特許異議申立
2023-700260
タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ
- 審判番号
- 2023-700260
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-245954
- 登録番号
- 7182459
- 請求日
- 2023年03月09日
- 審決日
- 2023年08月24日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】TOYO TIRE株式会社
- 【権利者代理人】蔦田 正人
- 【権利者代理人】中村 哲士
- 【権利者代理人】富田 克幸
- 【権利者代理人】有近 康臣
- 【権利者代理人】前澤 龍
- 【権利者代理人】水鳥 正裕
- 【異議申立人】有光 美紗子
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 藤井 勲
- 審判官 海老原 えい子
- 分類
- P1651.121-Y (C08L) / P1651.537-Y (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7182459号発明「タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7182459号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第7182459号に係る出願は、平成30年12月27日の出願であって、令和4年11月24日に特許権の設定登録がされ、同年12月2日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和5年3月9日に、本件の請求項1~3に係る特許に対して、特許異議申立人 有光 美紗子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証 特開2018-131516号公報
以下、甲第1号証を「甲1」という。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~3に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明3」といい、これらをまとめて「本件発明」という。また、本件の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。)はその特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
酸素原子及び/又は窒素原子を含む官能基が導入された変性スチレンブタジエンゴムを含み、ガラス転移温度が-40℃以下であるジエン系ゴム成分100質量部に対して、
モノマーの90質量%以上がスチレンであるポリスチレン樹脂を水添してなり、水添率が5~50%の部分水添ポリスチレン樹脂1~50質量部を含む、タイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
更に、補強性充填剤を前記ジエン系ゴム成分100質量部に対して20~150質量部含む、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物を用いて作製された空気入りタイヤ。
第3 申立理由の概要
特許異議申立書に記載された申立理由は、以下のとおりである。
1 申立理由1
本件発明1~3は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由2
本件特許は、下記の理由により、特許法36条6項1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し、取り消すべきものである。
【理由】
本件明細書の記載には「変性SBRを含みガラス転移温度が-40℃以下のジエン系ゴム成分」との要件を満たすものであれば課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないから、本件発明1~3の範囲にまで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
第4 当審の判断
1 申立理由1について
(1)本件発明1について
ア 甲1に記載された発明
甲1の請求項1及び2に着目すると、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。
「ジエン系ゴム100重量部に対して、少なくとも水添スチレン系樹脂を5~30重量部含んでなるゴム組成物であって、該水添スチレン系樹脂が、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレンからなる群から選択される少なくとも1種のスチレン系誘導体単位(A)99~80重量%とインデン、メチルインデンからなる群から選択される少なくとも1種の誘導体単位(B)1~20重量%を少なくとも構成単位とするスチレン系共重合樹脂を水素化してなり、芳香族環の水素化率が70%以上の水添スチレン系共重合樹脂であることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。」(以下「甲1発明」という。)
イ 対比
(ア)甲1発明の「ジエン系ゴム」は、本件発明1の「酸素原子及び/又は窒素原子を含む官能基が導入された変性スチレンブタジエンゴムを含み、ガラス転移温度が-40℃以下であるジエン系ゴム成分」に「ジエン系ゴム成分」である点で一致する。
(イ)甲1発明の「スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレンからなる群から選択される少なくとも1種のスチレン系誘導体単位(A)99~80重量%とインデン、メチルインデンからなる群から選択される少なくとも1種の誘導体単位(B)1~20重量%を少なくとも構成単位とするスチレン系共重合樹脂を水素化してなり、芳香族環の水素化率が70%以上の水添スチレン系共重合樹脂」は、本件発明1の「モノマーの90質量%以上がスチレンであるポリスチレン樹脂を水添してなり、水添率が5~50%の部分水添ポリスチレン樹脂」に、水添された樹脂である点で一致する。
(ウ)甲1発明の「水添スチレン系共重合樹脂」は「ジエン系ゴム100重量部に対して」「5~30重量部」配合されるところ、当該配合量は本件発明1の「ジエン系ゴム成分100質量部に対」する部分水添ポリスチレン樹脂の配合量である「1~50質量部」と重複一致する。
そうすると本件発明1と甲1発明とは、
「ジエン系ゴム成分100質量部に対して、水添された樹脂1~50質量部を含む、タイヤ用ゴム組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点1】
ジエン系ゴム成分について、本件発明1では「酸素原子及び/又は窒素原子を含む官能基が導入された変性スチレンブタジエンゴムを含み、ガラス転移温度が-40℃以下である」のに対して、甲1発明では「ジエン系ゴム」であり、ガラス転移温度が不明である点
【相違点2】
水添された樹脂について、本件発明1では「モノマーの90質量%以上がスチレンであるポリスチレン樹脂を水添してなり、水添率が5~50%の部分水添ポリスチレン樹脂」であるのに対して、甲1発明では「スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレンからなる群から選択される少なくとも1種のスチレン系誘導体単位(A)99~80重量%とインデン、メチルインデンからなる群から選択される少なくとも1種の誘導体単位(B)1~20重量%を少なくとも構成単位とするスチレン系共重合樹脂を水素化してなり、芳香族環の水素化率が70%以上の水添スチレン系共重合樹脂」である点
ウ 判断
事案に鑑み、相違点2から検討する。
(ア)甲1発明では、「水添スチレン系共重合樹脂」は「スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレンからなる群から選択される少なくとも1種のスチレン系誘導体単位(A)99~80重量%とインデン、メチルインデンからなる群から選択される少なくとも1種の誘導体単位(B)1~20重量%を少なくとも構成単位とするスチレン系共重合樹脂」を水素化してなるところ、当該スチレン系共重合樹脂は、スチレンを99~80重量%含むものを文言上包含するから、モノマーの90質量%以上がスチレンであるポリスチレン樹脂も文言上包含する。
(イ)甲1発明では「水添スチレン系共重合樹脂」の芳香族環の水素化率は「70%以上」である。
この点について、甲1には、ゴムに樹脂を配合する従来の方法ではゴムと樹脂の相溶性が不十分であり、ウェットグリップ性が満足できない、ゴムよりガラス転移点が高い樹脂を配合するため転がり抵抗が増加し低燃費性が悪化する等の課題があったことが記載された上で、特定の水添スチレン系樹脂を配合することで、ウェットグリップ性、転がり抵抗性、耐摩耗性のバランスや、加工性を改善することが可能となることが記載されている(【0002】~【0008】)。
そして、特にSBRとの相溶性に優れるという観点から水添スチレン系共重合樹脂の水素化率が70%以上であること、水素化率が70%未満である場合SBRとの相溶性に劣ることが記載され(【0014】)、具体的な実験データとしても水素化率が70%未満の水添スチレン系重合体を用いたものは水素化率が70%以上の水添スチレン系重合体を用いたものに比べて、ウェットグリップ性、転がり抵抗性、耐摩耗性及び加工性が劣っていたことが示されている(実施例1~4と比較例2、3の比較)。
(ウ)そうすると、上記(ア)のとおり甲1発明の「水添スチレン系共重合樹脂」がモノマーの90質量%以上がスチレンであるポリスチレン樹脂を包含するとしても、そのような樹脂を水添するにあたり、甲1に好ましくないことが具体的に示された70%未満の水添率で水添することの動機付けは見いだせず、むしろ阻害要因があるといえる。
そうであれば、甲1発明において水添スチレン系共重合樹脂の水添率を「5~50%」とすることは何ら動機付けられず、相違点2に係る事項は当業者が容易に想到し得た事項であるとはいえない。
エ 申立人の主張について
申立人は、甲1には水添率が70%未満の場合についても言及され(【0014】)、さらに甲1には水素化率が49%の例(水添共重合樹脂A3)も明記されていることを挙げ、一般に水素化触媒量の低減は製造コスト減少につながり、水素化時間の短縮は製造効率の向上につながるので、当業者であれば、甲1に基づき製造効率や製造コスト等を考慮して許容できる相溶性の範囲内で水添スチレン系樹脂の水添率を変更しようと試みることは十分あり得、【表3】の記載に基づき水添率を5~50%の樹脂を選択することは容易であると主張する(申立書7頁13~27行)。
しかしながら、申立人の指摘する段落【0014】の記載及び「水素化率49%の例(水添共重合樹脂A3)」の記載はいずれも「水素化率が70%未満である場合」は好ましくないこと示すものであり、これらの記載をもって甲1発明において水添率が70%未満の水添スチレン系共重合体を使用することが動機付けられるとはいえない。
そして、そもそも甲1は「ウェットグリップ性、転がり抵抗性、耐摩耗性のバランスに優れ、粘度を低減することで加工性の向上を可能とするタイヤ用ゴム組成物及びそれを用いたタイヤを提供することを目的としているのだから(【0007】)、仮に、一般に水素化触媒量の低減は製造コスト減少につながり、水素化時間の短縮は製造効率の向上につながるとしても、製造コストや製造効率の観点を重視し、上記甲1の目的が達成されないことが示された「70%未満」の程度にまで水添率を低減させることなど到底動機付けられない。
よって、上記主張は採用できない。
オ 小括
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明、すなわち甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2及び3について
本件発明2は本件発明1において、更に、補強性充填剤を前記ジエン系ゴム成分100質量部に対して20~150質量部含むことを特定したものであり、本件発明3は本件発明1又は2のタイヤ用ゴム組成物を用いて作製された空気入りタイヤに係るものであるところ、本件発明1が甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2及び3も、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 申立理由2について
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2)判断
ア 本件発明の課題は、「ウェットグリップ性能と耐摩耗性能を両立することができるタイヤ用ゴム組成物を提供すること」(【0007】)であると認められる。
イ(ア)本件明細書には、本件発明が特定のガラス転移温度を持つジエン系ゴム成分に、特定の水添率の部分水添ポリスチレン樹脂を添加することにより、ウェットグリップ性能と耐摩耗性能が両立できること(【0009】、【0019】)、ジエン系ゴム成分はガラス転移温度が-40℃以下であることにより耐摩耗性能を向上させることができること(【0011】)、部分水添ポリスチレン樹脂の水添率が5~50%であることによりウェットグリップ性能と耐摩耗性能を両立することができること(【0023】)、部分水添ポリスチレン樹脂の配合量が多いほどウェットグリップ性能の向上効果を高めることができ、当該配合量が50質量部以下であることにより耐摩耗性能の向上効果を高めることができること(【0026】)が記載されている。
(イ)一方、実施例をみると、ジエン系ゴム成分として、変性されていないSBR(JSR1723)、BR及びNRの組み合わせ(ガラス転移温度-40℃以下)を用いても、アルコキシシリル基及びアミノ基で変性されたSBR(HPR350)、BR及びNRの組み合わせ(ガラス転移温度-40℃以下)を用いても、水添率が5~50%の範囲にある部分水添ポリスチレン樹脂をジエン系ゴム成分100質量部に対して1~50質量部の配合量で配合することにより、ウェット性能及び耐摩耗性のいずれにも優れたタイヤ用ゴム組成物が得られることが示されている。
さらに、ジエン系ゴム成分として、変性されていないSBR(JSR1723)、BR及びNRの組み合わせた比較例6、実施例1~3、比較例5の実験結果をみると、部分水添樹脂の水素化率が大きくなるとウェット性能は向上していくが耐摩耗性は低下していく傾向がみてとれ、同様の傾向が、ジエン系ゴム成分としてアルコキシシリル基及びアミノ基で変性されたSBR(HPR350)、BR及びNRの組み合わせを用いた実施例7~9からも把握される。
(ウ)そうすると、当業者は本件明細書の記載に基づいて、ガラス転移温度が-40℃以下のジエン系ゴム成分100質量部に対して、モノマーの90質量%以上がスチレンであるポリスチレン樹脂を水添してなり、水添率が5~50%の部分水添ポリスチレン樹脂1~50質量部を含む組成物であれば、ジエン系ゴム成分が変性スチレンブタジエンゴムを含んでも含まなくても、上記(ア)の本件発明の課題を解決することを理解するといえる。
よって、本件発明は本件明細書に記載されたものである。
(3)申立人の主張について
申立人は、本件発明1には、ジエン系ゴム成分について「酸素原子及び/又は窒素原子を含む官能基が導入された変性スチレンブタジエンゴム(以下、変性SBRとする)を含むこと」「ガラス転移温度が(ジエン系ゴム成分全体として)-40℃以下であること」のみが規定されているから、本件発明1のジエン系ゴム成分は性質の異なる多種多様なジエン系ゴム成分を含み得るものであるところ、本件明細書の実施例には、ジエン系ゴム成分としてただ1種類の組み合わせが記載されているのみであり、本件明細書の記載からは課題を解決することを当業者が認識できないと主張する(8頁14行~9頁19行)。
しかしながら、本件明細書の記載に接した当業者は、本件発明が本件発明の課題を解決するものであると理解することは上記(2)のとおりである。
申立人は、課題解決を理解できない理由として、ジエン系ゴム成分は性質の異なる多種多様なジエン系ゴム成分を含み得るが本件明細書の実施例にはジエン系ゴム成分としてただ1種類の組み合わせしか記載されていないことを挙げるが、当該事項がただちに上記(2)の判断を左右するものではないし、申立人は、当該事項により本件発明の課題解決を理解できないとすべき具体的理由を何ら説明していない。
よって、上記主張は採用できない。
(4)小括
したがって、申立理由2は理由がない。
第5 まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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