特許異議申立
2023-700374
熱安定性ゼラチンゲル組成物
- 審判番号
- 2023-700374
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-124307
- 登録番号
- 7158920
- 請求日
- 2023年04月12日
- 審決日
- 2024年06月27日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】小林製薬株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 【異議申立人】金枝 禎二
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 磯貝 香苗
- 審判官 松本 陶子
- 分類
- P1651.113-YAA(A23L) / P1651.121-YAA(A23L) / P1651.536-YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第113条第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第113条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第120条の5第7項、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7158920号発明「熱安定性ゼラチンゲル組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7158920号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2、3について訂正することを認める。
特許第7158920号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7158920号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、
平成30年 6月29日に出願され、
令和 4年10月14日に特許権の設定登録(請求項の数 3)がされ、
令和 4年10月24日に特許掲載公報が発行され、
その後、当該特許に対し、
令和 5年 4月12日に 金枝 禎二 (以下、「特許異議申立人」という。)が全ての請求項に係る特許に対して特許異議申立てがされ、
令和 5年 6月22日付けで取消理由が通知され、
令和 5年 8月25日に特許権者 小林製薬株式会社から訂正請求がされると共に意見書が提出され、
令和 5年 9月11日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、
令和 5年10月12日に特許異議申立人から意見書が提出され、
令和 5年10月30日付けで取消理由<決定の予告>が通知され、
令和 5年12月15日に特許権者 小林製薬株式会社から訂正請求がされると共に意見書が提出され、
令和 6年 1月 4日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、
令和 6年 2月 9日に特許異議申立人から意見書が提出され、
令和 6年 3月 8日付けで取消理由<決定の予告>が通知され
令和 6年 4月25日に特許権者 小林製薬株式会社から訂正請求がされると共に意見書が提出されたものである。
なお、令和 5年 8月25日に提出された訂正請求書による請求、及び、令和 5年12月15日に提出された訂正請求書による請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、令和 6年 4月25日にされた訂正請求については、すでに特許異議申立人に意見書の提出の機会が与えられている場合であって、後記のとおり、訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、事件において提出された全ての証拠や意見を踏まえてさらに審理を進めたとしても、特許を維持すべきとの結論となると合議体が判断したため、特許異議申立人に対して改めて意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるものと判断し、意見書提出の機会を与えないこととした。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和 6年 4月25日にされた訂正請求における訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に、
「配合してゼラチンゲル組成物を調整する」と記載されているのを、
「、ゼラチンとグリセリンを水とを混合してゼラチン濃度が20~50質量%のゼラチン水溶液を調整する工程、及び、前記ゼラチン水溶液をフィルム、シート、またはカプセルの形状に形成して、冷却固化する」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「熱安定性及びゲル強度が向上したゼラチンゲル組成物」と記載されているのを、
「含水ゼラチンゲル組成物100質量%中のゼラチンの割合が20~50質量%である熱安定性及びゲル強度が向上した含水ゼラチンゲル組成物」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に、
「ゼラチンゲル組成物を製造する方法。」と記載されているのを、
「ゼラチンゲル組成物(但し、ゼラチン、グリセリン、及び糖アルコールを含有するゼラチンゲル組成物を除く)を製造する方法。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3の冒頭に、
「請求項2に記載する方法で製造される、」の記載を追加し、かつ、
特許請求の範囲の請求項3に、
「ゼラチン及びグリセリンを含有するゼラチンゲル組成物」と記載されているのを、
「ゼラチン、グリセリン、及び水を含有する熱安定性及びゲル強度が向上した含水ゼラチンゲル組成物」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3に、
「含有することを特徴とするゼラチンゲル組成物」と記載されているのを、
「含有し、含水ゼラチンゲル組成物100質量%中のゼラチンの割合が20~50質量%であることを特徴とする、前記含水ゼラチンゲル組成物」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3の末尾の「ゼラチンゲル組成物」と記載されているのを、
「ゼラチンゲル組成物;(但し、ゼラチン、グリセリン、及び糖アルコールを含有するゼラチンゲル組成物を除く)」に訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1ないし3に係る請求項2の訂正について
訂正事項1に係る請求項2の訂正は、請求項2におけるゼラチン組成物を調整する工程について、「ゼラチンとグリセリンを水と混合してゼラチン濃度が20~50質量%のゼラチン水溶液を調整する工程、及び、前記ゼラチン水溶液をフィルム、シート、またはカプセルの形状に形成して、冷却固化する」と特定するものであり、訂正事項2に係る請求項2の訂正は、請求項2における熱安定性及びゲル強度が向上したゼラチンゲル組成物について「含水ゼラチンゲル組成物100質量%中のゼラチンの割合が20~50質量%である熱安定性及びゲル強度が向上した含水ゼラチンゲル組成物」と特定するものであり、訂正事項3に係る請求項2の訂正は、請求項2におけるゼラチンゲル組成物について、「ゼラチン、グリセリン、及び糖アルコールを含有するゼラチンゲル組成物を除く」と特定するものであるから、これらは、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1に係る請求項2の訂正は、本件特許明細書の【0024】に、ゼラチンゲル組成物が必要に応じて水と共に混合されていることが記載されていること、及び、本件特許明細書の【0019】にゼラチンゲル組成物の100質量%あたりのゼラチンの割合が記載されていること、そして、本件特許明細書の【0038】(6)において、ゼラチン水溶液を調整した後、ガラス製の蓋付きのバイアル瓶に移して蓋を閉めて常温になるまで静置して固化(ゲル化)しており、ゼラチン水溶液を調整した後で乾燥等により水分量を減らすものでなく、すなわち、ゼラチン水溶液中のゼラチン濃度と、固化(ゲル化)後の含水ゼラチン組成物のゼラチン濃度が変化するものではないことから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項2に係る請求項2の訂正は、本件特許明細書の【0019】の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、訂正事項3に係る請求項2の訂正は、特定の組成のゼラチンゲル組成物を除くものであることからみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものである。
よって、訂正事項1ないし3に係る請求項2の訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正事項1ないし3に係る請求項2の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(2)訂正事項4ないし6に係る請求項3の訂正について
訂正事項4に係る請求項3の訂正は、請求項3のゼラチンゲル組成物について、「請求項2に記載する方法で製造される」ことを特定し、かつ、ゼラチンゲル組成物が「ゼラチン、グリセリン及び水を含有する熱安定性及びゲル強度が向上した含水」ゼラチンゲル組成物であることを特定するものであり、訂正事項5に係る請求項3の訂正は、請求項3のゼラチン組成物について、「含水ゼラチンゲル組成物100質量%中のゼラチンの割合が20~50質量%」である「含水ゼラチンゲル組成物」であることを特定するものであり、訂正事項6に係る請求項3の訂正は、請求項3のゼラチンゲル組成物について、「ゼラチン、グリセリン、及び糖アルコールを含有するゼラチンゲル組成物を除く」ものであるから、これらは、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4ないし5に係る請求項3の訂正は、本件特許明細書【0019】、【0024】、【0029】、【0038】の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、訂正事項6に係る請求項3の訂正は、ゼラチンゲル組成物から特定の組成のゼラチンゲル組成物を除くものであることからみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正事項4ないし6に係る請求項3の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(3)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし3に対してされているから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
3 小括
以上のとおり、本件訂正請求による特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とし、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項、第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2ないし3について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」といい、これらをまとめて「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
ゼラチンゲル組成物の製造に際して、ゼリー強度180~280gの豚または牛に由来するゼラチン100質量部に対して、グリセリンを50質量部以上の割合で用いることを特徴とする、ゼラチンゲル組成物の熱安定性及びゲル強度を向上させる方法。
【請求項2】
ゼリー強度180~280gの豚または牛に由来するゼラチン100質量部に対して、グリセリンを50質量部以上の割合で、ゼラチンとグリセリンを水と混合してゼラチン濃度が20~50質量%のゼラチン水溶液を調整する工程、及び
前記ゼラチン水溶液をフィルム、シート、またはカプセルの形状に成形して、冷却固化する工程を有する、
含水ゼラチンゲル組成物100質量%中のゼラチンの割合が20~50質量%である熱安定性及びゲル強度が向上した含水ゼラチンゲル組成物(但し、ゼラチン、グリセリン、及び糖アルコールを含有するゼラチンゲル組成物を除く)を製造する方法。
【請求項3】
請求項2に記載する方法で製造される、ゼラチン、グリセリン、及び水を含有する熱安定性及びゲル強度が向上した含水ゼラチンゲル組成物であって、
ゼラチンがゼリー強度180~280gの豚または牛に由来するゼラチンであり、
ゼラチン100質量部に対してグリセリンを50質量部以上の割合で含有し、
含水ゼラチンゲル組成物100質量%中のゼラチンの割合が20~50質量%であることを特徴とする、
前記含水ゼラチンゲル組成物;
(但し、ゼラチン、グリセリン、及び糖アルコールを含有するゼラチンゲル組成物を除く)。
第4 特許異議申立書に記載した異議申立理由について
令和 5年 4月12日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した異議申立理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第3号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 申立理由4(甲第4号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第4号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
5 申立理由5(甲第5号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
6 申立理由6(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし2に係る特許は、下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件請求項1ないし3に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・請求項1及び請求項2における「熱安定性及びゲル強度を向上」、「熱安定性及びゲル強度が向上」との構成において、熱安定性及びゲル強度が何と比較して向上しているのか不明であるから、請求項1及び2に記載の発明は不明確である。
7 申立理由7(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし3の記載は、下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件請求項1ないし3に係る特許は、特許法第第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明の課題は、ゼラチンゲル組成物について熱安定性を向上させること、及び、ゼラチンゲル組成物についてゲル強度を向上させること、である(本件特許明細書【0005】)。しかしながら、ゼラチンゲル組成物の熱安定性やゲル強度は、ゼラチン100質量部に対するグリセリンの量を50質量部以上とすることによって、向上するとはいえない。
・このことは、本件特許異議申立書に示した実験結果から明らかであり、ゼラチン100質量部に対するグリセリンの量が50質量部以上であるゲル組成物が、当該ゼラチン量が0質量部であるゲル組成物、当該グリセリン量が30質量部であるゲル組成物と比較して、ゲル強度が向上しておらず、かつ溶解時間が延長しておらず、熱安定性が向上していないことからわかる。
・よって、本件特許発明1ないし3は、課題を解決できない発明が含まれることが明らかであり、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。
8 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2005/011402号
甲第2号証:特表2014-516995号公報
甲第3号証:特開2017-114790号公報
甲第4号証:特開2010-284373号公報
甲第5号証:米国特許第9782374号明細書
甲第6号証:特開2009-46608号公報
甲第7号証:特開2008-35829号公報
甲第8号証:特開2008-127371号公報
甲第9号証:Food Hydrocolloids,Vol.1,No.2,pp.163-175,1986
参考文献1:特開2007-135924号公報
参考文献2:特開昭62-207460号公報
参考文献3:特開平7-149625号公報
参考文献4:特開2017-176044号公報
参考文献5:特開2001-89362号公報
参考文献6:特表2007-525413号公報
参考文献7:改訂版 にかわとゼラチン-産業史と科学技術、日本にかわ・ゼラチン工業組合発行、平成9年3月30日改訂版、第360~365頁
参考文献8:再公表特許2010/084601号
参考文献9:特開2001-161306号公報
参考文献10:特開2006-8654号公報
参考文献11:特開2008-63313号公報
参考文献12:特開2003-70880号公報
参考文献13:特開2002-338455号公報
参考文献14:特開2005-112849号公報
参考文献15:特開2002-35088号公報
参考文献16:特開平9-25228号公報
参考文献17:特開平10-310519号公報
参考文献18:https://www.std.pmda.go.jp/scripts/stdDB/kijyun/stdDB_kijun_resr.cgi?Sig=1&kjn_betsunum=3;kjn_no_parm=689;kjn=ninsyou&ID=1300689のサイトページ
参考文献19:国際公開第2012/036064号
なお、参考文献1ないし6は、令和 5年10月12日提出の意見書に添付されたものであり、参考文献7ないし19は、令和 6年 2月 9日提出の意見書に添付されたものである。
また、証拠の表記は特許異議申立書、及び、令和 5年10月12日提出の意見書、並びに、令和 6年 2月 9日提出の意見書の記載におおむね従った。
以下、順に「甲1」等という。
第5 令和 6年 3月 8日付けで特許権者に通知した取消理由<決定の予告>の概要
令和 6年 3月 8日付けで通知された取消理由<決定の予告>(以下、「取消理由<決定の予告>」という。)の概要は次のとおりである。
取消理由6(甲4に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明2及び3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲4に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項2及び3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 取消理由<決定の予告>についての当審の判断
当審は、以下に述べるように、取消理由6は理由がないと判断する。
以下に検討する。
1 甲4の記載事項等
(1)甲4の記載事項
甲4には、吸水伸縮性シートについて、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
下記の不織布(A)の少なくとも片面に、ゼラチンとグリセリンを重量比で25:75~75:25の割合で含有するゼラチン組成物を皮膜化してなるゼラチン系皮膜が形成されていることを特徴とする吸水伸縮性シート。」
「【0038】
ここで、ゼラチンとは、動物の皮膚や骨、魚類の鱗に含まれるコラーゲンを酸やアルカリで前処理した後、熱水で加熱抽出することによって得られる繊維状タンパク質である。上記ゼラチンは、加熱すると溶けてゾル化し、冷却するとゲル化して保形性を有する。
【0039】
上記ゼラチンの原料としては、一般に牛骨、豚皮、魚鱗等があげられ、いずれを用いてもよい。また、製造時の処理方法によって、酸処理タイプとアルカリ処理タイプの2種類に分かれるが、これらについても、どちらの種類を用いても差し支えない。
【0040】
そして、上記ゼラチンとグリセリンの含有割合(ゼラチン:グリセリン)は、重量比で25:75~75:25でなければならない。すなわち、上記の範囲よりもゼラチンが少ないと、ゼラチン系皮膜2においてゲル骨格が弱くなり、吸水性能が低下するとともに、べたつき感が生じやすくなる。また、上記の範囲よりもグリセリンが少ないと、ゼラチン系皮膜2の伸縮性が乏しいものとなり、所期の目的を達することができない。
【0041】
なかでも、ゼラチン:グリセリンを、50:50~70:30に設定することが、優れた品質の吸水伸縮性シートを得る上で、好適である。
【0042】
上記ゼラチンとグリセリンを用い、例えばつぎのようにして、ゼラチン系皮膜を形成することができる。すなわち、まず、ゼラチンとグリセリンを、所定割合で含有するゼラチン水溶液を調製する。そして、このゼラチン水溶液を、不織布1の片面に層状に塗布し、乾燥させることにより皮膜化することができる。」
「【0073】
一方、ゼラチンとグリセリンとを、所定の割合で水に溶解して、ゼラチン水溶液を調製した。また、場合によっては、グリセリンを用いず、ゼラチンのみのゼラチン水溶液とした。そして、これらのゼラチン水溶液を、スライドホッパーを用いて、上記2種類の不織布1の片面に塗工して乾燥することにより、下記の表1~表5の特性を備えた吸水伸縮性シートを得た。
【0074】
なお、上記ゼラチンは、特に表示をしていないものは、牛骨由来の、アルカリ処理抽出によって得られたゼラチンであり、そのゼリー強度は250gである。ただし、下記の表3、表5に記載された「牛骨a」は、ゼリー強度が100gのものである。また「豚皮a」は、豚皮由来の、酸処理抽出によって得られたゼラチンであり、そのゼリー強度が250gのもの、「豚皮b」は、同じくそのゼリー強度が100gのものである。
【0075】
【表1】
[図:0001415264000001.jpg]
」
(2)甲4に記載された発明
上記(1)より、甲4の【0075】【表1】実施例1ないし4のゼラチン系皮膜2を中心にまとめると、甲4には次の発明(以下、「甲4物発明」、「甲4方法発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲4物発明>
「牛骨由来のアルカリ処理抽出によって得られたゼリー強度250gのゼラチンとグリセリンとをゼラチン/グリセリンが50:50の割合で水に溶解し、ゼラチン水溶液濃度が2.0%~10.0%のゼラチン水溶液を調製し、このゼラチン水溶液を、スライドホッパーを用いて、不織布の片面に塗工して乾燥することにより得られたゼラチン系皮膜。」
<甲4方法発明>
「牛骨由来のアルカリ処理抽出によって得られたゼリー強度250gのゼラチンとグリセリンとをゼラチン/グリセリンが50:50の割合で水に溶解し、ゼラチン水溶液濃度が2.0~10.0%のゼラチン水溶液を調製し、このゼラチン水溶液を、スライドホッパーを用いて、不織布の片面に塗工して乾燥することにより得られたゼラチン系皮膜の製造方法。」
2 検討
(1)本件特許発明2について
本件特許発明2と甲4方法発明とを対比する。
甲4方法発明における「牛骨由来のアルカリ処理抽出によって得られたゼリー強度250gのゼラチン」は、本件特許発明2における「ゼリー強度180~280gの豚または牛に由来するゼラチン」に相当する。
甲4方法発明における「ゼラチン/グリセリンが50:50の割合」は、本件特許発明2における「ゼラチン100質量に対して、グリセリンを50質量部以上の割合」に相当する。
甲4方法発明における「ゼラチンとグリセリンとを」「水に溶解し、ゼラチン水溶液濃度が2.0~10.0%のゼラチン水溶液を調製」することは、本件特許発明2における「ゼラチンとグリセリンを水と混合する工程」に相当する。
甲4方法発明における「ゼラチン水溶液を、スライドホッパーを用いて、不織布の片面に塗工」することは、本件特許発明2における「フィルム、シート、またはカプセルの形状に成形」する工程に相当する。
甲4方法発明における「不織布の片面に塗工して乾燥することにより得られたゼラチン系皮膜」は、本件特許発明2における「ゼラチンゲル組成物」である。
加えて、甲4方法発明における「ゼラチン系皮膜」には、糖アルコールは含まれていないから、本件特許発明2における「(但し、ゼラチン、グリセリン、及び糖アルコールを含有するゼラチンゲル組成物を除く)」との特定事項を満たす。
そうすると、本件特許発明2と甲4方法発明との一致点、一応の相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ゼリー強度180~280gの豚または牛に由来するゼラチン100質量部に対して、グリセリンを50質量部以上の割合で、ゼラチンとグリセリンを水と混合してゼラチン水溶液を調整する工程、及び、ゼラチン水溶液をフィルム、シート、またはカプセルの形状に成形する工程を有する、ゼラチンゲル組成物(但し、ゼラチン、グリセリン、及び糖アルコールを含有するゼラチンゲル組成物を除く)を製造する方法。」
<相違点4-1>
本件特許発明2は、ゼラチン水溶液のゼラチン濃度が「20~50質量%」との特定を有するのに対して、甲4方法発明はそのような特定がない点。
<相違点4-2>
本件特許発明2は、フィルム、シートまたはカプセルの形状に成形して、「冷却固化する工程」を有するとの特定を有するのに対して、甲4方法発明はそのような特定がない点。
<相違点4-3>
本件特許発明2は、「含水」ゼラチンゲル組成物との特定を有するのに対して、甲4方法発明はそのような特定がない点。
<相違点4-4>
本件特許発明2は、含水ゼラチンゲル組成物「100質量%中のゼラチンの割合が20~50質量%である」との特定を有するのに対して、甲4方法発明はそのような特定がない点。
<相違点4-5>
本件特許発明2は、「熱安定性及びゲル強度が向上した」との特定を有するのに対して、甲4方法発明はそのような特定がない点。
相違点4-1について検討する。
甲4方法発明は、スライドホッパーによる塗工に供するため、ゼラチン水溶液を調製しており、その際のゼラチン濃度は2.0~10%である。したがって、相違点4-1は実質的な相違点である。
よって、本件特許発明2は甲4方法発明ではない。
そして、甲4及び他の全ての証拠をみても、甲4方法発明において、相違点4-1に係るゼラチン水溶液のゼラチン濃度を20~50質量%に調整する動機となる記載はない。
したがって、甲4方法発明において、相違点4-1に係る本件特許発明2の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明2は甲4方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明3について
本件特許発明3と甲4物発明とを対比する。
本件特許発明3と甲4物発明とは、上記(1)と同様の対応関係を有し、少なくとも、上記(1)と同様の相違点4-1ないし相違点4-5を有するところであり、同様に判断される。
よって、本件特許発明3は甲4方法発明ではなく、また、甲4方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 取消理由6についてのまとめ
本件特許発明2及び3は、特許法第29条第1項第3号に該当して特許を受けることができないものであるとはいえず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項2及び3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。
よって、取消理由6によって本件特許の請求項2及び3に係る特許を取り消すことはできない。
第7 取消理由<決定の予告>に採用しなかった特許異議申立書に記載した異議申立理由について
取消理由<決定の予告>に採用しなかった特許異議申立書に記載した異議申立理由は、
・申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)
・申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)
・申立理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)
・申立理由4(甲4に基づく新規性・進歩性)のうち請求項1について
・申立理由5(甲5に基づく進歩性)
・申立理由6(明確性性要件)
・申立理由7(サポート要件)である。
以下、順に検討する。
1 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1の記載事項
甲1には、咀嚼性カプセル及びその製造方法について、次の事項が記載されている。
「技術分野
本発明は咀嚼して食するのに好適なカプセル、いわゆるチュアブルソフトカプセル及びその製造方法に関する。」
(第1頁第3~5行)
「請求の範囲
1.咀嚼性カプセルであって、
カプセル皮膜と、前記カプセル皮膜に封入された内容物を備え、
前記カプセル皮膜の外径が14mm~25mmであり、
前記カプセル皮膜の質量が咀嚼性カプセルの全質量に対して10%~20%の比率の範囲であり、
前記カプセル皮膜に封入されている前記内容物の量が1400mg~3000mgであり、
前記カプセル皮膜にゼラチンが含まれている咀嚼性力プセル。
2.請求項1記載の咀嚼性カプセルであって、前記カプセル皮膜が、ゼラチン100質量部に対してグリセリン30~200質量部、及び結晶析出剤1~200質量部を含む。」
(第21頁第2~12行)
「<カプセル皮膜>
カプセル皮膜の組成としては、皮膜形成の基剤であるゼラチンを必須成分として含む。ゼラチンは、牛、豚、鶏、魚のいずれに由来するゼラチンであってもよい。また、製造方法はアルカリ抽出、酸注抽出などいかなる方法であってもよいし、ゼラチンのゼリー強度なども制限されない。
基剤の他には可塑剤としてのグリセリンを含有させることが好ましい。カプセル皮膜におけるグリセリンの配合量はゼラチン100質量部に対して30~200質量部が好ましく、より好ましい範囲は50~100質量部である。グリセリンの配合量が多すぎても、少なすぎても、カプセル成型時の加工適性が悪くなり、良好な噛み心地が得られない。またグリセリンの配合量が多くなるほどカプセル相互間の付着が生じやすくなる。」
(第5頁第14~24行)
「 まず、皮膜の構成成分を適量の水に溶解させて皮膜材料液を調製する。必要であれば加温して、均一に溶解させる。皮膜材料液中におけるゼラチンの量は、多すぎても少なすぎても成型が難しくなるので、前記皮膜材料液を所望の皮膜形状に形成可能な範囲とする。皮膜材料液中におけるゼラチンの量は20~45質量%程度、より好ましくは30~40質量%程度とされる。」
(第9頁第1~5行)
「 図1に示すように、皮膜材料液を帯状に成型した皮膜シート1を2枚、一対の回転円筒形金型2の間に送り込む。回転円筒金型2を回転させつつ、これと連動するポンプ3で、内容物4を2枚の皮膜シート1の間に圧入する。このときセグメント5により、前記皮膜シート1がヒートシール可能な適温に熱せられ、回転円筒金型2表面に形成されている凸状の歯と歯との圧切によって接合部6がヒートシールされて、カプセル状成型体7が得られるようになっている。」
(第9頁第7~12行)
「 皮膜シート1を形成する方法は特に限定されないが、例えば皮膜材料液をシート状に展延し、ゼラチンがゲル化する温度に温度制御することによってゲル状の皮膜シート1を形成することができる。」
(第9頁第13~15行)
「実施例1
・・・(中略)・・・
<カプセル皮膜材料液の調製>
(a)ゼラチン(ニッピゼラチン工業(株)製(牛骨由来ゼラチン、ブルーム165~185)):100質量部、(b)グリセリン:70質量部、(c)エリスリトール(三菱化学フーズ(株)製):10質量部、(d)キシリトール(東和化成(株)製:キシリット):3.5質量部(e)スクラロース(三栄源エフエフアイ(株)製):2質量部(f)水:90質量部
上記(a)~(f)を70℃程度に加温しながら撹拌溶解した後、溶液を真空脱気及び濾過し、均一な溶液(カプセル皮膜材料液)とした。
<咀嚼性カプセルの製造>
上記で調製した内容物とカプセル皮膜材料液を、ロータリー式ソフトカプセル充填機に適用して、カプセル内容物の質量が1500mgの球体状のカプセル成型体を成型した。」
(第11頁第1~24行)
「実施例2
<カプセル皮膜材料液の調製>
(a)ゼラチン(ゼライス(株)製(豚皮由来ゼラチン、ブルーム190~220)):100質量部、(b)グリセリン:150質量部、(c)トレハロース((株)林原商事製 ):10質量部、(d)キシリトール(東和化成(株)製:キシリット):100質量部(e)水:90質量部
上記(a)~(e)を70℃程度に加温しながら撹拌溶解した後、溶液を真空脱気及び濾過し、均一な溶液(カプセル皮膜材料液)とした。
<咀嚼性カプセルの製造>
上記で調製した内容物とカプセル皮膜材料液を用い、実施例1と同様にして、カプセル内容物の質量が3000mgのカプセル成型体を成型した。」
(第12頁第14行~第13頁第6行)
「<試験例3>
ゼラチン皮膜におけるグリセリンとキシリトールの好ましい配合比率範囲について下記の試験を行なった。すなわち、下記表4に示すように、ゼラチン100質量部に対するグリセリンの配合量を20~250質量部の範囲内で変化させ、その他は実施例1と同様にして咀嚼性カプセルを製造した。この時、グリセリンの配合量はゼラチン100質量部に対して10質量部に統一した。
また、下記表5に示すように、ゼラチン100の質量部に対するキシリトールの配合量を0.5~250質量部の範囲内で変化させ、その他は実施例1と同様にして咀嚼性カプセルを製造した。この時、グリセリンの配合量は、ゼラチン100質量部に対して60質量部に統一した。
得られたサンプルについて、官能試験及び品質判定試験を行なった。官能試験は、20名のパネルが各サンプルを試食し、グリセリンの量が異なるサンプルに関しては、噛み心地の良さ、キシリトールの量が違うサンプルに対しては清涼感の程度について試験例1と同様に評価を行なった。
品質判定試験は、加工適性と相互付着性について評価した。
(4)加工適性は、実際のカプセル成形のし易さについて、(1)(合議体注:○の中に数字1、2、3が入る記号は、それぞれ(1)、(2)、(3)として表記した。)キャスティング(カプセルを成形するシートの成形)のし易さ、(2)キャスティングした皮膜シートのキャスティングドラムからの剥がれ易さ、(3)ヒートシールのし易さから総合的に評価した。上記(1)~(3)全てが適性であったものを「非常に良い(◎)」、上記一項目が適性でなかったものを「良い(○)」、上記二項目が適性でなかったものを「やや悪い(△)」、上記のすべてが適性でなかったものを「悪い(×)」とした。
(5)相互付着性は、40℃で1週間保管し、カプセルどうしの接着面の状態から製品としての外観を評価した。カプセル表面が乾燥しており、カプセルどうしの接着が全くない場合を「非常に良い(◎)」、カプセル表面が乾燥していないが、カプセルどうしの接着が無い場合を「良い(○)」、ややカプセル表面の粘性が増しテカリが見られるが、カプセルどうしの接着が無い場合を「普通(△)」、カプセルどうしが若干でも接着した場合「悪い(×)」とした。
[図:0001415264000002.jpg]
表4および表5の結果より、グリセリンの配合量30~200質量部、キシリトール配合量1~200質量部で良好な結果が得られた。」
(第16頁下から17行~第17頁末行)
イ 甲1に記載された発明
上記アより、甲1の実施例2のカプセル皮膜材料液を中心にまとめると、甲1には次の発明が記載されていると認められる。
<甲1物発明>
「(a)ゼラチン(ゼライス(株)製(豚皮由来ゼラチン、ブルーム190~220)):100質量部、(b)グリセリン:150質量部、(c)トレハロース((株)林原商事製):10質量部、(d)キシリトール(東和化成(株)製:キシリット)100質量部、(e)水:90質量部、上記(a)から(e)を70℃程度に加温しながら攪拌溶解した後、溶液を真空脱気及び濾過し、均一な溶液とした咀嚼用カプセルのカプセル皮膜材料用組成物を得、当該皮膜材料液をシート状に展延し、ゼラチンがゲル化する温度に温度制御することによって得たゲル状の皮膜シート。」
<甲1方法発明>
「(a)ゼラチン(ゼライス(株)製(豚皮由来ゼラチン、ブルーム190~220)):100質量部、(b)グリセリン:150質量部、(c)トレハロース((株)林原商事製):10質量部、(d)キシリトール(東和化成(株)製:キシリット)100質量部、(e)水:90質量部、上記(a)から(e)を70℃程度に加温しながら攪拌溶解した後、溶液を真空脱気及び濾過し、均一な溶液として咀嚼用カプセルのカプセル皮膜用組成物を得、当該皮膜材料液をシート状に展延し、ゼラチンがゲル化する温度に温度制御することによってゲル状の皮膜シートを形成する方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
上記(1)アの甲1の記載事項から、「ゼラチンゲル組成物の熱安定性及びゲル強度を向上させる方法」に対応する発明を認定することはできない。
よって、本件特許発明1は甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1方法発明とを対比する。
甲1方法発明における「(a)ゼラチン(ゼライス(株)製(豚皮由来ゼラチン、ブルーム190~220))」、「(b)グリセリン」は、本件特許発明2における「ゼリー強度180~280gの豚または牛に由来するゼラチン」、「グリセリン」に相当する。
また、甲1方法明において、ゼラチンとグリセリンの比率は、「(a)ゼラチン(ゼライス(株)製(豚皮由来ゼラチン、ブルーム190~220)):100質量部、(b)グリセリン:150質量部」であるから、本件特許発明2における「ゼラチン100質量部に対して、グリセリンを50質量部以上の割合」との特定事項を満たす。
甲1方法発明における「(a)ゼラチン(ゼライス(株)製(豚皮由来ゼラチン、ブルーム190~220)):100質量部、(b)グリセリン:150質量部、(c)トレハロース((株)林原商事製):10質量部、(d)キシリトール(東和化成(株)製:キシリット)100質量部、(e)水:90質量部」は、全量が450質量部に対してゼラチンが100質量部であって、ゼラチン濃度は22.22質量%であるから、本件特許発明2における「ゼラチン濃度が20~50質量%」との特定事項を満たす。
そして、甲1方法発明における「(a)ゼラチン(ゼライス(株)製(豚皮由来ゼラチン、ブルーム190~220)):100質量部、(b)グリセリン:150質量部、(c)トレハロース((株)林原商事製):10質量部、(d)キシリトール(東和化成(株)製:キシリット)100質量部、(e)水:90質量部、上記(a)から(e)を70℃程度に加温しながら攪拌溶解した後、溶液を真空脱気及び濾過し、均一な溶液として咀嚼用カプセルのカプセル皮膜用組成物を得」る工程、「当該皮膜材料液をシート状に展延し、ゼラチンがゲル化する温度に温度制御することによってゲル状の皮膜シートを形成」する工程は、それぞれ、本件特許発明2における「ゼラチンとグリセリンを水と混合してゼラチン濃度20~50質量%のゼラチン水溶液を調整する工程」、「前記ゼラチン水溶液をフィルム、シート、またはカプセルの形状に成形して、冷却固化する工程」に相当する。
そして、甲1方法発明における「ゲル状の皮膜シート」は、本件特許発明2における「含水ゼラチンゲル組成物」に相当する。
そうすると、本件特許発明2と甲1方法発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ゼリー強度180~280gの豚または牛に由来するゼラチン100質量部に対して、グリセリンを50質量部以上の割合で、ゼラチンとグリセリンを水と混合してゼラチン濃度が20~50質量%のゼラチン水溶液を調整する工程、及び、前記ゼラチン水溶液をフィルム、シート、またはカプセルの形状に成形して、冷却固化する工程を有する、含水ゼラチンゲル組成物を製造する方法。」
<相違点1-1>
本件特許発明2は、「但し、ゼラチン、グリセリン、及び糖アルコールを含有するゼラチンゲル組成物を除く」との特定を有するのに対し、甲1方法発明はそのような特定がない点。
<相違点1-2>
本件特許発明2は、「含水ゼラチンゲル組成物100質量%中のゼラチンの割合が20~50質量%」との特定を有するのに対し、甲1方法発明はそのような特定がない点。
<相違点1-3>
本件特許発明2は、「熱安定性及びゲル強度が向上した」との特定を有するのに対し、甲1方法発明はそのような特定がない点。
相違点1-1について検討する。
甲1方法発明においては、ゼラチンゲル組成物において「(d)キシリトール(東和化成(株)製:キシリット)」を含有する。当該「(d)キシリトール(東和化成(株)製:キシリット)」は糖アルコールであるから、甲1方法発明は、ゼラチン、グリセリン、及び糖アルコールを含有するゼラチンゲル組成物である。
よって、相違点1-1は実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲1方法発明ではない。
そして、甲1及び他の全ての証拠の記載をみても、甲1方法発明におけるゼラチンゲル組成物おいて、相違点1-1に係る糖アルコールを含まないものとする動機となる記載はない。
したがって、甲1方法発明において、相違点1-1に係る本件特許発明2の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲1方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲1物発明とを対比する。
本件特許発明3と甲1物発明とは、上記イと同様の対応関係を有し、少なくとも、上記イと同様の相違点1-1ないし相違点1-3を有するところであり、同様に判断される。
よって、本件特許発明3は甲1物発明ではなく、また、甲1物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由1についてのむすび
本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第113条第2項に該当しない。
したがって、申立理由1の理由では、本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2の記載事項
甲2には、「チュワブル軟カプセルシェルとチュワブル軟カプセル剤」について、次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、食品又は医薬品の技術分野に関連して、チュワブル軟カプセルシェルとチュワブル軟カプセル剤に関する。さらに本発明は、充填済みゼリースイートと、前記チュワブル軟カプセル剤又は前記充填済みゼリースイートを製造するための方法に関する。」
「【0014】
本発明の特許請求項目のいずれの1項にも記載の軟カプセルシェルは、以下の項目(1)~(4)の1項以上を特徴とする:
(1)前記ゼラチンは、牛骨、豚皮、及び魚皮のゼラチンからなる群より選択される1又は2種である;
(2)前記ゼラチンは、80~250ブルーム値(Bloom);好ましくは100~220ブルーム値;より好ましくは100~200ブルーム値のゲル強度を有する;
(3)前記保水剤は、グリセロールであり;ソルビトール、ポリデキストロース、及びマルチトールからなる群より選択される1以上をさらに含んでもよい;
(4)前記濃化剤は、デンプン(好ましくは、加工デンプン、そしてより好ましくは、酢酸エステル化ジャガイモデンプンのようなエステル化デンプン)であり;ペクチン、ゲランゴム、寒天、キサンタンゴム、プルラン、カラゲナン、グアーゴム、ローカストビーンゴム、アルギン酸ナトリウム、及びタマリンドガムからなる群より選択される1以上をさらに含んでもよい。」
「【0036】
実施例1:チュワブル軟カプセルシェルの製造
1)36kgの180ブルーム値の豚皮ゼラチン、28kgのグリセロールに36kgの水を加えてから加熱して溶かしてゼラチン溶液を生成して、これを予備使用のために60℃に保った;
2)15kgの白色グラニュー糖、30kgのソルビトール溶液、16kgの加工デンプンに32kgの水を加え、溶かしてから加熱して煮詰めて、検糖計で測定される76ブリックス値の固体含量を有する糖溶液を得て、これを予備使用のために80℃~90℃に保った;
3)1)において入手したゼラチン溶液と2)において入手した糖溶液を均質に混合して真空脱気して混合ガム溶液を入手し、これを予備使用のために55℃~65℃に保って1~3時間放置した;
4)工程3)において入手した混合ガム溶液をゴム管よりガムボックスへ流入させてから、このガムボックスよりガムボックス下のラバーホイールへ流出させて、本方法によって求められる均一な厚さのガムフィルムを成型するように調節した。」
「【0058】
実施例9:充填済みゼリースイートの安定性についての検討1(高温耐性試験)
同量のチュワブル軟カプセル剤試料1~2、充填済みゼリースイート試料1~3、及び比較試料1~4を同じ容器中に別々に包装して、サーモスタットオーブンに入れて(温度範囲を38~44℃に設定し、この検討は各温度で12時間実施して、温度を各時間につき2℃高めた)、変形、表面粘着状態に関する比較を行って、各製品について耐えられる最高温度と時間を決定した。ここでは、製品中に結合や変形のない状態を「V」と採点し;容易に復元し得る結合とわずかな変形のある状態を「O」と採点し;そして、ほとんど復元し得ない結合と重大な変形のある状態を「X」と採点した。
【0059】
この高温耐性試験法による高温耐性試験の結果を表5に示す。
【0060】
【表5】
[図:0001415264000003.jpg]
【0061】
表5の結果は、本発明のチュワブル軟カプセル剤と充填済みゼリースイートが、高温耐性に関して、現在市販されているチュワブル軟カプセル剤と充填済みゼリースイートに対して明らかに優っていることを示す。
【0062】
実施例10:充填済みゼリースイートの安定性の検討2(貯蔵寿命試験)
同量のチュワブル軟カプセル剤試料1~2、充填済みゼリースイート試料1~3、及び比較試料1~4を同じ容器中に別々に包装して、37~38℃/RH 75%の一定温度及び湿度チャンバに入れ、初めに時点0で数値を測定した後で、体感指標、並びに物理化学指標及び微生物指標に関する測定を15日の時間間隔で周期的に実施して、その検討試験は、測定値がそれらの規定値及び製品基準を満たして製品の貯蔵寿命が決定されるまで継続した。通常、45日目の測定値がいずれもその要求値を満たす場合、対応する貯蔵寿命は、少なくとも12ヶ月となり;90日目の測定値がいずれもその要求値を満たす場合、対応する貯蔵寿命は、少なくとも24ヶ月となる。体感指標、物理化学指標、及び微生物指標の項目の1つがその要求値を満たさない場合、「-」印を付与し;上記項目の2つがその要求値を満たさない場合、「--」印を付与し;そして、すべての指標がその要求値を満たす場合、「+」印を付与した。この結果を表6に示す。
【0063】
【表6】
[図:0001415264000004.jpg]
【0064】
表6の結果は、本発明のチュワブル軟カプセル剤と充填済みゼリースイートが、比較試料と比べて貯蔵寿命を大いに延長させて、それにより製品の保存及び販売が促進されることを示した。
【0065】
全般に、本発明のチュワブル軟カプセル剤は、良好な咀嚼性及び口当たり、良好な高温耐性、及び長い貯蔵寿命を有する。既存の製品と比較して、本発明の充填済みゼリースイートは、より高い充填物含量、より良好な製品安定性を有して、分散、漏出、等の問題を有さず、そして良好な高温耐性とより長い貯蔵寿命を有する。」
イ 甲2に記載された発明
上記アより、甲2の【0036】実施例1のチュワブル軟カプセルシェルの製造を中心にまとめると、甲2には次の発明が記載されていると認められる。
<甲2物発明>
「1)36kgの180ブルーム値の豚皮ゼラチン、28kgのグリセロールに36kgの水を加えてから加熱して溶かしてゼラチン溶液を生成して、これを予備使用のために60℃に保ち、
2)15kgの白色グラニュー糖、30kgのソルビトール溶液、16kgの加工デンプンに32kgの水を加え、溶かしてから加熱して煮詰めて、検糖計で測定される76ブリックス値の固体含量を有する糖溶液を得て、これを予備使用のために80℃~90℃に保ち、
3)1)において入手したゼラチン溶液と2)において入手した糖溶液を均質に混合して真空脱気して混合ガム溶液を入手し、これを予備使用のために55℃~65℃に保って1~3時間放置し、
4)工程3)において入手した混合ガム溶液をゴム管よりガムボックスへ流入させてから、このガムボックスよりガムボックス下のラバーホイールへ流出させて、均質な厚さに成形した、チュワブル軟カプセルシェル用のガムフィルム。」
<甲2方法発明>
「1)36kgの180ブルーム値の豚皮ゼラチン、28kgのグリセロールに36kgの水を加えてから加熱して溶かしてゼラチン溶液を生成して、これを予備使用のために60℃に保ち、
2)15kgの白色グラニュー糖、30kgのソルビトール溶液、16kgの加工デンプンに32kgの水を加え、溶かしてから加熱して煮詰めて、検糖計で測定される76ブリックス値の固体含量を有する糖溶液を得て、これを予備使用のために80℃~90℃に保ち、
3)1)において入手したゼラチン溶液と2)において入手した糖溶液を均質に混合して真空脱気して混合ガム溶液を入手し、これを予備使用のために55℃~65℃に保って1~3時間放置し、
4)工程3)において入手した混合ガム溶液をゴム管よりガムボックスへ流入させてから、このガムボックスよりガムボックス下のラバーホイールへ流出させて、均質な厚さに成形した、チュワブル軟カプセルシェル用のガムフィルムの製造方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
上記(1)アの甲2の記載事項から、「ゼラチンゲル組成物の熱安定性及びゲル強度を向上させる方法」に対応する発明を認定することはできない。
よって、本件特許発明1は甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲2方法発明とを対比する。
甲2方法発明における「1)36kgの180ブルーム値の豚皮ゼラチン」、「28kgのグリセロール」は、本件特許発明2における「ゼリー強度180~280gの豚または牛に由来するゼラチン」、「グリセリン」に相当する。
また、甲2方法発明においては、「1)36kgの180ブルーム値の豚皮ゼラチン」に対し「28kgのグリセロール」であるから、本件特許発明2における「ゼラチン100質量部に対してグリセリンを50質量部以上の割合」との特定事項を満たす。
さらに、甲2方法発明における「1)36kgの180ブルーム値の豚皮ゼラチン、28kgのグリセロールに36kgの水を加えてから加熱して溶かしてゼラチン溶液を生成して、これを予備使用のために60℃に保ち、2)15kgの白色グラニュー糖、30kgのソルビトール溶液、16kgの加工デンプンに32kgの水を加え、溶かしてから加熱して煮詰めて、検糖計で測定される76ブリックス値の固体含量を有する糖溶液を得て、これを予備使用のために80℃~90℃に保ち、3)1)において入手したゼラチン溶液と2)において入手した糖溶液を均質に混合して真空脱気して混合ガム溶液を入手し、これを予備使用のために55℃~65℃に保って1~3時間放置」する工程、「4)工程3)において入手した混合ガム溶液をゴム管よりガムボックスへ流入させてから、このガムボックスよりガムボックス下のラバーホイールへ流出させて、均質な厚さに成形し」て「チュワブル軟カプセルシェル用のガムフィルム」を得る工程は、本件特許発明2における「ゼラチンとグリセリンと水とを混合して」「ゼラチン水溶液を調整する工程」「前記ゼラチン水溶液をフィルム、シート、またはカプセルの形状に成形」する工程に相当する。
また、甲2方法発明においては、シート状のチュワブル軟カプセル用のガムフィルムが得られているから、「冷却固化する工程」も有している。
そして、甲2方法発明における「チュワブル軟カプセルシェル用のガムフィルム」は、チュワブル(咀嚼可能な)カプセル食品のシェルに使用されるゼラチン含有のガムフィルムであるから、本件特許発明2における「ゼラチンゲル組成物」に相当する。
そうすると、本件特許発明2と甲2方法発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ゼリー強度180~280gの豚または牛に由来するゼラチン100質量部に対して、グリセリンを50質量部以上の割合で、ゼラチンとグリセリンを水と混合してゼラチン水溶液を調整する工程、及び、前記ゼラチン水溶液をフィルム、シート、またはカプセルの形状で成形して、冷却固化する工程を有する、ゼラチンゲル組成物を製造する方法。」
<相違点2-1>
本件特許発明2は、ゼラチンゲル組成物について「但し、ゼラチン、グリセリン、及び糖アルコールを含有するゼラチンゲル組成物を除く」との特定を有するのに対して、甲2方法発明はそのような特定を有さない点。
<相違点2-2>
本件特許発明2は、ゼラチン水溶液のゼラチン濃度が「20~50質量%」との特定を有するのに対し、甲2方法発明はそのような特定がない点。
<相違点2-3>
本件特許発明2は、含水ゼラチンゲル組成物100質量%中のゼラチンの割合が「20~50質量%」であるとの特定を有するのに対し、甲2方法発明はそのような特定がない点。
<相違点2-4>
本件特許発明2は「熱安定性及びゲル強度が向上した」との特定を有するのに対して、甲2方法発明はそのような特定を有さない点。
相違点2-1について検討する。
甲2方法発明は、ゼラチンゲル組成物において「30kgのソルビトール溶液」を含有する。当該「30kgのソルビトール溶液」は糖アルコールであるから、甲2方法発明は、ゼラチン、グリセリン、及び糖アルコールを含有するゼラチンゲル組成物である。
よって、相違点2-2は実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲2方法発明ではない。
そして、甲2及び他の全ての証拠の記載をみても、甲2方法発明におけるゼラチンゲル組成物おいて、相違点2-1に係る糖アルコールを含まないものとする動機となる記載はない。
したがって、甲2方法発明において、相違点2-1に係る本件特許発明2の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲2方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲2物発明とを対比する。
本件特許発明3と甲2物発明とは、上記イと同様の対応関係を有し、少なくとも、上記イと同様の相違点2-1ないし相違点2-4を有するところ、同様に判断される。
よって、本件特許発明3は甲2物発明ではなく、また、甲2物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由2についてのむすび
本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第113条第2項に該当しない。
したがって、申立理由2の理由では、本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲3に記載された事項等
ア 甲3の記載事項
甲3には、ソフトカプセル用フィルム形成組成物について、次の事項が記載されている。
「【0022】
(澱粉処理物を用いたソフトカプセル用フィルムの製造)
表1に示す各種澱粉処理物を用いて、表2の組成でソフトカプセル用フィルムを製造した。具体的には、表2記載のソフトカプセル用フィルム形成組成物に蒸留水を加え、塗工可能となるようにスラリーを加熱・調製した。該スラリーをアプリケーターに投入し、合成樹脂フィルム上に膜厚が100μm程度(後述の乾燥後の膜厚)になるように塗工してシートを作製した。該シートを80~110℃程度の熱風で乾燥し、各ソフトカプセル用フィルム形成組成物を得た。
【0023】
【表2】・・・(中略)・・・
【0024】
(ゼラチンを用いたソフトカプセル用フィルムの製造)
表2のフィルム形成組成物を表3に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様にソフトカプセル用フィルムを製造した(比較例4)。
【0025】
【表3】
[図:0001415264000005.jpg]
」
イ 甲3に記載された発明
上記アより、甲3の【0024】比較例4のソフトカプセル用フィルムを中心にまとめると、甲3には次の発明が記載されていると認められる。
<甲3物発明>
「ゼラチン(GBL200(新田ゼラチン(株)、豚骨由来のゼラチン)63.4質量部、グリセリン36.6質量部を含むソフトカプセル用フィルム形成組成物に蒸留水を加え、塗工可能となるようにスラリーを加熱・調製し、該スラリーをアプリケーターに投入し、合成樹脂フィルム上に膜厚が100μm程度(乾燥後の膜厚)となるように塗工してシートを作製し、該シートを80~110℃程度の熱風で乾燥して形成したソフトカプセル用フィルム形成組成物。」
<甲3方法発明>
「ゼラチン(GBL200(新田ゼラチン(株)、豚骨由来のゼラチン)63.4質量部、グリセリン36.6質量部を含むソフトカプセル用フィルム形成組成物に蒸留水を加え、塗工可能となるようにスラリーを加熱・調製し、該スラリーをアプリケーターに投入し、合成樹脂フィルム上に膜厚が100μm程度(乾燥後の膜厚)となるように塗工してシートを作製し、該シートを80~110℃程度の熱風で乾燥して形成するソフトカプセル用フィルム形成組成物の製造方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
上記(1)アの甲3の記載事項から、「ゼラチンゲル組成物の熱安定性及びゲル強度を向上させる方法」に対応する発明を認定することはできない。
よって、本件特許発明1は甲3に記載された発明ではなく、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲3方法発明とを対比する。
甲6ないし8によると、「ゼラチン(GBL200(新田ゼラチン(株)」のゼリー強度は、185~215である。
そうすると、甲3方法発明における「「ゼラチン(GBL200(新田ゼラチン(株)、豚骨由来のゼラチン)」は、本件特許発明2における「ゼリー強度185~280gの豚または牛に由来するゼラチン」に相当する。
また、甲3方法発明におけるゼラチンとグリセリンの配合比率は、「ゼラチン(GBL200(新田ゼラチン(株)、豚骨由来のゼラチン)63.4質量部、グリセリン36.6質量部)であるから、ゼラチン100質量部に対し、グリセリン57.7質量部である。よって、甲3方法発明は、本件特許発明2の「ゼラチン100質量部に対してグリセリンを50質量部以上の割合で」含有するとの特定事項を満たす。
さらに、甲3方法発明における「ソフトカプセル用フィルム形成組成物」は、ソフトカプセル用であるから、本件特許発明2における「ゲル組成物」である。
そして、甲3方法発明の「ソフトカプセル用フィルム形成組成物」には、糖アルコールは含まれていないから、本件特許発明2の「(但し、ゼラチン、グリセリン、及び糖アルコールを含有するゼラチンゲル組成物を除く)」との特定事項を満たす。
また、甲3方法発明における「ゼラチン(GBL200(新田ゼラチン(株)、豚骨由来のゼラチン)63.4質量部、グリセリン36.6質量部を含むソフトカプセル用フィルム形成組成物に蒸留水を加え、塗工可能となるようにスラリーを加熱・調製し、該スラリーをアプリケーターに投入し、合成樹脂フィルム上に膜厚が100μm程度(乾燥後の膜厚)となるように塗工してシートを作製」する工程は、本件特許発明2における「ゼラチンとグリセリンを水と混合する工程、及び、」「フィルム、シート、またはカプセルの形状に成形」する工程に相当する。
そうすると、本件特許発明2と甲3方法発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ゼリー強度180~280gの豚または牛に由来するゼラチン100質量部に対して、グリセリンを50質量部以上の割合で、ゼラチンとグリセリンを水と混合してゼラチン水溶液を調整する工程、及び、前記ゼラチン水溶液をフィルム、シート、またはカプセルの形状に成形する工程を有する、ゼラチンゲル組成物(但し、ゼラチン、グリセリン、及び糖アルコールを含有するゼラチンゲル組成物を除く。)を製造する方法。」
<相違点3-1>
本件特許発明2は、ゼラチン水溶液のゼラチン濃度が「20~50質量%」との特定を有するのに対し、甲3方法発明はそのような特定がない点。
<相違点3-2>
本件特許発明2は、フィルム、シートまたはカプセルの形状に成形して、「冷却固化する工程」を有するとの特定があるのに対して、甲3方法発明はそのような特定がない点。
<相違点3-3>
本件特許発明2は、含水ゼラチンゲル組成物100質量%中のゼラチンの割合が「20~50質量%」との特定を有するのに対し、甲3方法発明はそのような特定がない点。
<相違点3-4>
本件特許発明2は「熱安定性及びゲル強度が向上した」との特定を有するのに対して、甲3方法発明においては、そのような特定がない点。
事案に鑑みて、相違点3-2及び相違点3-3について検討する。
甲3方法発明においては、シートの形状に成形した後、該シートを80~110℃程度の熱風で乾燥してゼラチンゲル組成物を製造するものであり、甲3には、含水ゼラチンゲル組成物100質量%中のゼラチンの割合については記載がない。よって、相違点3-2及び相違点3-3は実質的な相違点である。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲3方法発明ではない。
そして、甲3及び他の全ての証拠をみても、甲3方法発明において、相違点3-2に係る、シートの形状に成形した後、これを冷却固化する工程とする動機となる記載はないし、相違点3-3に係る、含水ゼラチンゲル組成物100質量%中のゼラチンの割合を20~50質量%に調整する動機となる記載もない。
したがって、甲3方法発明において、相違点3-2、相違点3-3に係る本件特許発明2の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明2は甲3方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲3物発明とを対比する。
本件特許発明3と甲3物発明とは、上記イと同様の対応関係を有し、少なくとも上記イと同様の相違点3-1ないし相違点3-4を有し、同様に判断される。
よって、本件特許発明3は甲3物発明ではなく、また、甲3物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由3についてのむすび
本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第113条第2項に該当しない。
したがって、申立理由3の理由では、本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由4(甲4に基づく新規性・進歩性)のうち請求項1について
甲4からは、「ゼラチンゲル組成物の熱安定性及びゲル強度を向上させる方法」に係る発明に対応する発明を認定することができない。
したがって、本件特許発明1は甲4に記載された発明ではなく、甲4に記載された発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件特許発明1は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、または、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、申立理由4の理由では、取り消すことはできない。
5 申立理由5(甲5に基づく進歩性)について
(1)甲5に記載された事項等
ア 甲5の記載事項
甲5には、腸溶性ソフトカプセルに関し、次の事項が記載されている。なお、甲5は外国語文献であり、訳文のみ摘記する。
「特許請求の範囲
請求項1.腸溶性ソフトカプセルゲル材料組成物であって:
(a)20~40質量%のA型ゼラチン;
(b)2~7質量%のペクチン;
(c)8~30質量%のグリセロール;及び
(d)40~70質量%の水;を含み、かつ
前記ゲル材料組成物の粘度は、約20,000~約30,000cpである、組成物。
請求項2.リボンに押し出したときに、前記リボンは約1.5kgから約2.5kgの強度を有する、請求項1に記載の組成物。
請求項3.前記A型ゼラチンが、約150グラム~約350グラムのブルーム強度を有する、請求項1に記載の組成物。
請求項4.前記A型ゼラチンが、酸性骨ゼラチンまたは豚皮ゼラチンを含む、請求項1に記載の組成物。
・・・(中略)・・・
請求項17.前記A型ゼラチンが豚皮ゼラチンを含む、請求項1に記載の組成物。」
(第54カラム~第56カラム)
「本明細書に記載される一実施形態は、全天然型腸溶性ソフトカプセル組成物であって、:(a)ゼラチン組成物と;(b)アニオン性多糖類と;(c)可塑剤と;(d)溶媒とを含む。本明細書に記載の一態様では:(a)ゼラチン組成物は、175グラムのブルーム強度を有するA型ゼラチンを含み;(b)アニオン性多糖類はペクチンを含み;(c)可塑剤はグリセロールを含み;(d)溶媒は水を含む。」
(第3カラム第5~13行)
「実施例1
本明細書に記載の全天然型腸溶性ソフトカプセルは、表9に示す組成を使用して調製した。
表9
[図:0001415264000006.jpg]
」
(第47カラム第1~25行)
「全天然型腸溶性ソフトカプセルシェルの製造工程
加熱されたゲル原料を生成するために、天然成分のシェルの全成分が加熱された容器に攪拌下で分散された。真空脱気の前に、加熱したゲル原料を約80℃で約0.5~約1時間維持した。加熱/真空脱気中に蒸発/昇華した水を補うために、補充水を添加した。典型的には、ゲル原料の約1~5重量%を構成する水が脱気中に失われた。この失われた溶媒を補うために、通常、脱気前に約3%の補充水をゲル原料に添加した。混合中、加熱および真空を1~5時間行った。調製が完了したら、ゲル原料を別の加熱容器に移し、約60℃で0.5~72時間維持した。溶融ゲル原料は、重力によって押出機に直接移すことができる。
リボンは、フィルム押出によって形成された。形成されたリボンをロータリーダイカプセル化機に供給して、ソフトカプセルを形成した。くさびの温度は約90℃から約110℃であった。キャスティングドラムの温度は約45℃であった。継ぎ目の形成は接着によっておこなった。形成されたカプセルをタンブリング乾燥機で15~90分間乾燥させ、次にトレー上で温度/湿度制御トンネル内で12~96時間乾燥させた。
本明細書に記載の医薬品有効成分を含む腸溶性ソフトカプセルの製造方法は、本明細書に記載の腸溶性ソフトカプセル用のゲル原料を調整すること;熱制御されたドラムまたは表面を使用して、ゲル原料をフィルムまたはリボンにキャストすること;ロータリーダイ技術を使用して、マトリックス充填物を含む本明細書に記載の腸溶性ソフトカプセルを製造すること、を含む。このプロセス中、本明細書に記載の腸溶性ソフトカプセルがロータリーダイカプセル化によって形成される際に、マトリックス充填物が管腔に注入される。
本明細書に記載の最終の腸溶性ソフトカプセルは、酸性媒体(pH1.2)でのUSPパドル崩壊試験に少なくとも2時間耐え、緩衝媒体(pH6.8)で医薬品有効成分が放出できる。」
(第48カラム第1~44行)
イ 甲5に記載された発明
上記アより、甲5の表9、処方2を中心に整理すると、次の発明が記載されていると認められる。
<甲5物発明>
「ゼラチン及びグリセロールを含有する腸用性ソフトカプセル製剤用組成物の製造方法であって、ブルーム強度175グラムのタイプAゼラチンを33.2重量%、グリセロールを16.0重量%、ペクチンを3.3重量%、水を47.5重量%、補充水を3重量%含有するゲル原料を調製し、ゲル原料を別の加熱容器に移し、約60℃で0.5~72時間維持し、溶融ゲル原料を、重力によって押出機に直接移してフィルム押出によりリボンを形成し、形成されたリボンをロータリーダイカプセル化機に供給して、ソフトカプセルを形成し、形成されたカプセルをタンブリング乾燥機で15~90分間乾燥させ、次にトレー上で温度/湿度制御トンネル内で12~96時間乾燥させて得られた、腸溶性ソフトカプセル。」
<甲5方法発明>
「ゼラチン及びグリセロールを含有する腸用性ソフトカプセル製剤用組成物の製造方法であって、ブルーム強度175グラムのタイプAゼラチンを33.2重量%、グリセロールを16.0重量%、ペクチンを3.3重量%、水を47.5重量%、補充水を3重量%含有するゲル原料を調製し、ゲル原料を別の加熱容器に移し、約60℃で0.5~72時間維持し、溶融ゲル原料を、重力によって押出機に直接移してフィルム押出によりリボンを形成し、形成されたリボンをロータリーダイカプセル化機に供給して、ソフトカプセルを形成し、形成されたカプセルをタンブリング乾燥機で15~90分間乾燥させ、次にトレー上で温度/湿度制御トンネル内で12~96時間乾燥させる、腸溶性ソフトカプセルの製造方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
上記(1)アの甲5の記載事項から、「ゼラチンゲル組成物の熱安定性及びゲル強度を向上させる方法」に係る発明は認定できない。
したがって、本件特許発明1は、甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲5方法発明とを対比する。
甲5方法発明における「タイプAゼラチン」、「グリセロール」は、本件特許発明2における「ゼラチン」、「グリセリン」に相当する。
甲5方法発明における「ブルーム強度」は、本件特許発明2における「ゼリー強度」に相当する。
甲5方法発明における「腸溶性ソフトカプセル」は、ソフトカプセルであるから、ゲルであり、本件特許発明2における「ゼラチンゲル組成物」に相当する。
また、甲5方法発明における「腸溶性ソフトカプセル」に、糖アルコールは含まれていないから、本件特許発明2における「(但し、ゼラチン、グリセリン、及び糖アルコールを含有するゼラチンゲル組成物を除く)」との特定事項を満たす。
そして、甲5発明における「ゼラチン及びグリセロールを含有する腸用性ソフトカプセル製剤用組成物の製造方法であって、ブルーム強度175グラムのタイプAゼラチンを33.2重量%、グリセロールを16.0重量%、ペクチンを3.3重量%、水を47.5重量%、補充水を3重量%含有するゲル原料を調製」する工程、「溶融ゲル原料を、重力によって押出機に直接移してフィルム押出によりリボンを形成し、形成されたリボンをロータリーダイカプセル化機に供給して、ソフトカプセルを形成」する工程は、本件特許発明2における「ゼラチンとグリセリンを水と混合してゼラチン濃度が20~50質量%のゼラチン水溶液を調整する工程」、「フィルム、シート、またはカプセルの形状に成形」する「工程」に相当する。
そうすると、本件特許発明2と甲5方法発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ゼラチンとグリセリンを水と混合してゼラチン濃度が20~50質量%のゼラチン水溶液を調整する工程、及び、前記ゼラチン水溶液をフィルム、シート、またはカプセルの形状に成形する工程を有する、ゼラチンゲル組成物(但し、ゼラチン、グリセリン、及び糖アルコールを含有するゼラチンゲル組成物を除く)を製造する方法。」
<相違点5-1>
本件特許発明2は、ゼラチンの「ゼリー強度180~280g」との特定を有するのに対して、甲5方法発明は、そのような特定がない点。
<相違点5-2>
本件特許発明2は、ゼラチンが「豚または牛に由来する」との特定を有するのに対して、甲5方法発明はそのような特定を有さない点
<相違点5-3>
本件特許発明2は、「ゼラチン100質量部に対して、グリセリンを50質量部以上の割合で」配合するとの特定を有するのに対して、甲5方法発明は、そのような特定がない点。
<相違点5-4>
本件特許発明2は「熱安定性及びゲル強度が向上した」との特定を有するのに対して、甲5方法発明においては、そのような特定がない点。
<相違点5-5>
本件特許発明2は、フィルム、シートまたはカプセルの形状に成形して、「冷却固化する工程」を有するとの特定があるのに対して、甲5方法発明においてはそのような特定がない点。
<相違点5-6>
本件特許発明2は、ゼラチンゲル組成物が、「含水」であり、含水ゼラチンゲル組成物100質量%中のゼラチンの割合が「20~50質量%」との特定を有するのに対し、甲5方法発明はそのような特定がない点。
事案に鑑みて、相違点5-3について検討する。
甲5方法発明においては、「タイプAゼラチンを33.2重量%、グリセロールを16.0重量%」の割合で配合しており、ゼラチン100質量部に対するグリセリンの割合は48.19質量部である。したがって、相違点5-3は実質的な相違点である。
甲5及び他の全ての証拠をみても、甲5方法発明において、相違点5-3に係るゼラチン100質量部に対するグリセリンを50質量部以上の割合で配合させる動機となる記載はない。
甲5の請求項1には、A型ゼラチンの配合量を20~40質量%の範囲とし、グリセロールを8~30質量%の範囲とすることは記載されているが、ゼラチンとグリセリンの比について言及するものではなく、甲5の記載に触れた当業者といえども、ゼラチン100質量部に対して、グリセリンを50質量部以上の割合で配合することは想起しない。また、甲5以外の他の証拠においても、そのような事項は記載されていない。
そして、本件特許発明2は、ゼラチン100質量部に対して、グリセリンを50質量部以上の割合で配合することにより、熱安定性(溶解時間の延長)及びゲル強度の向上という、甲5及び他の証拠に記載された事項からみて、当業者が予測できる範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
したがって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲5方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲5物発明とを対比する。
本件特許発明3と甲5物発明とは、上記イと同様の対応関係を有し、少なくとも、上記イと同様の相違点5-1ないし相違点5-6を有するところであり、同様に判断される。
よって、本件特許発明3は甲5物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由5についてのむすび
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第113条第2項に該当しない。
したがって、申立理由5の理由では、本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由6(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
(3)明確性要件の判断
本件特許の請求項1ないし2の記載は、それ自体に不明瞭な記載はなく、願書に添付した明細書の記載とも整合する。
したがって、本件特許発明1ないし2に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第4 6の主張について検討する。
請求項1ないし2の熱安定性及びゲル強度の向上については、本件特許明細書【0014】に、「本発明の方法によって得られるゼラチンゲル組成物の「溶解時間(Ts)」が、グリセリンを配合しないで調製される上記に対応するゼラチンゲル組成物(比較対照)の「溶解時間(To)」と比較して長い場合、当該ゼラチンゲル組成物は、グリセリンの配合により熱安定性が向上したと判断することができる」ことが記載されており、本件特許明細書【0028】に「本発明の方法によって得られるゼラチンゲル組成物の「ゲル強度(Hs)」が、グリセリンを配合しないで調製される上記に対応するゼラチンゲル組成物(比較対照)の「ゲル強度(Ho)」と比較して高い場合、当該尾ゼラチンゲル組成物は、グリセリンの配合によりゲル強度が向上したと判断することができる」と記載されている。
そして、本件特許明細書【0045】【表2】ないし【0050】【表6】の実施例・比較例においても、熱安定性及びゲル強度の向上がグリセリンを配合しないで調製されるゼラチンゲル組成物(比較対照)と比較して判断されることが示されており、熱安定性及びゲル強度の向上について、当業者は明確に把握することができる。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
7 申立理由7(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明の【0005】には、「本発明は、ゼラチンゲル組成物について熱安定性を向上させる方法を提供することを課題とする。言い換えると、本発明は熱安定性が向上されたゼラチンゲル組成物を製造する方法を提供することを課題とする。また本発明は、ゼラチンゲル組成物についてゲル強度を向上させる方法を提供することを課題とする。言い換えると、本発明はゲル強度が向上されたゼラチンゲル組成物の製造方法を提供することを課題とする。さらに本発明は、こうした良好な熱安定性とゲル強度を有するゼラチンゲル組成物を提供することを課題とする。」と記載されている。
本件特許の発明の詳細な説明の【0006】ないし【0011】には、課題を解決するための手段として、ゼラチンゲル組成物の製造に際してグリセリンを配合することにより、ゼラチンゲルの熱安定性、特に夏場の屋内温度を想定した40℃付近での熱安定性が向上することと、ゼラチンゲルのゲル強度が向上することを見出した旨が記載され、本件特許発明の各特定事項に対応する事項が記載されている。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0014】には熱安定性の向上の測定方法が、【0015】にはゼラチンの種類について、【0016】にはゼラチンのゼリー強度(ブルーム値)について、【0028】にはゼラチンの強度の測定方法がそれぞれ記載されている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0033】には実験で使用した各ゼラチンのゼリー強度と原料が記載され、【0037】ないし【0050】には、ゼラチン及びグリセリンを含有するゼラチンゲル組成物を具体的に調製し、これらのゼラチンゲル組成物が、グリセリンを配合せずに調製されたゼラチンゲル組成物に対し、熱安定性(溶解時間の延長度)及びゲル強度の向上がみられることを検証している。
(4)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0005】から、本件特許発明1ないし3の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、ゼラチンゲル組成物について熱安定性を向上させ、ゲル強度を向上させる方法を提供すること、そうしたゼラチンゲル組成物の製造方法を提供すること、良好な熱安定性とゲル強度を有するゼラチンゲル組成物を提供すること、である。
本件特許の発明の詳細な説明の【0006】ないし【0011】には、当該発明の課題を解決するための手段として、ゼラチンに対してグリセリンを所定量以上の割合で配合することにより、熱安定性及びゲル強度が向上することが記載されている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0037】ないし【0050】には、実施例、参考例及び比較例の対比により、ゼラチン100質量部に対して、グリセリン50質量部以上配合することにより、熱安定性(溶解時間の延長度)とゲル強度の向上がみられることが確認されている。
そうすると、当業者は、ゼラチンに対してグリセリンを所定量配合することによって、発明の課題を解決することができると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし3は、上記発明の課題を解決することができる特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、当然発明の課題を解決できるものである。
したがって、本件特許発明1ないし3は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、発明の詳細な説明により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1ないし3に関して、特許請求の範囲はサポート要件に適合する。
(5)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第4 7の主張について検討する。
特許異議申立人が特許異議申立書第62~63頁で提示している実験結果のSample No.5~7、8~10は、ゼラチンゲル組成物中のゼラチン含有割合がSample No.1~4とは異なるものであり、本件特許発明1ないし3に対する比較例として適切でない。
したがって、当該実験結果に依拠する特許異議申立人の主張は、採用することはできない。
第8 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700374