特許異議申立
2024-700501
空気入りタイヤ
- 審判番号
- 2024-700501
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-224623
- 登録番号
- 7388904
- 請求日
- 2024年05月29日
- 審決日
- 2025年06月13日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】TOYO TIRE株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
- 【異議申立人】大澤 豊
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 淺野 美奈
- 審判官 柴田 昌弘
- 分類
- P651 .113-YAA(B60C) / P651 .121-YAA(B60C) / P651 .537-YAA(B60C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法113条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7388904号発明「空気入りタイヤ」の異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7388904号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。
特許第7388904号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7388904号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、令和1年12月12日を出願日とする出願であって、令和5年11月20日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和6年5月29日に特許異議申立人 大澤 豊(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし4)がされたものである。
その後、同年8月15日付けで取消理由が通知され、同年10月16日に特許権者 TOYO TIRE株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年10月25日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年11月29日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年12月19日付けで特許異議申立人に対して審尋がされ、令和7年1月14日に特許異議申立人から回答書が提出され、同年2月7日に特許異議申立人から上申書が提出され、同年同月17日付で特許権者に対して審尋がされ、同年3月6日に特許権者から回答書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和6年10月16日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示すものである。
訂正事項
特許請求の範囲の請求項1に「前記ショルダーブロックは、第1の幅を有する複数の第1サイプと、前記第1の幅よりも大きい第2の幅を有する第2サイプと、を備え、」と記載されているのを、「前記ショルダーブロックは、第1の幅を有する複数の第1サイプと、前記第1の幅よりも大きい第2の幅を有する第2サイプと、を備え、前記第1の幅は、0.5mm~0.8mmであり、前記第2の幅は、0.8mm~1.2mmであり、」に訂正する。併せて、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4も同様に訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項による請求項1についての訂正は、第1サイプ及び第2サイプの幅の数値範囲が特定されていなかったものを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書の【0036】には、第1サイプ及び第2サイプの幅について訂正後の数値範囲が記載されているので、訂正事項による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
以上のとおり、訂正事項による請求項1ないし4についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
そして、訂正事項による請求項1ないし4についての訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項2ないし4はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項1ないし4は一群の請求項に該当するものであり、訂正事項による請求項1ないし4についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし4に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
タイヤ赤道からタイヤ幅方向の外側に向けて延び、前記タイヤ幅方向に対して傾斜する複数の傾斜溝と、
複数の傾斜溝によって区画される複数の陸部と、を備え、
前記陸部は、前記傾斜溝同士を接続する陸溝と、前記陸溝によって区画され、前記タイヤ幅方向で並ぶ複数のブロックと、を備え、
複数のブロックは、最も前記タイヤ幅方向の外側に配置されるショルダーブロックを含み、
前記ショルダーブロックは、第1の幅を有する複数の第1サイプと、前記第1の幅よりも大きい第2の幅を有する第2サイプと、を備え、
前記第1の幅は、0.5mm~0.8mmであり、前記第2の幅は、0.8mm~1.2mmであり、
前記第2サイプは、前記陸溝に連接され、且つ、タイヤ周方向において前記複数の第1サイプに挟まれるように、配置され 、
前記ショルダーブロックは、前記陸溝に面し且つ互いに交差して連接する第1及び第2幅縁部を備え、
前記第1及び第2幅縁部は、それぞれ前記サイプに連接される、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第2サイプは、前記陸溝から、少なくとも接地端まで延びる、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第1幅縁部が前記タイヤ幅方向に対して傾斜する側は、前記第2幅縁部が前記タイヤ幅方向に対して傾斜する側と、反対である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記複数のサイプの少なくとも一つは、前記陸溝に連接される第1直線部と、接地端を含む第2直線部と、を備え、
前記第1直線部が前記タイヤ幅方向と交差する角度は、前記第2直線部が前記タイヤ幅方向と交差する角度と、異なる、請求項1~3の何れか1項に記載の空気入りタイヤ。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由等の概要
1 令和6年5月29日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立の理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(4)申立理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
本件特許発明の発明が解決しようとする課題は、「ショルダーブロックの路面に対する追従性を向上させることができる空気入りタイヤを提供することである。」 (【0005】)が、発明の詳細な説明には、その効果を実証する具体例(実施例)が何ら記載されていない。そうすると、本件特許の請求項に記載された発明は、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
したがって、本件特許発明は、いずれも、サポート要件を満たしているとは認められない(特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号))。
(5)証拠方法
甲第1号証:NEW BRIDGESTONE BLIZZAK LM005 WINTER TYRE GIVES DRIVERS CONFIDENCE ON THE ROADS、[online]、Bridgestone、2019年2月12日
(URL:https://press.bridgestone-emea.com/new-bridgestone-blizzak-lm005-winter-tyre-gives-drivers-confidence-on-the-roads/)
甲第2号証:意匠登録第1633718号公報
甲第3号証:特開2013-184666号公報
甲第4号証:特開2019-43308号公報
甲第5号証:国際公開第2017/092896号
甲第6号証:特開平6-171321号公報
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
2 令和6年11月29日に特許異議申立人が提出した意見書に記載した特許異議申立の理由(以下、「申立理由5」という。)の概要及び当該意見書に添付して追加された証拠方法は次のとおりである。
(1)申立理由5(甲第7号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第7号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)証拠方法
甲第7号証:ブリヂストン製、BLIZZAK LM005を撮影した写真、その部分拡大写真、第1サイプの溝幅を測定する様子を示す写真及び第2サイプの溝幅を測定する様子を示す写真が記載された資料、撮影対象:ブリヂストン製、BLIZZAK LM005のタイヤ、印刷/現像日:令和6年11月28日、印刷/現像者:大澤 豊
参考資料1:特開2017-114384号公報
参考資料2:特開2017-109506号公報
参考資料3:特開2015-54681号公報
参考資料4:特開2008-62806号公報
参考資料5:特開平11-129709号公報
証拠の表記は、上記意見書の記載におおむね従った。以下、甲第7号証を「甲7」という。
第5 取消理由の概要
令和6年8月15日付けで通知された取消理由の概要は次のとおりである。
1 取消理由1(甲1を主たる証拠とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであって、また、本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 取消理由2(甲2を主たる証拠とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであって、また、本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 当審の判断
当審は、取消理由1及び2並びに申立理由3ないし5には、以下のとおり理由がないと判断する。なお、取消理由1及び2は、それぞれ、申立理由1及び2を包含するものである。
1 取消理由1(甲1を主たる証拠とする新規性及び進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「NEW BRIDGESTONE BLIZZAK LM005 WINTER TYRE GIVES DRIVERS CONFIDENCE ON THE ROADS.」に関して、次の記載がある。
・「
[図:0001424581000001.jpg]
」
・上記記載のうち、赤線の枠内右端の写真の拡大図は以下のとおりである。なお、各部の名称は異議申立書の参考図1と同じものを付してある。以下も同様である。
・「
[図:0001424581000002.jpg]
」
・上記参考図1から、以下のことが看取される。
・参考図1において「傾斜溝」と記載されている溝が、タイヤ幅方向に対して傾斜して、タイヤ幅方向の一方の端部から赤道面を超えて延在している。
・上記「傾斜溝」と同様の溝が、タイヤの幅方向のそれぞれの端部側に、それぞれ複数存在している。
・上記「傾斜溝」のうち、タイヤの幅方向の同じ側の端部に延在する、隣り合う「傾斜溝」に区画された部分(以下、「陸部」という。)が存在する。
・参考図1において「陸溝」と記載されている溝が、上記「陸部」を囲む2本の傾斜溝に連通しており、上記「陸部」をタイヤの幅方向に並ぶ複数のブロックに区画している。
・上記「陸溝」によって区画された複数のブロックは、タイヤ幅方向の最も外側に配置される部分(以下、「ショルダーブロック」という。)を有している。
・上記「ショルダーブロック」は、参考図1において「第1サイプ」と記載された複数の屈曲するサイプと、同「第2サイプ」と記載された1本の屈曲していないサイプとを有している。
・上記「第2サイプ」は、上記「陸溝」に連通し、タイヤ幅方向の外側端部まで「ショルダーブロック」を囲む「傾斜溝」に沿って延在している。
・上記「第2サイプ」は、タイヤ周方向において複数の上記「第1サイプ」に挟まれるように配置されている。
・「
[図:0001424581000003.jpg]
」
・上記参考図2(タイヤの部分拡大写真)から、以下のことが看取される。
・上記「第2サイプ」の幅が上記「第1サイプ」の幅よりも大きい。
・上記「ショルダーブロック」は、上記「陸溝」に面して、参考図2において「第1幅縁部」及び「第2幅縁部」と記載された、互いに交差して連接する部分を備えている。
・上記「第1幅縁部」及び上記「第2幅縁部」は、それぞれ「第1サイプ」及び「第2サイプ」の一方、又は両方に連接されている。
・上記「第1幅縁部」がタイヤ幅方向に対して傾斜する側は、上記「第2幅縁部」がタイヤ幅方向に対して傾斜する側と反対である。
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に甲1の図面から整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「タイヤ幅方向の一方の端部から赤道面を超えて延在する、タイヤ幅方向に対して傾斜する複数の傾斜溝と、
タイヤの幅方向の同じ側の端部に延在する、隣り合う傾斜溝によって区画される複数の陸部と、を備え、
前記陸部は、前記傾斜溝同士を接続する陸溝と、前記陸溝によって区画され、前記タイヤ幅方向で並ぶ複数のブロックと、を備え、
複数のブロックは、最も前記タイヤ幅方向の外側に配置されるショルダーブロックを含み、
前記ショルダーブロックは、第1の幅を有する複数の第1サイプと、前記第1の幅よりも大きい第2の幅を有する第2サイプと、を備え、
前記第2サイプは、前記陸溝に連接され、且つ、タイヤ周方向において前記複数の第1サイプに挟まれるように、配置され、
前記ショルダーブロックは、前記陸溝に面し且つ互いに交差して連接する第1及び第2幅縁部を備え、
前記第1及び第2幅縁部は、それぞれ前記サイプに連接される、空気入りタイヤ。」
ウ 甲7に記載された事項
・「
[図:0001424581000004.jpg]
」
・「
[図:0001424581000005.jpg]
」
・「
[図:0001424581000006.jpg]
」
・「
[図:0001424581000007.jpg]
」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
甲1発明の傾斜溝は「タイヤ幅方向の一方の端部から赤道面を超えて延在する」ので、「タイヤ赤道からタイヤ幅方向の外側に向けて延び」ているといえる。
そうすると、両者は、以下の点で一致する。
<一致点>
「タイヤ赤道からタイヤ幅方向の外側に向けて延び、前記タイヤ幅方向に対して傾斜する複数の傾斜溝と、
複数の傾斜溝によって区画される複数の陸部と、を備え、
前記陸部は、前記傾斜溝同士を接続する陸溝と、前記陸溝によって区画され、前記タイヤ幅方向で並ぶ複数のブロックと、を備え、
複数のブロックは、最も前記タイヤ幅方向の外側に配置されるショルダーブロックを含み、
前記ショルダーブロックは、第1の幅を有する複数の第1サイプと、前記第1の幅よりも大きい第2の幅を有する第2サイプと、を備え、
前記第2サイプは、前記陸溝に連接され、且つ、タイヤ周方向において前記複数の第1サイプに挟まれるように、配置され、
前記ショルダーブロックは、前記陸溝に面し且つ互いに交差して連接する第1及び第2幅縁部を備え、
前記第1及び第2幅縁部は、それぞれ前記サイプに連接される、空気入りタイヤ。」
そして、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1は「前記第1の幅は、0.5mm~0.8mmであり、前記第2の幅は、0.8mm~1.2mmであ」ることを特定するのに対し、甲1発明は第1の幅及び第2の幅が明記されていない点。
イ 判断
上記相違点1について検討する。
甲1発明において、第1の幅が0.5mm~0.8mmであり、かつ、第2の幅が0.8mm~1.2mmであると解する理由はなく、本件特許発明1と甲1発明とは、相違点1において相違しているのであるから、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえない。
また、甲1発明は市販のタイヤについての商品紹介から看取されるものであり、タイヤ表面の溝はその全体が総合して機能を発揮するものであるという技術常識を踏まえれば、甲1発明において、単にタイヤ表面の溝の一部のみを変更し、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は甲1にはなく、他の証拠にもない。
したがって、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和6年11月29日付け意見書において、甲7は、甲1に係る現物のタイヤ(ブリヂストン製、BLIZZAK LM005)(を撮影したもの)であり(2頁(2))、本件特許発明1ないし4は、当該意見書に添付した甲7に記載されたタイヤと差異がない(5頁3 結論)と主張している。
上記主張は、甲1に係る現物のタイヤであると特許異議申立人が主張する甲7に写真が記載されたタイヤについて、第1サイプ及び第2サイプの溝幅を示すことにより、甲1発明のタイヤの第1サイプ及び第2サイプの溝幅が、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすことを示すことを意図するものであると解することもできるので、この点について検討する。
(ア)甲7に記載された事項
甲7には、「ブリヂストン製、BLIZZAK LM005を撮影した写真」(以下、「参考図1の写真」という。)、「タイヤの部分拡大写真」(以下、「参考図2の写真」という。)、「第1サイプの溝幅を測定する様子を示す写真」(以下、「参考図3の写真」という。)、「第2サイプの溝幅を測定する様子を示す写真」(以下、「参考図4の写真」という。)の4点の写真が記載されており、令和7年1月14日付け回答書並びに令和7年2月7日付け上申書の内容からみて、これらの写真は、令和6年11月28日13時30分に、神奈川県平塚市において撮影されたものといえる。
(イ)判断
合議体は、甲7に記載された写真は、「Blizzak LM005」と同じものであること、掲載された4点の写真がすべて同じタイヤのものであること並びに参考図3の写真及び参考図4の写真に示されるノギスに表示される測定値が、各サイプの溝幅を正確に測定したものであること、が写真から検証できないと判断し、これらの点について、令和6年12月19日付けで特許異議申立人に対して審尋をおこなったが、令和7年1月14日付け回答書には、上記の点について、明確に回答されていない。
そうすると、甲7に記載された参考図1ないし4の写真が、甲1に記載された「Blizzak LM005」と同じものであるということはできない。したがって、甲7に記載された参考図1ないし4の写真から、甲1発明が、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすということはできない。
仮に、甲7に記載された参考図1ないし4の写真が、甲1に記載された「Blizzak LM005」と同じものであるとしても、参考図3の写真及び参考図4の写真に示されるノギスに表示される測定値が、各サイプの溝幅を正確に測定したものであるとはいえないので、甲1発明が、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすということはできない。
そして、市販製品である甲1発明において、単にタイヤ表面の溝の一部のみを変更し、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は甲1にはなく、他の証拠にもないことは、上記イに記載したとおりである。
よって、甲7に記載された事項を考慮しても、本件特許発明1が甲1発明であるということはできないし、甲1、甲7及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1発明において相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
なお、特許異議申立人は、令和7年1月14日付け回答書において、甲7号証について、「第1サイプの溝幅を測定する様子を示す写真1」、「上記写真1におけるA-A部拡大図」、「第2サイプの溝幅を測定する様子を示す写真2」及び「上記写真2におけるA-A部拡大図」の4点の写真(以下、4点をまとめて「回答書における写真」という。)を記載しているが、これらの回答書における写真が、甲7に記載された参考図1ないし4の写真と同じタイヤの写真であることが確認できないので、回答書における写真は、上記判断には何ら影響しない。
仮に、上記回答書における写真が、甲7に記載された参考図1ないし4の写真と同じタイヤの写真であるとしても、「上記写真1におけるA-A部拡大図」及び「上記写真2におけるA-A部拡大図」は、どの溝の幅を測定しているのかが明確でないこと、溝に対する定規の角度が明確でない(溝に対して定規が垂直に当てられていないようにも見える)こと並びに定規の目盛りが0.5mm単位であり、0.1mm単位で正確に読み取ることが困難であることなどから、上記回答書における写真から、甲1発明が、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすということはできない。
(3)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含むものである。
そうすると、本件特許発明2ないし4と甲1発明とは、少なくとも上記相違点1において相違するから、本件特許発明2ないし4は、甲1発明であるとはいえない。
また、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえないことは、上記(1)イにおいて検討したとおりである。
よって、本件特許発明2ないし4は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)取消理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取消理由1によっては取り消すことはできない。
2 取消理由2(甲2を主たる証拠とする新規性及び進歩性)について
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「自動車用タイヤ」に関して、次の記載がある。
・「【正面図の部分拡大図】
[図:0001424581000008.jpg]
」
・上記正面図の部分拡大図から甲1と同様に把握すると、「タイヤ赤道からタイヤ幅方向の外側に向けて延び、前記タイヤ幅方向に対して傾斜する複数の傾斜溝」と、「複数の傾斜溝によって区画される複数の陸部」と、を備え、「前記陸部は、前記傾斜溝同士を接続する陸溝と、前記陸溝によって区画され」、「前記タイヤ幅方向で並ぶ複数のブロックと、を備え」、「複数のブロックは、最も前記タイヤ幅方向の外側に配置されるショルダーブロックを含み」、「前記ショルダーブロックは、第1の幅を有する複数の第1サイプと、前記第1の幅よりも大きい第2の幅を有する第2サイプと、を備え」、「前記第2サイプは、前記陸溝に連接され、且つ、タイヤ周方向において前記複数の第1サイプに挟まれるように、配置され」、「前記ショルダーブロックは、前記陸溝に面し且つ互いに交差して連接する第1及び第2幅縁部を備え」、「前記第2サイプは、前記陸溝から、少なくとも接地端まで延び」、「前記第1幅縁部が前記タイヤ幅方向に対して傾斜する側は、前記第2幅縁部が前記タイヤ幅方向に対して傾斜する側と、反対であり」、「前記複数のサイプの少なくとも一つは、前記陸溝に連接される第1直線部と、接地端を含む第2直線部と、を備え、前記第1直線部が前記タイヤ幅方向と交差する角度は、前記第2直線部が前記タイヤ幅方向と交差する角度と、異なる」、ことが看取される。
・「
[図:0001424581000009.jpg]
」
・上記参考図4(正面図の部分拡大図のさらに部分拡大図)から、「前記第1及び第2幅縁部は、それぞれ前記サイプに連接される」ことが看取される。
イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を、特に正面図の部分拡大図について整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明>
「タイヤ赤道からタイヤ幅方向の外側に向けて延び、前記タイヤ幅方向に対して傾斜する複数の傾斜溝と、
複数の傾斜溝によって区画される複数の陸部と、を備え、
前記陸部は、前記傾斜溝同士を接続する陸溝と、前記陸溝によって区画され、前記タイヤ幅方向で並ぶ複数のブロックと、を備え、
複数のブロックは、最も前記タイヤ幅方向の外側に配置されるショルダーブロックを含み、
前記ショルダーブロックは、第1の幅を有する複数の第1サイプと、前記第1の幅よりも大きい第2の幅を有する第2サイプと、を備え、
前記第2サイプは、前記陸溝に連接され、且つ、タイヤ周方向において前記複数の第1サイプに挟まれるように、配置され 、
前記ショルダーブロックは、前記陸溝に面し且つ互いに交差して連接する第1及び第2幅縁部を備え、
前記第1及び第2幅縁部は、それぞれ前記サイプに連接される、空気入りタイヤ。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致する。
<一致点>
「タイヤ赤道からタイヤ幅方向の外側に向けて延び、前記タイヤ幅方向に対して傾斜する複数の傾斜溝と、
複数の傾斜溝によって区画される複数の陸部と、を備え、
前記陸部は、前記傾斜溝同士を接続する陸溝と、前記陸溝によって区画され、前記タイヤ幅方向で並ぶ複数のブロックと、を備え、
複数のブロックは、最も前記タイヤ幅方向の外側に配置されるショルダーブロックを含み、
前記ショルダーブロックは、第1の幅を有する複数の第1サイプと、前記第1の幅よりも大きい第2の幅を有する第2サイプと、を備え、
前記第2サイプは、前記陸溝に連接され、且つ、タイヤ周方向において前記複数の第1サイプに挟まれるように、配置され、
前記ショルダーブロックは、前記陸溝に面し且つ互いに交差して連接する第1及び第2幅縁部を備え、
前記第1及び第2幅縁部は、それぞれ前記サイプに連接される、空気入りタイヤ。」
そして、本件特許発明1と甲2発明とは、以下の点で相違する。
<相違点2>
本件特許発明1は「前記第1の幅は、0.5mm~0.8mmであり、前記第2の幅は、0.8mm~1.2mmであ」ることを特定するのに対し、甲2発明は第1の幅及び第2の幅が不明である点。
イ 判断
上記相違点2について検討する。
甲2発明において、第1の幅が0.5mm~0.8mmであり、かつ、第2の幅が0.8mm~1.2mmであると解する理由はなく、本件特許発明1と甲2発明とは、相違点2において相違しているのであるから、本件特許発明1は甲2発明であるとはいえない。
また、甲2発明は自動車タイヤの意匠から看取されるものであり、甲2発明において相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は甲2にはなく、他の証拠にもない。
したがって、甲2及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲2発明において、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和6年11月29日付け意見書において、本件特許発明1ないし4は、甲2発明及び参考資料1ないし5に記載されて技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると主張しているが、甲2発明は自動車タイヤの意匠から看取されるものであり、ショルダーブロックにある溝の溝幅を変更して異なる外観とする動機付けがあるとはいえないし、仮に溝幅を変更したとしてもその効果を予測することができるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用することができない。
(3)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含むものである。
そうすると、本件特許発明2ないし4と甲2発明とは、少なくとも上記相違点2において相違するから、本件特許発明2ないし4は、甲2発明であるとはいえない。
また、甲2及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲2発明において、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえないことは、上記(2)イにおいて検討したとおりである。
よって、本件特許発明2ないし4は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)取消理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取消理由2によって取り消すことはできない。
3 申立理由3(甲3を主たる証拠とする進歩性)
(1)甲3に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項
甲3には、「空気入りタイヤ」に関して、次の記載がある。
・「【技術分野】
【0001】
この発明は、空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、スノー性能およびウェット性能を向上できる空気入りタイヤに関する。」
・「【0047】
[変形例]
図4は、図1に記載した空気入りタイヤ1Aの変形例を示す説明図である。同図は、方向性トレッドパターンを有する乗用車用ウィンタータイヤを示している。また、図5は、図4に記載した空気入りタイヤ1Bの要部を示す拡大図である。同図は、センター陸部31の片側のブロック列を示している。これらの図において、図1の空気入りタイヤ1Aのトレッドパターン(図2参照)と同一の構成要素には、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0048】
図4の構成では、空気入りタイヤ1Bが、ジグザグ形状を有する2本の周方向主溝22、22と、これらの周方向主溝22、22に区画されて成る1列のセンター陸部31および左右一対のショルダー陸部32、32とを備える。このため、図2の構成と比較して、単一かつ幅広なセンター陸部31が区画されている。
【0049】
また、空気入りタイヤ1Bが、複数のラグ溝41、42をセンター陸部31および左右のショルダー陸部32、32にそれぞれ備える。ここで、センター陸部31では、ラグ溝41が、タイヤ周方向に対して所定の傾斜角θにて傾斜しつつ延在する傾斜ラグ溝であり、一方の端部にて周方向主溝22に開口し、他方の端部にてタイヤ赤道面CLを越えてセンター陸部31内で終端する。
【0050】
また、一方の周方向主溝22に開口するラグ溝41と、他方の周方向主溝22に開口するラグ溝41とが、タイヤ周方向に所定間隔かつ左右交互に配置される。また、一方の周方向主溝22からタイヤ赤道面CLに向かって延在する2本のラグ溝41、41と、他方の周方向主溝22からタイヤ赤道面CLに向かって延在する1本のラグ溝41とが、センター陸部31内にて交差する。これにより、センター陸部31がラグ溝41により網目状に分割されて、タイヤ周方向に千鳥状に配列された複数のブロック311から成るブロック列が区画される。」
・「【0054】
また、図4および図5の構成では、ラグ溝41の溝幅W2が、タイヤ赤道面CLからタイヤ幅方向外側に向かうに連れて増加している。また、ラグ溝41の傾斜角θが、タイヤ赤道面CLからタイヤ幅方向外側に向かうに連れて増加している。また、ラグ溝41の傾斜角θが、20[deg]≦θ≦80[deg]の範囲内にある。これらにより、ラグ溝41の排水性が高められている。
【0055】
また、図4および図5の構成では、センター陸部31およびショルダー陸部32の各ブロック321、321が、複数のサイプ8を有している。これにより、ブロック311、312のエッジ成分が増加して、タイヤのスノー性能が高められている。なお、サイプとは、陸部に形成された切り込みであり、一般に1.5[mm]未満のサイプ幅(図示省略)を有する。」
・「【図4】
[図:0001424581000010.jpg]
」
イ 甲3に記載された発明
甲3に記載された事項を、特に図4で示される方向性トレッドパターンを有する乗用車用ウィンタータイヤについて整理すると、甲3には以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。
<甲3発明>
「 ジグザグ形状を有する2本の周方向主溝22、22と、これらの周方向主溝22、22に区画されて成る1列のセンター陸部31および左右一対のショルダー陸部32、32とを備え、
複数のラグ溝41、42をセンター陸部31および左右のショルダー陸部32、32にそれぞれ備え、センター陸部31では、ラグ溝41が、タイヤ周方向に対して所定の傾斜角θにて傾斜しつつ延在する傾斜ラグ溝であり、一方の端部にて周方向主溝22に開口し、他方の端部にてタイヤ赤道面CLを越えてセンター陸部31内で終端し、
一方の周方向主溝22に開口するラグ溝41と、他方の周方向主溝22に開口するラグ溝41とが、タイヤ周方向に所定間隔かつ左右交互に配置され、また、一方の周方向主溝22からタイヤ赤道面CLに向かって延在する2本のラグ溝41、41と、他方の周方向主溝22からタイヤ赤道面CLに向かって延在する1本のラグ溝41とが、センター陸部31内にて交差し、これにより、センター陸部31がラグ溝41により網目状に分割されて、タイヤ周方向に千鳥状に配列された複数のブロック311から成るブロック列が区画され、
ラグ溝41の傾斜角θが、タイヤ赤道面CLからタイヤ幅方向外側に向かうに連れて増加しており、前記ラグ溝41の傾斜角θが、20[deg]≦θ≦80[deg]の範囲内にあり、
ショルダー陸部32の各ブロック321、321が、複数のサイプ8を有しており、ここで、サイプとは、陸部に形成された切り込みであり、一般に1.5[mm]未満のサイプ幅(図示省略)を有する、
図4の方向性トレッドパターンを有する空気入りタイヤ。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
甲3発明の「ラグ溝41」は本件特許発明1の「傾斜溝」に、甲3発明の「周方向主溝22」は本件特許発明1の「陸溝」に、甲3発明の「ブロック311」及び「ブロック321」は本件特許発明1の「ブロック」に、甲3発明の「ショルダー陸部32のブロック321」は本件特許発明1の「ショルダーブロック」に、甲3発明の「空気入りタイヤ」は本件特許発明1の「空気入りタイヤ」に、それぞれ相当する。
甲3発明のラグ溝41は、「タイヤ周方向に対して所定の傾斜角θにて傾斜しつつ延在」しており、「傾斜角θが、20[deg]≦θ≦80[deg]の範囲内」にあるから、「タイヤ幅方向に傾斜する」ものといえ、なおかつ、タイヤ赤道面CLを越えてセンター陸部31内で終端しているので、「タイヤ赤道からタイヤ幅方向の外側に向けて延び」ているといえる。そして、甲3発明の空気入りタイヤが、ラグ溝41によって区画される複数の陸部を備えていることが図4看取され、当該陸部が、ラグ溝41同士を接続する周方向主溝22と、周方向溝22によって区画され、タイヤ幅方向で並ぶ複数のブロックを含むことも図4から看取される。さらに、甲3発明の空気入りタイヤは、ショルダーブロックが複数のサイプ8を有しているので、「前記ショルダーブロックは、第1の幅を有する複数の第1サイプと、前記第1の幅よりも大きい第2の幅を有する第2サイプと、を備え」という本件特許発明1の発明特定事項を、「複数のサイプを備え」るという限りにおいて満たしており、甲3発明の空気入りタイヤは、各サイプが周方向主溝22に連接していることが図4から看取されるので、「第2サイプは、前記陸溝に連接され」という本件特許発明1の発明特定事項を、「少なくとも一部のサイプは、陸溝に連接される」という限りにおいて満たしている。
そうすると、両者は、以下の点で一致する。
<一致点>
「タイヤ赤道からタイヤ幅方向の外側に向けて延び、前記タイヤ幅方向に対して傾斜する複数の傾斜溝と、
複数の傾斜溝によって区画される複数の陸部と、を備え、
前記陸部は、前記傾斜溝同士を接続する陸溝と、前記陸溝によって区画され、前記タイヤ幅方向で並ぶ複数のブロックと、を備え、
複数のブロックは、最も前記タイヤ幅方向の外側に配置されるショルダーブロックを含み、
前記ショルダーブロックは、複数のサイプを備え、前記サイプの少なくとも一部は陸溝に連接される、空気入りタイヤ。」
そして、本件特許発明1と甲3発明とは、以下の点で相違する。
<相違点3>
本件特許発明1は「前記ショルダーブロックは、第1の幅を有する複数の第1サイプと、前記第1の幅よりも大きい第2の幅を有する第2サイプと、を備え、第1の幅は、0.5mm~0.8mmであり、前記第2の幅は、0.8mm~1.2mmであり、前記第2サイプは、タイヤ周方向において前記複数の第1サイプに挟まれるように、配置され」ることを特定するに対し、甲3発明はショルダーブロックにおけるサイプの幅や配置が特定されていない点。
<相違点4>
本件特許発明1は「前記ショルダーブロックは、前記陸溝に面し且つ互いに交差して連接する第1及び第2幅縁部を備え、前記第1及び第2幅縁部は、それぞれ前記サイプに連接される」ことを特定するに対し、甲3発明はショルダーブロックの陸溝に面する部分の構造やサイプとの位置関係が特定されていない点。
イ 判断
上記相違点3について検討する。
甲3発明において、ショルダーブロックに「第1の幅を有する複数の第1サイプと、前記第1の幅よりも大きい第2の幅を有する第2サイプ」を設けること、第1の幅を「0.5mm~0.8mm」とすること、第2の幅を「0.8mm~1.2mm」とすること並びに「第2サイプは、タイヤ周方向において前記複数の第1サイプに挟まれるように、配置」すること、のいずれについても動機付けとなる記載は甲3にはない。
甲4には、氷雪路面での操縦安定性を確保しつつ、ショルダーブロックの剛性を向上することを課題(甲4の【0005】)とした空気入りタイヤにおいて、ショルダーブロックに断続サイプ21を設け、断続サイプ21のタイヤ周方向の両側に位置するように、一対の複合サイプ22を設けることが記載されている。
甲3発明と甲4に記載された発明とは、氷雪路面で用いる空気入りタイヤという点で技術分野に関連性が認められるものの、周方向溝の形状や数、ラグ溝の有無などのタイヤトレッドの基本的な構成が大きく異なるものであるから、甲4に記載された技術的事項のうち、特にショルダーブロックにおけるサイプの幅や構成にのみ着目して甲3発明に適用する動機付けがあるとはいえない。そして、他の証拠にも動機付けとなる記載はない。
したがって、甲3及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲3発明において、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書の28-29頁において、甲4には、氷雪路面での操縦安定性を確保しつつ、ショルダーブロックの剛性を向上することを課題(甲4の【0005】)とした空気入りタイヤにおいて、ショルダーブロックに断続サイプ21を設け、断続サイプ21のタイヤ周方向の両側に位置するように、一対の複合サイプ22を設けることが記載されており、スノー性能及びウェット性能を向上できるタイヤを提供することを目的とする甲3発明に対し、甲4記載の事項を適用する動機付けがあると主張しているが、甲3発明と甲4に記載されたタイヤとでは、タイヤトレッドの基本的な構成が大きく異なるものであるから、甲4に記載された技術的事項のうち、特にショルダーブロックにおけるサイプの幅や構成にのみ着目して甲3発明に適用する動機付けがあるとはいえないことは上記のとおりである。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用することができない。
(3)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含むものである。
そうすると、本件特許発明2ないし4と甲3発明とは、少なくとも上記相違点3及び相違点4において相違する。そして、甲3及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲3発明において、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえないことは、上記(1)イにおいて検討したとおりである。
よって、本件特許発明2ないし4は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。
4 申立理由4(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
(3)本件特許発明が解決しようとする課題
本件特許の明細書の【0005】の記載からみて、本件特許発明1ないし4が解決しようとする課題は、ショルダーブロックの路面に対する追従性を向上させることができる空気入りタイヤを提供することであると認められる(以下、「本発明の課題」という。)。
(4)サポート要件の判断
本件特許の明細書の【0022】、【0024】、【0028】-【0030】、【0034】-【0036】、【0038】、【0043】-【0044】、【0047】-【0049】、【0055】、【図1】及び【図4】には、請求項1ないし4に記載された発明に対応する記載がある。
そして、同【0056】には、「第2サイプ12が、陸溝7に連接されているため、接地した際に、第2サイプ12の端部が開き易いため、第2サイプ12が閉じることを抑制することができる。これにより、第2サイプ12のエッジ効果を十分に発揮させることができる。」ことが記載され、同【0057】には「幅の大きい第2サイプ12は、タイヤ周方向D2において第1サイプ11,11に挟まれるように、配置されている。これにより、ショルダーブロック10が第2サイプ12によってタイヤ周方向D2に分断されるため、ショルダーブロック10の路面に対する追従性を向上させることができる。」ことが記載され、同【0060】-【0061】には、ショルダーブロック10は、前記陸溝7に面し且つ互いに交差して連接する第1及び第2幅縁部10e,10fを備え、前記第1及び第2幅縁部10e,10fは、それぞれ前記サイプ11,12に連接されることにより、「第1及び第2幅縁部10e,10fが交差して連接しているため、第1幅縁部10eが延びる方向は、第2幅縁部10fが延びる方向と、異なっている。これにより、第1幅縁部10eに連接されるサイプ11の端部が開き易い力の方向は、第2幅縁部10fに連接されるサイプ12の端部が開き易い力の方向と、異なっている。」ことが記載されている。
そうすると、タイヤ赤道L1からタイヤ幅方向D1の外側に向けて延び、前記タイヤ幅方向D1に対して傾斜する複数の傾斜溝4,5と、複数の傾斜溝4,4(5,5)によって区画される複数の陸部6と、を備え、前記陸部6は、前記傾斜溝4,4(5,5)同士を接続する陸溝7と、前記陸溝7によって区画され、前記タイヤ幅方向D1で並ぶ複数のブロック8,9,10と、を備え、複数のブロック8,9,10は、最も前記タイヤ幅方向D1の外側に配置されるショルダーブロック10を含む空気入りタイヤにおいて、「ショルダーブロック10は、第1の幅を有する複数の第1サイプ11と、前記第1の幅よりも大きい第2の幅を有する第2サイプ12と、を備え」、「第2サイプ12が、陸溝7に連接され」、「第2サイプ12は、タイヤ周方向D2において第1サイプ11,11に挟まれるように、配置され」、「ショルダーブロック10は、前記陸溝7に面し且つ互いに交差して連接する第1及び第2幅縁部10e,10fを備え、前記第1及び第2幅縁部10e,10fは、それぞれ前記サイプ11,12に連接され」る、という発明特定事項を有する空気入りタイヤであれば、本発明の課題を解決できると当業者は認識する。
そして、本件特許発明1は、上記発明特定事項をすべて満たすものであるから、発明の詳細な説明の記載から当業者が本発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、本件特許の明細書において、本件特許発明1に対応する空気入りタイヤを用いた場合に、本発明の課題が解決できることが実施例により実証されていないとしても、本件特許の明細書の上記記載並びに出願時の技術常識を踏まえれば、当業者であれば本件特許発明1の構成を満たせば本発明の課題が解決できるものと理解する。
本件特許発明1の発明特定事項のすべてを有し、さらに限定するものである本件特許発明2ないし4についても同様である。
よって、本件特許発明1ないし4に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を充足する。
(5)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は特許異議申立書において、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、効果を実証する具体例(実施例)が何ら記載されていないので、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるとはいえない、と主張している(特許異議申立書32頁)。
しかし、特許異議申立人は、発明の課題を解決できないことを示す具体的な証拠を提示しておらず、特許異議申立人の上記主張は、上記(4)の判断に影響するものではない。
(6)申立理由4についてのむすび
上記(4)及び(5)に記載したとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由4によって取り消すことはできない。
5 申立理由5(甲7を主たる証拠とする新規性)について
申立理由5は、本件特許発明1ないし4が、特許異議申立書に記載されていない新たな証拠である甲7に記載されたタイヤと同一であることを主張するものであるが、本件訂正により第1サイプ及び第2サイプの溝幅が特定されたことに付随して生じる理由であると解することもできるので、以下に検討する。
(1)甲7に記載された事項
甲7に記載した事項は、上記1(2)ウ(ア)のとおりである。
(2)本件特許発明1について
甲7に記載された写真は、「Blizzak LM005」と同じものであること、掲載された4点の写真がすべて同じタイヤのものであること並びに参考図3の写真及び参考図4の写真に示されるノギスに表示される測定値が、各サイプの溝幅を正確に測定したものであること、が写真から検証できず、これらの点について、令和6年12月19日付けで特許異議申立人に対しておこなった審尋に対する、令和7年1月14日付け回答書をみても、上記の点について、明確に回答されていないことは、上記1(2)ウ(イ)に記載したとおりである。
そうすると、甲7に記載された参考図1ないし4の写真が、甲1に記載された「Blizzak LM005」と同じものであるということはできない。そして、甲7に記載された参考図1ないし4の写真からは、タイヤのトレッドパターンの全体像を把握することができない。よって、甲7に記載されたタイヤが、タイヤトレッドパターンについて甲1と同様の特徴を有するものとはいえない。
仮に、甲7がタイヤトレッドパターンについて甲1と同様の特徴を有しているとしても、参考図3の写真及び参考図4の写真に示されるノギスに表示される測定値が、各サイプの溝幅を正確に測定したものであるとはいえないので、甲7に記載されたタイヤが、本件特許発明1と同一であるとはいえない。
また、甲7に記載されたタイヤにおいて、本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は甲7にはなく、他の証拠にもない。
したがって、甲7及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲7に記載されたタイヤにおいて、本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲7に記載されたタイヤ並びに甲7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、特許異議申立人が、令和7年1月14日付けの回答書において示した回答書における写真は、甲7に記載された参考図1ないし4の写真と同じタイヤの写真であることが確認できないので、上記判断に何ら影響しない。
仮に、上記回答書における写真が、甲7に記載された参考図1ないし4の写真と同じタイヤの写真であるとしても、「上記写真1におけるA-A部拡大図」及び「上記写真2におけるA-A部拡大図」は、どの溝の幅を測定しているのかが明確でないこと、溝に対する定規の角度が明確でない(溝に対して定規が垂直に当てられていないようにも見える)こと並びに定規の目盛りが0.5mm単位であり、0.1mm単位で正確に読み取ることが困難であることなどから、上記回答書における写真から、甲1発明が、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすということはできない。
(3)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件特許発明2ないし4は、甲に記載されたタイヤと同一であるとはいえないし、甲7及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲7に記載されたタイヤにおいて、本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、本件特許発明2ないし4は、甲7に記載されたタイヤ並びに甲7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由5についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、申立理由5によって取り消すことはできない。
第7 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由並びに令和6年11月29日付け意見書において特許異議申立人が主張する理由によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700501