特許異議申立
2022-700963
粘度指数向上剤及び潤滑油組成物
- 審判番号
- 2022-700963
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-506987
- 登録番号
- 7046916
- 請求日
- 2022年09月30日
- 審決日
- 2023年08月23日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三洋化成工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
- 【異議申立人】鈴木 憲治
- 【異議申立人】杉村 隆司
- 審判長/審判官
- 審判長 関根 裕
- 審判官 門前 浩一
- 審判官 塩見 篤史
- 分類
- P1651.121-YAA(C10M) / P1651.537-YAA(C10M) / P1651.536-YAA(C10M) / P1651.55 -YAA(C10M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7046916号発明「粘度指数向上剤及び潤滑油組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7046916号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。
特許第7046916号の請求項1、2、4~12に係る特許を維持する。
特許第7046916号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7046916号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、平成30年(2018年)3月22日(優先権主張 平成29年(2017年)3月23日(以下「本件優先日」という。) 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、令和4年3月25日に特許権の設定登録がされ、同年4月4日に特許掲載公報が発行された。その後、同年9月30日に特許異議申立人 鈴木憲治(以下「申立人A」という。)により特許異議の申立てがされ、同年10月4日に特許異議申立人 杉村隆司(以下「申立人B」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。
令和4年11月30日付け 取消理由通知
令和5年 1月27日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年 3月10日 意見書の提出(申立人A)
同年 同月 同日 意見書の提出(申立人B)
第2 本件訂正について
1 本件訂正の内容
令和5年1月27日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、次の訂正事項1~10からなるものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「下記一般式(1)で表される数平均分子量が800~4,000である単量体(a)を必須構成単量体として含有する共重合体(A)を含む」を、
「下記一般式(1)で表される数平均分子量が800~4,000である単量体(a)を必須構成単量体として含有する共重合体(A)を含み、
共重合体(A)の構成単位として共重合体(A)の重量に基づいて単量体(a)を15重量%超、50重量%未満含有する、」と訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、4~12も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4における「請求項1~3のいずれかに記載の」との記載を、「請求項1又は2記載の」と訂正する。(請求項4を引用する請求項5~12も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5における「請求項1~4のいずれかに記載の」との記載を、「請求項1、2又は4のいずれかに記載の」と訂正する。(請求項5を引用する請求項6~12も同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6における「請求項1~5のいずれかに記載の」との記載を、「請求項1、2、4又は5のいずれかに記載の」と訂正する。(請求項6を引用する請求項7、9~12も同様に訂正する。)
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7における「請求項1~6のいずれかに記載の」との記載を、「請求項1、2、4、5又は6のいずれかに記載の」と訂正する。(請求項6を引用する請求項7、9~12も同様に訂正する。)
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に、「共重合体(A)が、構成単量体として共重合体(A)の重量に基づいて単量体(a)を1~50重量、下記単量体(b)を1~80重量%、下記単量体(c)を0~60重量%、下記単量体(d)を0~40重量%及び下記単量体(e)を0~40重量%含有する共重合体である請求項1~4のいずれかに記載の粘度指数向上剤。
単量体(b):炭素数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル
単量体(c):下記一般式(2)で表される単量体
【化4】
[図:0001404767000001.jpg]
[R3は水素原子又はメチル基;-X2-は-O-又は-NH-で表される基;R4Oは炭素数2~4のアルキレンオキシ基;R5は炭素数1~8のアルキル基;qは1~20の整数であり、qが2以上の場合のR4Oは同一でも異なっていてもよく、(R4O)q部分はランダム結合でもブロック結合でもよい。]」と記載されているのを、
「共重合体(A)が、構成単量体として共重合体(A)の重量に基づいて単量体(a)を15重量%超、50重量%未満、下記単量体(b)を1~80重量%、下記単量体(c)を0~60重量%、下記単量体(d)を0~40重量%及び下記単量体(e)を0~40重量%含有する共重合体である請求項1、2又は4のいずれかに記載の粘度指数向上剤。
単量体(b):炭素数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル
単量体(c):下記一般式(2)で表される単量体
【化4】
[図:0001404767000002.jpg]
[R3は水素原子又はメチル基;-X2-は-O-又は-NH-で表される基;R4Oは炭素数2~4のアルキレンオキシ基;R5は炭素数1~8のアルキル基;qは1~20の整数であり、qが2以上の場合のR4Oは同一でも異なっていてもよく、(R4O)q部分はランダム結合でもブロック結合でもよい。]」と訂正する。(請求項8を引用する請求項9~12も同様に訂正する)。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9における「請求項1~8のいずれかに記載の」との記載を、「請求項1、2、4、5、6、7又は8のいずれかに記載の」と訂正する。(請求項9を引用する請求項10~12も同様に訂正する。)
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10における「請求項1~9のいずれかに記載の」との記載を、「請求項1、2、4、5、6、7、8又は9のいずれかに記載の」と訂正する。(請求項9を引用する請求項10~12も同様に訂正する。)
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項11における「請求項1~10のいずれかに記載の」との記載を、「請求項1、2、4、5、6、7、8、9又は10のいずれかに記載の」と訂正する。(請求項9を引用する請求項10~12も同様に訂正する。)
2 本件訂正の適否
(1)一群の請求項について
訂正事項1~10に係る請求項は、本件訂正前の請求項1、3、8及びそれらを直接又は間接的に引用する請求項(請求項1~12)であるところ、本件訂正前の請求項1について、請求項2~12はいずれも請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正後の請求項1~12に対応する訂正前の請求項1~12は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項を構成する。
したがって、訂正事項1~10による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとになされたものである。
(2)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1の共重合体(A)の必須構成単量体である「単量体(a)」について、「共重合体(A)の構成単位として共重合体(A)の重量に基づいて単量体(a)を15重量%超、50重量%未満含有する」と、その含有割合を具体的に特定し、さらに限定するものである。したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件特許の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項4には、「共重合体(A)の構成単位として共重合体(A)の重量に基づいて単量体(a)を10~50重量%含有する請求項1~3のいずれかに記載の粘度指数向上剤。」が記載されている。
また、本件特許の願書に最初に添付した明細書の段落【0026】には、「共重合体(A)を構成する単量体(a)の割合は、粘度指数向上効果とせん断安定性の観点から、共重合体(A)の重量に基づいて、好ましくは10~50重量%であり、更に好ましくは15~40重量%、最も好ましいのは15~35重量%である。」と記載され、また、段落【0092】の【表3】には、単量体(a)である(a-1)を、共重合体(A)に対応する共重合体の重量に基づいて、比較例16では50重量%、及び比較例17では15重量%を含有したものが、それぞれ記載されている。
そうすると、訂正事項1に係る訂正は、共重合体(A)の重量に基づく単量体(a)の含有割合に関して、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。
(3)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、請求項3の削除を目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、単に請求項3を削除するものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことが明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。
(4)訂正事項3、4、5、6、8、9、10について
ア 訂正の目的
訂正事項3、4、5、6、8、9、10は、訂正前の請求項4、5、6、7、9、10、11が請求項3を引用していたものを、請求項3の削除に伴い請求項3を引用しないように訂正するものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、前記アのとおり訂正前の請求項4、5、6、7、9、10、11が、請求項3を引用していたものを、引用しないことにしたものであるから、訂正事項3は、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。
(5)訂正事項7について
ア 訂正の目的
訂正事項7は、請求項8が引用する訂正後の請求項1における共重合体(A)の構成単位(a)の割合と整合するように、訂正後の請求項1と同様の範囲に訂正するとともに、訂正事項2により削除された請求項3を引用しないように訂正するものであるから、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
前記アのとおり、訂正事項7は、請求項8が引用する訂正後の請求項1における共重合体(A)の構成単位(a)の割合と整合するように、訂正後の請求項1と同様の範囲に訂正するとともに、訂正事項2により削除された請求項3を引用しないように訂正するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことが明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。
(6)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、本件訂正について、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)が課される請求項はない。
(7)本件訂正についてのまとめ
上記のとおり、訂正事項1~10による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~12〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
前記第2のとおり本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1~12に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明(以下「本件発明1」~「本件発明12」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)である。
「【請求項1】
下記一般式(1)で表される数平均分子量が800~4,000である単量体(a)を必須構成単量体として含有する共重合体(A)を含み、
共重合体(A)の構成単位として共重合体(A)の重量に基づいて単量体(a)を15重量%超、50重量%未満含有する、粘度指数向上剤。
【化1】
[図:0001404767000003.jpg]
[R1は水素原子又はメチル基;-X1-は-O-、-O(AO)m-又は-NH-で表される基であって、AOは炭素数2~4のアルキレンオキシ基であり、mは1~10の整数であり、mが2以上の場合のAOは同一でも異なっていてもよく、(AO)m部分はランダム結合でもブロック結合でもよい;R2はブタジエンを必須構成単量体とし、R2の重量に基づいてブタジエンの比率が50重量%以上である炭化水素重合体又はその炭化水素重合体の少なくとも一部が水素化された重合体から水素原子を1つ除いた残基;pは0又は1の数;一般式(1)中のR2の一部または全量を構成するブタジエン由来の構造において、1,2-付加体と1,4-付加体のモル比率(1,2-付加体/1,4-付加体)は40/60~70/30である。]
【請求項2】
下記計算式(1)で算出される単量体(a)の繰返し単位1個当たりの共重合体セグメントの分子量が2,500~11,000である請求項1に記載の粘度指数向上剤。
繰返し単位1個当たりの共重合体セグメントの分子量=M×A/a (1)
但し、Mは単量体(a)の重量平均分子量、aは共重合体(A)を構成する単量体(a)の合計重量、Aは共重合体(A)を構成する全ての単量体の合計重量を表す。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
共重合体(A)の重量平均分子量が5,000~2,000,000である請求項1又は2に記載の粘度指数向上剤。
【請求項5】
共重合体(A)が、さらに炭素数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(b)を構成単量体とする共重合体である請求項1、2又は4に記載の粘度指数向上剤。
【請求項6】
共重合体(A)が、さらに下記一般式(2)で表される単量体(c)を構成単量体とする共重合体である請求項1、2、4又は5に記載の粘度指数向上剤。
【化2】
[図:0001404767000004.jpg]
[R3は水素原子又はメチル基;-X2-は-O-又は-NH-で表される基;R4Oは炭素数2~4のアルキレンオキシ基;R5は炭素数1~8のアルキル基;qは1~20の整数であり、qが2以上の場合のR4Oは同一でも異なっていてもよく、(R4O)q部分はランダム結合でもブロック結合でもよい。]
【請求項7】
共重合体(A)が、さらに炭素数12~36の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(d)及び/又は下記一般式(3)で表される単量体(e)を構成単量体とする共重合体である請求項1、2、4、5又は6に記載の粘度指数向上剤。
【化3】
[図:0001404767000005.jpg]
[R6は水素原子又はメチル基;-X3-は-O-又は-NH-で表される基;R7Oは炭素数2~4のアルキレンオキシ基;R8、R9はそれぞれ独立に炭素数4~24の直鎖アルキル基;rは0~20の整数であり、rが2以上の場合のR7Oは同一でも異なっていてもよく、(R7O)r部分はランダム結合でもブロック結合でもよい。]
【請求項8】
共重合体(A)が、構成単量体として共重合体(A)の重量に基づいて単量体(a)を15重量%超、50重量%未満、下記単量体(b)を1~80重量%、下記単量体(c)を0~60重量%、下記単量体(d)を0~40重量%及び下記単量体(e)を0~40重量%含有する共重合体である請求項1、2又は4のいずれかに記載の粘度指数向上剤。
単量体(b):炭素数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル
単量体(c):下記一般式(2)で表される単量体
【化4】
[図:0001404767000006.jpg]
[R3は水素原子又はメチル基;-X2-は-O-又は-NH-で表される基;R4Oは炭素数2~4のアルキレンオキシ基;R5は炭素数1~8のアルキル基;qは1~20の整数であり、qが2以上の場合のR4Oは同一でも異なっていてもよく、(R4O)q部分はランダム結合でもブロック結合でもよい。]
単量体(d):炭素数12~36の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル
単量体(e):下記一般式(3)で表される単量体
【化5】
[図:0001404767000007.jpg]
[R6は水素原子又はメチル基;-X3-は-O-又は-NH-で表される基;R7Oは炭素数2~4のアルキレンオキシ基;R8、R9はそれぞれ独立に炭素数4~24の直鎖アルキル基;rは0~20の整数であり、rが2以上の場合のR7Oは同一でも異なっていてもよく、(R7O)r部分はランダム結合でもブロック結合でもよい。]
【請求項9】
共重合体(A)が、構成単量体として更に窒素原子含有単量体(f)、水酸基含有単量体(g)、リン原子含有単量体(h)及び芳香環含有ビニル単量体(i)からなる群から選ばれる1種以上を含有してなる共重合体である請求項1、2、4、5、6、7、又は8に記載の粘度指数向上剤。
【請求項10】
さらに、下記一般式(4)で表される(共)重合体(B)を含有し、共重合体(A)と(共)重合体(B)との重量比(A)/(B)が90/10~99.8/0.2である請求項1、2、4、5、6、7、8又は9のいずれかに記載の粘度指数向上剤。
【化6】
[図:0001404767000008.jpg]
[Zは水素原子、メチル基またはY-X4-で表される基である。Yは水素原子または(メタ)アクリロイル基である。-X4-は炭素数1~10のアルキレン基、-O-、-O(AO)t-又は-NH-で表される基であって、AOは炭素数2~4のアルキレンオキシ基であり、tは1~10の整数であり、tが2以上の場合のAOは同一でも異なっていてもよく、(AO)t部分はランダム結合でもブロック結合でもよい。R10は炭素数2~18のオレフィン、炭素数4~10のアルカジエン及び炭素数8~17のスチレン誘導体からなる群から選ばれる1種以上の単量体の重合体、又はその重合体が不飽和基を有するときはその不飽和基の一部又は全部が水素化された重合体から水素原子を1つ除いた残基;sは0又は1の数を表す。]
【請求項11】
API分類のグループI~IVの基油、GTL基油及び合成系潤滑油基油からなる群から選ばれる1種以上の基油及び請求項1、2、4、5、6、7、8、9又は10のいずれかに記載の粘度指数向上剤を含有する潤滑油組成物であって、潤滑油組成物中の共重合体(A)の含有量が0.1~20重量%である潤滑油組成物。
【請求項12】
さらに分散剤、清浄剤、酸化防止剤、油性向上剤、流動点降下剤、摩擦摩耗調整剤、極圧剤、消泡剤、抗乳化剤、金属不活性剤及び腐食防止剤からなる群から選ばれる1種以上の添加剤を合計で0.1~30重量%含んでなる請求項11に記載の潤滑油組成物。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
令和4年11月30日付けの取消理由通知で通知された取消理由は、次の取消理由1~3である。また、取消理由2は、下記2の刊行物等を引用するものである。
[取消理由1](サポート要件)本件特許の特許請求の範囲の請求項1~12の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
[取消理由2](進歩性)本件特許の特許請求の範囲の請求項1~12に係る発明は、後記2の、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
[取消理由3](明確性)本件特許の特許請求の範囲の請求項2~12の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
2 刊行物等
特表2008-546894号公報(申立人Bが提出した甲第1-1号証。取消理由通知における引用例1。以下、「甲1」ともいう。)
特開2004-190034号公報(取消理由通知における引用例4。以下、「引用例4」ともいう。)
国際公開第2015/129732号(取消理由通知における引用例5。以下、「引用例5」ともいう。)
なお、甲1は、申立人Bが提出した甲第1号証(国際公開第2007/003238号)に対応する国内公表公報である。
3 刊行物等の記載事項
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
主鎖中にポリオレフィン-ベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位と、炭素原子数8~17を有するスチレンモノマー、アルコール基中に炭素原子数1~10を有するアルキル(メタ)アクリレート、アシル基中に炭素原子数1~11を有するビニルエステル、アルコール基中に炭素原子数1~10を有するビニルエーテル、アルコール基中に炭素原子数1~10を有する(ジ)アルキルフマレート、アルコール基中に炭素原子数1~10を有する(ジ)アルキルマレエート並びにこれらモノマーの混合物から成る群から選択される低分子量モノマーに由来する繰り返し単位とを包含する櫛型ポリマーであって、モル分枝度は0.1~10モル%の範囲内にあり、この櫛型ポリマーは、繰り返し単位の質量に対して合計して少なくとも80質量%の、ポリオレフィン-ベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位と、炭素原子数8~17を有するスチレンモノマー、アルコール基中に炭素原子数1~10を有するアルキル(メタ)アクリレート、アシル基中に炭素原子数1~11を有するビニルエステル、アルコール基中に炭素原子数1~10を有するビニルエーテル、アルコール基中に炭素原子数1~10を有する(ジ)アルキルフマレート、アルコール基中に炭素原子数1~10を有する(ジ)アルキルマレエート並びにこれらモノマーの混合物から成る群から選択される低分子量モノマーに由来する繰り返し単位とを包含していることを特徴とする、櫛型ポリマー。
・・・
【請求項26】
請求項1から17までのいずれか1項に記載の櫛型ポリマーを含有している、潤滑油処方物。
【請求項27】
潤滑油処方物は、API 群I、II、III、IV及び/又は群Vの基油を含有していることを特徴とする、請求項26に記載の潤滑油処方物。
【請求項28】
粘度指数は、少なくとも200であることを特徴とする、請求項26又は27に記載の潤滑油処方物。
【請求項29】
ASTM D2603 Ref.BによるPSSIは、45に等しいか又はそれを下回っていることを特徴とする、請求項26から28までのいずれか1項に記載の潤滑油処方物。
【請求項30】
潤滑油処方物は、請求項1から17までのいずれか1項に記載の櫛型ポリマーではない付加的な添加剤少なくとも1種を含有していることを特徴とする、請求項26から29までのいずれか1項に記載の潤滑油処方物。
【請求項31】
添加剤は、粘度指数改良剤、凝固点改良剤、分散助剤及び/又は摩擦変更剤(摩擦改良剤)であることを特徴とする、請求項30に記載の潤滑油処方物。
【請求項32】
添加剤は、アルコール基中に炭素原子数1~30を有する線状ポリアルキル(メタ)アクリレートをベースとしていることを特徴とする、請求項30又は31に記載の潤滑油処方物。
【請求項33】
粘度指数改良剤、凝固点改良剤、分散助剤及び/又は摩擦変更剤としての、請求項1から17までのいずれか1項に記載の櫛型ポリマーの使用。」
「【0002】
ポリアクリル(メタ)アクリレート(PAMAs)-一般に種々のアルキルメタクリレート(AMAs)の混合物の単純ラジカル共重合により合成される-は、油添加剤として、分子量及び組成に応じて、他の粘度指数改良剤(VIIs)に比べて優れている低温特性と対になって粘度指数(VI)を高める作用をする(R.M.Mortier, S.T.Orszulik(eds), Chemistry and Technology of Lubricants, Blackie Academic & Professional, 1st ed., London 1993, 124-159 165-167参照)。油添加剤としての使用可能性の基本前提は、平凡に、PAMAsの場合には典型的にC-原子数6~24を有するアルキル側鎖の充分大きい数の存在に基づくポリマーの油溶性である。PAMAのVIを高めるために、屡々短鎖アルキル(メタ)アクリレート、例えばメチルメタクリレート又はブチルメタクリレートを共重合することに移行している(EP0637332、EP0937769又はEP0979834参照)。しかしながらこれらの短鎖成分によって、低温における溶解性は低下されるので、例えばメチルメタクリレートの割合は約25質量%までに限定されている。この櫛型ポリマーのこうして達成可能なVIsは、濃度、永久剪断安定性-指数(PSSI)及び基油タイプに依存して、150~250の範囲である。」
「【0005】
しかしながら、分子量と平行して、剪断安定性は、高い剪断下での連鎖切断によって低下される。この対向する作用効果の結果として、手による操作-、自動的操作-、圧媒油-又はエンジンオイルに要求されるような剪断安定なVIIsは、PAMAsのような慣用のポリマータイプのベースの場合には、高い添加量を用いてのみ実現可能である。従って、低温での低い粘度貢献、40~100℃のVI-範囲での正常の粘稠性、100℃を上回る高い粘度貢献及び同時に確保される全温度範囲での良好な油溶性を有するVIIsが、特別重要である。」
「【0013】
同時に本発明による櫛型ポリマーによって、一連の更なる利点を得ることができる。これには、特に次のものが属する:
>>本発明による櫛型ポリマーは、潤滑油中で特別高い粘度指数改良作用を有する、
>>本発明の櫛型ポリマーは、特に容易に、かつ簡単に製造することができ、この際、慣用の大工業的装置を使用することができる。」
「【0017】
本発明の櫛型ポリマーは、ポリオレフィン-ベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位を包含している。ポリオレフィン-ベースのマクロモノマーは当業界では公知である。この繰り返し単位は、ポリオレフィンに由来する基少なくとも1個を包含している。ポリオレフィンは当業界では公知であり、この際、これは元素炭素及び水素から成っているアルケン及び/又はアルカジエン、例えばC2~C10-アルケン、例えばエチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブテン、ノルボルネン及び/又はC4~C10-アルカジエン、例えばブタジエン、イソプレン、ノルボルナジエンの重合により得ることができる。ポリオレフィン-ベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位は、ポリオレフィン-ベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位の質量に対して有利に少なくとも70質量%、特別好ましくは少なくとも80質量%、全く特別好ましくは少なくとも90質量%のアルケン及び/又はアルカジエンに由来する基を包含している。この場合に、これらポリオレフィン系の基は、殊に水素化されて存在することもできる。アルケン及び/又はアルカジエンに由来する基と並んで、このポリオレフィン-ベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位は更なる基を包含することができる。小割合の共重合可能なモノマーがこれに属する。これらモノマーは自体公知であり、特にアルキル(メタ)アクリレート、スチレンモノマー、フマレート、マレエート、ビニルエステル及び/又はビニルエーテルを包含する。共重合可能なモノマーをベースとする基の割合は、ポリオレフィン-ベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位の質量に対して、有利には最大で30質量%、特別好ましくは最大で15質量%である。更に、ポリオレフィン-ベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位は、官能化作用をするか又はポリオレフィン-ベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位の製造によって限定されている始端基及び/又は末端基を包含することができる。これら始端基及び/又は末端基の割合は、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位の質量に対して有利には最大で30質量%、特に好ましくは最大で15質量%である。」
「【0018】
ポリオレフィン-ベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位の分子量の数平均は、500~50000g/モル、特に好ましくは700~10000g/モル、殊に1500~4900g/モル及び全く特別好ましくは2000~3000g/モルの範囲内にあるのが有利である。
【0019】
これらの値は、低分子量及び巨大分子量のモノマーの共重合による櫛型ポリマーの製造の場合に、巨大分子量モノマーの特性に由来する。ポリマー類似反応の場合に、この特性は、例えば、主鎖の反応した繰り返し単位の考慮の下での使用マクロアルコール及び/又はマクロアミンからこの特性が生じる。グラフト共重合の場合には、生じたポリオレフィンの、主鎖中に取り込まれなかった割合から、ポリオレフィンの分子量分布を推測することができる。」
「【0021】
ポリオレフィン-ベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位と並んで、本発明の櫛型ポリマーは、炭素原子数8~17を有するスチレンモノマー、アルコール基中に炭素原子数1~10を有するアルキル(メタ)アクリレート、アシル基中に炭素原子数1~11を有するビニルエステル、アルコール基中に炭素原子数1~10を有するビニルエーテル、アルコール基中に炭素原子数1~10を有する(ジ)アルキルフマレート、アルコール基中に炭素原子数1~10を有する(ジ)アルキルマレエート並びにこれらモノマーの混合物から成る群から選択される低分子量モノマーに由来する繰り返し単位を包含している。これらのモノマーは、当業界で従来公知である。」
「【0031】
先に記載の繰り返し単位と並んで本発明の櫛型ポリマーは、他のコモノマーに由来する更なる繰り返し単位を包含してしよく、この際、その割合は、繰り返し単位の質量に対して最大で20質量%、好ましくは最大で10質量%、特に好ましくは最大で5質量%である。
【0032】
これには、特にアルコール基中に炭素原子数11~30を有するアルキル(メタ)アクリレート、殊に次のものに由来する繰り返し単位もこれに属する:ウンデシル(メタ)アクリレート、5-メチルウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、2-メチルドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、5-メチルトリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、2-メチルヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、5-イソ-プロピルヘプタデシル(メタ)アクリレート、4-t-ブチルオクタデシル(メタ)アクリレート、5-エチルオクタデシル(メタ)アクリレート、3-イソ-プロピルオクタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、セチルエイコシル(メタ)アクリレート、ステアリルエイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート及び/又はエイコシルテトラトリアコニチル(メタ)アクリレート。」
「【0067】
もうひとつの製品は、Kraton Polymers GmbH(Eschborn, Deutschland)からのKraton Liquid(R)L-1203、Mn=4200g/モルの、1,2-繰り返し単位及び1,4-繰り返し単位それぞれ約50%を有する、約98質量%OH-官能化された水素化ポリブタジエン(オレフィンコポリマーOCPとも称される)である。」
「【0072】
前記のマクロモノマーは、部分的に市場でも得られ:例えばKraton Liquid(R)L-1203から製造されたKraton Liquid(R)L-1253、Kraton Polymers GmbH(Eschborn,Deutschland)の、それぞれ約50%の1,2-繰り返し単位及び1,4-繰り返し単位を有する、約96質量%がメタクリレート-官能化された水素化ポリブタジエンである。」
「【0079】
従って、マクロアルコール及び/又はマクロアミンは、例えば、幹ポリマー中に存在する無水マレイン酸-又はメタクリル酸-官能価への自体公知のグラフト反応によって、例えばエステル、アミド又はイミドにするp-トルエンスルホン酸又はメタンスルホン酸による触媒反応下で、本発明の櫛型ポリマーに変換することができる。低分子量アルコール及び/又はアミン、例えばn-ブタノール又はN-(3-アミノプロピル)-モルホリンの添加によって、このポリマー類似反応は、殊に無水マレイン酸-幹の場合には完全に反応される。」
「【0089】
有利に本発明の櫛型ポリマーは、潤滑油組成物中で使用することができる。潤滑油組成物は、少なくとも1種の潤滑油を含有する。
【0090】
潤滑油には、殊に鉱油、合成油及び天然油がこれに属する。
【0091】
鉱油は自体公知であり、市場で得られる。これらは一般に石油又は原油から蒸留及び/又は精留及び場合によっては更なる精製-及び後処理法によって得られ、この際、鉱油の概念には、殊に原油又は石油の高沸点分がこれに該当する。一般に、鉱油の沸点は5000Pa.で200℃より高く、有利には300℃より高い。頁岩油の低温乾留、石炭のコークス化、褐炭の空気遮断下での蒸留並びに石炭又は褐炭の水素化による製造も同様に可能である。僅かな割合の鉱油は、植物(ジョジョバ、菜種)又は動物(例えば牛脚油)起源の原料からからも製造される。相応して、鉱油は、起源に応じて種々の割合の芳香族、環状、分枝及び線状の炭化水素を有する。
【0092】
一般に、原油又は鉱油中のパラフィンベース、ナフテン系及び芳香族分は区別され、この際、概念バラフィンベース分は長鎖又は著しく分枝されたイソ-アルカンに関し、ナフテン系分はシクロアルカンに関する。更に鉱油は、起源及び後処理に応じて、種々の割合のn-アルカン、低い分枝度を有するイソ-アルカン、いわゆるモノメチル分枝したパラフィン及びヘテロ原子、殊にO、N及び/又はS(極性はこれらに依存する)を有する化合物を含有している。しかしながら、個々のアルカン分子は、長鎖の分枝基をもシクロアルカン基及び芳香族分をも有することがあるので、その指定(Zuordnung)は困難である。本発明の目的のために、この指定はDIN51378に従って行うことができる。極性分は、ASTM D2007によっても測定することができる。
【0093】
好ましい鉱油中のn-アルカン分は3質量%よりも少なく、O、N及び/又はS-含有化合物分は6質量%よりも少ない。芳香族分及びモノメチル分枝したパラフィン分は、一般にそれぞれ0~40質量%の範囲内にある。重要な1実施態様によれば、鉱油には、主として、一般に13を上回る、好ましくは18を上回る、全く特別好ましくは20を上回る炭素原子数を有するナフテン系及びパラフィンベースのアルカンが包含される。これらの化合物の割合は、それにより限定されるべきではないが、一般に≧60質量%、有利には≧80質量%である。好ましい鉱油は、芳香族分0.5~30質量%、ナフテン分15~40質量%、パラフィンベース分35~80質量%、n-アルカン3質量%まで及び極性化合物0.05~5質量%(それぞれ鉱油の全質量に対して)を含有する。
【0094】
慣用の方法、例えば尿素分離及びシリカゲルでの液体クロマトグラフィを用いて行われた、特別好ましい鉱油の分析結果は、例えば次の成分を示す(ここで、百分率の数値はそれぞれ、使用されている鉱油の全質量に対する):
C-原子数約18~31を有するn-アルカン: 0.7~1.0%、
C-原子数約18~31を有する僅かに分枝したアルカン: 1.0~8.0%、
C-原子数約14~32を有する芳香族化合物: 0.4~10.7%、
C-原子数約20~32を有するイソ-及びシクロ-アルカン:60.7~82.4%、
極性化合物: 0.1~0.8%、
残分: 6.9~19.4%。
【0095】
鉱油の分析並びに偏った組成を有する鉱油の計数に関する重要な情報が、例えば、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry,5th Edition on CD-ROM,1997,中のlubricants and related productsに存在する。
【0096】
合成油には、特に有機エステル、例えばジエステル及びポリエステル、ポリアルキレングリコール、ポリエーテル、合成炭化水素、殊にポリオレフィン(その内、ポリアルファオレフィン(PAO)が有利である)、シリコーン油及びペルフルオロアルキルエーテルが包含される。これらは大抵、鉱油よりもいくらか高価であるが、その性能に関して利点を有する。
【0097】
天然油は、動物又は植物油であり、例えば牛脚油又はジョジョバ油である。
【0098】
これらの潤滑油は、混合物としても使用でき、多様に市場で得られている。
【0099】
潤滑油組成物中の櫛型ポリマーの濃度は、この組成物の全質量に対して有利に0.1~40質量%の範囲、特に好ましくは1~20質量%の範囲である。」
「【0100】
前記の成分と並んで、潤滑油組成物は、他の添加剤及び添加物を含有することができる。
【0101】
これら添加剤には、特に酸化防止剤、腐食防止剤、消泡剤、抗-摩耗成分、染料、色安定剤、界面活性剤、凝固点低下剤及び/又はDI-添加剤がこれに属する。
【0102】
更に、これら添加剤には、粘度指数改良剤、凝固点改良剤、分散助剤及び/又は摩擦変更剤(摩擦改良剤)が包含され、これらは、特に好ましくはアルコール基中に炭素原子数1~30を有する線状ポリアルキル(メタ)アクリレートをベースとすることができる。これら線状のポリアルキル(メタ)アクリレートは、殊に先に述べた技術水準に記載されており、その際、これらポリマーは分散モノマーを有することができる。」
「【0105】
以下に本発明を実施例につき詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0106】
A)マクロモノマーの製造
種々のマクロモノマーを製造したか又は市場で入手した。第I表中には、マクロモノマーの製造のために使用したマクロアルコール及び/又はマクロアミンの特性がまとめて記載されている。
【0107】
マクロアミン1は、Kerocom(R)PIBA03(これはBASF AGから市場で得た)中のポリイソブチレンをベースとするマクロアミンである。
【0108】
マクロアルコール2は、EP0277345により得られた、ポリイソブチレンをベースとするマクロアルコールである。
【0109】
マクロアルコール3及び4は、WO2004/067583により得られた、ポリイソブチレンをベースとするマクロアルコールである。
【0110】
マクロアルコール5は、GB2270317により得られた、水素化ポリブタジエンをベースとするマクロアルコールである。
【0111】
Mnは、同じ化学品のポリオレフィン標準に対するGPCによって又は浸透圧法によって、蒸気圧又は膜浸透圧と同様に測定することができる、数平均分子量を表す。動粘度はνで記載され、動力学的粘度はηで記載される(ASTM D445)。(水素化)ポリブタジエンに関すると同様に1H-NMR-分光法により測定可能であるような、1,2-繰り返し単位及び1,4-繰り返し単位からの合計に対する1,2-繰り返し単位(ビニル-繰り返し単位)の割合は、fvinylとして示される。fvinylと関連しているDSCによる融点は、Tmとして示される。
【0112】
【表1】
[図:0001404767000009.jpg]
【0113】
略字「n.a.」は、融点が測定できなかったことを意味している。
【0114】
マクロアミンに由来するマクロモノマーは、MMAのアミノ分解によって製造される。このために、Kerocom(R)PIBA03(脂肪族炭化水素35%を含有)1850gを、MMA1200g中に、撹拌下に60℃で溶かす。この溶液に、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.6g及び4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ-オキシル-ラジカル0.12gを加えた。安定化性空気導通下にMMA-還流まで加熱(約100℃)の後に、共沸乾燥のためにMMA約30gを留去した。冷却後にSn(Oct)2O 24gを添加し、加温してMMA-還流させる。この温度で3時間反応させる。冷却後に水1000gを加えて触媒を沈殿させ、かつ4時間撹拌する。2相混合物を分離ロート中で分離させ、下の水相を捨てる。上の有機相を、シリカゲル(Celatom(R)FW-80)10gと共に撹拌し、加圧フィルター(Seitz K800)を通して濾過する。過剰のMMA及び脂肪族炭化水素を、真空回転蒸留装置で除去し、生成物からガス抜きする。マクロモノマー1300gが得られた。
【0115】
マクロアルコールに由来するマクロモノマーを、MMAのエステル交換により製造する。このために、その都度マクロアルコール約350gをMMA350g中に、60℃で12時間撹拌下に溶解させる。この溶液に、ヒドロキノンモノメチルエーテル200mg及び4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ-オキシル-ラジカル20mgを加える。安定化性空気導通下にMMA-還流まで加熱(約100℃)の後に、共沸乾燥のためにMMA約30gを留去した。冷却後にLiOMe2.7gを加え、メタノール/MMA-共沸物の還流まで加温(約64℃)する。メタノール/MMA-共沸物を、約100℃の一定の塔頂温度が生じるまで絶えず留去する。この温度でなお1時間、後反応させる。冷却後に不溶の触媒残分を、熱時加圧濾過(Seitz T1000深フィルター)によって分離除去する。引き続き、生成物を真空回転蒸発器でガス抜きする。マクロモノマー350gが得られた。
【0116】
高分子量のマクロアルコールの場合には、KPE100N-オイルの添加は、マクロモノマー合成の開始を助ける作用することができる。下記の櫛型ポリマー合成に引き込まれたKPE100N-オイルの含分を相応して考慮すべきである。
【0117】
Kraton Liquid(R)L-1253は、メタクリレート-官能化された水素化ポリブタジエンであり、これは、OH-官能化された水素化ポリブタジエンKraton Liquid(R)L-1203から製造され、Kraton Polymers GmbH(Eschborn, Deutschland)から市場で入手された。
【0118】
それぞれのマクロモノマーのマクロモノマー官能価fMNは、櫛型ポリマーのGPC-曲線自体から得られた。櫛型ポリマーの質量平均分子量Mw並びに多分散性指数PDIの測定のためのGPC-法を以下に記載する。この測定は、テトラヒドロフラン中、35℃の温度で、≧25標準(Polymer Standards Service bzw.Polymer Laboratories)のセットからのポリメチルメタクリレート-校正曲線(そのMpeakは、対数的に5・106~2・102g/モルの範囲に渡り一様に分配されて存在した)に対して行われた。6カラムの組み合わせ(Polymer Standards Service SDV 100Å/2×SDV LXL/2×SDV100Å/Shodex KF-800D)を使用した。信号記録のために、RI-デテクタ(Agilent 1100 シリーズ)を使用した。次いで、マクロモノマー官能価fMNを、GPCトレース下でのマクロモノマーの残留積分面積とマクロモノマー及び特有の櫛型ポリマーの下での総積分面積との間の比fからの簡単な計算により、fMN=1-f/WMNとして測定した。ここで、WMNは、全てのモノマーに対するマクロモノマーの秤取フラクシヨン質量である。マクロモノマー官能価fMNの測定値が、第2表中に集録されている。ここでは、全ての繰り返し単位に同じ応答計数が仮定された。櫛型ポリマー合成の重合を、低分子量幹-モノマー(nBMA、Sty、nBA、MMA又はDiBF)の変換率>99%(HPLC)の完全変換率に達するまで実施した。
【0119】
得られた化合物の特性が、第2表中に示されている。
【0120】
【表2】
[図:0001404767000010.jpg]
【0121】
B)櫛型ポリマーの合成
例1~7及び比較例1~4
四首フラスコ及びKPG-サーベル攪拌機を備えた装置中に、低分子量モノマー及びマクロモノマーからの150g-混合物(その組成は第3表中に記載されている)並びにShell Risella 907オイル65g及びKPE100N-オイル35gを装入した。窒素気下に120℃まで加熱の後に、t-ブチルペルベンゾエート0.9gを添加し、この温度を保持する。最初の開始剤添加の3時間及び6時間後に、それぞれt-ブチルペルベンゾエート0.3gを再度添加し、120℃で一晩撹拌する。次の日に、KPE100オイル125gで希釈する。鉱油中の櫛型ポリマーの40%溶液375gが得られた。
【0122】
例8~11
四首フラスコ及びKPG-サーベル攪拌機を備えた装置中に、低分子量モノマー及びマクロモノマーからの150g-混合物(その組成は第3表中に記載されている)並びにShell Risella 907オイル65g及びKPE100N-オイル35gを装入した。窒素気下に90℃まで加熱の後に、t-ブチル-ペル-2-エチルヘキサノエート0.3gを添加し、この温度を保持する。最初の開始剤添加の3時間及び6時間後に、それぞれt-ブチル-ペル-2-エチルヘキサノエート0.3gを再度添加し、90℃で一晩撹拌する。次の日に、KPE100オイル125gで希釈する。鉱油中の櫛型ポリマーの40%溶液375gが得られた。
【0123】
例12及び13
四首フラスコ及びKPG-サーベル攪拌機を備えた装置中に、低分子量モノマー及びマクロモノマーからの150g-混合物(その組成は第3表中に記載されている)並びにトルエン100gを装入した。窒素気下に90℃まで加熱の後に、t-ブチル-ペル-2-エチルヘキサノエート0.3gを添加し、この温度を保持する。最初の開始剤添加の2時間、4時間、6時間及び8時間後に、それぞれt-ブチル-ペル-2-エチルヘキサノエート0.3gを再度添加し、90℃で一晩撹拌する。次の日に、KPE100N-オイル225gで希釈し、真空回転蒸発器でのガス抜きによりトルエンを除去する。鉱油中の櫛型ポリマーの40%溶液375gが得られた。
【0124】
マクロモノマーと低分子量モノマーとに由来する総体-組成物150g並びにマクロモノマー官能価fMNの考慮の下に、各々の櫛型ポリマーに関して、質量割合の正味-組成物並びに更なるモノマー分子量の考慮下に、モル分枝度fbranchを測定した。得られた値が、第3表中に示されている。更に、前記方法による、櫛型ポリマーの全てのセグメントにとって良好な溶剤であるテトラヒドロフラン中でのGPCによる分子量及びPDIsが記載されている。
【0125】
更に、分散媒油(Traegeroel)及び残留低分子量モノマーを真空中180℃で24時間留去の後に、この櫛型ポリマーをDSCにより分析した。このために、10mgの試料量を、穿孔DSC-パン中で、-80℃~+130℃の範囲、10K/min(Pyris 1、Perkin-Emer)で測定した。それぞれ、第2の熱曲線から、幹のガラス転移温度TGが測定された(第3表)。
【0126】
【表3】
[図:0001404767000011.jpg]
【0127】
第3表中で省略文字は次のものを表す:
Sty: スチレン
MMA: メチルメタクリレート
nBMA: n-ブチルメタクリレート
nBA: n-ブチルアクリレート
DiBF: ジイソブチルフマレート
C12-15MA:アルコール基中に炭素原子数12~15を有するアルキルメタクリレート-混合物
C12/14/16/18MA:アルコール基中に炭素原子数12、14、16及び18を有するアルキルメタクリレート-混合物。」
「【0128】
【表4】
[図:0001404767000012.jpg]
」
「【0129】
櫛型ポリマーの評価
得られた櫛型ポリマー-添加剤の特性付けは、ASTM D2270によるVI-測定によって、及び150N基油(KV40=31.68mm2/s、KV100=5.42mm2/s、VI=105)中の100℃で調節された動粘度KV100=14.0mm2/s(ASTM D445)の溶液のASTM D2603 Ref.B(12.5分超音波)又はDIN 51381(30サイクル、ボッシュポンプ)によるPSSI-測定によって行なわれる。」
「【0130】
本発明の櫛型ポリマーは、技術水準でEP069969により製造されたポリマーよりも本質的に良好なVI、PSSI及び固体含有率の関係を有することが明らかである。得られた評価の結果が、第4表中に示されている。
【0131】
【表5】
[図:0001404767000013.jpg]
」
「【0132】
更に、本発明による櫛型ポリマーを、線状の極めて剪断安定なPAMA(比較例5)と比較した。この場合に、ポリマーの固体含有率を、ポリアルファオレフィンとヒドロクラックオイルとからのVII-不含のD/I-パケット含有API群III基油(KV100=5.15mm2/s、KV40=25.30mm2/s、VI=137、ASTM D97による凝固点-45℃)中のKV100=13.15mm2/sの溶液粘度に合わせて調節した。ここで、ポリマー含有率でも、VIでも比較可能な利点又はDIN51350パート6(20時間又は192時間、テーパころ軸受け)による全く良好なPSSIさえも明らかである。DIN51398による-40℃での動力学的低温粘度又はASTM D97による凝固点でも、この櫛型ポリマーの極めて有利な値が明らかである。加えて、例12に対する例6の比較から、高割合の1,2-繰り返し単位のOCP-マクロモノマーをベースとする櫛型ポリマーが、低温特性において明白に良好であることが明らかである。前記の検査で得られた結果が第5表中に示されている。
【0133】
【表6】
[図:0001404767000014.jpg]
[図:0001404767000015.jpg]
【0134】
更に、API群I 100N/600N-オイルをベースとするISO46/VI160圧媒油処方物中で、櫛型ポリマーを、VIIとして使用し、DIN51350(パート6、20時間、テーパころ軸受け)によるPSSIで、線状PAMAと比較した(比較例6)。同じ又は僅かに改良されたPSSIで、必要固体含有率を、33%を下回るまで極めて著しく減少することが可能であることが明らかである。圧媒油処方物の組成及びこの検査で得られた結果が第6表中に示されている。」
(2)引用例4の記載事項
引用例4には、以下の事項が記載されている。
「【0045】
実施例1
この実施例は炭素ベースの溶媒への粒子ディスパージョンを形成するポリマーの調製を例証し、該ポリマーは、アクリル酸メチルと、ポリエチレン/ポリブチレンコポリマーに相当するマクロモノマー(Kraton L-1253)の重合によって得られる。
200gのヘプタン、200gのイソドデカン、28gのアクリル酸メチル、Mw=4000のメタクリレートモノ末端基を含む12gのポリエチレン/ポリブチレンオリゴマータイプのマクロモノマー(Kraton L-1253)及び3.2gのペルオキシ-2-エチルヘキサン酸tert-ブチル(Trigonox 21S)を1リットルの反応器に仕込んだ。
反応混合物を攪拌し1時間かけて室温から90℃に加熱した。90℃で15分経つと、透明な外観から乳白色の外観へ変わる反応媒質の外観変化が観察された。攪拌をしながらの加熱を更に15分間継続した後、160gのアクリル酸メチルと2gのTrigonox21Sからなる混合物を1時間かけて滴下した。
ついで90℃で4時間加熱した後、反応媒質からヘプタンを蒸留した。この蒸留操作後、イソドデカンへのポリマー粒子の安定なディスパージョンが得られた。」
(3)引用例5の記載事項
引用例5には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001404767000016.jpg]
[図:0001404767000017.jpg]
[図:0001404767000018.jpg]
」
「
[図:0001404767000019.jpg]
」
4 取消理由1(サポート要件)についての当審の判断
取消理由1は、本件発明には、本件特許明細書に記載された粘度指数向上剤(R’-14)~(R’-17)、及び、これを含む潤滑油組成物(V’-14)~(V’-17)が含まれているが、これらは、いずれも、比較例(比較例14~17、22~23)であって、その課題を解決することができると認識できる範囲のものであるとはいえない、というものであるが、本件訂正により、上記粘度指数向上剤、及び、潤滑油組成物は、いずれも、本件発明の範囲外となった。
したがって、取消理由1によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
5 取消理由2(進歩性)についての当審の判断
(1)甲1に記載された発明
甲1には、「潤滑油中で特別高い粘度指数改良作用を有する」「櫛型ポリマー」についての事項が記載されている(前記3(1)の段落【0013】)。そしてその「櫛型ポリマー」は、「ポリオレフィン-ベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位を包含している」(前記3(1)の段落【0017】)。
甲1には、その「ポリオレフィン-ベースのマクロモノマー」が「例えばKraton Liquid(R)L-1203から製造されたKraton Liquid(R)L-1253」であることが示される(前記3(1)の段落【0072】)。そして「例4」として、Kraton(R)L-1253を45.0質量%、Styを35.6質量%及びnBMAを19.4質量%含むモノマー混合物から得られ、正味ポリマー組成としてはそれぞれ44、36、20質量%である、櫛型ポリマーが示されている(前記3(1)の段落【0126】の【表3】)。
この「Kraton(R)L-1253」は、「Kraton Liquid(R)L-1203、Mn=4200g/モルの、1,2-繰り返し単位及び1,4-繰り返し単位それぞれ約50%を有する、約98質量%OH-官能化された水素化ポリブタジエン(オレフィンコポリマーOCPとも称される)」(前記3(1)の段落【0067】)「から製造された、約96質量%がメタクリレート-官能化された水素化ポリブタジエンである」(前記3(1)の段落【0072】)。
また、「Sty」は「スチレン」であり、「nBMA」は「n-ブチルメタクリレート」である(前記3(1)、【0127】)。
そうすると、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
<甲1発明>
「Mn=4200g/モルの、1,2-繰り返し単位及び1,4-繰り返し単位それぞれ約50%を有する、約98質量%OH-官能化された水素化ポリブタジエンであるKraton Liquid(R)L-1203から製造された、約96質量%がメタクリレート-官能化された水素化ポリブタジエンKraton(R)L-1253をポリオレフィン-ベースのマクロモノマーとして45.0質量%、スチレンを35.6質量%及びn-ブチルメタクリレートを19.4質量%含むモノマー混合物から得られ、正味ポリマー組成としてはそれぞれ44、36、20質量%である、潤滑油中で特別高い粘度指数改良作用を有する櫛型ポリマー」
(2)本件発明1について
ア 対比
甲1発明の「櫛型ポリマー」は、「潤滑油中で特別高い粘度指数改良作用を有する」ものである。加えて、甲1の「櫛型ポリマーの評価」の欄(前記3(1)の段落【0129】)には「櫛型ポリマーを、VIIとして使用」と記載されるところ(前記3(1)の段落【0134】)、この「VII」とは、「粘度指数改良剤(VIIs)」との記載(前記(3(1)の段落【0002】)より「粘度指数改良剤」の略語であると解される。そうすると、甲1発明の「櫛型ポリマー」は、本件発明1の「粘度指数改良剤」に相当する。
甲1発明のKraton(R)L-1253は、メタクリレートが幹ポリマーを構成し、Kraton Liquid(R)L-1203由来のOH-官能基化された水素化ポリブタジエンがそれにグラフトしたものであり(前記3(1)の段落【0079】)、その水素化ポリブタジエンは1,2-繰り返し単位及び1,4-繰り返し単位をそれぞれ約50%を有するものである(前記3(1)の段落【0067】)。以上より、甲1発明の「ポリオレフィン-ベースのマクロモノマー」は、本件発明1の単量体(a)の一般式(1)において、R1はメチル基、-X1-は-O-で表される基であって、R2はブタジエンを必須構成単量体とし、R2の重量に基づいてブタジエンの比率が50重量%以上である炭化水素重合体又はその炭化水素重合体の少なくとも一部が水素化された重合体から水素原子を1つ除いた残基であって、pは0の数で、一般式(1)の中のR2の一部または全量を構成するブタジエン由来の構造において、1,2-付加体と1,4-付加体のモル比率(1,2-付加体/1,4-付加体)は40/60~70/30に含まれる50/50のものに相当する。
また、甲1発明のKraton(R)L-1253を正味ポリマー組成として44質量%含む櫛型ポリマーは、本件発明1の「共重合体(A)の構成単位として共重合体(A)の質量に基づいて単量体(a)を15重量%超、50重量%未満含有する」を充足する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「下記一般式(1)
[図:0001404767000020.jpg]
で表される単量体(a)を必須構成単量体として含有する共重合体を含む粘度指数向上剤であって、前記共重合体の構成単位として該共重合体の重量に基づいて前記単量体(a)を15重量%超、50重量%未満含有し、前記一般式(1)におけるR1は水素原子又はメチル基;-X1-は-O-、-O(AO)m-又は-NH-で表される基であって、AOは炭素数2~4のアルキレンオキシ基であり、mは1~10の整数であり、mが2以上の場合のAOは同一でも異なっていてもよく、(AO)m部分はランダム結合でもブロック結合でもよい;R2はブタジエンを必須構成単量体とし、R2の重量に基づいてブタジエンの比率が50重量%以上である炭化水素重合体又はその炭化水素重合体の少なくとも一部が水素化された重合体から水素原子を1つ除いた残基;pは0又は1の数;一般式(1)中のRの一部または全量を構成するブタジエン由来の構造において、1,2-付加体と1,4-付加体のモル比率(1,2-付加体/1,4-付加体)は40/60~70/30である、粘度指数向上剤。」である点で一致し、以下の点(以下、「相違点1」という。)で相違する。
<相違点1>
本件発明1の「単量体(a)」は、「数平均分子量が800~4,000である」のに対して、甲1発明の「ポリオレフィン-ベースのマクロモノマー」は、数平均分子量が特定されていない点。
イ 判断
(ア)相違点1について検討する。
甲1発明は、「ポリオレフィン-ベースのマクロモノマー」の数平均分子量を特定していないが、このマクロモノマーの原料となるマクロアルコール「Kraton(R)L-1203」は、「Mnが4200」であり、これとメタクリル酸とのエステルであるマクロモノマーのMnは4300程度(=4200+86-18)と計算できる。したがって、甲1発明のマクロモノマーの数平均分子量は、本件発明1の「800~4,000」の範囲のものではない。
また、甲1には、「ポリオレフィン-ベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位の分子量の数平均は、500~50000g/モル、特に好ましくは700~10000g/モル、殊に1500~4900g/モル及び全く特別好ましくは2000~3000g/モルの範囲内にあるのが有利である」と記載されている(前記3(1)の段落【0018】)が、これらの分子量の範囲が順次より好ましい範囲とされている理由については何も説明が記載されていないし、順次より好ましい範囲となっていることを裏付ける記載もない。
また、具体例の記載(前記3(1)の段落【0105】~【0126】、特に【表1】、【表2】)を検討すると、甲1発明を認定する基礎とした例4(上記(1)を参照。繰り返し単位(ポリオレフィン-ベースのマクロモノマー)の分子量の数平均は4300程度なので、例4では「殊に」である場合に該当する分子量が採用されていると理解できる。
さらに、例2、3、5、6も、例4と同様に、「殊に」である場合に該当する分子量が採用されているが、例10は、例4の「殊に」よりも劣ると説明されている範囲である「特に好ましくは」である場合に該当する分子量が採用されていること、また、例4の「殊に」よりも優れているとされている「全く特別好ましくは2000~3000g/モルの範囲」に該当する分子量が採用されている例はないことも理解できる。
そうすると、甲1には、甲1発明の「ポリオレフィン-ベースのマクロモノマー」の分子量(4300程度)を変更することを着想させるとともに、その範囲を本件発明1の「数平均分子量が800~4,000である」を充足する範囲にすることを動機づけるような記載や示唆はないと認められる。
(イ)効果について
本件発明1の効果は、段落【0008】に記載されるように、「粘度指数が高く、使用時のせん断による粘度低下が少なく、かつ長期間使用時にせん断による析出物の生成がないため長期使用時の安定性に優れ」「また低温時の粘度を上昇させにくい」というものであり、具体的には、せん断安定性を10.6に押さえつつ粘度指数265を達成し(実施例14)、また、粘度指数235を達成しつつせん断安定性が3.1と優れている(実施例18)ものである。
これに対して甲1発明も「潤滑油中で特別高い粘度指数改良作用を有する」(前記3(1)の【0013】)、「粘度指数は、少なくとも200である」(前記3(1)の【請求項28】)と記載され、また、PSSI(永久剪断安定性-指数)(前記3(1)、【0002】)については、「45に等しいか又はそれを下回っている」(前記3(1)の【請求項29】)ことが記載されているが、具体的には、例1(前記3(1)の【0131】の第4表)の「VI」(本件発明の粘度指数に相当すると仮定する。)は249であり、PSSI(本件発明のせん断安定性に相当すると仮定する。)は、23.4であるから、「VI」については本件発明(実施例14、18)と同程度であるものの、PSSIについては、本件発明1の実施例14(10.6)や実施例18(3.1)のいずれと比べても劣っている。
したがって、本件発明1は、甲1発明と比べて、粘度指数とせん断安定性のいずれにおいても優れた効果を奏しているといえる。
加えて、令和5年1月27日に特許権者が提出した意見書において、対比実験の結果を示しており、これによれば、本件発明1は、マクロモノマーの数平均分子量が4000以下であるか4000を超えるかにより析出物の有無が異なるという効果を奏するものであるといえるところ、この効果を、析出物について記載も示唆もない甲1の記載等に基づいて当業者が予測することができたとは認められない。
(ウ)
なお、申立人A、Bは、特許権者のした訂正請求や取消理由2に対する釈明に対して全く何も意見を述べていない。
ウ まとめ
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2、4~12について
本件発明2、4~12は、本件発明1を直接又は間接的に引用しさらに限定した発明であるから、これらの発明と甲1発明を対比すると、上記(2)アの一致点で一致し、少なくとも、相違点1で相違する。また、相違点1については、上記(2)イのとおりである。
また、引用例4、5、及び、申立人A、Bが提出したその余の証拠を見ても、相違点1について動機付けとなるような記載も示唆もない。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件発明2、4~12についても、本件発明1と同じ理由により、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)小括
以上のとおりであるから、取消理由2によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
6 取消理由3(明確性)についての当審の判断
取消理由3は、「共重合体(A)を構成する単量体(a)に該当する単量体が複数存在している場合に、本件発明2の「計算式(1)」をどのように算出するかについて、本件特許明細書には記載されていないというものであったが、本件特許明細書の段落【0018】には、このような場合について「それぞれの重量平均分子量の重量比率による相加平均」とすることが記載されていた。
したがって、取消理由3によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
第5 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立の理由について
1 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立の理由の概要
(1)申立人Aが申し立てた特許異議申立の理由及び提出した証拠方法
申立人Aが申し立てた理由のうち、取消理由通知において採用しなかった申立理由の概要は、下記アのとおりである。また、申立人Aが提出した証拠方法は、下記イのとおりである。
ア 申立人Aが申し立てた特許異議申立の理由
申立理由1-1(新規事項)
(新規事項)令和4年1月18日付けの手続補正は、出願当初の請求項1に記載されていた「共重合体(A)の溶解性パラメーターの範囲が9.00~9.40である」という構成を削除するとともに、「一般式(1)中のR2の一部または全量を構成するブタジエン由来の構造において、1,2-付加体と1,4-付加体のモル比率(1,2-付加体/1,4-付加体)は40/60~70/30である」という構成を追加するものであるが、そのような発明が、「粘度指数向上効果に優れ、使用時のせん断による粘度低下が少なく、かつ長期間使用時にせん断による析出物の生成のない粘度指数向上剤及び潤滑油組成物を提供する」という課題を解決することができることについては、本件特許の出願当初の明細書に記載がない。
したがって、上記手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第1号に該当し、取り消すべきものである(申立人Aの特許異議申立書9~11頁、「イ 新規事項」の章)。
申立理由1-2(サポート要件)
本件特許の明細書には、SP値が、9.00~9.40(cal/cm3)1/2である共重合体(A)を含有する粘度指数向上剤とすることで課題を解決することができることが記載されているのみであって、SP値が9.00未満や9.40超である共重合体を含有する粘度指数向上剤であっても課題を解決することができると当業者が理解することができる記載は一切ない。
また、比較例22、23の潤滑油組成物は、一般式(1)で表され、一般式(1)中のR2の一部または全量を構成するブタジエン由来の構造において、1,2-付加体と1,4-付加体のモル比率が40/60~70/30である単量体(a)を必須構成単位とする共重合体(A)を含有する粘度指数向上剤であるにも関わらず、実施例に比べて粘度指数が低いので、課題を解決することが粘度指数向上剤であるとは認められない。
したがって、本件発明1には、発明の課題を解決するための手段が反映されているとは認められず、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を充足しない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(申立人Aの特許異議申立書11~13頁、「ウ サポート要件、実施可能要件」の章)。
申立理由1-3(実施可能要件)
本件発明には、発明の課題を解決するための手段が反映されていないことから、当業者であっても、本件特許発明の粘度指数向上剤を製造することができるとはいえない。
したがって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を充足しない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(申立人Aの特許異議申立書11~13頁、「ウ サポート要件、実施可能要件」の章)。
申立理由1-4(明確性要件)
請求項2には、「分子量」と記載されているが、この分子量は数平均分子量であるのか、重量平均分子量であるのかが不明であるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を充足しない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(申立人Aの特許異議申立書11~13頁、「エ 明確性」の章)。
イ 申立人Aが提出した証拠方法
甲第1号証:欧州特許出願第18772347号に対して欧州特許庁が2022年5月6日付けで発行した通知書
甲第2号証:Robert F. Fedors、Polymer Engineering and Science、1974年2月、Vol.14、No.2、第147~154頁
甲第3号証:特許第6703453号に対する異議申立における令和3年8月25日(起案日)付けの取消理由通知書
(2)申立人Bが申し立てた特許異議申立の理由及び提出した証拠方法
申立人Bが申し立てた理由のうち、取消理由通知において採用しなかった申立理由の概要は、下記アのとおりである。また、申立人Bが提出した証拠方法は、下記イのとおりである。
なお、申立理由2-1-1は、主として引用する刊行物等として、後記イの甲1を引用するものであり、申立理由2-1-2は、主として引用する刊行物等として、後記イの甲2を引用するものであり、申立理由2-2は、主として引用する刊行物等として、後記イの甲2、3のいずれかを引用するものである。
ア 申立人Bが申し立てた特許異議申立の理由
申立理由2-1-1(新規性)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1、3~5、7、9、11、12に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(申立人Bの特許異議申立書26頁下から3行~28頁15行)。
申立理由2-1-2(新規性)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1、3~5、7、9~12に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(申立人Bの特許異議申立書30頁9行~32頁8行)。
申立理由2-2(進歩性)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~12に係る発明は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(申立人Bの特許異議申立書26頁下から3行~34頁下から3行)。
申立理由2-3(サポート要件)
本件発明1では、単量体(a)の割合が共重合体(A)の重量に基づいて、10~50重量%、15~40重量%等であること、単量体(a)が一般式(1)の定義によりp=0のものであること、および単量体(a)の割合、単量体(b)が必須構成単量体であること、および単量体(b)の割合、ならびに共重合体(A)が9.00~9.40(cal/cm3)1/2の範囲内のSP値を有するものであることを課題を解決するための手段とするものであると認められるが、本件特許発明1には、当該手段が何ら特定されていないから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を充足しない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(申立人Bの特許異議申立書34頁下から2行~37頁5行)。
申立理由2-4(実施可能要件)
比較例22、および比較例23の潤滑油組成物は、少なくとも本件特許発明1による構成要件を備えた粘度指数向上剤が使用されているものの、粘度指数が低く、課題を解決できるものであると認めることはできないから、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、単量体(a)が一般式(1)の定義によりp=0のものであること、および単量体(a)の割合、単量体(b)が必須構成単量体であること、および単量体(b)の割合、ならびに共重合体(A)が9.00~9.40(cal/cm3)1/2の範囲内のSP値を有するものであることは何ら特定されていない粘度指数向上剤を当業者が製造することができ、また、使用することが出来る程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を充足しない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(申立人Bの特許異議申立書37頁6行~39頁3行)。
申立理由2-5(明確性要件)
請求項1には、共重合体(A)における単量体(a)の割合、及び、単量体(a)以外の単量体がどのような単量体でどの程度使用されるのかが、何ら特定されていない。
また、請求項2には、「共重合体セグメントの分子量」と記載されているが、この分子量が数平均分子量であるのか、重量平均分子量であるのかが不明である。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を充足しない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(申立人Bの特許異議申立書39頁4~21行)。
申立理由2-6(新規事項)
(新規事項)特許出願人は、令和4年1月18日付けの手続補正により、出願に最初に添付されていた特許請求の範囲に記載されていた請求項1につき、「共重合体(A)の溶解性パラメーターの範囲が9.00~9.40である」という構成を削除し、「一般式(1)中のR2の一部または全量を構成するブタジエン由来の構造において、1,2-付加体と1,4-付加体のモル比率(1,2-付加体/1,4-付加体)は40/60~70/30である」という構成を追加したが、願書に最初に添付されていた明細書等には、SP値が何ら特定されていない共重合体(A)が課題を解決できることは一切記載されていない。
また、「共重合体(A)の溶解性パラメーターの範囲が9.00~9.40である」という構成と、補正により加えられた「一般式(1)中のR2の一部または全量を構成するブタジエン由来の構造において、1,2-付加体と1,4-付加体のモル比率(1,2-付加体/1,4-付加体)は40/60~70/30である」という構成とが等価の構成であって、いずれの構成を採用しても同等の効果が奏されるとの記載も明細書中には一切ない。
したがって、上記補正は、当初明細書に記載されていた発明の範囲を超えた、新たな技術的事項を導入する補正であって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第1号に該当し、取り消すべきものである(申立人Bの特許異議申立書39頁22行~42頁5行)。
イ 申立人Bが提出した証拠方法
甲第1号証:国際公開第2007/003238号
甲第1-1号証:特表2008-546894号公報
甲第2号証:国際公開第2009/007147号
甲第2-1号証:特表2010-532805号公報
甲第3号証:英国特許出願公開第2270317号明細書
2 検討
(1)申立理由1-1(新規事項)について
ア 判断手法
特許法は、特許請求の範囲等の補正については、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない旨規定(特許法第17条の2第3項)している。ここでいう「事項」とは明細書又は図面によって開示された発明に関する技術的事項であることが前提となるところ、 上記「最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるときは当該補正は明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものということができる(知財高裁平成18年(行ケ)第10563号、平成20年5月30日言渡)、とされている。
イ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項
願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」ともいう。)には、以下の事項が記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、粘度指数向上効果に優れ、使用時のせん断による粘度低下が少なく、かつ長期間使用時にせん断による析出物の生成のない粘度指数向上剤及び潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、鋭意検討した結果、本発明に至った。
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される数平均分子量が800~4,000である単量体(a)を必須構成単量体として含有する共重合体(A)を含む粘度指数向上剤であって、共重合体(A)の溶解性パラメーターの範囲が9.00~9.40である粘度指数向上剤;API分類のグループI~IVの基油、GTL基油及び合成系潤滑油基油からなる群から選ばれる1種以上の基油及びこの粘度指数向上剤を含有する潤滑油組成物であって、潤滑油組成物中の共重合体(A)の含有量が0.1~20重量%である潤滑油組成物である。
【0006】
【化1】
[図:0001404767000021.jpg]
【0007】
[R1は水素原子又はメチル基;-X1-は-O-、-O(AO)m-又は-NH-で表される基であって、AOは炭素数2~4のアルキレンオキシ基であり、mは1~10の整数であり、mが2以上の場合のAOは同一でも異なっていてもよく、(AO)m部分はランダム結合でもブロック結合でもよい;R2はブタジエンを必須構成単量体とし、R2の重量に基づいてブタジエンの比率が50重量%以上である炭化水素重合体又はその炭化水素重合体の少なくとも一部が水素化された重合体から水素原子を1つ除いた残基;pは0又は1の数を表す。]」
「【0010】
例えば特許文献3~8には、粘度指数向上剤にポリオレフィンをベースとする単量体を使用した共重合体を使用することが開示されている。しかし、ポリオレフィンをベースとする単量体の分子量が大きいため、ポリマー鎖が長期間せん断を受けポリマー鎖が切れたときに溶解性を維持するために必要なポリオレフィンをベースとする単量体を含まない部分が生成するため、長期間のせん断をかけられると析出物が発生してしまうという課題がある。また共重合体の溶解性パラメーター(以下SP値と略記)が9.00よりも小さい場合では、粘度指数向上性に劣り、共重合体のSP値が9.40よりも大きい場合は、基油への溶解性が悪化する。あるいは長期間のせん断によって析出物が発生してしまう。
これに対し本発明の粘度指数向上剤は良好な粘度指数向上性とせん断安定性を持ち、長期間のせん断にも耐えることができるものである。
【0011】
本発明における共重合体(A)のSP値は、好ましくは9.00~9.40(cal/cm3)1/2であり、更に好ましくは9.05~9.35(cal/cm3)1/2、特に好ましくは9.10~9.30(cal/cm3)1/2である。SP値が9.00よりも低い場合では粘度指数が悪化する傾向にあり、9.40より大きいと溶解性に劣り、また長期使用安定性に欠ける傾向がある。なお、本発明におけるSP値は、Fedors法(Polymer Engineering and Science,Feburuary,1974,Vol.14、No.2 P.147~154)に記載の方法で算出される値である。」
「【0020】
単量体(a)は、炭化水素重合体の片末端に水酸基を導入した片末端に水酸基を含有する(共)重合体(Y)と、(メタ)アクリル酸とのエステル化反応、または(メタ)アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応により得ることができる。なお、「(メタ)アクリル」は、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0021】
(共)重合体(Y)は、潤滑油への溶解性の観点から、特定のSP値を有するものが好ましい。SP値の範囲は、好ましくは7.0~9.0(cal/cm3)1/2であり、更に好ましくは7.3~8.5(cal/cm3)1/2である。
(共)重合体(Y)のSP値も前記の方法で算出することができる。(共)重合体(Y)のSP値は、使用する単量体のSP値、モル分率を適宜調整することにより所望の範囲にすることができる。
・・・
【0023】
一般式(1)中のR2を構成する全単量体のうちブタジエンの比率は粘度指数向上効果の観点から、50重量%以上であり、好ましくは75重量%以上、より好ましくは85重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0024】
一般式(1)中のR2の一部または全量を構成するブタジエン由来の構造において、1,2-付加体と1,4-付加体のモル比率(1,2-付加体/1,4-付加体)は粘度指数向上効果および低温粘度の観点から、好ましくは5/95~95/5、更に好ましくは30/70~80/20、特に好ましくは40/60~70/30である。
・・・
【0026】
共重合体(A)を構成する単量体(a)の割合は、粘度指数向上効果とせん断安定性の観点から、共重合体(A)の重量に基づいて、好ましくは10~50重量%であり、更に好ましくは15~40重量%、最も好ましいのは15~35重量%である。
単量体(a)の割合が10%未満の場合は、溶解性と長期使用安定性に劣る傾向にあり、単量体(a)の割合が50%を超える場合は、粘度指数向上効果に劣る傾向がある。」
「【0086】
上記製造例で得た重合体と、その他の片末端に水酸基を含有する重合体として(Y1-1)、(Y’1-2)を準備した。まとめると以下の通りである。
(Y1-1):水素化ポリブタジエンの片末端水酸基含有重合体(商品名;HLBHP1500、Cray Valley社製)、Mw=1,800、Mn=1,670、1,2-付加体/1,4-付加体のモル比率=65/35
(Y1-2):製造例1で得た水素化ポリブタジエンの片末端水酸基含有重合体、Mw=1,420、Mn=1,300、1、2-付加体/1、4-付加体のモル比率=40/60
(Y1-3):製造例2で得た片末端水酸基含有のブタジエン-スチレン共重合体の水素化物、Mw=3,600、Mn=3,040、1、2-付加体/1、4-付加体のモル比率=60/40
(Y’1-1):製造例3で得た水素化ポリブタジエンの片末端水酸基含有重合体、Mw=5,200、Mn=4,730、1,2-付加体/1,4-付加体のモル比率=60/40
(Y’1-2):水素化ポリブタジエンの片末端水酸基含有重合体(商品名;KrasolHLBH-5000M、Cray Valley社製)、Mw=5,370、Mn=5,190、1,2-付加体/1,4-付加体のモル比率=65/35
(Y’2-1):製造例4で得た片末端不飽和基含有ポリブテンのヒドロホウ素化物、Mw=1,670、Mn=980
(Y’2-2):製造例5で得た片末端不飽和基含有ポリブテンのヒドロホウ素化物、Mw=4,100、Mn=2,300
(Y’3-1):製造例6で得た片末端不飽和基含有ポリブテンの無水マレイン酸-エン-アミノアルコール付加物、Mw=6,800、Mn=3,030
【0087】
上記片末端に水酸基を含有する重合体をエステル化して下記の単量体を準備した。
なお、(a’-3)としては市販品を準備した。
(a-1):(Y1-1)のメタクリル酸エステル化物、Mw=1,860、Mn=1,720
(a-2):(Y1-2)のメタクリル酸エステル化物、Mw=1,490、Mn=1,360
(a-3):(Y1-3)のメタクリル酸エステル化物、Mw=3,670、Mn=3,100
(a’-1):(Y’1-1)のメタクリル酸エステル化物、Mw=5,300、Mn=4,800
(a’-2):(Y’1-2)のメタクリル酸エステル化物、Mw=5,410、Mn=5,230
(a’-3):片末端水酸基含有の水素化ポリブタジエンのメタクリル酸エステル化物(商品名:L-1253、クラレ社製)、Mw=4,400、Mn=4,200、1,2-付加/1,4-付加モル比率=50/50
(a’-4):(Y’2-1)のメタクリル酸エステル化物、Mw=1,740、Mn=1,050
(a’-5):(Y’2-2)のメタクリル酸エステル化物、Mw=4,160、Mn=2,350
(a’-6):(Y’3-1)のメタクリル酸エステル化物、Mw=6,900、Mn=3,100
上記(a-1)~(a-3)及び(a’-1)~(a’-6)の分子量につき、表1にまとめて示した。
【0088】
【表1】
[図:0001404767000022.jpg]
【0089】
<実施例1、3~9、11~13、比較例4、6~9、11、14~17>
撹拌装置、加熱冷却装置、温度計、滴下ロート、窒素導入管及び減圧装置を備えた反応容器に、基油A(SP値:8.3(cal/cm3)1/2、100℃の動粘度:2.5mm2/s、粘度指数:96)100重量部を投入し、別のガラス製ビーカーに、表2、3記載の単量体、連鎖移動剤としてのドデシルメルカプタン、t-ブチルベンゾイルペルオキシド0.25重量部を投入し、20℃で撹拌、混合して単量体溶液を調製し、滴下ロートに投入した。反応容器の気相部の窒素置換を行った後、密閉下系内温度を100~110℃に保ちながら、3時間かけて単量体溶液を滴下し、滴下終了から3時間、110℃で熟成した後、120~130℃に昇温後、同温度で減圧下(0.027~0.040MPa)未反応の単量体を2時間かけて除去し、共重合体(A-1)、(A-3)~(A-9)、(A-11)~(A-13)、(A’-4)、(A’-6)~(A’-9)、(A’-11)、(A’-14)~(A’-17)を含有する粘度指数向上剤(R-1)、(R-3)~(R-9)、(R-11)~(R-13)、(R’-4)、(R’-6)~(R’-9)、(R’-11)、(R’-14)~(R’-17)を得た。
得られた共重合体(A-1)、(A-3)~(A-9)、(A-11)~(A-13)、(A’-4)、(A’-6)~(A’-9)、(A’-11)、(A’-14)~(A’-17)のSP値を上記の方法で計算し、Mwを上記の方法で測定した。
【0090】
<実施例2、10、比較例1~3、5、10、12、13>
撹拌装置、加熱冷却装置、温度計、滴下ロート、窒素導入管及び減圧装置を備えた反応容器に、基油A(SP値:8.3(cal/cm3)1/2、100℃の動粘度:2.5mm2/s、粘度指数:96)100重量部を投入し、別のガラス製ビーカーに、表2、3記載の単量体、連鎖移動剤としてのドデシルメルカプタン、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.5重量部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.2重量部を投入し、20℃で撹拌、混合して単量体溶液を調製し、滴下ロートに投入した。反応容器の気相部の窒素置換を行った後、密閉下系内温度を70~85℃に保ちながら、2時間かけて単量体溶液を滴下し、滴下終了から2時間、85℃で熟成した後、120~130℃に昇温後、同温度で減圧下(0.027~0.040MPa)未反応の単量体を2時間かけて除去し、共重合体(A-2)、(A-10)、(A’-1)~(A’-3)、(A’-5)、(A’-10)、(A’-12)、(A’-13)を含有する粘度指数向上剤(R-2)、(R-10)、(R’-1)~(R’-3)、(R’-5)、(R’-10)、(R’-12)、(R’-13)を得た。
得られた共重合体(A-2)、(A-10)、(A’-1)~(A’-3)、(A’-5)、(A’-10)、(A’-12)、(A’-13)のSP値を上記の方法で計算し、Mwを上記の方法で測定した。
【0091】
<長期負荷下でのせん断安定性(長期使用安定性)の測定方法>
撹拌装置を備えたステンレス製容器に、SKルブリカンツ社製YUBASE-3(SP値:8.3(cal/cm3)1/2、100℃の動粘度:3.1mm2/s、粘度指数:106)を投入し、得られる潤滑油組成物の100℃動粘度が5.40±0.02(mm2/s)になるように、それぞれ粘度指数向上剤(R-1)~(R-13)、(R’-1)~(R’-17)を添加し、潤滑油組成物(V-1)~(V-13)、(V’-1)~(V’-17)を得た。
得られた潤滑油組成物(V-1)~(V-13)、(V’-1)~(V’-17)に対し、CEC L-45-99の方法により250時間のせん断試験を行った。せん断試験の後、それぞれの潤滑油組成物の外観を確認し、析出物の生成の有無を測定し結果を表2、3に記載した。この方法により長期負荷下でのせん断安定性(長期使用安定性)を評価した。
表2、3に記載の単量体(b)~(i)の組成は、以下に記載した通りである。
(b-1):メタクリル酸メチル
(b-2):メタクリル酸エチル
(b-3):メタクリル酸ブチル
(c-1):エトキシエチル(メタ)アクリレート
(c-2):ブトキシエチル(メタ)アクリレート
(d-1):メタクリル酸n-ドデシル
(d-2):メタクリル酸n-ヘキサデシルとメタクリル酸n-オクタデシルとの重量比7/3の混合物
(e-1):メタクリル酸2-n-デシルテトラデシル
(e-2):メタクリル酸2-n-ドデシルヘキサデシルとメタクリル酸2-n-テトラデシルオクタデシルとの重量比1/1混合物
(f-1):N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート
(f-2):N-(N’,N’-ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド
(f-3):N-ビニルピロリドン
(g-1):2-ヒドロキシエチルメタクリレート
(h-1):メタクリロイロキシエチルホスフェート
(i-1):スチレン
【0092】
【表2】
[図:0001404767000023.jpg]
【表3】
[図:0001404767000024.jpg]
【0093】
<実施例14~26、比較例18~23>
長期負荷下でのせん断安定性(長期使用安定性)が良好であった潤滑油組成物(V-1)~(V-13)と、比較の潤滑油組成物(V’-2)、(V’-3)、(V’-5)、(V’-10)、(V’-15)及び(V’-16)について、せん断安定性、40℃動粘度、100℃動粘度、粘度指数、低温粘度(-40℃)を以下の方法で測定した。結果を表4に示す。
【0094】
【表4】
[図:0001404767000025.jpg]
【0095】
<潤滑油組成物の動粘度の測定法および粘度指数の計算方法>
ASTM D 445の方法で40℃と100℃の動粘度を測定し、ASTM D 2270の方法で計算した。
【0096】
<潤滑油組成物のせん断安定性の計算方法>
せん断安定性の計算はJASO M347-2007の方法で計算した。
【0097】
<潤滑油組成物の低温粘度(-40℃)の測定方法>
ASTM D 2983の方法により、-40℃で測定した。
【0098】
表2~4の結果から明らかなように、本発明の粘度指数向上剤を含有してなる潤滑油組成物(実施例14~26)は、せん断安定性と粘度指数のバランスに優れ、同時に低温粘度も9,000mPa・s以下と十分に低いことがわかる。たとえば、実施例14と比較例18を比べたときに、せん断安定性がほぼ同等であるのに対し、粘度指数が大きく向上している。また、実施例18と比較例18、19を比べたとき、粘度指数はほぼ同等であるが、せん断安定性が大きく改善していることがわかる。
一方、比較例1~23の粘度指数向上剤を含有してなる潤滑油組成物は、せん断安定性と粘度指数のバランスが悪く、低温粘度、長期負荷下でのせん断安定性のうち、少なくとも1つが劣ることがわかる。」
ウ 検討
当初明細書等には、本件発明が解決しようとする課題が、「粘度指数向上効果に優れ、使用時のせん断による粘度低下が少なく、かつ長期間使用時にせん断による析出物の生成のない粘度指数向上剤及び潤滑油組成物を提供すること」(段落【0004】)であることや、当該課題を解決するための手段が「下記一般式(1)で表される数平均分子量が800~4,000である単量体(a)を必須構成単量体として含有する共重合体(A)を含む粘度指数向上剤であって、共重合体(A)の溶解性パラメーターの範囲が9.00~9.40である粘度指数向上剤」(段落【0005】)であること等が記載されている。また、当初明細書等には、「一般式(1)中のR2の一部または全量を構成するブタジエン由来の構造において、1,2-付加体と1,4-付加体のモル比率(1,2-付加体/1,4-付加体)は粘度指数向上効果および低温粘度の観点から、好ましくは5/95~95/5、更に好ましくは30/70~80/20、特に好ましくは40/60~70/30である」(段落【0024】)とも記載されている。
これらの記載事項に基づけば、当初明細書等には、共重合体(A)について、「共重合体(A)の溶解性パラメーターの範囲が9.00~9.40である」という事項を備えているか否か、及び、「一般式(1)中のR2の一部または全量を構成するブタジエン由来の構造において、1,2-付加体と1,4-付加体のモル比率(1,2-付加体/1,4-付加体)は40/60~70/30である」という事項を備えているか否かに応じて、4通りの態様が記載されていたといえる。
また、本件発明の共重合体(A)は、上記4通りの態様のうちの1つ(「共重合体(A)の溶解性パラメーターの範囲が9.00~9.40である」という事項を有さずに、「一般式(1)中のR2の一部または全量を構成するブタジエン由来の構造において、1,2-付加体と1,4-付加体のモル比率(1,2-付加体/1,4-付加体)は40/60~70/30である」という事項を有している態様)である。
そうすると、令和4年1月18日付けの手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められる。
申立人Aは、本件発明の態様が「粘度指数向上効果に優れ、使用時のせん断による粘度低下が少なく、かつ長期間使用時にせん断による析出物の生成のない粘度指数向上剤及び潤滑油組成物を提供する」という課題を解決することができることについては、本件特許の出願当初の明細書に記載がないと主張するが、上記アの判断手法に照らして、この点は、新規事項の判断に関係がない事項であるから、申立人Aの主張は、採用できない。また、申立人Aは、この点以外には何も主張していない。
エ 小括
したがって、申立理由1-1によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
(2)申立理由1-2(サポート要件)について
ア 判断手法
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである〔知財高裁、平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。
イ 本件特許明細書に記載されている事項
本件特許の明細書(以下、「本件特許明細書」ともいう。)に記載されている事項は、上記(1)イのとおり(本件特許に係る出願の審査において、明細書の補正が何もされていないので、本件特許明細書の記載と、願書に最初に添付した明細書の記載は一致する。)である。
ウ 本件発明が解決しようとする課題
本件発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落【0004】の記載によれば、「粘度指数向上効果に優れ、使用時のせん断による粘度低下が少なく、かつ長期間使用時にせん断による析出物の生成のない粘度指数向上剤及び潤滑油組成物を提供すること」であると認められる。
エ 検討
本件発明1は、単量体(a)を必須構成単量体として含有する共重合体(A)を含有する粘度指数向上剤の発明であり、単量体(a)について、共重合体(A)の構成単位として共重合体(A)の重量に基づいて単量体(a)を15重量%超、50重量%未満含有すること、下記一般式(1)で表されるものであること、及び、数平均分子量が800~4,000であることの3つの特定がされているものである。
これに対し、本件特許明細書には、上記3つの特定を充足する本件発明の具体的な態様である実施例(実施例1~実施例13。段落【0086】~【0098】)が、13例記載されている。また、これらの実施例は、その単量体(a)について3種類の化学構造式のものが用いられ、単量体(a)以外の単量体の種類と含有割合についても様々に変更されたものとなっている。そうすると、本件発明1の範囲に含まれるその他の態様においても(したがって、本件発明1の範囲に含まれる全ての態様において)、その課題を解決することができるものであると推認できる。また、本件発明1に該当するにもかかわらずその課題を解決することが出来ない態様が本件発明1の範囲内に含まれていることを裏付ける具体的な記載や技術常識などは何もない。
申立人Aは、本件特許の明細書には、SP値が、9.00~9.40(cal/cm3)1/2である共重合体(A)を含有する粘度指数向上剤とすることで課題を解決することができることが記載されているのみであって、SP値が9.00未満や9.40超である共重合体を含有する粘度指数向上剤であっても課題を解決することができると当業者が理解することができる記載は一切ない等と主張する。
この主張は、本件発明の範囲内にSP値が9.00未満や9.40超である態様が含まれていることを前提とするものであるが、そのような態様が含まれていることについて、申立人Aは、なんら立証していない。そうすると、申立人Aの主張は、そもそもその前提において成り立たっていない。
また、本件特許明細書の記載に基づいて、本件発明の範囲に含まれる全ての態様において、その課題を解決することができるものであると推認できることは、上述のとおりである。
したがって、申立人Aの主張は、採用できない。
オ 小括
したがって、申立理由1-2によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
(3)申立理由1-3(実施可能要件)について
ア 判断手法
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明の記載について、「経済産業省令で定めるところにより、その発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」、でなければならないと定めている。そして、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることである。また、明細書の記載が実施可能要件を満たすと言えるためには、明細書にその物を生産する方法及び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を作ることができ、かつ、その物を使用できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。また、「使用できる」といえるためには、特許発明に係る物について、例えば、発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることができることを要するというべきである。
イ 明細書の記載
本件特許明細書には、上記(1)イに摘記した事項が記載されている。
ウ 検討
本件発明1は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載されているとおりの、共重合体(A)を含む粘度指数向上剤である。また、共重合体(A)の化学構造式は、「一般式(1)で表される数平均分子量が800~4,000である単量体(a)を必須構成単量体として含有する」、及び、「共重合体(A)の構成単位として共重合体(A)の重量に基づいて単量体(a)を15重量%超、50重量%未満含有する」と特定されているものであって、化学の通常の知識を有する者であれば、本件特許明細書に何も説明が記載されていなくても合成することができると認められるし、共重合体(A)を粘度指数向上剤として使用する方法についても、当業者であれば熟知していると認められる。
したがって、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2、4~12は、本件特許明細書の記載により、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであると認められる。
申立人Aは、本件特許発明には、発明の課題を解決するための手段が反映されていないことから、当業者であっても、本件特許発明の粘度指数向上剤を製造することができるとはいえないと主張するが、特許法第36条第4項第1号は、特許請求の範囲に、発明の課題を解決するための手段が反映されているか否かを問うものではなく、その判断手法は、上記アのとおりである。
したがって、当該主張は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすか否かとは関係がないから、採用できない。
エ 小括
したがって、申立理由1-3によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
(4)申立理由1-4(明確性要件)について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2には「下記計算式(1)で算出される単量体(a)の繰返し単位1個当たりの共重合体セグメントの分子量が2,500~11,000である請求項1に記載の粘度指数向上剤。」(計算式(1)とその説明の記載を省略)と記載され、請求項2を引用する請求項4には、「共重合体(A)の重量平均分子量が5,000~2,000,000である請求項1又は2に記載の粘度指数向上剤。」と記載されている。
そうすると、請求項2の「分子量」は、「重量平均分子量」であると合理的に解することができるから、請求項2の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
したがって、申立理由1-4によって、本件特許の請求項2及び請求項2を直接又は間接的に引用する請求項4~12の発明の特許を取り消すべきものとすることはできない。
(5)申立理由2-1-1について
申立理由2-1-1は、甲第1号証(国際公開第2007/003238号)を主として引用する刊行物等とするものである。
また、上記第4の5(2)のとおり、甲第1号証に対応する国内公表公報であって、甲第1号証と同一の事項が記載されている甲1(特表2008-546894号公報)に記載された発明(甲1発明)と本件発明1とを対比すると、相違点1において相違しているので、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないし、甲第1号証に記載された発明でもない。
また、本件発明4~5、7、9、11、12発明は、本件発明1を引用し、さらに限定した発明に対応するから、本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明ではない。
したがって、申立理由2-1-1によって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、4~5、7、9、11、12に係る発明の特許を取り消すべきものとすることはできない。
(6)申立理由2-1-2、及び、申立理由2-2のうち甲第2号証を主として引用する刊行物等とするものについて
ア 甲第2号証の記載事項 甲第2号証(国際公開第2009/007147号)には以下の事項が記載されている。なお、原文は外国語で記載されているので、その翻訳として、甲第2号証に対応する国内公表公報である甲第2-1号証(特表2010-532805号公報)を採用し、その記載事項と記載箇所を示す。
「【請求項1】
主鎖中に、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位と、8~17個の炭素原子を有するスチレンモノマー、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有するアルキル(メタ)アクリレート、アシル基中に1~11個の炭素原子を有するビニルエステル、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有するビニルエーテル、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有する(ジ)アルキルフマレート、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有する(ジ)アルキルマレエート、およびこれらのモノマーの混合物からなる群から選択される低分子モノマーに由来する繰り返し単位と、を含む櫛形ポリマーであって、モル分岐度が0.1~10モル%の範囲内であり、前記繰り返し単位の質量に対して、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位と、8~17個の炭素原子を有するスチレンモノマー、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有するアルキル(メタ)アクリレート、アシル基中に1~11個の炭素原子を有するビニルエステル、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有するビニルエーテル、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有する(ジ)アルキルフマレート、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有する(ジ)アルキルマレエート、およびこれらのモノマーの混合物からなる群から選択される低分子モノマーに由来する繰り返し単位と、を合計少なくとも80質量%含む櫛形ポリマーを、車両の燃料消費量を減少させるために用いる使用。
【請求項2】
前記モル分岐度が0.3~3.6の範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
主鎖中に、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位と、8~17個の炭素原子を有するスチレンモノマー、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有するアルキル(メタ)アクリレート、アシル基中に1~11個の炭素原子を有するビニルエステル、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有するビニルエーテル、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有する(ジ)アルキルフマレート、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有する(ジ)アルキルマレエート、およびこれらのモノマーの混合物からなる群から選択される低分子モノマーに由来する繰り返し単位と、を含む櫛形ポリマーであって、前記櫛形ポリマーは、前記繰り返し単位の質量に対して、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位と、8~17個の炭素原子を有するスチレンモノマー、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有するアルキル(メタ)アクリレート、アシル基中に1~11個の炭素原子を有するビニルエステル、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有するビニルエーテル、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有する(ジ)アルキルフマレート、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有する(ジ)アルキルマレエート、およびこれらのモノマーの混合物からなる群から選択される低分子モノマーに由来する繰り返し単位と、を合計少なくとも80質量%含み、前記櫛形ポリマーがポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位8~30質量%を有することと、前記櫛形ポリマーのモル分岐度が0.3%~1.1%の範囲内であることとを特徴とする、櫛形ポリマー。
【請求項4】
前記櫛形ポリマーが、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位を11~26質量%有することを特徴とする、請求項3に記載の櫛形ポリマー。
【請求項5】
前記ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位が、700~10000g/モルの範囲内の数平均分子量を有することを特徴とする、請求項3または4に記載の櫛形ポリマー。
・・・
【請求項10】
前記ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位が、C2~C10-アルケンおよび/またはC4~C10-アルカジエンからなる群から選択されるモノマーに由来する基を含むことを特徴とする、請求項3から9までのいずれか1項に記載の櫛形ポリマー。
【請求項11】
前記ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位が、前記ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位の質量に対して、C2~C10-アルケンおよび/またはC4~C10-アルカジエンからなる群から選択されるモノマーに由来する基を少なくとも80質量%含むことを特徴とする、請求項10に記載の櫛形ポリマー。
・・・
【請求項18】
前記櫛形ポリマーが、100000~500000g/モルの範囲内の質量平均分子量を有することを特徴とする、請求項3から17までのいずれか1項に記載の櫛形ポリマー。
・・・
【請求項22】
請求項3から20までのいずれか1項に記載の櫛形ポリマーを含む、潤滑油配合物。
【請求項23】
前記潤滑油配合物が、APIのI、II、III、IV、および/またはV群のベースオイルを含むことを特徴とする、請求項22に記載の潤滑油配合物。
【請求項24】
ASTM D2603 Ref.BによるPSSIが35以下であることを特徴とする、請求項22および23のいずれか1項に記載の潤滑油配合物。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料消費量を減少させるための櫛形ポリマーの使用に関する。本発明は、さらに、特性が改善された櫛形ポリマーと、その製造および使用も記載している。
【0002】
車両の燃料消費量を減少させることは、さまざまな理由からますます重要になりつつある。車両自体の多くの構造改善に加え、潤滑剤、例えばエンジンオイルおよびトランスミッションオイルによって生じる攪拌損失を最小限に抑える努力も始められている。
【0003】
燃料節約型エンジンオイル配合物が、良好なVI(粘度指数)特性を特色とすることが公知である。したがって、一方では、摩耗の最小化につながる破壊されない厚い潤滑膜を得るために、高温で十分に高い粘度を生じるべきである。一方、エンジンオイルの内部摩擦を最小化することによって燃料消費量を減少させるためには、低温での非常に低い粘度が望ましい。低温で比較的低い粘度を有するが、高温で使用することができるエンジンオイルは、多くの場合、低燃費オイルと称される。」
「【0022】
本発明の櫛形ポリマーは、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位を含む。ポリオレフィンベースのマクロモノマーは、当該技術分野において公知である。これらの繰り返し単位は、ポリオレフィンに由来する少なくとも1つの基を含む。ポリオレフィンは当該技術分野において公知であり、炭素および水素の元素からなるアルケンおよび/またはアルカジエン、例えばC2~C10-アルケン、例えばエチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブテン、ノルボルネンなど、および/またはC4~C10-アルカジエン、例えばブタジエン、イソプレン、ノルボルナジエンなどを重合することによって得ることができる。ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位は、アルケンおよび/またはアルカジエンに由来する基を、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位の質量に対して、好ましくは少なくとも70質量%、より好ましくは少なくとも80質量%、最も好ましくは少なくとも90質量%含む。ポリオレフィン基は、特に、水素化された形でも存在しうる。アルケンおよび/またはアルカジエンに由来する基に加え、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位は、さらなる基を含みうる。これらには、小さい比率の共重合可能なモノマーが含まれる。これらのモノマーは自体公知であり、モノマーの中でも特に、アルキル(メタ)アクリレート、スチレンモノマー、フマレート、マレエート、ビニルエステル、および/またはビニルエーテルを含む。共重合可能なモノマーに基づくこれらの基の比率は、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位の質量に対して、好ましくは最大で30質量%、より好ましくは最大で15質量%である。さらに、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位は、官能化に役立つか、あるいはポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位の製造によって生じる、出発基および/または末端基を含んでもよい。これらの出発基および/または末端基の比率は、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位の質量に対して、好ましくは最大で30質量%、より好ましくは最大で15質量%である。」
「【0064】
本発明によって使用可能なマクロモノマーは、ちょうど1つの二重結合を有し、これは好ましくは末端二重結合である。
【0065】
二重結合は、マクロモノマーの製造の結果として存在しうる。例えば、イソブチレンのカチオン性重合は、末端二重結合を有するポリイソブチレン(PIB)を形成する。
【0066】
さらに、官能化されたポリオレフィン基は、適切な反応によって、マクロモノマーに変換することができる。
【0067】
例えば、ポリオレフィンに基づくマクロアルコールおよび/またはマクロアミンには、少なくとも1つの不飽和エステル基を有する低分子モノマー、例えばメチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートとのエステル交換またはアミノリシスを行なってもよい。
【0068】
このエステル交換は周知である。例えば、不均一触媒系、例えば水酸化リチウム/酸化カルシウム混合物(LiOH/CaO)、純粋な水酸化リチウム(LiOH)、リチウムメトキシド(LiOMe)、またはナトリウムメトキシド(NaOMe)など、あるいは均一触媒系、例えばチタン酸イソプロピル(Ti(OiPr)4)またはジオクチルスズオキサイド(Sn(Oct)2O)などをこの目的で使用することができる。反応は平衡反応である。遊離した低分子アルコールは、したがって、例えば蒸留によって、典型的には除去される。
【0069】
さらに、これらのマクロモノマーは、例えば、好ましくはp-トルエンスルホン酸またはメタンスルホン酸による酸性触媒反応を用いて、メタクリル酸またはメタクリル酸無水物から出発して、あるいはDCC法(ジシクロヘキシルカルボジイミド)により遊離メタクリル酸から出発して、直接エステル化または直接アミド化によって得ることができる。
【0070】
さらに、本アルコールまたはアミドは、酸塩化物、例えば塩化(メタ)アクリロイルなどとの反応によって、マクロモノマーに変換することができる。
【0071】
さらに、カチオン重合されたPIB中に形成する末端PIB二重結合の無水マレイン酸との反応(エン反応)、およびα,ω-アミノアルコールとの後続反応によって、マクロアルコールを製造することも可能である。
【0072】
さらに、適切なマクロモノマーは、末端PIB二重結合をメタクリル酸と反応させることによって、あるいはスチレンへのPIB二重結合のフリーデル・クラフツアルキル化によって得ることができる。
【0073】
上記に詳述したマクロモノマーの製造において、重合阻害剤、例えば4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンオキシル基、またはハイドロキノンモノメチルエーテルの使用が好ましい。
【0074】
ポリオレフィンに基づく、上記に詳述した反応に使用するマクロアルコールおよび/またはマクロアミンは、公知の手段で製造することができる。さらに、これらのマクロアルコールおよび/またはマクロアミンのうちのいくつかは市販されている。
【0075】
市販のマクロアミンには、例えば、Kerocom(登録商標)PIBA 03がある。Kerocom(登録商標)PIBA 03は、約75質量%程度までNH2官能化された、Mn=1000g/モルのポリイソブチレン(PIB)であり、脂肪族炭化水素中の約65質量%の濃縮物として、BASF AG(ドイツ国ルートヴィヒスハーフェン)により提供される。
【0076】
さらなる製品は、Kraton Liquid(登録商標)L-1203であり、これは約98質量%程度までOH官能化された水素化ポリブタジエンであり(オレフィンコポリマーOCPとしても公知である)、Mn=4200g/モルの1,2繰り返し単位と1,4繰り返し単位とをそれぞれ約50%有する、Kraton Polymers GmbH(ドイツ国エッシュボルン)の製品である。」
「【0130】
下記において、実施例および比較例を参照しながら本発明を詳細に説明するが、これにより限定することは意図しない。
【0131】
櫛形ポリマーの合成
実施例1~5および比較例1~3
4口フラスコと精密ガラスサーベル撹拌機を備える装置に、まず、第1表に組成を示す低分子モノマーの混合物とマクロモノマーとの混合物600gと、Shell Risella 907ガスオイルと100Nオイル35gとの混合物(65%/35%)400gとを装入する。窒素下で115℃まで加熱したあと、2,2-ビス-tert-ブチルペルオキシブタン1.2gを添加し、温度を維持する。開始剤の最初の添加の3時間後および6時間後に、新たに2,2-ビス-tert-ブチルペルオキシブタン1.2gをそれぞれ供給し、混合物を115℃で一晩攪拌する。翌日、150Nオイル500gで混合物を固形分60%から40%に希釈する。鉱物油中の櫛形ポリマーの40%溶液1500gが得られる。
【0132】
第1表
【表1】
[図:0001404767000026.jpg]
【0133】
第1表中:
hPBDMM4800:CrayValley(フランス国パリ)の水素化ポリブタジエンであり、Mn=4800g/モル、TM=-25℃、およびfMMの範囲90~95%(マクロモノマー)
nBMA:n-ブチルメタクリレート
Sty:スチレン
LMA:アルコール基中に12~14個の炭素原子を有するアルキルメタクリレート混合物
MMA:メチルメタクリレート
【0134】
マクロモノマーのマクロモノマー官能度fMMは、WO2007/025837に詳述されているように、櫛形ポリマー自体のGPC曲線から得た。
【0135】
分子量および多分散性指数PDIは、WO2007/025837に詳述されているように、GPCを用いて測定した。
【0136】
第1表(続き)
【表2】
[図:0001404767000027.jpg]
【0137】
櫛形ポリマーの評価
A)APIのI/III群オイルに基づく、DIパッケージを含むOW-20ベースオイルにおいて:
得られた櫛形ポリマー添加剤は、ASTM D445による40℃および100℃での動粘度(KV40およびKV100)、ASTM D5292に従って測定したCCS粘度、およびASTM D4683に従って100℃で測定した高温高せん断粘度HTHS100によって、150℃での高温高せん断粘度HTHS150=2.6mPasを有する(ASTM D4683)、DIパッケージ含有OW-20ベースオイル中の溶液(KV40=23.45mm2/s、KV100=4.92mm2/s、VI=138)と特徴付けられた。
【0138】
本発明の櫛形ポリマーが著しく低いKV40(および同様に低いKV100)、および100℃での低い高温高せん断粘度HTHS100を有し、EP0699694の広報に詳述されているポリマーもそうであることが明らかに示されている。類似する結果は、-35℃でのCCS粘度に関しても得られる。詳細な評価の結果は、第2表に示す。
【0139】
比較のために、市販のVI向上剤を追加的に検討した。この目的で、市販のInfineum SV200(HSD星型ポリマー)とViscoplex(登録商標)6-950(RohMax Additives GmbHから市販される直鎖PAMA)を用いて、エンジンオイル配合物を作製した。これらの結果は、同様に第2表に示す。
【0140】
第2表
【表3】
[図:0001404767000028.jpg]
【0141】
さらに、実施例1~5の櫛形ポリマーを含む潤滑油組成物のせん断安定性を検討した。この目的で、DIN 51382(Boschポンプ30サイクル)に従ってPSSI測定を実施したが、全ての潤滑油が0の優れたPSSI値を達成した(すなわち、これらの製品はKV100の低下を全く示さなかった)。この結果、驚くべきことに、高温、例えば100℃での粘度値について上記に詳述した規格のものに比較的近いままで、使用時の値がこれらの値よりも低くならない、潤滑油組成物を提供することが可能である。」
イ 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証(以下、「甲2」ともいう。)には、櫛形ポリマーを車両の燃料消費量を減少させるために用いる使用の発明(請求項1)、櫛形ポリマーを含む潤滑油配合物の発明(請求項22)、及び、燃料節約型エンジンオイル配合物が、良好なVI(粘度指数)特性を特色とすることが公知であること(段落【0003】)が記載されていることから、当該櫛形ポリマーを含有する粘度指数向上剤も記載されているといえる。そこで、櫛形ポリマーとして、請求項3を引用する請求項4を引用する請求項5を引用する請求項10を引用する請求項11を引用するものに着目して整理すると、以下の発明(以下、「甲2発明」ともいう。)が記載されていると認められる。
「主鎖中に、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位と、
8~17個の炭素原子を有するスチレンモノマー、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有するアルキル(メタ)アクリレート、アシル基中に1~11個の炭素原子を有するビニルエステル、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有するビニルエーテル、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有する(ジ)アルキルフマレート、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有する(ジ)アルキルマレエート、およびこれらのモノマーの混合物からなる群から選択される低分子モノマーに由来する繰り返し単位と、
を含む櫛形ポリマーであって、
モル分岐度が0.1~10モル%の範囲内であり、
前記繰り返し単位の質量に対して、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位と、8~17個の炭素原子を有するスチレンモノマー、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有するアルキル(メタ)アクリレート、アシル基中に1~11個の炭素原子を有するビニルエステル、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有するビニルエーテル、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有する(ジ)アルキルフマレート、アルコール基中に1~10個の炭素原子を有する(ジ)アルキルマレエート、およびこれらのモノマーの混合物からなる群から選択される低分子モノマーに由来する繰り返し単位と、を合計少なくとも80質量%含む櫛形ポリマーであって、
前記櫛形ポリマーが、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位を11~26質量%有し、
前記ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位が、700~10000g/モルの範囲内の数平均分子量を有し、
前記ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位が、前記ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位の質量に対して、C2~C10-アルケンおよび/またはC4~C10-アルカジエンからなる群から選択されるモノマーに由来する基を少なくとも80質量%含む、
櫛形ポリマーを含有する粘度指数向上剤。」
ウ 本件発明1について
(ア)対比
甲2発明の「ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位」は、本件発明1の「単量体(a)」に対応する。
甲2発明の「ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位」は、その数平均分子量について、「700~10000g/モルの範囲内の数平均分子量を有し」と特定されているから、本件発明1の「単量体(a)」とその数平均分子量の範囲が800~4000g/モルの範囲で重複一致する。
甲2発明の「櫛形ポリマー」は、「ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位」の含有割合について、「11~26質量%有し」と特定されているのに対し、本件発明1の「共重合体(A)」は、「単量体(a)」の含有割合について「共重合体(A)の構成単位として共重合体(A)の重量に基づいて単量体(a)を15重量%超、50重量%未満含有する」と特定されているから、両者は、「15~26重量%」の範囲で重複一致する。
甲2発明の「ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位」は、その化学構造について、「前記ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位が、前記ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位の質量に対して、C2~C10-アルケンおよび/またはC4~C10-アルカジエンからなる群から選択されるモノマーに由来する基を少なくとも80質量%含む」と特定されているから、C4-アルカジエン(ブタジエン)に由来する基を少なくとも80質量%含む場合を包含している。
また、本件発明1の「単量体(a)」は、「R2の重量に基づいてブタジエンの比率が50重量%以上である炭化水素重合体から水素原子を1つ除いた残基」を含む場合を包含している。
したがって、甲2発明の「ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位」と本件発明1の「単量体(a)」は、その化学構造に「R2の重量に基づいてブタジエンの比率が50重量%以上である炭化水素重合体から水素原子を1つ除いた残基」を含んでいる場合がある点で重複一致する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「特定の数平均分子量を有する単量体(a)を必須構成単量体として含有する共重合体(A)を含む粘度指数向上剤であって、前記共重合体(A)の構成単位として該共重合体の重量に基づいて前記単量体(a)を特定の割合で含有し、
前記単量体(a)は、特定の基を含む、粘度指数向上剤。」である点で重複一致し、以下の点で相違する。
<相違点2>
「前記単量体(a)は、特定の基を含む」について、本件発明1の「単量体(a)」は、その化学構造式が「一般式(1)で表される」(一般式(1)とその説明の記載を省略する。以下、同様。)と特定されているので、アクリレート又はメタクリレートのエステルに特定され、かつ、「R2の重量に基づいてブタジエンの比率が50重量%以上である炭化水素重合体又はその炭化水素重合体の少なくとも一部が水素化された重合体から水素原子を1つ除いた残基」、「一般式(1)中のR2の一部または全量を構成するブタジエン由来の構造において、1,2-付加体と1,4-付加体のモル比率(1,2-付加体/1,4-付加体)は40/60~70/30である。」を備えるものであることが特定され、かつ、マレイミド環構造を備えてもよいものであることが特定され、かつ、「-O-、-O(AO)m-又は-NH-で表される基であって、AOは炭素数2~4のアルキレンオキシ基であり、mは1~10の整数であり、mが2以上の場合のAOは同一でも異なっていてもよく、(AO)m部分はランダム結合でもブロック結合でもよい」を備えるものであることが特定されているのに対し、甲2発明の「ポリオレフィン-ベースのマクロモノマー」は、「前記ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位が、前記ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位の質量に対して、C2~C10-アルケンおよび/またはC4~C10-アルカジエンからなる群から選択されるモノマーに由来する基を少なくとも80質量%含む」と特定されているだけなので、アクリレート又はメタクリレートのエステルに特定されず、かつ、「R2の重量に基づいてブタジエンの比率が50重量%以上である炭化水素重合体又はその炭化水素重合体の少なくとも一部が水素化された重合体から水素原子を1つ除いた残基」、「一般式(1)中のR2の一部または全量を構成するブタジエン由来の構造において、1,2-付加体と1,4-付加体のモル比率(1,2-付加体/1,4-付加体)は40/60~70/30である。」を備えるものに特定されず、かつ、マレイミド環構造を備えてもよいものに特定されず、かつ、「-O-、-O(AO)m-又は-NH-で表される基であって、AOは炭素数2~4のアルキレンオキシ基であり、mは1~10の整数であり、mが2以上の場合のAOは同一でも異なっていてもよく、(AO)m部分はランダム結合でもブロック結合でもよい」という構造を備えるものにも特定されていない点
<相違点3>
「特定の数平均分子量」について、本件発明1の「単量体(a)」は、「数平均分子量が800~4,000である」と特定されているのに対して、甲2発明の「ポリオレフィン-ベースのマクロモノマー」は、「700~10000g/モルの範囲内の数平均分子量を有し」と特定されている点
<相違点4>
「前記単量体(a)を特定の割合で含有し」について、本件発明1の「単量体(a)」は、「共重合体(A)の構成単位として共重合体(A)の重量に基づいて単量体(a)を15重量%超、50重量%未満含有する」と特定されているのに対して、甲2発明の「ポリオレフィン-ベースのマクロモノマー」は、「前記櫛形ポリマーが、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位を11~26質量%有し」と特定されている点(イ)判断
a 相違点2について
甲2には、甲2発明の「ポリオレフィン-ベースのマクロモノマー」について、「ポリオレフィンベースのマクロモノマーは、当該技術分野において公知である。これらの繰り返し単位は、ポリオレフィンに由来する少なくとも1つの基を含む。ポリオレフィンは当該技術分野において公知であり、炭素および水素の元素からなるアルケンおよび/またはアルカジエン、例えばC2~C10-アルケン、例えばエチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブテン、ノルボルネンなど、および/またはC4~C10-アルカジエン、例えばブタジエン、イソプレン、ノルボルナジエンなどを重合することによって得ることができる。」(段落【0022】)、「本発明によって使用可能なマクロモノマーは、ちょうど1つの二重結合を有し、これは好ましくは末端二重結合である。
二重結合は、マクロモノマーの製造の結果として存在しうる。例えば、イソブチレンのカチオン性重合は、末端二重結合を有するポリイソブチレン(PIB)を形成する。
さらに、官能化されたポリオレフィン基は、適切な反応によって、マクロモノマーに変換することができる。
例えば、ポリオレフィンに基づくマクロアルコールおよび/またはマクロアミンには、少なくとも1つの不飽和エステル基を有する低分子モノマー、例えばメチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートとのエステル交換またはアミノリシスを行なってもよい。」(甲2の段落【0064】~【0067】)と記載されている。
そうすると、甲2発明の「ポリオレフィン-ベースのマクロモノマー」は、「ポリオレフィン-ベースのマクロモノマー」といえるもの(どのような化学構造を備えた物質がこれに該当するのか、その範囲が不明であるが)であれば、その化学構造を問わないものであって、特に好ましい物質の例示などもされていない。
そうすると、甲2発明において、「ポリオレフィン-ベースのマクロモノマー」の化学構造を特定しようとする動機付けが存在しないし、仮に動機付けられたとしても、「前記ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位が、前記ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位の質量に対して、C2~C10-アルケンおよび/またはC4~C10-アルカジエンからなる群から選択されるモノマーに由来する基を少なくとも80質量%含む」との特定に代えて、アクリレート又はメタクリレートのエステルに特定し、かつ、「R2の重量に基づいてブタジエンの比率が50重量%以上である炭化水素重合体又はその炭化水素重合体の少なくとも一部が水素化された重合体から水素原子を1つ除いた残基」、「一般式(1)中のR2の一部または全量を構成するブタジエン由来の構造において、1,2-付加体と1,4-付加体のモル比率(1,2-付加体/1,4-付加体)は40/60~70/30である。」を備えるものに特定し、かつ、マレイミド環構造を備えてもよいものに特定し、かつ、「-O-、-O(AO)m-又は-NH-で表される基であって、AOは炭素数2~4のアルキレンオキシ基であり、mは1~10の整数であり、mが2以上の場合のAOは同一でも異なっていてもよく、(AO)m部分はランダム結合でもブロック結合でもよい」を備えるものに特定して、一般式(1)で表されるものとすることを容易になし得たとはいえない。
b 相違点3、4について
甲2には、甲2発明の「ポリオレフィン-ベースのマクロモノマー」の数平均分子量を、「700~10000g/モルの範囲内」から、「800~4,000である」に変更することを動機付けるような記載や示唆はない。
また、甲2発明の「前記櫛形ポリマーが、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位を11~26質量%有し」についても、「15重量%超、50重量%未満含有する」に変更することを動機付けるような記載や示唆はない。
c 効果について
本件発明1は、「粘度指数が高く、使用時のせん断による粘度低下が少なく、かつ長期間使用時にせん断による析出物の生成がないため長期使用時の安定性に優れ」「また低温時の粘度を上昇させにくい」(段落【0008】)というものであり、具体的には、せん断安定性を10.6に押さえつつ粘度指数265を達成し(実施例14)、また、粘度指数235を達成しつつせん断安定性が3.1と優れている(実施例18)ものである。
(ウ)まとめ
よって、本件発明1は、甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件発明2、4~12について
本件発明2、4~12は、本件発明1を直接又は間接的に引用しさらに限定した発明であるから、これらの発明と甲2発明を対比すると、上記(2)アの一致点で一致し、少なくとも、相違点2~4で相違する。また、相違点2~4については、上記(2)イのとおりである。
また、引用例4、5、及び、申立人A、Bが提出したその余の証拠を見ても、相違点2~4について動機付けとなるような記載も示唆もない。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件発明2、4~12についても、本件発明1と同じ理由により、甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
オ 小括
以上のとおりであるから、申立理由2-1-2、及び、申立理由2-2のうち甲第2号証を主として引用する刊行物等とするものによって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
(7)申立理由2-2のうち甲第3号証を主として引用する刊行物等とするものについて
甲3には、その実施例1に、「1分子あたり約2個の末端ヒドロキシル基を有し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により決定したピーク分子量が2900であり、核磁気共鳴(NMR)技術により決定した1,2-付加が40%である直鎖状水素化ブタジエンポリマー」を製造したこと、このポリマーを他のポリマーを製造するために使用することができること、このポリマーは粘度において有利な特性を有していることなどが記載されている。
このポリマーは、その化学構造からみて、本件発明1の単量体(a)の一般式中のR2に対応しうるが、甲3には、このポリマーを他のポリマーを製造するために使用することができることが記載されているだけであるから、当該他のポリマーとしては、このポリマーの「2個の末端ヒドロキシル基」を反応させて得られるポリカーボネートやポリウレタンも想定できる。また、「粘度において有利な特性」は、このポリマーの特性であるから、このポリマーを原料として得た他のポリマーの特性ではないし、他のポリマーの用途については甲3には何も記載がない。
申立人Bは、「当業者であれば、甲第3号証の記載に基づいて、末端官能基を有する水素化ブタジエンポリマーと、その他の単量体を適宜用いて共重合体を製造することは容易に想到できたことである。また、そのようにして得られた共重合体は粘度が低く、たとえば、甲第1号証や甲第2号証に記載されているような潤滑剤組成物における粘度指数向上剤として使用できることも当業者が容易に想到できたことである。」と主張するが、上述のとおり、末端官能基を有する水素化ブタジエンポリマーは、本件発明1の単量体(a)ではなく、単量体(a)の一般式中のR2に対応しうるものであるから、その共重合体が、本件発明1の共重合体(A)に相当するものになることはありえない。また、末端官能基を有する水素化ブタジエンポリマーの粘度に関する記載はあるが、このポリマーを使用して得た他のポリマー物性や用途については記載も示唆もない。
申立人Bの主張は、いわゆる後知恵であり、採用できない。
以上のとおりであるから、申立理由2-2のうち甲第3号証を主として引用する刊行物等とするものによって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
(8)申立理由2-3(サポート要件)について
申立理由2-3は、実質的に、申立理由1-2と同じものである。また、申立理由1-2は、上記(2)のとおり、採用することができないものである。そうすると、申立理由2-3も、申立理由1-2と同様の理由で採用することができず、したがって、申立理由2-3によって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2、4~12に係る発明の特許を取り消すべきものとすることはできない。
(9)申立理由2-4(実施可能要件)について
上記(3)のとおり、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2、4~12は、本件特許明細書の記載により、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであると認められる。
また、申立人Bの主張は、比較例22、および比較例23の潤滑油組成物は、少なくとも本件特許発明1による構成要件を備えた粘度指数向上剤であることを前提とするものであるが、本件訂正により、比較例22、および比較例23の潤滑油組成物は、本件発明1に含まれないものとなった。そうすると、申立人Bの主張は、その前提において誤っており、さらに検討するまでもなく採用することができない。
したがって、申立理由2-4によって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2、4~12に係る発明の特許を取り消すべきものとすることはできない。
(10)申立理由2-5(明確性要件)について
請求項1の記載によれば、共重合体(A)における単量体(a)の割合、及び、単量体(a)以外の単量体がどのような単量体でどの程度使用されるのかについて、いかようでもよいものであると明確に理解できる。
したがって、請求項1の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
また、請求項2に対する申立理由は、実質的に、申立理由1-4と同じものであり、申立理由1-4は、上記(4)のとおり、採用することができないものであるから、申立理由1-4と同様の理由で採用することができない。
したがって、申立理由2-5によって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2、4~12に係る発明の特許を取り消すべきものとすることはできない。
(11)申立理由2-6(新規事項)について
申立理由2-6は、実質的に、申立理由1-1と同じものである。また、申立理由1-1は、上記(1)のとおり、採用することができないものである。そうすると、申立理由2-6も、申立理由1-1と同様の理由で採用することができない。
したがって、申立理由2-6によって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2、4~12に係る発明の特許を取り消すべきものとすることはできない。
第6 まとめ
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立の理由によっては、本件請求項1、2、4~12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件請求項3に係る特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700963