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特許異議申立

2023-700479

立体造形用樹脂粉末、立体造形物の製造装置、及び立体造形物の製造方法

審判番号
2023-700479
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-162709外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
7167560
請求日
2023年05月09日
審決日
2024年04月26日
公報発行日
2024年08月30日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-YAA(B29C) / P1651.536-YAA(B29C) / P1651.537-YAA(B29C)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第120条の5第1項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7167560号発明「立体造形用樹脂粉末、立体造形物の製造装置、及び立体造形物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7167560号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~11について訂正することを認める。 特許第7167560号の請求項1ないし6、8ないし11に係る特許を維持する。 特許第7167560号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続等の経緯 特許第7167560号(以下「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願は、平成29年7月14日(優先権主張 平成28年7月22日、平成29年3月14日、平成29年6月6日)に出願した特願2017-138268号の一部を平成30年8月31日に新たな特許出願としたものであって、令和4年10月31日にその特許権の設定登録がされ、令和4年11月9日に特許掲載公報が発行された。 本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和5年5月9日に特許異議申立人 エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー(以下「特許異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和5年 7月28日付け:取消理由通知書 同年 9月28日 :意見書(特許権者)の提出 同日 :訂正請求書(この訂正請求書による訂正の 請求を、以下「本件訂正請求」という。) の提出 同年10月27日付け:訂正拒絶理由通知書 同年11月28日 :意見書(特許権者)の提出 同日 :手続補正書の提出 令和6年 3月 7日 :意見書(特許異議申立人)の提出 第2 本件訂正請求について 特許権者は、特許法120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和5年9月28日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めた。 その後、令和5年10月27日付けの訂正拒絶理由通知に対して、特許権者は同年11月28日に手続補正書を提出して、本件訂正請求書における請求の理由及び訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲について補正することを求めたので、この手続補正が訂正請求書の要旨を変更するものか否かを検討し、その上で訂正の適否について検討する。 1 令和5年11月28日に提出された手続補正(以下「本件補正」という。)について (1)補正の内容 本件補正は、令和5年9月28日に提出された訂正請求書の「7 請求の理由」「(2)訂正事項」「イ 訂正事項2」に記載された「さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温し、」を削除する補正である。 (2)補正の適否 本件補正は、誤記を削除するものであるから、訂正請求書の要旨を変更しないものである。 (3)小括 以上のとおり、本件補正は、本件訂正の要旨を変更しないものであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法131条の2第1項の規定により、補正を認める。 2 訂正の趣旨及び訂正の内容 (1)訂正の趣旨 上記1のとおり、本件補正は認められたから、本件訂正請求の趣旨は、特許第7167560号の特許請求の範囲を、本件補正後の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~11について訂正することを求める、というものである。 (2)訂正の内容 本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「平均円形度が0.83以上であり、」と記載されているのを、 「柱体粒子であり、平均円形度が0.83以上であり、」に訂正する(請求項1の記載を引用して記載された請求項2~6、8~11についても、同様に訂正する。)。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときのX線回折測定により得られる結晶化度」と記載されているのを、 「室温に戻したときのX線回折測定により得られる結晶化度」に訂正する(請求項1の記載を引用して記載された請求項2~6、8~11についても、同様に訂正する。)。 ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項7を削除する。 エ 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項8に「請求項1から7のいずれかに記載のSLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末。」と記載されているのを、 「請求項1から6のいずれかに記載のSLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末。」に訂正する(請求項8の記載を引用して記載された請求項9~11についても、同様に訂正する。)。 オ 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項9に「請求項1から8のいずれかに記載のSLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末。」と記載されているのを、 「請求項1から6及び8のいずれかに記載のSLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末。」に訂正する(請求項9の記載を引用して記載された請求項10~11についても、同様に訂正する。)。 カ 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項10に「請求項1から9のいずれかに記載のSLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末」と記載されているのを、 「請求項1から6、8及び9のいずれかに記載のSLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末」に訂正する。 キ 訂正事項7 特許請求の範囲の請求項11に「請求項1から9のいずれかに記載のSLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末」と記載されているのを、 「請求項1から6、8及び9のいずれかに記載のSLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末」に訂正する。 3 訂正の適否 (1)訂正事項1について 訂正事項1に係る訂正は、請求項1に記載された「立体造形用樹脂粉末」を構成する粒子を「柱体粒子」と訂正することによって、その形状を「柱体」であるものに限定する訂正である。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された請求項2~6、8~11についてみても、同じである。 そうすると、訂正事項1に係る訂正は、120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。 また、訂正事項1に係る訂正は、本件特許の明細書の【0028】~【0040】及び特許請求の範囲の【請求項7】の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。 そうすると、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 加えて、訂正事項1に係る訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。 そうすると、訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2に係る訂正は、請求項1の「さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したとき」という技術的な意味が不明瞭な記載を「室温に戻したとき」という技術的な意味が明瞭な記載する訂正である。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された請求項2~6、8~11についてみても、同じである。 そうすると、訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。 また、訂正事項2に係る訂正は、本件特許の明細書の【0021】及び【0096】の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。 そうすると、訂正事項2係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 加えて、訂正事項2に係る訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。 そうすると、訂正事項2に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項7を削除する訂正である。 そうすると、訂正事項3に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。 また、訂正事項3に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。 (4)訂正事項4について 訂正事項4に係る訂正は、訂正事項3に係る訂正で特許請求の範囲の請求項7を削除することに伴って、これと整合するように請求項8の記載を改める訂正である。この点は、請求項8の記載を引用して記載された請求項9~11についてみても、同じである。 そうすると、訂正事項4に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。 また、訂正事項4に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。 (5)訂正事項5について 訂正事項5に係る訂正は、訂正事項3に係る訂正で特許請求の範囲の請求項7を削除することに伴って、これと整合するように請求項9の記載を改める訂正である。この点は、請求項9の記載を引用して記載された請求項10~11についてみても、同じである。 そうすると、訂正事項5に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。 また、訂正事項5に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。 (6)訂正事項6について 訂正事項6に係る訂正は、訂正事項3に係る訂正で特許請求の範囲の請求項7を削除することに伴って、これと整合するように請求項10の記載を改める訂正である。 そうすると、訂正事項6に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。 また、訂正事項6に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。 (7)訂正事項7について 訂正事項7に係る訂正は、訂正事項3に係る訂正で特許請求の範囲の請求項7を削除することに伴って、これと整合するように請求項11の記載を改める訂正である。 そうすると、訂正事項7に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。 また、訂正事項7に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。 5 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による請求項1~11についての訂正(訂正事項1~7に係る訂正)は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。 よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~11について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められることとなったから、本件特許の請求項1~6及び8~11に係る発明(以下、請求項の番号とともに「本件特許発明1」などといい、また、まとめて「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~6及び8~11に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。 「【請求項1】 柱体粒子であり、平均円形度が0.83以上であり、 下記(1)~(3)から選択される少なくとも1種を満たすことを特徴とするSLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末。 (1)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf2としたときに、Tmf1>Tmf2となり、かつ(Tmf1-Tmf2)≧3℃となる。なお、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所から低温側へx軸に対して平行な直線を引き、前記直線から-15mW下がった時点での温度である。 (2)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd2としたときに、Cd1>Cd2となり、かつ(Cd1-Cd2)≧3%となる。 (3)X線回折測定により得られる結晶化度をCx1とし、窒素雰囲気下10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温し、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、室温に戻したときのX線回折測定により得られる結晶化度をCx2としたときに、Cx1>Cx2となり、かつ(Cx1-Cx2)≧3%となる。 【請求項2】 前記平均円形度が0.83以上0.89以下である、請求項1に記載のSLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末。 【請求項3】 前記平均円形度が0.85以上である、請求項1から2のいずれかに記載のSLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末。 【請求項4】 前記平均円形度が0.98以下である、請求項1及び3のいずれかに記載のSLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末。 【請求項5】 50%累積体積粒径が15μm以上100μm以下である、請求項1から4のいずれかに記載のSLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末。 【請求項6】 体積平均粒径/個数平均粒径が2.50以下である、請求項1から5のいずれかに記載のSLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末。」 「【請求項8】 ISO 3146に準拠して測定したときの融点が、200℃以上である、請求項1から6のいずれかに記載のSLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末。 【請求項9】 強化剤又は難燃剤を含む、請求項1から6及び8のいずれかに記載のSLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末。 【請求項10】 請求項1から6、8及び9のいずれかに記載のSLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末が貯蔵されている供給槽と、 前記立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成手段と、 を少なくとも有することを特徴とする立体造形物の製造装置。 【請求項11】 請求項1から6、8及び9のいずれかに記載のSLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する工程と、 前記層を硬化する工程と、 を少なくとも含むことを特徴とする立体造形物の製造方法。」 第4 取消しの理由の概要 令和5年7月28日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由は、概略、次のとおりのものである。 理由1(進歩性):本件特許の請求項1~11に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法29条の規定に違反してされたものである。 理由2(明確性要件):本件特許の特許請求の範囲の請求項1~11に係る発明は明確でないから、本件特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。 記 ・甲第1号証:特表2010-523364号公報(以下「甲1」という。) ・甲第2号証:特表2015-500375号公報(以下「甲2」という。) (当合議体注:甲1及び甲2は、いずれも主引用文献である。) 第5 取消理由通知書で通知した取消しの理由についての当合議体の判断 1 理由1(進歩性)について (1)甲1を主引用例とする場合 ア 甲1に記載された発明 甲1には、実施例2に係る以下のSLS方式の立体造形用PEEK粉末の発明(甲1の【0001】、【0002】、【0014】、【0026】、【0027】【表2】及び【0052】参照。以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「270℃で96時間焼戻しされ、焼戻し後、室温にまで冷却された、SLS方式の立体造形用PEEK粉末。」 イ 本件特許発明1について (ア)対比、一致点・相違点 本件特許発明1と甲1発明を対比すると、両者は、下記aの点において一致し、また、下記bの点で相違又は一応相違する。 a 一致点 「SLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末。」 b 相違点 (相違点1) 樹脂粉末を構成する粒子が、本件特許発明1では、「柱体粒子」であるのに対し、甲1発明では、柱体粒子であるのかが明らかでない点。 (相違点2) 本件特許発明1は、「平均円形度が0.83以上」であるのに対し、甲1発明は、平均円形度が明らかでない点。 (相違点3) 本件特許発明1は、「(1)~(3)から選択される少なくとも1種を満たす」(「(1)~(3)」の記載は省略する。)のに対し、甲1発明は、そのような構成を満たすのか明らかでない点。 (イ)判断 事案に鑑み、相違点1について検討する。 甲1発明は、市販のPEEK粉末を270℃で96時間焼戻し、その後、室温にまで冷却したものであるところ、市販のPEEK粉末の形状を柱体とする動機付けはない。 また、甲1に記載された粉末は、「粉砕、溶液からの沈殿プロセス、溶融噴霧、又は粗大な粉末若しくは粗粒から噴霧乾燥により製造」される(甲1の【請求項1】)ものであるところ、そのように製造された甲1に記載された粉末(甲1発明の粉末も含まれる)の形状を柱体にする動機付けもない。 そうすると、甲1発明において、上記相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 (ウ)また、甲1の【0032】及び【0033】【表4】に実施例6として記載された、DSCによる結晶度が53.1%のPEEK粉末、DSCによる結晶度が52.6%のPEEK粉末、DSCによる結晶度が55.2%のPEEK粉末又はDSCによる結晶度が54.4%のPEEK粉末のいずれを主引用発明とした場合も、上記判断は変わらない。 (エ)令和6年3月7日付け意見書について 特許異議申立人は、同意見書において、「甲第1号証(甲1)のPEAK粉末が、「粉砕等のプロセスにより製造された微細粉末に焼戻しを行うことによって得られるもの」だからといって、粒子形状が柱体にならないと主張する根拠が不明である」(5頁9~11行)、「甲1に記載の発明において粉末の粒子形状を「柱体粒子」にする動機付けがないと主張する根拠も不明である」(5頁21~22行)と主張する。 しかしながら、上記根拠はそもそも特許権者が主張立証すべき事項ではなく、特許異議申立人が、甲第1号証(甲1)のPAEK粉末(甲1発明のPEEK粉末)の粒子形状が柱体になること、及び、甲1に記載の発明において粉末の粒子形状を「柱体粒子」にする動機付けがあること、を主張立証すべきであるから、上記主張は採用できない。 (オ)小括 本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件特許発明2~6及び8~11について 本件特許の特許請求の範囲の請求項2~6及び8~11は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2~6及び8~11は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記イのとおり、本件特許発明1が、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2~6及び8~11も、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)甲2を主引用例とする場合 ア 甲2に記載された発明 甲2には、以下のSLS方式の立体造形用PEEK粉末の発明(甲2の【0001】、【0002】、【0004】、【0047】及び【図21】参照。以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「24時間145℃において窒素下で処理された、SLS方式の立体造形用ポリプロピレンA粉末。」 イ 本件特許発明1について (ア)対比、一致点・相違点 本件特許発明1と甲2発明を対比すると、両者は、下記aの点において一致し、また、下記bの点で相違又は一応相違する。 a 一致点 「SLS方式のポリアミド及びポリアリーレンスルフィドを除く立体造形用樹脂粉末。」 b 相違点 (相違点1) 樹脂粉末を構成する粒子が、本件特許発明1では、「柱体粒子」であるのに対し、甲2発明では、柱体粒子であるのかが明らかでない点。 (相違点2) 本件特許発明1は、「平均円形度が0.83以上」であるのに対し、甲2発明は、平均円形度が明らかでない点。 (相違点3) 本件特許発明1は、「(1)~(3)から選択される少なくとも1種を満たす」(「(1)~(3)」の記載は省略する。)のに対し、甲2発明は、そのような構成を満たすのか明らかでない点。 (イ)判断 事案に鑑み、相違点1について検討する。 甲2発明は、市販のポリプロピレン粉末を24時間145℃において窒素下で処理したものであるところ、市販のポリプロピレン粉末の形状を柱体とする動機付けはない。 また、甲2の【0024】には「粉末化装置605の例としては、研削または粉砕などの一般的に実施される技術が挙げられるが、これらに限定されるものではない。このような方法では、通常、不規則な大きさおよび形状の粒子が製造され、それらは、場合により多数の一般に利用可能な粒子球状化プロセスによってステップ606で球状化することができるし、および/または機械的ふるい分けまたは空気分級などの一般的で周知の方法によってステップ607で分粒することができる」と記載されていることから、甲2に記載された粉末(甲2発明の粉末も含まれる。)の形状を柱体とすることは想定されていないといえる。そして、甲2に記載された粉末の形状を柱体にする動機付けもない。 そうすると、甲2発明において、上記相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 (ウ)甲2の【0048】に記載された、24時間115℃において窒素下で処理されたポリプロピレンB粉末を甲2発明(引用発明)とした場合も、上記判断は変わらない。 (エ)令和6年3月7日付け意見書について 特許異議申立人は、同意見書において、「甲2に記載の発明に接した当業者にとって、粉末の寸法およびその分布を制御し、また粉末を安価に製造すること等を目的として、上述の周知技術を適用し、粉末を柱体とすることは、容易に想到できたものである」(6頁15~18行)と主張する。 しかしながら、上記(イ)で述べたとおりであるから、上記主張は採用できない。 (オ)小括 本件特許発明1は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件特許発明2~6及び8~11について 本件特許の特許請求の範囲の請求項2~6及び8~11は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2~6及び8~11は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記イのとおり、本件特許発明1が、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2~6及び8~11も、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 理由2(明確性要件)について 本件特許の特許請求の範囲の請求項1が、上記「第3」のとおりに訂正されたことにより、請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~6及び8~11に係る発明は明確になった。 したがって、本件特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものではない。 第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 実施可能要件違反について 特許異議申立人は、特許異議申立書において、「仮に、特許権者が、甲第1号証に記載された、270℃で96時間焼戻しされたPEEK粉末は、本件特許発明1の(1)~(3)のいずれの条件も満たさないと主張するのであれば、他にどのような条件を採用することで、本件特許発明1の(1)~(3)から選択される少なくとも1種を満たすことができるのかが不明である」(94頁8~12行)、「段落【0014】に記載された条件だけでは本件特許発明1の(1)~(3)から選択される少なくとも1種を満たすことができないのであれば、どのようにすれば本件特許発明1を実施できるかを見いだすために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等が要される。」(94頁20~24行)などと主張するが、上記相違点3が実質的な相違点でないことは、令和5年7月28日付け取消理由通知書において指摘したとりであって(相違点2が上記相違点3に相当。)、いずれも正しくない仮定に基づく主張であるから、採用できない。 2 サポート要件違反について 特許異議申立人は、特許異議申立書において、 (1)「本件特許発明1~11において、ポリアミドおよびポリアリーレンスルフィドを除くとする以外は、樹脂の種類は限定されていない」、「本件特許発明1~11は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである」(95頁(1))、 (2)「本件特許発明1において、50%累積体積粒径は限定されていない」、「本件特許発明1~11は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである」(95~96頁(2))、 (3)「本件特許発明1において、体積平均粒径/個数平均粒径は限定されていない」、「本件特許発明1~11は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである」(96~97頁(3))、 と主張する。 しかしながら、本件特許明細書の記載からみて、本件特許発明は、請求項に記載された発明特定事項を備えることにより、「リサイクル性に優れ、引張初期強度が良好であるととともに、複雑かつ精細な立体造形物を簡便かつ効率よく製造することができる立体造形用樹脂粉末を提供する」という課題(本件特許明細書【0006】)を解決できるものであると認められ、当業者であれば、上記(1)~(3)の限定(発明特定事項)がなくても、本件特許発明が上記課題を解決できることを認識できるといえる。 そうすると、本件特許発明1~11は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。 したがって、上記主張は採用できない。 3 明確性要件違反について (1)特許異議申立人は、特許異議申立書97頁(1)において、請求項1の「-15mW下がった」は不明確である旨主張する。 しかしながら、本件特許明細書及び図面の記載を参酌すれば、当業者は「吸熱側に15mW移動した」の意味であると理解できるから、上記主張は採用できない。 (2)特許異議申立人は、特許異議申立書97~98頁(2)において、「縦軸の単位が樹脂の量に依存するもの(mW)である場合のDSC曲線においては、樹脂の量が指定されない限り、融解開始温度を特定することができない」、「本件特許発明1においては、どの時点での温度を融解開始温度とすればよいのか特定することができず」と主張する。 しかしながら、樹脂の量を融解開始温度が特定できる量にすればよいことは当業者にとって明らかなことである。また、請求項1に記載の(1)で求めたいのは「Tmf1-Tmf2」という融解開始温度の差分であるから、当業者であれば、樹脂の量が変化しても「Tmf1-Tmf2」の値は第三者に不測の不利益を生じるほど大きく変化しないと理解することができる。 したがって、上記主張は採用できない。 (3)特許異議申立人は、特許異議申立書98~99頁(3)において、本件特許発明7について、「どこまでが「柱体」であり、どこからが「柱体」でないのか、発明の外延が不明確である」と主張する。 しかしながら、本件特許明細書の【0033】に「柱体粒子は、底面と上面を有する柱体形状を有する」と記載されているとおり、底面と上面を有すると認識できるものが柱体であると認められる。また、同段落には「柱体粒子において頂点を持たないような形状にすることで、前記円形度を高めることが可能になり」と記載されており、円形度が高い柱体粒子というものも想定されている。 したがって、上記記載に接した当業者であれば、「柱体粒子」がどのような範囲のものかは、第三者に不測の不利益を与えるほどのものとは認められない。 したがって、上記主張は採用できない。 (4)特許異議申立人は、令和6年3月7日付け意見書7頁(2)において、「「室温」とは、具体的に何度であるか不明である」、「訂正後の本件特許発明1においては、融点より30℃高い温度まで昇温した後、降温を開始するまでの保温時間が特定されていない」、「訂正後の本件特許発明1は、依然として明確でない」と主張する。 しかしながら、当業者であれば、本件特許明細書の記載及び技術常識に基づいて、「室温」及び「保温時間」をある程度の範囲に特定できるし、また、当業者であれば、「室温」及び「保温時間」が多少変化しても結晶化度Cx2の値は第三者に不測の不利益を生じるほど大きく変化しないと理解することができる。 したがって、上記主張は採用できない。 第7 むすび 1 請求項1~6及び8~11に係る特許は、いずれも、取消理由通知書によって通知した取消しの理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に請求項1~6及び8~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 2 請求項7は、本件訂正請求による訂正で削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項7に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700479

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