特許異議申立
2024-700017
電極材料およびそれらの調製のためのプロセス
- 審判番号
- 2024-700017
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-567915
- 登録番号
- 7307543
- 請求日
- 2024年01月10日
- 審決日
- 2024年09月11日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ハイドロ-ケベック
- 【権利者代理人】大塩 竹志
- 【権利者】株式会社村田製作所
- 【権利者代理人】大塩 竹志
- 【異議申立人】小林 喜一
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 篠原 功一
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P1652.113-YAA(H01M) / P1652.121-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7307543号発明「電極材料およびそれらの調製のためのプロセス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7307543号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-21〕について訂正することを認める。
特許第7307543号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7307543号の請求項1ないし21に係る特許についての出願は、2017年6月30日(優先権主張 2016年6月30日、米国)を国際出願日とする出願であって、令和5年7月4日にその特許権が設定登録され、令和5年7月12日に特許掲載公報が発行された。
その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和6年1月10日 :特許異議申立人小林喜一(以下、「申立人」という。)による請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立て
令和6年3月 7日付け:取消理由通知
令和6年6月10日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
なお、令和6年6月10日に提出された特許権者による意見書及び訂正請求書に対して、申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人から意見書は提出されなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年6月10日付けの訂正請求の趣旨は、特許第7307543号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-21に訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「該粒子は炭素被覆を含み」と記載されているのを、「該粒子は酸化グラフェンまたは窒素含有活性炭を含む炭素被覆を含み」に訂正する。
(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2-21も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項12に「前記炭素被覆は、ヘテロ原子を含むグラフェンタイプの多環芳香族構造を含む」と記載されているのを、「前記炭素被覆は窒素含有活性炭を含み、前記窒素含有活性炭がグラフェンタイプの多環芳香族構造を有する」に訂正する。
(請求項12の記載を直接又は間接的に引用する請求項13-21も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項13に「前記ヘテロ原子は、酸素、窒素、硫黄およびこれらの組み合わせから選択される」と記載されているのを、「前記窒素含有活性炭は、酸素ヘテロ原子、硫黄ヘテロ原子、またはこれらの組み合わせを含む」に訂正する。
(請求項13の記載を直接又は間接的に引用する請求項14-21も同様に訂正する。)
2 訂正要件についての判断
(1)一群の請求項について
訂正事項1ないし3に係る本件訂正前の請求項1ないし21について、請求項2ないし21は請求項1を引用しているから、本件訂正前の請求項1ないし21に対応する本件訂正の請求項〔1-21〕は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「炭素被覆」について、「酸化グラフェンまたは窒素含有活性炭を含む」ことの限定を付加するものである。
よって、訂正事項1は、請求項1について、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
(イ)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
明細書の段落【0033】には「例えば、粒子は、炭素被覆(例えば、活性炭のナノ層)をさらに含む・・・その活性炭層は、繊維ならびに/または炭素原子およびヘテロ原子を含む縮合芳香族環を含み得る。例えば、活性炭層は、酸化グラフェンまたは窒素含有グラフェン様構造を含む。」と、段落【0040】には「活性炭(例えば、窒素含有グラフェンタイプ炭素)を使用して生成される炭素被覆物質は、LTOアノードの性能を増強する。また、酸化グラフェンの使用は、炭素粉末と比較した場合に、電極の電子伝導性を増大し得る。」と、段落【0041】には「窒素含有活性炭または酸化グラフェンで被覆された粒子」と記載されており、願書に添付した明細書には、炭素被覆が酸化グラフェンまたは窒素含有グラフェンタイプ炭素である活性炭を含むことが記載されている。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項12に記載されていた「ヘテロ原子を含むグラフェンタイプの多環芳香族構造を含む」ものである「炭素被覆」について、ヘテロ原子として窒素原子を含むものである「窒素含有活性炭を含み、前記窒素含有活性炭がグラフェンタイプの多環芳香族構造を有する」ことの限定を付加するものである。
よって、訂正事項2は、請求項12について、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
(イ)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
明細書の段落【0013】には「好ましい実施形態において、前記炭素被覆は、ヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、またはこれらの組み合わせ)を組み込むグラフェンタイプ多環芳香族構造を含み、例えば、前記ヘテロ原子は、窒素原子を含む。」と、段落【0040】には「活性炭(例えば、窒素含有グラフェンタイプ炭素)を使用して生成される炭素被覆物質」と記載されており、願書に添付した明細書には、炭素被覆がヘテロ原子として窒素原子を含む活性炭である窒素含有グラフェンタイプの多環芳香族構造の炭素であることが記載されている。
よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項13が引用する訂正前の請求項12に記載されていた「ヘテロ原子を含むグラフェンタイプの多環芳香族構造」について、訂正事項2においてヘテロ原子として窒素原子を含む「窒素含有活性炭」と特定されたことに伴い、訂正前の請求項13に記載されていた「酸素、窒素、硫黄およびこれらの組み合わせから選択される」「ヘテロ原子」について選択肢の中から「窒素」を削除したものである。
よって、訂正事項3は、請求項13について、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
(イ)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
明細書の段落【0013】には「好ましい実施形態において、前記炭素被覆は、ヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、またはこれらの組み合わせ)を組み込むグラフェンタイプ多環芳香族構造を含み、例えば、前記ヘテロ原子は、窒素原子を含む。」と、段落【0040】には「活性炭(例えば、窒素含有グラフェンタイプ炭素)を使用して生成される炭素被覆物質」と記載されており、願書に添付した明細書には、ヘテロ原子として窒素原子を含有する活性炭である窒素含有グラフェンタイプの多環芳香族構造の炭素が酸素原子、硫黄原子またはこれらの組み合わせを含み得ることが記載されている。
よって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)独立特許要件について
請求項12および13に係る訂正事項2および3は、上記「(2)イ(ア)」および「(2)ウ(ア)」で検討したとおり「特許請求の範囲の減縮」を目的とするところ、本件特許異議の申立てにおいては、訂正前の請求項12および13には特許異議の申立てがされていないので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、訂正後の請求項12および13に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
そこで、訂正後の請求項12および13に係る発明の独立特許要件について検討すると、下記第4および第5で述べるように、訂正後の請求項1に係る発明は、取消理由及び申立理由により特許を受けることができないものでないから、訂正後の請求項1に係る発明の発明特定事項を全て包含する訂正後の請求項12および13に係る発明も、取消理由及び申立理由により特許を受けることができないものでないことは明らかである。
また、訂正後の請求項12および13に係る発明についてはその他の特許を受けることができないとする理由もない。
したがって、訂正後の請求項12および13に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができたものであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項及び第7項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-21〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし21に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明21」という。)は、その訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された次の事項により特定されるものである。なお、下線は、訂正箇所を示す。
「【請求項1】
ポリマー結合剤の中に分散された電気化学的活物質の粒子を含む電極材料であって、ここで該粒子は酸化グラフェンまたは窒素含有活性炭を含む炭素被覆を含み、該ポリマー結合剤は、水性結合剤と、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、およびこれらの組み合わせから選択される酸性ポリマーとからなる混合物であり、前記水性結合剤は、SBR(スチレンブタジエンゴム)、NBR(ブタジエンアクリロニトリルゴム)、HNBR(水素化NBR)、CHR(エピクロロヒドリンゴム)、ACM(アクリレートゴム)、およびこれらの組み合わせから選択される、電極材料。
【請求項2】
前記酸性ポリマーは、ポリ(メタクリル酸)である、請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
前記酸性ポリマーは、ポリ(アクリル酸)である、請求項1に記載の電極材料。
【請求項4】
前記水性結合剤は、SBR(スチレンブタジエンゴム)を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項5】
前記水性結合剤は、SBR(スチレンブタジエンゴム)である、請求項4に記載の電極材料。
【請求項6】
重量比(水性結合剤):(酸性ポリマー)は、1:8~8:1、または1:5~5:1、または1:3~3:1の範囲内である、請求項1~5のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項7】
前記酸性ポリマーは、リチウムイオンをさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項8】
前記電気化学的活物質は、チタネート、チタン酸リチウム、リチウム金属リン酸塩、バナジウム酸化物、リチウム金属酸化物、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される物質を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項9】
前記電気化学的活物質は、TiO2、Li2TiO3、Li4Ti5O12、H2Ti5O11およびH2Ti4O9、またはこれらの組み合わせ、LiM’PO4(ここでM’は、Fe、Ni、Mn、Co、またはこれらの組み合わせである)、LiV3O8、V2O5、LiMn2O4、LiM’’O2(ここでM’’は、Mn、Co、Ni、またはこれらの組み合わせである)、Li(NiM’’’)O2(ここでM’’’は、Mn、Co、Al、Fe、Cr、Ti、またはZrである)、およびこれらの組み合わせから選択される、請求項8に記載の電極材料。
【請求項10】
前記電気化学的活物質は、チタン酸リチウムおよびリチウム金属リン酸塩から選択される、請求項8に記載の電極材料。
【請求項11】
前記炭素被覆は、前記粒子の表面上に繊維を含む炭素のナノ層である、請求項1~10のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項12】
前記炭素被覆は窒素含有活性炭を含み、前記窒素含有活性炭がグラフェンタイプの多環芳香族構造を有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項13】
前記窒素含有活性炭は、酸素ヘテロ原子、硫黄ヘテロ原子、またはこれらの組み合わせを含む、請求項12に記載の電極材料。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に定義されるとおりの電極材料を含む電極を生成するためのプロセスであって、該プロセスは、
a)水性溶媒中で、電気化学的活物質の粒子、前記水性結合剤および前記酸性ポリマーからなる混合物を、任意の順序で混合して、スラリーを得る工程;
b)該工程(a)のスラリーを集電体上にキャストする工程、ならびに
c)該キャストしたスラリーを乾燥させて、電極を得る工程、
を包含するプロセス。
【請求項15】
工程(a)の前に前記酸性ポリマーをリチウム含有塩基で中和する工程をさらに包含する、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記集電体は、アルミニウム、または主成分としてアルミニウムを有する合金である、請求項14または15に記載のプロセス。
【請求項17】
請求項1~13のいずれか1項に定義されるとおりの電極材料を集電体上に含む、電極。
【請求項18】
前記集電体は、アルミニウム、または主成分としてアルミニウムを有する合金である、請求項17に記載の電極。
【請求項19】
請求項14~16のいずれか1項に記載のプロセスによって生成される、電極。
【請求項20】
請求項17~19のいずれか1項に定義されるとおりの電極、電解質および対電極を含む、電気化学セル。
【請求項21】
電気もしくはハイブリッド自動車、またはユビキタスITデバイスにおける請求項20に記載の電気化学セルの使用。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
令和6年3月7日付けの取消理由通知に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
1)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
●理由1(新規性)について
・請求項1、3-5について引用文献1
●理由2(進歩性)について
・請求項2について引用文献1、2
<引 用 文 献 等 一 覧>
引用文献1:特開2013-229163号公報(甲第3号証)
引用文献2:国際公開第2014/188724号(甲第4号証)
2 当審の判断
(1)取消理由1(新規性)について
ア 引用文献1に記載された発明
引用文献1の【0042】、【0044】-【0047】の記載より、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「SiO2中にSiが分散した粒子をカーボン被覆した黒色粒子である酸化珪素負極活物質5.0質量部と、黒鉛系負極活物質としての球状造粒黒鉛95.0質量部に対して、SBRエマルションを1.5質量部(固形分換算)と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)水溶液を1.5質量部(固形分換算)加えた後、イオン交換水を加えて混合することにより、ペーストを作製し、
重量平均分子量1,000,000のポリアクリル酸水溶液を1.5質量部(固形分換算)上記ペーストに対して加え、再度撹拌して得た、負極ペースト。」
イ 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
(a)引用発明の「酸化珪素負極活物質」は「SiO2中にSiが分散した粒子をカーボン被覆した黒色粒子」であるから、本件発明1の「電気化学的活物質の粒子」に対応し、「炭素被膜」を含む点で一致する。
ただし、炭素被覆が、本件発明1では「酸化グラフェンまたは窒素含有活性炭を含む」のに対して、引用発明ではその旨特定されていない点で相違する。
(b)引用文献1の段落【0021】の「本発明に係る非水電解質二次電池用負極であれば、・・・結着材としてスチレンブタジエンゴム、及び、塩基性物質によって中和されていないポリアクリル酸を所定範囲で用いる」なる記載、段落【0023】の「スチレンブタジエンゴム(SBR)」なる記載を考慮すれば、「SBR」は、結着材の一部であるスチレンブタジエンゴムであるから、引用発明の「SBRエマルション」は、本件発明1の「SBR(スチレンブタジエンゴム)」を選択した「水性結合剤」に相当する。
(c)引用文献1の上記段落【0021】の記載を考慮すれば、引用発明の「重量平均分子量1,000,000のポリアクリル酸水溶液」の「ポリアクリル酸」は、結着材の一部である塩基性物質によって中和されていないポリアクリル酸であるから、本件発明1の「ポリ(アクリル酸)」である「酸性ポリマー」に相当する。
(d)引用文献1の上記段落【0021】の記載を考慮すれば、引用発明の「SBR」および「ポリアクリル酸」は結着材として用いられるものであるから、本件発明1の「ポリマー結合剤」に相当する。
そして、上記(b)および(c)での対比を考慮すれば、引用発明の「SBRエマルジョン」と「ポリアクリル酸水溶液」を加えてなるものは、本件発明1の「ポリマー結合剤」が備える、「SBR(スチレンブタジエンゴム)」を選択した「水性結合剤」と、「ポリ(アクリル酸)」を選択した「酸性ポリマー」を含む「混合物」である点で一致する。
ただし、ポリマー結合剤が、本件発明1は「SBR(スチレンブタジエンゴム)、NBR(ブタジエンアクリロニトリルゴム)、HNBR(水素化NBR)、CHR(エピクロロヒドリンゴム)、ACM(アクリレートゴム)、およびこれらの組み合わせから選択される」「水性結合剤と、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、およびこれらの組み合わせから選択される酸性ポリマーとからなる混合物」であるのに対して、引用発明では、さらに、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)水溶液を加えたものである点で相違する。
(e)引用発明の「負極ペースト」が電極を形成する材料であることは明らかであり、本件発明1の「電極材料」に相当する。
(f)引用発明の「負極ペースト」は、「酸化珪素負極活物質」と「球状造粒黒鉛」に対して、「SBRエマルション」と「ポリアクリル酸水溶液」を加えたものであるところ、引用文献1の段落【0036】の「ポリアクリル酸を固体のままではなく、イオン交換水に溶解させた形で使用すれば、負極ペーストへ添加した場合、負極ペーストの分散性が著しく低下することはない。また、SBR(結着材(A))のエマルションを予めペースト内で充分に分散させた状態でポリアクリル酸の水溶液の添加を行うのが望ましい。これにより、ポリアクリル酸の水溶液に対してSBRのエマルションを添加した場合のような、ポリアクリル酸の酸性によってエマルションの分散が妨げられ、ペーストの均一分散性の低下を防止することができる。」との記載を考慮すれば、引用発明の「負極ペースト」は、均一分散性を有したものであり、少なくとも「酸化珪素負極活物質」および「SBR」が均一に分散したものと認められる。
してみると、引用発明の「負極ペースト」は、本件発明1の「ポリマー結合剤の中に分散された電気化学的活物質の粒子を含む電極材料」に相当するといえる。
(g)上記(a)ないし(f)によれば、本件発明1と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
「ポリマー結合剤の中に分散された電気化学的活物質の粒子を含む電極材料であって、ここで該粒子は炭素被覆を含み、該ポリマー結合剤は、水性結合剤と、ポリ(アクリル酸)が選択された酸性ポリマーを含む混合物であり、前記水性結合剤は、SBR(スチレンブタジエンゴム)が選択された、電極材料。」
〈相違点1〉
炭素被覆が、本件発明1では「酸化グラフェンまたは窒素含有活性炭を含む」のに対して、引用発明ではその旨特定されていない点。
〈相違点2〉
ポリマー結合剤が、本件発明1は「SBR(スチレンブタジエンゴム)、NBR(ブタジエンアクリロニトリルゴム)、HNBR(水素化NBR)、CHR(エピクロロヒドリンゴム)、ACM(アクリレートゴム)、およびこれらの組み合わせから選択される」「水性結合剤と、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、およびこれらの組み合わせから選択される酸性ポリマーとからなる混合物」であるのに対して、引用発明はSBRエマルジョン、ポリアクリル酸水溶液に、さらにカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)水溶液を加えたものである点。
b 判断
上記相違点1および2が実質的な相違点であることは明らかであるから、本件発明1は、引用文献1(甲第3号証)に記載された発明と同一ではない。
(イ)本件発明3ないし5について
本件発明3ないし5は本件発明1を引用し、酸性ポリマーをポリ(アクリル酸)に特定、あるいは、水性結合剤をSBR(スチレンブタジエンゴム)を含むものに特定したものであるから、本件発明3ないし5はいずれも、少なくとも上記「(ア)a(g)」に示した相違点1および2に係る構成において引用発明と相違する。
そして、上記相違点1および2が実質的な相違点であることは明らかであるから、本件発明3ないし5は、引用文献1(甲第3号証)に記載された発明と同一ではない。
(2)取消理由2(進歩性)について
ア 対比
本件発明2と引用発明とを対比する。
本件発明2は本件発明1を引用し、酸性ポリマーをポリ(メタクリル酸)に特定したものであるから、本件発明2は、少なくとも上記「(1)イ(ア)a(g)」に示した相違点1に係る構成において引用発明と相違する。
イ 判断
上記相違点1に係る構成について検討する。
引用文献2(特に、段落[0024]参照)には、集電体上に塗布されるスラリー組成物に用いるポリカルボン酸として、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などを用いる技術に加え、炭素系負極活物質として表面の少なくとも一部が非晶質炭素で被覆された天然黒鉛を用いること(段落[0110]等参照)が記載されているものの、引用文献2にも、活物質粒子の炭素被覆が酸化グラフェンまたは窒素含有活性炭を含むことは記載も示唆もされていない。
また、出願時の技術常識から、活物質粒子の炭素被覆に用いられる炭素材料であるというだけで、酸化グラフェンまたは窒素含有活性炭と特定されるものとも認められない。
よって、本件発明2の相違点1に係る構成は、引用文献1に記載された発明および引用文献2に記載された技術に基づいて当業者が容易に想到しえたものとはいえない。
そして、本件明細書段落【0040】、【0041】に記載によれば、本件発明1の構成を備える本件発明2は、酸化グラフェンまたは窒素含有活性炭を含む炭素被覆を含む活物質粒子にSBRおよびポリ(アクリル酸)(PAA)の混合物である水ベースの結合剤を使用することで、活物質粒子が集電体と接触し反応することを防止すると共に粒子の分散を安定させる効果を奏するものと認められる。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、請求項2に係る発明は、引用文献1(甲第3号証)に記載された発明および引用文献2(甲第4号証)に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立人の主張
申立人は特許異議申立書において、概略次のように主張している。
(1)請求項1、3ないし5に係る発明は下記の甲第1号証、甲第3号証、又は甲第4号証に記載された発明と同一であるから、請求項1、3ないし5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)請求項1ないし5に係る発明は下記の甲第1ないし5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第1号証:国際公開第2014/141721号
甲第2号証:国際公開第2013/191239号
甲第3号証:特開2013-229163号公報
甲第4号証:国際公開第2014/188724号
甲第5号証:特開2013-178926号公報
2 当審の判断
(1)特許法第29条第1項の規定違反について
ア 各甲号証に記載された発明
(ア)甲第1号証について
甲第1号証の請求項6および7の記載より、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明A」という。)が記載されているといえる。
「水酸基又はカルボキシル基を有する水溶性増粘剤(A)と、前記水溶性増粘剤(A)の水酸基又はカルボキシル基と反応する官能基を有する架橋剤(B)と、粒子状重合体(C)と、負極活物質と、水とを含み、
前記粒子状重合体(C)は、前記架橋剤(B)と反応する官能基を有し、且つ、脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を含み、
前記水溶性増粘剤(A)100質量部当たり、前記架橋剤(B)を0.001質量部以上100質量部末満含有し、前記粒子状重合体(C)を10質量部以上500質量部未満含有する、二次電池用スラリー組成物から得られる負極合材層。」
甲第1号証の[0025]、[0045]、[0068]、[0070]、[0076]、[0079]、[0088]、[0089]、実施例27の記載より、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明B」という。)が記載されているといえる。
「負極活物質としてのSi含有材料を導電性カーボンで被覆してなる複合化物と、粒子状重合体(C)としてのスチレン-ブタジエン共重合体と、水溶性増粘剤(A)としてのポリアクリル酸と、を含む二次電池用スラリー組成物を塗布して乾燥した負極合材層。」
甲第1号証の製造例1、実施例27の記載より、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明C」という。)が記載されているといえる。
「10000質量部の、負極活物質としての天然黒鉛と、
100質量部の、芳香族ビニル単量体単位としてのスチレン65質量部、脂肪族共役ジエン単量体単位としての1,3-ブタジエン35質量部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位としてのイタコン酸4質量部、及び水酸基含有単量体単位としての2-ヒドロキシエチルアクリレート1質量部を含有する粒子状重合体C1と、
100質量部のポリアクリル酸と、
を含む二次電池用スラリー組成物を塗布して乾燥した負極合材層。」
(イ)甲第3号証について
甲第3号証の請求項1の記載より、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲3発明A」という。)が記載されているといえる。
「負極活物質及び結着材を含んで構成される非水電解質二次電池用負極であって、
前記負極活物質が、黒鉛系負極活物質及びシリコン系負極活物質を含み、
前記結着材として、
(A)スチレンブタジエンゴム、及び、
(B)塩基性物質によって中和がなされていないポリアクリル酸
を含み、
前記黒鉛系負極活物質及びシリコン系負極活物質の合計質量を100としたときの前記結着材(A)の質量割合が0.50~3.0であり、前記結着材(B)の質量割合が1.5~15.0であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極。」
甲第3号証の実施例1の記載より、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲3発明B」という。)が記載されているといえる。
「5.0質量部の、酸化珪素負極活物質としてのSiO2中にSiが分散した粒子をカーボン被覆した黒色粒子と、
1.5質量部の、重量平均分子量1,000,000のポリアクリル酸と、
1.5質量部の、スチレンブタジエンゴムと、
を含むペーストを塗布し、乾燥して得られた負極。」
甲第3号証の実施例2の記載より、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲3発明C」という。)が記載されているといえる。
「5.0質量部の、酸化珪素負極活物質としてのSiO2中にSiが分散した粒子をカーボン被覆した黒色粒子と、
5.0質量部の、重量平均分子量1,000,000のポリアクリル酸と、
1.5質量部の、スチレンブタジエンゴムと、
を含むペーストを塗布し、乾燥して得られた負極。」
甲第3号証の実施例3の記載より、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲3発明D」という。)が記載されているといえる。
「5.0質量部の、酸化珪素負極活物質としてのSiO2中にSiが分散した粒子をカーボン被覆した黒色粒子と、
10.0質量部の、重量平均分子量1,000,000のポリアクリル酸と、
1.5質量部の、スチレンブタジエンゴムと、
を含むペーストを塗布し、乾燥して得られた負極。」
甲第3号証の実施例4の記載より、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲3発明E」という。)が記載されているといえる。
「5.0質量部の、酸化珪素負極活物質としてのSiO2中にSiが分散した粒子をカーボン被覆した黒色粒子と、
5.0質量部の、重量平均分子量250,000のポリアクリル酸と、
1.5質量部の、スチレンブタジエンゴムと、
を含むペーストを塗布し、乾燥して得られた負極。」
甲第3号証の実施例5の記載より、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲3発明F」という。)が記載されているといえる。
「25.0質量部の、酸化珪素負極活物質としてのSiO2中にSiが分散した粒子をカーボン被覆した黒色粒子と、
10.0質量部の、重量平均分子量1,000,000のポリアクリル酸と、
1.5質量部の、スチレンブタジエンゴムと、
を含むペーストを塗布し、乾燥して得られた負極。」
甲第3号証の実施例6の記載より、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲3発明G」という。)が記載されているといえる。
「50.0質量部の、酸化珪素負極活物質としてのSiO2中にSiが分散した粒子をカーボン被覆した黒色粒子と、
15.0質量部の、重量平均分子量1,000,000のポリアクリル酸と、
1.5質量部の、スチレンブタジエンゴムと、
を含むペーストを塗布し、乾燥して得られた負極。」
甲第3号証の実施例8の記載より、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲3発明H」という。)が記載されているといえる。
「5.0質量部の、酸化珪素負極活物質としてのSiO2中にSiが分散した粒子をカーボン被覆した黒色粒子と、
5.0質量部の、重量平均分子量1,000,000のポリアクリル酸と、
0.5質量部の、スチレンブタジエンゴムと、
を含むペーストを塗布し、乾燥して得られた負極。」
甲第3号証の実施例9の記載より、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲3発明I」という。)が記載されているといえる。
「5.0質量部の、酸化珪素負極活物質としてのSiO2中にSiが分散した粒子をカーボン被覆した黒色粒子と、
10.0質量部の、重量平均分子量1,000,000のポリアクリル酸と、
3.0質量部の、スチレンブタジエンゴムと、
を含むペーストを塗布し、乾燥して得られた負極。」
(ウ)甲第4号証について
甲第4号証の請求項4および5の記載より、甲第4号証には、以下の発明(以下、「甲4発明A」という。)が記載されているといえる。
「水酸基又はカルボキシル基を有する水溶性増粘剤(A)と、カルボジイミド基又はオキサゾリン基を有する架橋剤(B)と、粒子状重合体(C)と、負極活物質と、水とを含み、
前記粒子状重合体(C)は、前記架橋剤(B)と反応する官能基を有し、かつ、脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を含み、
前記水溶性増粘剤(A)100質量部当たり、前記架橋剤(B)を0.001質量部以上100質量部未満含有し、前記粒子状重合体(C)を10質量部以上500質量部未満含有する、二次電池電極用スラリー組成物から得られる負極合材層。」
甲第4号証の実施例1,2の記載より、甲第4号証には、以下の発明(以下、「甲4発明B」という。)が記載されているといえる。
「10000質量部の、負極活物質としての非晶質コート天然黒鉛と、
150質量部の、芳香族ビニル単量体としてスチレン65質量部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3-ブタジエン35質量部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸4質量部、及び水酸基含有単量体として2-ヒドロキシエチルアクリレート1質量部を含有する粒子状重合体C1と、
2質量部のポリアクリル酸と、
を含む二次電池用スラリー組成物を塗布して乾燥した負極合材層。」
甲第4号証の実施例7の記載より、甲第4号証には、以下の発明(以下、「甲4発明C」という。)が記載されているといえる。
「10000質量部の、負極活物質としての非晶質コート天然黒鉛と、
150質量部の、芳香族ビニル単量体としてスチレン65質量部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3-ブタジエン35質量部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸4質量部、及び水酸基含有単量体として2-ヒドロキシエチルアクリレート1質量部を含有する粒子状重合体C1と、
0.5質量部のポリアクリル酸と、
を含む二次電池用スラリー組成物を塗布して乾燥した負極合材層。」
甲第4号証の実施例8の記載より、甲第4号証には、以下の発明(以下、「甲4発明D」という。)が記載されているといえる。
「10000質量部の、負極活物質としての非晶質コート天然黒鉛と、
150質量部の、芳香族ビニル単量体としてスチレン65質量部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3-ブタジエン35質量部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸4質量部、及び水酸基含有単量体として2-ヒドロキシエチルアクリレート1質量部を含有する粒子状重合体C1と、
10質量部のポリアクリル酸と、
を含む二次電池用スラリー組成物を塗布して乾燥した負極合材層。」
甲第4号証の実施例11の記載より、甲第4号証には、以下の発明(以下、「甲4発明E」という。)が記載されているといえる。
「10000質量部の、負極活物質としての非晶質コート天然黒鉛と、
15質量部の、芳香族ビニル単量体としてスチレン65質量部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3-ブタジエン35質量部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸4質量部、及び水酸基含有単量体として2-ヒドロキシエチルアクリレート1質量部を含有する粒子状重合体C1と、
2質量部のポリアクリル酸と、
を含む二次電池用スラリー組成物を塗布して乾燥した負極合材層。」
甲第4号証の実施例12の記載より、甲第4号証には、以下の発明(以下、「甲4発明F」という。)が記載されているといえる。
「10000質量部の、負極活物質としての非晶質コート天然黒鉛と、
60質量部の、芳香族ビニル単量体としてスチレン65質量部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3-ブタジエン35質量部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸4質量部、及び水酸基含有単量体として2-ヒドロキシエチルアクリレート1質量部を含有する粒子状重合体C1と、
2質量部のポリアクリル酸と、
を含む二次電池用スラリー組成物を塗布して乾燥した負極合材層。」
甲第4号証の実施例13の記載より、甲第4号証には、以下の発明(以下、「甲4発明G」という。)が記載されているといえる。
「10000質量部の、負極活物質としての非晶質コート天然黒鉛と、
100質量部の、芳香族ビニル単量体としてスチレン65質量部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3-ブタジエン35質量部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸4質量部、及び水酸基含有単量体として2-ヒドロキシエチルアクリレート1質量部を含有する粒子状重合体C1と、
2質量部のポリアクリル酸と、
を含む二次電池用スラリー組成物を塗布して乾燥した負極合材層。」
甲第4号証の実施例14の記載より、甲第4号証には、以下の発明(以下、「甲4発明H」という。)が記載されているといえる。
「10000質量部の、負極活物質としての非晶質コート天然黒鉛と、
270質量部の、芳香族ビニル単量体としてスチレン65質量部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3-ブタジエン35質量部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸4質量部、及び水酸基含有単量体として2-ヒドロキシエチルアクリレート1質量部を含有する粒子状重合体C1と、
2質量部のポリアクリル酸と、
を含む二次電池用スラリー組成物を塗布して乾燥した負極合材層。」
甲第4号証の実施例15の記載より、甲第4号証には、以下の発明(以下、「甲4発明I」という。)が記載されているといえる。
「10000質量部の、負極活物質としての非晶質コート天然黒鉛と、
400質量部の、芳香族ビニル単量体としてスチレン65質量部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3-ブタジエン35質量部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸4質量部、及び水酸基含有単量体として2-ヒドロキシエチルアクリレート1質量部を含有する粒子状重合体C1と、
2質量部のポリアクリル酸と、
を含む二次電池用スラリー組成物を塗布して乾燥した負極合材層。」
イ 対比・判断
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲1発明AないしC、甲3発明AないしI、甲4発明AないしIとを対比すると、本件発明1は、少なくとも、上記第4の「2(1)イ(ア)a(g)」に示した相違点1の構成と同じ構成において甲1発明AないしC、甲3発明AないしI、甲4発明AないしIのいずれとも相違する。
そして、当該相違は実質的な相違であることは明らかであるから、本件発明1は、甲1発明AないしC、甲3発明AないしI、甲4発明AないしIのいずれとも同一ではない。
(イ)本件発明3ないし5について
本件発明3ないし5は本件発明1を引用し、酸性ポリマーをポリ(アクリル酸)に特定、あるいは、水性結合剤をSBR(スチレンブタジエンゴム)を含むものに特定したものであるから、本件発明3ないし5はいずれも、少なくとも、上記第4の「2(1)イ(ア)a(g)」に示した相違点1の構成と同じ構成において甲1発明AないしC、甲3発明AないしI、甲4発明AないしIのいずれとも相違する。
そして、当該相違は実質的な相違であることは明らかであるから、本件発明3ないし5はいずれも、甲1発明AないしC、甲3発明AないしI、甲4発明AないしIのいずれとも同一ではない。
(2)特許法第29条第2項の規定違反について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明AないしC、甲3発明AないしI、甲4発明AないしIとを対比すると、上記「(1)イ(ア)」に述べたように、本件発明1は、少なくとも上記第4の「2(1)イ(ア)a(g)」に示した相違点1の構成と同じ構成において甲1発明AないしC、甲3発明AないしI、甲4発明AないしIのいずれとも相違する。
そして、甲第2号証の段落[0054]ないし[0059]等には、リチウムイオン二次電池負極用スラリー、リチウムイオン二次電池用電極及びその製造方法、並びに、リチウムイオン二次電池の分野において、負極活物質として、金属ケイ素及びケイ素系活物質の一方又は両方をカーボンによりコーティングすることにより複合化したものが好ましい旨開示され、甲第5号証の段落【0038】等には、非水系二次電池の分野において、水溶性増粘剤として、ポリ(メタ)アクリル酸を使用できる旨開示されているものの、甲第2号証および甲第5号証のいずれにも、活物質粒子の炭素被覆に酸化グラフェンまたは窒素含有活性炭を含ませることについて、記載も示唆もない。
よって、上記第4の「2(2)イ」で検討したのと同様に、請求項1に係る発明は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は本件発明1を引用し、酸性ポリマーをポリ(メタクリル酸)またはポリ(アクリル酸)に特定、あるいは、水性結合剤をSBR(スチレンブタジエンゴム)を含むものに特定したものであるから、本件発明2ないし5はいずれも、少なくとも上記第4の「2(1)イ(ア)a(g)」に示した相違点1の構成と同じ構成において甲1発明AないしC、甲3発明AないしI、甲4発明AないしIのいずれとも相違する。
よって、上記アで検討したのと同様に、請求項2ないし5に係る発明は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700017