特許異議申立
2023-700497
耐水性紙および液体容器
- 審判番号
- 2023-700497
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-075180
- 登録番号
- 7173207
- 請求日
- 2023年05月15日
- 審決日
- 2024年10月17日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】王子ホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人大谷特許事務所
- 【異議申立人】齊藤 恵美子
- 審判長/審判官
- 審判長 一ノ瀬 覚
- 審判官 稲葉 大紀
- 審判官 西堀 宏之
- 分類
- P1651.121-YAA(D21H) / P1651.537-YAA(D21H)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7173207号発明「耐水性紙および液体容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7173207号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
特許第7173207号の請求項1~7、9~14に係る特許を維持する。
特許第7173207号の請求項8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7173207号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願は、令和3年4月27日(優先権主張令和3年2月25日)に出願され、令和4年11月8日に特許権の設定登録がされ、令和4年11月16日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 5月15日 :特許異議申立人齊藤恵美子(以下「申立人」と
いう。)による請求項1~14に係る特許に対
する特許異議の申立て
令和5年 7月19日付け:取消理由通知書
令和5年 9月22日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和5年12月 4日 :申立人による意見書の提出
令和6年 3月15日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和6年 5月21日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和6年 7月16日 :申立人による意見書の提出(以下「意見書2」
という。)
なお、令和5年9月22日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年5月21日提出の訂正請求書(以下、当該訂正請求による訂正自体を「本件訂正」という。)は、「特許第7173207号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~14について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、次の訂正事項からなるものである。なお、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「紙基材の少なくとも一方の面に、少なくとも1層の下塗り層、および耐水性層をこの順に有する耐水性紙であり、
紙基材の該少なくとも一方の面の最上層に耐水性層を有し、
該耐水性層が、エチレン-メタクリル酸共重合体、および有機粒子を含有し、
該有機粒子の融点または軟化点が100℃以上であり、
耐水性層中の有機粒子の含有量が40質量%以下であり、
前記下塗り層が、エチレン-メタクリル酸共重合体を含有する、
耐水性紙。」とあるのを、
「紙基材の少なくとも一方の面に、少なくとも1層の下塗り層、および耐水性層をこの順に有する耐水性紙であり、
前記下塗り層は、紙基材側から、顔料塗工層および下塗り耐水性層をこの順に有し、
前記耐水性層が塗工層であり、
紙基材の該少なくとも一方の面の最上層に耐水性層を有し、
該耐水性層が、エチレン-メタクリル酸共重合体、および有機粒子を含有し、
該有機粒子の融点または軟化点が100℃以上であり、
該有機粒子の平均粒径が0.01μm以上15μm以下であり、
耐水性層中の有機粒子の含有量が40質量%以下であり、
前記顔料塗工層中の顔料の含有量が60質量%以下であり、
前記下塗り耐水性層が、エチレン-メタクリル酸共重合体を含有し、
透気度が99,999秒以上である、
耐水性紙。」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~7、9~14も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「有機粒子の平均粒径が0.01μm以上50μm以下である、請求項1に記載の耐水性紙。」とあるのを、
「有機粒子の平均粒径が5μm以上15μm以下である、請求項1に記載の耐水性紙。」に訂正する。
(請求項2の記載を引用する請求項3~7、9~14も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項9に
「耐水性層を設けた面の測定時間30分間における20℃の水に対するCobb吸水度が40g/m2以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の耐水性紙。」とあるのを、
「耐水性層を設けた面の測定時間30分間における20℃の水に対するCobb吸水度が40g/m2以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の耐水性紙。」に訂正する。
(請求項9の記載を引用する請求項10~14も同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項10に
「耐水性層を設けた面の測定時間30分間における90℃の水に対するCobb吸水度が100g/m2以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載の耐水性紙。」とあるのを、
「耐水性層を設けた面の測定時間30分間における90℃の水に対するCobb吸水度が100g/m2以下である、請求項1~7、9のいずれか1項に記載の耐水性紙。」に訂正する。
(請求項10の記載を引用する請求項11~14も同様に訂正する。)
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項11に
「ヒートシール性を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の耐水性紙。」とあるのを、
「ヒートシール性を有する、請求項1~7、9、10のいずれか1項に記載の耐水性紙。」に訂正する。
(請求項11の記載を引用する請求項12~14も同様に訂正する。)
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項12に
「液体容器、またはその蓋用である、請求項1~11のいずれか1項に記載の耐水性紙。」とあるのを、
「液体容器、またはその蓋用である、請求項1~7、9~11のいずれか1項に記載の耐水性紙。」に訂正する。
(請求項12の記載を引用する請求項13、14も同様に訂正する。)
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項13に
「請求項1~12のいずれか1項に記載の耐水性紙を用いてなる、液体容器、またはその蓋。」とあるのを、
「請求項1~7、9~12のいずれか1項に記載の耐水性紙を用いてなる、液体容器、またはその蓋。」に訂正する。
(請求項13の記載を引用する請求項14も同様に訂正する。)
(9)一群の請求項について
本件訂正は、一群の請求項〔1~14〕について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、「下塗り層」の層構成について、「紙基材側から、顔料塗工層および下塗り耐水性層をこの順に有し、前記耐水性層が塗工層であり、」と限定し、「有機粒子」の粒径について、「該有機粒子の平均粒径が0.01μm以上15μm以下であり、」と限定し、「下塗り層」が有することとなる「顔料塗工層」について、「前記顔料塗工層中の顔料の含有量が60質量%以下であり、」と限定し、同じく「下塗り層」が有することとなる「下塗り耐水性層」について、「透気度が99,999秒以上である、」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、「下塗り層」の層構成についての訂正は本件明細書の【0022】、【0025】の記載に基づくものであり、「有機粒子」の粒径についての訂正は本件明細書の【0015】の記載に基づくものであり、「下塗り層」が有することとなる「顔料塗工層」についての訂正は本件明細書の【0026】の記載に基づくものであり、「下塗り層」が有することとなる「下塗り塗工層」についての訂正は【0023】、【0035】の記載に基づくものである。そうすると、訂正事項1は、新規事項の追加に該当しない。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項2に記載の「有機粒子の平均粒径」の範囲を「0.01μm以上50μm以下」から「5μm以上15μm以下」に狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書の【0015】の記載に基づく訂正であるから新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、本件訂正前の請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的するものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(4)訂正事項4~8
訂正事項4~8は、本件訂正前の請求項8が削除されたことに伴い、引用する請求項の数を減少させ、また、削除された請求項8を引用しているという不明瞭な状態を解消させるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1~7、9~14に係る発明(以下「本件発明1」等という。まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~7、9~14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
紙基材の少なくとも一方の面に、少なくとも1層の下塗り層、および耐水性層をこの順に有する耐水性紙であり、
前記下塗り層は、紙基材側から、顔料塗工層および下塗り耐水性層をこの順に有し、
前記耐水性層が塗工層であり、
紙基材の該少なくとも一方の面の最上層に耐水性層を有し、
該耐水性層が、エチレン-メタクリル酸共重合体、および有機粒子を含有し、
該有機粒子の融点または軟化点が100℃以上であり、
該有機粒子の平均粒径が0.01μm以上15μm以下であり、
耐水性層中の有機粒子の含有量が40質量%以下であり、
前記顔料塗工層中の顔料の含有量が60質量%以下であり、
前記下塗り耐水性層が、エチレン-メタクリル酸共重合体を含有し、
透気度が99,999秒以上である、
耐水性紙。
【請求項2】
有機粒子の平均粒径が5μm以上15μm以下である、請求項1に記載の耐水性紙。
【請求項3】
有機粒子がポリオレフィン粒子である、請求項1または2に記載の耐水性紙。
【請求項4】
有機粒子がポリプロピレン粒子、ポリエチレン粒子、およびプロピレン-エチレン共重合樹脂粒子よりなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1~3のいずれか1項に記載の耐水性紙。
【請求項5】
耐水性層中の有機粒子の含有量が0.5質量%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の耐水性紙。
【請求項6】
有機粒子が水分散性の有機粒子である、請求項1~5のいずれか1項に記載の耐水性紙。
【請求項7】
耐水性層の塗工量が0.1g/m2以上20g/m2以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の耐水性紙。
【請求項9】
耐水性層を設けた面の測定時間30分間における20℃の水に対するCobb吸水度が40g/m2以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の耐水性紙。
【請求項10】
耐水性層を設けた面の測定時間30分間における90℃の水に対するCobb吸水度が100g/m2以下である、請求項1~7、9のいずれか1項に記載の耐水性紙。
【請求項11】
ヒートシール性を有する、請求項1~7、9、10のいずれか1項に記載の耐水性紙。
【請求項12】
液体容器、またはその蓋用である、請求項1~7、9~11のいずれか1項に記載の耐水性紙。
【請求項13】
請求項1~7、9~12のいずれか1項に記載の耐水性紙を用いてなる、液体容器、またはその蓋。
【請求項14】
液体容器が紙コップである、請求項13に記載の液体容器、またはその蓋。」
第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
取消理由(進歩性)
本件特許の請求項1~14に係る発明は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
[引用文献一覧](取消理由通知(決定の予告)で用いていない文献も併せて列挙する。また、申立人が提出した甲第○号証は以下「甲○」という。)
甲1:国際公開第2020/152753号
甲2:特開2016-166304号公報
甲3:国際公開第2020/203346号
甲4:特開2014-25163号公報
甲5:特開2017-48479号公報
甲6:特開2006-316367号公報
甲7:特開2004-176192号公報
甲8:特開2021-4422号公報
甲9:特開2019-2098号公報
甲11:MICRO POWDERS, INC.,“High Performance Wax Additives”,[online],2020年4月,インターネット<URL:https://spmorell.com/wp-content/uploads/Micro-Powders-brochure.pdf>
甲15:特開平9-111693号公報
甲18:特許第4113287号公報
甲19:特許第6298793号公報
甲20:特許第6445411号公報
第5 各甲号証の記載、引用発明、周知技術
1 甲1
(1)甲1の記載
甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は理解の便宜のため当審が付した。また、「・・・」は文章の省略を示す。以下同様。
「[0001] 本発明は、プラスチックの使用量を低減した包装用紙に関する。」
「[0014] ・・・本発明における包装用紙は、例えば、袋、アイスクリーム等の食糧カップ、コーヒー等の飲料用コップ、ホットスナック等の食糧容器及びトレイ、箱、ケース、器、封筒等の包装容器全般に加工可能である。」
「[0027] 紙基材には、ヒートシール層以外の塗工層が1層以上設けられていてもよく、例えば、顔料と接着剤を含有する顔料塗工層が設けられたものであってもよい。・・・顔料塗工層中の顔料と接着剤の配合割合は特に限定されるものではないが、顔料100質量部に対し接着剤5~50質量部とすることが好ましい。例えば、接着剤としては、顔料100質量部に対して、1~5質量部のリン酸エステル化澱粉と5~15質量部のスチレンブタジエンラテックスの組み合わせを使用することができる。顔料塗工層には、本発明の目的とする効果を損ねない範囲で各種助剤を含んでもよく、・・・。また、このような顔料塗工層の塗工量としては、例えば、基紙の片面あたり、固形分換算で、2~40g/m2である。本発明の包装用紙の実施形態の一つとして、ヒートシール層はこのような顔料塗工層の上に設けられてもよく、・・・。」
「[0045](実施例11)
実施例9で得られた紙基材の片面に、水系アイオノマーエマルジョン(商品名:ケミパールS-300、三井化学社製、組成:エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、自己乳化型エマルジョン、マイクロトラック法平均粒子径0.5μm)を乾燥塗工量が5g/m2となるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層(下層)を設けた。次いで、同水系アイオノマーエマルジョンをヒートシール層(下層)の表面に、乾燥塗工量が2g/m2となるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層(上層)を設け、包装用紙を作製した。」
「[0058](2)透気度
JIS P 8117:2009に準拠して、デジタル型王研式透気度平滑度試験機(旭精工社製、型番:EYDO-6-2M)にて、包装用紙の透気度(秒)を測定した。数値の高い方が、通気性が低い(バリア性が高い)ことを示す。」
「[0060](3)撥水性
JIS K 6768:1999(プラスチック-フィルム及びシート-濡れ張力試験方法)に準拠し、ヒートシール層表面の撥水性を評価した。数字が低い程撥水性が高い(濡れにくい)ことを示す。なお、両面にヒートシール層がある場合は、両面の平均値を用いた。」
「[0063][表2]
[図:0001418197000001.jpg]
」
「[請求項1] 紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層のヒートシール層を有する包装用紙であって、前記ヒートシール層がアイオノマーを含み、前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で2~10g/m2であることを特徴とする包装用紙。
[請求項2] 前記ヒートシール層が少なくとも一方の面に2層以上形成されていることを特徴とする請求項1に記載の包装用紙。
[請求項3] 透気度が10000秒を超えることを特徴とする請求項1又は2に記載の包装用紙。
[請求項4] 前記アイオノマーがエチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩であることを特徴とする請求項1~3の何れか一つに記載の包装用紙。」
(2)甲1に記載された発明
上記(1)の記載を参照し、特に実施例11に着目すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「紙基材の少なくとも一方の面にヒートシール層を有する包装用紙であって、
紙基材の片面に、水系アイオノマーエマルジョン(商品名:ケミパールS-300、三井化学社製、組成:エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、自己乳化型エマルジョン、マイクロトラック法平均粒子径0.5μm)を乾燥塗工量が5g/m2となるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層(下層)を設け、次いで、前記水系アイオノマーエマルジョンをヒートシール層(下層)の表面に、乾燥塗工量が2g/m2となるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層(上層)を設け、
JIS P 8117:2009に準拠して、デジタル型王研式透気度平滑度試験機(旭精工社製、型番:EYDO-6-2M)にて測定した透気度(秒)が11000秒であり、JIS K6768:1999(プラスチック-フィルム及びシート-濡れ張力試験方法)に準拠して測定したヒートシール層表面の撥水性が34である、包装用紙。」
2 甲2
(1)甲2の記載
「【請求項3】
支持体、アルミニウム箔およびポリエチレン層が順次積層されてなる基材1における前記ポリエチレン層上に、もしくは
支持体、アルミニウム箔およびエチレン-メタクリル酸共重合体層が順次積層されてなる基材2における前記エチレン-メタクリル酸共重合体層上に、
請求項1または2記載のシーラント接着剤からなるシーラント層を設けてなる、蓋材。」
「【0002】
ヨーグルト、乾燥菓子、カップラーメンなどの包装には開封可能な密封容器が使用されており、容器本体と蓋材とはホットメルト接着剤またはシーラント接着剤を利用し、接着されている。ホットメルト接着剤またはシーラント接着剤は、蓋材の内面に設けられ、十分な密封(接着)強度、開封しやすさ(易開封性)、開封中・後の外観の良さが求められる。」
「【0017】
ワックス(D)は、糸曳きの低減を担う。
本発明で用いられるワックス(D)としては、密度0.900g/cm3以上~0.950g/cm3以下、DSCで求められる融点が70℃以上~120℃以下であることが好ましく、ポリエチレン構造のワックスが望ましい。パラフィンワックスでも良いが、一般的にパラフィンワックスは板状成型物である為に、これを用いるには溶融させてから押出機のサイドフィーダーから投入しなければならず、押出加工の工数が増えることになる。粒状またはビーズ状であれば他の原料(低密度ポリエチレン(A)やエチレン共重合体(B)やポリブテン(C))とブレンドし易い。ポリエチレンワックスやフィッシャートロプシュワックスが一般的に粒状またはビーズ状の形状であり、押出加工に適している。
なお、融点は、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter)により10℃/分の昇温速度で測定するDSC曲線の熱量ピーク時の温度である。」
「【0021】
本発明の蓋材について説明する。
本発明の蓋材は、蓋基材に上記本発明のシーラント接着剤からなるシーラント層を設けてなるものである。
蓋基材とは、支持体、アルミニウム箔およびポリエチレン層が順次積層されてなる基材1、もしくは支持体、アルミニウム箔およびエチレン-メタクリル酸共重合体層が順次積層されてなる基材2であり、シーラント層は、前記基材1におけるポリエチレン層上に、もしくは前記基材2おける前記エチレン-メタクリル酸共重合体層上に、設けられる。」
「【0025】
以下に本発明を具体的に示す。
<ポリエチレン被覆紙容器用シーラント接着剤の作成方法>
表1~表3に示す組成(質量%)で低密度ポリエチレン樹脂(A)等、エチレン共重合体(B)等、ポリブテン(C)、ワックス(D)をヘンシェルミキサーで5分間プリブレンドした。
ホッパーにプリブレンド物を投入し、スクリューフィーダーを用いて押出機に供給し、下記条件にてシーラント接着剤を作成した。添加剤の酸化防止剤IRGANOX 1010 0.1質量部及びブロッキング防止剤 インクロスリップC 0.1質量部は各処方に一律に添加した。
押出機;アイ・ケー・ジー社製同方向回転二軸押出機PMT32-40.5
バレル温度:170℃(供給口160℃)
スクリュー回転速度:80rmp
供給速度:10kg/hr
【0026】
<蓋材の作成方法>
実施例1~14、比較例1~11については、紙70μm/アルミニウム7μm/ポリエチレン20μmの基材のポリエチレン面に、押出しラミネーターを用いてシーラント接着剤を下記の条件にて押出し、20μmのシーラント層を積層し、蓋材を作成した。
実施例15、16については、紙70μm/アルミニウム7μm/エチレン-メタクリル酸共重合体20μmの基材のエチレン-メタクリル酸共重合体面に、押出しラミネーターを用いて下記の条件にて実施例2、3と同じシーラント接着剤を押出し、20μmのシーラント層を積層し、蓋材を作成した。
以下に加工条件を示した。
押出しラミネーター:ムサシノキカイ製400M/MテストEXTラミネーター
ダイ直下樹脂温度:200℃~260℃(シーラント接着剤の加工性により適宜調整した)
加工速度:10~20m/分(シーラント接着剤の加工性により適宜調整した)
Tダイ幅:有効幅270mm
冷却ロール表面温度:20℃
【0027】
<低密度ポリエチレン樹脂>
PE(1):低密度ポリエチレン、MFR3.7g/10分、密度0.924g/cm3、DSC融点111℃
PE(2):低密度ポリエチレン、MFR13g/10分、密度0.919g/cm3、DSC融点107℃
PE(3):低密度ポリエチレン、MFR45g/10分、密度0.924g/cm3、DSC融点110℃
【0028】
<共重合体樹脂>
EVA(1)エチレン-酢酸ビニル共重合体、MFR25g/10分、酢酸ビニル含有率7%、密度0.925g/cm3
EVA(2)エチレン-酢酸ビニル共重合体、MFR350g/10分、酢酸ビニル含有率20%、密度0.934g/cm3
EVA(3)エチレン-酢酸ビニル共重合体、MFR2000g/10分、酢酸ビニル含有率20%、密度0.930g/cm3
EVA(4)エチレン-酢酸ビニル共重合体、MFR2.5g/10分、酢酸ビニル含有率6%密度0.95g/cm3
【0029】
EMMA(1)エチレン-メチルメタクリレート共重合体、MFR20g/10分、コモノマー含有率20%、密度0.940g/cm3
EMMA(2)エチレン-メチルメタクリレート共重合体、MFR450g/10分、コモノマー含有率28%、密度0.940g/cm3
EMAA(1)エチレン-メタクリル酸共重合体、MFR30g/10分、コモノマー含有率8%、密度0.940g/cm3
【0030】
<ポリブテン樹脂>
PB(1):MFR1g/10分、密度0.910g/cm3、DSC融点112℃
PB(2):MFR1.8g/10分、密度0.915g/cm3、DSC融点125℃
【0031】
<ワックス>
WAX(1):ポリエチレンワックス、密度0.92g/cm3、DSC融点110℃/103℃、重量平均分子量(Mw)9212
WAX(2):ポリエチレンワックス、密度0.94g/cm3、DSC融点99℃、重量平均分子量(Mw)655
WAX(3):フィッシャートロプシュワックス、密度0.94g/cm3、DSC融点82℃/110℃、重量平均分子量(Mw)943」
「【0036】
【表1】
[図:0001418197000002.jpg]
」
(2)甲2に記載された発明
上記(1)の記載を参照し、特に実施例10に着目すると、甲2には以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「紙70μm/アルミニウム7μm/ポリエチレン20μmの基材のポリエチレン面に、押出しラミネーターを用いてシーラント接着剤を押出し、20μmのシーラント層を積層した、蓋材であって、
前記シーラント接着剤は、低密度ポリエチレン樹脂30質量%、エチレン-メタクリル酸共重合体30質量%、ポリブテン樹脂30質量%、粒状またはビーズ状のポリエチレンワックス(密度0.92g/cm3、DSC融点110℃/103℃、重量平均分子量(Mw)9212)10質量%を混合してなる、蓋材。」
3 甲3
(1)甲3の記載
「[0001] 本発明は、紙に対し耐水性、耐油性及び撥油性を与え、更に接着剤の機能を有する紙用オーバーコーティング用及び接着剤用組成物に関する。」
「[0012] 本発明が解決しようとする課題は、フッ素系化合物を含まず、塗工するだけで紙に対し耐水性、耐油性及び撥油性を与える紙用オーバーコーティング組成物を提供することにある。また、本発明が解決しようとする課題は、紙カップ等の紙容器や紙ストローに使用されるポリエチレンフィルム等の代替として所望される、紙基材と紙基材あるいはプラスチックフィルムとを接着する接着剤としての機能と、紙基材表面のオーバーコート剤に所望される耐水性、耐油性の機能とを合わせ持つと共に、紙リサイクル時に分別せずにリサイクル可能な、紙用オーバーコーティング用及び接着剤用組成物、並びに該組成物を用いた塗工物、耐水耐油紙積層体、紙ストロー及び紙製食器を提供することにある。」
「[0037] 本発明で使用するエマルジョンは、ワックスを含有することにより、本発明のコーティング組成物を塗布した塗工紙を積層した際の、滑り性を良くすることができるので、作業性を向上できる。ワックスとしては、脂肪酸アミドワックス、カルナバワックス、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、みつろう、マイクロクリスタリンワックス、酸化ポリエチレン-ワックス、アマイドワックスなどのワックスを挙げることができる。これらは単独で使用してもよいし併用してもよい。
[0038] 中でも脂肪酸アミドワックス、カルナバワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックスを使用することが好ましく、特にカルナバワックス、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックスを使用することが好ましい。
[0039] 脂肪酸アミドワックスの具体例としては、例えば、ペラルゴン酸アミド、カプリン酸アミド、ウンデシル酸アミド、ラウリン酸アミド、トリデシル酸アミド、ミリスチン酸アミド、ペンタデシル酸アミド、パルミチン酸アミド、ヘプタデシル酸アミド、ステアリン酸アミド、ノナデカン酸アミド、アラキン酸アミド、ベヘン酸アミド、リグノセリン酸アミド、オレイン酸アミド、セトレイン酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミド、これらの混合物及び動植物油脂脂肪酸アミド等が挙げられる。
前記カルナバワックスの具体例としてはMICROKLEAR 418(Micro Powders,Inc.社製)、精製カルナバワックス1号粉末(日本ワックス株式会社)等が挙げられる。
[0040] 前記オレフィンワックスの具体例としては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスが挙げられ、例えばMPP-635VF(Micro Powders,Inc.)、MP-620VF(当審注:「MPP-620VF」の誤記と認める。) XF(Micro Powders,Inc)等が挙げられる。
[0041] 前記パラフィンワックスの具体例としては、例えばMP-28C、MP-22XF、MP-28C(Micro Powders,Inc.)等が挙げられる。
[0042] 前記ワックスの配合量は、ワックス総量が本発明の組成物中の固形分100質量%全量に対し1.5~20質量%であることが好ましい。ワックス総量が本発明の組成物中の固形分100%全量に対し3質量%以上であれば耐ブロッキング性を保持できる傾向にあり、ワックス総量が水性ヒートシール剤固形分100%全量に対し15質量%以下であればヒートシール性が保持できる傾向にある。
[0043] また、ワックスの融点は、耐油性、耐熱性の観点から、80℃~130℃の範囲であることが好ましい
前記ワックスは、スチレンアクリル共重合体(A)を含む樹脂のエマルジョンに直接添加し混合分散させてもよいし、ワックスの分散体を作製した後、エマルジョンと混合させてもよい。分散方法としては、公知の方法、例えばメディアを用いた分散装置として、ペイントシェーカー、ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル、アジテーターミル等を使用することができ、メディアを用いないものとして超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ナノマイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー分散機等で分散することができる。」
(2)甲3に記載された事項
上記(1)を参照すると、甲3には以下の事項(以下「甲3記載事項」という。)が記載されている。
「塗工紙のコーティング組成物にワックスを含有することにより、塗工紙を積層した際の滑り性をよくすることができ、
特にカルナバワックス、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックスを使用することが好ましく、
前記カルナバワックスの具体例としてはMICROKLEAR 418(Micro Powders,Inc.社製)、精製カルナバワックス1号粉末(日本ワックス株式会社)等が挙げられ、
前記オレフィンワックスの具体例としては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスが挙げられ、例えばMPP-635VF、MPP-620VF、MPP-620XF(Micro Powders,Inc.社製)等が挙げられ、
前記パラフィンワックスの具体例としては、例えばMP-28C、MP-22F、MP-28C(Micro Powders,Inc.社製)等が挙げられ、
前記ワックスの配合量は、耐ブロッキング性及びヒートシール性が保持できる傾向にある、ワックス総量が組成物中の固形分100質量%全量に対し3質量%15質量%であることが好ましく、
ワックスの融点は、耐油性、耐熱性の観点から、80℃~130℃の範囲であることが好ましいこと。」
4 周知技術
(1)甲4の記載
「【0003】
・・・
食品包装用耐油紙に求められる機能としては、サラダ油、チョコレートをはじめとするオイル耐性はもちろんのこと、食品と直接触れるため可溶分が有る場合は安全性を、また、好みの大きさ、形状に応じて加工を行うため、罫線部の耐油性の付与、製缶時の糊付け適性、さらに紙の製造時および加工後にはリールにて巻取り、または積み重ねることにより紙の裏表が接着するブロッキングを防ぐことが必要となる。」
(2)甲5の記載
「【0004】
・・・このためアクリル系樹脂等を塗工した耐水耐油紙は、塗工層の粘着性が比較的高く、巻取りや平版で積み重ねた状態で保管する際や運搬する際に、塗工層と非塗工層、若しくは塗工層と塗工層が接着する所謂ブロッキングが生じやすくなる。・・・」
「【0008】
本発明は上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、良好な耐水性及び耐油性を保持するとともに、ブロッキングが生じにくく、多色オフセット印刷適性の良好な耐水耐油紙を提供することにある。」
(3)甲6の記載
「【0002】
・・・
食品包装用耐油紙に求められる機能としては、サラダ油、チョコレートを始めとするオイル耐性はもちろんのこと、食品と直接触れるため可溶分が有る場合は安全性を、また、好みの大きさ、形状に応じて加工を行うため、罫線部の耐油性の付与、製缶時の糊付け適性、さらに紙の製造時および加工後にはリールにて巻取り、または積み重ねることにより紙の裏表が接着するブロッキングを防ぐことが必要となる。」
「【0007】
上記の問題を解決すべく、本発明は基紙の上に少なくとも片面2層以上のアクリル樹脂主体からなる耐油層を有する紙に関し、ブロッキング性の改善された耐油紙およびその製造方法を提供することである。更には高い耐油性能を兼ね備えた食品包装用耐油紙を提供することである。」
(4)甲7の記載
「【0004】
・・・この耐油紙は、耐ブロッキング性が不十分であり、製品の巻き取り状態又は平版の堆積状態で、保管又は運搬する場合に、紙同士がくっつく、いわゆるブロッキングによる不具合が起きやすく改善が求められている。」
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記の事情に鑑み、耐油性および耐ブロッキング性に優れ、離解しやすい耐油紙および該耐油紙に好適な耐油紙用重合体ラテックスを提供することにある。」
(5)甲8の記載
「【0031】
[耐油紙の物性]
(平滑度)
・・・上記ヒートシール層の表面の上記平滑度が、9秒以上200秒以下であることで、ヒートシール層同士のブロッキング抑制効果を向上でき、内容物の付着を防止できる。」
(6)甲9の記載
「【0024】
・・・ブタジエンの含有率が55質量%以下であることで、耐油紙表面の粘着性を抑制し、耐油紙を積み重ねた場合に耐油紙表面が互いに接着して剥離性が悪化する現象、いわゆるブロッキングが生じることによる製袋時の加工性が低下することを抑制できる。ここで、ブタジエンの含有率とは、SBラテックス中の固形分に対するブタジエンの含有率をいう。」
(7)甲15の記載
「【0003】しかし、このような樹脂加工紙はブロッキング(製品を巻き取りで、または平判を堆積した状態で静置または運搬する場合、紙同士がくっつく現象)が起きやすく、無水シリカとかスターチ粉(いわゆるアンチブロッキング剤)を紙の間に散布して防いでいるが、散布量が適正でないと印刷加工工程でのトラブル要因となる恐れがある。」
(8)甲19の記載
「【0003】
・・・アクリル系樹脂等を塗工した耐水耐油紙は、塗工層の粘着性が比較的高く、巻取りや平版で積み重ねた状態で保管する際や運搬する際に、塗工層と非塗工層、若しくは塗工層と塗工層が接着する所謂ブロッキングが生じやすくなる。」
(9)甲20の記載
「【0004】
・・・アクリル系樹脂等を塗工した耐水耐油紙は、塗工層の粘着性が比較的高
く、巻取りや平版で積み重ねた状態で保管する際や運搬する際に、塗工層と非塗
工層、若しくは塗工層と塗工層が接着する所謂ブロッキングが生じやすくなる。・・・」
(10)甲4~9、15、19、20に例示されている周知技術
上記(1)~(9)を参照すると、以下の事項は周知の技術的事項(以下「周知技術1」という。)であるといえる。
「塗工紙の技術分野において、製造した塗工紙を巻き取って保管すること及びその際に耐ブロッキング性が必要となること。」
5 甲11について
甲11には以下の記載がある。
「
[図:0001418197000003.jpg]
」(表紙から数えて2ページ目)
「
[図:0001418197000004.jpg]
」(表紙から数えて3ページ目)
第6 当審の判断
1 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)甲1を主引用文献とする進歩性
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
<各層の対応>
甲1発明の「紙基材」は本件発明1の「紙基材」に相当する。
甲1発明の「ヒートシール層(下層)」は、塗工して設けられる層であるから、本件発明1の「少なくとも1層の下塗り層」に相当する。
甲1発明は「ヒートシール層表面の撥水性が34である」から、甲1発明の「ヒートシール層(上層)」、「包装用紙」はそれぞれ、本件発明1の「最上層」である「耐水性層」、「耐水性紙」に相当する。
<層構成>
甲1発明の「紙基材の少なくとも一方の面にヒートシール層を有する包装用紙であって、紙基材の片面に、」「ヒートシール層(下層)を設け、次いで、」「ヒートシール層(下層)の表面に、」「ヒートシール層(上層)を設け」てなる「包装用紙」であることは、本件発明1の「紙基材の少なくとも一方の面に、少なくとも1層の下塗り層、および耐水性層をこの順に有する耐水性紙であ」ることに相当する。
<下塗り層>
甲1発明の「水系アイオノマーエマルジョン(商品名:ケミパールS-300、三井化学社製、組成:エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、自己乳化型エマルジョン、マイクロトラック法平均粒子径0.5μm)を乾燥塗工量が5g/m2となるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層(下層)を設け」てなることは、ヒートシール層が耐水性を有することは技術常識であるから、本件発明1の「前記下塗り層は、紙基材側から、顔料塗工層および下塗り耐水性層をこの順に有し、」「前記顔料塗工層中の顔料の含有量が60質量%以下であり、前記下塗り耐水性層が、エチレン-メタクリル酸共重合体を含有し」てなることと、「前記下塗り層は、」「下塗り耐水性層を」「有し、」「前記下塗り耐水性層が、エチレン-メタクリル酸共重合体を含有し」てなる限りにおいて一致する。
<耐水性層>
甲1発明の「前記水系アイオノマーエマルジョンをヒートシール層(下層)の表面に、乾燥塗工量が2g/m2となるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層(上層)を設け」てなることと
本件発明1の「前記耐水性層が塗工層であり、紙基材の該少なくとも一方の面の最上層に耐水性層を有し、該耐水性層が、エチレン-メタクリル酸共重合体、および有機粒子を含有し、該有機粒子の融点または軟化点が100℃以上であり、該有機粒子の平均粒径が0.01μm以上15μm以下であり、耐水性層中の有機粒子の含有量が40質量%以下であ」ることは、「前記耐水性層が塗工層であり、紙基材の該少なくとも一方の面の最上層に耐水性層を有し、該耐水性層が、エチレン-メタクリル酸共重合体」を「含有し」てなる限りにおいて一致する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、以下の点で一致し、相違する。
する。
[一致点1]
「紙基材の少なくとも一方の面に、少なくとも1層の下塗り層、および耐水性層をこの順に有する耐水性紙であり、
前記下塗り層は、下塗り耐水性層を有し、
前記耐水性層が塗工層であり、
紙基材の該少なくとも一方の面の最上層に耐水性層を有し、
該耐水性層が、エチレン-メタクリル酸共重合体を含有し、
前記下塗り耐水性層が、エチレン-メタクリル酸共重合体を含有する、
耐水性紙。」
[相違点1-1]
「前記耐水性層が塗工層であり、紙基材の該少なくとも一方の面の最上層に耐水性層を有し、該耐水性層が、エチレン-メタクリル酸共重合体」を「含有し」てなることについて、本件発明1では、「有機粒子を含有し、該有機粒子の融点または軟化点が100℃以上であり、該有機粒子の平均粒径が0.01μm以上15μm以下であり、耐水性層中の有機粒子の含有量が40質量%以下であ」るのに対し、甲1発明では、有機粒子を含有することが特定されていない点。
[相違点1-2]
「前記下塗り層は、」「下塗り耐水性層を」「有し、」「前記下塗り耐水性層が、エチレン-メタクリル酸共重合体を含有し」てなることについて
本件発明1では、「前記下塗り層は、紙基材側から、顔料塗工層および下塗り耐水性層をこの順に有し、」「前記顔料塗工層中の顔料の含有量が60質量%以下であ」るのに対し、甲1発明では、ヒートシール層(下層)のみからなり、顔料塗工層を有していない点。
[相違点1-3]
耐水性紙について、本件発明1では、「透気度が99,999秒以上である」のに対し、甲1発明では、透気度が特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み相違点1-2について検討する。
甲1の「紙基材には、ヒートシール層以外の塗工層が1層以上設けられていてもよく、例えば、顔料と接着剤を含有する顔料塗工層が設けられたものであってもよい。・・・顔料塗工層中の顔料と接着剤の配合割合は特に限定されるものではないが、顔料100質量部に対し接着剤5~50質量部とすることが好ましい。・・・顔料塗工層には、本発明の目的とする効果を損ねない範囲で各種助剤を含んでもよく、・・・ヒートシール層はこのような顔料塗工層の上に設けられてもよく」(【0027】)との記載を踏まえると、甲1発明において、紙基材とヒートシール層(下層)の間に顔料塗工層を設ける動機付けはあるといえる。
しかしながら、甲1の上記記載における顔料塗工層中の顔料の含有量は、接着剤をその数値範囲の最大値である50質量部配合したとしても、67質量%(=100/(100+50))である。
なお、甲1の【0027】には、各補助剤を含んでもよい旨の記載もあるが、各補助剤の添加量がごくわずかであることは技術常識であるから、各補助剤が添加されたとしても、顔料の含有量が60質量%を下回るとまではいえない。
そして、甲1発明において、接着剤を最大値である50質量部を超えて含有すること又は各補助剤の添加量を通常の量よりも増大させることで顔料の含有量をさらに低減させる理由は見当たらないから、「顔料塗工層中の顔料の含有量が60質量%以下」とする動機付けはなく、甲1発明において相違点1-2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
さらに、申立人が提出するその他の甲号証にも、相違点1-2の特に「顔料塗工層中の顔料の含有量が60質量%以下」である点については記載も示唆もされていない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、相違点1-2に係る本件発明1の構成について、【0027】の上記記載箇所を指摘した上で、甲1において、顔料塗工層中の顔料の含有量を60質量%以下とすることに何ら阻害要因はなく、顔料塗工層中の顔料の含有量を60質量%以下とすることは、参考資料1(特開2008-255512号公報(【0030】))、参考資料2(特開2009-155780号公報(【0034】))、参考資料3(特開2009-274287号公報(【0033】))に記載されているように周知技術である旨主張する(意見書2の3ページ12行~6ページ5行)。
しかしながら、甲1の【0027】に記載されている「顔料塗工層」は、「ヒートシール塗工液を塗工する面の平滑度を高くすることによっても、包装用紙の透気度を高くすることができる。・・・例えば、顔料塗工層を設け、その後キャレンダー処理等を行うことにより、ヒートシール塗工液を塗工する面の平滑度を高くすることができる。」(【0021】)と記載されているように、その上にヒートシール塗工液が塗工されることを前提としてその塗工する面の平滑度を高めることを目的として形成されるものである。他方、申立人が提示する参考文献1~3に記載されている顔料塗工層はいずれも、紙基材上に塗工することで防湿層を形成するものであり、その上にヒートシール塗工液が塗工されるものでもないから、甲1の【0027】に記載された構成とはその前提が異なるものである。そうすると、参考資料1~3は、甲1発明から出発して相違点1-2に係る構成に至る手がかりとなるものではない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(エ)小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~7、9~14について
本件発明2~7、9~14は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記アで検討したのと同じ理由により、本件発明2~7、9~14は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)甲2を主引用文献とする進歩性
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
<各層の対応>
甲2発明の「紙70μm」は本件発明1の「紙基材」に相当する。
甲2発明の「ポリエチレン20μm」と本件発明1の「少なくとも1層の下塗り層」は、「少なくとも1層の下地層」である限りにおいて一致する。
甲2の【0002】に記載されている用途からみて、甲2発明の「20μmのシーラント層」、「蓋材」はそれぞれ、本件発明1の「最上層である」「耐水性層」、「耐水性紙」に相当する
<層構成>
甲2発明の「紙70μm/アルミニウム7μm/ポリエチレン20μmの基材のポリエチレン面に、」「20μmのシーラント層を積層した、蓋材」であることと、本件発明1の「紙基材の少なくとも一方の面に、少なくとも1層の下塗り層、および耐水性層をこの順に有する耐水性紙であ」ることは、「紙基材の少なくとも一方の面に、少なくとも1層の下地層、および耐水性層をこの順に有する耐水性紙であ」る限りにおいて一致する。
<下塗り層>
甲2発明の「ポリエチレン20μm」は、耐水性であることは技術常識であり耐水性層であるといえるから、本件発明1の「前記下塗り層は、紙基材側から、顔料塗工層および下塗り耐水性層をこの順に有し、」「前記顔料塗工層中の顔料の含有量が60質量%以下であり、前記下塗り耐水性層が、エチレン-メタクリル酸共重合体を含有し」てなることと、「前記下塗り層は、」「下地耐水性層を」「有し、」「前記下地耐水性層が、エチレン」「を含有し」てなる限りにおいて一致する。
<耐水性層>
甲2発明のシーラント接着剤が含有する「エチレン-メタクリル酸共重合体」、「粒状またはビーズ状のポリエチレンワックス」はそれぞれ、本件発明1の耐水性層が含有する「エチレン-メタクリル酸共重合体」及び「有機粒子」に相当する。
そうすると、甲2発明の「押出しラミネーターを用いてシーラント接着剤を押出し、20μmのシーラント層を積層し」、「前記シーラント接着剤は、低密度ポリエチレン樹脂30質量%、エチレン-メタクリル酸共重合体30質量%、ポリブテン樹脂30質量%、粒状またはビーズ状のポリエチレンワックス(密度0.92g/cm3、DSC融点110℃/103℃、重量平均分子量(Mw)9212)10質量%を混合してなる」ことと、本件発明の「前記耐水性層が塗工層であり、紙基材の該少なくとも一方の面の最上層に耐水性層を有し、該耐水性層が、エチレン-メタクリル酸共重合体、および有機粒子を含有し、該有機粒子の融点または軟化点が100℃以上であり、該有機粒子の平均粒径が0.01μm以上15μm以下であり、耐水性層中の有機粒子の含有量が40質量%以下であ」ることは、「紙基材の該少なくとも一方の面の最上層に耐水性層を有し、該耐水性層が、エチレン-メタクリル酸共重合体、および有機粒子を含有し、該有機粒子の融点または軟化点が100℃以上であり、耐水性層中の有機粒子の含有量が40質量%以下であ」る限りにおいて一致する。
そうすると、本件発明1と甲2発明は、以下の点で一致し、相違する。
[一致点2]
「紙基材の少なくとも一方の面に、少なくとも1層の下地層、および耐水性層をこの順に有する耐水性紙であり、
前記下地層は、下地耐水性層を有し、
紙基材の該少なくとも一方の面の最上層に耐水性層を有し、
該耐水性層が、エチレン-メタクリル酸共重合体、および有機粒子を含有し、
該有機粒子の融点または軟化点が100℃以上であり、
耐水性層中の有機粒子の含有量が40質量%以下であり、
前記下塗り耐水性層が、エチレンを含有してなる、
耐水性紙。」
[相違点2-1]
「紙基材の該少なくとも一方の面の最上層に耐水性層を有し、該耐水性層が、エチレン-メタクリル酸共重合体、および有機粒子を含有し、該有機粒子の融点または軟化点が100℃以上であり、耐水性層中の有機粒子の含有量が40質量%以下であ」る構成について、
本件発明1では、塗工層であり、有機粒子の平均粒径が0.01μm以上15μm以下であるのに対し、
甲2発明では、押出しラミネートされたものであり、粒状またはビーズ状のポリエチレンワックスの粒径が不明である点。
[相違点2-2]
「前記下地層は、」「下地耐水性層を」「有し、」「前記下地耐水性層が、エチレン」「を含有し」てなる構成について、
本件発明1では、「紙基材側から、顔料塗工層および下塗り耐水性層をこの順に有し、」「前記顔料塗工層中の顔料の含有量が60質量%以下であり、前記下塗り耐水性層が、エチレン-メタクリル酸共重合体を含有し」てなる構成であるのに対し、
甲2発明では、「ポリエチレン20μm」のみからなり顔料塗工層を有しておらず、塗布により形成されているか不明であり、エチレン-メタクリル酸共重合体を含有していない点。
[相違点2-3]
耐水性紙について、本件発明1では、「透気度が99,999秒以上である」のに対し、甲2発明では、透気度が特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み相違点2-2について検討する。
甲2の請求項3及び【0021】の記載を踏まえると、甲2には、甲2発明のポリエチレン20μmをエチレン-メタクリル酸共重合体層に置換することが示唆されている。そして、この層を塗布により形成することは、具体化の際の設計事項であるといえる。
しかしながら、甲2には、紙70μmとポリエチレン20μmの間に顔料塗工層を形成することは記載も示唆もされていない。
また、本件明細書の「紙基材と下塗り耐水性層との間に、顔料塗工層を有していてもよい。紙基材を目止めし、平滑化させることができる。これにより、均一な下塗り耐水性層および耐水性層を形成でき、耐水性およびヒートシール性が向上する。」(【0025】)との記載を踏まえると、本件発明1の顔料塗工層は、その上に下塗り耐水性層が塗工される前に紙基材の目止め及び平滑化することを目的とするものであるところ、甲2発明においては、紙70μmの上面にアルミニウム7μmが形成され、さらにその上面にポリエチレン20μmが形成されており、それらの層が塗布により形成されるとの記載もないから、紙70μmの上面又はアルミニウム7μmの上面に顔料塗工層を形成する動機付けはない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は相違点2-2に係る本件発明1の構成について、甲2の【0002】に記載されているカップラーメンなどの用途からみて、甲2発明の「紙70μm」を参考資料2又は3の防湿紙とすることは当業者が適宜なし得たことであり、その際、防湿層中の顔料の含有量を60質量%以下とすることも格別困難ではない旨主張している(意見書2の11ページ1~13行)。
しかしながら、上記(1)ア(ウ)で説示したとおり、申立人が提示する参考文献1~3に記載されている顔料塗工層はいずれも、紙基材上に塗工することで防湿層を形成するものであるところ、甲2発明においては、防湿層として機能することが明らかなアルミニウム7μm、ポリエチレン20μm及び20μmのシーラント層を有するものであるから、さらに防湿層を追加する動機付けはない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~7、9~14について
本件発明2~7、9~14は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記アで検討したのと同じ理由により、本件発明2~7、9~14は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由3(甲1及び甲4に基づく進歩性)
申立人は、甲1発明のような耐水紙においてブロッキングを抑制することは周知の課題(甲5【0008】、甲6【0007】、甲7【0008】)であり、甲4(【0027】~【0030】)には、耐油紙のブロッキング防止のために1~20μm、融点90~120℃のポリエチレンワックスを含有することが記載されているから、甲1発明に、甲4に記載された技術を適用して、本件発明1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである旨主張する。
しかしながら、上記1(1)ア(イ)で説示したとおり、甲1発明において、「紙基材側から、顔料塗工層および下塗り耐水性層をこの順に有し、」「前記顔料塗工層中の顔料の含有量が60質量%以下」である構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(2)申立理由4(サポート要件)
申立人は、本件発明が解決しようとする課題は、「耐水性に優れるとともに、耐ブロッキング性およびヒートシール性に優れた耐水性紙を提供すること」(【0005】)であるところ、本件発明1では、下塗り層及び耐水性層の合計塗工量について限定はない。しかしながら、本件明細書に記載されている全ての実施例(実施例1~48)において下塗り耐水性層及び耐水性層の合計塗工量は10g/m2であり、塗工量が10g/m2を大きく下回ると耐水性が損なわれるという技術常識(甲18~甲20)を踏まえると、本件発明は、課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されていないと主張する。
しかしながら、本件発明1において、耐水性紙は、下塗り耐水性層を有する下塗り層及び耐水性層を有することが特定されており、それら耐水性層がある以上は、各耐水性層の塗工量に見合った耐水性を具備することは明らかであるから、本件発明1により本件発明の課題を解決できることを当業者であれば認識できる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおり、請求項1~7、9~14に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~7、9~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項8に係る特許についての特許異議の申立ては、本件訂正により申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700497