特許異議申立
2023-700246
パン類用品質改良剤及びパン類用組成物、並びに前記パン類品質改良剤又はパン類用組成物を用いたパン類用生地及びパン類
- 審判番号
- 2023-700246
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-072688
- 登録番号
- 7130413
- 請求日
- 2023年03月03日
- 審決日
- 2023年06月01日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】昭和産業株式会社
- 【権利者代理人】渡邊 薫
- 【異議申立人】丸野 悟史
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 磯貝 香苗
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-Y (A21D) / P1651.121-Y (A21D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7130413号発明「パン類用品質改良剤及びパン類用組成物、並びに前記パン類品質改良剤又はパン類用組成物を用いたパン類用生地及びパン類」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7130413号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7130413号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、
平成30年 4月 4日に出願され、
令和 4年 8月26日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、
令和 4年 9月 5日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、当該特許に対し、
令和 5年 3月 3日に特許異議申立人 丸野 悟史 (以下、「特許異議申立人」という。)が特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)を行ったものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
α化澱粉(α化低蛋白米粉、粳米α粉、及びα化した米粉に含まれるα化澱粉を除く)と、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ガム質から選ばれる一種以上の増粘剤と、
β-アミラーゼ及び/又はマルトース生成α-アミラーゼと、
を含有し、
前記α化澱粉は、パン類に用いる穀粉100質量部に対して1.0質量部以上となるように、
前記β-アミラーゼ及び/又はマルトース生成α-アミラーゼは、前記パン類への使用量が、β-アミラーゼとして45単位以上、及び/又は、前記マルトース生成α-アミラーゼとして3.0~30.0単位となるように、
含有されるパン類用加水量増加剤。
【請求項2】
前記α化澱粉と前記増粘剤との配合比が、1.0~10:0.1~2.0である、請求項1記載のパン類用加水量増加剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のパン類用加水量増加剤を含有するパン類用組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載のパン類用加水量増加剤、又は、請求項3に記載のパン類用組成物を用いたパン類用生地。
【請求項5】
冷凍された、請求項4記載のパン類用生地。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のパン類用生地を用いたパン類。
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由について
令和 5年 3月 3日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
1.申立理由(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし4及び6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 証拠方法
甲第1号証:中国特許出願公開第105767070号明細書
甲第2号証:特開2017-176122号公報
甲第3号証:特開2013-17479号公報
甲第4号証:特開平4-99435号公報
甲第5号証:特開2013-215158号公報
甲第6号証:特開平11-123046号公報
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
1 申立理由(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)主な証拠等に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項等
甲1には、「パン改良剤」について、次の記載がある。なお、甲1は外国語文献のため表と訳文のみを摘記する。
「特許請求の範囲
1.パン改良剤、それは、以下によって特徴付けられる:以下の成分を重量部で含む:
α-アミラーゼ 0.2~2.0部、キシラナーゼ 0.2~2.0部、マルトースアミラーゼ 2.0~10.0部、ジアセチル酒石酸モノグリセリド 10~200部、モノ(ジ)グリセリド脂肪酸エステル 10~200部、ステアロイル乳酸ナトリウム 10~200部、キサンタンガム 10~200部、カルボキシメチルセルロースナトリウム 10~200部、ビタミンC 2~20部、粗α化ワキシーコーンスターチ 100~1800部、グルテンパウダー20~800部;粗α化ワキシーコーンスターチの粒子サイズは、220μmふるいでふるい分けた後、≦40%の保持量を満たす;グルテン粉末の乳酸SRC値は95.0~130.0%である。
・・・(中略)・・・
5.請求項1~2のいずれかに記載のパン改良剤を用いて製造されたパン。」
「[0027] 表1 具体例及び比較例 パン改良材配合(単位:部)
[0028]
[図:0001398324000001.jpg]
」
(表中の成分は、上から順に、
α-アミラーゼ
キシラナーゼ
マルトース生成アミラーゼ
酒石酸ジアセチルモノグリセリド
モノジグリセリド脂肪酸エステル
ステアロイル乳酸ナトリウム
キサンタンガム
カルボキシメチルセルロース
ビタミンC
α化ワキシーコーンスターチA
α化ワキシーコーンスターチB
グルテンA
グルテンB)
「[0029] 上記具体例1~6及び比較例1~2で調製したパン改良剤を、下記処方及び調製方法に従ってパンに調製した。パンの配合は、強力粉1000g、白砂糖120g、食用塩10g、ドライイースト10g、表1の配合で調製したパン改良剤20g、バター50g、水650gである。製パンの手順は次のとおり。計量した強力粉、白砂糖、食用塩、ドライイースト、製パン改良剤をミキシングタンクに入れ、予備混合し、計量した水を加えて撹拌を開始する。混ぜるときは、最初は生地がまとまるまでゆっくりかき混ぜ、生地がなめらかになったらバターを加え、バターが溶けるまで泡立て続け、生地が十分に膨らむまで高速泡立てに変える。生地を15分間休ませた後、生地を200g/個に分割して丸め、丸めた生地を15分間ほぐし、トースト成形機で長尺状に成形し、型に入れる。金型あたりのピース。生地を型ごと温度38℃、相対湿度85RHの発酵箱に入れ発酵させ、生地が80%発酵したらオーブンに入れて45分焼く。具体例1~6のパン改良剤を含むパンの対応する番号は、それぞれパンA、パンB、パンC、パンD、パンE、パンFであり、パン改良剤を含むパンの対応する番号は、比較例1~2は、それぞれパンA'およびパンB'である。4日間保存した後のパンA~EおよびパンA'~B'の性能パラメーターを表2に示す。」
イ 甲1に記載された発明
上記アから、甲1の具体例2・具体例3・具体例5を中心に整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「マルトース生成アミラーゼ 6.0部・5.0部・2.0部、キサンタンガム 200部・30部・10部、カルボキシメチルセルロース 40部・60部・30部、α化ワキシーコーンスターチA 1300部・900部・1800部を含有し、合計が2569部・1606部・2165.8部であるパン改良剤であって、製パン時の強力粉1000部に対してパン改良剤20gの配合比で配合されるパン改良剤。」
ウ 甲2に記載された事項
甲2には、「製パン用油脂組成物及び製パン用穀粉生地」について、次の記載がある。
「【0025】
本発明の製パン用穀粉生地は、穀粉、食用油脂、至適温度が45℃以上60℃以下であるヘミセルラーゼ(H)、および至適温度が65℃以上85℃以下であるマルトース生成α-アミラーゼ(mA)を含有する。含有量はそれぞれ、穀粉100質量部に対して、ヘミセルラーゼ(H)が0.000005~0.0005質量部であり、マルトース生成α-アミラーゼ(mA)が0.0005~0.05質量部である。添加量が少なすぎると、十分な老化抑制効果が得られず、多すぎると、得られたベーカリー製品の食感が低下する。
【0026】
また、本発明の製パン用穀粉生地における各酵素の含有量をユニットで表すと、ヘミセルラーゼ(H)の含有量は、穀粉100gに対し、好ましくは0.05~5uであり、より好ましくは0.5~2uである。
マルトース生成α-アミラーゼ(mA)の含有量は、マルトース生成α-アミラーゼ(mA1)とマルトース生成α-アミラーゼ(mA2)の合計として、穀粉100gに対し、好ましくは5~500uであり、より好ましくは50~200uである。
更には、マルトース生成α-アミラーゼ(mA1)の含有量は、穀粉100gに対し、好ましくは1~300uであり、より好ましくは25~100uである。また、マルトース生成α-アミラーゼ(mA2)の含有量は、穀粉100gに対し、好ましくは1~400であり、より好ましくは50~200uである。」
「【0033】
【表2】
[図:0001398324000002.jpg]
」
エ 甲3に記載された事項
甲3には、「ペストリー生地及びペストリー食品」について、次の記載がある。
「【0015】
本発明のペストリー食品用穀粉生地は、穀粉100gに対してマルトース生成αアミラーゼの酵素活性が25~400単位、好ましくは40~370単位、より好ましくは120~350単位となるように、穀粉にアミラーゼ含有油脂組成物が練り込まれたものである。穀粉100gに対するマルトース生成αアミラーゼの酵素活性が上記範囲にあると、ペストリー食品用穀粉生地が作業性の良い(伸展性が良い)ものとなり、得られるペストリー食品の生地浮き(生地の膨らみ)及び食感も良いものとなる。
なお、本発明においてマルトース生成αアミラーゼの酵素活性の単位は、マルトトリオースを基質に酵素を至適条件下(至適温度、至適pH)で作用させ、1分間当りに1マイクロモルのマルトースを生成する酵素量を1単位と定義する。マルトース生成αアミラーゼの酵素反応における至適条件は、酵素の起源、酵素製剤の種類等によって至適範囲が異なるため、特に制限されることはないが、好ましくは35~70℃、pH4~6であり、より好ましくは35~40℃、pH4~6である。」
「【0020】
マルトース生成αアミラーゼは、アミロースとアミロペクチンのα-1,4グリコシド結合を非還元末端からマルトース単位で加水分解するエキソ型の酵素である。マルトース生成αアミラーゼとしては、酵素製剤を使用することもできる。マルトース生成αアミラーゼ酵素製剤1g中のマルトース生成αアミラーゼの酵素活性は、好ましくは2000~12000単位、より好ましくは3000~7500単位、さらに好ましくは3500~5000単位である。市販のマルトース生成αアミラーゼ酵素製剤としては、例えば、ノボザイムジャパン(株)の商品名:NovamylL等を使用することができる。」
(2)本件特許発明についての対比・検討
ア 本件特許発明1についての対比・検討
甲1発明と本件特許発明1とを対比する。
甲1発明における「パン改良剤」は、本件特許発明1における「パン類用加水量増加剤」と、「パン類用の剤」という限りにおいて相当する。
甲1発明における「マルトース生成アミラーゼ」「キサンタンガム」「α化ワキシーコーンスターチ」は、それぞれ、本件特許発明1における「マルトース生成α―アミラーゼ」「ガム質」「α化澱粉(α化低蛋白米粉、粳米α粉、及びα化した米粉に含まれるα化澱粉を除く)」に相当する。
甲1発明における「製パン時の強力粉」は、本件特許発明1における「パン類に用いる穀粉」に相当する。
甲1発明におけるパン改良剤中のα化澱粉の割合はそれぞれ、1300部/2569部=50.6%、900部/1606部=56.0%、1800部/2165.8部=83.1%である。
甲1発明のパン改良剤は、製パン時の強力粉1000g:パン改良剤20gで使用されるから、製パン時の強力粉1000gに対し、α化澱粉は20g×50.6%・56.0%・83.1%、すなわち、10.12g、11.2g、16.162gである。
よって、甲1発明のパン改良剤は、製パン時の強力粉100gに対してα化澱粉を1.01g、1.12g、1.61gを含むから、本件特許発明1における「α化澱粉は、パン類に用いる穀粉1000質量部に対して1.0質量部以上」との発明特定事項を満たす。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「α化澱粉(α化低蛋白米粉、粳米α粉、及びα化した米粉に含まれるα化澱粉を除く)と、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ガム質から選ばれる一種以上の増粘剤と、β-アミラーゼ及び/又はマルトース生成α-アミラーゼとを含有し、α化澱粉は、パン類に用いる穀粉100質量部に対して1.0質量部以上となるように含有されるパン類用の剤。」
<相違点1>
本件特許発明1においては、「β-アミラーゼ及び/又はマルトース生成α-アミラーゼは、パン類への使用量が、β-アミラーゼとして45単位以上、及び/又は、前記マルトース生成α-アミラーゼとして3.0~30.0単位となるように」含有されるとの特定を有するのに対して、甲1発明においては、そのような特定を有さない点。
<相違点2>
本件特許発明1においては、「加水量増加」剤との特定を有するのに対して、甲1発明においては、そのような特定を有さない点。
相違点1について検討する。
甲1には、β―アミラーゼ及び/又はマルトース生成α―アミラーゼのパン類への使用量(単位数)に関して、何ら記載されていない。また、提出された他の証拠をみても、甲1発明において使用されるマルトース生成α―アミラーゼの単位数は明らかではない。
よって、相違点1は実質的な相違点である。
本件特許発明1は甲1発明と少なくとも相違点1の点で相違するから、本件特許発明1は甲1発明ではない。
甲2には製パン用油脂組成物において使用されるマルトース生成α-アミラーゼの単位数について記載されているが、甲1発明のパン改良剤において、甲2を参酌し、マルトース生成α―アミラーゼの単位数を調整する動機はない。
甲3にはマルトース生成α―アミラーゼ酵素製剤1g中のマルトース生成αアミラーゼの酵素活性として2000~12000単位のものが知られていることが記載されているが、甲1発明において使用されているマルトース生成α―アミラーゼが甲3に記載されているマルトース生成α―アミラーゼ製剤と同じ製剤であるとはいえない。
このように、甲1、及び、その他の提出された証拠をみても、甲1発明において、β―アミラーゼ及び/又はマルトース生成α―アミラーゼのパン類への使用量を所定の範囲の単位とすることについて示唆はない。
したがって、甲1発明において、相違点1に係る発明特定事項を満たすものとすることは当業者といえども容易になし得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、β―アミラーゼ及び/又はマルトース生成α―アミラーゼのパン類への使用量を所定の範囲の単位とすることにより、成形作業性が非常に良く、外観が非常に良好であり、高加水によるしっとりとした食感という顕著な効果を有するものである。
よって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
したがって、本件特許発明2ないし4及び6は甲1発明ではなく、本件特許発明2ないし6は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由(甲1に基づく新規性・進歩性)についてのまとめ
申立理由にはその理由がない。
第4 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許異議申立書に記載した異議申立理由によって取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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