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特許異議申立

2025-700879

ストレッチ織物

審判番号
2025-700879
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-090858
登録番号
7683331
請求日
2025年09月09日
審決日
2026年01月21日
公報発行日
2026年02月27日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】東レ株式会社
  • 【異議申立人】浅野 幸義
審判長/審判官
  • 審判長 梶尾 誠哉
  • 審判官 河本 充雄
  • 審判官 綿引 隆
分類
P1651.121-Y (D03D) / P1651.536-Y (D03D) / P1651.537-Y (D03D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7683331号発明「ストレッチ織物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7683331号の請求項1~3に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7683331号の請求項1~3に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和3年5月31日の出願であって、令和7年5月19日にその特許権の設定登録がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行された。 その後、本件特許に対し、令和7年9月9日に特許異議申立人 浅野 幸義(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1~3に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明3」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 経糸に紡績糸、緯糸に複合仮撚糸を含む織物であって、前記複合仮撚糸が同方向に別々に仮撚したポリエステル仮撚糸Aとポリエステル仮撚糸Bを複合した糸形態からなり、ポリエステル仮撚糸Aおよびポリエステル仮撚糸Bがポリエチレンテレフタレートからなる非コンジュゲート糸で構成され、かつ前記複合仮撚糸の交絡数が30ヶ/m以上、トルク撚数が40T/m以上、捲縮率が30%以上を満たし、繰り返し洗濯後のピリングが3.5級以上であることを特徴とするストレッチ織物。 【請求項2】 ポリエステル仮撚糸Aおよびポリエステル仮撚糸Bを構成するポリマーが同一であることを特徴とする請求項1に記載のストレッチ織物。 【請求項3】 複合仮撚糸の糸長差が3%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のストレッチ織物。」 第3 申立理由の概要 申立人は、証拠として甲第1号証~甲第3号証(以下、「甲1」~「甲3」という。)を提出し、以下の理由により、本件特許を取り消すべきものである旨主張している。 1 申立理由1(進歩性) 本件発明1~3は、甲1に記載された発明及び甲2、甲3に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 申立理由2(サポート要件、実施可能要件) 本件発明1~3は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、また、本件特許に係る願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1~3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号及び同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 3 申立理由3(明確性要件) 本件発明1~3は、明確でないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 [証拠方法] 甲1:特開昭54-112247号公報 甲2:特開昭61-160473号公報 甲3:特公昭47-48308号公報 第4 甲号証の記載 1 甲1(特開昭54-112247号公報) 甲1には、以下の記載がある。 (1)「2.特許請求の範囲 仮撚加工工程において、複数本のマルチフイラメント糸条を異なる仮撚撚数で加工し、しかるのちこれら複数本の糸条を合糸して攪乱気流域を通過させ、単繊維相互を不規則に交絡せしめることを特徴とする仮撚加工糸の製造方法」(1ページ左下欄4~9行) (2)「本発明は、前記従来の欠点を改良し、低コストで安定加工が可能なバルキ-性のある紡績糸様マルチフイラメント仮撚加工糸の製造方法を提供せんとするもので、その要旨とするところは仮撚加工工程において、複数本のマルチフイラメント糸を異なる仮撚撚数で加工し、しかるのちこれら複数本の糸条を合糸して攪乱気流域を通過させ、単繊維相互を不規則に交絡せしめることを特徴とする仮撚加工糸の製造方法にある。 次に、本発明を図示の例により具体的に説明すると、第1図は本発明を実施して仮撚加工糸を製造している状態の1例を示す説明図である。 図において、マルチフイラメントパ-ンl,2よりマルチフイラメント3,4を引き出し、ガイド5,6を介してフイ-ドロ-ラ7,8に供給し、ヒ-タ9,10を通過させて、仮撚ユニツト11,12で異なつた仮撚加撚数で仮撚を付与し、合糸ガイド15から撹乱気流ノズル16に供給して2本のマルチフイラメント仮撚加工糸の単繊維相互を不規則に交絡させたのち、ロ-ラ17を通してチ-ズ18に巻きとる。 ここで仮撚ユニツト11,12としては、スピンドルタイプ、フリクシヨンタイプのいずれでも良いが、仮撚加撚数を個々に変える方法としては、例えばスピンドルタイプの仮撚ユニツトの場合、第2図の増速スピンドルワ-プ20の径、デイスク21の径、またはスピンドル22の径を変更すれば良い。また仮撚加工後攪乱気流域に連続的に供給しない場合は、仮撚加撚数の異なるマルチフイラメント仮撚加工糸を個別に製造すれば良い。 また、合糸して攪乱気流域に通す2本のマルチフイラメントの仮撚加撚数の差は、紡績糸様外観を得るためには20%以上の差が好ましく、例えば繊度150dのポリエステルフイラメントの場合、一方の仮撚加撚数が2500T/Mであるなら、もう一方は2000T/M以下であることが望ましい。 また、仮撚方向は右撚と右撚、左撚と左撚あるいは右撚と左撚のいずれの組合せでも良く、特に右撚と左撚の組合せは、撹乱気流通過後、右方向トルクと左方向トルクが打ち消し合つて糸条全体としてトルクがほとんど消失するため後の加工工程での扱いが容易であり、特に好ましい。 本発明で用いるマルチフイラメントは、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリル、ジアアセテ-ト、トリアセテ-ト等の合成、半合成繊維ならいずれでも良く、同一マルチフイラメントの組合せ、異なつた合成繊維、半合成繊維マルチフイラメントとの組合せ、同一素材の繊維であつても、ト-タルデニ-ルの異なるマルチフイラメントの組合せ、単繊維繊度の異なるマルチフイラメントの組合せ等種々の組合せで使用することができる。 また、本発明で用いる攪乱気流装置としては、例えば第3図に示すようにノズル糸道24を通過する糸条25に対して空気噴射口23から空気を吹きつけるタイプの装置でマルチフイラメントに不規則な交絡を付与するものであれは、どのようなものでも良い。この撹乱気流装置で付与される単繊維相互の交絡数は特に限定されないが、1メ-トル当り20~100ケ程度が望ましい。これは、交絡数が少ない場合は2本のマルチフイラメントの集束性が劣り、多過ぎる場合は2本のマルチフイラメントの異捲縮効果が発現されにくくなり、編織物にした場合のボリユ-ム感と表面凹凸効果が減少するためである。 本発明によつて得られる仮撚加工糸は、第4図に例示のごとく高捲縮フイラメント26と低捲縮フイラメント27が共存し、交絡点28が存在することが特徴である。このように高捲縮フイラメント26と低捲縮フイラメント27が共存し、さらに交絡点が存在するため、この仮撚加工糸から得られる編織物は表面の凹凸感があり、紡績糸様効果が著しく大きく、ボリユ-ム感にも富んでいる。また、本発明における単繊維交絡は、異捲縮の2本のマルチフイラメントが合糸されていることにより、集束性が劣るのを防いでおり、さらに本発明加工糸の凹凸効果をより高め紡績糸様外観を強める効果がある。」(2ページ左上欄18行~3ページ左上欄19行) (3)「実施例1 第1図の装置を使用し、糸条3,4に150d/48fのポリエステルマルチフイラメントを供給して、次の条件で加工した。 仮撚加工機:三菱重工業社製 ST-6 デリベリ-ロ-ラに対するフイ-ドロ-ラの オ-バ-フイ-ド率:2.0% ヒ-タ温度:210℃ スピンドル回転数:30×104R/Mおよび22×l04R/M 撚数:2530T/M(Z)および1855T/M(Z) ノズル糸道径:3.5mmφ エアノズル圧:3.0kg/cm2 エアノズル部での オ-バ-フイ-ド率:8.0% 得られた加工糸は、第4図に示すような高捲縮と低捲縮のフイラメントからなり、交絡点の数がメ-トル当り59ケ、捲縮率53.6%のものであつた。この加工糸を、次の条件で2/2ツイル織物に製織した。 織 機:津田駒LMD 織規格:たて糸密度 80本/インチ よこ糸密度 45本/インチ 次いでこの織物を130℃にて高圧染色したところ、表面に凹凸感があり、ボリユ-ム感のある紡績糸様織物が得られた。」(3ページ右上欄3行~左下欄7行) (4)「実施例3 第1図の装置を使用し、150d/48fと75d/36fのポリエステルマルチフイラメントを供給して、次の条件で加工した。 仮撚加工機:三菱重工業社製 ST-6 デリベリ-ロ-ラに対するフイ-ドロ-ラ のオ-バ-フイ-ド率:2.0% ヒ-タ温度:210℃ スピンドル回転数:150d側、25×104R/M 75d側、35×104R/M 撚数:150d側、2390 T/M(Z) 75d側、3350 T/M(Z) ノズル糸道径:3.5mmφ エアノズル圧:3.0kg/cm2 エアノズル部での オ-バ-フイ-ド率:10% 得られた加工糸は、高捲縮と低捲縮のフイラメントがミツクスされたマルチフイラメントで、交絡点の数がメ-トル当り54ケ、捲縮率52.9%のものであつた。この加工糸を平織物に製織し、染色仕上げしたところ、表面に凹凸感があり、ボリューム感のある優れた紡績糸様織物が得られた。」(3ページ右下欄11行~4ページ左上欄13行) (5)「 [図:0001432094000001.jpg] 」(4ページ) 2 甲2(特開昭61-160473号公報) 甲2には、以下の記載がある。 「本発明は加工糸を緯糸とする織物の加工法に関し、詳細には仮撚加工糸を緯糸として織成した織物にストレッチ性を与える為の加工方法に関するものである。 〔従来の技術〕 スパン糸を経糸として使い、合成繊維フイラメントを緯糸として使う織物において、該フイラメントとして仮撚加工糸(以下単に加工糸という)を採用していきたいという要望が強まつている。例えばワ-キングウエア等の分野においても伸縮性の良好な生地が強く要望される様になつてきており、緯糸として加工糸を使うことが増加しつつあつて緯ストレツチ織物の需要が全体的に伸びつつある。」(1ページ左下欄12行~右下欄5行) 「以下に示す実施例及び比較例においては、下記の条件を共通条件として実験を行なつた。 経糸:ポリエステル/綿(65/35)からなるスパン糸…45/2’S 緯糸:ポリエステル加工糸 150d-30fのS200T/M合撚糸使い」(2ページ右下欄15行~3ページ左上欄1行) 3 甲3(特公昭47-48308号公報) 甲3には、以下の記載がある。 「本発明は経糸に牽切式紡績法で紡績した糸を使用し、緯糸には強撚糸、ウーリー加工糸、クリンプ加工糸等のシボ発現の可能な糸を使用して製織し、後沸水収縮処理することでドレープ性、バルキー性に富む均斉度の高いスパンライク(紡績糸よりなる織物の風合を有する)なシボのある織物の製造法である。」(1ページ1欄13~19行) 「かくして得られた織物は、シボ立ちが極めて良好にて、その固定性が大であるので、スリツプは全く生じない安定にして均斉な織物となる。 更にドレープ性はもとより牽切紡績糸によるバルキー性とふつくらした感触の優美なスパンライクな織物となり、・・・」(2ページ3欄4~9行) 「特許請求の範囲 1 経糸に牽切紡績法で得られた糸を緯糸にシボ発現可能な糸を使用して製織し、後シボ立て加工で該織成布を経方向に6乃至18%沸水収縮させて、そのカバーフアクターを経10~18、緯8~17とすることを特徴とするシボのある織物の製造法。」(2ページ4欄3~9行) 第5 申立理由1(進歩性)について 1 本件発明1について (1)本件発明1の「交絡数」及び「捲縮率」について、本件特許に係る願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0050】には、「(2)交絡度 交絡度は、0.1cN/dtexの張力下における1m当たりの交絡部の数であり、糸に0.02cN/dtexの張力下で非交絡部にピンを刺し、糸条1mにわたり0.1cN/dtexの張力でピンを糸の長手方向の上下に移動せしめ、抵抗なく移動した部分を非交絡部として移動した距離を記録し、ピンが止まる部分を交絡部とする。この作業を30回繰り返し、その非交絡部の距離の平均値から1m当たりの交絡度を計算する。 (3)捲縮率 周長0.8mの検尺機に、90mg/dtexの張力下で糸を10回巻回してカセ取りした後、2cm以下の棒につり下げ、約24時間放置した。このカセをガーゼにくるみ、無緊張状態下で90℃×20分間熱水処理した後、2cm以下の棒につり下げ約12時間放置した。放置後のカセの一端をフックにかけ他端に初荷重と測定荷重をかけ水中に垂下し2分間放置した。このときの初荷重(g)=2mg/dtex、測定荷重(g)=90mg/dtex、水温=20±2℃とした。放置したカセの内側の長さを測り、Lとした。さらに、測定荷重を除き初荷重だけにした状態で2分間放置し、放置したカセの内側の長さを測り、L1とした。次式により、捲縮を求め、この作業を5回繰り返し、平均値により求めた。」と記載されている。 (2)一方、甲1の実施例1(上記第4 1(3))には、ポリエステルマルチフイラメントを仮撚加工機で加工した加工糸は、高捲縮と低捲縮のフイラメントからなり、交絡点の数がメ-トル当り59ケ、捲縮率53.6%のものであって、この加工糸を製織した2/2ツイル織物が記載されているといえ、また、実施例3(上記第4 1(4))には、ポリエステルマルチフイラメントを仮撚加工機で加工した加工糸は、高捲縮と低捲縮のフイラメントがミツクスされたマルチフイラメントで、交絡点の数がメ-トル当り54ケ、捲縮率52.9%のものであって、この加工糸を製織した平織物が記載されているといえるところ、甲1には、加工糸の交絡点の数、及び、捲縮率の測定方法は記載されていない。 そして、甲1における加工糸の交絡点の数、及び、捲縮率の測定方法が、上記(1)で示した本件明細書の【0050】に記載されている交絡数及び捲縮率の測定方法と同じであることが技術常識であるともいえない。 (3)そうすると、甲1における「加工糸」の「交絡点の数がメ-トル当り59ケ、捲縮率53.6%」又は「交絡点の数がメ-トル当り54ケ、捲縮率52.9%」であることは、本件発明1の「複合仮撚糸の交絡数が30ヶ/m以上」、「捲縮率が30%以上を満たし」ていることに相当するとはいえない。 したがって、本件発明1と甲1に記載された発明を対比すると、本件発明1は、「複合仮撚糸の交絡数が30ヶ/m以上」、「捲縮率が30%以上を満た」すのに対し、甲1に記載された発明は、そのような構成を有していない点において、少なくとも両者は相違している。 そして、「複合仮撚糸の交絡数が30ヶ/m以上」、「捲縮率が30%以上を満た」すことについては、甲2及び甲3のいずれにも記載も示唆もされていないし、本件特許の出願時における技術常識であるともいえない。 以上によれば、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2、甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1の全ての構成を備える発明であるから、本件発明1と同様に、甲1に記載された発明及び甲2、甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 まとめ 以上によれば、申立理由1(進歩性)には理由がない。 第6 申立理由2(サポート要件、実施可能要件)について 1 申立人の主張について (1)ア 申立人は、特許異議申立書の25ページ最下行~27ページ4行において、本件発明1において、複合仮撚糸の交絡数、トルク撚数及び捲縮率は、いずれも下限のみが規定され、上限が規定されていないが、技術常識として、これらの要件の数値が限りなく高くても、これらの要件の数値範囲の全てにわたって本件発明の効果が十分に奏されるとは到底考えられないし、実際、本件明細書の実施例1~3で効果を検証しているのは、交絡数は68~93ケ/mの範囲にすぎず、トルク撚数は44~68T/mの範囲にすぎず、捲縮率は41~48%の範囲にすぎず、これらの実施例で検証した数値範囲以外の数値範囲については、本件明細書において何ら検証されていないし、また、これらの実施例で検証した数値範囲以外の数値範囲の全てにわたって同様の効果を奏するとは予測できず、特に複合仮撚糸の交絡数、トルク撚数、及び捲縮率の上限値については、現状の請求項1の規定では、限りなく高い値を採りうることから、そのような値の場合でも同様の効果を奏するとは考えられないし、また、複合仮撚糸の交絡数、トルク撚数、及び捲縮率に関して、限りなく高い値を採った場合でも同様の効果を奏することは、当業者の技術常識でもないから、本件発明1の複合仮撚糸の交絡数、トルク撚数、及び捲縮率の要件に関して、これらの実施例で検証した数値範囲以外の数値範囲も包含する現在の広い請求項1に規定される範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえず、本件発明1は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているから、本件発明1は、複合仮撚糸の交絡数、トルク撚数、及び捲縮率の要件の点で、発明の詳細な説明に記載したものではなく、サポート要件違反であるとともに実施可能要件違反であり、同様の理由により、本件特許発明2、3も、サポート要件違反であるとともに実施可能要件違反である旨主張している。 イ(ア)そこで検討するに、本件明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)の【0010】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「従来ストレッチ織物の課題であった繰り返し洗濯後の耐ピリング性を解消し、かつ優れたハリ腰性を有するストレッチ織物を提供すること」(以下、「本件課題」という。)である。 (イ)発明の詳細な説明の【0018】には、「本発明においては鋭意検討の結果、緯糸の複合仮撚糸を別々に同方向に仮撚したポリエステル仮撚糸Aとポリエステル仮撚糸Bを複合した形態とし、ポリエステル仮撚糸AおよびBの捲縮が収束形態の状態を維持しながら捲縮を発現させること、すなわち緯糸に交絡数が30ヶ/m以上、トルク撚数が40T/m以上、捲縮率が30%以上の複合仮撚糸を使用することで、繰り返し洗濯後も経糸の紡績糸の毛羽と、緯糸のポリエステル仮撚糸AおよびBの捲縮が絡まらず、耐ピリング性に優れたストレッチ織物を得ることに成功した。」と記載され、【0019】には、「本発明のストレッチ織物を構成する複合仮撚糸の交絡数は30ヶ/m以上あることで、織物内での捲縮を収束形態にさせることができる。好ましい交絡数は60~150ヶ/mである。交絡数が30ヶ/m未満であると、複合仮撚糸の捲縮が紡績糸の毛羽に絡みやすくなり、繰り返し洗濯後の耐ピリング性が悪化する。」と記載され、【0020】には、「また本発明のストレッチ織物を構成する複合仮撚糸のトルク撚数は40T/m以上であることで、染色加工時に捲縮発現すると同時にトルクも発現させることで、複合仮撚糸の捲縮の収束形態を維持することができる。好ましいトルク発現数は50~200T/M以下である。トルク発現数が40T/M未満であると、染色加工時にトルク発現が小さく、複合加工糸の嵩高性が大きくなるので、捲縮が紡績糸の毛羽に絡みやすくなり、繰り返し洗濯後の耐ピリング性が悪化する。」と記載され、【0021】には、「また本発明のストレッチ織物を構成する複合仮撚糸の捲縮率は30%以上であることで、織物に高ストレッチ性を付与することができる。好ましい捲縮率は30~60%である。捲縮率が30%未満であると、織物に高ストレッチ性を付与することができない。」と記載され、【0024】には、「ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートが挙げられるが、中でも捲縮が安定しているポリエチレンテレフタレートが好ましい。」と記載され、【0028】には、「また、上記ポリエステル仮撚糸Aおよびポリエステル仮撚糸Bは収束した捲縮形態を維持しやすい非コンジュゲート糸で構成される。このような構成とすると、繰り返し洗濯使用による摩擦や衝撃によっても、コイル捲縮が織物表面に飛び出し難く、耐ピリング性が向上する。」と記載され、【0047】には、「また、本発明のストレッチ織物においては、通常のピリング評価に加え、繰り返し洗濯後のピリングが3.5級以上であることで、繰り返し洗濯後の実着用を想定した環境においても、ピリングが発生し難い。」と記載されている。 そうすると、発明の詳細な説明には、「経糸に紡績糸、緯糸に複合仮撚糸を含む織物であって、複合仮撚糸が同方向に別々に仮撚したポリエステル仮撚糸Aとポリエステル仮撚糸Bを複合した糸形態からなり、ポリエステル仮撚糸Aおよびポリエステル仮撚糸Bがポリエチレンテレフタレートからなる非コンジュゲート糸で構成され、かつ複合仮撚糸の交絡数が30ヶ/m以上、トルク撚数が40T/m以上、捲縮率が30%以上を満たし、繰り返し洗濯後のピリングが3.5級以上であるストレッチ織物。」(以下、「本件明細書ストレッチ織物」という。)が記載されているといえる。 (ウ)そして、上記【0047】には、「繰り返し洗濯後のピリングが3.5級以上であることで、繰り返し洗濯後の実着用を想定した環境においても、ピリングが発生し難い」と記載されているから、本件明細書ストレッチ織物は、「繰り返し洗濯後のピリングが3.5級以上」であれば、「複合仮撚糸」の「交絡数」、「トルク撚数」、「捲縮率」の上限値が特定されていなくても、「繰り返し洗濯後の実着用を想定した環境においても、ピリングが発生し難い」との効果を奏するものといえる。 (エ)また、本件明細書ストレッチ織物である実施例1~実施例3(【0053】~【0064】)については、実施例1では、【0056】に「得られた織物は、・・・耐ピリング評価は・・・20回後洗濯後:4.5級であり、長期繰り返し洗濯使用においても、耐ピリング性に大変優れ、ハリ腰性に大変優れた織物であった。」と記載され、実施例2では、【0061】に「耐ピリング評価は・・・20回後洗濯後:3.5級であり、長期繰り返し洗濯使用においても、耐ピリング性に優れ、ハリ腰性に優れた織物であった。」と記載され、実施例3では、【0064】に「得られた織物は、・・・耐ピリング評価は・・・20回後洗濯後:4.5級であり、長期繰り返し洗濯使用においても、耐ピリング性に大変優れ、ハリ腰性に大変優れた織物であった。」と記載されている。 一方、本件明細書ストレッチ織物ではない比較例1~比較例5(【0065】~【0082】)については、比較例1では、【0067】に「得られた織物は、・・・耐ピリング評価は・・・20回後洗濯後:2.5級であり、ストレッチ性、長期繰り返し洗濯使用における耐ピリング性が不十分であり、かつハリ腰性もやや不足していた。」と記載され、比較例2では、【0070】に「得られた織物は、・・・耐ピリング評価は・・・20回後洗濯後:3級であり、ハリ腰性には優れていたが、長期繰り返し洗濯使用における耐ピリング性が不十分であった。」と記載され、比較例3では、【0075】に「得られた織物は、・・・耐ピリング評価は・・・20回後洗濯後:2級であり、ストレッチ性、長期繰り返し洗濯使用における耐ピリング性が不十分であり、かつハリ腰性もやや不足していた。」と記載され、比較例4では、【0078】に「得られた織物は、・・・耐ピリング評価は・・・20回後洗濯後:3級であり、ハリ腰性には優れていたが、長期繰り返し洗濯使用における耐ピリング性が不十分であった。」と記載され、比較例5では、【0082】に「得られた織物は、・・・耐ピリング評価は・・・20回後洗濯後:2級であり、ハリ腰性には優れていたが、長期繰り返し洗濯使用における耐ピリング性が不十分であった。」と記載されている。 (オ)上記(ウ)、(エ)によれば、本件明細書ストレッチ織物は、繰り返し洗濯後の耐ピリング性を解消し、かつ優れたハリ腰性を有するものといえるから、当業者が上記本件課題を解決し得ると認識できるといえる。 (カ)そして、本件発明1は、本件明細書ストレッチ織物と同じ構成を有するものである。 したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件発明1の構成を有する本件発明2、3も、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 よって、本件発明1~3は、発明の詳細な説明に記載したものである。 (キ)また、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が本件明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づいて、その物を生産でき、かつ、使用できるように、それぞれ具体的に記載されていることが必要であると解されるところ、発明の詳細な説明には、実施例1~実施例3(【0053】~【0064】)の記載に基づいて、当業者が、本件発明1~3の「ストレッチ織物」を生産でき、かつ、使用できるように、それぞれ具体的に記載されているといえる。 したがって、発明の詳細な説明には、本件発明1~3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。 (2)ア 申立人は、特許異議申立書の27ページ10行~29ページ5行において、本件発明1には、複合仮撚糸の「交絡数」、「トルク撚数」、「捲縮率」及び織物の「繰り返し洗濯後のピリング」が規定されているところ、本件明細書の実施例より前の部分である【0019】~【0021】から見ると、このうち、「交絡数」 及び「トルク撚数」は、「繰り返し洗濯後のピリング」に影響を与え、一方、「捲縮率」は、(本件発明1には規定されていないが)「ストレッチ性」に影響を与えることが理解されるのに対し、本件明細書の比較例1及び比較例3の記載からは、「交絡数」及び「トルク撚数」ではなく、「捲縮率」が「繰り返し洗濯後のピリング」に影響を与えると理解されるように、本件明細書には、実施例より前の部分と実施例の部分との間で相互に矛盾する記載が存在し、このような矛盾する記載の存在は、本件明細書を読んだ当業者が本件発明の構成と効果の因果関係を正確に理解することを妨げるものであり、ひいては、本件発明の実施を困難にするものであるから、本件発明1~3は、構成と効果の因果関係が不明確である点で、実施可能要件違反である旨主張している。 また、申立人は、特許異議申立書の29ページ7行~下から7行において、本件明細書の【0010】によれば、本件発明の目的は、「従来ストレッチ織物の課題であった繰り返し洗濯後の耐ピリング性を解消し、かつ優れたハリ腰性を有するストレッチ織物を提供すること」であるところ、本件発明1では、「ストレッチ性」の直接的な指標である「ストレッチ率」は規定されていないから、本件発明1~3は、本件発明の目的の達成手段を当業者に十分に理解できるように明記していない点で、実施可能要件違反である旨主張している。 イ しかし、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合することは、上記(1)イ(キ)で判断したとおりである。 そうすると、仮に申立人が主張するように、本件明細書は、本件発明1~3が、構成と効果の因果関係が不明確であったり、本件発明の目的の達成手段を当業者に十分に理解できるように明記していなかったとしても、そのことは、上記判断を左右するものではない。 (3)したがって、申立人の上記(1)ア、(2)アの主張はいずれも採用できない。 2 まとめ 以上によれば、申立理由2(サポート要件、実施可能要件)には理由がない。 第7 申立理由3(明確性要件)について 1 申立人の主張について (1)ア 申立人は、特許異議申立書の29ページ下から3行~30ページ1行において、本件発明1には、「前記複合仮撚糸が同方向に別々に仮撚したポリエステル仮撚糸Aとポリエステル仮撚糸Bを複合した糸形態からなり、」という記載があるが、この記載では、具体的にどのようにして複合するのかが不明である旨主張している。 イ しかし、本件発明1で特定されているとおり、「複合仮撚糸が同方向に別々に仮撚したポリエステル仮撚糸Aとポリエステル仮撚糸B」を「複合」するものであるからその記載は明確である。 (2)ア 申立人は、特許異議申立書の30ページ5行~11行において、本件発明1には、「繰り返し洗濯後のピリングが3.5級以上である」という記載があるが、この記載では、具体的に「何回」繰返し洗濯した後のピリングを意図しているのか、また、具体的にどのような条件で洗濯するのかが不明である旨主張している。 イ しかし、本件明細書の【0052】には、「(7)耐ピリング評価 2槽式洗濯機で液温度40℃、洗濯時間5分、すすぎ30℃×2分×2回、脱水30秒のサイクル洗濯1回とした。洗剤には花王の“アタック”(登録商標)を1g/Lを用い、液量40L、試験布と導布である綿布の重量を合算して830gで実施した。この洗濯作業を20回繰り返した後、JISL 1076(2018)A法に従い、ピリング評価を行い、級判定を行った。3.5級以上を合格とする。」と記載されているから、本件発明1の「繰り返し洗濯後のピリング」は、上記【0052】に記載されているとおりの方法で評価するものであり、その記載は明確である。 (3)ア 申立人は、特許異議申立書の30ページ12行~下から3行において、本件明細書の【0041】の記載中の仮撚係数の計算式(仮撚係数(仮撚数(T/M)×繊度(dtex)0.5)の中の「0.5」は、「ルート」の誤記である旨主張している。 イ 申立人が主張するとおり、上記【0041】に記載の「仮撚数(T/M)×繊度(dtex)0.5」の中の「0.5」は、「ルート」の明らかな誤記である、すなわち、「仮撚数(T/M)×繊度(dtex)0.5」の明らかな誤記であるといえるから、その記載は、第三者に不測の不利益を及ぼす程に不明確であるとはいえない。 (4)したがって、申立人の上記(1)ア、(2)ア、(3)アの主張はいずれも採用できない。 2 まとめ 以上によれば、申立理由3(明確性要件)には理由がない。 第8 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700879

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