特許異議申立
2023-700190
光学ガラス、プリフォーム及び光学素子
- 審判番号
- 2023-700190
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-242559
- 登録番号
- 7133901
- 請求日
- 2023年02月17日
- 審決日
- 2023年07月04日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社オハラ
- 【権利者代理人】右田 俊介
- 【権利者代理人】高橋 政治
- 【権利者代理人】水野 基樹
- 【異議申立人】越阪部 倫子
- 【異議申立人】森 一郎
- 審判長/審判官
- 審判長 日比野 隆治
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 立木 林
- 分類
- P1651.113-Y (C03C) / P1651.121-Y (C03C) / P1651.536-Y (C03C) / P1651.537-Y (C03C) / P1651.55 -Y (C03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第17条の2第3項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7133901号発明「光学ガラス、プリフォーム及び光学素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7133901号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7133901号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成28年12月14日(優先権主張 平成28年2月29日)に出願され、令和4年9月1日にその特許権の設定登録がされ、同年同月9日に特許掲載公報が発行された。
その後、請求項1~7に係る特許に対して、令和5年2月17日に特許異議申立人越阪部倫子(以下、「申立人1」という。)により、同年同月27日に特許異議申立人森一郎(以下、「申立人2」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」などという。)。
「【請求項1】
酸化物換算組成の質量%で、
SiO2成分を20.0~48.0%、
B2O3成分を0~9.26%、
Nb2O5成分を32.45~50.0%、
K2O成分を0.1超~15.0%、
Li2O成分を0~8.0%未満、
ZrO2成分を1.0%超10.0%以下
CaO成分を0~3%、
Ta2O5成分を1.0%未満、
WO3成分を5.0%未満、
含有し、
Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の質量和が12.0%以上20.0%以下、
Ln2O3成分(式中、LnはY、La、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が5.0%未満であり、
1.60以上1.78以下の屈折率(nd)と28以上47以下のアッベ数(νd)を有し、
部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、(-0.00256×νd+0.637)≦(θg,F)≦(-0.00256×νd+0.684)の関係を満たし、
表面法耐候性が級1又は2である光学ガラス。
【請求項2】
酸化物換算組成の質量%で、
TiO2成分 0~10.0%
Na2O成分 0~15.0%
であり、
である請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
酸化物換算組成の質量%で、
MgO成分 0~10.0%
SrO成分 0~10.0%
BaO成分 0~10.0%
ZnO成分 0~25.0%
La2O3成分 0~3.0%
Gd2O3成分 0~3.0%
Y2O3成分 0~3.0%
Yb2O3成分 0~3.0%
P2O5成分 0~10.0%
GeO2成分 0~10.0%
Al2O3成分 0~10.0%
Ga2O3成分 0~10.0%
Bi2O3成分 0~10.0%
TeO2成分 0~5.0%
SnO2成分 0~5.0%
Sb2O3成分 0~1.0%
である請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
SiO2成分及びNb2O5成分の含有量の和が50.0%超である請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の質量和が30.0%以下である請求項1 から4 のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。」
第3 特許異議の申立てについて
1 特許異議申立理由の概要
(1) 申立人1の主張する特許異議申立理由
申立人1が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証 国際公開第01/72650号
ア 申立理由1-1(新規事項の追加)
令和4年6月30日付け手続補正書でした補正が後記2(1)アの点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、それぞれ「本件当初明細書」などといい、纏めて「本件当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないため、本件発明1~7に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。
イ 申立理由1-2(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
本件発明1~7は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
ウ 申立理由1-3(サポート要件違反)
本件発明1~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が後記2(4)ア(ア)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
エ 申立理由1-4(実施可能要件違反)
本件発明1~7に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が後記2(5)アの点で不備のため、特許法第36条第4号第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2) 申立人2の主張する特許異議申立理由
申立人2が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証 国際公開第01/72650号
甲第2号証 特開平10-265238号公報
甲第3号証 実験成績証明書(1)
甲第4号証 実験成績証明書(2)
甲第5号証 知的財産高等裁判所、平成28年(行ケ)第10189号審
決取消請求事件判決、平成29年10月25日判決言渡
甲第6号証 特開2014-131948号公報
甲第7号証 特開2016-88758号公報
甲第8号証 特開2016-88759号公報
甲第9号証 国際公開第2004/110942号
甲第10号証 特開2009-179522号公報
甲第11号証 特開2010-105902号公報
甲第12号証 特開2012-153558号公報
甲第13号証 特開2002-87841号公報
甲第14号証 特開2004-161598号公報
甲第15号証 国際公開第2017/090645号
甲第16号証 国際公開第2017/090646号
甲第17号証 特開2019-64898号公報
甲第18号証 特開2019-104671号公報
(なお、申立人2が提出した甲第1号証は、申立人1が提出した甲第1号証と同じ証拠である。)
ア 申立理由2-1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
本件特許発明1~7は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、当該甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
イ 申立理由2-2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
本件特許発明1~7は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、当該甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
ウ 申立理由2-3(サポート要件違反)
本件発明1に係る特許は、特許請求の範囲の記載が後記2(4)ア(イ)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
(1) 申立理由1-1(新規事項の追加)について
ア 具体的な指摘事項
申立理由1-1は、要するに、審査段階における令和4年6月30日付け手続補正書によって追加された、本件発明1の「B2O3成分を0~9.26%」との発明特定事項について、(i)本件当初明細書の実施例には、本件発明1を充足し、且つ、B2O3成分の含有量が9.26%である具体例がないこと、及び、(ii)本件当初明細書には、B2O3成分の上限値が9.26%であるという技術的思想の記載がないことを論拠として、前記発明特定事項を追加する補正は新規事項を追加するものである、というものである(申立人1の特許異議申立書の第3頁第38行~第6頁第2行)。
イ 新規事項の追加についての検討
本件当初明細書等には、「B2O3成分 0~20.0%」であること(【請求項2】、【0013】)、及び、「B2O3成分の含有量を20.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えられ、且つ部分分散比の上昇を抑えられる。さらにガラスの化学的耐久性も悪化を改善させることができる。従って、B2O3成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは18.0%、さらに好ましくは15.0%、さらに好ましくは12.0%を上限とする」こと(【0029】)が記載されており、B2O3成分の含有量の範囲は、本件発明1の「B2O3成分を0~9.26%」との発明特定事項を包含するものである。そして、「B2O3成分を0~9.26%」と特定するに際して、この上限の「9.26%」との数値についての新たな技術的意義は、本件当初明細書等に追加記載されていない。
したがって、当該補正は、本件当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえず、本件当初明細書等に記載された範囲を超えるものではない。
ウ 申立理由1-1についての結論
以上のとおりであるから、申立理由1-1は理由がない。
(2) 申立理由1-2(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)、申立理由2-1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 甲第1号証に記載された発明
申立人1は、実施例5の記載等に基づき、甲第1号証に記載された発明を特定して申立理由1-2を主張し、また、申立人2は、甲第1号証の明細書第3頁第5~22行、第5頁第7行~9行の記載(請求の範囲の請求項1、4に対応する記載)等、及び、実施例5の記載等に基づき、甲第1号証に記載された2つの発明を特定して申立理由2-1を主張しているので、ここでは、当該記載から甲第1号証に記載された2つの発明を改めて認定する。
(ア) 甲1発明1について
甲第1号証には、請求の範囲の請求項1及び4に記載された「光学ガラス」に注目して整理すると、次の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されていると認められる。
「酸化物基準の質量%で、
SiO2 30~55%、
ZrO2 0.5~10%、
Nb2O5 20~50%、
Ta2O5 0~15%、
Li2O 0~25%、
Na2O 0~25%、
K2O 0~25%、
ただし、Li2O+Na2O+K2O 12~25%、
MgO 0~ 5%未満、
CaO 0~ 5%未満、
SrO 0~ 5%未満、
BaO 0~ 5%未満、
ZnO 0~ 5%未満、
ただし、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0~ 5%未満、
Sb2O3 0~ 1%
の範囲の各成分を含有し、
屈折率(nd)が1.60~1.78、アッベ数(νd)が29~45の範囲の光学定数を有し、異常分散性を示すΔθg,Fの値が-0.0009以下である、光学ガラス。」
(イ) 甲1発明2について
甲第1号証には、実施例欄(明細書第9頁第5行~第20頁第5行)の実施例5(表2)の「光学ガラス」に注目して整理すると、次の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。
「SiO2が39.00質量%、ZrO2が3.00質量%、Nb2O5が44.00質量%、Ta2O5が0.50質量%、Li2Oが12.45質量%、Na2Oが1.00質量%、K2Oが0質量%、Sb2O3が0.05質量%で含有し、Li2O+Na2O+K2Oが13.45質量%であり、屈折率(nd)が1.75841、アッベ数(νd)が32.2、部分分散比(θg,F)が0.58739,異常分散性(Δθg,F)が-0.0020である、光学ガラス。」
イ 本件発明1について
(ア) 甲1発明1との対比、判断
a 本件発明1と甲1発明1の対比
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、少なくとも以下の点で相違している。
(相違点1)
K2O成分の含有量について、本件発明1は、「質量%で」、「0.1超~15.0%」であるのに対して、甲1発明1は、「質量%で」、「0~25%」である点。
(相違点2)
本件発明1は、「表面法耐候性が級1又は2である」ことを特定しているのに対して、甲1発明1は、表面法耐候性が明らかでない点。
b 相違点1、2の検討
本件発明1は、「ヤケの生じない光学ガラスが求められている」(本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0007】)ところ、ヤケの指標である「表面法耐候性が級1又は2である」ことを特定するとともに、「K2O成分の含有量を0.1%超含有することで、ガラス中のヤケを効果的に改善させ」たもの(【0027】)といえる。
これに対して、甲第1号証には、「PbOのような環境対策にコストを要する成分を含有せず、原料コストが高いGeO2およびTa2O5を必須成分として含有しないガラスであり、屈折率(nd)1.60~1.78、アッベ数(νd)が29~45の範囲の光学定数を有し、大きな負の異常分散性を有し、かつ、化学的耐久性および均質性に優れた光学ガラスを提供する」との課題(明細書第2頁第17~22行)は記載されているものの、光学ガラスのヤケを改善することや、その指標である「表面法耐候性」を示唆する記載は見当たらない。また、K2O成分についてみても、ガラス溶融を促進し、負の異常分散性を与える効果があること(明細書第8頁第9~12行)は記載されているが、ガラス中のヤケを効果的に改善させることについては記載されていない。
したがって、これらの事項を併せ考えれば、前記相違点1、2は実質的な相違点であって、甲1発明1において、表面法耐候性が級1又は2とすること(相違点2に係る本件発明1の構成にすること)、さらに、表面法耐候性が級1又は2を満たすように、K2O成分の含有量を0.1質量%超~15.0質量%とすること(相違点1に係る同構成にすること)は、当業者にとって容易想到の事項といえない。
c 申立人の主張についての検討
申立人2は、甲1発明1に含まれる実施例5、26、32の表面法耐候性がいずれも級2であること(甲第3号証の実験成績証明書参照)を論拠として、相違点2は実質的な相違点でない旨を主張している(申立人2の特許異議申立書の第29頁第13行~第30頁第2行)。
しかしながら、当該実施例5、26、32は、甲1発明1における一部の具体例にすぎず、甲1発明1の全ガラス組成範囲にわたって表面法耐候性が級1又は2であることを示すものでないから、当該主張は採用できない。
d 小括
したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1であるといえないし、また、甲1発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(イ) 甲1発明2との対比、判断
a 本件発明1と甲1発明2の対比
本件発明1と甲1発明2とを対比すると、少なくとも以下の点で相違している。
(相違点3)
K2O成分の含有量について、本件発明1は、「質量%で」、「0.1超~15.0%」であるのに対して、甲1発明2は、「0質量%」である点。
(相違点4)
本件発明1は、「表面法耐候性が級1又は2である」ことを特定しているのに対して、甲1発明2は、表面法耐候性が明らかでない点。
b 相違点3、4の検討
相違点3,4については、前記(ア)bで検討した相違点1、2と事情は同じであるから、当該相違点3、4は実質的な相違点であって、甲1発明2において、相違点3、4に係る本件発明1の構成にすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
c 申立人の主張についての検討
申立人1及び申立人2は、甲第1号証の明細書第8頁第9~18行の記載から、甲1発明2のLi2O成分の一部をK2O成分に置換して、相違点3に係る本件発明1に係る構成とすることは容易想到の事項である旨を主張している(申立人1の特許異議申立書の第6頁第16~31行、申立人2の特許異議申立書の第32頁第23行~第33頁第13行)。
しかしながら、前記(ア)bで検討したとおり、甲第1号証には、表面法耐候性が級1又は2を満たすように、K2O成分の含有量を調整する技術思想が記載されていないから、当該主張は採用できない。
d 小括
したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明2であるといえないし、また、甲1発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
ウ 本件発明2~7について
本件発明2~7は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2~7は、甲1発明1及び甲1発明2であるといえないし、また、甲1発明1及び甲1発明2に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
エ 申立理由1-2、申立理由2-1についての結論
以上のとおりであるから、申立理由1-2、申立理由2-1は、いずれも理由がない。
(3) 申立理由2-2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 甲第2号証に記載された発明
申立人2は、甲第2号証の【0008】の記載(特許請求の範囲の請求項3に対応する記載)等、実施例2の記載等、及び、実施例3の記載等に基づき、甲第2号証に記載された3つの発明を特定して申立理由2-2を主張しているので、ここでは、当該記載から甲第2号証に記載された3つの発明を改めて認定する。
(ア) 甲2発明1について
甲第2号証には、特許請求の範囲の請求項3に記載された「光学ガラス」に注目して整理すると、次の発明(以下、「甲2発明1」という。)が記載されていると認められる。
「重量%で、
SiO2 20~40%、
B2O3 6~20%、
ただし、重量比で、SiO2/B2O3≦6、
ZrO2 0.5~15%、
Nb2O5 31~45%、
Al2O3 0~ 4%、
GeO2 0~ 5%、
Y2O3 0~ 5%、
La2O3 0~ 5%、
Gd2O3 0~ 5%、
Yb2O3 0~ 5%、
ただし、Y2O3+La2O3+Gd2O3+Yb2O3 0~5%、
Ta2O5 0~10%、
WO3 0~10%、
ZnO 0~14%、
MgO 0~ 7%、
CaO 0.5~ 7%、
SrO 0~14%、
BaO 0~14%、
ただし、ZnO+MgO+CaO+SrO+BaO 0.5~20%、
Li2O 0.5~10%、
Na2O 0~15%、
K2O 0~10%、
ただし、Li2O+Na2O+K2O 0.5~20%
及びSb2O3 0~1%の組成からなり、屈折率(nd)が1.65~1.80、アッベ数(νd)が28~42の範囲の光学恒数を有し、異常分散性を示すΔθg,Fの値が-0.001以下である、負の異常分散性を有する光学ガラス。」
(イ) 甲2発明2について
甲第2号証には、実施例欄(【0021】~【0027】)の実施例2(表2)の「光学ガラス」に注目して整理すると、次の発明(以下、「甲2発明2」という。)が記載されていると認められる。
「SiO2が40.0重量%、B2O3が7.0重量%、ZrO2が0.5重量%、Nb2O5が38.0重量%、CaOが0.5重量%、BaOが1.0重量%、Li2Oが9.5重量%、K2Oが3.5重量%で含有し、SiO2/B2O3が5.7であり、屈折率(nd)が1.71503、アッベ数(νd)が35.2、部分分散比(θg,F)が0.5822,異常分散性(Δθg,F)が-0.0023である、光学ガラス。」
(ウ) 甲2発明3について
甲第2号証には、実施例欄(【0021】~【0027】)の実施例3(表2)の「光学ガラス」に注目して整理すると、次の発明(以下、「甲2発明3」という。)が記載されていると認められる。
「SiO2が30.0重量%、B2O3が8.0重量%、ZrO2が8.0重量%、Nb2O5が32.0重量%、CaOが4.0重量%、BaOが2.0重量%、Li2Oが5.0重量%、Na2Oが7.0質量%、K2Oが3.0重量%、Sb2O3が1.0重量%で含有し、SiO2/B2O3が3.8であり、屈折率(nd)が1.65923、アッベ数(νd)が39.9、部分分散比(θg,F)が0.5662,異常分散性(Δθg,F)が-0.0107である、光学ガラス。」
イ 本件発明1について
(ア) 甲2発明1との対比、判断
a 本件発明1と甲2発明1の対比
本件発明1と甲2発明1とを対比すると、少なくとも以下の点で相違している。
(相違点5)
K2O成分の含有量について、本件発明1は、「質量%で」、「0.1超~15.0%」であるのに対して、甲2発明1は、「重量%で」、「0~10%」である点。
(相違点6)
本件発明1は、「表面法耐候性が級1又は2である」ことを特定しているのに対して、甲2発明1は、表面法耐候性が明らかでない点。
b 相違点5、6の検討
甲第2号証には、「PbOおよびAs2O3のような環境対策にコストを要する成分を含有せず、かつ、原料コストが高いGeO2やTa2O5を必須成分としない、屈折率(nd)が1.65~1.80、アッベ数(νd)が28~42の範囲の光学恒数を有し、化学的耐久性および均質性に優れた大きな負の異常分散性を有する光学ガラスを提供する」との課題(【0004】)は記載されているものの、光学ガラスのヤケを改善することや、その指標である「表面法耐候性」を示唆する記載は見当たらない。また、K2O成分についてみても、ガラス溶融を促進し、負の異常分散性を小さくする効果があること(【0019】)は記載されているが、ガラス中のヤケを効果的に改善させることについては記載されていない。
そうしてみると、相違点5、6は、前記(2)イ(ア)bで検討した相違点1、2と状況は同じであるから、当該相違点5、6は実質的な相違点であって、甲2発明1において、表面法耐候性が級1又は2とすること(相違点6に係る本件発明1の構成にすること)、さらに、表面法耐候性が級1又は2を満たすように、K2O成分の含有量を0.1質量%超~15.0質量%とすること(相違点6に係る同構成にすること)は、当業者にとって容易想到の事項といえない。
c 申立人の主張についての検討
申立人2は、甲2発明1に含まれる実施例2、3の表面法耐候性がいずれも級1であること(甲第4号証の実験成績証明書参照)を論拠として、相違点6は実質的な相違点でない旨を主張している(申立人2の特許異議申立書の第39頁第14行~第40頁第3行)。
しかしながら、前記実施例2、3は、甲2発明1の一部の具体例にすぎず、甲2発明1の全ガラス組成範囲にわたって表面法耐候性が級1又は2であることを示すものでないから、当該主張は採用できない。
d 小括
したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明1であるといえないし、また、甲2発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(イ) 甲2発明2との対比、判断
a 本件発明1と甲2発明2の対比
本件発明1と甲2発明2とを対比すると、少なくとも以下の点で相違している。
(相違点7)
本件発明1は、「質量%で」、「Li2O成分を0~8.0%未満」、「ZrO2成分を1.0%超10.0%以下」含有しているのに対して、甲2発明2は、「Li2Oが9.5重量%」、「ZrO2が0.5重量%」で含有している点。
(相違点8)
本件発明1は、「表面法耐候性が級1又は2である」ことを特定しているのに対して、甲2発明2は、表面法耐候性が明らかでない点。
b 相違点7、8の検討
甲第4号証の記載によれば、甲2発明2の表面法耐候性は、本件発明1で特定された範囲を満足しているかもしれない。
しかしながら、甲第2号証には、前記(ア)bに示したとおり、光学ガラスのヤケを改善することや、その指標である「表面法耐候性」を示唆する記載は見当たらない。加えて、甲第2号証には、ガラス中のヤケに対する各成分の影響について何ら記載されていない。
したがって、甲第2号証には、表面法耐候性を特定範囲にしつつ、Li2O成分及びZrO2成分の含有量を調整する動機付けとなる記載はないから、甲2発明2において、表面法耐候性が級1又は2を満たしつつ、Li2O成分の含有量を0質量%以上8.0質量%未満、ZrO2成分の含有量を1.0質量%超10.0%以下とすること(相違点7、8に係る本件発明1の構成にすること)は、当業者にとって容易想到の事項といえない。
c 申立人の主張についての検討
申立人2は、甲第2号証の【0013】、【0015】及び【0019】の記載から、甲2発明2のSiO2の一部をZrO2に置換し、さらに、Li2O成分の一部をK2O成分に置換して、相違点7に係る本件発明1に係る構成とすることは容易想到の事項である旨を主張している(申立人2の特許異議申立書の第42頁第6行~第43頁第12行)。
しかしながら、前記bで検討したとおり、甲第2号証には、表面法耐候性を特定範囲にしつつ、Li2O成分及びZrO2成分の含有量を調整する技術思想が記載されていないから、当該主張は採用できない。
d 小括
したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明2であるといえないし、また、甲2発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(ウ) 甲2発明3との対比、判断
a 本件発明1と甲2発明3の対比
本件発明1と甲2発明3とを対比すると、少なくとも以下の点で相違している。
(相違点9)
本件発明1は、「質量%で」、「Nb2O5成分を32.45~50.0%」、「CaO成分を0~3%」含有しているのに対して、甲2発明3は、「Nb2O5が32.0重量%」、「CaOが4.0重量%」で含有している点。
(相違点10)
本件発明1は、「表面法耐候性が級1又は2である」ことを特定しているのに対して、甲2発明3は、表面法耐候性が明らかでない点。
b 相違点9、10の検討
前記(イ)bで検討した相違点7、8と事情は同じであるから、甲2発明3において、相違点9、10に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
c 申立人の主張についての検討
申立人2は、甲第2号証の【0015】及び【0018】の記載から、甲2発明3のCaOの一部をNb2O5に置換して、相違点8に係る本件発明1に係る構成とすることは容易想到の事項である旨を主張している(申立人2の特許異議申立書の第46頁第5行~第47頁第1行)。
しかしながら、前記(イ)cで検討したのと同様に、甲第2号証には、表面法耐候性を特定範囲にしつつ、Nb2O5成分及びCaO成分の含有量を調整する技術思想が記載されていないから、当該主張は採用できない。
d 小括
したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明3であるといえないし、また、甲2発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
ウ 本件発明2~7について
本件発明2~7は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2~7は、甲2発明1~甲2発明3であるといえないし、また、甲2発明1~甲2発明3に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
エ 申立理由2-2についての結論
以上のとおりであるから、申立理由2-2は理由がない。
(4) 申立理由1-3(サポート要件違反)、申立理由2-3(サポート要件違反)について
ア 具体的な指摘事項
(ア) 申立理由1-3は、要するに、本件発明1~5の各成分含有率の数値範囲の全体にわたって、本件発明1~5の物性要件を満たす光学ガラスを得ることを当業者が認識し得ないから、本件発明1~7は、発明の詳細な説明に記載されたものでない、というものである(申立人1の特許異議申立書の第7頁第11~17行)。
(イ) また、申立理由2-3は、要するに、本件発明1の組成要件及び物性要件を満たす実施例(実施例3、5、7、8、10、11、15、17~27、55)の光学ガラスの組成範囲に比べて、同組成要件を満たすが、同物性要件(屈折率及び/又はアッベ数)を満たさない甲第6号証~甲第18号証の光学ガラスの組成範囲が広いことを論拠として、本件発明1の組成要件で特定される光学ガラスが高い蓋然性をもって本件発明1の物性要件を満たすといえないから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものでない、というものである(申立人2の特許異議申立書の第47頁第18行~第51頁末行)。
イ サポート要件違反についての検討
(ア) サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号所定のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを比較し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当である。
そこで、これを本件発明1に当てはめると、本件発明1は、前記第2に記載したとおり、ガラス組成の範囲(組成要件)と、「1.60以上1.78以下の屈折率(nd)と28以上47以下のアッベ数(νd)を有し」、「部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、(-0.00256×νd+0.637)≦(θg,F)≦(-0.00256×νd+0.684)の関係を満たし」、「表面法耐候性が級1又は2である」こと(物性要件)を特定した発明といえるところ、このような組成要件と物性要件により特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるというためには、組成要件により特定される光学ガラスが、発明の詳細な説明に記載されていることに加えて、組成要件で特定される光学ガラスが高い蓋然性をもって物性要件を満たし得るものであることを、発明の詳細な説明の記載及び本件特許に係る出願時の技術常識から当業者が認識できることを要する。
以下、この観点で検討を行う。
(イ) サポート要件適合性の判断
a 本件発明の課題について
本件明細書の発明の詳細な説明の【0010】の記載からして、本件発明の課題は、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が所望の範囲内にありながら、部分分散比(θg,F)が小さく、表面法耐候性が良好な光学ガラスを得ることにあるといえる。
b 発明の詳細な説明の記載について
(a) 本件明細書の発明の詳細な説明の【0058】~【0063】には、本件発明1の物性要件に関して、屈折率(nd)は1.60以上1.78以下、アッベ数(νd)は28以上47以下が好ましいこと(【0058】)、部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、(-0.00256×νd+0.637)≦(θg,F)≦(-0.00256×νd+0.684)の関係を満たすこと(【0059】)、表面法耐候性は級1又は2が好ましいこと(【0061】)が記載されており、このような物性要件により、本件発明の課題を解決できる範囲に特定しているものといえる。
(b) また、本件明細書の発明の詳細な説明の実施例欄(【0066】~【0084】)には、実施例1~55として、SiO2含有量が27.92~48.00質量%、B2O3含有量が1.10~16.28質量%、Al2O3含有量が0~1.6質量%、La2O3含有量が0~3.33質量%、TiO2含有量が0~2質量%、ZrO2含有量が3.01~9.48質量%、Nb2O5含有量が11.48~41.04質量%、WO3含有量が0~1質量%、ZnO含有量が0~15.48質量%、MgO含有量が0~2.01質量%、CaO含有量が0~6.7質量%、SrO含有量が0~4.43質量%、BaO含有量が0~9.81質量%、Li2O含有量が1.06~13.71質量%、Na2O含有量が0~14.84質量%、K2O含有量が0.50~9.62質量%、Sb2O3含有量が0~0.1質量%、Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の質量和が6.7~18.84質量%、Ln2O3成分(式中、LnはY、La、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が0~3.33質量%の各数値範囲内のガラス組成を有し、屈折率(nd)が1.654~1.757、アッベ数(νd)が30.9~45.3、部分分散比(θg,F)が0.56~0.595であり、(-0.00256×νd+0.637)≦(θg,F)≦(-0.00256×νd+0.684)の関係を満たし、表面法耐候性が級1である光学ガラスが記載されている。そして、実施例1~55の光学ガラスは、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、部分分散比(θg,F)、及び、表面法耐候性が、前記物性要件を満たしていることからして、本件発明の課題を解決できるものといえ、さらに、実施例1~55のガラス組成の範囲内であれば、高い蓋然性をもって前記物性要件を満たしていると当業者が認識できる。
(c) 加えて、本件明細書の発明の詳細な説明の【0024】~【0056】には、ガラス成分について、各成分の役割、各成分の含有量や質量和の好ましい範囲が記載され、SiO2含有量は20.0%質量以上48.0質量%以下(【0025】)、B2O3含有量は12.00質量%以下(【0029】)、Nb2O5含有量は23.0質量%以上50.0質量%以下(【0026】)、K2O含有量は0.1質量%超15.0質量%以下(【0027】)、Li2O含有量は8.0質量%未満(【0030】)、ZrO2含有量は1.0質量%超10.0質量%以下(【0033】)、CaO含有量は5.0質量%未満(【0035】)、Ta2O5含有量は1.0質量%未満(【0040】)、WO3含有量は5.0質量%未満(【0041】)、Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の質量和は12.0質量%以上20.0質量%以下(【0032】)、Ln2O3成分(式中、LnはY、La、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和は5.0質量%未満(【0051】)が好ましいことが記載されており、前記(a)及び(b)で検討した事項も併せ考えれば、これらの成分の含有量及び質量和の範囲内であれば、高い蓋然性をもって前記物性要件を満たしていることを当業者であれば認識できる。
c 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比・検討
本件発明1の組成要件は、前記第2のとおりのものであるところ、当該組成要件は、前記b(c)で検討した各成分の含有量及び質量和の範囲内であるし、また、本件発明1の物性要件は、前記b(a)で検討した物性要件であるから、本件発明1の組成要件により特定されるガラスは、発明の詳細な説明に記載されているといえるし、さらに、当該組成要件で特定されるガラスが高い蓋然性をもって本件発明1の物性要件を満たしていることを当業者であれば認識できる。
d 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されものである。また、本件発明2~7も事情は同じであるから、発明の詳細な説明に記載されものである。
ウ 申立理由1-3、申立理由2-3についての結論
以上のとおりであるから、申立理由1-3、申立理由2-3は、いずれも理由がない。
(5) 申立理由1-4(実施可能要件違反)について
ア 具体的な指摘事項
申立理由1-4は、要するに、本件発明1~5の組成範囲を充足する実施例(実施例3、5、7、8、10、11、15、17~27)では、ZnO成分、B2O3成分、Li2O成分、Na2O成分を必須成分として含むところ、本件発明1~5では、これらの成分の下限値が0%であることを論拠として、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1~7を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない、というものである。
イ 実施可能要件違反についての検討
本件明細書の発明の詳細な説明には、前記(4)イ(イ)b(b)で検討したとおり、本件発明1の物性要件を満足する実施例1~55の光学ガラスが記載されており、当該実施例には、本件発明1のガラス組成から外れるものの、ZnO成分やNa2O成分を含まない光学ガラスが記載されている。さらに、発明の詳細な説明には、前記(4)イ(イ)b(c)で検討したとおり、ZnO含有量、B2O3含有量、Li2O含有量、Na2O含有量の好ましい範囲として、0質量%を含むことも記載されている。
したがって、これらの事項を併せ考えれば、発明の詳細な説明の記載に基いて、当業者が過度な試行錯誤を要することなく、本件発明1を実施することができるものといえる。また、本件発明2~7についても事情は同じである。
ウ 申立理由1-4についての結論
以上のとおりであるから、申立理由1-4は理由がない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に当該請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-700190