特許異議申立
2023-700477
メタクリル系樹脂
- 審判番号
- 2023-700477
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-194685
- 登録番号
- 7197968
- 請求日
- 2023年05月08日
- 審決日
- 2024年02月19日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】旭化成株式会社
- 【権利者代理人】杉村 憲司
- 【権利者代理人】杉村 光嗣
- 【権利者代理人】塚中 哲雄
- 【権利者代理人】神 紘一郎
- 【異議申立人】竹口 美穂
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 小出 直也
- 審判官 海老原 えい子
- 分類
- P1651.113-YAA(C08F) / P1651.121-YAA(C08F) / P1651.537-YAA(C08F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7197968号発明「メタクリル系樹脂」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7197968号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
特許第7197968号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第7197968号に係る出願(請求項の数6。以下「本件特許」という。)は、平成28年9月30日に出願され、令和4年12月20日に特許権の設定登録がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和5年5月8日に、請求項1~6に係る特許に対して、特許異議申立人竹口 美穂(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
その後の経緯は以下のとおりである。
令和5年 9月15日付け 取消理由通知
同年11月15日 訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)
同年11月30日付け 訂正請求があった旨の通知(申立人宛て)
なお、令和5年11月30日付け通知書に対して、申立人からの応答はなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
以下、令和5年11月15日に提出された訂正請求書により請求された訂正を「本件訂正」という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。
本件訂正の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「ラクトン環構造単位(B-1)、又はラクトン環構造単位(B-1)及びN-置換マレイミド系構造単位(B-2)を含む主鎖に環構造を有する構造単位(B)」と記載されているのを、
「下記一般式(1)~(4)に示される6員環ラクトン環構造単位(B-1)、又は前記6員環ラクトン環構造単位(B-1)及びN-置換マレイミド系構造単位(B-2)を含む主鎖に環構造を有する構造単位(B)」
「【化1】
[図:0001410206000001.jpg]
【化2】
[図:0001410206000002.jpg]
【化3】
[図:0001410206000003.jpg]
【化4】
[図:0001410206000004.jpg]
(上記一般式(1)~(4)において、R1、R2及びR3は、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1~20の有機残基である。前記有機残基は、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基等);エテニル基、プロペニル基等の炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基(アルケニル基等);フェニル基、ナフチル基等の炭素数6~20の芳香族炭化水素基(アリール基等);又はこれら飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基における水素原子の一つ以上が、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エーテル基、エステル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基である。)」に訂正する。請求項1の記載を引用する請求項2~6も同様に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更 訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「主鎖に環構造を有する構造単位(B)」につき「ラクトン環構造単位(B-1)、又はラクトン環構造単位(B-1)及びN-置換マレイミド系構造単位(B-2)を含む」とあったものを、「一般式(1)~(4)に示される6員環ラクトン環構造単位(B-1)、又は前記6員環ラクトン環構造単位(B-1)及びN-置換マレイミド系構造単位(B-2)を含む」と、「ラクトン環構造単位(B-1)」を「一般式(1)~(4)に示される」ものに限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更にあたらない。
また、本件明細書には、ラクトン環構造単位(B-1)について、一般式(1)~(4)で示される構造が特に好ましいことが記載されていたから(【0022】、【0023】)、訂正事項1は新規事項の追加にあたらない。
(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~6について、請求項2~6は請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 独立特許要件の規定について
本件においては、本件訂正前の請求項1~6について特許異議の申立てがされているので、本件訂正に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 まとめ
よって、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的に適合し、また、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。
第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~6に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいい、これらをまとめて、「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載される以下のとおりのものと認められる。
【請求項1】
メタクリル酸エステル単量体単位(A)を50~90質量%、下記式一般式(1)~(4)に示される6員環ラクトン環構造単位(B-1)、又は前記6員環ラクトン環構造単位(B-1)及びN-置換マレイミド系構造単位(B-2)を含む主鎖に環構造を有する構造単位(B)を8~42.7質量%含むメタクリル系樹脂であり、
重量平均分子量(Mw)が60,000~250,000であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.5~4.0であり、
下記測定方法(A)により測定されるガラス転移温度(Tg)が105~140℃であり、
下記測定方法(B)により測定されるTHF不溶分の量が0.5質量%未満である、
ことを特徴とする、メタクリル系樹脂。
【化1】
[図:0001410206000005.jpg]
【化2】
[図:0001410206000006.jpg]
【化3】
[図:0001410206000007.jpg]
【化4】
[図:0001410206000008.jpg]
(上記一般式(1)~(4)において、R1、R2及びR3は、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1~20の有機残基である。前記有機残基は、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基等);エテニル基、プロペニル基等の炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基(アルケニル基等);フェニル基、ナフチル基等の炭素数6~20の芳香族炭化水素基(アリール基等);又はこれら飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基における水素原子の一つ以上が、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エーテル基、エステル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基である。)
・測定方法(A)
標準状態(23℃、65%RH)で状態調節(23℃で1週間放置)した前記メタクリル系樹脂の試料から、試験片として4点(4箇所)、それぞれ約10mgを切り出す。次に、示差走査熱量計(パーキンエルマージャパン(株)製 Diamond DSC)を窒素ガス流量25mL/分の条件下で用いて、ここで、10℃/分で室温(23℃)から200℃まで昇温(1次昇温)し、200℃で5分間保持して、前記試験片を完全に融解させた後、10℃/分で200℃から40℃まで降温し、40℃で5分間保持し、さらに、上記昇温条件で再び昇温(2次昇温)する間に描かれるDSC曲線のうち、2次昇温時の階段状変化部分曲線と各ベースライン延長線から縦軸方向に等距離にある直線との交点(中間点ガラス転移温度)をガラス転移温度(Tg)(℃)として測定する。前記メタクリル系樹脂の試料1つ当たり4点の測定を行い、4点の算術平均(小数点以下四捨五入)を測定値とする。
・測定方法(B)
前記メタクリル系樹脂10gを1LのTHFに溶解させる。このTHF溶液を、予め真空下100℃で2時間乾燥させて重量を測定した2μmテフロン(登録商標)製メンブランフィルターで、吸引濾過する。濾過後のメンブランフィルターを、真空下100℃で2時間乾燥させた後に、重量を測定する。そして、下記式で求められる濾過前後のフィルター重量差をTHF不溶分とする。
メタクリル系樹脂中のTHF不溶分=[(濾過後のフィルター重量-濾過前のフィルター重量)/溶解させたメタクリル系樹脂重量]×100
【請求項2】
240℃以上の温度での成形加工前後のTHF不溶分の変化量が1質量%未満である、請求項1に記載のメタクリル系樹脂。
【請求項3】
前記メタクリル系樹脂が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、主鎖に環構造を有する構造単位(B):8~42.7質量%と、メタクリル酸エステル単量体に共重合可能なその他のビニル系単量体単位(C):0~20質量%と、を含有する、請求項1又は2に記載のメタクリル系樹脂。
【請求項4】
前記(B)構造単位の含有量が、前記(B)構造単位と前記(C)単量体単位との合計量を100質量%として、45~100質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂。
【請求項5】
前記(C)単量体単位が、アクリル酸エステル単量体、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂。
【請求項6】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したZ平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比(Mz/Mw)が、1.3~2.0である、請求項1~5のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂。
第4 特許異議申立書の申立理由と当審が通知した取消理由
1 特許異議申立書の申立理由及び証拠方法
(1)申立理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1~6に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1~6に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1号証、甲第2号証、又は甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~6に係る特許は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、以下の点で記載不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものではなく同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
すなわち、本件発明の課題は、耐熱性が高く、色調及び透明性に優れ、成形性にも優れるメタクリル系樹脂を提供することであるが、当業者は、甲第1号証乃至甲第3号証に記載されたα-メチレンラクトン型構造のように、環化縮合反応が起こらないモノマーの重合により得られるラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂についても、上記課題を解決することを認識しない。
(4)証拠方法
申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証 特開2008-179813号公報
甲第2号証 特開2009-41007号公報
甲第3号証 特開2010-179640号公報
甲第4号証 特開2011-12236号公報
甲第5号証 特開2014-98117号公報
甲第6号証 特開2016-8225号公報
甲第7号証 特開2016-79386号公報
甲第8号証 特許第5860985号公報
(以下、甲第1号証~甲第8号証を、順に「甲1」~「甲8」という。)
2 当審が通知した令和5年9月15日付け取消理由通知で通知した取消理由
(1)取消理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)取消理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1~6に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第5 当審の判断
当審は、以下に述べるように、本件特許の請求項1~6に係る特許は、当審が通知した取消理由1及び2並びに申立書に記載された申立理由1~3のいずれによっても取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。
なお、以下では、まず、甲1を主引例とする新規性及び進歩性(申立理由1、申立理由2のうち甲1を主引例とするもの、取消理由1及び取消理由2)をまとめて検討し(後記1)、次に、甲2を主引例とする進歩性(申立理由2のうち甲2を主引例とするもの)について検討し(同2)、続いて甲3を主引例とする進歩性(申立理由2のうち甲3を主引例とするもの)について検討し(同3)、最後に申立理由3について検討する(同4)。
1 申立理由1、申立理由2(甲1を主引例とするもの)、取消理由1及び取消理由2について
(1)本件発明1について
ア 甲1に記載された発明
甲1の製造例4(【0117】、【0122】、【0125】)に着目すると甲1には以下の発明が記載されていると認められる。
「攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した反応釜に、α-メチレン-γ-ブチロラクトン(MBL)8部、メタクリル酸メチル(MMA)32部、n-ドデシルメルカプタン0.04部、ジメチルスルホキシド(DMSO)60部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温し、次いで、開始剤としてt-アミルパーオキシイソノナノエート0.08部を添加して重合を開始し、その後、約115~125℃で5時間かけて熟成を行い、冷却後、得られた重合体溶液にクロロホルムを添加して希釈した液を、過剰のメタノールへ投入して再沈殿を行い、沈殿物を真空乾燥することにより揮発成分を除去して得た、重量平均分子量が156,000、数平均分子量が83,000、ASTM-D-3418に従い、始点法で求めたガラス転移温度が128℃、MFRが3.3の白色固形状の重合体。」(以下「甲1発明」という。)
イ 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「重合体」はメタクリル酸メチルに由来する単位を有するから、メタクリル酸エステル単量体単位を有するメタクリル系樹脂である限りにおいて、本件発明1の「メタクリル酸エステル単位(A)」を有する「メタクリル系樹脂」に相当する。
そして、甲1発明の「重合体」は「重量平均分子量が156,000、数平均分子量が83,000」であるから、重量平均分子量の値は本件発明1で規定される「60,000~250,000」の範囲内に含まれるし、「重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)」は略1.9と算出されて本件発明1で規定される「1.5~4.0」の範囲内に含まれる。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「メタクリル酸エステル単量体単位(A)を含むメタクリル系樹脂であり、重量平均分子量(Mw)が60,000~250,000であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.5~4.0である、メタクリル系樹脂。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点1】
「メタクリル系樹脂」について、本件発明1は「メタクリル酸エステル単量体単位(A)を50~90質量%、下記一般式(1)~(4)に示される6員環ラクトン環構造単位(B-1)、又はラクトン環構造単位(B-1)及びN-置換マレイミド系構造単位(B-2)を含む主鎖に環構造を有する構造単位(B)を8~42.7質量%含」(当審注:一般式(1)~(4)は省略)み、「測定方法(B)により測定されるTHF不溶分の量が0.5質量%未満」であるのに対して、甲1発明は「α-メチレン-γ-ブチロラクトン(MBL)8部、メタクリル酸メチル(MMA)32部」を重合したものであり、THF不溶分の量については不明である点
【相違点2】
「ガラス転移温度(Tg)」について、本件発明1では「測定方法(A)により測定されるガラス転移温度(Tg)が105~140℃」であるのに対して、甲1発明では「ASTM-D-3418に従い、始点法で求めたガラス転移温度が128℃」である点
ウ 判断
(ア)相違点1について
a 甲1発明の「重合体」は本件発明1の「一般式(1)~(4)に示される6員環ラクトン環構造単位(B-1)」を含まないから、THF不溶分の量について検討するまでもなく、相違点1は実質的な相違点である。
b 次に、相違点1に係る事項が当業者にとって容易想到であったかについて検討する。
(a)甲1は、「一般式(1)で表される重合体(A)」を必須として含む、面状熱可塑性樹脂成形体」を開示し、これによって透明性、耐熱性、光学等方性がいずれも高く、各種光学用途に応じた特性を十分に発揮できる、面状熱可塑性樹脂成形体を提供しようとするものである(請求項1、【0006】)。
(一般式(1)は以下のとおり
[図:0001410206000009.jpg]
(式中、Xは酸素原子またはN-R7であり、n=0または1であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6は、それぞれが独立に、水素原子、炭素数が1~20のアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、-OAc基、-CN基、-CO-R8基、または-C-O-R9基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R7、R8、R9は、それぞれが独立に、水素原子または炭素数1~20の有機残基を表す。なお、R1とR2、R3とR4、R5とR6が結合し、環構造を形成してもよい。))
そして、甲1発明の「重合体」は、α-メチレン-γ-ブチロラクトン(MBL)に由来する構成単位を含む、「一般式(1)で表される重合体(A)」の具体例であるといえる(【0030】)。
そうすると、甲1発明の「重合体」において「α-メチレン-γ-ブチロラクトン(MBL)」に由来する構成単位に代えて、本件発明1の「一般式(1)~(4)に示される6員環ラクトン環構造単位(B-1)に示される6員環ラクトン環構造単位」を採用することについての動機付けは見出せない。
(b)甲1には、「重合体(A)」が下記一般式(2)の構造単位を有することが好ましいこと、これを有する場合その含有量は好ましくは0.5~60重量%が好ましいことが記載されている(【0033】~【0035】)。
[図:0001410206000010.jpg]
(式中、R22、R23、R24は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~20の有機基を表わし、有機基は酸素原子を含んでいても良い。)
そうすると、甲1発明において「重合体」を、「メタクリル酸メチル(MMA)」に由来する単位及び「α-メチレン-γ-ブチロラクトン(MBL)」に由来する構成単位に加えて、さらに「一般式(2)の構造単位」を所定量有するものとすることは一応動機づけられるということができ、この場合、甲1発明の樹脂は本件発明1の一般式(1)で表される単位を含むことになる。
この点について、仮に上記のとおり、甲1発明において「重合体」を「メタクリル酸メチル(MMA)」に由来する単位及び「α-メチレン-γ-ブチロラクトン(MBL)」に由来する単位に加えて、さらに「一般式(2)の構造単位」を含むものとする場合、当業者であれば、「一般式(2)」の構造及び甲1が引用する「特許公開公報2006-96960」(【0046】)がもっぱら重合後のラクトン環化縮合により上記「一般式(2)」と同様の構造を有する樹脂を製造していること(当該文献の【0032】~【0051】)からみて、ラクトン環化縮合を採用するものといえる。そしてそれにより得られた重合体は、本件明細書の、環化縮合反応中に分子間環化重合が起こって高分子ゲル分が生じ、これがTHFに対して不溶である旨の記載(【0057】)に照らすと、「THF不溶分の量が0.5質量%未満」であるとの規定を満たさないとみるのが自然である。
そして、甲1には「重合体(A)」が下記一般式(2)の構造単位を有する場合に、ゲル化が生じる課題や、ゲル分であるTHF不溶分を一定の量以下に抑制する技術的事項については記載も示唆もされていない。そうすると、仮に、甲1発明において重合体を「メタクリル酸メチル(MMA)」に由来する単位及び「α-メチレン-γ-ブチロラクトン(MBL)」に由来する単位に加えて、さらに「一般式(2)の構造単位」を含むものとすることが動機づけられたとしても、上記相違点1に係る「THF不溶分の量が0.5質量%未満」とする事項は当業者が容易に想到し得たものではない。
(c)よって、相違点1に係る事項は当業者が容易に想到し得たものではない。
さらに、他の証拠をみても、相違点1に係る事項が、当業者が容易に想到し得たものとすべき根拠はない。
(イ)よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明、すなわち甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~6について
本件発明2~6は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明1が甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2~6も甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)小括
よって、申立理由1、申立理由2のうち甲1を主引例とするもの、取消理由1及び取消理由2はいずれも理由がない。
2 申立理由2(甲2を主引例とするもの)について
(1)本件発明1について
ア 甲2に記載された発明
甲2の参考例1(【0091】、【0092】)に着目すると、甲2には以下の発明が記載されていると認められる。
「メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体懸濁剤0.05重量部をイオン交換水165重量部に溶解した溶液に、α-メチレン-γ-ブチロラクトン25重量部、メタクリル酸メチル75重量部、n-ドデシルメルカプタン0.6重量部、ラウロリルパーオキサイド0.4重量部を添加して重合して得た、α-メチレン-γ-ブチロラクトン(MBL)単位22重量%、メタクリル酸メチル単位78重量%で、GPC測定によるMwが11.1万、DSC測定によるガラス転移温度が123℃である共重合体(A-1)。」(以下「甲2発明」という。)
イ 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「共重合体(A-1)」はメタクリル酸メチル単位を「78重量%」有するから、「メタクリル酸エステル単位」を「50~90質量%」有する「メタクリル系樹脂」である限りで、本件発明1の「メタクリル系樹脂」に相当する。
また、甲2発明の「共重合体(A-1)」の「Mwが11.1万」は、本件発明1で規定される「重量平均分子量(Mw)が60,000~250,000」の範囲内に含まれる。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「メタクリル酸エステル単量体単位(A)を50~90質量%含むメタクリル系樹脂であり、重量平均分子量(Mw)が60,000~250,000である、メタクリル系樹脂。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点3】
メタクリル系樹脂について、本件発明1は「メタクリル酸エステル単量体単位(A)を50~90質量%、下記一般式(1)~(4)に示される6員環ラクトン環構造単位(B-1)、又はラクトン環構造単位(B-1)及びN-置換マレイミド系構造単位(B-2)を含む主鎖に環構造を有する構造単位(B)を8~42.7質量%含」(当審注:式(1)~(4)は省略)み、「測定方法(B)により測定されるTHF不溶分の量が0.5質量%未満であるのに対して、甲2発明は「α-メチレン-γ-ブチロラクトン(MBL)単位22重量%、メタクリル酸メチル単位78重量%含」み、THF不溶分の量については不明である点
【相違点4】
ガラス転移温度(Tg)について、本件発明1では「測定方法(A)により測定されるガラス転移温度(Tg)が105~140℃」であるのに対して、甲2発明ではDSC測定によるガラス転移温度が123℃である点
【相違点5】
本件発明1では「重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.5~4.0」であるのに対して、甲2発明ではこの点についての記載がない点
ウ 判断
(ア)相違点3について
a 甲2は、「(1)で表される(i)ラクトン環含有単量体単位を含有する熱可塑性重合体を必須のものとして含有し、特定の特性(a)~(c)を満たす光学等方性アクリル樹脂フィルムを開示し、これによって透明性、耐熱性、靱性に優れると共に、光学等方性に優れ、かつ高温多湿等の外部環境の変化に対する耐久性に優れた光学等方性アクリル樹脂フィルムを提供するという課題を解決しようとするものである(請求項1、【0011】)。
なお、「(1)」は以下のとおりである。
[図:0001410206000011.jpg]
(上式中、mは0、1のいずれかであり、R1~R6は同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1~20の有機残基から選ばれるいずれかを表す))
そして、甲2発明の「共重合体(A-1)」は、「(1)で表される(i)ラクトン環含有単量体単位」としての「α-メチレン-γ-ブチロラクトン(MBL)単位」を含む「熱可塑性共重合体」の具体例であるといえる(【0044】)。
また、甲2には「熱可塑性共重合体」が本件発明1の「一般式(1)~(4)に示される6員環ラクトン環構造単位(B-1)」を含むことについても、「熱可塑性共重合体」のTHF不溶分の量についても、記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2発明の「共重合体(A-1)」において「α-メチレン-γ-ブチロラクトン(MBL)」単位に代えて、あるいはこれに加えて、本件発明1の「一般式(1)~(4)に示される6員環ラクトン環構造単位(B-1)」を有する重合体とすることや、「共重合体(A-1)」の「THF不溶分の量を0.5質量%未満」とすることについては、何らの動機づけも見いだせない。
さらに、他のいずれの証拠をみても、上記事項が動機づけられるとするに足りる根拠はない。
よって、相違点3に係る事項は当業者が容易に想到しうるものではない。
(イ)したがって、相違点4、5について検討するまでもなく、本件発明1は甲2発明、すなわち甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~6について
本件発明2~6は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明1が甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明2~6も甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)小括
よって、申立理由2のうち甲2を主引例とするものは理由がない。
3 申立理由2(甲3を主引例とするもの)について
(1)本件発明1について
ア 甲3に記載された発明
甲3の製造例1(【0062】、【0064】~【0068】)に着目すると、甲3には以下の発明が記載されていると認められる。
「反応容器に、20重量部のα-メチレン-γ-メチル-γ-ブチロラクトン、80重量部のメタクリル酸メチル(MMA)、酸化防止剤として0.02重量部のn-ドデシルメルカプタン、重合溶媒として100重量部のメチルエチルケトンを仕込み、重合開始剤として0.2重量部の2,2’-アゾビス(2-メチルイソブチロニトリル)を添加して重合を進行させて得た、量平均分子量が8.7万、JIS K7121に準拠して求めたTgが128℃、重合体(A-1)におけるα-メチレン-γ-メチル-γ-ブチロラクトンの含有量が、重合に用いたMMAおよびα-メチレン-γ-メチル-γ-ブチロラクトンの量から計算しておよそ20重量%である重合体(A-1)。」(以下「甲3発明」という。)
イ 対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「共重合体(A-1)」はメタクリル酸メチルに由来する単位を有するから、メタクリル酸エステル単量体単位を有するメタクリル系樹脂である限りにおいて、本件発明1の「メタクリル酸エステル単位(A)」を有する「メタクリル系樹脂」に相当する。
また、甲3発明の「共重合体(A-1)」の「Mwが8.7万」は、本件発明1で規定される「重量平均分子量(Mw)が60,000~250,000」の範囲内に含まれる。
そうすると、本件発明1と甲3発明とは、
「メタクリル酸エステル単量体単位(A)を含むメタクリル系樹脂であり、重量平均分子量(Mw)が60,000~250,000である、メタクリル系樹脂。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点6】
メタクリル系樹脂について、本件発明1は「メタクリル酸エステル単量体単位(A)を50~90質量%、下記一般式(1)~(4)に示される6員環ラクトン環構造単位(B-1)、又はラクトン環構造単位(B-1)及びN-置換マレイミド系構造単位(B-2)を含む主鎖に環構造を有する構造単位(B)を8~42.7質量%含」(当審注:式(1)~(4)は省略)み、「測定方法(B)により測定されるTHF不溶分の量が0.5質量%未満であるのに対して、甲3発明は「α-メチレン-γ-メチル-γ-ブチロラクトンの含有量が、重合に用いたMMAおよびα-メチレン-γ-メチル-γ-ブチロラクトンの量から計算しておよそ20重量%であ」り、THF不溶分の量は不明である点
【相違点7】
ガラス転移温度(Tg)について、本件発明1では「測定方法(A)により測定されるガラス転移温度(Tg)が105~140℃」であるのに対して、甲3発明ではJIS K7121に準拠して求めたTgが128℃である点
【相違点8】
本件発明1では「重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.5~4.0」であるのに対して、甲3発明ではこの点についての記載がない点
ウ 判断
(ア)相違点6について
a 甲3は、「JIS K5400に準拠して測定した表面の鉛筆硬度がH未満である基体の表面に、α-メチレンラクトン単位を構成単位として有する重合体(A)を含む高表面強度層が配置されており、前記高表面強度層が露出している、熱可塑性樹脂成形体」を開示し、これによって、少ない含有率で高い表面強度向上効果を示す分子構造を含む高表面強度層を備えた熱可塑性樹脂成形体を提供することを課題とするものである(【請求項1】、【0008】)。
そして、甲3発明の「共重合体(A-1)」は、甲3において必須である「α-メチレンラクトン単位」としての「α-メチレン-γ-メチル-γ-ブチロラクトン」由来の単位を含む「重合体(A)」の具体例であると解される。
また、甲3には、「共重合体(A-1)」が本件発明1の「一般式(1)~(4)に示される6員環ラクトン環構造単位(B-1)」を含むことについても、「重合体(A)」のTHF不溶分の量についても、記載も示唆もされていない。
そうすると、甲3発明の「共重合体(A-1)」において「α-メチレン-γ-メチル-γ-ブチロラクトン」単位に代えて、あるいはこれに加えて、本件発明1の「一般式(1)~(4)に示される6員環ラクトン環構造単位(B-1)」を有する重合体とすることや、「共重合体(A-1)」の「THF不溶分の量を0.5質量%未満」とすることについては、何らの動機づけも見いだせない。
さらに、他のいずれの証拠をみても、上記事項が動機づけられるとするに足りる根拠はない。
よって、相違点6に係る事項は当業者が容易に想到しうるものではない。
(イ)したがって、相違点7、8について検討するまでもなく、本件発明1は甲3発明、すなわち甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~6について
本件発明2~6は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。そして、本件発明1が甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明2~6も甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)小括
よって、申立理由2のうち甲3を主引例とするものは理由がない。
4 申立理由3(サポート要件)について
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2)本件発明のサポート要件について
ア 本件発明の課題は、耐熱性が高く、色調及び透明性に優れ、成形性にも優れるメタクリル系樹脂を提供すること(【0011】)である。
イ 本件発明のサポート要件の検討
本件明細書には、メタクリル系樹脂のガラス転移温度が105℃を超えていれば、近年のレンズ成形体、液晶ディスプレイ用フィルム成形体光学フィルムとして必要十分な耐熱性をより容易に得ることができること、THF不溶分の量が、0.5質量%未満であると高分子ゲル分の生成が十分に抑制されており、色調、透明性及び成形性に十分優れることが記載されている(【0056】、【0057】)。
そして、具体的な実験データとして、実施例には、ガラス転移温度が105℃~140℃の範囲にあるメタクリル系樹脂であって、THF不溶分が0.5質量%未満のもの(実施例1~6)は成形加工性に優れ、イエローインデックスも好ましいとされる範囲内(【0063】)であったことが示されている。
本件明細書のこれらの記載に接した当業者は、測定方法(A)により測定されるガラス転移温度(Tg)が105~140℃であること及び、測定方法(B)により測定されるTHF不溶分の量が0.5質量%未満であることの特定を有する本件発明のメタクリル系樹脂は、上記本件発明の課題を解決するものであると理解するものといえる。
ウ 申立人の主張の検討
申立人は、上記第4の1(3)のとおり、本件訂正前の請求項1に係る発明に関し、α-メチレンラクトン型構造のように、環化縮合反応が起こらないモノマーの重合により得られるラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂である場合に、本件発明の課題が解決できることを認識することはできないことを問題とするが、本件訂正により申立人が指摘するラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂は本件発明には包含されないことになったため、当該申立人の主張は理由がない。
(3)小括
以上のとおりであるから、申立理由3には理由がない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び当審による取消理由によっては、本件発明1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700477