特許異議申立
2023-700426
離型フィルム
- 審判番号
- 2023-700426
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-217051
- 登録番号
- 7159547
- 請求日
- 2023年04月25日
- 審決日
- 2023年08月29日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東洋紡株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
- 【異議申立人】小宮 邦彦
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 直欣
- 審判官 筑波 茂樹
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P1651.121-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7159547号発明「離型フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7159547号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続きの経緯
特許第7159547号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、平成29年11月10日に出願されたものであって、令和4年10月17日に特許権の設定登録がされ、同年10月25日に特許掲載公報が発行された。その後、令和5年4月25日に、特許異議申立人小宮邦彦(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てが行われた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~3に係る特許(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明3」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
基材フィルムが無機粒子を実質的に含有しておらず、前記基材フィルムの一方の表面上に離型塗布層を有し、基材フィルムのもう一方の表面上に粒子を含有する易滑塗布層を有し、易滑塗布層の領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上25nm以下、最大突起高さ(P)が60nm以上500nm以下、かつ粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下であり、
前記易滑塗布層は、少なくとも100nm超の粒径を有する粒子を含み、
前記易滑塗布層はアクリル樹脂を含み、前記アクリル樹脂の酸価が40mgKOH/g以上400mgKOH/g以下である
樹脂シート成型用離型フィルム。
【請求項2】
離型塗布層の領域表面平均粗さ(Sa)が5nm以下、最大突起高さ(P)が200nm以下である請求項1に記載の樹脂シート成型用離型フィルム。
【請求項3】
離型塗布層の表面自由エネルギーが15mJ/m2以上45mJ/m2以下である請求項1または2に記載の樹脂シート成型用離型フィルム。」
第3 申立理由の概要
申立人は、以下の甲第1号証~甲第4号証(以下「甲1」~「甲4」という。)を提出し、主たる証拠を甲1とし、従たる証拠を甲3又は甲4として、また、主たる証拠を甲2とし、従たる証拠を甲3又は甲4として、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきである旨を主張する。
甲1:特開平10-16163号公報
甲2:特開2016-221737号公報
甲3:特公平7-49453号公報
甲4:特許第5637539号公報
第4 各甲号証の記載
1 甲1
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】 中心線平均表面粗さが0.01μm以下のポリエステルフイルムの一方の表面にシリコーン離形層を塗設し、他方の表面に平均粒径0.05~0.5μmの微細粒子を含有する滑性付与層を塗設してなる離形フイルム。」
イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は離形フイルムに関し、更に詳しくは溶剤系の溶液やスラリーを用いて成形される樹脂シート、樹脂皮膜、セラミックシートの成形用キャリヤーフイルムに有用な、或いは溶剤系の塗液を用いて塗設される粘着剤被膜の保護フイルムに有用な離形フイルムに関する。」
ウ 「【0010】本発明のポリエステルフイルムは二軸延伸フイルムであることが好ましく、中心線平均表面粗さが0.01μm以下となる範囲内で滑剤、顔料、安定剤、帯電防止剤、UV吸収剤、その他の改良剤を含有させることができる。例えば、滑剤としてはシリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、架橋ポリスチレン粒子、架橋シリコーン樹脂粒子等を、顔料としては酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を、また帯電防止剤防止剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の如きスルホン酸塩基を有する化合物等を好ましく挙げることができる。当然のことながら、これらの改良剤を含まないポリエステルも用いることができる。」
エ 「【0027】この微細粒子の平均粒径が0.05μm未満であるとフイルムの滑り性が不足し、一方0.5μmより大きくなると塗膜からの粒子の脱落が発生し、工程を汚すか、粘着層や樹脂シート、セラミックグリーンシート層中に混入し、製品不良の原因となる。
【0028】微細粒子を固着するバインダーとしては、アルキッド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル―酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、アクリル―ポリエステル樹脂等を例示することができる。これら樹脂は単一重合体でも共重合体でもよく、また混合体でもよい。」
オ 「【0030】ポリエステルフイルムに滑性付与層を設ける方法としては、微細粒子及び被膜形成樹脂を含有する塗液、好ましくは水性塗液をポリエステルフイルムの製造工程中で結晶配向が完了する前のフイルム表面に塗布・乾燥固化する方法(インラインコーライング法)、又は二軸配向したポリエステルフイルムに微細粒子を含有する樹脂塗液を塗布・乾燥固化する方法等を採用することができるが、前者の方が好ましい。殊に、縦延伸ポリエステルフイルムの表面に水性塗液を塗布し、次いで乾燥、横延伸処理するのが好ましい。
・・・
【0033】この塗液の調製において、微細粒子は乳化剤等を用いて分散液、好ましくは水分散液としたものであってもよく、また微粉末状で溶媒に添加配合してもよい。被膜形成樹脂についても同様である。」
(2)甲1に記載された発明
上記(1)を踏まえると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「中心線平均表面粗さが0.01μm以下のポリエステルフイルムの一方の表面にシリコーン離形層を塗設し、他方の表面に平均粒径0.05~0.5μmの微細粒子を含有する滑性付与層を塗設してなり、ポリエステルフイルムは、滑剤、顔料、安定剤、帯電防止材、UV吸収材、その他の改良剤を含まないポリエステルを用い、微細粒子を固着するバインダーとしてアルキッド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等を例示することができる、樹脂シートの成形用キャリヤーフイルムに有用な離形フイルム。」
2 甲2
(1)甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
実質的に粒子を含有しないポリエステルフィルムの片面に酸変性オレフィン樹脂および架橋剤が含有されてなる離型層を設け、他方の最外層に易滑層を設けた離型フィルムであって、離型層表面の算術平均粗さ(Ra1)が10nm以下、最大山高さ(Rp1)が100nm以下であり、かつ易滑層が粒子を含有し、易滑層表面の算術平均粗さ(Ra2)が10nm未満であることを特徴とする離型フィルム。」
イ 「【0018】
本発明において、離型層は酸変性ポリオレフィン樹脂と架橋剤を含む塗工液を基材上に塗布・乾燥することにより積層することが好ましい。該塗工液は、塗工性より有機溶媒により希釈することが好ましい。」
ウ 「【0029】
本発明の離型フィルムの基材を構成するポリエステルフィルムは、実質的に粒子を含まないことが好ましい。これは、粒子を含むポリエステルフィルムではフィルムに存在する粒子由来の突起を離型層を塗布することによって平滑にする必要があるため、より多くの塗剤が必要となるためである。」
エ 「【0032】
(易滑層)
本発明の離型フィルムは離型層の反対面の最外層に易滑層を有する。
本発明における易滑層の算術表面粗さ(Ra2)は10nm未満であることが好ましく、更に好ましくは6nm以下であり、特に好ましくは3nm以下である。易滑層の算術表面粗さ(Ra2)が10nm未満であると、離型層表面に凹凸が転写されるおそれがなく、離型層表面の算術表面粗さを小さく保つことができるので好ましい。但し、あまりにも易滑層の算術表面粗さ(Ra2)が小さいと、滑り性が不十分となる場合があるので、易滑層の算術表面粗さ(Ra2)0.5nm以上であってよく、1nm以上であっても構わない。
【0033】
本発明における易滑層に含まれる粒子径の下限は好ましくは5nmであり、より好ましくは10nmであり、さらに好ましくは15nmである。5nm以上であると、すべり性を満足し、巻ずれなどを起こすおそれがなく好ましい。易滑層中の粒子径の上限は好ましくは100nmであり、より好ましくは90nmであり、さらに好ましくは80nmである。粒子径が100nm以下であると、易滑層の表面粗さを小さくでき、離型層に大きな表面粗さが転写されるおそれがなく好ましい。
・・・
【0035】
本発明における易滑コート層は粒子の脱落を防ぐ目的でバインダー樹脂を添加することが好ましい。このとき、バインダー樹脂としてはポリエステルフィルムと密着性が良好なポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂等、公知の樹脂を使用することが可能である。また、バインダー樹脂と併せて架橋剤を使用し、より強固な塗膜とすることで粒子の脱落を防ぐことがより好ましい。このとき、架橋剤としてはイソシアネート樹脂やメラミン樹脂など、公知のものを使用できる。
・・・
【0037】
易滑コート層は有機粒子または無機粒子とバインダー等を含む塗工液を基材上に塗布・乾燥することにより積層することが好ましい。該塗工液は、塗工性より溶媒により希釈することが好ましい。
・・・
【0039】
本発明における易滑コート層には、各種の添加剤を易滑性およびその他の物性を損なわない程度に添加することが可能である。例えば、帯電防止剤、界面活性剤、分散剤等が挙げられる。」
オ 「【0040】
(離型フィルム)
本発明における離型フィルムとは、半導体パッケージ等の種々の製品の製造工程に用いられる離型フィルムに関するものである。
本用途において離型フィルムは離型層上に樹脂を塗布、乾燥を行う際の支持体として好適に使用される。
・・・」
(2)甲2の認定事項
ア 段落【0035】、【0037】、【0039】には、「易滑コート層」の記載があるが、段落【0032】以降では易滑層について記載しているから、この「易滑コート層」は、「易滑層」であると認められる。
イ 請求項1のポリエステルフィルムの「他方の最外層に易滑層を設けた」との記載、及び、段落【0037】の「易滑コート層は有機粒子または無機粒子とバインダー等を含む塗工液を基材上に塗布・乾燥することにより積層することが好ましい」との記載から、他方の基材上に粒子とバインダー等を含む塗工液を塗布・乾燥することにより積層する易滑層を設けたものと認められる。
(3)甲2に記載された発明
上記(1)及び(2)を踏まえると、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「実質的に粒子を含有しない基材を構成するポリエステルフィルムの片面に酸変性オレフィン樹脂および架橋剤を含む塗工液を塗布・乾燥することにより積層する離型層を設け、他方の基材上に粒子とバインダー等を含む塗工液を塗布・乾燥することにより積層する易滑層を設けた離型フィルムであって、易滑層が粒子を含有し、易滑層表面の算術平均粗さ(Ra2)が10nm未満であり、易滑層に含まれる粒子径の下限は好ましくは5nmであり、上限は好ましくは100nmであり、易滑層は粒子の脱落を防ぐ目的でバインダー樹脂を添加することが好ましく、バインダー樹脂としてはポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂等、公知の樹脂を使用することが可能である、離型層上に樹脂を塗布、乾燥を行う際の支持体として使用される離型フィルム。」
3 甲3
甲3には、以下の事項が記載されている。
ア 第3欄第9~15行
「(産業上の利用分野)
本発明はアクリルポリオールの製造方法に関するものである。更に詳しくは、塗料、インキ等各種用途に有用、特に長期耐候性に優れると共に乾燥性、硬度、光沢、肉持性、耐溶剤性にも優れた塗膜を形成することのできるアクリルポリオールを製造する方法に関するものである。」
イ 第9欄第41行~49行
「本発明の製造方法によって得られるアクリルポリオールは、水溶性もしくは水分散タイプとして使用することもできる。このときは、アクリルポリオールを構成する前述のその他の重合性不飽和単量体(e)の一部として酸性官能基を有する不飽和単量体を選択し、得られるアクリルポリオール中の酸価が20~80KOHmg/gとなる様にすることが好ましい。必要に応じて、アンモニア、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、モルホリンなどの塩基性化合物で中和してもよい。」
ウ 第10欄第5~22行
「(発明の効果)
本発明法によって得られるアクリルポリオールは、特定組成の重合性単量体成分を用い得られる為に、長期の耐候性に優れており、例えばクリアラッカーとして使用できる他、顔料分散性にも優れている為に公知の顔料分散法により無機及び有機の顔料を分散して着色塗料とすることができる。更にポリイソシアネート化合物、ポリエポキシ化合物またはアミノ樹脂等の架橋剤を配合して硬化型塗料とすることができる。
本発明法で得られるアクリルポリオールを用いたクリアラッカー、あるいは硬化型塗料は、スプレー塗装、ロール塗装、ハケ塗りなどの塗装法により、金属類、プラスチック類、木工製品などに塗装して耐候性に優れた塗膜を形成することができる。これらの塗膜は、長期の耐候性に優れていると共に、乾燥性、硬度、光沢、肉持性、耐溶剤性の優れた塗膜と優れた作業性を有するものであり、大型構造物用、自動車補修用あるいは家具塗装等木工用の他、建築・建材用などの広い用途に使用できる。」
4 甲4
甲4には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
その末端に1個以上の水酸基を有する水酸基含有アクリル系ポリマーに、2-スルホ安息香酸無水物を反応させて得られる、その末端にスルホン酸基を有するスルホン酸基含有アクリル系ポリマーからなることを特徴とする顔料分散剤。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散剤、この顔料分散剤を用いた顔料着色剤組成物、及びこの顔料着色剤組成物を用いたカラーフィルター用顔料着色剤組成物に関する。」
ウ 「【0041】
スルホン酸基含有アクリル系ポリマーの酸価は、10~250mgKOH/gであることが好ましく、50~200mgKOH/gであることがさらに好ましい。また、スルホン酸基含有アクリル系ポリマーの酸価のうち、スルホン酸基由来の酸価は10~100mgKOH/gであることが好ましく、50~100mgKOH/gであることがさらに好ましい。スルホン酸基由来の酸価が大きすぎる(スルホン酸基の量が多すぎる)と、一の分子鎖が複数の顔料粒子に吸着しやすくなるので、顔料の分散性が向上され難くなるとともに、溶剤に対する溶解性が低下する傾向にある。なお、全体の酸価が250mgKOH/gを超えると、酸性基(酸基)の量が多すぎるので、スルホン酸基含有アクリル系ポリマーの親水性が高くなってしまい、耐水性が低下する傾向にある。
【0042】
次に、本発明の顔料着色剤組成物について説明する。
本発明の顔料着色剤組成物は、前述の顔料分散剤と、顔料とを含有する。顔料としては有機顔料が好ましい。有機顔料としては、公知の有機顔料を用いることができる。有機顔料の具体例としては、キナクリドン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジケトピロロピロール顔料、ペリレン系顔料、フタロシアニンブルー系顔料、フタロシアニングリーン系顔料、イソインドリノン系顔料、インジゴ・チオインジゴ顔料、ジオキサジン系顔料、キノフタロン顔料、ニッケルアゾ顔料、不溶性アゾ系顔料、溶性アゾ系顔料、高分子量アゾ系顔料、カーボンブラック顔料、複合酸化物系黒色顔料、酸化鉄ブラック顔料、酸化チタン系黒色顔料、及びアゾメチンアゾ系黒色顔料からなる群より選択される、赤色、緑色、青色、黄色、橙色、紫色、及び黒色顔料を挙げることができる。」
第5 当審の判断
1 甲1を主たる引用例とした場合
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)後者の「ポリエステルフイルム」は、その表面に離形層及び滑性付与層を塗設するものであり、基材といえるから、前者の「基材フィルム」に相当する。また、後者の「シリコーン離形層」及び「滑性付与層」は塗設されることを踏まえれば、前者の「離型塗布層」及び「易滑塗布層」にそれぞれ相当し、後者の「微細粒子」は前者の「粒子」に、後者の「樹脂シートの成形用キャリヤーフイルムに有用な離形フイルム」は前者の「樹脂シート成型用離型フィルム」にそれぞれ相当する。
(イ)後者の「滑剤、顔料、安定剤、帯電防止材、UV吸収材、その他の改良剤を含まない」構成は、前者の「無機粒子を実質的に含まない」構成に相当し、上記(ア)も踏まえると、後者の「ポリエステルフィルムは、滑剤、顔料、安定剤、帯電防止材、UV吸収材、その他の改良剤を含まないポリエステルを用い」る構成は、前者の「基材フィルムが無機粒子を実質的に含有しておらず」の構成に相当する。
(ウ)上記(ア)を踏まえると、後者の「ポリエステルフイルムの一方の表面にシリコーン離形層を塗設し」の構成は、前者の「前記基材フィルムの一方の表面上に離型塗布層を有し」の構成に相当し、後者の「他方の表面に」「微細粒子を含有する滑性付与層を塗設してな」る構成は、前者の「基材フィルムのもう一方の表面上に粒子を含有する易滑塗布層を有し」の構成に相当する。
(エ)後者の「平均粒径0.05~0.5μmの微細粒子」は、前者の「少なくとも100nm超の粒径を有する粒子」と、「ナノオーダーの所定範囲の粒径を有する粒子」の点に限り一致する。そうすると、後者の「平均粒径0.05~0.5μmの微細粒子を含有する滑性付与層」は、前者の「前記易滑塗布層は、少なくとも100nm超の粒径を有する粒子を含み」の構成と、「前記易滑塗布層は、ナノオーダーの所定範囲の粒径を有する粒子を含み」の点に限り一致する。
(オ)後者の「微細粒子を固着するバインダーとしてアルキッド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等を例示することができる」構成は、前者の「前記易滑塗布層はアクリル樹脂を含み、前記アクリル樹脂の酸価が40mgKOH/g以上400mgKOH/g以下である」構成と、「易滑塗布層は樹脂を含む」点に限り一致する。
以上を踏まえると、本件発明1及び甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「基材フィルムが無機粒子を実質的に含有しておらず、前記基材フィルムの一方の表面上に離型塗布層を有し、基材フィルムのもう一方の表面上に粒子を含有する易滑塗布層を有し、
前記易滑塗布層は、ナノオーダーの所定範囲の粒径を有する粒子を含み、
易滑塗布層は樹脂を含む
樹脂シート成型用離型フィルム。」
[相違点]
・相違点1
易滑塗布層について、本件発明1は「領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上25nm以下、最大突起高さ(P)が60nm以上500nm以下、かつ粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下であ」るのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。
・相違点2
易滑塗布層の粒子の粒径について、本件発明1は「少なくとも100nm超の粒径を有する」と特定されているのに対し、甲1発明は「平均粒径0.05~0.5μm」である点。
・相違点3
易滑塗布層の組成物について、本件発明1は「アクリル樹脂を含み、前記アクリル樹脂の酸価が40mgKOH/g以上400mgKOH/g以下である」のに対し、甲1発明は、アクリル樹脂が例示される樹脂の一つであり、その酸価については特定がない点。
イ 判断
事案に鑑み、まず、相違点1、3について、検討する。
(ア)相違点1について
甲1には、滑性付与層の表面粗さがどのような範囲が好ましいかは特に示されておらず、甲2~甲4にも、甲1発明において、「領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上25nm以下、最大突起高さ(P)が60nm以上500nm以下、かつ粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下」とすることが容易想到であったとする記載も示唆も見いだせない。
そうすると、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることが容易に想到し得たものとはいえない。
(イ)相違点3について
甲3には、アクリルポリオールが記載され(上記「3 ア」等参照)、このアクリルポリオールを水溶性もしくは水分散タイプとして使用するときは、アクリルポリオールを構成する重合性不飽和単量体(e)の一部として賛成官能基を有する不飽和単量体を選択し、得られるアクリルポリオール中の酸価が20~80KOHmg/gとなるようにすること(同「3 イ」)が記載されている。また、甲3のアクリルポリオールは、長期耐候性に優れると共に乾燥性、硬度、光沢、肉持性、耐溶剤性にも優れた塗膜を形成することができ(同「3 ア」)、金属類、プラスチック類、木工製品などに塗装し、大型構造物用、自動車補修用あるいは家具塗装等木工用の他、建築・建材用などの広い用途に使用できること(同「3 ウ」)が記載されている。
これら甲3に記載された性質や用途等からみて、甲3に記載されたアクリルポリオールは、構造物等のための一般的な塗料に使用するためのものであって、甲1発明の、離形フィルムの滑性付与層の微細粒子を固着するためのバインダーとは、用途や求められる性質が異なるものである。
そうすると、甲1発明において、例示されている樹脂の中からアクリル樹脂を選択した上で、公知の多数の種類のアクリル樹脂の中から、滑性付与層の微細粒子を固着するためのバインダーとして、用途や求められる性質が異なる甲3に記載された構造物等の一般的な塗料に使用されるアクリルポリオールを選択することの動機付けは見いだせず、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
また、甲4には、顔料分散材として、その末端にスルホン酸を有するスルホン酸基含有アクリル系ポリマーからなる顔料分散材が記載されており(上記「4 ア」、「4 イ」等参照)、スルホン酸基由来の酸価が大きすぎると、一の分子鎖が複数の顔料粒子に吸着しやすくなるので、顔料の分散性が向上され難くなるとともに、溶剤に対する溶解性が低下する傾向にあることや、全体の酸価が250mgKOH/gを超えると、親水性が高くなってしまい、耐水性が低下する傾向にあることから、スルホン酸基含有アクリル系ポリマーの酸価を、10~250mgKOH/gとすること(同「4 ウ」)が記載されている。また、この顔料としては、赤色、緑色、青色、黄色、橙色、紫色、黒色顔料が挙げられている(同「4 ウ」)。
甲1には、滑性塗布層を塗設するための塗液において、微細粒子は乳化剤等を用いて分散液としたものであってもよいことが記載されている(段落【0033】)ものの、甲1発明の微細粒子は着色を目的としたものではないから、顔料である必要はない。そうすると、甲1発明において、微細粒子として、顔料を選択した上で、その分散剤として、公知の多数の分散剤の中から、甲4の顔料分散剤を選択することの動機付けは見いだせず、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、相違点1に関して、本件特許の明細書(段落【0036】~【0038】)には、「易滑塗布層は、表面にすべり性を付与するために、滑剤粒子を含むことが好まし」く、粒子の平均粒径は、滑り性の確保、透明性、粒子の脱落などを考慮し、「10nm以上・・・1000nm以下であることが好まし」いという内容が記載されており、本件特許の実施例において、前記粒径の範囲内の粒子を含む易滑塗布層であれば、前記粗さパラメータを満足する蓋然性が高いと主張する。
しかしながら、易滑塗布層の表面の粗さは、そこに含まれる粒子の大きさだけでなく、粒子相互の距離や、粒子を結合するバインダー樹脂自体の凹凸、バインダー樹脂からの粒子の突出量等にも影響されることは明らかである。そうすると、10nm以上1000nm以下の粒子を含むというだけで、相違点1に係る「領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上25nm以下、最大突起高さ(P)が60nm以上500nm以下、かつ粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下」となる蓋然性が高いとはいえず、申立人の主張は採用できない。
また、申立人は、相違点3に関して、甲3には、甲3のアクリルポリオールは、顔料分散性にも優れているために公知の顔料分散法により無機及び有機の顔料を分散して着色塗料とすることができ、甲3のアクリルポリオールを用いたクリアラッカー、あるいは硬化型塗料は、プラスチック類などに塗装して、これらの塗膜は硬度に優れているという内容が開示されていることから、甲1に開示された発明の目的、すなわちフイルム表面に租大突起がなく、厚みの薄い樹脂シート、セラミックグリーンシート等に欠陥を生じさせない離形フイルムを提供することを達成するために、甲3のアクリル樹脂の一種であるアクリルポリオールを使用する動機付けが与えられ得ること、甲4にも、酸価が10~250mgKOH/gであり、顔料の分散性を向上させ得るスルホン酸基含有アクリル系ポリマーが記載されており、甲1に開示された上記目的を達成するために、甲4のスルホン酸基含有アクリル系ポリマーを使用する動機付けが与えられ得ることを主張する。
しかしながら、甲1発明と、甲3に記載されたアクリルポリオールとでは、用途や目的が異なること、甲1発明は、着色を目的とするものではなく、甲4に記載された顔料分散剤を用いる動機がないことは、上記(イ)で検討したとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(エ)小括
以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲3又は甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を付加したものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 甲2を主たる引用例とした場合
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)後者の「基材を構成するポリエステルフィルム」は、前者の「基材フィルム」に相当し、後者の「離型層」及び「易滑層」は、塗工液を塗布乾燥することにより積層することを踏まえれば、前者の「離型塗布層」及び「易滑塗布層」にそれぞれ相当する。後者の「粒子」は前者の「粒子」に相当し、後者の「離型層上に樹脂を塗布、乾燥を行う際の支持体として使用される離型フィルム」は前者の「樹脂シート成形用離型フィルム」に相当する。
(イ)後者の「実質的に粒子を含有しない基材を構成するポリエステルフィルム」の構成は、前者の「基材フィルムが無機粒子を実質的に含有しておらず」の構成に相当する。
(ウ)後者の「基材を構成するポリエステルフィルムの片面に酸変性オレフィン樹脂および架橋剤を含む塗工液を塗布・乾燥することにより積層する離型層を設け」る構成は、前者の「前記基材フィルムの一方の表面上に離型塗布層を有し」の構成に相当し、後者の「他方の基材上に粒子とバインダー等を含む塗工液を塗布・乾燥することにより積層する易滑層を設けた」構成は、前者の「基材フィルムのもう一方の表面上に粒子を含有する易滑塗布層を有し」の構成に相当する。
(エ)後者の「易滑層表面の算術平均粗さ(Ra2)が10nm未満であ」る構成は、前者の「易滑塗布層の領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上25nm以下、最大突起高さ(P)が60nm以上500nm以下、かつ粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下であ」る構成と、「易滑塗布層の表面の粗さが所定値であ」る点に限り一致する。
(オ)後者の「易滑層に含まれる粒子径の下限は好ましくは5nmであり、上限は好ましくは100nmであり」の構成は、前者の「前記易滑塗布層は、少なくとも100nm超の粒径を有する粒子を含み」の構成と、「前記易滑塗布層は、粒子を含み」の点に限り一致する。
(カ)後者の「バインダー樹脂としてはポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂等、公知の樹脂を使用することが可能である」構成は、前者の「前記易滑塗布層はアクリル樹脂を含み、前記アクリル樹脂の酸価が40mgKOH/g以上400mgKOH/g以下である」構成と、「易滑塗布層は樹脂を含む」点に限り一致する。
以上を踏まえると、本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
[一致点]
「基材フィルムが無機粒子を実質的に含有しておらず、前記基材フィルムの一方の表面上に離型塗布層を有し、基材フィルムのもう一方の表面上に粒子を含有する易滑塗布層を有し、易滑塗布層の表面の粗さが所定値であり、
前記易滑塗布層は、粒子を含み、
前記易滑塗布層は樹脂を含む
樹脂シート成型用離型フィルム。」
[相違点]
・相違点4
易滑塗布層の表面の粗さについて、本件発明1は「領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上25nm以下、最大突起高さ(P)が60nm以上500nm以下、かつ粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下であ」るのに対し、甲2発明は「算術平均粗さ(Ra2)が10nm未満であ」る点。
・相違点5
易滑塗布層の粒子の粒径について、本件発明1は「少なくとも100nm超の粒径を有する」のに対し、甲2発明は「下限は好ましくは5nmであり、上限は好ましくは100nmであ」る点。
・相違点6
易滑塗布層の組成物について、本件発明1は「アクリル樹脂を含み、前記アクリル樹脂の酸価が40mgKOH/g以上400mgKOH/g以下である」のに対し、甲2発明は、アクリル樹脂を含むとの特定がなく、その酸価についても特定がない点。
イ 判断
事案に鑑み、まず、相違点4、6について、検討する。
(ア)相違点4について
甲2発明において、易滑層表面は算術平均粗さ(Ra2)が10nm未満であるが、当該算術平均粗さの数値であれば、直ちに「領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上25nm以下、最大突起高さ(P)が60nm以上500nm以下、かつ粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下」であるということはできず、甲1、甲3、甲4にも、前者であれば後者であることを示す記載も示唆もない。
また、甲1、3、4には、甲2発明において「領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上25nm以下、最大突起高さ(P)が60nm以上500nm以下、かつ粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下」とすることが容易想到であったとする記載も示唆も見いだせない。
そうすると、甲2発明において、相違点4に係る本件発明1の発明特定事項とすることが容易に想到し得たものとはいえない。
(イ)相違点6について
甲3について、上記1(1)イ(イ)に記載したのと同様の点が記載されており、その性質や用途等からみて、甲3に記載されたアクリルポリオールは、甲2発明の離型フィルムの易滑層の粒子の脱落を防止するためのバインダーとは、用途や求められる性質が異なるものである。
そうすると、甲2発明において、公知の樹脂の中からアクリル樹脂を選択した上で、粒子の脱落を防ぐためのバインダーとして、公知の多数の種類のアクリル樹脂の中から、甲3に記載された一般の構造物に対する塗装に用いられるアクリルポリオールを選択することの動機付けは見いだせず、相違点6に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
また、甲4について、上記1(1)イ(イ)に記載したのと同様の点が記載されている。
甲2には、易滑層には、分散剤を添加することが可能であることが記載されている(段落【0039】)ものの、甲2発明の粒子は着色を目的としたものではないから、顔料である必要はない。そうすると、甲2発明において、粒子として、顔料を選択した上で、その分散剤として、公知の多数の分散剤の中から、甲4の顔料分散剤を選択することの動機付けは見いだせず、相違点6に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、相違点4に関して、甲2に記載された発明の目的と、本件特許の目的とは実質的に同一であることを主張する。
申立人の主張の意図は明確でないが、目的が実質的に同一であるから、甲2発明は、相違点1に係る「領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上25nm以下、最大突起高さ(P)が60nm以上500nm以下、かつ粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下」との構成を有している、あるいはそうすることは容易であると主張しているとも解し得る。しかしながら、目的が実質的に同一であるからといって、具体的な表面の粗さの数値が同じであるとも、その表面粗さにすることが容易想到であるともいえないから、申立人の主張は採用できない。
(エ)小括
以上のとおりであるから、相違点5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲3又は甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を付加したものであるから、本件発明1と同様に、甲2発明及び甲3又は甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 まとめ
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700426