特許異議申立
2023-700440
セラミック基板、複合基板及び回路基板並びにセラミック基板の製造方法、複合基板の製造方法、回路基板の製造方法及び複数の回路基板の製造方法
- 審判番号
- 2023-700440
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-556169
- 登録番号
- 7168795
- 請求日
- 2023年04月27日
- 審決日
- 2023年08月24日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】デンカ株式会社
- 【権利者代理人】速水 進治
- 【異議申立人】佐々木 毅
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 渡辺 努
- 審判官 山本 章裕
- 分類
- P1651.113-Y (H05K) / P1651.121-Y (H05K) / P1651.536-Y (H05K) / P1651.537-Y (H05K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7168795号発明「セラミック基板、複合基板及び回路基板並びにセラミック基板の製造方法、複合基板の製造方法、回路基板の製造方法及び複数の回路基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7168795号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7168795号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~16に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)11月13日(優先権主張 2019年(令和1年)11月15日)を国際出願日とする出願であって、令和4年10月31日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日 令和4年11月9日)がされた。
その後、令和5年4月27日に特許異議申立人佐々木毅(以下、「特許異議申立人」という。)により本件の請求項1~16に係る特許に対する特許異議の申立てがなされ、甲第1号証ないし甲第7号証が提出された。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~16に係る特許発明(以下「本件特許発明1」~「本件特許発明16」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~16に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
なお、本件特許発明1、本件特許発明2の各構成には、1A~1D、2A~2Eの符号を当審で付した。以下、「構成1A」~「構成1D」、「構成2A」~「構成2E」という。
「【請求項1】(本件特許発明1)
1A 平面視にて矩形状のセラミック基板であって、
1B その一対の対角線により形成される交差点を前記セラミック基板の板厚方向の基準とした場合に、前記一対の対角線により分けられる4つの領域のうち前記交差点を挟んで対向する一対の第1領域及び一対の第2領域の一方は前記交差点よりも前記板厚方向の一方側に位置し、他方は前記交差点よりも前記板厚方向の他方側に位置し、
1C 前記セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の前記板厚方向の最大凸量を除した値は、2μm/mm以上6μm/mm以下であり、
1D 前記対角線の長さが150mm以上である
1A セラミック基板。
【請求項2】(本件特許発明2)
2A 平面視にて矩形状のセラミック基板であって、
2B その平面視にてその中心を通りかつ四辺のうちの任意の一辺に平行な第1直線により切断される第1切断面は、その長さ方向の中央部分が板厚方向の一方側に向けて凸状に湾曲し、
2C 前記中心を通りかつ前記第1直線と直交する第2直線により切断される第2切断面は、その長さ方向の中央部分が前記板厚方向の他方側に向けて凸状に湾曲し、
2D 前記セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の前記板厚方向の最大凸量を除した値は、2μm/mm以上6μm/mm以下であり、
2E 前記対角線の長さが150mm以上である
2A セラミック基板。
【請求項3】(本件特許発明3)
前記中心から前記第1直線に沿う方向における前記セラミック基板の両端に亘る各位置の、前記第1切断面に平行な第1平行切断面は、それぞれの長さ方向の中央部分が前記板厚方向の一方側に向けて凸状に湾曲し、
前記各位置の前記第1平行切断面は、前記中心から前記第2直線に沿う方向における前記セラミック基板の両端に亘って、連続的に曲率が大きくなる、
請求項2に記載のセラミック基板。
【請求項4】(本件特許発明4)
前記中心から前記第2直線に沿う方向における前記セラミック基板の両端に亘る各位置の、前記第2切断面に平行な第2平行切断面は、それぞれの長さ方向の中央部分が前記板厚方向の他方側に向けて凸状に湾曲し、
前記各位置の前記第2平行切断面は、前記中心から前記第1直線に沿う方向における前記セラミック基板の両端に亘って、連続的に曲率が小さくなる、
請求項2又は3に記載のセラミック基板。
【請求項5】(本件特許発明5)
前記板厚方向において、前記第1直線を対称線として線対称となる立体形状を有する、
請求項2~4のいずれか1項に記載のセラミック基板。
【請求項6】(本件特許発明6)
前記板厚方向において、前記第2直線を対称線として線対称となる立体形状を有する、
請求項2~5のいずれか1項に記載のセラミック基板。
【請求項7】(本件特許発明7)
窒化珪素又は窒化アルミニウムを含む、
請求項1~6のいずれか1項に記載のセラミック基板。
【請求項8】(本件特許発明8)
請求項1~7のいずれか1項に記載のセラミック基板と、
前記セラミック基板の表面側に固定されている第1金属層と、
前記セラミック基板における裏面側に固定されている第2金属層と、
を備える複合基板。
【請求項9】(本件特許発明9)
請求項1~7のいずれか1項に記載のセラミック基板と、
前記セラミック基板の一方の面側に形成されている回路パターンと、
前記セラミック基板における他方の面側に固定されている金属層と、
を備える回路基板。
【請求項10】(本件特許発明10)
請求項1~7のいずれか1項に記載のセラミック基板の製造方法であって、
セラミック粉末を含む帯状グリーンシートを切断して枚葉グリーンシートを得る帯状グリーンシートの切断工程と、
焼成室内に前記枚葉グリーンシートを配置して、前記焼成室内の温度が少なくとも1600℃以上になるまで前記焼成室内を加熱した後に前記焼成室内を冷却し、前記枚葉グリーンシートを焼結させて前記セラミック基板を得る焼結工程と、
前記焼結工程の後に冷却した前記セラミック基板の全周縁を切断するセラミック基板の切断工程と、
を含み、
前記焼結工程では、前記焼成室内の冷却時に前記焼成室内の温度が900℃以上1100℃以下の温度で前記焼成室内の温度を急冷し、
前記セラミック基板の切断工程では、前記全周縁を少なくとも幅3mm切り落とす、
セラミック基板の製造方法。
【請求項11】(本件特許発明11)
前記セラミック粉末は、窒化珪素粉末又は窒化アルミニウム粉末を含む、
請求項10に記載のセラミック基板の製造方法。
【請求項12】(本件特許発明12)
請求項10又は11に記載のセラミック基板の製造方法と、
前記セラミック基板の表面側に第1金属層を固定し、裏面側に第2金属層を固定する固定工程と、
を含む、
複合基板の製造方法。
【請求項13】(本件特許発明13)
請求項12に記載の複合基板の製造方法と、
前記第1金属層及び前記第2金属層のいずれか一方に、少なくとも1つの回路パターンを形成するパターン形成工程と、
を含む、
回路基板の製造方法。
【請求項14】(本件特許発明14)
請求項12に記載の複合基板の製造方法と、
前記第1金属層及び前記第2金属層のいずれか一方に、複数の回路パターンを形成するパターン形成工程と、
前記複数の回路パターンが形成された前記複合基板を、それぞれが1つの前記回路パターンを備える複数の回路基板に分割する分割工程と、
を含む、
複数の回路基板の製造方法。
【請求項15】(本件特許発明15)
前記焼成室内を冷却する工程は、
前記焼成室内が少なくとも1600℃以上に加熱された状態から冷却する第1の冷却工程と、
前記焼成室内の温度が900℃以上1100℃以下の温度で前記焼成室内の温度を急冷する第2の冷却工程とを含み、
前記第2の冷却工程の時間は前記第1の冷却工程より短い、請求項10に記載のセラミック基板の製造方法。
【請求項16】(本件特許発明16)
前記焼成室内を冷却する工程における冷却速度は、500℃/時間以上600℃/時間である、請求項15に記載のセラミック基板の製造方法。」
第3 特許異議の申立ての理由の概要
特許異議申立人が申し立てた理由は、概略以下のとおりである。
1 理由1
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1~16に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、請求項1~16に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
2 理由2
請求項1~7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
3 理由3
請求項1~9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
請求項10~16に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項10~16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(なお、請求項10~16に係る発明に関して、異議申立書には、「本件特許発明10は、甲1発明と、甲第3号証に記載された事項(以下、「甲3記載事項」という。)又は甲第4号証に記載された事項(以下、「甲4記載事項」という。)と、から当業者が容易に為し得たものである。」(56頁28~30行)、「本件特許発明11は、甲1発明と、甲3記載事項又は甲4記載事項と、に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(57頁4~5行)、「本件特許発明12は、甲1発明及び甲4記載事項に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(57頁17~18行)、「本件特許発明13は、甲1発明及び甲4記載事項に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(58頁1~2行)、「本件特許発明14は、甲1発明及び甲4記載事項に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(58頁19~20行)、「本件特許発明15は、甲1発明と、甲3記載事項又は甲4記載事項と、から当業者が容易に為し得たものである。」(59頁15~16行)、「本件特許発明16は、甲1発明と、甲3記載事項又は甲4記載事項と、から当業者が容易に為し得たものである。」(59頁21~22行)と記載されている。
しかし、請求項10~16に係る発明は、それぞれ、請求項1~7のいずれか1項、請求項10、請求項10又は11、請求項12、請求項12、請求項10、請求項15を引用する発明であるから、請求項10~16に係る発明に対する特許異議の申立てには、甲第1号証ないし甲第4号証が引例として採用されたものと判断した。)
4 理由4
請求項1~9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
請求項10~16に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証、甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項10~16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(なお、請求項13、14に係る発明に関して、異議申立書には、「本件特許発明13は、甲2発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に為し得たものである。」(65頁8~9行)、「本件特許発明14は、甲2発明及び甲4記載事項から当業者が容易に為し得たものである。」(65頁25~26行)と記載されている。
しかし、請求項13、14に係る発明は、それぞれ、請求項12を引用する発明であるから、請求項13、14に係る発明に対する特許異議の申立てには、甲第2号証ないし甲第4号証が引例として採用されているものと判断した。)
5 理由5
請求項1~16に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
甲第1号証:特開2002-68849号公報
甲第2号証:再公表特許WO2013/146789号
甲第3号証:特開2012-256731号公報
甲第4号証:特開2016-34039号公報
甲第5号証:再公表特許WO2016/125635号
甲第6号証:特開平11-322432号公報
甲第7号証:特許第7126035号公報
第4 各甲号証について
1 甲第1号証に記載された発明
(1)【0006】、【0007】には、撓みが生じているセラミックスは、変形しにくいことを前提とする電子部品用基板などには使用することができないこと、本発明は、面積が大きく且つ厚みが薄い場合であっても、外部からの極めて小さな外力で変化する撓みのないセラミックス燒結体を製造する方法を提供することを目的とすることが記載されている。
すなわち、甲第1号証に記載されたセラミックス燒結体は、面積が大きく且つ厚みが薄い場合であっても、外部からの極めて小さな外力で変化する撓みのないものであるから、変形しにくいことを前提とする電子部品用基板などに使用されるものである。
(2)【0018】、【0019】より、セラミックスは。焼結体が少なくとも1000℃に冷却させるまでは、20℃/分以下の冷却速度で冷却させ、変形能を有すると考えられる1000℃以上の温度範囲で冷却速度を遅くし、燒結体内の温度分布を小さくすることで、撓みの発生を抑制することができ、厚みが1.0mm以下のセラミックス燒結体においては、冷却速度を20℃/分以下とする温度範囲を1200℃以上にすることが可能である。
すなわち、甲第1号証に記載されたセラミックス燒結体は、変形能を有すると考えられる1000℃以上(厚みが1.0mm以下の場合は1200℃以上)の温度範囲で冷却速度を遅くし、燒結体内の温度分布を小さくすることで、撓みの発生を抑制することができるものである。
(3)【0030】、【0031】、【表2】~【表6】より、以下の焼結の条件、寸法(8×8cmと10×10cmである場合を除く。)、冷却速度である場合に、セラミックス燒結体は撓みの発生がないものである。
ア 焼結条件が1650℃で5hrとした焼結体○1(○1の実際の表記は、○の中に1である。以下、○2~○5についても同様。)では、
ア-1 寸法を15×15cmとして1000℃以上での冷却速度を20℃/分とした場合。
ア-2 寸法を10×30cmとして1200℃以上での冷却速度を5℃/分とした場合。
イ 焼結条件が1850℃で5hrとした焼結体○2では、
イ-1 寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を10℃/分とした場合。
イ-2 寸法を10×30cmとして1200℃以上での冷却速度を5℃/分とした場合。
ウ 焼結条件が1700℃で5hrとした焼結体○3-1では、
ウ-1 寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を20℃/分とした場合。
エ 焼結条件が1700℃で5hrとした後に1800℃で10atmで1hrとした焼結体○3-2では、
エ-1 寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を10℃/分とした場合。
エ-2 寸法を10×30cmとして1200℃以上での冷却速度を5℃/分とした場合。
オ 焼結条件が2250℃で10hrとした焼結体○4では、
オ-1 寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を10℃/分とした場合。
オ-2 寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を20℃/分とした場合。
カ 焼結条件が2200℃で10hrとした焼結体○5では、
カ-1 寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を20℃/分とした場合。
(4)そうすると、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
なお、甲1発明の各構成には、1a~1dの符号を当審で付した。以下、 「構成1a」~「構成1d」という。
(甲1発明)
1a 変形しにくいことを前提とする電子部品用基板などに使用され、
1b 変形能を有すると考えられる1000℃以上(厚みが1.0mm以下の場合は1200℃以上)の温度範囲で冷却速度を遅くし、燒結体内の温度分布を小さくすることで、撓みの発生を抑制することができ、
1c 以下の(ア)~(カ)の焼結の条件、寸法、冷却速度である場合に、撓みの発生がない
1d セラミックス燒結体。
1c-1(ア)焼結条件が1650℃で5hrとした焼結体では、寸法を15×15cmとして1000℃以上での冷却速度を20℃/分とした場合、もしくは、寸法を10×30cmとして1200℃以上での冷却速度を5℃/分とした場合、
1c-2(イ)焼結条件が1850℃で5hrとした焼結体では、寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を10℃/分とした場合、もしくは、寸法を10×30cmとして1200℃以上での冷却速度を5℃/分とした場合、
1c-3(ウ)焼結条件が1700℃で5hrとした焼結体では、寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を20℃/分とした場合、
1c-4(エ)焼結条件が1700℃で5hrとした後に1800℃で10atmで1hrとした焼結体では、寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を10℃/分とした場合、もしくは、寸法を10×30cmとして1200℃以上での冷却速度を5℃/分とした場合、
1c-5(オ)焼結条件が2250℃で10hrとした焼結体では、寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を10℃/分とした場合、もしくは、寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を20℃/分とした場合、
1c-6(カ)焼結条件が2200℃で10hrとした焼結体では、寸法を15×15cmとして1200℃以上での冷却速度を20℃/分とした場合。
2 甲第2号証に記載された発明
(1)【0007】より、反り及びうねりが小さく十分な機械的強度及び熱伝導率を有する窒化珪素焼結体基板に関するものである。
(2)【0027】より、窒化珪素焼結体基板は、グリーンシートの積層体を用いて製造されるものである。
(3)【0040】より、グリーンシートの焼成は、徐熱域P0を有する昇温域と、第一の温度保持域P1及び第二の温度保持域P2を有する温度保持域と、冷却域とからなる温度プロファイルPに従って行うものである。
(4)【0041】より、徐熱域P0の温度T0を、第一の温度保持域P1の温度T1より低い1400~1600℃の範囲内とし、徐熱域P0における加熱速度を300℃/時間以下とし、加熱時間t0を0.5~30時間とするものである。
(5)【0042】より、第一の温度保持域P1の温度T1を1600~2000℃の範囲内とし、保持時間t1を約1~30時間とし、1600~2000℃の温度範囲内であれば、第一の温度保持域P1内で加熱温度T1が変化しても良いものである。
(6)【0044】より、第一の温度保持域P1の後にある第二の温度保持域P2の温度T2は1400~1700℃の範囲内で、かつ第一の温度保持域P1の温度T1より低く、第二の温度保持域P2の保持時間t2は0.5~45時間とするものである。
(7)【0049】より、第二の温度保持域P2の後にある冷却域P3の冷却速度は100℃/時間以上が好ましく、300℃/時間以上がより好ましく、500℃/時間以上が最も好ましく、実用的には、500~600℃/時間が好ましいものである。
(8)【0050】より、窒化珪素焼結体基板の反りは2.5μm/mm以内に低減されており、好ましくは2.0μm/mm以内であり、より好ましくは1.5μm/mm以内であり、できるだけ小さいのが好ましいが、実用的には下限は0.1μm/mm程度である。
(9)【0051】より、窒化珪素焼結体基板の反りは、窒化珪素焼結体基板の表面に対して、三次元レーザ計測器により3本の走査線L1、L2、L3(走査線L1及びL3は窒化珪素焼結体基板の各側端から10mmだけ内側の線に沿っており、走査線L2は窒化珪素焼結体基板の中心線に沿っている。)に沿ってレーザ光を走査し、各走査線L1~L3について、窒化珪素焼結体基板の表面の走査方向両端を結ぶ直線を水平にし、直線から最も上方に離隔した点Eの高さGと、最も下方に離隔した点Fの高さHとを求め、点Eと点Fとの垂直方向距離(G+H)を各走査線L1~L3の長さIで割り、走査線L1~L3ごとに得られた(G+H)/Iの値を平均し、反りとするものである。
(10)【0056】より、窒化珪素焼結体基板の好ましいサイズは120mm×120mmであり、より好ましいサイズは140mm×140mmである。
(11)そうすると、甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
なお、甲2発明の各構成には、2a~2kの符号を当審で付した。以下、 「構成2a」~「構成2k」という。
2a 反り及びうねりが小さく十分な機械的強度及び熱伝導率を有する窒化珪素焼結体基板に関するものであって、
2b グリーンシートの積層体を用いて製造され、
2c グリーンシートの焼成は、徐熱域P0を有する昇温域と、第一の温度保持域P1及び第二の温度保持域P2を有する温度保持域と、冷却域とからなる温度プロファイルPに従って行い、
2d 徐熱域P0の温度T0を、第一の温度保持域P1の温度T1より低い1400~1600℃の範囲内とし、徐熱域P0における加熱速度を300℃/時間以下とし、加熱時間t0を0.5~30時間とし、
2e 第一の温度保持域P1の温度T1を1600~2000℃の範囲内とし、保持時間t1を約1~30時間とし、1600~2000℃の温度範囲内であれば、第一の温度保持域P1内で加熱温度T1が変化しても良く、
2f 第一の温度保持域P1の後にある第二の温度保持域P2の温度T2は1400~1700℃の範囲内で、かつ第一の温度保持域P1の温度T1より低く、第二の温度保持域P2の保持時間t2は0.5~45時間とし、
2g 第二の温度保持域P2の後にある冷却域P3の冷却速度は100℃/時間以上が好ましく、300℃/時間以上がより好ましく、500℃/時間以上が最も好ましく、実用的には、500~600℃/時間が好ましく、
2h 窒化珪素焼結体基板の反りは2.5μm/mm以内に低減されており、好ましくは2.0μm/mm以内であり、より好ましくは1.5μm/mm以内であり、できるだけ小さいのが好ましいが、実用的には下限は0.1μm/mm程度であり、
2i 窒化珪素焼結体基板の反りは、窒化珪素焼結体基板の表面に対して、三次元レーザ計測器により3本の走査線L1、L2、L3(走査線L1及びL3は窒化珪素焼結体基板の各側端から10mmだけ内側の線に沿っており、走査線L2は窒化珪素焼結体基板の中心線に沿っている。)に沿ってレーザ光を走査し、各走査線L1~L3について、窒化珪素焼結体基板の表面の走査方向両端を結ぶ直線を水平にし、直線から最も上方に離隔した点Eの高さGと、最も下方に離隔した点Fの高さHとを求め、点Eと点Fとの垂直方向距離(G+H)を各走査線L1~L3の長さIで割り、走査線L1~L3ごとに得られた(G+H)/Iの値を平均し、反りとするものであり、
2j 窒化珪素焼結体基板の好ましいサイズは120mm×120mmであり、より好ましいサイズは140mm×140mmである
2k 窒化珪素焼結体基板。
3 甲第3号証に記載された技術事項
(1)【0015】より、多数個取り配線基板1は、セラミックからなり、平面視が正方形(矩形)の表面2および裏面3を有する複数の配線基板部5を縦横に隣接して併有する製品領域4と、上記と同じセラミックからなり、該製品領域4の周囲に位置し平面視が四角形枠状の表面2および裏面3を有する耳部6と、上記配線基板部5,5間の境界cfおよび製品領域4と耳部6との境界cfに沿って表面2で平面が格子状に形成された分割溝8と、を備えている。
(2)【0016】より、個々の分割溝8は、製品領域4と耳部6との境界cfと直角に交差して耳部6内に延在する一対の端部9を両端に有し、製品領域4と耳部6との境界cfよりも該耳部6側に延在する端部9ごとの長さsは、平面視および側面視において、0.5~5mmの範囲とされている。
(3)上記(1)、(2)の記載から、甲第3号証には、
「セラミックからなり、平面視が正方形(矩形)の表面2および裏面3を有する複数の配線基板部5を縦横に隣接して併有する製品領域4と、
上記と同じセラミックからなり、該製品領域4の周囲に位置し平面視が四角形枠状の表面2および裏面3を有する耳部6と、
上記配線基板部5,5間の境界cfおよび製品領域4と耳部6との境界cfに沿って表面2で平面が格子状に形成された分割溝8と、を備え、
個々の分割溝8は、製品領域4と耳部6との境界cfと直角に交差して耳部6内に延在する一対の端部9を両端に有し、製品領域4と耳部6との境界cfよりも該耳部6側に延在する端部9ごとの長さsは、平面視および側面視において、0.5~5mmの範囲とされる
多数個取り配線基板1。」
とする技術事項(以下、「甲3技術事項」という。)が記載されている。
4 甲第4号証に記載された技術事項
(1)【0019】より、セラミックス回路基板集合体1は、セラミックス回路基板2とダミー部31、32、33、34、35とで構成され、セラミックス回路基板2とダミー部31~35を分割するための分割溝5が形成されている。
(2)【0043】より、【図1】のダミー部31におけるセラミックス基板の寸法は5mm×5mmである。
そうすると、【図1】のダミー部31を含む部分は、分割溝5により少なくとも5mmの幅で分割されることが見て取れる。
(3)上記(1)、(2)の記載から、甲第4号証には、
「セラミックス回路基板2とダミー部31、32、33、34、35とで構成され、セラミックス回路基板2とダミー部31~35を分割するための分割溝5が形成され、
ダミー部31を含む部分は、分割溝5により少なくとも5mmの幅で分割される
セラミックス回路基板集合体1。」
とする技術事項(以下、「甲4技術事項」という。)が記載されている。
5 甲第5号証に記載された技術事項
(1)【0011】より、窒化珪素回路基板は、長手方向の反り量SL1と短辺方向の反り量SL2が共に0.01~1.0mmの範囲内となり、対角線方向の反り量SL3は、0.1≦SL3≦1.5mmの範囲内である。
(2)上記(1)の記載から、甲第5号証には、
「長手方向の反り量SL1と短辺方向の反り量SL2が共に0.01~1.0mmの範囲内となり、
対角線方向の反り量SL3は、0.1≦SL3≦1.5mmの範囲内である
窒化珪素回路基板。」
とする技術事項(以下、「甲5技術事項」という。)が記載されている。
6 甲第6号証に記載された技術事項
(1)【0001】、【0018】より、窒化アルミニウムを主成分とする粉末成形体の焼結体は、反り量を35μm/10mm以下とするものである。
(2)上記(1)の記載から、甲第6号証には、
「反り量を35μm/10mm以下とする
窒化アルミニウムを主成分とする粉末成形体の焼結体。」
とする技術事項(以下、「甲6技術事項」という。)が記載されている。
7 甲第7号証に記載された技術事項
(1)【0005】より、セラミック板は、優れた耐熱性を有し、積層された複数のセラミックグリーンシートの互いの位置がずれることを抑制できる板ばねとして好適に用いられるものである。
(2)【0006】より、セラミック板は、凸状に湾曲している第1主面と、当該第1主面の反対側に凹状に湾曲している第2主面とを有し、反り量Wが1mm以上である。
(3)【0012】より、セラミック板は、凸状又は凹状の湾曲面を有するセッターを用いることによって、反り量Wが1mm以上となる。
(4)上記(1)~(3)の記載から、甲第7号証には、
「優れた耐熱性を有し、積層された複数のセラミックグリーンシートの互いの位置がずれることを抑制できる板ばねとして好適に用いられ、
凸状に湾曲している第1主面と、当該第1主面の反対側に凹状に湾曲している第2主面とを有し、反り量Wが1mm以上であり、
凸状又は凹状の湾曲面を有するセッターを用いることによって、反り量Wが1mm以上となる
セラミック板。」
とする技術事項(以下、「甲7技術事項」という。)が記載されている。
第5 当審の判断
1 特許法第36条第4項第1号(理由1:実施可能要件違反)について
(1)判断
本件特許明細書の【0025】~【0033】には、セラミック基板の構成について記載されており、当該記載は、本件特許発明1のセラミック基板の説明を含むものである。
また、本件特許明細書の【0039】~【0078】には、本実施形態のセラミック基板の製造方法が記載され、特に、スラリーの原料粉末の成分や割合(【0044】~【0047】)、セラミック基板の大きさや厚み(【0057】)、焼結工程の前の堆積工程における重ねる枚数(【0060】)、脱脂工程の温度と時間(【0063】)、焼結工程における昇温域の温度と時間(【0068】)、温度保持域の温度と時間(【0069】)、冷却域の冷却速度(【0071】)、急冷域の開始温度(【0072】、【0076】)、切断工程における切断幅(【0074】、【0077】)について具体的に記載されている。
そうすると、本件特許明細書の【0039】~【0078】に記載されたセラミック基板の製造方法により、本件特許明細書の【0025】~【0033】に記載されたセラミック基板、すなわち、本件特許発明1のセラミック基板が製造されるものであるから、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものである。
さらに、請求項2~16に係る発明についても同様である。
(2)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、実施可能要件違反の具体的理由として、以下のような主張をしている。
「(ア)本件特許発明1について
本件特許明細書の段落0042-0077には、本件特許発明に係るセラミック基板の製造方法が記載されている。
しかし、これらの製造方法の説明には、セラミック基板において、「セラミックス基板の一対の対角線により形成される交差点をセラミック基板の板厚方向の基準とした場合に、一対の対角線により分けられる4つの領域のうち交差点を挟んで対向する一対の第1領域及び一対の第2領域の一方は交差点よりも板厚方向の一方側に位置し、他方は交差点よりも板厚方向の他方側に位置する」形状を実現するための手段が何ら記載されていない。
(中略)
してみれば、本件特許明細書は、当業者が本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明7-16を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
(イ)本件特許発明2-6について
本件特許発明2についても、本件特許発明1と同様に、本件特許明細書には、「その平面視にてその中心を通りかつ四辺のうちの任意の一辺に平行な第1直線により切断される第1切断面は、その長さ方向の中央部分が板厚方向の一方側に向けて凸状に湾曲し、前記中心を通りかつ前記第1直線と直交する第2直線により切断される第2切断面は、その長さ方向の中央部分が前記板厚方向の他方側に向けて凸状に湾曲」した基板を製造するための方法が、何ら記載されていない。
本件特許発明3-6についても同様に、本件特許発明3-6において特定された形状を基板に付与するための方法が、本件特許明細書には何ら記載されていない。
したがって、本件特許明細書は、当業者が本件特許発明2及びこれを引用する本件特許発明3-16を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。」(18頁2行~22頁7行)
イ 特許異議申立人の主張に対する検討
上記主張について検討する。
上記(1)で判断したように、本件特許明細書の【0039】~【0078】に記載されたセラミック基板の製造方法により、本件特許発明1のセラミック基板が製造されるものであって、すなわち、当該製造方法により、本件特許発明1の構成である「セラミックス基板の一対の対角線により形成される交差点をセラミック基板の板厚方向の基準とした場合に、一対の対角線により分けられる4つの領域のうち交差点を挟んで対向する一対の第1領域及び一対の第2領域の一方は交差点よりも板厚方向の一方側に位置し、他方は交差点よりも板厚方向の他方側に位置する」形状を実現し、本件特許発明2の構成である「その平面視にてその中心を通りかつ四辺のうちの任意の一辺に平行な第1直線により切断される第1切断面は、その長さ方向の中央部分が板厚方向の一方側に向けて凸状に湾曲し、前記中心を通りかつ前記第1直線と直交する第2直線により切断される第2切断面は、その長さ方向の中央部分が前記板厚方向の他方側に向けて凸状に湾曲」した形状を実現するものであるから、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
2 甲1発明を主引例とした場合の特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項(理由2、3:新規性、進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 甲1発明との対比
(ア)構成1Aについて
構成1a、1dより、甲1発明の「セラミック焼結体」は、電子部品用基板に使用されるものであるから、甲1発明のセラミック焼結体を使用した電子部品用基板は、本件特許発明1の「セラミック基板」に相当する。
また、構成1c-1~1c-6より、甲1発明のセラミック焼結体の寸法は、15×15cmもしくは10×30cmであるから、平面視では矩形状であるといえるので、甲1発明のセラミック焼結体を使用した電子部品用基板は、本件特許発明1の「平面視にて矩形状のセラミック基板」に相当する。
(イ)構成1Bについて
本件特許発明1のセラミック基板は、「その一対の対角線により形成される交差点を前記セラミック基板の板厚方向の基準とした場合に、前記一対の対角線により分けられる4つの領域のうち前記交差点を挟んで対向する一対の第1領域及び一対の第2領域の一方は前記交差点よりも前記板厚方向の一方側に位置し、他方は前記交差点よりも前記板厚方向の他方側に位置」することを特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定を有していない点で相違する。
(ウ)構成1Cについて
本件特許発明1のセラミック基板は、「前記セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の前記板厚方向の最大凸量を除した値は、2μm/mm以上6μm/mm以下」であることを特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定を有していない点で相違する。
(エ)構成1Dについて
構成1c-1~1c-6より、甲1発明のセラミック焼結体の寸法は、15×15cmもしくは10×30cmであるから、セラミック焼結体を使用した電子部品用基板の対角線の長さは、それぞれ150mm以上である。
したがって、甲1発明は、構成1Dに相当する構成を有するものである。
イ 一致点・相違点
以上より、本件特許発明1と甲1発明との一致点・相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
1A 平面視にて矩形状のセラミック基板であって、
1D 前記対角線の長さが150mm以上である
1A セラミック基板。
(相違点)
(相違点1)
本件特許発明1のセラミック基板は、「その一対の対角線により形成される交差点を前記セラミック基板の板厚方向の基準とした場合に、前記一対の対角線により分けられる4つの領域のうち前記交差点を挟んで対向する一対の第1領域及び一対の第2領域の一方は前記交差点よりも前記板厚方向の一方側に位置し、他方は前記交差点よりも前記板厚方向の他方側に位置」することを特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定を有していない点。
(相違点2)
本件特許発明1のセラミック基板は、「前記セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の前記板厚方向の最大凸量を除した値は、2μm/mm以上6μm/mm以下」であることを特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定を有していない点。
ウ 検討
事案に鑑みて、上記相違点2について先に検討する。
甲1発明には、上記相違点2に係る構成について記載がないので、甲1発明により、上記相違点2に係る構成が導出できるかについて検討する。
甲1発明のセラミック焼結体は、構成1c-1~1c-6より、焼結条件が1650℃、1850℃、1700℃、1700℃の後に1800℃、2250℃、2200℃のいずれかであって、構成1bのように、1000℃以上(厚みが1.0mm以下の場合は1200℃以上)の温度範囲で冷却速度を遅くしたものである。
また、当該構成1bの記載から見て、1000℃以上もしくは1200℃以上における冷却速度は、当該温度以下の冷却速度より遅いことから、1000℃もしくは1200℃を境として、冷却速度を更に大きくするものといえる。
更に、1000℃以上もしくは1200℃以上における冷却速度は、構成1c-1~1c-6より、20℃/分、10℃/分、5℃/分(すなわち、1200℃/時間、600℃/時間、300℃/時間)である。
それに対して、本件特許発明1のセラミック基板は、本件特許明細書の【0070】~【0072】の記載から見て、昇温域及び温度保持域により焼成室内の温度が少なくとも1600℃以上になるまで焼成室内を加熱し、焼成室内を冷却する温度域である冷却域の冷却速度は、100℃/時間以上が好ましく、300℃/時間以上がより好ましく、500℃/時間以上が更に好ましく、実用的な冷却速度は、500℃~600℃/時間が好ましいとされ、更に冷却速度を大きくする温度領域である急冷域は、焼成室内の温度が900℃以上1200℃以下のいずれかの温度になった場合に開始されるものである。また、本件特許明細書の【0074】より、焼結工程の後、外周部分切断工程により外周部分のうちの少なくとも3mmの幅の部分を切断するものである。
そこで、本件特許発明1のセラミック基板を製造する方法と、甲1発明のセラミック焼結体を製造する方法とを対比する。
温度保持域での焼成室内の温度に関して、本件特許発明1のセラミック基板を製造する方法では少なくとも1600℃以上であるのに対し、甲1発明では、1650℃、1850℃、1700℃、1700℃の後に1800℃、2250℃、2200℃のいずれかであるから、当該温度は共通するものである。
冷却域の冷却速度に関して、本件特許発明1のセラミック基板を製造する方法では、100℃/時間以上が好ましく、300℃/時間以上がより好ましく、500℃/時間以上が更に好ましく、実用的な冷却速度は、500℃~600℃/時間が好ましいとされているのに対し、甲1発明では、1200℃/時間、600℃/時間、300℃/時間のいずれかであるから、冷却速度は共通するものである。
急冷域は、本件特許発明1のセラミック基板を製造する方法では、焼成室内の温度が900℃以上1200℃以下のいずれかの温度になった場合に開始されるのに対し、甲1発明では、1000℃もしくは1200℃で開始されるから急冷域の開始温度は共通するものである。
そうすると、温度保持域における温度、冷却域における冷却速度、急冷域の開始温度については、本件特許発明1のセラミック基板を製造する方法と甲1発明とでは、共通するものである。
しかし、本件特許発明1のセラミック基板を製造する方法では、焼結工程の後、外周部分切断工程により外周部分のうちの少なくとも3mmの幅の部分を切断するのに対し、甲1発明は、そのような切断工程を有しないものである。
そして、本件特許明細書の【0077】には、〔外周部分切断工程S3を行うことの技術的意義〕として、外周部分の切断幅が大きいほど、反り量が小さくなり、反り量のばらつきが小さくなるが、切断幅が大きいほど廃棄量が増えることから、外周部分の切断幅を少なくとも3mmとすることが好ましいことが開示され、【図4B】から、外周縁切断幅が3mm以上であれば反り量が6μm/mm以下であるが、外周縁切断幅が0mmであると反り量が6μm/mmを超える場合もあることが見て取れる。
すなわち、本件特許発明1では、「前記セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の前記板厚方向の最大凸量を除した値は、2μm/mm以上6μm/mm以下」であるセラミック基板が製造されるためには、外周部分切断工程により外周部分のうちの少なくとも3mmの幅の部分を切断することが必要であるといえる。
それに対し、甲第1号証には、温度保持域における温度、冷却域における冷却速度、急冷域の開始温度については、本件特許発明1のセラミック基板を製造する方法と共通するものの、外周部分切断工程については何ら記載も示唆もされておらず、切断幅をどの程度にするかについての示唆もない。
したがって、甲1発明のセラミック焼結体を使用した電子部品用基板は、本件特許発明1のように「前記セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の前記板厚方向の最大凸量を除した値は、2μm/mm以上6μm/mm以下」であるとはいえない。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも相違点2を有するので、本件特許発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。
また、甲1発明において、本件特許発明1のセラミック基板を製造する方法のように、外周部分切断工程を有し、切断幅を少なくとも3mmにしようとすることの動機付けがなく、甲第2号証にも、外周部分切断工程に関する記載も示唆もない。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明でない。
また、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書において、相違点1、2に関する以下のような主張をしている。
「仮に、昇温域が相違点1b、1cに係る基板の形状に関係し得たとしても、甲1発明において、甲2発明のように、約12時間で室温から1600℃~2000℃の範囲内の温度まで段階的に昇温させることは、当業者が容易に為し得たことである。」(53頁4~7行)
(イ)特許異議申立人の主張に対する検討
上記主張について検討する。
昇温域に関して甲第2号証に示唆されているとしても、甲第2号証には、外周部分切断工程に関する記載も示唆もない以上、上記ウで検討したように、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
(2)本件特許発明2について
ア 甲1発明との対比
(ア)構成2Aについて
構成1a、1dより、甲1発明の「セラミック焼結体」は、電子部品用基板に使用されるものであるから、甲1発明のセラミック焼結体を使用した電子部品用基板は、本件特許発明2の「セラミック基板」に相当する。
また、構成1c-1~1c-6より、甲1発明のセラミック焼結体の寸法は、15×15cmもしくは10×30cmであるから、平面視では矩形状であるといえるので、甲1発明のセラミック焼結体を使用した電子部品用基板は、本件特許発明2の「平面視にて矩形状のセラミック基板」に相当する。
(イ)構成2B、2Cについて
本件特許発明2のセラミック基板は、「その平面視にてその中心を通りかつ四辺のうちの任意の一辺に平行な第1直線により切断される第1切断面は、その長さ方向の中央部分が板厚方向の一方側に向けて凸状に湾曲し、前記中心を通りかつ前記第1直線と直交する第2直線により切断される第2切断面は、その長さ方向の中央部分が前記板厚方向の他方側に向けて凸状に湾曲」していることを特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定を有していない点で相違する。
(ウ)構成2Dについて
本件特許発明2のセラミック基板は、「前記セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の前記板厚方向の最大凸量を除した値は、2μm/mm以上6μm/mm以下」であることを特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定を有していない点で相違する。
(エ)構成2Eについて
構成1c-1~1c-6より、甲1発明のセラミック焼結体の寸法は、15×15cmもしくは10×30cmであるから、セラミック焼結体を使用した電子部品用基板の対角線の長さは、それぞれ150mm以上である。
したがって、甲1発明は、構成2Eに相当する構成を有するものである。
イ 一致点・相違点
以上より、本件特許発明2と甲1発明との一致点・相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
2A 平面視にて矩形状のセラミック基板であって、
2E 前記対角線の長さが150mm以上である
2A セラミック基板。
(相違点)
(相違点3)
本件特許発明2のセラミック基板は、「その平面視にてその中心を通りかつ四辺のうちの任意の一辺に平行な第1直線により切断される第1切断面は、その長さ方向の中央部分が板厚方向の一方側に向けて凸状に湾曲し、前記中心を通りかつ前記第1直線と直交する第2直線により切断される第2切断面は、その長さ方向の中央部分が前記板厚方向の他方側に向けて凸状に湾曲していることを特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定を有していない点。
(相違点4)
本件特許発明2のセラミック基板は、「前記セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の前記板厚方向の最大凸量を除した値は、2μm/mm以上6μm/mm以下」であることを特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定を有していない点。
ウ 検討
事案に鑑みて、上記相違点4について先に検討する。
甲1発明には、上記相違点4に係る構成について記載がないので、甲1発明により、上記相違点4に係る構成が導出できるかについて検討する。
上記(1)ウの検討と同様に、本件特許発明2のセラミック基板を製造する方法と、甲1発明のセラミック焼結体を製造する方法とを対比すると、温度保持域における温度、冷却域における冷却速度、急冷域の開始温度については、本件特許発明2のセラミック基板を製造する方法と甲1発明とでは、共通するものである。
しかし、本件特許発明2のセラミック基板を製造する方法では、焼結工程の後、外周部分切断工程により外周部分のうちの少なくとも3mmの幅の部分を切断するのに対し、甲1発明は、そのような切断工程を有しないものである。
そして、本件特許明細書の【0077】には、〔外周部分切断工程S3を行うことの技術的意義〕として、外周部分の切断幅が大きいほど、反り量が小さくなり、反り量のばらつきが小さくなるが、切断幅が大きいほど廃棄量が増えることから、外周部分の切断幅を少なくとも3mmとすることが好ましいことが開示され、【図4B】から、外周縁切断幅が3mm以上であれば反り量が6μm/mm以下であるが、外周縁切断幅が0mmであると反り量が6μm/mmを超える場合もあることが見て取れる。
すなわち、本件特許発明2では、「前記セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の前記板厚方向の最大凸量を除した値は、2μm/mm以上6μm/mm以下」であるセラミック基板が製造されるためには、外周部分切断工程により外周部分のうちの少なくとも3mmの幅の部分を切断することが必要であるといえる。
それに対し、甲第1号証には、温度保持域における温度、冷却域における冷却速度、急冷域の開始温度については、本件特許発明2のセラミック基板を製造する方法と共通するものの、外周部分切断工程については何ら記載も示唆もされておらず、切断幅をどの程度にするかについての示唆もない。
したがって、甲1発明のセラミック焼結体を使用した電子部品用基板は、本件特許発明2のように「前記セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の前記板厚方向の最大凸量を除した値は、2μm/mm以上6μm/mm以下」であるとはいえない。
そうすると、本件特許発明2と甲1発明とを対比すると、少なくとも相違点4を有するので、本件特許発明2は甲第1号証に記載された発明ではない。
また、甲1発明において、本件特許発明2のセラミック基板を製造する方法のように、外周部分切断工程を有し、切断幅を少なくとも3mmにしようとすることの動機付けがなく、甲第2号証にも、外周部分切断工程に関する記載も示唆もない。
したがって、相違点3について検討するまでもなく、請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明でない。
また、請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件特許発明3~16について
本件特許発明3~16は、本件特許発明1もしくは2を直接若しくは間接に引用する発明であるから、少なくとも上記(1)イの相違点1、2もしくは(2)イの相違点3、4を有するものである。
したがって、本件特許発明1もしくは2についての判断と同様の理由により、本件特許発明3~7は、甲第1号証に記載された発明でない。
また、本件特許発明3~9は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、甲3技術事項には、製品領域と耳部との境界に沿って形成された分割溝を備えることが記載され、甲4技術事項には、セラミックス回路基板とダミー部を分割するための分割溝が形成されることが記載されているものの、甲3技術事項の耳部は製品領域以外の部分であり、甲4技術事項のダミー部はセラミックス回路基板以外の部分であるから、分割溝による切断幅は、不要な部分を切断する幅としているものといえる。
そうすると、甲3技術事項、甲4技術事項は、切断幅が大きいほど、反り量が小さくなり、反り量のばらつきが小さくなるが、切断幅が大きいほど廃棄量が増えることから、外周部分の切断幅を少なくとも3mmとすることを考慮したものでなく、甲3技術事項、甲4技術事項を甲1発明に適用する動機がない。
したがって、本件特許発明10~16は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 甲2発明を主引例とした場合の特許法第29条第2項(理由4:進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 甲2発明との対比
(ア)構成1Aについて
甲2発明の「窒化珪素焼結体基板」は、本件特許発明1の「セラミック基板」に相当する。
また、構成2jより、甲2発明の窒化珪素焼結体基板の好ましいサイズは120mm×120mmであり、より好ましいサイズは140mm×140mmであるから、平面視では矩形状であるといえるので、甲2発明の窒化珪素焼結体基板は、本件特許発明1の「平面視にて矩形状のセラミック基板」に相当する。
(イ)構成1Bについて
本件特許発明1のセラミック基板は、「その一対の対角線により形成される交差点を前記セラミック基板の板厚方向の基準とした場合に、前記一対の対角線により分けられる4つの領域のうち前記交差点を挟んで対向する一対の第1領域及び一対の第2領域の一方は前記交差点よりも前記板厚方向の一方側に位置し、他方は前記交差点よりも前記板厚方向の他方側に位置」することを特定するのに対し、甲2発明は、そのような特定を有していない点で相違する。
(ウ)構成1Cについて
構成2hより、甲2発明の窒化珪素焼結体基板の反りは2.5μm/mm以内に低減されており、好ましくは2.0μm/mm以内であり、より好ましくは1.5μm/mm以内であり、できるだけ小さいのが好ましいが、実用的には下限は0.1μm/mm程度である。
構成2iより、窒化珪素焼結体基板の反りは、最も上方に離隔した点Eの高さGと、最も下方に離隔した点Fの高さHとを求め、点Eと点Fとの垂直方向距離(G+H)を各走査線L1~L3(走査線L1及びL3は窒化珪素焼結体基板の各側端から10mmだけ内側の線に沿っており、走査線L2は窒化珪素焼結体基板の中心線に沿っている。)の長さIで割り、走査線L1~L3ごとに得られた(G+H)/Iの値を平均し、反りとするものである。
ここで、点Eと点Fとの垂直方向距離(G+H)は、本件特許発明1の「前記セラミック基板の前記板厚方向の最大凸量」に相当する。
また、各走査線の長さIは、窒化珪素焼結体基板の辺の長さに等しく、構成2jより、甲2発明の窒化珪素焼結体基板のサイズは、120mm×120mm、140mm×140mmであるから、その対角線の長さは、√2Iである。
そうすると、甲2発明において、「前記セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の前記板厚方向の最大凸量を除した値」は、(G+H)/Iを更に、√2で除した値であるから、最大でも、2.5/√2=1.77μm/mmとなる。
そうすると、セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の板厚方向の最大凸量を除した値は、本件特許発明1が、「2μm/mm以上6μm/mm以下」であるのに対し、甲2発明は、最大でも1.77μm/mmである点で相違する。
(エ)構成1Dについて
構成2jより、甲2発明の窒化珪素焼結体基板の好ましいサイズは120mm×120mmであり、より好ましいサイズは140mm×140mmであるから、窒化珪素焼結体基板の対角線の長さは、それぞれ150mm以上である。
したがって、甲2発明は、構成1Dに相当する構成を有するものである。
イ 一致点・相違点
以上より、本件特許発明1と甲2発明との一致点・相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
1A 平面視にて矩形状のセラミック基板であって、
1D 前記対角線の長さが150mm以上である
1A セラミック基板。
(相違点5)
本件特許発明1のセラミック基板は、「その一対の対角線により形成される交差点を前記セラミック基板の板厚方向の基準とした場合に、前記一対の対角線により分けられる4つの領域のうち前記交差点を挟んで対向する一対の第1領域及び一対の第2領域の一方は前記交差点よりも前記板厚方向の一方側に位置し、他方は前記交差点よりも前記板厚方向の他方側に位置」することを特定するのに対し、甲2発明は、そのような特定を有していない点。
(相違点6)
セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の板厚方向の最大凸量を除した値は、本件特許発明1が、「2μm/mm以上6μm/mm以下」であるのに対し、甲2発明は、最大でも1.77μm/mmである点。
ウ 検討
事案に鑑みて、上記相違点6について先に検討する。
セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の板厚方向の最大凸量を除した値について、甲2発明は最大でも1.77μm/mmであり、構成2hより、甲2発明は、小さければ小さいほど好ましいものである。
そして、1.77μm/mmより小さければ小さいほど好ましい甲2発明において、本件特許発明1のように、2μm/mm以上6μm/mm以下にしようとする動機がない。
したがって、相違点5について検討するまでもなく、請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件特許発明2について
ア 甲2発明との対比
(ア)構成2Aについて
甲2発明の「窒化珪素焼結体基板」は、本件特許発明2の「セラミック基板」に相当する。
また、構成2jより、甲2発明の窒化珪素焼結体基板の好ましいサイズは120mm×120mmであり、より好ましいサイズは140mm×140mmであるから、平面視では矩形状であるといえるので、甲2発明の窒化珪素焼結体基板は、本件特許発明2の「平面視にて矩形状のセラミック基板」に相当する。
(イ)構成2B、2Cについて
本件特許発明2のセラミック基板は、「その平面視にてその中心を通りかつ四辺のうちの任意の一辺に平行な第1直線により切断される第1切断面は、その長さ方向の中央部分が板厚方向の一方側に向けて凸状に湾曲し、前記中心を通りかつ前記第1直線と直交する第2直線により切断される第2切断面は、その長さ方向の中央部分が前記板厚方向の他方側に向けて凸状に湾曲」していることを特定するのに対し、甲2発明は、そのような特定を有していない点で相違する。
(ウ)構成2Dについて
上記(1)ア(ウ)と同様に、セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の板厚方向の最大凸量を除した値は、本件特許発明2が、「2μm/mm以上6μm/mm以下」であるのに対し、甲2発明は、最大でも1.77μm/mmである点で相違する。
(エ)構成2Eについて
構成2jより、甲2発明の窒化珪素焼結体基板の好ましいサイズは120mm×120mmであり、より好ましいサイズは140mm×140mmであるから、窒化珪素焼結体基板の対角線の長さは、それぞれ150mm以上である。
したがって、甲2発明は、構成2Eに相当する構成を有するものである。
イ 一致点・相違点
以上より、本件特許発明2と甲2発明との一致点・相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
2A 平面視にて矩形状のセラミック基板であって、
2E 前記対角線の長さが150mm以上である
2A セラミック基板。
(相違点)
(相違点7)
本件特許発明2のセラミック基板は、「その平面視にてその中心を通りかつ四辺のうちの任意の一辺に平行な第1直線により切断される第1切断面は、その長さ方向の中央部分が板厚方向の一方側に向けて凸状に湾曲し、前記中心を通りかつ前記第1直線と直交する第2直線により切断される第2切断面は、その長さ方向の中央部分が前記板厚方向の他方側に向けて凸状に湾曲」していることを特定するのに対し、甲2発明は、そのような特定を有していない点。
(相違点8)
セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の板厚方向の最大凸量を除した値は、本件特許発明2が、「2μm/mm以上6μm/mm以下」であるのに対し、甲2発明は、最大でも1.77μm/mmである点。
ウ 検討
事案に鑑みて、上記相違点8について先に検討する。
セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の板厚方向の最大凸量を除した値について、甲2発明は最大でも1.77μm/mmであり、構成2hより、甲2発明は、小さければ小さいほど好ましいものである。
そして、1.77μm/mmより小さければ小さいほど好ましい甲2発明において、本件特許発明2のように、2μm/mm以上6μm/mm以下にしようとする動機がない。
したがって、相違点7について検討するまでもなく、請求項2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件特許発明3~16について
本件特許発明3~16は、本件特許発明1もしくは2を直接若しくは間接に引用する発明であるから、少なくとも上記(1)イの相違点5、6もしくは(2)イの相違点7、8を有するものである。
したがって、本件特許発明1もしくは2についての判断と同様の理由により、本件特許発明3~9は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、甲3技術事項、甲4技術事項を勘案しても、1.77μm/mmより小さければ小さいほど好ましい甲2発明において、本件特許発明1、2のように、2μm/mm以上6μm/mm以下にしようとする動機を見いだすことはできない。
したがって、本件特許発明10~16は、甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
4 特許法第36条第6項第1号(理由5:サポート要件違反)について
(1)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、サポート要件違反の具体的理由として、以下のような主張をしている。
「本件特許明細書では、その段落0029において「以上より、本実施形態のセラミック基板40では、最大凸量は約600μmであり、対角線の長さが約252.5mmであるから、その反り量は、2μm/mm~6μm/mm以下を満たす約2.37μm/mmとなる。」との一例が記載されているにすぎない。
出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明1、2の範囲まで、本件特許明細書に記載された一例を拡張ないし一般化できるとはいえない。
このため、本件特許発明1、2及びこれらを引用する本件特許発明3-16は、本件特許明細書に記載されたものではない。」(67頁4~13行)
(2)判断
確かに、本件特許明細書の【0029】には、その一例が記載されているにすぎない。
しかし、本件特許明細書の【0057】、【0076】、【0077】には、
「セラミック基板40の表面における対角線の長さが150mm以上であることが好ましく、200mm以上であることがより好ましく、236mm以上であることが特に好ましい。上限には特に制限はないが、例えば254mm以下とすることができる。」
「図3Cのグラフから分かるように、急冷開始温度が400℃~1100℃の場合と400℃の場合、反り量のばらつきを考慮しても、セラミック基板40の反り量は反り量の最大許容値未満(この場合は2μm/mm~6μm/mm未満)となる。また、急冷開始温度の極端な引き下げ(例えば400℃以下)をすると、焼成時間の延長による生産性の低下に繋がる。
そこで、本実施形態では、反り量と、焼成時間の短縮化とのバランスを考慮し、急冷開始温度が900℃~1100℃が適切な範囲であるとしている。
なお、焼成時間の短縮化を考慮しなければ、急冷開始温度を650℃未満としてもよい。」
「本願の発明者らは、急冷開始温度が650℃の場合を一例として、外周部分の切断幅を、0mm(切断無し)、3mm、6mm及び9mmに設定した場合のセラミック基板40の反り量を測定する試験を行った。図4Bは、その結果のグラフ、すなわち、外周部分切断工程S3における、外周部分の切断幅と、反り量との関係を示すグラフである。図4Bのグラフから分かるように、外周部分の切断幅が大きいほど、反り量が小さくなることが分かる。また、外周部分の切断幅が大きいほど、反り量のばらつきが小さくなることが分かる。この理由は、セラミック基板40における外周部分に近い部分ほど、冷却時の影響により圧縮応力又は引張応力がかかった状態であるため、このような部分を切断することでセラミック基板40がこれらの応力から解放されると考えられる。そして、図4Bのグラフの結果を考慮すると、外周部分を切断する必要がある。ただし、セラミック基板40の切断された外周部分は廃棄される、すなわち、切断幅が大きいほど廃棄量が増えることから、外周部分の切断幅は狭い方が好ましい。
そこで、本実施形態では、外周部分の切断幅を少なくとも3mmとすることが好ましい。」
と記載されている。
当該発明の詳細な説明の記載から、対角線の長さが150mm以上であるセラミック基板において、急冷開始温度を900℃~1100℃とし、外周部分の切断幅を少なくとも3mmとすることにより、セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の前記板厚方向の最大凸量を除した値が、2μm/mm以上6μm/mm以下となるセラミック基板が製造されるものといえる。
そうすると、発明の詳細な説明に記載されたセラミック基板を製造する方法により、本件特許発明1、2のような、「対角線の長さが150mm以上」であり、「セラミック基板の対角線の長さで前記セラミック基板の前記板厚方向の最大凸量を除した値は、2μm/mm以上6μm/mm以下」であるセラミック基板を製造できないとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
本件特許発明3~16についても同様である。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700440