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特許異議申立

2023-700281

剥離性フィルム

審判番号
2023-700281
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-500047
登録番号
7140099
請求日
2023年03月14日
審決日
2023年06月14日
公報発行日
2023年07月28日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】王子ホールディングス株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
  • 【異議申立人】浅野 幸義
審判長/審判官
  • 審判長 井上 茂夫
  • 審判官 森本 哲也
  • 審判官 稲葉 大紀
分類
P1651.536-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B) / P1651.113-Y (B32B) / P1651.121-Y (B32B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7140099号発明「剥離性フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7140099号の請求項1~5に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7140099号の請求項1~5に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)2月14日(優先権主張 平成29年2月14日)を国際出願日とする出願であって、令和4年9月12日にその特許権の設定登録がされ、令和4年9月21日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年3月14日に特許異議申立人浅野幸義(以下「申立人」という。)により、本件特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 特許第7140099号の請求項1~5の特許に係る発明(以下請求項1~5に係る各発明を、請求項の番号に従って「本件発明1」等という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 基材層上に表面層を有する剥離性フィルムであって、 前記表面層の主成分が樹脂成分であり、 前記樹脂成分は、主鎖であるアクリル系樹脂に対してポリシロキサン成分を側鎖として有する変性アクリル系樹脂を含み、 前記表面層は、アルカノール変性アミノ樹脂を含有せず、 前記表面層中の最表面に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比MT(atomic%)と、前記表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ10nmの位置に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比MB(atomic%)との関係が、以下の(1)及び(2): (1)(i)5≦MT/MB≦30、又は(ii)MB=0、 (2)8.5≦MT≦30 を満たし、 前記表面層中の前記樹脂成分に存在する1分子中のケイ素原子に結合した有機基のうち、フェニル基は12モル%以下である、剥離性フィルム。 【請求項2】 前記基材層の主成分が、ポリオレフィン樹脂及びポリエステル樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂である、請求項1に記載の剥離性フィルム。 【請求項3】 前記基材層の主成分が、ポリオレフィン樹脂及びポリエステル樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂であり、且つ、 前記表面層を構成する樹脂成分100質量部に対して、ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂の含有量が50質量部以下である、請求項1に記載の剥離性フィルム。 【請求項4】 前記MTが、9≦MT≦16を満たす、請求項1~3のいずれか一項に記載の剥離性フィルム。 【請求項5】 請求項1~4のいずれか一項に記載の剥離性フィルムの表面層上に、少なくとも粘着性層が形成されている積層体。」 第3 申立理由の概要 申立人は、以下に示す甲第1号証を提出し、概略以下の申立理由1~4により、請求項1~5に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。 [証拠方法] 甲第1号証:特開2012-16876号公報 (以下、甲第1号証を「甲1」という。) 申立理由1:本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、本件発明1~5は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項1~5に係る特許は特許法第36条第4項第1号又は同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消すべきものである。 申立理由2:本件発明1~5は、明確ではないから、請求項1~5に係る特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消すべきものである。 申立理由3:本件発明1~5は、甲1に記載された発明であるから、請求項1~5に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。 申立理由4:本件発明1~5は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。 第4 当審の判断 1 申立理由1(特許法第36条第4項第1号又は同条第6項第1号)について (1) 本件特許明細書の記載について 実施可能要件について、本件特許明細書の特に段落【0089】~【0094】及び【0098】~【0100】には、本件発明1~5の数値範囲を満たす剥離性フィルムについて、実施例1~6が記載されているとともに、当該実施例1~6を実施できることが具体的に記載されている。 そして、段落【0068】の前段には、「MT及びMT/MBの値を調整する手段としては、(a)のポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂内のポリシロキサン成分の種類及びその含有量;(a)のポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂の含有量;(b)のポリシロキサン成分を有さないアクリル系樹脂成分の種類及びその含有量;架橋剤(c)の種類及びその含有量;表面層を形成する際に、後記塗工液を使用する場合における溶媒の種類、塗工後の乾燥温度及び時間、塗工量(又は膜厚);などが挙げられる。」と記載されているように、「MT及びMT/MBの値を調整する手段」が例示されている。 これらの記載を踏まえれば、本件発明1~5で特定している「MT/MB」や「MT」の値を調整できることは、当業者にとって明らかである。 サポート要件について、本件特許明細書の段落【0008】に記載されているように、本件発明の課題は「剥離力が軽いという良好な剥離性を有すると共に、フィルム表面からのシリコーン移行を抑制した剥離性フィルムを提供すること」である。そして、特に段落【0062】~【0065】に記載されているように、課題解決手段として、請求項1にも特定されている 「基材層上に表面層を有する剥離性フィルムであって、 前記表面層の主成分が樹脂成分であり、 前記樹脂成分は、ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂を含み、 前記表面層中の最表面に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比MT(atomic%)と、前記表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ10nmの位置に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比MB(atomic%)との関係が、以下の(1)及び(2): (1)(i)5≦MT/MB≦30、又は(ii)MB=0、 (2)8.5≦MT≦30 を満たす」ことで、良好な剥離性とフィルム表面からのシリコーン移行の抑制を両立したものと当業者は理解できる。 (2) 申立人の主張について ア 申立人は、特許異議申立書において、次の主張をしている。 主張A:「「MT/MB」は一般的なパラメータではない。 従って、本件特許明細書において、「MT/MB」の制御方法を当業者が十分に理解できるように説明することが、実施可能要件の点から要求される。 しかしながら、以下に示すように、本件特許明細書からは「MT/MB」の制御方法が明確でない。また、「MT/MB」の制御方法は、当業者の技術常識で理解又は予測しうるものではない。 ・・・ このように、「MT/MB」の制御方法について、本件特許明細書の【0068】に記載されている傾向と本件特許明細書の実施例で示されている傾向は正反対であり、相互に矛盾する。このため、本件特許明細書を読んだ当業者は、「MT/MB」の正確な制御方法を理解することができない。その結果として、当業者は、本件特許明細書の記載に基づいて本件特許発明を容易に実施することができない。また、この制御方法は、当業者の技術常識で推定できるものではない。 ・・・ このように、本件特許明細書では、MTの制御方法について技術的に明らかに意味不明な説明を行っており、その結果として、当業者は、本件特許明細書の記載に基づいて本件特許発明を容易に実施することができない。」(第10ページ第27行~第18ページ第23行。) 主張B:「それ故、本件特許発明は、サポート要件の点から、せいぜい本件特許明細書の実施例で効果を実証した範囲に限定されるべきである。 具体的には、本件特許の請求項1の発明は、本件特許明細書の実施例1~6に基づいて、特定の三種類の溶液を特定の配合割合で混合したものを塗工液として形成される表面層を有するものに限定されるべきである。 その限定にあたっては、これらの実施例で使用された塗工液はいずれも「イソシアネート系架橋剤」を含有する(本件特許明細書の【0089】~【0094】)ので、「イソシアネート系架橋剤」の含有も必須要件として本件特許の請求項1の発明において規定されるべきである。 また、これらの実施例で使用された塗工液はいずれも、その構成成分から見て「フェニル基」を全く含有していないので、本件特許の請求項1の発明における「前記表面層中の前記樹脂成分に存在する1分子中のケイ素原子に結合した有機碁のうち、フェニル基は12モル%以下である」という規定は、「前記表面層中の前記樹脂成分に存在する1分子中のケイ素原子に結合した有機基のうち、フェニル基は0モル%である」に限定されるべきである。 さらに、サポート性の観点から、本件特許の請求項1の発明において「剥離性フィルム」の表面層の厚さ及び基材層の厚さ、並びに基材層の構成成分が全く規定されていないことが問題である。本件特許明細書の実施例では、特定の厚さ(0.6μm)の表面層及び特定の厚さ(38μm)のポリエチレンテレフタレートフィルムの基材層しか使用していない(本件特許明細書の【0089】~【0094】、【0099】の【表1】)。この実施例に記載のもの以外について同様の効果を奏するとは到底推定できない。従って、本件特許の請求項1の発明は、この実施例に基づいて表面層の厚さ及び基材層の厚さ、並びに基材層の構成成分を限定すべきである。」(第18ページ第26行~第19ページ第21行。) イ 当該各主張について、以下検討する。 (ア) 主張Aについて 上記(1)に記載したとおり、本件特許明細書の特に段落【0089】~【0094】及び【0098】~【0100】には、実施例1~6を実施できることが具体的に記載されており、段落【0068】の前段には、「MT及びMT/MBの値を調整する手段」が例示されている。 申立人が述べるとおり、段落【0068】の後段の記載と、実施例の記載に関し、「MT/MB」の傾向に矛盾があるものの、本件発明1~5を実施するに当たり、本件段落【0068】の前段に記載された「ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂内のポリシロキサン成分の種類及びその含有量」や、「(a)のポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂の含有量;(b)のポリシロキサン成分を有さないアクリル系樹脂成分の種類及びその含有量」等の諸条件を適宜調整することは、当業者が当然に行うことであり、諸条件に応じて「MT及びMT/MBの値」が変化することは当業者にとって明らかである。そして、諸条件を適宜調整することで「MT及びMT/MBの値」を調整することは、過度の試行錯誤を要するものではなく、本件発明1~5の実施ができないというものでもない。 したがって、申立人の主張Aは採用できない。 (イ) 主張Bについて 本件特許明細書の段落【0048】には、「表面層中の樹脂成分に存在する1分子中のケイ素原子に結合した有機基のうち、フェニル基は12モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましく、フェニル基を含有しないことが特に好ましい。」と記載されているように、「フェニル基は12モル%以下」とすることが記載されている。 申立人は、フェニル基を0モル%よりも多く、12モル%以下含有した場合に、本件発明1~5が解決する課題(本件特許明細書の段落【0008】)を解決できないとする技術的根拠や具体的な実験結果を示しているものでもないから、フェニル基についての申立人の上記主張Bを採用することはできない。 「イソシアネート系架橋剤」や、「剥離性フィルム」の表面層の厚さ及び基材層の厚さ、並びに基材層の構成成分についても、それらを特定していないものが本件発明の上記課題を解決できないとする技術的根拠や具体的な実験結果を示しているものでもないから、これらの点についても、申立人の上記主張Bを採用することはできない。 (3) 小括 以上のとおりであるから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。 また、本件特許の特許請求の範囲の記載は、同条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。 2 申立理由2(特許法第36条第6項第2号)について (1) 特許請求の範囲の記載について 特許請求の範囲の記載内容は、上記第2に記載したとおりであり、請求項1~5の記載は明確である。 (2) 申立人の主張について ア 申立人は、特許異議申立書において、次の主張をしている。 主張C:「本件特許の請求項1の発明では「剥離性フィルム」の表面層の厚さを全く規定していない。 しかしながら、本件特許の請求項1の発明の他の規定を考慮すると、本件特許の請求項1の発明において「剥離性フィルム」の表面層の厚さを規定しなければ、本件特許の請求項1の発明が不明確となることは明らかである。 本件特許の請求項1の発明では、MBは、「表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ10nmの位置に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比MB(atomic%)」であると定義されている。この定義は、表面層の厚さが10nmより大きいということを暗黙の前提としていると思われる。 ・・・ しかるに、本件特許の請求項1の発明では「剥離性フィルム」の表面層の厚さを全く規定しておらず、表面層の厚さが10nm(0.01μm)以下である場合も包含している。従って、本件特許の請求項1の発明は、不明確である。また、同様の不備は、請求項1に従属する残りの請求項2~4(当審注:「2~5」の誤記であると認める。)の発明に対しても当てはまる。 ・・・ しかしながら、(理由1) 実施可能要件又はサポート要件で指摘したように、本件特許明細書の実施例では、特定の厚さ(0.6μm)の表面層しか使用していない。 このことも考慮すると、特許権者は、本件特許の請求項1の発明において「剥離性フィルム」の表面層の厚さを、本件特許明細書の実施例でサポートされている「0.6μm」に限定するしか明確性の不備は解消されないと思われる。」(第19ページ最終行~第21ページ第8行。) イ 当該主張Cについて、以下検討する。 請求項1の記載を勘案すれば、申立人の主張のとおり、「表面層の厚さが10nmより大きい」ことは当業者にとって明らかである。 そうしてみれば、本件発明1~5は明確である。 したがって、申立人の主張Cは採用できない。 ウ なお、申立人は、特許異議申立書において、本件特許明細書の段落【0062】等に誤記が存在する旨も主張するものの、当該主張は、特許請求の範囲の記載不備についての申立理由2に基づくものではない。また、申立人の主張のとおり、誤記であることは明らかであり、また、当業者に誤認や混乱をもたらすものとはいえない。 (3) 小括 以上のとおりであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。 3 申立理由3(特許法第29条第1項第3号)及び申立理由4(同条第2項)について (1) 甲1に記載された発明 甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる(甲1の【請求項1】参照。)。 「基材フィルムの少なくとも片面に帯電防止層を有する帯電防止フィルムであって、 前記帯電防止層がアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂(A)と、 イソシアネートを有する有機官能基で少なくとも一つは変性されたシラン化合物(B)と、 π電子共役系導電性高分子(C)とを主たる構成成分とする、 帯電防止フィルム。」 (2) 本件発明1について ア 甲1発明との対比 本件発明1と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲1発明の「基材フィルム」、「帯電防止層」は、それぞれ本件発明1の「基材層」、「表面層」に相当する。 また、甲1発明の「基材フィルムの少なくとも片面に帯電防止層を有する帯電防止フィルム」と本件発明1の「基材層上に表面層を有する剥離性フィルム」とは、「基材層上に表面層を有する」「フィルム」という層構成である限りにおいて一致する。 さらに、甲1発明の「前記帯電防止層がアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂(A)と、 イソシアネートを有する有機官能基で少なくとも一つは変性されたシラン化合物(B)と、 π電子共役系導電性高分子(C)とを主たる構成成分とする」態様は、本件発明1の「前記表面層の主成分が樹脂成分であり、 前記樹脂成分は、主鎖であるアクリル系樹脂に対してポリシロキサン成分を側鎖として有する変性アクリル系樹脂を含」む態様と、「前記表面層の主成分が樹脂成分であり、 前記樹脂成分は、アクリル系樹脂を含」む構成である限りにおいて一致する。 そうしてみると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「基材層上に表面層を有するフィルムであって、 前記表面層の主成分が樹脂成分であり、 前記樹脂成分は、アクリル系樹脂を含む、 フィルム。」 【相違点1】 「基材層上に表面層を有するフィルム」について、本件発明1は、「剥離性フィルム」であるのに対し、甲1発明は、「帯電防止フィルム」であり、「剥離性フィルム」に該当するか不明な点。 【相違点2】 「表面層」の構成について、本件発明1は、「アルカノール変性アミノ樹脂を含有せず、」「前記表面層中の前記樹脂成分に存在する1分子中のケイ素原子に結合した有機基のうち、フェニル基は12モル%以下である」のに対し、甲1発明は、当該構成に該当するか不明な点。 【相違点3】 「表面層」が含有する「ケイ素」について、本件発明1は、「前記表面層の主成分が樹脂成分であり、 前記樹脂成分は、主鎖であるアクリル系樹脂に対してポリシロキサン成分を側鎖として有する変性アクリル系樹脂を含み、」「前記表面層中の最表面に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比MT(atomic%)と、前記表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ10nmの位置に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比MB(atomic%)との関係が」「(1)(i)5≦MT/MB≦30、又は(ii)MB=0」及び「(2)8.5≦MT≦30」を満たすのに対し、甲1発明は、「前記帯電防止層がアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂(A)と、 イソシアネートを有する有機官能基で少なくとも一つは変性されたシラン化合物(B)と、 π電子共役系導電性高分子(C)とを主たる構成成分とする」ものの、本件発明1でいう「MT」及び「MB」の値が不明な点。 イ 判断 まず、相違点3について、検討する。 甲1には、「MT」及び「MB」の値について、記載も示唆もない。 そして、本件発明1は、相違点3に係る当該構成を採用することにより、「剥離力が軽いという良好な剥離性を有するとともに、シリコーン成分の移行がしにくい。」(本件特許明細書の段落【0011】)という効果を奏するものである。 そうすると、甲1発明において、上記相違点3に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。 なお、申立人は、「さらに述べると、「MT/MB」や「MB」については、上述の考察から、本件特許の請求項1の発明に規定される「主鎖であるアクリル系樹脂に対してポリシロキサン成分を側鎖として有する変性アクリル系樹脂」を使用すると必然的に「MT/MB」や「MB」は本件特許の請求項1の発明に規定される数値範囲内になることは明らかである。 「MT」については、本件特許発明のもう一つの目的である「良好な剥離性」の達成手段(本件明細書【0065】)であるが、実際には、「MT」は、その定義から見て、剥離力の向上に寄与するシリコーン成分の含有量の指標にすぎない。従って、先行技術文献にシリコーン成分の含有量が記載されており、それが本件特許明細書の実施例に示されているシリコーン成分の含有量と同じレベルであるなら、「MT」も本件特許の請求項1の発明の範囲内である蓋然性が高い。」と主張する(第35ページ第6行~第17行)。 しかしながら、「MT」及び「MB」の値について、甲1には何ら記載も示唆もなく、上記1(1)及び上記1(2)イ(ア)で記載したように、それらの値は、諸条件に応じて変化することは当業者にとって明らかである。そうしてみれば、「主鎖であるアクリル系樹脂に対してポリシロキサン成分を側鎖として有する変性アクリル系樹脂」を使用すると必然的に「MT/MB」や「MB」が本件発明1の数値範囲内になるとはいえない。 ウ 以上のとおりであるから、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではない。また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3) 本件発明2~5について 本件発明2~5は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(2)で検討したのと同じ理由により、本件発明2~5は、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4) 小括 以上のとおりであるから、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反してされたものではない。 第5 むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700281

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