特許異議申立
2024-700584
吸湿発熱性生地及びこれを用いた吸湿発熱性衣料
- 審判番号
- 2024-700584
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-140836
- 登録番号
- 7408311
- 請求日
- 2024年06月19日
- 審決日
- 2025年10月30日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】倉敷紡績株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人池内アンドパートナーズ
- 【異議申立人】浅野 幸義
- 審判長/審判官
- 審判長 神山 茂樹
- 審判官 稲葉 大紀
- 審判官 金丸 治之
- 分類
- P1651.121-YAA(D04B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7408311号発明「吸湿発熱性生地及びこれを用いた吸湿発熱性衣料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7408311号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
特許第7408311号の請求項1、3、4及び6~9に係る特許を維持する。
特許第7408311号の請求項2及び5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7408311号の請求項1~9に係る特許についての出願は、令和元年7月31日の出願であって、令和5年12月22日にその特許権の設定登録がされ、令和6年1月5日に特許掲載公報が発行された。
本件の特許異議の申立てに係る手続の経緯の概要は、次のとおりである。
令和6年 6月19日 :特許異議申立人浅野幸義(以下「申立人」という。)による請求項1~9に係る特許に対する本件特許異議の申立て
令和6年10月17日付け:取消理由通知
令和6年12月19日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和7年 2月14日 :令和6年12月19日提出の訂正請求書に対する手続補正書(方式)の提出
令和7年 3月21日 :申立人による意見書の提出
令和7年 4月24日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和7年 7月 3日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、この訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
令和7年 8月13日 :申立人による意見書の提出
令和7年2月14日に提出された手続補正書(方式)で補正された、令和6年12月19日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正の適否
1 請求項1~9に係る訂正について
(1)本件訂正の内容
本件訂正のうち、請求項1~9に係る訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
ア 訂正事項1
(ア)訂正事項1-1
本件訂正前の請求項1に記載された
「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)と吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)と、吸湿発熱加工していないコットン繊維で構成される紡績糸(B)を含む吸湿発熱性生地であって、」を、
「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)と吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)と、吸湿発熱加工していないコットン繊維で構成される紡績糸(B)を含む、インナー衣料用の吸湿発熱性生地であって、
前記混紡紡績糸(A)は、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)を10~45質量%、前記吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を55~90質量%含み、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8、9も同様に訂正する)。
(イ)訂正事項1-2
本件訂正前の請求項1に記載された
「前記生地を100質量%としたとき、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は5~30質量%であり、残余は前記吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)であり、」を、
「前記生地を100質量%としたとき、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は5~30質量%であり、残余は前記吸湿発熱加工していないコットン繊維であり、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8、9も同様に訂正する)。
(ウ)訂正事項1-3
本件訂正前の請求項1に記載された
「前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は、エチレン性不飽和二重結合を含み吸湿発熱性を有する官能基をもつ化合物がグラフト結合されたコットン繊維」を、
「前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は、エチレン性不飽和二重結合を含み吸湿発熱性を有する官能基をもつ化合物がコットン繊維表面にグラフト結合され前記コットン繊維に対して1~30質量%の範囲で付与されたコットン繊維」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8、9も同様に訂正する)。
(エ)訂正事項1-4
本件訂正前の請求項1に記載された
「コットン繊維であることを特徴とする吸湿発熱性生地。」を、
「コットン繊維であり、
前記生地は丸編み生地であり、単位面積当たりの質量が80~200g/m2であることを特徴とする吸湿発熱性生地。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8、9も同様に訂正する)。
イ 訂正事項2
請求項2を削除する。
ウ 訂正事項3
(ア)訂正事項3-1
本件訂正前の請求項3に記載された
「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)と吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)と、吸湿発熱加工していないコットン繊維で構成される紡績糸(B)と、弾性糸(C)を含む吸湿発熱性生地であって、」を、
「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)と吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)と、吸湿発熱加工していないコットン繊維で構成される紡績糸(B)と、弾性糸(C)を含む、インナー衣料用の吸湿発熱性生地であって、
前記混紡紡績糸(A)は、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)を10~45質量%、前記吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を55~90質量%含み、」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4、6~9も同様に訂正する)。
(イ)訂正事項3-2
本件訂正前の請求項3に記載された
「前記生地を100質量%としたとき、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は5~30質量%であり、残余は前記吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)と前記弾性糸(C)であり、」を、
「前記生地を100質量%としたとき、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は5~30質量%であり、残余は前記吸湿発熱加工していないコットン繊維と前記弾性糸(C)であり、」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4、6~9も同様に訂正する)。
(ウ)訂正事項3-3
本件訂正前の請求項3に記載された
「前記生地は編み物であり、生地を構成する編み糸割合は、糸3本に対して1~2本は前記混紡紡績糸(A)であり、残りの糸は前記吸湿発熱加工していないコットン紡績糸(B)であり、」を、
「前記生地は編み物であり、生地を構成する編み糸割合は、糸3本に対して1~2本は前記混紡紡績糸(A)であり、残りの糸は前記吸湿発熱加工していないコットン紡績糸(B)であり、前記弾性糸(C)は添え糸であり、」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4、6~9も同様に訂正する)。
(エ)訂正事項3-4
本件訂正前の請求項3に記載された
「前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は、エチレン性不飽和二重結合を含み吸湿発熱性を有する官能基をもつ化合物がグラフト結合されたコットン繊維である」を、
「前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は、エチレン性不飽和二重結合を含み吸湿発熱性を有する官能基をもつ化合物がコットン繊維表面にグラフト結合され前記コットン繊維に対して1~30質量%の範囲で付与されたコットン繊維である」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4、6~9も同様に訂正する)。
(オ)訂正事項3-5
本件訂正前の請求項3に記載された
「コットン繊維であることを特徴とする吸湿発熱性生地。」を、
「コットン繊維であり、
前記生地は丸編み生地であり、単位面積当たりの質量が80~200g/m2であることを特徴とする吸湿発熱性生地。」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4、6~9も同様に訂正する)。
エ 訂正事項4
本件訂正前の請求項4に記載された
「請求項2又は3に記載の吸湿発熱性生地。」を、
「請求項3に記載の吸湿発熱性生地。」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6~9も同様に訂正する)。
オ 訂正事項5
請求項5を削除する。
カ 訂正事項6
本件訂正前の請求項6に記載された
「請求項2~5のいずれかに記載の吸湿発熱性生地。」を、
「請求項3又は4に記載の吸湿発熱性生地。」に訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7~9も同様に訂正する)。
キ 訂正事項7
本件訂正前の請求項7に記載された
「請求項2~6のいずれかに記載の吸湿発熱性生地。」を、
「請求項3、4又は6に記載の吸湿発熱性生地。」に訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8、9も同様に訂正する)。
ク 訂正事項8
本件訂正前の請求項8に記載された
「請求項1~7のいずれかに記載の吸湿発熱性生地。」を、
「請求項1、3、4、6又は7に記載の吸湿発熱性生地。」に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9も同様に訂正する)。
(2) 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1、5~9について、訂正前の請求項5~9は、請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、訂正前の請求項1、5~9は、一群の請求項である。
また、本件訂正前の請求項2~9について、訂正前の請求項4~9は、請求項2又は3を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項2又は訂正事項3によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものであり、訂正前の請求項2~9は一群の請求項である。
そうすると、共通する請求項5~9を有するこれらの一群の請求項は組み合わされ、訂正前の請求項1~9は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、本件訂正請求は一群の請求項〔1~9〕について請求されたものである。
(3) 訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の適否について
ア 訂正事項1
(ア)訂正事項1-1について
訂正事項1-1は、本件訂正前の請求項1の「吸湿発熱性生地」を「インナー衣料用の」と限定し、「混紡紡績糸(A)」を「前記混紡紡績糸(A)は、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)を10~45質量%、前記吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を55~90質量%含み」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1-1の、「インナー衣料用の吸湿発熱性生地」については、本件特許の明細書の【0016】の記載に、「前記混紡紡績糸(A)は、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)を10~45質量%、前記吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を55~90質量%含み」については、本件特許の明細書の【0014】の記載に、それぞれ基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1-1は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(イ)訂正事項1-2について
本件訂正前の請求項1において「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)と吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)」との記載により、「コットン繊維(a1)」及び「コットン繊維(a2)」が混紡紡績糸(A)に含まれるものとして定義された上で、「混紡紡績糸(A)と、吸湿発熱加工していないコットン繊維で構成される紡績糸(B)を含む吸湿発熱性生地であって、」と記載されているのに対し、「前記生地を100質量%としたとき、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は5~30質量%であり、残余は前記吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)であり、」とも記載されているという、不明瞭な状態を解消するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項1-2は、本件特許の明細書の【0011】、【0028】~【0032】の記載をかんがみると、新たな技術事項を追加するものではない。
また、訂正事項1-2は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(ウ)訂正事項1-3について
訂正事項1-3は、本件訂正前の請求項1の「エチレン性不飽和二重結合を含み吸湿発熱性を有する官能基をもつ化合物がグラフト結合されたコットン繊維である」と規定された「前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)」について、グラフト結合される化合物が「コットン繊維表面に」「前記コットン繊維に対して1~30質量%の範囲で付与された」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1-3の、「前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は、エチレン性不飽和二重結合を含み吸湿発熱性を有する官能基をもつ化合物がコットン繊維表面にグラフト結合され前記コットン繊維に対して1~30質量%の範囲で付与されたコットン繊維である」は、本件特許の明細書の【0013】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1-3は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(エ)訂正事項1-4について
訂正事項1-4は、本件訂正前の請求項1の「吸湿発熱性生地」について、「前記生地は丸編み生地であり、単位面積当たりの質量が80~200g/m2である」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1-4の、「前記生地は丸編み生地であり、単位面積当たりの質量が80~300g/m2である」のうち、「前記生地は丸編み生地であり」は、本件特許の明細書の【0016】の記載に基づくものであり、「単位面積当たりの質量が80~200g/m2である」は、本件特許の明細書の【0017】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1-4は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲2を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ 訂正事項3
(ア)訂正事項3-1について
訂正事項3-1は、訂正事項1-1と同様の訂正であり、上記ア(ア)と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3-1は、上記ア(ア)と同様に、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項3-1は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(イ)訂正事項3-2について
訂正事項3-2は、訂正事項1-2と同様の訂正であり、上記ア(イ)と同様に、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項3-2は、上記ア(イ)と同様に、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項3-2は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(ウ)訂正事項3-3について
訂正事項3-3は、本件訂正前の請求項3の「編み物であり、生地を構成する編み糸割合は、糸3本に対して1~2本は前記混紡紡績糸(A)であり、残りの糸は前記吸湿発熱加工していないコットン紡績糸(B)であり、」と規定された「前記生地」について、「前記弾性糸(C)は添え糸であり、」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3-3の、「前記弾性糸(C)は添え糸であり、」は、本件特許の明細書の【0019】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項3-3は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(エ)訂正事項3-4について
訂正事項3-4は、訂正事項1-3と同様の訂正であり、上記ア(ウ)と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3-4は、上記ア(ウ)と同様に、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項3-4は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(オ)訂正事項3-5について
訂正事項3-5は、訂正事項1-4と同様の訂正であり、上記ア(エ)と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3-5は、上記ア(エ)と同様に、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項3-5は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
エ 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項2により請求項2が削除されたことに伴い、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項4において、訂正事項2により削除された請求項2を引用するという状態を解消するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項4は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
オ 訂正事項5について
訂正事項5は、特許請求の範囲5を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項5は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
カ 訂正事項6~8について
訂正事項6~8は、訂正事項2により請求項2が削除されるとともに訂正事項5により請求項5が削除されたことに伴い、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項6~8において、訂正事項2及び5により削除された請求項2及び5を引用するという状態を解消するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項6~8は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項6~8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4) 小括
以上のとおりであるから、本件訂正のうち訂正事項1~8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5~第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
2 明細書に係る訂正について
(1)本件訂正の内容
本件訂正のうち、明細書に係る訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
ア 訂正事項9
明細書の【0028】の
「<編み物の編成>
前記処理コットンを含む混紡糸と、未処理コットン紡績糸と、弾性糸を使用し、未処理コットン紡績糸2本に対して処理コットンを含む混紡糸を1本の割合で供給糸とし、丸編機を使用して天竺編組織の編物を編成した。生地の処理コットンの割合は10質量%となる。
<晒、染色>
得られた編み物を常法にしたがい晒処理および染色処理を行った。
<縫製>
以上のようにして得られた編み物生地を使用して、インナー衣料の長袖シャツを縫製した。弾性糸は身体の周囲方向に配置して縫製した。得られたインナー衣料の長袖シャツを図1に示す。1着の重量は男性用Lサイズで145gであった。」を
「<編み物の編成>
前記処理コットンを含む混紡糸と、未処理コットン紡績糸を使用し、未処理コットン紡績糸2本に対して処理コットンを含む混紡糸を1本の割合で供給糸とし、丸編機を使用して天竺編組織の編物を編成した。生地の処理コットンの割合は10質量%となる。
<晒、染色>
得られた編み物を常法にしたがい晒処理および染色処理を行った。
<縫製>
以上のようにして得られた編み物生地を使用して、インナー衣料の長袖シャツを縫製した。得られたインナー衣料の長袖シャツを図1に示す。1着の重量は男性用Lサイズで145gであった。」
に訂正する。
イ 訂正事項10
明細書の【0030】の
「(実施例3)
実施例1の処理コットンを含む混紡糸と、未処理コットン紡績糸と、弾性糸を使用し、未処理コットン紡績糸1本に対して処理コットンを含む混紡糸を2本の割合で供給糸とし、丸編機を使用して天竺編組織の編物を編成した。生地の処理コットンの割合は20質量%となる。」
を
「(実施例3)
実施例1の処理コットンを含む混紡糸と、未処理コットン紡績糸と、弾性糸を使用し、未処理コットン紡績糸1本に対して処理コットンを含む混紡糸を2本の割合で供給糸とし、丸編機を使用して天竺編組織の編物を編成した。生地の処理コットンの割合は19質量%となる。」
に訂正する。
(2)明細書の訂正と関係する請求項について
訂正事項9及び10は、一群の請求項〔1~9〕に関係する訂正である。
(3)訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の適否、明細書の訂正に係る請求項について
ア 訂正事項9
訂正事項9は、本件訂正前の【0028】の<編み物の編成>における「前記処理コットンを含む混紡糸と、未処理コットン紡績糸と、弾性糸を使用し、未処理コットン紡績糸2本に対して処理コットンを含む混紡糸を1本の割合で供給糸とし、丸編機を使用して天竺編組織の編物を編成した。」という記載、及び<縫製>における「以上のようにして得られた編み物生地を使用して、インナー衣料の長袖シャツを縫製した。弾性糸は身体の周囲方向に配置して縫製した。」という記載が、【0032】【表1】の記載と整合していないことより、【0028】の<編み物の編成>において、使用する糸について「弾性糸を使用し」たことを削除するとともに、<縫製>において「弾性糸は身体の周囲方向に配置して縫製した。」という工程を削除することによって、【0032】【表1】の記載と整合しようとするものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項9は、【請求項1】の記載及び【0032】【表1】の記載から、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ 訂正事項10
訂正事項10は、本件訂正前の【0030】の「生地の処理コットンの割合は20質量%となる。」という記載が、【0032】【表1】の記載と整合していないことより、【0030】の記載を「生地の処理コットンの割合は19質量%となる。」と訂正することによって、【0032】【表1】の記載と整合しようとするものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、生地の処理コットンの割合については、【0032】【表1】より、19質量%とされているのみならず、【0032】【表1】では、「処理コットンの割合」、「未処理コットンの割合」及び「弾性糸の割合」の合計が100質量%となっているなど、生地の処理コットンの割合が19質量%であることが、他の記載に対して矛盾はないことから、本件訂正前の【0030】の「生地の処理コットンの割合は20質量%となる。」という記載に誤記を含むことが明らかであるから、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。
訂正事項10は、【0032】【表1】の記載から、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正のうち訂正事項9及び10は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5~第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の明細書を、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。
3 本件訂正についてのまとめ
よって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正請求が認められたから、本件特許の請求項1~9に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定されるところ、請求項1、3、4、6~9に係る発明は次のとおりのものである。
「【請求項1】
吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)と吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)と、吸湿発熱加工していないコットン繊維で構成される紡績糸(B)を含む、インナー衣料用の吸湿発熱性生地であって、
前記混紡紡績糸(A)は、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)を10~45質量%、前記吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を55~90質量%含み、
前記生地を100質量%としたとき、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は5~30質量%であり、残余は前記吸湿発熱加工していないコットン繊維であり、前記紡績糸(A+B)のコットン繊維の合計量は100質量%であり、
前記生地は編み物であり、生地を構成する編み糸割合は、糸3本に対して1~2本は前記混紡紡績糸(A)であり、残りの糸は前記吸湿発熱加工していないコットン紡績糸(B)であり、
前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は、エチレン性不飽和二重結合を含み吸湿発熱性を有する官能基をもつ化合物がコットン繊維表面にグラフト結合され前記コットン繊維に対して1~30質量%の範囲で付与されたコットン繊維であり、
前記生地は丸編み生地であり、単位面積当たりの質量が80~200g/m2であることを特徴とする吸湿発熱性生地。」
「【請求項3】
吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)と吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)と、吸湿発熱加工していないコットン繊維で構成される紡績糸(B)と、弾性糸(C)を含む、インナー衣料用の吸湿発熱性生地であって、
前記混紡紡績糸(A)は、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)を10~45質量%、前記吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を55~90質量%含み、
前記生地を100質量%としたとき、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は5~30質量%であり、残余は前記吸湿発熱加工していないコットン繊維と前記弾性糸(C)であり、前記紡績糸(A+B)の前記コットン繊維の合計 量は85~97質量%であり、前記弾性糸(C)は3~15質量%含まれており、
前記生地は編み物であり、生地を構成する編み糸割合は、糸3本に対して1~2本は前記混紡紡績糸(A)であり、残りの糸は前記吸湿発熱加工していないコットン紡績糸(B)であり、前記弾性糸(C)は添え糸であり、
前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は、エチレン性不飽和二重結合を含み吸湿発熱性を有する官能基をもつ化合物がコットン繊維表面にグラフト結合され前記コットン繊維に対して1~30質量%の範囲で付与されたコットン繊維であり、
前記生地は丸編み生地であり、単位面積当たりの質量が80~200g/m2であることを特徴とする吸湿発熱性生地。
【請求項4】
前記吸湿発熱性生地はワンウエイストレッチ生地である請求項3に記載の吸湿発熱性生地。」
「【請求項6】
前記弾性糸はポリウレタン糸である請求項3又は4に記載の吸湿発熱性生地。
【請求項7】
前記弾性糸は、丸編み生地の編み糸にループ糸の添え糸として挿入する請求項3、4又は6に記載の吸湿発熱性生地。
【請求項8】
請求項1、3、4、6又は7に記載の吸湿発熱性生地で縫製したことを特徴とする吸湿発熱性衣料。
【請求項9】
前記衣料はインナー衣料であり、シャツ又はパンツである請求項8に記載の吸湿発熱性衣料。」
第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由について
本件特許の請求項1、3~9に係る発明に対して、当審において特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由(進歩性)
本件特許の請求項1、3~9に係る発明は、甲1及び甲2に記載された発明に基いて、または甲2及び甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1、3~9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
甲1:特開2005-133243号公報(申立人の提示した甲第1号証)
甲2:特開2001-172866号公報(同甲第2号証)
2 取消理由通知に記載した取消理由(進歩性)についての当審における判断
当審合議体は以下のとおり、上記取消理由(決定の予告)で通知した取消理由(進歩性)によっては、本件発明1、3、4及び6~9に係る特許は取り消されるべきものではないと判断する。
(1)甲号証の記載、引用発明について
ア 甲1
(ア) 甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。(下線は当審で付した。「・・・」は摘記の省略を示す。以下同様。)
「【請求項1】
発熱性繊維を含有することを特徴とする下着の付属部分品。」
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発熱性繊維を含有する下着の付属部分品及び該付属部分品が付設された下着に関する。本発明の目的は、優れた発熱特性を有し、着用者の皮膚温度を上昇させることができるとともに、繰り返しの洗濯にも発熱特性が低下しない耐洗濯性に優れ、しかも、肌触りが良好な発熱性繊維を含有する下着の付属部分品及び該付属部分品が付設された下着を提供することにある。」
「【0017】
本発明で用いられる発熱性繊維の一例としては、吸湿発熱特性を有する発熱性繊維(以下、吸湿発熱性繊維という。)を例示することができる。
吸湿発熱性繊維は、着用者の皮膚から蒸散した水分を吸湿することにより、この水分が繊維中のアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等の親水性官能基に吸着する際の吸着熱によって発熱する繊維のことである。
この吸湿発熱性繊維は、着用者の皮膚から蒸散水分を吸湿することによって、繊維自体が発熱することで、着用者の皮膚温度を上昇させることができる。
【0018】
吸湿発熱性繊維の一例としては、セルロース再生繊維中にカルボキシル基を有する酸性高分子を含有させ、架橋後アルカリ処理して得られる改質セルロース再生繊維を例示することができる。・・・」
「【0027】
本発明において使用する発熱性繊維は、上述した発熱性繊維を他の繊維と混紡して紡績糸(発熱糸)として使用することができる。発熱性繊維を紡績する際に混紡する繊維としては特に限定されないが、例えば、綿、絹、麻等の天然繊維、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、アクリル等の化学繊維が挙げられ、好ましくは綿を使用する。」
「【0029】
上述したような発熱性繊維を紡績した発熱糸を100%使用して下着の付属部分品を作成しても良く、また他の糸と混用しても良い。混用する場合、発熱糸と混用する糸としては特に限定されないが、例えば、綿糸、麻糸、レーヨン糸、アセテート糸、絹糸、ポリエステル糸、ナイロン糸、アクリル糸、ポリウレタン糸等が挙げられる。他の糸と混用する場合、発熱糸は10%以上含まれるようにする。その理由として、発熱糸が10%より少ない場合、十分な発熱効果が期待できないため好ましくないからである。また、他の糸と混用する場合、作成する付属部分品は交織あるいは交編して、全ての面に発熱糸が織り込まれるようにする。」
「【0035】
(実施例2)
実施例2として、カルボキシル基を有する酸性高分子を含有させたセルロース再生繊維を架橋後アルカリ処理して得られる改質セルロース再生繊維40%、綿繊維60%を混紡した、60/2番手の発熱糸を用いて編機により製造した天竺編地を用いてパットとシャツ本体を作成し、該パットをシャツの脇の下部分に装着した。」
「【0043】
(試験例)
実施例1乃至5、及び比較例1乃至5で作成したシャツ及びショーツを用い、本発明の発熱下着の効果を以下の試験例に基き説明する。
実施例1乃至5の発熱効果、肌触り、耐洗濯性について年齢25~40才までの女性20人を無差別に選び、官能テストを行った。悪いを0、良いを5として数値評価させて、その平均値をとり、平均0~2.9を×、3.0~3.9を△、4.0~5.0を○として評価した。尚、耐洗濯性については下着の着用と洗濯を5回繰り返して行い、その発熱効果について評価した。
比較例1~5の発熱効果について、上記と同様の方法で評価した。
結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
[図:0001432028000001.jpg]
」
(イ) 甲1に記載されていると認められる事項
上記(ア)により、以下の事項は甲1に記載されていると認められる。
a 【0017】~【0018】の記載より、【0035】に記載の「カルボキシル基を有する酸性高分子を含有させたセルロース再生繊維を架橋後アルカリ処理して得られる改質セルロース再生繊維」は、「吸湿発熱性繊維としての改質セルロース再生繊維」であることは明らかであり、【0035】に記載の「綿繊維」は、「吸湿発熱性繊維でない綿繊維」であることは明らかである。
b 【0017】~【0018】の記載より、【0035】に記載の「パットとシャツ本体」は、「吸湿発熱性シャツ本体」を含むことは明らかである。
(ウ) 引用発明
上記(ア)及び(イ)より、甲1には、特に【0035】及び【0043】~【0044】に記載の実施例2に着目すると、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認める。
「吸湿発熱性繊維としての改質セルロース再生繊維と吸湿発熱性繊維でない綿繊維を含む混紡発熱糸からなる吸湿発熱性シャツ本体であって、
前記混紡発熱糸は、前記吸湿発熱性繊維としての改質セルロース再生繊維を40%、吸湿発熱性繊維でない綿繊維を60%含み、
前記吸湿発熱性シャツ本体を100%としたとき、前記吸湿発熱性繊維としての改質セルロース再生繊維は40%であり、残余は吸湿発熱性繊維でない綿繊維であり、
前記吸湿発熱性シャツ本体は天竺編地であり、
前記吸湿発熱性繊維としての改質セルロース再生繊維は、カルボキシル基を有する酸性高分子を含有させたセルロース再生繊維を架橋後アルカリ処理して得たものである吸湿発熱性シャツ本体。」
(エ) 甲1記載事項
上記(ア)の特に【0029】には、以下の事項(以下「甲1記載事項」という。)が記載されていると認める。
「発熱性繊維を含有する下着の付属部分品において、発熱性繊維を他の繊維と混紡した紡績糸である発熱糸と、他の糸を混用し、混紡する他の繊維として綿が例示され、混用する他の糸として綿糸やポリウレタン糸が例示されること。」
イ 甲2
(ア) 甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。
「【請求項1】 吸湿発熱性セルロース系繊維を10重量%以上含有し、且つ布帛の厚み方向に繊維密度差を有する保温性に優れた吸湿発熱性セルロース系繊維製品。」
「【0002】
【従来の技術】従来、スキーウエア、スキーパンツ、スノーボードウエアなど冬季の運動着やインナー、カジュアルシャツなど一般衣料の素材として、吸湿発熱性繊維製品が商品化されてきた。」
「【0008】
【発明の実施の形態】以下に本発明を詳細に説明する。本発明における繊維製品とは、綿(わた)、糸、織物、編物、不織布等などでこれらから編成される2次製品を含む。
【0009】本発明で用いるセルロース系繊維は、木綿や麻や再生セルロースなどの各種のセルロース系繊維である。また、セルロース系繊維製品には他の繊維が混合されていても良い。混用されるセルロース繊維以外の繊維としてはポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維等の合成繊維や、レーヨン繊維、トリアセテート繊維等の再生もしくは半合成繊維、シルク、羊毛等の天然繊維が上げられるがこれらに限定されるものではない。
【0010】本発明における吸湿発熱性セルロース系繊維とは、セルロース繊維に、親水性ビニルモノマーをグラフト重合や化学反応等をさせることにより、-COOX(X:H、またはNH4、またはアルカリ金属)、-SO3X(X:H、またはNH4、またはアルカリ金属)、アミド基及びアミノ基の内の少なくとも1種を導入させたものであり、これらのことによって満足できる吸湿発熱性セルロース系繊維を得ることが出来る。この際の実施の形態としては、綿、糸、布帛等である。」
「【0017】本発明における吸湿発熱性セルロース繊維の繊維製品中における含有量は、10重量%以上であり、好ましくは、15重量%、より好ましくは、20重量%以上である。」
「【0019】布帛の厚み方向に繊維密度差を与える方法としては、多重織等の布帛組織にする方法、布帛の起毛加工、例えば湿式起毛、乾式起毛(エメリー起毛、針布起毛、ブラシ起毛)の起毛加工等で、肌側を密にし、外気に触れる側を粗にする方法や、紡績工程で芯部は繊維密度が高く、鞘は繊維密度が低い2層構造糸で布帛を形成する方法等が挙げられる。
【0020】
【実施例】以下、実施例により、具体的に説明する。
吸湿発熱性セルロース繊維の製造
漂白処理した綿をメタクリル酸25.0g/l、2.2-アゾビス2塩酸塩0.5g/lの水溶液で浴比1:40、80℃×120minでオーバーマイヤー加工機を用いて、グラフト重合処理した。この後、水洗、湯洗を繰り返した。処理した綿を以下「加工綿」と呼ぶ。この時のグラフト率は10.38%であった。なお、グラフト率の測定は、以下の方法によった。
・・・
【0022】実施例1
芯部が加工綿、鞘部が未加工綿でその重量比が50/50である2層構造糸を作成した。この糸断面写真から求めた芯部の繊維密度は72本/400μm2、鞘部は30本/μm2であった。この糸からなるブロード織物(経糸40番手の綿糸×緯糸40番手の綿糸/経糸密度 130本/2.54cm×緯糸密度 70本/2.54cm)を製織し、糊抜、精錬、漂白し、厚み方向に密度差のある繊維製品を得た。
【0023】実施例2
加工綿の混率が35重量%の2層構造糸からなるブロード織物(経糸40番手の綿糸×緯糸40番手の綿糸/経糸密度130本/2.54cm×緯糸密度70本/2.54cm)を製織し、糊抜、精錬、漂白し、厚み方向に密度差のある繊維製品を得た。
【0024】実施例3
実施例2において、2層構造糸に代えて、通常の1層構造糸を使用し、同様に織物を得て、その後、湿式起毛して繊維製品を得た。」
「【0033】吸湿発熱性、保温性の着用時の評価方法:得られた加工生地をシャツ地に縫製した。・・・」
「【0037】
【表2】
[図:0001432028000002.jpg]
」
(イ) 甲2に記載されていると認められる事項
上記(ア)により、以下の事項は甲2に記載されていると認められる。
a 【0024】には、実施例3として「実施例2において、」と記載されているところ、【0023】の実施例2に記載の「加工綿」は、【0020】の記載から「吸湿発熱性セルロース繊維としての加工綿」であることは明らかである。
b 【0019】の「紡績工程で芯部は繊維密度が高く、鞘は繊維密度が低い2層構造糸で布帛を形成する」、【0022】の「芯部が加工綿、鞘部が未加工綿でその重量比が50/50である2層構造糸を作成した。」、【0023】の「加工綿の混率が35重量%の2層構造糸からなる」及び【0024】の「実施例2において、2層構造糸に代えて、通常の1層構造糸を使用し」との記載より、【0024】の実施例3の「吸湿発熱性セルロース系繊維製品」は、「吸湿発熱性セルロース繊維としての加工綿と未加工綿を含む1層構造糸」であることは明らかであり、【0023】及び【0024】の記載並びに【0037】の【表2】の記載から、実施例3の「1層構造糸」が「加工綿」35%と「未加工綿」65%とからなること、実施例3の「吸湿発熱性セルロース系繊維製品」は、「前記吸湿発熱性セルロース系繊維製品を100質量%としたとき、前記吸湿発熱性セルロース繊維としての加工綿は35重量%であ」ることはいずれも明らかである。
c 【0033】の記載より、【0022】~【0024】及び【0037】に記載の実施例3は、シャツ地用の吸湿発熱性セルロース系繊維製品であることは明らかである。
(ウ) 引用発明
上記(ア)及び(イ)より、甲2には、特に【0022】~【0024】及び【0037】に記載の実施例3に着目すると、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認める。
「吸湿発熱性セルロース繊維としての加工綿と未加工綿を含む1層構造糸からなるシャツ地用の吸湿発熱性セルロース系繊維製品であって、
前記1層構造糸は、前記吸湿発熱性セルロース繊維としての加工綿を35%、未加工綿を65%含み、
前記吸湿発熱性セルロース系繊維製品を100質量%としたとき、前記吸湿発熱性セルロース繊維としての加工綿は35重量%であり、残余は前記未加工綿であり、
前記吸湿発熱性セルロース繊維としての加工綿は、綿をメタクリル酸と2,2-アゾビス2塩酸塩の水溶液でグラフト率10.38%でグラフト重合処理したものである吸湿発熱性セルロース系繊維製品。」
(2)取消理由(進歩性)のうち、甲1を主引用例とする進歩性について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明1を対比する。
引用発明1の「吸湿発熱性繊維としての改質セルロース再生繊維」と、本件発明1の「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)」とは、「吸湿発熱加工した繊維」である限りにおいて一致する。
引用発明1の「吸湿発熱性繊維でない綿繊維」及び「混紡発熱糸」は、それぞれ、本件発明1の「吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)」及び「混紡紡績糸(A)」に相当する。
引用発明1の「吸湿発熱性シャツ本体」は、本件発明1の「インナー衣料用の吸湿発熱性生地」、「吸湿発熱性生地」及び「生地」に相当する。
したがって、引用発明1の「吸湿発熱性繊維としての改質セルロース再生繊維と吸湿発熱性繊維でない綿繊維を含む混紡発熱糸からなる吸湿発熱性シャツ本体」は、本件発明1の「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)と吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)と、吸湿発熱加工していないコットン繊維で構成される紡績糸(B)を含むインナー衣料用の吸湿発熱性生地」と、「吸湿発熱加工した繊維と吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)を含むインナー衣料用の吸湿発熱性生地」である限りにおいて一致する。
引用発明1の「前記混紡発熱糸は、前記吸湿発熱性繊維としての改質セルロース再生繊維を40%、吸湿発熱性繊維でない綿繊維を60%含」むことは、40%及び60%が、それぞれ「10~45質量%」及び「55~90質量%」の数値範囲内であることより、本件発明1の「前記混紡紡績糸(A)は、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)を10~45質量%、前記吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を55~90質量%含」むこととは、「前記混紡紡績糸(A)は、前記吸湿発熱加工した繊維を10~45質量%、前記吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を55~90質量%含」む限りにおいて一致する。
引用発明1の「前記吸湿発熱性シャツ本体は天竺編地であ」ることは、本件発明1の「前記生地は編み物であ」ることに相当する。
以上より、本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点1>
「吸湿発熱加工した繊維と吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)を含むインナー衣料用の吸湿発熱性生地であって、
前記混紡紡績糸(A)は、前記吸湿発熱加工した繊維を10~45質量%、前記吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を55~90質量%含み、
前記生地は編み物である吸湿発熱性生地。」
<相違点1>
吸湿発熱加工した繊維について、本件発明1では、「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)」であり、「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は、エチレン性不飽和二重結合を含み吸湿発熱性を有する官能基をもつ化合物がコットン繊維表面にグラフト結合され前記コットン繊維に対して1~30質量%の範囲で付与されたコットン繊維である」のに対し、引用発明1では、「吸湿発熱性繊維としての改質セルロース再生繊維」であり、「前記吸湿発熱性セルロース繊維としての加工は、カルボキシル基を有する酸性高分子を含有させたセルロース再生繊維を架橋後アルカリ処理して得たものである」もので、「エチレン性不飽和二重結合を含み吸湿発熱性を有する官能基をもつ化合物がコットン繊維表面にグラフト結合され前記コットン繊維に対して1~30質量%の範囲で付与されたコットン繊維」ではない点。
<相違点2>
編み物である吸湿発熱性生地について、本件発明1では、「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)と吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)」のほかに「吸湿発熱加工していないコットン繊維で構成される紡績糸(B)を含」み、生地における「前記紡績糸(A+B)のコットン繊維の合計量は100質量%であり、」「生地を構成する編み糸割合は、糸3本に対して1~2本は前記混紡紡績糸(A)であり、残りの糸は前記吸湿発熱加工していないコットン紡績糸(B)であ」り、生地に対する吸湿発熱加工した繊維の比率について、本件発明1が「前記生地を100質量%としたとき、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は5~30質量%であり、残余は前記吸湿発熱加工していないコットン繊維」であるのに対し、引用発明1では、編み糸割合は特定されておらず、生地に対する吸湿発熱加工した繊維の比率については、「前記吸湿発熱性シャツ本体を100%としたとき、前記吸湿発熱性繊維としての改質セルロース再生繊維は40%であり、残余は前記吸湿発熱性繊維でない綿繊維」である点。
<相違点3>
本件発明1では、「前記生地は丸編み生地であり、単位面積当たりの質量が80~200g/m2である」のに対し、引用発明1では、当該規定は有しない点。
(イ)判断
事案に鑑み<相違点2>から検討する。
甲1記載事項は「発熱性繊維を他の繊維と混紡した紡績糸である発熱糸と、他の糸を混用」するという構成を含むものであるが、当該甲1記載事項からは、吸湿発熱加工繊維と吸湿発熱加工していない繊維を混紡することと、吸湿発熱加工繊維を含む混紡紡績糸と吸湿発熱加工していない繊維で構成される紡績糸とを混ぜて編み、さらに編み糸割合を特定することによって、生地に対する吸湿発熱加工繊維の比率について調整することまでの技術的示唆を得ることはできない。
そして、引用発明1は、「前記吸湿発熱性シャツ本体を100%としたとき、前記吸湿発熱性繊維としての改質セルロース再生繊維は40%であり」、本件発明1の「前記生地を100質量%としたとき、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は5~30質量%であ」るという数値範囲内のものでもない。
そうすると、吸湿発熱加工繊維と吸湿発熱加工していない繊維を混紡するにあたり混紡の比率が紡績糸の性状に影響を与えること及び、混紡紡績糸と吸湿発熱加工していない繊維で構成される紡績糸との比率が生地の性状に影響を与えることは、いずれも技術常識であることを鑑みると、甲1記載事項により「発熱性繊維を他の繊維と混紡した紡績糸である発熱糸と、他の糸を混用」する着想を得た当業者であっても、「前記吸湿発熱性シャツ本体を100%としたとき、前記吸湿発熱性繊維としての改質セルロース再生繊維は40%であ」る引用発明1を設計変更し、「前記生地を100質量%としたとき、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は5~30質量%であ」るという数値範囲とすることは困難であったといえる。
また、吸湿発熱加工繊維と吸湿発熱加工していない繊維を混紡することと、吸湿発熱加工繊維を含む混紡紡績糸と吸湿発熱加工していない繊維で構成される紡績糸とを混ぜて編み、さらに編み糸割合を特定することによって、生地に対する吸湿発熱加工繊維の比率について調整することについては、甲2及び他の証拠にも記載も示唆もされていない。
以上のとおりであるから、引用発明1に甲1記載事項を適用し、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
申立人は令和7年8月13日提出の意見書にて、「「混紡及び混用」という「2段階調整」の技術思想は、本件明細書には何ら開示されていない。特許権者のこれらの主張は、本件特許明細書に基づかないものである。」(第11頁第24行~同第26行)とし、本件発明1が進歩性の取消理由を有することを主張する。
しかしながら、本件特許明細書の【0011】には、「混紡及び混用」し、吸湿発熱加工したコットン繊維の比率を調整し、「適度な吸湿発熱性を付与し、かつ洗濯を繰り返しても型崩れしにくい吸湿発熱性衣料を実現」することについて説明され、【0028】~【0033】には、「混紡及び混用」し、吸湿発熱加工したコットン繊維の比率を本件発明1の数値範囲内としたものが好適な作用効果を奏するものとして、実施例1~3が例示されているものである。
したがって、申立人の上記主張は採用することはできない。
(ウ)小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1並びに甲1記載事項及び甲2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明3について
(ア)対比
本件発明3と引用発明1を対比すると、上記ア(ア)で示した本件発明1と引用発明1の対比の際と同様の相当関係が存在しているものである。
以上より、本件発明3と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点1>
「吸湿発熱加工した繊維と吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)を含むインナー衣料用の吸湿発熱性生地であって、
前記混紡紡績糸(A)は、前記吸湿発熱加工した繊維を10~45質量%、前記吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を55~90質量%含み、
前記生地は編み物である吸湿発熱性生地。」
<相違点1’>
吸湿発熱加工した繊維について、本件発明3では、「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)」であり、「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は、エチレン性不飽和二重結合を含み吸湿発熱性を有する官能基をもつ化合物がコットン繊維表面にグラフト結合され前記コットン繊維に対して1~30質量%の範囲で付与されたコットン繊維である」のに対し、引用発明1では、「吸湿発熱性繊維としての改質セルロース再生繊維」であり、「前記吸湿発熱性セルロース繊維としての加工は、カルボキシル基を有する酸性高分子を含有させたセルロース再生繊維を架橋後アルカリ処理して得たものである」もので、「エチレン性不飽和二重結合を含み吸湿発熱性を有する官能基をもつ化合物がコットン繊維表面にグラフト結合され前記コットン繊維に対して1~30質量%の範囲で付与されたコットン繊維」ではない点。
<相違点4>
編み物である吸湿発熱性生地について、本件発明3では、「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)と吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を含む」「混紡紡績糸(A)」のほかに「吸湿発熱加工していないコットン繊維で構成される紡績糸(B)と、弾性糸(C)を含」むとともに、「生地を構成する編み糸割合は、糸3本に対して1~2本は前記混紡紡績糸(A)であり、残りの糸は前記吸湿発熱加工していないコットン紡績糸(B)であり、前記弾性糸(C)は添え糸であ」るとともに、生地に対する吸湿発熱加工した繊維の比率について、本件発明3では、「前記生地を100質量%としたとき、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は5~30質量%であり、残余は前記吸湿発熱加工していないコットン繊維と前記弾性糸(C)」であるのに対し、引用発明1では、編み糸割合は特定されておらず、生地に対する吸湿発熱加工した繊維の比率については、「前記吸湿発熱性シャツ本体を100%としたとき、前記吸湿発熱性繊維としての改質セルロース再生繊維は40%であり、残余は前記吸湿発熱性繊維でない綿繊維」である点。
<相違点5>
吸湿発熱性生地について、本件発明3では、「前記紡績糸(A+B)の前記コットン繊維の合計量は85~97質量%であり、前記弾性糸(C)は3~15質量%含まれて」いるのに対し、引用発明1では、当該構成は有しない点。
<相違点6>
本件発明3では、「前記生地は丸編み生地であり、単位面積当たりの質量が80~300g/m2である」のに対し、引用発明1では、当該規定は有しない点。
(イ)判断
事案に鑑み<相違点4>から検討する。
上記ア(イ)で説示したとおり、引用発明1に甲1記載事項を適用し、相違点4に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(ウ)小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、引用発明1並びに甲1記載事項及び甲2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明4、6~9について
本件発明4、6~9は、直接的又は間接的に本件発明1又は本件発明3を引用し、本件発明1又は本件発明3の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明である。
したがって、上記ア又はイで説示したとおり、引用発明1並びに甲1記載事項及び甲2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 甲1を主引用例とする進歩性についてのまとめ
以上より、本件発明1、3、4及び6~9は、引用発明1並びに甲1記載事項及び甲2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)取消理由(進歩性)のうち、甲2を主引用例とする進歩性について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明2を対比する。
引用発明2の「吸湿発熱性セルロース繊維としての加工綿」、「未加工綿」及び「1層構造糸」は、それぞれ、本件発明1の「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)」、「吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)」及び「混紡紡績糸(A)」に相当する。
引用発明2の「シャツ地用の吸湿発熱性セルロース系繊維製品」は、本件発明1の「インナー衣料用の吸湿発熱性生地」、「吸湿発熱性生地」及び「生地」に相当する。
したがって、引用発明2の「吸湿発熱性セルロース繊維としての加工綿と未加工綿を含む1層構造糸からなるシャツ地用の吸湿発熱性セルロース系繊維製品」は、本件発明1の「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)と吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)と、吸湿発熱加工していないコットン繊維で構成される紡績糸(B)を含むインナー衣料用の吸湿発熱性生地」と、「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)と吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)を含むインナー衣料用の吸湿発熱性生地」である限りにおいて一致する。
引用発明2の「前記1層構造糸は、前記吸湿発熱性セルロース繊維としての加工綿を35%、未加工綿を65%含」むことは、35%及び65%が、それぞれ「10~45質量%」及び「55~90質量%」の数値範囲内であることより、本件発明1の「前記混紡紡績糸(A)は、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)を10~45質量%、前記吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を55~90質量%含」むことに相当する。
引用発明2の「前記吸湿発熱性セルロース繊維としての加工綿は、綿をメタクリル酸と2,2-アゾビス2塩酸塩の水溶液でグラフト率10.38%でグラフト重合処理したものである」ことは、「メタクリル酸」が「エチレン性不飽和二重結合を含み吸湿発熱性を有する官能基をもつ化合物」であり、「グラフト率10.38%」が、「コットン繊維に対して1~30質量%」の数値範囲内であることから、本件発明1の「前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は、エチレン性不飽和二重結合を含み吸湿発熱性を有する官能基をもつ化合物がコットン繊維表面にグラフト結合され前記コットン繊維に対して1~30質量%の範囲で付与されたコットン繊維である」ことに相当する。
以上より、本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点2>
「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)と吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)を含むインナー衣料用の吸湿発熱性生地であって、
前記混紡紡績糸(A)は、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)を10~45質量%、前記吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を55~90質量%含み、
前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は、エチレン性不飽和二重結合を含み吸湿発熱性を有する官能基をもつ化合物がコットン繊維表面にグラフト結合され前記コットン繊維に対して1~30質量%の範囲で付与されたコットン繊維である吸湿発熱性生地。」
<相違点7>
吸湿発熱性生地において、本件発明1が、「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)と吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)」のほかに「吸湿発熱加工していないコットン繊維で構成される紡績糸(B)を含」み、「前記紡績糸(A+B)のコットン繊維の合計量は100質量%であり、前記生地は編み物であり、生地を構成する編み糸割合は、糸3本に対して1~2本は前記混紡紡績糸(A)であり、残りの糸は前記吸湿発熱加工していないコットン紡績糸(B)であ」り、生地を100質量%としたときの吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)の質量%について、本件発明1が「5~30質量%」であり、「残余は前記吸湿発熱加工していないコットン繊維であ」るのに対し、引用発明2では、編み糸割合は特定されておらず、生地を100質量%としたときの吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)の質量%について、「35重量%」であり、「残余は前記未加工綿であ」る点。
<相違点8>
本件発明1では、「前記生地は丸編み生地であり、単位面積当たりの質量が80~300g/m2である」のに対し、引用発明2では、当該規定は有しない点。
(イ)判断
事案に鑑み<相違点7>から検討する。
甲2の【0009】には、「また、セルロース系繊維製品には他の繊維が混合されていても良い。混用されるセルロース繊維以外の繊維としてはポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維等の合成繊維や、レーヨン繊維、トリアセテート繊維等の再生もしくは半合成繊維、シルク、羊毛等の天然繊維が上げられるがこれらに限定されるものではない。」と記載されている。すなわち、【0009】には、セルロース繊維製品に天然繊維を混用するという技術思想が記載されているものである。
しかしながら、当該甲2の【0009】からは、吸湿発熱加工繊維と吸湿発熱加工していない繊維を混紡することと、吸湿発熱加工繊維を含む混紡紡績糸と吸湿発熱加工していない繊維で構成される紡績糸とを混ぜて編むことまでの技術的示唆を得ることはできない。
そして、上記(1)ア(エ)に示す「甲1記載事項」も、上記(2)ア(イ)で説示したとおり「発熱性繊維を他の繊維と混紡した紡績糸である発熱糸と、他の糸を混用」するものであるものの、吸湿発熱加工繊維と吸湿発熱加工していない繊維を混紡することと、吸湿発熱加工繊維を含む混紡紡績糸と吸湿発熱加工していない繊維で構成される紡績糸とを混ぜて編み、さらに編み糸割合を特定することによって、生地に対する吸湿発熱加工繊維の比率について調整することまでの技術的示唆を得ることはできない。
そうすると、吸湿発熱加工繊維と吸湿発熱加工していない繊維を混紡するにあたり混紡の比率が紡績糸の性状に影響を与えること及び、混紡紡績糸と吸湿発熱加工していない繊維で構成される紡績糸との比率が生地の性状に影響を与えることは、いずれも技術常識であることを鑑みると、甲1記載事項により「発熱性繊維を他の繊維と混紡した紡績糸である発熱糸と、他の糸を混用」する着想を得た当業者であっても、生地を100質量%としたときの吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)の質量%について、「35重量%」である引用発明2を設計変更し、「前記生地を100質量%としたとき、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は5~30質量%であ」るという数値範囲とすることは困難であったといえる。
また、吸湿発熱加工繊維と吸湿発熱加工していない繊維を混紡することと、吸湿発熱加工繊維を含む混紡紡績糸と吸湿発熱加工していない繊維で構成される紡績糸とを混ぜて編み、さらに編み糸割合を特定することによって、生地に対する吸湿発熱加工繊維の比率について調整することについては、他の証拠にも記載も示唆もされていない。
以上のとおりであるから、これらの事項を総合すると、引用発明2に甲1記載事項を適用し、相違点7に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(ウ)小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明2及び甲1記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明3について
(ア)対比
本件発明3と引用発明2を対比すると、上記ア(ア)で示した本件発明1と引用発明2の対比の際と同様の相当関係が存在しているものである。
以上より、本件発明3と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点2>
「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)と吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)を含むインナー衣料用の吸湿発熱性生地であって、
前記混紡紡績糸(A)は、前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)を10~45質量%、前記吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を55~90質量%含み、
前記吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)は、エチレン性不飽和二重結合を含み吸湿発熱性を有する官能基をもつ化合物がコットン繊維表面にグラフト結合され前記コットン繊維に対して1~30質量%の範囲で付与されたコットン繊維である吸湿発熱性生地。」
<相違点9>
吸湿発熱性生地において、本件発明3が、「吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)と吸湿発熱加工していないコットン繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)」のほかに「吸湿発熱加工していないコットン繊維で構成される紡績糸(B)と、弾性糸(C)を含」み、「前記生地は編み物であり、生地を構成する編み糸割合は、糸3本に対して1~2本は前記混紡紡績糸(A)であり、残りの糸は前記吸湿発熱加工していないコットン紡績糸(B)であり、前記弾性糸(C)は添え糸であ」るとともに、生地を100質量%としたとき、の吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)の質量%について、本件発明3が「5~30質量%」であるのに対し、引用発明2では、編み糸割合は特定されておらず、生地を100質量%としたとき、の吸湿発熱加工したコットン繊維(a1)の質量%について、「35重量%」であり、「残余は前記未加工綿であ」る点。
<相違点10>
吸湿発熱性生地において、本件発明3が、「前記紡績糸(A+B)の前記コットン繊維の合計量は85~97質量%であり、前記弾性糸(C)は3~15質量%含まれて」いるのに対し、引用発明2では、当該構成は有しない点。
<相違点11>
本件発明3では、「前記生地は丸編み生地であり、単位面積当たりの質量が80~200g/m2である」のに対し、引用発明2では、当該規定は有しない点。
(イ)判断
事案に鑑み<相違点9>から検討する。
上記ア(イ)で説示したとおり、引用発明2に甲1記載事項を適用し、相違点9に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(ウ)小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、引用発明2及び甲1記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明4、6~9について
本件発明4、6~9は、直接的又は間接的に本件発明1又は本件発明3を引用し、本件発明1又は本件発明3の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明である。
したがって、上記ア又はイで説示したとおり、引用発明2及び甲1記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 甲2を主引用例とする進歩性についてのまとめ
以上より、本件発明1、3、4及び6~9は、甲2に記載された発明、及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 むすび
以上のとおり、請求項1、3、4及び6~9に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に請求項1、3、4及び6~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項2及び5に係る特許についての特許異議の申立ては、本件訂正により申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700584