特許異議申立
2023-700389
食品添加物として使用される過酢酸組成物の製造方法
- 審判番号
- 2023-700389
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-556131
- 登録番号
- 7156306
- 請求日
- 2023年04月18日
- 審決日
- 2023年07月06日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三菱瓦斯化学株式会社
- 【権利者代理人】小林 浩
- 【権利者代理人】杉山 共永
- 【権利者代理人】鈴木 康仁
- 【異議申立人】本間 裕美
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 磯貝 香苗
- 審判官 中村 和正
- 分類
- P1651.121-Y (A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7156306号発明「食品添加物として使用される過酢酸組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7156306号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7156306号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、
2018年(平成30年)10月15日(優先権主張 平成29年11月27日)を国際出願日とする特許出願であって、
令和 4年10月11日にその特許権の設定登録(請求項の数 13)がされ、
令和 4年10月19日に特許掲載公報が発行され、
その後、当該特許に対し、
令和 5年 4月18日に 本間 裕美 (以下、「特許異議申立人」という。)が全請求項に係る特許に対して特許異議申立てを行ったものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし13に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
過酸化水素水溶液、酢酸溶液、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を含む物質を混合する工程を含む、食品添加物として使用される過酢酸組成物の製造方法であって、
前記過酸化水素水溶液が、アルミニウムを10μg/kg以上含有し、かつ、過酸化水素を30~40質量%含有する、前記製造方法。
【請求項2】
さらに、前記過酸化水素水溶液が、鉄を50μg/kg以下含有し、かつ、PO43-を50mg/kg以下含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記酢酸溶液が、アルミニウムを10μg/kg以上含有し、鉄を50μg/kg以下含有し、PO43-を50mg/kg以下含有し、かつ、酢酸を90~99.99質量%含有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を含む物質が、アルミニウムを10μg/kg以上含有し、鉄を7mg/kg以下含有し、PO43-を50mg/kg以下含有し、かつ、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を55~65質量%含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程において混合する温度が、25~35℃である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記混合工程において混合する時間が、60分以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記混合工程において混合をした後に、1日以上静置する、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
さらに、得られた過酢酸組成物を水で希釈する工程を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
アルミニウムを50μg/kg以上含み、鉄を300μg/kg以下含み、PO43-を200mg/kg以下含み、かつ、過酸化水素換算で全過酸化物濃度が10~18質量%である、食品添加物として使用される過酢酸組成物。
【請求項10】
アルミニウムを25μg/kg以上含み、鉄を20μg/kg以下含み、PO43-を15mg/kg以下含み、かつ、過酸化水素換算で全過酸化物濃度が5~12質量%である、食品添加物として使用される過酢酸組成物。
【請求項11】
平衡定数が2以上である、請求項10に記載の過酢酸組成物。
【請求項12】
引火点を有さない、請求項10又は11に記載の過酢酸組成物。
【請求項13】
請求項9~12のいずれか一項に記載の過酢酸組成物と、食品とを接触させる、食品の殺菌方法。
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由について
令和 5年 4月18日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 証拠方法
甲第1号証:特開2001-172110号公報
甲第2号証:特開2008-127231号公報
甲第3号証:特開2000-1305号公報
甲第4号証:厚生労働省通知 平成28年10月6日付け生食発1006第1号
甲第5号証:食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)、第2 添加物(平成29年11月30日現在)、D 成分規格・保存基準各号(抜粋)
甲第6号証:食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)、第2 添加物(平成29年11月30日現在)、E 製造基準(抜粋)
甲第7号証:「過酢酸の生成反応」、工業化学雑誌、第63巻、第7号(1960)
甲第8号証:特開平11-35306号公報
証拠の表記は特許異議申立書の記載におおむね従った。
以下、順に「甲1」等という。
第4 当審の判断
当審は以下に述べるように、申立理由1は理由がないと判断する。
1 甲1に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項
甲1には「安定性の優れた平衡過酢酸組成物、及びその製造方法」に関し、次の事項が記載されている。
「【0002】
【従来技術】過酢酸は、低濃度でも強い殺菌力を有し、種々の微生物に対して殺菌効果があることから、食品、醸造、医療等の分野で、装置や機器類の消毒、或いは殺菌に広く使用されている。過酢酸は、過酸化水素と酢酸とを反応させることによって、過酢酸、酢酸、過酸化水素、及び水からなる平衡過酢酸組成物として得ることができる。消毒や殺菌に用いられている過酢酸は、一般的にはこの方法によって製造された平衡過酢酸組成物である。近年は、製品の運搬費の削減面から比較的高濃度の過酢酸を含有する平衡過酢酸組成物が求められるようになってきている。」
「【0013】
【実施例】比較例1~3
80重量%酢酸 253g、35重量%過酸化水素 433g及び表1に示す所定量の臭素イオンを含む市販の1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸 2.1g(添加率 0.3wt%)を混合して、過酢酸、過酸化水素、及び酢酸の濃度が、それぞれ10重量%、17重量%、及び20重量%である平衡過酢酸組成物を得、有効酸素の分解率(28℃、40℃における1ケ月間の分解率)を測定した。その結果を表1に示す。有効酸素の分解率の測定条件は以下に示す。(比較例1、2及び3の平衡過酢酸組成物中に含まれる臭素イオン濃度は、それぞれ0.15ppm、0.26ppm、及び0.32ppmである。)」
(2)甲1に記載された発明
上記(1)の比較例1ないし3を中心にまとめると、甲1には次の発明(以下、「甲1製法発明」、「甲1物発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1製法発明>
「食品、醸造、医療等の分野で、装置や機器類の消毒、或いは殺菌に使用される過酢酸であって、80重量%酢酸253g、35重量%過酸化水素433g、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸2.1g(添加率 0.3wt%)を混合し、過酢酸、過酸化水素、及び酢酸の濃度が、それぞれ10重量%、17重量%、及び20重量%である平衡過酢酸組成物の製造方法。」
<甲1物発明>
「食品、醸造、医療等の分野で、装置や機器類の消毒、或いは殺菌に使用される過酢酸であって、80重量%酢酸253g、35重量%過酸化水素433g、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸2.1g(添加率 0.3wt%)を混合し、過酢酸、過酸化水素、及び酢酸の濃度が、それぞれ10重量%、17重量%、及び20重量%である平衡過酢酸組成物。」
2 検討
(1)本件特許発明1についての対比・検討
本件特許発明1と甲1製法発明とを対比する。
甲1製法発明における「80重量%酢酸253g、35重量%過酸化水素433g、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸2.1g(添加率 0.3wt%)を混合」は、本件特許発明1における「過酸化水素水溶液、酢酸溶液、及び、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を含む物質を混合する工程」に相当する。
また、甲1製法発明における「35重量%過酸化水素」は、本件特許発明1における「過酸化水素水溶液が」「過酸化水素を30~40重量%含有する」との特定事項を満たす。
そうすると、本件特許発明1と甲1製法発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「過酸化水素水溶液、酢酸溶液、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を含む物質を混合する工程を含む、過酢酸組成物の製造方法であって、前記過酸化水素水溶液が、過酸化水素を30~40重量%含有する、前記製造方法。」
<相違点1>
本件特許発明1においては、「過酸化水素水溶液が、アルミニウムを10μg/kg以上含有」するとの特定を有するのに対して、甲1製法発明においては、そのような特定を有さない点。
<相違点2>
本件特許発明1においては、過酢酸組成物が「食品添加物として使用される」との特定を有するのに対して、甲1製法発明においては、そのような特定を有さない点。
上記相違点1について検討する。
甲1には、過酸化水素水溶液のアルミニウム含有量については何ら記載されておらず、甲1製法発明において、過酸化水素水溶液のアルミニウムを10μg/kg以上含有させる動機はない。
甲2には、過酸化水素が、現在では、主にアントラキノン法により製造されており、この方法によって製造された過酸化水素水中には、装置材質などに起因するAl、Fe、Crなどの無機イオン・化合物不純物が含まれていることが記載されているが、アルミニウムの含有量については記載がない。
甲3には、過酸化水素水溶液の蒸留において精留塔には充填塔方式が広く用いられ、塔本体材質に加えて、充填物材質から溶出する不純物があり、磁性充填物においては、主成分であるSi、Al、Naなどが溶出することになるが、アルミニウム及び合金は、数100~数1000ppb混入する場合があることが記載されているが、過酸化水素水中に必ずアルミニウムが10μg/kg以上含有されていることを示すものではない。
特許異議申立人の主張する本件特許明細書【0042】【表1】の「H2O2水溶液中のAl」については、アルミニウム含有量が10μg/kg未満の過酸化水素水溶液も記載されており、過酸化水素水溶液ならばアルミニウムが10μg/kg以上含有されているとはいえない。
そして、その他の証拠においても、甲1製法発明において、過酸化水素水溶液をアルミニウム10μg/kg以上含有させるようにする動機となる記載はない。
したがって、甲1製法発明において、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
よって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし8についての対比・検討
本件特許発明2ないし8は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2ないし8は、甲1製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明9についての対比・検討
本件特許発明9と甲1物発明とを対比する。
甲1物発明においては、「1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸2.1g(添加率 0.3wt%)」を含有しているから、本件特許発明9の「PO43―を」「含み」との特定事項を満たす。
そうすると、本件特許発明9と甲1物発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「PO43―を含む、過酢酸組成物。」
<相違点3>
本件特許発明9においては、「アルミニウムを50μg/kg以上含み、鉄を300μg/kg以下含み、PO43-を200mg/kg以下含み、かつ、過酸化水素換算で全過酸化物濃度が10~18質量%である」との特定を有するのに対して、甲1物発明においてはそのような特定を有さない点
<相違点4>
本件特許発明9においては「食品添加物として使用される」との特定を有するのに対して、甲1物発明においてはそのような特定を有さない点。
上記相違点3について検討する。
甲1には、過酢酸組成物のアルミニウム濃度、鉄濃度、PO43-濃度、全過酸化物濃度については記載がなく、甲1物発明において、アルミニウムを50μg/kg以上含み、鉄を300μg/kg以下含み、PO43-を200mg/kg以下含み、かつ、過酸化水素換算で全過酸化物濃度が10~18質量%とする動機がない。
その他の証拠においても、甲1物発明において、アルミニウムを50μg/kg以上含み、鉄を300μg/kg以下含み、PO43-を200mg/kg以下含み、かつ、過酸化水素換算で全過酸化物濃度が10~18質量%とする動機となる記載はない。
甲1物発明において、相違点3に係る本件特許発明9の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
よって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明9は甲1物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明10についての対比・検討
本件特許発明10と甲1物発明とを対比すると、その相当関係は上記ウと同様である。
そうすると、本件特許発明10と甲1物発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「PO43―を含む、過酢酸組成物。」
<相違点5>
本件特許発明10においては、「アルミニウムを25μg/kg以上含み、鉄を20μg/kg以下含み、PO43-を15mg/kg以下含み、かつ、過酸化水素換算で全過酸化物濃度が5~12質量%である」との特定を有するのに対して、甲1物発明においてはそのような特定を有さない点
<相違点6>
本件特許発明10においては、「食品添加物として使用される」との特定を有するのに対して、甲1物発明においてはそのような特定を有さない点。
上記相違点5について検討する。
甲1には、過酢酸組成物のアルミニウム濃度、鉄濃度、PO43-濃度、全過酸化物濃度については記載がなく、甲1物発明において、アルミニウムを25μg/kg以上含み、鉄を20μg/kg以下含み、PO43-を15mg/kg以下含み、かつ、過酸化水素換算で全過酸化物濃度が5~12質量%とする動機がない。
その他の証拠においても、甲1物発明において、アルミニウムを25μg/kg以上含み、鉄を20μg/kg以下含み、PO43-を15mg/kg以下含み、かつ、過酸化水素換算で全過酸化物濃度が5~12質量%とする動機となる記載はない。
したがって、甲1物発明において、相違点5に係る本件特許発明10の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
よって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明10は甲1物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明11ないし12についての対比・検討
本件特許発明11ないし12は、請求項10を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項10に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明10と同様に判断される。
よって、本件特許発明11ないし12は、甲1物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件特許発明13についての対比・検討
本件特許発明13は、請求項9又は請求項10を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項9又は請求項10に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明9又は本件特許発明10と同様に判断される。
よって、本件特許発明13は、甲1物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 申立理由1についてのまとめ
申立理由1はその理由がない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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