特許異議申立
2024-700636
樹脂組成物、プリプレグ、金属箔張積層板、樹脂複合シート、および、プリント配線板
- 審判番号
- 2024-700636
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-502311
- 登録番号
- 7409369
- 請求日
- 2024年07月08日
- 審決日
- 2025年05月29日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱瓦斯化学株式会社
- 【権利者代理人】藍原 誠
- 【権利者代理人】松川 まり子
- 【異議申立人】尾田 哲之
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 岡谷 祐哉
- 審判官 小出 直也
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7409369号発明「樹脂組成物、プリプレグ、金属箔張積層板、樹脂複合シート、および、プリント配線板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7409369号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。
特許第7409369号の請求項1-12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7409369号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、令和2年2月26日を国際出願日(優先権主張 平成31年2月28日 (JP)日本国)とする特許出願(特願2021-502311号)であって、令和5年12月25日にその特許権の設定登録(請求項の数12)がされ、令和6年1月9日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月8日に特許異議申立人 尾田 哲之(以下「申立人」という。)により、本件特許の請求項1~12に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。
その後の経緯は、以下のとおりである。
令和6年 9月20日付け: 取消理由通知
同年11月21日 : 応対記録
同年11月22日 : 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年12月 6日付け: 手続補正指令書(方式、特許権者宛)
令和7年 1月 6日 : 訂正請求書を補正する手続補正書の提出
(特許権者)
同年 1月27日付け: 訂正請求があった旨の通知(申立人宛)
同年 2月27日 : 意見書の提出(申立人)
第2 訂正の適否
1 訂正請求書の補正の適否
令和7年1月6日の手続補正書による、令和6年11月22日の訂正請求書の補正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第133条第1項の規定により、訂正請求書について補正をすべきことを命じられた場合において、当該命じられた事項についてしたものであるから、同法第131条の2第1項第3号に該当する。
よって、上記補正を認める。
2 訂正の内容
令和7年1月6日の手続補正書によって補正された、令和6年11月22日に提出された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の趣旨は、「特許第7409369号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~12について訂正することを求める。」というものであって、その訂正の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
(訂正事項1-1)
特許請求の範囲の請求項1において、「多官能ビニル芳香族重合体(A)と熱硬化性化合物(B)とを含み、ラジカル重合開始剤を含まない樹脂組成物であって、前記多官能ビニル芳香族重合体(A)が、式(V)で表される構成単位を有する重合体であり、プリント配線板の絶縁層形成用である、樹脂組成物。」と記載されているのを、「多官能ビニル芳香族重合体(A)と熱硬化性化合物(B)とを含み、ラジカル重合開始剤を含まない樹脂組成物であって、前記多官能ビニル芳香族重合体(A)が、式(V)で表される構成単位を有する重合体であり、前記熱硬化性化合物(B)がマレイミド基を有し、プリント配線板の絶縁層形成用である、樹脂組成物。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3~12も同様に訂正する)。
(訂正事項1-2)
特許請求の範囲の請求項1に「樹脂組成物。」と記載されているのを、「熱硬化性樹脂組成物。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3~12も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
(訂正事項2-1)
特許請求の範囲の請求項2に「前記熱硬化性化合物(B)がシアナト基、ビニル基、マレイミド基、およびナジイミド基からなる群より選ばれる1つ以上の官能基を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。」と記載されているのを、「多官能ビニル芳香族重合体(A)と熱硬化性化合物(B)とを含み、ラジカル重合開始剤を含まない樹脂組成物であって、前記多官能ビニル芳香族重合体(A)が、式(V)で表される構成単位を有する重合体であり、前記熱硬化性化合物(B)がマレイミド基を有し、前記熱硬化性化合物(B)が式(31)~(34)のいずれかで表される構成単位を含むマレイミド化合物を含み、プリント配線板の絶縁層形成用である、樹脂組成物。
【化2】
[図:0001425743000001.jpg]
(式中、Arは芳香族炭化水素連結基を表す。*は、結合位置を表す。)
【化3】
[図:0001425743000002.jpg]
(式(31)中、R51、R52、R53およびR54はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~8のアルキル基またはフェニル基を表す。)
【化4】
[図:0001425743000003.jpg]
(式(32)中、R56はそれぞれ独立にメチル基またはエチル基を表し、R57はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。)
【化5】
[図:0001425743000004.jpg]
(式(33)中、R58はそれぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基を表す。)
【化6】
[図:0001425743000005.jpg]
(式(34)中、R59はそれぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基を表す。)」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3~12も同様に訂正する)。
(訂正事項2-2)
特許請求の範囲の請求項2に「樹脂組成物。」と記載されているのを、「熱硬化性樹脂組成物。」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3~12も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「樹脂組成物。」と記載されているのを、「熱硬化性樹脂組成物。」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4~12も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「樹脂組成物。」と記載されているのを、「熱硬化性樹脂組成物。」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5~12も同様に訂正する)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「樹脂組成物。」と記載されているのを、「熱硬化性樹脂組成物。」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6~12も同様に訂正する)。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「樹脂組成物。」と記載されているのを、「熱硬化性樹脂組成物。」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7~12も同様に訂正する)。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「樹脂組成物。」と記載されているのを、「熱硬化性樹脂組成物。」に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8~12も同様に訂正する)。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「樹脂組成物。」と記載されているのを、「熱硬化性樹脂組成物。」に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9~12も同様に訂正する)。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に「樹脂組成物」と記載されているのを、「熱硬化性樹脂組成物」に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10および12も同様に訂正する)。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項11に「樹脂組成物」と記載されているのを、「熱硬化性樹脂組成物」に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項12に「樹脂組成物」と記載されているのを、「熱硬化性樹脂組成物」に訂正する。
(12)訂正事項12
明細書の段落【0063】に「<硬化促進剤(触媒)>
本実施形態に係る樹脂組成物は、硬化促進剤をさらに含んでもよい。硬化促進剤としては、特に限定されないが、例えば、有機金属塩類(例えば、オクチル酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅、アセチルアセトン鉄、オクチル酸ニッケル、オクチル酸マンガン等)、フェノール化合物(例えば、フェノール、キシレノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、オクチルフェノール、ノニルフェノール等)、アルコール類(例えば、1-ブタノール、2-エチルヘキサノール等)、イミダゾール類(例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、 2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等)、およびこれらのイミダゾール類のカルボン酸若しくはその酸無水類の付加体等の誘導体、アミン類(例えば、ジシアンジアミド、ベンジルジメチルアミン、4-メチル-N,N-ジメチルベンジルアミン等)、リン化合物(例えば、ホスフィン系化合物、ホスフィンオキシド系化合物、ホスホニウム塩系化合物、ダイホスフィン系化合物等)、エポキシ-イミダゾールアダクト系化合物が挙げられる。
好ましい硬化促進剤は、イミダゾール類および有機金属塩であり、イミダゾール類がより好ましい。」と記載されているのを、
「<硬化促進剤(触媒)>
本実施形態に係る樹脂組成物は、硬化促進剤をさらに含んでもよい。硬化促進剤としては、特に限定されないが、例えば、有機金属塩類(例えば、オクチル酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅、アセチルアセトン鉄、オクチル酸ニッケル、オクチル酸マンガン等)、フェノール化合物(例えば、フェノール、キシレノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、オクチルフェノール、ノニルフェノール等)、アルコール類(例えば、1-ブタノール、2-エチルヘキサノール等)、イミダゾール類(例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、 2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等)、およびこれらのイミダゾール類のカルボン酸若しくはその酸無水類の付加体等の誘導体、アミン類(例えば、ジシアンジアミド、ベンジルジメチルアミン、4-メチル-N,N-ジメチルベンジルアミン等)、リン化合物(例えば、ホスフィン系化合物、ホスホニウム塩系化合物、ダイホスフィン系化合物等)、エポキシ-イミダゾールアダクト系化合物が挙げられる。
好ましい硬化促進剤は、イミダゾール類および有機金属塩であり、イミダゾール類がより好ましい。」に訂正する。
3 一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1~12について、請求項2~12は、それぞれ、請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~12に対応する訂正後の請求項1~12は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
訂正事項12は、請求項1に係る発明の熱硬化性樹脂組成物に関して、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0063】に記載された、熱硬化性樹脂組成物に配合可能な硬化促進剤の一部を削除するものであるから、訂正事項12は上記一群の請求能の全てについて行うものである。
したがって、訂正事項1~12は一群の請求項1~12に対してなされたものである。
4 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1による訂正は、本件明細書の【0033】の記載に基づき、訂正前の請求項1の「熱硬化性化合物(B)」について、「前記熱硬化性化合物(B)がマレイミド基を有し」という限定を行い(訂正事項1-1)、かつ「樹脂組成物」を本件明細書の【0011】の記載に基づき、「熱硬化性樹脂組成物」に限定するものである(訂正事項1-2)から、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しないものとし、独立請求項へ改めたうえで(訂正事項2-1)、さらに訂正前の熱硬化性化合物(B)が「シアナト基、ビニル基、マレイミド基、およびナジイミド基からなる群より選ばれる1つ以上の官能基を有する」とされていたのを、本件明細書の【0050】~【0053】の記載に基づき「熱硬化性化合物(B)が式(31)~(34)のいずれか表される構成単位を含むマレイミド化合物を含」むものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」、及び同法同条同項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項3~11による訂正は、訂正前の請求項3~11に記載された「樹脂組成物」を、本件明細書の【0011】の記載に基づき、「熱硬化性樹脂組成物」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項12による訂正は、訂正前の明細書の【0063】に「硬化促進剤」の例として択一的に記載されていた「ホスフィンオキシド系化合物」を削除するものであり、訂正前の請求項1~12における「ラジカル重合開始剤」に「ホスフィンオキシド系化合物」が含まれ、硬化促進剤には含まれないことを明瞭にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、新規事項を追加するものでなく、また実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものでもない。
5 本件訂正後の独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正前の請求項1~12に対してされているので、当該請求項における訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
6 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1~12に係る発明(以下、順に「本件発明1」~「本件発明12」のようにいい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
多官能ビニル芳香族重合体(A)と熱硬化性化合物(B)とを含み、ラジカル重合開始剤を含まない樹脂組成物であって、
前記多官能ビニル芳香族重合体(A)が、式(V)で表される構成単位を有する重合体であり、
前記熱硬化性化合物(B)がマレイミド基を有し、
プリント配線板の絶縁層形成用である、熱硬化性樹脂組成物。
【化1】
[図:0001425743000006.jpg]
(式中、Arは芳香族炭化水素連結基を表す。*は、結合位置を表す。)
【請求項2】
多官能ビニル芳香族重合体(A)と熱硬化性化合物(B)とを含み、ラジカル重合開始剤を含まない樹脂組成物であって、
前記多官能ビニル芳香族重合体(A)が、式(V)で表される構成単位を有する重合体であり、
前記熱硬化性化合物(B)がマレイミド基を有し、
前記熱硬化性化合物(B)が式(31)~(34)のいずれかで表される構成単位を含むマレイミド化合物を含み、
プリント配線板の絶縁層形成用である、熱硬化性樹脂組成物。
【化2】
[図:0001425743000007.jpg]
(式中、Arは芳香族炭化水素連結基を表す。*は、結合位置を表す。)
【化3】
[図:0001425743000008.jpg]
(式(31)中、R51、R52、R53およびR54はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~8のアルキル基またはフェニル基を表す。)
【化4】
[図:0001425743000009.jpg]
(式(32)中、R56はそれぞれ独立にメチル基またはエチル基を表し、R57はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。)
【化5】
[図:0001425743000010.jpg]
(式(33)中、R58はそれぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基を表す。)
【化6】
[図:0001425743000011.jpg]
(式(34)中、R59はそれぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基を表す。)
【請求項3】
樹脂組成物中の樹脂成分の総量100質量部に対する、前記熱硬化性化合物(B)の含有量が、5~95質量部である、請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂組成物中の樹脂成分の総量100質量部に対する、前記多官能ビニル芳香族重合体(A)の含有量が、5~95質量部である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記多官能ビニル芳香族重合体(A)が、ジビニル芳香族化合物由来の構成単位(a)、および、モノビニル芳香族化合物由来の構成単位(b)を有し、
前記ジビニル芳香族化合物由来の構成単位(a)が、式(V1)で表される構成単位、式(V2)で表される構成単位、および、式(V3)で表される構成単位の少なくとも1つを含み、
前記モノビニル芳香族化合物由来の構成単位(b)が、式(V4)で表される構成単位を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化7】
[図:0001425743000012.jpg]
(式(V1)~(V3)中、L1は、炭素数6~22の芳香族炭化水素連結基である。*は、結合位置を表す。)
【化8】
[図:0001425743000013.jpg]
(式(V4)中、L2は、炭素数6~22の芳香族炭化水素連結基であり、RV1は、水素原子または炭素数1~12の炭化水素基である。*は、結合位置を表す。)
【請求項6】
前記ジビニル芳香族化合物が、ジビニルベンゼンであり、前記モノビニル芳香族化合物が、スチレン、o-エチルビニルベンゼン、m-エチルビニルベンゼン、および、p-エチルビニルベンゼンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項5に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
さらに充填材(C)を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
樹脂組成物中の樹脂成分の総量100質量部に対する、前記充填材(C)の含有量が、10~500質量部である、請求項7に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
基材と、請求項1~8のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物とから形成された、プリプレグ。
【請求項10】
請求項9に記載のプリプレグから形成された少なくとも1つの層と、前記プリプレグから形成された層の片面または両面に配置された金属箔とを含む、金属箔張積層板。
【請求項11】
支持体と、前記支持体の表面に配置された請求項1~8のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物から形成された層とを含む、樹脂複合シート。
【請求項12】
絶縁層と、前記絶縁層の表面に配置された導体層とを含むプリント配線板であって、前記絶縁層が、請求項1~8のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物から形成された層および請求項9に記載のプリプレグから形成された層の少なくとも一方を含む、プリント配線板。」
第4 特許異議申立書に記載した申立理由、証拠方法、当審において通知した取消理由
1 申立理由
特許異議申立書に記載した申立理由は、次のとおりである。
申立理由1(甲第1号証による新規性欠如)
本件特許の請求項1~12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~12についての特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
申立理由2(甲第1号証による進歩性欠如)
本件特許の請求項1~12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~12についての特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
申立理由3(甲第2号証による新規性欠如)
本件特許の請求項1~12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~12についての特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
申立理由4(甲第2号証による進歩性欠如)
本件特許の請求項1~12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証、甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~12についての特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
申立理由5(明確性要件違反)
本件特許の請求項1~12に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(具体的な理由の概要)
本件発明1~12は「ラジカル重合開始剤を含まない」というものであり、ラジカル重合開始剤として本件訂正前の明細書の【0059】に「ホスフィンオキサイド化合物」が記載されている。一方、本件訂正前の明細書の【0063】には「硬化促進剤」を加えてもよい旨の記載があり、その例として「ホスフィンオキシド系化合物」が記載されている。
そうすると、本件発明1~12において、本件訂正前の明細書には、実質的に同じ化合物と認められる「ホスフィンオキサイド化合物」と「ホスフィンオキシド系化合物」が、組成物に配合してはいけないものと配合してもよいものとして記載されており、その結果「ラジカル重合開始剤」の定義が不明確である。
2 証拠方法
(1)申立人が申立書に添付して提出した証拠方法
甲第1号証:特開2006-274169号公報
甲第2号証:国際公開第2005/073264号
甲第3号証:特開2018-62568号公報
甲第4号証:特開2018-123196号公報
(2)特許権者が令和6年11月22日の意見書に添付して提出した証拠方法
乙第1号証:日油株式会社ホームページ、パーヘキサ25B
(https://www.nof.co.jp/files/product/catalog/kobetsu/PERHEXA%2025B.pdf)
(3)申立人が令和7年2月27日の意見書に添付して提出した証拠方法
参考資料1:「高誘電率ゲート絶縁膜の信頼性」
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/reajshinrai/29/4/29_KJ00004652371/_pdf/-char/ja)
参考資料2:「デンカ株式会社 製品情報」(fttps://www.denka.co.jp/product/detail_00359/)
参考資料3:「株式会社レゾナック (ご参考)各種フィラーの物性値」
(https://www.resonac.com/sites/default/files/2023-06/pdf-filler-Reference-20230619_v1.pdf)
以下、上記証拠方法をそれぞれ「甲1」~「甲4」、「乙1」、「参1」~「参3」のようにいう。
3 取消理由の概要
当審が令和6年9月20日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由1(甲1による新規性欠如)
本件特許の請求項1~12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~12についての特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由2(甲1による進歩性欠如)
本件特許の請求項1~12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~12についての特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由3(甲2による新規性欠如)
本件特許の請求項1~12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~12についての特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由4(甲2による進歩性欠如)
本件特許の請求項1~12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~12についての特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由5(明確性要件違反)
本件特許の請求項1~12に係る発明についての特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的な理由の概要は、申立理由5と同様である。
第5 当審の判断
当審は、当審において通知した取消理由及び申立書に記載した申立理由によっては、本件特許の請求項1~12に係る特許を取り消すことはできないものと判断する。
1 取消理由1(甲1による新規性欠如)、取消理由2(甲1による進歩性欠如)、申立理由1(甲1による新規性欠如)、申立理由2(甲1による進歩性欠如)について
取消理由1、2、申立理由1、2は、いずれも甲1を主引用文献とするものであるから、まとめて検討する。
(1)本件発明の技術的意義
本件明細書の【0011】には、次の記載がある。なお、下線は当審において付したものである。
「本実施形態に係る樹脂組成物は、多官能ビニル芳香族重合体(A)と熱硬化性化合物(B)とを含み、ラジカル重合開始剤を含まないことを特徴とする。
このような構成とすることにより、誘電率および誘電正接が低く、耐熱性が高い樹脂組成物を提供可能になる。さらに、ピール強度を高くすることも可能になる。また、その他の各種性能も向上させることが可能になる。特に近年、通信や動作信号が高周波数化する傾向にあるが、本実施形態に係る樹脂組成物は、高周波数領域でも、低誘電率・低誘電正接を達成し、耐熱性を高くすることが可能である。
この理由は、以下に限定されないが、以下のとおりであると考えられる。すなわち、本実施形態に係る樹脂組成物は、多官能ビニル芳香族重合体(A)や熱硬化性化合物(B)が有する熱硬化性基が熱によって硬化する熱硬化性樹脂組成物である。このような樹脂組成物が熱ラジカル重合開始剤を含まない場合、多官能ビニル芳香族重合体(A)の重合開始温度と熱硬化性化合物(B)の重合開始温度とが近くなり、多官能ビニル芳香族重合体(A)と熱硬化性化合物(B)が共に十分に硬化でき、その結果、低誘電率・低誘電正接、高耐熱性を達成できると考えられる。また、光ラジカル重合開始剤を含まないことにより、保存時に遮光をしなくても、多官能ビニル芳香族重合体(A)や熱硬化性化合物(B)の光硬化を効果的に抑制できる。」
また、本件明細書には、本件発明1の要件を全て満たす「実施例1」と、「熱ラジカル重合開始剤1質量部を追加した以外は、実施例1と同様にして」製造された「参考例1」が記載されており、10GHzにおける比誘電率Dkの値が実施例1が2.30であるのに対し、参考例1が2.45と上昇し、10GHzにおける誘電正接Dfが実施例1が0.0009であるのに対し、参考例1が0.0026と上昇し、ピール強度が実施例1が0.75(kN/m)であるのに対し、参考例1が0.60(kN/m)と低下し、ガラス転移温度が実施例が240℃であるのに対し、参考例1が228℃と低下し、熱膨張係数(CTE)が実施例1が63(ppm/℃)であるのに対し、参考例1が69(ppm/℃)と上昇しており、「熱ラジカル重合開始剤」を含まないことによって、誘電率、誘電正接、熱膨張係数が低く、耐熱性及びピール強度が高くなることが示されている。
そして、そのような効果が、マレイミド系化合物である「ビフェニルアラルキル型マレイミド」(実施例1)の存在下で発現すること、及び、マレイミド化合物を「ビフェニルアラルキル型マレイミド」と「フェニルエーテル型マレイミド」との組合せ(実施例2)及び「Bis型マレイミド(ケイ・アイ化成社製、BMI-BisM(商品名)」(実施例3)に置き換えた場合でも得られることが示されている。
これらのことからみて、本件発明の技術的意義は、多官能ビニル芳香族重合体(A)と熱硬化性化合物(B)とを含み、ラジカル重合開始剤を含まない組成物とすることによって、誘電率および誘電正接が低く、耐熱性が高く、ピール強度が高い樹脂組成物が提供されることであると認められ、そのような効果が、「熱硬化性化合物(B)」が「マレイミド基を有」する場合においても得られるというものである。
(2)甲1に記載された発明
甲1には、
「(A)成分:ジビニル芳香族化合物(a)及びエチルビニル芳香族化合物(b)からなる単量体由来の構造単位を有する多官能ビニル芳香族共重合体中に、ジビニル芳香族化合物(a)に由来する繰り返し単位を20モル%以上含有し、かつ、下記式(a1)及び(a2)
【化1】
[図:0001425743000014.jpg]
(式中、R5、R6は炭素数6~30の芳香族炭化水素基を示す。)で表されるジビニル芳香族化合物(a)由来のビニル基を含有する構造単位のモル分率が下記式(2)
(a1)/[(a1)+(a2)]≧0.5 (2)
を満足し、かつ、数平均分子量が、300~100000である溶剤可溶性多官能ビニル芳香族共重合体と、
(B)成分:エポキシ基、シアネート基、ビニル基、エチニル基、イソシアネート基及び水酸基からなる群から選ばれる一つ以上の官能基を含み、かつMnが150~100000である熱硬化性樹脂を、
必須成分とする硬化性樹脂組成物であって、(A)成分と(B)成分の合計に対する(A)成分の配合量が1~99wt%であり、(B)成分の配合量が1~99wt%であることを特徴とする硬化性樹脂組成物。」が記載されており(請求項1)、その具体例として実施例1が記載されている。
実施例1で用いられる「共重合体A」については【0102】に製造工程が、【0103】にその構造についての説明が記載されているところ、【0103】に記載された「前記式(2)及び(3)で表される構造単位の総量に占める式(2)で表される構造単位のモル分率」は、甲1に「式(2)」についての説明がないことや、請求項1では「(a1)/[(a1)+(a2)]≧0.5」を満たすとされていることからみて、「前記式(a1)及び(a2)で表される構造単位の総量に占める式(a1)で表される構造単位のモル分率」を意味するものと認められる。
そうすると、実施例1に着目すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「L-10(旭チバ製シアネートエステル樹脂)を7.0gと、下記の共重合体Aを3.0g、ナフテン酸コバルトを0.2gとを配合したワニス
共重合体A:ジビニルベンゼン由来の構造単位を97モル%、エチルビニルベンゼン由来の構造単位を3モル%含有し、Mw72800、Mnが13000、分子量分布5.6であり、インダン構造が全ての単量体の構造単位に対して2.1モル%存在し、下記式(a1)及び(a2)で表される構造単位の総量に占める式(a1)で表される構造単位のモル分率が0.99であり、Tgが291℃、軟化温度が300℃以上、熱分解温度が418℃、炭化歩留まりが29%である、ジビニルベンゼン-エチルビニルベンゼン共重合体
[図:0001425743000015.jpg]
(式中、R5、R6は炭素数6~30の芳香族炭化水素基を示す。)」
(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の共重合体Aは、構造単位(a1)を有するものであり、構造単位(a1)は本件発明1の式(V)で表される構成単位に相当するから、甲1発明の共重合体Aは本件発明1の「式(V)で表される構成単位を有する重合体」である「多官能ビニル芳香族重合体(A)」に相当する。
甲1発明の「L-10(旭チバ製シアネートエステル樹脂)」は、甲1の請求項1に記載された「(B)成分:エポキシ基、シアネート基、ビニル基、エチニル基、イソシアネート基及び水酸基からなる群から選ばれる一つ以上の官能基を含み、かつMnが150~100000である熱硬化性樹脂」の具体例であるから、本件発明1の(B)と「熱硬化性化合物」である限りにおいて一致する。
そして、甲1の【0085】に「本発明の硬化性樹脂組成物は、後述するように加熱等の手段により架橋反応を起こして硬化するが、その際の反応温度を低くしたり不飽和基の架橋反応を促進する目的でビニル基の重合を開始しうるカチオン又はラジカル活性種を、熱又は光によって生成する硬化触媒を含有させて使用してもよい。」と記載されるように、ラジカル開始剤は硬化させる際に架橋反応を促進する目的で含有させてもよい任意成分にすぎないところ、甲1発明の「ワニス」は、樹脂組成物であって、かつ、ラジカル重合開始剤に相当する「25B」(【0107】)を含んでいないから、本件発明1の「ラジカル重合開始剤を含まない樹脂組成物」に相当する。
また、甲1発明の組成物は、熱硬化して樹脂になる「L-10」を含んでいるから、本件発明1の「熱硬化性樹脂組成物」に相当する。
したがって、両者は
「多官能ビニル芳香族重合体(A)と熱硬化性化合物(B)とを含み、ラジカル重合開始剤を含まない樹脂組成物であって、
前記多官能ビニル芳香族重合体(A)が、式(V)で表される構成単位を有する重合体である、熱硬化性樹脂組成物。
【化1】
[図:0001425743000016.jpg]
(式中、Arは芳香族炭化水素連結基を表す。*は、結合位置を表す。)」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
「熱硬化性化合物(B)」が、本件発明1では「マレイミド基を有」するものであるのに対し、甲1発明ではL-10(旭チバ製シアネートエステル樹脂)であり、マレイミド基を有するものではない点
<相違点2>
「熱硬化性樹脂組成物」が、本件発明1では「プリント配線板の絶縁層形成用」であるのに対し、甲1発明ではそのことが不明な点
イ 相違点についての判断
相違点1について検討する。
甲1には、その請求項1において、(B)成分として「エポキシ基、シアネート基、ビニル基、エチニル基、イソシアネート基及び水酸基からなる群から選ばれる一つ以上の官能基を含み、かつMnが150~100000である熱硬化性樹脂」が用いられると記載されている。そして、甲1には、(B)成分の例として「多官能性マレイミド」が記載されている(【0051】、【0052】)ものの、甲1発明において、あえて「多官能マレイミド」を選択する動機付けはない。
また、そのことによる効果について検討すると、本件発明の技術的意義は、上記(1)で示すように、「多官能ビニル芳香族重合体(A)と熱硬化性化合物(B)とを含み、ラジカル重合開始剤を含まない組成物とすることによって、誘電率および誘電正接が低く、耐熱性が高く、ピール強度が高い樹脂組成物が提供されること」であり、そのような効果が、熱硬化性化合物(B)として「マレイミド基を有」するものを用いても得られるというものである。
これに対し、甲1には「ラジカル重合開始剤」については、【0085】に「本発明の硬化性樹脂組成物は、後述するように加熱等の手段により架橋反応を起こして硬化するが、その際の反応温度を低くしたり不飽和基の架橋反応を促進する目的でビニル基の重合を開始しうるカチオン又はラジカル活性種を、熱又は光によって生成する硬化触媒を含有させて使用してもよい。この硬化触媒の量は(A)成分と(B)成分の和を基準として0.0005~10重量%、好ましくは0.01~8重量%である。」と記載されているにすぎず、ラジカル活性種(ラジカル重合開始剤)を含まないことによって、誘電率、誘電正接、熱膨張係数が低く、耐熱性及びピール強度が高くなることは記載がない。
また、甲1にはラジカル重合開始剤を用いない甲1発明以外にも、ラジカル重合開始剤である「25B」(日本油脂製ラジカル重合開始剤(パーヘキサ25B))を含む実施例9も記載されているが、実施例9が上記の効果の観点で特に劣る旨の記載はないし、実施例1と実施例9は熱硬化性化合物の種類やその使用量、その他の成分も大きく異なるものであって、ラジカル重合開始剤を使用したか否かだけが異なるものではないから、実施例1と実施例9を比較しても、ラジカル重合開始剤を含まないことによる効果を読み取ることはできない。
そのため、当業者であっても、甲1発明の組成物において、熱硬化性樹脂である「L-10」を、甲1の【0051】、【0052】に記載された「多官能性マレイミド」に置き換えた組成物が、誘電率、誘電正接、熱膨張係数が低く、耐熱性及びピール強度が高くなるという効果を予測することができるとはいえない。
したがって、甲1発明において、相違点1に係る構成とすることは当業者が容易に想到することではない。
そのため、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和7年2月27日に提出した意見書において、申立理由1、2に関して主に以下の点を主張する。
甲1の多官能性マレイミドは、本件発明1の熱硬化性化合物(B)に相当し、甲1の硬化性組成物において、ラジカル重合開始剤は必須成分ではなく、任意成分であるから、甲1にはラジカル重合開始剤を含まない硬化性樹脂組成物も記載されているに等しいから、本件発明1と甲1に記載の発明とは実質同一であり、相違点があるとしても、当業者が容易に想到することができたものである。
上記主張について検討すると、甲1発明と本件発明1とは上記アで示した相違点1において相違するし、甲1には、「多官能ビスマレイミド」を用いて、かつラジカル重合開始剤を含まない具体例の記載もないから、相違点1は実質的な相違点である。
そして、甲1発明1において、相違点1に係る構成とすることが当業者にとって容易でないことは、上記イで示したとおりである。
したがって、申立人の主張は採用することができない。
エ 本件発明1についてのまとめ
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとも、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえず、取消理由1、2及び申立理由1、2によっては、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。
(3)本件発明2~12について
本件発明3~12は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明2も、本件発明1を引用しない形式に訂正しただけであり、実質的に本件発明1の構成要件を全て満たすものであるから、本件発明1が甲1に記載された発明であるとも、また甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明2~12についても同様に判断される。
(4)取消理由1、2、申立理由1、2についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由1、2及び申立理由1、2によっては、本件発明1~12に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由3(甲2による新規性欠如)、取消理由4(甲2による進歩性欠如)、申立理由3(甲2による新規性欠如)、申立理由4(甲2による進歩性欠如)について
取消理由3、4、申立理由3、4は、いずれも甲2を主引用文献とするものであるから、まとめて検討する。
(1)甲2に記載された発明
甲2の請求項1に着目すると、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「(A)成分:数平均分子量Mnが700~4,000の両末端にビニル基を有する式(1)
[化1]
[図:0001425743000017.jpg]
(ここで、Zは炭素数1以上の有機基であり、酸素原子を含むこともある。Tはビニル基である。a及びbは少なくともいずれか一方が0でない0~20の整数を示す。i及びjはそれぞれ独立に0又は1の整数を示す。-(O-X-O)-は式(2)で表され、-(Y-O)-は式(3)で表される1種類以上の構造を示す。)
[化2]
[図:0001425743000018.jpg]
(ここで、Aは、単結合、炭素数20以下の直鎖状、分岐状又は環状の炭化水素基である。R1、R2、R7、R8、R9、R10は、独立にハロゲン原子又は炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基を示す。R3、R4、R5、R6、R11、R12は、独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基を示す。)
で表されるポリフェニレンエーテルオリゴマーと、
(B)成分:ジビニル芳香族化合物(a)及びエチルビニル芳香族化合物(b)からなる単量体由来の構造単位を有する多官能ビニル芳香族共重合体であって、ジビニル芳香族化合物(a)に由来する繰り返し単位を20モル%以上含有し、かつ、下記式(a1)及び(a2)
【化3】
[図:0001425743000019.jpg]
(式中、R13は炭素数6~30の芳香族炭化水素基を示し、R14は炭素数6~30の芳香族炭化水素基を示す。)で表されるジビニル芳香族化合物(a)由来のビニル基を含有する構造単位のモル分率が、(a1)/[(a1)+(a2)]≧0.5を満足し、かつゲル浸透クロナトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が600~30,000であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が20.0以下である溶剤可溶性の多官能ビニル芳香族共重合体とからなる硬化性樹脂組成物であり、(A)成分及び(B)成分の合計に対する(A)成分の配合量が20~98wt%、(B)成分の配合量が2~80wt%であることを特徴とする硬化性樹脂組成物。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の(A)成分は、「両末端にビニル基を有する」「ポリフェニレンエーテルオリゴマー」であって、[0087]に「加熱等の手段により架橋反応を起こして硬化する」、及び「不飽和基の架橋反応」と記載されるように、熱によって両末端のビニル基が架橋反応を起こして硬化するものであるし、本件明細書の【0033】に「熱硬化性化合物」の例として示されている「ビニル基・・・を有する変性ポリフェニレンエーテル化合物」に相当するものであるから、「熱硬化性化合物」である限りにおいて、本件発明1の「熱硬化性化合物(B)」に相当する。
甲2発明の(B)成分は、「多官能ビニル芳香族共重合体」であって、そこに含まれる式(a1)の構成単位は、本件発明1の「式(V)で表される構成単位」に相当するから、甲2発明の(B)成分は、本件発明1の「多官能ビニル芳香族重合体(A)」であって、かつ、
「【化1】
[図:0001425743000020.jpg]
(式中、Arは芳香族炭化水素連結基を表す。*は、結合位置を表す。)
で表される構成単位を有する重合体」に相当する。
また、甲2発明の組成物は、熱硬化して樹脂になる(A)成分を含むものであるから、「熱硬化性樹脂組成物」であるといえる。
そうすると、両者は
「多官能ビニル芳香族重合体(A)と熱硬化性化合物(B)とを含む樹脂組成物であって、
前記多官能ビニル芳香族重合体(A)が、式(V)で表される構成単位を有する重合体である、熱硬化性樹脂組成物。
【化1】
[図:0001425743000021.jpg]
(式中、Arは芳香族炭化水素連結基を表す。*は、結合位置を表す。)」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点3>
「熱硬化性樹脂組成物」が、本件発明1では「ラジカル重合開始剤を含まない」ものであるのに対し、甲2発明ではそのことが不明な点
<相違点4>
「熱硬化性化合物(B)」が、本件発明1では「マレイミド基を有」するものであるのに対し、甲2発明ではマレイミド基を有さない点
<相違点5>
「熱硬化性樹脂組成物」が、本件発明1では「プリント配線板の絶縁層形成用」であるのに対し、甲2発明ではそのことが不明な点
イ 相違点についての判断
相違点3について検討する。
甲2には、「本発明の樹脂組成物は後述するように加熱等の手段により架橋反応を起こして硬化するが、その際の反応温度を低くしたり不飽和基の架橋反応を促進する目的でラジカル開始剤を含有させて使用してもよい。」([0087])との記載はあるものの、「ラジカル重合開始剤」を含まない具体的な実施例の記載はない。
そして、1(1)で言及したように、本件発明の技術的意義は、多官能ビニル芳香族重合体(A)と熱硬化性化合物(B)とを含み、ラジカル重合開始剤を含まない組成物とすることによって、誘電率および誘電正接が低く、耐熱性が高く、ピール強度が高い樹脂組成物が提供されることであると認められるところ、甲2には「ラジカル重合開始剤を含まない」ことにより、「誘電率および誘電正接が低く、耐熱性が高く、ピール強度が高い樹脂組成物が提供される」ことは何ら記載がないし、本件特許の優先日において、そのような効果が得られることを予測させるような技術常識があるものとも認められない。
そうすると、相違点3は実質的な相違点であり、甲2発明において、相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到することではない。
また、甲3の【0071】、甲4の【0103】にはラジカル重合開始剤を含まない樹脂組成物の実施例が記載されているにすぎず、これらの記載を参酌しても、甲2発明において、相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到することではない。
したがって、相違点4、5について検討するまでもなく、本件発明1は甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明及び甲3、甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和7年2月27日に提出した意見書において、本件発明1のうち申立理由3、4に関して、主に以下の点を主張する。
甲2の多官能性マレイミドは、本件発明1の熱硬化性化合物(B)に相当し、甲2の硬化性組成物において、ラジカル重合開始剤は必須成分ではなく、任意成分であるから、甲2にはラジカル重合開始剤を含まない硬化性樹脂組成物も記載されているに等しく、本件発明1と甲2に記載の発明とは実質同一である。
上記主張について検討すると、甲2発明と本件発明1とは、少なくとも上記アで示した相違点3において相違するし、甲2には、「ラジカル重合開始剤」を含まない具体例の記載もなく、また、「ラジカル重合開始剤を含まない」ことによって「誘電率および誘電正接が低く、耐熱性が高く、ピール強度が高い樹脂組成物が提供される」ことについても記載がないから、相違点3は実質的な相違点である。
そして、甲2発明において、相違点3に係る構成とすることが当業者にとって容易でないことは、上記イで示したとおりである。
したがって、申立人の主張は採用することができない。
エ 本件発明1についてのまとめ
よって、本件発明1は、甲2に記載された発明であるとも、また、甲2に記載された発明及び甲3、甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえず、取消理由3、4及び申立理由3、4によっては、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。
(3)本件発明2~12について
本件発明3~12は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明2も、本件発明1を引用しない形式に訂正しただけであり、実質的に本件発明1の構成要件を全て満たすものであるから、本件発明1が甲2に記載された発明であるとも、また甲2に記載された発明及び甲3、甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明2~12についても同様に判断される。
(4)取消理由3、4、申立理由3、4についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由3、4及び申立理由3、4によっては、本件発明1~12に係る特許を取り消すことはできない。
3 取消理由5(明確性要件違反)、申立理由5(明確性要件違反)について
取消理由5、申立理由5の概要は上記第4で示したとおりであるところ、訂正により、本件明細書の【0063】に記載されていた硬化促進剤の例から「ホスフィンオキシド系化合物」が削除された。
これにより、【0059】にラジカル重合開始剤の例として記載されている「ホスフィンオキサイド化合物」はラジカル重合開始剤であって、硬化促進剤ではないことが明確になった。
よって、取消理由5及び申立理由5によっては、本件特許の請求項1~12に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立人が意見書で主張する実施可能要件、サポート要件違反について
申立人は、令和7年2月27日提出の意見書において、訂正の内容に付随して生じた理由であるか、又は適切な取消理由を構成することが一見して明らかな場合に該当するとして、本件発明1~12には、新たに以下に述べる概略の実施可能要件、サポート要件違反の取消理由が生じる旨を主張する。
<理由ア>
本件発明1の式(V)にはArが含まれるところ、本件明細書の記載によれば、それが【0013】に記載される極性基を有する「置換基Z」によって置換されている場合、本件発明の課題の一つである「誘電率及び誘電正接を低くすること」を解決するためには、極性基の量について上限値を規定しなければならないはずである。しかし、本件明細書には極性基の量について具体的な上限値は開示されておらず、どのようにすれば実施できるかを見いだすために、当業者は期待し得る程度を越える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要がある。
<理由イ>
本件発明1は、多官能ビニル芳香族重合体(A)と熱硬化性化合物(B)とを含むだけで、課題を解決できるはずであるが、実施例1~3のワニスはイミダゾール触媒を含んでおり、実施例4、5は本件発明の実施例ではない。
イミダゾール触媒を含む場合には課題を解決できるとしても、それを含まない場合に課題を解決できるとまではいえない。
<理由ウ>
本件発明2において、本件明細書には、熱硬化性化合物(B)として式(32)及び式(34)で表される構造単位を含むマレイミド化合物を用いた実施例が存在せず、本件発明2は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えており、また実施可能であるともいえない。
<理由エ>
本件発明3において、熱硬化性化合物(B)の含有量が5~95質量部に特定されているが、実施例1~3ではいずれも25質量部で、数値範囲全体を裏付ける記載がなく、上限値及び下限値の効果が不明確である。
<理由オ>
本件発明4において、多官能ビニル芳香族重合体(A)の含有量が5~95質量部に特定されているが、実施例1~3ではいずれも75質量部で、数値範囲全体を裏付ける記載がなく、上限値及び下限値の効果が不明確である。
<理由カ>
本件発明5の規定では、ジビニル芳香族化合物由来の構成単位は7通り存在するところ、実施例1~3の多官能ビニルベンゼン重合体がそのうちどの構成単位を有しているのか導き出せないし、7通りのいずれかであるとしても、残りの6通りの実施例は存在しないから、それについても実施例1~3と同様の効果が得られるのか、その結論を合理的に導き出せるとはいえない。
<理由キ>
本件発明7、8はさらに充填材を含むものであるが、本件明細書の【0060】に列挙された充填材の具体例の中には、誘電率の高いものが含まれており、そのようなものを多量に用いた場合に本件発明の課題を解決できることを合理的に導き出せるとはいえない。
しかし、第2で述べたように、本件発明は訂正により特許請求の範囲が減縮されており、上記のような理由が存在するのであれば、減縮される前の当初からその理由を指摘することができたはずであるから、上記主張は訂正の内容に付随して生じた理由ではなく、また、適切な取消理由を構成することが一見して明らかな場合であるともいえず、時機に遅れた主張であって、新たな取消理由として採用することはできない。
なお、上記主張を一応検討すると、理由ア、ウ~キについては、本件明細書の実施例1と参考例1の比較から明らかなように、本件発明の特徴とする点は、「ラジカル重合開始剤を含まない」ものが「ラジカル重合開始剤を含む」ものと比較して、「誘電率および誘電正接が低く、耐熱性が高い樹脂組成物」を提供できるというものであり、各成分の構造や含有量、追加成分の特性により誘電率等が変化するとしても、「ラジカル重合開始剤を含まない」ものが「ラジカル重合開始剤を含む」ものと比較して、「誘電率および誘電正接が低く、耐熱性が高い樹脂組成物」を提供できることは、マレイミドの種類を変更した実施例2、3や、訂正前は特許請求の範囲に含まれていた実施例4、5においても実施例1と同様の結果が得られていることを考慮すれば、当業者が認識できる程度のことといえる。
また、理由イについては、イミダゾール触媒は本件明細書の【0063】に「硬化促進剤」として例示されている任意成分にすぎないし、イミダゾール触媒がマレイミド化合物の硬化促進剤として用いられることも本件特許の出願時における技術常識にすぎない(この点について、必要であれば、特開2018-35260号公報の【0031】を参照のこと。)。
そうすると、実施例1~3は、熱硬化性化合物(B)としてマレイミド基を有するものを用いたため、その硬化促進剤であるイミダゾール触媒を必要に応じて併用しただけにすぎず、訂正前の特許請求の範囲に含まれる実施例4では、硬化促進剤を用いなくても同様の効果が得られていることを考慮すると、イミダゾール触媒の使用が本件発明の課題の解決に必須であるとまでは認められない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、申立理由1~5及び当審において通知した取消理由1~5によっては、本件発明1~12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700636