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特許異議申立

2024-700287

不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物

審判番号
2024-700287
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-041409
登録番号
7363945
請求日
2024年03月29日
審決日
2025年04月18日
公報発行日
2025年07月25日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社レゾナック
  • 【権利者代理人】三好 秀和
  • 【権利者代理人】高橋 俊一
  • 【権利者代理人】伊藤 正和
  • 【権利者代理人】高松 俊雄
  • 【異議申立人】浅野 幸義
審判長/審判官
  • 審判長 細井 龍史
  • 審判官 小出 直也
  • 審判官 松本 直子
分類
P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7363945号発明「不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7363945号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。 特許第7363945号の請求項1及び2に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7363945号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、平成29年8月1日に出願した特願2017-149182号の一部を令和4年3月16日に新たな出願(特願2022-41409号)としたものであって、令和5年10月10日にその特許権の設定登録(請求項の数2)がされ、同年同月18日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、令和6年3月29日に、本件特許の請求項1及び2に係る特許に対して、特許異議申立人 浅野 幸義(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。 以後の手続は以下のとおりである。 令和6年 6月24日付け 取消理由通知 同年 8月26日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者) 同年 9月 2日付け 訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項) 同年10月 4日 意見書の提出(申立人) 同年11月19日付け 取消理由通知書(決定の予告) 令和7年 1月 9日 応対記録 同年 1月16日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者) なお、令和7年1月30日付けで、申立人に対して同年同月16日に訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をし、期間を指定して意見を求めたが、申立人からの応答はなかった。 また、令和6年8月26日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和7年1月16日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、「特許第7363945号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものであって、その内容は以下のとおりである。 <訂正事項1> 請求項1において、「(B)ジメチルアセトアミドとを含む、不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物。」とあるのを、 「(B)ジメチルアセトアミドとを含み、前記ポリアミドイミド樹脂の量が32質量%以上である、不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物。」 に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。 なお、訂正前の請求項1及び2について、請求項2は、請求項1を直接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1及び2に対応する訂正後の請求項1及び2は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正の目的 訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明において、ポリアミドイミド樹脂の量が特定されていないのに対し、「ポリアミドイミド樹脂の量が32質量%以上」であることを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 (2)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0021】に、「樹脂組成物におけるポリアミドイミド樹脂の量は、適宜設定することができ、特に限定はされない。好ましい一実施形態において、他の成分とのバランスの観点から、樹脂組成物におけるポリアミドイミド樹脂の量は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。一方、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。」と記載されており、また、実施例1~3(【0049】~【0051】)には、ポリアミドイミド樹脂溶液の不揮発分(200℃/2時間)が、順に40質量%、35質量%、32質量%であることが記載されており、これはポリアミドイミド樹脂及びジメチルアセトアミドを含む樹脂組成物中のポリアミドイミド樹脂の量であるから、訂正事項1は、本件明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 なお、本件においては、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 3 訂正の適否についての判断のまとめ 以上のとおり、請求項1及び2についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項で準用する同法第126条第5及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件訂正は適法なものであり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正が認められたため、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1」及び「本件発明2」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。また、本件特許の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。 「【請求項1】 (A)数平均分子量が20,000以上、50,000以下であり、270℃以上のガラス転移温度を有するポリアミドイミド樹脂と、(B)ジメチルアセトアミドとを含み、前記ポリアミドイミド樹脂の量が32質量%以上である、不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物 【請求項2】 請求項1に記載の不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物を用いて形成された不織布。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由、証拠方法等及び取消理由通知の概要 1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載された申立理由は、以下のとおりである。 (1)申立理由1(甲第1号証又は甲第2号証を主引例とする新規性) 本件発明1及び2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由2(甲第1号証又は甲第2号証を主引例とする進歩性) 本件発明1及び2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明並びに甲第3号証及び甲第4号証に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)申立理由3(甲第5号証又は甲第6号証を主引例とする進歩性) 本件発明1及び2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明及び甲第7号証に記載された事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要 令和6年11月19日付けの取消理由通知(決定の予告)における取消理由の概要は、以下のとおりである。 (1)取消理由3(明確性) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・令和6年8月26日提出の訂正請求書により訂正された請求項1において「除く」ものとして特定された「(7)」及び「(8)」は、当該訂正請求書6頁における主張で意図しているものとは異なっており、甲2には、上記「(7)」及び「(8)」記載の条件で合成し、かつ、甲2の実施例1と同じ物性となるポリアミドイミドについては記載も示唆もされていないから、除こうとするものが不明確となっている。 (2)取消理由2(甲第1号証又は甲第2号証を主引例とする進歩性) 本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明並びに甲第3号証及び甲第4号証に記載された事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 3 証拠方法 (1)申立人が申立書に添付して提出した証拠方法 甲第1号証:特開2007-56440号公報 甲第2号証:特開2007-59388号公報 甲第3号証:特開2017-28026号公報 甲第4号証:特開2006-348280号公報 甲第5号証:特開2006-237047号公報 甲第6号証:特開2006-169691号公報 甲第7号証:国際公開第2009/99039号公報 (以下「甲第1号証」~「甲第7号証」を、それぞれ「甲1」~「甲7」という。) (2)申立人が令和6年10月4日提出の意見書に添付して提出した証拠方法 参考資料1:特許4381243号公報 参考資料2:特許3513951号公報 参考資料3:本件特許明細書の実施例1~3、比較例1と、甲1の重合例4と特許4381243号公報の比較例1と特許3513951号公報の比較例2のデータをまとめた表 第5 当審の判断 以下に述べるとおり、本件発明1及び2に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び申立書の申立理由によって取り消すことはできない。 1 取消理由3(明確性)について 上記第1のとおり、令和6年8月26日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされ、上記第3のとおり、本件訂正後の請求項1においては、「除く」ものとして特定された「(7)」及び「(8)」の記載はないから、上記の点を不明確とした理由は解消された。 そして、本件発明1及び2について、その他の不明確な点は見いだせない。 したがって、本件発明1及び2は明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合するから、取消理由3は理由がない。 2 取消理由2並びに申立理由1及び2について 申立理由1及び申立理由2は、甲1又は甲2を主引例とする新規性及び進歩性についてのものであるので、取消理由2と併せて検討する。 (1)取消理由2並びに申立理由1及び2(甲1を主引例とする新規性及び進歩性)について ア 甲1に記載された事項及び発明 (ア)甲1には、「平均繊維径が0.001~1μmであることを特徴とするポリアミドイミド繊維」(請求項1)及び当該「ポリアミドイミド繊維から構成される不織布」(請求項4)が記載されており、「ポリアミドイミドを高分子に用いることで、紡糸後の熱処理による脱水閉環させる工程を必要としない耐熱性や機械強度にすぐれたナノオーダーの繊維径を有する繊維およびその不織布を提供することができる」(【0010】)という効果を有するものである。 そして、甲1の【0050】、【0060】及び【0061】には、以下のとおり記載されている(下線は当審による。以下同様。)。 「【0050】 [重合例1] (ポリアミドイミドの重合) 温度計、冷却管、窒素ガス導入管のついた4ツ口フラスコにトリメリット酸無水物(TMA)1モル、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)0.995モル、フッ化カリウム0.01モルを固形分濃度が25%となるようにN、N-ジメチルアセトアミドと共に仕込み、90℃に昇温して約3時間攪拌を行いポリアミドイミドを合成した。得られたポリアミドイミドの対数粘度は0.86dl/g、ガラス転移温度は290℃であった。」 「【0060】 <ポリアミドイミド繊維、不織布の作製> 重合例に示すポリアミドイミド溶液から大容量の水の中に再沈殿させ、各ポリアミドイミドを採取した。加熱乾燥後、所定溶媒にて所定濃度のポリアミドイミド溶液を得た。この溶液を図1に示す装置を用いて、繊維状物質捕集電極5に吐出した。紡糸ノズル2に18G(内径:0.8mm)の針を使用し、紡糸ノズル2から繊維を捕集する対向電極までの距離は10cmで、電圧を印加し行った。 【0061】 【表1】 [図:0001424571000001.jpg] 」 (イ)甲1に記載された発明 上記(ア)のとおり、甲1には、重合例1として、ガラス転移温度が290℃のポリアミドイミドを合成し、実施例1~5において、重合例1のポリアミドイミドを、【0061】の【表1】に示される溶媒種であるDMAc、すなわち、ジメチルアセトアミド(【0038】)に溶解させて、それぞれ固形分濃度が20、15、10又は3wt%である「ポリアミドイミド溶液」を調製し、この溶液を不織布の作製に用いたことが記載されている。 そこで、上記重合例1のポリアミドイミドをジメチルアセトアミドに溶解させた「ポリアミドイミド溶液」を、上記実施例1~5に記載の「不織布の作製」に用いる点に着目すると、甲1には次の発明が記載されているものと認める。 「温度計、冷却管、窒素ガス導入管のついた4ツ口フラスコにトリメリット酸無水物(TMA)1モル、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)0.995モル、フッ化カリウム0.01モルを固形分濃度が25%となるようにN、N-ジメチルアセトアミドと共に仕込み、90℃に昇温して約3時間攪拌を行い、対数粘度は0.86dl/g、ガラス転移温度は290℃であるポリアミドイミドを合成し、当該ポリアミドイミドの溶液から大容量の水の中に再沈殿させ、ポリアミドイミドを採取し、加熱乾燥後、ジメチルアセトアミドにて固形分濃度20、15、10又は3wt%のいずれかのポリアミドイミド溶液とした、不織布の作製に用いられるものであるポリアミドイミド溶液。」(以下「甲1(溶液)発明」という。) そして、以下のように、甲1(溶液)発明を用いて作製された不織布の発明も記載されているものと認める。 「甲1(溶液)発明のポリアミドイミド溶液を用いて作製された不織布。」(以下「甲1(不織布)発明」という。) イ 本件発明1について (ア)対比 甲1(溶液)発明において、合成される「ポリアミドイミド」は、「ガラス転移温度」が「290℃」であるものであるが、甲1の記載によれば、「ガラス転移温度」は、次の方法、 「[ガラス転移温度] 測定幅4mm、長さ15mmのポリアミドイミドフィルムをレオロジー社製DVE-V4レオスペクトラーを用い、周波数110Hzの振動を与えて測定した動的粘弾性の損失弾性率の変曲点をガラス転移温度とした。」(【0049】)で測定され、本件明細書の【0053】に記載された「線膨張曲線の屈曲点」からガラス転移温度を求めるTMA法とは異なる測定方法による値である。 しかし、本件発明1において、ガラス転移温度が特定の測定方法によるものと明確に定義されているわけではないうえ、仮に、本件明細書の【0010】に、「本明細書で記載するTgは、TMA(Thermal Mechanical Analysis)法に従い測定して得た値を意味し」という記載があることにより(なお、【0010】には、TMA法の詳細な測定条件までは定義されていない。)、本件発明1のガラス転移温度が「TMA(Thermal Mechanical Analysis)法に従い測定して得た値」と定義づけられたとしても、本件特許出願時の技術常識を参酌すると、測定方法によって、得られるガラス転移温度の値が大きく異なるものとは認められない。 そうすると、甲1(溶液)発明の「ガラス転移温度は290℃であるポリアミドイミド」は、本件発明1の「270℃以上のガラス転移温度を有するポリアミドイミド樹脂」に相当するものといえる。 そして、甲1(溶液)発明における「ジメチルアセトアミドにて」、「ポリアミドイミド溶液とした、不織布の作製に用いられるものであるポリアミドイミド溶液」は、本件発明1における「ジメチルアセトアミドとを含み」、「不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1(溶液)発明とは、 「(A)270℃以上のガラス転移温度を有するポリアミドイミド樹脂と、 (B)ジメチルアセトアミドとを含む、不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1A> ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量が、本件発明1は「数平均分子量が20,000以上、50,000以下」と特定されているのに対し、甲1(溶液)発明は不明な点 <相違点1B> 不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物におけるポリアミドイミド樹脂の量が、本件発明1は「32質量%以上」と特定されているのに対し、甲1(溶液)発明は「固形分濃度20、15、10又は3wt%」である点 (イ)相違点についての検討 事案に鑑み、相違点1Bについて検討する。 甲1(溶液)発明における「固形分濃度20、15、10又は3wt%」は、ポリアミドイミド溶液中のポリアミドイミドの量を指すから、相違点2は実質的な相違点である。 しかも、甲1には、「本発明の製造方法における溶液中のポリアミドイミドの濃度は0.1~30重量%であることが好ましい。・・・30重量%より大きいと得られる不織布の繊維径が大きくなり好ましくない。」(【0036】)と記載されているから、ポリアミドイミド溶液中のポリアミドイミドの量を「32質量%以上」とする動機付けはなく、むしろ30重量%より大きくすることには阻害要因があるといえる。 また、甲3及び甲4の記載を考慮しても、甲1(溶液)発明において、ポリアミドイミド溶液中のポリアミドイミドの量を「32質量%以上」とすることは動機付けられない。 したがって、甲1(溶液)発明において、相違点1Bに係る特定事項を導くことは、当業者が容易に想到し得るものでない。 (ウ)他の実施例に着目して甲1発明を認定した場合 甲1の重合例2~5又は9(【0051】~【0054】、【0058】)で得られたポリアミドイミドを、ジメチルアセトアミドに溶解させた「ポリアミドイミド溶液」を、実施例6~11又は15(【0060】~【0063】【表1】~【表3】)に記載の「不織布の作製」に用いる点に着目して、甲1発明を認定した場合にも、ポリアミドイミド溶液の固形分濃度がそれぞれ20wt%(重合例2及び実施例6)、12、8又は7wt%(重合例3及び実施例7~9)、10wt%(重合例4及び実施例10)、10wt%(重合例5及び実施例11)、15wt%(重合例9及び実施例15)であるから、少なくとも上記(ア)における相違点1Bと同様の相違点を有し、その判断も上記(イ)において述べたとおりである。 (エ)本件発明1の効果について 本件明細書の実施例1~3には、ジメチルアセトアミドを溶媒とし、ポリアミドイミド樹脂を40、35又は32質量%含むポリアミドイミド樹脂溶液(樹脂組成物)を得たことが記載され、これらのポリアミドイミド樹脂の数平均分子量及びTgは、【0054】の【表1】に示されているとおり、本件発明1の成分(A)の数平均分子量及びTgを満たすものである。そして、【0055】には、「表1から分かるように、数平均分子量が20,000以上のポリアミドイミド樹脂と、ジメチルアセトアミドとを含むポリアミドイミド樹脂組成物(実施例1~3)によれば、所望とする270℃以上のTgを実現することができる。一方、数平均分子量が20,000よりも小さいポリアミドイミド樹脂を使用した場合には、所望とするTgを実現することが困難であった。 以上のことから、本発明の一実施形態であるポリアミドイミド樹脂組成物によれば、耐熱性に優れた不織布を効率良く提供可能となることがわかる。加えて、ジメチルアセトアミドは、ポリアミドイミド樹脂の良溶媒として知られるNMPと比較して低沸点であるため乾燥性に優れ、また作業環境及び環境安全面でも優れているため、不織布の製造において様々な有益性が得られる。」と記載されている。 以上のことから、本件発明1の不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物は、「優れた耐熱性が要求される不織布の製造に好適に使用できるポリアミドイミド樹脂組成物を提供することができ」、「溶媒としてジメチルアセトアミドを含むため、環境保全及び安全衛生の観点でも好ましい」(【0009】)という効果を奏するものである。 (オ)小括 したがって、相違点1Aについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明並びに甲3及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の「不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物」を用いて形成された「不織布」に係る発明であるから、甲1(不織布)発明と対比すると、少なくとも、上記イ(ア)で述べた相違点を有しており、相違点1Bについての判断は上記イ(イ)で述べたとおりであり、また、他の実施例に着目した場合についても、上記イ(ウ)で述べたとおりである。 したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明2は、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明並びに甲3及び甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 申立人の主張について (ア)申立人は、申立書(24頁下から13行~30頁4行)において、概略以下の主張をしている。 甲1の実施例1~11、15には、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は明記されていないが、本件明細書の【0010】に記載の数平均分子量とガラス転移温度の関係に基づけば、本件発明1で規定される範囲(「20,000以上50,000以下」)内である蓋然性が極めて高いことから、甲1の実施例1~11、15は本件発明1の要件の全てを実質的に満たしている。 また、甲3又は甲4に示されるように、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量が溶媒溶解性の制御手段であることは当業者に周知であるから、甲1の実施例1~11、15において、ジメチルアセトアミドへのポリアミドイミド樹脂の溶解性を適切にするためにポリアミドイミド樹脂の数平均分子量を調節することは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。 (イ)しかしながら、上記イにおいて検討したとおり、甲1(溶液)発明において、上記(ア)の主張に係る数平均分子量(相違点1A)について検討するまでもなく、ポリアミドイミドの量(相違点1B)について、当業者が容易に想到し得るとはいえない。他の実施例に着目した場合も同様である。 したがって、申立人の主張は採用できない。 オ 取消理由2並びに申立理由1及び2(甲1を主引例とする新規性及び進歩性)のまとめ 以上のとおり、本件発明1及び2は、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明並びに甲3及び甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、取消理由2並びに申立理由1及び2(甲1を主引例とする新規性及び進歩性)は理由がない。 (2)取消理由2並びに申立理由1及び2(甲2を主引例とする新規性、進歩性)について ア 甲2に記載された事項及び発明 (ア)甲2には、「荷電紡糸法を用いて得られる不織布よりなることを特徴とする電子部品用セパレータ」(請求項1)において、「不織布を構成する繊維がポリアミドイミドを主成分とする」(請求項4)ことが記載されており、【0051】~【0053】には、以下のとおり記載されている。 「【0051】 [実施例1] 温度計、冷却管、窒素ガス導入管のついた4ツ口フラスコにトリメリット酸無水物(TMA)1モル、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)0.995モル、フッ化カリウム0.01モルを固形分濃度が25%となるようにN、N-ジメチルアセトアミドと共に仕込み、90℃に昇温して約3時間攪拌を行いポリアミドイミドを合成した。得られたポリアミドイミドの対数粘度は0.86dl/g、ガラス転移温度は290℃であった。得られたポリアミドイミド溶液にN、N-ジメチルアセトアミドを加え固形分濃度を20%にした。 このポリアミドイミド溶液を図1に示す装置を用いて、該溶液を捕集電極5に5分間吐出した。紡糸ノズル2に18G(内径:0.8mm)の針を使用し、電圧は18kV、紡糸ノズル2から繊維を捕集する対向電極5までの距離は10cmであった。平均繊維径0.90μm、厚み26μmの不織布が得られた。透気度は20sec/100ccであった。 【0052】 [実施例2] 実施例1のポリアミドイミド溶液に固形分濃度が10%となるようにN,N-ジメチルアセトアミドで希釈して、電圧を13kV、捕集時間を10分間にした以外は、実施例1と同様に荷電紡糸した。平均繊維径0.26μm、厚み21μmの不織布が得られた。透気度は160sec/100ccであった。 【0053】 [実施例3] 実施例1のポリアミドイミド溶液に固形分濃度が3%となるようにN,N-ジメチルアセトアミドで希釈して、電圧を10kV、捕集時間を40分間にした以外は、実施例1と同様に荷電紡糸した。平均繊維径0.10μm、厚み20μmの不織布が得られた。透気度は120sec/100ccであった。」 (イ)甲2に記載された発明 上記(ア)のとおり、甲2の実施例1~3には、実施例1で得られたポリアミドイミド溶液にN、N-ジメチルアセトアミドを加え、固形分濃度が20、10又は3%となるように希釈した「ポリアミドイミド溶液」を調製し、この溶液を不織布の作製に用いたことが記載されている。 そこで、上記実施例1~3に記載の「ポリアミドイミド溶液」を「不織布の作製」に用いる点に着目すると、甲2には次の発明が記載されているものと認める。 「温度計、冷却管、窒素ガス導入管のついた4ツ口フラスコにトリメリット酸無水物(TMA)1モル、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)0.995モル、フッ化カリウム0.01モルを固形分濃度が25%となるようにN、N-ジメチルアセトアミドと共に仕込み、90℃に昇温して約3時間攪拌を行い、対数粘度は0.86dl/g、ガラス転移温度は290℃であるポリアミドイミドを合成し、当該ポリアミドイミドの溶液に、N、N-ジメチルアセトアミドを加えて、固形分濃度を20、10又は3%にした、不織布の作製に用いられるものであるポリアミドイミド溶液。」(以下「甲2(溶液)発明」という。) そして、以下のように、甲2(溶液)発明を用いて作製された不織布の発明も記載されているものと認める。 「甲2(溶液)発明のポリアミドイミド溶液を用いて作製された不織布。」(以下「甲2(不織布)発明」という。) イ 本件発明1について (ア)対比 甲2(溶液)発明における「ガラス転移温度」は、甲2の【0050】に記載された方法(上記(1)イ(ア)における甲1記載の方法と同じ。)で測定され、本件明細書の【0053】に記載の「線膨張曲線の屈曲点」からガラス転移温度を求めるTMA法とは異なる測定方法による値であるが、上記(1)イ(ア)において説示したのと同様の理由により、甲2(溶液)発明の「ガラス転移温度は290℃であるポリアミドイミド」は、本件発明1の「270℃以上のガラス転移温度を有するポリアミドイミド樹脂」に相当するものといえる。 そして、甲2(溶液)発明における「ポリアミドイミドの溶液に、N、N-ジメチルアセトアミドを加えて」、「不織布の作製に用いられるものであるポリアミドイミド溶液」は、本件発明1における「ポリアミドイミド樹脂と、ジメチルアセトアミドとを含み」、「不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲2(溶液)発明とは、 「(A)270℃以上のガラス転移温度を有するポリアミドイミド樹脂と、 (B)ジメチルアセトアミドとを含む、不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点2A> ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量が、本件発明1は「20,000以上、50,000以下」と特定されているのに対し、甲2(溶液)発明は不明な点 <相違点2B> 不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物におけるポリアミドイミド樹脂の量が、本件発明1は「32質量%以上」と特定されているのに対し、甲2(溶液)発明は「固形分濃度を20、10又は3%にした」ものである点 (イ)相違点についての検討 事案に鑑み、相違点2Bについて検討する。 甲2(溶液)発明における「本発明の製造方法における溶液中のポリアミドイミドの濃度は0.1~30重量%であることが好ましい。・・・30重量%より大きいと得られる不織布の繊維径が大きくなり好ましくない。」(【0041】)と記載されているから、ポリアミドイミド溶液中のポリアミドイミドの量を「32質量%以上」とする動機付けはなく、むしろ30重量%より大きくすることには阻害要因があるといえる。 また、甲3及び甲4の記載を考慮しても、甲2(溶液)発明において、ポリアミドイミド溶液中のポリアミドイミドの量を「32質量%以上」とすることは動機付けられない。 したがって、甲2(溶液)発明において、相違点2Bに係る特定事項を導くことは、当業者が容易に想到し得るものでない。 (ウ)他の実施例に着目して甲2発明を認定した場合 甲2の実施例4、すなわち、TMAを1.03モルとした以外は実施例1と同じ条件でポリアミドイミドを合成し、固形分濃度が10%となるようにN,N-ジメチルアセトアミドで希釈した「ポリアミドイミド溶液」を調製し、この溶液を「不織布の作製」に用いる点に着目して、甲2発明を認定した場合にも、固形分濃度が10%であるから、少なくとも上記(ア)における相違点2Bと同様の相違点を有し、その判断も上記(イ)において述べたとおりである。 (エ)本件発明1の効果について 本件発明1の効果については、上記(1)イ(エ)で述べたとおりである。 (オ)小括 したがって、相違点2Aについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明並びに甲3及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の「不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物」を用いて形成された「不織布」に係る発明であるから、甲2(不織布)発明と対比すると、少なくとも、上記イ(ア)で述べた相違点を有しており、相違点2Bについての判断は上記イ(イ)で述べたとおりであり、また、他の実施例に着目した場合についても、上記イ(ウ)で述べたとおりである。 したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明2は、甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明並びに甲3及び甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 申立人の主張について 申立人は、申立書(24頁下から13~30頁4行)において、甲2の実施例1~4について、上記(1)エ(ア)と同様の主張をするが、当該主張については、上記(1)エ(イ)と同様の理由により採用できない。 オ 取消理由2並びに申立理由1及び2(甲2を主引例とする新規性及び進歩性)のまとめ 以上のとおり、本件発明1及び2は、甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明並びに甲3及び甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、取消理由2並びに申立理由1及び2(甲2を主引例とする新規性及び進歩性)は理由がない。 3 取消理由に採用しなかった申立理由3について (1)申立理由3(甲5を主引例とする進歩性)について ア 甲5に記載された事項及び発明 (ア)甲5には、「微細ポリアミドイミド繊維および/または微細ポリイミド繊維を必須成分とする少なくとも1種類以上の繊維からなる不織布に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグ層を加熱加圧成形してなる薄型プリント配線基板用樹脂積層板」(請求項1)が記載されており、「本発明に係る多層プリント配線板は、耐熱性に優れ、その繊維径が著しく微細なポリアミドイミド繊維および/またはポリイミド繊維を必須成分とする少なくとも1種類以上の繊維からなる不織布に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグ層を加熱加圧成形してなるプリント配線基板用樹脂積層板であるが、本発明における微細ポリアミドイミド繊維および微細ポリイミド繊維は直径が0.01μm以上、2μm未満の微細繊維であることが特徴である」(【0009】)と記載されている。 そして、甲5の【0044】及び【0045】には、以下のとおり記載されている。 「【実施例】 【0044】・・・ 〔微細ポリアミドイミド繊維の調整〕 5Lの反応容器にトリメリット酸無水物325g、ジフェニルメタン-4,4′-ジイソシアネート424g、およびN-メチル-2-ピロリドン1400gを仕込み、攪拌しながら200℃まで約1.5時間で昇温させた。その後、200℃を保ちながら約5時間攪拌を続けて粘調なポリアミドイミド系樹脂溶液を得た。この樹脂の数平均分子量をGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)を用いてポリスチレン換算にて求めたところ約55000であった。このポリアミドイミド系樹脂溶液にN-メチル-2-ピロリドンを加え固形分濃度を15%に調整した。 これとは別に酢化度55%、重合度120の二酢酸セルロース150gを850gのN-メチル-2-ピロリドンに入れ常温で約1時間攪拌した後、更に60℃に昇温し30分の攪拌混合を行い完全に溶解したことを確認し、冷却して二酢酸セルロース溶液(固形分15%)を得た。この二酢酸セルロース溶液と前述のポリアミドイミド系樹脂溶液を固形分の質量比が二酢酸セルロース:ポリアミドイミド系樹脂=6:4になるように加え、小型ホモジナイザーで攪拌し均一な微黄色透明混合液を得た。 次にこれを孔径0.1mm、ホール数80の紡糸口金から一定吐出量を保ちながら、N-メチル-2-ピロリドン濃度10wt%、25℃の水溶液中に押出した。凝固浴中で延伸倍率が2~3になるよう巻取りローラーの回転数を調整した。尚、凝固浴中の浸漬時間は約60秒であった。 巻取った糸條は緊張状態を保ったまま室温で5分間の風乾を行った後、窒素雰囲気下250℃で20分の乾燥を行い易分割性ポリアミドイミド系繊維束を得た。この易分割性ポリアミドイミド系繊維束を20mmにカットした後、一部をガラス容器に入れた常温のアセトンに漬け、更にマグネチックスターラーで攪拌を行った。10分間の攪拌の後、約10分間静置したところ容器の底に微細な繊維が沈降した。上澄みのアセトンを除き、新たにアセトンを加え更に10分間の攪拌と約10分間静置を行った。この操作を合計5回繰り返した後、容器の底から採取した微細繊維を走査型電子顕微鏡で確認したところ、繊維径0.05μm~1μm、繊維長が0.01mm~20mmの微細ポリアミドイミド繊維であることを確認した。・・・ 【0045】 [実施例1] 前述の微細ポリアミドイミド繊維を叩解機を用いて水中でスラリーを調整した。このスラリーを丸網抄紙機にて抄紙し、これを110℃で熱風乾燥を行い、微細ポリアミドイミド繊維100%、目付け25g/m2の不織布を作成した。・・・」 (イ)甲5に記載された発明 甲5の【0044】において、N-メチル-2-ピロリドン中で合成したポリアミドイミド系樹脂溶液に、N-メチル-2-ピロリドンを加え固形分濃度を15%に調整したものとする点及びポリアミドイミド系樹脂溶液等から得られる微細ポリアミドイミド繊維を、実施例1において「不織布」の作成に用いている点に着目すると、次の発明が記載されているものと認める。 「5Lの反応容器にトリメリット酸無水物325g、ジフェニルメタン-4,4′-ジイソシアネート424g、およびN-メチル-2-ピロリドン1400gを仕込み、攪拌しながら200℃まで約1.5時間で昇温させ、200℃を保ちながら約5時間攪拌を続けて粘調なポリアミドイミド系樹脂溶液を得、ここで、この樹脂の数平均分子量をGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)を用いてポリスチレン換算にて求めたところ約55000であり、その後、N-メチル-2-ピロリドンを加え固形分濃度を15%に調整した、不織布の作成に用いられるものであるポリアミドイミド系樹脂溶液。」(以下「甲5(溶液)発明」という。) そして、以下のように、甲5(溶液)発明を用いて作成された不織布の発明も記載されているものと認める。 「甲5(溶液)発明のポリアミドイミド系樹脂溶液を用いて作成された不織布。」(以下「甲5(不織布)発明」という。) イ 本件発明1について (ア)対比 甲5(溶液)発明の「ポリアミドイミド系樹脂」は、本件発明1の「ポリアミドイミド樹脂」に相当する。 甲5(溶液)発明において、合成及び固形分濃度の調整に用いられる「N-メチル-2-ピロリドン」は、有機極性溶媒(甲5の【0024】)であり、一方、本件発明1の「(B)ジメチルアセトアミド」も、溶媒(本件明細書の【0022】)であるから、甲5(溶液)発明の「N-メチル-2-ピロリドン」は、本件発明1の「(B)ジメチルアセトアミド」とは、「溶媒」の限りにおいて一致する。 甲5(溶液)発明の「不織布の作成に用いられるものであるポリアミドイミド系樹脂溶液」は、本件発明1における「不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲5(溶液)発明とは、 「(A)ポリアミドイミド樹脂と、 (B)溶媒とを含む、不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点5A> ポリアミドイミド樹脂が、本件発明1は「数平均分子量が20,000以上、50,000以下であり、270℃以上のガラス転移温度を有する」と特定されているのに対し、甲5(溶液)発明は「樹脂の数平均分子量をGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)を用いてポリスチレン換算にて求めたところ約55000」であり、ガラス転移温度は不明な点 <相違点5B> 不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物における溶媒及びポリアミドイミド樹脂の量について、本件発明1は、溶媒が「ジメチルアセトアミド」であり、「前記ポリアミドイミド樹脂の量が32質量%以上」と特定されているのに対し、甲5(溶液)発明は、溶媒が「N-メチル-2-ピロリドン」であり、「固形分濃度を15%に調整した」ものである点 (イ)相違点についての検討 相違点5Aについて検討する。 甲5(溶液)発明のポリアミドイミド系樹脂のガラス転移温度は不明であり、甲5には、ポリアミドイミド系樹脂のガラス転移温度について記載も示唆もされていない。 そして、甲5には、数平均分子量について、「前記により製造されるポリアミドイミド樹脂およびポリイミド樹脂の数平均分子量の制御は一般に反応時間を変えることで行得るが、一般的には10000~100000、好ましくは20000~80000の範囲が適切である」(【0025】)と記載されているものの、ガラス転移温度を制御する手段については記載されていないから、甲5(溶液)発明における樹脂の数平均分子量を、「約55000」から「20,000以上、50,000以下」の範囲内とすることができたとしても、その場合の樹脂のガラス転移温度がどの程度のものとなるかは当業者といえども予測することはできず、甲5の記載に基づいて、甲5(溶液)発明におけるポリアミドイミド系樹脂を、「数平均分子量が20,000以上、50,000以下であり、270℃以上のガラス転移温度を有する」ものとすることを当業者が容易に想到し得るとはいえない。 また、甲7にも、数平均分子量及びガラス転移温度について記載も示唆もされていないから、甲7の記載を考慮したとしても、甲5(溶液)発明におけるポリアミドイミド系樹脂を、「数平均分子量が20,000以上、50,000以下であり、270℃以上のガラス転移温度を有する」ものとすることを、当業者が容易に想到し得るとはいえない。 (ウ)本件発明1の効果について 本件発明1の効果については、上記2(1)イ(エ)で述べたとおりである。 (エ)小括 したがって、相違点5Bについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲5に記載された発明及び甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の「不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物」を用いて形成された「不織布」に係る発明であるから、甲5(不織布)発明と対比すると、少なくとも、上記イ(ア)で述べた相違点を有しており、相違点5Aについての判断は上記イ(イ)で述べたとおりである。 したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明2は、甲5に記載された発明及び甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 申立人の主張について (ア)申立人は、申立書(30頁18行~38頁2行)において、概略以下の主張をしている。 a 甲5には、ポリアミドイミド樹脂のガラス転移温度までは明記されていないが、原出願の審査過程において、特許権者は、原出願の発明におけるポリアミドイミド樹脂のガラス転移温度は、「耐熱性」という原出願の発明の効果の指標にすぎないと明言しており、本件発明1において規定されているポリアミドイミド樹脂が「270℃以上のガラス転移温度を有する」ことは、単なる「希望値」、つまり達成したい効果の表明にすぎないから、甲5において、ポリアミドイミド樹脂が「270℃以上のガラス転移温度を有する」ことを規定することは、当業者が発明の実施にあたって必要に応じて適宜なし得ることにすぎない。 b 甲5には、不織布の製造のためにポリアミドイミド樹脂を溶解させる溶媒として、「ジメチルアセトアミド」を使用することは明記されていないが、本件特許の出願日時点では、本件明細書【0004】、【0005】に記載のように、「NMP」に対する規制が強化されていたので、「NMP」以外の溶媒として「ジメチルアセトアミド」を選択することは当業者にとってむしろ当然であり、さらに、甲5のポリアミドイミド樹脂の溶液(紡糸原液)を調製する際に、甲7の開示に基づいて溶媒として「NMP」ではなく「ジメチルアセトアミド」を採用して溶液の乾燥を速め、それによりポリアミドイミド繊維、ひいては不織布の製造を効率化しようとすることは、当業者が容易に想到することである。 (イ)しかし、上記(ア)aの主張については、上記イ(イ)において述べたとおり、甲5に、ポリアミドイミド系樹脂のガラス転移温度を制御する手段について記載されていない以上、甲5(溶液)発明における樹脂の数平均分子量を、「約55000」から「20,000以上、50,000以下」の範囲内とした場合に、ガラス転移温度がどの程度のものとなるかは当業者といえども予測することはできないから、たとえ、原出願の審査過程において、特許権者が上記のような主張をしていたとしても、甲5(溶液)発明において、「270℃以上のガラス転移温度を有する」ことを規定することが必要に応じて適宜なし得るものであるとはいえない。 そうすると、上記(ア)bの主張、すなわち、相違点5Bについて検討するまでもなく、相違点5Aに係る特定事項を導くことは当業者が容易に想到し得るものではない。 したがって、申立人の主張は採用できない。 オ 申立理由3(甲5を主引例とする進歩性)のまとめ 以上のとおり、本件発明1及び2は、甲5に記載された発明及び甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由3(甲5を主引例とする新規性及び進歩性)は理由がない。 (2)申立理由4(甲6を主引例とする進歩性)について ア 甲6に記載された事項及び発明 (ア)甲6には、「ポリアミドイミド樹脂又はポリイミド樹脂若しくはその前駆体と、少なくとも1種類以上の繊維形成性高分子化合物と、これらを溶解する有機溶剤とを主成分とする紡糸原液を得る工程と、細孔を通して吐出した紡糸原液を固化させて紡糸する工程とを有することを特徴とする易分割性繊維束の製造方法。」(請求項1)が記載されており、その課題は「従来のポリアミドイミド樹脂又はポリイミド樹脂において良好であった耐熱性・耐薬品性・難燃性等の諸性能を殆ど低下させることなくその繊維直径が従来に比して著しく微細なポリアミドイミド樹脂又はポリイミド樹脂を主成分とする微細繊維及びその製造方法を提供すること」(【0011】)であり、用途について、「本発明の微細繊維は、ポリアミドイミド樹脂又はポリイミド樹脂において良好であった諸性能を殆ど低下させることなく微細化されている。そのため、紙・不織布・紐や織物等を始め、各種フィルター類や電解コンデンサーや電気二重層キャパシタ用セパレーター、電子部品用被覆材や同接着剤の補強材、ゴム・セメント等の補強材等、特に高い耐熱性や耐薬品性、電気特性、摺動特性、寸法安定性や放射線安定性などが要求される用途で使用可能である。」(【0060】)と記載されている。 そして、甲6の【0064】には、以下のとおり記載されている。 「【0064】・・・ (実施例1) 5Lの反応容器にトリメリット酸無水物325g、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート424g、およびN-メチル-2-ピロリドン1400gを仕込み、攪拌しながら200℃まで約1.5時間で昇温させた。その後、200℃を保ちながら約5時間攪拌を続けて粘調なポリアミドイミド樹脂溶液を得た。この樹脂の数平均分子量をGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)を用いてポリスチレン換算にて求めたところ約55000であった。このポリアミドイミド樹脂溶液にN-メチル-2-ピロリドンを加え固形分濃度を15%に調整した。 これとは別に酢化度55%、重合度120の二酢酸セルロース150gを850gのN-メチル-2-ピロリドンに入れ常温で約1時間攪拌した後、更に60℃に昇温し30分の攪拌混合を行い完全に溶解したことを確認し、冷却して二酢酸セルロース溶液(固形分15%)を得た。 この二酢酸セルロース溶液と前述のポリアミドイミド樹脂溶液を固形分の質量比がニ酢酸セルロース:ポリアミドイミド樹脂=6:4になるように加え、小型ホモジナイザーで攪拌し均一な微黄色透明の紡糸原液を得た。 次にこれを孔径0.1mm、ホール数80の紡糸口金から一定吐出量を保ちながら、N-メチル-2-ピロリドン濃度10wt%、25℃の水溶液中に押出した。水溶液中で延伸倍率が2~3になるよう巻取りローラーの回転数を調整した。なお、水溶液中の浸漬時間は約60秒であった。巻き取った糸條は緊張状態を保ったまま室温で5分間の風乾を行った後、窒素雰囲気下250℃で20分の乾燥を行ない易分割性ポリアミドイミド繊維束を得た。」 (イ)甲6に記載された発明 甲6の【0064】において、N-メチル-2-ピロリドン中で合成したポリアミドイミド樹脂溶液に、N-メチル-2-ピロリドンを加え固形分濃度を15%に調整したものとする点及びポリアミドイミド系樹脂溶液等から得られる易分割性ポリアミドイミド繊維束の用途として、「不織布」(【0060】)が挙げられている点に着目すると、次の発明が記載されているものと認める。 「5Lの反応容器にトリメリット酸無水物325g、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート424g、およびN-メチル-2-ピロリドン1400gを仕込み、攪拌しながら200℃まで約1.5時間で昇温させ、200℃を保ちながら約5時間攪拌を続けて粘調なポリアミドイミド樹脂溶液を得、ここで、この樹脂の数平均分子量をGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)を用いてポリスチレン換算にて求めたところ約55000であり、その後、このポリアミドイミド樹脂溶液にN-メチル-2-ピロリドンを加え固形分濃度を15%に調整した、不織布の作成に用いられるものであるポリアミドイミド樹脂溶液。」(以下「甲6(溶液)発明」という。) そして、以下のように、甲6(溶液)発明を用いて作成される不織布の発明も記載されているに等しいといえる。 「甲6(溶液)発明のポリアミドイミド系樹脂溶液を用いて作成される不織布。」(以下「甲6(不織布)発明」という。) イ 本件発明1について (ア)対比 甲6(溶液)発明の「ポリアミドイミド樹脂」は、本件発明1の「ポリアミドイミド樹脂」に相当する。 甲6(溶液)発明において、合成及び固形分濃度の調整に用いられる「N-メチル-2-ピロリドン」は、有機極性溶媒(【0018】)であり、一方、本件発明1の「(B)ジメチルアセトアミド」も、溶媒(【0022】)であるから、甲6(溶液)発明の「N-メチル-2-ピロリドン」は、本件発明1の「(B)ジメチルアセトアミド」とは、「溶媒」の限りにおいて一致する。 甲6(溶液)発明の「不織布の作成に用いられるものであるポリアミドイミド樹脂溶液」は、本件発明1における「不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲6(溶液)発明とは、 「(A)ポリアミドイミド樹脂と、 (B)溶媒とを含む、不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点6A> ポリアミドイミド樹脂が、本件発明1は「数平均分子量が20,000以上、50,000以下であり、270℃以上のガラス転移温度を有する」と特定されているのに対し、甲6(溶液)発明は「樹脂の数平均分子量をGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)を用いてポリスチレン換算にて求めたところ約55000」であり、ガラス転移温度は不明な点 <相違点6B> 不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物における溶媒及びポリアミドイミド樹脂の量について、本件発明1は、溶媒が「ジメチルアセトアミド」であり、「前記ポリアミドイミド樹脂の量が32質量%以上」と特定されているのに対し、甲6(溶液)発明は、溶媒が「N-メチル-2-ピロリドン」であり、「固形分濃度を15%に調整した」ものである点 (イ)相違点についての検討 相違点6Aについて検討する。 甲6(溶液)発明のポリアミドイミド樹脂のガラス転移温度は不明であり、甲6には、ポリアミドイミド樹脂のガラス転移温度について記載も示唆もされていない。 そして、甲6には、数平均分子量について、「ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量の制御は一般に反応時間を変えることで行得るが、一般的には10000~100000、好ましくは20000~80000の範囲が適切である」(【0023】)と記載されているものの、ガラス転移温度を制御する手段については記載されていないから、甲6(溶液)発明における樹脂の数平均分子量を、「約55000」から「20,000以上、50,000以下」の範囲内とすることができたとしても、その場合の樹脂のガラス転移温度がどの程度のものとなるかは当業者といえども予測することはできず、甲6の記載に基づいて、甲6(溶液)発明におけるポリアミドイミド樹脂を、「数平均分子量が20,000以上、50,000以下であり、270℃以上のガラス転移温度を有する」ものとすること当業者が容易に想到し得るとはいえない。 また、甲7にも、数平均分子量及びガラス転移温度について記載も示唆もされていないから、甲7の記載を考慮したとしても、甲6(溶液)発明におけるポリアミドイミド樹脂を、「数平均分子量が20,000以上、50,000以下であり、270℃以上のガラス転移温度を有する」ものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 (ウ)本件発明1の効果について 本件発明1の効果については、上記2(1)イ(エ)で述べたとおりである。 (エ)小括 したがって、相違点6Bについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲6に記載された発明及び甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の「不織布製造用ポリアミドイミド樹脂組成物」を用いて形成された「不織布」に係る発明であるから、甲6(不織布)発明と対比すると、少なくとも、上記イ(ア)で述べた相違点を有しており、相違点6Aについての判断は上記イ(イ)で述べたとおりである。 したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明2は、甲6に記載された発明及び甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 申立人の主張について (ア)申立人は、申立書(30頁18行~38頁2行)において、甲6について、上記(1)エ(ア)と同様の主張をするが、当該主張については、上記(1)エ(イ)と同様の理由により採用できない。 オ 申立理由3(甲6を主引例とする進歩性)のまとめ 以上のとおり、本件発明1及び2は、甲6に記載された発明及び甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由3(甲6を主引例とする新規性及び進歩性)は理由がない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、申立書に記載した申立理由及び取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由によっては、本件発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700287

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