特許異議申立
2024-700983
土壌改良材およびその製造方法
- 審判番号
- 2024-700983
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-055611
- 登録番号
- 7471122
- 請求日
- 2024年10月08日
- 審決日
- 2025年02月06日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】昭和産業株式会社
- 【権利者代理人】山本 修
- 【権利者代理人】中村 充利
- 【異議申立人】イノチオホールディングス 株式会社
- 【異議申立人代理人】弁理士法人ぱてな
- 審判長/審判官
- 審判長 光本 美奈子
- 審判官 長谷川 真一
- 審判官 瀬下 浩一
- 分類
- P1651.121-Y (C09K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7471122号発明「土壌改良材およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7471122号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7471122号に係る特許についての出願は、令和2年3月26日(優先権主張 令和元年6月14日)に出願され、令和6年4月11日に特許権の設定登録がされ(請求項の数8)、同年同月19日に特許掲載公報が発行された。その後、同年10月8日に特許異議申立人であるイノチオホールディングス株式会社(以下「申立人」という。)により、全請求項に係る特許について特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件発明の記載
本件発明は、次のとおりの発明(以下、請求項番号にしたがって「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということもある。)である。
「【請求項1】
トウモロコシを含む原料からの糖化工程から排出され糖化ろ滓を含んでなる、土壌の還元消毒を行うための土壌改良材。
【請求項2】
珪藻土、パーライトおよび活性炭からなる群より選択されるろ材を含む、請求項1に記載の土壌改良材。
【請求項3】
10~50質量%の糖質を含んでなる、請求項1または2に記載の土壌改良材。
【請求項4】
15~40質量%の糖質を含んでなる、請求項1または2に記載の土壌改良材。
【請求項5】
土壌表面から60cmまでの深さに施用するための、請求項1~4のいずれかに記載の土壌改良材。
【請求項6】
土壌への混和処理および/または表面処理によって、土壌の還元消毒を行うための、請求項1~4のいずれかに記載の土壌改良材。
【請求項7】
前記糖化ろ滓が食品製造における副生成物である、請求項1~6のいずれかに記載の土壌改良材。
【請求項8】
トウモロコシを含む原料からの糖化工程から排出される糖化ろ滓を含む土壌改良材を土壌に施用することを含む、土壌の還元消毒方法。」
第3 異議申立ての概要及び証拠方法
1 異議申立ての概要
(1)申立理由1(新規性欠如)
本件発明1、3~8は、本件特許に係る出願(以下「本件出願」ともいう。)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記2の甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1、3~8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性欠如)
本件発明1~8は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記2の甲1に記載された発明、及び、甲1~甲9に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1~8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 証拠方法の一覧
申立人は、次の甲第1号証~甲第9号証を提出した。甲第1号証~甲第9号証を、以下「甲1」~「甲9」ともいう。
甲1:長坂克彦他、「スイートコーン残さを用いた土壌還元消毒の防除効果と土壌化学性への影響」、日本土壌肥料学雑誌、2012年4月、83巻、2号、p.117-124
甲2:特開平11-156175号公報
甲3:特開2007-259768号公報
甲4:大谷洋子、「トマト青枯病菌に対する糖含有珪藻土と糖蜜吸着資材を用いた土壌還元消毒の処理条件の検討」、2018年、関西病虫研報(60)、p.71-76
甲5:大谷洋子、「新規資材を用いた土壌還元消毒によるトマト青枯病の防除」、和歌山県農業試験場、平成29年1月、農業試験場ニュース、No.128、p.8
甲6:特開平3-206893号公報
甲7:特開平6-7200号公報
甲8:特表2011-521629号公報
甲9:国際公開第2010/067795号
第4 甲号証の記載
1 甲1の記載
甲1には、次の記載がある。
(1)第117頁左欄第22行~右欄第3行
「
[図:0001420354000001.jpg]
[図:0001420354000002.jpg]
」
(2)第117頁右欄第10行~第118頁左欄第36行
「
[図:0001420354000003.jpg]
[図:0001420354000004.jpg]
[図:0001420354000005.jpg]
」
(3)第120頁左欄第1行~右欄第7行
「
[図:0001420354000006.jpg]
[図:0001420354000007.jpg]
」
(4)第122頁左欄第5行~右欄第8行
「
[図:0001420354000008.jpg]
[図:0001420354000009.jpg]
」
2 甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
「【0035】最後の方法は、澱粉及びヘミセルロースに富む植物材料や、農産物由来の産出物あるいは副産物に由来する還元糖の混合物、例えばトウモロコシ由来の製品又は副産物[ふすま(bran)、繊維、絞りかす(pomace)]、オオムギのふすま、ヨーロッパ特許出願EPO699472号公報に記載された、六炭糖及び五炭糖を含有するコムギ由来の副産物などに由来する還元糖の混合物のシロップを用い、この還元糖のシロップを、脂肪アルコール存在下でグリコシド化することにより、本発明の組成物を得る方法である。
【0036】「トウモロコシ由来の製品」とは、直接収穫されるか、又は穀粒(grain)を分離した後の廃棄物から得られる、全草及び/又は構成部位(穂軸、皮、茎、葉等)を意味する。トウモロコシの繊維あるいはふすまを使用することも可能である。「トウモロコシの繊維」とは、特に澱粉の製造のための分画過程において得られる混合物(compound)を意味する。「トウモロコシの絞りかす」とは、アルコール発酵又は非乾燥条件下で(under wet conditions)澱粉産成植物から澱粉を製造した後に得られる副産物を意味し、特にヘミセルロース及び澱粉の混合物を多く含む。」
3 甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
「【請求項1】
家畜ふん堆肥、醸造過程濾過残材及びバインダーよりなる育苗培地。」
「【0006】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる家畜ふん堆肥としては、牛ふん、鶏ふん、豚ふん、馬ふん等の堆肥を用いることができ、牛ふん堆肥が好ましい。家畜ふん堆肥は完熟堆肥が好ましい。
醸造過程濾過残材とは、例えばビール濾過残材が例示できる。ビール濾過残材とはビールの製造過程で生じる麦芽残渣と珪藻土のような使用済みの濾過助剤の混合物であり、粗繊維とケイ酸が主な成分である。
バインダーとしては、ウレタン系、尿素樹脂系、メラミン樹脂系、フェノール樹脂系等の樹脂系接着剤、米デンプン、馬鈴薯デンプン、とうもろこしデンプン等のデンプン、ニカワ、大豆タンパク、カゼイン、獣血等の天然系接着剤を用いることができる。」
4 甲4の記載
甲4には、次の記載がある。
(1)第71頁左欄第12行~第72頁左欄第3行
「
[図:0001420354000010.jpg]
[図:0001420354000011.jpg]
[図:0001420354000012.jpg]
」
(2)第72頁左欄第19行~第21行
「
[図:0001420354000013.jpg]
」
(3)第72頁第1表
「
[図:0001420354000014.jpg]
」
5 甲5の記載
甲5には、次の記載がある。
「
[図:0001420354000015.jpg]
[図:0001420354000016.jpg]
[図:0001420354000017.jpg]
」
6 甲6の記載
甲6には、次の記載がある。
第4頁右下欄第18行~第5頁左上欄第7行
「生澱粉消化酵素で処理した懸濁液は、例えばフィルタープレス等の濾過器を用いて固液分離する。得られた液部は、水溶性マルトオリゴ糖、マルトース、グルコースなどの糖類を含有する液であり、活性炭脱色、脱イオン精製して食品等に利用することができる。この場合、水溶液のままで用いることもできるが、必要に応じて結晶化させることもできる。一方、固液分離により得られた残渣は、乾燥した後、食品、飼料等として利用することができる。」
7 甲7の記載
甲7には、次の記載がある。
「【0096】デキストリン(1~3のDEを有する、予備ゲル化され、α-アミラーゼ転換されたタピオカデキストリン)の2kgサンプルを80lの前記濾過水に分散し、そして275℃及び422kg/cm2(60psi)の入口蒸気圧で噴射調理した。分散されたデキストリンを、カラム炭素処理の前、及びその間、煮沸水槽に保持し、そして処理されたサンプルを集め、そして煮沸水槽に保持し、珪藻土上で濾過し、次に噴霧乾燥せしめた。炭素微粉末は、珪藻土による濾過の前又は後、その処理されたサンプルに検出されなかった。風味及び色の改良は、炭素処理されなかった対照に比べて、個々の炭素処理されたサンプルについて観察された。」
8 甲8の記載
甲8には、次の記載がある。
「【0004】
上記の如き分解工程だけではなく、トウモロコシグルテン加水分解物を含む水溶液を処理する後続工程においても遊離アミノ酸の損失が多大になる可能性がある。特に、加水分解物を脱色・脱臭する目的で多用される活性炭(Activated Carbon)の処理に際して分子量が大きなペプチド及びタンパク質の吸着により全窒素(TN:Total Nitrogen)及びアミノ窒素(AN:Amino Nitrogen)の減少が引き起こされ、分岐鎖アミノ酸(BCAA)を含む遊離アミノ酸の含量も低下する。」
「【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、(a)トウモロコシグルテンに含有されている炭水化物、水溶性糖類、無機物または繊維質を除去し、トウモロコシグルテンタンパク質を分離する段階と、(b)前記トウモロコシグルテンタンパク質を酸加水分解、酵素分解及び天然発酵よりなる群から選ばれるいずれか1種以上を用いて分解してトウモロコシグルテンタンパク質の分解物を製造する段階と、(c)前記トウモロコシグルテンタンパク質の分解物を分離、濃縮、沈殿、脱塩及びろ過して、分解物に含まれている分岐鎖アミノ酸(BCAA)の含量を増加させる段階と、を含むトウモロコシグルテン加水分解物の製造方法を提供する。」
「【0043】
前記段階(c)の分離過程は、遠心分離(decanter)またはフィルタプレス(Filter press)を用いてトウモロコシグルテンタンパク質の分解物から固形分を液状と分離する過程を含んでいてもよい。
【0044】
場合によって、前記遠心分離またはフィルタプレスを用いて不溶性固形分を除去した後、珪藻土を投入して不溶性成分を完全に除去してもよい。」
9 甲9の記載
甲9には、次の記載がある。
「実施例8
[0046](白金触媒、ルテニウム触媒を用いたビートファイバー及びポテトパルプからのアラビトール、アラビノース製造)
ビートファイバーをルテニウム触媒存在下で加熱撹拌処理し(水素は無添加)、処理物の上清中のアラビノース、アラビトールの含量をHPLCにて調査した。また、ポテトパルプをルテニウム触媒又は白金触媒存在下で加熱撹拌処理(オートクレーブ内水素初圧5MPa)し、処理物の上清中のアラビノース、アラビトールの含量をHPLCにて調査した。これらの処理条件の詳細を表7に示した。
[0047]
[表7]
[図:0001420354000018.jpg]
[0048] 各処理後のアラビノース及びアラビトールの収率の結果を表8に示す。なお、収率は各原料の質量に対する割合(%)で示した。
・・・
[0049]
[表8]
[図:0001420354000019.jpg]
・・・
[0054](クロマトグラフィー処理によるアラビノース精製)
実施例8(表7)の処理条件No.2の反応を100回実施し、100回分の反応液をまとめて混合した。その混合液を遠心分離して、触媒及び未反応原料を除去した。上清を珪藻土ろ過した。ろ液を減圧下で加熱濃縮して、固形分濃度40%の濃縮液を得た。この濃縮液を表10に示すようなクロマトグラフィー条件で分離し(複数回実施)、アラビノースの固形分純度が80%の画分を得た。」
第5 申立理由1、2(新規性欠如、進歩性欠如)についての当審の判断
1 甲1に記載された発明
甲1の「土壌還元消毒時に施用する資材として、山梨県の主要野菜であるスイートコーン(Zea mays)に着目した。・・・スイートコーン残さには還元糖などの易分解性有機物が含まれていること、残さを全量鋤込んで湛水状態にすると入水1日後に酸化還元電位が-200mV程度まで長時間維持されることなどを明らかにした。この結果より、スイートコーン残さは土壌還元消毒時に施用する資材として有効であると考えられる。」(上記第4の1(1)を参照)との記載、「他の圃場で栽培したスイートコーン残さを現地に運び、エンジン式シリンダーカッターを用い3~5cmに細断後に施用した。各資材を所定量施用し、耕転後に湛水状態とし、20日間ビニールで被覆した。」との記載(上記第4の1(2)を参照)、「2007年抑制作において、土壌還元消毒後に各試験区ともO頭まで低下した」、「2008年抑制作では、土壌還元消毒前に各区とも150頭程度であったが、土壌還元消毒後に残さ30Mg区・・・ではO頭まで低下し」との記載(上記第4の1(3)を参照)に着目して整理すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「還元糖などの易分解性有機物が含まれるスイートコーン残さを含む、土壌還元消毒時に施用する資材。」
2 対比・判断
(1)本件発明1
ア 対比
本件明細書の段落【0015】には、「糖化ろ滓」に関して、「本発明においては、トウモロコシを含む原料を糖化する工程で発生する副生物を土壌改良材として使用する。前記植物原料を糖化する糖化工程で生じる副生物(本明細書において糖化ろ滓ともいう)は、糖化工程における不純物の除去や脱色を行うろ過工程で排出され、ろ材と糖質を主に含有する。」との記載がある。
そうすると、本件発明1の「糖化ろ滓」は、糖化工程における不純物の除去や脱色を行うろ過工程で排出される、ろ材と糖質を主に含有するものと認められる。
甲1発明と本件発明1とを対比すると、甲1発明の「土壌還元消毒時に施用する資材」は、本件発明1の「土壌の還元消毒を行うための土壌改良材」に相当する。
また、甲1発明の「スイートコーン」は、「トウモロコシ」に相当し、甲1発明の資材は、トウモロコシ由来の還元糖である糖質を含むものと認められるところ、本件発明1の「トウモロコシを含む原料からの糖化工程から排出され糖化ろ滓」は、前記のとおり、糖質を含有するものであり、その糖質はトウモロコシ由来のものといえるから、甲1発明の資材と本件発明1の土壌改良材とは、「糖質を含むトウモロコシ由来の物質」を含む点で共通する。
してみれば、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「糖質を含むトウモロコシ由来の物質を含んでなる、土壌の還元消毒を行うための土壌改良材。」
<相違点>
糖質を含むトウモロコシ由来の物質が、本件発明1は、トウモロコシを含む原料からの糖化工程から排出される糖化ろ滓であるのに対して、甲1発明は、還元糖などの易分解性有機物が含まれるスイートコーン残さである点。
イ 判断
以下、上記相違点について検討する。
前記アの本件明細書の段落【0015】の記載から、本件発明1の「糖化ろ滓」は、糖化工程における不純物の除去や脱色を行うろ過工程で排出される、ろ材と糖質を主に含有するものと認められる。
一方、甲1発明の「スイートコーン残さ」は、甲1の「他の圃場で栽培したスイートコーン残さを現地に運び、エンジン式シリンダーカッターを用い3~5cmに細断後に施用した。」との記載(上記第4の1(2)を参照)及び「スイートコーン残さには微生物の栄養源であるデンプンや還元糖などの易分解性糖が葉部で17.1%(乾物)、茎部で19.9%(乾物)と多く含まれている」との記載(上記第4の1(4)を参照)からすると、スイートコーン収穫後に残った葉や茎などであり、糖化工程におけるろ過工程で排出されるものではなく、ろ材を含むものでもないから、本件発明1の「糖化ろ滓」とは、「物質」として異なることは明らかである。
そうすると、上記相違点は、実質的な相違点である。
上記相違点についての容易想到性について検討する。
甲2の段落【0035】には、「農産物由来の産出物あるいは副産物に由来する還元糖の混合物」として、トウモロコシ由来の製品又は副産物[ふすま(bran)、繊維、絞りかす(pomace)]が例示され、同段落【0036】には、「「トウモロコシ由来の製品」とは、直接収穫されるか、又は穀粒(grain)を分離した後の廃棄物から得られる、全草及び/又は構成部位(穂軸、皮、茎、葉等)を意味する。トウモロコシの繊維あるいはふすまを使用することも可能である。「トウモロコシの繊維」とは、特に澱粉の製造のための分画過程において得られる混合物(compound)を意味する。「トウモロコシの絞りかす」とは、アルコール発酵又は非乾燥条件下で(under wet conditions)澱粉産成植物から澱粉を製造した後に得られる副産物を意味し、特にヘミセルロース及び澱粉の混合物を多く含む。」との記載はある。
また、甲3には、ビールの製造過程で生じる麦芽残渣と珪藻土のような使用済みの濾過助剤を含むビール濾過残材を、育苗培地に混合して用いること(請求項1、段落【0006】を参照)、甲4、甲5には、土壌の還元消毒に用いる資材として、アミノ酸生成過程の副生成物である糖化珪藻土を用いること、そのような糖化珪藻土として、アミノ酸生成の際のタピオカスターチの糖化ろ過助剤が用いられること(上記第4の4(1)~(3)、5を参照)、甲6には、生澱粉消化酵素で処理した懸濁液を濾過して得られた残渣は、食品、飼料等として利用できること、糖類を含有する液は、活性炭脱色等が行われること(上記第4の6を参照)、甲7には、α-アミラーゼ転換されたタピオカデキストリンが分散した濾過水は、珪藻土上で濾過されること(段落【0096】を参照)、甲8には、トウモロコシグルテンタンパク質の分解物の製造において、フィルタープレス等を用いて当該分解物から不溶性固形分を除去した後、珪藻土を投入して不溶性成分を完全に除去してもよいこと(段落【0011】、【0043】、【0044】を参照)、甲9には、ビートファイバーを処理して得られたアラビノースを含む反応液を遠心分離して、触媒及び未反応原料を除去した上清を珪藻土ろ過すること(段落[0046]~[0049]、[0054]を参照)が記載されている。
さらに、甲1には、「スイートコーン残さには微生物の栄養源であるデンプンや還元糖などの易分解性糖が・・・多く含まれていること・・・や、施用後に土壌が還元状態となることから、・・・防除効果が得られたと考えられる。」と記載されている(上記第4の1(4)を参照)。
しかしながら、トウモロコシ由来の副産物に関する記載がなされる甲2にも、糖化工程におけるろ過工程で排出される、ろ材と糖質を主に含有するもの、すなわち、「糖化ろ滓」や、それを土壌還元消毒に用いることについては記載も示唆もされておらず、甲3~甲9のいずれにも、「トウモロコシを含む原料からの糖化工程から排出される糖化ろ滓」は記載されていない。
そうしてみると、甲1発明において、甲1~9の記載に基づき、土壌改良材に含まれる糖質を含むトウモロコシ由来の物質として、スイートコーン残さにかえて糖化ろ滓を用いることを当業者が想起できたとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明、及び、甲1~甲9に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
(2)本件発明2~8について
本件発明2~7は、本件発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであり、また、本件発明8は、発明のカテゴリーが異なることを除けば、本件発明1の発明特定事項を実質的に全て含むものであるから、上記(1)で検討したのと同様の理由により、甲1に記載された発明でなく、また、甲1に記載された発明、及び、甲1~甲9に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
3 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第13~14頁、第18~19頁において、以下を主張する。
(主張1)
残さ(残渣)とは、一般的に「残りかす。濾過(ろか)などした際に残った不要物。」(広辞苑)であり、糖化工程とは、トウモロコシ等の穀物が含むでん粉を糖に分解する工程であり、トウモロコシから水あめ等を得る場合には、液化、糖化、精製、濃縮及び乾燥の各工程が行われる(日本スターチ糖化工業会のホームページ)であり、ろ滓(ろさい)とは、「濾過により、濾材面上にできる個体堆積物。」(精選版日本国宜雄大辞典)であり、糖化ろ滓は、糖化工程で排出されたろ滓であるから、スイートコーンの残さには、トウモロコシの残りかすの他、トウモロコシから水あめ等を得る際に濾過して残った不要物、つまり糖化工程から排出されるろ滓も含まれる。
甲第1号証では、他圃場で栽培されたスイートコーンの残さをネコブセンチュウ被害圃場に持ち込んだり、現地で細断したりして施用しており、ここではスイートコーンの葉部や茎部が残さに相当する。しかし、残さは「濾過(ろか)などした際に残った不要物」も意味することから、甲第1号証に記載されている残さは、トウモロコシの葉部や茎部に限られず、ろ滓も含まれる。
また、甲第1号証には、スイートコーン残さに易分解性糖が含まれていることも記載されている。他方、本件特許発明1の糖化工程から排出される糖化ろ滓も、糖質を含有していることから還元消毒を行うための土壌改良材とされたものであり、スイートコーン残さと相違はない。
(主張2)
甲第1号証のスイートコーン残さの例が茎や葉であるとしても、甲第2号証等の周知技術1によってトウモロコシからの糖化工程から排出される糖化ろ滓に還元糖が含まれていることが周知である以上、トウモロコシからの糖化工程から排出される糖化ろ滓が甲第1号証記載のスイートコーン残さと同様に土壌還元消毒作用を示すと当業者であれば容易に理解できる。
そうすると、甲第1号証記載のスイートコーン残さとして、トウモロコシからの糖化工程から排出される糖化ろ滓を用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。
以下、上記主張1~2について、検討する。
(1)主張1について
申立人は、甲1に記載されたスイートコーン残さには、トウモロコシの葉部や茎部に限られず、ろ滓も含まれる旨主張するが、甲1には、スイートコーン残さが、ろ過により得られたろ材面上にできたものであることを伺わせる記載は一切ない。
また、上記2(1)イでも検討したとおり、本件明細書の段落【0015】に記載された「糖化ろ滓」についての定義から、本件発明1の「糖化ろ滓」は、糖化工程における不純物の除去や脱色を行うろ過工程で排出され、ろ材と糖質を主に含有するものと認められるところ、甲1のスイートコーン残さは、ろ材と糖質を主に含有するものでもない。
そうすると、甲1に記載されたスイートコーン残さが、糖質を含むものだとしても、当該スイートコーン残さが、本件発明1の「糖化ろ滓」と相違することは明らかである。
よって、上記主張1は採用できない。
(2)主張2について
上記(1)でも検討したとおり、スイートコーン残さに還元糖が含まれているとしても、本件発明1の「糖化ろ滓」は、「ろ材」を含むものであり、甲2には、ろ材と糖質を主に含有する「ろ滓」や、それを土壌還元消毒に用いることについては記載も示唆もないから、甲2の記載を参酌しても、甲1発明において、スイートコーン残さを、トウモロコシを含む原料からの糖化工程から排出される糖化ろ滓とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、上記主張2は採用できない。
4 小括
以上のとおり、本件発明1~8は、甲1に記載された発明でなく、また、甲1に記載された発明、及び、甲1~甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとすることはできないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700983