特許異議申立
2021-700905
改良した微細構造および熱膨張性を有し透明で本質的に無色でスズで清澄化したLASガラスセラミック
- 審判番号
- 2021-700905
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-561826
- 登録番号
- 6847861
- 請求日
- 2021年09月17日
- 審決日
- 2022年09月07日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ユーロケラ
- 【権利者代理人】柳田 征史
- 【異議申立人】ショット アクチエンゲゼルシャフト
- 【異議申立人代理人】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
- 【異議申立人代理人】篠 良一
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 原 和秀
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.113-YAA(C03C) / P1651.121-YAA(C03C) / P1651.537-YAA(C03C) / P1651.536-YAA(C03C) / P1651.851-YAA(C03C) / P1651.853-YAA(C03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6847861号発明「改良した微細構造および熱膨張性を有し透明で本質的に無色でスズで清澄化したLASガラスセラミック」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6847861号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
特許第6847861号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6847861号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)5月27日(優先権主張外国庁受理 2015年(平成27年)5月29日(FR)フランス)を国際出願日とする特許出願であって、令和3年3月5日にその特許権の設定登録がされ、同年3月24日に特許掲載公報が発行された。
そして、本件特許の請求項1~10に係る特許に対して、令和3年9月17日に特許異議申立人ショット アクチエンゲゼルシャフト(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後の経緯(提出書類等)は、概略、以下のとおりである。
令和 3年12月28日付け 取消理由通知
令和 4年 4月 4日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 6月27日 意見書(申立人)
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和4年4月4日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下、この訂正の請求による訂正を「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載されている「1.9より高く4%までのTiO2」を、「2.73から4%までのTiO2」に訂正する(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2~10も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に記載されている「2から3%までのTiO2」を、「2.73から3%までのTiO2」に訂正する(請求項3の記載を直接的または間接的に引用する請求項4~10も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に記載されている「2から3%までのTiO2」を、「2.73から3%までのTiO2」に訂正する(請求項5の記載を直接的または間接的に引用する請求項6~10も同様に訂正する。)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に記載されている「+3.5と-3.5×107K-1」を、「+3.5と-3.5×10-7K-1」に訂正する(請求項6の記載を直接的または間接的に引用する請求項7~10も同様に訂正する。)。
なお、訂正前の請求項2~10は、訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用し、これら請求項1~10は一群の請求項を構成するところ、上記訂正事項1~10に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項1~10を訂正の単位として請求されたものである。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1)訂正事項1~3について
訂正事項1~3は、それぞれ、訂正前の請求項1、3、5のTiO2の組成範囲に係る下限を減縮し、当該組成範囲を狭くするようするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項6が、後記第3の2(2)のとおり、明瞭でない記載を含むものであり、それを解消しようとするものと認められるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 訂正後の本件発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~10に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ、「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
アルミノケイ酸リチウム型ガラスセラミックにおいて、
β-石英固溶体を主結晶相として含み、
前記ガラスセラミックの組成は、酸化ヒ素、酸化アンチモン、および、酸化希土類を、不可避な微量以外には含まず、質量パーセントで表した酸化物:
64から70%までのSiO2、
18から24%までのAl2O3、
4から5%までのLi2O、
0から0.6%までのSnO2、
2.73から4%までのTiO2、
1から2.5%までのZrO2、
0から1.5%までのMgO、
0から3%までのZnO、
0.3より高く1%までのCaO、
0から3%までのBaO、
BaO+SrO≦3%を満たしながら、0から3%までのSrO、
0から1.5%までのNa2O、
0.2≦(MgO+Na2O+K2O)/Li2O≦1を満たしながら、0から2%までのK2O、
0から3%までのP2O5、および、
200ppm未満のFe2O3を、
含有し、
前記β-石英固溶体中に存在する晶子が、40nm未満の平均サイズを有するものである、ガラスセラミック。
【請求項2】
前記組成が、0.1から0.6%までのSnO2を含有する、請求項1に記載のガラスセラミック。
【請求項3】
前記組成が、4%より高いLi2O、および、2.73から3%までのTiO2を含有する、請求項1または2に記載のガラスセラミック。
【請求項4】
前記組成が、少なくとも0.1%のMgO、および/または、ZnO、並びに、1%未満のP2O5を含有する、請求項1から3のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【請求項5】
前記組成は、酸化ヒ素、酸化アンチモン、酸化希土類、酸化ストロンチウム、および、酸化リンを、不可避な微量以外には含まず、質量パーセントで表した酸化物:
64から68%までのSiO2、
20から24%までのAl2O3、
4より高く5%までのLi2O、
0.1から0.4%までのSnO2、
2.73から3%までのTiO2、
1.5から2%までのZrO2、
0.1から0.5%までのMgO、
0.1から1.5%までのZnO、
0.3より高く1%までのCaO、
0.5から1.5%までのBaO、
0から1.5%までのNa2O、
0.2≦(MgO+Na2O+K2O)/Li2O≦1を満たしながら、0から2%までのK2O、および、
200ppm未満のFe2O3を
含有する、請求項1から4のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【請求項6】
厚さ5mmについて81%より高い全光線透過率、厚さ5mmについて14未満の黄色度、および、厚さ5mmについて2.5%未満のヘイズパーセント、並びに、
+3.5と-3.5×10-7K-1の間である、25℃と、300と700℃の間の任意の温度との間の熱膨張係数(CTE25℃-[300-700℃])、
を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【請求項7】
物品において、
少なくとも部分的に、請求項1から6のいずれか1項に記載の前記ガラスセラミックから構成され、
煙突窓、暖炉挿入装置、ストーブまたは炉の窓、調理用コンロ、遮蔽物、および、耐火性ガラスを構成する、物品。
【請求項8】
アルミノケイ酸リチウムガラスにおいて、
請求項1から6のいずれか1項に記載の前記ガラスセラミックの前駆体であって、
前記アルミノケイ酸リチウムガラスの組成は、請求項1から6のいずれか1項に記載のガラスセラミックの取得を可能にするものである、アルミノケイ酸リチウムガラス。
【請求項9】
前記組成が、少なくとも0.1%のZnO、および、1%未満のP2O5を含有する、請求項8に記載のアルミノケイ酸リチウムガラス。
【請求項10】
1,640℃未満で30Pa.sの粘度(T@30Pa.s<1,640℃)、1,400℃未満の液相温度、および、300Pa.sより高い液相粘度を有する、請求項8または9に記載のアルミノケイ酸リチウムガラス。」
2 取消理由の概要について
訂正前の請求項1~10に係る発明に対して、令和3年12月28日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1、2
訂正前の請求項8、10に係る発明は、下記の甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するか、又は、下記の甲第2号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、訂正前の請求項1~7、9に係る発明は、下記の甲第2号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、訂正前の請求項8、10に係る特許は、特許法第29条第1項又は同第2項の規定に違反してされたものであり、訂正前の請求項1~7、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(甲号証一覧)
甲第1号証:国際公開第2013/171288号
甲第2号証:特開2001-354446号公報
(2)取消理由3
訂正前の請求項6には、「+3.5と-3.5×107K-1の間である、25℃と、300と700℃の間の任意の温度との間の熱膨張係数(CTE25℃-[300-700℃])を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載のガラスセラミック。」と記載されているが、その組成等からすれば、「107K-1」といった大きな熱膨張係数を示すことはなく、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の【0070】の「例Aのガラスセラミックは、実現したい範囲の25と700℃の間の…を有するが、25と300℃の間のCTE(CTE25℃-300℃=-6.2×10-7K-1)は、低すぎる」という記載とも齟齬するから、訂正前の請求項6の上記記載をその文言どおり「107K-1」と解釈すべきか、発明の詳細な説明の記載や技術常識を考慮して「10-7K-1」と解釈すべきか、明確でない。
よって、訂正前の請求項6に係る発明及びこれを直接的又は間接的に引用する同請求項7~10に係る発明は明確でないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 甲号証の記載内容について
(1)甲第1号証の記載内容及び甲第1号証に記載された技術的事項
ア 甲第1号証の記載内容
甲第1号証には、下記の事項が記載されている(当審注:下線は当審による。また、「…」は当審による省略を意味する。以下同様)。
なお、当審仮訳は、申立人による抄訳文や甲第1号証に対応する国際公表公報である特表2015-523947号公報に基づき、当審が作成した。
(ア)「According to its first object, the present invention therefore relates to glass-ceramics:
- of the lithium aluminosilicate (LAS) type: they contain Li2O, Al2O3 and SiO2 as essential constituents of the β-quartz solid solution (see below);
- containing a β-quartz solid solution as a main crystalline phase: said β-quartz solid solution accounts for more than 80% by weight of the total crystallized fraction. It even generally accounts for more than 90% by weight of said total crystallized fraction;
- which are transparent, essentially colorless and non-diffusing: these notions are familiar to one skilled in the art.」(第4頁15~25行)
(当審仮訳:その第1の目的に従い、本発明はしたがって、以下のガラスセラミックに関する。
- アルミノケイ酸リチウム(LAS)タイプのガラスセラミックに関し、それらは、β-石英固溶体の必須成分としてLi2O、Al2O3およびSiO2を含有し(以下を参照)、
- 主結晶相としてβ-石英固溶体を含有する。すなわち、前記β-石英固溶体が、全結晶化部分の80重量%超を占める。それはさらに一般的に、前記全結晶化部分の90重量%超を占め、
- 透明な、実質的に無色で非拡散性である。これらの概念は当業者には公知である。)
(イ)「Li20: excessive amounts (> 5%) are favorable to devitrification while too small amounts (< 2.8%) significantly increase the high temperature viscosity. A content between 3 and 4.5 (limits included) is advantageous; a content between 3 and 4 (limits included) is very advantageous.」(第7頁第8~12行)
(当審仮訳:Li2O:過剰な量(>5%)は失透をもたらし、他方、非常に少ない量(<2.8%)は高温粘度をかなり増加させる。3~4.5の含有量(限界値を含める)が有利であり、3~4の含有量(限界値を含める)が非常に有利である。)
(ウ)「3) It was also observed that a small average size of β-quartz crystallites (< 35 nm and advantageously < 30 nm) is favorable for obtaining high integrated transmission and low coloration. This small average crystallite size is related to the quality of nucleation, therefore to the presence of nucleation agents: TiO2, in an amount of 1.9-4% by weight (advantageously between 2 and 3% by weight) and ZrO2, in an amount of 1.6-3% by weight (advantageously between 1.6 and 2% by weight) and to the ceramming. Moreover, one is aware that the fining agent SnO2 is also involved in the nucleation process.」(第8頁第28~36行)
(当審仮訳:3)また、高い積分透過および低着色を得るためにβ-石英微結晶の小さな平均サイズ(<35nmそして有利には<30nm)が好ましいことが観察された。この小さな平均微結晶サイズは、核形成の性質に関係があり、したがって、核形成剤TiO2の、1.9~4重量%(有利には2~3重量%)の量およびZrO2の、1.6~3重量%(有利には1.6~2重量%)の量の存在に関係があり、そしてセラミック化に関係がある。さらに、清澄剤SnO2もまた、核形成プロセスに必要とされることが認識されている。)
(エ)「With regards to Na20, K20 and CaO, they are conventionally involved, with reference to the high temperature viscosity (the more they are present ≪ in a large amount ≫, the more said viscosity decreases) and to the thermal expansion coefficient (they allow adjustment of this coefficient by increasing it). Used in too large amounts (>1%), they are detrimental to color and increase diffusion of the final glass-ceramic (see above).」(第13頁第6~12行)
(当審仮訳:Na2O、K2OおよびCaOに関して、高温粘度(それらが「多量に」存在すればするほど、前記粘度がますます減少する)および熱膨脹係数(それらは、それを増加させることによってこの係数の調節を可能にする)に関連してそれらは慣例的に含有される。非常に多量に使用されると(>1%)、それらは色に好ましくなく、最終ガラス-セラミックの拡散を増加させる(上を参照)。)
(オ)「The percentage of β-quartz phase (relatively to the total crystallized fraction) as well as the average size of the β-quartz crystals are obtained by using a Rietveld refinement method of X-ray diffraction spectra. The figure between brackets indicates said average size of the crystals in nanometers.」(第19頁第6~10行)
(当審仮訳:(全結晶化部分に対して)β-石英相のパーセンテージならびにβ-石英結晶の平均サイズは、X線回折スペクトルのリートベルト解析法を使用して得られる。括弧の中の数字は、ナノメートル単位の結晶の前記平均サイズを示す。)
(カ)「
[図:0001392010000001.jpg]
…
[図:0001392010000002.jpg]
」
(第21~25頁)(当審仮訳:
[図:0001392010000003.jpg]
…
[図:0001392010000004.jpg]
)
(キ)「CLAIMS
1. A transparent and essentially colorless and non-diffusing glass-ceramic of the lithium aluminosilicate type containing a β-quartz solid solution as main crystalline phase, characterized in that:
- its composition, free of arsenic oxide, antimony oxide and rare earth oxide except for inevitable trace amounts, contains, expressed as percentages by weight of oxides:
62-72% of Si02,
20-23% of Al203,
2.8-5% of Li20,
0.1-0.6% of Sn02,
1.9-4% of Ti02,
1.6-3% of Zr02,
less than 0.4% of MgO,
2.5-6% of ZnO and/or BaO and/or SrO,
less than 250 ppm of Fe2O3; and
- the crystallites present in said β-quartz solid solution have an average size of less than 35 nm, advantageously less than 30 nm.
…
7. The glass-ceramic according to any of claims 1 to 6, the composition of which, expressed as percentages by weight of oxides, contains, for at least 97% of its weight:
Si02 62-72
Al203 20-23
Li2O 2.8-5
Ti02 1.9-4
Zr02 1.6-3
Sn02 0.1-0.6
MgO less than 0.4%
ZnO 0.4-3
BaO 0-5, advantageously 2.1-5
SrO 0-5
CaO 0-1
Na20 0-1
K20 0-1
Fe203 less than 250 ppm
CoO 0-30 ppm.
P205 0-3.」
(当審仮訳:請求の範囲
1.主結晶相としてβ-石英固溶体を含有するアルミノケイ酸リチウムタイプの透明かつ実質的に無色の非拡散性ガラス-セラミックであって、
- 不可避的な微量を除いて酸化ヒ素、酸化アンチモンおよび希土類酸化物を含有しないその組成物が、酸化物の重量パーセンテージとして表わされた、
62~72%のSiO2、
20~23%のAl2O3、
2.8~5%のLi2O、
0.1~0.6%のSnO2、
1.9~4%のTiO2、
1.6~3%のZrO2、
0.4%未満のMgO、
2.5~6%のZnOおよび/またはBaOおよび/またはSrO、
250ppm未満のFe2O3
を含有し、
- 前記β-石英固溶体中に存在している微結晶が35nm未満、好ましくは30nm未満の平均サイズを有することを特徴とする、ガラス-セラミック。
…
7.前記組成物が、その重量の少なくとも97%について、酸化物の重量パーセンテージとして表わされた、
SiO262~72
Al2O320~23
Li2O 2.8~5
TiO21.9~4
ZrO21.6~3
SnO20.1~0.6
MgO 0.4%未満
ZnO 0.4~3
BaO 0~5
SrO 0~5
CaO 0~1
Na2O 0~1
K2O 0~1
Fe2O3250ppm未満
CoO 0~30ppm
P2O50~3
を含有することを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載のガラス-セラミック。)
イ 甲第1号証に記載された技術的事項
上記ア(ア)及び(ウ)の記載を整理すると、甲第1号証には、以下の技術的事項(以下、「甲1技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
甲1技術的事項
「主結晶相としてβ-石英固溶体を含有するアルミノケイ酸リチウム(LAS)タイプのガラスセラミックに関して、高い積分透過及び実質的な無色を得るためにβ-石英微結晶の平均サイズが35nm未満であることが好ましいこと」
(2)甲第2号証の記載内容及び引用発明
ア 甲第2号証の記載内容
甲第2号証には、下記の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 プレストレスが付与され得るか、あるいは高石英混晶又はキータイト[keatite]混晶を有するガラスセラミックに転移し得、Pt、Rh、ZnO及びSnO2の濃度がそれぞれ300ppb未満、30ppb未満、1.5重量%未満、1重量%未満であってフロート中の望ましくない表面欠陥の生成を阻止し、溶融中に通常の清澄剤である酸化砒素及び/又は酸化アンチモンを用いずに清澄される平板フロートガラス。
【請求項2】 組成が酸化物ベースの重量%で、
Li2O 3.2~5.0
Na2O 0~1.5
K2O 0~1.5
ΣNa2O+K2O 0.2~2.0
MgO 0.1~2.2
CaO 0~1.5
SrO 0~1.5
BaO 0~2.5
ZnO 0~<1.5
Al2O3 19~25
SiO2 55~69
TiO2 1.0~5.0
ZrO2 1.0~2.5
SnO2 0~<1.0
ΣTiO2+ZrO2+SnO2 2.5~5.0
P2O5 0~3.0
であり、且つV、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Ni、Se及び/又はCl化合物のような着色成分を任意に添加しても良い請求項1に記載の平板フロートガラス。
…
【請求項12】 厚さ4mmで>80%の光透過率を達成するため、透明なガラスセラミックがTiO2を2重量%未満、SnO2を0.5重量%未満、Fe2O3を200ppm未満として含む請求項11に記載の平板フロートガラス。」
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明はプレストレス付与され得るか、又は、高石英混晶又はキータイト混晶を有するガラスセラミックに転移が可能な平板フロートガラスに関する。」
(ウ)「【0011】Li2O-Al2O3-SiO2系のアルミノ珪酸塩ガラスが、主結晶相として高石英混晶又はキータイト(keatite)混晶を有するガラスセラミックに転化が可能であることが一般に知られている。従って、ガラスセラミックは結晶相と残部ガラス相から成る。初期ガラスは、標準的ガラス製造方法により得られる。溶融及び清澄の後、ガラスは圧延、注入成形又は加圧成形による熱間成形を受ける。次いでガラスは熱処理にかけられ、その結果ガラスは制御条件下で部分的に微粒子結晶相に転移せしめられる。」
(エ)「【0017】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、プレストレス付与が可能で、主結晶相が高石英混晶又はキータイト混晶であるガラスセラミックに転移し得るフロートガラスであって、
-溶融ガラスと溶融金属との相互作用の結果フロート中に生じ、ガラスの使用の障害になる表面欠陥を有せず、
-どんな好ましくない着色も無い、高度の光透過性を有して製造され、
-熱的プレストレス付与後に高い温度安定性を有し、且つ
-酸化砒素及び/又は酸化アンチモン等の通常の清澄を用いずに要求されるシード品質(低泡数)を有し、
-結晶相への転移中に、フロートガラスの表面品質が高く、熱膨張係数が極めて低いガラスセラミックになり、
且つ
-種々の具体例において高い光透過率を有して透過、半透明又は不透明であり、着色成分の添加により着色が可能でさえあるフロートガラスを提供することにある。」
(オ)「【0023】ZnOの濃度は1.5重量%に抑えられる。フロートの還元条件下では、亜鉛がガラス面で消耗するのが分かった。これは亜鉛が部分的にガラス表面で還元され、その際フロート雰囲気中のZn2+と比較してZnの蒸気圧が高い結果、蒸発するものと推定される。フロート作業に好ましくないZnの蒸発及び冷えた点へのZnの沈積に加えて、ガラス内の不均一なZnの分布も表面に近い臨界結晶帯の起源に関与する一要因である。これ等の大型高石英(β石英)混晶の結晶帯は、ガラス内のZn濃度が上がって初期値に戻る表面近傍で始まる。従って、この結晶帯は多価ガラス成分に対するフロート雰囲気の還元作用により、例えばTi4+のTi3+への部分的還元から形成する。従って、ZnOの初期値を当初より低く保つことが適切である。」
(カ)「【0027】請求の範囲に記載されている優先配合比のLi2O、Al2O3及びSiO2は、ガラスをガラスセラミックに転移させるため高石英及びキータイト混晶に必要な成分である。付加成分として、MgO、ZnO及びP2O5を混合することが出来る。Li2Oはその濃度が5重量%を上回ると、結晶成長速度を速める結果、製造中に望ましくない失透が生ずる。ZnOの濃度は上記の蒸発及び結晶帯の形成の問題のため1.5重量%に、好ましくは1重量%未満に抑えられるから、Li2Oに加えて、Siの代わりに結晶に組み込まれるAlの電荷補償のため付加成分が用いられるように、少なくとも0.1重量%、好ましくは0.3重量%のMgOが必要である。…P2O5の添加は上限3重量%まで可能であり、望ましくないムライト抑制のために好ましい。P2O5は耐酸性に望ましくない効果を有するから、その濃度は3.0重量%、好ましくは2重量%未満とされるべきである。核形成原因物質であるTiO2、ZrO2及びSnO2の濃度は、比較的狭い範囲内で調整されなければならない。一方において2.5重量%、好ましくは3.0重量%、好ましくは2重量%未満の最小濃度が、核形成中核を高濃度で生成して高石英混晶が成長した後に透明ガラスセラミックが実現されるようにするため必要である。この高い核形成密度が高い結果、高石英混晶の平均結晶大きさが<100nmに制限され、その結果望ましくない光散乱が阻止される。だが、核形成原因物質の濃度が5.0重量%より高くなると、フロートの時間/温度条件の下でガラスと錫浴との接触部で好ましくない表面結晶が生ずる。…」
(キ)「【0029】
【実施態様】本発明によるガラスの組成は第1の具体例において、酸化物ベースの重量%で以下の通りである:
Li2O 3.2~5.0
Na2O 0~1.5
K2O 0~1.5
ΣNa2O+K2O 0.2~2.0
MgO 0.1~2.2
CaO 0~1.5
SrO 0~1.5
BaO 0~2.5
ZnO 0~<1.5
Al2O3 19~25
SiO2 55~69
TiO2 1.0~5.0
ZrO2 1.0~2.5
SnO2 0~<1.0
ΣTiO2+ZrO2+SnO2 2.5~5.0
P2O5 0~3.0
【0030】第2の実施態様において、一つの特に好ましい具体例のガラスは酸化物ベース重量%で示す次の組成を有する。
Li2O 3.5~4.5
Na2O 0.2~1.0
K2O 0~0.8
ΣNa2O+K2O 0.4~1.5
MgO 0.3~2.0
CaO 0~1.0
SrO 0~1.0
BaO 0~2.5
ZnO 0~1.0
Al2O3 19~24
SiO2 60~68
TiO2 1.0~2.0
ZrO2 1.2~2.2
SnO2 0~0.6
ΣTiO2+ZrO2+SnO2 3.0~4.5
P2O5 0~2.0
…
【0039】本発明の一優先具体例において、ガラスは高い耐熱衝撃性を有するために、高石英混晶を主結晶相とする透明ガラスセラミックに転移後の、膨張0より0.5x10-6/K以下、好ましくは0.15x10-6/K未満だけ異なる熱膨張係数α20/700によって特徴付けられる。
【0040】透明形式のガラスセラミック、例えば炉、レンジ及びオーブンの窓として用いられるものでは、濃度はTiO2<2重量%、SnO2<0.5重量%及びFe2O3<200ppmとすべきで、それにより厚さ4mmでの光透過率>80%が達成されるようにする。
【0041】透明、半透明又は不透明ガラスセラミックに関し、着色化合物を個々に又は合わせて添加することにより所望の着色が得られる。この場合、少量の添加でも充分なことが多い。
【0042】調理面に用いられる着色形式において、4mmでの光透過率<5%は、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Ni、Se及び/又はCl化合物で着色することにより達成が可能である。V化合物での着色はガラスセラミックが調理面に用いられる場合、可視領域の着色を赤外領域の好ましい高透過率と組み合わせられるので有利である。」
(ク)「【0046】本発明による平板フロートガラスは熱的プレストレス付与ガラスとしても、また高石英混晶又はキータイト混晶を主結晶相とするガラスセラミックに転移後のもの、即ち本発明による低熱膨張係数ガラスセラミックとしても用い得るので有利である。…本発明によるガラスセラミックは好ましくは、透明形式で炉及びオーブンの窓用防火ガラスとして、高エネルギー光の覆いとして、熱分解オーブンドア用窓として、また暗色着色形式で冷却及び焙り用加熱プレートとして用いられる。下側に光吸収被膜を付けることにより、透明ガラスセラミックは要求される光透過率を有する調理面を製造するのに用いることが出来る。」
(ケ)「【0048】以下、実施例を呈示して本発明を更に詳細に説明する。表1は、幾つかの好適な具体例である異なるタイプのフロートガラスの組成と特性を示す。例1~14は本発明を具現したガラスの実施例であり、例15~17は本発明に属さない比較例である。表2は、対応するガラスセラミックの特性を示す。
【0049】表1の初期ガラスは、ガラス工業において一般的な原料を用いて、溶融及び清澄したものである。これ等のガラス中、Fe2O3成分の含有率は160ppmである。例2では、純SiO2原料を用いることにより、100ppmFe2O3のレベルが達成された。例1~16のガラスは溶融石英(石英ガラス)から成るポット内で、約1620℃の温度でそれぞれ溶融、清澄した。次いで、溶融体は白金/ロジウムポットに移し、約1580℃の温度で30分間それぞれ均質化した。白金/ロジウムポットには、溶融体が白金/ロジウムポットとの直接接触するのを阻止する、石英ガラス製内側ポットを設けた。約1640℃の温度で1時間硬溶融[dead melting](キリング[killing])した後、約140x100x30mmの鋳造物を注ぎ込み、冷却炉内で約660℃から常温まで冷却した。試験体、例えば転移温度Tgと熱膨張係数α20/300の測定のための試験片がこれ等の鋳造物から作製された。ガラス溶融体と白金/ロジウム間の接触を回避した結果、Pt含有率は10~30ppbであり、ロジウム含有率は検出限界下、即ち<10ppbであった。
…
【0056】ガラスセラミックへの転移は、表2にリストした核形成及び結晶化条件下で行われる。600℃まで急速加熱した後、ガラスを核形成温度まで加熱し、次いで核形成温度から一定の加熱速度2.5K/分で結晶化温度まで加熱した。次いで、ガラスを最大温度から冷却速度約4K/分で約600℃まで冷却した。例11は、温度を更に1100℃まで上昇した1時間の加熱で、キータイト混晶を主結晶相とする白色半透明ガラスセラミックに転移されたガラスを表す。残りの本発明例は、高石英混晶を主結晶相とする濃度のため、常温~700℃の温度範囲で測定の極めて低い熱膨張値を有している。主結晶相と平均微結晶大きさはX線回折計で測定された。光透過率はDIN5033に従って測定された。
【0057】
【表1】
[図:0001392010000005.jpg]
【表2】
[図:0001392010000006.jpg]
」
イ 甲第2号証に記載された発明
上記アの記載を例番号14、9に注目して整理すると、甲第2号証には、以下の発明(以下、例番号14に注目したものを「甲2-1発明」といい、例番号9に注目したものを「甲2-2発明」という。)が記載されていると認められる。
甲2-1発明(例番号14)
「ガラスセラミックにおいて、高石英(β石英)混晶を主結晶相とし、酸化砒素及び酸化アンチモンを用いずに清澄されたものであり、組成が酸化物ベースの重量%で、64.90%のSiO2、21.80%のAl2O3、4.40%のLi2O、0.30%のSnO2、2.10%のTiO2、1.80%のZrO2、0.40%のMgO、0.50%のCaO、1.20%のBaO、0.40%のNa2O、0.20%のK2O、2.00%のP2O5、160ppmのFe2O3を含有し、高石英(β石英)混晶の平均結晶大きさが44nmであるガラスセラミック。」
甲2-2発明(例番号9)
「ガラスセラミックにおいて、高石英(β石英)混晶を主結晶相とし、酸化砒素及び酸化アンチモンを用いずに清澄されたものであり、組成が酸化物ベースの重量%で、65.75%のSiO2、22.20%のAl2O3、4.20%のLi2O、0.20%のSnO2、2.05%のTiO2、2.05%のZrO2、1.05%のMgO、0.50%のCaO、0.50%のNa2O、0.20%のK2O、1.30%のP2O5、160ppmのFe2O3を含有し、高石英(β石英)混晶の平均結晶大きさが47nmであるガラスセラミック。」
4 取消理由の検討
(1)取消理由1、2について
ア 本件発明1について
(ア)a 本件発明1と甲2-1発明とを対比すると、甲2-1発明のガラスセラミックは、そのLi2O、Al2O3、SiO2を含有する組成を有すること、及び、甲第2号証の上記3(2)ア(ウ)の「Li2O-Al2O3-SiO2系のアルミノ珪酸塩ガラスが、主結晶相として高石英混晶又はキータイト(keatite)混晶を有するガラスセラミックに転化が可能である」という記載からして、「アルミノケイ酸リチウム型」であることは明らかである。
また、甲2-1発明のガラスセラミックは、酸化砒素及び酸化アンチモンを用いずに清澄されたものであり、酸化希土類を添加して製造されるものでもないから、「酸化ヒ素、酸化アンチモン、および、酸化希土類を、不可避な微量以外には含まず」との本件発明1の規定を満たすことは明らかであり、加えて、ZnO及びSrOを含まないことは明らかであるから、BaO+SrOは1.20%、(MgO+Na2O+K2O)/Li2Oは0.23となる。
そうすると、両者は、
「アルミノケイ酸リチウム型ガラスセラミックにおいて、
β-石英固溶体を主結晶相として含み、
前記ガラスセラミックの組成は、酸化ヒ素、酸化アンチモン、および、酸化希土類を、不可避な微量以外には含まず、質量パーセントで表した酸化物:
64から70%までのSiO2、
18から24%までのAl2O3、
4から5%までのLi2O、
0から0.6%までのSnO2、
1から2.5%までのZrO2、
0から1.5%までのMgO、
0から3%までのZnO、
0.3より高く1%までのCaO、
0から3%までのBaO、
BaO+SrO≦3%を満たしながら、0から3%までのSrO、
0から1.5%までのNa2O、
0.2≦(MgO+Na2O+K2O)/Li2O≦1を満たしながら、0から2%までのK2O、
0から3%までのP2O5、および、
200ppm未満のFe2O3を、
含有し、
前記β-石英固溶体中に存在する晶子を有するものである、ガラスセラミック。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、「2.73から4%までのTiO2」を含有するのに対し、甲2-1発明は、2.10%のTiO2を含有する点。
<相違点2>
本件発明1は、「β-石英固溶体中に存在する晶子が、40nm未満の平均サイズを有するものである」のに対し、甲2-1発明は、高石英(β石英)混晶の平均結晶大きさが44nmである点。
b 相違点1、2について検討する。
甲2-1発明において、相違点1及び2に係る本件発明1の構成を同時になすことは、相違点1、相違点2の順に検討しても、又は、相違点2、相違点1の順に検討しても、いずれの場合にも容易想到の事項といえない。
以下、詳述する。
(a)相違点1、相違点2の順に検討する。
甲第2号証には、上記3(2)ア(ア)の【請求項2】及び(キ)の【0029】によれば、ガラスセラミックにおいて、TiO2の組成は1.0~5.0までの範囲を取り得ること、及び、ZrO2の組成は1.0~2.5までの範囲を取り得ることが記載されている。
また、上記3(2)ア(カ)の【0027】の「核形成原因物質であるTiO2、ZrO2及びSnO2の濃度は、…2.5重量%、好ましくは3.0重量%…の最小濃度が、…必要である。…だが、核形成原因物質の濃度が5.0重量%より高くなると、フロートの時間/温度条件の下でガラスと錫浴との接触部で好ましくない表面結晶が生ずる。」との記載について、「2.5重量%」及び「好ましくは3.0重量%」という記載が、それぞれ、上記3(2)ア(キ)の第1の具体例の【0029】の「ΣTiO2+ZrO2+SnO2 2.5~5.0」及び第2の実施態様の同【0030】の「ΣTiO2+ZrO2+SnO2 3.0~4.5」の下限値に対応することを考慮すると、【0027】の上記「核形成原因物質であるTiO2、ZrO2及びSnO2の濃度」という記載は、TiO2、ZrO2及びSnO2を合計した濃度を意味するものと解される。
これらを踏まえると、甲第2号証の各実施例のガラスセラミックの組成において、TiO2と同じ核形成原因物質であるZrO2との合計量を一定としたままで、TiO2の組成が5.0以下及びZrO2の組成が1.0以上となる範囲内で、ZrO2の一部をTiO2に置換することは当業者にとって容易なことであるといえる。
加えて、上記3(2)ア(ア)の【請求項12】及び(キ)の【0040】によれば、甲第2号証に記載されたガラスセラミックにおいて、TiO2の組成を増やすと不透明性が高まるという傾向があることが示唆されているといえる(上記3(2)ア(エ)の「種々の具体例において…半透明又は不透明」及び(キ)【0042】の「調理面に用いられる着色形式において、4mmでの光透過率<5%」という記載を踏まえると、甲第2号証に記載された発明は必ずしも透明なものとは限らないことに留意されたい。)。
以上を踏まえ、甲2-1発明において、ZrO2の一部をTiO2に置換してTiO2の組成を2.73%以上とすることは、当業者が容易に想到し得たことである(相違点1)。
しかしながら、甲2-1発明のZrO2の一部をTiO2に置換してTiO2の組成を2.73%以上としたガラスセラミックの発明は、不透明性を高めようとするものであるから、当該発明が解決しようとする課題には、無着色、高度の光透過性及び光散乱の阻止という課題が含まれないことは明らかである。
他方、甲1技術的事項は、実質的な無色及び高度の光透過性を課題とするものであるから(上記3(1)イ参照)、甲2-1発明のZrO2の一部をTiO2に置換してTiO2の組成を2.73%以上としたガラスセラミックの発明と甲1技術的事項との間には共通する課題がないため、甲2-1発明のZrO2の一部をTiO2に置換してTiO2の組成を2.73%以上としたガラスセラミックの発明において、甲1技術的事項を採用する動機付けがない。
よって、甲2-1発明のZrO2の一部をTiO2に置換してTiO2の組成を2.73%以上としたガラスセラミックの発明において、高石英(β石英)混晶の平均結晶大きさを44nmに代えて35nm未満とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない(相違点2)。
(b)相違点2、相違点1の順に検討する。
甲第2号証(上記3(2)ア(エ)、(カ))に記載されるように、甲2-1発明においては、無着色、高度の光透過性及び光散乱の阻止が求められており、光散乱の阻止のために、高石英(β石英)混晶の平均結晶大きさを100nm未満に制限するものである。
そして、甲2-1発明と甲1技術的事項は、共に、無着色及び高度の光透過性を課題とするものであり、高石英(β石英)混晶を主結晶相とし、酸化砒素及び酸化アンチモンを用いずに清澄されたガラスセラミックの技術であることでも共通するから、甲2-1発明において、着色をより少なく、光透過性をより高めるために、甲1技術的事項を採用し、高石英(β石英)混晶の平均結晶大きさを100nm未満の内、特に、44nmに代えて35nm未満とすることは、当業者が容易に想到し得たことである(相違点2)。
他方、甲第2号証には、上記(a)で検討したとおり、不透明性を高めるためにZrO2の一部をTiO2に置換することが示唆されている。
しかしながら、甲2-1発明の高石英(β石英)混晶の平均結晶大きさを44nmに代えて35nm未満とした発明は、無着色及び高度の光透過性の課題を解決しようとするものであるところ、上記示唆を考慮してZrO2の一部をTiO2に置換すると、不透明性が高まってしまって当該課題を解決できなくなるおそれがあるため、阻害要因があるといえる。
したがって、甲2-1発明の高石英(β石英)混晶の平均結晶大きさを44nmに代えて35nm未満とした発明において、ZrO2の一部をTiO2に置換してTiO2の組成を2.73%以上とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない(相違点1)。
c 小括
したがって、本件発明1は、甲2-1発明及び甲第1、2号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。
(イ)本件発明1と甲2-2発明を上記(ア)と同様にして対比すると、両者は、
「アルミノケイ酸リチウム型ガラスセラミックにおいて、
β-石英固溶体を主結晶相として含み、
前記ガラスセラミックの組成は、酸化ヒ素、酸化アンチモン、および、酸化希土類を、不可避な微量以外には含まず、質量パーセントで表した酸化物:
64から70%までのSiO2、
18から24%までのAl2O3、
4から5%までのLi2O、
0から0.6%までのSnO2、
1から2.5%までのZrO2、
0から1.5%までのMgO、
0から3%までのZnO、
0.3より高く1%までのCaO、
0から3%までのBaO、
BaO+SrO≦3%を満たしながら、0から3%までのSrO、
0から1.5%までのNa2O、
0.2≦(MgO+Na2O+K2O)/Li2O≦1を満たしながら、0から2%までのK2O、
0から3%までのP2O5、および、
200ppm未満のFe2O3を、
含有し、
前記β-石英固溶体中に存在する晶子を有するものである、ガラスセラミック。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3>
本件発明1は、「2.73から4%までのTiO2」を含有するのに対し、甲2-2発明は、2.05%のTiO2を含有する点。
<相違点4>
本件発明1は、「β-石英固溶体中に存在する晶子が、40nm未満の平均サイズを有するものである」であるのに対し、甲2-2発明は、高石英(β石英)混晶の平均結晶大きさが47nmである点。
相違点3、4について検討すると、相違点1、2と同様に判断されるから、甲2-2発明において、TiO2の組成範囲の下限を2.05%から2.73%とし、また、甲1技術的事項を採用し、高石英(β石英)混晶の平均結晶大きさを100nm未満の内、特に、47nmに代えて35nm未満とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、本件発明1は、甲2-2発明及び甲第1、2号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。
(ウ)申立人の主張について検討する。
a 申立人は、令和4年6月27日付け意見書において、取消理由1、2に関して以下を主張している。
(a)甲第2号証には、特許請求の範囲に、重量%で「TiO2 1.0~5.0」であることが記載されていること、及び、甲第1号証には、特許請求の範囲に、重量%で「1.9~4%のTiO2」であることが記載されていることを根拠にして、当業者であれば、適宜、甲2-1発明及び甲2-2発明のTiO2の含有量を、2.10%又は2.05%から2.73%以上に変更することは容易に想到するものであり、また、特許権者は、TiO2の含有量の下限値を変更したことによって甲第1、2号証に記載された発明よりも優れた効果を奏することについて言及していないこと(4(1)(1-1)(ア)参照)。
(b)甲第2号証に記載された発明において、甲第1号証の技術的事項を採用し、平均結晶大きさを、47nm又は44nmに代えて35nm未満とすることについて、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明は本件特許明細書と同じガラス組成及び同じ熱処理条件で行うことが記載されているとともに、甲第2号証には、【0027】に「この高い核形成密度が高い結果、高石英混晶の平均結晶大きさが<100nmに制限され、その結果望ましくない光散乱が阻止される。」、甲第1号証には、第8頁第28~36行に「高い積分透過および低着色を得るためにβ-石英微結晶の小さな平均サイズ(<35nmそして有利には<30nm)が好ましいことが観察された。」と記載されているから、甲第2号証において甲第1号証の技術的事項を採用し、平均結晶大きさを、47nm又は44nmに代えて35nm未満とすることは当業者であれば容易に想到できること(4(1)(1-1)(イ)参照)。
b 申立人の以上の主張について検討する。
上記(ア)、(イ)で検討したとおり、甲第2号証に記載された発明において、TiO2の含有量を2.73%以上に変更すること、及び、平均結晶大きさを、甲1技術的事項を採用して35nm未満とすることのそれぞれを独立して片方のみ想到することは、当業者にとって容易なことであると認められる。
しかしながら、両者を同時に想到することは、上記(ア)、(イ)で検討したとおり、当業者にとって容易想到な事項といえない。
したがって、申立人の当該主張は採用できない。
イ 本件発明2~7について
本件発明2~7は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項の全てを含むものであるから、上記アに示した理由と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明、及び、甲第1号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明8~10について
令和3年12月28日付けで通知した取消理由では、訂正前の請求項8、10に係る発明について、請求項8の「請求項1から6のいずれか1項に記載の前記ガラスセラミックの前駆体」及び「前記アルミノケイ酸リチウムガラスの組成は、請求項1から6のいずれか1項に記載の前記ガラスセラミックの取得を可能にするものである」という特定事項は、「請求項1から6のいずれか1項に記載の前記ガラスセラミック」と同じ組成を有すること以上を示すものとはいえないという前提の下、請求項8、10に係る発明が甲第2号証に記載された発明と同一であると判断している。
しかしながら、本件発明8は、特許権者が令和4年4月4日付け意見書において主張するように、「請求項1から6のいずれか1項に記載の前記ガラスセラミックの取得を可能にするものである」(5(4)2)2-2)参照)から、「請求項1から6のいずれか1項に記載の前記ガラスセラミック」と同じ組成を有するものの、請求項1から6のいずれか1項に記載の前記ガラスセラミックの取得を可能にしないガラスは含まれないものであると認める。
したがって、令和3年12月28日付けで通知した取消理由における訂正前の請求項8、10に係る発明に対する検討は、前提が異なるものであるため、本件発明8、10が甲第2号証に記載された発明と同一であるということはできない。
また、本件発明8、10は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項の全てを含むものであるから、上記アに示した理由と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明、及び、甲第1号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるともいえない。
エ 小括
以上の検討のとおりであるから、取消理由1、2に理由はない。
(2)取消理由3について
本件特許6は、「10-7K-1」と訂正され、訂正前の請求項6の「+3.5と-3.5×107K-1」との記載は「+3.5と-3.5×10-7K-1」であることが明らかになった。
よって、取消理由3に理由はない。
5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第29条第1項及び同第2項所定の規定違反に係る申立理由について
ア 申立人は、甲第1号証には、本件発明1~10の全ての特定事項が記載されているか、又は、記載されているに等しいから、本件発明1~10は甲第1号証に記載されている発明であり、また、本件特許明細書に記載される効果も特段格別なものではなく、当業者が容易に想到できるものであるため、本件発明1~10は甲第1号証の記載に基いて当業者が容易に想到し得るものである旨主張している(特許異議申立書第16頁第26行~第18頁第22行、第20頁第16~25行、第21頁第6行~第22頁第6行、第22頁第21行~第23頁第1行、第23頁第8~16行、第23頁第23行~第24頁第5行、第24頁第11~18行、第24頁第24行~第25頁第3行)。
イ 甲第1号証に記載された発明
上記3(1)アの記載を実施例1、18に注目して整理すると、甲第1号証には、以下の発明(以下、実施例1に注目したものを「甲1-1発明」といい、実施例18に注目したものを「甲1-2発明」という。)が記載されていると認められる。
甲1-1発明(実施例1)
「アルミノケイ酸リチウム(LAS)タイプのガラスセラミックにおいて、主結晶相としてβ-石英固溶体を含有し、ガラスセラミックの組成は、不可避的な微量を除いて酸化ヒ素、酸化アンチモンおよび希土類酸化物を含有せず、重量パーセンテージとして表わされた酸化物:
65.296%のSiO2、21.12%のAl2O3、3.67%のLi2O、0.30%のSnO2、2.58%のTiO2、1.68%のZrO2、0%のMgO、2.50%のBaO、0%のNa2O、0.85%のK2O、0%のP2O5、0.0140%のFe2O3を含有し、β-石英微結晶の平均サイズが21nmであるガラスセラミック。」
甲1-2発明(実施例18)
「アルミノケイ酸リチウム(LAS)タイプのガラスセラミックにおいて、主結晶相としてβ-石英固溶体を含有し、ガラスセラミックの組成は、不可避的な微量を除いて酸化ヒ素、酸化アンチモンおよび希土類酸化物を含有せず、重量パーセンテージとして表わされた酸化物:
64.116%のSiO2、22.20%のAl2O3、4.10%のLi2O、0.27%のSnO2、2.70%のTiO2、1.90%のZrO2、0%のMgO、1.80%のBaO、0.20%のNa2O、0%のK2O、0%のP2O5、0.0140%のFe2O3を含有し、β-石英微結晶の平均サイズが26nmであるガラスセラミック。」
ウ 本件発明1について検討する。
(ア)本件発明1と甲1-1発明の対比・検討
a 甲1-1発明のガラスセラミックは、上記3(1)ア(カ)の表1-Aに記載された各ガラス成分を合計すると100%であることを考慮すると、ZnO、CaO及びSrOを含まないことは明らかであり、BaO+SrOは2.50%、(MgO+Na2O+K2O)/Li2Oは0.23となるため、両者は
「アルミノケイ酸リチウム型ガラスセラミックにおいて、
β-石英固溶体を主結晶相として含み、
前記ガラスセラミックの組成は、酸化ヒ素、酸化アンチモン、および、酸化希土類を、不可避な微量以外には含まず、質量パーセントで表した酸化物:
64から70%までのSiO2、
18から24%までのAl2O3、
0から0.6%までのSnO2、
1から2.5%までのZrO2、
0から1.5%までのMgO、
0から3%までのZnO、
0から3%までのBaO、
BaO+SrO≦3%を満たしながら、0から3%までのSrO、
0から1.5%までのNa2O、
0.2≦(MgO+Na2O+K2O)/Li2O≦1を満たしながら、0から2%までのK2O、
0から3%までのP2O5、および、
200ppm未満のFe2O3を、
含有し、
前記β-石英固溶体中に存在する晶子が、40nm未満の平均サイズを有するものである、ガラスセラミック。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点A>
本件発明1は、「4から5%までのLi2O」を含有するのに対し、甲1-1発明は、「3.67%のLi2O」を含有する点。
<相違点B>
本件発明1は、「2.73から4%までのTiO2」を含有するのに対し、甲1-1発明は、「2.58%のTiO2」を含有する点。
<相違点C>
本件発明1は、「0.3より高く1%までのCaO」を含有するのに対し、甲1-1発明は、CaOを含まない点。
b 相違点について検討する。
(a)少なくとも、相違点A、Cはいずれも実質的なものといえる。
(b)相違点Aに係る本件発明1の構成の容易想到性について検討する。
甲第1号証(上記3(1)ア(イ))に記載されるように、Li2Oは、過剰であると失透がもたらされ、少ないと高温粘度を増加させ、含有量としては3~4%の範囲が非常に有利であるとされる。
そうすると、甲1-1発明において、Li2Oの組成を、3.67%から増加させて、非常に有利とされる範囲の上限を上回るように、4から5%までの範囲とすることには、動機付けがないといえる。
したがって、甲1-1発明において、相違点Aに係る本件発明1の構成をなすことは、当業者が容易に想到し得たものではない。
(c)相違点Cに係る本件発明1の構成の容易想到性について検討する。
甲第1号証(上記3(1)ア(エ))に記載されるように、Na2O、K2O及びCaOは、高温粘度と熱膨張係数に影響するものであるから、Na2O、K2O及びCaOの合計量を一定としたままで、それぞれの量を調整し得るものと認められる。
そこで、甲1-1発明において、Na2O、K2O及びCaOの合計量を0.85%の維持したままで、例えば、K2OからCaOに0.31%置換すると、K2Oは0.54%となるが、この場合、
(MgO+Na2O+K2O)/Li2O=0.15≦0.2
となるため、本件発明1の「0.2≦(MgO+Na2O+K2O)/Li2O≦1」という特定を満たさなくなる。
したがって、甲1-1発明において、相違点Cに係る本件発明1の構成をなすことは、当業者が容易に想到し得たものではない。
(d)よって、相違点Bについて検討するまでもなく、本件発明1は甲1-1発明と同一であるとも、甲1-1発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
(イ)本件発明1と甲1-2発明の対比・検討
a 両者を上記(ア)と同様にして対比すると、両者は、
「アルミノケイ酸リチウム型ガラスセラミックにおいて、
β-石英固溶体を主結晶相として含み、
前記ガラスセラミックの組成は、酸化ヒ素、酸化アンチモン、および、酸化希土類を、不可避な微量以外には含まず、質量パーセントで表した酸化物:
64から70%までのSiO2、
18から24%までのAl2O3、
4から5%までのLi2O、
0から0.6%までのSnO2、
1から2.5%までのZrO2、
0から1.5%までのMgO、
0から3%までのZnO、
0から3%までのBaO、
BaO+SrO≦3%を満たしながら、0から3%までのSrO、
0から1.5%までのNa2O、
0から2%までのK2O、
0から3%までのP2O5、および、
200ppm未満のFe2O3を、
含有し、
前記β-石英固溶体中に存在する晶子が、40nm未満の平均サイズを有するものである、ガラスセラミック。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点D>
本件発明1は、「2.73から4%までのTiO2」を含有するのに対し、甲1-2発明は、「2.70%のTiO2」を含有する点。
<相違点E>
本件発明1は、「0.3より高く1%までのCaO」を含有するのに対し、甲1-2発明は、CaOを含まない点。
<相違点F>
本件発明1は、「0.2≦(MgO+Na2O+K2O)/Li2O≦1を満た」すものであるのに対し、甲1-2発明は、(MgO+Na2O+K2O)/Li2O=0.20/4.10=0.049<0.2である点。
b 相違点について検討する。
(a)少なくとも、相違点Eは実質的なものといえる。
(b)相違点Eに係る本件発明1の構成の容易想到性について検討する。
甲第1号証(上記3(1)ア(エ))に記載されるように、Na2O、K2O及びCaOは、高温粘度と熱膨張係数に影響するものであるから、Na2O、K2O及びCaOの合計量を一定としたままで、それぞれの量を調整し得るものと認められる。
しかしながら、甲1-2発明において、Na2O、K2O及びCaOの合計量は0.20%しかないから、全量をCaOに置換したとしても、CaOは0.3%より高くならない。
したがって、甲1-2発明において、相違点Eに係る本件発明1の構成をなすことは、当業者が容易に想到し得たものではない。
(c)よって、相違点D、Fについて検討するまでもなく、本件発明1は甲1-2発明と同一であるとも、甲1-2発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
(ウ)以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとも、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
エ 本件発明2~10について検討する。
本件発明2~10は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項の全てを含むものであるから、上記ウに示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明と同一であるとも、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるともいえない。
オ まとめ
よって、申立人の主張する上記申立理由に理由はない。
(2)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反に係る申立理由について
申立人は、請求項1において、「前記β-石英固溶体中に存在する晶子が、40nm未満の平均サイズを有する」という上限だけを示すような数値範囲に関する記載があるところ、下限値の記載がなく「0」の場合も含み得る記載であるため、請求項1に係る発明の範囲が明確でない旨を主張している(特許異議申立書第25頁第10~14行)。
この点について検討するに、ガラスセラミックにおいて、晶子の平均サイズが「0」を含まないことは当然であるから、下限値の記載がなくても請求項1に係る発明は不明確ではない。
よって、申立人の主張する上記申立理由に理由はない。
(3)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反に係る申立理由について
申立人は、請求項1には、「前記β-石英固溶体中に存在する晶子が、40nm未満の平均サイズを有する」と記載されているのに対して、本件特許明細書の実施例で開示されているのは晶子の平均サイズが27~29nmのもののみであるから、晶子の平均サイズが27~29nm以外の場合にも実施例と同様の効果を奏することを当業者は認識できないため、請求項1~10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしてない特許出願に対してされたものである旨を主張している(特許異議申立書第25頁第21~26行、第25頁第28行~第26頁第2行)。
この点について検討するに、本件特許明細書の【0001】~【0011】、実施例及び比較例の記載から、本件発明の課題は「As2O3、Sb2O3及びハロゲンを含まない組成のβ-石英ガラスセラミックであり、高い透明性、非常に低い黄色度、低い散乱度及び取得の容易さを満たしつつ、低いCTE25℃-[300-700℃](25℃と、300と700℃の間の任意の温度との間の熱膨張係数)を有するβ-石英ガラスセラミックを提供すること」であると認められる。
本件特許明細書の【0027】によれば、β-石英晶子の平均サイズが40nm未満を有することは、高い透明性、非常に低い黄色度及び低い散乱度を満たすβ-石英ガラスセラミックを提供するという課題を解決する手段であるといえるから、本件発明の課題のうち、「高い透明性、非常に低い黄色度及び低い散乱度を満たすβ-石英ガラスセラミックを提供するという課題」を解決しようとするものであるといえる。
本件特許明細書の表1A及び表1Bには、実施例としてβ-石英晶子の平均サイズが「27nm」~「29nm」のものが記載され、比較例と比較すると、高い透明性、非常に低い黄色度及び低い散乱度のガラスセラミックが得られているといえるから、実施例のガラスセラミックは、「高い透明性、非常に低い黄色度及び低い散乱度を満たすβ-石英ガラスセラミックを提供するという課題」を解決できたものといえる。
次に、実施例のガラスセラミックから本件発明1への拡張又は一般化について検討する。
本件特許明細書の【0027】によれば、β-石英晶子の平均サイズが40nm未満を有することにより、高い透明性、非常に低い黄色度及び低い散乱度を満たすβ-石英ガラスセラミックを提供できる旨記載されている。
また、ガラスセラミックにおいて、β-石英晶子の平均サイズが小さくなると、透明性が高く、黄色度は低く、及び散乱度が低くなることは技術常識(上記3(1)ア(ウ)、同(2)ア(カ)等参照)である。
以上を踏まえると、β-石英晶子の平均サイズが40nm未満を有するガラスセラミックは、実施例のガラスセラミックと同様に、当業者が「高い透明性、非常に低い黄色度及び低い散乱度を満たすβ-石英ガラスセラミックを提供するという課題」を解決できると認識できる範囲のものである。
そうしてみると、本件発明1~10は、実施例のガラスセラミックから拡張又は一般化できたものと当業者が認識できるものである。
よって、申立人の主張する上記申立理由に理由はない。
(4)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反に係る申立理由について
申立人は、請求項1には、「前記β-石英固溶体中に存在する晶子が、40nm未満の平均サイズを有する」と記載されているのに対して、本件特許明細書の実施例で開示されているのは晶子の平均サイズが27~29nmのもののみであり、また、本件特許明細書と同じ組成のガラスに対して本件特許明細書と同じ処理条件で核形成及び結晶成長を行った甲第2号証のガラスセラミックは、β-石英固溶体中に存在する晶子が、40nm未満の平均サイズにならないから、晶子の平均サイズが27~29nm以外の場合にも実施例と同様に実施できる程度に十分に記載されていないため、請求項1~10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしてない特許出願に対してされたものである旨を主張している(特許異議申立書第25頁第21~27行、第26頁第3行~第27頁第2行)。
この点について検討するに、本件特許明細書の【0027】には、TiO2、ZrO2の組成及びセラミック加熱処理が関係していることが記載されているから、当業者は、組成及びセラミック化熱処理(特に、温度条件や処理時間)を制御することにより、実施例で示される晶子の平均サイズが27~29nmであるものを中心に40nm未満であるガラスセラミックが得られると認識できるため、申立人の主張する上記申立理由に理由はない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700905