特許異議申立
2023-700418
車両用フロントガラス
- 審判番号
- 2023-700418
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-514127
- 登録番号
- 7160091
- 請求日
- 2023年04月24日
- 審決日
- 2023年07月24日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】AGC株式会社
- 【権利者代理人】伊東 忠重
- 【権利者代理人】伊東 忠彦
- 【異議申立人】弁理士法人 朝日奈特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 金 公彦
- 審判官 立木 林
- 分類
- P1651.113-Y (C03C) / P1651.121-Y (C03C) / P1651.536-Y (C03C) / P1651.537-Y (C03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7160091号発明「車両用フロントガラス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7160091号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7160091号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、2019年(平成31年)4月12日(優先権主張 平成30年4月19日)を国際出願日とする出願であって、令和4年10月17日にその特許権の設定登録がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行され、その後、令和5年4月24日に、請求項1~10に係る特許について、特許異議申立人 弁理士法人朝日奈特許事務所(以下、「申立人」という。)により、甲第1~4号証を証拠方法として特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明10」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
第1のガラス板、第1の接着層、赤外線反射フィルム、第2の接着層および第2のガラス板がこの順に積層された合わせガラスを含み、
前記第1のガラス板の厚みと前記第2のガラス板の厚みとの和が4.1mm以下であり、
前記赤外線反射フィルムは、屈折率の異なる樹脂層が100層以上積層された積層体を含み、
前記赤外線反射フィルムは、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率が1.5%以上2.0%以下、かつ前記方向に直交する方向の熱収縮率が1.5%以上2.0%以下であり、所定方向の前記赤外線反射フィルムの熱収縮率は、前記赤外線反射フィルムを150℃で30分間保持した前後における該所定方向の長さの縮小率であり、
前記赤外線反射フィルムの厚みが80μm以上120μm以下であることを特徴とする、車両用フロントガラス。
【請求項2】
前記合わせガラスの車外側から測定される可視光反射率が7%以上10%以下である、請求項1記載の車両用フロントガラス。
【請求項3】
前記合わせガラスに対して、D65光源による光を車外側から入射角10~60°の範囲で照射して得られる反射光の色調は、CIE1976L*a*b*色度座標で、-5<a*<3および-12<b*<2である、請求項1または2記載の車両用フロントガラス。
【請求項4】
前記車両用フロントガラスのJIS R3212(1998年)で規定される試験領域Aにおいて、前記合わせガラスの曲率半径が900mm以下である、請求項1~3のいずれか1項記載の車両用フロントガラス。
【請求項5】
前記赤外線反射フィルムは、屈折率の異なる2種の樹脂層が交互に積層されてなり、前記樹脂層を構成する樹脂は、ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンテレフタレート共重合体から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか1項記載の車両用フロントガラス。
【請求項6】
前記第1の接着層および第2の接着層は、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率が2%以上8%以下、前記方向に直交する方向の熱収縮率が2%以上8%以下であり、所定方向の前記第1の接着層および第2の接着層の熱収縮率は、前記第1の接着層および第2の接着層を50℃で10分間保持した前後における該所定方向の長さの縮小率であり、
前記赤外線反射フィルムの熱収縮率が最大となる方向と、前記第1の接着層および第2の接着層の熱収縮率が最大となる方向とが直交する、請求項1~5のいずれか1項記載の車両用フロントガラス。
【請求項7】
前記第1の接着層および第2の接着層が、ポリビニルブチラールを含む、請求項1~6のいずれか1項記載の車両用フロントガラス。
【請求項8】
前記赤外線反射フィルムの熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率を、前記第1の接着層と前記第2の接着層の熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率の平均値で割った値が0.2以上0.6以下の範囲内にある、請求項1~7のいずれか1項記載の車両用フロントガラス。
【請求項9】
前記第1のガラス板および/または前記第2のガラス板の主面上に黒色セラミック層を備える、請求項1~8のいずれか1項記載の車両用フロントガラス。
【請求項10】
前記黒色セラミック層と前記赤外線反射フィルムが平面視で重なる部分を有する、請求項9に記載の車両用フロントガラス。」
第3 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)について
本件発明1、2、5及び7は、甲第1号証に記載された発明であるから、本件発明1、2、5及び7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号所定の規定に違反してされたものである。
2 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
本件発明1、2、4、5、7及び9は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2、4、5、7及び9に係る特許は、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものである。
3 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)及び同法同条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1)指摘事項1
本件発明の課題は、本件特許明細書の段落【0008】に記載されたとおり、「赤外線反射フィルムを用いた合わせガラスからなる車両用フロントガラスであって、遮熱性に優れるとともに、外観が良好であり、特に反射像の輪郭が揺らいで見える現象(以下、「オレンジピール」ともいう。)の発生が抑制された車両用フロントガラスを提供すること」にあり、本件特許明細書の段落【0013】の記載によれば、前記課題を解決するためには、本件発明1の「前記赤外線反射フィルムは、屈折率の異なる樹脂層が100層以上積層された積層体を含み、前記赤外線反射フィルムは、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率が1.5%以上2.0%以下、かつ前記方向に直交する方向の熱収縮率が1.5%以上2.0%以下であり、所定方向の前記赤外線反射フィルムの熱収縮率は、前記赤外線反射フィルムを150℃で30分間保持した前後における該所定方向の長さの縮小率であり、前記赤外線反射フィルムの厚みが80μm以上120μm以下である」、との発明特定事項を具備する赤外線反射フィルムを用いることが必要とされている。
しかしながら、本件特許明細書に記載された実施例を参照しても、樹脂Aとして、固有粘度IV=0.65、屈折率1.66のPET(結晶性ポリエステル、融点255℃)を用い、樹脂Bとして、固有粘度IV=0.73、屈折率1.55の、全単位に対してスピログリコール単位25モル%、シクロヘキサンジカルボン酸単位30モル%を含むPET共重合体(PE/SPG・T/CHDC)を用いた例が開示されているに過ぎない。
そして、干渉反射を利用した赤外線反射フィルムの熱収縮特性は、樹脂の種類や組合せ、延伸・熱処理条件等の影響を受けることが自明であるのに、本件発明1においては樹脂に関する特定がされていないから、当業者は、本件特許明細書の段落【0023】~【0025】の樹脂についての開示を参照したとしても、前記実施例に開示された樹脂以外の樹脂を用いる場合に、どのような条件であれば前記発明特定事項の熱収縮を満たすことができるのかを理解することができないから、本件発明1の実施に過度の試行錯誤を求められるものである。
また、本件特許明細書には、前記実施例の開示に基づいて、あらゆる樹脂やその組合せにまで拡張ないし一般化できることを示すような開示はないし、そのような拡張ないし一般化が本件特許の優先日当時における技術常識であったとの事情もない。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、また、本件発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
更に、本件発明2~10について検討しても事情は同じである。
(2)指摘事項2
本件特許明細書の段落【0086】の記載によれば、本件発明3の発明特定事項により解決される課題は、オレンジピールを軽減することである。
しかしながら、本件発明3の発明特定事項を具備させるための手段について、本件特許明細書には何らの開示も示唆もなく、本件特許明細書に記載された実施例を参照しても、本件発明3の発明特定事項を有しない実施例4の製造方法を、本件発明3の発明特定事項を有するそのほかの実施例の製造方法とどのように変えているのかも、開示も示唆もされていない。
そうすると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明においてa*やb*をどのようにして調整するのかを理解できないから、本件発明3の実施に過度の試行錯誤を求められるので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明3について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、また、本件発明3が、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
更に、本件発明4~10について検討しても事情は同じである。
4 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2013/137288号
甲第2号証:国際公開第2015/087673号
甲第3号証:国際公開第2012/118203号
甲第4号証:特開2003-26061号公報
第4 特許異議申立理由についての当審の判断
1 特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)について
(1)甲各号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(ア)甲第1号証には、以下のa~cの記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
a「請求の範囲
[請求項1] 熱可塑性樹脂Aを用いてなる層(A層)と熱可塑性樹脂Bを用いてなる層(B層)とが交互に51層以上積層され、
フィルム長手方向及び幅方向の150℃における熱収縮応力が0.5MPa以上5MPa以下であり、
温度25℃~200℃、昇温速度5℃/minの条件にて測定した熱収縮応力曲線において熱収縮応力曲線が立ち上がる前のベースラインと、熱収縮応力が立ち上った後、傾きが最大となる点における接線との交点の温度を熱収縮応力の立ち上り温度としてフィルム長手方向及び幅方向の熱収縮応力の立ち上がり温度を測定したとき少なくとも一方において110℃以下であることを特徴とする多層積層フィルム。
・・・
[請求項12] 長手方向と幅方向の150℃における熱収縮率が6%以下であることを特徴とする請求項1に記載の多層積層フィルム。
・・・
[請求項14] 請求項1に記載の多層積層フィルムと、多層積層フィルムの両面に設けられた中間膜と、2枚の中間膜のそれぞれにおいて多層積層フィルムとは反対の面に透明基材を設けてなる遮熱部材。」
b「[0005] 一方、ポリマー多層積層フィルムは、その層厚みを制御して、反射する波長を選択できるため、近赤外領域の光を選択的に反射することができ、可視光線透過率を維持しつつ熱線カット性能を向上させることができる。また、金属など電波を遮断するものを含まないために、優れた電波透過性を保持したものとなる。
・・・
[0017] 上記ポリエステルのうち、ポリエチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリエチレンナフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンナフタレートおよびその共重合体、さらにはポリヘキサメチレンテレフタレートおよびその共重合体並びにポリヘキサメチレンナフタレートおよびその共重合体の中から選択されるポリエステルを用いることが好ましい。
・・・
[0043] 本発明の成形品に用いる多層積層フィルムは、長手方向及び幅方向の150℃における熱収縮率が6%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下である。熱収縮率が6%以上であると、成形品の端部にシワが発生し好ましく無い。
・・・
[0049] 本発明の成形品に用いる多層積層フィルムは熱可塑性樹脂からなる層(A層)と少なくともA層を構成する樹脂とは異なる性質を有する熱可塑性樹脂からなる層(B層)が交互に51層以上積層した構造を含んでいることが必要である。異なる性質を持つ熱可塑性樹脂を積層することで、それぞれの熱可塑性樹脂1層のみではなし得ない機能をフィルムに与えることができる。好ましくは101層以上、より好ましくは401層以上、さらに好ましくは601層以上であり、積層装置の大型化の観点から上限としては5000層程度である。本発明の多層積層フィルムにおける積層数は101層以上が好ましく、より好ましくは401層以上、さらに好ましくは601層以上であり、積層装置の大型化の観点から上限としては5000層程度である。層厚み分布は隣接するA層とB層の光学厚みが下記(2)式を満たすことが好ましい。
・・・
[0058] 本発明の多層積層フィルムの厚みは、20μm~300μmであることが好ましい。20μm未満であると、フィルムの腰が弱くハンドリング性が悪くなる。また、300μm以上であると、フィルムの腰が強すぎて成形性が悪くなる。
・・・
[0060] 本発明の多層積層フィルムの少なくとも一方の面に中間膜と支持体が積層されてなる成形品は、貼着圧力のもとラミネートすることが一般的であり、加熱加圧成形が好ましい方法である。本発明の成形品に用いうる支持体としては、例えば、樹脂製の支持体、金属やガラスやセラミックによる支持体等があげられる。支持体の表面としては平面であっても曲面であっても良く、任意の形状をとりうる。樹脂の例を挙げてみると、ポリカーボネート、環状ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ABS、トリアセチルセルロース等が挙げられる。支持体は透明であることが好ましく、支持体の厚みは0.5mm~5mmであることが好ましい。中間膜としては、接着剤層やフィルム層が好ましい。接着剤としては、酢酸ビニル樹脂系、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体系、エチレン・酢酸ビニル共重合体系、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルエーテル、ニトリルゴム系、スチレン・ブダジエンゴム系、天然ゴム系、クロロプレンゴム系、ポリアミド系、エポキシ樹脂系、ポリウレタン系、アクリル樹脂系、セルロース系、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル酸エステル、ポリイソブチレン等が挙げられる。・・・
・・・
[0061] 本発明の多層積層フィルムを用いた成形品としては、多層積層フィルムの両側に中間膜と支持体が積層されてなる成形品も挙げられる。
[0062] 本発明の多層積層フィルムを用いた成形品の用途としては、携帯電話やパソコンの筐体や電化製品や家具の外装、建物や自動車の窓等が挙げられる。本発明の多層積層フィルムを製造する具体的な態様の例を以下に記す。
・・・
[0073] 続いて熱処理機にて熱処理を行う。熱処理は横延伸機(テンター)内で行うのが一般的である。横延伸後に温度160℃以上220℃以下、リラックス0%以上10%以下、好ましくは0%以上5%以下にて熱処理を行う。リラックスは幅方向のみ、長手方向のみ、又は幅方向・長手方向両方に行なっても良い。
[0074] 本発明の多層積層フィルムにおいては、延伸後の熱処理温度を少なくとも一つの熱可塑性樹脂の融点以下であり、かつ残る熱可塑性樹脂の少なくとも一つの融点以上とすることが好ましい。この場合、一方の熱可塑性樹脂は高い配向状態を保持する一方、他方の熱可塑性樹脂の配向は緩和されるために、容易にこれらの樹脂の屈折率差を設けることができることに加えて、かつ配向緩和に伴い熱収縮応力を低減することが容易となるため、100℃および130℃または150℃でフィルム長手方向およびそれに直交する方向の熱収縮応力が0.05N/mm2以下とすることも容易となる。
また、熱処理後に70℃以上、熱処理温度-20℃以下で冷却を行うことも好ましく、冷却中にリラックスを行うことも好ましい。特にフィルム冷却によって横延伸機出口のフィルムクリップ開放部におけるフィルム温度を80℃以下にすることが、熱収縮応力の立ち上がり温度を低くすることに有効である。
[0075] また、熱処理工程及び、熱処理工程後に2%以上10%以下の微延伸を行うことも好ましい。微延伸は幅方向のみ、長手方向のみ、又は幅方向・長手方向両方に行なっても良い。
最後に巻取り機にてフィルムを巻き取ることによって本発明の多層積層フィルムが製造される。」
c「実施例
[0076] 以下、本発明の成形品を具体的な実施例をあげて説明する。なお、以下に具体的に例示した熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂を用いた場合でも下記実施例を含めた本明細書の記載を参酌すれば、同様にして本発明の多層積層フィルムを得ることができる。
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
物性値の評価方法ならびに効果の評価方法は次の通りである。
・・・
[0078] (2)熱収縮率
サンプルを150mm×10mmのサイズで切り出し、サンプル長手方向に100mmの間隔で印を付けた。印の間隔をNikon社製万能投影機(Model V-16A)を用いて測定しその値をAとした。次に、サンプルを3gの荷重をかけた状態でギアオーブンの中で吊り、150℃の雰囲気中で30分間放置した。次いで、サンプルを取り出して冷却後、先につけた印の間隔を測定しこれをBとした。このとき、下記式(3)より、熱収縮率を求めた。n数は3とし、その平均値を求め、フィルム長手方向、幅方向それぞれについて測定を行なった。
熱収縮率(%)=100×(A-B)/A ・・・式(3)。」
(イ)前記(ア)aの記載によれば、甲第1号証には、熱可塑性樹脂Aを用いてなる層(A層)と熱可塑性樹脂Bを用いてなる層(B層)とが交互に51層以上積層され、フィルム長手方向及び幅方向の150℃における熱収縮応力が0.5MPa以上5MPa以下であり、温度25℃~200℃、昇温速度5℃/minの条件にて測定した熱収縮応力曲線において熱収縮応力曲線が立ち上がる前のベースラインと、熱収縮応力が立ち上った後、傾きが最大となる点における接線との交点の温度を熱収縮応力の立ち上り温度としてフィルム長手方向及び幅方向の熱収縮応力の立ち上がり温度を測定したとき少なくとも一方において110℃以下であり、長手方向と幅方向の150℃における熱収縮率が6%以下である多層積層フィルムと、多層積層フィルムの両面に設けられた中間膜と、2枚の中間膜のそれぞれにおいて多層積層フィルムとは反対の面に透明基材を設けてなる「遮熱部材」が記載されている。
そして、前記(ア)bの記載によれば、前記多層積層フィルムは、長手方向及び幅方向の150℃における熱収縮率が、より好ましくは3%以下であり、熱可塑性樹脂Aを用いてなる層(A層)と熱可塑性樹脂Bを用いてなる層(B層)とが、好ましくは101層以上積層されたものであり、前記多層積層フィルムの厚みは、20μm~300μmであることが好ましいものである(段落[0043]、[0049]、[0058])。
また、支持体としては、ガラスによる支持体が挙げられ、支持体は透明であることが好ましく、支持体の厚みは0.5mm~5mmであることが好ましいものであり、透明なガラスによる支持体は、透明基材といえるものである(段落[0060])。
更に、中間膜としては、接着剤層が好ましいものであり、前記多層積層フィルムを用いた成形品すなわち前記「遮熱部材」の用途として、自動車の窓が挙げられるものである(段落[0060]、[0061])。
また、前記(ア)c(段落[0078])の記載によれば、前記熱収縮率は、サンプルを150mm×10mmのサイズで切り出し、サンプル長手方向に100mmの間隔で印を付け、印の間隔をNikon社製万能投影機(Model V-16A)を用いて測定しその値をAとし、次に、サンプルを3gの荷重をかけた状態でギアオーブンの中で吊り、150℃の雰囲気中で30分間放置し、次いで、サンプルを取り出して冷却後、先につけた印の間隔を測定しこれをBとし、このとき、下記式(3)より、熱収縮率を求めたものであり、n数は3とし、その平均値を求め、フィルム長手方向、幅方向それぞれについて測定を行なったものである。
熱収縮率(%)=100×(A-B)/A ・・・式(3)。
(ウ)前記(イ)によれば、甲第1号証には、
「熱可塑性樹脂Aを用いてなる層(A層)と熱可塑性樹脂Bを用いてなる層(B層)とが交互に51層以上積層され、
フィルム長手方向及び幅方向の150℃における熱収縮応力が0.5MPa以上5MPa以下であり、
温度25℃~200℃、昇温速度5℃/minの条件にて測定した熱収縮応力曲線において熱収縮応力曲線が立ち上がる前のベースラインと、熱収縮応力が立ち上った後、傾きが最大となる点における接線との交点の温度を熱収縮応力の立ち上り温度としてフィルム長手方向及び幅方向の熱収縮応力の立ち上がり温度を測定したとき少なくとも一方において110℃以下であり、長手方向と幅方向の150℃における熱収縮率が6%以下である多層積層フィルムと、
多層積層フィルムの両面に設けられた中間膜と、2枚の中間膜のそれぞれにおいて多層積層フィルムとは反対の面に透明基材を設けてなる遮熱部材であって、
前記多層積層フィルムは、長手方向及び幅方向の150℃における熱収縮率が、より好ましくは3%以下であり、
熱可塑性樹脂Aを用いてなる層(A層)と熱可塑性樹脂Bを用いてなる層(B層)とが、好ましくは101層以上積層されたものであり、
前記多層積層フィルムの厚みは、20μm~300μmであることが好ましいものであり、
透明基材として透明なガラスが挙げられるものであり、透明基材の厚みは0.5mm~5mmが好ましいものであり、
中間膜としては、接着剤層が好ましいものであり、
前記遮熱部材の用途として、自動車の窓が挙げられるものであり、
前記熱収縮率は、サンプルを150mm×10mmのサイズで切り出し、サンプル長手方向に100mmの間隔で印を付け、印の間隔をNikon社製万能投影機(Model V-16A)を用いて測定しその値をAとし、
次に、サンプルを3gの荷重をかけた状態でギアオーブンの中で吊り、150℃の雰囲気中で30分間放置し、
次いで、サンプルを取り出して冷却後、先につけた印の間隔を測定しこれをBとし、このとき、下記式(3)より、熱収縮率を求めたものであり、n数は3とし、その平均値を求め、フィルム長手方向、幅方向それぞれについて測定を行なったものである、遮熱部材。
熱収縮率(%)=100×(A-B)/A ・・・式(3)」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
イ 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の(ア)、(イ)の記載がある。
(ア)「[0001] 本発明は、合わせガラスの中間接着層に用いる樹脂中間膜とプラスチックフィルムからなる複合フィルムの製造方法に関する。
・・・
発明が解決しようとする課題
[0007] 本発明は、合わせガラスの中間接着層に用いる、樹脂中間膜とプラスチックフィルムからなる複合フィルムを製造する方法において、合わせガラスとした際に外観不良の発生が抑制された複合フィルムを円滑な作業性を確保しながら歩留まりよく製造する方法を提供することを目的とする。」
(イ)「[0024] さらに、合わせガラスとする際に、例えば、合わせガラス6におけるガラス基板5A、5Bが曲率半径0.5~5.0m程度の曲面形状に曲げられている場合であっても、プラスチックフィルムが樹脂中間膜に十分密着しているためにシワが生じることなく、外観の良好な合わせガラスを製造できる。
・・・
[0039] このような機能性のプラスチックフィルムとしては、該機能を有する限りプラスチックフィルム単体であってもよく、フィルム状のプラスチック基材に機能膜が形成された機能膜付きプラスチックフィルムであってもよい。プラスチックフィルム単体である場合、プラスチックフィルムは単層からなってもよく多層からなってもよい。本明細書において、特に断りのない限り「プラスチックフィルム」の用語は、機能膜付きプラスチックフィルムを含む概念で用いられる。」
ウ 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の(ア)の記載がある。
(ア)「[0007] さらには、防眩性能を高めるため、あるいは熱線用端子等が外部から見えないようにする隠蔽機能等を目的として、黒色又はそれに近い色調のセラミックス(以下、黒色状セラミックス)不透明層がガラス板の周辺部等に塗布し焼き付けされたガラス板も数多く市場に出回っている。このようなガラス板は、該黒色状セラミックス層上にバスバが設けられることが多いため、給電端子とバスバを接続するために使用するハンダについては、バスバだけでなく、黒色状セラミックス層に対する特性も加味されなければならないという事情もある。図7及び図8にガラス板の周辺部に黒色状セラミックス層を塗布、乾燥し焼き付けたガラス板の一例を示す。黒色セラミックス層はガラスフリットと顔料からなるペーストをスクリーン印刷でガラス板表面へ所定の形状に印刷し、乾燥後、600℃~700℃で焼成して、黒色状セラミックスがガラス板に強固に付着した状態で形成される。」
エ 甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、以下の(ア)の記載がある。
(ア)「【0003】このような状況を踏まえて、特開平11-267627号公報や特開平11-320138号公報等には、ガラスを非破壊状態で取外す方法およびその装置が開示されている。これらの方法は、ガラス側からレーザ光を接着層に向けて照射し、ガラスと接着層との間の接着界面を熱的に破壊して、ガラスから接着層を剥離させ、ガラスの取外しを行うものである。特に、自動車用ガラスの場合、ガラス側に設けられた黒色セラミックス層の部分でレーザ光による発熱が効率的になされることを利用している。この方法によれば、ガラスを破壊することなく、そのまま取外して回収することが可能となる。つまり、ほぼ100%に近いリサイクル性を確保し得る。そして、安全ガラス(合わせガラスや強化ガラス)等の特殊ガラスであっても、低コストで再生でき、製品単価の低減にも役立つこととなる。」
(2)対比・判断
ア 対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「多層積層フィルム」は、甲第1号証の段落[0005]の記載(前記(1)ア(ア)b)によれば、本件発明1における「赤外線反射フィルム」に相当し、甲1発明において、「多層積層フィルム」の両面に設けられた、接着剤層が好ましい「中間膜」は、本件発明1における「第1の接着層」及び「第2の接着層」に相当し、甲1発明において、2枚の中間膜のそれぞれにおいて多層積層フィルムとは反対の面に設けられた、透明なガラスが例示される「透明基材」は、本件発明1における「第1のガラス板」及び「第2のガラス板」に相当し、甲1発明における「遮熱部材」は、本件発明1における「合わせガラス」に相当する。
また、甲1発明において、「透明基材」の厚みが「0.5mm~5mmである」ことは、2枚の「透明基材」の厚みの和が0.5mm×2=1.0mm~5mm×2=10mmの範囲となることから、本件発明1において「前記第1のガラス板の厚みと前記第2のガラス板の厚みとの和が4.1mm以下」であることを満たし、甲1発明において、「多層積層フィルム」が、「熱可塑性樹脂Aを用いてなる層(A層)と熱可塑性樹脂Bを用いてなる層(B層)とが、好ましくは101層以上積層された」ものであることは、本件発明1において、「前記赤外線反射フィルム」が、「屈折率の異なる樹脂層が100層以上積層された積層体を含」むことに相当する。
更に、甲1発明において、「遮熱部材」の用途として挙げられる「自動車の窓」は、「車両用」「ガラス」といえる点で本件発明1と合致する。
(イ)前記(ア)によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「第1のガラス板、第1の接着層、赤外線反射フィルム、第2の接着層および第2のガラス板がこの順に積層された合わせガラスを含み、
前記第1のガラス板の厚みと前記第2のガラス板の厚みとの和が4.1mm以下であり、
前記赤外線反射フィルムは、屈折率の異なる樹脂層が100層以上積層された積層体を含む、車両用ガラス。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明1においては、「前記赤外線反射フィルム」が、「熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率が1.5%以上2.0%以下、かつ前記方向に直交する方向の熱収縮率が1.5%以上2.0%以下であり、所定方向の前記赤外線反射フィルムの熱収縮率は、前記赤外線反射フィルムを150℃で30分間保持した前後における該所定方向の長さの縮小率であ」るのに対して、甲1発明は、「多層積層フィルム」の「長手方向と幅方向の150℃における熱収縮率が6%以下」であり、「長手方向及び幅方向の150℃における熱収縮率が、より好ましくは3%以下」であり、「前記熱収縮率は、サンプルを150mm×10mmのサイズで切り出し、サンプル長手方向に100mmの間隔で印を付け、印の間隔をNikon社製万能投影機(Model V-16A)を用いて測定しその値をAとし、次に、サンプルを3gの荷重をかけた状態でギアオーブンの中で吊り、150℃の雰囲気中で30分間放置し、次いで、サンプルを取り出して冷却後、先につけた印の間隔を測定しこれをBとし、このとき、下記式(3)より、熱収縮率を求めたものであり、n数は3とし、その平均値を求め、フィルム長手方向、幅方向それぞれについて測定を行なったものである
熱収縮率(%)=100×(A-B)/A ・・・式(3)」点。
・相違点2:本件発明1においては、「前記赤外線反射フィルムの厚みが80μm以上120μm以下である」のに対して、甲1発明においては、「多層積層フィルム」の厚みが「20μm~300μmである」点。
・相違点3:本件発明1は「車両用フロントガラス」に係る発明であるのに対して、甲1発明は「車両用ガラス」に係る発明である点。
イ 判断
(ア)始めに、前記ア(イ)の相違点1に係る発明特定事項が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲1発明における「熱収縮率」の測定方法は、「サンプルを150mm×10mmのサイズで切り出し、サンプル長手方向に100mmの間隔で印を付け、印の間隔をNikon社製万能投影機(Model V-16A)を用いて測定しその値をAとし、次に、サンプルを3gの荷重をかけた状態でギアオーブンの中で吊り、150℃の雰囲気中で30分間放置し、次いで、サンプルを取り出して冷却後、先につけた印の間隔を測定しこれをBとし、このとき、下記式(3)より、熱収縮率を求めたものであり、n数は3とし、その平均値を求め、フィルム長手方向、幅方向それぞれについて測定を行なったものである
熱収縮率(%)=100×(A-B)/A ・・・式(3)」ものであって(以下、甲1発明における「熱収縮率」の測定方法を「甲1測定方法」という。)、前記サンプルは試験片といえるから、甲1測定方法は、「熱収縮率」を、試験片に3gの荷重をかけた状態で測定するものであって、3つの試験片について「熱収縮率」を測定し、その平均値から求めるものといえる。
(イ)これに対して、本件発明1における「熱収縮率」の測定方法は、本件特許明細書の段落【0046】~【0050】(下記3(2)ア(イ))の記載によれば、長さ150mm、幅20mmの短冊状の試験片を切り出し、この試験片には、長手方向に約100mmの間隔を空けて一対の基準線を記入し、この基準線間の長さL1を測定し、熱風循環式オーブン内に試験片を垂直に吊り下げ、150℃まで昇温して30分間保持し、室温まで自然冷却して60分間保持した後、基準線間の長さL2を測定し、熱収縮率は得られたL1およびL2を用いて以下の式(iii)により算出されるものである。
熱収縮率=((L1-L2)/L1)×100[%] (iii)
(以下、本件発明1における「熱収縮率」の測定方法を「本件測定方法」という。)
そして、本件測定方法は、「熱収縮率」を、試験片に3gの荷重をかけた状態で測定するものとはいえないし、3つの試験片について「熱収縮率」を測定し、その平均値から求めるものともいえない。
(ウ)前記(ア)及び(イ)によれば、本件測定方法と甲1測定方法とは、「熱収縮率」を、試験片に3gの荷重をかけた状態で測定するか否かの点で相違するし、3つの試験片について「熱収縮率」を測定し、その平均値から求めるものであるか否かの点でも相違するものである。
そして、これらの相違によって、測定される「熱収縮率」が相違することが強く推認されるものであり、甲1測定方法による試験片の「熱収縮率」の測定結果から、本件測定方法による「熱収縮率」を予測することは極めて困難である。
してみれば、甲1発明において、「赤外線反射フィルム」の「長手方向と幅方向の150℃における熱収縮率が6%以下」、「より好ましくは3%以下」であるとしても、このことから、甲1発明が、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとはいえないので、前記相違点1は実質的な相違点である。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。
更に、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2、5及び7について検討しても事情は同じである。
ウ 申立人の主張について
(ア)前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項についての特許異議申立書における申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
本件測定方法と甲1測定方法とは、実質、測定時に「測定方向に3gの荷重」をかけているか否かにおいてのみ相違する。
この相違点が測定結果に及ぼす影響は不明であるが、仮にこの点が不明であるとしても、本件特許明細書の段落【0054】~【0055】(下記3(2)ア(ウ))に記載された、本件発明1で特定される「熱収縮率」を満たすための熱処理、リラックス及び微延伸の方法が、甲第1号証の段落[0073]~[0075](前記(1)ア(ア)b)に開示された方法に相当することと、本件特許明細書の段落【0025】(下記3(2)ア(イ))及び甲第1号証の段落[0017](前記(1)ア(ア)b)に記載された、「赤外線反射フィルム」に好適に使用できる樹脂が同じであることを考慮すれば、甲第1号証に記載された「赤外線反射フィルム」の長手方向と幅方向の「熱収縮率」を本件測定方法で測定したとしても、本件発明1で特定された範囲に入ることは自明であるから、甲1発明は、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有しているに等しい(特許異議申立書23ページ12行~24ページ7行)。
(イ)そこで、前記(ア)の主張について検討すると、前記主張は、本件測定方法と甲1測定方法が、実質、測定時に「測定方向に3gの荷重」をかけているか否かにおいてのみ相違することを前提としたものといえる。
ところが、本件測定方法と甲1測定方法とは、試験片にかける荷重以外に、3つの試験片について「熱収縮率」を測定し、その平均値から求めるものであるか否かの点でも相違することは、前記イ(ウ)に記載したとおりであるから、本件測定方法と、甲1測定方法が、実質、測定時に「測定方向に3gの荷重」をかけているか否かにおいてのみ相違するとはいえないので、申立人の前記(ア)の主張はそもそも前提において誤っているといわざるを得ない。
そして、甲1測定方法による試験片の「熱収縮率」の測定結果から、本件測定方法による「熱収縮率」を予測することは極めて困難であることは、前記イ(ウ)に記載したとおりであるし、本件特許明細書の段落【0054】~【0055】に記載された、本件発明1で特定される「熱収縮率」を満たすための熱処理、リラックス及び微延伸の方法が、甲第1号証の段落[0073]~[0075]に開示された方法に相当し、本件特許明細書の段落【0025】及び甲第1号証の段落[0017]に記載された、「赤外線反射フィルム」に好適に使用できる樹脂が同じであるとしても、甲1発明における「赤外線反射フィルム」の「熱収縮率」が、本件発明1で特定された範囲に入ることが自明であることを裏付ける証拠もないので、申立人による前記(ア)の主張は採用できない。
エ 小括
したがって、本件発明1、2、5及び7は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、前記第3の1の特許異議申立理由は理由がない。
2 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
(1)判断
ア 続いて、前記1(2)ア(イ)の相違点1に係る本件発明1の発明特定事項の容易想到性について検討すると、本件発明1は、「赤外線反射フィルム」が屈折率の異なる樹脂層を100層以上積層した積層体であり、その厚みを80μm以上120μm以下とすることに加えて、当該「熱収縮率」を1.5%以上2.0%以下とすることで、オレンジピールの発生を抑制するものである。
これに対して、甲第1号証においては、多層積層フィルムの熱収縮率とオレンジピールとの関係を示唆する記載はない。加えて、甲第2号証~甲第4号証の記載をみても、前記発明特定事項は記載も示唆もされていないから、甲1発明において、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証~甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2、4、5、7及び9について検討しても事情は同じである。
イ 申立人は、仮に前記相違点1が実質的な相違点であるとしても、甲1発明において前記相違点1を具備させることは当業者において何ら困難ではない旨を主張している(特許異議申立書25ページ6行~10行)。
ところが、甲1発明において前記相違点1を具備させることが容易であることを裏付ける証拠はないから、申立人の前記主張も採用できない。
(2)小括
したがって、本件発明1、2、4、5、7及び9は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、前記第3の2の特許異議申立理由は理由がない。
3 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)、特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1)実施可能要件及びサポート要件の判断手法
ア 実施可能要件の判断手法
明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かという観点から判断されるべきである。
また、物の発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為であるから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について前記実施可能要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明において、当業者が、明細書の発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、かつ、使用することができる程度の記載があることを要する。
イ サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)一般的な実施可能要件及びサポート要件の判断基準に沿った検討
ア 本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、以下の(ア)~(オ)の記載がある。
(ア)「【0001】
本発明は、車両用フロントガラスに関し、特に、赤外線反射フィルムを用いた合わせガラスからなる車両用フロントガラスに関する。
・・・
【0005】
一方、赤外線反射フィルムを用いた合わせガラスにおいては、反射像の輪郭が揺らいで見える現象、いわゆるオレンジピール、が発生することが知られている。車両用のフロントガラスにおけるオレンジピールの発生は、外観および車内側からの視認性の観点から好ましくない。オレンジピール発生の原因は、合わせガラス製造時に発生する、赤外線反射フィルム自体のうねり、あるいは隣接する接着層の収縮により赤外線反射フィルムが中心に向かって引っ張られることによるフィルム表面のうねりと考えられている。
【0006】
上記のとおり、特許文献1や特許文献2では、赤外線反射フィルムに起因する凹凸やシワなどの合わせガラスの外観の悪化が抑制されている。しかしながら、このオレンジピールの発生を抑制しつつ、車両用のフロントガラスに求められるその他の特性の向上については一切考慮されていない。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、赤外線反射フィルムを用いた合わせガラスからなる車両用フロントガラスであって、遮熱性に優れるとともに、外観が良好であり、特に反射像の輪郭が揺らいで見える現象(以下、「オレンジピール」ともいう。)の発生が抑制された車両用フロントガラスを提供することを目的とする。」
(イ)「【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、これらの実施形態を、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、変更または変形することができる。
【0013】
実施形態の車両用フロントガラス(以下、単に「フロントガラス」という。)は、第1のガラス板、第1の接着層、赤外線反射フィルム、第2の接着層および第2のガラス板を有し、これらがこの順に積層された合わせガラスを含み、第1のガラス板の厚みと第2のガラス板の厚みとの和が4.1mm以下であり、赤外線反射フィルムが、以下の(1)~(3)の要件を満たす。
(1)赤外線反射フィルムは、屈折率の異なる樹脂層が100層以上積層された積層体を含む。
(2)赤外線反射フィルムは、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率が1.5%以上2.0%以下、かつ該方向に直交する方向の熱収縮率が1.5%以上2.0%以下である。ただし、所定方向の赤外線反射フィルムの熱収縮率は、赤外線反射フィルムを150℃で30分間保持した前後における該所定方向の長さの縮小率である。
(3)赤外線反射フィルムは厚みが80μm以上120μm以下である。
【0014】
赤外線反射フィルムは、(1)の要件を満たすことで、干渉反射による赤外線反射性を有する。赤外線反射フィルムが(2)および(3)の要件を満たすことで、フロントガラスの製造時に赤外線反射フィルムを変形させる要因の多くが排除される。これにより、遮熱性に優れるとともに、オレンジピールの発生が抑制された、実施形態のフロントガラスが得られる。以下、実施形態のフロントガラスについて、図面を参照して説明する。
・・・
【0020】
図1に示す正面図の上はフロントガラスの上に一致する。図2の断面図は、図面の左側がフロントガラスの上となるよう配置された断面図である。以下、フロントガラス10の各構成要素について説明する。
[赤外線反射フィルム]
フロントガラス10における赤外線反射フィルム5は、上記(1)~(3)の要件を満たす。要件(1)により、赤外線反射フィルムは、屈折率の異なる樹脂層が100層以上積層された積層体を含む。赤外線反射フィルム5は、積層体を含むことにより赤外線反射性を有する。赤外線反射フィルム5は積層体のみから構成されてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で任意に別の層、例えば、後述する保護層を有してもよい。
【0021】
要件(1)に関し、赤外線反射フィルム5において、積層体を構成する屈折率の異なる樹脂層の種類は2以上であればよく、2種類以上4種類以下が好ましく、製造容易性の観点から2種類が特に好ましい。2種類の屈折率の異なる樹脂層を用いた場合、相対的に屈折率の高い樹脂層を高屈折率層、屈折率の低い樹脂層を低屈折率層と称する。この場合、積層体は、通常、高屈折率層と低屈折率層を交互に積層して構成される。
・・・
【0023】
樹脂層の屈折率は、樹脂の種類、樹脂中の官能基や骨格の種類、樹脂の含有量を適宜調整することにより調整できる。樹脂層を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましく、例えば、ポリオレフィン、脂環族ポリオレフィン、ポリアミド、アラミド、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、スチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、含フッ素樹脂等が挙げられる。
【0024】
上記の樹脂から2種類以上の屈折率の異なる樹脂を適宜選択し、選択した樹脂からなる樹脂層を、上記の設計に従い積層して積層体を形成する。なお、屈折率の異なる樹脂を選択する際、層間密着性や、高精度の積層構造の実現性の観点から、好ましくは、同一の繰り返し単位を含む樹脂の組み合わせを選択する。上記の樹脂の中でも、ポリエステルは、強度、耐熱性、透明性の観点から好ましく、ポリエステルから同一の繰り返し単位を含む組み合わせを選択するのが好ましい。選択されるポリエステルとしては、芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸と、ジオール、あるいはそれらの誘導体を用いて得られるポリエステルが好ましい。
【0025】
選択されるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート共重合体、・・・ポリヘキサメチレンナフタレート共重合体等が挙げられる。上記のポリエステルの中から選択される1種類以上のポリエステルを用いることが好ましい。
・・・
【0037】
このような屈折率の異なる樹脂層を100層以上積層することにより、積層体は赤外線を干渉反射する機能を有する。積層体の積層数が100層以上であれば、赤外線反射フィルム5の膜厚が(3)の要件を満たす範囲で、積層数は適宜調整可能である。赤外線反射性を高めるために、樹脂層の層数は400層以上が好ましく、600層以上がより好ましい。積層体の積層数の上限は、赤外線反射フィルム5の膜厚の上限により制限され、概ね5000層が好ましい。
【0038】
積層体が有する樹脂層の積層数や各樹脂層の層厚は、求められる赤外線反射性に応じて、用いる樹脂層の屈折率に基づいて設計される。例えば、屈折率の異なる2種の樹脂層としてA層とB層を用いた場合、層厚分布は隣接するA層とB層の光学厚みが下記式(i)を満たすことが好ましい。
【0039】
λ=2(nAdA+nBdB) (i)
ここでλは反射光の波長、nAはA層の屈折率、dAはA層の厚み、nBはB層の屈折率、dBはB層の厚みである。
【0040】
さらに、層厚分布は式(i)と下記式(ii)を同時に満たすことが好ましい。
【0041】
nAdA=nBdB (ii)
式(i)と式(ii)とを同時に満たす層厚分布を持つことにより、偶数次の反射を解消できる。これにより、例えば、波長850nm~1200nmの範囲(赤外線)における平均反射率を高くしつつ、波長400nm~700nmの範囲(可視光)における平均反射率を低くすることができる。これにより、透明でかつ熱エネルギーの遮断性能の高い赤外線反射フィルム5を得ることができる。
・・・
【0045】
要件(3)により、赤外線反射フィルム5の厚みは80μm以上120μm以下である。赤外線反射フィルム5は、厚みが80μm以上であることにより剛性を備え、合わせガラス製造時に、第1の接着層および第2の接着層の熱収縮の影響を受けにくい。これによりオレンジピールの発生を抑制できる。赤外線反射フィルム5の厚みが120μm以下であると、合わせガラス製造時の脱気性が良好である。赤外線反射フィルム5の厚みは85μm以上115μm以下が好ましく、90μm以上110μm以下がより好ましく、95μm以上110μm以下がさらに好ましい。
【0046】
赤外線反射フィルム5は、要件(2)により、熱収縮率が最大となる方向(以下、「最大収縮方向」ともいう。)の熱収縮率が1.5%以上2.0%以下、かつ該方向に直交する方向(以下、単に「直交方向」ともいう。)の熱収縮率が1.5%以上2.0%以下である。
【0047】
ただし、所定方向の赤外線反射フィルムの熱収縮率は、赤外線反射フィルムを150℃で30分間保持した前後における該所定方向の長さの縮小率である。具体的には、赤外線反射フィルムの熱収縮率は、以下のとおり測定できる。
【0048】
まず、赤外線反射フィルム5から、最大収縮方向またはそれに直交する方向に沿って、短冊状の試験片を切り出す。赤外線反射フィルムは、後述のように、構成材料をフィルム状に延伸することにより製造されるため、赤外線反射フィルムには延伸に対する応力が残留応力として存在する。特に、フィルム製造時の流れ方向である長手方向、いわゆるMD方向の残留応力が大きく熱収縮しやすい。したがって、通常は、MD方向が最大収縮方向であり、幅方向であるTD方向が直交方向である。
【0049】
試験片の寸法は、例えば、長さ150mm、幅20mmである。この試験片には、長手方向に約100mmの間隔を空けて一対の基準線を記入し、この基準線間の長さL1を測定する。熱風循環式オーブン内に試験片を垂直に吊り下げ、150℃まで昇温して30分間保持し、室温まで自然冷却して60分間保持した後、基準線間の長さL2を測定する。熱収縮率は得られたL1およびL2を用いて以下の式(iii)により算出される。
【0050】
熱収縮率=((L1-L2)/L1)×100[%] (iii)
赤外線反射フィルム5は、最大収縮方向および直交方向の熱収縮率が1.5%以上であることによりオレンジピールの発生を抑制でき、2.0%以下であることにより合わせガラスの透視歪の発生を抑制できる。最大収縮方向の熱収縮率は、1.6%以上2.0%以下が好ましく、1.8%以上2.0%以下がより好ましい。直交方向の熱収縮率は、1.6%以上2.0%以下が好ましく、1.75%以上2.0%以下がより好ましい。また、最大収縮方向の熱収縮率と直交方向の熱収縮率の差は小さい程好ましく、互いに同一であるのが特に好ましい。」
(ウ)「【0051】
要件(1)~(3)を満たす赤外線反射フィルム5は、例えば、以下の方法で製造できる。なお、以下では、屈折率の異なる2種の樹脂層として、樹脂AからなるA層と樹脂BからなるB層を用いた積層体からなる赤外線反射フィルム5の製造方法を例示する。該製造方法を適宜変更することにより、3種以上の樹脂層を用いた赤外線反射フィルムや、保護層等の別の層を有する赤外線反射フィルムを製造することができる。
【0052】
A層とB層を用いた積層体からなる赤外線反射フィルムは、以下の(a)~(c)工程を含む方法で製造できる。(a)工程および(b)工程で、上記(1)~(3)の要件の全てを満たす赤外線反射フィルムが得られる場合、(c)工程は行わない。すなわち、(c)工程は任意の工程とすることができる。
(a)最終的に得られる積層体とは層厚が異なるが積層数が同様となるようにA層とB層が交互に積層された未延伸積層体を作製する工程。
(b)(a)工程で得られた未延伸積層体を延伸し層厚を調整して積層体前駆体を得る工程。
(c)(b)工程後の積層体前駆体を熱処理して、要件(2)を満たすように熱収縮率が調整された積層体を得る工程。
(a)未延伸積層体を作製する工程
樹脂Aおよび樹脂Bをペレットなどの形態で用意する。ペレットは、必要に応じて事前乾燥を熱風中あるいは真空下で行い、押出機に供給される。押出機内において、融点以上に加熱溶融された樹脂は、ギヤポンプ等で樹脂の押出量が均一化され、フィルタ等を介して異物や変性した樹脂などを取り除く。
【0053】
2台以上の押出機を用いて異なる流路から送り出された樹脂Aおよび樹脂Bは、次に、多層積層装置に搬送され、該装置により所望の積層数に積層した溶融積層体とされ、次いでダイにて目的の形状に成形され吐出される。ダイから吐出された多層に積層されたシートは、キャスティングドラム等の冷却体上に押し出され、冷却固化することで、未延伸積層体となる。なお、多層積層装置としては、マルチマニホールドダイやフィールドブロックやスタティックミキサー等が使用できる。
(b)延伸工程
(a)工程で得られた未延伸積層体を延伸し積層体前駆体を作製する。延伸方法は、通常、二軸延伸とする。二軸延伸の方法は、逐次二軸延伸、同時二軸延伸のいずれでもよい。さらに、MD方向および/またはTD方向に再延伸を行ってもよい。面内の配向差を抑制できる点や、表面傷を抑制する観点から、同時二軸延伸が好ましい。二軸延伸は、好ましくは、樹脂Aおよび樹脂Bのうちガラス転移点が高い方の樹脂のガラス転移点の温度以上、該温度+120℃以下の範囲で行う。
【0054】
MD方向およびTD方向の延伸倍率は、得られる積層体において各層の層厚が設計された層厚となるように調整される。さらに、好ましくは、MD方向とTD方向で残留応力が同程度となるように延伸倍率、延伸速度が調整される。延伸工程で得られる積層体前駆体は、通常、残留応力が高く、赤外線反射フィルムにおける(2)の要件を満たさない。次いで、以下の(c)熱処理を得ることで、(2)の要件を満たす積層体が得られる。ただし、上記のとおり積層体前駆体が、(2)の要件を満たす場合は、これをそのまま積層体として用いてよい。
(c)熱処理工程
積層体前駆体の熱処理は、延伸機内で行うのが一般的である。熱処理温度は、好ましくは、樹脂Aおよび樹脂Bのうち融点が高い樹脂の融点より低く、融点が低い樹脂の融点より高い温度である。これにより、融点が高い方の樹脂は高い配向状態を保持する一方、融点が低い樹脂の配向は緩和されるために、容易にこれらの樹脂の屈折率差を設けることができる。さらに、配向緩和に伴い熱収縮応力を低減することが容易となる。これによって、積層体の熱収縮率を容易に(2)の範囲内に調整できる。
【0055】
なお、熱処理は、熱処理時のリラックス率が0%以上10%以下、好ましくは0%以上5%以下となるように行ってもよい。リラックスは、TD方向およびMD方向のいずれか一方または両方に行なってもよい。また、熱処理時に2%以上10%以下の微延伸を行うことも好ましい。微延伸はTD方向およびMD方向のいずれか一方または両方に行なってもよい。このようにして、熱処理温度、熱処理時間、リラックス率や微延伸率を調整して、積層体の熱収縮率を(2)の範囲内に調整する。
【0056】
なお、積層体の熱収縮率を調整する目的で、熱処理工程後の冷却中にリラックスを行ってもよく、さらに、熱処理工程後に微延伸を行ってもよい。」
(エ)「【0082】
・・・
[合わせガラス]
本発明のフロントガラスを構成する合わせガラスは、車外側から測定される可視光反射率が7%以上10%以下であることが好ましい。なお、本明細書において、合わせガラスの光学特性は、図1に示される合わせガラス10のように黒色セラミック層6を有する場合は、平面視で黒色セラミック層6を有しない透視領域10yにおける光学特性である。
【0083】
合わせガラス10は、車外側から測定される可視光反射率(Rv)が7%以上であると、赤外線反射フィルム5の機能が十分である、すなわち遮熱性が十分となる。可視光反射率(Rv)が10%以下であると、オレンジピールが目立たない。可視光反射率(Rv)は、7.5%以上10.0%以下がより好ましい。
【0084】
合わせガラス10は、日射透過率(Te)は45%以下であり、かつ、可視光透過率(Tv)は70%以上であることが好ましい。日射透過率(Te)は40%以下がより好ましく、38%以下が特に好ましい。車外側から測定される日射反射率(Re)は18%以上がより好ましく、20%以上が特に好ましい。可視光透過率(Tv)は72%以上がより好ましく、73%以上が特に好ましい。また、合わせガラス10のヘイズ値は1.0%以下であることが好ましく、0.8%以下がより好ましく、0.6%以下が特に好ましい。
【0085】
なお、車外側から測定される可視光反射率(Rv)、車外側から測定される日射反射率(Re)、日射透過率(Te)および可視光透過率(Tv)は、分光光度計等により、少なくとも300~2100nmが含まれる波長域の透過率、反射率を測定し、それぞれJIS R3106(1998年)およびJIS R3212(1998年)で規定される計算式から算出される値である。本明細書において、特に断りのない限り、可視光反射率、日射反射率、日射透過率および可視光透過率は、上記の方法で測定、算出される、車外側から測定される可視光反射率(Rv)、車外側から測定される日射反射率(Re)、日射透過率(Te)および可視光透過率(Tv)をいう。
【0086】
さらに、合わせガラス10に対して、D65光源による光を車外側から入射角10~60°ので照射して得られる反射光の色調は、CIE1976L*a*b*色度座標で、-5<a*<3および-12<b*<2であるのが好ましい。上記条件で測定されるa*およびb*が上記範囲外では、オレンジピールが目立ちやすい。上記条件で測定されるa*は-3<a*<2が好ましい。上記条件で測定されるb*は-9<b*<0がより好ましい。
・・・
【0090】
・・・
[フロントガラスの製造]
本発明のフロントガラスは、一般的に用いられる公知の技術により製造できる。フロントガラス(合わせガラス)10においては、それぞれ上記のとおり準備した第1のガラス板、第1の接着層、赤外線反射フィルム、第2の接着層および第2のガラス板がその順に積層された圧着前の合わせガラスである合わせガラス前駆体を準備する。その際、必要に応じて、第1の接着層、赤外線反射フィルムおよび第2の接着層のTD方向、MD方向を上記の好ましい方向に合わせて積層する
この合わせガラス前駆体を、例えば、ゴムバッグのような真空バッグの中に入れ、この真空バッグを排気系に接続して、真空バッグ内の圧力が約-65~-100kPaの減圧度(絶対圧力約36~1kPa)となるように減圧吸引(脱気)しながら温度約70~110℃に加熱する。これにより、第1のガラス板、第1の接着層、赤外線反射フィルム、第2の接着層および第2のガラス板の全体が接着された合わせガラスが得られる。その後、必要に応じて、合わせガラスをオートクレーブの中に入れ、温度約120~150℃、圧力約0.98~1.47MPaの条件で加熱加圧する圧着処理を行う。圧着処理により、合わせガラスの耐久性をさらに向上させることができる。」
(オ)「【実施例】
【0091】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明される実施例に限定されない。
[例1~11]
図1および図2に示した合わせガラスと同様の構成の合わせガラスを以下のとおり製造して評価した。例1~7が実施例であり、例8~11が比較例である。
(赤外線反射フィルムの製造)
屈折率の異なる2種類の熱可塑性樹脂として、樹脂Aと樹脂Bを用いた。樹脂Aとして、固有粘度IV=0.65、屈折率1.66のPET(結晶性ポリエステル、融点255℃)を用いた。樹脂Bとして、固有粘度IV=0.73、屈折率1.55の、全単位に対してスピログリコール単位25モル%、シクロヘキサンジカルボン酸単位30モル%を含むPET共重合体(PE/SPG・T/CHDC)を用いた。用意した2種類の樹脂をそれぞれ押出し機にて280℃に溶融させ、光学厚み比を樹脂A/樹脂B=1になるようにして厚み方向に交互に2000層積層して未延伸積層体を得た。
【0092】
各例において、未延伸積層体を所定の倍率で二軸延伸して、積層体の厚みを調整した後、熱処理を施して、MD方向およびTD方向の残留応力(熱収縮率)を調整して、表1に示す物性を有する赤外線反射フィルムを得た。表1に示す熱収縮率は、「最大方向」が、熱収縮率が最大となる方向に相当し、具体的には、赤外線反射フィルムのMD方向である。表1に示す「直交方向」は、「最大方向」に直交する方向であり、赤外線反射フィルムのTD方向である。なお、赤外線反射フィルムの熱収縮率は、赤外線反射フィルムを150℃で30分間保持した前後における所定方向の長さの縮小率であり、上記の方法で測定した値である。
(合わせガラスの製造)
第1のガラス板として、縦1000mm、横1400mm、板厚2mmの熱線吸収グリーンガラス(旭硝子社製:NHI(通称))を用い、第2のガラス板として、正面視の外周サイズが、縦1000mm、横1400mmであり、板厚2mmのクリアガラス(旭硝子社製:FL(通称))を用い、それぞれのガラスに対して、予め加熱により所定の曲率になるよう曲げ処理した、試験領域Aにおける曲率半径が異なる2種類のガラス板A、ガラス板Bを準備した。ガラス板Aは試験領域Aにおける最大曲率半径が860mmであり、ガラス板Bは1050mmであった。
【0093】
ここで、合わせガラスの製造においては、第1のガラス板と第2のガラス板は同じ曲率半径、種類のガラス板を使用する。例5ではガラス板Bを用い、それ以外の例ではガラス板Aを用いた。さらに、第1のガラス板となるガラス板の車内側となる主面の周縁部に額縁状に黒色セラミック層を形成した。
【0094】
第1の接着層は厚さ0.76mmのPVBフィルム(イーストマンケミカル社製:品番QL51)、第2の接着層は厚さ0.38mmのPVBフィルム(イーストマンケミカル社製:品番RK11)とした。なお、厚さの異なる2種類のPVBフィルムにおいて、その熱収縮率が最大となる方向、具体的にはMD方向の熱収縮率はいずれも6.0%、それに直交する方向、具体的にはTD方向の熱収縮率はいずれも5.0%であった。また、PVBフィルムの熱収縮率は、PVBフィルムを上記の方法で測定した値である。さらに、延伸方法を調整することにより熱収縮率が上記とは異なる接着層を2種類準備した。いずれも第1の接着層は厚さ0.76mmのPVBフィルム、第2の接着層は0.38mmのPVBフィルムとした。一方の接着層はMD方向の熱収縮率が8.5%、TD方向の熱収縮率が7.0%であった。もう一方の接着層はMD方向の熱収縮率が3.0%、TD方向の熱収縮率が2.0%であった。
【0095】
各例において上記で得られた赤外線反射フィルムを用いて、第1のガラス板、第1の接着層、赤外線反射フィルム、第2の接着層および第2のガラス板をその順に積層した積層体を準備した。なお、第1の接着層、赤外線反射フィルムおよび第2の接着層はいずれも、MD方向を第1のガラス板および第2のガラス板の横方向に合わせて積層した。また、第1のガラス板は、黒色セラミック層が第1の接着層の反対側となるように積層した。真空バッグに積層体を入れ、圧力計の表示が100kPa以下となるように脱気した後、120℃に加熱して圧着し、さらにオートクレーブにて温度135℃、圧力1.3MPaで60分間の加熱加圧を行い、最終的に冷却して合わせガラスとした。
【0096】
各例で得られた合わせガラスにおける、可視光反射率(Rv)、日射反射率(Re)、およびD65光源による光を車外側から入射角10°で照射して得られる反射光のCIE1976L*a*b*色度座標におけるa*およびb*を測定した。なお、測定には分光光度計(日立ハイテクノロジー製U4100)を用いた。表1に、得られた結果を、用いたガラス板の上記曲率半径とともに示す。
・・・
【0100】
【表1】
[図:0001400514000001.jpg]
」
イ 実施可能要件について
(ア)前記ア(イ)の本件特許明細書の記載によれば、本件発明に係る「車両用フロントガラス」の「赤外線反射フィルム」は、以下の(1)~(3)の要件を満たすものである。
(1)赤外線反射フィルムは、屈折率の異なる樹脂層が100層以上積層された積層体を含む。
(2)赤外線反射フィルムは、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率が1.5%以上2.0%以下、かつ該方向に直交する方向の熱収縮率が1.5%以上2.0%以下である。ただし、所定方向の赤外線反射フィルムの熱収縮率は、赤外線反射フィルムを150℃で30分間保持した前後における該所定方向の長さの縮小率である。
(3)赤外線反射フィルムは厚みが80μm以上120μm以下である。
そして、「赤外線反射フィルム」は、前記要件(1)により、屈折率の異なる樹脂層が100層以上積層された積層体を含むことにより赤外線反射性を有するものであり、積層体を構成する屈折率の異なる樹脂層の種類は2以上であればよく、2種類の屈折率の異なる樹脂層を用いた場合、相対的に屈折率の高い樹脂層を高屈折率層、屈折率の低い樹脂層を低屈折率層と称すると、積層体は、通常、高屈折率層と低屈折率層を交互に積層して構成されるものであり、樹脂層を構成する樹脂としては、強度、耐熱性、透明性の観点からポリエステルが好ましく、ポリエステルから同一の繰り返し単位を含む組み合わせを選択するのが好ましいものであり、選択されるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられるものである。
更に、積層体は、このような屈折率の異なる樹脂層を100層以上積層することにより、赤外線を干渉反射する機能を有するものであり、積層体が有する樹脂層の積層数や各樹脂層の層厚は、求められる赤外線反射性に応じて、用いる樹脂層の屈折率に基づいて設計されるものであって、例えば、屈折率の異なる2種の樹脂層としてA層とB層を用いた場合、層厚分布は隣接するA層とB層の光学厚みが下記式(i)を満たすことが好ましいものであり、
λ=2(nAdA+nBdB) (i)
ここでλは反射光の波長、nAはA層の屈折率、dAはA層の厚み、nBはB層の屈折率、dBはB層の厚みである。
更に、層厚分布は式(i)と下記式(ii)を同時に満たすことが好ましいものであり、
nAdA=nBdB (ii)
式(i)と式(ii)とを同時に満たす層厚分布を持つことにより、偶数次の反射を解消でき、透明でかつ熱エネルギーの遮断性能の高い「赤外線反射フィルム」を得ることができるものである。
(イ)また、前記ア(ウ)の本件特許明細書の記載によれば、前記要件(1)~(3)を満たす「赤外線反射フィルム」は、例えば、以下の(a)~(c)工程を含む方法で製造できるものであり、(a)工程および(b)工程で、前記(1)~(3)の要件の全てを満たす「赤外線反射フィルム」が得られる場合、(c)工程は行わないものである。
(a)最終的に得られる積層体とは層厚が異なるが積層数が同様となるようにA層とB層が交互に積層された未延伸積層体を作製する工程。
(b)(a)工程で得られた未延伸積層体を延伸し層厚を調整して積層体前駆体を得る工程。
(c)(b)工程後の積層体前駆体を熱処理して、要件(2)を満たすように熱収縮率が調整された積層体を得る工程。
すなわち、前記(a)未延伸積層体を作製する工程は、樹脂Aおよび樹脂Bをペレットなどの形態で用意し、ペレットは押出機に供給され、2台以上の押出機を用いて異なる流路から送り出された樹脂Aおよび樹脂Bは、次に、多層積層装置に搬送され、該装置により所望の積層数に積層した溶融積層体とされ、次いでダイにて目的の形状に成形され吐出され、ダイから吐出された多層に積層されたシートは、キャスティングドラム等の冷却体上に押し出され、冷却固化することで、未延伸積層体となるものである。
次に、前記(b)延伸工程において、前記(a)工程で得られた未延伸積層体を延伸し積層体前駆体を作製するものであり、延伸方法は、通常、二軸延伸とするものであり、二軸延伸は、好ましくは、樹脂Aおよび樹脂Bのうちガラス転移点が高い方の樹脂のガラス転移点の温度以上、該温度+120℃以下の範囲で行うものである。
更に、延伸工程で得られる積層体前駆体は、通常、残留応力が高く、「赤外線反射フィルム」における前記(2)の要件を満たさないので、以下の(c)熱処理工程を得ることで、前記(2)の要件を満たす積層体が得られるものであり、当該(c)熱処理工程における積層体前駆体の熱処理は、延伸機内で行うのが一般的であり、熱処理温度は、好ましくは、樹脂Aおよび樹脂Bのうち融点が高い樹脂の融点より低く、融点が低い樹脂の融点より高い温度であり、これにより、融点が高い方の樹脂は高い配向状態を保持する一方、融点が低い樹脂の配向は緩和されるために、容易にこれらの樹脂の屈折率差を設けることができ、さらに、配向緩和に伴い熱収縮応力を低減することが容易となるので、積層体の熱収縮率を容易に前記(2)の要件の範囲内に調整できるものである。
(ウ)更に、前記ア(エ)の本件特許明細書の記載からみれば、本件発明に係る「車両用フロントガラス」は、一般的に用いられる公知の技術により製造できるものであり、それぞれ準備した「第1のガラス板」、「第1の接着層」、「赤外線反射フィルム」、「第2の接着層」及び「第2のガラス板」がその順に積層された圧着前の合わせガラスである合わせガラス前駆体を準備し、この合わせガラス前駆体を、例えば、ゴムバッグのような真空バッグの中に入れ、この真空バッグを排気系に接続して、真空バッグ内の圧力が約-65~-100kPaの減圧度(絶対圧力約36~1kPa)となるように減圧吸引(脱気)しながら温度約70~110℃に加熱するものであり、これにより、「第1のガラス板」、「第1の接着層」、「赤外線反射フィルム」、「第2の接着層」及び「第2のガラス板」の全体が接着された合わせガラスが得られるものであり、その後、必要に応じて、合わせガラスをオートクレーブの中に入れ、温度約120~150℃、圧力約0.98~1.47MPaの条件で加熱加圧する圧着処理を行うものであり、圧着処理により、合わせガラスの耐久性をさらに向上させることができるものである。
(エ)そして、前記ア(オ)の本件特許明細書の記載からみれば、本件特許明細書には、前記(イ)~(ウ)にのっとった製造方法により、前記要件(1)~(3)を満たす「赤外線反射フィルム」を含む「車両用フロントガラス」を製造した実施例が記載されているといえるのであって、前記要件(1)~(3)を満たす「赤外線反射フィルム」を含む「車両用フロントガラス」は、本件発明1に係る「車両用フロントガラス」といえるものである。
(オ)前記(ア)~(エ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1に係る「車両用フロントガラス」を、過度の試行錯誤を要することなく生産し、かつ、使用することができるのであって、このことを前記(1)アの判断手法に当てはめれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1について実施可能要件に適合するといえる。
更に、本件発明2~10について検討しても事情は同じであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合する。
ウ サポート要件について
(ア)前記ア(ア)の本件特許明細書の記載からみれば、従来、「赤外線反射フィルム」を用いた合わせガラスにおいては、反射像の輪郭が揺らいで見える現象、いわゆるオレンジピールが発生することが知られており、車両用のフロントガラスにおけるオレンジピールの発生は、外観および車内側からの視認性の観点から好ましくないのであり、オレンジピール発生の原因は、合わせガラス製造時に発生する、赤外線反射フィルム自体のうねり、あるいは隣接する接着層の収縮により赤外線反射フィルムが中心に向かって引っ張られることによるフィルム表面のうねりと考えられているのであるが、従来の技術においては、赤外線反射フィルムに起因する凹凸やシワなどの合わせガラスの外観の悪化が抑制されているものの、オレンジピールの発生を抑制しつつ、車両用のフロントガラスに求められるその他の特性の向上については一切考慮されていない、という課題(以下、「本件課題」という。)があったものである。
そして、本件発明は、前記本件課題を解決するものであり、「赤外線反射フィルム」を用いた合わせガラスからなる「車両用フロントガラス」であって、遮熱性に優れるとともに、外観が良好であり、特に反射像の輪郭が揺らいで見える現象(オレンジピール)の発生が抑制された「車両用フロントガラス」を提供することを目的とするものである。
(イ)ここで、前記ア(イ)の本件特許明細書の記載(段落【0013】、【0014】)からみれば、「赤外線反射フィルム」は、前記イ(ア)に記載された(1)の要件を満たすことで、干渉反射による赤外線反射性を有し、同(2)及び(3)の要件を満たすことで、フロントガラスの製造時に赤外線反射フィルムを変形させる要因の多くが排除されるものであり、これにより、遮熱性に優れるとともに、オレンジピールの発生が抑制された、実施形態のフロントガラスが得られるものである。
すなわち、前記「赤外線反射フィルム」は、前記要件(1)により、屈折率の異なる樹脂層が100層以上積層された積層体を含むことにより赤外線反射性を有するものであり(段落【0020】)、前記要件(3)を満たす「赤外線反射フィルム」は、厚みが80μm以上であることにより剛性を備え、合わせガラス製造時に、第1の接着層および第2の接着層の熱収縮の影響を受けにくいので、オレンジピールの発生を抑制できるものであり、「赤外線反射フィルム」の厚みが120μm以下であると、合わせガラス製造時の脱気性が良好であるものであり(段落【0045】)、更に、「赤外線反射フィルム」は、要件(2)により、すなわち、最大収縮方向および直交方向の熱収縮率が1.5%以上であることにより、オレンジピールの発生を抑制でき、2.0%以下であることにより、合わせガラスの透視歪の発生を抑制できるものである(段落【0046】、【0050】)。
(ウ)前記(イ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「赤外線反射フィルム」が前記(1)~(3)の要件を満たすことで、赤外線反射性を有し、オレンジピールの発生を抑制でき、合わせガラスの透視歪の発生を抑制できる「車両用フロントガラス」とすることができ、本件課題を解決できることを理解することができるものである。
そして、前記(1)~(3)の要件を満たす「赤外線反射フィルム」を含む「車両用フロントガラス」は、本件発明1に係る「車両用フロントガラス」といえるものである。
してみれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1に係る「車両用フロントガラス」が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることを理解することができるのであり、このことを前記(1)イの判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の記載は、本件発明1についてサポート要件に適合するといえる。
更に、本件発明2~10について検討しても事情は同じであるから、本件特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(3)申立人の主張に沿った検討
ア 指摘事項1について
(ア)発明の詳細な説明の記載は、当該発明の詳細な説明の記載に接した当業者が、本件発明1に係る「車両用フロントガラス」を、過度の試行錯誤を要することなく生産し、かつ、使用することができる程度に記載されていれば足りるのであって、前記(2)ア(オ)の本件特許明細書の記載によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の発明特定事項を満たす「車両用フロントガラス」の製造方法の実施例が記載されているから、当業者は、本件発明1に係る「車両用フロントガラス」を、過度の試行錯誤を要することなく生産し、かつ、使用することができるものである。
また、前記(2)ア(イ)の本件特許明細書の記載(段落【0038】~【0041】)によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、屈折率が異なる樹脂層を100層以上積層する「赤外線反射フィルム」の設計手法が記載されているし、同(ウ)の本件特許明細書の記載(段落【0051】~【0056】)によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、前記(1)~(3)の要件を満たす「赤外線反射フィルム」の製造方法が記載されているのであるから、本件特許明細書の記載に接した当業者は、同(イ)の本件特許明細書(段落【0023】~【0025】)に記載された種々の樹脂を用いた場合であっても、本件発明1に係る「車両用フロントガラス」を、過度の試行錯誤を要することなく生産し、かつ、使用することができるものである。
そうすると、本件特許明細書に記載された実施例に、樹脂Aとして、固有粘度IV=0.65、屈折率1.66のPET(結晶性ポリエステル、融点255℃)を用い、樹脂Bとして、固有粘度IV=0.73、屈折率1.55の、全単位に対してスピログリコール単位25モル%、シクロヘキサンジカルボン酸単位30モル%を含むPET共重合体(PE/SPG・T/CHDC)を用いた例のみが開示され、本件発明1において樹脂に関する特定がされていないとしても、当業者は、本件発明1に係る「車両用フロントガラス」を、過度の試行錯誤を要することなく生産し、かつ、使用することができることに変わりはないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合するものである。
(イ)また、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1に係る「車両用フロントガラス」が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることを理解することができることは、前記(2)ウ(ウ)に記載したとおりである。
すると、本件特許明細書に記載された実施例に、樹脂Aとして、固有粘度IV=0.65、屈折率1.66のPET(結晶性ポリエステル、融点255℃)を用い、樹脂Bとして、固有粘度IV=0.73、屈折率1.55の、全単位に対してスピログリコール単位25モル%、シクロヘキサンジカルボン酸単位30モル%を含むPET共重合体(PE/SPG・T/CHDC)を用いた例のみが開示され、本件発明1において樹脂に関する特定がされていないとしても、当業者は、本件発明1に係る「車両用フロントガラス」により本件課題を解決することができることを理解できることに変わりはないから、本件特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものである。
(ウ)したがって、申立人の前記第3の3(1)の指摘事項1に係る主張は採用できない。
イ 指摘事項2について
前記アに記載したのと同様の理由により、当業者は、本件発明3の発明特定事項を満たす「車両用フロントガラス」を、過度の試行錯誤を要することなく生産し、かつ、使用することができるし、本件発明3の発明特定事項を満たす「車両用フロントガラス」により本件課題を解決することができることを理解できることに変わりはないから、申立人の前記第3の3(2)の指摘事項2に係る主張も採用できない。
(4)小括
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号所定の規定に適合するし、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号所定の規定に適合するから、前記第3の3の特許異議申立理由はいずれも理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人の特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700418