特許異議申立
2023-700316
負極活物質、負極および二次電池
- 審判番号
- 2023-700316
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-515978
- 登録番号
- 7143943
- 請求日
- 2023年03月27日
- 審決日
- 2023年08月17日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社村田製作所
- 【権利者代理人】杉浦 正知
- 【権利者代理人】杉浦 拓真
- 【異議申立人】横山 佳孝
- 審判長/審判官
- 審判長 篠原 功一
- 審判官 山田 正文
- 審判官 岩田 淳
- 分類
- P1651.121-Y (H01M) / P1651.536-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7143943号発明「負極活物質、負極および二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7143943号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7143943号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、2020年4月9日(優先権主張2019年4月26日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和4年9月20日にその特許権が設定登録され、令和4年9月29日に特許掲載公報が発行された。
その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 3月27日 :特許異議申立人横山佳孝(以下、「申立人」という。)による請求項1-5に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年 5月25日付け:取消理由通知
令和5年 7月27日 :特許権者による意見書の提出
第2 本件発明
特許第7143943号の請求項1ないし5の特許に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ケイ素系材料を含有する第1の負極活物質粒子を含み、
0.6V(vs.Li/Li+)の状態の前記第1の負極活物質粒子をX線光電子分光法により測定して得られるSi2pスペクトルが、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、
前記ピークの半値幅が、1.5eV以上8.0eV以下である負極活物質。
【請求項2】
0.6V(vs.Li/Li+)の状態の前記第1の負極活物質粒子をX線回折法により測定することにより得られるX線回折パターンが、結晶性ピークを有していない請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
炭素材料を含有する第2の負極活物質粒子をさらに含む請求項1または2に記載の負極活物質。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載された前記負極活物質を含む負極。
【請求項5】
正極と、負極と、電解質とを備え、
前記負極が、請求項1から3のいずれかに記載された前記負極活物質を含む二次電池。」
第3 取消理由の概要
当審において、請求項1ないし5に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1(サポート要件)本件特許は,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
・請求項1ないし5について
請求項1には「ケイ素系材料を含有する第1の負極活物質粒子を含み、0.6V(vs.Li/Li+)の状態の前記第1の負極活物質粒子をX線光電子分光法により測定して得られるSi2pスペクトルが、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、前記ピークの半値幅が、1.5eV以上8.0eV以下である負極活物質」と記載されており、ケイ素系材料の組成や負極活物質中のケイ素系材料の含有量は何ら特定されていないから、請求項1に係る発明は、負極活物質粒子としてケイ素系材料をわずかでも含めばよいものと解される。
これに対し、発明の詳細な説明には、実施例としては、【0073】ないし【0089】に実施例1~10及び比較例1~4として、70質量%のケイ素化合物(第1の負極活物質粒子)、15質量%のケッチェンブラック(第2の負極活物質粒子)および15質量%のポリアクリル酸ナトリウム(バインダー)を混合して負極合剤(当審注:【0073】の「正極合剤」は「負極合剤」の誤記と認める。)を調製した例が記載されるのみである。
ここで、電極活物質の組成が異なれば放電負荷特性を含む電気特性が異なるものとなることが技術常識であることを考慮すれば、70質量%のケイ素化合物(第1の負極活物質粒子)、15質量%のケッチェンブラック(第2の負極活物質粒子)とした負極活物質以外のケイ素系素材の含有量がわずかな負極活物質においても、Si2pスペクトルが請求項1に記載された特性であるケイ素系材料を用いるのみで上記課題を解決できると認識することができるとは認められない。
以上のことを踏まえると、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えて特許を請求するものであるといえ、請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2ないし5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。
第4 取消理由通知において採用しなかった申立理由の概要
取消理由通知において採用しなかった申立人の特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
1 申立理由1 特許法第29条第2項(進歩性)について
本件請求項1、4、5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明ないし甲第3号証に記載された発明のいずれかから、当業者が容易に発明することができたものである。本件請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明ないし甲第3号証に記載された発明のいずれかと、甲第4号証に記載された技術事項とに基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。また、本件請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明ないし甲第3号証に記載された発明のいずれかと、甲第1号証に記載された技術事項または甲第3号証に記載された技術事項とに基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
よって、請求項1ないし5に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
2 申立理由2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本件特許明細書の実施例として記載されているのは、「70質量%のケイ素化合物(第1の負極活物質粒子)、15質量%のケッチェンブラック(第2の負極活物質粒子)および15質量%のポリアクリル酸ナトリウム(バインダー)を混合した1種類だけであり、しかも、そのケイ素化合物についても、いかなる元素が含有されたものについて試験したのか何ら記載がなく、ケイ素単体については試験すらしていない。それにもかかわらず、本件特許の請求項1は、ケイ素単体やあらゆるケイ素化合物をも含み、また、これら以外の導電材等との組合せについてもあらゆるものを含む記載となっている。
また、本件特許明細書の実施例は、「第1の負極活物質粒子」と「第2の負極活物質粒子」との混合物について試験しているのであり、「第2の負極活物質粒子」が含有されていない負極活物質については実施例としては記載がなく、課題を解決できるか否か不明である。
このように、本件特許の請求項1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えて請求していると認められ、サポート要件違反である。
また、請求項3には炭素材料を含有する第2の負極活物質粒子をさらに含むと記載されているが、どのような炭素材料であるのか、どの程度含有するのかを特定する記載はなく、同様にサポート要件違反である。他の従属請求項も同様にサポート要件違反である。(特許異議申立書第21頁)
3 申立理由3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
本件特許明細書の説明からは、「ケイ素系材料」としてSiを含有すれば、どのような元素とのどのような組合せでもよいように読め、「ケイ素系材料」をわずかでも含有してさえいればよいとするのであれば、請求項1には、負極活物質として機能しないものも含まれてしまうと解される。
本件特許明細書には、「ケイ素系材料」について具体例が記載されておらず、当業者がこれを再現しようとしても実施することができない。
また、実施例の結果からは、ピーク位置やピーク半値幅の範囲は二次充電Cレートや電圧も影響すると思われるが発明の詳細な説明には記載がない。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、Siがどのような元素とどの程度の割合で含有させれば、負極活物質として機能するかについて説明がないのはもちろん、実施例の結果から考察すると、ピーク位置やピーク半値幅の範囲が二次充電Cレートや電圧も影響すると想定されるのに、これらについての説明がなく、本件特許明細書は、当業者が、本件特許明細書の説明に基づいて請求項に係る発明を実施しようとしても、どのように実施するかを理解できないから、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。請求項1に従属する他の請求項も同様に実施可能要件違反である。(特許異議申立書第22ないし23頁)
4 申立理由4 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
本件特許の請求項1には、負極活物質は、0.6Vの状態でのSi2pスペクトル値が特定の範囲内とされており、0.6Vの状態以外の条件については記載されていない。また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、Si表面形成充電の条件をサンプル毎に設定することにより0.6Vの状態におけるSi2pスペクトル値を変化させた(【0077】等)こと、及びケイ素系材料を含有する第1の負極活物質に対するSi表面形成充電の条件を制御する(【0095】等)こと、などの記載があり、対象特許の0.6Vの状態におけるSi2pスペクトル値を満たすためには、従来の負極作製工程に加えて上記の条件を設定する必要があると考える。
さらに、請求項1記載の0.6Vの状態について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、0.6Vの状態と、課題記載の放電負荷特性の向上との関係が不明確であり、なぜ0.6Vの状態で所定のSi2pスペクトル値を満たすことが良いのかの説明もない。
したがって、請求項1は、発明特定事項の記載が不明確であり、請求項に係る発明の範囲が不明確である。請求項1に従属する他の請求項も同様に明確性要件違反である。(特許異議申立書第23頁)
[証拠]
甲第1号証:An XPS/AES comparative study of the surface behaviour of nano-silicon anodes for Li-ion batteries, Etienne Radvanyi、J. Anal. At. Spectrom.,2014, 29, 1120-1131, JAAS, Published on 19 March 2014
甲第2号証:Surface-modified silicon nanowire anodes for lithium-ion batteries, Wanli Xu, Sri Sai S. Vegunta, John C. Flake 196号、8583-8589, Journal of Power Sources 196 (2011) 8583-8589
甲第3号証:特開2012-256539号公報
甲第4号証:Spring-8 利用研究成果集, 2015年3巻2号, 363~365頁,Si系負極の充放電過程解析手法の探索,(独)物質・材料研究機構, Published: July 21, 2015
第5 甲各号証の記載
1 甲第1号証について
(1)記載事項
甲第1号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。訳として、特許異議申立書第6ないし9頁に記載された翻訳和文を記載した。なお、下線は当審で付与した。
ア 「An XPS/AES comparative study of the surface behaviour of nano-silicon anodes for Li-ion batteries」(第1120頁 表題)(訳:リチウムイオン電池用ナノシリコンアノードの表面挙動に関するXPS/AES比較研究)
イ 「2.2 Electrochemistry
A Si based slurry made of an aqueous mixture of nano-silicon (65 wt%), carbon fibers (25 wt%), and Carboxy Methyl Cellulose
(CMC) (10 wt%, Mw = 250 kg mol-1, D.S. = 0. 7) was coated on a copper foil current collector. The loading of the electrode was 2 mg of Si per cm2. Electrodes were then cut into 14 mm diameter disk shapes, dried for 48 h and moved into an argon-filled glove box. CR2032 coin cells were assembled using a lithium metal foil as the counter electrode, a Celgard ○R(当審注:○Rは丸中にR。以下同様。)2400 separator, a Viledon ○R propylene foil wetted by a liquid electrolyte (1 M LiPF6 in ethylene carbonate (EC)-diethyl carbonate (DEC) (wt% of 1: 1) ) and a working electrode.
Galvanostatic charge and discharge experiments were carried out with a current density of 0.3 mA cm-2 (corresponding to a C/20 rate based on a 3600 mA h g-1 capacity) at 25 °C using a battery tester (Arbin ○R). The cut-off potentials of charge and discharge were respectively 1.2 and 0.005 V vs. Lt+ /Li.
After cycling, the cells were relaxed until the derived potential was lower than 1 mV h-1. Si electrodes were then removed from the coin cells in the glove box and washed twice with dimethyl carbonate.
2.3 XPS characterization
Electrodes were transferred directly from the glove box to the XPS Fast Entry Lock (FEL) room using a sealed transfer vessel to avoid exposure to air. XPS measurements were carried out with an Omicron MXPS spectrometer using focused monochromatized Al Ka radiation (hv = 1486.6 eV). The pass energy was set to 20 eV allowing an energy resolution of approximately 400 meV. No charge neutralization was used. The binding energy scale was calibrated from the hydrocarbon C ls peak at 285 eV.」(第1121頁左欄第32行ないし同頁右欄痔10行)
(2.2電気化学
ナノシリコン(65wt%)、カーボン繊維(25wt%)、カルボシキメチルセルロース(10wt%、Mw=250kg/mol、D.S.=0.7) を水で混合して作製されたシリコンベースのスラリを銅製の集電箔に塗った。電極の塗布量はlcm2当たりシリコン2mgとした。その電極は直径14mmの円板状に切り出し、48時間乾燥し、アルゴンガスが充填されたグローブボックスに移された。CR2032 コインセルは、対向電極としてリチウム金属箔、Celgard○R2400のセパレーター、電解質を含んだViledon○Rプロピレンフォイル、そして、作用電極で構成された。使用された電解質は、重量比で1:1のエチレンカーボネイトとジエチルカーボネイト中に1モルのLiPF6を入れた構成である。
定電流充電と放電はバッテリーテスター(Arbin○R)を使用して、25℃で0.3mA.cm-2(3600 mA h g-1の容量に基づいたC/20レート相当)の電流密度で行った。充放電のカットオフ電位は、それぞれ、1.2および0.005 V vs. Lt+ /Liであった。繰り返し充放電後、セルは電位の導出が1 mV h-1より下がるまで放電させた。次に、シリコン電極はグローブ内でコインセルから取り出され、ジメチルカーボネイトで2回洗浄した。
2.3 XPS特性評価
電極は、空気に晒すことを避けるために密閉移送容器を用いて、グローブボックスからXPSのファストエントリーロック(FEL)室に直接移した。XPS測定は、オミクロン製のMXPS分光計を用いて、収束し単色化されたAlのKa線(hv = 1486.6 eV)を使用して行われた。
通過エネルギーは20eVに設定され、約400meVのエネルギー分解能を実現した。電荷の中和は行わなかった。結合エネルギースケールは、285eVの炭化水素C1sで較正された。)
ウ 「3. Results
The first lithiation/delithiation (until reaching respectively 0.005 V and 1.2 V at C/20 rate) of an electrochemical cell built with the Si electrode vs. metallic lithium is shown in Fig. 1. The lithiation curve exhibits a plateau at 0.08 V which is in good agreement with previous results obtained for Si particles.8 At the end of lithiation, the capacity is equal to 3800 mA h g-1, slightly higher than 3580 mA h g-1, corresponding to the formation of Li15Si4. It could be easily explained by the consumption of electrons, under 1 V, to reduce the electrolyte and form the SEI(this step is highlighted in Fig. S1). Upon delithiation, a capacity of 3500 mA h g-1 is restored. The electrochemical steps A, B, C, and D, indicated by black points with the associated capacities, represent the samples analyzed by XPS and AES. For each electrode, the Open Circuit Voltage (OCV), which is here the potential obtained after relaxation, corresponding to a derived potential lower than 1 mV h-1, is also reported. Thus, (i) electrode A is the pristine sample, (ii) electrode B corresponds to the beginning of the lithlation, (iii) electrode C can be associated with the end of the lithiation process, and (iv) electrode D can be related to the end of the delithiation step.」(第1121頁右欄第26行ないし第1122頁左欄第14行)
(3. 結果
Si電極と金属リチウムを用いた電気化学セルの最初のリチウム化/脱リチウム化(C/20レートでそれぞれ0.005 Vと1.2 Vに達するまで)を図1に示す。リチウム化曲線は0.08 Vでプラトーを示し、これはSi粒子で得られた以前の結果とよく一致している。リチウム化終了時の容量は3800 mA h g-1に等しく、Li15Si4の形成に対応する3580 mA h g-1よりわずかに高い。これは、電解質を還元してSEIを形成するために、1 Vの電圧下で電子が消費されたためと容易に説明できる(このステップは図S1でハイライトされている)。脱リチウム化すると、3500 mA h g-1の容量が回復する。電気化学的ステップA、B、C、Dは、XPSとAESによって分析された試料を表し、関連する容量とともに黒い点で示されている。各電極について、開回路電圧(OCV)(ここでは緩和後に得られる電位であり、1 mV h-1より低い導出電位に対応)も報告している。したがって、(i)電極Aは原始試料、(ii)電極Bはリチウム化の開始に対応、(iii)電極Cはリチウム化プロセスの終了に対応付けることができ、そして、(iv)電極Dは脱リチウム化ステップの終了に対応することができる。)
エ 「3.1 Electrode A (pristine)
Fig. 3A and 4A show the spectra corresponding respectively to Si 2p, C ls, and O ls core peaks and Si LVV, C KLL, and O KLL Auger transitions at the surface of the pristine electrode. Si, C, and O are identified with both techniques. The XPS data presented here are in good agreement with the results obtained by Philippe et al.26 Concerning silicon, the spectrum displays a first Si 2p peak (composed of 2p3/2 and 2p1/2 due to spin-orbit coupling) assigned to bulk silicon (~99.5 eV in grey) and another one assigned to surface oxide SiO2 (~103.8 eV in red).
Some other Si oxides may also be present (binding energy at around ~102 eV) but in very small quantities. The C ls spectrum shows several components. The narrow peak at ~283.8 eV corresponds to C-C bonds associated here with the carbon fibers. The two peaks at ~287 and ~288.5 eV (respectively blue and red) can be attributed to C-O and O=C-O environments of carbon atoms in the CMC binder. Finally, the component at 285 eV is assigned to hydrocarbon surface contamination. The O ls spectrum is composed of one major component at ~532.5 eV associated with O environments in the CMC binder and in the native oxide SiO2.」(第1123頁左欄第11行ないし同頁右欄第11行)
(3.1電極A(充放電前)
図3A) と4A) は、充放電前の電極の表面のSi2p、C1s、O1sのコアピークとSiLVV、CKLLのオージェ遷移にそれぞれ対応するスペクトルを示す。Si、CとOは両方の測定方法で識別される。XPSの結果はPhilippeらによって得られた結果と良い一致を示す。シリコンに関して、最初のSi2pのピーク(スピン軌道結合により2p3/2と2p1/2で構成されている)は、バルクシリコン(グレイで示された~99.5eV)と表面が酸化したSiO2(赤で示された~103.8eV) に分類される。
いくつかのSi酸化物(結合エネルギーが~102eV当たり)も存在する可能性はあるが、非常に少量である。C1sスペクトルはいくつかの成分を示す。~283.8eVのナローピークは、炭素繊維に関連付けられるC-C結合に対応する。~287と~288.5eVの二つのピーク(それぞれ青と赤で示す)では、CMCバインダー中のカーボン原子のC-OとO=C-O に起因する可能性がある。最後に、285eVの成分は表面の汚染物であるハイドロカーボンに関連付けられる。O1sは、CMCバインダーと自然酸化物のSiO2の中のOに関連付けられる~532.5eVの一つの主要成分で構成されている。)
オ 「3.2 Electrode B (after a capacity of 360 mA h g-1)
Fig. 3B and 4B show the spectra corresponding respectively to Si 2p, C ls, O ls, and Li ls core peaks and Si LVV, C KLL, O KLL, and Li KLL Auger transitions at the surface of electrode B, after a capacity of 360 mA h g-1.The elements Si, C, O, Li, F, and P are detected (XPS and AES spectra corresponding to F and P are represented in the ESI, Fig. S2) by using both techniques. The presence of C, O, Li, F, and P can be directly related to the reduction of the electrolyte and the formation of the SEI at the electrode surface. These phenomena have been widely reported to occur below 1 V when the electrolyte is composed of LiPF6 dissolved in carbonates.49
The C ls signal of carbon fibers is detected but the relative intensity of this contribution is much lower than that of the pristine electrode, confirming that a new layer has formed at the electrode surface. New C environments are revealed, particularly CO3 at ~290 eV which can be attributed to new carbonaceous species including Li2CO3 and lithium alkyl carbonates, actually reported as SEI components for graphite electrodes.49
One major peak is observed for O ls at ~532 eV, in good agreement with carbonates and organic species.50 Interestingly, a peak is detected at ~528 eV, which can be associated with Li2O.26,51 The peak at ~52 eV highlighted by a red spot observed on the Li ls spectrum may also be related to the presence of Li2O. However, as there are only a few references in the literature,51-53 this attribution is discussed later on. In addition, F ls(Fig.S2) shows two components which can correspond to (i) LiPF6 salt(at ~687.5 eV in red) remaining at the electrode surface and (ii) LiF (at ~685.5 eV in blue) resulting from the reduction of the salt anion PF6-. Si 2p shows 4 components. A first contribution is found at 98.5 eV which can be attributed to LixSi.26,54The detection of this phase indicates that lithiation has already started after a capacity of 360 mA h g-1. A second peak at ~99.5 eV is observed suggesting that there is still unreacted bulk silicon at the electrode surface. Two oxidized forms of Si are detected as well respectively at ~104 eV and ~102.5 eV. They can be attributed respectively to the SiO2 found initially and to a new phase LixSiOy already observed at the silicon electrode surface.26,27,33,55」(第1124頁右欄15行ないし第1125頁左欄第36行)
(3.2電極B(360 mAh.g-1容量後)
図3B)と4B)は、360mAh.g-1の容量後、電極B表面のSi 2p, C1s, O1s, Li1sのコアピークとSi LVV, C KLL,O KLL、Li KLLのオージェ遷移に対応するスペクトルを示す。Si, C, O, Li, F, とPの元素は、二つの測定法により検出された。(FとPに対応するXPSとAESスペクトルは、図S2の補助情報に示した。) C, O, Li, F, とPの存在は、電解質の還元と電極表面のSEI形成に直接関連している可能性がある。これらの現象は、電解液が炭酸塩に分解してLiPF6で構成されるとき、広く1V以下で生じると報告されている。
カーボンファイバーのC1sシグナルは、充放電前の電極の値より、はるかに低く、新しい層が電極表面に形成されたことが確認された。新しいCの状態、特に、~290eVのCO3が明らかになった。これは、実際にカーボン電極においてSEI成分として報告されている Li2CO3とリチウムアルキルカーボネイト含んだ新しい炭素種に起因する可能性がある。
酸素において、一つの中心となるピークは532eV付近のO1sであり、炭酸塩と有機種と良く一致する。興味深いことは、およそ528eVで検出されたピークは、LiO2と関連付けることができる。Li1sスペクトルとして観察された赤い点で示された52eVのピークは、Li2Oの存在と関連付けることができる。しかし、これに関する文献はわずかな文献しかないので、この帰属はあとで議論する。加えて、F1s(図S2)は、電極表面の残っているLiPF6塩(赤で示した687.5eV)に対応する成分と塩陰イオンPF6の還元によるLiF(青で示した685.5eV)の成分の二つからなる。Si 2pは4つの成分から形成されている。第一は、LixSiに関連付けられる98.5eVである。この相の検出は、リチウム化が360mAh.g-1の容量後に既に始まっていること示す。第二のピークは99.5eVで、電極表面にまだ反応していないバルクのシリコンが残っていることを示す。Siが酸化した104eVと102.5eVの二つの相が検出された。それらは、最初に見つかったSiO2とシリコン電極表面で既に観察されたLixSiOyの新しい相にそれぞれ関連付けることができる。)
カ 「3.3 Electrode C (after a capacity of 3800 mA h g-1)
Fig.3C and 4C show the spectra corresponding respectively to Si 2p, C ls, O ls, and Li ls core peaks and Si LVV, C KLL, O KLL, and Li KLL Auger transitions at the surface of electrode C, after a capacity of 3800 mA h g-1. Si is not observed by using both XPS and AES indicating that the SEI layer has become thicker with lithiation. Again, using QUASES○R software, a minimal thickness of the SEI at the Si particle surface can be determined. For a large range of organic materials, IMFPs of electrons with a kinetic energy of 1386 eV(photoelectrons emitted from Si 2p) and 100 eV (Auger electrons from Si LVV) are found to be respectively 40 and 7Å, leading to a minimal thickness of around 12 nm. The increase of the thickness is confirmed by the decrease of the signal associated with the carbon fibers on the C ls spectrum compared to Fig. 3B. The general shape of C ls, O ls, and Li ls spectra is similar to the one obtained from electrode B. Only small fluctuations are observed suggesting that the SEI composition is rather stable upon lithiation. However, the increase of the peak attributed to Li2O both on the O ls spectrum at ~528 eV as well as on the Li ls spectrum at ~52 eV is clearlv visible.」(第1126頁左欄第15行ないし同頁右欄第13行)
(3.3電極C(3800 mAh.g-1容量後)
図3C)と4C)は、3800mAh.g-1容量後の電極C表面のSi2p、C1s、O1s、Li1sのコアピークとSi LVV、C KLL、O KLL、Li KLLのオージェ遷移にそれぞれ対応するスペクトルを示す。SiはXPSとAESの両方の分析で見つからなかった。それは、SEI層がリチウム化で厚くなったことを示唆している。Quases○Rソフトに基づいて、シリコン粒子表面のSEIの最小厚さを決めることができる。広範囲の有機材料において、1386eV(Si2pから放出される光電子)と100eV(SiLVVから放出されるオージェ電子)の運動エネルギーにおける電子のIMFP(非弾性平均自由行程)は、それぞれ40と7Åであることが分かる。そこから、12nmの最小厚さが導かれる。この厚さの増加は、図3B)と比較して、カーボン繊維によるC1sスペクトルの減少によって確かめられる。C1s、O1s、Li1sのスペクトルの一般的な形は、電極Bから得られる形と同様である。小さな変動のみが観察され、SEI組成は、リチウム化時にかなり安定していることを示している。ただし、52eVのリチウムのLi1sはもちろん、528eVのO1sスペクトルの両方ともLiO2に関連したピークの増加が、明らかに確認できる。)
キ 「3.4 Electrode D (after a complete electrochemical cycle)
Fig. 3D and 4D show the spectra corresponding respectively to Si 2p, C ls, O ls, and Li ls core peaks and Si LVV, C KLL, O KLL, and Li KLL Auger transitions at the surface of electrode D, after a complete electrochemical cycle. A Si signal is observed on the Si 2p spectrum indicating that the SEI thickness has decreased compared to electrode C, associated with a fully lithiated state. This result is confirmed by the increase of the signal associated with the carbon fibers on the C ls spectrum. The other components of the C ls spectrum are the same as that observed at the surface of electrodes B and C: CO3, O=C-O, C-O, C-C, and C-H. The major peak at ~532 eV corresponding to carbonates and organic species is detected on the O 1s spectrum. Li2O is detected neither on the O ls spectrum nor on the Li ls spectrum. No change is observed on the F ls spectrum(Flg.S5). The analysis of the Si 2p spectrum reveals the presence of only two components: (i) a peak corresponding to bulk silicon at ~99.5 eV and (ii) a peak at ~102.5 eV corresponding to a LixSiOy phase, as seen for electrode B. It is interesting to note that (i) SiO2 is not seen at all and (ii) no peak at 98.5 eV is detected indicating that at the end of the delithiation, no Li remains alloyed with Si at the particle surface.」(第1126頁右欄第32行ないし第1127頁左欄第17行)
(3.4電極D(完全な電気化学サイクル後)
図3D)と4D)は、完全な電気化学サイクル後の電極D表面のSi2p、C1s、O1s、Li1sのコアピークとSiLVV、CKLL、OKLL、LiKLLのオージェ遷移にそれぞれ対応するスペクトルを示す。Siシグナルは、SEIの厚さが電極Cと比較して減少し、完全に初期化してリチウム化したSi2pスペクトルを示している。この結果はC1sスペクトルの炭素繊維に関連付けられた信号の増加で確認される。C1sスペクトルの他の成分は、電極B とCの表面で観察されたCO3、O=C-O、C-、C-CとC-Hと同じである。炭素塩と有機種に対応する532eV付近の主なピークは、O1sスペクトルで検出される。LiO2は、O1sでもLi1sでも検出されない。F1sスペクトル(図S5)に変化は観察されない。Si2pスペクトルの解析から、二つの成分の存在が示された。一つは、99.5eVのバルクシリコンに対応するピークで、もう一つは、電極Bで見られたLixSiOyに対応する102.5eVのピークである。興味深いことは、SiO2に対応するピークは全く見られず、脱リチウム化の終わりに、粒子表面でLiがSiと合金化して残っていることを示す98.5eVのピークが検出されないことである。)
ク 「
[図:0001401686000001.jpg]
」
(C/20レートでの0.005Vから1.2Vまでの間の、Si電極と金属リチウムセルの最初のリチウム化/脱リチウム化サイクル。XPSとAESによって分析された試料は黒い点でハイライトされる。各電極の容量と開回路電圧(OCV)つまり緩和後に測定された電位とが表示される。)
ケ 「
[図:0001401686000002.jpg]
」
(図3シリコン電極の表面で得られたXPSスペクトル(Si2p、C1s、O1s とLi1sのコアピーク):(A)充放電前の電極、(B) 360 mAh.g-1の容量後、(C)3800 mAh.g-1の容量後、(D)完全な電気化学的なサイクルの終了後)
(2)記載される技術事項
上記(1)の摘記事項から、甲第1号証には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
ア 上記(1)アの記載によれば、甲第1号証には、リチウムイオン電池用ナノシリコンアノードが記載されているところ、上記(1)イの「2.2電気化学」の欄の記載によれば、「ナノシリコン(65wt%)、カーボン繊維(25wt%)、カルボシキメチルセルロース(10wt%、Mw=250kg/mol、D.S.=0.7) を水で混合して作製されたシリコンベースのスラリ」は銅製の集電箔に塗られ、リチウムイオン電池用ナノシリコンアノードである電極を形成するといえる。
イ 上記(1)イの「2.2電気化学」の欄の記載より、甲第1号証においてXPS測定の対象は、リチウム金属箔の対向電極、セパレーター、重量比で1:1のエチレンカーボネイトとジエチルカーボネイト中に1モルのLiPF6を入れた電解質を含んだプロピレンフォイル、上記「ア」の電極である作用電極からなるコインセルである。
ウ 上記(1)ケの図3のB)より、360 mAh.g-1の容量後のSi2pスペクトルのピークがSiで99.6eV(半値幅l.0eV)、SiO2で104.0eV(半値幅2.8eV)であることが読み取れ、また、図3のD)より、完全な電気化学的なサイクルの終了後のSi2pスペクトルのピークがSiで99.6eV(半値幅1.1eV)、SiO2で102.7eV(半値幅1.7eV)であることが読み取れる。
(3)甲1発明
上記アないしウの技術事項を総合勘案すると、甲第1号証には、「シリコンベースのスラリ」として次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「ナノシリコン(65wt%)、カーボン繊維(25wt%)、カルボシキメチルセルロース(10wt%、Mw=250kg/mol、D.S.=0.7) を水で混合して作製されたシリコンベースのスラリは、銅製の集電箔に塗られ、リチウムイオン電池用ナノシリコンアノードである電極を形成するものであり、
リチウム金属箔の対向電極、セパレーター、重量比で1:1のエチレンカーボネイトとジエチルカーボネイト中に1モルのLiPF6を入れた電解質を含んだプロピレンフォイル、上記電極である作用電極からなるコインセルを形成してXPS測定を行った場合、
360 mAh.g-1の容量後のSi2pスペクトルのピークがSiで99.6eV(半値幅l.0eV)、SiO2で104.0eV(半値幅2.8eV)であり、完全な電気化学的なサイクルの終了後のSi2pスペクトルのピークがSiで99.6eV(半値幅1.1eV)、SiO2で102.7eV(半値幅1.7eV)である
シリコンベースのスラリ。」
2 甲第2号証について
(1)記載事項
甲第2号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。訳として、特許異議申立書第9ないし11頁に記載された翻訳和文を記載した。なお、下線は当審で付与した。
ア 「Surface-modified silicon nanowire anodes for lithium-ion batteries」(第8583頁 表題)
(訳:リチウムイオン電池用表面改質シリコンナノワイヤーアノード)
イ 「2.2. Electrochemical measurements
Silicon nanowire anodes were assembled in lithium-ion half cells with lithium foils as reference and counter electrodes. The electrolyte consisted of 1 M LiPF6 (lithium hexafluorophosphate) in a 1:1 volume ratio of ethylene carbonate (EC) and dimethyl carbonate (DMC). Cyclic voltammetry was performed from 0.01 to 1.5 V versus Li/Li+ at scan rate of 0.05 mVs-1 and results were normalized by geometric anode surface area. Charge/discharge measurements for composite anodes were recorded at an approximate rate of C/10 over potential range from 0.01 to 1.5 V versus Li/Li+. Capacity data were normalized by silicon weight within composite anodes by subtracting graphite from the total anode capacity. All electrical measurements were carried out in the dry box using a Princeton PAR2273 potentiostat.
2.3. SEI characterization
Silicon nanowire anodes were rinsed with DMC and dried in argon prior to surface characterization. The anodes were then transferred to analytical tools in sealed polyethylene containers filled with argon. SEM images were obtained using a Hitachi S-3600N variable pressure SEM system. Ex situ Fourier transform infra-red (FT-IR) spectroscopy in attenuated total reflectance (ATR) mode was performed using a Nicolet 6700 FT-IR system (resolution of 2 cm-1 for 128 scans using mercury-cadmium-telluride detector).
Ex situ X-ray photoelectron spectroscopy (XPS) data were collected from PerkinElmer PHI 5100 system using Al Kα X-ray source with passing energy of 20 eV. Samples were sputtered with argon inside the XPS chamber to remove surface contaminants. AFM nano-indentation methods were used to determine the relative mechanical stiffness of the SEI layer on nanowire anodes. Silicon nanowire anodes were charged and discharged for 10 cycles to generate the SEI film for AFM analyses. The nanowire anodes with SEI layers were slowly contacted with a non-conductive silicon nitride tip using an Agilent 5500 AFM tool operated in contact mode. The tip approached the surface and was retracted at a constant tipspeed of 100 nm s-1. Deflection was measured as a function of Z-distance from -1000 to +1000 nm using Picoscan software console. All SEM, FT-IR, XPS and AFM analyses were obtained in fully discharged condition.」(第8584頁左欄第36行ないし同頁右欄第15行)
(2.2 電気化学的測定
シリコンナノワイヤーアノードは、リチウム箔を参照電極及び対電極として使用され、リチウムイオンハーフセルに組み立てられた。電解液は、1:1の体積割合のエチレンカーボネイトとジメチルカーボネイト中に1モルのLiP6を入れて作られる。サイクリックボルタンメトリーは、0.05mVs-1のスキャンレートでLi/Li+に対して0.01~1.5Vで実行された。結果は、幾何学的アノード表面積によって規格化された。複合アノードの充電/放電測定は、Li/Li+に対して0.01から1.5Vの電位範囲にわたってC/10の近似レートで記録された。容量データは、全アノード容量からグラファイト分を差し引くことにより、複合アノード中のシリコン重量で規格化した。全ての電気測定は、Princeton PAR 2273ポテンショスタットを使って、ドライボックスの中で行った。
2.3 SEI(Solid electrolyte interphase;固体電解質界面)の特性評価
シリコンナノワイヤーアノードは、ジメチルカーボネイトで洗浄した。そして、表面特性評価のために、アルゴン中で乾燥させた。その後、アノードは、アルゴン充填し密閉したポリエチレン容器にいれて、分析装置に移した。SEM像はHitachi S-3600N圧力可変SEMシステムを使って撮影した。フーリエ変換赤外分光法(減衰全反射(ATR)モードのフーリエ変換赤外分光法(FT-IR))は、Nicolet 6700 FT-IRシステム(水銀・カドミウム・テルライド検出器を使用して128回スキャシを行い分解能2cm-1)で測定を行った。XPS分光は、PerkinElmer PHI 5100システムを用いて通過エネルギー20eVでAlのKαX線を用いて行った。試料表面の汚染は、XPSチャンバー内でアルゴンによってスパッタして除去した。AFM ナノインデンテーション法は、ナノワイヤーアノード上のSEIの相対的な機械的剛性を求める為に使用した。シリコンナノワイヤーアノードは、AFM分析のためのSEIフィルムを作るために10サイクルの充放電を行った。Agilent 5500 AFMを用いて、SEI層を形成したナノワイヤーアノードに、接触モードで非導電性のSiC製チップをゆっくりと接触させた。チップは表面に近づき、100nms-1の一定速度で引っ込める。Picoscanソフトウエアコンソールを利用して、-1000nm から+1000nm までのZ 距離の関数として変位を測定した。すべてのSEM、FT-IR、XPS およびAFMの測定は、完全に放電された状態で行われた。)
ウ 「3.4.2. XPS analyses
Carbon, oxygen, fluorine, and silicon XPS spectra of silicon nanowire anodes after the first cell cycle are shown in Fig.6. Peaks are assigned using standards or previous silicon and graphite anode XPS studies [7,13,20].
The C (1s) spectra of silicon anodes with methylatedtermination in Fig.6 shows a broad peak from 286.2 indicating the presence of C-O, C=O in carbonate and/or Si-C of Si-CH3 surface.The O (ls) peak at 534.2 eV can be attributed to hydrocarbons. The strong peak at approximately 688.2 eV for F (1s) suggests LiPF6 residues. As with the FT-IR analysis, the XPS data indicate the surface of methylated silicon anodes is relatively unreactive and primarily includes electrolyte residuals in addition to the grafted layer.
T he C (ls) spectra of hydride-terminated silicon anodes (Fig.6 bottom spectra) shows a shoulder from 286 to 288 eV suggesting the presence of C-O, C=O in carbonates, while a peak at 291 eV corresponds to organoflourine compounds. The O (1s) peak at 532.8 eV can be attributed to O in carbonates. A strong peak at 686.4 eV for F (ls) suggests C-F bonds from fluorocarbons and LiF, which are consistent with C (ls) spectrum.
When 5% trimethoxymethylsilane is added to electrolyte with hydride-terminated nanowires, the C (1s), O (1s) and F (1s) spectra of the SEI (Fig.6 middle spectra) were similar to the hydrideterminated silicon anodes without any additives suggesting similar composition for C, O and F species. As shown in Fig.7, the SEI is enriched with Si species. Bare (uncycled) silicon nanowire Si (2p) spectra typically show two peaks at 99.2 and 103.6 eV corresponding to silicon and native oxides; while that of silicon anodes cycled with trimethoxymethylsilane additives show these peaks are shifted to 99.3 and 104.3 eV indicating Si-O-Si and Si-O-C bonds are formed when silanes are added to the electrolyte.
Significant quantities of fluorocarbons are observed in the SEI on silicon anodes both with and without trimethoxymethylsilane additives in this work as well as reported in previous studies [7,20]. Fluorocarbons are associated with silicon anodes (not typically observed at graphite anodes) and indicate reactions associated with both silicon and electrolyte. Yen et al. have proposed that fluorocarbon compounds are generated from the reactions between the SiF6-2 and hydrocarbons [20]; however, it seems unlikely that SiF6-2 species are capable of transferring fluorine to hydrocarbons (△Gr= -525.7 kcal mol-1 [381]). A more likely scenario would indicate that silicon participates in fluorocarbon formation. It is possible alkyl carbonate radicals may react with fluorophosphates to generate fluorocarbon compounds rather than bonding with silicon surfaces as is possible with graphite.
Although the anode performance may be strongly affected with trimethoxymethylsilane additives (as described in the next section), FT-IR spectra and XPS spectra from pretreated siloxaneterminated anodes (rather than adding silanes to the electrolyte) is similar to the silicon anode cycled with the additives. This suggests excess trimethoxymethylsilane additives in the electrolyte do no alter the surface chemistry of the SEI.」(第8586頁右欄第19行ないし第8587頁左欄第10行)
(3.4.2 XPS分析
最初のセルサイクル後のシリコンナノワイヤーアノードの炭素、酸素、フッ素、シリコンのXPSスペクトルは図6に示される。スペクトルのピークは、標準の、あるいは過去のシリコンとグラファイトアノードのXPS研究を用いて同定された。
図6においてメチル終端化したシリコンアノードのC1sスペクトルは、Si-CH3のSi-Cるいは/同時に、カーボネイト中のC-O、C=Oの存在を示す286.2eVの幅の広いピークを示している。534.2eVのO1sピークは、ハイドロカーボン由来である。F1sに対応するおよそ688.2eVの強いピークはLiP6残留物を示している。FT-IR分析と同様に、メチル化シリコンアノードの表面のXPSのデータは、相対的に不活性で、グラファイト層に電解質残留物が含まれていることを示している。
ハイドライドで終端化されたシリコンアノードのC1sのスペクトル(図6下のスペクトル)は、カーボネイト中のC-O、C=Oの存在を示す286から288eVの肩を示している。一方、291eVのピークは、有機フッ素化合物に対応する。532.SeVのO1sのピークは、カーボネイト中の酸素に関連付けることができる。F1sの684.4eVの強いピークは、C1sスペクトルを構成しているLiFとフルオロカーボンのC-F結合によると考えられる。
5%のトリメトキシメチルシランをハイドライドで終端させたナノワイヤーを含んだ電解液に添加したとき、SEI(Solid electrolyte interphase;固体電解質界面)(図6の中段のスペクトル)のC1s、O1sとF1sのスペクトルは、C、OとFの組成が類似している添加剤無しで、ハイドライドで終端化されたシリコンアノードと類似であった。
図7に示すように、そのSEIは(金属)シリコン種が多い。ベア(充放電していない)シリコンナノワイヤーのSi(2p)スペクトルは、シリコンとシリコンの自然酸化物に対応する99.2eVと103.6eVの二つのピークを典型的に示す。一方、トリメトキシメチルシランを添加し、充放電を繰り返したシリコンアノードのスペクトルは、これらのスペクトルのピークが、シランを電解液に添加した時に形成されるSi-O-SiとSi-O-C結合を示す99.3eVと104.3eVにシフトしたことを示している。
多量のフルオロカーボンが、今回の実験および先の文献の中で報告された中で、トリメトキシメチルシランの添加の有無にかかわらず、シリコンアノードにSEIが餓察された。フルオロカーボン(グラファイトアノードでは通常観察されないが)は、シリコンアノードに関連している。このことは、シリコンと電解液の両方に関連する反応を示している。Yen らは、以下のことを提案した。フルオロカーボン化合物は、SiF6-2とハイドロカーボン間の反応で生じている。しかし、SiF6-2は、フッ素からハイドロカーボン(ギブスの生成自由エネルギー(ΔGf) -525.7kcalmol-1) に転換する可能性は低いと思われる。より可能性の高いシナリオは、シリコンがフルオロカーボンの形成に関与しているということである。グラファイトの場合のように、シリコン表面の結合というよりは、アルキルカーボネイトの活性種がフルオロフォスヘートと反応してフルオロカーボンを生成する可能性がある。アノードの性能はトリメトシキメチルシラン(次章で述べるように)の添加が強く影響するかもしれないが、前処理で終端化されたシロキサンアノード(電解質にシランを添加したというよりは)からのFT-IRのスペクトルとXPSのスペクトルは、添加材を含んで充放電されたシリコンアノードと同様である。これは、電解液中の過剰なトリメトキシメチルシラン添加剤が、SEIの表面化学状態を変化させないことを示唆している。」
エ 「
[図:0001401686000003.jpg]
」
(図7 シラン添加剤でサイクル処理したシリコンナノワイヤーアノード及びベアシリコンナノワイヤー上のSEIのXPS Si(2p)スペクトル)
(2)記載される技術事項
上記(1)の摘記事項から、甲第2号証には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
ア 上記(1)アの記載より、甲第2号証には「リチウムイオン電池用表面改質シリコンナノワイヤーアノード」が記載されているといえる。
イ 上記(1)イの「2.2電気化学的測定」の欄の記載より、上記「シリコンナノワイヤーアノードは、リチウム箔を参照電極及び対電極として使用され、リチウムイオンハーフセルに組み立てられ」、「充電/放電測定は、Li/Li+に対して0.01から1.5Vの電位範囲にわたってC/10の近似レートで記録」された。
ウ 上記(1)エの図7より、XPSスペクトルは、Si(2p)スペクトルのピークは、ベア(充放電していない)のシリコンナノワイヤーでは99.2eV(半値幅2.0eV)、103.6eV(半値幅2.0eV)であり、シラン添加(充放電を繰り返した)シリコンナノワイヤーアノードでは99.2eV(半値幅1.5eV)、104.3eV(半値幅3.4eV)であることが読み取れる。
(3)甲2発明
上記アないしウの技術事項を総合勘案すると、甲第2号証には、「チウムイオン電池用表面改質シリコンナノワイヤーアノード」として次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「リチウムイオン電池用表面改質シリコンナノワイヤーアノードであり、
当該アノードは、リチウム箔を参照電極及び対電極として使用され、リチウムイオンハーフセルに組み立てられ、充電/放電測定をLi/Li+に対して0.01から1.5Vの電位範囲にわたってC/10の近似レートで記録されるものにおいて、
XPSスペクトルは、Si(2p)スペクトルのピークは、ベア(充放電していない)のシリコンナノワイヤーでは99.2eV(半値幅2.0eV)、103.6eV(半値幅2.0eV)であり、
シラン添加(充放電を繰り返した)シリコンナノワイヤーアノードでは99.2eV(半値幅1.5eV)、104.3eV(半値幅3.4eV)である
リチウムイオン電池用表面改質シリコンナノワイヤーアノード。」
3 甲第3号証について
(1)記載事項
甲第3号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。
ア 「【0021】
図1に示すように、負極活物質粒子3は、珪素又は/及び珪素化合物からなるコア部1と、コア部1を被覆するSEI被膜2(以下、単に被膜2とする)とからなる。コア部1は、Si相とSiO2相とからなる。Si相は、珪素単体からなり、Liイオンを吸蔵・放出し得る相であり、Liイオンの吸蔵・放出に伴って膨張・収縮する。SiO2相は、SiO2からなり、Si相の膨張・収縮を吸収する。Si相がSiO2相により被覆されることで、Si相とSiO2相とからなる負極活物質粒子3を形成しているとよい。さらには、微細化された複数のSi相がSiO2相により被覆されて一体となって、1つの粒子、即ち負極活物質粒子3を形成しているとよい。この場合には、負極活物質粒子3全体の体積変化を効果的に抑えることができる。」
イ 「【0026】
被膜2中の4価のSi(Si4+)は、例えば、X線光電子分光法(以下、XPSという。)により検出される。XPSは、負極活物質粒子の表面にX線を照射したときに生じる光電子のエネルギーを測定することで、粒子表面部分の構成元素とその電子状態を分析することができる。XPSによる4価のSiの検出では、負極活物質粒子3に、電圧15kV、電流10mAの条件で放射されるAlKα線(単色)を励起X線として照射したときに、負極活物質表面から放出されるスペクトルを分析する。この強度のX線励起光を負極活物質粒子3の表面に照射することにより、被膜2内の構成元素から放射された光電子を検出することができる。XPSで103eV付近に出現するピークAは、4価のSiに起因するピークである(図2(a)参照)。」
ウ 「【0052】
(試料1)
試料1のリチウムイオン二次電池を以下のように作製し、電池のサイクル評価試験を行った。
【0053】
まず、市販のSiO粉末を不活性ガス雰囲気中で900℃、2時間加熱処理を行った。これにより、SiO粉末が不均化されて、負極活物質粒子3が得られた。次に、上記の不均化された酸化珪素からなる負極活物質粒子3と、ほかの負極活物質としての均質黒鉛(SMG)と、導電助材としてのケッチェンブラック(KB)と、結着剤としてのポリアミドイミド-シリカハイブリッド樹脂(AI-Si)と高分子量ポリアミドイミド(AI-301)を混合し、溶媒を加えてスラリー状の混合物を得た。溶媒は、N‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)であった。上記の不均化酸化珪素とSMGとKBとAI-SiとAI-301との質量比は百分率で、不均化酸化珪素/SMG/KB/AI-Si/AI-301=42/40/3/7.5/7.5であった。
【0054】
上記ポリアミドイミド-シリカハイブリッド樹脂の商品名は、「コンポセランH900」(荒川化学工業社製)で、アルコキシシリル基をポリアミドイミド樹脂に結合してなる。
【0055】
次に、スラリー状の混合物を、ドクターブレードを用いて集電体である銅箔の片面に成膜化し、所定の圧力でプレスし、200℃、2時間加熱し、放冷した。これにより、集電体表面に負極活物質層が固定されてなる負極が形成された。
【0056】
次に、正極活物質としてのリチウム・ニッケル系複合酸化物LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)とを混合してスラリーとした。リチウム・ニッケル系複合酸化物とPVdFとABとの重量比は百分率で、リチウム・ニッケル系複合酸化物/PVdF/AB=88/6/6であった。このスラリーを集電体としてのアルミニウム箔の片面に塗布し、プレスし、焼成した。これにより、集電体の表面に正極活物質層を固定してなる正極を得た。
【0057】
正極と負極との間に、セパレータとしてのポリプロピレン多孔質膜を挟み込んだ。この正極、セパレータ及び負極からなる電極体を複数積層した。2枚のアルミニウムフィルムの周囲を、一部を除いて熱溶着をすることにより封止して、袋状とした。袋状のアルミニウムフィルムの中に、積層された電極体を入れ、更に、電解液を入れた。電解液は、電解質としてのLiPF6が、有機溶媒に溶解してなる。有機溶媒は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとジメチルカーボネートを、3質量部と4質量部と4質量部の配合比で混合して調製した。電解液中のLiPF6の濃度は、1mol/Lであった。
【0058】
その後、真空引きしながら、アルミニウムフィルムの開口部分を完全に気密に封止した。このとき、正極側及び負極側の集電体の先端を、フィルムの端縁部から突出させ、外部端子に接続可能とし、ラミネート電池を得た。
【0059】
このように組み付けたラミネート電池に初期充放電(コンディショニング処理)を行った。この初期充放電は、1回目:0.2Cの定電流(CC)で4.1Vまで充電(0.2C-4.1V)、0.2Cの定電流(CC)で3Vまで放電(0.2C-3V)、2回目:0.2Cの定電流定電圧(CCCV)で4.1Vまで充電(0.2C-4.1V )、0.1Cの定電流(CC)で3Vまで放電(0.1C-3V)、3回目:1Cの定電流定電圧(CCCV)で4.2Vまで充電(1C-4.2V)、1Cの定電流(CC)で3Vまで放電(1C-3V)の条件で行なった。初期充放電では、充電と放電を各3回行った。初期充放電の電池の温度は55℃とした。初期充放電の後に、リチウムイオン二次電池を常温(25℃)に戻した。
【0060】
(試料2)
試料2のリチウムイオン二次電池は、リチウムイオン二次電池の初期充放電を25℃で行ったこと以外は、試料1のリチウムイオン二次電池と同様である。」
エ 「【0061】
<XPS>
上記試料1,2のリチウムイオン二次電池の負極活物質粒子3についてXPSによりスペクトル強度を測定した。XPSでは、25℃の温度下で、15kV、10mAの条件で放射されるAlKα線を、負極活物質粒子3の表面に照射した。AlKα線の照射角度θは、負極活物質粒子3の表面の接線に対して35°とした(図1)。図2(a)、図2(b)は、それぞれ試料1、試料2の負極活物質粒子3の96eV~108eVの範囲の結合エネルギーのスペクトルを示す。
【0062】
図2(a)に示すように、試料1の負極活物質粒子3の96eV~108eVの範囲の結合エネルギーのスペクトルの波形は、複数のピークが重なり合って形成されていた。このため、この範囲のスペクトルについて波形分離をした。その結果、結合エネルギーが103eVの位置にピークAが出現し、102eVの位置にはピークBが出現した。波形分離後のピークBに対するピークAの積分強度比(S4+/S1+~3+)は、1.5であった。
【0063】
102eVに出現したピークBは、1~3価のSiに起因し、103eVに出現したピークAは、4価のSiに起因する。試料1では、負極活物質粒子3の被膜2に、1~3価のSiのほかに、4価のSiも存在していることがわかる。負極活物質と電解液の成分から考えると、1~3価のSiは、被膜2中で、おそらく、リチウムシリケイトなどの化合物として存在していると推定される。4価のSiは、SiO2、H2SiF6などの化合物として存在していると推定される。
【0064】
図2(b)に示すように、試料2の負極活物質粒子3の96~108eVの範囲の結合エネルギーのスペクトルには、1つの大きなピークBが出現した。このピークBは、102eVに位置しており、試料1の負極活性物質から放出されたスペクトルの波形分離後のピークBと同じ位置であった。試料2では、103eVの位置に、試料1のようなピークAは出現しなかった。波形分離後のピークBに対するピークAの積分強度比(S4+/S1+~3+)は、0であった。」
オ 「
[図:0001401686000004.jpg]
」
(2)記載される技術事項
上記(1)の摘記事項から、甲第3号証には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
ア 上記(1)アの記載より、甲第3号証には、珪素又は/及び珪素化合物からなるコア部1と、コア部1を被覆するSEI被膜2とからなる負極活物質粒子3が記載されているといえる。
イ 上記(1)ウの段落【0053】の記載によれば、負極活物質粒子3と、ほかの負極活物質としての均質黒鉛均質黒鉛と、導電助材と、結着剤を混合し、溶媒を加えてスラリー状の混合物を得ることが記載されている。
ウ 上記(1)ウの段落【0055】の記載によれば、スラリー状の混合物を、集電体である銅箔の片面に成膜化し、集電体表面に負極活物質層が固定されてなる負極が形成される。
エ 上記(1)ウの段落【0052】、【0057】、【0058】の記載によれば、正極と負極との間に、セパレータを挟み込んだ電極体を複数積層し、袋状のアルミニウムフィルムの中に、積層された電極体を入れ、更に、電解液を入れ、その後、真空引きしながら、アルミニウムフィルムの開口部分を完全に気密に封止し、正極側及び負極側の集電体の先端を、フィルムの端縁部から突出させ、外部端子に接続可能とし、ラミネート電池のリチウムイオン二次電池を得る。
オ 上記(1)ウの段落【0059】、【0060】の記載によれば、ラミネート電池に、1回目:0.2Cの定電流で4.1Vまで充電、0.2Cの定電流で3Vまで放電、2回目:0.2Cの定電流定電圧で4.1Vまで充電、0.1Cの定電流で3Vまで放電、3回目:1Cの定電流定電圧で4.2Vまで充電、1Cの定電流で3Vまで放電の条件で、温度55℃または25℃で初期充放電を行い、初期充放電の後に常温(25℃)に戻した。
カ 上記(1)エの段落【0061】の記載によれば、リチウムイオン二次電池の負極活物質粒子3についてXPSにより96eV~108eVの範囲の結合エネルギーのスペクトル強度を測定した。
キ 上記(1)エの段落【0059】、【0062】、【0063】の記載によれば、温度55℃で初期充放電を行ったリチウムイオン二次電池の負極活物質粒子3の96eV~108eVの範囲の結合エネルギーのスペクトルの波形は、4価のSiに起因する結合エネルギーが103eVの位置にピークAが出現し、1~3価のSiに起因する102eVの位置にはピークBが出現した。
ク 上記(1)エの段落【0060】、【0063】、【0064】の記載によれば、温度25℃で初期充放電を行ったリチウムイオン二次電池の負極活物質粒子3の96~108eVの範囲の結合エネルギーのスペクトルには、1~3価のSiに起因する102eVに位置する1つの大きなピークBが出現した。
ケ 上記(1)オの図2(a)から、試料1(温度55℃で初期充放電を行ったリチウムイオン二次電池の負極活物質粒子3)についてのXPSによるスペクトルのピークの半値幅は、ビークBで1.5eV、ピークAで1.9eVであることが読み取れる。
コ 上記(1)オの図2(b)から、試料2(温度25℃で初期充放電を行ったリチウムイオン二次電池の負極活物質粒子3)についてのXPSによるスペクトルのピークの半値幅は、ビークBで2.5eVであることが読み取れる。
(3)甲3発明
上記アないしコの技術事項を総合勘案すると、甲第3号証には、「負極活物質粒子3」として次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。
「珪素又は/及び珪素化合物からなるコア部1と、コア部1を被覆するSEI被膜2とからなる負極活物質粒子3において、
負極活物質粒子3と、ほかの負極活物質としての均質黒鉛と、導電助材と、結着剤を混合し、溶媒を加えてスラリー状の混合物を得、スラリー状の混合物を、集電体である銅箔の片面に成膜化し、集電体表面に負極活物質層が固定されてなる負極を形成し、
正極と負極との間に、セパレータを挟み込んだ電極体を複数積層し、袋状のアルミニウムフィルムの中に、積層された電極体を入れ、更に、電解液を入れ、その後、真空引きしながら、アルミニウムフィルムの開口部分を完全に気密に封止し、正極側及び負極側の集電体の先端を、フィルムの端縁部から突出させ、外部端子に接続可能とし、ラミネート電池のリチウムイオン二次電池を得、
ラミネート電池に、1回目:0.2Cの定電流で4.1Vまで充電、0.2Cの定電流で3Vまで放電、2回目:0.2Cの定電流定電圧で4.1Vまで充電、0.1Cの定電流で3Vまで放電、3回目:1Cの定電流定電圧で4.2Vまで充電、1Cの定電流で3Vまで放電の条件で、温度55℃または25℃で初期充放電を行い、初期充放電の後に常温(25℃)に戻したリチウムイオン二次電池の負極活物質粒子3についてXPSにより96eV~108eVの範囲の結合エネルギーのスペクトル強度を測定した場合、
温度55℃で初期充放電を行ったリチウムイオン二次電池の負極活物質粒子3の96eV~108eVの範囲の結合エネルギーのスペクトルの波形は、4価のSiに起因する結合エネルギーが103eVの位置にピークAが出現し、1~3価のSiに起因する102eVの位置にはピークBが出現し、
温度25℃で初期充放電を行ったリチウムイオン二次電池の負極活物質粒子3の96~108eVの範囲の結合エネルギーのスペクトルには、1~3価のSiに起因する102eVに位置する1つの大きなピークBが出現し、
温度55℃で初期充放電を行ったリチウムイオン二次電池の負極活物質粒子3についてのXPSによるスペクトルのピークの半値幅は、ビークBで1.5eV、ピークAで1.9eVであり、
温度25℃で初期充放電を行ったリチウムイオン二次電池の負極活物質粒子3についてのXPSによるスペクトルのピークの半値幅は、ビークBで2.5eVである
負極活物質粒子3。」
4 甲第4号証について
(1)記載事項
甲第4号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。
ア 「Si系負極の充放電過程解析手法の探索」(第363頁 表題)
イ 「実験:
試料はSiO2マトリックス中に数nmサイズSi結晶が分散された平均粒径5μm粉末をCu箔上にバインダとともに塗工したもので、未使用電極と、1M LiPF6/エチレンカーボネート/ジエチレンカーボネート電解液中、対極をLi箔としてLi挿入(充電)を行った電極試料を準備した。Li挿入操作は0.01C程度の電流密度にて、金属Liの電析を回避するため対極Liに対し+5mVに達した段階で停止した。
XRD実験はSPring-8 BL15XUにて室温で実施した。充放電操作を行った後、電極から活物質を粉体として採取し、メノウ乳鉢にて粉砕した後、ガラス・キャピラリー中に封止した状態で測定した。」(第363頁第25ないし33行)
ウ 「結果および考察:
本報告では、未使用電極と最初に電気化学的に充電(Li挿入)を行った後の状態変化について述べる。まず、Liを挿入(充電)操作前のXRDパターンと、Li挿入操作後の典型的なXRDパターンを図1に示す。図l(a)の▼で示す回折線はすべてSi結晶からの、■はガラス(SiO2) 由来の回折である。図I(b) から、ナノメートルサイズのSi結晶からの回折パターンが、Li挿入によって消失することがわかる。この後の充放電の繰り返しや、充電状態の変化によっても、Si結晶からの回折線の再出現、あるいはLi-Si合金(シリサイド)からの回折線の出現は観測されなかった。」(第364頁第5ないし18行)
エ 「
[図:0001401686000005.jpg]
」
(2)記載される技術事項
上記(1)の摘記事項から、甲第4号証には、次の技術事項(以下、「甲4記載の技術」という。)が記載されているものと認められる。
「SiO2マトリックス中に数nmサイズSi結晶が分散された平均粒径5μm粉末をCu箔上にバインダとともに塗工した未使用電極と、電解液中、対極をLi箔としてLi挿入(充電)を行った電極試料において、
Li挿入操作後のXRDパターンでは、ナノメートルサイズのSi結晶からの回折パターンが、Li挿入によって消失すること。」
第6 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
取消理由通知では、電極活物質の組成が異なれば放電負荷特性を含む電気特性が異なるものとなることが技術常識であることを考慮すれば、70質量%のケイ素化合物(第1の負極活物質粒子)、15質量%のケッチェンブラック(第2の負極活物質粒子)とした負極活物質以外の、ケイ素系素材の含有量がわずかな負極活物質においても、Si2pスペクトルが99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、前記ピークの半値幅が1.5eV以上8.0eV以下(請求項1に記載された特性)であるケイ素系材料を用いるのみで上記課題を解決できると認識することができるとは認められないとした。
しかしながら、発明の詳細な説明には、本件発明が解決しようとする課題は、放電負荷特性を向上することができる負極活物質を提供することである(【0006】)と記載され、そして、負極活物質は、ケイ素系材料を含有する第1の負極活物質粒子を含み、第1の負極活物質粒子が含有するケイ素系材料は、例えば、ケイ素単体およびケイ素化合物のうちの少なくとも1種であること(【0034】、【0035】)、0.6V(vs.Li/Li+)の状態の第1の負極活物質粒子をX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)により測定することにより得られるSi2pスペクトルが、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、このピークの半値幅が1.5eV以上であると、最安定な結合状態(Si-Siの結合状態)のみでなく、準安定的な結合状態(Li-Siの結合状態)を作りやすく、電荷移動反応が生じやすくなり、電荷移動抵抗が低下し、放電容量が向上するため、放電負荷特性が向上し、このピークの半値幅が8.0eV以下であると、準安定的な結合状態が過度に多くなることを抑制することができ、準安定的な結合状態が電解液やLiと反応しLiに対して不可逆的な物質が生成されることを抑制することができるため、Liイオンの移動が阻害されることを抑制することができ、放電負荷特性が向上すること(【0037】、【0038】)が記載されている。
そして、上記各結合状態の形成自体は、ケイ素系材料の含有量には無関係であり、ケッチェンブラック等の第2の負極活物質の含有量の増加により阻害されるものとも認められないから、ケイ素系材料の含有量によらずSi2pスペクトルが請求項1に記載された特性であるケイ素系材料を負極活物質が含んでさえいれば、一定程度の範囲内で放電負荷特性が向上し本件発明が解決しようとする課題を解決することができると、当業者は認識することができるものと認められる。
したがって、請求項1ないし5に係る発明は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。
2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1について
ア 本件発明1について
(ア)甲第1号証を主たる引用文献とした場合
a 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(a)甲1発明の「ナノシリコン(65wt%)、カーボン繊維(25wt%)、カルボシキメチルセルロース(10wt%、Mw=250kg/mol、D.S.=0.7) を水で混合して作製されたシリコンベースのスラリ」は、銅製の集電箔に塗られ、リチウムイオン電池用ナノシリコンアノードである電極を形成するものであるから、「シリコンベースのスラリ」が活物質を含有するのは明らかであり、「ナノシリコン」、「カーボン繊維」は活物質として混合されているものと認められる。また、電池のアノードは、負極である。
してみると、甲1発明の「ナノシリコン」は本件発明1の「ケイ素系材料を含有する第1の負極活物質粒子」に相当し、甲1発明の「シリコンベースのスラリ」が含有する活物質は、本件発明1の「ケイ素系材料を含有する第1の負極活物質粒子を含」む「負極活物質」に相当する。
(b)甲1発明の「XPS測定を行った場合、360mAh.g-1の容量後のSi2pスペクトルのピークが」「SiO2で104.0eV(半値幅2.8eV)であり、完全な電気化学的なサイクルの終了後のSi 2pスペクトルのピークが」「SiO2で102.7eV(半値幅1.7eV)である」ことは、本件発明1の「第1の負極活物質粒子をX線光電子分光法により測定して得られるSi2pスペクトルが、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、前記ピークの半値幅が、1.5eV以上8.0eV以下である」ことに含まれる。
ただし、X線光電子分光法により測定される第1の負極活物質粒子が、本件発明1は「0.6V(vs.Li/Li+)の状態」のものであるのに対して、甲1発明は「360 mAh.g-1の容量後」または「完全な電気化学的なサイクルの終了後」のものである点で相違する。
(c)上記(a)および(b)より、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有するといえる。
〈一致点〉
「ケイ素系材料を含有する第1の負極活物質粒子を含み、
前記第1の負極活物質粒子をX線光電子分光法により測定して得られるSi2pスペクトルが、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、
前記ピークの半値幅が、1.5eV以上8.0eV以下である負極活物質。」
〈相違点1〉
X線光電子分光法により測定される第1の負極活物質粒子が、本件発明1は「0.6V(vs.Li/Li+)の状態」のものであるのに対して、甲1発明は「360 mAh.g-1の容量後」または「完全な電気化学的なサイクルの終了後」のものである点。
b 判断
上記相違点1に係る構成の進歩性について検討する。
はじめに、ケイ素系材料を含有する負極活物質のSi2pスペクトルのピーク位置及びピークの半値幅と、当該Si2pスペクトルの検出に用いたセルの充電状態との関係を検討する。
甲1発明のSi 2pスペクトルに関する構成及び甲第1号証の図3(「第5」「1(1)ケ」参照)を参酌すれば、ケイ素系材料を含有する負極活物質のSi2pスペクトルのピーク位置及びその半値幅は電池の充電状態により変化することは明らかである。
次に、本件発明1と甲1発明におけるセルの充電状態を検討する。
本件発明1の「0.6V(vs.Li/Li+)の状態」との構成に関して、本件明細書の段落【0077】ないし【0085】には、「(充放電)上述のようにして得られたコインセルに、一次充電と二次充電からなるSi表面形成充電および放電を以下のようにして行った。・・・(ケイ素化合物の分析)まず、上述の充放電を行ったコインセルを25℃の高温槽内に1時間放置した。続いて、0.05Cにて定電流充電を行ったのち、0.6Vにおいて、電流値が0.005Cとなるまで定電圧充電を行った。次に、コインセルを解体し負極を取り出し、DMCにて洗浄し、乾燥することにより、測定サンプル(0.6V(vs.Li/Li+)の状態における負極(ケイ素化合物))を得た。」と記載されていることを考慮すれば、本件発明1の「0.6V(vs.Li/Li+)の状態」とは、初期の充放電を行ったコインセルに対して、0.6Vにおいて電流値が0.005Cとなるまで定電圧充電を行った状態であるものと認められる。
これに対し、甲第1号証の「3. 結果」の欄の記載及び図1(「第5」「1(1)」の「ウ」及び「ク」参照)を考慮すれば、甲1発明の「360 mAh.g-1の容量後」とは、最初のリチウム化/脱リチウム化におけるリチウム化の開始に対応した開回路電圧が0.175V(vs.Li/Li+)の状態であり、甲1発明の「完全な電気化学的なサイクルの終了後」とは、最初のリチウム化/脱リチウム化における脱リチウム化ステップの終了に対応した開回路電圧が0.702V(vs.Li/Li+)の状態と認められる。
してみると、本件発明1と甲1発明では、Si2pスペクトルの検出に用いたセルの充電状態は異なるものである。
そして、上述したように、ケイ素系材料を含有する負極活物質のSi2pスペクトルのピーク位置及びその半値幅はセルの充電状態により変化するものであるから、甲1発明が「Si2pスペクトルが、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、前記ピークの半値幅が、1.5eV以上8.0eV以下である」ことに含まれる構成を有するとしても「0.6V(vs.Li/Li+)の状態」においても「Si2pスペクトルが、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、前記ピークの半値幅が、1.5eV以上8.0eV以下である」とはいえない。また、甲第1号証には、初期の充放電を行ったコインセルに対して、0.6Vにおいて電流値が0.005Cとなるまで定電圧充電を行った状態に関しては記載も示唆もないから、甲1発明において、0.6V(vs.Li/Li+)の状態におけるSi2pスペクトルを、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、前記ピークの半値幅が、1.5eV以上8.0eV以下とする動機はない。
これに対し、本件発明1は、0.6V(vs.Li/Li+)の状態の第1の負極活物質粒子をX線光電子分光法により測定することにより得られるSi2pスペクトルが、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、このピークの半値幅が1.5eV以上であると、最安定な結合状態(Si-Siの結合状態)のみでなく、準安定的な結合状態(Li-Siの結合状態)を作りやすく、電荷移動反応が生じやすくなり、電荷移動抵抗が低下し、放電容量が向上するため、放電負荷特性が向上し、このピークの半値幅が8.0eV以下であると、準安定的な結合状態が過度に多くなることを抑制することができ、準安定的な結合状態が電解液やLiと反応しLiに対して不可逆的な物質が生成されることを抑制することができるため、Liイオンの移動が阻害されることを抑制することができ、放電負荷特性が向上するものである(本件明細書段落【0037】、【0038】)。
したがって、本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
(イ)甲第2号証を主たる引用文献とした場合
a 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(a)甲2発明の「リチウムイオン電池用表面改質シリコンナノワイヤーアノード」は、リチウム箔を参照電極及び対電極として使用され、リチウムイオンハーフセルに組み立てられるものであるから、「リチウムイオン電池用表面改質シリコンナノワイヤーアノード」が活物質を含有するのは明らかであり、「シリコンナノワイヤー」は活物質として混合されているものと認められる。また、電池のアノードは、負極である。
してみると、甲2発明の「シリコンナノワイヤー」は本件発明1の「ケイ素系材料を含有する第1の負極活物質粒子」及び「ケイ素系材料を含有する第1の負極活物質粒子を含」む「負極活物質」に相当する。
(b)甲2発明の「XPSスペクトルは、Si(2p)スペクトルのピークは、ベア(充放電していない)のシリコンナノワイヤーでは99.2eV(半値幅2.0eV)、103.6eV(半値幅2.0eV)であり、シラン添加(充放電を繰り返した)シリコンナノワイヤーアノードでは99.2eV(半値幅1.5eV)、104.3eV(半値幅3.4eV)である」ことは、本件発明1の「第1の負極活物質粒子をX線光電子分光法により測定して得られるSi2pスペクトルが、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、前記ピークの半値幅が、1.5eV以上8.0eV以下である」ことに含まれる。
ただし、X線光電子分光法により測定される第1の負極活物質粒子が、本件発明1は「0.6V(vs.Li/Li+)の状態」のものであるのに対して、甲2発明は「ベア(充放電していない)」または「シラン添加(充放電を繰り返した)」状態のものである点で相違する。
(c)上記(a)および(b)より、本件発明1と甲2発明とは、以下の一致点及び相違点を有するといえる。
〈一致点〉
「ケイ素系材料を含有する第1の負極活物質粒子を含み、
前記第1の負極活物質粒子をX線光電子分光法により測定して得られるSi2pスペクトルが、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、
前記ピークの半値幅が、1.5eV以上8.0eV以下である負極活物質。」
〈相違点2〉
X線光電子分光法により測定される第1の負極活物質粒子が、本件発明1は「0.6V(vs.Li/Li+)の状態」のものであるのに対して、甲2発明は「ベア(充放電していない)」または「シラン添加(充放電を繰り返した)」状態のものである点。
b 判断
上記相違点2に係る構成の進歩性について検討する。
上記「(ア)b」で検討したように、本件発明1の「0.6V(vs.Li/Li+)の状態」とは、初期の充放電を行ったコインセルに対して、0.6Vにおいて電流値が0.005Cとなるまで定電圧充電を行った状態であるものと認められる。
これに対し、甲第2号証の「2.2 電気化学的測定」の欄、「3.4.2 XPS分析」の欄の記載及び図7(「第5」「2(1)」の「イ」、「ウ」及び「エ」参照)を考慮すれば、甲2発明は、ベア(充放電していない)状態または充放電を繰り返した状態のシリコンナノワイヤーアノードのものと認められるから、本件発明1と甲2発明では、Si2pスペクトルの検出に用いたセルの充電状態は同一であるとはいえない。
そして、上記「(ア)b」で検討したように、ケイ素系材料を含有する負極活物質のSi2pスペクトルのピーク位置及びその半値幅は電池の充電状態により変化するものであるから、甲2発明が「Si2pスペクトルが、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、前記ピークの半値幅が、1.5eV以上8.0eV以下である」ことに含まれる構成を有するとしても「0.6V(vs.Li/Li+)の状態」においても「Si2pスペクトルが、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、前記ピークの半値幅が、1.5eV以上8.0eV以下である」とはいえない。また、甲第2号証には、初期の充放電を行ったコインセルに対して、0.6Vにおいて電流値が0.005Cとなるまで定電圧充電を行った状態に関しては記載も示唆もないから、甲2発明において、0.6V(vs.Li/Li+)の状態におけるSi2pスペクトルを、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、前記ピークの半値幅が、1.5eV以上8.0eV以下とする動機はない。
したがって、本件の請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
(ウ)甲第3号証を主たる引用文献とした場合
a 対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
(a)甲3発明の「負極活物質粒子3」は、珪素又は/及び珪素化合物からなるコア部1と、コア部1を被覆するSEI被膜2とからなるものであり、ほかの負極活物質としての均質黒鉛、導電助材、結着剤と共に混合され、溶媒を加えてスラリー状の混合物を得、スラリー状の混合物を、集電体である銅箔の片面に成膜化し、集電体表面に負極活物質層が固定されてなる負極を形成するものであるから、本件発明1の「ケイ素系材料を含有する第1の負極活物質粒子」に相当する。また、甲3発明の「負極活物質粒子3」と「ほかの負極活物質としての均質黒鉛」とが、本件発明3の「ケイ素系材料を含有する第1の負極活物質粒子を含」む「負極活物質」に相当する。
(b)甲3発明の「XPSにより96eV~108eVの範囲の結合エネルギーのスペクトル強度を測定した場合、温度55℃で初期充放電を行ったリチウムイオン二次電池の負極活物質粒子3の96eV~108eVの範囲の結合エネルギーのスペクトルの波形は、4価のSiに起因する結合エネルギーが103eVの位置にピークAが出現し、1~3価のSiに起因する102eVの位置にはピークBが出現し、温度25℃で初期充放電を行ったリチウムイオン二次電池の負極活物質粒子3の96~108eVの範囲の結合エネルギーのスペクトルには、1~3価のSiに起因する102eVに位置する1つの大きなピークBが出現し、温度55℃で初期充放電を行ったリチウムイオン二次電池の負極活物質粒子3についてのXPSによるスペクトルのピークの半値幅は、ビークBで1.5eV、ピークAで1.9eVであり、温度25℃で初期充放電を行ったリチウムイオン二次電池の負極活物質粒子3についてのXPSによるスペクトルのピークの半値幅は、ビークBで2.5eVである」ことは、本件発明1の「第1の負極活物質粒子をX線光電子分光法により測定して得られるSi2pスペクトルが、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、前記ピークの半値幅が、1.5eV以上8.0eV以下である」ことに含まれる。
ただし、X線光電子分光法により測定される第1の負極活物質粒子が、本件発明1は「0.6V(vs.Li/Li+)の状態」のものであるのに対して、甲3発明は「1回目:0.2Cの定電流で4.1Vまで充電、0.2Cの定電流で3Vまで放電、2回目:0.2Cの定電流定電圧で4.1Vまで充電、0.1Cの定電流で3Vまで放電、3回目:1Cの定電流定電圧で4.2Vまで充電、1Cの定電流で3Vまで放電の条件で、温度55℃または25℃で初期充放電を行い、初期充放電の後に常温(25℃)に戻した」状態のものである点で相違する。
(c)上記(a)および(b)より、本件発明1と甲3発明とは、以下の一致点及び相違点を有するといえる。
〈一致点〉
「ケイ素系材料を含有する第1の負極活物質粒子を含み、
前記第1の負極活物質粒子をX線光電子分光法により測定して得られるSi2pスペクトルが、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、
前記ピークの半値幅が、1.5eV以上8.0eV以下である負極活物質。」
〈相違点3〉
X線光電子分光法により測定される第1の負極活物質粒子が、本件発明1は「0.6V(vs.Li/Li+)の状態」のものであるのに対して、甲3発明は「1回目:0.2Cの定電流で4.1Vまで充電、0.2Cの定電流で3Vまで放電、2回目:0.2Cの定電流定電圧で4.1Vまで充電、0.1Cの定電流で3Vまで放電、3回目:1Cの定電流定電圧で4.2Vまで充電、1Cの定電流で3Vまで放電の条件で、温度55℃または25℃で初期充放電を行い、初期充放電の後に常温(25℃)に戻した」状態のものである点。
b 判断
上記相違点3に係る構成の進歩性について検討する。
上記「(ア)b」で検討したように、本件発明1の「0.6V(vs.Li/Li+)の状態」とは、初期の充放電を行ったコインセルに対して、0.6Vにおいて電流値が0.005Cとなるまで定電圧充電を行った状態であるものと認められる。
これに対し、甲3発明のXPSにより96eV~108eVの範囲の結合エネルギーのスペクトル強度は、「1回目:0.2Cの定電流で4.1Vまで充電、0.2Cの定電流で3Vまで放電、2回目:0.2Cの定電流定電圧で4.1Vまで充電、0.1Cの定電流で3Vまで放電、3回目:1Cの定電流定電圧で4.2Vまで充電、1Cの定電流で3Vまで放電の条件で、温度55℃または25℃で初期充放電を行い、初期充放電の後に常温(25℃)に戻した」状態のものであるから、本件発明1と甲3発明では、Si2pスペクトルの検出に用いた電池の充電状態は同一であるとはいえない。
そして、上記「(ア)b」で検討したように、ケイ素系材料を含有する負極活物質のSi2pスペクトルのピーク位置及びその半値幅は電池の充電状態により変化するものであるから、甲3発明が「Si2pスペクトルが、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、前記ピークの半値幅が、1.5eV以上8.0eV以下である」ことに含まれる構成を有するとしても「0.6V(vs.Li/Li+)の状態」においても「Si2pスペクトルが、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、前記ピークの半値幅が、1.5eV以上8.0eV以下である」とはいえない。また、甲第3号証には、初期の充放電を行ったコインセルに対して、0.6Vにおいて電流値が0.005Cとなるまで定電圧充電を行った状態に関しては記載も示唆もないから、甲3発明において、0.6V(vs.Li/Li+)の状態におけるSi2pスペクトルを、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、前記ピークの半値幅が、1.5eV以上8.0eV以下とする動機はない。
したがって、本件の請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
(エ)小括
以上のことより、本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明ないし甲第3号証に記載された発明のいずれかに基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。
イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明1を限定するものである。
そして、甲第4号証には、「SiO2マトリックス中に数nmサイズSi結晶が分散された平均粒径5μm粉末をCu箔上にバインダとともに塗工した未使用電極と、電解液中、対極をLi箔としてLi挿入(充電)を行った電極試料において、Li挿入操作後のXRDパターンでは、ナノメートルサイズのSi結晶からの回折パターンが、Li挿入によって消失すること。」(「第5」「4(2)」参照)が記載されているものの、0.6Vにおいて電流値が0.005Cとなるまで定電圧充電を行った状態に関しては記載も示唆もない。
してみると、上記「ア」で検討したことと同様に、本件の請求項2に係る発明は、甲第1ないし3号証に記載された発明のいずれかと、甲第4号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。
よって、本件の請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。
ウ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明1を限定するものである。
そして、上記「ア(ア)b」及び「ア(ウ)b」で述べたように、甲第1号証及び甲第3号証には、0.6Vにおいて電流値が0.005Cとなるまで定電圧充電を行った状態に関しては記載も示唆もない。
してみると、上記「ア」で検討したことと同じ理由により、本件の請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明ないし甲第3号証に記載された発明のいずれかと、甲第1号証に記載された技術事項または甲第3号証に記載された技術事項とに基づいて、当業者が容易になし得たものではない。
よって、本件の請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。
エ 本件発明4、5について
本件発明4、5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明1を限定するものである。
してみると、上記「ア」で検討したことと同じ理由により、本件の請求項4、5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明ないし甲第3号証に記載された発明のいずれかに基づいて、当業者が容易になし得たものではない。
よって、本件の請求項4、5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。
(2)申立理由2について
上記「1」で検討したように、本件発明が解決しようとする課題は、放電負荷特性を向上することができる負極活物質を提供することであり、発明の詳細な説明には、負極活物質は、ケイ素系材料を含有する第1の負極活物質粒子を含み、第1の負極活物質粒子が含有するケイ素系材料は、例えば、ケイ素単体およびケイ素化合物のうちの少なくとも1種であること、0.6V(vs.Li/Li+)の状態の第1の負極活物質粒子をX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)により測定することにより得られるSi2pスペクトルが、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、このピークの半値幅が1.5eV以上であると、最安定な結合状態(Si-Siの結合状態)のみでなく、準安定的な結合状態(Li-Siの結合状態)を作りやすく、電荷移動反応が生じやすくなり、電荷移動抵抗が低下し、放電容量が向上するため、放電負荷特性が向上し、このピークの半値幅が8.0eV以下であると、準安定的な結合状態が過度に多くなることを抑制することができ、準安定的な結合状態が電解液やLiと反応しLiに対して不可逆的な物質が生成されることを抑制することができるため、Liイオンの移動が阻害されることを抑制することができ、放電負荷特性が向上することが記載されている。また、発明の詳細な説明の段落【0077】には、一次充電と二次充電からなるSi表面形成充電および放電を行うことにより、最安定な結合状態(Si-Siの結合状態)のみでなく準安定的な結合状態(Li-Siの結合状態)を有する表面が形成されることが記載されている。
そして、ケイ素系材料はSi-Si結合を有するものであることが一般的であることを考慮すれば、ケイ素系材料に含まれるケイ素以外の元素やその組成などが特定されていなくともケイ素系材料でありさえすれば、また、ケイ素系材料に加えその他の負極活物質含むか否かに関わらず、負極活物質としてケイ素系材料を用いることにより、一定程度の範囲内で放電負荷特性が向上し本件発明が解決しようとする課題を解決することができると、当業者は認識することができるものと認められる。
したがって、申立人の主張は採用できない。
よって、請求項1ないし5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。
(3)申立理由3について
本件明細書の段落【0073】ないし【0089】には実施例1ないし10として、70質量%のケイ素化合物(第1の負極活物質粒子)、15質量%のケッチェンブラック(第2の負極活物質粒子)および15質量%のポリアクリル酸ナトリウム(バインダー)を混合した負極合剤スラリーを用いた負極を有するコインセルについて、一次充電と二次充電からなるSi表面形成充電および放電を行うことにより、0.6V(vs.Li/Li+)の状態における負極活物質層のSi2pスペクトルが99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、前記ピークの半値幅が1.5eV以上8.0eV以下となった実施例が記載されており、発明の詳細な説明には本件発明1に関する実施例が記載されていると認められ、当業者であれば、二次電池の負極活物質として通常用いられるケイ素系材料を第1の負極活物質粒子として用い、当該実施例に関する記載に基づいて本件発明1を実施することができるものと認められる。
そして、発明の詳細な説明に「ケイ素系材料」はSiをどのような元素とどの程度の割合で含有させたものまで含むのか記載がなく、Si2pスペクトルのピーク位置やピーク半値幅の範囲と二次充電Cレートや電圧との関係についての記載がないとしても、発明の詳細な説明の実施例の記載に基づいて、本件発明1は実施可能である。
なお、本件発明1の「ケイ素系材料」は「第1の負極活物質」であるから、負極活物質として機能し得る程度にSiを含有する材料であることは、当業者には明らかである。
以上のことより、本件の発明の詳細な説明は、本件発明1を当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載したものである。本件発明2ないし5についても、同様である。
したがって、申立人の主張は採用できない。
よって、請求項1ないし5に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。
(4)申立理由4について
本件発明1は「0.6V(vs.Li/Li+)の状態の前記第1の負極活物質粒子をX線光電子分光法により測定して得られるSi2pスペクトルが、99.0eV以上105.0eV以下の範囲にピークを有し、前記ピークの半値幅が、1.5eV以上8.0eV以下である」ところ、発明の詳細な説明の段落【0085】および【0086】には、「上述の充放電を行ったコインセルを25℃の高温槽内に1時間放置した。続いて、0.05Cにて定電流充電を行ったのち、0.6Vにおいて、電流値が0.005Cとなるまで定電圧充電を行った。次に、コインセルを解体し負極を取り出し、DMCにて洗浄し、乾燥することにより、測定サンプル(0.6V(vs.Li/Li+)の状態における負極(ケイ素化合物))を得た。・・・X線光電子分光法により測定サンプルを分析することにより、0.6V(vs.Li/Li+)の状態における負極活物質層(ケイ素化合物)のSi2pスペクトルを得た。得られたスペクトルからピーク位置およびピークの半値幅を求めた。なお、Si2pスペクトルの検出では、励起X線として電圧10kV、電流20mAの条件で放射されるAlKα線(単色)を負極活物質層に照射したときに、負極活物質層表面から放出されるSi2pスペクトルを分析した。」と記載され、「0.6V(vs.Li/Li+)の状態の前記第1の負極活物質粒子」がどのような状態の負極活物質粒子であるのか具体的に特定されると共にSi2pスペクトルの具体的な検出方法も特定されているから、本件発明1が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
そして、本件発明1は「0.6V(vs.Li/Li+)の状態の前記第1の負極活物質粒子をX線光電子分光法により測定して得られるSi2pスペクトル」を特定するものであるから、0.6Vの状態以外での条件については記載されていないこと、0.6Vの状態における所定のSi2pスペクトル値を満たすためのSi表面形成充電の条件や0.6Vの状態で所定のSi2pスペクトル値を満たすことにより放電負荷特性が向上する理由が記載されていないとしても、本件発明1が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。本件発明2ないし5についても、同様である。
したがって、申立人の主張は採用できない。
よって、請求項1ないし5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。
第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700316