特許異議申立
2023-700283
中空スタビライザー用電縫鋼管及び中空スタビライザー、並びにそれらの製造方法
- 審判番号
- 2023-700283
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-512060
- 登録番号
- 7138779
- 請求日
- 2023年03月15日
- 審決日
- 2023年07月31日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本製鉄株式会社
- 【権利者代理人】棚井 澄雄
- 【権利者代理人】寺本 光生
- 【権利者代理人】勝俣 智夫
- 【権利者代理人】山口 洋
- 【権利者】日本発條株式会社
- 【権利者代理人】棚井 澄雄
- 【権利者代理人】寺本 光生
- 【権利者代理人】勝俣 智夫
- 【権利者代理人】山口 洋
- 【異議申立人】吉田 敦子
- 審判長/審判官
- 審判長 池渕 立
- 審判官 佐藤 陽一
- 審判官 山口 大志
- 分類
- P1651.121-Y (C22C) / P1651.536-Y (C22C) / P1651.537-Y (C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特許第7138779号発明「中空スタビライザー用電縫鋼管及び中空スタビライザー、並びにそれらの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7138779号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7138779号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、2020年(令和 2年) 3月27日(優先権主張 平成31年 3月29日、令和 2年 2月 6日)を国際出願日とする出願(特願2021-512060号。以下、「本願」という。)であって、令和 4年 9月 8日にその特許権の設定登録がなされ、同年 9月16日にその特許掲載公報が発行されたものである。その後、令和 5年 3月15日に、特許異議申立人 吉田 敦子(以下、「申立人」という。)により、本件特許の請求項1~10(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがなされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~10に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項1~10に記載された発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明10」という。また、これらを総称して「本件発明」という。)。
「【請求項1】
母材部と溶接部とからなる中空スタビライザー用電縫鋼管であって、
前記母材部が、化学成分として、質量%で、
C:0.30~0.38%、
Si:0.15~0.30%、
Mn:1.20~1.50%、
Al:0.020~0.060%、
Ti:0.020~0.050%、
B:0.0010~0.0050%、
Cr:0.10~0.25%、
Mo:0~0.20%、
Ca:0.0005~0.0050%、
Cu:0~0.25%、
Ni:0~0.25%、
V:0~0.05%、
N:0.0060%以下、
P:0.020%以下、
S:0.0100%以下、
O:0.0050%以下、
を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
前記母材部の肉厚が2.0~6.0mm、前記電縫鋼管の外径が10~40mmであり、
前記電縫鋼管のC方向断面において、
前記電縫鋼管の内面側の、前記溶接部を含む領域に凹形状のビードカットが存在し、
前記ビードカットの一方の開口縁からもう一方の開口縁へ最短距離で仮想線を引いたとき、前記仮想線から前記ビードカットの底までの最大深さが300μm以下であり、
前記母材部に含まれる最大介在物径が300μm以下であり、
前記電縫鋼管の前記母材部における、前記内面側の表面粗さが、最大谷深さRvで300μm以下であり、
前記溶接部を含む前記電縫鋼管の最高硬さが300Hv以下である、
中空スタビライザー用電縫鋼管。
【請求項2】
前記母材部の前記化学成分が、以下の式(1)を満たす、
請求項1に記載の中空スタビライザー用電縫鋼管。
Ca×(1-124×O)/(1.25×S)≧0.20 ...(1)
【請求項3】
前記母材部の前記化学成分が、
Cu:0.05~0.25%、
Ni:0.05~0.25%、
V:0.01~0.05%、
からなる群から選択される1種以上を含有する、
請求項1または2に記載の中空スタビライザー用電縫鋼管。
【請求項4】
前記母材部の金属組織が、面積率で、40%~60%のフェライトと、60%~40%のパーライトからなる、
請求項1~3のいずれか一項に記載の中空スタビライザー用電縫鋼管。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の中空スタビライザー用電縫鋼管を製造する方法であって、電気抵抗溶接によって成形された電縫鋼管を、800℃以上かつ1000℃以下に加熱した後に放冷する熱処理を行う、中空スタビライザー用電縫鋼管の製造方法。
【請求項6】
母材部と溶接部とからなる中空スタビライザーであって、
前記母材部が、化学成分として、質量%で、
C:0.30~0.38%、
Si:0.15~0.30%、
Mn:1.20~1.50%、
Al:0.020~0.060%、
Ti:0.020~0.050%、
B:0.0010~0.0050%、
Cr:0.10~0.25%、
Mo:0~0.20%、
Ca:0.0005~0.0050%、
Cu:0~0.25%、
Ni:0~0.25%、
V:0~0.05%、
N:0.0060%以下、
P:0.020%以下、
S:0.0100%以下、
O:0.0050%以下、
を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
前記母材部の肉厚が2.0~6.0mm、前記母材部の外径が10~40mmであり、
C方向断面において、
前記中空スタビライザーの中空部の内面側の、前記溶接部を含む領域に凹部が存在し、
前記溶接部の内面側の一方の端部からもう一方の端部へ最短距離で仮想線を引いたとき、前記仮想線から前記凹部の底までの最大深さが300μm以下であり、
前記母材部に含まれる最大介在物径が300μm以下であり、
前記母材部における、前記内面側の表面粗さが、最大谷深さRvで300μm以下であり、
表面硬さが455Hv以上である、
中空スタビライザー。
【請求項7】
前記母材部の前記化学成分が、以下の式(2)を満たす、
請求項6に記載の中空スタビライザー。
Ca×(1-124×O)/(1.25×S)≧0.20 ...(2)
【請求項8】
前記母材部の前記化学成分が、
Cu:0.05~0.25%、
Ni:0.05~0.25%、
V:0.01~0.05%、
からなる群から選択される1種以上を含有する、
請求項6または7に記載の中空スタビライザー。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか一項に記載の中空スタビライザーの製造方法であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載の中空スタビライザー用電縫鋼管を伸管する伸管工程と、
前記伸管工程後の前記電縫鋼管を、800℃~1000℃に加熱する熱処理工程と、
前記熱処理工程後の前記電縫鋼管を、中空スタビライザー形状に加工する加工工程と、
前記加工工程後の前記電縫鋼管を、900℃~1200℃に加熱した後、30℃/s以上の冷却速度で冷却する焼入れ工程と、
前記焼入れ工程後の前記電縫鋼管を、200~400℃に加熱する焼き戻し工程と、
を含む、中空スタビライザーの製造方法。
【請求項10】
請求項6~8のいずれか一項に記載の中空スタビライザーの製造方法であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載の中空スタビライザー用電縫鋼管を中空スタビライザー形状に加工する加工工程と、
前記加工工程後の前記電縫鋼管を、900℃~1200℃に加熱した後、30℃/s以上の冷却速度で冷却する焼入れ工程と、
前記焼入れ工程後の前記電縫鋼管を、200~400℃に加熱する焼き戻し工程と、
を含む、中空スタビライザーの製造方法。」
第3 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証~甲第15号証を提出し、以下の申立理由1~4により、本件特許の請求項1~10に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
1 申立理由1(進歩性)
本件発明1~5は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに甲第3号証~甲第11号証に記載された周知技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(進歩性)
本件発明6~10は、甲第14号証、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに甲第7号証~甲第11号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件発明1~10については、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 申立理由4(サポート要件)
本件発明1~10については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではないから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
5 証拠方法
・甲第1号証:国際公開第2018/079398号
・甲第2号証:国際公開第2017/056384号
・甲第3号証:特開2018-95899号公報
・甲第4号証:特開2015-147239号公報
・甲第5号証:特開2012-229457号公報
・甲第6号証:「第112・113回西山記念技術講座 鋼管の製造技術の現状と将来」、社団法人日本鉄鋼協会、昭和61年 5月 6日、p.87
・甲第7号証:特許第6225026号公報
・甲第8号証:「JISハンドブック 1 鉄鋼I」、一般財団法人日本規格協会、2017年 1月31日、p.1053、1056、1057、1079~1081
・甲第9号証:森猛、外3名、「鋼材の表面粗さパラメータと高力ボルト摩擦接合継手のすべり係数」、土木学会論文集A1(構造・地震工学)、2011年、第67巻、第2号、p.446-453
・甲第10号証:JIS B 0601:2013、一般財団法人日本規格協会、平成25年 3月21日、p.8~11
・甲第11号証:特開2003-193198号公報
・甲第12号証:特願2019-069150の出願書類
・甲第13号証:特願2020-019189の出願書類
・甲第14号証:特許第6631758号公報
・甲第15号証:特許第7138779号公報(本件特許公報)
第4 本願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)及び図面の記載事項
1 本件明細書には、以下の事項が記載されている。
(1)「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の課題に鑑みてなされた。本発明は、十分な加工性を有し、焼入れ焼戻し後の疲労強度に優れる中空スタビライザー用電縫鋼管、疲労強度に優れる中空スタビライザー、及びそれらの製造方法を提供することを課題とする。」
(2)「【0028】
Ca:0.0005~0.0050%
Caは、鋼管中の介在物を微細にし、疲労強度の向上に寄与する元素である。Ca含有量が0.0005%未満では、この効果が十分に得られない。そのため、Ca含有量を0.0005%以上とする。一方、Ca含有量が0.0050%を超えると、粗大な介在物が形成され、靭性や疲労強度が低下する。そのため、Ca含有量を0.0050%以下とする。好ましくは、0.0010~0.0030%である。」
(3)「【0038】
Ca×(1-124×O)/(1.25×S)≧0.20
本実施形態に係る電縫鋼管1では、それぞれの元素の含有量を上記の範囲に限定した上で、以下の式(1)で表されるESSP値が0.20以上であることが好ましい。
ESSP値=Ca×(1-124×O)/(1.25×S) ...(1)
ESSP値は、酸素と結合したCaを差し引いた残りのCa(有効Ca)に関する指標である。具体的には、CaがSと原子量比で結合することを前提に、S含有量に応じて必要とされる有効Ca量が存在するかどうかを示す指標である。
ESSPが0.20未満であると、O含有量及びS含有量に対してCa含有量が不足してMnSが生成しやすくなる。圧延で延伸したMnSは、疲労強度の低下や水素割れの起点となるとなるので、ESSPは0.20以上とすることが好ましい。」
(4)「【0039】
<ビードカットの最大深さ:300μm以下、好ましくは100μm以下>
通常、電縫鋼管は、一群の成形ロールにより鋼板を走行させながら筒状に成形してオープン管とし、オープン管とした鋼板の互いに突き合わせた板幅方向両端部を誘導加熱等による加熱によって溶融させて、その状態のまま一対のスクイズロールにより鋼板の板幅方向両端部を押圧することによって、その両端部同士を溶接して電気抵抗溶接部とすることで得られる。このとき、鋼板の板幅方向両端部間に形成された溶融金属の一部が外部に押し出されることにより、電縫鋼管の表面から突出する溶接ビードが溶接部に形成される。この溶接ビードは、後工程での加工不良の原因となる上、最終製品として用いられる電縫鋼管の外観劣化の原因となる。そのため、この溶接ビードは、切削冶具等によって切削される(ビードカット)。
そのため、図2A、図2Bに示すように、本実施形態に係る電縫鋼管1では、電縫鋼管1を管軸方向とは垂直な方向の断面(C断面)でみたとき、電縫鋼管1の内面側の、溶接部3を含む領域に凹形状のビードカット4が存在する。
【0040】
本発明者らの検討の結果、図3に示すように、溶接ビードが切削された後の溶接部の形状、特に電縫鋼管の内面側のビードカット深さは、加工性だけではなく、疲労強度に大きく影響することが新たに分かった。例えばビードカットで過度に溶接部を削ると、伸管後にビードカットが折れ込んでしまい、その折れ込み部からき裂が発生して早期破断することが分かった。
また、本発明者らがさらに検討を行った結果、ビードカット4の一方の開口縁5からもう一方の開口縁5へ最短距離で仮想線10を引いたとき、仮想線10からビードカット4の底までの最大深さ(言い換えれば、仮想線10に垂直な方向の、仮想線10から凹形状のビードカット4の底までの距離のうち、最大の値)であるビードカット深さdが300μmを超えると、伸管後に基準深さ以上の折れ込みが発生し、折れ込み部から疲労き裂が早期に発生・成長することで疲労強度が低下し、焼入れ焼戻し後に本実施形態における疲労強度の基準値である、疲労試験における破断までの負荷応力の繰り返し回数8万回に安定的に到達しないことが分かった。そのため、本実施形態に係る電縫鋼管1では、ビードカット4の一方の開口縁5からもう一方の開口縁5へ最短距離で仮想線10を引いたとき、仮想線10からビードカット4の底までの最大深さ(ビードカット深さd)を300μm以下とする。好ましくは100μm以下である。
伸管でビードカット深さは改善されるため、伸管後のビードカット折れ込みの基準である300μmを伸管前の鋼管のビードカット深さdの上限とした。伸管前のビードカット深さが300μm以下であれば、伸管後のビードカット深さは300μm以下となる。
本実施形態に係る電縫鋼管1では、ビードカット深さdの下限を定める必要はなく、小さいほど好ましい。
【0041】
上述のようなビードカット深さdは、電気抵抗溶接によって形成された溶接ビードを切削する際の切削バイトの位置を適切に設定することによって制御できる。
また、疲労破壊は主として内面側から発生するので、電縫鋼管1の外面側の溶接部3の形状については特に限定しないが、外観の向上のため、従来の電縫鋼管と同様に切削を行ってもよい。
【0042】
上述のビードカット深さdは、以下の方法で測定することができる。すなわち、溶接部横の最大肉厚と溶接部(衝合部)の肉厚をマイクロメーターで測定し、最大肉厚から溶接部の最も薄い部分の肉厚を引くことで測定する。」
(5)「【0043】
<鋼管の母材部における、内面側の表面粗さ:最大谷深さRvで300μm以下、好ましくは100μm以下>
上述した溶接部の形状を制御することで、鋼管内面の溶接部3を起点とする疲労破壊を抑制することができる。しかしながら、疲労破壊は、溶接部以外からも発生するので、溶接部の形状の制御だけでは、十分に疲労強度が向上しない。
本発明者らが検討した結果、図4に示すように、電縫鋼管1の内面側の母材部2における表面粗さが大きくなると疲労強度が低下することが分かった。
そのため、本実施形態に係る電縫鋼管1では、母材部2における、内面側の表面粗さをJISB0601:2013に規定された最大谷深さRvで300μm以下とする。内面側の表面(内表面)の最大谷深さRvが300μmを超えると、疲労き裂が早期に発生・成長することで疲労強度が低下し、焼入れ焼戻し後に本実施形態における疲労強度の基準値である繰り返し回数8万回を安定的に満足できない。表面の最大谷深さRvは、好ましくは100μm以下である。
上述のような最大谷深さRvは、スケール制御等のために圧延、酸洗等を適切に実施し、また、鋼材の製造時や輸送時などの搬送を適切に実施して腐食孔やキズを抑制することによって得られる。
【0044】
上述の鋼管の母材部2における内面側の表面粗さは、以下の方法で測定することができる。すなわち、接触式または非接触式の形状測定装置を用いて高さ分布を測定し、JISB0601:2013に準拠して表面粗さを算出する。」
(6)「【0045】
<母材部(鋼板)に含まれる最大介在物径:300μm以下>
本発明者らの検討の結果、上述したビードカット深さ、内面側の表面粗さを所定の範囲内に制御したとしても、図4に示すように、母材部2に含まれる最大介在物径が大きくなると、疲労強度が低下することが分かった。そのため、電縫鋼管の疲労強度の向上には、表面を起点とする疲労破壊だけでなく、鋼管に用いられる鋼板の内部に存在する介在物を起点とする疲労破壊を抑制する必要がある。
本実施形態に係る電縫鋼管1では、母材部2に含まれる最大介在物径を300μm以下とする。最大介在物径が300μmを超えると、疲労き裂は早期に発生・成長して疲労強度が低下し、焼入れ焼戻し後に本実施形態における疲労強度の基準値である繰り返し回数8万回に安定的に到達しない。好ましくは、最大介在物径は、100μm以下である。
【0046】
母材部2に含まれる最大介在物径は、以下の方法で測定することができる。
すなわち、鋼管断面を45°ピッチで光学顕微鏡およびSEMで観察し、発見された最大介在物の面積を測定し、測定された最大介在物面積と等しい面積を有する円の直径を最大介在物径とする。」
(7)「【0047】
<溶接部を含む電縫鋼管の最高硬さ:300Hv以下>
電縫鋼管は、例えば、中空スタビライザーとして使用される場合、冷間加工や熱処理に供される。そのため、冷間加工性も重要である。
溶接部3等において硬さが過剰に高くなると、加工時に割れが生じる場合がある。そのため、本実施形態に係る電縫鋼管1では、溶接部3及び母材部2における最高硬さを300Hv以下とする。
一方で、溶接部3における硬さが低くなりすぎると、疲労強度の低下や伸管不良を起こす場合がある。そのため、溶接部3の最高硬さは、母材部2の硬さ以上であることが好ましい。
溶接部3における最高硬さは、溶接後にノルマライジング等の熱処理を行うことによって制御できる。
【0048】
溶接部3及び母材部2における最高硬さは、以下の方法で測定することができる。すなわち、溶接部3の硬さは、衝合部を中心に左右に0.5mmピッチで±2.5mmまで測定する。また、母材部2の硬さは、溶接部(電縫溶接部)3から時計回りに90°、180°、270°位置において、肉厚方向に1/4肉厚、1/2肉厚、3/4肉厚について1点ずつ測定する。硬さ(ビッカース硬さ)の測定はJIS Z 2244:2009に準拠して行い、測定荷重は1kgf以下とする。
【0049】
本実施形態に係る電縫鋼管1では、母材部2の金属組織について限定されないが、一般に中空スタビライザーとして使用する際に求められる特性と、伸管不良を起こさない適切な硬さを満足するために、金属組織が面積率で、40%~60%のフェライトと、60%~40%のパーライトとからなることが好ましい。」
(8)「【0053】
<凹部の底までの最大深さが300μm以下、好ましくは100μm以下>
上述したように、電縫鋼管には、通常、内面側の、溶接部を含む領域に凹形状の溶接ビードが切削冶具等によって切削されて形成されたビードカットが存在する。そのため、電縫鋼管を、伸管して、または伸管せずに、スタビライザー形状に加工した中空スタビライザーの内面側では、ビードカットに起因する凹部が存在したり、または、伸管によってビードカットが折れ込んで形成される凹部が存在したりする場合がある。これらの凹部は中空スタビライザーの疲労強度を低下させる。
本実施形態に係る中空スタビライザーでは、ビードカットの最大深さが小さい電縫鋼管を用いて製造されるので、ビードカットに起因する凹部の深さが小さく、また、ビードカットの折れ込みが抑制される。そのため、凹部の最大深さが小さい。
具体的には、本実施形態に係る中空スタビライザーでは、中空部の中心軸方向とは垂直な方向の断面(C方向断面)でみたとき、中空スタビライザーの中空部の内面側の、溶接部を含む領域において、溶接部の内面側の一方の端部からもう一方の端部へ最短距離で仮想線を引いたとき、仮想線から前記凹部の底までの最大深さが300μm以下である。好ましくは、最大深さが100μm以下である。
本実施形態に係る中空スタビライザーでは、上記の最大深さが300μm以下であるので、疲労強度に優れる。
上述の凹部の深さは、凹部横の最大肉厚と凹部の肉厚を測定し、最大肉厚から凹部の最も薄い部分の肉厚を引くことで測定する。肉厚は、例えばマイクロメーターで測定すればよい。」
(9)「【0054】
<母材部における、内面側の表面粗さ:最大谷深さRvで300μm以下、好ましくは100μm以下>
上述した溶接部の凹部の形状を制御することで、中空スタビライザーの中空部の内面の溶接部を起点とする疲労破壊のような繰り返し荷重がかかった場合の破壊を抑制することができるので疲労強度が向上する。しかしながら、疲労破壊は、溶接部以外からも発生するので、溶接部の形状の制御だけでは、十分に疲労強度が向上しない。
そのため、本実施形態に係る中空スタビライザーでは、中空スタビライザーの中空部の内面側の表面粗さをJISB0601:2013に規定された最大谷深さRvで300μm以下とする。内面側の表面(内表面)の最大谷深さRvが300μmを超えると、疲労き裂が早期に発生・成長することで疲労強度が低下する。表面の最大谷深さRvは、好ましくは100μm以下である。
上述のような最大谷深さRvは、内面側の最大谷深さが300μm以下である電縫鋼管を用い、伸管を行う場合には、伸管を適切に実施することによって得られる。
【0055】
上述の中空部の内面側の表面粗さは、接触式または非接触式の形状測定装置を用いて高さ分布を測定し、JISB0601:2013に準拠して表面粗さを算出する。」
(10)「【0056】
<母材部に含まれる最大介在物径:300μm以下>
上述した溶接部の凹部の深さ、中空部の内面側の表面粗さを所定の範囲内に制御したとしても、母材部に含まれる最大介在物径が大きくなると、疲労強度が低下する。そのため、本実施形態に係る中空スタビライザーでは、母材部に含まれる最大介在物径を300μm以下とする。最大介在物径が300μmを超えると、疲労き裂は早期に発生・成長して疲労強度が低下する。好ましくは、最大介在物径は、100μm以下である。
中空スタビライザーの最大介在物径を上記の範囲とするには、素材として、母材部(鋼板)に含まれる最大介在物径が300μm以下である電縫鋼管を用いればよい。
【0057】
母材部に含まれる最大介在物径は、以下の方法で測定することができる。
すなわち、鋼管断面を45°ピッチで光学顕微鏡およびSEMで観察し、発見された最大介在物の面積を測定し、測定された最大介在物面積と等しい面積を有する円の直径を最大介在物径とする。」
(11)「【0058】
<表面硬さ:455Hv以上>
本実施形態に係る中空スタビライザーでは、表面硬さが455Hv以上である。表面硬さが455Hv未満であると、疲労強度が低下する。表面硬さの上限は特に限定されない。
【0059】
表面硬さ(ビッカース硬さ)については、例えば、図6における中空スタビライザーの曲がり部(肩部)21の周方向に45°ずつずらした8点の表面硬さを測定し、その平均硬さを算出する。その時の測定条件はJIS-Z2244:2009に準拠して行い、その測定荷重は1kgf以下とする。」
(12)「【0060】
次に、本実施形態に係る電縫鋼管1の好ましい製造方法について説明する。
本実施形態に係る電縫鋼管1は、上述の構成を有していれば製造方法によらずその効果は得られる。しかしながら、以下の方法によれば安定して製造できるので好ましい。
【0061】
本実施形態に係る電縫鋼管の製造方法では、まず、所定の化学組成を有する鋼片を加熱及び熱間圧延して巻き取る。その際、加熱温度を1000℃以上とし、巻き取り温度を800℃以下に制御することが好ましい。加熱温度が1000℃未満では圧延そのものが難加工になる。または巻き取り温度が800℃超であると、スケールが多く残存するので引き続き行う造管工程においてキズが付きやすい。また、そのスケールの酸洗処理に関しては薄いスケール以上の処理条件の厳格化が必要となる。
熱間圧延後は、酸洗を行ってもよいし、行わず熱延ままとしてもよい。ただし、熱延ままの鋼板に後述する造管を行う場合、一群の成形ロールの形状等を適切に選定することが好ましい。また、圧延条件におけるスケールの状態に応じ、酸洗処理を適切にしないと(インヒビターなどの選定など)、電縫鋼管1の母材部2における、内面側の表面粗さが、Rvで300μm超になることが懸念される。
【0062】
次いで、熱間圧延によって得られた鋼板を、一群の成形ロールにより走行させながら筒状に成形してオープン管とし、オープン管とした鋼板の互いに突き合わせた板幅方向両端部を誘導加熱等による加熱によって溶融させて、その状態のまま一対のスクイズロールにより鋼板の板幅方向両端部を押圧することによって、その両端部同士を溶接して電気抵抗溶接部とする。この場合の条件については限定されず、通常行われる条件とすればよい。
【0063】
電気抵抗溶接を行って得られた電縫鋼管に対し、ビードカットを行う。ビードカットは重要である。ビードカットは、溶接後に少なくとも内面に盛り上がったビードに対し、切削後滑らかに、かつビードカット深さが所定の値以下となるようにバイト形状及び切削位置を選択し、内面ビードを切削するようにする。外面側のビードも切削してもよい。
【0064】
ビードカットを行った後、電縫鋼管に対し、800℃以上、かつ1000℃以下に加熱する熱処理(いわゆるノルマ処理)を実施する。この熱処理によって、溶接部を含む最高硬さを低減させることができる。加熱温度は800℃以上のオーステナイト変態温度以上が望ましいが、硬さや組織制御ができていれば、必ずしも変態温度を超える必要はない。溶接等で生成した硬化組織は冷間加工の際のキズの発生の原因となるので、上記熱処理によって冷間加工によるキズの発生を抑制することができる。
加熱温度が800℃未満では硬化組織が残存し、冷間加工性が劣化する。そのため、加熱温度を800℃以上とすることが好ましい。一方加熱温度が1000℃超となると組織が、粗大なオーステナイト(γ)粒となり、硬化組織または炭化物等が生成する。この場合、加工性が劣化する。そのため、加熱温度を1000℃以下とすることが好ましい。より好ましくは950℃以下である。
加熱後の冷却速度に関しては、フェライト、パーライト組織を生成させるため放冷とする。放冷の場合、好ましくは800から500℃の平均冷却速度で3℃/s以下である。
【0065】
上述の製造方法によって、本実施形態に係る電縫鋼管1が得られる。本実施形態に係る電縫鋼管1は、さらに、そのままの状態か伸管または縮径圧延し、曲げやプレスなどの冷間加工で成形し、熱処理(焼き入れ焼戻し等)を行って、中空スタビライザーとすることができる。
【0066】
本実施形態に係る中空スタビライザーは、本実施形態に係る電縫鋼管を素材として、以下の工程を含む製造方法によって得ることができる。
(I)前記電縫鋼管を、中空スタビライザー形状に加工する加工工程
(II)前記加工工程後の前記電縫鋼管を、900℃~1200℃に加熱した後、30℃/s以上の冷却速度で冷却する焼入れ工程
(III)前記焼入れ工程後の前記電縫鋼管を、200~350℃に加熱する焼き戻し工程
ただし、必要に応じて、加工工程の前に、以下の工程をさらに行ってもよい。
(IV)電縫鋼管を、伸管する伸管工程
(V)前記伸管工程後の前記電縫鋼管を、800℃~1000℃に加熱する熱処理工程
【0067】
(伸管工程)
目的とするスタビライザーの形状に基づいて、必要に応じて、電縫鋼管を伸管する。例えば伸管は10~40%の減面率(伸管前の断面積と伸管後の断面積の差を、伸管前の断面積で除した値×100)の範囲である。
【0068】
(熱処理工程)
伸管を行った電縫鋼管は、加工性が低下する。そのため、引き続いて行う加工工程での加工性を確保するため、熱処理を行ってもよい。
熱処理を行う場合、伸管工程後の前記電縫鋼管を、800℃~1000℃に加熱し、空冷することが好ましい。
【0069】
(加工工程)
加工工程では、電縫鋼管を、中空スタビライザー形状に加工する。加工は、目的の形状が得られれば限定されず、例えば、熱間加工、温間加工、冷間加工のいずれでもよい。
【0070】
(焼入れ工程)
(焼戻し工程)
焼入れ工程及び焼戻し工程では、加工工程後の中空スタビライザー形状を有する電縫鋼管を、900℃~1200℃に加熱した後、30℃/s以上の冷却速度で冷却し(焼入れ)、200℃~400℃に加熱し、水冷または空冷により冷却(焼戻し)する。焼入れ温度、冷却速度、焼戻し温度を制御することによって組織や表面硬さを制御することができる。」
(13)「【実施例】
【0071】
(実施例1)
表1に示す化学組成(質量%、残部Fe及び不純物)を有するスラブを1000℃以上に加熱し、熱間圧延し、800℃以下の温度で巻取って酸洗し、熱延鋼板とした。この、熱延鋼板を鋼管形状に成形し、電気抵抗溶接によって鋼管1~19、X、Yを得た。
【0072】
【表1】
[図:0001401684000001.jpg]
【0073】
この鋼管の内面側に対し、ビードカットを行った。鋼管18及びYを除いてC方向断面におけるビードカット深さが300μm以下になるように制御してビードカットを行った。また、いずれの鋼管も表面粗さRvは300μm以下であったが、鋼管19については、ショットブラストによって表面粗さRvが300μm超となるようにした。
【0074】
ビードカット後の電縫鋼管に対し、表2に示す熱処理温度及び冷却条件で熱処理を行った。
熱処理後の電縫鋼管に対し、上述した方法で、最高硬さの測定及び金属組織観察を行った。結果を表2に示す。鋼管11~14を除いて、最大介在物径は300μm以下であった。
【0075】
電縫鋼管がスタビライザーに適しているかを確認するために以下の条件で疲労強度を評価した。
外径34mm×肉厚5.5mmの電縫鋼管1~19を、伸管し、焼入れ・焼き戻し処理を施して外径24mm×肉厚4.9mmの電縫鋼管とした。伸管は減面率40%で実施した。その後、表面のキズなどから判断して冷間加工性を評価した。ただし、鋼管X、鋼管Yについては、伸管を行わなかった。また、焼入れ焼戻し(QT)は、1000℃で1時間保持して焼き入れし、150℃~250℃の温度域で10分焼き戻した。疲労強度は硬さの影響を受けるので焼き戻し温度を制御して硬さが530~570Hvの間に入るように焼き戻し温度を選定した。
【0076】
この焼き入れ焼き戻し材から疲労試験片を採取し、ねじり疲労試験を実施した。試験方法はJIS Z 2273:1978に準拠した。負荷応力は350MPaとし、応力比R(最小応力/最大応力)=-1の両振りとした。
試験片破断後、疲労き裂の起点を調査し、破壊起点をビードカット折れ込み、内表面凹み部、介在物で分類し、ビードカット折れ込みが起点であればその深さを、内表面凹み部が起点であればその深さ、介在物が起点であれば介在物径を測定した。疲労強度の評価は、本検討の基準値として、繰り返し回数(破断回数)が8万回(8.0×104回)以上であれば疲労強度に優れると判断した。繰り返し回数が10万回以上で、破断しないと判断して試験を完了した。
表2に試験結果を示す。
【0077】
【表2】
[図:0001401684000002.jpg]
【0078】
表2からわかるように、鋼管1~10及びXは本発明鋼管であり、その後の焼き入れ焼き戻し後の疲労試験において、優れた疲労強度が確保できた。また、鋼管1~10はその後の伸管が可能であり冷間加工性が十分であった。
一方、鋼管11~19及びYでは十分な疲労強度が得られなかった。
鋼管11はCaが含有されておらず、介在物の形態制御ができなかったことで疲労強度が低下した。
鋼管12はS含有量が高く、鋼管14はMn含有量が高かったので、いずれも粗大なMnSが生成して疲労強度が低下した。
鋼管13は各化学成分の範囲としては適正であるが、ESSPが低く介在物の形態制御ができず疲労強度が低下した。
鋼管15はB含有量が低く焼き入れ時に粒界フェライトが生成し、局所的に軟化したため疲労破壊が助長されて疲労強度が低下した。
鋼管16はノルマではなくテンパー(600℃)を行ったので、炭化物の球状化し、電縫溶接部の最高硬さ高かった。その結果、伸管時に溶接部からキズが発生した。
鋼管17は、熱処理後の冷却において水冷を行ったので硬化組織が形成された。そのため、鋼管17は伸管を断念した。
鋼管18及び鋼管Yは電縫溶接終了後にビードカットを深く入れた。このため深いビードカット折れ込みが発生し、疲労破壊の起点となって疲労強度が低下した。
鋼管19は内面に過度のショットブラストをかけて内表面を荒らした。その結果、内表面の凹部から疲労破壊は発生し、疲労強度が低下した。
【0079】
(実施例2)
実施例1の伸管前の鋼管2、鋼管4、鋼管X及び鋼管Yを使用し、表3に記載の条件で伸管及び熱処理を行い、図6に示す形状に加工し、表3に記載の条件で焼入れ、焼戻しを行って中空スタビライザーを作成した。
【0080】
【表3】
[図:0001401684000003.jpg]
【0081】
得られたスタビライザー1~7の表面硬さをビッカース硬度計で測定した。測定条件は、以下の通りとした。
図6における中空スタビライザーの曲がり部(肩部)21の周方向に45°ずつずらした8点の表面硬さを測定し、その平均硬さを算出した。その時の測定条件はJIS-Z2244(2009年)に準拠して行い、その測定荷重は1kgf以下とした。
結果を表4に示す。
【0082】
また、得られたスタビライザー1~7に対して疲労試験を行い、繰り返し回数(破断回数)を評価した。疲労試験は以下の条件で行った。
図6は、電縫鋼管を中心曲率半径r(50mm)で曲げたものである。トーション部の長さL1は448mm、アーム部の長さL2は200mm、一対の支持部(ゴムブッシュ)間のスパンL3が293mmであった。疲労試験試験(両振り試験)は、一方のアーム部が固定点Aにて固定された状態のもとで、他方のアーム部の荷重点Bに、+2420Nと-2420Nの荷重が負荷される条件とした。
結果を表4に示す。
【0083】
【表4】
[図:0001401684000004.jpg]
【0084】
表3、表4から分かるように、スタビライザー1~3、5、6は十分な耐久回数を有していた。一方でスタビライザー4、7は早期にヘタリが発生してしまい、必要な疲労強度を満足しなかった。」
2 本願の願書に添付した図面には、以下の事項が記載されている。
(1)「【図2B】
[図:0001401684000005.jpg]
【図3】
[図:0001401684000006.jpg]
」
第5 甲号証の記載事項
1 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「高強度薄肉中空スタビライザー用電縫鋼管およびその製造方法」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。
(1)「[請求項1]
鋼素材に、加熱工程と、熱間圧延工程と、スキンパス圧延工程と、を順次施し熱延板とし、さらに、該熱延板を鋼管素材として、該鋼管素材に、電縫造管工程を施し電縫鋼管とし、該電縫鋼管に、再加熱し熱間縮径圧延を施す熱間縮径圧延工程を施して製品管とする薄肉中空スタビライザー用電縫鋼管の製造方法であって、
前記鋼素材が、質量%で、
C:0.20~0.40%、 Si:0.1~1.0%、
Mn:0.1~2.0%、 P:0.1%以下、
S:0.01%以下、 Al:0.01~0.10%、
Cr:0.01~1.0%、 Ti:0.01~0.05%、
B:0.0005~0.0050%、 Ca:0.0001~0.0050%、
N:0.010%以下
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
前記鋼素材の前記加熱工程が、前記鋼素材を加熱温度:1000~1300℃の範囲の温度に加熱する工程であり、
前記熱間圧延工程を、圧延終了温度:750~950℃で熱間圧延を終了し、冷却して、巻取温度:500~650℃でコイル状に巻き取る工程とし、
前記スキンパス圧延工程を、圧下率:0.3%以上でスキンパス圧延を施す工程とし、
前記熱間縮径圧延工程が、前記電縫鋼管を加熱温度:800~1100℃の温度に再加熱したのち、前記熱間縮径圧延を圧延終了温度:850℃以下、累積縮径率:75%以下である圧延とする工程であり、
前記製品管が、管内面側の脱炭層が表面から肉厚方向に120μm以下で、管内面の表面粗さRaが0.01~5.0μmであり、
降伏比:65%以上を有し、
スタビライザー形状に成形し焼入れ焼戻処理を施した後の硬さがビッカース硬さで450HV以上で、
スタビライザー形状に成形し焼入れ焼戻処理を施した後の耐疲労特性に優れる肉厚t:6mm以下で、かつ肉厚t(mm)と外径D(mm)との比、t/Dが0.2以下である高強度薄肉中空スタビライザー用電縫鋼管の製造方法。
[請求項2]
上記スタビライザー形状に成形し焼入れ焼戻処理を施した後の硬さがビッカース硬さで550HV未満である請求項1に記載の高強度薄肉中空スタビライザー用電縫鋼管の製造方法。
[請求項3]
前記組成に加えてさらに、質量%で、
Cu:1%以下、 Ni:1%以下
のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とする請求項1または2に記載の高強度薄肉中空スタビライザー用電縫鋼管の製造方法。
[請求項4]
前記組成に加えてさらに、質量%で、
Nb:0.05%以下、 W:0.05%以下、
V:0.5%以下
のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とする請求項1ないし3のいずれかに記載の高強度薄肉中空スタビライザー用電縫鋼管の製造方法。
[請求項5]
前記組成に加えてさらに、質量%で、REM:0.02%以下を含有する請求項1ないし4のいずれかに記載の高強度薄肉中空スタビライザー用電縫鋼管の製造方法。
[請求項6]
熱延鋼板製電縫鋼管にさらに、熱間縮径圧延を施してなる電縫鋼管であって、質量%で、
C:0.20~0.40%、 Si:0.1~1.0%、
Mn:0.1~2.0%、 P:0.1%以下、
S:0.01%以下、 Al:0.01~0.10%、
Cr:0.01~1.0%、 Ti:0.01~0.05%、
B:0.0005~0.0050%、 Ca:0.0001~0.0050%、
N:0.010%以下
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
管内面側の脱炭層が表面から肉厚方向に120μm以下で、管内面の表面粗さRaが0.01~5.0μmであり、
降伏比:65%以上を有し、
スタビライザー形状に成形し焼入れ焼戻処理を施した後の硬さがビッカース硬さで450HV以上で、スタビライザー形状に成形し焼入れ焼戻処理を施した後の耐疲労特性に優れる肉厚t:6mm以下で、かつ肉厚t(mm)と外径D(mm)との比、t/Dが0.2以下である高強度薄肉中空スタビライザー用電縫鋼管。
[請求項7]
上記スタビライザー形状に成形し焼入れ焼戻処理を施した後の硬さがビッカース硬さで550HV未満である請求項6に記載の高強度薄肉中空スタビライザー用電縫鋼管。
[請求項8]
前記組成に加えてさらに、質量%で、
Cu:1%以下、 Ni:1%以下
のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とする請求項6または7に記載の高強度薄肉中空スタビライザー用電縫鋼管。
[請求項9]
前記組成に加えてさらに、質量%で、
Nb:0.05%以下、 W:0.05%以下、
V:0.5%以下
のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とする請求項6ないし8のいずれかに記載の高強度薄肉中空スタビライザー用電縫鋼管。
[請求項10]
前記組成に加えてさらに、質量%で、REM:0.02%以下を含有する請求項6ないし9のいずれかに記載の高強度薄肉中空スタビライザー用電縫鋼管。
(2)「発明が解決しようとする課題
[0009]
最近の自動車車体の更なる軽量化の要望にともない、自動車車体部材の一つである中空スタビライザーにおいても、高強度化、さらには薄肉化が急速に進められている。そのため、中空スタビライザー用として、スタビライザー形状に成形され熱処理を施されたのちに優れた耐疲労特性を保持できる薄肉の電縫鋼管が求められている。ここでいう「薄肉」電縫鋼管とは、肉厚t:6mm以下で、かつ肉厚t(mm)と外径D(mm)との比、t/Dが0.2以下の電縫鋼管をいう。
[0010]
しかしながら、特許文献1~4のいずれにも、本発明でいう「薄肉」の鋼管について、さらには「薄肉」鋼管の耐疲労特性についての言及はなく、特許文献1~4に記載された各技術によっては、優れた耐疲労特性(耐ねじり疲労特性)を有する薄肉鋼管を得ることは難しいという問題があった。
[0011]
本発明は、このような従来技術の問題を解決し、高強度薄肉中空スタビライザー用として、鋼管の外径をDとしたとき、肉厚t:6mm以下で、かつt/Dが0.2以下の薄肉で、スタビライザー形状に成形され熱処理を施されたのちに耐疲労特性に優れた電縫鋼管およびその製造方法を提供することを目的とする。
[0012]
なお、ここでいう「高強度」とは、スタビライザー形状に成形し焼入れ焼戻処理を施した後の肉厚方向の平均硬さで、ビッカース硬さで450HV以上である場合をいうものとする。なお、「焼入れ焼戻処理」は、焼入れ加熱温度:850~1000℃で、水、焼入れ油等の冷媒に浸漬して急冷する焼入れ処理を施したのち、上記した高強度(ビッカース硬さHV)が得られる焼戻温度、保持時間の範囲内で焼き戻し、空冷する処理とする。
[0013]
また、ここでいう「耐疲労特性に優れた」とは、JIS Z 2273の規定に準拠して両振りのねじり疲労試験を実施し106回の疲労強度が450MPa以上である場合をいうものとする。」
(3)「[0050]
本発明における熱間縮径圧延工程は、所望の製品サイズの鋼管とするとともに、高い加工性と均一な焼入れ性を確保するために行う。熱間縮径圧延を行うことにより母管とくらべ炭素量が低い溶接部の幅を狭くでき、均一な焼入れ性を有する鋼管となる。そのため、再加熱温度を800~1100℃の範囲の温度とし、縮径圧延の圧延終了温度を850℃以下の温度とする。」
(4)「実施例
[0060]
表1に示す組成の溶鋼を、転炉で溶製し、連続鋳造法で鋳片として、鋼素材とした。得られた鋼素材に、表2に示す加熱温度に加熱する加熱工程と、表2に示す圧延終了温度の熱間圧延と表2に示す巻取温度で巻き取る熱間圧延工程と、表2に示す板酸洗工程と、さらに、表2に示す圧下率のスキンパス圧延工程と、を施し、表2に示す板厚の熱延鋼板とした。なお、一部では板酸洗工程は行わなかった。酸洗液は塩酸とした。
[0061]
ついで、得られた熱延鋼板を鋼管素材として、冷間で、複数のロールで連続的に成形し、略円筒状のオープン管とした。ついで、該オープン管の円周方向端部同士を圧接し、高周波電気抵抗溶接法を用いて電縫溶接して、表3に示す寸法形状の電縫鋼管とした。
[0062]
そしてさらに、得られた電縫鋼管に、表3に示す加熱温度に再加熱したのち、熱間縮径圧延機で表3に示す縮径率で縮径圧延する熱間縮径圧延工程と表3に示す管酸洗工程を施して、表3に示す寸法の製品管(電縫鋼管)とした。なお、一部では管酸洗工程を実施した。酸洗液は硫酸とした。
[0063]
得られた製品管(電縫鋼管)から、組織観察用試験片(観察面が管軸方向に直交する断面)を採取し、研磨し、管内面近傍の炭素量をEPMAを用いて測定した。炭素量は、管内面表面基点として、肉厚方向に1mmの位置まで測定した。そして、製品管の平均C量を基準として、平均C量の90%以下となった領域を脱炭層とし、脱炭層の肉厚方向の深さを脱炭層深さ(μm)とした。
[0064]
また、製品管から、管内面の表面粗さ測定用試験片を採取し、表面粗さ計を用い、管内面円周方向の表面粗さを測定した。なお、表面粗さ測定は、JIS B 0601-2001の規定に準拠して、管内面円周方向の表面粗さRa(μm)を測定した。
[0065]
また、製品管から、管軸方向が引張方向となるように、JIS 11号試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施し、引張特性(降伏比(YR:YR=YS/TS×100(%)、YS:降伏強さ、TS:引張強さ))を求めた。
[0066]
また、製品管から、試験材(管材)を採取し、スタビライザー形状への加工を模擬した成形を加えたのち、表3に示す条件で熱処理(焼入れ焼戻処理)を施した。
[0067]
なお、焼入れ処理は、鋼管外表面が表3に示す焼入加熱温度となるように、通電加熱したのち、水槽に浸漬する処理とした。焼入れ処理後、表3に示す温度で20min間保持する焼戻処理を施した。
[0068]
熱処理後の試験片(管材)から、硬さ測定用試験片を採取し、管軸方向に垂直な面(C断面)を研磨して、硬さ測定を行った。管内面を起点とし肉厚方向に0.1mmピッチで、JIS Z 2244に準拠してビッカース硬さ測定を行った。硬さ測定は、ビッカース硬度計(荷重:500gf(4.9N)を用いてビッカース硬さHV0.5を測定した。得られた硬さを算術平均して当該鋼管の熱処理後硬さ(平均硬さ)とした。
[0069]
また、熱処理後の試験片(管材)から、疲労試験片を採取し、JIS Z 2273の規定に準拠して両振りのねじれ疲労試験を実施し、106回の疲労強度(MPa)を求めた。
[0070]
得られた結果を表4に示す。
[0071]
[表1]
[図:0001401684000007.jpg]
[0072]
[表2]
[図:0001401684000008.jpg]
[0073]
[表3]
[図:0001401684000009.jpg]
[0074]
[表4]
[図:0001401684000010.jpg]
[0075]
本発明例はいずれも、焼入れ焼戻処理後の硬さが450HV以上であり高強度(高硬さ)でしかも、両振りねじり疲労試験の疲労強度が450MPa以上と耐疲労特性に優れており、薄肉の中空スタビライザー用として好適な電縫鋼管となっている。
一方、本発明の範囲を外れる比較例は、焼入れ焼戻処理後の硬さが450HV未満であり所望の高強度(高硬さ)を確保できていないか、耐疲労特性が450MPa未満と低下している。」
2 甲第14号証の記載事項
甲第14号証には、「中空スタビライザー製造用の電縫鋼管、中空スタビライザー、及びそれらの製造方法」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。
(1)「【請求項1】
中空スタビライザーを製造するための鋼管であって、且つ管内面には、溶接部を挟んで左右両側にそれぞれ薄肉となった谷部が形成されて周方向に沿って三山形状の輪郭形状からなる内面溶接ビードカット部を有する電縫鋼管において、
上記内面溶接ビードカット部は、左右両側の谷部が共に、上記谷部の最大の深さHが0.3mm以下であり、左右両側の谷部が共に、谷部の周方向中央部と、その谷部の左右両側に位置する左右の山部の頂点とでなす角度θが、160度以上180度未満であることを特徴とする中空スタビライザー製造用の電縫鋼管。
【請求項2】
鋼管を構成する鋼材は、質量%で、C:0.20%以上0.40%以下、Si:0.1%以上1.0%以下、Mn:0.1%以上2.0%以下、P:0.100%以下、S:0.010%以下、Al:0.01%以上0.10%以下、Cr:0.01%以上0.50%以下、Ti:0.01%以上0.05%以下、B:0.0005%以上0.0050%以下、Ca:0.0001%以上0.0050%以下、N:0.0050%以下を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1に記載した中空スタビライザー製造用の電縫鋼管。
【請求項3】
鋼管を構成する鋼材は、更に、質量%で、Cu:0.05%以上1.00%以下、Ni:0.05%以上1.00%以下のうちの、一方又は両方を含有することを特徴とする請求項2に記載した中空スタビライザー製造用の電縫鋼管。
【請求項4】
鋼管を構成する鋼材は、更に、質量%で、Nb:0.001%以上0.050%以下、W:0.001%以上0.050%以下、V:0.05%以上0.50%以下のうちから選択した1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載した中空スタビライザー製造用の電縫鋼管。
【請求項5】
鋼管を構成する鋼材は、更に、質量%で、REM:0.001%以上0.020%以下を含有することを特徴とする請求項2~請求項4のいずれか1項に記載した中空スタビライザー製造用の電縫鋼管。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載した中空スタビライザー製造用の電縫鋼管からなり、ビッカース硬さが400HV以上580HV未満の中空スタビライザー。
【請求項7】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載した中空スタビライザー製造用の電縫鋼管に対して冷間曲げ加工を施した後に、焼入れ処理又は焼入れ焼戻処理からなる熱処理を施し、上記熱処理後の硬さをビッカース硬さで400HV以上580HV未満に調整することを特徴とする中空スタビライザーの製造方法。
【請求項8】
鋼板を、冷間成形によって筒状に成形してオープン管とし、該オープン管の幅方向端部同士を衝合し電縫溶接して電縫造管とする第1の工程と、
上記電縫造管を850℃以上1000℃以下の温度に加熱した後に、圧延温度:650℃以上1000℃以下で且つ累積縮径率:30%以上90%以下で熱間縮径圧延を施す第2の工程と、
溶接部を挟んで左右両側にそれぞれ薄肉となった谷部が形成されて周方向に沿って三山形状の輪郭形状からなる内面溶接ビードカット部について、左右両側の谷部が共に、谷部の最大の深さHを0.3mm以下とし、且つ左右両側の谷部が共に、谷部の周方向中央部とその谷部の左右両側に位置する左右の山部の頂点とでなす角度θが160度以上180度未満となるように調整する第3の工程と、
を有することを特徴とする中空スタビライザー製造用の電縫鋼管の製造方法。
【請求項9】
上記鋼板は、質量%で、C:0.20%以上0.40%以下、Si:0.1%以上1.0%以下、Mn:0.1%以上2.0%以下、P:0.100%以下、S:0.010%以下、Al:0.01%以上0.10%以下、Cr:0.01%以上0.50%以下、Ti:0.01%以上0.05%以下、B:0.0005%以上0.0050%以下、Ca:0.0001%以上0.0050%以下、N:0.0050%以下を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなることを特徴とする請求項8に記載した中空スタビライザー製造用の電縫鋼管の製造方法。
【請求項10】
上記鋼板は、更に、質量%で、Cu:0.05%以上1.00%以下、Ni:0.05%以上1.00%以下、Nb:0.001%以上0.050%以下、W:0.001%以上0.050%以下、V:0.05%以上0.50%以下、REM:0.001%以上0.020%以下のうちから選択した1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項9に記載した中空スタビライザー製造用の電縫鋼管の製造方法。」
(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載された技術のように、鋼管に熱間縮径加工を施すと、鋼管に対し管内表面縮径にともなう凹凸が生じてしまう。特に、電縫溶接部は、熱間縮径加工前の母管段階で内面溶接部にビードカット処理が施されて内面溶接ビードカット部が形成されているが、溶接ボンド部とその周辺部との各硬さの差によって、母管段階での溶接ビードカット形状が影響を受ける。このため、内面溶接ビードカット部の形状は、熱間縮径加工によって、複雑な三山形状に変形する。そして、本発明者が検討したところ、内面溶接ビードカット部の三山形状の部分は、場合によってはスタビライザーにねじり応力が付与された場合の応力集中箇所となり、疲労特性を低下させる原因となるとの知見を得た。そして、この応力集中による疲労特性の低下は、特に高強度スタビライザーの場合に顕著となる。
【0007】
更に、スタビライザーの強度が高くなるほど、また管厚が薄くなるほど、スタビライザーがねじれた場合に発生する応力に関し、管外面側の応力と管内面側の応力が接近する。このため、スタビライザーは、管内面側の表面性状や表面形状の影響を受けやすくなり、管内面側を起点とした割れが発生する確率が高くなる。この割れ発生は、熱間縮径加工で製造するパイプの大きな課題である。なお、冷牽(冷間引抜加工)によって、内面の形状は平滑化するものの、製造コストアップがともなう。
本発明は、上記のような点に着目したもので、耐疲労特性に優れかつ高強度の中空スタビライザー製造用の電縫鋼管や、耐疲労特性に優れかつ高強度の中空スタビライザーを提供することを目的とする。」
(3)「【0018】
熱間縮径圧延処理部3Bは、熱間縮径圧延を施す処理を行う。熱間縮径圧延の条件は、圧延温度:650℃以上1000℃以下で且つ累積縮径率:30%以上90%以下が好ましい。更に好ましくは累積縮径率:30%以上80%以下である。
ここで、熱間縮径圧延の際の圧延温度が650℃未満では、加工性が低下し、所望のスタビライザー形状への成形が難しくなる場合がある。
累積縮径率は、熱間縮径圧延処理の前後で発生した縮径率である。
熱間縮径圧延を施すと、溶接ボンド部とその周辺部との各硬さの差によって、谷形状の中央部に位置する溶接ボンド部が増厚すると共に谷形状の左右両側も増厚することよって、内面溶接ビードカット部30には、図4に示すように、1つの谷形状が二つの谷部30aに分かれると共に増厚による三山が形成される。この結果、内面溶接ビードカット部30の形状は、三山形状に変化する。」
(4)「【実施例】
【0044】
次に、本実施形態に基づく実施例について説明する。
本実施例で使用する熱延鋼板の組成を表1に示す。
【0045】
【表1】
[図:0001401684000011.jpg]
【0046】
本実施例では、熱延鋼板(板厚:4.3mm)を、冷間で、複数のロールで連続的に成形し、略円筒状のオープン管とした。次に、該オープン管の円周方向端部同士を衝合、圧接し、高周波電気抵抗溶接法を用いて電縫溶接して電縫造管2(外径89.1mmφ×肉厚4.3mm)とした。
更に、得られた電縫造管2に、表2に示す加熱温度(縮径圧延前加熱温度)に加熱した
のち、ストレッチレデューサーで表2に示す累積縮径率で縮径圧延する縮径圧延工程を施して、表2に示す寸法(外径25.4mmφ×肉厚4.0mm)の電縫鋼管5とし、中空スタビライザー製造用の素材とした。
【0047】
そして、本実施例では、表2に示すように、管No.1~23の23本の中空スタビライザー製造用の電縫鋼管5を作製した。
また、各中空スタビライザー製造用の電縫鋼管5の電縫溶接部から、組織観察用試験片(観察面が管軸方向に垂直な断面)を採取し光学顕微鏡(倍率:10~20倍)を用いて、管の内面溶接ビードカット部30の三山形状の薄肉部(谷部30a)の深さH、及び三山形状の薄肉部(谷部30a)と中央厚肉部(山部30b、30c)がなす角度θを計測した。
【0048】
また、各中空スタビライザー製造用の電縫鋼管5に回転引き曲げによりL字形状への曲げ加工(曲げ半径はパイプ外径の2倍)して、中空スタビライザーに擬した各供試体を作製した。このとき、表2に示す条件で焼入れ焼戻しの熱処理を施した。
なお、焼入れ処理は、鋼管外表面が表2に示す加熱温度となるように、通電加熱したのち、水槽に浸漬する処理とした。焼入れ処理後、表2に示す温度で20min間保持する焼戻処理を施した。その後、外表面に鋼球でショットブラストを施して、管No.1~23のL字形状の試験片を作製し、ねじり疲労試験の供試体とした。
【0049】
また、ショットブラストを施す前の各供試体から硬さ測定片を採取し、硬さ測定を行った。硬さ測定は、鋼管の管軸方向に垂直な断面(C断面)について行い、管外表面から肉厚方向に管内表面まで0.3mmピッチでビッカース硬度計(荷重:500gf(4.9N))を用いて行った。
また、ねじり疲労試験では、発生応力最大箇所(曲げ内側から管円周方向におよそ60度の位置)での負荷応力:±400MPaとする疲労試験(両振り)を行い、割れ発生までの繰返し数を調査した。なお、試験条件は負荷応力±400MPa(両振り)とし、周波数は1Hzとした。
【0050】
得られた結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
[図:0001401684000012.jpg]
【0052】
表2から分かるように、本発明に基づく管No.1~9では、焼入れ焼戻処理後の硬さが400HV以上とすることができて、高強度(高硬さ)である。更に、疲労試験による破壊までの耐久繰返し回数が20万回以上となっており、疲労特性に優れた高強度の中空スタビライザーを製造出来ることが分かる。
一方、管No.2と、管No.17及び18を比較すると、同じ鋼材を使用し、熱処理後の硬さを共に500HV以上と高強度としても、内面ビードカット部の形状が本発明の範囲外の場合である管No.17及び18では、疲労試験による破壊までの耐久繰返し回数が20万回未満となっている。このように、内面ビードカット部の形状を本発明の範囲内とすることで、同じ高強度とした場合に、疲労特性に優れた中空スタビライザーとすることができることが分かる。
【0053】
ここで、管No.10は、強度を590HVとしたため、靭性が低下して割れが発生した。すなわち、管No.10は、最終製品の硬さを無理に590HVまで硬くしようしたため、製品に焼割れの歪が入ってしまって、寿命が短くなった。
管No.15,16は、材料としてSの配合が多すぎるか、Caの配合がないことから、介在物起点割れが生じている。
なお、管No.11~14は、硬さが400HV未満と高強度となっていないので、疲労試験による破壊までの耐久繰返し回数が20万回未満となっているが、内面ビードカット部の形状を本発明の範囲内とすることで、内面ビードカット部の形状を本発明の範囲外とする場合よりは、疲労特性は向上している。
【0054】
以上のように、熱間縮径圧延を施して内面ビードカット部の形状が三山形状となっている中空スタビライザー製造用の電縫鋼管5の内面ビードカット部の三山形状を本発明の範囲内とすることで、その中空スタビライザー製造用の電縫鋼管5の疲労特性を向上させることが出来る。
更に、中空スタビライザー製造用の電縫鋼管5を用いて、硬さ400HV以上580HV未満の中空スタビライザーを製造すれば、疲労特性に優れた高強度の中空スタビライザーとすることが出来ることが分かる。」
(4)「【図4】
[図:0001401684000013.jpg]
」
第6 当審の判断
以下に述べるように、本件特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(進歩性)について
(1)甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には、請求項6及び実施例、特に鋼管No.4(鋼No.D)に着目すると、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
熱延鋼板製電縫鋼管にさらに、熱間縮径圧延を施してなる電縫鋼管であって、質量%で、C:0.34%、Si:0.19%、Mn:1.4%、P:0.01%、S:0.002%、Al:0.03%、Cr:0.15%、Ti:0.035%、B:0.002%、Ca:0.0020%、N:0.003%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、管内面側の脱炭層が無く(「-」μm)、管内面の表面粗さRaが1.5μmであり、降伏比:70%を有し、スタビライザー形状に成形し焼入れ焼戻処理を施した後の硬さがビッカース硬さで480HVで、スタビライザー形状に成形し焼入れ焼戻処理を施した後の疲労強度が500MPa、肉厚t:4.0mm、外径D:25.4mmで、かつ肉厚t(mm)と外径D(mm)との比、t/Dが0.16である高強度薄肉中空スタビライザー用電縫鋼管。
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比・判断
(ア)対比
a 甲1発明における、「高強度薄肉中空スタビライザー用電縫鋼管」は、電縫鋼管である以上、母材部と溶接部とからなることは明らかであるから、本件発明1おける、「母材部と溶接部とからなる中空スタビライザー用電縫鋼管」に相当する。
b 甲1発明の組成は、鋼素材の組成であるから(甲第1号証の段落[0060])、本件発明1における、「母材部」の「化学成分」に相当する。
c 甲第1号証の表1には、鋼No.DにおけるCu、Ni、Nb、W、V及びREMの含有量が「-」と記載されており、「残部・・・不可避不純物」でもあるから、甲1発明は、Mo、Cu、Ni及びVを含まないか、含むとしても不可避的不純物量で含むものと認められる。
そうすると、甲1発明の電縫鋼管の組成が、「質量%で、C:0.34%、Si:0.19%、Mn:1.4%、P:0.01%、S:0.002%、Al:0.03%、Cr:0.15%、Ti:0.035%、B:0.002%、Ca:0.0020%、N:0.003%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有」することは、本件発明1の化学成分が、
「質量%で、
C:0.30~0.38%、
Si:0.15~0.30%、
Mn:1.20~1.50%、
Al:0.020~0.060%、
Ti:0.020~0.050%、
B:0.0010~0.0050%、
Cr:0.10~0.25%、
Mo:0~0.20%、
Ca:0.0005~0.0050%、
Cu:0~0.25%、
Ni:0~0.25%、
V:0~0.05%、
N:0.0060%以下、
P:0.020%以下、
S:0.0100%以下、
を含有し、残部がFe及び不純物からな」ることに相当する。
d 甲1発明における、「肉厚t:4.0mm、外径D:25.4mm」は、本件発明1の「母材部の肉厚が2.0~6.0mm」、「電縫鋼管の外径が10~40mmであり」に相当する。
e そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点1において一致するとともに、以下の相違点1-1~相違点1-5において相違する。
<一致点1>
「母材部と溶接部とからなる中空スタビライザー用電縫鋼管であって、
前記母材部が、化学成分として、質量%で、
C:0.30~0.38%、
Si:0.15~0.30%、
Mn:1.20~1.50%、
Al:0.020~0.060%、
Ti:0.020~0.050%、
B:0.0010~0.0050%、
Cr:0.10~0.25%、
Mo:0~0.20%、
Ca:0.0005~0.0050%、
Cu:0~0.25%、
Ni:0~0.25%、
V:0~0.05%、
N:0.0060%以下、
P:0.020%以下、
S:0.0100%以下、
を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
前記母材部の肉厚が2.0~6.0mm、前記電縫鋼管の外径が10~40mmである、中空スタビライザー用電縫鋼管。」である点。
<相違点1-1>
本件発明1は、「電縫鋼管のC方向断面において、
前記電縫鋼管の内面側の、溶接部を含む領域に凹形状のビードカットが存在し、
前記ビードカットの一方の開口縁からもう一方の開口縁へ最短距離で仮想線を引いたとき、前記仮想線から前記ビードカットの底までの最大深さが300μm以下」であるのに対し、甲1発明は、ビードカットについて特定されていない点。
<相違点1-2>
本件発明1は、「母材部に含まれる最大介在物径が300μm以下」であるのに対し、甲1発明は、母材部に含まれる最大介在物径が示されていない点。
<相違点1-3>
本件発明1は、「電縫鋼管の母材部における、内面側の表面粗さが、最大谷深さRvで300μm以下」であるのに対し、甲1発明は、「管内面の表面粗さRaが1.5μm」である点。
<相違点1-4>
本件発明1は、「溶接部を含む電縫鋼管の最高硬さが300Hv以下」であるのに対し、甲1発明は、「スタビライザー形状に成形し焼入れ焼戻処理を施した後の硬さがビッカース硬さで480HV」である点。
<相違点1-5>
本件発明1は、母材部が、化学成分として、質量%で、「O:0.0050%以下」を含有するのに対し、甲1発明は、Oの含有量が不明である点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点1-4から検討する。
a 甲第1号証には、熱間縮径圧延工程後の電縫鋼管の硬さについて何ら記載されていないから、甲1発明の中空スタビライザー用電縫鋼管の硬度が、「溶接部を含む電縫鋼管の最高硬さが300Hv以下」であるかは不明である。
b 一方、甲第11号証には、「表2に示される結果からも、本発明に従えば、簡便な熱処理によって硬さ(強度)を非常に良好な冷間成形性につながるHv180以下にまで低下させることができる上、その後に焼き入れ処理を施すことにより機械部品としての十分な耐摩耗性や強度が確保されるHv550以上にまで硬さ(強度)が上昇する機械構造用電縫鋼管を提供できることが明らかである。」(段落【0033】)、「通常、鋼の成形性を向上させるためには、Ac3変態点以上の温度で加熱・保持する焼きならし処理が実施される。しかし、この方法では、オ-ステナイト単相の組織となるAc3変態点以上の温度領域に保持されるのでCの濃化が起こらずに組織が粗大化しがちであり、従ってある程度の強度低下(成形性の向上)を達成できるものの成形性向上効果が十分でない場合があった。そのため、成形加工が施される機械構造用電縫鋼管に適用する処理法としては満足できるものではなかった。」(段落【0003】)記載がある。
c 上記bの記載によれば、焼ならし処理が実施されると、機械構造用電縫鋼管の硬さを、非常に良好な冷間成形性につながるHv180以下にまで低下させることができると認められる。
d しかしながら、甲1発明の中空スタビライザー用電縫鋼管は、熱間縮径圧延工程により、高い加工性と均一な焼入れ性を確保することができているから(段落[0050])、甲1発明において、すでに有している高い加工性をさらに向上させることが動機付けられるとはいえない。
e よって、甲1発明において、「溶接部を含む電縫鋼管の最高硬さが300Hv以下」とすることは、当業者が容易に想到することであるとはいえない。
イ 申立人の主張について
申立人は特許異議申立書の3(4)ウ(ア)において、相違点1-4に関し、試験番号14(適用鋼種K)は、熱処理温度がAc3変態点以上の810℃の場合でも、得られた電縫鋼管の硬さが216.0Hvであり、焼き入れ処理後の硬さが720Hv(Hv500以上)となることが示されており、この結果から、焼入れ(焼戻)処理後に480Hvになる甲1発明も、焼入れ処理を施す前には、溶接部を含む前記電縫鋼管の最高硬さが300Hv以下である蓋然性が高く、仮に、甲1発明の最高硬さが300Hv以下でないとしても300Hv以下にすることは、当業者が容易に想到し得るものである旨主張している。
しかしながら、上記適用鋼種Kの化学成分は、甲1発明の化学成分と異なるものであり、上記熱処理温度の810℃は、甲1発明の熱間縮径圧延における再加熱温度である950℃と異なるものであるから、甲1発明の最高硬さが300Hv以下である蓋然性が高いとはいえない。また、甲1発明の熱間縮径圧延を甲第11号証の焼ならし処理に置換する動機があるともいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、相違点1-4以外の相違点について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~5と甲1発明とを対比すると、上記(2)ア(ア)において検討したのと同様であり、両者は、少なくとも上記相違点1-4と同様の点で相違する。
そして、上記相違点1-4については、上記(2)ア(イ)において検討したのと同様である。
したがって、本件発明2~5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)小括
以上のとおり、申立理由1によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(進歩性)について
(1)甲第14号証に記載された発明
ア 甲第14号証には、請求項1、2を引用する請求項6及び実施例、特に鋼管No.5(鋼No.E)に着目すると、以下の発明(以下、「甲14発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲14発明>
中空スタビライザーであって、
中空スタビライザーを製造するための電縫鋼管の内面には、溶接部を挟んで左右両側にそれぞれ薄肉となった谷部が形成されて周方向に沿って三山形状の輪郭形状からなる内面溶接ビードカット部を有し、
上記内面溶接ビードカット部は、左右両側の谷部が共に、上記谷部の最大の深さHが0.09mmであり、左右両側の谷部が共に、谷部の周方向中央部と、その谷部の左右両側に位置する左右の山部の頂点とでなす角度θが、170度であり、
前記鋼管を構成する鋼材は、質量%で、C:0.35%、Si:0.15%、Mn:1.35%、P:0.015%、S:0.001%、Al:0.035%、Ti:0.035%、Cr:0.11%、B:0.0012%、N:0.0025%、Ca:0.0015%、Cu:0.15%、Ni:0.12%を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなり、
外径が25.4mm、肉厚が4.0mmであり、
ビッカース硬さが500HVの中空スタビライザー。
(2)本件発明6について
ア 本件発明6と甲14発明との対比・判断
(ア)対比
a 甲14発明における、「中空スタビライザー」は、「溶接部」を有し、該「溶接部」以外は母材部と認められるから、本件発明6における、「母材部と溶接部とからなる中空スタビライザー」に相当する。
b 甲14発明の組成は、鋼管を構成する鋼材の組成であるから、本件発明6における、「母材部」の「化学成分」に相当する。
c 甲第14号証の表1には、鋼No.EにおけるNb、V、W及びREMの含有量が「-」と記載されているから、甲14発明は、Mo及びVを含まないか、含むとしても不可避的不純物量で含むものと認められる。
そうすると、甲14発明の電縫鋼管の組成が、「質量%で、C:0.35%、Si:0.15%、Mn:1.35%、P:0.015%、S:0.001%、Al:0.035%、Ti:0.035%、Cr:0.11%、B:0.0012%、N:0.0025%、Ca:0.0015%、Cu:0.15%、Ni:0.12%を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有」することは、本件発明6の化学成分が、
「C:0.30~0.38%、
Si:0.15~0.30%、
Mn:1.20~1.50%、
Al:0.020~0.060%、
Ti:0.020~0.050%、
B:0.0010~0.0050%、
Cr:0.10~0.25%、
Mo:0~0.20%、
Ca:0.0005~0.0050%、
Cu:0~0.25%、
Ni:0~0.25%、
V:0~0.05%、
N:0.0060%以下、
P:0.020%以下、
S:0.0100%以下、
を含有し、残部がFe及び不純物からな」ることに相当する。
d 甲14発明の、「外径が25.4mm、肉厚が4.0mmであ」ることは、本件発明6の「電縫鋼管の外径が10~40mmであり」、「母材部の肉厚が2.0~6.0mm」に相当する。
e そうすると、本件発明6と甲14発明とは、以下の一致点2において一致するとともに、以下の相違点2-1~相違点2-5において相違する。
<一致点2>
「母材部と溶接部とからなる中空スタビライザーであって、
前記母材部が、化学成分として、質量%で、
C:0.30~0.38%、
Si:0.15~0.30%、
Mn:1.20~1.50%、
Al:0.020~0.060%、
Ti:0.020~0.050%、
B:0.0010~0.0050%、
Cr:0.10~0.25%、
Mo:0~0.20%、
Ca:0.0005~0.0050%、
Cu:0~0.25%、
Ni:0~0.25%、
V:0~0.05%、
N:0.0060%以下、
P:0.020%以下、
S:0.0100%以下、
を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
前記母材部の肉厚が2.0~6.0mm、前記母材部の外径が10~40mmである、
中空スタビライザー。」である点。
<相違点2-1>
本件発明6は、中空スタビライザーの「C方向断面において、
前記中空スタビライザーの中空部の内面側の、溶接部を含む領域に凹部が存在し、
前記溶接部の内面側の一方の端部からもう一方の端部へ最短距離で仮想線を引いたとき、前記仮想線から前記凹部の底までの最大深さが300μm以下」であるのに対し、甲14発明は、「中空スタビライザーを製造するための鋼管の内面には、溶接部を挟んで左右両側にそれぞれ薄肉となった谷部が形成されて周方向に沿って三山形状の輪郭形状からなる内面溶接ビードカット部を有し、
上記内面溶接ビードカット部は、左右両側の谷部が共に、上記谷部の最大の深さHが0.08mmであり、左右両側の谷部が共に、谷部の周方向中央部と、その谷部の左右両側に位置する左右の山部の頂点とでなす角度θが、172度」である点。
<相違点2-2>
本件発明6は、「母材部に含まれる最大介在物径が300μm以下」であるのに対し、甲14発明は、母材部に含まれる最大介在物径が示されていない点。
<相違点2-3>
本件発明6は、「母材部における、内面側の表面粗さが、最大谷深さRvで300μm以下」であるのに対し、甲14発明は、母材部における、内面側の表面粗さが示されていない点。
<相違点2-4>
本件発明6は、「表面硬さが455Hv以上である」のに対し、甲14発明の硬さは、硬さ測定を、「管外表面から肉厚方向に管内表面まで0.3mmピッチでビッカース硬度計(荷重:500gf(4.9N))を用いて行った」結果、「ビッカース硬さが500HV」である点。
<相違点2-5>
本件発明6は、母材部が、化学成分として、質量%で、「O:0.0050%以下」を含有するのに対し、甲14発明は、Oの含有量が不明である点。
(イ)判断
a 相違点2-1について
(a)始めに、本件発明6における「凹部」の技術的意味を確認すると、本件明細書の段落【0053】には、「上述したように、電縫鋼管には、通常、内面側の、溶接部を含む領域に凹形状の溶接ビードが切削冶具等によって切削されて形成されたビードカットが存在する。そのため、電縫鋼管を、伸管して、または伸管せずに、スタビライザー形状に加工した中空スタビライザーの内面側では、ビードカットに起因する凹部が存在したり、または、伸管によってビードカットが折れ込んで形成される凹部が存在したりする場合がある。これらの凹部は中空スタビライザーの疲労強度を低下させる。本実施形態に係る中空スタビライザーでは、ビードカットの最大深さが小さい電縫鋼管を用いて製造されるので、ビードカットに起因する凹部の深さが小さく、また、ビードカットの折れ込みが抑制される。そのため、凹部の最大深さが小さい。」と記載されている。また、ビードカットの断面形状については、段落【0039】には、「図2A、図2Bに示すように、本実施形態に係る電縫鋼管1では、電縫鋼管1を管軸方向とは垂直な方向の断面(C断面)でみたとき、電縫鋼管1の内面側の、溶接部3を含む領域に凹形状のビードカット4が存在する。」と記載されている。
(b)上記(a)の記載からすると、伸管せずに製造されたスタビライザーの凹部は、図2Bに示すように、溶接部の一方の端部からもう一方の端部の間に凸部が存在しない形状であると認められる。また、伸管する場合であっても、スタビライザーは、ビードカットの最大深さが小さい電縫鋼管を用いて製造されるので、ビードカットの折れ込みが抑制され、スタビライザーの凹部は、図3の右上の図(「ビードカット適正」で「伸管後」と記載された図)に示すように、溶接部の一方の端部からもう一方の端部の間に凸部が存在しない形状であると認められる。
(c)それに対して、甲14発明は、「中空スタビライザーを製造するための電縫鋼管の内面には、溶接部を挟んで左右両側にそれぞれ薄肉となった谷部が形成されて周方向に沿って三山形状の輪郭形状からなる内面溶接ビードカット部を有し」ており、その後、内面加工を行うことなくスタビライザーに成形されるので、スタビライザーの内面にも、同様に、「溶接部を挟んで左右両側にそれぞれ薄肉となった谷部が形成されて周方向に沿って三山形状の輪郭形状からなる内面溶接ビードカット部を有し」ているものと認められる。
(d)そうすると、本件発明6の「凹部」と甲14発明の「三山形状」とは、異なる形状であると認められるから、上記相違点2-1は実質的な相違点である。
(e)そして、甲14発明における「三山形状」は、熱間縮径圧延に由来するものであり(段落【0018】)、甲14発明は、所定の「三山形状」を有することで、疲労特性を向上させることができるものであるから(段落【0054】)、甲14発明において、スタビライザーの断面形状を、三山形状から凹形状とすることが、動機付けられるとはいえない。
イ 小括
したがって、本件発明6は、相違点2-1以外の相違点について検討するまでもなく、甲第14号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証、甲第7号証~甲第11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明7~10について
本件発明7~10と甲14発明とを対比すると、上記(2)ア(ア)において検討したのと同様であり、両者は、少なくとも上記相違点2-1と同様の点で相違する。
そして、上記相違点2-1については、上記(2)ア(イ)において検討したのと同様である。
したがって、本件発明7~10は、甲第14号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証、甲第7号証~甲第11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)小括
以上のとおり、申立理由2によっては、本件特許の請求項6~10に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件についての判断手法
物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。また、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そこで、本件発明が、上記要件に適合するか、以下検討する。
(2)本件発明1~5について
ア ビードカットの底までの最大深さについて
本件明細書の段落【0041】には、「上述のようなビードカット深さdは、電気抵抗溶接によって形成された溶接ビードを切削する際の切削バイトの位置を適切に設定することによって制御できる。」と記載され、段落【0073】には、「この鋼管の内面側に対し、ビードカットを行った。鋼管18及びYを除いてC方向断面におけるビードカット深さが300μm以下になるように制御してビードカットを行った。」と記載されることから、本件発明1において、電縫鋼管のC方向断面において、前記電縫鋼管の内面側の、溶接部を含む領域に凹形状のビードカットが存在し、前記ビードカットの一方の開口縁からもう一方の開口縁へ最短距離で仮想線を引いたとき、前記仮想線から前記ビードカットの底までの最大深さを300μm以下とすることに過度の試行錯誤を要するとはいえない。
イ 最大介在物径について
本件明細書の段落【0074】には、表2について、鋼管11~14を除いて、最大介在物径は300μm以下であったと記載されているから、鋼管1~10については、最大介在物径が300μm以下であったことが確認されている。つまり、最大介在物径が300μm以下の実施例が記載されているといえる。
よって、本件発明1において、母材部に含まれる最大介在物径を300μm以下とすることに過度の試行錯誤を要するとはいえない。
ウ 母材部における、内面側の表面粗さについて
本件明細書の段落【0073】に、「いずれの鋼管も表面粗さRvは300μm以下であった」と記載されるとおり、明細書の記載のとおりに製造すれば、母材部における、内面側の表面粗さが、最大谷深さRvで300μm以下になると認められるから、本件発明1において、母材部における、内面側の表面粗さが、最大谷深さRvで300μm以下とすることに過度の試行錯誤を要するとはいえない。
エ 以上のとおりであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者において、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1~4に係る物を製造し、使用することができ、本件発明5に係る方法の使用をすることができる程度のものと認められる。
(3)請求項6~10について
本件発明1~4の電縫鋼管に、伸管及び焼ならしを施し又は施さず、次いで焼入れ及び焼戻しを施すことで、凹部の底までの最大深さ、最大介在物径及び内面側の表面粗さのそれぞれが300μm超となることを示す証拠はないから、本件発明6~8の中空スタビライザーの中空部の内面側の、溶接部を含む領域に凹部が存在し、前記溶接部の内面側の一方の開口縁からもう一方の開口縁へ最短距離で仮想線を引いたとき、前記仮想線から前記凹部の底までの最大深さを300μm以下とすること、母材部に含まれる最大介在物径を300μm以下とすること、及び、母材部における、内面側の表面粗さが、最大谷深さRvで300μm以下とすることに過度の試行錯誤を要するとはいえない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者において、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明6~8に係る物を製造し、使用することができ、本件発明9、10に係る方法の使用をすることができる程度のものと認められる。
(4)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書の3(4)エ(ア)~(ウ)において、電縫鋼管のビードカットの底までの最大深さ、最大介在物径及び母材部における、内面側の表面粗さをどの程度にすれば、疲労強度が向上するのか、過度の試行錯誤を繰り返さなければならないと主張するが、本件発明1に特定されるとおり、それぞれの閾値は300μmであるから、閾値を特定するための試行錯誤は要しない。
よって、申立人の主張は採用できない。
(5)申立理由3のまとめ
以上のとおり、申立理由3によっては、本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由4(サポート要件)について
下線は、強調のため当審で付与した。
(1)本件明細書の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、十分な加工性を有し、焼入れ焼戻し後の疲労強度に優れる中空スタビライザー用電縫鋼管、疲労強度に優れる中空スタビライザー、及びそれらの製造方法を提供することであると認められる(段落【0011】)。
(2)本件発明1~4について
ア 上記本件発明が解決しようとする課題に対し、本件発明1の中空スタビライザー用電縫鋼管は、
「母材部と溶接部とからなる中空スタビライザー用電縫鋼管であって、
前記母材部が、化学成分として、質量%で、
C:0.30~0.38%、
Si:0.15~0.30%、
Mn:1.20~1.50%、
Al:0.020~0.060%、
Ti:0.020~0.050%、
B:0.0010~0.0050%、
Cr:0.10~0.25%、
Mo:0~0.20%、
Ca:0.0005~0.0050%、
Cu:0~0.25%、
Ni:0~0.25%、
V:0~0.05%、
N:0.0060%以下、
P:0.020%以下、
S:0.0100%以下、
O:0.0050%以下、
を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
前記母材部の肉厚が2.0~6.0mm、前記電縫鋼管の外径が10~40mmであり、
前記電縫鋼管のC方向断面において、
前記電縫鋼管の内面側の、前記溶接部を含む領域に凹形状のビードカットが存在し、
前記ビードカットの一方の開口縁からもう一方の開口縁へ最短距離で仮想線を引いたとき、前記仮想線から前記ビードカットの底までの最大深さが300μm以下であり、
前記母材部に含まれる最大介在物径が300μm以下であり、
前記電縫鋼管の前記母材部における、前記内面側の表面粗さが、最大谷深さRvで300μm以下であり、
前記溶接部を含む前記電縫鋼管の最高硬さが300Hv以下である、
中空スタビライザー用電縫鋼管。」との技術的事項で特定されている。
イ 一方、本件明細書には、上記本件発明が解決しようとする課題に関し、以下の事項が記載されている。
「Ca:0.0005~0.0050%
Caは、鋼管中の介在物を微細にし、疲労強度の向上に寄与する元素である。Ca含有量が0.0005%未満では、この効果が十分に得られない。そのため、Ca含有量を0.0005%以上とする。一方、Ca含有量が0.0050%を超えると、粗大な介在物が形成され、靭性や疲労強度が低下する。そのため、Ca含有量を0.0050%以下とする。好ましくは、0.0010~0.0030%である。」(段落【0028】)
「Ca×(1-124×O)/(1.25×S)≧0.20
本実施形態に係る電縫鋼管1では、それぞれの元素の含有量を上記の範囲に限定した上で、以下の式(1)で表されるESSP値が0.20以上であることが好ましい。
ESSP値=Ca×(1-124×O)/(1.25×S) ...(1)
ESSP値は、酸素と結合したCaを差し引いた残りのCa(有効Ca)に関する指標である。具体的には、CaがSと原子量比で結合することを前提に、S含有量に応じて必要とされる有効Ca量が存在するかどうかを示す指標である。
ESSPが0.20未満であると、O含有量及びS含有量に対してCa含有量が不足してMnSが生成しやすくなる。圧延で延伸したMnSは、疲労強度の低下や水素割れの起点となるとなるので、ESSPは0.20以上とすることが好ましい。」(段落【0038】)
「<ビードカットの最大深さ:300μm以下、好ましくは100μm以下>
通常、電縫鋼管は、一群の成形ロールにより鋼板を走行させながら筒状に成形してオープン管とし、オープン管とした鋼板の互いに突き合わせた板幅方向両端部を誘導加熱等による加熱によって溶融させて、その状態のまま一対のスクイズロールにより鋼板の板幅方向両端部を押圧することによって、その両端部同士を溶接して電気抵抗溶接部とすることで得られる。このとき、鋼板の板幅方向両端部間に形成された溶融金属の一部が外部に押し出されることにより、電縫鋼管の表面から突出する溶接ビードが溶接部に形成される。この溶接ビードは、後工程での加工不良の原因となる上、最終製品として用いられる電縫鋼管の外観劣化の原因となる。そのため、この溶接ビードは、切削冶具等によって切削される(ビードカット)。
そのため、図2A、図2Bに示すように、本実施形態に係る電縫鋼管1では、電縫鋼管1を管軸方向とは垂直な方向の断面(C断面)でみたとき、電縫鋼管1の内面側の、溶接部3を含む領域に凹形状のビードカット4が存在する。
本発明者らの検討の結果、図3に示すように、溶接ビードが切削された後の溶接部の形状、特に電縫鋼管の内面側のビードカット深さは、加工性だけではなく、疲労強度に大きく影響することが新たに分かった。例えばビードカットで過度に溶接部を削ると、伸管後にビードカットが折れ込んでしまい、その折れ込み部からき裂が発生して早期破断することが分かった。
また、本発明者らがさらに検討を行った結果、ビードカット4の一方の開口縁5からもう一方の開口縁5へ最短距離で仮想線10を引いたとき、仮想線10からビードカット4の底までの最大深さ(言い換えれば、仮想線10に垂直な方向の、仮想線10から凹形状のビードカット4の底までの距離のうち、最大の値)であるビードカット深さdが300μmを超えると、伸管後に基準深さ以上の折れ込みが発生し、折れ込み部から疲労き裂が早期に発生・成長することで疲労強度が低下し、焼入れ焼戻し後に本実施形態における疲労強度の基準値である、疲労試験における破断までの負荷応力の繰り返し回数8万回に安定的に到達しないことが分かった。そのため、本実施形態に係る電縫鋼管1では、ビードカット4の一方の開口縁5からもう一方の開口縁5へ最短距離で仮想線10を引いたとき、仮想線10からビードカット4の底までの最大深さ(ビードカット深さd)を300μm以下とする。好ましくは100μm以下である。
伸管でビードカット深さは改善されるため、伸管後のビードカット折れ込みの基準である300μmを伸管前の鋼管のビードカット深さdの上限とした。伸管前のビードカット深さが300μm以下であれば、伸管後のビードカット深さは300μm以下となる。
本実施形態に係る電縫鋼管1では、ビードカット深さdの下限を定める必要はなく、小さいほど好ましい。
上述のようなビードカット深さdは、電気抵抗溶接によって形成された溶接ビードを切削する際の切削バイトの位置を適切に設定することによって制御できる。
また、疲労破壊は主として内面側から発生するので、電縫鋼管1の外面側の溶接部3の形状については特に限定しないが、外観の向上のため、従来の電縫鋼管と同様に切削を行ってもよい。
上述のビードカット深さdは、以下の方法で測定することができる。すなわち、溶接部横の最大肉厚と溶接部(衝合部)の肉厚をマイクロメーターで測定し、最大肉厚から溶接部の最も薄い部分の肉厚を引くことで測定する。」(段落【0039】~【0042】)
「<鋼管の母材部における、内面側の表面粗さ:最大谷深さRvで300μm以下、好ましくは100μm以下>
上述した溶接部の形状を制御することで、鋼管内面の溶接部3を起点とする疲労破壊を抑制することができる。しかしながら、疲労破壊は、溶接部以外からも発生するので、溶接部の形状の制御だけでは、十分に疲労強度が向上しない。
本発明者らが検討した結果、図4に示すように、電縫鋼管1の内面側の母材部2における表面粗さが大きくなると疲労強度が低下することが分かった。
そのため、本実施形態に係る電縫鋼管1では、母材部2における、内面側の表面粗さをJISB0601:2013に規定された最大谷深さRvで300μm以下とする。内面側の表面(内表面)の最大谷深さRvが300μmを超えると、疲労き裂が早期に発生・成長することで疲労強度が低下し、焼入れ焼戻し後に本実施形態における疲労強度の基準値である繰り返し回数8万回を安定的に満足できない。表面の最大谷深さRvは、好ましくは100μm以下である。
上述のような最大谷深さRvは、スケール制御等のために圧延、酸洗等を適切に実施し、また、鋼材の製造時や輸送時などの搬送を適切に実施して腐食孔やキズを抑制することによって得られる。
上述の鋼管の母材部2における内面側の表面粗さは、以下の方法で測定することができる。すなわち、接触式または非接触式の形状測定装置を用いて高さ分布を測定し、JISB0601:2013に準拠して表面粗さを算出する。」(段落【0043】、【0044】)
「<母材部(鋼板)に含まれる最大介在物径:300μm以下>
本発明者らの検討の結果、上述したビードカット深さ、内面側の表面粗さを所定の範囲内に制御したとしても、図4に示すように、母材部2に含まれる最大介在物径が大きくなると、疲労強度が低下することが分かった。そのため、電縫鋼管の疲労強度の向上には、表面を起点とする疲労破壊だけでなく、鋼管に用いられる鋼板の内部に存在する介在物を起点とする疲労破壊を抑制する必要がある。
本実施形態に係る電縫鋼管1では、母材部2に含まれる最大介在物径を300μm以下とする。最大介在物径が300μmを超えると、疲労き裂は早期に発生・成長して疲労強度が低下し、焼入れ焼戻し後に本実施形態における疲労強度の基準値である繰り返し回数8万回に安定的に到達しない。好ましくは、最大介在物径は、100μm以下である。
母材部2に含まれる最大介在物径は、以下の方法で測定することができる。
すなわち、鋼管断面を45°ピッチで光学顕微鏡およびSEMで観察し、発見された最大介在物の面積を測定し、測定された最大介在物面積と等しい面積を有する円の直径を最大介在物径とする。」(段落【0045】、【0046】)
ウ そして、本件明細書の実施例1(段落【0071】~【0078】)は、本件発明1の発明特定事項を満たすことで、ねじり疲労試験の破断回数が10万回を超えることが示されている。また、本件発明1の発明特定事項のいずれかを満たさない比較例は、ねじり疲労試験の破断回数が8万回未満(鋼管11~15、18、19、Y)となり、所望の疲労強度が得られないことが示されている。
エ そうすると、当業者であれば、本件発明1が、十分な加工性を有し、焼入れ焼戻し後の疲労強度に優れる中空スタビライザー用電縫鋼管であることが理解できるといえる。
オ 以上によれば、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。また、本件発明2~4についても同様である。
カ よって、本件発明1~4について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものである。
(3)本件発明5について
ア 上記本件発明が解決しようとする課題に対し、本件発明5の中空スタビライザー用電縫鋼管の製造方法は、
「請求項1~4のいずれか一項に記載の中空スタビライザー用電縫鋼管を製造する方法であって、電気抵抗溶接によって成形された電縫鋼管を、800℃以上かつ1000℃以下に加熱した後に放冷する熱処理を行う、中空スタビライザー用電縫鋼管の製造方法。」との技術的事項で特定されている。
イ 一方、本件明細書には、上記本件発明が解決しようとする課題に関し、以下の事項が記載されている。
「ビードカットを行った後、電縫鋼管に対し、800℃以上、かつ1000℃以下に加熱する熱処理(いわゆるノルマ処理)を実施する。この熱処理によって、溶接部を含む最高硬さを低減させることができる。加熱温度は800℃以上のオーステナイト変態温度以上が望ましいが、硬さや組織制御ができていれば、必ずしも変態温度を超える必要はない。溶接等で生成した硬化組織は冷間加工の際のキズの発生の原因となるので、上記熱処理によって冷間加工によるキズの発生を抑制することができる。
加熱温度が800℃未満では硬化組織が残存し、冷間加工性が劣化する。そのため、加熱温度を800℃以上とすることが好ましい。一方加熱温度が1000℃超となると組織が、粗大なオーステナイト(γ)粒となり、硬化組織または炭化物等が生成する。この場合、加工性が劣化する。そのため、加熱温度を1000℃以下とすることが好ましい。より好ましくは950℃以下である。
加熱後の冷却速度に関しては、フェライト、パーライト組織を生成させるため放冷とする。放冷の場合、好ましくは800から500℃の平均冷却速度で3℃/s以下である。」(段落【0064】)
ウ そして、本件明細書の実施例1(段落【0071】~【0078】)は、本件発明5の発明特定事項を満たすことで、ねじり疲労試験の破断回数が10万回を超えることが示されている。また、本件発明5の発明特定事項のいずれかを満たさない比較例は、伸管時に疵が発生するか、伸管ができないかにより、ねじり疲労試験を行うことができなかったことが示されている。
エ そうすると、当業者であれば、本件発明5が、十分な加工性を有し、焼入れ焼戻し後の疲労強度に優れる中空スタビライザー用電縫鋼管の製造方法であることが理解できるといえる。
オ 以上によれば、本件発明5は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
カ よって、本件発明5について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものである。
(4)本件発明6~8について
ア 上記本件発明が解決しようとする課題に対し、本件発明6の中空スタビライザーは、
「母材部と溶接部とからなる中空スタビライザーであって、
前記母材部が、化学成分として、質量%で、
C:0.30~0.38%、
Si:0.15~0.30%、
Mn:1.20~1.50%、
Al:0.020~0.060%、
Ti:0.020~0.050%、
B:0.0010~0.0050%、
Cr:0.10~0.25%、
Mo:0~0.20%、
Ca:0.0005~0.0050%、
Cu:0~0.25%、
Ni:0~0.25%、
V:0~0.05%、
N:0.0060%以下、
P:0.020%以下、
S:0.0100%以下、
O:0.0050%以下、
を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
前記母材部の肉厚が2.0~6.0mm、前記母材部の外径が10~40mmであり、
C方向断面において、
前記中空スタビライザーの中空部の内面側の、前記溶接部を含む領域に凹部が存在し、
前記溶接部の内面側の一方の端部からもう一方の端部へ最短距離で仮想線を引いたとき、前記仮想線から前記凹部の底までの最大深さが300μm以下であり、
前記母材部に含まれる最大介在物径が300μm以下であり、
前記母材部における、前記内面側の表面粗さが、最大谷深さRvで300μm以下であり、
表面硬さが455Hv以上である、
中空スタビライザー。」との技術的事項で特定されている。
イ 一方、本件明細書には、上記本件発明が解決しようとする課題に関し、以下の事項が記載されている。
「<凹部の底までの最大深さが300μm以下、好ましくは100μm以下>
上述したように、電縫鋼管には、通常、内面側の、溶接部を含む領域に凹形状の溶接ビードが切削冶具等によって切削されて形成されたビードカットが存在する。そのため、電縫鋼管を、伸管して、または伸管せずに、スタビライザー形状に加工した中空スタビライザーの内面側では、ビードカットに起因する凹部が存在したり、または、伸管によってビードカットが折れ込んで形成される凹部が存在したりする場合がある。これらの凹部は中空スタビライザーの疲労強度を低下させる。
本実施形態に係る中空スタビライザーでは、ビードカットの最大深さが小さい電縫鋼管を用いて製造されるので、ビードカットに起因する凹部の深さが小さく、また、ビードカットの折れ込みが抑制される。そのため、凹部の最大深さが小さい。
具体的には、本実施形態に係る中空スタビライザーでは、中空部の中心軸方向とは垂直な方向の断面(C方向断面)でみたとき、中空スタビライザーの中空部の内面側の、溶接部を含む領域において、溶接部の内面側の一方の端部からもう一方の端部へ最短距離で仮想線を引いたとき、仮想線から前記凹部の底までの最大深さが300μm以下である。好ましくは、最大深さが100μm以下である。
本実施形態に係る中空スタビライザーでは、上記の最大深さが300μm以下であるので、疲労強度に優れる。
上述の凹部の深さは、凹部横の最大肉厚と凹部の肉厚を測定し、最大肉厚から凹部の最も薄い部分の肉厚を引くことで測定する。肉厚は、例えばマイクロメーターで測定すればよい。」(段落【0053】)
「<母材部における、内面側の表面粗さ:最大谷深さRvで300μm以下、好ましくは100μm以下>
上述した溶接部の凹部の形状を制御することで、中空スタビライザーの中空部の内面の溶接部を起点とする疲労破壊のような繰り返し荷重がかかった場合の破壊を抑制することができるので疲労強度が向上する。しかしながら、疲労破壊は、溶接部以外からも発生するので、溶接部の形状の制御だけでは、十分に疲労強度が向上しない。
そのため、本実施形態に係る中空スタビライザーでは、中空スタビライザーの中空部の内面側の表面粗さをJISB0601:2013に規定された最大谷深さRvで300μm以下とする。内面側の表面(内表面)の最大谷深さRvが300μmを超えると、疲労き裂が早期に発生・成長することで疲労強度が低下する。表面の最大谷深さRvは、好ましくは100μm以下である。
上述のような最大谷深さRvは、内面側の最大谷深さが300μm以下である電縫鋼管を用い、伸管を行う場合には、伸管を適切に実施することによって得られる。
上述の中空部の内面側の表面粗さは、接触式または非接触式の形状測定装置を用いて高さ分布を測定し、JISB0601:2013に準拠して表面粗さを算出する。」(段落【0054】、【0055】)
「<母材部に含まれる最大介在物径:300μm以下>
上述した溶接部の凹部の深さ、中空部の内面側の表面粗さを所定の範囲内に制御したとしても、母材部に含まれる最大介在物径が大きくなると、疲労強度が低下する。そのため、本実施形態に係る中空スタビライザーでは、母材部に含まれる最大介在物径を300μm以下とする。最大介在物径が300μmを超えると、疲労き裂は早期に発生・成長して疲労強度が低下する。好ましくは、最大介在物径は、100μm以下である。
中空スタビライザーの最大介在物径を上記の範囲とするには、素材として、母材部(鋼板)に含まれる最大介在物径が300μm以下である電縫鋼管を用いればよい。
母材部に含まれる最大介在物径は、以下の方法で測定することができる。
すなわち、鋼管断面を45°ピッチで光学顕微鏡およびSEMで観察し、発見された最大介在物の面積を測定し、測定された最大介在物面積と等しい面積を有する円の直径を最大介在物径とする。」(段落【0056】【0057】)
ウ そして、本件明細書の実施例1(段落【0071】~【0078】)は、本件発明6の発明特定事項を満たすことで、ねじり疲労試験の破断回数が10万回を超えることが示されている。また、本件発明6の発明特定事項のいずれかを満たさない比較例は、ねじり疲労試験の破断回数が8万回未満(鋼管11~15、18、19、Y)となり、所望の疲労強度が得られないことが示されている。
エ そうすると、当業者であれば、本件発明6が、疲労強度に優れる中空スタビライザーであることが理解できるといえる。
オ 以上によれば、本件発明6は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。また、本件発明7、8についても同様である。
カ よって、本件発明6~8について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものである。
(5)本件発明9、10について
ア 上記本件発明が解決しようとする課題に対し、本件発明9の中空スタビライザーの製造方法は、
「請求項6~8のいずれか一項に記載の中空スタビライザーの製造方法であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載の中空スタビライザー用電縫鋼管を伸管する伸管工程と、
前記伸管工程後の前記電縫鋼管を、800℃~1000℃に加熱する熱処理工程と、
前記熱処理工程後の前記電縫鋼管を、中空スタビライザー形状に加工する加工工程と、
前記加工工程後の前記電縫鋼管を、900℃~1200℃に加熱した後、30℃/s以上の冷却速度で冷却する焼入れ工程と、
前記焼入れ工程後の前記電縫鋼管を、200~400℃に加熱する焼き戻し工程と、
を含む、中空スタビライザーの製造方法。
」との技術的事項で特定されている。
イ 一方、本件明細書には、上記本件発明が解決しようとする課題に関し、以下の事項が記載されている。
「(伸管工程)
目的とするスタビライザーの形状に基づいて、必要に応じて、電縫鋼管を伸管する。例えば伸管は10~40%の減面率(伸管前の断面積と伸管後の断面積の差を、伸管前の断面積で除した値×100)の範囲である。
(熱処理工程)
伸管を行った電縫鋼管は、加工性が低下する。そのため、引き続いて行う加工工程での加工性を確保するため、熱処理を行ってもよい。
熱処理を行う場合、伸管工程後の前記電縫鋼管を、800℃~1000℃に加熱し、空冷することが好ましい。
(加工工程)
加工工程では、電縫鋼管を、中空スタビライザー形状に加工する。加工は、目的の形状が得られれば限定されず、例えば、熱間加工、温間加工、冷間加工のいずれでもよい。
(焼入れ工程)
(焼戻し工程)
焼入れ工程及び焼戻し工程では、加工工程後の中空スタビライザー形状を有する電縫鋼管を、900℃~1200℃に加熱した後、30℃/s以上の冷却速度で冷却し(焼入れ)、200℃~400℃に加熱し、水冷または空冷により冷却(焼戻し)する。焼入れ温度、冷却速度、焼戻し温度を制御することによって組織や表面硬さを制御することができる。」(段落【0067】~【0070】)
ウ そして、本件明細書の実施例2(段落【0079】~【0084】)は、本件発明9の発明特定事項を満たすことで、ねじり疲労試験の破断回数が10万回を超えることが示されている。また、本件発明10の焼戻し温度を満たさない比較例は、ねじり疲労試験の破断回数が10万回未満(スタビライザー4)となり、所望の疲労強度が得られないことが示されている。
エ そうすると、当業者であれば、本件発明9が、疲労強度に優れる中空スタビライザーの製造方法であることが理解できるといえる。
オ 以上によれば、本件発明9は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。また、伸管工程及び伸管工程後の熱処理工程を有しない本件発明10についても同様である。
カ よって、本件発明9、10について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものである。
(6)申立人の主張について
ア ビードカット深さについて
申立人は特許異議申立書の3(4)エ(ア)において、「ビードカット深さが300μm以下(凹部の底までの深さ)であっても300μm付近で疲労強度が向上するかどうか明らかでないから、本件発明1~10は、サポート要件を満たしていない。」と主張する。
しかしながら、本件明細書の段落【0040】で、「ビードカット深さdが300μmを超えると、伸管後に基準深さ以上の折れ込みが発生し、折れ込み部から疲労き裂が早期に発生・成長することで疲労強度が低下し、焼入れ焼戻し後に本実施形態における疲労強度の基準値である、疲労試験における破断までの負荷応力の繰り返し回数8万回に安定的に到達しないことが分かった。」と説明されているので、ビードカット深さdが300μm付近であっても、ビードカット深さが300μm以下である限り、本件発明は、本件発明の課題を解決し得るものと認められる。また、ビードカット深さdが300μm付近において疲労強度が向上しないとの具体的な根拠は示されていない。
よって、申立人の主張は採用できない。
イ 最大介在物径について
申立人は特許異議申立書の3(4)エ(イ)において、甲第2号証において、清浄度dが0.15%の電縫鋼管は、比較例として示されているものであるから、最大介在物径が200μmを超える電縫鋼管は、耐疲労特性の劣るものである。また、甲第7号証には、疲労耐久試験を実施した結果、「比較鋼を用いて製造された比較例である試験材r~vは、いずれも長さ150μm超えのMnSが鋼中に存在するために、20本中2本以上で外面の電縫溶接部付近から早期に破断する場合があった。」と記載されているから、最大介在物径が300μm以下であっても150μmを超える場合、電縫鋼管の疲労強度が向上するとはいえないから、本件発明1~10は、サポート要件を満たしていない、旨主張する。
しかしながら、本件発明と甲第2号証及び甲第7号証に記載される電縫鋼管との相違や、それぞれの疲労強度の評価基準の相違を無視して、甲第2号証及び甲第7号証の最大介在物径のみで、本件発明の疲労強度を評価できる理由が不明である。
また、本件明細書の段落【0045】で、「最大介在物径が300μmを超えると、疲労き裂は早期に発生・成長して疲労強度が低下し、焼入れ焼戻し後に本実施形態における疲労強度の基準値である繰り返し回数8万回に安定的に到達しない。」と説明されているので、最大介在物径が150μmを超える場合であっても、最大介在物径が300μm以下である限り、本件発明は、本件発明の課題を解決し得るものと認められる。
よって、申立人の主張は採用できない。
ウ 表面粗さRvについて
申立人は特許異議申立書の3(4)エ(ウ)において、甲第1号証には、Raが7.0μmの電縫鋼管は、疲労強度が劣る比較例として示されているが、甲第9号証及び甲第10号証を参照すると、この場合のRzは51μm(Rz=Ra/0.137=51)であり、Rvは、これを下回るものであるから、表面粗さRvが300μm以下であっても51μm以上で疲労強度が優れるとはいえないから、本件発明1~10は、サポート要件を満たしていない、旨主張する。
しかしながら、本件発明と甲第1号証に記載される電縫鋼管との相違や、それぞれの疲労強度の評価基準の相違を無視して、甲第1号証の表面粗さRvのみで、本件発明の疲労強度を評価できる理由が不明である。
また、本件明細書の段落【0043】で、「内面側の表面(内表面)の最大谷深さRvが300μmを超えると、疲労き裂が早期に発生・成長することで疲労強度が低下し、焼入れ焼戻し後に本実施形態における疲労強度の基準値である繰り返し回数8万回を安定的に満足できない。」と説明されているので、表面粗さRvが51μm以上で場合であっても、最大介在物径が300μm以下である限り、本件発明は、本件発明の課題を解決し得るものと認められる。
よって、申立人の主張は採用できない。
エ Caの含有量について
申立人は特許異議申立書の3(4)エ(エ)において、「Ca:0.0005以上であっても、0.0015%を遙かに下回る場合、介在物の形態制御ができ、疲労強度が向上するかどうか明らかでない」から、本件発明1~10は、サポート要件を満たしていないと主張する。
しかしながら、本件明細書の段落【0028】で、「Caは、鋼管中の介在物を微細にし、疲労強度の向上に寄与する元素である。Ca含有量が0.0005%未満では、この効果が十分に得られない。」と説明されているので、Ca:0.0005%以上であれば、本件発明は、本件発明の課題を解決し得るものと認められる。仮に、Caによる介在物の微細化効果が得られなかったとしても、最大介在物径が300μm超となる発明は、本件発明の範囲外となる。
よって、申立人の主張は採用できない。
オ ESSP値について
申立人は特許異議申立書の3(4)エ(オ)において、本件明細書に具体的に記載されている本発明例のESSP値は0.42以上であるから、ESSP値を0.42以上に特定しないと、「疲労強度に優れる中空スタビライザー」を提供するという課題を解決することができるかどうか不明であり、本件発明1~10は、サポート要件を満たしていない、旨主張する。
しかしながら、本件明細書の段落【0038】で、「ESSPが0.20未満であると、O含有量及びS含有量に対してCa含有量が不足してMnSが生成しやすくなる。圧延で延伸したMnSは、疲労強度の低下や水素割れの起点となるとなるので、ESSPは0.20以上とすることが好ましい。」と説明されているので、ESSP値が0.42未満であっても、0.20以上である限り、本件発明は、本件発明の課題を解決し得るものと認められる。仮に、ESSP値が0.42未満のときに、MnSが生成しやすくなったとしても、最大介在物径が300μm超となる発明は、本件発明の範囲外となる。
よって、申立人の主張は採用できない。
カ 中空スタビライザーについての実施例について
申立人は特許異議申立書の3(4)エ(カ)において、「本件明細書の段落【0071】~【0078】に実施例1として記載されているのは、本件発明1~5の中空スタビライザー用電縫鋼管の実施例であり、本件発明6~10の中空スタビライザーについては、実施例が全く記載されていない。」から、本件発明6~10は、サポート要件を満たしていないと主張する。
しかしながら、本件発明1~4の電縫鋼管に、伸管及び焼ならしを施し又は施さず、次いで焼入れ及び焼戻しを施すことで、凹部の底までの最大深さ、最大介在物径及び内面側の表面粗さのそれぞれが300μm超となることを示す証拠はないから、本件発明6~8の中空スタビライザーの中空部の内面側の、溶接部を含む領域に凹部が存在し、前記溶接部の内面側の一方の開口縁からもう一方の開口縁へ最短距離で仮想線を引いたとき、前記仮想線から前記凹部の底までの最大深さを300μm以下とすること、母材部に含まれる最大介在物径を300μm以下とすること、及び、母材部における、内面側の表面粗さが、最大谷深さRvで300μm以下とすることは、本件明細書に記載されているものと認められる。
よって、申立人の主張は採用できない。
(7)申立理由4のまとめ
以上のとおり、申立理由4によっては、本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
第7 まとめ
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700283