特許異議申立
2023-701037
ヒドロキシ置換芳香族化合物の製造方法及び梱包方法
- 審判番号
- 2023-701037
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-520574
- 登録番号
- 7249733
- 請求日
- 2023年09月28日
- 審決日
- 2024年07月16日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱瓦斯化学株式会社
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】内藤 和彦
- 【権利者代理人】都野 真哉
- 【権利者代理人】大貫 敏史
- 【異議申立人】古川 慎二
- 審判長/審判官
- 審判長 木村 敏康
- 審判官 齊藤 真由美
- 審判官 野田 定文
- 分類
- P1651.113-YAA(C07C) / P1651.121-YAA(C07C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7249733号発明「ヒドロキシ置換芳香族化合物の製造方法及び梱包方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7249733号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第7249733号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7249733号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、2016年4月26日(優先権主張2015年5月27日(JP)日本国(2件))を国際出願日とする出願であって、令和5年3月23日に特許権の設定登録がされ、同年同月31日にその特許掲載公報が発行された。その後、令和5年9月28日に、本件特許の請求項1~3に係る特許に対し、特許異議申立人 古川 慎二(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
その後の本件特許異議申立事件の主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和 6年 1月30日付け 取消理由通知
同年 4月 2日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年 同月30日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 6月 5日 意見書の提出(申立人)
第2 本件訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は、
「特許第7249733号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求める。」
というものであり、その訂正の内容は、訂正請求書の記載及び訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の記載からみて、以下の訂正事項1及び2からなるものである。
なお、下線は当審合議体が付した。また、「・・・」は摘記の省略を示す。以下同じ。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「酸素濃度が1体積%未満及び乾燥温度が50~100℃の」
と記載されているのを、
「酸素濃度が1体積%未満及び乾燥温度が80~100℃の」
に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「雰囲気にて乾燥する工程を含み、」
と記載されているのを、
「酸素以外のガスを主成分とするガス雰囲気にて乾燥する工程を含み、」
に訂正する。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~3について、請求項2及び3は、請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用しており、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~3に対応する訂正後の請求項1~3に係る本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。
3 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1に「乾燥温度」として「50~100℃」と記載されているのを、当該範囲内で下限値を上げて「80~100℃」とし、乾燥温度の範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件明細書等」という。)の段落【0021】には、「乾燥温度はヒドロキシ置換芳香族化合物、例えば、ジヒドロキシナフタレンの変質を抑制できれば特に限定されないが、通常、10~230℃の範囲が好ましい。・・・より好ましい乾燥温度は、50~100℃・・・である。」と記載され、段落【0061】には当該「乾燥温度」の具体例として「(実施例2)含水率10質量%かつ純度89.0%の2,6-ジヒドロキシナフタレン粗体1gを、TABAI社製熱風乾燥機(HIGH-TEMP OVEN PHH-100)に入れ、窒素気流下、80℃で24時間乾燥を行った。」と記載されているから、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項1に係る訂正は、上記ア及びイで述べたとおり、訂正前の請求項1における「乾燥温度」の範囲を限定するものであって、当該訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項1において、「乾燥する工程」の「雰囲気」を、「酸素以外のガスを主成分とするガス」の「雰囲気」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
本件明細書等の段落【0019】には、「酸素濃度を低下させる方法は、公知の方法が適用でき、特に限定されないが、例えば、酸素以外のガスを主成分とするガスを乾燥機内に供給する方法を挙げることができる。」と記載され、段落【0061】には当該「乾燥」の「雰囲気」の具体例として「(実施例2)含水率10質量%かつ純度89.0%の2,6-ジヒドロキシナフタレン粗体1gを、TABAI社製熱風乾燥機(HIGH-TEMP OVEN PHH-100)に入れ、窒素気流下、80℃で24時間乾燥を行った。」と記載されており、「窒素気流下」という「酸素以外のガスを主成分とするガス」の雰囲気にて乾燥しているから、訂正事項2に係る訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項2に係る訂正は、上記アで述べたとおり、訂正前の請求項1における「乾燥する工程」の「雰囲気」を限定するものであって、当該訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(3)独立特許要件について
訂正事項1~3に係る訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を訂正の目的とするものであるが、本件特許異議申立事件においては、本件訂正前の全ての請求項である請求項1~3に係る特許に対して特許異議の申立てがされているから、訂正後の請求項1~3に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。
3 本件訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するものである。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、令和6年4月2日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正後の本件特許に係る発明
前記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正後の請求項1~3(以下「本件請求項1」~「本件請求項3」ということがある。)に係る発明は、令和6年4月2日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(下線は本件訂正による記載の変更箇所を示す。)。
そして、本件請求項1~3に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~3に記載された以下の事項により特定されるとおりのものであると認める(以下「本件発明1」~「本件発明3」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)。
「 【請求項1】
ヒドロキシ置換芳香族化合物を、酸素濃度が1体積%未満及び乾燥温度が80~100℃の酸素以外のガスを主成分とするガス雰囲気にて乾燥する工程を含み、
前記ヒドロキシ置換芳香族化合物が、下記式(1)で表される化合物であり、
前記体積%とは、大気圧下での空気中の気体成分100体積%に対する、大気圧換算の気体の体積割合を意味する、
ヒドロキシ置換芳香族化合物の製造方法。
【化2】
[図:0001415284000001.jpg]
【請求項2】
前記乾燥工程が、還元性物質の存在下で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記還元性物質が、亜硫酸(塩)、重亜硫酸(塩)、ピロ亜硫酸(塩)、亜二チオン酸(塩)、三チオン酸(塩)、四チオン酸(塩)、チオ硫酸(塩)、ロンガリット、チオ酢酸(塩)、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ジメチルスルホキサイド、二酸化チオ尿素、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、亜リン酸(塩)及び次亜リン酸(塩)からなる群より選ばれる1種以上である、請求項2に記載の製造方法。」
第4 申立理由及び取消理由の概要
1 申立理由の概要及び証拠方法
申立人は、証拠方法として、下記(2)のとおり、特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付して甲第1号証~甲第4号証(以下「甲1」~「甲4」という。)を提出し、申立書の全体の記載からみて、下記(1)に概要を示す特許異議の申立ての理由(以下「申立理由」という。)を主張しているものと認められる。
なお、ここでの「請求項1」及び「本件発明1」等とは、本件特許の設定登録時の請求項1及び当該請求項1に係る発明等のことである。
(1)申立理由の概要
申立理由(甲1を主引例とする進歩性欠如(甲2~4を援用))
本件特許の請求項1~3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲1に記載された発明、甲2に記載された技術的事項並びに甲3及び甲4に記載の周知技術に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(2)証拠方法
甲1:米国特許第3394194号明細書(1968年7月23日)
甲2:特開2014-141548号公報
甲3:特開2005-162675号公報
甲4:特開2011-195514号公報
2 当審合議体が通知した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~3に係る特許に対し、当審合議体が令和6年1月30日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由1(新規性欠如)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2(進歩性欠如)
本件特許の請求項1~3に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲1に記載された発明、並びに、甲3及び甲4に記載された技術的事項に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
なお、上記取消理由2(進歩性欠如)は、申立人の主張する申立理由において、甲2を援用しないものに対応するものである。
第5 当審合議体の判断
当審合議体は、本件請求項1~3に係る特許は、当審合議体が通知した取消理由及び申立人が申し立てた理由によっては、取り消すことはできないと判断する。その理由の詳細は以下のとおりである。
1 当審合議体が通知した取消理由についての判断
(1)甲1~甲4の記載事項
ア 甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている。英文であるため、当審合議体による訳文にて摘記する。
甲1a
「請求の範囲
1.4-アミノ-1-ナフトールを酸水溶液の存在下、少なくとも約80℃の温度で十分な時間加熱して、4-アミノ-1-ナフトールを1,4-ナフタレンジオールに変換することを含む、1,4-ナフタレンジオールの製造方法。」(請求の範囲 請求項1)
甲1b
「 したがって、本発明の目的は、1,4-ナフトキノンに依存しない1,4-ナフタレンジオールの製造方法を提供することである。
別の目的は、容易に入手可能な材料から直接1,4-ナフタレンジオールを製造するための効率的な方法を提供することである。
本発明によれば、今回我々は、4-アミノ-1-ナフトールを酸性水溶液の存在下、約80℃以上の温度で加熱することにより、1,4-ナフタレンジオールを優れた品質と収率で直接製造できることを発見した。
・・・
本発明の方法は、大気圧を超える圧力で実施することもできるが、大気圧で実施することが好ましく、より経済的である。製品の加工中に空気を排除し、それによって酸化を最小限に抑えることが有利である。したがって、生成物を真空オーブンで乾燥した場合、大気中で乾燥した場合よりも、より明るい色でより高い融点の生成物が得られる。」(1欄32~42行、2欄21~28行)
甲1c
「実施例において、パーセンテージは重量によるものである。
実施例I
260グラム(2.65モル)の100%硫酸を1475グラムの水に添加することによって、15%硫酸溶液を調製した。この酸性溶液に、173.5グラム(0.887モル)の4―アミノ―1―ナフトール塩酸塩を攪拌しながら加えた。次いで、スラリーを攪拌し、還流温度(約103℃)で約16時間加熱した。室温まで冷却した後、生成物をブフナー漏斗に集め、酸がなくなるまで約400~500ミリリットルの冷水で暗色コンゴ指示液になるまで連続的に洗浄した。ウエットケーキを真空オーブン中55~60℃で約24時間乾燥させた。136グラムの1,4―ナフタレンジオールを淡灰色から紫がかった灰色の結晶として得、185~186℃で溶融し、理論値の95.7%の収率を示した。」(2欄40~57行)
イ 甲2の記載事項
甲2には、次の事項が記載されている。
甲2a
「【技術分野】
【0001】
本発明はポリウレタンの製造方法に係り、詳しくは、ポリエステルポリオールとイソシアネート化合物とを糖及び/又はその誘導体の存在下に反応させることにより、ポリウレタン製造時の反応速度を向上させると共に、得られるポリウレタンの引張強度や弾性回復率等を改善するポリウレタンの製造方法に関する。」
甲2b
「【0093】
ジヒドロキシ化合物の貯蔵タンク内の酸素濃度は、貯蔵タンク全体積に対する体積%として、下限は特に限定されないが、通常0.00001%以上であることが好ましく、より好ましくは0.0001%以上であり、更に好ましくは0.001%以上、最も好ましくは0.01%以上であり、上限が通常10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは1%以下、最も好ましくは0.1%以下である。
【0094】
ジヒドロキシ化合物の貯蔵タンク内の酸素濃度を0.00001%以上とすることにより、管理工程が煩雑となるのを防ぎ、経済的に有利である。また、酸素濃度を10%以下とすることにより、ジヒドロキシ化合物の酸化反応生成物によるポリウレタンの着色が増大するのを防ぐことができる。
【0095】
ジヒドロキシ化合物の貯蔵タンク内の貯蔵温度は、下限が通常15℃以上であることが好ましく、より好ましくは30℃以上であり、更に好ましくは50℃以上、最も好ましくは100℃以上であり、上限が230℃以下であることが好ましく、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは180℃以下、最も好ましくは160℃以下である。
【0096】
ジヒドロキシ化合物の貯蔵タンク内の貯蔵温度を15℃以上とすることにより、ポリエステルポリオール製造時の昇温に時間を要するのを防ぎ、ポリエステルポリオールの製造が経済的に有利になるとともに、ジヒドロキシ化合物の種類によってこれが固化してしまうことを防ぐことができる。一方、230℃以下とすることにより、ジヒドロキシ化合物の気化を抑えて高圧対応の貯蔵設備が必要となるのを防ぎ、経済的に有利になるとともに、ジヒドロキシ化合物の劣化が防ぐことができる。」
ウ 甲3の記載事項
甲3には、次の事項が記載されている。
甲3a
「【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネートを有機溶媒および金属水酸化物水溶液の存在下に分解し、得られた固体の芳香族ジヒドロキシ化合物を洗浄し高純度の芳香族ジヒドロキシ化合物を得る方法に関する。また、得られた高純度の芳香族ジヒドロキシ化合物をポリカーボネートの製造工程に使用する芳香族ポリカーボネートの製造方法に関する。」
甲3b
「【0031】
分解反応中に生成した芳香族ジヒドロキシ化合物は、塩基性条件下では酸化されやすいので、反応溶液中に酸化防止剤を添加することが好ましい。また、工程内の酸素濃度を不活性ガスにより、低減しておくことも有効である。
【0032】
酸化防止剤として、重亜硫酸ナトリウム(Na2S2O5)、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、ハイドロサルファイトナトリウム(Na2S2O4)等が挙げられる。これらを1種または2種以上混合して用いても差し支えない。・・・」
エ 甲4の記載事項
甲4には、次の事項が記載されている。
甲4a
「【技術分野】
【0001】
本発明は、廃芳香族ポリカーボネート樹脂を解重合し、芳香族ジヒドロキシ化合物を原料として回収するに当たり、効率よく高品質の芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を回収する方法に関する。」
甲4b
「【0026】
分解反応中に生成した芳香族ジヒドロキシ化合物は、塩基性条件下では酸化されやすいので、反応溶液中に酸化防止剤を添加することが好ましい。また、工程内の酸素濃度を不活性ガスにより、低減しておくことも有効である。
【0027】
酸化防止剤として、重亜硫酸ナトリウム(Na2S2O5)、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、ハイドロサルファイトナトリウム(Na2S2O4)等が挙げられる。これらを1種または2種以上混合して用いても差し支えない。・・・」
(2)取消理由通知で通知した、取消理由1(新規性欠如)及び取消理由2(進歩性欠如)について
なお、取消理由2において、副引例又は周知例として引用しなかった文献である甲2についても、便宜的に、副引例又は周知例とした上で検討する。
ア 甲1に記載された発明
甲1aの「1.4-アミノ-1-ナフトールを酸水溶液の存在下、少なくとも約80℃の温度で十分な時間加熱して、4-アミノ-1-ナフトールを1,4-ナフタレンジオールに変換することを含む、1,4-ナフタレンジオールの製造方法。」との記載、及び、甲1cの「実施例I・・・硫酸を・・・水に添加することによって、15%硫酸溶液を調製した。この酸性溶液に、・・・4―アミノ―1―ナフトール塩酸塩を攪拌しながら加え・・・スラリーを攪拌し、還流温度(約103℃)で約16時間加熱し・・・生成物をブフナー漏斗に集め、酸がなくなるまで・・・連続的に洗浄した。ウエットケーキを真空オーブン中55~60℃で約24時間乾燥させ・・・1,4―ナフタレンジオールを・・・結晶として得、・・・理論値の95.7%の収率を示した。」との記載からみて、甲1には、実施例Iの1,4-ナフタレンジオールの製造方法の発明として、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「4―アミノ―1―ナフトール塩酸塩を、硫酸の水溶液に加え、約103℃の温度で約16時間加熱して、4-アミノ-1-ナフトールを1,4-ナフタレンジオールに変換し、その生成物を洗浄したウエットケーキを真空オーブン中55~60℃で約24時間乾燥させる1,4―ナフタレンジオールの製造方法。」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「1,4―ナフタレンジオール」は、本件明細書【0024】の「上記式(1)で表される化合物は・・・1,4-ジヒドロキシナフタレン・・・が好ましい。」との記載にある「1,4-ジヒドロキシナフタレン」に合致する化合物であって、本件発明1の「前記ヒドロキシ置換芳香族化合物が、下記式(I)で表される化合物であり、・・・
[図:0001415284000002.jpg]
」との記載にある「ヒドロキシ置換芳香族化合物」に相当する。
b 甲1発明の24時間乾燥される「ウエットケーキ」は、酸水溶液の存在下で変換された「1,4-ナフタレンジオール」の生成物を洗浄したものであって、本件発明1の乾燥する工程で乾燥される「ヒドロキシ置換芳香族化合物」に相当する。
c 甲1発明の「ウエットケーキを真空オーブン中55~60℃で約24時間乾燥させる」は、本件発明1の「乾燥する工程」に相当する。
d 以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「 ヒドロキシ置換芳香族化合物を、乾燥する工程を含み、
前記ヒドロキシ置換芳香族化合物が、下記式(1)で表される化合物である、
ヒドロキシ置換芳香族化合物の製造方法。
[図:0001415284000003.jpg]
」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点:
乾燥が、本件発明1では「酸素濃度が1体積%未満及び乾燥温度が80~100℃の酸素以外のガスを主成分とするガス雰囲気」で行われ、「前記体積%とは、大気圧下での空気中の気体成分100体積%に対する、大気圧換算の気体の体積割合を意味する」のに対して、甲1発明では「真空オーブン中55~60℃」で行われる点。
(イ)相違点についての判断
a 新規性について
(a)相違点について
甲1発明における乾燥温度は「55~60℃」であり、本件発明1の乾燥温度の「80~100℃」と異なる、より低温の温度域である。
そうすると、相違点は、実質的な相違点である。
(b)まとめ
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
b 進歩性について
(a)相違点について
i 甲1発明は、甲1bの「本発明によれば、・・・1,4-ナフタレンジオールを優れた品質と収率で直接製造できる」との記載にあるように、1,4-ナフタレンジオールを優れた「収率」で製造することを目的とするものであって、その実施例Iにおいては「真空オーブン中」の雰囲気下で「55~60℃」という温度を採用して、理論値の95.7%の収率を示したとしているものである。そして、甲1には、目的物を優れた「収率」で製造するために、その乾燥時の好適な温度を設定したものである。
しかしながら、乾燥時の雰囲気の酸素濃度等の条件を特定の範囲の温度域に好適化することについては、示唆を含めて記載がなく、その優れた「収率」という目的に照らして、高い温度範囲での乾燥条件の設定は、熱分解による収率低減が懸念されるため、積極的な動機付けがあるとはいえず、むしろ阻害要因があるというべきである。
ii 加えて、甲1発明は、目的物を優れた「収率」で得るための最適な条件として、本件発明1の乾燥条件と異なる「真空オーブン中」で「55~60℃」という条件を選択しているといえるから、甲1発明の乾燥条件を、本件発明1の「酸素濃度が1体積%未満及び乾燥温度が80~100℃の酸素以外のガスを主成分とするガス雰囲気」に変更することに、動機付けがあるとはいえない。
iii また、甲2には、ポリウレタンの製造方法において関与する、ジヒドロキシ化合物(芳香族ジヒドロキシ化合物及び脂肪族ジヒドロキシ化合物)の、貯蔵タンク内の酸素濃度及び貯蔵温度が記載され(甲2a~甲2b)、甲3及び甲4には、芳香族ジヒドロキシ化合物が、塩基性条件下では酸化されやすいので、反応溶液中に酸化防止剤を添加することが好ましく、酸化防止剤として、重亜硫酸ナトリウム(Na2S2O5)、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、ハイドロサルファイトナトリウム(Na2S2O4)等が挙げられることが記載されている(甲3a~甲3b、甲4a~甲4b)が、これら甲2~甲4に記載された事項の全てを検討しても、甲1発明の「真空オーブン中」で「55~60℃」という乾燥条件を、本件発明1の「酸素濃度が1体積%未満及び乾燥温度が80~100℃の酸素以外のガスを主成分とするガス雰囲気」に変更することを動機付ける記載は、示唆を含めて見当たらない。
iv そして、本件発明1は、酸素濃度と乾燥温度を好適な範囲にすることにより、本件明細書の【0018】の「乾燥工程の酸素濃度は・・・1体積%未満がさらに好ましい。乾燥工程の酸素濃度が低いほど、ヒドロキシ置換芳香族化合物、例えば、ジヒドロキシナフタレンの変質を抑制し得る。」との記載、及び同【0021】の「乾燥温度は、ヒドロキシ置換芳香族化合物、例えば、ジヒドロキシナフタレンの変質を抑制できれば特に限定されないが、・・・より好ましい乾燥温度は、50~100℃、さらに好ましい乾燥温度は、60~90℃である。」との記載にあるとおりの優れた効果を奏するに至ったといえるものである。
v そうすると、甲1発明の「真空オーブン中55~60℃」という乾燥条件を、本件発明1の「酸素濃度が1体積%未満及び乾燥温度が80~100℃の酸素以外のガスを主成分とするガス雰囲気」で行うという乾燥条件に変更することは、当業者といえども、甲1に記載された発明及び甲2~甲4に記載された技術的事項から容易に想到し得たとはいえない。
(b)まとめ
したがって、本件発明1は、本件発明1の効果を検討するまでもなく、甲1に記載された発明及び甲2~甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
c 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明及び甲2~甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明2及び3について
本件発明2は、本件発明1において、「前記乾燥工程が、還元性物質の存在下で行われる」ことを特定して、技術的にさらに限定した発明である。
また、本件発明3は、本件発明2において、「前記還元性物質が、亜硫酸(塩)、重亜硫酸(塩)、ピロ亜硫酸(塩)、亜二チオン酸(塩)、三チオン酸(塩)、四チオン酸(塩)、チオ硫酸(塩)、ロンガリット、チオ酢酸(塩)、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ジメチルスルホキサイド、二酸化チオ尿素、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、亜リン酸(塩)及び次亜リン酸(塩)からなる群より選ばれる1種以上である」ことを特定して、技術的にさらに限定した発明である。
したがって、上記イにおいて本件発明1について説示したのと同様の理由により、本件発明1を技術的にさらに限定した本件発明2及び3も、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明及び甲2~甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 申立人の主張について
(ア)令和6年6月5日提出の意見書の3.の「イ 特許法第36条第4項第1号の要件違背について」の項において、申立人は『乾燥工程において乾燥温度を「55~60℃」を「80~100℃」に変更することにより、ヒドロキシ置換芳香族化合物の劣化抑制の効果が発現していることすら分からない』という旨の主張をしているところ、本件明細書の【0060】には「実施例1・・・80℃で24時間乾燥を行った。・・・2,6-ジヒドロキシナフタレンの劣化を抑制して乾燥することができた。」と記載され、同【0018】には「乾燥工程の酸素濃度が低いほど、・・・ジヒドロキシナフタレンの変質を抑制し得る。」との記載がなされており、そもそも申立人の当該主張は、本件発明を実施できる程度に発明の詳細な説明が記載されているか否かの実施可能要件と関係がなく、採用できない。
さらに、同項において、申立人は「大気下においてどのようにすれば酸素濃度1体積%未満の雰囲気に調整することができ、乾燥させることができるのかも理解することはできない」と主張するが、本件明細書の【0019】には「酸素濃度を低下させる方法は、・・・例えば、酸素以外のガスを主成分とするガスを乾燥機内に供給する方法を挙げることができる」との記載があるので、本件特許の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に違反するとはいえず、そもそも申立人の当該主張は、通知書の「意見は、特許権者による訂正の請求に付随して生じた事項を除き、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由に対して意見の内容が実質的に新たな内容を含むものであると認められるときは、実質的に新たな内容を含む部分は、新たな取消理由として採用されません」との指摘にある新たな内容の申立理由に相当するので、採用できない。
(イ)同意見書の3.の「ウ 特許法第36条第6項第2号の要件違背について」の項において、申立人は、訂正により追加された「酸素以外のガスを主成分とするガス」が追加され、訂正後の本件発明が不明確である旨を主張するが、そのうちの「酸素以外のガス」とは、字義どおり酸素以外の多種多様のガスを意味するものと普通に理解されるので、第三者にとって不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえず、そのうちの「主成分」とは、酸素濃度1体積%未満を除いた99体積%以上を占める主たる成分を意味するものとして普通に理解されるので、第三者にとって不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
さらに、同項において、申立人は「酸素濃度1体積%未満」の具体的な測定・算出(換算)の方法が不明確であると主張するが、本件明細書の【0020】の「酸素濃度を低下させる方法は、公知の方法が適用でき、・・・ベントから排出されるガスの酸素濃度を、酸素濃度計にて測定する方法を挙げることができる。」との記載にある方法で、当業者が測定できるものであり、そのような方法で測定できないとすべき合理的な理由ないし根拠は申立人によって示されておらず、そもそも測定をせずとも、例えば、純度100%の窒素ガスを用いたガス雰囲気における酸素濃度が1体積%未満の要件を満たすことは明らかなので、測定・算出方法が仮に不明確であるとしても、本件特許の請求項1に記載された「酸素濃度が1体積%未満」という発明特定事項それ自体が、第三者にとって不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないし、そもそも申立人の当該主張は、特許異議申立書に記載されていない新たな内容の申立理由に相当するので、採用できない。
(ウ)同意見書の3.の「エ 特許法第29条第2項の要件違背について」の項において、申立人は『乾燥温度の下限を50℃から80℃に変更すれば、当然に水の蒸気圧は上昇し、したがってより乾燥しやすくなることは当然であり、乾燥工程において乾燥温度を高めに設定することは、乾燥性の観点から当業者が容易になし得る設計的事項に過ぎない』旨を主張するが、乾燥温度を高めると、例えば熱分解による収率の低減が生じるなどの様々な懸念が想定されるので、単純に乾燥温度を高めに設定することが、当業者にとって適宜の設計事項であるとはいえないし、そもそも甲1にベストモードとして記載された「実施例1」の「55~60℃」の乾燥温度を、さらに高い温度にすることを動機付ける公知技術の存在は、同意見書を含む申立人の主張及び立証において具体的に示されていないので、当該主張は採用できない。
さらに、同項において、申立人は「10℃より遙かに高温の当初の50℃であれば未乾燥物は生じないのであり、乾燥温度の下限を50℃から80℃に変更したからといって、予期せぬ顕著な効果を奏することができるといえるものではないと理解するのが妥当である。つまり、乾燥温度を50℃から80℃に変更することは、当業者が容易になし得る設計的事項に過ぎない。」と主張するが、申立人が提示する証拠の全てを精査しても、本件発明1の「乾燥温度が80~100℃」という構成要件を導き出し得ないことは、上記に示したとおりであり、申立人の証拠方法によって当該構成要件を導き出し得ない以上、本件発明1の進歩性を否定することはできず、構成容易をいえない以上、本件発明1の効果の予想外性を検討するまでもない。
また、同項において、申立人は、本件発明2で、乾燥工程が還元性物質の存在下で行われ、本件発明3で、還元物質をさらに特定の化合物に特定しているが、乾燥時に酸化防止剤を用いる自体、当業者間で広く公知技術となっていることからすれば、予期せぬ顕著な効果又は異質な効果が奏されるものではないと主張するが、本件発明1の進歩性が否定されない以上、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2及び3の進歩性は否定できないので、当該主張は採用できない。
(エ)小括
したがって、申立人の上記主張はいずれも採用できない。
オ 取消理由1(新規性欠如)及び取消理由2(進歩性欠如)のまとめ
以上のとおり、本件発明1~3は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明及び甲2~甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1~3に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものではなく、また、同法同条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえない。
したがって、取消理由1及び2は理由がない。
2 取消理由通知において採用しなかった申立理由(甲1を主引例とする進歩性欠如において、甲2も含めた甲2~甲4を援用:本件発明1~3)についての判断
上記1の「(2)取消理由通知で通知した、取消理由1(新規性欠如)及び取消理由2(進歩性欠如)について」において、副引例又は周知例として引用しなかった甲2についても、副引例又は周知例として検討している。
したがって、上記1(2)に示した理由と同様の理由により、申立理由は理由がない。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び証拠、並びに、申立人による特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701037