特許異議申立
2023-700293
溶接異常診断装置
- 審判番号
- 2023-700293
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-562251
- 登録番号
- 7184211
- 請求日
- 2023年03月16日
- 審決日
- 2023年09月28日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東芝三菱電機産業システム株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
- 【異議申立人】杉村 隆司
- 審判長/審判官
- 審判長 鈴木 貴雄
- 審判官 大山 健
- 審判官 渋谷 善弘
- 分類
- P1651.121-Y (B23K) / P1651.537-Y (B23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7184211号発明「溶接異常診断装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7184211号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7184211号の請求項1~9に係る特許についての出願は、2019年(令和元年)12月4日を国際出願日として出願され、令和4年11月28日にその特許権の設定登録がされ、同年12月6日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和5年3月16日に特許異議申立人 杉村 隆司(以下「申立人」という。)により請求項1~9に係る特許に対する特許異議の申立てがなされた。
第2 本件特許発明
特許第7184211号(以下「本件特許」という。)の請求項1~9の特許に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などという。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
A 被溶接材の裏面を撮影するカメラシステムと、
B 前記被溶接材の溶接時において前記カメラシステムにより撮影された発光撮影画像を収集する溶接部撮影カメラ画像収集部と、
C 溶接条件設定値を収集する溶接制御情報収集部と、
D 前記被溶接材の溶接状況を診断するための溶接光特徴量を前記発光撮影画像に基づいて計算し、前記溶接光特徴量と前記溶接条件設定値とに基づいて溶接の良不良を判定する溶接状況診断部と、
を備え、
E 前記溶接状況診断部は、溶接傾向診断手段を含み、
前記溶接傾向診断手段は、複数の前記溶接光特徴量から統計量を計算し、前記統計量が持つ傾向と溶接異常判定上下限値とに基づいて溶接の良不良を判定する
F 溶接異常診断装置。
【請求項2】
G 前記溶接状況診断部は、撮影画像毎診断手段を含み、
前記撮影画像毎診断手段は、一本分の溶接工程のなかで前記溶接部撮影カメラ画像収集部から得られる時々刻々の前記発光撮影画像から時々刻々の前記溶接光特徴量を計算し、前記溶接光特徴量と前記溶接条件設定値に紐づけられた溶接異常判定上下限値とに基づいて溶接の良不良を判定する請求項1に記載の溶接異常診断装置。
【請求項3】
H 前記撮影画像毎診断手段は、一本分の溶接工程のなかで前記溶接部撮影カメラ画像収集部から得られる時々刻々の前記発光撮影画像から時々刻々の前記溶接光特徴量を計算し、予め定めた期間内における前記溶接光特徴量の勾配を比較することで、溶接の良不良を判定する請求項2に記載の溶接異常診断装置。
【請求項4】
I 前記撮影画像毎診断手段は、一本分の前記溶接部撮影カメラ画像収集部から得られる時々刻々の前記発光撮影画像により得られる時々刻々の前記溶接光特徴量に基づき前記溶接条件設定値を補正する請求項2に記載の溶接異常診断装置。
【請求項5】
J 前記溶接状況診断部は、溶接完了後診断手段を含み、
前記溶接完了後診断手段は、複数の前記溶接光特徴量から統計量を計算し、前記統計量と溶接異常判定上下限値とに基づいて溶接の良不良を判定する請求項1に記載の溶接異常診断装置。
【請求項6】
K 前記溶接完了後診断手段は、前記統計量に基づいて統計的手法を用いて前記溶接異常判定上下限値を決定する請求項5に記載の溶接異常診断装置。
【請求項7】
L 前記溶接完了後診断手段は、前記統計量に基づいて機械学習を用いて前記溶接異常判定上下限値を決定する請求項5に記載の溶接異常診断装置。
【請求項8】
M 前記溶接傾向診断手段は、前記統計量に基づいて統計的手法を用いて前記溶接異常判定上下限値を決定する請求項1に記載の溶接異常診断装置。
【請求項9】
N 前記溶接傾向診断手段は、前記統計量に基づいて機械学習を用いて前記溶接異常判定上下限値を決定する請求項1に記載の溶接異常診断装置。」
(構成A~Nは、申立人が特許異議申立書(以下「申立書」という。)5~7ページにおいて、分説したものである。また、以下、それぞれ「構成A」などという。)
第3 申立理由の概要
申立人が提出した証拠及び申立人による特許異議申立理由の概要は以下のとおりである。
1 申立人が提出した証拠
申立人が提出した証拠である甲第1号証~甲第5号証は、以下のとおりである。(以下、甲各号証を「甲1」などという。)
甲1:特開2001-25867号公報
甲2:米国特許第6084205号明細書
甲3:韓国登録特許第10-0398422号公報
甲4:Gissel Velarde, Christian A. Binroth, Regression analysis: A good practice for parameter exploration and optimisation in laser welding process, Welding and Cutting, 0ctober 2011, No.5, p.322-328
甲5:D. F. Farson, A. Ali, X. C. Li, Laser weld penetration monitoring with multiple emission signal measurements, Journal of Laser Applications, Laser Institute of America, April 1999, Volume 11, Number 2, p.47-53
2 申立の理由の概要
申立人は、請求項1~9に係る特許は、以下の理由(1)~(3)により取り消されるべきものである旨を申立している。(申立書5ページ)
(1)申立理由1(本件発明1~9についての進歩性欠如)
本件発明1~9は、甲1~甲5記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
特に、申立人は、本件発明1について、甲1に記載された発明及び甲4に記載されているような周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。(申立書19~22ページ)
(2)申立理由2(本件発明1~9についてのサポート要件違反)
本件発明1~9は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)申立理由3(本件発明1~9についての明確性要件違反)
本件発明1~9は、明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第4 甲1、甲4に記載された事項及び発明等について
1 甲1について
(1)甲1に記載された事項(なお、下線部については当審で付した。以下同様。)
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、裏波溶接制御方法及びその装置に係り、特に、被溶接部材の開先溶融部のうち溶接電極を臨む面とは反対側となる裏側の裏波溶接状態を撮像し、この撮像により得られた裏波画像を処理し、この処理結果を基に適正な裏波ビード形状が得られるように溶接条件を制御するに好適な裏波溶接制御方法及びその装置に関する。
・・・
【0003】上記従来技術では、各対象に合わせた最適なシャッタスピードによって各対象を撮像し、この撮像によるアーク、溶融池、開先内の画像情報と画像処理装置に設定された画面のマスク位置とをそれぞれ合成してモニタ出力しているため、各画像が時間的に同時性がなく、切り出したマスク画面では1画像のみしか鮮明に表示することができない。しかも、各マスク画面が画面垂直方向で不連続な画像となって表示されるため、必ずしも鮮明な画像とはならない。さらに、表側のアークや溶融池等の画像を取り込んで処理しているため、開先裏側の溶け込み状態(裏波溶接状態)を直接監視することができない。
【0004】突き合わせ開先での溶接の作業では、被溶接部材の表側(溶接電極を臨む面側)から何層かに分けて重ねて溶接することが行なわれている。このときの初層溶接において、被溶接部材の裏側から溶接ができず、被溶接部材の表側から溶接を行なう場合、裏側の溶融状況がわからないため、裏波溶接ビードが溶け落ちたり、あるいは溶け込みが不十分で融合不良を生じたりすることがある。初層溶接の裏波ビードの良し悪しは、溶接品質を決定する重要なポイントであるが、表側からの初層溶接において、裏側の溶融状況がわからない状態で、溶け落ちや溶融不良のない良好な裏波ビードを得ることは、熟練した溶接士でも非常に困難である。
・・・
【0006】
【発明が解決しようとする課題】被溶接部材の裏波溶接状況をカメラで監視するに際して、溶接直後の裏波ビードの形成状態を光切断像により監視しているため、溶接ビードの結果の良し悪しを判定することはできる。しかし、溶接直後の裏波ビードの形成状態を判定するのでは、あくまでも溶接後の結果を判定していることになり、既に欠陥裏波ビードとなったものに対して溶接条件を制御しても回復することはできない。
・・・
【0020】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る裏波溶接制御装置が採用された溶接システムの全体構成図である。図1において、被溶接部材10、12は円筒形状に形成されており、各被溶接部材10、12の軸方向端面には開先加工が施されている。そして各被溶接部材10、12は軸方向端面が互いに接触した状態で重ね合わせられた状態で配置されている。各被溶接部材10、12が互いに接触するラインは溶接ラインQとして設定されており、被溶接部材10、12の表面側には溶接電極14が配置されている。この溶接電極14は電極位置駆動部16と一体となって配置されている。電極位置駆動部16は、電極位置制御装置20からの信号に応答して、被溶接部材10または12の外周に、溶接ラインQと平行に取り付けられた走行軸(図示省略)上を走行するようになっており、電極位置駆動部16の走行により溶接電極14が溶接ラインQに沿って移動するとともに、溶接ラインQと直交する二方向に移動できるようになっている。そして溶接電源18からのアーク電圧、溶接電流にしたがって溶接電極14による溶接が被溶接部材10、12に施されると、被溶接部材10、12の開先の部分が溶融され、この溶融部のうち溶接電極14を臨む面とは反対側となる裏側に溶融プール22が形成されるようになっている。このとき被溶接部材10、12の表側の溶接状態、すなわちアーク状態はITVカメラ、例えば、CCDカメラ24によって撮像されるようになっている。すなわち、CCDカメラ24には、フィルタ26を介して被溶接部材10、12の表側の状況を示す光信号が入力されており、CCDカメラ24の撮像による画像がモニタTV27の画面上に表示されるようになっている。なお、このCCDカメラ24も溶接電極14の移動に合わせて走行軸上を移動できるようになっている。
【0021】一方、被溶接部材10、12の裏波溶接状態を監視するために、被溶接部材10、12の裏側には、レーザ投光器28、ビーム整形板30、干渉フィルタ32、ITVカメラとしてのCCDカメラ34、遠隔監視位置駆動部36などが配置されている。レーザ投光器28は光ファイバケーブル38を介してレーザ発振器40に接続されている。CCDカメラ34はアナログ制御回路42、映像分配器44、画像処理装置46を介して全体制御装置48に接続されている。遠隔監視位置駆動部36はCCDカメラ34に一体となって配置され、遠方監視位置制御装置50を介して全体制御装置48に接続されている。
・・・
【0023】干渉フィルタ32はレーザ投光器28から照射されるレーザ光のみを透過するフィルタとして構成されており、CCDカメラ34の前面側に、CCDカメラ34と一体となって配置されている。CCDカメラ34とレーザ投光器28は遠隔監視位置駆動部36と一体となって配置されており、遠隔監視位置駆動部36は、遠隔監視位置制御装置50からの信号に応答して、溶接ラインQと直交する二方向に移動できるようになっている。さらに被溶接部材10または12の内周に、溶接ラインQと平行に取り付けられた走行軸(図示省略)上を走行できるようになっている。CCDカメラ34は、干渉フィルタ32を介して溶融プール22からのレーザ光を取り込み、溶融プール22を被写体として撮像する撮像手段または二次元受光手段として構成されており、CCDカメラ34の撮像によるアナログ映像信号は制御回路42、映像分配器44を介して画像処理装置46に入力されるようになっている。この場合、制御回路42で生成されたアナログ映像信号は映像分配器44で二つのアナログ映像信号に分配され、一方のアナログ映像信号がモニタTV52に入力され、他方のアナログ映像信号が画像処理装置46で処理されるようになっている。そして画像処理装置46の処理による画像がモニタTV54の画面上に表示されるようになっている。この場合、モニタTV52の画面上には、図2に示すように、CCDカメラ34の撮像による画像として、溶融プール像Pが表示されるとともに、周辺の開先像K、溶融プール22が凝固した後の溶融ビード像Bが表示される。なお、図2のX、Yはそれぞれ画面上の座標軸を示す。
【0024】ここで、本実施形態においては、溶融プール22に向けて光を照射するに際して、レーザ光を用いるとともに、レーザ光による反射光をCCDカメラ34で受光しているため、以下に示すような特徴を有する。すなわちレーザ光の大きな特徴は、単色性が良いことにある。すなわち発振周波数の幅が極めて狭いことにある。このため、溶融プール22を含む溶融プール22周辺を被写体としてCCDカメラ34で撮像する際に、干渉フィルタ32として、透過波長半値幅が極度に小さいものを使用することができる。一方、干渉フィルタ32の前面に入射するレーザ光の観測角度が90度(垂直入射)を中心に小さくあるいは大きくなると、透過中心の波長は、干渉フィルタ32の特性により低波長側にシフトする。すなわち、CCDカメラ34の前面に干渉フィルタ32を配置して溶融プール22を撮像するときには、画面中央部と周辺部で入射される像の視野角度が異なるため、透過中心波長がCCDカメラ34の撮像素子の位置、すなわち画面の位置で若干異なる。この場合、所望とする観測視野角度でこの影響がでないように考慮して、透過波長半値幅の小さい干渉フィルタを使用すれば良いことになる。この透過波長半値幅の大きさとしては、5nm以下が好ましい。この透過波長半値幅が狭いほど、高輝度の溶融プール像Pの明るさを相対的に弱めて観測することが可能となる。すなわち、溶融プール像Pのみでなく、周辺の開先像K、溶融ビード(固相)像Bも鮮明に撮像することが可能になる。なお、図2において、周辺の開先像Kとして横縞の像が表示されているが、この像は、開先加工面の凹凸によるもので、画面垂直方向に明るい部分と暗い部分が交互に表れている場合を示している。
【0025】画像処理装置46は、映像分配器44からのアナログ映像信号にしたがって溶融プール22の画像を処理して溶融プール22の形状特徴量として、例えば、図3に示すように、溶融プール22の幅B、長さL、面積Sを抽出する形状特徴量抽出手段として構成されており、処理結果による画像を表示手段としてのモニタTV54の画面上に表示するとともに、処理結果を全体制御装置48に出力するようになっている。全体制御装置48は、画像処理装置46の処理による形状特徴量を基に溶接電極14に関する溶接条件を制御するための制御信号を生成し、この制御信号を溶接電源18に出力する溶接条件制御手段として構成されているとともに、電極位置駆動部16、遠隔監視位置駆動部36を駆動するための信号を生成し、この信号をそれぞれ遠隔監視位置制御装置50と電極位置制御装置20に出力するようになっている。
・・・
【0032】具体的には、図4に示すように、予め決められた裏波ビードが適切となる裏側溶融プール22の幅Bが形成されるアーク電圧指令に対して、実際の溶融プール幅Bmを画像処理装置46で検出し、溶融プール22の幅目標値Bcと実際の溶融プール幅Bmとの差に基づいて溶接電源18によるアーク電圧を制御する。この場合、例えば、初層溶接パスにおける溶融プール22の幅目標値Bcをオペレータ56の操作により、全体制御装置48に溶接開始前に設定する。そして全体制御装置48の比較器58で溶融プール22の幅目標値Bcと画像処理装置46の処理による実際の溶融プール幅Bmとを比較し、この比較結果をアーク電圧修正量指令値発生部60に出力する。アーク電圧修正量指令値発生部60には、目標値Bcと検出された溶融プール幅Bmとの差に応じたアーク電圧修正量指令値が予め設定されており、比較器58の比較結果に応じたアーク電圧修正量指令値が溶接電源18に入力され、アーク電圧修正量指令値にしたがって溶接電源18の溶接時におけるアーク電圧が修正される。この場合、アーク電圧修正量指令値は、目標値Bcと検出された溶融プール幅Bmとの差から求まるアーク電圧修正量指令値よりも十分小さい一定割合の値とし、この値を用いて溶接電源18を制御することもできる。このとき、一定割合の値を外部から自在に変更可能にすることもできる。この場合、アーク電圧を急激に変化させることなく安定した状態で溶接制御を行なうことができる。
【0033】また溶融プール幅を基にアーク電圧を修正する場合に限らず、溶融プール幅の代わりに溶融プール22の長さや面積を基にアーク電圧を修正したり溶接電流を修正したりすることもできる。このような制御を行なうことで、極めの細かい溶接条件の設定、制御を行なうことができる。また溶融プールの幅目標値Bcを溶接位置や全姿勢溶接での下向き、上向き、下進または上進などの各溶接姿勢ごとに独立して予め設定することもできる。
【図1】
[図:0001402789000001.jpg]
(2)甲1から理解できる事項
ア 甲1の段落【0023】、【0025】等の記載を参酌して、甲1の裏波溶接制御装置は、CCDカメラ34で撮影された溶融プール22の画像を画像処理装置46に入力して、溶融プール22の形状特徴量(幅B等)を算出しているから、当該CCDカメラ34で撮影された溶融プール22の画像を収集する画像収集部を備えることが理解できる。
イ 甲1の段落【0032】、【0033】等の記載を参酌して、溶接条件である溶融プールの幅目標値Bcはオペレータ56の操作により設定されるものであるから、甲1の裏波溶接制御装置は、溶接条件設定値(溶融プールの幅目標値Bc等)を収集する溶接条件設定値収集部を備えることが理解できる。
(3)甲1発明
上記(1)及び(2)から、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「被溶接部材10、12の裏側を撮影するCCDカメラ34と、
前記被溶接部材10、12の溶接時において前記CCDカメラ34により撮影された溶融プール22の画像を収集する画像収集部と、
溶融プール22の幅目標値Bcを収集する溶接条件設定値収集部と、
前記被溶接部材10、12の裏波溶接状態を監視するための形状特徴量である溶融プール幅Bmを前記溶融プール22の画像を画像処理装置46で画像処理して抽出し、前記溶融プール幅Bmと前記溶融プールの幅目標値Bcとに基づいてアーク電圧を制御する全体制御装置48と、
を備える、
裏波溶接制御装置。」
2 甲4について
(1)甲4に記載された事項(なお、甲4の記載の訳文については、申立人が申立書に添付した甲4の訳文を参酌して、当審の訳を付した。)
「2 Intelligent data analysis
Intelligent data analysis in welding processes can be understood as a process of knowledge extraction of welding data with the support of suited algorithms and computers. The extracted and processed knowledge can be used to deduce new information, improve performance and take better decisions. Several studies reported the application of theoretical and analytical techniques dealing with different welding technologies to find relationships between parameters and optimal settings. Mainly, the studies applied regression analysis and combined it with other techniques such as artificial neural networks, statistical tools and genetic algorithms [3...8]. For example, penetration depth and weld bead width were estimated using multiple regression analysis and neural networks in CO2 laser welding[3]. 」(323ページ左欄10~23行)
(訳文)
「2 インテリジェントなデータ分析
溶接プロセスにおけるインテリジェントなデータ分析は、適切なアルゴリズムとコンピュータの支援を受けた溶接データの知識抽出のプロセスとして理解することができる。抽出及び処理された知識を使用して新しい情報を推測し、パフォーマンスを改善し、より適切な意思決定を下すことができる。いくつかの研究では、パラメータと最適設定との間の関係を見つけるためにさまざまな溶接技術を扱う理論的かつ分析的な手法の適用が報告されている。主に、研究は回帰分析を適用し、それを、人工ニューラルネットワーク、統計ツール、遺伝的アルゴリズムなどの也の手法と組み合わせている[3...8] 例えば、CO2レーザ溶接では重回帰分析とニューラルネットワークを使用して溶け込み深さと溶接ビード幅が推定された[3]。」
「From the 3,000 possible welding programs stored in the recipe table, there are 534 tested programs that will help to perform the regression analysis. The idea is to compute the function that best fits the data by the least squares technique. The regression analysis will estimate the value of every parameter as a function of the strip's thickness [mm] for a selected set of materials and a measure of error. The regression analysis should be performed on all selected parameters. However, for practical reasons, the regression analysis of some parameters of the machine example will be presented. Fig.6 (a) shows a regression grid plot of a selected set of parameters over all 320 tested points. 」(324ページ右欄下から9行~325ページ左欄3行)
(訳文)
「レシピテーブルに記憶されている3000の利用可能な溶接プログラムから、回帰分析の実行に役立つ534のテスト済みプログラムがある。このアイデアは、最小二乗法によってデータに最適な関数を計算することである。回帰分析は、選択された一連の材料と誤差の尺度について、ストリップの厚さ[mm]の関数としてすべてのパラメータの値を推定する。回帰分析は、選択されたすべてのパラメータに対して実行する必要がある。ただし、実用的な理由から、マシンの例のいくつかのパラメータの回帰分析が提示される。図6(a)は、テストされた320点すべての選択されたパラメータセットの回帰グリッドプロットを示している。」
(2)甲4に記載された技術的事項
上記(1)から、甲4には、以下の技術的事項(以下「甲4に記載の技術的事項」という。)が開示されていると認められる。
「CO2レーザ溶接について、重回帰分析とニューラルネットワークを使用して溶け込み深さと溶接ビード幅を推定すること。」
第5 当審の判断
1 申立理由1(本件発明1~9についての進歩性欠如(第3の2(1))について
(1)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と、甲1発明とを対比すると、甲1発明の「被溶接部材10、12」は本件発明1の「被溶接材」に相当し、以下同様に、「裏側」は「裏面」に、「CCDカメラ34」は「カメラシステム」に、「画像収集部」は「溶接部撮影カメラ画像収集部」に、「溶融プール22の幅目標値Bc」は「溶接条件設定値」に、「溶接条件設定値収集部」は「溶接制御情報収集部」に、「被溶接部材10、12の裏波溶接状態」は「被溶接材の溶接状況」に、「形状特徴量である溶融プール幅Bm」(又は「溶融プール幅Bm」)は「溶接光特徴量」に、「前記溶融プール22の画像を画像処理装置46で画像処理して抽出し」は「前記発光撮影画像に基づいて計算し」に、それぞれ相当する。
また、甲1の段落【0024】の「溶融プール22に向けて光を照射するに際して、レーザ光を用いるとともに、レーザ光による反射光をCCDカメラ34で受光している」等の記載に鑑みれば、甲1発明の「溶融プール22の画像」は本件発明1の「発光撮影画像」に相当する。
また、甲1発明の「前記被溶接部材10、12の裏波溶接状態を監視する」ことは、被溶接部材10、12の溶接状態を分析しているといえるから、本件発明1の「前記被溶接材の溶接状況を診断する」ことに相当する。
また、甲1発明の「前記溶融プール幅Bmと前記溶融プール22の幅目標値Bcとに基づいてアーク電圧を制御する全体制御装置48」と、本件発明1の「前記溶接光特徴量と前記溶接条件設定値とに基づいて溶接の良不良を判定する溶接状況診断部」とは、「前記溶接光特徴量と前記溶接条件設定値とに基づいて溶接状況を管理する溶接状況管理部」である点では共通する。
また、甲1発明の「裏波溶接制御装置」と、本件発明1の「溶接異常診断装置」とは、「溶接装置」である点では共通する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「被溶接材の裏面を撮影するカメラシステムと、
前記被溶接材の溶接時において前記カメラシステムにより撮影された発光撮影画像を収集する溶接部撮影カメラ画像収集部と、
溶接条件設定値を収集する溶接制御情報収集部と、
前記被溶接材の溶接状況を診断するための溶接光特徴量を前記発光撮影画像に基づいて計算し、前記溶接光特徴量と前記溶接条件設定値とに基づいて溶接状況を管理する溶接状況管理部と、
を備えた、
溶接装置。」
<相違点>
溶接光特徴量と溶接条件設定値とに基づいて溶接状況を管理する溶接状況管理部を備える溶接装置が、本件発明1は、「溶接の良不良を判定する溶接状況診断部」(構成D)を備え、「前記溶接状況診断部は、溶接傾向診断手段を含み、前記溶接傾向診断手段は、複数の前記溶接光特徴量から統計量を計算し、前記統計量が持つ傾向と溶接異常判定上下限値とに基づいて溶接の良不良を判定する」(構成E)「溶接異常診断装置」(構成F)であるのに対し、甲1発明は、アーク電圧を制御する全体制御装置48を備える裏波溶接制御装置であり、溶接異常を診断するものではない点。
(2)相違点についての検討
上記第4の2(2)のとおり、甲4には、「CO2レーザ溶接について、重回帰分析とニューラルネットワークを使用して溶け込み深さと溶接ビード幅を推定すること。」との技術的事項が開示されている。
しかしながら、甲1発明及び上記甲4に記載の技術的事項のいずれも、「複数の前記溶接光特徴量から統計量を計算し、前記統計量が持つ傾向と溶接異常判定上下限値とに基づいて溶接の良不良を判定する」「溶接傾向診断手段」(構成E)を含む「溶接の良不良を判定する溶接状況診断部」(構成D)を備える「溶接異常診断装置」(構成F)ではないから、甲1発明に甲4に記載の技術的事項を適用しても、本件発明1の構成に至らない。
すなわち、本件発明1における「溶接の良不良を判定する溶接状況診断部」(構成D)は、「複数の前記溶接光特徴量から統計量を計算し、前記統計量が持つ傾向と溶接異常判定上下限値とに基づいて溶接の良不良を判定する」「溶接傾向診断手段」(構成E)を含むものであって、特に、「統計量が持つ傾向」との発明特定事項からみて、当該「溶接傾向診断手段」は、本件特許の明細書の段落【0046】等に記載された「溶接傾向診断機能ブロック23C」に対応する手段であることがわかる。そして、段落【0112】~【0119】の記載及び図11~12等を参酌すれば、「統計量が持つ傾向・・・に基づいて溶接の良否を判定する溶接傾向診断手段」とは、任意の溶接本数M分の溶接光特徴量の統計量から長期傾向を評価・診断するものであって、当然に溶接本数M分の溶接後に評価・診断がなされるものといえる。
他方、甲1発明及び上記甲4に記載の技術的事項のいずれも「溶接傾向診断手段」(構成E)を備えるものとはいえない。
また、甲1発明は、甲1の段落【0006】に「溶接直後の裏波ビードの形成状態を判定するのでは、あくまでも溶接後の結果を判定していることになり、既に欠陥裏波ビードとなったものに対して溶接条件を制御しても回復することはできない。」との、溶接後の溶接状況を診断することの欠点が記載されていることに鑑みれば、仮に甲4等に「溶接傾向診断手段」(構成E)を備える溶接装置が記載されていたとしても、甲1発明において、溶融プール幅Bmと溶融プールの幅目標値Bcとに基づいてアーク電圧を制御することに換えて、溶接後に溶接の良不良を判定するように改変することは、阻害事由が存在し容易になし得るとはいえない。
さらに、溶接の技術分野において、溶接後に溶接の良不良を判定することが一般的に知られている技術的事項であるとしても、甲1発明から出発して本件発明1に至るためには、溶接の良不良を判定する(構成D、F)ように改変した上で、「前記溶接状況診断部は、溶接傾向診断手段を含み、前記溶接傾向診断手段は、複数の前記溶接光特徴量から統計量を計算し、前記統計量が持つ傾向と溶接異常判定上下限値とに基づいて溶接の良不良を判定する」(構成E)ように改変することが必要であるところ、そのような改変は、多段階の改変に該当するから、甲1発明に、甲4等に記載の周知の技術的事項等を考え合わせても、本件発明1に至ることが容易になし得るということはできない。
さらに、上記甲4のみならず、甲2、甲3及び甲5のいずれにも、上記相違点に係る技術的事項(特に、本件発明1の構成Eを充足する技術的事項)は記載されていないから、甲1発明に、甲2~甲5に記載の技術的事項を組み合わせても、本件発明に至らないことは明らかである。
よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲5に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得たということはできない。
そして、本件発明2~9はいずれも請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明2~9と、甲1発明とを対比すると、少なくとも上記相違点で相違し、本件発明1と同様の理由により、甲1発明及び甲2~甲5に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得たということはできない。
(3)申立理由1に関する申立人の主張について
ア 甲1発明の認定について
申立人は、本件発明1の構成Dに対応する、甲1発明の認定について、甲1では、溶融プール22の幅目標値Bcと実際の溶融プール幅Bmとの差に基づいて溶接電源18によるアーク電圧を制御しており、アーク電圧を制御するのは、裏波溶接ビードが溶け落ちたり、あるいは溶け込みが不十分で融合不良を生じたりすることを避けるためであるから(甲1の段落【0004】を参照。)、溶接の良不良を実質的に判定しているものといえる。よって、甲1発明には、本件発明1の構成Dが含まれている旨を主張している。(申立書19~20ページ)
イ 甲1発明に甲4に記載の技術的事項を適用して本件発明1とすることが容易であることについて
申立人は、甲4には、溶接プログラムで使用されるパラメータに対して回帰分析を実行すること、特にレーザ溶接の溶け込み深さおよび溶接ビード幅の回帰分析を行うことが記載されているから、溶接装置において、溶接に関連するパラメータ(本件発明1の「溶接光特徴量」に相当)の回帰分析を実行することは当業者にとって周知技術であり、複数の溶接光特徴量から統計量を計算し、統計量が持つ傾向に基づいて溶接の良不良を判定することは、当業者であれば容易に想到し得たことである旨を主張している。(申立書21~22ページ)
(4)申立人の主張に対する検討
ア 上記(3)アの点について、甲1の段落【0004】には、「・・・このときの初層溶接において、被溶接部材の裏側から溶接ができず、被溶接部材の表側から溶接を行なう場合、裏側の溶融状況がわからないため、裏波溶接ビードが溶け落ちたり、あるいは溶け込みが不十分で融合不良を生じたりすることがある。初層溶接の裏波ビードの良し悪しは、溶接品質を決定する重要なポイントであるが、表側からの初層溶接において、裏側の溶融状況がわからない状態で、溶け落ちや溶融不良のない良好な裏波ビードを得ることは、熟練した溶接士でも非常に困難である。」と記載されているところ、さらに、段落【0006】には、従来技術の課題として、「被溶接部材の裏波溶接状況をカメラで監視するに際して、溶接直後の裏波ビードの形成状態を光切断像により監視しているため、溶接ビードの結果の良し悪しを判定することはできる。しかし、溶接疸後の裏波ビードの形成状態を判定するのでは、あくまでも溶接後の結果を判定していることになり、既に欠陥裏波ビードとなったものに対して溶接条件を制御しても回復することはできない。」と記載されているから、甲1の上記記載に接した者は、甲1には、溶接ビードの結果の良し悪しを判定するとの手段を採用することを阻害する事由が記載されていると理解するものであり、甲1は、溶接の良不良を実質的に判定している旨の申立人の主張は採用できない。
イ 上記(3)イの点について、仮に甲4に、溶接プログラムで使用されるパラメータに対して回帰分析を実行すること、特にレーザ溶接の溶け込み深さ及び溶接ビード幅の回帰分析を行うことが記載されているとしても、甲1発明及び甲4に記載の技術的事項のいずれも、「複数の前記溶接光特徴量から統計量を計算し、前記統計量が持つ傾向と溶接異常判定上下限値とに基づいて溶接の良不良を判定する」「溶接傾向診断手段」(構成E)を含む「溶接の良不良を判定する溶接状況診断部」(構成D)を備える「溶接異常診断装置」(構成F)ではないから、甲1発明に甲4に記載の技術的事項を適用しても、本件発明1の構成に至らないことは明らかである。
また、甲1発明に、甲4に記載の技術的事項を適用しても、本件発明1に至らないことは、上記(2)で説示したとおりである。
(5)小括
したがって、相違点に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものではないから、本件発明1~9は、甲1発明、甲2~甲5に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得るものではない。
よって、本件発明1~9に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたとする申立理由1により、取り消すことはできない。
2 申立理由2(本件発明1~9についてのサポート要件違反(第3の2(2))について
(1)申立人の主張
申立人は、以下の点について発明の詳細な説明に記載されていない旨の主張をしている。
ア 発明の詳細な説明には、溶接傾向診断手段が、溶接本数M分の溶接光特徴量の統計量について回帰直線を求め、この回帰直線の傾きが、溶接異常判定上下限値の上下限値を超えているか否かを判定することが記載されているのみであり、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1のように、統計量が持つ任意の傾向と溶接異常判定上下限値とに基づいて溶接の良不良を判定することまで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できない。
イ 本件特許の明細書の段落【0012】、【0118】、【0119】の記載によれば、溶接傾向診断機能ブロックは、診断結果として、「長期的な使用による溶接部裏面撮影カメラ14のレンズの汚れ」又は「レーザ出力元の保護ガラスが汚れている可能性」を判定することができるに過ぎないところ、溶接部裏面撮影カメラのレンズの汚れは、溶接自体の良不良とは全く無関係であるし、またレーザ出力元の保護ガラスの汚れも、溶接の良不良に直結するものであるとはいえない。
ウ 本件発明1の構成Eは、1本の溶接を実行しつつ、同時に溶接の良不良の判定を行う場合も含み得る記載となっている。出願時の技術常識に照らしても、このような範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない。
エ 出願時の技術常識に照らしても、先行する複数回の溶接が異なる溶接条件設定値の下で行われた場合であっても、統計量が持つ傾向と溶接異常判定上下限値とに基づいて溶接の良不良を判定することまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない。
(2)申立人の主張に対する検討
ア 上記(1)アについて検討する。
特許請求の範囲がサポート要件を満たしているか否かは、「請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否か」により判断されるべきものであるところ、本件特許の発明の詳細な説明には、「溶接の良不良を判定する」ことについて、本件特許の明細書の段落【0039】に「溶接異常の診断は、例えば、溶接状況を診断するための溶接光特徴量およびその統計量と溶接異常診断基準を比較して、基準値を超えた場合に、溶接異常と判定する。ここで、例えば、溶接状況を診断するための溶接光特徴量およびその統計量は、溶接異常判定上下限値を予め定めた、溶接異常判定上下限テーブル24の所定の値と比較して、溶接異常を判定してもよい。」と記載されていることから、本件発明1(及び2~9)を、段落【0112】~【0119】及び図11~12に記載された「溶接傾向診断機能ブロック23C」そのものにまで限定して特定する必要はない。
また、本件発明1が、統計量が持つ任意の傾向と溶接異常判定上下限値とに基づいて溶接の良不良を判定することまで含み得るものであるとしても、統計量の算出や、溶接異常判定上下限値の設定は、適宜選択可能であるし、本件発明1が「統計量が持つ傾向・・・に基づいて溶接の良否を判定する」と発明が特定されることで任意の溶接本数M分の溶接光特徴量の統計量から長期傾向を評価・診断することが特徴づけられているところ、本件発明1が統計量が持つ任意の傾向と溶接異常判定上下限値とに基づいて溶接の良不良を判定することを含み得ることによって、溶接の良不良を高精度に判定するとの課題(段落【0012】)を解決できないような特段の事情も見当たらないことに鑑みれば、本件発明1が、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できる範囲を超えていると、直ちにいうことはできない。
イ 上記(1)イについて検討する。
本件特許の明細書の段落【0119】には、「また、溶接光特徴量は、溶接光Lw1の面積あるいは周長を含んでいる。これらの溶接光特徴量の傾向変化における回帰直線の傾きが減少傾向にあれば、溶接出力における異常の恐れがあることがわかる。特に、溶接システムが、レーザ溶接であった場合は、レーザ出力元の保護ガラスが汚れている可能性を示唆することもできる。」こと、すなわち、発明の詳細な説明には、溶接の良不良と関係する溶接出力における異常についても記載されているから、本件発明1の構成Eに係る溶接状況診断手段(溶接傾向診断機能ブロック)が溶接の良不良と無関係である旨の申立人の主張は採用できない。
ウ 上記(1)ウについて検討する。
本件発明1において、「前記溶接傾向診断手段は、複数の前記溶接光特徴量から統計量を計算し、前記統計量が持つ傾向と溶接異常判定上下限値とに基づいて溶接の良不良を判定する」(構成E)と特定されているところ、本件特許の明細書の段落【0112】には、「溶接傾向診断機能ブロック23Cでは、まず、溶接状況情報データベース28から、任意の溶接本数M分の溶接光特徴量の統計量を取得する(ステップS400)。任意の溶接本数Mは、比較的多数とすることが望ましい。」及び段落【0113】には、「図12は、取得した任意の溶接本数M分の溶接光特徴量の統計量の傾向例を示す。」と記載され、図12には、多数本の溶接本数の溶接光特徴量の統計量に基づいて溶接光特徴量の統計量の回帰直線を得ることが図示されている。
さらに、統計量が持つ傾向について、本件特許の明細書の段落【0117】に「溶接光Lw1の特徴の長期傾向を評価・診断する。」、段落【0118】に「これら第一条件と第二条件との両方が成立した場合、溶接光Lw1の特徴に関する傾向に長期的な変化があると診断される。」とも記載されている。
本件特許の発明の詳細な説明のこれらの記載、及びある量の傾向又は長期傾向を算出するためには多数回の試行が必要であることが技術常識であることに鑑みれば、本件発明1の構成Eが、1本の溶接を実行しつつ、同時に溶接の良不良の判定を行う場合も含み得る記載となっているから、出願時の技術常識に照らしても、このような範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない旨の申立人の主張は採用できない。
エ 上記(1)エについて検討する。
本件発明1においては、「前記溶接光特徴量と前記溶接条件設定値とに基づいて溶接の良不良を判定する」(構成D)とも特定され、すなわち溶接の良不良を判定する際に溶接条件設定値もパラメータとすることが特定されているところ、「前記統計量が持つ傾向」(構成E)を得るに際して、溶接条件設定値が同一の条件下で行われた場合のみによってしか、統計量が持つ傾向を得ることができないとはいえないから(例えば、先行する複数回の溶接の条件が類似している場合には、類似している溶接条件下で、例えば補正等の統計処理を施して統計量が持つ傾向を得るように工夫する程度のことは、当業者における技術常識の範ちゅうであり、その場合に、溶接の良不良が判定できなくなるとはいえない。)、申立人の主張は採用できない。
(3)小括
したがって、本件発明1~9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたとする申立理由2により本件特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(本件発明1~9についての明確性要件違反(第3の2(3))について
(1)申立人の主張
申立人は、以下の点について明確でない旨の主張をしている。
ア 本件発明1においては、「溶接の良不良を判定する」工程が2回規定されている。そうすると、構成Eは構成Dの下位概念であって、構成Dにおける「溶接条件設定値」には、構成Eにおける「異常判定上下限値」が含まれるのか、又は構成Dと構成Eとで全く別の判定を行っているのかが明確ではない。
イ 本件発明1の構成Eの記載では、一回分の溶接における溶接光特徴量から計算された統計量に基づいて、溶接の良不良を判定することも含むのか、そうでないのかが明確ではない。
ウ 本件発明1の構成Eの記載において、「複数の前記溶接光特徴量」及び「溶接異常判定上下限値」が、同一の溶接条件設定値の下で実行された溶接に対応するものであるのか、そうでないのかが明確ではない。
(2)申立人の主張に対する検討
ア 上記(1)アについて検討する。
本件発明1においては、構成D及び構成Eにおいて、「溶接の良不良を判定する」と記載されているが、請求項1の記載から「溶接状況診断部」(構成D)は「溶接傾向診断手段」(構成E)を含むものであって、「溶接傾向診断手段」(構成E)は「溶接状況診断部」(構成D)における1つの診断手段であることは明らかであるから、構成D及び構成Eの発明特定事項が矛盾するような特段の事由は見当たらず、構成D及び構成Eの記載自体は明確であるから、申立人の主張は採用できない。
イ 上記(1)イ及びウについて検討する。
本件発明1の構成Eの記載は、「前記溶接状況診断部は、溶接傾向診断手段を含」むこと、「前記溶接傾向診断手段」は、「複数の前記溶接光特徴量から統計量を計算」する手段であること及び「前記統計量が持つ傾向と溶接異常判定上下限値とに基づいて溶接の良不良を判定する」手段であることが明確に理解できるものであるから、1回分の溶接における溶接光特徴量から計算された統計量に基づいて、溶接の良不良を判定することも含むのか否か明確ではないこと、及び同一の溶接条件設定値の下で実行された溶接に対応するものであるのか否か明確ではないことを論拠として不明確であるとする申立人の主張は採用できない。
(3)小括
したがって、本件発明1~9係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたとする申立理由3により取り消すことはできない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700293