請求項1-4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7449713号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和2年2月19日に出願された特願2020-26539号に係る出願であって、令和6年3月6日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月14日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月19日付けで特許異議申立人 竹口 美穂(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続は以下のとおり。
令和6年11月11日付け 取消理由通知
令和7年 1月10日 訂正請求書、意見書の提出
同年 同月22日 訂正請求書を補正対象とする手続補正書の提出
同年 同月30日付け 訂正請求があった旨の通知
なお、申立人から意見書の提出はなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和7年1月10日提出の訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
・訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「下式1で表されるα-(アリルオキシメチル)アクリレート化合物と、
2個以上のアリル基を有する化合物と、
無機フィラーと、
ラジカル開始剤と、を含むことを特徴とする、硬化性樹脂組成物。
(式1)
[図:0001427949000001.jpg]
式中、R1は、メチル基を表し、R2、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ水素原子又は炭素数1~6のアルキル基である。」と記載されているのを、
「下式1で表されるα-(アリルオキシメチル)アクリレート化合物と、
2個以上のアリル基を有する化合物と、
無機フィラーと、
ラジカル開始剤と、を含み、
前記2個以上のアリル基を有する化合物として、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、ジフェン酸ジアリル、2,3-ナフタレンカルボン酸ジアリル、ジフェニルジアリルシラン、2,2’-ジアリルビスフェノールA、N,N-ジアリルアクリルアミド、ジアリルアミン、ジアリルメタクリルアミド、トリメリット酸トリアリル、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルフォスフェートおよびピロメリット酸テトラアリルからなる群より選択されるいずれか1種以上を含むことを特徴とする、硬化性樹脂組成物。
(式1)
[図:0001427949000002.jpg]
式中、R1は、メチル基を表し、R2、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ水素原子又は炭素数1~6のアルキル基である。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、請求項3、及び請求項4も同様に訂正する)。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし4について、請求項2ないし4は請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1ないし4に対応する訂正後の請求項1ないし4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、訂正事項1による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「2個以上のアリル基を有する化合物」について、「フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、ジフェン酸ジアリル、2,3-ナフタレンカルボン酸ジアリル、ジフェニルジアリルシラン、2,2’-ジアリルビスフェノールA、N,N-ジアリルアクリルアミド、ジアリルアミン、ジアリルメタクリルアミド、トリメリット酸トリアリル、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルフォスフェートおよびピロメリット酸テトラアリルからなる群より選択されるいずれか1種以上を含む」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないため、同法同条第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
そして、当該事項については、本件特許明細書の段落【0022】に記載されている。そうすると、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4も同様である。
4 本件訂正後の独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし4に対してされているので、当該請求項について訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
5 まとめ
以上のとおり、請求項1ないし4についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2で示したとおり本件訂正は認められたため、本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、本件特許発明1~4を総称して「本件特許発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
下式1で表されるα-(アリルオキシメチル)アクリレート化合物と、
2個以上のアリル基を有する化合物と、
無機フィラーと、
ラジカル開始剤と、を含み、
前記2個以上のアリル基を有する化合物として、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、ジフェン酸ジアリル、2,3-ナフタレンカルボン酸ジアリル、ジフェニルジアリルシラン、2,2’-ジアリルビスフェノールA、N,N-ジアリルアクリルアミド、ジアリルアミン、ジアリルメタクリルアミド、トリメリット酸トリアリル、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルフォスフェートおよびピロメリット酸テトラアリルからなる群より選択されるいずれか1種以上を含むことを特徴とする、硬化性樹脂組成物。
(式1)
[図:0001427949000003.jpg]
式中、R1は、メチル基を表し、R2、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ水素原子又は炭素数1~6のアルキル基である。
【請求項2】
前記2個以上のアリル基を有する化合物は、アリルエーテル化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項4】
請求項3に記載の硬化物を含む、電子部品。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由、証拠方法及び取消理由の概要
1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法
(1)申立理由1(甲第1号証に基づく新規性欠如)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性欠如)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、または下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることできたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(4)証拠方法
甲第1号証:国際公開第2018/051732号
甲第2号証:特開2014-40585号公報
以下、順に「甲1」及び「甲2」という。
3 取消理由の概要
令和6年11月11日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。
・取消理由1(甲1に基づく新規性欠如)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第5 当審の判断
以下に述べるように、当審が通知した取消理由、及び申立書に記載された申立理由によっては本件特許発明1~4に係る特許は取り消すことはできない。
1 取消理由1(甲1に基づく新規性欠如)及び申立理由1(甲1に基づく新規性欠如)について
取消理由1及び申立理由1は、甲1を主引用文献とする理由であるから、併せて検討する。
(1)引用発明の認定
甲1には、特許請求の範囲に、「[請求項1] 第1成分として、平均粒径1~30nmの、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ハフニウム、チタン酸バリウム、窒化ホウ素および酸化セリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の無機フィラーと、
第2成分として、(メタ)アクリレート系モノマーから選ばれる少なくとも1種のモノマーと、
第3成分として、少なくとも1種の重合開始剤と、
を含有し、第1~3成分の合計の重量濃度がインク組成物全重量に対して98~100重量%である、インク組成物。
・・・
[請求項4] 第2成分の(メタ)アクリレート系モノマーが、下記化合物群(2-a)から選ばれる少なくとも1種、および、化合物群(2-b)から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のインク組成物。
化合物群(2-a):単官能(メタ)アクリレート系モノマー
化合物群(2-b):多官能(メタ)アクリレート系モノマー、多官能アリルエーテル系モノマー、および多官能アリルエステル系モノマー」と記載されている。
そして、そのインク組成物の実施態様である実施例20に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「無機フィラー粉末または無機フィラー分散液である御国色素製#1976(平均粒径(D50)10nmの酸化ジルコニウムフィラー49重量%、2-([1,1’-ビフェニル]-2-イルオキシ)エチルアクリレート51重量%を含む。)50.0重量%、単官能モノマーであるメチル 2-アリルオキシメチルアクリレート(日本触媒製 FX-AO-MA)20.2重量%、多官能モノマーであるトリメチロールプロパンジアリルエーテル(大阪ソーダ製 ネオアリルT-20)19.9重量%、重合開始剤であるイルガキュア1173(BASF製)9.8重量%、界面活性剤であるメガフェイスF-477(DIC製)0.1重量%からなるインク組成物。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1
本件特許発明1と甲1発明を対比する
甲1発明の「無機フィラー粉末または無機フィラー分散液である御国色素製#1976(平均粒径(D50)10nmの酸化ジルコニウムフィラー49重量%、2-([1,1’-ビフェニル]-2-イルオキシ)エチルアクリレート51重量%を含む。)」は本件特許発明1の「無機フィラー」に相当する。また、甲1発明の「単官能モノマーであるメチル 2-アリルオキシメチルアクリレート(日本触媒製 FX-AO-MA)」、「多官能モノマーであるトリメチロールプロパンジアリルエーテル(大阪ソーダ製 ネオアリルT-20)」は、各々本件特許発明1の「式1で表されるα-(アリルオキシメチル)アクリレート化合物」、「2個以上のアリル基を有する化合物」に相当する。
そして、甲1発明の「重合開始剤であるイルガキュア1173(BASF製)」は、甲1の段落[0092]に、「光ラジカル発生剤」であることが記載されているから、本件特許発明1の「ラジカル開始剤」に相当する。
さらに、甲1の段落[0186]に、「実施例1~32、比較例1~4および6~8で調製したインク組成物について以下の手順で硬化膜を作製した。」とインク組成物を硬化することが記載されているから、甲1発明の「インク組成物」は、本件特許発明1の「硬化性樹脂組成物」に相当する。
してみると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
下式1(当審注:構造式は省略する。)で表されるα-(アリルオキシメチル)アクリレート化合物と、
2個以上のアリル基を有する化合物と、
無機フィラーと、
ラジカル開始剤と、を含む、硬化性樹脂組成物。
<相違点1>
2個以上のアリル基を有する化合物として、本件特許発明1は「フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、ジフェン酸ジアリル、2,3-ナフタレンカルボン酸ジアリル、ジフェニルジアリルシラン、2,2’-ジアリルビスフェノールA、N,N-ジアリルアクリルアミド、ジアリルアミン、ジアリルメタクリルアミド、トリメリット酸トリアリル、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルフォスフェートおよびピロメリット酸テトラアリル(当審注:以下、「特定アリル化合物」という。)からなる群より選択されるいずれか1種以上を含む」のに対し、甲1発明は「トリメチロールプロパンジアリルエーテル」である点
そこで、上記<相違点1>について検討する。
甲1発明の「トリメチロールプロパンジアリルエーテル」は、請求項4の「化合物群(2-b)」の「多官能アリルエーテル系モノマー」の範疇に属するものであるところ、甲1(請求項12及び13、段落[0083])には、多官能アリルエーテル系モノマーの具体例として、「トリメチロールプロパンジアリルエーテル」しか記載されていない。
そうすると、当該相違点は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明ではない。
イ 本件特許発明2~4
本件特許発明2~4は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そうすると、上記アで説示したのと同様の理由により、本件特許発明2~4は、甲1に記載された発明ではない。
(4)取消理由1及び申立理由1についてのまとめ
したがって、本件特許発明1~4は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、とはいえないから、本件特許の請求項1~4に係る特許は、取消理由1及び申立理由1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由1(甲2に基づく新規性・進歩性欠如)について
(1)引用発明の認定
甲2(【特許請求の範囲】【請求項1】)には、
「式(I):【化1】
[図:0001427949000004.jpg]
(式中、R1は置換基を有していてもよい炭素数1~4の炭化水素基を示す)で表されるラジカル重合性単量体(A)およびラジカル重合性不飽和基を2個以上有する多官能ラジカル重合性化合物(B)を含有することを特徴とする硬化性組成物。」が記載されており、当該硬化性組成物の実施態様である実施例1に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「α-アリルオキシメチルアクリル酸メチル(以下、MeAMAという)1.0部、ビスフェノールA型エポキシアクリレート〔共栄社化学(株)製、商品名:エポキシエステル3000A、1分子あたりのラジカル重合性基の数(以下、官能基数という):2〕1.0部および光ラジカル重合開始剤(BASF社製、商品名:イルガキュア184D)0.06部を攪拌下で混合することにより得られた、硬化性組成物。」(以下、「甲2発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1
(ア)対比
本件特許発明1と甲2発明を対比する
甲2発明の「α-アリルオキシメチルアクリル酸メチル」は、本件特許発明1の「式1で表されるα-(アリルオキシメチル)アクリレート化合物」に相当する。
そして、甲2発明の「光ラジカル重合開始剤(BASF社製、商品名:イルガキュア184D)」は、本件特許発明1の「ラジカル開始剤」に相当する。
さらに、甲2発明の「硬化性組成物」は、本件特許発明1の「硬化性樹脂組成物」に相当する。
してみると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
下式1で表されるα-(アリルオキシメチル)アクリレート化合物と、
ラジカル開始剤と、を含む、硬化性樹脂組成物。
<相違点2-1>
本件特許発明1は、特定アリル化合物からなる群より選択されるいずれか1種以上である2個以上のアリル基を有する化合物を「含む」のに対し、甲2発明はそのような化合物を「含まず」、「ビスフェノールA型エポキシアクリレート〔共栄社化学(株)製、商品名:エポキシエステル3000A、1分子あたりのラジカル重合性基の数(以下、官能基数という):2〕」を含んでいる点
<相違点2-2>
無機フィラーを、本件特許発明1は、「含む」のに対し、甲2発明は「含まない」点
(イ)相違点等の検討
a 新規性について
<相違点2-1>の検討
甲2発明の「ビスフェノールA型エポキシアクリレート」は、特定アリル化合物に該当しないし、甲2発明が、特定アリル化合物を含むことが本願出願日時点の技術常識でもないため、当該相違点は、実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は、甲2発明、すなわち甲2に記載された発明ではない。
b 進歩性について
(a)構成の容易想到性について
<本件特許発明1の技術的意義>
本件特許明細書の段落【0008】には、「本発明者らは、上記目的の実現に向け鋭意研究するなかで、α-(アリルオキシメチル)アクリレートが、酸素による重合阻害を受けにくいことから硬化が速く、表面硬化性や薄膜硬化性に優れ、硬化時の収縮が小さく、その硬化物はテトラヒドロフラン環を形成することから、機械特性に優れる、という特性に着目した。
しかしながら、このα-(アリルオキシメチル)アクリレートの重合体(硬化物)は、靭性に優れるものの、半導体チップとの密着性も十分には得られず、電子部品用途での適用に制限があることに新たに気付いた。
そこで、本発明者らは、α-(アリルオキシメチル)アクリレートの硬化物が示す優れた特性を維持しつつ、優れた耐熱性(高ガラス転移温度化)と半導体チップとの密着性を示す硬化性樹脂組成物を提供するために、さらに鋭意研究をした。
その結果、α-(アリルオキシメチル)アクリレートと、2個以上のアリル基を有する化合物と、を含む特定の硬化性樹脂組成物によって前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。」と記載されている。
すなわち、本件特許発明1は、α-(アリルオキシメチル)アクリレートに、「2個以上のアリル基を有する化合物」を併用したことにより、優れた耐熱性(高ガラス転移温度化)と半導体チップとの密着性を示す技術的意義を有するものである。
<相違点2-1の検討>
甲2発明は、甲2の請求項1の実施態様であるところ、甲2発明の「ビスフェノールA型エポキシアクリレート〔共栄社化学(株)製、商品名:エポキシエステル3000A、1分子あたりのラジカル重合性基の数(以下、官能基数という):2〕」は、甲2の請求項1の「ラジカル重合性不飽和基を2個以上有する多官能ラジカル重合性化合物(B)」に相当するものである。
そして、甲2の段落【0047】には、「多官能ラジカル重合性化合物(B)としては、例えば、多官能(メタ)アクリル酸エステル、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル、アリル基含有(メタ)アクリル酸エステル、多官能(メタ)アクリロイル基含有イソシアヌレート、多官能ウレタン(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリル系化合物;多官能マレイミド系化合物;多官能ビニルエーテル;多官能アリル系化合物;多官能芳香族ビニルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの多官能ラジカル重合性化合物(B)は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。」と記載され、同段落【0055】に、「多官能アリル系化合物としては、例えば、エチレングリコールジアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、ポリエチレングリコールジアリルエーテル、プロピレングリコールジアリルエーテル、ブチレングリコールジアリルエーテル、ヘキサンジオールジアリルエーテル、ビスフェノールAアルキレンオキシドジアリルエーテル、ビスフェノールFアルキレンオキシドジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ジトリメチロールプロパンテトラアリルエーテル、グリセリントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル、ジペンタエリスリトールペンタアリルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサアリルエーテル、エチレンオキシド付加トリメチロールプロパントリアリルエーテル、エチレンオキシド付加ジトリメチロールプロパンテトラアリルエーテル、エチレンオキシド付加ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル、エチレンオキシド付加ジペンタエリスリトールヘキサアリルエーテルなどの多官能アリルエーテル;トリアリルイソシアヌレートなどの多官能アリル基含有イソシアヌレート;フタル酸ジアリル、ジフェン酸ジアリルなどの多官能アリルエステルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの多官能アリル系化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。」と記載されており、本件特許発明1の特定アリル化合物であるトリアリルイソシアヌレート、フタル酸ジアリル、ジフェン酸ジアリルが例示されてはいる。
しかしながら、甲2には、「2個以上のアリル基を有する化合物」を併用することにより、優れた耐熱性(高ガラス転移温度化)と半導体チップとの密着性を示すことは記載も示唆もされておらず、甲2発明において、ビスフェノールA型エポキシアクリレートを、「ラジカル重合性不飽和基を2個以上有する多官能ラジカル重合性化合物(B)」として複数ある化合物群の選択肢の中から、ビスフェノールA型エポキシアクリレートの属する「多官能(メタ)アクリル酸エステル」とは異なる「多官能アリル系化合物」に着目し、さらにその化合物群の中の複数ある化合物から、フタル酸ジアリル、ジフェン酸ジアリル、トリアリルイソシアヌレートのいずれかを選び出し、α-(アリルオキシメチル)アクリレートと併用する動機付けを見いだすことはできない。
(b)効果の検討
本件特許明細書の段落【0013】によると、本件特許発明1は、「α-(アリルオキシメチル)アクリレートと2個以上のアリル基を有する化合物とを併用した硬化系にすることにより、低粘度で硬化性に優れ、また、硬化物として、高いガラス転移温度と優れた靭性、半導体チップとの優れた密着性を有する硬化性樹脂組成物提供することが可能となる」効果を奏するものである。
そして、当該効果は、甲2発明及び甲2の記載を参酌しても、当業者が予測し得るものではない。
(c) 小括
したがって、<相違点2-2>を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明及び甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)申立人の主張について
a 申立人の主張
申立人は、申立書の第19~20ページにおいて、以下の主張をしている。
「・・・甲第2号証の実施例1では多官能ラジカル重合性化合物(B)としてエポキシエステル3000Aが使用されているが、甲第2号証の【0047】には多官能ラジカル重合性化合物(B)の例として多官能アリル系化合物が記載されており、 【0055】には多官能アリル系化合物の具体例としてエチレングリコールジアリルエーテル、トリアリルイソシアヌレート、フタル酸ジアリル等の2個以上のアリル基を有する化合物が多数記載されている。・・・したがって、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明であって、新規性がないか、甲第2号証の記載から当業者が容易に想到する発明であって、進歩性がない。」
b 上記主張の検討
(a)新規性について
引用発明の認定については、「引用発明として主張された発明が「刊行物に記載された発明」(特許法29条1項3号)であって,当該刊行物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選択肢を有する場合には,特定の選択肢に係る技術的思想を積極的あるいは優先的に選択すべき事情がない限り,当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出することはできず,これを引用発明と認定することはできない。」(知的財産高等裁判所判決 平成28年(行ケ)第10182号,第10184号)と判示している。
そして、甲2には、多官能ラジカル重合性化合物(B)として、複数の選択肢があるところ、実施例1~3では多官能ラジカル重合性化合物(B)として「エポキシエステル3000A」である「ビスフェノールA型エポキシアクリレート」が使用され、また、実施例4~6では「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」が使用され、実施例7~9では「脂肪族ウレタンアクリレート」が使用され、実施例10では「トリメチロールプロパントリアクリレート」が使用されているところ、これらの化合物はすべて「多官能(メタ)アクリル系化合物」に属するものであって、「多官能アリル系化合物」を使用した例は一切無い。そして、甲2の他の記載を参酌しても、多官能ラジカル重合性化合物(B)として、「多官能アリル系化合物」を積極的あるいは優先的に選択すべき事情は見られない。
そうすると、甲2の記載から、式(I)で表されるラジカル重合性単量体(A)および多官能ラジカル重合性化合物(B)を含有する硬化性組成物において、多官能ラジカル重合性化合物(B)として、「多官能アリル系化合物」、さらにその具体的化合物である「フタル酸ジアリル、ジフェン酸ジアリル、トリアリルイソシアヌレート」を選択したものを引用発明として認定することはできない。
(b)進歩性について
上記(イ)bで説示したとおり、本件特許発明1は進歩性を有するものである。
なお、審査時に出願人(特許権者)が意見書において、以下の追加実験結果を示している。
「(追加実験)
アリル化合物であるフタル酸ジアリルに代えて、ビスA型アクリレート系化合物である下記化合物1を用いたこと以外は、実施例2と同様にして比較用の硬化性樹脂組成物を作製し(比較例Aとします)、本願段落0049~段落0055の記載に従って、半導体チップとの接着性等の各物性を評価いたしました。比較例Aの配合並びに評価結果、及び、本願実施例2の配合並びに評価結果を表Aに示しました。
比較例Aの硬化性組成物の接着性は11.7Nであり、本願実施例(特に実施例2、接着性は86.9N)と比較して半導体チップとの接着性が著しく劣ります。
化合物1:ビスフェノールAポリプロピレングリコールジエーテルジアリレート(m+n=約3)(TCI社製)
(化合物1の構造式)
[図:0001427949000005.jpg]
(表A)
[図:0001427949000006.jpg]
」
上記の実験結果から、「多官能アリル系化合物」を用いた硬化性樹脂組成物は、「多官能(メタ)アクリレート系化合物」を用いた硬化性樹脂組成物と比較して、半導体チップとの接着性が顕著に高いという優れた効果を奏することが理解できる。そして、当該効果自体は、本件特許明細書の段落【0013】に記載されており、比較例Aとの対比により、本件特許発明1の効果をより裏付けるものとなっている。
一方、甲2には、「多官能アリル化合物」を用いることによって、半導体チップとの密着性に優れることについて記載も示唆もされておらず、当該効果は、甲2発明及び甲2の記載を参酌しても、当業者が予測し得るものとはいえない。
c 小括
したがって、申立人の上記主張を首肯することができない。
イ 本件特許発明2~4
本件特許発明2~4は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そうすると、上記アで説示したのと同様の理由により、本件特許発明2~4は、甲2に記載された発明ではないし、甲2発明及び甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由2についてのまとめ
したがって、本件特許発明1~4は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものとはいえず、また、本件特許発明1~4は、同法第同条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、本件特許の請求項1~4に係る特許は、申立理由2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3(サポート要件)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、以下の記載がある。なお、下線は当審により付与した。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、最近では、半導体チップの大型化や、半導体チップとパッケージ用基板の隙間の狭小化、生産性の向上が進んでおり、エポキシ系樹脂に由来する問題を伴わない、即ちアクリル系樹脂とラジカル開始剤にて諸特性を満足するアンダーフィル材が希求されている。
【0007】
そこで、本発明は、低粘度で硬化性に優れ、また、硬化物として、高いガラス転移温度と優れた靭性、半導体チップとの優れた密着性を有する硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
さて、本発明者らは、上記目的の実現に向け鋭意研究するなかで、α-(アリルオキシメチル)アクリレートが、酸素による重合阻害を受けにくいことから硬化が速く、表面硬化性や薄膜硬化性に優れ、硬化時の収縮が小さく、その硬化物はテトラヒドロフラン環を形成することから、機械特性に優れる、という特性に着目した。
しかしながら、このα-(アリルオキシメチル)アクリレートの重合体(硬化物)は、靭性に優れるものの、半導体チップとの密着性も十分には得られず、電子部品用途での適用に制限があることに新たに気付いた。
そこで、本発明者らは、α-(アリルオキシメチル)アクリレートの硬化物が示す優れた特性を維持しつつ、優れた耐熱性(高ガラス転移温度化)と半導体チップとの密着性を示す硬化性樹脂組成物を提供するために、さらに鋭意研究をした。
その結果、α-(アリルオキシメチル)アクリレートと、2個以上のアリル基を有する化合物と、を含む特定の硬化性樹脂組成物によって前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は以下の通りである。
【0009】
本発明の硬化性樹脂組成物は、下式1で表されるα-(アリルオキシメチル)アクリレート化合物と、
2個以上のアリル基を有する化合物と、
無機フィラーと、
ラジカル開始剤と、を含むことを特徴とする、硬化性樹脂組成物である。
(式1)
[図:0001427949000007.jpg]
式中、R1は、メチル基を表し、R2、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ水素原子又は炭素数1~6のアルキル基である。
【0010】
前記2個以上のアリル基を有する化合物は、アリルエーテル化合物であることを特徴とする硬化性樹脂組成物であってもよい。
【0011】
本発明の硬化性樹脂組成物は、硬化して硬化物としてもよい。
【0012】
前記硬化物は、電子部品に含まれてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、α-(アリルオキシメチル)アクリレートと2個以上のアリル基を有する化合物とを併用した硬化系にすることにより、低粘度で硬化性に優れ、また、硬化物として、高いガラス転移温度と優れた靭性、半導体チップとの優れた密着性を有する硬化性樹脂組成物提供することが可能となる。」
「【0018】
<<<硬化性樹脂組成物>>>
本発明の硬化性樹脂組成物は、α-(アリルオキシメチル)アクリレートと、2個以上のアリル基を有する化合物と、ラジカル開始剤と、無機フィラーと、を含む。下記に、本発明の硬化性樹脂組成物について詳述する。
【0019】
<<成分>>
<α-(アリルオキシメチル)アクリレート>
本発明硬化性樹脂組成物は、下式1で表されるα-(アリルオキシメチル)アクリレート化合物を含む。
(式1)
[図:0001427949000008.jpg]
式中、R1は、メチル基を表す。R2、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であり、同一であっても異なっていてもよい。R1~R6がアルキル基である場合には、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。
【0020】
α-(アリルオキシメチル)アクリレートは、ラジカル付加重合において、アリルラジカルを生じにくく、生長ラジカルとして重合活性の高いアルキレンラジカルを生じるため酸素硬化阻害を起こしにくい。
【0021】
また、α-(アリルオキシメチル)アクリレートは、重合時、テトラヒドロフラン環を形成しながら重合する。テトラヒドロフラン環は、いわゆるLewis塩基(孤立電子対の供与体)としての作用があり、テトラヒドロフラン環と被着体表面の官能基とが相互作用しやすくなるため、良好な密着性を発現すると考えられる。テトラヒドロフラン環の両隣にあるアルキレン基は、重合体鎖の柔軟性を向上させ、上記の相互作用がより効果的に生じる。さらに、その硬化物は、耐熱性、分散性、相溶性、機械物性にも優れる。
【0022】
<2個以上のアリル基を有する化合物>
本発明の硬化性樹脂組成物は、2個以上のアリル基を有する化合物を含む。2個以上のアリル基を有する化合物としては、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、特に限定されないが、例えば、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、ジフェン酸ジアリル、2,3-ナフタレンカルボン酸ジアリル、ジフェニルジアリルシラン、2,2’-ジアリルビスフェノールA、N,N-ジアリルアクリルアミド、ジアリルアミン、ジアリルメタクリルアミド、等のジアリル化合物;
トリメリット酸トリアリル、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルフォスフェート等のトリアリル化合物;
ピロメリット酸テトラアリル等のテトラアリル化合物;等が挙げられる。これらは単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。これらのうち、α-(アリルオキシメチル)アクリレート化合物の重合により得られる靭性(例えば、破断伸び)及び密着性(接着性)を損なうことなく、ガラス転移温度を顕著に向上できることから、アリルエーテル化合物が好ましく、アリルフタル酸ジアリル、テトラフタル酸ジアリル、トリアリルシアヌレートがより好ましく、フタル酸ジアリルがさらに好ましい。」
「【0036】
<配合量>
硬化性樹脂組成物中、α-(アリルオキシメチル)アクリレート化合物、2個以上のアリル基を有する化合物、無機フィラー、ラジカル開始剤、その他の成分の配合量は特に限定されない。
【0037】
α-(アリルオキシメチル)アクリレート化合物と、2個以上のアリル基を有する化合物とは、固形分換算による質量比で、例えば、9:1~1:9とすることができ、8:2~9:1が好ましく、7:3~9:1がより好ましく、5:5~9:1がさらに好ましい。α-(アリルオキシメチル)アクリレート化合物と、2個以上のアリル基を有する化合物とは、固形分換算による質量比がかかる範囲にある場合には、硬化物の靭性(高破断伸びなど)と、優れた耐熱性(高ガラス転移温度)及び半導体チップとの密着性(接着性)を有するものとすることができる。
【0038】
α-(アリルオキシメチル)アクリレート化合物と、2個以上のアリル基を有する化合物との配合量の和としては、例えば、硬化性樹脂組成物全体に対し、固形分換算で、20~95質量%とすることができ、25~90質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましい。
【0039】
ラジカル開始剤の含有量は、例えば、硬化性樹脂組成物全体に対し、固形分換算で、0.01~10質量%とすることができる。ラジカル開始剤の含有量がかかる範囲にある場合には、重合成分の反応が十分に進行し易い。
【0040】
無機フィラーの配合量は、例えば、硬化性樹脂組成物全体に対し、固形分換算で、20~95質量%とすることができ、25~90質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましい。無機フィラーの配合量がかかる範囲にある場合には、硬化性樹脂組成物の粘度が高くなりすぎず、かつ、硬化物の硬さ(高弾性率など)と、靭性(高破断伸びなど)が両立でき、半導体チップに対し密着性(接着性)を有するものとすることができる。」
「【実施例】
【0045】
<<<実施例及び比較例>>>
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。なお、表中の配合量は固形分成分としての質量部を示す。
【0046】
硬化性樹脂組成物の原料として、以下のものを使用した。
【0047】
<<原料>>
<樹脂成分>
・α-(アリルオキシメチル)アクリレート化合物
α-アリルオキシメチルアクリレート(日本触媒社製 製品名:AOMA)
・2個以上のアリル基を有する化合物
フタル酸ジアリル(東京化成社製)
イソフタル酸ジアリル(東京化成社製)
テレフタル酸ジアリル(東京化成社製)
トリアリルシアヌレート(東京化成社製)
・無機フィラー
アドマファインSV-C10(アドマテックス社製)球状シリカ(平均粒径0.5μm)
DAW-03(デンカ社製)球状アルミナ(平均粒径4.0μm)
ショウビーエヌUHP-S2(昭和電工社製)鱗片状窒化ホウ素(平均粒径0.7μm)
TOYAL TecFiller TFZ-N01P(東洋アルミ社製)不定形窒化アルミニウム(平均粒径1.2μm)
・ラジカル開始剤
パーヘキサHC(日油社製)
【0048】
<<硬化性樹脂組成物の調製>>
上述した各原料を、表1に示される配合量にて配合し、各実施例及び各比較例にかかる硬化性樹脂組成物を製造した。
【0049】
<<評価>>
各硬化性樹脂組成物を用い、以下の手順に従って各評価を行った。
【0050】
<<粘度測定>>
各実施例及び比較例の硬化性樹脂組成物の調製直後の粘度[mPa・s]を25℃、50rpmの条件にてコーンプレート型粘度計(東機産業社製TVH-33H)で測定した。結果を表1に示した。
【0051】
<<弾性率測定>>
ガラス板の片面全面にガラスクロス入りのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)テープ(日東電工社製NITOFLON粘着テープNo.903UL-S/厚み0.13mm)とガラスクロス無しのPTFEテープ(日東電工社製NITOFLON粘着テープNo.903UL/厚み0.13mm)を順に重ねて貼って硬化膜作製用の基板を作製した。硬化膜作製用の基板は2枚作製し、その内1枚の基板のPTFEテープ貼付面にて、向い合う2辺の端部にガラスクロス無しのPTFEテープにて2枚重ねしたスペーサー(幅20mm)を設けた。
スペーサーを備える基板のPTFEテープ貼付面に各実施例及び比較例の硬化性樹脂組成物を適量滴下し、スペーサーの無い基板のPTFEテープ貼付面が硬化性組成物に触れるように重ねた。硬化性組成物が硬化膜作製用の基板間で濡れ広がった後に、スペーサー部をクリップで固定し、熱風循環式乾燥にて110℃1時間硬化させた。その後、硬化膜を硬化膜作製用の基板から剥がし、硬化膜を幅5mm、長さ70mmにカットし、引張試験を下記条件にて行い、試験応力が0.5MPaから1.0MPaにかけての応力-歪み曲線の傾きから弾性率を求めた。結果を表1に示した。
[測定条件]
試験機:引張試験機EZ-SX(株式会社島津製作所製)
チャック間距離:50mm
試験速度:1mm/min
伸び計算:(引張移動量/チャック間距離)×100
【0052】
<<破断伸び測定>>
各実施例及び比較例の樹脂組成物について、弾性率測定の硬化膜と同様にして評価試料を作製し、引張試験を下記条件にて行い、破断伸びを測定した。結果を表1に示した。
[測定条件]
試験機:引張試験機EZ-SX(株式会社島津製作所製)
チャック間距離:50mm
試験速度:1mm/min
伸び計算:(引張移動量/チャック間距離)×100
【0053】
<<ガラス転移温度>>
各実施例及び比較例の樹脂組成物について、弾性率測定の硬化膜と同様に作製した硬化膜を、幅5mm、長さ30mmにカットし、動的粘弾性試験(DMA)を下記条件にて行い、ガラス転移温度を測定した。結果を表1に示した。
[測定条件]
試験機:G2 RSA (ティー・エイ・インスツルメント社製)
測定モード:引張モード
チャック間距離:10mm
温度条件:窒素雰囲気下、30℃~250℃まで5℃/分で昇温
【0054】
<<接着性>>
厚さ1.5mmの銅張積層板上に各硬化性樹脂組成物を5μL滴下した後、厚さ0.62mm、2mm角のシリコンウエハを乗せ、熱風循環式乾燥炉にて160度で1時間硬化させ、密着性評価基板を作製した。密着性評価基板をボンドテスター(Nordson DAGE社製4000Plus Bondtester)にて、レンジ10kg、テスト高さ100μm、テスト速さ100μm/sの測定条件にてシェアテストを行い、密着性を評価した。
【0055】
<<架橋密度測定>>
上述のガラス転移温度の測定にて得られた動的粘弾性試験(DMA)の結果より、各実施例及び比較例の樹脂組成物について、硬化膜の架橋密度を算出した。結果を表1に示した。算出方法としては、得られた動的粘弾性試験(DMA)の貯蔵弾性率の平坦領域の値を用いて下記式により架橋密度を算出した。
n=E’/3RT
式中、nは架橋密度(mol/cm3)、Rは気体定数(8.31J/k・mol)、Tは平坦領域貯蔵弾性率の絶対温度(K)、E’は平坦領域貯蔵弾性率(dyne/cm2)である。
【0056】
【表1】
[図:0001427949000009.jpg]
なお、表中のa)は、硬化膜が脆く、サンプル取得が不可能であったため、測定ができなかったことを示す。
【0057】
以上詳述した通り、各実施例及び比較例の評価結果から、本願発明の効果が理解できる。」
ウ 検討
(ア)本件特許発明の課題
本件特許発明の課題は、本件特許明細書の段落【0008】等からみて、「α-(アリルオキシメチル)アクリレートの硬化物が示す優れた特性を維持しつつ、優れた耐熱性(高ガラス転移温度化)と半導体チップとの密着性を示す硬化性樹脂組成物を提供すること」であるものと認められる。
(イ)判断
本件特許明細書の段落【0008】には、「本発明者らは、α-(アリルオキシメチル)アクリレートの硬化物が示す優れた特性を維持しつつ、優れた耐熱性(高ガラス転移温度化)と半導体チップとの密着性を示す硬化性樹脂組成物を提供するために、さらに鋭意研究をした。
その結果、α-(アリルオキシメチル)アクリレートと、2個以上のアリル基を有する化合物と、を含む特定の硬化性樹脂組成物によって前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。」ことが記載されている。
実施例においては、「α-(アリルオキシメチル)アクリレート化合物」として、「α-アリルオキシメチルアクリレート(日本触媒社製 製品名:AOMA)」を、2個以上のアリル基を有する化合物として、「フタル酸ジアリル(東京化成社製)」、「イソフタル酸ジアリル(東京化成社製)」、「テレフタル酸ジアリル(東京化成社製)」、「トリアリルシアヌレート(東京化成社製)」の4種類の化合物を使用している。
そして、「α-アリルオキシメチルアクリレート」のみを使用した比較例2は、粘度が13mPa・s、弾性率が3767MPa、破断伸びが4.3%、ガラス転移温度が85.5℃、接着性が23.0Nとなっている。一方、「2個以上のアリル基を有する化合物」を併用した実施例1~10では、粘度が17mPa・s(実施例1、7)~47mPa・s(実施例4)、弾性率が3310(実施例6)~4065(実施例2)、破断伸びが3.7%(実施例1)~5.0%(実施例2及び4)、そして、ガラス転移温度が105.8℃(実施例1)~166.8℃(実施例4)、接着性が68.2N(実施例1)~86.9N(実施例2)となっている。
さらに、実施例と比較例2の物性を対比すると、実施例は比較例2と同様、低粘度で弾性率、破断伸びが良好でありながら、特にガラス転移温度について、比較例2の85.5℃に対し、実施例は105.8℃(実施例1)~166.8℃(実施例4)となっていることから、優れた耐熱性(高ガラス転移温度化)を示すと共に、接着性について、比較例2の23.0Nに対し、68.2N(実施例1)~86.9N(実施例2)となっていることから、半導体チップとの密着性が優れることが実証されている。
そうすると、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の一般的記載及び実施例・比較例の対比から、「下式1で表されるα-(アリルオキシメチル)アクリレート化合物と、2個以上のアリル基を有する化合物と、無機フィラーと、ラジカル開始剤と、を含むことを特徴とする、硬化性樹脂組成物。」という技術的事項を満たすことにより、「α-(アリルオキシメチル)アクリレートの硬化物が示す優れた特性を維持しつつ、優れた耐熱性(高ガラス転移温度化)と半導体チップとの密着性を示す」ことが理解できる。
そして、本件特許発明1は、上記技術的事項を備えるものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件特許発明の課題を解決できることを認識できるものである。
また、本件特許発明1を引用する本件特許発明2~4についても同様である。
(ウ)申立人の主張について
a 申立人の主張
申立人は、申立書の第21ページにおいて以下の主張をしている。
「組成物における各成分の割合が異なれば物性が異なることは当業者の技術常識であり、特定の組成の組成物の結果から、成分の配合割合が特定されていない請求項1に記載の硬化性樹脂組成物に含まれるあらゆる組成物が発明の課題を解決できることを当業者が理解できるとは到底いえず、実施例に示された結果を請求項1に記載の範囲まで拡張乃至一般化できるとは到底いえない。請求項2~4についても同様である。」
b 上記申立人の主張の検討
本件特許明細書の実施例は、2個以上のアリル基を有する化合物として、4つの異なる化合物を使用しており、これらの化合物のすべてが本件特許発明の課題を解決しているのであるから、当該化合物に基づいて「2個以上のアリル基を有する化合物」に拡張乃至一般化することができるものと当業者は理解することができる。
また、成分の配合量に関し、α-(アリルオキシメチル)アクリレート化合物と、2個以上のアリル基を有する化合物とは、実施例では、7:3(実施例1、7)、5:5(実施例2、5、6、8~10)、3:7(実施例3)、1;9(実施例4)と種々の組成比で実証を行っている。
一方、申立人は、「組成物における各成分の割合が異なれば物性が異なることは当業者の技術常識であり」という一般論にとどまり、具体的証拠をもって本件特許発明が、本件特許発明の課題が解決できないことを立証しているわけではない。
このため、申立人の上記主張は首肯できない。
エ 申立理由3についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由3によっては取り消すことはできない。
第6 むすび
上記第5のとおり、本件特許の請求項1~4に係る特許は、当審が通知した取消理由及び申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700681