特許異議申立
2023-700448
セラミック基板、複合基板及び回路基板並びにセラミック基板の製造方法、複合基板の製造方法、回路基板の製造方法及び複数の回路基板の製造方法
- 審判番号
- 2023-700448
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-556170
- 登録番号
- 7168796
- 請求日
- 2023年04月28日
- 審決日
- 2023年08月24日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】デンカ株式会社
- 【権利者代理人】速水 進治
- 【異議申立人】佐々木 毅
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 渡辺 努
- 審判官 山本 章裕
- 分類
- P1651.113-Y (H05K) / P1651.121-Y (H05K) / P1651.536-Y (H05K) / P1651.537-Y (H05K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7168796号発明「セラミック基板、複合基板及び回路基板並びにセラミック基板の製造方法、複合基板の製造方法、回路基板の製造方法及び複数の回路基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7168796号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7168796号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)11月13日(優先権主張 2019年(令和1年)11月15日)を国際出願日とする出願であって、令和4年10月31日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日 令和4年11月9日)がされた。
その後、令和5年4月28日に特許異議申立人佐々木毅(以下、「特許異議申立人」という。)により本件の請求項1~12に係る特許に対する特許異議の申立てがなされ、甲第1号証ないし甲第7号証が提出された。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~12に係る特許発明(以下「本件特許発明1」~「本件特許発明12」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
なお、本件特許発明1の各構成には、1A~1Eの符号を当審で付した。以下、「構成1A」~「構成1E」という。
「【請求項1】(本件特許発明1)
1A 平面視にて矩形状のセラミック基板であって、
1B その一対の対角線により形成される交差点とずれた位置に、その板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となる、少なくとも1つの凸状部分が形成され、
1C 前記セラミック基板の対角線の長さで前記少なくとも1つの凸状部分の最大凸量を除した値は、2μm/mm以下であり、
1D 前記対角線は150mm以上であって
1E 前記板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となっている前記凸状部分のうち、前記最大凸量を有する凸状部分が前記セラミック基板の外周縁部分にある
1A セラミック基板。
【請求項2】(本件特許発明2)
請求項1に記載のセラミック基板と、
前記セラミック基板の表面側に固定されている第1金属層と、
前記セラミック基板における裏面側に固定されている第2金属層と、
を備える複合基板。
【請求項3】(本件特許発明3)
請求項1又は2に記載のセラミック基板と、
前記セラミック基板の表面側に形成されている回路パターンと、
前記セラミック基板における裏面側に固定されている金属層と、
を備える回路基板。
【請求項4】(本件特許発明4)
請求項1に記載のセラミック基板の製造方法であって、
セラミック粉末を含む帯状グリーンシートを切断して枚葉グリーンシートを得る帯状グリーンシートの切断工程と、
焼成室内に前記枚葉グリーンシートを配置して、前記焼成室内の温度が少なくとも1600℃以上になるまで前記焼成室内を加熱した後に前記焼成室内を冷却し、前記枚葉グリーンシートを焼結させて前記セラミック基板を得る焼結工程と、
を含み、
前記焼結工程では、前記焼成室内の冷却時に前記焼成室内の温度が650℃以下の温度になった場合に前記焼成室内の温度を急冷する、
セラミック基板の製造方法。
【請求項5】(本件特許発明5)
前記焼結工程の後に冷却した前記セラミック基板の全周縁側の部分を切断するセラミック基板の切断工程、
を含む、
請求項4に記載のセラミック基板の製造方法。
【請求項6】(本件特許発明6)
請求項1に記載のセラミック基板の製造方法であって、
セラミック粉末を含む帯状グリーンシートを切断して枚葉グリーンシートを得る帯状グリーンシートの切断工程と、
焼成室内に前記枚葉グリーンシートを配置して、前記焼成室内の温度が少なくとも1600℃以上になるまで前記焼成室内を加熱した後に前記焼成室内を冷却し、前記枚葉グリーンシートを焼結させて前記セラミック基板を得る焼結工程と、
前記焼結工程の後に冷却した前記セラミック基板の全周縁を切断するセラミック基板の切断工程と、
を含む、
セラミック基板の製造方法。
【請求項7】(本件特許発明7)
前記セラミック粉末は、窒化珪素粉末又は窒化アルミニウム粉末を含む、
請求項4~6のいずれか1項に記載のセラミック基板の製造方法。
【請求項8】(本件特許発明8)
請求項4~7のいずれか1項に記載のセラミック基板の製造方法と、
前記セラミック基板の表面側に第1金属層を固定し、裏面側に第2金属層を固定する固定工程と、
を含む、
複合基板の製造方法。
【請求項9】(本件特許発明9)
請求項8に記載の複合基板の製造方法と、
前記第1金属層及び前記第2金属層のいずれか一方に、少なくとも1つの回路パターンを形成するパターン形成工程と、
を含む、
回路基板の製造方法。
【請求項10】(本件特許発明10)
請求項9に記載の複合基板の製造方法と、
前記第1金属層及び前記第2金属層のいずれか一方に、複数の回路パターンを形成するパターン形成工程と、
前記複数の回路パターンが形成された前記複合基板を、それぞれが1つの前記回路パターンを備える複数の回路基板に分割する分割工程と、
を含む、
複数の回路基板の製造方法。
【請求項11】(本件特許発明11)
前記焼成室内を冷却する工程は、
前記焼成室内が少なくとも1600℃以上に加熱された状態から冷却する第1の冷却工程と、
前記焼成室内の温度が900℃以上1100℃以下の温度で前記焼成室内の温度を急冷する第2の冷却工程とを含み、
前記第2の冷却工程の時間は前記第1の冷却工程より短い、請求項4から7までのいずれか1項に記載のセラミック基板の製造方法。
【請求項12】(本件特許発明12)
前記焼成室内を冷却する工程における冷却速度は、500℃/時間以上600℃/時間である、請求項11に記載のセラミック基板の製造方法。」
第3 特許異議の申立ての理由の概要
特許異議申立人が申し立てた理由は、概略以下のとおりである。
1 理由1
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1~12に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、請求項1~12に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
2 理由2
請求項1~3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
3 理由3
請求項1~12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(なお、請求項2~4、7~12に係る発明に関して、異議申立書には、「本件特許発明2は、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(52頁19、20行)、「本件特許発明3は、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(52頁29、30行)、「本件特許発明4は、甲1発明、甲2発明、及び甲3記載事項に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(53頁28、29行)、「本件特許発明7は、甲1発明、甲2発明、及び甲3記載事項に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(55頁8、9行)、「本件特許発明8は、甲1発明、甲2発明、及び甲3記載事項に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(55頁14、15行)、「本件特許発明9は、甲1発明、甲2発明、及び甲3記載事項に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(55頁20、21行)、「本件特許発明10は、甲1発明、甲2発明、甲3記載事項、及び甲5記載事項に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(56頁8、9行)、「本件特許発明11は、甲1発明、甲2発明、及び甲3記載事項に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(57頁8、9行)、「本件特許発明12は、甲1発明、甲2発明、及び甲3記載事項に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(55頁14、15行)と記載されている。
しかし、請求項2~4、7~12に係る発明は、請求項1を直接若しくは間接に引用する発明であるから、請求項2~4、7~12に係る発明に対する特許異議の申立てには、甲第1号証ないし甲第5号証が引例として採用されたものと判断した。)
4 理由4
請求項1~3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
請求項4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
請求項5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
請求項6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第2号証に記載された発明と、甲第4号証、甲第5号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
請求項7~12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項7~12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(なお、請求項7~12に係る発明に関して、異議申立書には、「本件特許発明7は、甲2発明及び甲3記載事項に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(62頁9、10行)、「本件特許発明8は、甲2発明及び甲3記載事項に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(62頁15、16行)、「本件特許発明9は、甲2発明、甲3記載事項及び甲5記載事項に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(62頁24、25行)、「本件特許発明10は、甲2発明、甲3記載事項及び甲5記載事項に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(63頁11、12行)、「本件特許発明11は、甲2発明及び甲3記載事項に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(63頁29、30行)、「甲第2号証の段落0049には、冷却速度が500℃/時間以上600℃/時間であることが記載されている。したがって、本件特許発明12は、甲2発明及び甲1発明に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(64頁2~5行)と記載されている。
しかし、請求項7~11に係る発明は、請求項5を直接若しくは間接に引用する発明を含むものであるから、請求項7~11に係る発明に対する特許異議の申立てには、甲第2号証ないし甲第5号証が引例として採用されたものと判断した。
また、請求項12については、対比説明において、甲第1号証を使用しておらず、請求項5を直接若しくは間接に引用する発明を含むものであるから、甲第2号証ないし甲第5号証が引例として採用されたものと判断した。)
5 理由5
請求項1~12に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
甲第1号証:特開2009-215142号公報
甲第2号証:再公表特許WO2013/146789号
甲第3号証:特開2002-68849号公報
甲第4号証:特開2012-256731号公報
甲第5号証:特開2016-34039号公報
甲第6号証:特開2003-342078号公報
甲第7号証:再公表特許WO2016/125635号
第4 各甲号証について
1 甲第1号証に記載された発明
(1)【0024】より、窒化珪素基板は、反りが2.0μm/mm以下に抑制されている。
(2)【0041】より、窒化珪素基板の反り量は、適宜に設定したある面から基板表面Sまでの距離が最小となる2点間を結ぶ面を基準面として設定し、当該基準面からの高さ(距離)が最高となる最高点の高さDを反りの大きさとし、上記反りの大きさを対角線の距離で除した値である。
(3)【0026】~【0030】より、窒化珪素基板の製造方法は、混合した原料スラリーを脱泡・増粘した後、所定厚さの板にシート成形し、上記シート成形体を焼結炉内で1800~2000℃の温度で0.5~1.0MPaの窒素加圧雰囲気中で焼結し、窒化珪素基板とし、焼結後の窒化珪素基板を複数枚重ねた状態で0.5~6.0kPaの荷重(圧力)を印加しながら1550~1700℃で熱処理したものである。
(4)【図4】からみて、基板は、平面視にて矩形状であるといえ、基板の板圧方向の形状は、基板の四隅の内の1つから、対角線方向に向かって順に、凹状となり、凸状となり、凹状となって四隅の内の他の1つに至るものである。
(5)そうすると、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
なお、甲1発明の各構成には、1a~1fの符号を当審で付した。以下、 「構成1a」~「構成1f」という。
(甲1発明)
1a 反りが2.0μm/mm以下に抑制され、
1b 反り量は、適宜に設定したある面から基板表面Sまでの距離が最小となる2点間を結ぶ面を基準面として設定し、当該基準面からの高さ(距離)が最高となる最高点の高さDを反りの大きさとし、上記反りの大きさを対角線の距離で除した値であり、
1c 混合した原料スラリーを脱泡・増粘した後、所定厚さの板にシート成形し、上記シート成形体を焼結炉内で1800~2000℃の温度で0.5~1.0MPaの窒素加圧雰囲気中で焼結し、窒化珪素基板とし、焼結後の窒化珪素基板を複数枚重ねた状態で0.5~6.0kPaの荷重(圧力)を印加しながら1550~1700℃で熱処理することにより製造され、
1d 平面視にて矩形状であり、
1e 基板の板圧方向の形状は、基板の四隅の内の1つから、対角線方向に向かって順に、凹状となり、凸状となり、凹状となって四隅の内の他の1つに至る
1f 窒化珪素基板。
2 甲第2号証に記載された発明
(1)【0007】より、反り及びうねりが小さく十分な機械的強度及び熱伝導率を有する窒化珪素焼結体基板に関するものである。
(2)【0027】より、窒化珪素焼結体基板は、グリーンシートの積層体を用いて製造されるものである。
(3)【0040】より、グリーンシートの焼成は、徐熱域P0を有する昇温域と、第一の温度保持域P1及び第二の温度保持域P2を有する温度保持域と、冷却域とからなる温度プロファイルPに従って行うものである。
(4)【0041】より、徐熱域P0の温度T0を、第一の温度保持域P1の温度T1より低い1400~1600℃の範囲内とし、徐熱域P0における加熱速度を300℃/時間以下とし、加熱時間t0を0.5~30時間とするものである。
(5)【0042】より、第一の温度保持域P1の温度T1を1600~2000℃の範囲内とし、保持時間t1を約1~30時間とし、1600~2000℃の温度範囲内であれば、第一の温度保持域P1内で加熱温度T1が変化しても良いものである。
(6)【0044】より、第一の温度保持域P1の後にある第二の温度保持域P2の温度T2は1400~1700℃の範囲内で、かつ第一の温度保持域P1の温度T1より低く、第二の温度保持域P2の保持時間t2は0.5~45時間とするものである。
(7)【0049】より、第二の温度保持域P2の後にある冷却域P3の冷却速度は100℃/時間以上が好ましく、300℃/時間以上がより好ましく、500℃/時間以上が最も好ましく、実用的には、500~600℃/時間が好ましいものである。
(8)【0050】より、窒化珪素焼結体基板の反りは2.5μm/mm以内に低減されており、好ましくは2.0μm/mm以内であり、より好ましくは1.5μm/mm以内であり、できるだけ小さいのが好ましいが、実用的には下限は0.1μm/mm程度である。
(9)【0051】より、窒化珪素焼結体基板の反りは、窒化珪素焼結体基板の表面に対して、三次元レーザ計測器により3本の走査線L1、L2、L3(走査線L1及びL3は窒化珪素焼結体基板の各側端から10mmだけ内側の線に沿っており、走査線L2は窒化珪素焼結体基板の中心線に沿っている。)に沿ってレーザ光を走査し、各走査線L1~L3について、窒化珪素焼結体基板の表面の走査方向両端を結ぶ直線を水平にし、直線から最も上方に離隔した点Eの高さGと、最も下方に離隔した点Fの高さHとを求め、点Eと点Fとの垂直方向距離(G+H)を各走査線L1~L3の長さIで割り、走査線L1~L3ごとに得られた(G+H)/Iの値を平均し、反りとするものである。
(10)【図9】からみて、基板の板圧方向の形状は、基板の1辺から、対向する他辺に向かって順に、凸状となり、凹状となり、他辺に至るものである。
(11)【0056】より、窒化珪素焼結体基板の好ましいサイズは120mm×120mmであり、より好ましいサイズは140mm×140mmである。
(12)そうすると、甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
なお、甲2発明の各構成には、2a~2lの符号を当審で付した。以下、 「構成2a」~「構成2l」という。
2a 反り及びうねりが小さく十分な機械的強度及び熱伝導率を有する窒化珪素焼結体基板に関するものであって、
2b グリーンシートの積層体を用いて製造され、
2c グリーンシートの焼成は、徐熱域P0を有する昇温域と、第一の温度保持域P1及び第二の温度保持域P2を有する温度保持域と、冷却域とからなる温度プロファイルPに従って行い、
2d 徐熱域P0の温度T0を、第一の温度保持域P1の温度T1より低い1400~1600℃の範囲内とし、徐熱域P0における加熱速度を300℃/時間以下とし、加熱時間t0を0.5~30時間とし、
2e 第一の温度保持域P1の温度T1を1600~2000℃の範囲内とし、保持時間t1を約1~30時間とし、1600~2000℃の温度範囲内であれば、第一の温度保持域P1内で加熱温度T1が変化しても良く、
2f 第一の温度保持域P1の後にある第二の温度保持域P2の温度T2は1400~1700℃の範囲内で、かつ第一の温度保持域P1の温度T1より低く、第二の温度保持域P2の保持時間t2は0.5~45時間とし、
2g 第二の温度保持域P2の後にある冷却域P3の冷却速度は100℃/時間以上が好ましく、300℃/時間以上がより好ましく、500℃/時間以上が最も好ましく、実用的には、500~600℃/時間が好ましく、
2h 窒化珪素焼結体基板の反りは2.5μm/mm以内に低減されており、好ましくは2.0μm/mm以内であり、より好ましくは1.5μm/mm以内であり、できるだけ小さいのが好ましいが、実用的には下限は0.1μm/mm程度であり、
2i 窒化珪素焼結体基板の反りは、窒化珪素焼結体基板の表面に対して、三次元レーザ計測器により3本の走査線L1、L2、L3(走査線L1及びL3は窒化珪素焼結体基板の各側端から10mmだけ内側の線に沿っており、走査線L2は窒化珪素焼結体基板の中心線に沿っている。)に沿ってレーザ光を走査し、各走査線L1~L3について、窒化珪素焼結体基板の表面の走査方向両端を結ぶ直線を水平にし、直線から最も上方に離隔した点Eの高さGと、最も下方に離隔した点Fの高さHとを求め、点Eと点Fとの垂直方向距離(G+H)を各走査線L1~L3の長さIで割り、走査線L1~L3ごとに得られた(G+H)/Iの値を平均し、反りとするものであり、
2j 基板の板圧方向の形状は、基板の1辺から、対向する他辺に向かって順に、凸状となり、凹状となり、他辺に至るものであり、
2k 窒化珪素焼結体基板の好ましいサイズは120mm×120mmであり、より好ましいサイズは140mm×140mmである
2l 窒化珪素焼結体基板。
3 甲第3号証に記載された技術事項
(1)【0006】、【0007】には、撓みが生じているセラミックスは、変形しにくいことを前提とする電子部品用基板などには使用することができないこと、本発明は、面積が大きく且つ厚みが薄い場合であっても、外部からの極めて小さな外力で変化する撓みのないセラミックス燒結体を製造する方法を提供することを目的とすることが記載されている。
すなわち、甲第3号証に記載されたセラミックス燒結体は、面積が大きく且つ厚みが薄い場合であっても、外部からの極めて小さな外力で変化する撓みのないものであるから、変形しにくいことを前提とする電子部品用基板などに使用されるものである。
(2)【0018】、【0019】より、セラミックスは。焼結体が少なくとも1000℃に冷却させるまでは、20℃/分以下の冷却速度で冷却させ、変形能を有すると考えられる1000℃以上の温度範囲で冷却速度を遅くし、燒結体内の温度分布を小さくすることで、撓みの発生を抑制することができ、厚みが1.0mm以下のセラミックス燒結体においては、冷却速度を20℃/分以下とする温度範囲を1200℃以上にすることが可能である。
すなわち、甲第3号証に記載されたセラミックス燒結体は、変形能を有すると考えられる1000℃以上(厚みが1.0mm以下の場合は1200℃以上)の温度範囲で冷却速度を遅くし、燒結体内の温度分布を小さくすることで、撓みの発生を抑制することができるものである。
(3)【0030】、【0031】、【表2】~【表6】より、以下の焼結の条件、寸法(8×8cmと10×10cmである場合を除く。)、冷却速度である場合に、セラミックス燒結体は撓みの発生がないものである。
ア 焼結条件が1650℃で5hrとした焼結体○1(○1の実際の表記は、○の中に1である。以下、○2~○5についても同様。)では、
ア-1 寸法を15×15cmとして1000℃以上での冷却速度を20℃/分とした場合。
ア-2 寸法を10×30cmとして1200℃以上での冷却速度を5℃/分とした場合。
イ 焼結条件が1850℃で5hrとした焼結体○2では、
イ-1 寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を10℃/分とした場合。
イ-2 寸法を10×30cmとして1200℃以上での冷却速度を5℃/分とした場合。
ウ 焼結条件が1700℃で5hrとした焼結体○3-1では、
ウ-1 寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を20℃/分とした場合。
エ 焼結条件が1700℃で5hrとした後に1800℃で10atmで1hrとした焼結体○3-2では、
エ-1 寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を10℃/分とした場合。
エ-2 寸法を10×30cmとして1200℃以上での冷却速度を5℃/分とした場合。
オ 焼結条件が2250℃で10hrとした焼結体○4では、
オ-1 寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を10℃/分とした場合。
オ-2 寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を20℃/分とした場合。
カ 焼結条件が2200℃で10hrとした焼結体○5では、
カ-1 寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を20℃/分とした場合。
(4)また、【0030】、【0031】、【表2】~【表6】より、徐冷温度を500℃以上とした場合で、セラミックス燒結体の撓みの発生がないものは、寸法が8×8cmと10×10cmである場合のみである。
(5)上記(1)~(4)の記載から、甲第3号証には、
「変形しにくいことを前提とする電子部品用基板などに使用され、
変形能を有すると考えられる1000℃以上(厚みが1.0mm以下の場合は1200℃以上)の温度範囲で冷却速度を遅くし、燒結体内の温度分布を小さくすることで、撓みの発生を抑制することができ、
以下の(ア)~(カ)の焼結の条件、寸法、冷却速度である場合に、撓みの発生がなく、
徐冷温度を500℃以上とした場合で、セラミックス燒結体の撓みの発生がないものは、寸法が8×8cmと10×10cmである場合のみである
セラミックス燒結体。
(ア)焼結条件が1650℃で5hrとした焼結体では、寸法を15×15cmとして1000℃以上での冷却速度を20℃/分とした場合、もしくは、寸法を10×30cmとして1200℃以上での冷却速度を5℃/分とした場合、
(イ)焼結条件が1850℃で5hrとした焼結体では、寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を10℃/分とした場合、もしくは、寸法を10×30cmとして1200℃以上での冷却速度を5℃/分とした場合、
(ウ)焼結条件が1700℃で5hrとした焼結体では、寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を20℃/分とした場合、
(エ)焼結条件が1700℃で5hrとした後に1800℃で10atmで1hrとした焼結体では、寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を10℃/分とした場合、もしくは、寸法を10×30cmとして1200℃以上での冷却速度を5℃/分とした場合、
(オ)焼結条件が2250℃で10hrとした焼結体では、寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を10℃/分とした場合、もしくは、寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を20℃/分とした場合、
(カ)焼結条件が2200℃で10hrとした焼結体では、寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を20℃/分とした場合。」
とする技術事項(以下、「甲3技術事項」という。)が記載されている。
4 甲第4号証に記載された技術事項
(1)【0015】より、多数個取り配線基板1は、セラミックからなり、平面視が正方形(矩形)の表面2および裏面3を有する複数の配線基板部5を縦横に隣接して併有する製品領域4と、上記と同じセラミックからなり、該製品領域4の周囲に位置し平面視が四角形枠状の表面2および裏面3を有する耳部6と、上記配線基板部5,5間の境界cfおよび製品領域4と耳部6との境界cfに沿って表面2で平面が格子状に形成された分割溝8と、を備えている。
(2)【0016】より、個々の分割溝8は、製品領域4と耳部6との境界cfと直角に交差して耳部6内に延在する一対の端部9を両端に有し、製品領域4と耳部6との境界cfよりも該耳部6側に延在する端部9ごとの長さsは、平面視および側面視において、0.5~5mmの範囲とされている。
(3)上記(1)、(2)の記載から、甲第4号証には、
「セラミックからなり、平面視が正方形(矩形)の表面2および裏面3を有する複数の配線基板部5を縦横に隣接して併有する製品領域4と、
上記と同じセラミックからなり、該製品領域4の周囲に位置し平面視が四角形枠状の表面2および裏面3を有する耳部6と、
上記配線基板部5,5間の境界cfおよび製品領域4と耳部6との境界cfに沿って表面2で平面が格子状に形成された分割溝8と、を備え、
個々の分割溝8は、製品領域4と耳部6との境界cfと直角に交差して耳部6内に延在する一対の端部9を両端に有し、製品領域4と耳部6との境界cfよりも該耳部6側に延在する端部9ごとの長さsは、平面視および側面視において、0.5~5mmの範囲とされる
多数個取り配線基板1。」
とする技術事項(以下、「甲4技術事項」という。)が記載されている。
5 甲第5号証に記載された技術事項
(1)【0019】より、セラミックス回路基板集合体1は、セラミックス回路基板2とダミー部31、32、33、34、35とで構成され、セラミックス回路基板2とダミー部31~35を分割するための分割溝5が形成されている。
(2)【0043】より、【図1】のダミー部31におけるセラミックス基板の寸法は5mm×5mmである。
そうすると、【図1】のダミー部31を含む部分は、分割溝5により少なくとも5mmの幅で分割されることが見て取れる。
(3)【0036】より、セラミック回路基板集合体1の大きさは、130×85mmである。
(4)上記(1)~(3)の記載から、甲第5号証には、
「セラミックス回路基板2とダミー部31、32、33、34、35とで構成され、セラミックス回路基板2とダミー部31~35を分割するための分割溝5が形成され、
ダミー部31を含む部分は、分割溝5により少なくとも5mmの幅で分割され、
大きさが130×85mmである
セラミックス回路基板集合体1。」
とする技術事項(以下、「甲5技術事項」という。)が記載されている。
6 甲第6号証に記載された技術事項
(1)【0003】~【0009】より、セラミック基板は、セラミックグリーンシートを積層、熱圧着、カットを行い、未焼成状態の大型積層体を得て、この大型積層体を焼成処理し、大型セラミック基板を得て、得られた大型セラミック基板の各基板領域を区画する分離線に沿って分離処理を行い、抽出されるものであって、上記大型セラミック基板30は、焼成時に大型積層体30の4つの角部32において、隣接する2つの側面35a、35bが接する稜線から離れる方向に収縮するとき、焼成後の大型セラミック基板30に歪みや反りが発生するものである。
(2)上記(1)の記載から、甲第6号証には、
「セラミックグリーンシートを積層、熱圧着、カットを行い、未焼成状態の大型積層体を得て、
この大型積層体を焼成処理し、大型セラミック基板を得て、
得られた大型セラミック基板の各基板領域を区画する分離線に沿って分離処理を行い、抽出されるものであって、
上記大型セラミック基板30は、焼成時に大型積層体30の4つの角部32において、隣接する2つの側面35a、35bが接する稜線から離れる方向に収縮するとき、焼成後の大型セラミック基板30に歪みや反りが発生する
セラミック基板。」
とする技術事項(以下、「甲6技術事項」という。)が記載されている。
7 甲第7号証に記載された技術事項
(1)【0011】より、窒化珪素回路基板は、長手方向の反り量SL1と短辺方向の反り量SL2が共に0.01~1.0mmの範囲内となり、対角線方向の反り量SL3は、0.1≦SL3≦1.5mmの範囲内である。
(2)上記(1)の記載から、甲第7号証には、
「長手方向の反り量SL1と短辺方向の反り量SL2が共に0.01~1.0mmの範囲内となり、
対角線方向の反り量SL3は、0.1≦SL3≦1.5mmの範囲内である
窒化珪素回路基板。」
とする技術事項(以下、「甲7技術事項」という。)が記載されている。
第5 当審の判断
1 特許法第36条第4項第1号(理由1:実施可能要件違反)について
(1)判断
本件特許明細書の【0020】~【0041】には、セラミック基板の構成について記載されており、当該記載は、本件特許発明1のセラミック基板を含むものである。
また、本件特許明細書の【0046】~【0085】には、本実施形態のセラミック基板の製造方法が記載され、特に、スラリーの原料粉末の成分や割合(【0051】~【0055】)、セラミック基板の大きさや厚み(【0064】)、焼結工程の前の堆積工程における重ねる枚数(【0067】)、脱脂工程の温度と時間(【0070】)、焼結工程における昇温域の温度と時間(【0075】)、温度保持域の温度と時間(【0076】)、冷却域の冷却速度(【0078】)、急冷域の開始温度(【0079】、【0083】)、切断工程における切断幅(【0081】、【0084】)について具体的に記載されている。
そうすると、本件特許明細書の【0046】~【0085】に記載されたセラミック基板の製造方法により、本件特許明細書の【0020】~【0041】に記載されたセラミック基板、すなわち、本件特許発明1のセラミック基板が製造されるものであるから、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものである。
さらに、請求項2~12に係る発明についても同様である。
(2)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、実施可能要件違反の具体的理由として、以下のような主張をしている。
「本件特許発明1では、「前記板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となっている前記凸状部分のうち、前記最大凸量を有する凸状部分が前記セラミック基板の外周縁部分にある」ことが特定されている。
(中略)
しかしながら、上記の通り、図3Cで冷却開始温度650℃における反り量は0.4~0.9μm/mm程度であるのに対して、図4Bで外周縁切断幅0mmにおける反り量は(合議体注:異議申立書では、「はが」とあるが、「は」の誤記であると判断した。)4.5~6.8μm/mm程度であり、両者の測定結果は大きく乖離している。
(中略)
意見書の記載からは、冷却域F3に急冷域F4を設定することで、構成1~3が得られるものと読み取れる。しかしながら、本件明細書の段落0084及び本件特許図面の図4Bの記載を踏まえると、急冷開始温度が400℃から650℃との条件だけでは、反り量を2μm/mm以下にできないことが明らかである。
そうすると、セラミック基板の反り量を2μm/mm以下にするために必要な条件を、本件特許明細書及び本件特許図面から把握することができない。(以下、「主張1」という。)
(中略)
一つの仮定として、本件特許図面の図3Cの結果は、外周縁切断幅が9mmの場合における反り量の結果を示していると考えることもできる。
(中略)
しかし、上述した仮定のもとにおいては、外周部分を少なくとも9mmは鉄段する必要があると、本件特許明細書の記載から読み取れる。そうすると、外周部分の切断幅を3mm以下とすることにどのような技術的意義があるのか不明である。また、切断幅が3mm以下である場合にどのようにして反り量を2μm以下とするか、本件特許明細書には、何ら具体的な手段が記載されていない。(以下、「主張2」という。)
別の仮定として、図3Cの結果は、冷却直後におけるセラミック基板の反り量を測定した結果を示すものと考えることもできる。
(中略)
この仮定のもとに本件特許明細書の記載を検討するに、特許明細書の段落0083、段落0084の記載からは、焼結工程を経たセラミック基板が、その後に外周部分を切断されることが分かる。
このため、冷却直後のセラミック基板の外周縁部分に最大凸量が存在する場合には、その部分は切断され、残ったセラミック基板には最大凸量を有する部分が存在しないこととなる。
つまり、外周部分を切断する前のセラミックス基板について、「前記セラミック基板の対角線の長さで前記少なくとも1つの凸状部分の最大凸量を除した値は、2μm/mm以下」であることを満たさないこととなり、外周部分を切断した後のセラミックス基板については、「前記板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となっている前記凸状部分のうち、前記最大凸量を有する凸状部分が前記セラミック基板の外周縁部分にある」ことを満たさないことになる。(以下、「主張3」という。)
また、上記の意見書では、構成1~3の補正の根拠は、本件特許明細書の段落0083及び本件特許図面の図3S~3Vと記載されている。
しかし、本件特許図面の図3S~3Vを参照すると、位置が高い部分がセラミック基板の外周辺上に存在することが読み取れるが、最大凸量を有する部分は、セラミック基板の外周辺からは離れていることが看取できる。
この点からも、外周部分を切断した後のセラミックス基板については、「前記板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となっている前記凸状部分のうち、前記最大凸量を有する凸状部分が前記セラミック基板の外周縁部分にある」ことを満たさないことが読み取れる。(以下、「主張4」という。)
以上を総括すると、本件特許明細書及び本件特許図面については、「反り量」及び「最大凸量を有する凸状部分がセラミック基板の外周縁部分にある」点に関する記載がいずれも多義的に解釈できるうえ、それらを互いに整合させて理解することが困難である。
このため、本件特許明細書の記載は、当業者が本件特許発明1を実施しようとした場合に、どのようにすれば実施できるかを見いだすために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等を強いるものである。
したがって、本件特許明細書は、当業者が本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2-12を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。」(14頁29行~23頁9行)
イ 特許異議申立人の主張に対する検討
上記主張について検討する。
図3Cは、急冷域の開始温度を変化させて、製造されたセラミック基板の反り量を測定したものであり、図4Bは、急冷開始温度を650℃にした場合に、外周部分の切断幅を変化させて、セラミック基板の反り量を測定したものである。
しかし、図3Cや図4Bの説明としてそれ以外の条件、例えば、スラリーの原料粉末の成分や割合、セラミック基板の大きさや厚みなどの限定はされていない以上、本件特許明細書の【0046】~【0085】に示された様々な条件の範囲内のいずれかの条件で、図3Cや図4Bは測定されたものであって、両者は、あくまで急冷域の開始温度もしくは外周部分の切断幅を変化させた際の、セラミック基板の反り量についての傾向を示しているものに過ぎない。
そして、本件特許明細書の【0046】~【0085】に示された様々な条件の範囲内で、冷却開始温度が650℃の場合に、外周縁切断幅を3mm以下にすると、「前記セラミック基板の対角線の長さで前記少なくとも1つの凸状部分の最大凸量を除した値は、2μm/mm以下」となるセラミック基板を作成することが可能である。
そうすると、「セラミック基板の反り量を2μm/mm以下にするために必要な条件を、本件特許明細書及び本件特許図面から把握することができない」との異議申立人の主張1を採用することはできない。
また、「本件特許図面の図3Cの結果は、外周縁切断幅が9mmの場合における反り量の結果を示している」との仮定や「図3Cの結果は、冷却直後におけるセラミック基板の反り量を測定した結果を示す」との仮定に基づく異議申立人の主張2、3も採用することはできない。
更に、図3S~3Vは、「その一対の対角線により形成される交差点とずれた位置に、その板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となる、少なくとも1つの凸状部分が形成され」との構成に対する例示のために示されたものであって、「外周部分を切断した後のセラミックス基板については、「前記板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となっている前記凸状部分のうち、前記最大凸量を有する凸状部分が前記セラミック基板の外周縁部分にある」ことを満たさないことが読み取れる。」との異議申立人の主張4も採用することはできない。
以上のように、特許異議申立人の主張をいずれも採用することはできない。
2 甲1発明を主引例とした場合の特許法第29条第2項(理由3:進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 甲1発明との対比
(ア)構成1Aについて
構成1d、1fより、甲1発明の「窒化珪素基板」は、「平面視にて矩形状で」あるから、本件特許発明1の「平面視にて矩形状のセラミック基板」に相当する。
(イ)構成1Bについて
構成1eより、甲1発明の窒化珪素基板の板圧方向の形状は、基板の四隅の内の1つから、対角線方向に向かって順に、凹状となり、凸状となり、凹状となって四隅の内の他の1つに至る形状である。
ここで、凸状の部分を「一方側に向けて凸状」と称すると、凹状の部分は「他方側に向けて凸状」といえる。
また、対角線方向に向かって順に、凹状となり、凸状となり、凹状となる構成であるから、いずれかは、「一対の対角線により形成される交差点とずれた位置」に形成されるといえる。
したがって、甲1発明は、本件特許発明1の「その一対の対角線により形成される交差点とずれた位置に、その板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となる、少なくとも1つの凸状部分が形成され」ている構成に相当する構成を有するものである。
(ウ)構成1Cについて
構成1a、1bより、甲1発明の反り量は、基準面からの高さが最高となる最高点の高さDを対角線の距離で除した値であり、2.0μm/mm以下である。
そうすると、甲1発明は、本件特許発明1の「前記セラミック基板の対角線の長さで前記少なくとも1つの凸状部分の最大凸量を除した値は、2μm/mm以下」に相当する構成を有するものである。
(エ)構成1Dについて
本件特許発明1のセラミック基板は、「対角線は150mm以上」であることを特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定を有していない点で相違する。
(オ)構成1Eについて
構成1eより、甲1発明の窒化珪素基板の板圧方向の形状は、基板の四隅の内の1つから、対角線方向に向かって順に、凹状となり、凸状となり、凹状となって四隅の内の他の1つに至るものであり、基板の外周縁部分が最大凸量でない。
すなわち、本件特許発明1のセラミック基板は、「前記板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となっている前記凸状部分のうち、前記最大凸量を有する凸状部分が前記セラミック基板の外周縁部分にある」と特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定を有していない点で相違する。
イ 一致点・相違点
以上より、本件特許発明1と甲1発明との一致点・相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
1A 平面視にて矩形状のセラミック基板であって、
1B その一対の対角線により形成される交差点とずれた位置に、その板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となる、少なくとも1つの凸状部分が形成され、
1C 前記セラミック基板の対角線の長さで前記少なくとも1つの凸状部分の最大凸量を除した値は、2μm/mm以下である
1A セラミック基板。
(相違点)
(相違点1)
本件特許発明1のセラミック基板は、「対角線は150mm以上」であることを特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定を有していない点。
(相違点2)
本件特許発明1のセラミック基板は、「前記板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となっている前記凸状部分のうち、前記最大凸量を有する凸状部分が前記セラミック基板の外周縁部分にある」と特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定を有していない点。
ウ 検討
事案に鑑みて、上記相違点2について先に検討する。
甲1発明の構成1eは、上記相違点2に係る構成とは相違するが、甲1発明の構成1eは図面から読み取った構成に過ぎないので、念のため、構成1eを除いた甲1発明により、上記相違点2に係る構成となるかについて検討する。
甲1発明の窒化珪素基板は、構成1cより、混合した原料スラリーを脱泡・増粘した後、所定厚さの板にシート成形し、上記シート成形体を焼結炉内で1800~2000℃の温度で0.5~1.0MPaの窒素加圧雰囲気中で焼結し、窒化珪素基板とし、焼結後の窒化珪素基板を複数枚重ねた状態で0.5~6.0kPaの荷重(圧力)を印加しながら1550~1700℃で熱処理することにより製造されるものである。
それに対して、本件特許発明1のセラミック基板は、本件特許明細書の【0077】~【0079】の記載から見て、昇温域及び温度保持域により焼成室内の温度が少なくとも1600℃以上になるまで焼成室内を加熱し、焼成室内を冷却する温度域である冷却域の冷却速度は、100℃/時間以上が好ましく、300℃/時間以上がより好ましく、500℃/時間以上が更に好ましく、実用的な冷却速度は、500℃~600℃/時間が好ましいとされ、更に冷却速度を大きくする温度領域である急冷域は、焼成室内の温度が650℃以下のいずれかの温度になった場合に開始されるものである。また、本件特許明細書の【0081】より、焼結工程の後、外周部分切断工程により外周部分のうちの3mm以下の幅の部分を切断するものである。
そこで、本件特許発明1のセラミック基板を製造する方法と、甲1発明のセラミック焼結体を製造する方法とを対比する。
急冷域に関して、本件特許発明1のセラミック基板を製造する方法では、焼成室内の温度が600℃以下のいずれかの温度になった場合に開始されるのに対し、甲第1号証には、冷却域における冷却速度、急冷域の開始温度については、何ら記載も示唆もされていない。
そして、本件特許明細書の【0083】には、〔冷却域F3に急冷域F4を設定することの技術的意義〕として、急冷開始温度が低いほど、セラミック基板の反り量が小さくなること、反り量が2μm以下である場合、最大凸量(凸量または凹量の最大値)は、矩形形状を呈するセラミック基板の外周の辺上(すなわち外周縁部分)に発生する傾向が高いこと、急冷開始温度の極端な引き下げをすると、焼成時間の延長による生産性の低下に繋がるので、反り量と、焼成時間の短縮化とのバランスを考慮することが開示されている。
また、本件特許発明1のセラミック基板を製造する方法では、焼結工程の後、外周部分切断工程により外周部分のうちの3mm以下の幅の部分を切断するのに対し、甲第1号証には、そのような切断工程を有することの記載も示唆もない。
そして、本件特許明細書の【0084】には、〔外周部分切断工程S3を行うことの技術的意義〕として、外周部分の切断幅が大きいほど、反り量が小さくなり、反り量のばらつきが小さくなるが、切断幅が大きいほど廃棄量が増えることから、外周部分の切断幅を3mm以下とすることが好ましいことが開示されている。
以上のとおり、本件特許発明1では、「前記板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となっている前記凸状部分のうち、前記最大凸量を有する凸状部分が前記セラミック基板の外周縁部分にある」セラミック基板が製造されるためには、冷却域における冷却速度が、100℃/時間以上、より好ましいのは300℃/時間以上、更に好ましいのは500℃/時間以上、実用的な冷却速度は500℃~600℃/時間であり、急冷域の開始温度が、600℃以下のいずれかの温度であり、外周部分切断工程により外周部分のうちの3mm以下の幅の部分を切断することが必要であるといえるが、甲第1号証には、冷却域における冷却速度、急冷域の開始温度、外周部分切断工程のいずれについても記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明の窒化珪素基板は、本件特許発明1のように「前記板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となっている前記凸状部分のうち、前記最大凸量を有する凸状部分が前記セラミック基板の外周縁部分にある」とはいえない。
そして、甲第2号証、甲3技術事項には、外周部分切断工程に関する記載も示唆もない。
また、甲4技術事項には、製品領域と耳部との境界に沿って形成された分割溝を備えることが記載され、甲5技術事項には、セラミックス回路基板とダミー部を分割するための分割溝が形成されることが記載されているものの、甲4技術事項の耳部は製品領域以外の部分であり、甲5技術事項のダミー部はセラミックス回路基板以外の部分であるから、分割溝による切断幅は、不要な部分を切断する幅としているものといえる。
そうすると、甲4技術事項、甲5技術事項は、「前記板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となっている前記凸状部分のうち、前記最大凸量を有する凸状部分が前記セラミック基板の外周縁部分にある」セラミック基板が製造されるために、外周部分のうちの3mm以下の幅の部分を切断することを考慮したものでなく、甲4技術事項、甲5技術事項を甲1発明に適用する動機がない。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載された発明と甲3技術事項~甲5技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書において、相違点2に関する以下のような主張をしている。
「相違点1e(当審注:相違点2に対応)について検討するに、本件特許明細書の段落0083には、「なお、本願発明者は、反り量が小さい場合、具体的には、反り量が2μm以下である場合、最大凸量(凸量または凹量の最大値)は、矩形形状を呈するセラミック基板40の外周の辺上(すなわち外周縁部分)に発生する傾向が高いという知見を得た。」と記載されている
この記載を踏まえると、甲1発明における窒化珪素基板の反り量は2μm以下であるため、その最大凸量は窒化珪素基板の外周の辺上に発生するものと解される。
このため、甲1発明は、相違点1eに係る特性を備える蓋然性が高い。
仮に、甲1発明において、最大凸量は窒化珪素基板の外周の辺上に発生しないとしても、矩形のセラミック基板を製造する際に、最大凸量を有する部分が基板の外周の辺上に発生することは、甲第6号証に記載されたように周知の事実である。」(51頁23行~52頁5行)
(イ)特許異議申立人の主張に対する検討
上記主張について検討する。
本件特許明細書の【0083】の記載は、本件特許明細書に記載された製造方法によって製造されたセラミック基板についての知見であって、単に反り量が2μm/mm以下であることが共通するというだけで、甲1発明の窒化珪素基板の最大凸量が基板の外周縁部分に発生することと認めることはできない。
また、甲6技術事項の大型セラミック基板30は、「焼成時に大型積層体30の4つの角部32において、」「焼成後の大型セラミック基板30に歪みや反りが発生する」構成であるが、どのような条件で焼成した場合に、角部の歪みや反りがどの程度になるかについて記載も示唆もなく、外周部分を切断することの記載も示唆もない以上、当業者が甲6技術事項に接したとしても、甲1発明のセラミック基板が「前記板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となっている前記凸状部分のうち、前記最大凸量を有する凸状部分が前記セラミック基板の外周縁部分にある」と認めることができない。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
(2)本件特許発明2~12について
本件特許発明2~12は、本件特許発明1を直接若しくは間接に引用する発明であるから、少なくとも上記(1)イの相違点1、2を有するものである。
そうすると、上記(1)ウの検討と同様であって、請求項2~12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載された発明と甲3技術事項~甲5技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 甲2発明を主引例とした場合の特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項(理由2、4:新規性、進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 甲2発明との対比
(ア)構成1Aについて
甲2発明の「窒化珪素焼結体基板」は、本件特許発明1の「セラミック基板」に相当する。
また、構成2jより、甲2発明の窒化珪素焼結体基板の好ましいサイズは120mm×120mmであり、より好ましいサイズは140mm×140mmであるから、平面視では矩形状であるといえるので、甲2発明の窒化珪素焼結体基板は、本件特許発明1の「平面視にて矩形状のセラミック基板」に相当する。
(イ)構成1Bについて
構成2jより、甲2発明の窒化珪素焼結体基板の板圧方向の形状は、基板の1辺から、対向する他辺に向かって順に、凸状となり、凹状となり、他辺に至るものである。
ここで、凸状の部分を「一方側に向けて凸状」と称すると、凹状の部分は「他方側に向けて凸状」といえる。
また、対向する他辺に向かって順に、凸状となり、凹状となる構成であるから、いずれかは、「一対の対角線により形成される交差点とずれた位置」に形成されるといえる。
したがって、甲2発明は、本件特許発明1の「その一対の対角線により形成される交差点とずれた位置に、その板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となる、少なくとも1つの凸状部分が形成され」ている構成に相当する構成を有するものである。
(ウ)構成1Cについて
構成2hより、甲2発明の窒化珪素焼結体基板の反りは2.5μm/mm以内に低減されており、好ましくは2.0μm/mm以内であり、より好ましくは1.5μm/mm以内であり、できるだけ小さいのが好ましいが、実用的には下限は0.1μm/mm程度である。
構成2iより、窒化珪素焼結体基板の反りは、最も上方に離隔した点Eの高さGと、最も下方に離隔した点Fの高さHとを求め、点Eと点Fとの垂直方向距離(G+H)を各走査線L1~L3(走査線L1及びL3は窒化珪素焼結体基板の各側端から10mmだけ内側の線に沿っており、走査線L2は窒化珪素焼結体基板の中心線に沿っている。)の長さIで割り、走査線L1~L3ごとに得られた(G+H)/Iの値を平均し、反りとするものである。
ここで、点Eと点Fとの垂直方向距離(G+H)は、本件特許発明1の「前記セラミック基板の前記板厚方向の最大凸量」に相当する。
また、各走査線の長さIは、窒化珪素焼結体基板の辺の長さに等しく、構成2jより、甲2発明の窒化珪素焼結体基板のサイズは、120mm×120mm、140mm×140mmであるから、その対角線の長さは、√2Iである。
そうすると、甲2発明において、「前記セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の前記板厚方向の最大凸量を除した値」は、(G+H)/Iを更に、√2で除した値であるから、2μm/mm以下となる。
したがって、甲2発明は、本件特許発明1の「セラミック基板の対角線の長さで前記少なくとも1つの凸状部分の最大凸量を除した値は、2μm/mm以下」である構成に相当する構成を有するものである。
(エ)構成1Dについて
構成2jより、甲2発明の窒化珪素焼結体基板の好ましいサイズは120mm×120mmであり、より好ましいサイズは140mm×140mmであるから、窒化珪素焼結体基板の対角線の長さは、それぞれ150mm以上である。
したがって、甲2発明は、構成1Dに相当する構成を有するものである。
(オ)構成1Eについて
構成2jより、甲2発明の窒化珪素焼結体基板の板圧方向の形状は、基板の1辺から、対向する他辺に向かって順に、凸状となり、凹状となり、他辺に至るものであり、基板の外周縁部分が最大凸量でない。
すなわち、本件特許発明1のセラミック基板は、「前記板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となっている前記凸状部分のうち、前記最大凸量を有する凸状部分が前記セラミック基板の外周縁部分にある」と特定するのに対し、甲2発明は、そのような特定を有していない点で相違する。
イ 一致点・相違点
以上より、本件特許発明1と甲2発明との一致点・相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
1A 平面視にて矩形状のセラミック基板であって、
1B その一対の対角線により形成される交差点とずれた位置に、その板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となる、少なくとも1つの凸状部分が形成され、
1C 前記セラミック基板の対角線の長さで前記少なくとも1つの凸状部分の最大凸量を除した値は、2μm/mm以下であり、
1D 前記対角線の長さが150mm以上である
1A セラミック基板。
(相違点3)
本件特許発明1のセラミック基板は、「前記板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となっている前記凸状部分のうち、前記最大凸量を有する凸状部分が前記セラミック基板の外周縁部分にある」と特定するのに対し、甲2発明は、そのような特定を有していない点。
ウ 検討
上記相違点3について検討する。
甲2発明の構成2jは、上記相違点3に係る構成とは相違するが、甲2発明の構成2jは図面から読み取った構成に過ぎないので、念のため、構成2jを除いた甲2発明により、上記相違点3に係る構成となるかについて検討する。
甲2発明の窒化珪素焼結体基板は、構成2c~2gより、徐熱域P0を有する昇温域と、第一の温度保持域P1及び第二の温度保持域P2を有する温度保持域と、冷却域とからなる温度プロファイルPに従って行い、徐熱域P0の温度T0を、第一の温度保持域P1の温度T1より低い1400~1600℃の範囲内とし、徐熱域P0における加熱速度を300℃/時間以下とし、加熱時間t0を0.5~30時間とし、第一の温度保持域P1の温度T1を1600~2000℃の範囲内とし、保持時間t1を約1~30時間とし、1600~2000℃の温度範囲内であれば、第一の温度保持域P1内で加熱温度T1が変化しても良く、第一の温度保持域P1の後にある第二の温度保持域P2の温度T2は1400~1700℃の範囲内で、かつ第一の温度保持域P1の温度T1より低く、第二の温度保持域P2の保持時間t2は0.5~45時間とし、第二の温度保持域P2の後にある冷却域P3の冷却速度は100℃/時間以上が好ましく、300℃/時間以上がより好ましく、500℃/時間以上が最も好ましく、実用的には、500~600℃/時間が好ましくとしたものである。
それに対して、本件特許発明1のセラミック基板は、本件特許明細書の【0077】~【0079】の記載から見て、昇温域及び温度保持域により焼成室内の温度が少なくとも1600℃以上になるまで焼成室内を加熱し、焼成室内を冷却する温度域である冷却域の冷却速度は、100℃/時間以上が好ましく、300℃/時間以上がより好ましく、500℃/時間以上が更に好ましく、実用的な冷却速度は、500℃~600℃/時間が好ましいとされ、更に冷却速度を大きくする温度領域である急冷域は、焼成室内の温度が650℃以下のいずれかの温度になった場合に開始されるものである。また、本件特許明細書の【0081】より、焼結工程の後、外周部分切断工程により外周部分のうちの3mm以下の幅の部分を切断するものである。
そこで、本件特許発明1のセラミック基板を製造する方法と、甲2発明のセラミック焼結体を製造する方法とを対比する。
急冷域に関して、本件特許発明1のセラミック基板を製造する方法では、焼成室内の温度が600℃以下のいずれかの温度になった場合に開始されるのに対し、甲第2号証には、急冷域の開始温度については、何ら記載も示唆もされていない。
そして、本件特許明細書の【0083】には、〔冷却域F3に急冷域F4を設定することの技術的意義〕として、急冷開始温度が低いほど、セラミック基板の反り量が小さくなること、反り量が2μm以下である場合、最大凸量(凸量または凹量の最大値)は、矩形形状を呈するセラミック基板の外周の辺上(すなわち外周縁部分)に発生する傾向が高いこと、急冷開始温度の極端な引き下げをすると、焼成時間の延長による生産性の低下に繋がるので、反り量と、焼成時間の短縮化とのバランスを考慮することが開示されている。
また、本件特許発明1のセラミック基板を製造する方法では、焼結工程の後、外周部分切断工程により外周部分のうちの3mm以下の幅の部分を切断するのに対し、甲第2号証には、そのような切断工程を有することの記載も示唆もない。
そして、本件特許明細書の【0084】には、〔外周部分切断工程S3を行うことの技術的意義〕として、外周部分の切断幅が大きいほど、反り量が小さくなり、反り量のばらつきが小さくなるが、切断幅が大きいほど廃棄量が増えることから、外周部分の切断幅を3mm以下とすることが好ましいことが開示されている。
以上のとおり、本件特許発明1では、「前記板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となっている前記凸状部分のうち、前記最大凸量を有する凸状部分が前記セラミック基板の外周縁部分にある」セラミック基板が製造されるためには、急冷域の開始温度が、600℃以下のいずれかの温度であり、外周部分切断工程により外周部分のうちの3mm以下の幅の部分を切断することが必要であるといえるが、甲第2号証は、急冷域の開始温度、外周部分切断工程のいずれについても記載も示唆もされていない。
したがって、甲2発明の窒化珪素焼結体基板は、本件特許発明1のように「前記板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となっている前記凸状部分のうち、前記最大凸量を有する凸状部分が前記セラミック基板の外周縁部分にある」とはいえない。
そうすると、本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、相違点3を有するので、本件特許発明1は甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、相違点3に関して、上記(1)エ(ア)と同様の主張をしているが、上記(1)エ(イ)の検討と同様に、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
(2)本件特許発明2~12について
本件特許発明2~12は、本件特許発明1を直接若しくは間接に引用する発明であるから、少なくとも上記(1)イの相違点3を有するものである。
甲3技術事項には、外周部分切断工程に関する記載も示唆もない。
また、甲4技術事項には、製品領域と耳部との境界に沿って形成された分割溝を備えることが記載され、甲5技術事項には、セラミックス回路基板とダミー部を分割するための分割溝が形成されることが記載されているものの、甲4技術事項の耳部は製品領域以外の部分であり、甲5技術事項のダミー部はセラミックス回路基板以外の部分であるから、分割溝による切断幅は、不要な部分を切断する幅としているものといえる。
そうすると、甲4技術事項、甲5技術事項は、「前記板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となっている前記凸状部分のうち、前記最大凸量を有する凸状部分が前記セラミック基板の外周縁部分にある」セラミック基板が製造されるために、外周部分のうちの3mm以下の幅の部分を切断することを考慮したものでなく、甲4技術事項、甲5技術事項を甲2発明に適用する動機付けがない。
よって、上記(1)ウの検討と同様であって、請求項2、3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明でない。
また、請求項2、3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
請求項4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
請求項5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
請求項6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と、甲第4号証、甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
請求項7~12に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
4 特許法第36条第6項第1号(理由5:サポート要件違反)について
(1)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、サポート要件違反の具体的理由として、以下のような主張をしている。
「本件特許明細書では、その段落0025において「第1例~第6例のセラミック基板40は、一例として、その長さが206mm、その幅が146mmであるから、その対角線の長さは約252.5mmである。また、凸状部分CX1、CX2の凸量(平坦な場合(図中の基準)に比べて凸状又は凹状になっている部分の量)を、それぞれΔZ1、ΔZ2とする。そして、凸量ΔZ1、ΔZ2は、それぞれ、一例として420μm以下である。すなわち、第1例の場合、最大凸量は420μm以下である。」との一例が記載されているにすぎない。
出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明1の範囲まで、本件特許明細書に記載された一例を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、本件特許発明1及びこれらを引用する本件特許発明2-12は、本件特許明細書に記載されたものではない。」(64頁19行~65頁2行)(以下、「主張5」という。)
「本件特許発明11に記載された「前記焼成室内の温度が900℃以上1100℃以下の温度で前記焼成室内の温度を急冷する第2の冷却工程」は、本件特許明細書のいずこにも記載されていない。
(中略)
したがって、本件特許発明11及びこれを引用する本件特許発明12は、本件特許明細書に記載されたものではない。」(65頁5行~13行)(以下、「主張6」という。)
(2)判断
ア 主張5について
確かに、本件特許明細書の【0025】には、その一例が記載されているにすぎない。
しかし、本件特許明細書の【0064】、【0083】、【0084】には、
「セラミック基板40の表面における対角線の長さが150mm以上であることが好ましく、200mm以上であることがより好ましく、236mm以上であることが特に好ましい。上限には特に制限はないが、例えば254mm以下とすることができる。」
「なお、本願発明者は、反り量が小さい場合、具体的には、反り量が2μm以下である場合、最大凸量(凸量または凹量の最大値)は、矩形形状を呈するセラミック基板40の外周の辺上(すなわち外周縁部分)に発生する傾向が高いという知見を得た。換言すると、回路パターンはセラミック基板40の外周縁部分の所定幅には形成されないため、その部分に発生する最大凸量の影響を受けることが少なくなる。すなわち、回路パターンへ影響を与える反り量は実質的には小さくなる。
一方で、図3Cのグラフから分かるように、急冷開始温度が400℃と650℃の場合、反り量のばらつきを考慮しても、セラミック基板40の反り量は反り量の最大許容値未満(この場合は2μm未満)となる。また、急冷開始温度の極端な引き下げ(例えば400℃以下)をすると、焼成時間の延長による生産性の低下に繋がる。
そこで、本実施形態では、反り量と、焼成時間の短縮化とのバランスを考慮し、急冷開始温度が400℃~650℃が適切な範囲であるとしている。
なお、焼成時間の短縮化を考慮しなければ、急冷開始温度を400℃未満としてもよい。」
「本願の発明者らは、急冷開始温度が650℃の場合を一例として、外周部分の切断幅を、0mm(切断無し)、3mm、6mm及び9mmに設定した場合のセラミック基板40の反り量を測定する試験を行った。図4Bは、その結果のグラフ、すなわち、外周部分切断工程S3における、外周部分の切断幅と、反り量との関係を示すグラフである。図4Bのグラフから分かるように、外周部分の切断幅が大きいほど、反り量が小さくなることが分かる。また、外周部分の切断幅が大きいほど、反り量のばらつきが小さくなることが分かる。この理由は、セラミック基板40における外周部分に近い部分ほど、冷却時の影響により圧縮応力又は引張応力がかかった状態であるため、このような部分を切断することでセラミック基板40がこれらの応力から解放されると考えられる。そして、図4Bのグラフの結果を考慮すると、外周部分を切断する必要がある。ただし、セラミック基板40の切断された外周部分は廃棄される、すなわち、切断幅が大きいほど廃棄量が増えることから、外周部分の切断幅は狭い方が好ましい。
そこで、本実施形態では、外周部分の切断幅を3mm以下とすることが好ましい。」
と記載されている。
当該発明の詳細な説明の記載から、対角線の長さが150mm以上であるセラミック基板において、急冷開始温度を400℃~650℃とし、外周部分の切断幅を3mm以下とすることにより、セラミック基板の対角線の長さで前記少なくとも1つの凸状部分の最大凸量を除した値は、2μm/mm以下となるセラミック基板が製造され、反り量が2μm/mm以下であるから、最大凸量は、矩形形状を呈するセラミック基板の外周縁部分に発生するものといえる。
そうすると、発明の詳細な説明には、本件特許発明1のような、「対角線の長さが150mm以上」であり、「セラミック基板の対角線の長さで前記少なくとも1つの凸状部分の最大凸量を除した値は、2μm/mm以下」であり、「前記板厚方向の一方側又は他方側に向けて凸状となっている前記凸状部分のうち、前記最大凸量を有する凸状部分が前記セラミック基板の外周縁部分にある」セラミック基板が記載されていないとはいえない。
したがって、特許異議申立人の主張5を採用することはできない。
本件特許発明2~12についても同様である。
イ 主張6について
本件特許明細書の【0079】、【0083】には、
「本実施形態の急冷域F4は、一例として焼成室内の温度が650℃以下のいずれかの温度になった場合に開始される。」
「本実施形態では、一例として焼成室内の温度が650℃以下のいずれかの温度になった場合に、急冷域F4が開始される。」
と記載されている。
すなわち、焼成室内の温度が650℃以下のいずれかの温度になった場合に急冷域が開始されることは一例であって、【図3C】には、様々な温度を急冷開始温度とすることが記載されていることから、発明の詳細な説明に「前記焼成室内の温度が900℃以上1100℃以下の温度で前記焼成室内の温度を急冷する第2の冷却工程とを含み」という構成が記載されていないとはいえない。
したがって、特許異議申立人の主張6を採用することはできない。
本件特許発明12についても同様である。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700448