特許異議申立
2022-701082
ヒートシール紙および包装袋
- 審判番号
- 2022-701082
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-194041
- 登録番号
- 7070785
- 請求日
- 2022年11月07日
- 審決日
- 2023年03月03日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】王子ホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人大谷特許事務所
- 【異議申立人】酒井 久仁子
- 【異議申立人】齊藤 恵美子
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 直欣
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 稲葉 大紀
- 分類
- P1651.113-Y (D21H) / P1651.121-Y (D21H) / P1651.161-Y (D21H) / P1651.536-Y (D21H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条の2
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7070785号発明「ヒートシール紙および包装袋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7070785号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7070785号の請求項1~7に係る特許についての出願は、令和3年11月30日(優先権主張 令和3年4月23日)の出願であって、令和4年5月10日にその特許権の設定登録がされ、令和4年5月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和4年11月7日に特許異議申立人酒井久仁子(以下「申立人1」という。)により、また、令和4年11月16日に特許異議申立人齊藤恵美子(以下「申立人2」という。)により、本件特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
特許第7070785号の請求項1~7に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1~7の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層のヒートシール層を有するヒートシール紙であって、
前記ヒートシール層は水分散性樹脂バインダーを含有し、
前記ヒートシール層が滑剤をさらに含有し、
前記ヒートシール層同士を、150℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときに、ホットタック剥離距離が150mm以下であり、かつ、ヒートシール剥離強度が2N/15mm以上であり、
再離解後のパルプ回収率が85%以上である、ヒートシール紙。
【請求項2】
前記水分散性樹脂バインダーのガラス転移温度が5℃以上100℃以下である、請求項1に記載のヒートシール紙。
【請求項3】
前記水分散性樹脂バインダーが、スチレン/ブタジエン系共重合体およびオレフィン/不飽和カルボン酸系共重合体よりなる群から選ばれる1種以上を含む、請求項1または2に記載のヒートシール紙。
【請求項4】
前記滑剤が、カルナバワックスおよびパラフィンワックスよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載のヒートシール紙。
【請求項5】
前記ヒートシール層中の前記滑剤の含有量が0.5質量%以上30質量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のヒートシール紙。
【請求項6】
前記ヒートシール層の塗工量が3g/m2以上15g/m2以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のヒートシール紙。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のヒートシール紙を用いた包装袋。」
第3 申立理由の概要
1 申立人1による申立理由の概要
申立人1は、以下に示す甲第1号証~甲第15号証(枝番含む)(以下「申立1甲1」等という。)を提出し、本件発明1~7に係る特許は、以下の理由により、取り消すべきものである旨を主張する。
(1)申立1理由1(新規性、進歩性)
本件発明1、3、4、5は、申立1甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本件発明1~7は、申立1甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(2)申立1理由2(新規性、進歩性)
本件発明1~3、5~7は、申立1甲5に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本件発明1~7は、申立1甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(3)申立1理由3(拡大先願)
本件発明1~7は、その出願の日前の特許出願(特願2020-127383号。申立1甲6に係る特許出願)であって、本件特許の出願後に出願公開がされた願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
(4)申立1理由4(実施可能要件)
本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が、本件特許の明細書の記載及び出願時の技術常識に基づき、「再離解後のパルプ回収率が85%以上である」、請求項1に記載される「ヒートシール紙」を作ることができるように記載されているとはいえないため、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件発明1~7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
[引用文献等一覧]
申立1甲1:特開昭55-21456号公報
申立1甲2:「自己乳化型ポリオレフィン ザイクセン〇R(当審注:〇の中にアルファベットのRを代用。以下同様)」、住友精化株式会社、2001年(平成13年)8月31日
申立1甲3:安井慶宜、“ザイクセン及び水系エマルジョンの機能紙への展開とその応用”、機能紙研究会誌、特定非営利活動法人機能紙研究会、平成29年3月31日、No.55、31~36ページ
申立1甲4:特開昭53-41511号公報
申立1甲5:特開2018-53400号公報
申立1甲6:特開2022-24665号公報
申立1甲7:“製品選択ガイド Heat Seal”、2014年(平成26年)4月15日、マイケルマン・ジャパン
申立1甲8:“ポリマーのガラス転移温度について”、[online]、2021年(令和3年)7月11日、おったんたちんけ、インターネット
<URL:https://datadriven-rnd.com/glass-transition-temperature/>
申立1甲9:特表2020-508403号公報
申立1甲10:特開2003-154609号
申立1甲11:“ジョンクリル8211”、2003年(平成15年)11月11日、ジョンソンポリマー株式会社
申立1甲12:“ビニブラン〇R シャリーヌ〇R”、2004年(平成16年)11月5日、日信化学工業株式会社
申立1甲13:特開平10-95893号公報
申立1甲14:特開2011-46850号公報
申立1甲15:“No.2625 試験用フラットスクリーン”
申立1甲15-2:“試験用フラットスクリーン(大型)”、[online]、2015年、熊谷理機工業株式会社、インターネット
<URL:http://www.krk-kumagai.co.jp/dcms_plusdb/index.php/item?cell002=2625&cell029=&cell027=&cell028=&cell003=%E3%83%91%E3%83%AB%E3%83%97%E3%83%BB%E3%83%81%E3%83%83%E3%83%97%E8%A9%A6%E9%A8%93%E6%A9%9F&cell004=%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%B3&name=%E8%A9%A6%E9%A8%93%E7%94%A8%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%B3%28%E5%A4%A7%E5%9E%8B%29&id=179&label=1>
2 申立人2による申立理由の概要
申立人2は、以下に示す甲第1号証~甲第8号証(以下「申立2甲1」等という。)を提出し、本件発明1~7に係る特許は、以下の理由により、取り消すべきものである旨を主張する。
(1)申立2理由1(実施可能要件)
水分散性樹脂バインダーの含有量が増減しても、評価結果が変動しないヒートシール紙をどのようにしたら製造できるのか、当業者であっても、本件特許明細書の記載及び本件の優先日の技術常識を考慮しても理解することができないため、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件発明1~7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)申立2理由2(進歩性)
本件発明1~7は、申立2甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(3)申立2理由3(進歩性)
本件発明1~7は、申立2甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
[引用文献等一覧]
申立2甲1:特開2018-53400号公報
申立2甲2:特開2021-46233号公報
申立2甲3:特開2001-139737号公報
申立2甲4:特開2003-226836号公報
申立2甲5:特開2009-62095号公報
申立2甲6:特開平6-200498号公報
申立2甲7:特開2016-204051号公報
申立2甲8:特開2001-287765号公報
第4 当審の判断
1 引用文献の記載
(1)特開昭55-21456号公報(申立1甲1)
特開昭55-21456号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、強調のため当審が付した。)。
「2.特許請求の範囲
(1)エチレン-アクリル酸共重合樹脂とロジン誘導体とからなる組成物を紙に塗布したことを特徴とする感熱接着紙。
・・・
(3)該組成物がワックスを、5~30重量部含有している特許請求の範囲第1項記載の感熱接着紙。
3.発明の詳細な説明
この発明は高温多湿例えば40℃、95%RHのような環境下においても常に良好な低温接着性と耐ブロッキング性とを併有する感熱接着紙に関する。
一般に感熱接着紙とは、紙に熱軟化性の樹脂を塗布乾燥し、樹脂の被着面同志を重ね合わせその背面から熱圧締して得られるものであるが、この種感熱接着紙に要求される実用上最も重要な点は、(イ)通常の接着条件の下で被塗布樹脂が容易に溶融して完全に接着すること、(ロ)上記感熱接着紙の保管に際して、これが高温多湿の環境下にあっても被着樹脂の軟化粘着がなく、ブロッキング現象を生起しないことである。特に(ロ)の点は我国のような高温多湿期の環境下例えば夏季における保管、あるいは同期間中に行われる過酷な製品輸送などによってブロッキング現象が起り易いものである。
しかるに作業の高速化,高能率化の要請される現時点においては、極力熱圧時の接着温度および押圧力の低下が要求され、このため軟化点の低い接着性良好な感熱樹脂が使用される。
この種樹脂の使用は、生産能率向上の面で有効ではあるが、反面ブロッキングトラブルを発生し易いことはいなめない。
このためかゝる樹脂の使用によっては、感熱接着性能の向上と耐ブロッキング性の向上とを同時に期待し得ないというのが実状であり、この点の改善方が特に要請されて来た。
この発明は上記の見地から本発明者等が各種研究の結果感熱接着紙の実用に際して、接着温度が低く(対通常接着)かつブロッキングトラブルのない前記接着紙を得ることに成功したものである。すなわちこの発明は、従来感熱接着剤として知られ、比較的低温接着性と耐ブロッキング性を有するエチレン-アクリル酸共重合樹脂を主剤としてこれにロジン誘導体の単独もしくはロジン誘導体とエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂および/またはワックスを所定割合で含有せしめた組成物を紙に塗布したもので、エチレン-アクリル酸共重合樹脂単用の塗被紙に比べ遥かに実用上有効な感熱接着性能と耐ブロッキング性を有する新規な感熱接着紙である。
感熱接着剤としては、前記エチレン-アクリル酸共重合樹脂のほか酢酸ビニル樹脂,アクリル樹脂,塩化ビニリデン樹脂,エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂,酢酸ビニル-アクリル共重合樹脂,塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、オレフイン系共重合樹脂等が挙げられるが、本発明の目的はエチレン-アクリル酸共重合樹脂の使用によってのみ満足される。
ロジン誘導体としてはロジンエステルおよびそれらの水素添加物例えばSPN-700(商品名-荒川化学(株)製)が使用され、またワックスはパラフイン,マイクロクリスタリンワックス,高級脂肪酸,脂肪酸エステル,脂肪酸アミドの類から任意に採択してよく、例えばT-730(商品名-ヘキスト・ジャパン(株)製)を用いて満足される。
以下この発明におけるポリマーブレンドによる性能上の変化について述べる。本発明者等の行った幾多の実験結果によれば、
(a)エチレン-アクリル酸共重合樹脂100重量部に対し、ロジン誘導体5~10重量部を常法によりブレンドせしめた組成物は、接着温度においてエチレン-アクリル酸樹脂単用時のそれ(95℃)に比べ90℃で5℃の低下が認められ、実用的な耐ブロッキング性を有する。」(1ページ左下欄4行~2ページ右下欄末行)
「実施例1
下記組成からなる接着剤を、常法により原紙(80g/m2)の片面に80g/m2の割に塗布して所望する感熱接着紙を得た。また比較試験用として、汎用熱接着性接着剤(エチレン-アクリル酸共重樹脂単用)を上記同様の原紙に同条件の下で塗布して供試体を得た。次いでそれら両者につきそれぞれ接着剤の塗布面同志を積層状に重ね合わせ、その背面からヒートシールテスターにより圧力3kg/cm2,圧締時間1秒にてヒートシールし、完全接着した時の温度を測定した。さらにそのものをそれぞれ温度40℃,湿度95%RHの恒温器中にいれ、荷重20g/m2の下で24時間放置後積層紙を枚葉ごとに剥離し、剥離時の剥離音により対ブロッキング性の良否判定を行った。その結果は第1表の通りで本発明品のものは従来品(対供試体)に比べて極めて満足すべきものであった。
(組成)エチレン-アクリル酸共重合樹脂 100部(重量-以下同じ)
(商品名ザイクセンA)
ロジン誘導体(商品名SPN-700) 10
第 1 表
[図:0001397215000001.jpg]
(注)〇:枚葉剥離時にかすかに音がすることを示し、
○△: 〃 僅かに音がすることを示す。
(当審注:上記「〇△」は、〇の中に△を代用。以下同様)
(付記)
接着剤の種類および製造会社名下記の通り
[図:0001397215000002.jpg]
実施例2
・・・
(注)〇:枚葉剥離時に全く音がしないことを示し、
○△: 〃 僅かに音がすることを示す。
実施例3
下記組成からなる接着剤を実施例1と同様の原紙に同条件の下に塗布して感熱接着紙を得る。次いでこれを実施例1と同様に処理後接着温度測定と耐ブロッキング性の良否を判定したが、いずれも次表の通り実用的な結果を示した。
(組成)エチレン-アクリル酸共重合樹脂(ザイクセンA) 100部
ロジン誘導体(商品名SPN-700) 10
ワックス(T-370) 10
第 3 表
[図:0001397215000003.jpg]
(注)〇:実施例2(注)参照
」(3ページ左上欄6行~右下欄第3表)
上記記載から、実施例3に着目すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「エチレン-アクリル酸共重合樹脂(ザイクセンA)100部、ロジン誘導体(商品名SPN-700)10部、ワックス(T-370)10部の組成からなる接着剤を原紙に塗布して得た感熱接着紙。」
(2)特開2018-53400号公報(申立1甲5、申立2甲1)
特開2018-53400号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、前記紙基材の少なくとも一方の面の最表面に設けられ、有機材料を50質量%以上含有する熱接着層とを備え、前記熱接着層は、前記有機材料の少なくとも一部としてスチレン-ブタジエン共重合体ラテックスを含有し、且つ前記熱接着層が設けられた熱接着面のJIS P 8155:2010に準拠して測定される王研式平滑度が50秒以上であることを特徴とするヒートシールシート。
【請求項2】
前記熱接着層はさらに前記有機材料の一部としてロジンエマルジョンを含有する請求項1に記載のヒートシールシート。
【請求項3】
前記スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス及び前記ロジンエマルジョンの合計質量が、前記熱接着層全固形分の30質量%以上である請求項2に記載のヒートシールシート。
【請求項4】
前記熱接着層中に含有される前記ロジンエマルジョンの含有比率が、前記スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス100質量%に対して5~2000質量%である請求項2または3に記載のヒートシールシート。
【請求項5】
前記ロジンエマルジョンが強化ロジンエマルジョンである請求項2~4に記載の ヒートシールシート。
【請求項6】
前記紙基材が、片艶紙である請求項1~5のいずれか1項に記載のヒートシールシート。
【請求項7】
前記紙基材を構成するパルプのJIS P 8121-2:2012に規定されるフリーネスが、250~700mLである請求項1~6のいずれか1項に記載のヒートシールシート。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のヒートシールシートの熱接着面同士が熱接着されてなる包装体。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載のヒートシールシートの熱接着面と、他の包装材料と、が熱接着されてなる包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自己接着または他の部材と熱接着可能で、通気性および透湿性を有し、発塵性が少なく、リサイクル可能なヒートシールシートおよび包装体に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑みて、本発明は、通気性および透湿性を有し、発塵性が少なく、リサイクル可能なヒートシールシートおよび包装体を提供することを課題とする。」
「【0019】
[熱接着層]
・・・
【0020】
スチレン-ブタジエン共重合体ラテックスについては特に限定するものではなく、粒子構造については単一構造、コア-シェル構造、連続異組成構造等が挙げられる。ガラス転移温度については、異組成部分を含めて、-50~30℃のものが熱接着性に優れるため好ましい。より好ましくは-10℃~30℃のものである。平均粒子径については、50~300nmのものが熱接着性に優れるため好ましい。より好ましいのは70~150nmである。
【0021】
更に、熱接着性には悪影響を与えず、通気性や透湿性を高められることから、前記熱接着層が前記有機材料の一部として更にロジンエマルジョンを熱接着層に含有することが好ましい。ロジンエマルジョンについても特に限定するものではないが、天然ロジンにカルボキシル基を導入した強化ロジンエマルジョンが、スチレン-ブタジエン共重合体の熱接着性を発現する効果が優れているため好ましい。
・・・
【0023】
熱接着層の塗工量は特に限定するものではないが、固形分で0.1g/m2~20g/m2の範囲で調整されるのが好ましい。熱接着層の塗工量を0.1g/m2以上とすることにより、安定した熱接着性が得られる。また、20g/m2以下とすることにより、高い通気性や透湿性が得られる。より好ましくは0.5g/m2~10g/m2、さらに好ましくは0.5g/m2~5g/m2である。」
「【0026】
[その他の成分]
熱接着層は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体エマルジョン、エチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョン、アクリル酸エステル重合体エマルジョン、ポリエチレンおよびポリブテンエマルジョン、酸変性ポリオレフィン樹脂エマルジョン、塩素化ポリオレフィン樹脂エマルジョン、塩素化エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョン、酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂エマルジョン、およびアクリル変性塩素化ポリオレフィン樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、尿素樹脂エマルジョン等の水性高分子化合物等のデンプン、変性デンプン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、カゼイン、アラビアガム、ジイソブチレン・無水マレイン酸共重合体塩、スチレン・無水マレイン酸共重合体塩等の水溶性高分子化合物、離型剤、消泡剤、分散剤、濡れ剤、有色染料、有色顔料、白色顔料等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。」
「【0031】
[ヒートシールシートを使用した包装体]
本発明のヒートシールシートを使用した包装体の形態としては、特に限定するものではなく、各種の包装体として使用することができる。例えば縦ピロー、横ピロー、三方シール、四方シール等が挙げられる。
・・・」
「【0035】
[実施例1]
・・・
【0036】
(熱接着層用塗料Aの調製)
コアシェル型スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:A6160、旭化成社製、コア部のTg:-19℃、シェル部のTg:26℃、ラテックス全体のTg:21℃、ゲル分率96%)の48%水分散液20.8質量部、強化ロジンエマルジョン(商品名:サイズパインN775、荒川化学工業社製)の50水分散液20質量部、水59.2質量部を混合撹拌して熱接着層用塗料Aを調製した。
【0037】
(ヒートシールシートの製造1)
前記紙基材の製造1で得られた片艶紙の艶面に、前記熱接着層用塗料の調製で得られた熱接着層用塗料を乾燥後の塗布量が2.5g/m2となるようにバーコーターを用いて塗布・乾燥してヒートシールシートを得た。
・・・」
「【0045】
・・・
[熱接着性評価]
上記実施例1~4、比較例1~3で得られたヒートシールシートの熱接着面同士が接触するように重ねて、ヒートシールテスター(型式:TP-701-B、テスター産業社製)を使用して、シール温度:150℃、シール時間1秒、シール圧:3kgf/cm2でヒートシールを行い、熱接着性を評価した。なお、実施例1のヒートシールシートの熱接着面と実施例1の紙基材の製造1で得られた片艶紙の艶面とが接触するように重ねてヒートシールしたものを実施例5とし、結果を表1にまとめた。
[熱接着性評価基準]
○:接着部分を剥がそうとすると基材破壊が起こるほど強固に接着する。
×:接着部分が軽微な力で剥がれてしまう。
【0046】
【表1】
【表1】
[図:0001397215000004.jpg]
【0047】
表1の実施例からも明らかなように本発明は良好な紙-紙接着性を有しており、実施例4のように被接着面も高平滑な包装材料を選択することにより良好な熱接着性が得られた。
・・・」
上記記載から、実施例1に着目すると、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「紙基材としての片艶紙の艶面に、コアシェル型スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:A6160、旭化成社製、コア部のTg:-19℃、シェル部のTg:26℃、ラテックス全体のTg:21℃、ゲル分率96%)の48%水分散液20.8質量部、強化ロジンエマルジョン(商品名:サイズパインN775、荒川化学工業社製)の50水分散液20質量部、水59.2質量部を混合撹拌して調製された熱接着層用塗料Aを乾燥後の塗布量が2.5g/m2となるようにバーコーターを用いて塗布・乾燥して得られたヒートシールシート。」
(3)特開2021-46233号公報(申立2甲2)
特開2021-46233号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層のヒートシール層を有する包装用紙であって、前記ヒートシール層がアイオノマーを含み、前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で2~10g/m2であり、前記包装用紙の坪量が10~100g/m2であり、前記包装用紙のCD方向の引張破断伸び率(JIS P-8113)が3%以上であることを特徴とする前記包装用紙。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックの使用量を低減した包装用紙に関する。また、袋として使用するのに適した、特に折り曲げ加工などの加工適性に優れた包装用紙に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、プラスチックの使用量を低減することができる包装用紙を提供することにある。特に、袋として使用するのに適した、特に折り曲げ加工などの加工適性に優れた包装用紙を提供することにある。」
「【0016】
本実施形態において、アイオノマーとは、金属イオンによる凝集力を利用し高分子を凝集体とした合成樹脂の総称であり、アクリル酸またはメタクリル酸をエチレンなどと組み合わせた樹脂である。すなわち、エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、エチレン・アクリル系共重合物の金属塩、エチレン・ウレタン系共重合物の金属塩、エチレン・フッ素系高分子共重合物の金属塩、などは全てアイオノマーと呼ばれる。塩を形成する金属としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、具体的には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛の各イオンなどである。本発明においては、前記アイオノマーがエチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩である自己乳化型エマルジョンであることが好ましい。ヒートシール層の塗工量が比較的少なくとも、十分なヒートシール強度を有するヒートシール層を設けることができる。
【0017】
本実施形態においては、紙基材の少なくとも一方の面に、アイオノマーエマルジョンを含有するヒートシール層用塗工液を塗工し、乾燥することでヒートシール層を設けることができる。アイオノマーエマルジョンを用いることにより、塗工量を比較的低くコントロールすることが可能であり、更に水系のアイオノマーエマルジョンを用いることによりVOC排出が無くなり自然環境に対する負荷を小さくすることができる。ヒートシール層の塗工量は、紙基材の片面あたり、固形分換算で2~10g/m2であり、好ましくは3~8g/m2である。2g/m2未満の場合は十分なヒートシール強度を満足できない。逆に10g/m2を超える場合は、ヒートシール強度の面からは過剰品質であり、かつプラスチック削減効果に乏しくなる。なお、本発明の包装用紙において、ヒートシール層は、紙基材の表面の一部分のみに設けられているのではなく、全面に設けられていることが通常である。すなわち、ヒートシール層は、例えば網状、島状、線状など、ヒートシールによる接着に必要な部分にのみ設けられているのではなく、紙基材の表面の全面を覆うように設けられていると良い。
【0018】
ヒートシール層用塗工液には、アイオノマーエマルジョンの他に、各種助剤を添加してもよい。例えば、粘度調整剤、消泡剤、界面活性剤やアルコールなどのレベリング剤、着色顔料、着色染料などである。しかしながら、これらの助剤の添加は、ヒートシール強度の低下を招きやすいことから、添加する場合には少量であることが好ましい。本実施形態においては、ヒートシール層用塗工液がアイオノマーエマルジョンのみからなることが好ましい。」
上記記載から、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。
「紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層のヒートシール層を有する包装用紙であって、前記ヒートシール層がアイオノマーを含み、前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で2~10g/m2であり、前記包装用紙の坪量が10~100g/m2であり、前記包装用紙のCD方向の引張破断伸び率(JIS P-8113)が3%以上である前記包装用紙。」
(4)特願2020-127383号(特開2022-24665号)(申立1甲6に係る特許出願。以下「先願1」という。)
先願1の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下「先願1明細書等」という。)には、次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項2】
紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有し、
前記塗工層が、アンチブロッキング剤として少なくともワックスを含み、
前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.2質量部以上であることを特徴とするヒートシール紙。
・・・
【請求項5】
前記塗工層が、カルナバワックスを含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のヒートシール紙。
【請求項6】
前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のヒートシール紙。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシール紙、特に包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途に好適に用いられる、ヒートシール適性を有するヒートシール紙に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途に好適に用いられる、ヒートシール適性を有すると共にブロッキング耐性が良好なヒートシール紙を提供することを目的とする。」
「【0017】
(塗工層)
塗工層は、熱可塑性樹脂と、ワックス又は顔料から選ばれる1種以上のアンチブロッキング剤を含む。塗工層は、ヒートシール紙の両面に設けることもできるが、少なくとも片面に有する。
塗工層は、ヒートシール適性を有する。ヒートシール適正を有するとは、加熱、加圧することで接着対象に接着できることを意味する。ヒートシール適性を有することにより、特に食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途において、包装形態への成形や形状の維持、密封性の確保などが容易となる。
【0018】
・熱可塑性樹脂
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、製紙分野においてヒートシール層の形成に用いられているものを特に制限することなく使用することができ、例えば、ガラス転移温度が100℃以下であるものを用いることができる。熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、-20℃以上85℃以下であることが好ましい。・・・」
「【0021】
(ワックス)
本発明で使用するワックスは、特に制限されず、アルカン化合物を主体とするパラフィン系ワックス、カルナバやラノリンなどの動植物由来の天然油脂系ワックス、シリコーンまたはシリコーン化合物を含有するシリコーン含有系ワックス、フッ素化合物を含有するフッ素含有系ワックスなどを用いることができる。ワックスは、1種あるいは2種類以上を混合して使用することができる。これらの中で、カルナバワックスが好ましい。
【0022】
本発明において、ワックスの配合量は、乾燥重量で熱可塑性樹脂100質量部に対して、1.2質量部以上であり、1.5質量部以上であることが好ましく、2.5質量部以上であることがより好ましい。ワックスの配合量が1.2質量部未満であると、ブロッキング耐性が十分に得られない場合がある。また、乾燥重量で熱可塑性樹脂100質量部に対して、ワックスを15質量部以下含むことが好ましく、10質量部以下含むことがより好ましい。ワックスの配合量が15質量部を超えてもブロッキング耐性はほとんど良化せず、コストが増加する。」
「【0025】
塗工層の塗工量(乾燥重量)は、片面あたり3g/m2以上20g/m2以下であることが好ましい。塗工量が片面あたり3g/m2未満では、ヒートシール適性が低下する。また、塗工量が片面あたり20g/m2を超えてもヒートシール適性はほとんど向上せず、コストが増加する。塗工層は、1層であってもよく、2層以上の多層で構成してもよい。塗工層を2層以上の多層で構成する場合は、全ての塗工層を合計した塗工量を上記範囲とすることが好ましい。」
「【実施例】
【0027】
(評価方法)
(1)ヒートシール適性
(ヒートシール条件)
得られたヒートシール紙から1辺100mmの正方形の試験片を2枚切り出し、塗工層同士を接触させて、加圧温度160℃、加圧圧力2kgf/cm2、加圧時間0.5秒でヒートシールした。
ヒートシールした試験片を手で剥離させた際の、剥離部分を目視で観察し、以下の基準でヒートシール適性を評価した。
〇:紙基材内で剥離(紙基材が破壊される)
×:塗工層間で剥離」
「【0030】
[実施例1]
(塗工層用塗工液の調製)
熱可塑性樹脂(Michelman社製:MICHEM PRIME 498345N.S)、カオリン(イメリス社製:バリサーフHX、アスペクト比95)を固形分質量比でそれぞれ、100.0/100.0部となるように調製し、塗工層用塗工液を得た。
【0031】
(ヒートシール紙の作製)
紙基材(坪量200g/m2のカップ原紙)の片面に、塗工層用塗工液を乾燥重量で塗工量10.0g/m2となるようにバーブレード法で塗工、乾燥し、ヒートシール紙を得た。
・・・
【0033】
[実施例4]
塗工層用塗工液を、熱可塑性樹脂(Michelman社製:MICHEM PRIME 498345N.S)とカルナバワックス(Michelman社製:MICHEM LUBE 160RPH.S)を固形分質量比でそれぞれ、100.0/2.9部となるように調製した以外は、実施例1と同様にして、ヒートシール紙を得た。」
「【0037】
【表1】
[図:0001397215000005.jpg]
」
上記記載から、先願1明細書等には、次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されているものと認められる。
「塗工層用塗工液を、熱可塑性樹脂(Michelman社製:MICHEM PRIME 498345N.S)とカルナバワックス(Michelman社製:MICHEM LUBE 160RPH.S)を固形分質量比でそれぞれ、100.0/2.9部となるように調製し、紙基材(坪量200g/m2のカップ原紙)の片面に、塗工層用塗工液を乾燥重量で塗工量10.0g/m2となるようにバーブレード法で塗工、乾燥して得たヒートシール紙。」
2 新規性、進歩性について
(1)本件発明1について
ア 引用文献1に基づく理由
(ア)対比
本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「ワックス(T-370)」は本件発明1の「滑剤」に相当し、以下同様に、「原紙」は「紙基材」に、「感熱接着紙」は「ヒートシール層」に相当する。
引用発明1の「エチレン-アクリル酸共重合樹脂(ザイクセンA)」は、本件特許の明細書【0035】、【0036】を参照すると、本件発明1の「水分散性樹脂バインダー」に相当する。
引用発明1の「原紙に塗布」された「接着剤」は、「感熱接着紙・・・につき・・・接着剤の塗布面同志を積層状に重ね合わせ、その背面からヒートシールテスターにより圧力3kg/cm2,圧締時間1秒にてヒートシールし、完全接着」(引用文献1の3ページ左上欄9~16行)させるものであること、また、層状となることから、本件発明1の「ヒートシール層」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点1]
「紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層のヒートシール層を有するヒートシール紙であって、
前記ヒートシール層は水分散性樹脂バインダーを含有し、
前記ヒートシール層が滑剤をさらに含有する、ヒートシール紙。」
[相違点1-1]
本件発明1は、「前記ヒートシール層同士を、150℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときに、ホットタック剥離距離が150mm以下であり、かつ、ヒートシール剥離強度が2N/15mm以上であ」るのに対して、引用発明1は、そのようなものであるか不明である点。
[相違点1-2]
本件発明1は、「再離解後のパルプ回収率が85%以上である」のに対して、引用発明1は、そのようなものであるか不明である点。
(イ)新規性についての判断
相違点1-1について検討するに、相違点1-1は実質的な相違点であるから、本件発明1は引用発明1ではない。
(ウ)進歩性についての判断
引き続き、相違点1-1について検討する。
相違点1-1に係る本件発明1の構成は、引用文献1及び他の証拠に記載も示唆もされていない。
また、ヒートシール層が、水分散性樹脂バインダーを含有し、滑剤をさらに含有していれば、ヒートシール層同士を、150℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときに、ホットタック剥離距離が150mm以下であり、かつ、ヒートシール剥離強度が2N/15mm以上となることが、出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、引用発明1において、相違点1-1に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が引用発明1に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 引用文献2に基づく理由
(ア)対比
本件発明1と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「紙基材としての片艶紙」は本件発明1の「紙基材」に相当し、以下同様に、「コアシェル型スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:A6160、旭化成社製、コア部のTg:-19℃、シェル部のTg:26℃、ラテックス全体のTg:21℃、ゲル分率96%)」は「水分散性樹脂バインダー」に、「ヒートシールシート」は「ヒートシール紙」に相当する。
引用発明2の「塗布・乾燥」された「熱接着層用塗料A」は、本件発明1の「ヒートシール層」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点2]
「紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層のヒートシール層を有するヒートシール紙であって、
前記ヒートシール層は水分散性樹脂バインダーを含有する、ヒートシール紙。」
[相違点2-1]
本件発明1は、「前記ヒートシール層が滑剤をさらに含有する」のに対して、引用発明2は、「塗布・乾燥」された「熱接着層用塗料A」が「滑剤」を含有していない点。
[相違点2-2]
本件発明1は、「前記ヒートシール層同士を、150℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときに、ホットタック剥離距離が150mm以下であり、かつ、ヒートシール剥離強度が2N/15mm以上であ」るのに対して、引用発明2は、そのようなものであるか不明である点。
[相違点2-3]
本件発明1は、「再離解後のパルプ回収率が85%以上である」のに対して、引用発明2は、そのようなものであるか不明である点。
(イ)新規性についての判断
事案に鑑み、相違点2-2について検討するに、相違点2-2は実質的な相違点であるから、本件発明1は引用発明2ではない。
(ウ)進歩性についての判断
引き続き、相違点2-2について検討する。
相違点2-2に係る本件発明1の構成は、引用文献2及び他の証拠に記載も示唆もされていない。
また、ヒートシール層が、水分散性樹脂バインダーを含有し、滑剤をさらに含有していれば、ヒートシール層同士を、150℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときに、ホットタック剥離距離が150mm以下であり、かつ、ヒートシール剥離強度が2N/15mm以上となることが、出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、引用発明2において、相違点2-2に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が引用発明2に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 引用文献3に基づく理由
(ア)対比
本件発明1と引用発明3とを対比すると、引用発明3の「紙基材」は本件発明1の「紙基材」に相当し、以下同様に、「ヒートシール層」は「ヒートシール層」に、「包装用紙」は「ヒートシール紙」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明3との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点3]
「紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層のヒートシール層を有するヒートシール紙。」
[相違点3-1]
本件発明1は、「前記ヒートシール層は水分散性樹脂バインダーを含有する」のに対して、引用発明3は、「前記ヒートシール層がアイオノマーを含」む点。
[相違点3-2]
本件発明1は、「前記ヒートシール層が滑剤をさらに含有する」のに対して、引用発明3は、「ヒートシール層」が「滑剤」を含有するか不明である点。
[相違点3-3]
本件発明1は、「前記ヒートシール層同士を、150℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときに、ホットタック剥離距離が150mm以下であり、かつ、ヒートシール剥離強度が2N/15mm以上であ」るのに対して、引用発明3は、そのようなものであるか不明である点。
[相違点3-4]
本件発明1は、「再離解後のパルプ回収率が85%以上である」のに対して、引用発明3は、そのようなものであるか不明である点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点3-3について検討する。
相違点3-3に係る本件発明1の構成は、引用文献3及び他の証拠に記載も示唆もされていない。
また、ヒートシール層が、水分散性樹脂バインダーを含有し、滑剤をさらに含有していれば、ヒートシール層同士を、150℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときに、ホットタック剥離距離が150mm以下であり、かつ、ヒートシール剥離強度が2N/15mm以上となることが、出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、引用発明3において、相違点3-3に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が引用発明3に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明2~7について
本件発明2~7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)ア(イ)で検討したのと同じ理由により、本件発明3~5は引用文献1に記載された発明ではなく、上記(1)イ(イ)で検討したのと同じ理由により、本件発明2、3、5~7は引用文献2に記載された発明ではない。
また、上記(1)ア(ウ)、(1)イ(ウ)、(1)ウ(イ)で検討したのと同じ理由により、本件発明2~7は、当業者が引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された発明又は引用文献3に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 拡大先願について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明4とを対比すると、引用発明4の「カルナバワックス(Michelman社製:MICHEM LUBE 160RPH.S)」は本件発明1の「滑剤」に相当し、以下同様に、「紙基材(坪量200g/m2のカップ原紙)」は「紙基材」に、「ヒートシール紙」は「ヒートシール紙」に相当する。
引用文献4の【0017】の記載によると、「塗工層」は「ヒートシール適性を有する」ものであるから、引用発明4の「塗工、乾燥」された「塗工層用塗工液」は、「ヒートシール層」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明4との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点4]
「紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層のヒートシール層を有するヒートシール紙であって、
前記ヒートシール層が滑剤を含有する、ヒートシール紙。」
[相違点4-1]
本件発明1は、「前記ヒートシール層は水分散性樹脂バインダーを含有」するのに対して、引用発明4は、「塗工、乾燥」された「塗工層用塗工液」が「熱可塑性樹脂(Michelman社製:MICHEM PRIME 498345N.S)」を含有している点。
[相違点4-2]
本件発明1は、「前記ヒートシール層同士を、150℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときに、ホットタック剥離距離が150mm以下であり、かつ、ヒートシール剥離強度が2N/15mm以上であ」るのに対して、引用発明4は、そのようなものであるか不明である点。
[相違点4-3]
本件発明1は、「再離解後のパルプ回収率が85%以上である」のに対して、引用発明4は、そのようなものであるか不明である点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点4-2について検討するに、相違点4-2は実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明4と同一ではない。
(2)本件発明2~7について
本件発明2~7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)で検討したのと同じ理由により、先願1明細書等に記載された発明と同一ではない。
4 実施可能要件について
(1)発明の詳細な説明の記載について
本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明が解決しようとする課題(【0006】、【0007】)、当該課題を解決するための手段(【0008】)、本件発明の効果(【0009】)、本件発明を実施するための形態(【0011】~【0084】)、実施例(【0085】~【0114】)が記載されており、これら記載を参照することで、本件発明を実施することが可能である。
(2)申立人の主張について
申立人が主張する点について検討する。
ア 申立人1の主張(上記第3の1(4))について
申立人1は、本件特許の明細書の記載及び出願時の技術常識に基づき、「再離解後のパルプ回収率が85%以上である」、請求項1に記載される「ヒートシール紙」を作ることができるように記載されているとはいえない旨を主張している。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明には、「水分散性樹脂バインダーを用いてヒートシール層を形成することで、ヒートシール性を発現しつつ、再離解によりパルプを高い回収率で回収でき、パルプの再利用が可能となる。」(【0013】)、「ヒートシール層は、水分散性樹脂バインダーを含有する。水分散性樹脂バインダーとは、水溶性ではない(具体的には、25℃の水に対する溶解度が10g/L以下である)が、エマルションやサスペンションのように水中で微分散された状態となる樹脂バインダーをいう。水分散性樹脂バインダーを用いてヒートシール層を水系塗工することで、再離解性に優れ、紙として再生利用可能なヒートシール紙を得ることができる。」(【0034】)と記載されており、さらに、実施例1~14として、「ヒートシール層」に含有される「水分散性バインダー」の種類、ガラス転移温度、添加量、及び当該実施例の「再離解後パルプ回収率」が記載されている。
これらの記載を参照することで、「再離解後のパルプ回収率が85%以上である」、請求項1に記載される「ヒートシール紙」を実施することが可能である。
イ 申立人2の主張(上記第3の2(1))について
申立人2は、水分散性樹脂バインダーの含有量が増減しても、評価結果が変動しないヒートシール紙をどのようにしたら製造できるのか、当業者であっても、本件特許明細書の記載及び本件の優先日の技術常識を考慮しても理解することができない旨を主張している。
しかしながら、本件発明1は、「前記ヒートシール層同士を、150℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときに、ホットタック剥離距離が150mm以下であり、かつ、ヒートシール剥離強度が2N/15mm以上であり、再離解後のパルプ回収率が85%以上である」ことを特定するものであって、「水分散性樹脂バインダーの含有量が増減しても、評価結果が変動しない」ものではない。
したがって、申立人2の上記主張は採用できない。
(3)小括
よって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-701082