審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2024-700424

空気入りタイヤ

審判番号
2024-700424
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-225869
登録番号
7377091
請求日
2024年05月07日
審決日
2025年08月04日
公報発行日
2025年11月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】TOYO TIRE株式会社
  • 【権利者代理人】山尾 憲人
  • 【権利者代理人】前堀 義之
  • 【権利者代理人】川崎 茂雄
  • 【異議申立人】須藤 晃伸
審判長/審判官
  • 審判長 柴田 昌弘
  • 審判官 植前 充司
  • 審判官 加藤 友也
分類
P1651.113-YAA(B60C) / P1651.121-YAA(B60C) / P1651.537-YAA(B60C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7377091号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7377091号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、5〕、〔3、6〕及び〔4、7〕について訂正することを認める。 特許第7377091号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7377091号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、令和1年12月13日の出願であって、令和5年10月31日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年11月9日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その特許に対して、令和6年5月7日に特許異議申立人 須藤 晃伸(以下、「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされ、同年8月23日付けで取消理由が通知され、同年10月24日に特許権者 TOYO TIRE株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出され、同年11月29日付けで特許異議申立人に対して期間を指定して審尋を行ったところ、特許異議申立人から何ら応答がなく、令和7年3月10日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年5月9日に特許権者から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年同月23日に特許権者から訂正請求書に対する手続補正書(方式)が提出(当該手続補正書により補正された訂正請求書による訂正請求を、「本件訂正請求」という。)され、同年同月30日付で訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年7月3日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 請求の趣旨 本件訂正請求の趣旨は、「特許第7377091号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める。」というものである。 2 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。) (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「前記幅方向サイプは、 直線状また湾曲状に延びる、1つ又は複数のサイプ線部と、 タイヤ周方向に振幅を有する、1つ又は複数のサイプ波形部と を有しており、」 と記載されているのを、 「前記幅方向サイプは、 直線状また湾曲状に延びる複数のサイプ線部と、 タイヤ周方向に振幅を有する複数のサイプ波形部と を交互に有しており、」 に訂正する。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2及び5についても同様に訂正する。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3に 「前記幅方向サイプは、タイヤ周方向に間隔を開けて複数形成されており、 前記タイヤ周方向に隣り合う一対の幅方向サイプにおいて、それぞれの浅サイプ部は、タイヤ幅方向における位置が異なっている、 請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。」 と記載されているのを、 「トレッド部に区画された陸部にタイヤ幅方向に延びる幅方向サイプが形成された空気入りタイヤであって、 前記幅方向サイプは、 直線状また湾曲状に延びる、1つ又は複数のサイプ線部と、 タイヤ周方向に振幅を有する、1つ又は複数のサイプ波形部と を有しており、 前記サイプ線部は、長手方向の途中部分に、残余の部分に比して溝深さが浅い浅サイプ部を有しており、 前記幅方向サイプの長手方向において、前記サイプ線部の長さに対する前記浅サイプ部の長さの比率は、0.2以上0.6以下であり、 前記幅方向サイプは、タイヤ周方向に間隔を開けて複数形成されており、 前記タイヤ周方向に隣り合う一対の幅方向サイプにおいて、それぞれの浅サイプ部は、タイヤ幅方向における位置が異なっている、空気入りタイヤ。」 に訂正する。 請求項3の記載を引用して特定する請求項6についても同様に訂正する。 (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に 「前記サイプ線部の溝厚さは、前記サイプ波形部の溝厚さに比して大きい、 請求項1~3のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。」 と記載されているのを、 「トレッド部に区画された陸部にタイヤ幅方向に延びる幅方向サイプが形成された空気入りタイヤであって、 前記幅方向サイプは、 直線状また湾曲状に延びる、1つ又は複数のサイプ線部と、 タイヤ周方向に振幅を有する、1つ又は複数のサイプ波形部と を有しており、 前記サイプ線部は、長手方向の途中部分に、残余の部分に比して溝深さが浅い浅サイプ部を有しており、 前記幅方向サイプの長手方向において、前記サイプ線部の長さに対する前記浅サイプ部の長さの比率は、0.2以上0.6以下であり、 前記サイプ線部の溝厚さは、前記サイプ波形部の溝厚さに比して大きい、空気入りタイヤ。」 に訂正する。 請求項4の記載を引用して特定する請求項7についても同様に訂正する。 (4) 訂正事項4 ア 訂正事項4-1 特許請求の範囲の請求項5に 「前記幅方向サイプは、タイヤ幅方向において最も外側に位置する外側陸部に形成されている、 請求項1~4のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。」 と記載されているうち、請求項1又は2を引用するものについて、 「前記幅方向サイプは、タイヤ幅方向において最も外側に位置する外側陸部に形成されている、 請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。」 に訂正する。 イ 訂正事項4-2 特許請求の範囲の請求項5に 「前記幅方向サイプは、タイヤ幅方向において最も外側に位置する外側陸部に形成されている、 請求項1~4のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。」 と記載されているうち、請求項3を引用するものについて、 「前記幅方向サイプは、タイヤ幅方向において最も外側に位置する外側陸部に形成されている、 請求項3に記載の空気入りタイヤ。」 とし、新たに請求項6とする。 ウ 訂正事項4-3 特許請求の範囲の請求項5に 「前記幅方向サイプは、タイヤ幅方向において最も外側に位置する外側陸部に形成されている、 請求項1~4のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。」 と記載されているうち、請求項4を引用するものについて、 「前記幅方向サイプは、タイヤ幅方向において最も外側に位置する外側陸部に形成されている、 請求項4に記載の空気入りタイヤ。」 とし、新たに請求項7とする。 (5) 一群の請求項について 訂正前の請求項1ないし5について、請求項2ないし5は請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、訂正前の請求項1ないし5に対応する訂正後の請求項1ないし7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 訂正事項1について 訂正事項1に係る請求項1の訂正は、訂正前は「サイプ線部」及び「サイプ波形部」が「1つ又は複数」であったところ、訂正により「複数」有するものに特定されるとともに、「サイプ線部」と「サイプ波形部」を「交互」に有することを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、本件特許の明細書の【0049】及び図面の記載から見て、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2及び請求項5についても同様である。 (2) 訂正事項2について 訂正事項2に係る請求項3の訂正は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1又は2の記載を引用して特定するものであったところ、請求項1の記載のみを引用する部分について、請求項間の引用関係を解消し独立形式の請求項に書き改めるものであって、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項2に係る請求項3の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 請求項3の記載を引用して特定する請求項6についても同様である。 (3) 訂正事項3について 訂正事項3に係る請求項4の訂正は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1ないし3の記載を引用して特定するものであったところ、請求項1の記載のみを引用する部分について、請求項間の引用関係を解消し独立形式の請求項に書き改めるものであって、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項3に係る請求項4の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 請求項4の記載を引用して特定する請求項7についても同様である。 (4) 訂正事項4について ア 訂正事項4-1について 訂正事項4-1に係る請求項5の訂正は、訂正前の請求項5が訂正前の請求項1~4のいずれか1つを引用して特定するものであったところ、訂正後の請求項1又は2のみを引用して特定するものと訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項4-1に係る請求項5の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 イ 訂正事項4-2について 訂正事項4-2に係る請求項6の訂正は、訂正前の請求項5が訂正前の請求項1~4のいずれか1つを引用して特定するものであったところ、訂正事項2に係る請求項3の訂正により、訂正後の請求項3が他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとなったことに伴い、訂正前の請求項5における訂正後の請求項3の記載のみを引用する部分について請求項6とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項4-2に係る請求項6の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 ウ 訂正事項4-3について 訂正事項4-3に係る請求項7の訂正は、訂正前の請求項5が訂正前の請求項1~4のいずれか1つを引用して特定するものであったところ、訂正事項3に係る請求項4の訂正により、訂正後の請求項4が他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとなったことに伴い、訂正前の請求項5における訂正後の請求項4の記載のみを引用する部分について請求項7とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項4-3に係る請求項7の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 (5) 訂正単位について 訂正後の請求項3、4、6、7については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とする求めがある。 しかしながら、訂正後の請求項6は訂正後の請求項3を引用して特定するものであり、また、訂正後の請求項7は訂正後の請求項4を引用して特定するものである。 してみると、別の訂正単位とする求めが認められるのは、訂正後の請求項〔3、6〕及び〔4、7〕であると判断される。 4 訂正についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 また、本件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1ないし5に対して特許異議申立がされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、5〕、〔3、6〕及び〔4、7〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1、2、5〕、〔3、6〕及び〔4、7〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」という。また、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」をまとめて、「本件特許発明」という場合がある。)は、令和7年5月9日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 トレッド部に区画された陸部にタイヤ幅方向に延びる幅方向サイプが形成された空気入りタイヤであって、 前記幅方向サイプは、 直線状また湾曲状に延びる複数のサイプ線部と、 タイヤ周方向に振幅を有する複数のサイプ波形部と を交互に有しており、 前記サイプ線部は、長手方向の途中部分に、残余の部分に比して溝深さが浅い浅サイプ部を有しており、 前記幅方向サイプの長手方向において、前記サイプ線部の長さに対する前記浅サイプ部の長さの比率は、0.2以上0.6以下である、空気入りタイヤ。 【請求項2】 前記浅サイプ部は、前記サイプ線部が所定長さ以上である部分に設けられている、 請求項1に記載の空気入りタイヤ。 【請求項3】 トレッド部に区画された陸部にタイヤ幅方向に延びる幅方向サイプが形成された空気入りタイヤであって、 前記幅方向サイプは、 直線状また湾曲状に延びる、1つ又は複数のサイプ線部と、 タイヤ周方向に振幅を有する、1つ又は複数のサイプ波形部と を有しており、 前記サイプ線部は、長手方向の途中部分に、残余の部分に比して溝深さが浅い浅サイプ部を有しており、 前記幅方向サイプの長手方向において、前記サイプ線部の長さに対する前記浅サイプ部の長さの比率は、0.2以上0.6以下であり、 前記幅方向サイプは、タイヤ周方向に間隔を開けて複数形成されており、 前記タイヤ周方向に隣り合う一対の幅方向サイプにおいて、それぞれの浅サイプ部は、タイヤ幅方向における位置が異なっている、空気入りタイヤ。 【請求項4】 トレッド部に区画された陸部にタイヤ幅方向に延びる幅方向サイプが形成された空気入りタイヤであって、 前記幅方向サイプは、 直線状また湾曲状に延びる、1つ又は複数のサイプ線部と、 タイヤ周方向に振幅を有する、1つ又は複数のサイプ波形部と を有しており、 前記サイプ線部は、長手方向の途中部分に、残余の部分に比して溝深さが浅い浅サイプ部を有しており、 前記幅方向サイプの長手方向において、前記サイプ線部の長さに対する前記浅サイプ部の長さの比率は、0.2以上0.6以下であり、 前記サイプ線部の溝厚さは、前記サイプ波形部の溝厚さに比して大きい、空気入りタイヤ。 【請求項5】 前記幅方向サイプは、タイヤ幅方向において最も外側に位置する外側陸部に形成されている、 請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。 【請求項6】 前記幅方向サイプは、タイヤ幅方向において最も外側に位置する外側陸部に形成されている、 請求項3に記載の空気入りタイヤ。 【請求項7】 前記幅方向サイプは、タイヤ幅方向において最も外側に位置する外側陸部に形成されている、 請求項4に記載の空気入りタイヤ。」 第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由の要旨 特許異議申立人が特許異議申立書において、請求項1ないし5に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨(下記1ないし3)は、次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性) 本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 申立理由2(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 3 申立理由3(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、申立理由3の具体的理由は、おおむね次のとおりである。 本件特許の明細書には、具体例が記載されておらず、本件特許の請求項1ないし5に記載の全ての範囲について、発明の課題を解決できると当業者が認識できるとはいえない。 4 証拠方法 ・甲第1号証:特開2010-254154号公報 ・甲第2号証:特開2013-112130号公報 ・甲第3号証:特開2014-227157号公報 ・甲第4号証:特開2017-1617号公報 ・甲第5号証:特開平11-170818号公報 第5 令和7年3月10日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要 令和7年3月10日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)は、次の1及び2である。なお、以下の取消理由は、申立理由1及び申立理由2のうち請求項1、2及び5に関する部分を包含する。 1 取消理由1(新規性) 本件特許の請求項1、2及び5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 取消理由2(進歩性) 本件特許の請求項1、2及び5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 第6 当審の判断 以下で検討するとおり、当審は、令和7年3月10日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の理由及び当該取消理由(決定の予告)で採用しなかった申立理由の理由では、本件特許発明1ないし7に係る特許を取り消すことはできないものと判断する。 1 令和7年3月10日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の理由について ●取消理由1及び2(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について (1) 甲第1号証の記載事項等 ア 甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、「タイヤ」に関し、次の記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 タイヤ周方向に沿って延びる周方向溝と、トレッド幅方向に沿って延びる横溝とによって区画されるブロックを備え、トレッド幅方向に沿ってジグザグ状に延びるサイプが、前記ブロックに形成されたタイヤであって、 前記サイプの両端は、前記ブロックのトレッド幅方向における両端でそれぞれ前記周方向溝に連通し、 前記ブロックは、 タイヤ周方向に並び、前記サイプを形成する一対の側壁面と、 前記ブロックのトレッド幅方向に沿った両側で、前記側壁面の底から、タイヤ径方向に沿って、タイヤ径方向外側に延びる一対の底上げ部とを備え、 前記底上げ部は、 前記サイプのトレッド幅方向における両端から、トレッド幅方向における前記ブロックの中心側に所定距離だけ離れて位置し、前記サイプを形成する一方の側壁面から、前記サイプを形成する他方の側壁面に連なるタイヤ。 【請求項2】 トレッド幅方向における前記底上げ部の幅は、トレッド幅方向における前記ブロックの幅に対して、10%以上である請求項1に記載のタイヤ。 【請求項3】 前記サイプの深さ方向におけるトレッドの表面から前記底上げ部までの深さは、 前記サイプの深さ方向におけるトレッドの表面から前記サイプの底までの深さに対して、20%以上、70%以下である請求項1又は2に記載のタイヤ。 【請求項4】 前記所定距離は、トレッド幅方向における前記ブロックの幅に対して、10%以上、30%以下である請求項1乃至3の何れか一項に記載のタイヤ。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、タイヤ周方向に沿って延びる周方向溝と、トレッド幅方向に沿って延びる横溝とによって区画されるブロックを備え、トレッド幅方向に沿ってジグザグ状に延びるサイプが、ブロックに形成されたタイヤに関し、特に、雪氷上性能を確保しつつ、ブロックの剛性をさらに向上させたタイヤに関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら、上述した従来のタイヤには、次のような問題があった。すなわちブロックの剛性を向上できる反面、トレッド幅方向に沿ったサイプの両端では、サイプがタイヤ周方向に沿って開かず、サイプやトレッドパターンのエッジに働くエッジ効果(掘り起こし摩擦力)が得られず、雪氷上性能、具体的には、氷雪路における制動力やトラクションが低下するという問題点があった。 【0006】 そこで、本発明は、ブロックの剛性を維持しつつ、雪氷上性能をさらに向上させたタイヤの提供を目的とする。」 「【発明を実施するための形態】 【0016】 次に、本発明に係る空気入りタイヤの実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一または類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。 【0017】 したがって、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。 【0018】 [実施形態] 本実施形態においては、(1)空気入りタイヤの構成、(2)ブロックの詳細構成、(3)比較評価、(4)作用・効果、(5)その他の実施形態について説明する。 【0019】 (1)空気入りタイヤの構成 図1は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤ1を構成するトレッドの展開図である。空気入りタイヤ1は、氷雪路の走行に適したタイヤ、いわゆるスタッドレスタイヤである。空気入りタイヤ1におけるトレッドに形成される各部位について更に説明する。 【0020】 空気入りタイヤ1は、タイヤ周方向Rに沿って延びる周方向溝10と、トレッド幅方向Wに沿って延びる横溝12とによって区画されるブロック20を備えている。 【0021】 各ブロック20には、トレッド幅方向Wに沿ってジグザグ状に延びるサイプ30が形成される。トレッド幅方向Wにおけるサイプ30の両端は、ブロック20のトレッド幅方向Wにおける両端でそれぞれ周方向溝10に連通する。 【0022】 (2)ブロックの詳細構成 ブロックの詳細構成について、説明する。について、図2、3を用いて説明する。図2は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤ1を構成するブロック20の一部分解斜視図である。図3は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤ1を構成するブロック20の断面図である図2、3に示すように、ブロック20は、タイヤ周方向Rに並び、サイプ30を形成する一対の側壁面50と、ブロック20のトレッド幅方向Wに沿った両側で、側壁面50の底から、タイヤ径方向Dに沿って、タイヤ径方向外側に延びる一対の底上げ部40とを備える。具体的には、側壁面50は、側壁面52と、側壁面52に対向する側壁面54とにより構成される。つまり、サイプ30は、一方の側壁面52と、他方側壁面54と、一対の底上げ部40とにより形成される。 【0023】 底上げ部40は、サイプ30のトレッド幅方向Wにおける両端から、トレッド幅方向Wにおけるブロック20の中心側に所定距離L1だけ離れて位置し、サイプ30を形成する一方の側壁面52から、サイプ30を形成する他方の側壁面54に連なる。 【0024】 具体的には、図3に示すように、底上げ部40のトレッド幅方向外側の端部が、サイプ30のトレッド幅方向Wにおける端部から所定距離L1だけ離れて位置する。なお、所定距離L1は、トレッド幅方向Wにおけるブロック20の幅W3に対して、10%以上、30%以下である。より好ましくは、所定距離L1は、トレッド幅方向Wにおけるブロック20の幅W3に対して、10%以上、25%以下である。 【0025】 トレッド幅方向Wにおける一方の底上げ部40の幅W1は、トレッド幅方向Wにおけるブロック20の幅W3に対して、10%以上である。同様にして、トレッド幅方向Wにおける他方の底上げ部40の幅W2は、トレッド幅方向Wにおけるブロック20の幅W3に対して、10%以上である。 【0026】 サイプ30の深さ方向(つまり、タイヤ径方向D)におけるトレッド22の表面から底上げ部40までの深さD1は、サイプ30の深さ方向(つまり、タイヤ径方向D)におけるトレッド22の表面からサイプ30の底までの深さD2に対して、20%以上、70%以下である。なお、トレッド22の表面から底上げ部40までの深さD1とは、底上げ部40のタイヤ径方向外側の端部から、タイヤ径方向Dに沿ったトレッド22の表面までの距離を示す。本実施形態においては、トレッド幅方向Wにおいて両側に位置する一対の底上げ部40について、深さD1は、同じ深さに設定されている。」 「 [図:0001428990000001.jpg] [図:0001428990000002.jpg] 」 イ 甲第1号証に記載された発明 上記アの記載、特に「実施形態」の項、図2、図3の記載を中心に整理すると、甲第1号証には次の発明が記載されていると認める。 「タイヤ周方向に沿って延びる周方向溝と、トレッド幅方向に沿って延びる横溝とによって区画されるブロックを備えている空気入りタイヤであって、 各ブロックには、トレッド幅方向に沿ってジグザグ状に延びるサイプが形成され、 トレッド幅方向におけるサイプの両端は、ブロックのトレッド幅方向における両端でそれぞれ周方向溝に連通するものであり、 ブロックは、タイヤ周方向に並び、サイプを形成する一対の側壁面と、ブロックのトレッド幅方向に沿った両側で、側壁面の底から、タイヤ径方向に沿って、タイヤ径方向外側に延びる一対の底上げ部とを備えるものである、 空気入りタイヤ。」(以下、「甲1発明」という。) (2) 対比・判断 ア 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「タイヤ周方向に沿って延びる周方向溝と、トレッド幅方向に沿って延びる横溝とによって区画されるブロック」は、本件特許発明1の「トレッド部に区画された陸部」に相当する。 また、甲1発明の各ブロックに形成される「トレッド幅方向に沿ってジグザグ状に延びるサイプ」は、本件特許発明1の「タイヤ幅方向に延びる幅方向サイプ」に相当する。 そして、甲第1号証の図2から、サイプの両端に直線部を有し、両端の直線部の間にジグザグ状に延びる部分を有することが看取できるから、甲1発明のサイプは、本件特許発明1の「直線状また湾曲状に延びる」「サイプ線部」と、「タイヤ周方向に振幅を有する」「サイプ波形部」「を有しており、」との特定事項を満たすものといえる。 さらに、甲1発明のブロックは、「サイプを形成する一対の側壁面と、ブロックのトレッド幅方向に沿った両側で、側壁面の底から、タイヤ径方向に沿って、タイヤ径方向外側に延びる一対の底上げ部とを備える」ものであること及び図面(図2、図3)から、サイプの直線部の一部に「底上げ部」を有するものであり、本件特許発明1の「サイプ線部は、長手方向の途中部分に、残余の部分に比して溝深さが浅い浅サイプ部を有しており、」との特定事項を満たすものである。 してみると、本件特許発明1と甲1発明との間の一致点及び一応の相違点は次のとおりである。 (一致点) 「トレッド部に区画された陸部にタイヤ幅方向に延びる幅方向サイプが形成された空気入りタイヤであって、 前記幅方向サイプは、 直線状また湾曲状に延びるサイプ線部と、 タイヤ周方向に振幅を有するサイプ波形部と を有しており、 前記サイプ線部は、長手方向の途中部分に、残余の部分に比して溝深さが浅い浅サイプ部を有している、空気入りタイヤ。」 (相違点) ・相違点1-1 幅方向サイプに関し、本件特許発明1は「複数のサイプ線部と、・・・複数のサイプ波形部とを交互に有しており、」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。 ・相違点1-2 浅サイプ部の長さに関し、本件特許発明1は「前記幅方向サイプの長手方向において、前記サイプ線部の長さに対する前記浅サイプ部の長さの比率は、0.2以上0.6以下である、」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。 上記相違点1-1について検討する。 甲第1号証は、「ブロックの剛性を維持しつつ、雪氷上性能をさらに向上させたタイヤの提供」(【0005】)を課題とするものであって、「タイヤ周方向に沿って延びる周方向溝と、トレッド幅方向に沿って延びる横溝とによって区画されるブロックを備え、トレッド幅方向に沿ってジグザグ状に延びるサイプが、前記ブロックに形成されたタイヤであって、前記サイプの両端は、前記ブロックのトレッド幅方向における両端でそれぞれ前記周方向溝に連通し、前記ブロックは、タイヤ周方向に並び、前記サイプを形成する一対の側壁面と、前記ブロックのトレッド幅方向に沿った両側で、前記側壁面の底から、タイヤ径方向に沿って、タイヤ径方向外側に延びる一対の底上げ部とを備え、前記底上げ部は、前記サイプのトレッド幅方向における両端から、トレッド幅方向における前記ブロックの中心側に所定距離だけ離れて位置し、前記サイプを形成する一方の側壁面から、前記サイプを形成する他方の側壁面に連なる」(【請求項1】)ものとすることでその課題を解決するものであり、甲第1号証の明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面の記載を参酌しても、甲1発明は、複数の直線状のサイプと複数のジグザグ状のサイプを交互に有するものではない。 よって、相違点1-1は実質的な相違点である。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明ではない。 そして、甲第1号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1発明のサイプを、複数の直線状のサイプ(サイプ線部)と複数のジグザグ状のサイプ(サイプ波形部)を交互に有するものとする動機付けもない。 よって、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件特許発明2及び5について 本件特許発明2及び5は、いずれも、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである。 そして、上記アのとおり、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明2及び5も、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3) 取消理由1及び2についてのまとめ 上記(2)のとおりであるから、取消理由1及び2では、本件特許発明1、2及び5に係る特許を取り消すことはできない。 2 令和7年3月10日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の理由として採用しなかった異議申立理由について 令和7年3月10日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の理由として採用しなかった異議申立理由は、申立理由2のうち請求項3及び4(訂正後の請求項3、4、6及び7)に係る部分及び申立理由3である。 (1) 申立理由2(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)のうち、本件特許発明3、4、6及び7に係る部分について ア 甲第1号証の記載事項等 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明については、上記1(1)のとおりである。 イ 対比・判断 (ア) 本件特許発明3について 本件特許発明3と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「タイヤ周方向に沿って延びる周方向溝と、トレッド幅方向に沿って延びる横溝とによって区画されるブロック」は、本件特許発明3の「トレッド部に区画された陸部」に相当する。 また、甲1発明の各ブロックに形成される「トレッド幅方向に沿ってジグザグ状に延びるサイプ」は、本件特許発明3の「タイヤ幅方向に延びる幅方向サイプ」に相当する。 そして、甲第1号証の図2から、サイプの両端に直線部を有し、両端の直線部の間にジグザグ状に延びる部分を有することが看取できるから、甲1発明のサイプは、本件特許発明3の「前記幅方向サイプは、直線状また湾曲状に延びる、1つ又は複数のサイプ線部と、タイヤ周方向に振幅を有する、1つ又は複数のサイプ波形部とを有しており、」との特定事項を満たすものといえる。 さらに、甲1発明のブロックは、「サイプを形成する一対の側壁面と、ブロックのトレッド幅方向に沿った両側で、側壁面の底から、タイヤ径方向に沿って、タイヤ径方向外側に延びる一対の底上げ部とを備える」ものであること及び図面(図2、図3)から、サイプの直線部の一部に「底上げ部」を有するものであり、本件特許発明3の「サイプ線部は、長手方向の途中部分に、残余の部分に比して溝深さが浅い浅サイプ部を有しており、」との特定事項を満たすものである。 そして、甲第1号証の図面(図1、図2)からみて、甲1発明のサイプが、「タイヤ周方向に間隔を開けて複数形成されている」ものであることは明らかである。 してみると、本件特許発明3と甲1発明との間の一致点及び一応の相違点は次のとおりである。 (一致点) 「トレッド部に区画された陸部にタイヤ幅方向に延びる幅方向サイプが形成された空気入りタイヤであって、 前記幅方向サイプは、 直線状また湾曲状に延びる、1つ又は複数のサイプ線部と、 タイヤ周方向に振幅を有する、1つ又は複数のサイプ波形部と を有しており、 前記サイプ線部は、長手方向の途中部分に、残余の部分に比して溝深さが浅い浅サイプ部を有しており、 前記幅方向サイプは、タイヤ周方向に間隔を開けて複数形成されている、空気入りタイヤ。」 (相違点) ・相違点1-3 浅サイプ部の長さに関し、本件特許発明3は「前記幅方向サイプの長手方向において、前記サイプ線部の長さに対する前記浅サイプ部の長さの比率は、0.2以上0.6以下である、」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。 ・相違点1-4 本件特許発明3は、「前記タイヤ周方向に隣り合う一対の幅方向サイプにおいて、それぞれの浅サイプ部は、タイヤ幅方向における位置が異なっている、」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。 事案に鑑み、相違点1-4について検討する。 甲第1号証には、甲1発明の底上げ部に関し、「底上げ部40は、サイプ30のトレッド幅方向Wにおける両端から、トレッド幅方向Wにおけるブロック20の中心側に所定距離L1だけ離れて位置し、サイプ30を形成する一方の側壁面52から、サイプ30を形成する他方の側壁面54に連なる」(【0023】)、「具体的には、図3に示すように、底上げ部40のトレッド幅方向外側の端部が、サイプ30のトレッド幅方向Wにおける端部から所定距離L1だけ離れて位置する」(【0024】)、「トレッド幅方向Wにおける一方の底上げ部40の幅W1は、トレッド幅方向Wにおけるブロック20の幅W3に対して、10%以上である。同様にして、トレッド幅方向Wにおける他方の底上げ部40の幅W2は、トレッド幅方向Wにおけるブロック20の幅W3に対して、10%以上である」(【0025】)、「本実施形態においては、トレッド幅方向Wにおいて両側に位置する一対の底上げ部40について、深さD1は、同じ深さに設定されている」(【0026】)と記載され、図2ないし図4からは、サイプ部両端に設けられている直線部のうち、概ねジグザグ状の部分に隣接する位置(サイプ30のトレッド幅方向Wにおける両端から、トレッド幅方向Wにおけるブロック20の中心側に所定距離L1だけ離れた位置)に底上げ部が設けられていることが図示されている。 これらの記載及び図面からは、底上げ部の位置はサイプの両端に設けられた直線部のうち、概ねサイプのジグザグ状の部分に隣接した位置に設けられるものは示されているものの、それ以外の位置に、かつ、サイプにより異なる位置に底上げ部を設けることは、記載も示唆もされていない。むしろ、底上げ部が「サイプ30のトレッド幅方向Wにおける両端から、トレッド幅方向Wにおけるブロック20の中心側に所定距離L1だけ離れた位置」に設けられるものであり、かつ、底上げ部の幅(【0025】)も考慮すると、他の部分に底上げ部の位置を変更する余地は小さく、ましてや、サイプにより底上げ部の位置を変更することを示唆する記載もない。 また、甲第1号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1発明において、底上げ部の位置をサイプにより変更し、相違点1-4に係る本件特許発明3の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (特許異議申立人の主張について) 特許異議申立人は、令和7年7月3日に提出した意見書(以下、「意見書」という。)において、甲第3号証の図3及び図4を参照し、タイヤ周方向に隣り合う一対の幅方向サイプにおいて、それぞれの浅サイプ部は、タイヤ幅方向における位置が異なっているものが開示されており、この点を甲1発明に適用することは当業者が容易に想到し得たものである旨主張する(意見書第3頁ないし第4頁)。 しかしながら、上記検討のとおり、そもそも、甲1発明において底上げ部の位置を変更する余地は乏しく、また、甲第3号証の例があるとしても、甲1発明において、底上げ部の位置をサイプによりずらす動機付けがない。 したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。 (イ) 本件特許発明4について 本件特許発明4と甲1発明とを対比すると、上記(ア)と同様の相当関係がいえるから、両者の間の一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) 「トレッド部に区画された陸部にタイヤ幅方向に延びる幅方向サイプが形成された空気入りタイヤであって、 前記幅方向サイプは、 直線状また湾曲状に延びる、1つ又は複数のサイプ線部と、 タイヤ周方向に振幅を有する、1つ又は複数のサイプ波形部と を有しており、 前記サイプ線部は、長手方向の途中部分に、残余の部分に比して溝深さが浅い浅サイプ部を有している、空気入りタイヤ。」 (相違点) ・相違点1-5 浅サイプ部の長さに関し、本件特許発明4は「前記幅方向サイプの長手方向において、前記サイプ線部の長さに対する前記浅サイプ部の長さの比率は、0.2以上0.6以下である、」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。 ・相違点1-6 本件特許発明4は「前記サイプ線部の溝厚さは、前記サイプ波形部の溝厚さに比して大きい、」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。 事案に鑑み、相違点1-6について検討する。 甲第1号証には、サイプの溝厚さについては何ら言及はなく、かつ、図1及び図2を見ても、サイプの溝厚さをジグザグ状に伸びるサイプ(「サイプ波形部」に相当)とサイプの直線部(「サイプ線部」に相当)で溝厚さが異なるものとしていることを伺わせるものでもない。 そして、甲1発明は、サイプの直線部の一部に底上げ部を設けることで、ブロックの剛性を維持しつつ、雪氷上性能をさらに向上させるものであるところ、サイプの直線部の溝厚さを大きくすることは、剛性の低下を招きかねない。 してみると、甲第1号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1発明において、サイプの直線部の溝厚さをジグザグ状に伸びるサイプの溝厚さに比して大きくする動機付けがあるとはいえない。 したがって、甲1発明において、相違点1-6に係る本件特許発明4の発明特定事項を満たすもの値することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (特許異議申立人の主張について) 特許異議申立人は意見書において、甲第5号証の【0017】、【図1】及び【図2】を参照しつつ、甲第5号証には、「前記サイプ線部(端部分6e、6e)の溝厚さ(溝巾a2)は、前記サイプ波形部(中間部分6c)の溝厚さ(溝巾a1)に比して大きい」ものが開示されていること、かつ、「サイピング6の本数を著しく増加させることなくこの中間部分6cにおいて実質的にサイピング6のエッジ成分を増加させ、耐摩耗性を向上しながらも氷上性能の低下をも防止している」(【0024】)と記載されている通り、耐摩耗性を向上しながらも氷上性能の低下を防止するものであるのに対し、甲1発明は、ブロックの剛性を維持しつつ、雪氷上性能をさらに向上するものであるので、甲1発明と甲第5号証に記載された技術事項は、その作用が共通しているとし、甲1発明に対して甲第5号証に記載の技術事項を適用する動機付けはある旨主張(意見書第5頁)する。 しかしながら、上記検討のとおり、甲1発明のサイプの直線部は、底上げ部を設けることで剛性の維持を図るものであるところ、当該サイプの直線部の溝厚さを大きくすることは剛性を低下させることになるから、甲1発明において、甲第5号証の記載をもとに、サイプの直線部の溝厚さをジグザグ状のサイプの溝厚さに比して大きくする動機付けがあるとはいえない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (ウ) 本件特許発明6について 本件特許発明6は、本件特許発明3の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである。 そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明3は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明6も、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (エ) 本件特許発明7について 本件特許発明7は、本件特許発明4の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである。 そして、上記(イ)のとおり、本件特許発明4は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明7も、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 申立理由2のうち、本件特許発明3、4、6及び7に係る部分についてのまとめ 上記イのとおりであるから、申立理由2では、本件特許発明3、4、6及び7に係る特許を取り消すことはできない。 (2) 申立理由3(サポート要件)について ア サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 イ 特許請求の範囲の記載 上記第3のとおりである。 ウ サポート要件についての判断 本件特許発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「トレッド部に区画されたブロックに幅方向サイプが形成された空気入りタイヤにおいて、エッジ効果を好適に発揮させながら、操安性の悪化を抑制すること」(【0006】)である。 そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、 「本発明は、 トレッド部に区画された陸部にタイヤ幅方向に延びる幅方向サイプが形成された空気入りタイヤであって、 前記幅方向サイプは、 直線状また湾曲状に延びる、1つ又は複数のサイプ線部と、 タイヤ周方向に振幅を有する、1つ又は複数のサイプ波形部と を有しており、 前記サイプ線部は、長手方向の途中部分に、残余の部分に比して溝深さが浅い浅サイプ部を有しており、 前記幅方向サイプの長手方向において、前記サイプ線部の長さに対する前記浅サイプ部の長さの比率は、0.2以上0.6以下である、空気入りタイヤを提供する。」(【0007】)との記載、 「本発明によれば、幅方向サイプは、サイプ線部とサイプ波形部とを有しているので、サイプ線部によるエッジ効果を好適に発揮させつつ、サイプ波形部により例えば旋回時等において陸部にタイヤ幅方向に生じる力に対して抗しやすい。」(【0008】)との記載、 「また、サイプ線部は浅サイプ部を有しているので、タイヤ幅方向に力が作用したとしても、浅サイプ部を介してタイヤ周方向に連結された部分が互いに支持し合い、タイヤ幅方向への変形が抑制される。また、浅サイプ部によって、接地時においても、サイプ線部の閉塞が抑制されやすい。これによって、サイプ線部におけるエッジ効果を発揮させながら、浅サイプ部によってタイヤ幅方向への変形が抑制される。この結果、エッジ効果を発揮させながら、操安性の悪化が抑制される。 しかも、幅方向サイプの長手方向において、サイプ線部の長さに対する浅サイプ部の長さの比率は、0.2以上0.6以下であるので、サイプ線部によるエッジ効果と、浅サイプ部による操安性の悪化抑制効果とが、好適に両立される。上記比率が0.2未満であると、浅サイプ部による操安性の悪化抑制が不十分になりやすい。上記比率が0.6を超過すると、サイプ線部によるエッジ効果が不十分になりやすい。」(【0009】)との記載があり、具体的な実施形態の記載もある。 これらの記載に接した当業者であれば、「トレッド部に区画された陸部にタイヤ幅方向に延びる幅方向サイプが形成された空気入りタイヤ」において、「幅方向サイプは、サイプ線部とサイプ波形部とを有し」、「サイプ線部は浅サイプ部を有し」、「サイプ線部の長さに対する浅サイプ部の長さの比率は、0.2以上0.6以下」との特定事項を満たすことで、発明の課題を解決できると認識できる。 そして、本件特許発明1ないし7はいずれも、上記の発明の課題を解決できると認識できる特定事項を全て有しさらに限定するものであるから、当然、発明の課題を解決できると認識できる。 エ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は特許異議申立書において、要するに、本件特許の明細書には、具体例の記載がないから、本件特許発明1ないし7は課題を課題を解決できるものと当業者が理解できるとはいえない(特許異議申立書第26頁)旨主張するが、上記ウの検討のとおり、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、各特定事項と当該特定事項を採用することによる効果について説明がなされていることから見て、本件特許発明1ないし7は、発明の課題を解決できると認識できるものであり、具体例がないことは上記ウの判断に何ら影響するものではない。 また、特許異議申立人は特許異議申立書において、浅サイプ部の溝深さや長さL2の値次第では「エッジ効果を好適に発揮させながら操安性の悪化を抑制できることを、当業者が認識できるとはいえない」(特許異議申立書第25頁ないし第26頁)ことも主張するが、当該主張は程度の問題であって、定性的な効果が奏されないというものではない。また、この点に関し、効果を奏しない(発明の課題を解決し得ない)とする具体的な証拠を提示するものでもないから、特許異議申立人の当該主張も採用できない。 オ 申立理由3についてのまとめ 上記ウ及びエのとおりであるから、申立理由3では、本件特許発明1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。 第7 結語 上記第6のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由及び異議申立理由の理由では、本件特許発明1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許発明1ないし7に係る特許を取り消す理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700424

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決34件(TOYO TIRE株式会社、須藤 晃伸)
  • 2025-700251異議申立 / 2025-11-13 / 訂正認容ゴム組成物およびゴム組成物を加硫成形してなる防振ゴム
    同じ当事者: TOYO TIRE株式会社
  • 2024-700501異議申立 / 2025-06-13 / 訂正認容空気入りタイヤ
    同じ当事者: TOYO TIRE株式会社
  • 2024-685021異議申立 / 2025-03-13 / 維持モティバ、モチバ
    同じ当事者: TOYO TIRE株式会社
  • 2023-700210異議申立 / 2024-12-20 / 訂正認容熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料用樹脂組成物およびそのフィラメント状成形体
    同じ当事者: 須藤 晃伸
  • 2023-700261異議申立 / 2023-11-20 / 維持タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ
    同じ当事者: TOYO TIRE株式会社
同じ論点・分野の審決(審決分類)221件(113・B60C、121・B60C、537・B60C)
  • 2024-700501異議申立 / 2025-06-13 / 訂正認容空気入りタイヤ
    共通の審決分類: 113・B60C、121・B60C、537・B60C
  • 2023-700704異議申立 / 2024-08-15 / 訂正認容タイヤ
    共通の審決分類: 113・B60C、121・B60C、537・B60C
  • 2021-701172異議申立 / 2023-04-20 / 訂正認容タイヤ
    共通の審決分類: 113・B60C、121・B60C、537・B60C
  • 2021-700910異議申立 / 2022-09-27 / 訂正認容硬化したインナーライナー上にポリマー含有コーティングを生成する方法、かかるインナ…
    共通の審決分類: 113・B60C、121・B60C、537・B60C
  • 2021-701183異議申立 / 2022-09-12 / 訂正認容タイヤ
    共通の審決分類: 113・B60C、121・B60C、537・B60C

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存