特許異議申立
2024-700154
樹脂粒子の製造方法
- 審判番号
- 2024-700154
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-208203
- 登録番号
- 7331348
- 請求日
- 2024年02月21日
- 審決日
- 2025年01月30日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社リコー
- 【権利者代理人】山口 昭則
- 【権利者代理人】新川 圭二
- 【異議申立人】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
- 【異議申立人代理人】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
- 【異議申立人代理人】伊藤 潤
- 審判長/審判官
- 審判長 淺野 美奈
- 審判官 天野 宏樹
- 審判官 加藤 友也
- 分類
- P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7331348号発明「樹脂粒子の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7331348号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕、11について訂正することを認める。
特許第7331348号の請求項1~10に係る特許を維持する。
特許第7331348号の請求項11に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7331348号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願は、平成30年11月5日(優先権主張 平成29年11月13日(日本)、平成30年8月29日(日本))の出願であって、令和5年8月15日にその特許権の設定登録がされ、同年同月23日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、令和6年2月21日に特許異議申立人エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象:全請求項)がなされたものである。
以降の手続の経緯は以下のとおりである。
令和6年 6月 6日付け:取消理由通知
同年 8月 9日 :訂正請求書、意見書(特許権者)
同年 8月22日付け:手続補正指令書(方式)
同年 9月24日 :訂正請求書の手続補正書(方式)
及び意見書の手続補正書(方式)
同年10月 3日付け:訂正請求があった旨の通知
(特許法第120条の5第5項)
なお、令和6年10月3日付け訂正請求があった旨の通知に対し、申立人からは何ら応答がなかった。
第2 訂正請求について
1.訂正の内容
令和6年8月9日に提出され、同年9月24日に提出された手続補正書(方式)により補正された訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、「特許第7331348号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~11について訂正することを求める。」というものであり、本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記繊維にヒートプレスを行うヒートプレス工程」と記載されているのを、「前記繊維を2つの部材で挟み、加熱しながらプレスするヒートプレスを行うヒートプレス工程」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~10も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項11を削除する。
なお、訂正事項1に係る訂正前の請求項1~10について、請求項2~10は請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、本件訂正により対応する訂正後の請求項1~10に訂正される。よって、本件訂正は一群の請求項をなす請求項1~10と、請求項11を訂正の単位として請求されたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載されていた「ヒートプレス」という発明特定事項に、願書に添付した明細書の[0014]、[0015]、[0044]及び図1~図2C等の記載に基づいて「2つの部材で挟み、加熱しながらプレスする」という発明特定事項を直列的に付加することにより、特許請求の範囲を減縮するものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。さらに、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~10の訂正も同様である。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項11を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項1~11に対して特許異議の申立てがなされているので、訂正事項1及び2については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3.訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕、11について訂正することを認める。
第3 本件発明について
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1~10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明10」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。念のため、請求項11が削除されたことも明示した。
なお、以下において、証拠の記載を含め、隅付き括弧は「[ ]」と表示した。
「[請求項1]
1種の熱可塑性樹脂を含む繊維を互いに直接接合させて繊維集合体を得る繊維集合体の製造工程と、
前記繊維集合体を粒子化して樹脂粒子を得る繊維集合体の粒子化工程と、を含み、
前記繊維集合体の製造工程が、長軸方向が互いに平行になるように配置した複数の前記繊維を2つの部材で挟み、加熱しながらプレスするヒートプレスを行うヒートプレス工程を含むことを特徴とする樹脂粒子の製造方法。
[請求項2]
前記ヒートプレス工程における加熱温度が、前記熱可塑性樹脂の結晶化温度以上、融解開始温度以下、又は、前記熱可塑性樹脂のガラス転移点以上、融点以下である請求項1に記載の樹脂粒子の製造方法。
[請求項3]
得られた前記繊維集合体を温度乃至圧力の制御により平坦化する工程を更に含む請求項1から2のいずれかに記載の樹脂粒子の製造方法。
[請求項4]
前記繊維集合体が、プレート形状である請求項1から3のいずれかに記載の樹脂粒子の製造方法。
[請求項5]
前記繊維集合体の粒子化工程が、前記繊維集合体を切断する切断工程を含む請求項1から4のいずれかに記載の樹脂粒子の製造方法。
[請求項6]
互いに付着した前記樹脂粒子を分離する分離工程を更に含む請求項1から5のいずれかに記載の樹脂粒子の製造方法。
[請求項7]
前記樹脂粒子を球形化する球形化工程を更に含む請求項1から6のいずれかに記載の樹脂粒子の製造方法。
[請求項8]
前記繊維が、延伸処理された繊維である請求項1から7のいずれかに記載の樹脂粒子の製造方法。
[請求項9]
前記繊維の直径が、5μm以上150μm以下である請求項1から8のいずれかに記載の樹脂粒子の製造方法。
[請求項10]
前記樹脂粒子の体積平均粒径が、150μm以下である請求項1から9のいずれかに記載の樹脂粒子の製造方法。
[請求項11](削除)」
第4 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記2.に示す甲第1号証~甲第7号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲7」のようにいう。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。なお、特許異議申立理由の番号は当審が仮に付与した。
1.特許異議申立理由
(1)申立理由1(新規性欠如)
ア 申立理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)
本件発明1~5、9~11は、本件特許の優先日前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
イ 申立理由1-2(甲2に基づく新規性欠如)
本件発明1~7、11は、本件特許の優先日前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
ウ 申立理由1-3(甲3に基づく新規性欠如)
本件発明1、2、5、6、8、10は、本件特許の優先日前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由2(進歩性欠如)
ア 申立理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)
本件発明1~5、7~11は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
イ 申立理由2-2(甲2に基づく進歩性欠如)
本件発明1~11は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲2に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
ウ 申立理由2-3(甲3に基づく進歩性欠如)
本件発明1、2、5~10は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲3に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
エ 申立理由2-4(甲4に基づく進歩性欠如)
本件発明1~11は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲4に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明1~11についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・繊維の樹脂成分について
本件特許明細書の実施例において、繊維を構成する樹脂の種類によって粒度分布が変化することが示されていることに鑑みると、1種の熱可塑性樹脂と、熱硬化性樹脂等の複合繊維である場合においては、「長繊維をミクロンオーダーの長さに切断可能であり、繊維長のばらつきやミスカットが少なく、非常にシャープな粒度分布を有し、かつ粒子形状が略均一な樹脂粒子を、高い生産効率かつ低コストで生産することができる樹脂粒子の製造方法を提供すること」という本願発明の課題を解決できるか否か不明である。
したがって、本件特許発明1および11は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。本件特許発明1に従属する本件特許発明2~10についても同様である。
(4)申立理由4(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、本件発明1~11についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・「1種の熱可塑性樹脂を含む繊維」について
「1種の熱可塑性樹脂」との記載は、1種の(同じ)カテゴリ(例えばポリアミド)に属する熱可塑性樹脂であれば、例えばポリアミド12とポリアミド6Tを共に含んでいてもよいというように解釈することもできるし、同じカテゴリに属する熱可塑性樹脂であっても2種類以上(例えばポリアミド12とポリアミド6T)を併用してはならないというように解釈することもできる。さらに、例えば同じポリアミド12であっても、使用されている末端封止剤の異なる複数種類のポリアミド12が併用されている場合は「1種」と解釈してよいのか否か不明である。
このような状況では、樹脂粒子を製造しようとする第三者に対し、不測の不利益を与えることとなる。したがって、本件特許発明1および11については、特許を受けようとする発明が明確でない。本件特許発明1に従属する本件特許発明2~10についても同様である。
2.証拠方法
甲1:特開2006-291373号公報
甲2:米国特許第2834053号公報
甲3:特開平7-248648号公報
甲4:国際公開第2017/112723号
甲5:特開2006-106236号公報
甲6:国際公開第2013/138204号
甲7:特開2004-231700号公報
証拠の表記は概ね申立人に従った。
第5 取消理由通知に記載した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~11に係る発明についての特許に対して、令和6年6月6日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由1(新規性欠如)
ア 取消理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)
本件発明11は、本件特許の優先日前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
イ 取消理由1-2(甲2に基づく新規性欠如)
本件発明1~7、11は、本件特許の優先日前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
ウ 取消理由1-3(甲3に基づく新規性欠如)
本件発明1、2、5、6、8は、本件特許の優先日前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)取消理由2(進歩性欠如)
ア 取消理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)
本件発明11は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
イ 取消理由2-2(甲2に基づく進歩性欠如)
本件発明1~7、9~11は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
ウ 取消理由2-3(甲3に基づく進歩性欠如)
本件発明1、2、5~10は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
エ 取消理由2-4(甲4に基づく進歩性欠如)
本件発明1~11は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)取消理由3(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明11についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・繊維の直接接合について
本件発明11は、「1種の熱可塑性樹脂を含む繊維からプレート状の繊維集合体を得る」工程は備えるが、当該工程において繊維を互いに直接接合させることは特定されていない。このため、[0011]に記載されたように「繊維を切断する際に、繊維束が動いて」しまい、「長繊維をミクロンオーダーの長さに切断可能であり、繊維長のばらつきやミスカットが少なく、非常にシャープな粒度分布を有し、かつ粒子形状が略均一な樹脂粒子を、高い生産効率かつ低コストで生産する」という課題を解決することができないと当業者は理解する。また、出願時の技術常識に照らしても、繊維を互いに直接接合させることなく発明の課題を解決できると認識することはできない。
よって、本件発明11は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではなく、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもないから、サポート要件を満たしていない。
第6 取消理由通知に記載した取消理由についての判断
当審は、取消理由通知に記載した取消理由1~3によって本件発明1~10についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおり。
1.取消理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)及び取消理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)について
本件訂正により請求項11は削除され、取消理由1-1及び取消理由2-1の対象となっていた請求項が存在しないものとなった。
よって、取消理由通知に記載した取消理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)及び取消理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)は解消した。
2.取消理由1-2(甲2に基づく新規性欠如)及び取消理由2-2(甲2に基づく進歩性欠如)について
(1)甲2に記載された事項
甲2には以下の事項が記載されている。甲2は外国語文献であるから日本語訳のみ示す。翻訳文は概ね申立人の抄訳に従った。
(甲2-1)「本発明は、可融性の分子配向性ポリマーを、成形用粉末、溶融紡糸プロセスの出発材料などとして使用するのに適した顆粒に変換することに関する。このプロセスは、実質的に純粋な状態で可融性であり、溶融物から押出可能であり、結晶性または微結晶性を有し、延伸時に分子配向可能であるという物理的特性を有するポリマーに一般に適用される。・・・
本発明者らは、可融性かつ分子配向性の有機ポリマーの造粒プロセスであって、上記引用プロセスで切断されたポリマーの脆さに起因するような微粉を生じることなく、広い温度範囲にわたって非常に均一な顆粒を切断できるプロセスを発見し、開発した。この新しいプロセスは、高い生産性を実現し、高速回転式カッターの使用を可能とする。」(第1欄15~38行)
(甲2-2)「冷却液を通過する過程は、少なくともリボンが接続された構造に固まるまで、好ましくはフィラメントの接触部の温度が塑性範囲以下に低下するまで続けられる。好ましくは、平均温度は冷却液の沸点以上に保たれ、その結果、完成した顆粒から冷却液が蒸発する。
これにより、個々のフィラメント間の接触点で横方向の結合が形成され、その強度は、接触させたときのフィラメントの平均温度(したがって、押出と集合の間の急冷)、フィラメントを集めるときにかかる横方向の圧力、および塑性温度範囲にあるときのフィラメントの接触時間に依存する。」(第1欄61行~第2欄3行)
(甲2-3)「すべてのフィラメントが冷却浴から出てくるリボンの全長にわたって横方向に接着している必要はない。リボンがフィードロールを通過するまでその一体性を保つような適切な間隔で、横方向の結合が発生していれば十分である。提供時に均一な顆粒を形成するためには、フィラメントはその長さにわたって個々のアイデンティティを実質的に維持し、切断時に十分に弱く結合されていなければならない。本プロセスでは、冷却液の温度、集合のための力、および冷却液との接触時間を、集合の前後で調整することが比較的容易であり、上記の特性を有する接着したフィラメントのリボンを製造することができる。」(第2欄19行~第2欄31行)
(甲2-4)「フィラメントはガイドバー6から冷却浴を通って、好適にはドアウェイの形状または逆U 字形をしている集合棒7へと進む。集合棒7の位置は冷却浴の長さにわたって調整可能であり、その垂直サイドバー8の間隔も調整可能である。
フィラメントが集合される際のリボンの上下圧力は、ガイドバー9を上下に動かすことで調整可能である。このガイドバー9は集合棒7と連携し、フィラメントの移動方向に沿ってわずかな距離を置いて設置されている。図示では集合棒の後ろにあるが、集合棒よりも前であってもよい。」(第2欄46~56行)
(甲2-5)「固化したリボンはフィードロール13を通ってカッター14へと進む。カッター14はロータリーカッターなどの従来のカッターである。カッターのストロークはリボンの進行端を横切り、切断ストロークの力により顆粒になって落下するストリップを切断する。付着したままの顆粒は、後述するように適切に制御されれば、短時間のタンブリングや旋回などの操作で容易に分離することができる。」(第2欄67行~第3欄3行)
(甲2-6)「実施例1.- 17p.s.iの二酸化炭素圧力下で溶融した分子配向可能なポリカプロラクタムを、ロッドの丸いフィラメントとして、水浴を横切る水平円筒形ダイから水浴中へ下方に押し出した。ダイはその下側に沿って50個の丸いオリフィスの列を有し、穴は、直径約3/32インチ、間隔約1/4インチ。穴を1列だけでなく2列または3列にすると、生産性が向上し、一般にカッターを通過する際の操作性が向上する。穴の数は1列あたり25~75個が適切である。有利には、フィラメントがダイにくっつくのを防ぐために、オリフィスに、例えば高さ1/16インチのピラミッドの外形を与えることができる。これらの改善は、以下の実施例2で説明される。」(第3欄47~60行)
(甲2-7)「カッターの切断ブロック上でリボンの端部に対してナイフが行う切断ストロークは、直径約1/16インチ、長さ約1/16インチの円柱形ペレットを形成した。これらのペレットまたは顆粒は自由流動性があり、非常に均一で、微粉がほとんどなかった。ほとんどが完全に分離していた。短い撹拌操作により、顆粒はほぼすべてが互いに分離された。」(第4欄24~31行)
(甲2-8)「溶融性で分子配向可能な熱可塑性有機ポリマーから顆粒を形成する方法であって、前記ポリマーの溶融物から別個の丸みを帯びた、本質的に均一な、本質的に非分子配向のフィラメントを押し出す工程、前記フィラメントを不活性冷却液に通す工程、前記フィラメントを融合が起こる温度より低い表面温度まで冷却し、フィラメント間の融合がすべての隣接領域で直ちに進行するが、平均温度はフィラメントが個々の同一性を維持しながら接着する範囲内にとどまるようにする工程、前記フィラメントを直ちに集めてリボン状に並べて接触させ、各フィラメントがその長さ全体にわたって実質的に個々の同一性を維持するようにする工程、フィラメントの横方向の接触面を除くリボンの表面から、リボンが連結構造に固化する速度で熱を抽出し続ける工程、リボンを非配向張力下でカッターに渡し、カッターがリボンの自由端を切断し、切断されたストリップをフィラメント端間の横方向の結合部で個別の顆粒に分割する工程を含む、方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(2)甲2に記載された発明
甲2には、特許請求の範囲の請求項1(摘記甲2-8)に基づいて以下の発明が記載されている。
「溶融性で分子配向可能な熱可塑性有機ポリマーから顆粒を形成する方法であって、前記ポリマーの溶融物から別個の丸みを帯びた、本質的に均一な、本質的に非分子配向のフィラメントを押し出す工程、前記フィラメントを不活性冷却液に通す工程、前記フィラメントを融合が起こる温度より低い表面温度まで冷却し、フィラメント間の融合がすべての隣接領域で直ちに進行するが、平均温度はフィラメントが個々の同一性を維持しながら接着する範囲内にとどまるようにする工程、前記フィラメントを直ちに集めてリボン状に並べて接触させ、各フィラメントがその長さ全体にわたって実質的に個々の同一性を維持するようにする工程、フィラメントの横方向の接触面を除くリボンの表面から、リボンが連結構造に固化する速度で熱を抽出し続ける工程、リボンを非配向張力下でカッターに渡し、カッターがリボンの自由端を切断し、切断されたストリップをフィラメント端間の横方向の結合部で個別の顆粒に分割する工程を含む、方法。」(以下、「甲2発明」という。)
(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「溶融性で分子配向可能な熱可塑性有機ポリマー」、「別個の丸みを帯びた、本質的に均一な、本質的に非分子配向のフィラメント」、「フィラメント間の融合」、「リボン」は、本件発明1における「熱可塑性樹脂」、「繊維」、「互いに直接接合」、「繊維集合体」に相当し、甲2発明における「前記ポリマーの溶融物から・・・フィラメントを押し出す工程、前記フィラメントを不活性冷却液に通す工程、前記フィラメントを融合が起こる温度より低い表面温度まで冷却し、フィラメント間の融合がすべての隣接領域で直ちに進行するが、平均温度はフィラメントが個々の同一性を維持しながら接着する範囲内にとどまるようにする工程、前記フィラメントを直ちに集めてリボン状に並べて接触させ、各フィラメントがその長さ全体にわたって実質的に個々の同一性を維持するようにする工程、」は、本件発明1における「長軸方向が互いに平行になるように配置した複数の前記繊維」を用いる「繊維集合体の製造工程」に相当する。
また、甲2発明における「リボンを非配向張力下でカッターに渡し、カッターがリボンの自由端を切断し、切断されたストリップをフィラメント端間の横方向の結合部で個別の顆粒に分割する工程」は、本件発明1における「前記繊維集合体を粒子化して樹脂粒子を得る繊維集合体の粒子化工程」に相当し、甲2発明における「顆粒を形成する方法」は、本件発明1における「樹脂粒子の製造方法」に相当する。
そうすると、両者は、
「1種の熱可塑性樹脂を含む繊維を互いに直接接合させて繊維集合体を得る繊維集合体の製造工程と、
前記繊維集合体を粒子化して樹脂粒子を得る繊維集合体の粒子化工程と、を含み、
前記繊維集合体の製造工程が、長軸方向が互いに平行になるように配置した複数の前記繊維を用いることを特徴とする樹脂粒子の製造方法。」の点で一致し、
相違点1B:本件発明1は、繊維集合体の製造工程が「前記繊維を2つの部材で挟み、加熱しながらプレスするヒートプレスを行うヒートプレス工程を含む」と特定するのに対し、甲2発明は「フィラメントを直ちに集めてリボン状に並べて接触させる」工程を含む点
で相違する。
そこで、上記相違点1Bについて検討する。
イ 相違点1Bについて
甲2発明における「フィラメントを直ちに集めてリボン状に並べて接触させる」工程は、繊維を2つの部材で挟み、加熱しながらプレスすることにより行われるものでもないから、相違点1Bは実質的な相違点である。
また、甲2及び他の証拠の記載を参照しても、甲2発明における「フィラメントを直ちに集めてリボン状に並べて接触させる」工程を、「繊維を2つの部材で挟み、加熱しながらプレスするヒートプレスを行うヒートプレス工程」に置き換える動機付けとなる記載はないから、甲2発明において相違点1Bに係る構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 本件発明1についてのまとめ
以上のことから、本件発明1は甲2発明ではなく、また、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明2~7、9及び10について
本件発明2~7、9及び10は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~7は、いずれも甲2発明ではなく、また、本件発明2~7、9及び10は、いずれも甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)取消理由1-2(甲2に基づく新規性欠如)及び取消理由2-2(甲2に基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~7は、いずれも甲2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1~7、9及び10は、いずれも甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、取消理由1-2(甲2に基づく新規性欠如)及び取消理由2-2(甲2に基づく進歩性欠如)により本件発明1~7、9及び10についての特許を取り消すことはできない。
3.取消理由1-3(甲3に基づく新規性欠如)及び取消理由2-3(甲3に基づく進歩性欠如)について
(1)甲3に記載された事項
甲3には以下の事項が記載されている。
(甲3-1)「[請求項1] 熱可塑性樹脂により形成され所望トナー径まで細くした状態の繊維(X)を供給する工程と、該繊維を所望トナー径寸法の長さ近傍で切断して微粒子化する工程とを有することを特徴とするトナー用微粒子の製造方法。
[請求項2] 繊維(X)が複数本をまとめた繊維束の状態で供給されるとともに、繊維束が回転刃(2c)により切断されることを特徴とする請求項1記載のトナー用微粒子の製造方法。」
(甲3-2)「[0009]また、図2は、紡糸装置10の例を示すものであり、図1の繊維供給手段1に対して連設状態にあるいは独立状態に配される。該紡糸装置10は、化学成分中に炭素原子を含むポリスチレン等の溶融状態の熱可塑性樹脂からなる紡糸原液Rを貯留する貯留容器11と、該貯留容器11の紡糸原液Rを定量ずつ送り出すためのポンプ12と、ポンプ12からの紡糸原液Rを複数の穴から並列的に吐出するノズル13と、該ノズル13を収容するとともに吐出された紡糸原液Rを徐々に乾燥固化して繊維束Xとするための加熱筒14と、該加熱筒14から引き出された繊維束Xに張力を及ぼして延伸させることにより所望トナー径(例えば2~3μm径以下)まで細くした状態とするためのフィードロール15と、該フィードロール15から送り出された繊維束Xを案内するためのガイド16と、ボビン1aを支持して回転状態とするための回転駆動部17と、ガイド16及び回転駆動部17の間に介在状態に配され繊維束Xの巻回位置を調整するためのトラベラー18とを有している。」
(甲3-3)「[0018]この際に、繊維束Xが十分に冷却されている場合には、回転刃2cによる切断時の熱により繊維束Xが溶融状態または融着状態にまで至らず、繊維束Xが容易に個々に切断された状態の切断繊維(トナー用微粒子)Yとなる。また、繊維束Xが低温脆化温度の近傍まで冷却されていると、粘性が失われることにより、切断効率が一層向上することになる。
[0019]回転刃2cの回転による切断が繰り返されると、同じ大きさで同じ形状のトナー用微粒子Yが製造される。つまり、繊維束Xを構成している複数本の繊維素が、紡糸装置10におけるノズル13の穴形状に基づいて、円形断面をしている場合には、直径が例えば2~3μmで、長さがその近傍の切断長さの2~3μmとなり、縦横比がほぼ1:1に設定される。繊維束Xは、切断によって複数に分離して、それぞれトナー用微粒子Yとなる。」
(甲3-4)「[0022]〔他の実施態様〕本発明にあっては、次の技術を包含する。
a)切断手段2として、回転刃2c及び切断ダイ2bの組み合わせ以外の構造のものを採用すること。
b)冷却手段3及び気送手段4を組み合わせて、切断箇所にガス流を吹き付けること。
c)気送手段4に真空ポンプやブロア等の気流発生手段が付加されること。
[0023]
[発明の効果]本発明に係るトナー用微粒子の製造方法及びその装置によれば、以下のような効果を奏する。
(1) 細くした状態の繊維を切断して微粒子化することにより、繊維径と切断長さに基づくトナー用微粒子が得られ、粒径の寸法的制限を少なくすることができる。
(2) 繊維を複数本をまとめた繊維束の状態で切断されることにより、効率良く微粒子化を行なうことができる。
(3) 切断が繰り返されることにより、同じ太さ同じ長さの同一形状の均質なトナー用微粒子を得ることができる。
(4) 切断時に冷却を付加することにより、微粒子が相互に付着し合う造粒化現象の発生を防止して、個々に分離された状態のトナー用微粒子を製造することができる。
(5) 切断箇所を冷却するとともに、気流により切断繊維を下流に送り込むことにより、切断熱の除去と切断繊維の搬送とを行ない、製造効率を向上させることができる。
(6) 切断手段として、繊維束を供給するための切断ダイと、突出している部分を切断するための回転刃との組み合わせ構成を採用することにより、繊維を繊維束の状態または繊維束を複数まとめて供給して、トナー用微粒子の製造効率の向上を図ることができる。」
(2)甲3に記載された発明
甲3の請求項1及び2(摘記甲3-1)には、「熱可塑性樹脂により形成され所望トナー径まで細くした状態の繊維(X)を供給する工程と、該繊維を所望トナー径寸法の長さ近傍で切断して微粒子化する工程とを有することを特徴とするトナー用微粒子の製造方法。」及び「繊維(X)が複数本をまとめた繊維束の状態で供給される」ことが記載されている。また、[0009](摘記甲3-2)には、繊維束Xを紡糸装置から製造する工程について、「ポリスチレン等の溶融状態の熱可塑性樹脂からなる紡糸原液Rを貯留する貯留容器11と、該貯留容器11の紡糸原液Rを定量ずつ送り出すためのポンプ12と、ポンプ12からの紡糸原液Rを複数の穴から並列的に吐出するノズル13と、該ノズル13を収容するとともに吐出された紡糸原液Rを徐々に乾燥固化して繊維束Xとするための加熱筒14と、該加熱筒14から引き出された繊維束Xに張力を及ぼして延伸させることにより所望トナー径(例えば2~3μm径以下)まで細くした状態とするためのフィードロール15と、該フィードロール15から送り出された繊維束Xを案内するためのガイド16と、ボビン1aを支持して回転状態とするための回転駆動部17と、ガイド16及び回転駆動部17の間に介在状態に配され繊維束Xの巻回位置を調整するためのトラベラー18とを有している」紡糸装置を用いることが記載されている。また、[0019](摘記甲3-3)においては、繊維束Xが複数本の繊維素から構成されていることが記載されている。
そうすると、甲3には以下の発明が記載されている。
「溶融状態の熱可塑性樹脂からなる紡糸原液Rを貯留する貯留容器11と、該貯留容器11の紡糸原液Rを定量ずつ送り出すためのポンプ12と、ポンプ12からの紡糸原液Rを複数の穴から並列的に吐出するノズル13と、該ノズル13を収容するとともに吐出された紡糸原液Rを徐々に乾燥固化して複数本の繊維素及び繊維束Xとするための加熱筒14と、該加熱筒14から引き出された繊維束Xに張力を及ぼして延伸させることにより所望トナー径(例えば2~3μm径以下)まで細くした状態とするためのフィードロール15と、該フィードロール15から送り出された繊維束Xを案内するためのガイド16と、ボビン1aを支持して回転状態とするための回転駆動部17と、ガイド16及び回転駆動部17の間に介在状態に配され繊維束Xの巻回位置を調整するためのトラベラー18とを有している紡糸装置により、熱可塑性樹脂により形成され所望トナー径まで細くした状態の繊維の繊維束Xを製造する工程と、繊維束Xを所望トナー径寸法の長さ近傍で切断して微粒子化する工程とを有することを特徴とするトナー用微粒子の製造方法。」(以下、「甲3発明」という。)
(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲3発明との対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明における「熱可塑性樹脂」、「繊維素」、「繊維束X」は、本件発明1における「熱可塑性樹脂」、「繊維」、「繊維集合体」に相当し、甲3発明における「溶融状態の熱可塑性樹脂からなる紡糸原液Rを貯留する貯留容器11と、該貯留容器11の紡糸原液Rを定量ずつ送り出すためのポンプ12と、ポンプ12からの紡糸原液Rを複数の穴から並列的に吐出するノズル13と、該ノズル13を収容するとともに吐出された紡糸原液Rを徐々に乾燥固化して複数本の繊維素及び繊維束Xとするための加熱筒14と、該加熱筒14から引き出された繊維束Xに張力を及ぼして延伸させることにより所望トナー径(例えば2~3μm径以下)まで細くした状態とするためのフィードロール15と、該フィードロール15から送り出された繊維束Xを案内するためのガイド16と、ボビン1aを支持して回転状態とするための回転駆動部17と、ガイド16及び回転駆動部17の間に介在状態に配され繊維束Xの巻回位置を調整するためのトラベラー18とを有している紡糸装置により、熱可塑性樹脂により形成され所望トナー径まで細くした状態の繊維の繊維束Xを製造する工程」は、本件発明1における「長軸方向が互いに平行になるように配置した複数の前記繊維」を用いる「繊維集合体の製造工程」に相当する。
また、甲3発明における「繊維束Xを所望トナー径寸法の長さ近傍で切断して微粒子化する工程」は、本件発明1における「前記繊維集合体を粒子化して樹脂粒子を得る繊維集合体の粒子化工程」に相当し、甲3発明における「トナー用微粒子の製造方法。」は、本件発明1における「樹脂粒子の製造方法。」に相当する。
そうすると、両者は、
「1種の熱可塑性樹脂を含む繊維から繊維集合体を得る繊維集合体の製造工程と、
前記繊維集合体を粒子化して樹脂粒子を得る繊維集合体の粒子化工程と、を含み、
前記繊維集合体の製造工程が、長軸方向が互いに平行になるように配置した複数の前記繊維を用いることを特徴とする樹脂粒子の製造方法。」の点で一致し、
相違点1C:本件発明1は「繊維を互いに直接接合させて」と特定するのに対し、甲3発明はそのように特定されていない点
相違点2C:本件発明1は、繊維集合体の製造工程が「前記繊維を2つの部材で挟み、加熱しながらプレスするヒートプレスを行うヒートプレス工程を含む」と特定するのに対し、甲3発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、上記相違点2Cについて検討する。
イ 相違点2Cについて
甲3発明における繊維束Xの製造工程は、繊維を2つの部材で挟んで行われるものではないから、相違点2Cは実質的な相違点である。
また、甲3及び他の証拠の記載を参照しても、甲3発明における繊維束Xの製造工程を、「繊維を2つの部材で挟み、加熱しながらプレスするヒートプレスを行うヒートプレス工程」に置き換える動機付けとなる記載はないから、甲3発明において相違点2Cに係る構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点1Cについて検討するまでもなく、本件発明1は甲3発明ではなく、また、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明2及び5~10について
本件発明2及び5~10は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2、5、6及び8は、いずれも甲3発明ではなく、また、本件発明2及び5~10は、いずれも甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)取消理由1-3(甲3に基づく新規性欠如)及び取消理由2-3(甲3に基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1、2、5、6及び8は、いずれも甲3に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1、2及び5~10は、いずれも甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、取消理由1-3(甲3に基づく新規性欠如)及び取消理由2-3(甲3に基づく進歩性欠如)により本件発明1、2及び5~10についての特許を取り消すことはできない。
4.取消理由2-4(甲4に基づく進歩性欠如)について
(1)甲4に記載された事項
甲4には以下の事項が記載されている。甲4は外国語文献であるが、日本語訳のみ示す。翻訳文は概ね甲4のパテントミリーである特表2018-523718号公報の記載に従った。
(甲4-1)「8.消耗性ポリマー系粉末混合物を形成する方法であって、
複数のポリマー系繊維を含む複数のポリマー系トウを提供することと、
前記複数のポリマー系トウを集合ポリマー系トウへと集合させることと、
前記集合ポリマー系トウから複数のポリマー系粒子を連続的に形成することと、を含み、
前記複数のポリマー系粒子の少なくとも大部分のポリマー系粒子が単体構造を有し、前記複数のポリマー系粒子の少なくとも約80%が略円筒形状を有する、方法。
9.複数のポリマー系粒子を連続的に形成することが、前記集合ポリマー系トウを切断して前記複数のポリマー系粒子を形成することを含む、請求項8に記載の方法。
10.前記方法が、前記複数のポリマー系粒子を連続的に形成する前または間に、前記集合ポリマー系トウを圧縮することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
11.前記方法が、前記複数のポリマー系粒子を篩分けすることをさらに含む、請求項8に記載の方法。」(特許請求の範囲の請求項8~11)
(甲4-2)「技術分野
本開示は、消耗性粉末を製造するための方法及びシステムに関し、より詳しくは、選択的レーザー焼結(SLS)、高速焼結、及び選択的阻害焼結などの添加剤製造システムのための消耗性粉末に関する。」(第1頁3~7行)
(甲4-3)「図1を参照すると、本開示の1つの態様は、消耗性粉末混合物を形成する方法100に関する。本明細書に記載の特定の実施形態によれば、この方法は、ポリマー供給原料を提供する第1のステップ110と、そのポリマー供給原料をポリマー系ヤーン(polymeric based yarn)へと形成する第2のステップ120と、複数のポリマー系ヤーンをトウへと集合させる第3の工程130と、複数のトウを集合トウへと集合させる第4のステップ140と、その集合ポリマー系トウを、消耗性粉末混合物の少なくとも一部を構成する複数のポリマー系粒子へと形成する第5のステップ150とを含む。」(第4頁15~22行)
(甲4-4)「次にステップ120を参照すると、ポリマー供給原料をポリマー系ヤーンへと形成することは、例えば、ポリマー供給原料を溶融し、次いでポリマー供給原料を押出しかつ延伸してポリマー系繊維を形成することを含むことができる。ある特定の実施形態によれば、単一のポリマー系繊維はポリマー系ヤーンを形成することができる。なおさらに他の実施形態によれば、複数のポリマー系繊維を集合させてポリマー系ヤーンを形成することができる。複数のポリマー系繊維を集合させることは、複数のポリマー系繊維を配置、収集または組み合わせてポリマー系ヤーンを形成する任意のプロセスを含むことができる。さらに他の実施形態によれば、複数のポリマー系繊維をポリマー系ヤーンへと集合させることは、ポリマー系繊維を配置、収集または組み合わせて、複数のポリマー系繊維を撚ることなく、単一のグループまたはクラスターまたはポリマー系繊維にすることを含むことができる。なおさらに他の実施形態によれば、複数のポリマー系繊維をポリマー系ヤーンへと集合させることは、ポリマー系繊維を配置、収集または組み合わせて、複数のポリマー系繊維を一緒に撚ることによって、単一のグループまたはクラスターまたはポリマー系繊維にして、ポリマー系ヤーンを形成することを含むことができる。」(第5頁21行~第6頁2行)
(甲4-5)「さらに、集合ポリマー系トウは、例えば可動クランプによって切断ブレードに向かって移動させ得ることが理解されよう。そのクランプは、集合ポリマー系トウを圧縮し、次いでその集合ポリマー系トウを切断の間に所定の長さ移動させることができる。ある特定の実施形態では、集合ポリマー系トウは、切断の前及び/または切断中に圧縮することができる。集合ポリマー系トウを形成するトウを圧縮すると、ヤーン間の空間が減少し、切断効率を改善することができる。」(第7頁7~13行)
(甲4-6)「さらに他の実施形態によれば、ポリマー系粒子の少なくとも大部分は、特定の最大幅を有すると記載することができる。例えば、ポリマー系粒子の大部分の最大幅は、約100ミクロン以下、例えば約90ミクロン以下、約80ミクロン以下、約70ミクロン以下、約60ミクロン以下、約50ミクロン以下、約40ミクロン以下または約30ミクロン以下でさえもあり得る。なおさらに他の実施形態によれば、ポリマー系粒子の大部分の最大幅は、少なくとも約1ミクロン、例えば少なくとも約5ミクロン、少なくとも約10ミクロンまたは少なくとも約15ミクロン以下でさえもあり得る。ポリマー系粒子の大部分の最大幅は、上記の最小値と最大値のいずれかの間の任意の値であり得ることが理解されよう。ポリマー系粒子の大部分の最大幅は、上記の最小値と最大値のいずれかの間の範囲内であり得ることがさらに理解されよう。」(第12頁19~31行)
(甲4-7)「さらに他の実施形態によれば、ポリマー系粒子の少なくとも大部分は、特定の長さ対幅の比L/Wを有すると記載することができ、Lはポリマー系粒子の最大長であり、Wはポリマー系粒子の最大幅である。例えば、ポリマー系粒子の大部分の長さ対幅の比L/Wは、少なくとも約0.5、例えば少なくとも約0.8、少なくとも約1.0、少なくとも約1.3または少なくとも約1.5でさえもあり得る。なおさらに他の実施形態によれば、ポリマー系粒子の大部分の長さ対幅の比L/Wは、約3以下、例えば約2.8以下、約2.5以下、約2.3以下または約2.0以下でさえもあり得る。ポリマー系粒子の大部分の長さ対幅の比L/Wは、上記の最小値と最大値のいずれかの間の任意の値であり得ることが理解されよう。ポリマー系粒子の大部分の長さ対幅の比L/Wは、上記の最小値と最大値のいずれかの間の範囲内であり得ることがさらに理解されよう。」(第13頁11~23行)
(2)甲4に記載された発明
甲4の請求項8~11(摘記甲4-1)には、「消耗性ポリマー系粉末混合物を形成する方法であって、
複数のポリマー系繊維を含む複数のポリマー系トウを提供することと、
前記複数のポリマー系トウを集合ポリマー系トウへと集合させることと、
前記集合ポリマー系トウから複数のポリマー系粒子を連続的に形成することと、を含み、
前記複数のポリマー系粒子の少なくとも大部分のポリマー系粒子が単体構造を有し、前記複数のポリマー系粒子の少なくとも約80%が略円筒形状を有する、方法。」において、「複数のポリマー系粒子を連続的に形成することが、前記集合ポリマー系トウを切断して前記複数のポリマー系粒子を形成することを含む」こと、「前記方法が、前記複数のポリマー系粒子を連続的に形成する前または間に、前記集合ポリマー系トウを圧縮することをさらに含む」こと、及び「前記方法が、前記複数のポリマー系粒子を篩分けすることをさらに含む」ことが記載されている、また、第4頁15~22行(摘記甲4-3)には、「この方法は、ポリマー供給原料を提供する第1のステップ110と、そのポリマー供給原料をポリマー系ヤーン(polymeric based yarn)へと形成する第2のステップ120と、複数のポリマー系ヤーンをトウへと集合させる第3の工程130と、複数のトウを集合トウへと集合させる第4のステップ140と、その集合ポリマー系トウを、消耗性粉末混合物の少なくとも一部を構成する複数のポリマー系粒子へと形成する第5のステップ150とを含む」ことが記載され、第5頁21行~第6頁2行(摘記甲4-4)には、「ポリマー供給原料をポリマー系ヤーンへと形成することは、例えば、ポリマー供給原料を溶融し、次いでポリマー供給原料を押出しかつ延伸してポリマー系繊維を形成することを含むことができる」こと、及び「ある特定の実施形態によれば、単一のポリマー系繊維はポリマー系ヤーンを形成することができる。なおさらに他の実施形態によれば、複数のポリマー系繊維を集合させてポリマー系ヤーンを形成することができる」ことが記載されている。
そうすると、甲4には以下の発明が記載されている。
「消耗性ポリマー系粉末混合物を形成する方法であって、ポリマー供給原料を溶融し、次いでポリマー供給原料を押出しかつ延伸してポリマー系繊維を形成する工程、単一のポリマー系繊維又は複数のポリマー系繊維を集合させてポリマー系ヤーンを形成する工程、複数のポリマー系ヤーンをトウへと集合させる工程、複数のポリマー系トウを集合ポリマー系トウへと集合させる工程、前記集合ポリマー系トウを切断して複数のポリマー系粒子を連続的に形成する工程、を含み、前記複数のポリマー系粒子を連続的に形成する前または間に、前記集合ポリマー系トウを圧縮する工程を含み、前記複数のポリマー系粒子を篩分けする工程を含み、前記複数のポリマー系粒子の少なくとも大部分のポリマー系粒子が単体構造を有し、前記複数のポリマー系粒子の少なくとも約80%が略円筒形状を有する、方法。」(以下、「甲4発明」という。)
(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲4発明との対比
本件発明1と甲4発明とを対比すると、甲4発明における「ポリマー供給原料」は、「溶融し、・・・押出しかつ延伸」することができるから、本件発明1における「熱可塑性樹脂」に相当し、甲4発明における「ポリマー系繊維」、「集合ポリマー系トウ」は、本件発明1における「繊維」、「繊維集合体」に相当し、甲4発明における「ポリマー供給原料を溶融し、次いでポリマー供給原料を押出しかつ延伸してポリマー系繊維を形成する工程、単一のポリマー系繊維又は複数のポリマー系繊維を集合させてポリマー系ヤーンを形成する工程、複数のポリマー系ヤーンをトウへと集合させる工程、複数のポリマー系トウを集合ポリマー系トウへと集合させる工程」は、本件発明1における「長軸方向が互いに平行になるように配置した複数の前記繊維」を用いる「繊維集合体の製造工程」に相当する。
また、甲4発明における「前記集合ポリマー系トウを切断して複数のポリマー系粒子を連続的に形成する工程」は、本件発明1における「前記繊維集合体を粒子化して樹脂粒子を得る繊維集合体の粒子化工程」に相当し、甲4発明における「消耗性ポリマー系粉末混合物を形成する方法」は、本件発明1における「樹脂粒子の製造方法。」に相当する。
そうすると、両者は、
「1種の熱可塑性樹脂を含む繊維から繊維集合体を得る繊維集合体の製造工程と、
前記繊維集合体を粒子化して樹脂粒子を得る繊維集合体の粒子化工程と、を含み、
前記繊維集合体の製造工程が、長軸方向が互いに平行になるように配置した複数の前記繊維を用いることを特徴とする樹脂粒子の製造方法。」の点で一致し、
相違点1D:本件発明1は「繊維を互いに直接接合させて」と特定するのに対し、甲4発明はそのように特定されていない点
相違点2D:本件発明1は、繊維集合体の製造工程が「前記繊維を2つの部材で挟み、加熱しながらプレスするヒートプレスを行うヒートプレス工程を含む」と特定するのに対し、甲4発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、上記相違点2Dについて検討する。
イ 相違点2Dについて
甲4及び他の証拠の記載を参照しても、甲4発明における繊維集合体を製造する工程を、「繊維を2つの部材で挟み、加熱しながらプレスするヒートプレスを行うヒートプレス工程」に置き換える動機付けとなる記載はないから、甲4発明において相違点2Dに係る構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点1Dについて検討するまでもなく、本件発明1は甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明2~10について
本件発明2~10は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~10は、いずれも甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)取消理由2-4(甲4に基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~10は、いずれも甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、取消理由2-4(甲4に基づく進歩性欠如)により本件発明1~10についての特許を取り消すことはできない。
5.取消理由3(サポート要件違反)について
本件訂正により請求項11は削除され、取消理由3の対象となっていた請求項が存在しないものとなった。
よって、取消理由通知に記載した取消理由3(サポート要件違反)は解消した。
6.取消理由通知に記載した取消理由についてのまとめ
以上のとおり、取消理由通知に記載したいずれの取消理由によっても、本件発明1~10についての特許を取り消すことはできない。
第7 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
当審は、取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由は、いずれも理由がないものと判断する。理由は以下のとおり。
1.取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由の概要
取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由は、
・上記第4の1.(1)に記載した申立理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)のうち、本件発明1~5、9及び10についての特許を対象とするもの、
・上記第4の1.(2)に記載した申立理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)のうち、本件発明1~5及び7~10についての特許を対象とするもの、
・上記第4の1.(2)に記載した申立理由2-2(甲2に基づく進歩性欠如)のうち、本件発明8についての特許を対象とするもの、
・上記第4の1.(1)に記載した申立理由1-3(甲3に基づく新規性欠如)のうち、本件発明10についての特許を対象とするもの、
・上記第4の1.(3)に記載した申立理由3(サポート要件違反)、及び、
・上記第4の1.(4)に記載した申立理由4(明確性要件違反)
である。以下、検討する。
2.申立理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)及び申立理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された事項
甲1には以下の事項が記載されている。
(甲1-1)「[請求項1]
繊維軸方向に沿って平行に引き揃えられた長単繊維群からなる繊維束を熱収縮チューブによって被覆後に加熱して熱収縮させ、収縮後の熱収縮チューブで被覆された繊維束を型枠内で圧縮成形して前記単繊維群を更に高密度に密集させ、高密度に密集させた繊維束を切断長が0.01mm以上、1mm未満の短繊維に切断することを特徴とする短繊維の製造方法。」
(甲1-2)「[0006]
本発明が解決しようとする課題は、以上に述べた従来技術が有する問題に鑑み、切断長が1mm以下、特に、0.1mm未満の短繊維をミスカットすることなく、大量且つ簡易に作製することができる短繊維の製造方法を提供することである。」
(甲1-3)「[0018]
なお、この熱収縮する性質を前記高分子樹脂に付与するための方法として、高分子樹脂からなるチューブを加熱した状態で拡径しておき、拡径したチューブを再加熱して元の形状に回復(収縮)させることによって行う。ただし、このとき採用する熱収縮チューブ2は、チューブ内部に挿入する繊維束1の軟化温度あるいは溶融温度よりも低い温度で収縮することが肝要である。何故ならば、熱収縮チューブ2が収縮を開始する温度よりも、繊維束の軟化温度あるいは溶融温度が低ければ、繊維束を構成する単繊維群が溶融したり、熱融着したりするため好ましくないからである。したがって、熱収縮チューブ2を収縮させるために加熱する温度は、繊維束1を構成する単繊維群が変形したり、熱融着したりしない温度に設定する必要があることは言うまでもない。
・・・
[0022]
このようにして、図1(b)に例示した熱収縮チューブ2に被覆された繊維束1の準備が完了すると、これを被覆繊維束1の断面が例えば矩形状となるように型枠(図示省略)に入れて、圧縮成形する。なお、この圧縮成形工程においては、繊維束1を圧縮するのに合わせて熱収縮チューブ2を更に収縮させるために、加熱しながら行うことが好ましい。また、被覆繊維束1の加圧を一気に行うこともできるが、繊維束1の断面形状が丸断面から矩形断面へと変形させる過程において加圧を急激に行うと長単繊維群の移動変形に伴う再配置が円滑に行われず、繊維束1の引き揃え状態が悪化することがあるので、圧縮を複数回に分けて徐々に行うことが好ましい。特に、繊維束1の全長が長くなると、このような問題が生じ易いために、このような注意が必要である。」
(甲1-4)「[0025]
以下、実施例により本発明の方法を具体的に説明する。
単繊維繊度が4dtexである単繊維群をハンク・ワインダーを使用して定法に従って繊維軸方向へ平行に引き揃えて総繊度が300万dtexのポリエステルからなる繊維束を準備した。次いで、熱収縮チューブとして、その材質がポリオレフィン(住友電工株式会社製、商品名:スミチューブ LA黒 50)からなる内径50mm、肉厚0.5mm、収縮率が加熱温度100℃で30%以上のものを用いて、張力として5kgfを予め付与した状態の前記繊維束に被せた状態で熱風供給ノズルから約100℃の熱風を吹出して熱収縮チューブの一端から多端へと熱収縮チューブを順次熱収縮させた。
[0026]
次に、このようにして得られた熱収縮チューブを被覆した繊維束を圧縮成形後に幅が100mm、高さが15mmの矩形断面形状を有するように型溝が形成された型枠に入れて、油圧式圧縮機によって熱収縮チューブで被覆された繊維束を圧縮成形した。この圧縮成形によって作製した被切断材は、長単繊維群が高密度でコンパクトに密集し、その断面形状は型溝形状に正確に賦型されていた。その後、賦型した被切断材の端部を電動丸鋸によって切断して全長が1000mmの被切断材とした。
[0027]
このようにして得た被切断材を小野打製作所のギロチン式カッター(LD100型)へ供給して、切断長がそれぞれ0.02mm、0.05mm、0.08mm、0.1mm、0.2mm、0.5mm、そして、1.0mmの短繊維からなるサンプルをそれぞれ製造した。なお、このようにして、製造した短繊維サンプルは、細かく裁断された熱収縮チューブを含むため、水中に浸漬して比重差を利用して熱収縮チューブだけを分離除去した。そして、熱収縮チューブ分が除去された短繊維を脱水した後、熱風循環式の公知の乾燥機中に投入して熱風乾燥した。このようにして、最終的に得られた各短繊維は、従来技術による方法と比較してミスカットが極めて少なかった。」
(2)甲1に記載された発明
甲1の[0006](摘記甲1-2)及び請求項1(摘記甲1-1)には、切断長が1mm以下、特に、0.1mm未満の短繊維をミスカットすることなく、大量且つ簡易に作製することができる短繊維の製造方法として、「繊維軸方向に沿って平行に引き揃えられた長単繊維群からなる繊維束を熱収縮チューブによって被覆後に加熱して熱収縮させ、収縮後の熱収縮チューブで被覆された繊維束を型枠内で圧縮成形して前記単繊維群を更に高密度に密集させ、高密度に密集させた繊維束を切断長が0.01mm以上、1mm未満の短繊維に切断することを特徴とする短繊維の製造方法。」が記載されており、[0025]~[0027](摘記甲1-4)にはその実施例が記載されている。具体的には、単繊維繊度が4dtexである単繊維群をハンク・ワインダーを使用して定法に従って繊維軸方向へ平行に引き揃えて総繊度が300万dtexのポリエステルからなる繊維束を準備し、次いで、熱収縮チューブとして、その材質がポリオレフィン(住友電工株式会社製、商品名:スミチューブ LA黒 50)からなる内径50mm、肉厚0.5mm、収縮率が加熱温度100℃で30%以上のものを用いて、張力として5kgfを予め付与した状態の前記繊維束に被せた状態で熱風供給ノズルから約100℃の熱風を吹出して熱収縮チューブの一端から多端へと熱収縮チューブを順次熱収縮させ、次に、このようにして得られた熱収縮チューブを被覆した繊維束を圧縮成形後に幅が100mm、高さが15mmの矩形断面形状を有するように型溝が形成された型枠に入れて、油圧式圧縮機によって熱収縮チューブで被覆された繊維束を圧縮成形し、その後、賦型した被切断材の端部を電動丸鋸によって切断して全長が1000mmの被切断材とし、このようにして得た被切断材を小野打製作所のギロチン式カッター(LD100型)へ供給して、切断長がそれぞれ0.02mm、0.05mm、0.08mm、0.1mm、0.2mm、0.5mm、そして、1.0mmの短繊維からなるサンプルをそれぞれ製造したことが記載されている。
そうすると、甲1には、実施例に基づいて以下の発明が記載されている。
「単繊維繊度が4dtexである単繊維群をハンク・ワインダーを使用して定法に従って繊維軸方向へ平行に引き揃えて総繊度が300万dtexのポリエステルからなる繊維束を準備し、次いで、熱収縮チューブとして、その材質がポリオレフィン(住友電工株式会社製、商品名:スミチューブ LA黒 50)からなる内径50mm、肉厚0.5mm、収縮率が加熱温度100℃で30%以上のものを用いて、張力として5kgfを予め付与した状態の前記繊維束に被せた状態で熱風供給ノズルから約100℃の熱風を吹出して熱収縮チューブの一端から多端へと熱収縮チューブを順次熱収縮させ、得られた熱収縮チューブを被覆した繊維束を圧縮成形後に幅が100mm、高さが15mmの矩形断面形状を有するように型溝が形成された型枠に入れて、油圧式圧縮機によって熱収縮チューブで被覆された繊維束を圧縮成形し、その後、賦型した被切断材の端部を電動丸鋸によって切断して全長が1000mmの被切断材とし、得た被切断材を小野打製作所のギロチン式カッター(LD100型)へ供給して、切断長をそれぞれ0.02mm、0.05mm、0.08mm、0.1mm、0.2mm、0.5mm、そして、1.0mmとする、短繊維からなるサンプルの製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)
(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「単繊維繊度が4dtexである単繊維」である「ポリエステルからなる繊維」は、本件発明1における「1種の熱可塑性樹脂を含む繊維」に相当し、甲1発明における「単繊維群をハンク・ワインダーを使用して定法に従って繊維軸方向へ平行に引き揃えて総繊度が300万dtexのポリエステルからなる繊維束を準備し、次いで、熱収縮チューブとして、その材質がポリオレフィン(住友電工株式会社製、商品名:スミチューブ LA黒 50)からなる内径50mm、肉厚0.5mm、収縮率が加熱温度100℃で30%以上のものを用いて、張力として5kgfを予め付与した状態の前記繊維束に被せた状態で熱風供給ノズルから約100℃の熱風を吹出して熱収縮チューブの一端から多端へと熱収縮チューブを順次熱収縮させ、得られた熱収縮チューブを被覆した繊維束」は、本件発明1における「長軸方向が互いに平行になるように配置した複数の前記繊維」に相当し、甲1発明における「繊維束を圧縮成形後に幅が100mm、高さが15mmの矩形断面形状を有するように型溝が形成された型枠に入れて、油圧式圧縮機によって熱収縮チューブで被覆された繊維束を圧縮成形し、」は、本件発明1における「繊維集合体を得る繊維集合体の製造工程」に相当し、甲1発明における「油圧式圧縮機によって・・・圧縮成形」する工程は、本件発明1における「前記繊維を2つの部材で挟み、加熱しながらプレスするヒートプレスを行うヒートプレス工程」と、プレスを行う工程である限りにおいて一致する。
また、甲1発明における「賦型した被切断材の端部を電動丸鋸によって切断して全長が1000mmの被切断材とし、得た被切断材を小野打製作所のギロチン式カッター(LD100型)へ供給して、切断長をそれぞれ0.02mm、0.05mm、0.08mm、0.1mm、0.2mm、0.5mm、そして、1.0mmとする」工程は、本件発明1における「前記繊維集合体を粒子化して樹脂粒子を得る繊維集合体の粒子化工程」に相当し、甲1発明における「短繊維からなるサンプルの製造方法。」は、本件発明1における「樹脂粒子の製造方法。」に相当する。
そうすると、両者は、
「1種の熱可塑性樹脂を含む繊維から繊維集合体を得る繊維集合体の製造工程と、
前記繊維集合体を粒子化して樹脂粒子を得る繊維集合体の粒子化工程と、を含み、
前記繊維集合体の製造工程が、長軸方向が互いに平行になるように配置した複数の前記繊維にプレスを行うプレス工程を含むことを特徴とする樹脂粒子の製造方法。」の点で一致し、
相違点1A:本件発明1は「繊維を互いに直接接合させて」と特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点
相違点2A:本件発明1は、繊維集合体の製造工程が「前記繊維を2つの部材で挟み、加熱しながらプレスするヒートプレスを行うヒートプレス工程を含む」と特定するのに対し、甲1発明は、油圧式圧縮機によって圧縮成形する工程を含む点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、上記相違点1Aについて検討する。
イ 相違点1Aについて
甲1の[0022](摘記甲1-3)には、「圧縮成形工程においては、繊維束1を圧縮するのに合わせて熱収縮チューブ2を更に収縮させるために、加熱しながら行うことが好ましい」と記載されているが、[0018](摘記甲1-3)には、「熱収縮チューブ2を収縮させるために加熱する温度は、繊維束1を構成する単繊維群が変形したり、熱融着したりしない温度に設定する必要があることは言うまでもない」と記載されている。また、[0022]の記載から、「繊維束1の断面形状が丸断面から矩形断面へと変形させる過程」では「長単繊維群の移動変形に伴う再配置」が行われることも読み取れる。よって、甲1発明の圧縮成形工程では、繊維は互いに直接接合しておらず、相違点1Aは実質的な相違点である。
また、上記のとおり、甲1の[0018]及び[0022]には、繊維を互いに直接接合させることを阻害する記載があるから、甲1発明において相違点1Aに係る構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点2Aについて検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明2~5及び7~10について
本件発明2~5及び7~10は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~5、9及び10は、いずれも甲1発明ではなく、また、本件発明2~5及び7~10は、いずれも甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)申立理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)及び申立理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~5、9及び10は、いずれも甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1~5及び7~10は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、申立理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)及び申立理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)により本件発明1~5及び7~10についての特許を取り消すことはできない。
3.申立理由2-2(甲2に基づく進歩性欠如)について
・本件発明8について
本件発明8は、請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
そうすると、上記第6の2.に記載した本件発明1と同様の理由により、本件発明8は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、申立理由2-2(甲2に基づく進歩性欠如)により本件発明8についての特許を取り消すことはできない。
4.申立理由1-3(甲3に基づく新規性欠如)について
・本件発明10について
本件発明10は、請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
そうすると、上記第6の3.に記載した本件発明1と同様の理由により、本件発明10は甲3発明ではない。
よって、申立理由1-3(甲3に基づく新規性欠如)により本件発明10についての特許を取り消すことはできない。
5.申立理由3(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題について
本件明細書の発明の詳細な説明の[0005]等の記載から見て、本件発明1~11の課題は「長繊維をミクロンオーダーの長さに切断可能であり、繊維長のばらつきやミスカットが少なく、非常にシャープな粒度分布を有し、かつ粒子形状が略均一な樹脂粒子を、高い生産効率かつ低コストで生産することができる樹脂粒子の製造方法を提供すること」にあるものと認められる。
(3)本件明細書の記載について
本件明細書の発明の詳細な説明の[0006]には、「前記課題を解決するための手段としての本発明の樹脂粒子の製造方法は、熱可塑性樹脂を含む繊維を互いに直接接合させて繊維集合体を得る繊維集合体の製造工程と、前記繊維集合体を粒子化して樹脂粒子を得る繊維集合体の粒子化工程と、を含む」と記載されており、[0011]には、「繊維長のばらつきや二度切りなどのミスカットは、繊維を切断する際に、繊維束が動いてしまうことに起因する。これらを防止し、樹脂粒子として安定に得るためには、繊維を切断する際に繊維束をしっかりと固定することが肝要であることを本発明者らは見出した」こと、従来技術との比較において、「異物を用いた固定法は、固定力に優れるためミスカットを生じにくい反面、カットした粉末と固定成分の分離に大きな課題があり、生産効率が低く、また粉末のコンタミが解消することは困難である」こと、「クランプで掴み、繊維を固定する工法では、固定力が安定しない結果、当該文献の図2a及び図2bに図示されたように、斜め切りが多く、切断幅が不均一で、かつ切断面が延ばされている様な形状を持つ粒子となるため、粒度分布の広い、流動性の悪い粉末となること」が記載されている。また、[0013]には、本件発明1~11のいずれにも採用されている「ヒートプレス工程」について、「前記繊維の向きが同じ方向に揃い、前記繊維が互いに直接接合した繊維集合体を得ることができる。・・・繊維同士を直接接合できることにより、繊維の固定力が高まり、その後の繊維集合体の粒子化工程において、高精度に粒子化することができ、粒度分布が非常にシャープな樹脂粒子を得ることができる。また、・・・繊維同士を直接接合させることができ、接着剤や樹脂など、他の材料を用いる必要がない。繊維を固定するために、他の材料を用いると、樹脂粒子に不純物が含まれたり、繊維集合体の粒子化工程の精度が低下し、粒度分布がブロードになったり、粗大粒子が含まれたりする場合がある。前記繊維集合体の製造工程は、他の材料を介在せずに、繊維同士を直接接合することが可能であるため、不純物の含有もなく、粒度分布が非常にシャープな樹脂粒子を得ることができる。」と記載されている。さらに、[0039]~[0040]には、「前記繊維集合体とは、熱可塑性樹脂を含む繊維を互いに直接接合させて得られた前記繊維の集合体である。・・・前記繊維集合体の製造工程によって得られた前記繊維集合体は、手で持った時に撓んだり、手で押すと凹むような柔らかさになると、切断時に切断刃によって繊維が動き、その結果、繊維長のばらつきが増加したり、長い繊維が混在したり、斜めカットや二度切りといったミスカットが多くなる場合がある。これは繊維同士の付着が弱かったり、付着していない領域が大きいことが影響しており、繊維同士がしっかりと付着することが樹脂粒子の品質を高める上で有効である。」ことが記載されている。そして、[0069]~[0095]に記載された実施例及び比較例を参照すると、実施例1~8は、いずれもヒートプレス工程において「繊維同士がしっかりと付着し、手で持っても撓んだり、凹んだりすることがない十分な硬さを有することが確認された」([0072])とされ、「カット長のばらつきが少なく、二度切りや斜め切りなどのミスカットも極めて少なく、粒度分布がシャープで、粒子形状がほぼ同一の樹脂粒子からなる粉末を得ることができた」([0074])等と評価されているのに対し、比較例1~6は繊維集合体を形成しなかったか、繊維が互いに溶融して一体化してしまったため、品質が非常に悪い、ないし樹脂粒子からなる粉末を得ることができなかったと評価されている。
(4)サポート要件違反の判断
ア 課題を解決できる範囲
上記本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、「1種の熱可塑性樹脂を含む繊維を互いに直接接合させて繊維集合体を得る繊維集合体の製造工程と、前記繊維集合体を粒子化して樹脂粒子を得る繊維集合体の粒子化工程と、を含み、前記繊維集合体の製造工程が、長軸方向が互いに平行になるように配置した複数の前記繊維を2つの部材で挟み、加熱しながらプレスするヒートプレスを行うヒートプレス工程を含むことを特徴とする樹脂粒子の製造方法。」は、本件発明1~11の課題を解決することができると認識することができる。
イ 本件発明1~10について
本件発明1は、当業者が発明の課題を解決できると認識することができる上記樹脂粒子の製造方法に相当する発明であるから、本件発明1について、当業者は上記発明の課題を解決することができると認識することができるといえる。
請求項1を直接又は間接的に引用して特定され、本件発明1の発明特定事項を全て備える本件発明2~10についても同様である。
(5)申立人の主張について
申立人は、上記第4 1.(3)ア~ウのように主張している。
しかし、本件明細書の[0021]~[0038]には、熱可塑性樹脂を含む繊維の材料が具体的に記載され、[0039]~[0048]には、繊維を互いに直接接合させるヒートプレス工程のプレス条件や用いる装置が具体的に記載され、[0069]~[0095]には実施例も記載されているから、当業者は、本件明細書の記載及び本件特許に係る出願の出願当時における技術常識を参酌することにより、繊維の性質とヒートプレス条件とを適宜に組み合わせ、本件明細書に記載されたような1種の熱可塑性樹脂を含む繊維を互いに直接接合させて繊維集合体を得ることができ、ひいては本件発明の課題を解決し得ると認識することができる。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
(6)申立理由3(サポート要件違反)についてのまとめ
以上のことから、本件発明1~10は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、申立理由3(サポート要件違反)により本件発明1~10についての特許を取り消すことはできない。
6.申立理由4(明確性要件違反)について
(1)明確性要件の判断手法
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)明確性要件についての判断
本件特許の請求項1~10の記載は上記第3のとおりであり、請求項1~10の記載それ自体は明確であり、また、本件明細書の記載及び図面を考慮しても不整合はない。
よって、本件発明1~10については、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、本件特許に係る出願の出願当時における当業者の技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)申立人の主張について
申立人は、上記第4 1.(4)のように主張しているが、本件発明1における「1種の熱可塑性樹脂を含む」は、少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含んでいればよく、複数種類を併用することも妨げられていないと理解することができ、解釈が多義的になることはない。また、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮しても、そのように解することとの不整合はなく、第三者に対し不測の不利益を与えることはない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
(4)申立理由4(明確性要件違反)についてのまとめ
以上のことから、本件発明1~10は、いずれも特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益をもたらすほど不明確であるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、申立理由4(明確性要件違反)により本件発明1~10についての特許を取り消すことはできない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件発明1~10についての特許を取り消すことはできない。また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項11は本件訂正により削除され、本件発明11についての特許に係る特許異議の申立ては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700154