特許異議申立
2024-700683
導電性に優れた積層造形用の銅合金粉末
- 審判番号
- 2024-700683
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-065521
- 登録番号
- 7419290
- 請求日
- 2024年07月22日
- 審決日
- 2024年11月22日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】山陽特殊製鋼株式会社
- 【権利者代理人】横井 知理
- 【権利者代理人】横井 宏理
- 【異議申立人】横山 佳孝
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 井上 猛
- 審判官 土屋 知久
- 分類
- P1651.536-Y (C22C) / P1651.537-Y (C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第113条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7419290号発明「導電性に優れた積層造形用の銅合金粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7419290号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7419290号(請求項の数3。以下、「本件特許」という。)は、令和3年4月7日を出願日とする出願(特願2021-65521号)に係るものであって、令和6年1月12日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和6年1月22日である。)。
その後、令和6年7月22日に、本件特許の請求項1~3に係る特許に対して、特許異議申立人である横山佳孝(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、同年8月13日に手続補正書(方式)が提出された。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~3に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
【請求項1】
質量%で、
元素群M(必須成分Zrと任意的付加的成分Cr、Fe、Ni、Nb)を合計で0.1~10%、
Oを50~500ppm含有し、
Siは0.2%以下、Pは0.2%以下、Sは0.2%以下であって、
かつ残部がCuおよび不可避的不純物である銅合金粉末であって、
CuKα線を用いたX線回折における
(1)回折角2θ:43.0±0.2°のピーク強度、
(2)回折角2θ:43.5±0.2°のピーク強度、
(3)回折角2θ:50.2±0.5°のピーク強度についての
ピーク強度比(1)/(3)が1.5~2.5であって、かつ、
ピーク強度比(2)/(3)が2.5~3.5である、
積層造形用の銅合金粉末。
【請求項2】
粉末の最表面におけるO、Cu、元素群Mの質量比が、0.5≦[O]/([Cu]+[M])≦2.0である、請求項1に記載の積層造形用の銅合金粉末。
【請求項3】
レーザー波長1064nmにおけるレーザー光反射率が75%以下である、請求項1または請求項2に記載の積層造形用の銅合金粉末。
第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件特許の請求項1~3に係る特許は、下記1~3のとおり、特許法113条4号に該当する。証拠方法は、参考資料1、2(下記4を参照)である。
1 申立理由1(実施可能要件)
本件発明1~3については、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法113条4号に該当する。
2 申立理由2(サポート要件)
本件発明1~3については、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法113条4号に該当する。
3 申立理由3(明確性要件)
本件発明1~3については、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法113条4号に該当する。
4 証拠方法
・参考資料1 Cuについての国際回折データセンターのPDFデータ
・参考資料2 CuZrについての国際回折データセンターのPDFデータ
第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(実施可能要件)
(1)本件発明1~3について
本件発明1~3は、積層造形用の銅合金粉末に関するものであり、上記第2で認定したとおりのものである。
本件明細書には、銅合金粉末の成分(【0020】~【0026】)、XRDのピーク強度比(【0027】~【0030】)の各事項について具体的な説明がなされており、さらに、粉末表面の元素比(【0031】、【0032】)、レーザー光反射率(【0033】)の各事項についても、具体的な説明がなされている。
また、本件明細書には、銅合金粉末の製造方法について、水アトマイズ法、単ロール急冷法、双ロール急冷法、ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法及び遠心アトマイズ法が例示されること、メカニカルミリング等により粉砕してもよいこと、添加成分Zr等の過飽和固溶及び球状化の観点からは、ガスアトマイズ法が好ましいことが記載されている(【0036】)。
そして、本件明細書には、実施例(実施例1~18、表1)として、本件発明1~3の条件を満たす各種の銅合金粉末をガスアトマイズ法により製造したことが記載されている(【0050】~【0063】)。具体的には、「真空中にて、アルミナ製坩堝で、所定の組成を有する原料を高周波誘導加熱で加熱し、溶解した後、坩堝下にある直径が5mmのノズルから、溶湯を落下させた。次いで、この溶湯に向けてアルゴンガスを噴霧し、多数の粒子を得た。これらの粒子に分級を施して直径が63μmを超える粒子を除去し、銅合金粉末を得た。」(【0051】)と記載されている。
そうすると、上記実施例以外の本件発明1~3に係る銅合金粉末についても、当業者であれば、実施例を参照しつつ、各種の成分組成を有する原料を用いてガスアトマイズの条件を適宜調整することにより、製造することができる。
また、銅合金粉末が積層造形のための原料として使用できることは、本件明細書の記載全体から明らかである。
以上によれば、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、本件発明1~3に係る銅合金粉末を製造し、使用することができるといえる。
したがって、本件発明1~3については、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するものである。
(2)申立人の主張について
申立人は、請求項1には、組成とX線回折のピーク強度比だけが規定されており、請求項1に記載された組成のものをどのように調整すれば、請求項1に記載のピーク強度比の範囲を満足する銅合金粉末になるのか把握できず、組成調整について相当の試行錯誤を繰り返す必要があると主張する。
しかしながら、本件明細書には、実施例(実施例1~18、表1)として、本件発明1~3の条件を満たす各種の銅合金粉末をガスアトマイズ法により製造したことが記載されており、上記実施例以外の銅合金粉末についても、当業者であれば、実施例を参照しつつ、各種の成分組成を有する原料を用いてガスアトマイズの条件を適宜調整することにより、製造することができることは、上記(1)で述べたとおりである。上記実施例以外の本件発明1~3に係る銅合金粉末を製造するにあたり、実施例を参照すれば、多少の試行錯誤は必要であるとしても、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要するとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
(3)まとめ
したがって、申立理由1(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(サポート要件)
(1)本件発明1~3について
ア 本件明細書の記載(【0002】~【0011】)によれば、本件発明1~3が解決しようとする課題は、積層造形などの急速溶融急冷凝固を伴うプロセスに適しており、高密度な造形物の作製が可能であり、かつ高い導電率を有する造形物が得られる銅合金粉末を提供することであると認められる。
イ 本件明細書の記載及び図面(【0012】~【0033】、【0045】~【0063】、表1、2、図1)によれば、上記アの課題は、積層造形用の銅合金粉末において、成分組成を「質量%で、元素群M(必須成分Zrと任意的付加的成分Cr、Fe、Ni、Nb)を合計で0.1~10%、Oを50~500ppm含有し、Siは0.2%以下、Pは0.2%以下、Sは0.2%以下であって、かつ残部がCuおよび不可避的不純物である」とし、XRDのピーク強度比を「CuKα線を用いたX線回折における(1)回折角2θ:43.0±0.2°のピーク強度、(2)回折角2θ:43.5±0.2°のピーク強度、(3)回折角2θ:50.2±0.5°のピーク強度についてのピーク強度比(1)/(3)が1.5~2.5であって、かつ、ピーク強度比(2)/(3)が2.5~3.5である」とする、との各要件を備えることによって、解決できることが理解できる。
ウ 以上のとおり、本件明細書の記載を総合すれば、上記イの各要件を備えた本件発明1~3は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により上記アの課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
したがって、本件発明1~3については、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。
(2)申立人の主張について
ア(ア)申立人は、本件明細書の記載(【0010】、【0020】、【0036】)を総合すれば、本件発明1~3に係る銅合金粉末は、元素群Mの元素(Zr等)がCuに過飽和に固溶しているものであり、本件明細書では、高密度の造形物を得るために、元素群Mの元素をCuに過飽和に固溶させることが必要であると説明しているにもかかわらず、請求項1にはそのことが規定されていないから、本件発明1~3は、当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えていると主張する。
(イ)確かに、本件明細書には、元素群Mの元素がCuに過飽和に固溶することにより、レーザー光反射率が低減されるため、高密度の造形物を得ることができることが記載されている(【0020】)。
しかしながら、本件明細書には、元素群Mの元素をCuに過飽和に固溶させることが必要であるとまでは記載されていない。
また、本件明細書には、上記記載のほかに、
a 元素群Mの元素は、レーザー光反射率を低減するための元素でもあり、密度が高く、高い導電率を有する造形物を得るために、その含有率を合計で0.1~10%とすること(【0021】)、
b 銅合金の電気伝導を阻害する元素であるため、Si、P、Sの含有率の上限をいずれも0.2%とすること(【0022】~【0025】)、
c レーザー光反射率を低減し、高い電気伝導率を有する造形物を得るために、Oの含有率を50~500ppmとすること(【0026】)、
d ピーク強度比(1)/(3)を1.5~2.5とすることによって、高い電気伝導率を有する造形物が得られるとともに、レーザー光反射率が高くなって造形が困難になるようなことがないこと(【0030】)、
e ピーク強度比(2)/(3)を2.5~3.5とすることによって、レーザー光反射率を低減可能であり、高密度の造形が容易になるとともに、造形物の電気伝導率が低下するようなことがないこと(【0030】)、
が記載されている。
そうすると、当業者であれば、上記a~eの記載に対応する上記(1)イの各要件を備えることによって、元素群Mの元素がCuに過飽和に固溶しているか否かにかかわらず、上記(1)アの課題を解決できることが理解できる。したがって、上記(1)イの各要件を備えた本件発明1~3が、当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えているとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
イ(ア)申立人は、本件明細書には、請求項1に規定する「質量%で、元素群M(必須成分Zrと任意的付加的成分Cr、Fe、Ni、Nb)を合計で0.1~10%、」のうち、Zrが0.50質量%未満であるか9.00質量%を超える実施例、任意的付加的成分が1.00質量%を超える実施例、任意的付加的成分が存在せず必須成分であるZrが0.50質量%未満か1.50質量%を超える実施例はいずれも存在しないと主張する。
(イ)しかしながら、申立人の主張にかかわらず、本件発明1~3については、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであることは、上記(1)のとおりである。また、実際に、請求項1に規定する「質量%で、元素群M(必須成分Zrと任意的付加的成分Cr、Fe、Ni、Nb)を合計で0.1~10%、」のうち、実施例が存在しない範囲において、上記(1)アの課題を解決できないことを示す具体的な根拠は見当たらない。
よって、申立人の主張は採用できない。
ウ(ア)申立人は、本件明細書には、請求項1~3の全ての条件を満たす実施例しか記載されておらず、請求項1の条件は満たすが、請求項2や請求項3の条件は満たさないような発明については、実施例がないと主張する。
(イ)しかしながら、申立人の主張にかかわらず、本件発明1~3については、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであることは、上記(1)のとおりである。また、実際に、請求項1の条件は満たすが、請求項2や請求項3の条件は満たさないような発明について、上記(1)アの課題を解決できないことを示す具体的な根拠は見当たらない。
よって、申立人の主張は採用できない。
(3)まとめ
したがって、申立理由2(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(明確性要件)
(1)本件発明1~3について
請求項1~3の記載は、上記第2のとおりのものであるところ、請求項1~3の記載に不明確なところはなく、その意味は明確であるから、本件発明1~3は明確である。
(2)申立人の主張について
ア 申立人は、Zrを含有しない比較例12、13は、(2)、(3)のピークは存在しないはずであるから、本件明細書の表2に記載されているようなピーク強度比(1)/(3)、(2)/(3)の各数値にはならないと主張する。
しかしながら、申立人の主張にかかわらず、本件発明1~3が明確であることは、上記(1)のとおりである。申立人の主張は、本件発明1~3についての明確性要件の判断を左右するものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。
イ 申立人は、Cuについての国際回折データセンターのPDFデータ(参考資料1)、CuZrについての国際回折データセンターのPDFデータ(参考資料2)を示しながら、請求項1における回折強度の比(ピーク強度比)による物質の規定に関し、本件の図1(実施例4に係る銅合金粉末の回折プロファイル)には、4点の問題(CuZrで観測されるべき回折ピークの不検出(問題1)、CuZr由来のピーク強度とCu由来のピーク強度の大小関係の不自然さ(問題2、3)、50.2°近傍のピークの誤認(問題4))があると主張する。
しかしながら、申立人の主張にかかわらず、本件発明1~3が明確であることは、上記(1)のとおりである。申立人の主張は、本件発明1~3についての明確性要件の判断を左右するものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。
(3)まとめ
したがって、申立理由3(明確性要件)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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