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特許異議申立

2023-700261

タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

審判番号
2023-700261
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-245980
登録番号
7182460
請求日
2023年03月09日
審決日
2023年11月20日
公報発行日
2023年12月28日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】TOYO TIRE株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人蔦田特許事務所
  • 【異議申立人】有光 美紗子
審判長/審判官
  • 審判長 細井 龍史
  • 審判官 藤井 勲
  • 審判官 海老原 えい子
分類
P1651.121-Y (C08L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7182460号発明「タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7182460号の請求項1、2に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件特許第7182460号に係る出願は、平成30年12月27日の出願であって、令和4年11月24日に特許権の設定登録がされ、同年12月2日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、令和5年3月9日に、本件の請求項1、2に係る特許に対して、特許異議申立人 有光 美紗子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。その後の経緯は以下のとおりである。 令和 5年 8月17日付け 取消理由通知書 同年10月20日 意見書の提出(特許権者) 申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第1号証 特開2015-110704号公報 甲第2号証 特開2018-131516号公報 甲第3号証 特開2008-174696号公報 甲第4号証 特開2005-213380号公報 以下、甲第1~4号証を、それぞれ「甲1」~「甲4」という。 第2 本件発明 本件特許の請求項1及び2に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下請求項1及び2に係る発明をそれぞれ、「本件発明1」及び「本件発明2」といい、これらをまとめて「本件発明」という。また、本件の願書に添付された明細書を「本件明細書」という)。 【請求項1】 ガラス転移温度が-50℃以上のスチレンブタジエンゴムを含むジエン系ゴム成分100質量部に対して、 モノマーの90質量%以上がスチレンであるポリスチレン樹脂を水添してなり、水添率が35~80%の部分水添ポリスチレン樹脂1~50質量部と、シリカ50~150質量部を含む、タイヤ用ゴム組成物。 【請求項2】 請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物を用いて作製された空気入りタイヤ。 第3 特許異議申立理由および取消理由の概要 1 特許異議申立書に記載された申立理由 特許異議申立書(以下「申立書」という。)には、(3)ウ「本件発明1の進歩性の検討」として、「(a)本件発明1と甲1号証に記載の発明との比較」、「(b)本件発明1と甲2号証に記載の発明との比較」及び「(c)本件発明1と甲第3号証に記載の発明との比較」について記載されており、さらに、「(d)進歩性の検討」について記載されている(p6~10)。 そして、上記(a)及び(b)については、(d)において、「甲第1号証の記載を基に、・・・当業者には容易であると考えられる。」及び「甲第2号証の記載を基に、・・・当業者には容易であると考えられる」(2カ所)と進歩性が欠如するとの主張がされているが、(c)については、甲3の記載を基に当業者には容易であるといった進歩性の有無についての主張はなく、そのように解される主張もない。 よって、申立書で主張された申立理由は以下のものであると認められる。 (1)申立理由1 本件発明1及び2は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)申立理由2 本件発明1及び2は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明及び甲1又は甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである。 2 令和5年8月17日付け取消理由通知で通知した取消理由 (1)取消理由1 本件発明1及び2は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである。 第4 当審の判断 申立理由2及び取消理由1はいずれも甲2を主引例とする進歩性に係るものであるので、まず、これらについて検討し、次に申立理由1について検討する。 ここで、当審は、職権で以下の参考文献を提示する。 参考文献1 特開2015-143310号公報 1 申立理由2及び取消理由1について (1)本件発明1について ア 甲2に記載された発明 甲2の請求項1~3に着目すると、甲2には以下の発明が記載されていると認められる。 「スチレン-ブタジエンゴムを50重量%以上含むジエン系ゴム100重量部に対して、少なくとも水添スチレン系樹脂を5~30重量部含んでなるゴム組成物であって、該水添スチレン系樹脂が、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレンからなる群から選択される少なくとも1種のスチレン系誘導体単位(A)99~80重量%とインデン、メチルインデンからなる群から選択される少なくとも1種の誘導体単位(B)1~20重量%を少なくとも構成単位とするスチレン系共重合樹脂を水素化してなり、芳香族環の水素化率が70%以上の水添スチレン系共重合樹脂であることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。」(以下「甲2発明」という。) イ 対比 (ア)甲2発明の「スチレン-ブタジエンゴムを50重量%以上含むジエン系ゴム」は、本件発明1の「ガラス転移温度が-50℃以上のスチレンブタジエンゴムを含むジエン系ゴム成分」と、「スチレンブタジエンゴムを含むジエン系ゴム成分」である点で一致する。 (イ)甲2発明の「スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレンからなる群から選択される少なくとも1種のスチレン系誘導体単位(A)99~80重量%とインデン、メチルインデンからなる群から選択される少なくとも1種の誘導体単位(B)1~20重量%を少なくとも構成単位とするスチレン系共重合樹脂を水素化してなり、芳香族環の水素化率が70%以上の水添スチレン系共重合樹脂」は、本件発明1の「モノマーの90質量%以上がスチレンであるポリスチレン樹脂を水添してなり、水添率が35~80%の部分水添ポリスチレン樹脂」と、水添された樹脂である点で一致する。 (ウ)甲2発明の「水添スチレン系共重合樹脂」は「ジエン系ゴム100重量部に対して」「5~30重量部」配合されるところ、当該配合量は本件発明1の「ジエン系ゴム成分100質量部に対」する「部分水添ポリスチレン樹脂」の配合量である「1~50質量部」と重複一致する。 そうすると本件発明1と甲2発明とは、 「スチレンブタジエンゴムを含むジエン系ゴム成分100質量部に対して、水添された樹脂1~50質量部を含む、タイヤ用ゴム組成物。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 【相違点1】 ジエン系ゴム成分について、本件発明1ではガラス転移温度が-50℃以上のスチレンブラジエンゴムを含むのに対して、甲2発明ではスチレンブタジエンゴムを含むがそのガラス転移温度は不明である点 【相違点2】 水添された樹脂について、本件発明1では「モノマーの90質量%以上がスチレンであるポリスチレン樹脂を水添してなり、水添率が35~80%の部分水添ポリスチレン樹脂」であるのに対して、甲2発明では、「スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレンからなる群から選択される少なくとも1種のスチレン系誘導体単位(A)99~80重量%とインデン、メチルインデンからなる群から選択される少なくとも1種の誘導体単位(B)1~20重量%を少なくとも構成単位とするスチレン系共重合樹脂を水素化してなり、芳香族環の水素化率が70%以上の水添スチレン系共重合樹脂」である点 【相違点3】 本件発明1ではジエン系ゴム成分100質量部に対してシリカ50~150質量部含むのに対して、甲2発明ではこの点についての規定がない点 ウ 判断 (ア)事案に鑑み、相違点2について検討する。 a(a)本件発明1は、加工性が良く、また低発熱性能の悪化を抑えながらウェットグリップ性能を向上することができるタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とするものである(【0009】)。 そして、本件明細書には、ジエン系ゴム成分に、水添率が35~80%の部分水添ポリスチレン樹脂を添加することにより、ウェットグリップ性能を向上させることができ、また未加硫ゴム粘度を低減して加工性を改善することができること、部分水添ポリスチレン樹脂は、マトリックスゴムであるスチレンブタジエンゴムと相溶性の高いスチレンユニットと、相溶性の低い水添スチレンユニットとを併せ持つため、未水添のポリスチレン樹脂とは異なるミクロ相構造がマトリックスゴム中で形成されて低発熱性能の悪化を防ぐことが記載され(【0020】)、また、部分水添ポリスチレン樹脂は、ポリスチレン樹脂を部分的に水添したものであり、該ポリスチレン樹脂としては、モノマーとして実質的にスチレンのみを用いた重合体が用いられること、実質的にスチレンのみを用いた重合体としては、モノマーの90質量%以上がスチレンである重合体が挙げられることが記載されている(【0021】)。 また、実施例として具体的に、ポリスチレンを水素化した、水添率が45%、60%、80%の水添スチレン樹脂1~3を用いた所定のタイヤ用ゴム組成物が、加工性、ウェットグリップ性及び低発熱性能に優れることを示す実験データが記載されている(【表1】)。 そうすると、本件発明1の「90質量%以上がスチレンである重合体」を特定の水添率で水添した「部分水添ポリスチレン樹脂」を用いることは、ウェットグリップ性能を向上させ、加工性を改善し、さらに、部分水添ポリスチレン樹脂が、スチレンブタジエンゴム(マトリックスゴム)と相溶性の高いスチレンユニットと相溶性の低い水添スチレンユニットとを併せ持つため、未水添のポリスチレン樹脂とは異なるミクロ相構造がマトリックスゴム中で形成されて低発熱性能の悪化を防ぐという技術的意義を有するものと理解できる。 (b)この点について、令和5年10月20日付けの特許権者提出の意見書(以下「意見書」という。)に記載された比較例Xは、水添樹脂Y(スチレン70質量%、ビニルトルエン20質量%、インデン10質量%、芳香族環の水素化率47%)を用いたゴム組成物の低発熱性が劣っていたことを示す。すなわち、水添樹脂Y(スチレン70質量%で芳香族環の水素化率47%)を用いた比較例Xのゴム組成物は、加工性が良く、また低発熱性能の悪化を抑えながらウェットグリップ性能を向上させることができるものではなかったと解され、このことは、上記(a)の理解を具体的に裏付けている。 b これに対して、甲2発明において水添される「スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレンからなる群から選択される少なくとも1種のスチレン系誘導体単位(A)99~80重量%とインデン、メチルインデンからなる群から選択される少なくとも1種の誘導体単位(B)1~20重量%を少なくとも構成単位とするスチレン系共重合樹脂」は、文言上、スチレンを90質量%以上含有するものも包含する。 すなわち、甲2発明の上記スチレン系共重合樹脂において、「スチレン系誘導体単位(A)」として「スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン」からスチレンのみを選択し、これを構成単位として「99~80重量%」のうち90重量%以上含有するものは、スチレンを90質量部以上含有することになる。 しかしながら、甲2には「スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン」のうち特にスチレンのみを選択して、これを90質量%以上含有するものとすることの記載はなく、ましてや、ゴム組成物に関し、加工性が良く、また低発熱性能の悪化を抑えながらウェットグリップ性能を向上させるという観点から、モノマーの90質量%以上をスチレンとすることなど、記載も示唆もされていない。 甲2の「特にSBRとの相溶性に優れる水添スチレン系共重合樹脂となることから該芳香族環の水素化率が70%以上のものであり、さらに水素化率が80%以上のものであることが好ましい。水素化率が70%未満である場合、SBRとの相溶性に劣るものとなる。」(【0014】)との記載によれば、甲2は、水添スチレン系共重合樹脂の水添率を上げることによりSBRとの相溶性を高めようとするものであり、本件明細書に記載されるような、未水添のポリスチレン樹脂とは異なるミクロ相構造がマトリックスゴム中で形成されて低発熱性能の悪化を防ぐことについては記載も示唆もされていない。 さらに、実際に甲2の実施例で使用されているスチレン系共重合樹脂は、「スチレン系誘導体単位(A)」としてスチレンに加え他の「スチレン系誘導体単位(A)」も含み、スチレンの含有量は最大でも70質量%である(水添共重合樹脂A1、A2。なお、比較例である水添共重合樹脂D1、D2は「スチレン系誘導体単位(A)」としてスチレンのみを含むが、スチレンの含有量はやはり70質量%である)。 そうすると、甲2には、甲2発明において、スチレン系共重合樹脂としてモノマーの90質量%以上がスチレンであるポリスチレン樹脂を積極的に使用する動機付けがあるとまではいえない。 c (a)甲1にはスチレンブタジエンゴム及び水添スチレン系熱可塑性エラストマーを含有するタイヤ用トレッドゴム組成物が記載されている(請求項1)ものの、水添スチレン系熱可塑性エラストマーとしてモノマーの90質量%以上がスチレンであるポリスチレン樹脂を使用することについては記載も示唆もされていないから、甲1をみても、甲2発明においてスチレン系共重合樹脂としてモノマーの90質量%以上がスチレンであるポリスチレン樹脂を使用することは動機付けられない。 (b)甲3には、天然ゴム及び合成ジエン系ゴムの内の少なくとも一種からなるゴム成分(A)100質量部に対し、分子内の不飽和結合が部分的にまたは完全に水素添加された樹脂(B)を0.5~100質量部配合してなるタイヤ用ゴム組成物が記載され、樹脂(B)が芳香族系樹脂であることが記載されているものの(請求項1、2)、当該樹脂(B)としてモノマーの90質量%以上がスチレンであるポリスチレン樹脂を使用することについては記載も示唆もされていないから、甲3をみても、甲2発明においてスチレン系共重合樹脂としてモノマーの90質量%以上がスチレンであるポリスチレン樹脂を使用することは動機付けられない。 d よって、相違点2に係る事項は当業者が容易に想到し得たものではない。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲2に記載された発明及び甲1~甲3の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ)本件発明1の効果について a 本件明細書には、発明の効果として「特定のガラス転移温度を持つスチレンブタジエンゴムを含むジエン系ゴム成分に、特定の水添率を持つ部分水添ポリスチレン樹脂を添加することにより、加工性が良く、また低発熱性能の悪化を抑えながらウェットグリップ性能を向上することができる。」と記載されている(【0011】)。 さらに、本件明細書には「低発熱性能を改善するためにガラス転移温度の高いスチレンブタジエンゴムを用いることが考えられるが、その場合、未加硫ゴム粘度が上昇して加工性が悪化するという問題がある」(【0004】)こと及び「部分水添ポリスチレン樹脂の水添率は、上記の通り35~80%であり、水添率がこの範囲にあることにより、ウェットグリップ性能と低発熱性能のバランスを向上することができるとともに、加工性を向上することができる」(【0024】)ことが記載され、実施例には、ガラス転移温度が-50℃以上のスチレンブタジエンゴムと水添率が45%、60%、80%の水添スチレン樹脂を用いた所定のタイヤ用ゴム組成物が上記本件発明1の効果を奏したことが実験結果(実施例1~8)をもって具体的に記載されている。 そうすると、本件発明1の効果は、「ガラス転移温度が-50℃以上のスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分」を用いたときに、水添率が35~80%の部分水添ポリスチレン樹脂を添加することで、加工性が良く、低発熱性能の悪化を抑えながらウェットグリップ性能を向上することができるというものであると理解できる。 b これに対して、甲2には、甲2発明のタイヤ用ゴム組成物に関し、ウェットグリップ性、転がり抵抗性、耐摩耗性、そのバランスに優れ、粘度を低減することで加工性の向上を可能とすることが記載され(【0031】)、実施例には、その効果が具体的なデータとして記載されているものの、上記イのとおり、スチレンブタジエンゴムのガラス転移温度は不明である。そして、具体例である実施例1~実施例4で使用されたスチレンブタジエンゴム「SL552」のガラス転移温度は-53℃(参考文献1【0050】)であって、-50℃以上ではなく、実施例5及び6で使用されたスチレンブタジエンゴム「HPR350」は本件明細書の【0037】からみてガラス転移温度は-33℃であると解されるものの、使用された水添スチレン系共重合樹脂の水素化率は98%、81%であり、「35~80%」の範囲にはない。 さらに、上記(ア)a(b)のとおり、意見書に記載された比較例Xのゴム組成物は、加工性が良く、また低発熱性能の悪化を抑えながらウェットグリップ性能を向上させることができるものではなかったと理解されるのだから、本件発明1の「ガラス転移温度が-50℃以上のスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分」を用いたときに、部分水添ポリスチレン樹脂の水添率が35~80%とすることで奏される上記aの効果は、甲2の記載に基づいて当業者が予測できるものであるとはいえない。 エ 小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2に記載された発明と甲1~甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1のタイヤ用ゴム組成物を用いて作製された空気入りタイヤに係る発明である。そして、上記(1)のとおり本件発明1は、甲2に記載された発明と甲1~甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないのだから、本件発明2も、甲2に記載された発明と甲1~甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)申立理由2及び取消理由1についてのまとめ よって、申立理由2及び取消理由1はいずれも理由がない。 2 申立理由1について (1)本件発明1について ア 甲1に記載された発明 甲1の【0061】~【0068】に記載された実施例2に着目すると、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。 「SBR(旭化成(株)製のタフデン3830(ビニル含有量:35質量%、スチレン含有量:33質量%、Tg:-39℃、ゴム固形分100質量部に対して、オイル分37.5質量部含有)を116.88質量部、水添スチレン系熱可塑性エラストマー1(旭化成(株)製のS.O.E.S1611(両末端にスチレンブロックを、主鎖にスチレン及びブタジエンのランダム共重合体のブロックを有するブロック共重合体の水素添加物、スチレン含有量:60質量%、水素添加率:100モル%、Mw:1.7×105、Tg:9℃))を15質量部、カーボンブラック(東海カーボン(株)製のシースト9(SAF、N2SA:142m2/g、DBP吸油量:115ml/100g)を30質量部、シリカ(東ソー・シリカ(株)製のニプシルVN3(CTAB:168m2/g、DBP:183ml/100g、N2SA:177m2/g)を70質量部、水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製のハイジライトH-43(平均一次粒子径:1μm))を20質量部、シランカップリング剤(デグッサ社製のSi69)を7質量部、オイル(出光興産(株)製のダイアナプロセスAH-24)を15.62質量部、液状ジエン系重合体((株)クラレ製のL-SBR-820(液状SBR、Mw:1.0×104、スチレン含有量:45質量%))を80質量部、樹脂(日塗化学(株)製のエスクロンG-90(クマロンインデン樹脂))を5質量部、酸化亜鉛(三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛)を4質量部、ワックス(大内新興化学工業(株)製のサンノックN)を2質量部、老化防止剤(住友化学(株)製のアンチゲン6C(N-フェニル-N’-(1,3-ジメチル)-p-フェニレンジアミン)を2質量部、ステアリン酸(日油(株)製のステアリン酸「椿」)を2質量部を混練りし、硫黄(軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄)を0.9質量部、加硫促進剤1(大内新興化学工業(株)製のノクセラ-DM(ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド)を4質量部、加硫促進剤2(大内新興化学工業(株)製のノクセラ-TOT-N(テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド))を6質量部を添加して練り込んだタイヤ用である未加硫ゴム組成物。」 (以下「甲1発明」という。) イ 対比 (ア)甲1発明の「SBR(旭化成(株)製のタフデン3830(ビニル含有量:35質量%、スチレン含有量:33質量%、Tg:-39℃、ゴム固形分100質量部に対して、オイル分37.5質量部含有)」は、本件発明1の「ガラス転移温度が-50℃以上のスチレンブタジエンゴム」に相当する。 そして、甲1発明はジエン系ゴム成分として上記SBRのみを含有するから、上記SBR中のゴム固形分85質量部(=116.88×(100/(100+37.5))が、甲1発明において「ジエン系ゴム成分」を構成するといえる。 (イ)甲1発明の「水添スチレン系熱可塑性エラストマー1(旭化成(株)製のS.O.E.S1611(両末端にスチレンブロックを、主鎖にスチレン及びブタジエンのランダム共重合体のブロックを有するブロック共重合体の水素添加物、スチレン含有量:60質量%、水素添加率:100モル%、Mw:1.7×105、Tg:9℃))は、水添された樹脂である点で本件発明1の「水添ポリスチレン樹脂」に相当する。 そして、甲1発明の未加硫ゴム組成物において「水添スチレン系熱可塑性エラストマー1」の含有量はSBRのゴム固形分85質量部に対して15質量部であるから、SBRのゴム固形分100質量部に対しては17.6質量部となり、「1~50質量部」の範囲内である。 (ウ)甲1発明の「シリカ(東ソー・シリカ(株)製のニプシルVN3(CTAB:168m2/g、DBP:183ml/100g、N2SA:177m2/g)を70質量部」は、本件発明1の「シリカ」に相当する。 そして、甲1発明の未加硫ゴム組成物において、「シリカ」の含有量は、SBRのゴム固形分85質量部に対して70質量部であるから、SBRのゴム固形分100質量部に対しては82.4質量部となり、「50~150質量部」の範囲内である。 (エ)そうすると本件発明1と甲1発明とは、 「ガラス転移温度が-50℃以上のスチレンブタジエンゴムを含むジエン系ゴム成分100質量部に対して、水添された樹脂を1~50質量部と、シリカ50~150質量部を含む、タイヤ用ゴム組成物。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 【相違点4】 水添された樹脂について、本件発明1は「モノマーの90質量%以上がスチレンであるポリスチレン樹脂を水添してなり、水添率が35~80%の部分水添ポリスチレン樹脂」であるのに対して、甲1発明では、水添スチレン系熱可塑性エラストマー1(旭化成(株)製のS.O.E.S1611(両末端にスチレンブロックを、主鎖にスチレン及びブタジエンのランダム共重合体のブロックを有するブロック共重合体の水素添加物、スチレン含有量:60質量%、水素添加率:100モル%、Mw:1.7×105、Tg:9℃))である点 ウ 判断 上記相違点4について検討する。 (ア)樹脂の水添率について 本件明細書の「部分水添ポリスチレン樹脂は、・・・ベンゼン環を持つ未水添のスチレンユニットとともにベンゼン環が水添された水添スチレンユニットとを含む」との記載(【0022】)及び本件明細書において、水添率を芳香環由来の260nmの吸収スペクトルの積分値の減少度により算出していること(【0043】)からみて、本件発明1の「水添率」とはスチレンのベンゼン環が水添された程度を意味するものと解される。 これに対して甲1には、水添スチレン系熱可塑性エラストマーの水素添加率は、水素が添加された共役ジエンブロックの二重結合の割合であることが記載されている(【0022】)。 そうすると、本件発明1の「水添率」と甲1発明の「水素添加率」は意味するところが異なるところ、甲1発明における「水添スチレン系熱可塑性エラストマー1」の、スチレンのベンゼン環が水添された「水添率」は不明であり、この値を「35~80%」にすることについての動機付けは見いだせない。 (イ)樹脂のスチレン含有量について a 甲1発明の水添スチレン系熱可塑性エラストマーのスチレン含有量は60質量%であるが、水添前のスチレン含有量は不明である。そして甲1には、この値を90質量%とすることなど記載も示唆もされていないから、甲1発明において、水添スチレン系熱可塑性エラストマー1の水添前のスチレン含有量を90質量%以上とすることの動機付けはない。 b もっとも、甲1の、水素添加率は水素が添加された共役ジエンブロックの二重結合の割合である旨の記載(【0022】)からみると、甲1発明の水添スチレン系熱可塑性エラストマー1は水素添加によって、ブタジエン由来の二重結合部分が水素添加されたものであって、スチレン含有量は水添前後で実質的に変動しないと理解することもできる。 他方、甲1には、水添スチレン系熱可塑性エラストマーのスチレン含有量が70質量%を超えると耐摩耗性が悪化するおそれがあることの記載がある(【0025】から、甲1発明において、水添スチレン系熱可塑性エラストマー1のスチレン含有量を70質量%を超えるものとすることについては動機付けがなく、むしろ阻害要因があるといえるところ、上記のとおり甲1発明の水添スチレン系熱可塑性エラストマー1のスチレン含有量は、水添前後で実質的に変動しないと理解すれば、水添前の樹脂についても、スチレンの含有量が90質量%以上であるものとすることの動機付けはなく、むしろ阻害要因があるといえる。 (ウ)相違点4についてのまとめ よって、相違点4に係る事項は当業者が容易に想到しうるものではない。 エ 申立人の主張について 申立人は、甲1に記載された発明において、甲2を参考にしてスチレン含有量が90質量%以上のポリスチレン樹脂を採用することは当業者には容易であると主張する(申立書9頁6~15行)。 上記主張について検討するに、確かに甲2には、タイヤ用ゴム組成物に、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレンからなる群から選択される少なくとも1種のスチレン系誘導体単位(A)99~80重量%とインデン、メチルインデンからなる群から選択される少なくとも1種の誘導体単位(B)1~20重量%を少なくとも構成単位とするスチレン系共重合樹脂を水素化してなり、芳香族環の水素化率が70%以上の水添スチレン系共重合樹脂を含有させることが記載されている(請求項1)。 しかしながら、甲2には、水添スチレン系共重合樹脂がエラストマーであることなど記載も示唆もされていないのだから、甲1発明において「水添スチレン系熱可塑性エラストマー」として甲1に記載された水添スチレン系共重合樹脂を使用することは何ら動機付けられない。 また、そもそも上記1(1)ウ(ア)bのとおり、甲2には「スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン」のうち特にスチレンのみを選択して、これを90質量%以上含有するものとすることの記載がないのだから、この点からみても、甲2を参考にしても、スチレン含有量が90質量%以上のポリスチレン樹脂を採用することが容易であるとは到底いえない。 よって、上記申立人の主張は採用できない。 オ 小括 よって、本件発明1は甲1に記載された発明と甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1のタイヤ用ゴム組成物を用いて作製された空気入りタイヤに係る発明である。そして、上記(1)のとおり本件発明1は、甲1に記載された発明と甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないのだから、本件発明2も、甲1に記載された発明と甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)申立理由1についてのまとめ よって、申立理由1は理由がない。 3 その他 上記第3の1のとおり、申立書には「本件発明1と甲第3号証に記載の発明との比較」について記載はあるものの、これについて「進歩性の検討」については何らの主張がなされていない。 ここで、念のため検討するに、上記1(1)ウ(ア)c(b)のとおり、甲3には、天然ゴム及び合成ジエン系ゴムの内の少なくとも一種からなるゴム成分(A)100質量部に対し、分子内の不飽和結合が部分的にまたは完全に水素添加された樹脂(B)を0.5~100質量部配合してなるタイヤ用ゴム組成物が記載され、樹脂(B)が芳香族系樹脂であることが記載されているものの(請求項1、2)、当該樹脂(B)としてモノマーの90質量%以上がスチレンであるポリスチレン樹脂を使用することについては記載も示唆もされていない。 よって、甲3を主引例としても、やはり上記相違点2及び相違点4と同様の相違点が存在することになり、そのような相違点にかかる事項が容易想到であるとすべき根拠もない。 第5 まとめ 以上のとおりであるから、当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した理由によっては、本件発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700261

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