特許異議申立
2024-700071
ケーキ類用組成物及び該ケーキ類用組成物を用いたケーキ類、並びにケーキ類の日持ち向上方法
- 審判番号
- 2024-700071
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-085231
- 登録番号
- 7317564
- 請求日
- 2024年01月30日
- 審決日
- 2024年12月13日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】昭和産業株式会社
- 【権利者代理人】渡邊 薫
- 【異議申立人】古橋 翼
- 審判長/審判官
- 審判長 淺野 美奈
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 天野 宏樹
- 分類
- P1651.112-YAA(A21D) / P1651.537-YAA(A21D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7317564号発明「ケーキ類用組成物及び該ケーキ類用組成物を用いたケーキ類、並びにケーキ類の日持ち向上方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7317564号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。
特許第7317564号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7317564号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成31年4月26日を出願日とする出願であって、令和5年7月21日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月31日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和6年1月30日に特許異議申立人 古橋 翼(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされ、同年3月4日に特許異議申立人から手続補正書(方式)が提出され、同年同月25日付けで取消理由が通知され、同年5月27日に特許権者 昭和産業株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出され、同年6月7日付けで特許異議申立人に対し審尋がされ、同年同月27日に特許異議申立人から回答書が提出され、同年7月26日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年9月25日付けで特許権者から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年10月3日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年11月7日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和6年9月25日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「10~60質量部」と記載されているのを、「10~40質量部」に訂正する。併せて請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2及び3も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「ケーキ類用組成物」と記載されているのを、「ケーキ類用組成物(イヌリンを含有するものを除く)」に訂正する。併せて請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2及び3も同様に訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2による請求項1についての訂正は、「ケーキ類用組成物」から「イヌリンを含有するもの」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び2による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項2及び3についての訂正について
訂正事項1及び2による請求項2及び3についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び2による請求項2及び3についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項1及び2による請求項1ないし3についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1及び2による請求項1ないし3についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1ないし3は一群の請求項に該当するものであり、訂正事項1及び2による請求項1ないし3についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし5に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
穀粉100質量部中に、
(1)タピオカを原料としたα化澱粉と、タピオカを原料としたエーテル化澱粉、タピオカを原料としたエステル化澱粉、もち種澱粉、及びもち種穀粉から選択される1種以上の穀粉と、を合計で10質量部以上、
(2)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が30cp以下の加工澱粉を10~40質量部、
含有する、ケーキ類用組成物(イヌリンを含有するものを除く)。
【請求項2】
請求項1に記載のケーキ類用組成物が用いられた、ケーキ類。
【請求項3】
水分活性が0.90未満である、請求項2記載のケーキ類。
【請求項4】
ケーキ類に下記の穀粉を用いることにより日持ちを向上させる、ケーキ類の日持ち向上方法。
穀粉100質量部中に、
(1)タピオカを原料としたα化澱粉と、タピオカを原料としたエーテル化澱粉、タピオカを原料としたエステル化澱粉、もち種澱粉、及びもち種穀粉から選択される1種以上の穀粉と、を合計で10質量部以上、
(2)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が30cp以下の加工澱粉を10~60質量部、
含有する穀粉。
【請求項5】
ケーキ類の水分活性を0.90未満とする、請求項4記載のケーキ類の日持ち向上方法。」
第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由の概要等
令和6年1月30日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許発明1は、穀粉100質量部中に、成分(1)としてタピオ力を原料としたα化澱粉と、所定の穀粉及び澱粉の群から選択される穀粉と、を合計で10質量部以上、成分(2)として特定の分析法における最高粘度が特定範囲となる加工澱粉を10~60質量部、含有するケーキ類用組成物であり、本件特許発明2、3は、本件特許発明1のケーキ類用組成物を用いたケーキ類である。また、本件特許発明4、5は、本件特許発明1におけるケーキ類用組成物と同組成の穀粉を用いるケーキ類の日持ち向上方法である。
そして、本件特許明細書の課題に係る記載([0009])から、本件特許発明の目的は、もちもちした食感を有するにも関わらず、日持ちするケーキ類を得るための技術を提供することである。そして、本件特許明細書には、その課題解決のために、特定の穀粉と特定の加工澱粉を、特定量含有する穀粉を用いることにより、ケーキ類のもちもち感を保ちつつ、日持ちを向上させることに成功した旨([0010])が記載されている。
ここで、本件特許明細書に上記課題を解決できることが具体的に記載されるのは、成分(1)におけるα化澱粉と、所定の穀粉及び澱粉の群から選択される穀粉との合計が、穀粉100質量部に対して27~42質量部となる範囲だけであり([0050(表1)])、本件特許明細書([0022])にも、成分(1)と成分(2)を絶妙なバランスで配合することでもちもち感を有しながら、日持ちするケーキ類が得られるとあることから、成分(1)として実施例に記載されている量から外れた範囲(特に、穀粉100質量部中、10質量部以上~27質量部未満)においても、上記課題を解決できるものとは言えない。
さらに、本件特許発明1ないし5において、成分(1)はタピオカを原料としたα化澱粉を必須成分とするものであるが、本件特許明細書には、このα化澱粉を含む所定の穀粉及び澱粉の群から選択される穀粉のうち、1種以上を穀粉100質量部中に10質量部以上とすること([0018][0023])は記載されるものの、α化澱粉単体で必要とされる配合量については、穀粉100質量部に対して7質量部とすることが実施例に示されるのみであり([0050(表1)])、上記課題を解決するために必要となるα化澱粉の配合量に係る数値範囲については何ら記載されていない。そして、本件特許発明1~5において、α化澱粉を成分(1)中の有効成分(必須成分)として機能させるために必要となる要件(穀粉100質量部中におけるα化澱粉の配合量に係る数値範囲)について、本件特許明細書の記載及び本件特許発明の出願日前における技術常識から当業者が当然に理解できるものではなく、発明の詳細な説明に開示された内容から拡張ないし一般化できるものとは言えない。仮に、本件特許発明1ないし5において、成分(1)としてのα化澱粉の配合量を問わないものとする場合、成分(1)に係る発明特定事項は、甲第1号証に記載された内容と相違しないことに留意されたい。
また、本件特許明細書に記載されるケーキ類の日持ち向上とは、ケーキ類の水分活性が特定範囲内(0.90未満)にあるか否かで評価されるものである([0039])。一方、本件特許発明1、2、4は、ケーキ類の生地の含水量(生地への加水量)、すなわちケーキ類の水分活性に関する発明特定事項は含まれていないものであるため、ケーキ類の日持ち向上に係る課題を解決できるものとは言えない。
したがって、本件特許発明1ないし5は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとは言えない。
3 証拠方法
甲第1号証:特開2019-17275号公報
甲第2号証:特開平10-56946号公報
甲第3号証:特開平8-228664号公報
甲第4号証:特開平7-255357号公報
甲第5号証:高田昌子、野口駿、日本家政学会誌、39巻4号、p.345-348、1988年
添付書面(2):特開平3-290145号公報
参考資料1:再公表特許WO2019/013315号(国際公開第2019/013315号)
添付書面(2)は、令和6年6月27日に特許異議申立人から提出された回答書に添付されたものであり、参考資料1は、同年11月7日に特許異議申立人から提出された意見書に添付されたものである。
証拠の表記は、特許異議申立書、上記回答書及び上記意見書の記載におおむね従った。以下、甲号証については、順に「甲1」のようにいう。
第5 取消理由(決定の予告)の概要
令和6年7月26日付けで通知した取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。なお、該取消理由(決定の予告)は申立理由1のうちの請求項1ないし3についての理由とおおむね同旨である。
取消理由(決定の予告)(甲1に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 取消理由(決定の予告)についての当審の判断
1 証拠に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「ベーカリー食品用ミックス」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の証拠についても同様。
・「【請求項1】
可溶性食物繊維、難消化性澱粉、非難消化性澱粉及び穀粉を含有し、該可溶性食物繊維の含有量が3~50質量%、該難消化性澱粉と該非難消化性澱粉との合計含有量が2~70質量%であるベーカリー食品用ミックス。」
・「【請求項6】
前記ベーカリー食品が、パンケーキ、ホットケーキ、スポンジケーキ、蒸しケーキ、蒸しパン、バターケーキ、お好み焼、たこ焼き、大判焼、小判焼又はたい焼きである請求項1~5のいずれか1項に記載のベーカリー食品用ミックス。」
・「【0009】
本発明の課題は、食物繊維を含有し低糖質且つ低カロリーでありながらも、食感に優れたベーカリー食品を製造可能なベーカリー食品用ミックスを提供することである。」
・「【0027】
本発明のベーカリー食品用ミックスは、ベーカリー食品の製造に用いることができる。本発明でいうベーカリー食品は、穀粉類(穀粉及び澱粉)を主原料とし、これに必要に応じてイーストや膨張剤(ベーキングパウダー等)、水、食塩、砂糖などの副原料を加えて得られた発酵又は非発酵生地を、焼成、蒸し、フライ等の加熱処理に供して得られる食品をいう。本発明が適用可能なベーカリー食品の例としては、パン類;ピザ類;ケーキ類;ワッフル、シュー、ビスケット、どら焼き、焼き饅頭等の和洋焼き菓子;ドーナツ等の揚げ菓子等が挙げられる。パン類としては、食パン(例えばロールパン、白パン、黒パン、フランスパン、乾パン、コッペパン、クロワッサン等)、調理パン、菓子パン、蒸しパン等が挙げられる。ケーキ類としては、スポンジケーキ、バターケーキ、ロールケーキ、ホットケーキ、ブッセ、バームクーヘン、パウンドケーキ、チーズケーキ、スナックケーキ、マフィン、バー、クッキー、パンケーキ等が挙げられる。」
・「【0034】
〔実施例1~25及び比較例1~8〕
下記表1に示す原材料を適宜混合・攪拌して、ベーカリー食品用ミックスとしてのホットケーキミックスを製造した。使用した原料の詳細は下記の通り。
・可溶性食物繊維:イヌリン(商品名「FF」、フジ日本精糖製)、難消化性デキストリン(商品名「ファイバーソル2」、松谷化学工業製)
・難消化性澱粉:タピオカ難消化性澱粉(商品名「パインスターチRT」、松谷化学工業製)、トウモロコシ難消化性澱粉(商品名「日食ロードスター」、日本食品化工製)
・蛋白質素材:グルテン(小麦蛋白質)
【0035】
〔試験例〕
各実施例及び比較例のホットケーキミックスを用いてホットケーキを製造した。具体的には、ホットケーキミックス180質量部に対して、卵50質量部、牛乳170質量部を加えてよく攪拌し、液状生地たるバッターを得た。得られたバッターを、170℃に熱したホットプレート上に垂らして広げ、3分間焼成した後、そのバッターの焼成物を上下反転させて未焼成の面側を1分30秒間焼成し、ホットケーキを製造した。製造したホットケーキを10名のパネラーに食してもらい、その際の食感(ふんわり感、口溶け)を下記評価基準で評価してもらった。結果を10名の評価点の平均値として下記表1~4に示す。
【0036】
<ふんわり感の評価基準>
5点:非常に弾力のあるふんわり感を感じ、極めて良好。
4点:弾力のあるふんわり感を感じ、良好。
3点:普通にふんわり感を感じる。
2点:ふんわり感が足りずパサつき、不良。
1点 ふんわり感が感じられずパサつきが強く、極めて不良。
<口溶けの評価基準>
5点:非常に口溶けが良く、極めて良好。
4点:口溶けが良く、良好。
3点:普通の口溶け感。
2点:口溶けが悪く、ぼそぼそするか粘ついており、不良。
1点:非常に口溶けが悪く、ぼそぼそが強いか粘つきが強く、極めて不良。
【0037】
【表1】
[図:0001421347000001.jpg]
【0038】
表1に示す通り、各実施例のホットケーキミックスは、食物繊維を含有し低糖質且つ低カロリーでありながらも、ホットケーキのふんわり感、口溶けの双方に優れていた。
また、可溶性食物繊維に関し、ミックス中の含有量が過少であると、特に口溶けが低下し(比較例1、2)、逆に過剰であると、特にふんわり感が低下する(比較例3)。
また、実施例3と比較例4、5との対比から、ミックス中に難消化性澱粉及び非難消化性澱粉の一方のみしか含まれていないと、食感の向上効果に劣ることがわかる。
また、実施例3と比較例6との対比から、ミックス中に薄力粉の如き穀粉が含まれていないと、特にふんわり感が低下することがわかる。
【0039】
【表2】
[図:0001421347000002.jpg]
【0040】
表2における実施例7~9どうしの対比から、非難消化性澱粉に関し、地下系が特に食感の向上効果に優れ、また、地上系についてはコーンスターチよりもワキシーコーンスターチの方が食感の向上効果に優れることがわかる。
また表2において、グルテンを含む実施例10~12がこれを含まない他の実施例よりも食感に優れていたことから、ミックス中に蛋白質素材を含有させることで、バッタータイプのベーカリー食品の食感、特にふんわり感が大幅に向上し得ることがわかる。
【0041】
【表3】
[図:0001421347000003.jpg]
【0042】
表3における実施例と比較例との対比から、ミックス中の難消化性澱粉と非難消化性澱粉との合計含有量2~70質量%の臨界意義が明白である。
また、表3では実施例3及び10~17が特に食感に優れていたことから、ミックスにおいて、難消化性澱粉の含有量としては10~40質量%程度が好ましく、非難消化性澱粉の含有量としては8~25質量%程度が好ましいことがわかる。
【0043】
【表4】
[図:0001421347000004.jpg]
【0044】
表4では特に実施例3及び20~23、とりわけ実施例3、21及び22が食感に優れていたことから、ミックスにおける難消化性澱粉と非難消化性澱粉との含有質量比としては、10:1~1:1程度が好ましく、7:1~2:1程度がさらに好ましいことがわかる。」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に「イヌリン」又は「難消化性デキストリン」、「タピオカ難消化性澱粉(商品名「パインスターチRT」、松谷化学工業製)」、「ワキシーコーンスターチ」、「薄力粉」及び「砂糖」を成分とする実施例1ないし5、9ないし18及び22ないし25に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1発明1」、「甲1発明2」及び「甲1ケーキ類発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明1>
「イヌリン、タピオカ難消化性澱粉(商品名「パインスターチRT」、松谷化学工業製)、ワキシーコーンスターチ、薄力粉及び砂糖を表1ないし4の実施例1ないし5、10ないし18及び22ないし25の欄に示す組成(質量%)で混合・攪拌して製造したホットケーキミックス。」(当審注:「表1ないし4の実施例1ないし5、10ないし18及び22ないし25の欄」については上記ア参照。)
<甲1発明2>
「難消化性デキストリン、タピオカ難消化性澱粉(商品名「パインスターチRT」、松谷化学工業製)、ワキシーコーンスターチ、薄力粉及び砂糖を表2の実施例9の欄に示す組成(質量%)で混合・攪拌して製造したホットケーキミックス。」(当審注:「表2の実施例9の欄」については上記ア参照。)
<甲1ケーキ類発明>
「甲1発明1又は2を用いて製造したホットケーキ。」
2 本件特許発明1について
(1)甲1発明1との対比・判断
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明1を対比する。
甲1発明1における「ワキシーコーンスターチ」は、もち種であるワキシーコーンを澱粉化したもの、すなわち「もち種澱粉」であるから、本件特許発明1における「タピオカを原料としたエーテル化澱粉、タピオカを原料としたエステル化澱粉、もち種澱粉、及びもち種穀粉から選択される1種以上の穀粉」に相当する。
甲1発明1における「タピオカ難消化性澱粉(商品名「パインスターチRT」、松谷化学工業製)」は、本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0050】及び【0051】において、「(2)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が30cp以下の加工澱粉」として使用されたものであるから、本件特許発明1における「(2)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が30cp以下の加工澱粉」に相当する。
甲1発明1において、穀粉といえるのは、「タピオカ難消化性澱粉(商品名「パインスターチRT」、松谷化学工業製)」、「ワキシーコーンスターチ」及び「薄力粉」であるから、甲1発明1における「タピオカ難消化性澱粉(商品名「パインスターチRT」、松谷化学工業製)」の穀粉100質量部中の割合は、甲1の【0037】の【表1】、【0039】の【表2】、【0041】の【表3】及び【0043】の【表4】のうちの「イヌリン、タピオカ難消化性澱粉(商品名「パインスターチRT」、松谷化学工業製)、ワキシーコーンスターチ、薄力粉及び砂糖」を成分とする実施例1ないし5、10ないし18及び22ないし25の記載から計算すると、本件特許発明1における「(2)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が30cp以下の加工澱粉」の穀粉100質量部中の割合である「10~40質量部」と、「10質量部以上」という限りにおいて一致する。
甲1発明1における「ホットケーキミックス」は本件特許発明1における「ケーキ類用組成物(イヌリンを含有するものを除く)」と、「ケーキ類用組成物」であるという限りにおいて一致する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「穀粉100質量部中に、
(1)タピオカを原料としたエーテル化澱粉、タピオカを原料としたエステル化澱粉、もち種澱粉、及びもち種穀粉から選択される1種以上の穀粉と、
(2)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が30cp以下の加工澱粉を10質量部以上、
含有する、ケーキ類用組成物。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1a>
本件特許発明1においては、「穀粉100質量部中に」、「タピオカを原料としたα化澱粉」を「タピオカを原料としたエーテル化澱粉、タピオカを原料としたエステル化澱粉、もち種澱粉、及びもち種穀粉から選択される1種以上の穀粉」との「合計で10質量部以上」「含有する」と特定されているのに対し、甲1発明1においては、そのようには特定されていない点。
<相違点1b>
(2)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が30cp以下の加工澱粉」の穀粉100質量部中の割合に関して、本件特許発明1においては、「10~40質量部」と特定されているのに対して、甲1発明1においては、そのようには特定されていない点。
<相違点1c>
「ケーキ類用組成物」に関して、本件特許発明1においては、「(イヌリンを含有するものを除く)」と特定されているのに対し、甲1発明1においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点1cについて検討する。
甲1発明1は、「イヌリン」を含有した上で、その組成を表1ないし4の実施例1ないし5、10ないし18及び22ないし25の欄に示すように特定されたものであるところ、甲1には、甲1発明1において、「イヌリン」を含有しないようにする動機付けとなる記載があるとはいえないし、他の証拠にもそのようにする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1発明1において、相違点1cに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「本技術によれば、もちもちした食感を有するにも関わらず、日持ちするケーキ類を得ることができる。」(発明の詳細な説明の【0015】)という効果は、甲1発明1並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明1並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)甲1発明2との対比・判断
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明2を対比するに、上記(1)アと同様のことがいえる。
すなわち、甲1発明2における「ワキシーコーンスターチ」は本件特許発明1における「タピオカを原料としたエーテル化澱粉、タピオカを原料としたエステル化澱粉、もち種澱粉、及びもち種穀粉から選択される1種以上の穀粉」に相当する。
甲1発明2における「タピオカ難消化性澱粉(商品名「パインスターチRT」、松谷化学工業製)」は本件特許発明1における「(2)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が30cp以下の加工澱粉」に相当する。
甲1発明2における「タピオカ難消化性澱粉(商品名「パインスターチRT」、松谷化学工業製)」の穀粉100質量部中の割合は、甲1の【0039】の【表2】のうちの「難消化性デキストリン、タピオカ難消化性澱粉(商品名「パインスターチRT」、松谷化学工業製)、ワキシーコーンスターチ、薄力粉及び砂糖」を成分とする実施例9の記載から「54.5質量部」と計算され、本件特許発明1における「(2)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が30cp以下の加工澱粉」の穀粉100質量部中の割合である「10~40質量部」と、「10質量部以上」という限りにおいて一致する。
甲1発明2における「ホットケーキミックス」は本件特許発明1における「ケーキ類用組成物(イヌリンを含有するものを除く)」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「穀粉100質量部中に、
(1)タピオカを原料としたエーテル化澱粉、タピオカを原料としたエステル化澱粉、もち種澱粉、及びもち種穀粉から選択される1種以上の穀粉と、
(2)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が30cp以下の加工澱粉を10質量部以上、
含有する、ケーキ類用組成物(イヌリンを含有するものを除く))。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1d>
本件特許発明1においては、「穀粉100質量部中に」、「タピオカを原料としたα化澱粉」を「タピオカを原料としたエーテル化澱粉、タピオカを原料としたエステル化澱粉、もち種澱粉、及びもち種穀粉から選択される1種以上の穀粉」との「合計で10質量部以上」「含有する」と特定されているのに対し、甲1発明2においては、そのようには特定されていない点。
<相違点1e>
(2)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が30cp以下の加工澱粉」の「穀粉100質量部中」の割合に関して、本件特許発明1においては、「10~40質量部」と特定されているのに対して、甲1発明2においては、「54.5質量部」と計算される点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点1eについて検討する。
甲1には、甲1発明2において、「タピオカ難消化性澱粉(商品名「パインスターチRT」、松谷化学工業製)」の穀粉100質量部中の割合を「54.5質量部」から「10~40質量部」に変更する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのようにする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1発明2において、相違点1eに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「本技術によれば、もちもちした食感を有するにも関わらず、日持ちするケーキ類を得ることができる。」という効果は、甲1発明2並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明2並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3のいずれかと甲1ケーキ類発明を対比するに、上記2と同様のことがいえる。すなわち、両者の間には相違点1aないし1c又は相違点1d及び1eと同様の相違点があり、それらの相違点についての判断も同様である。
すなわち、本件特許発明2及び3のいずれも甲1ケーキ類発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるであるとはいえない。
4 取消理由(決定の予告)についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし3は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、取消理由(決定の予告)によっては取り消すことはできない。
第7 取消理由(決定の予告)として採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由について
取消理由(決定の予告)として採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由は次のとおりである。
・申立理由1(甲1に基づく進歩性)のうち本件特許発明4及び5に対する理由
・申立理由2(サポート要件)
以下、順に検討する。
1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)のうち本件特許発明4及び5に対する理由について
甲1に記載された事項は、上記第6 1(1)アに記載されたとおりであり、これらの記載事項からは、本件特許発明4及び5と対比・判断可能な「ケーキ類の日持ち向上方法」の発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明4及び5はいずれも甲1に記載された発明並びに甲1及び他の証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項4及び5に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1のうち本件特許発明4及び5に対する理由によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
ア 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
イ 判断
発明の詳細な説明の【0001】ないし【0009】によると、本件特許発明1ないし5の解決しようとする課題は「もちもちした食感を有するにも関わらず、日持ちするケーキ類を得るための技術を提供すること」(以下、「発明の課題」という。)である。
そして、発明の詳細な説明の【0010】には「本願発明者らは、ケーキ類のもちもちした食感と日持ちとを両立させる技術について鋭意研究を行った結果、特定の穀粉と特定の加工澱粉を、特定量含有する穀粉を用いることにより、ケーキ類のもちもち感を保ちつつ、日持ちを向上させることに成功し、本発明を完成させるに至った。」と記載され、同【0011】ないし【0013】及び【0026】には本件特許発明1ないし5に対応する記載がある。
また、発明の詳細な説明の【0042】ないし【0053】には実施例及び比較例について具体的に記載され、「穀粉100質量部中に、(1)エーテル化澱粉、エステル化澱粉、α化澱粉、もち種澱粉、もち種穀粉から選択される1種以上の穀粉を10質量部以上、(2)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が30cp以下の加工澱粉を10~60質量部、含有する、ケーキ類用組成物」の条件を満たす「ケーキ類用組成物」を用いて製造した「ケーキ類」は、水分活性を0.90未満にすることと良好なもちもち感を有することを両立することができ、上記条件を満たさない「ケーキ類用組成物」を用いて製造した「ケーキ類」は、水分活性を0.90未満にすることと良好なもちもち感を有することを両立することができないことを確認している。
そうすると、当業者は、発明の詳細な説明の記載から、「穀粉100質量部中に、(1)エーテル化澱粉、エステル化澱粉、α化澱粉、もち種澱粉、もち種穀粉から選択される1種以上の穀粉を10質量部以上、(2)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が30cp以下の加工澱粉を10~60質量部、含有する、ケーキ類用組成物」、該「ケーキ類用組成物」が用いられた「ケーキ類」及び「穀粉100質量部中に、(1)エーテル化澱粉、エステル化澱粉、α化澱粉、もち種澱粉、もち種穀粉から選択される1種以上の穀粉を10質量部以上、(2)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が30cp以下の加工澱粉を10~60質量部、含有する」「穀粉」を「ケーキ類」に用いる「方法」は、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「ケーキ類用組成物」をさらに限定したものであり、本件特許発明2及び3は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「ケーキ類」をさらに限定したものであり、本件特許発明4及び5は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「方法」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし5は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし5に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第4 2における主張について検討する。
まず、本件特許明細書に上記課題を解決できることが具体的に記載されているのが、成分(1)におけるα化澱粉と、所定の穀粉及び澱粉の群から選択される穀粉との合計が、穀粉100質量部に対して27~42質量部となる範囲だけであるとしても、当業者であれば、成分(1)が27~42質量部以外の範囲でも、成分(2)の量を「10~40質量部」の範囲内で調整することによって、発明の課題を解決できる「ケーキ類用組成物」、「ケーキ類」及び「穀粉」を「ケーキ類」に用いる「方法」を得ることができるといえるし、成分(1)が27~42質量部以外の範囲では発明の課題を解決できないとする具体的な証拠が示されている訳でもない。
また、α化澱粉単体で必要とされる配合量については、穀粉100質量部に対して7質量部とすることが実施例に示されるのみであるとしても、当業者であれば、成分(1)の合計で10質量部以上であれば、発明の課題を解決できる「ケーキ類用組成物」、「ケーキ類」及び「穀粉」を「ケーキ類」に用いる「方法」を得ることができると理解するし、7質量部以外の量では発明の課題を解決できないとする具体的な証拠が示されている訳でもない。
さらに、発明の課題は、「もちもちした食感を有するにも関わらず、日持ちするケーキ類を得るための技術を提供すること」、すなわち「もちもちした食感を有するにも関わらず、日持ちするケーキ類を得る」ことが可能な「技術」を提供することである。「水分活性が0.90未満である」ことは「日持ちする」という特性を「水分活性」という指標で表した場合の目安の数値であるところ、「水分活性が0.90未満である」と特定せずとも、発明の課題を解決できると認識できる本件特許1、2及び4に関して、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合することは、上記(2)のとおりである。
したがって、特許異議申立人の上記第4 2における主張は採用できない。
(4)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
第8 令和6年11月7日に提出された意見書において特許異議申立人が主張する新たな理由について
1 令和6年11月7日に提出された意見書において特許異議申立人が主張する新たな理由
特許異議申立人は、令和6年11月7日に提出された意見書において、新たに次の理由(以下、「新たな理由」という。)を主張している。
新たな理由(参考資料1に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった参考資料1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 新たな理由についての判断
(1)参考資料1に記載された事項等
ア 参考資料1に記載された事項
参考資料1の発行日は本件特許の出願日(平成31年4月26日)後の令和2年5月7日であり、参考資料1に対応する国際公開第2019/013315号の公開日は本件特許の出願前の平成31年1月17日であるから、以下、国際公開第2019/013315号を参考資料1として検討する。
参考資料1には、「ベーカリー食品用ミックス」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、段落番号は全角で表記する。
・「[0001] 本発明は、焼き菓子、パン類などのベーカリー食品の製造に用いられるベーカリー食品用ミックスに関し、詳細には、食物繊維を含有し、低糖質、低カロリーのベーカリー食品の製造に好適なベーカリー食品用ミックスに関する。」
・「[0004] 低糖質を謳うベーカリー食品として、通常のベーカリー食品における糖質を、ヒトの消化酵素で消化され難い食物繊維に置き換えたものが知られており、この食物繊維として、難消化性澱粉、難消化性デキストリン、イヌリンなどが用いられている。しかしながら、ベーカリー食品に食物繊維を含有させると、ベーカリー食品の低糖質化が図られる一方で、ベーカリー食品本来の食感、食味、風味などが低下し、食品としての美味しさが損なわれるという問題がある。この問題を解決するべく種々の提案がなされている。」
・「[0009] 本発明の課題は、食物繊維を含有し低糖質且つ低カロリーでありながらも、食感に優れたベーカリー食品を製造可能なベーカリー食品用ミックスを提供することである。」
・「[0017] 本発明で用いる非難消化性澱粉は、前述した不溶性食物繊維の一種である難消化性澱粉(健常人の消化管で消化吸収されない澱粉)以外の澱粉であり、健常人の消化管で消化吸収され得る澱粉である。非難消化性澱粉としては、ベーカリー食品に通常用いられる難消化性澱粉以外のいわゆる通常の澱粉を特に制限なく用いることができ、未加工澱粉でもよく、あるいは未加工澱粉にエステル化、エーテル化、酸化、架橋化、α化等の処理を1つ以上施して得られる、加工澱粉でもよく、これら通常の澱粉の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。未加工澱粉(あるいは加工澱粉の原料)としては、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、米澱粉等の地上系澱粉(種子に澱粉を蓄積する植物由来の澱粉);馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉等の地下系澱粉(地下茎や根に澱粉を蓄積する植物由来の澱粉)が挙げられる。これらの非難消化性澱粉の中でも、ワキシーコーンスターチ又は地下系澱粉は、ベーカリー食品の柔らかな食感が高まるため、本発明で好ましく用いられる。」
・「実施例
[0031] 以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[0032]〔実施例1~23及び比較例1~9〕
下記表1に示す原材料を適宜混合・攪拌して、ベーカリー食品用ミックスとしてのホットケーキミックスを製造した。使用した原料の詳細は下記の通り。
・不溶性食物繊維:セルロース(商品名「アビセルFD-101」、旭化成製)、タピオカ難消化性澱粉(商品名「パインスターチRT」、松谷化学工業製)
・蛋白質素材:グルテン(小麦蛋白質)
[0033]〔試験例〕
各実施例及び比較例のホットケーキミックスを用いてホットケーキを製造した。」
・「[0039][表3]
[図:0001421347000005.jpg]
[0040] 表3における実施例と比較例との対比から、ミックス中の不溶性食物繊維の含有量10~70質量%の臨界意義が明白である。
また、表3では特に実施例13~17、とりわけ実施例14~16が食感に優れていたことから、ミックスにおける不溶性食物繊維の含有量としては、20~60質量%程度が好ましく、25~55質量%程度がさらに好ましいことがわかる。」
イ 参考資料1に記載された発明
参考資料1に記載された事項を、特に実施例12又は13に関して整理すると、参考資料1には次の発明(以下、順に「参考資料1発明」及び「参考資料1ケーキ発明」という。)が記載されていると認める。
<参考資料1発明>
「ワキシーコーンスターチ10質量%、タピオカ難消化性澱粉(商品名「パインスターチRT」、松谷化学工業製)10質量%、薄力粉40質量%又はワキシーコーンスターチ10質量%、タピオカ難消化性澱粉(商品名「パインスターチRT」、松谷化学工業製)20質量%、薄力粉30質量%を含有するホットケーキミックス。」
<参考資料1ケーキ類発明>
「参考資料1発明を用いて製造したホットケーキ。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と参考資料1発明を対比する。
参考資料1発明における「ワキシーコーンスターチ」は、「もち種澱粉」であるから、本件特許発明1における「(1)タピオカを原料としたα化澱粉と、タピオカを原料としたエーテル化澱粉、タピオカを原料としたエステル化澱粉、もち種澱粉、及びもち種穀粉から選択される1種以上の穀粉」のうちの「タピオカを原料としたエーテル化澱粉、タピオカを原料としたエステル化澱粉、もち種澱粉、及びもち種穀粉から選択される1種以上の穀粉」に相当する。
参考資料1発明における「タピオカ難消化性澱粉(商品名「パインスターチRT」、松谷化学工業製)」は本件特許発明1における「(2)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が30cp以下の加工澱粉」に相当する。
参考資料1発明における「タピオカ難消化性澱粉(商品名「パインスターチRT」、松谷化学工業製)」の含有割合である「10%」は、穀粉を100%とした場合には、「16.7%」(10÷(10+10+40)×100=16.7)と計算され、同じく「20%」は「33.3%」(20÷(10+10+40)×100=33.3)と計算され、「10~40質量部」の条件を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「穀粉100質量部中に、
(1)タピオカを原料としたエーテル化澱粉、タピオカを原料としたエステル化澱粉、もち種澱粉、及びもち種穀粉から選択される1種以上の穀粉と、
(2)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が30cp以下の加工澱粉を10~40質量部、
含有する、ケーキ類用組成物(イヌリンを含有するものを除く)。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点A>
本件特許発明1においては、「穀粉100質量部中に」、「タピオカを原料としたα化澱粉」を「タピオカを原料としたエーテル化澱粉、タピオカを原料としたエステル化澱粉、もち種澱粉、及びもち種穀粉から選択される1種以上の穀粉」との「合計で10質量部以上」「含有する」と特定されているのに対し、参考資料1発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点Aについて検討する。
参考資料1の[0017]に「非難消化性澱粉としては、ベーカリー食品に通常用いられる難消化性澱粉以外のいわゆる通常の澱粉を特に制限なく用いることができ、未加工澱粉でもよく、あるいは未加工澱粉にエステル化、エーテル化、酸化、架橋化、α化等の処理を1つ以上施して得られる、加工澱粉でもよく、これら通常の澱粉の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。未加工澱粉(あるいは加工澱粉の原料)としては、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、米澱粉等の地上系澱粉(種子に澱粉を蓄積する植物由来の澱粉);馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉等の地下系澱粉(地下茎や根に澱粉を蓄積する植物由来の澱粉)が挙げられる。」と記載されており、「未加工澱粉」に「α化」を施すこと及び「未加工澱粉」として「タピオカ澱粉」を用いることについて記載されているといえるものの、「タピオカを原料としたα化澱粉」を「ワキシーコーンスターチ」と組み合わせて用いることは記載されていない。
また、同箇所において、「α化」は「エステル化、エーテル化、酸化、架橋化、α化等の処理」の一つとして記載されているにすぎず、また、「タピオカ澱粉」も「コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、米澱粉等の地上系澱粉(種子に澱粉を蓄積する植物由来の澱粉);馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉等の地下系澱粉」の一つとして記載されているにすぎず、さらに、その量も記載されていないから、同箇所の記載から、「α化」と「タピオカ」を選び出し、「タピオカを原料としたα化澱粉」とした上で、「ワキシーコーンスターチ」と組み合わせて用いるようにし、さらに、「タピオカを原料としたα化澱粉」を「ワキシーコーンスターチ」との「合計で10質量部以上」「含有する」ようにすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そうすると、参考資料1発明において、相違点Aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「本技術によれば、もちもちした食感を有するにも関わらず、日持ちするケーキ類を得ることができる。」という効果は、参考資料1発明及び参考資料1に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は参考資料1発明及び参考資料1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3のいずれかと参考資料1ケーキ類発明を対比するに、上記(2)と同様のことがいえる。すなわち、両者の間には相違点Aと同様の相違点があり、その相違点についての判断も同様である。
すなわち、本件特許発明2及び3のいずれも参考資料1ケーキ類発明及び参考資料1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明4及び5について
参考資料1に記載された事項は、上記(1)アに記載されたとおりであり、これらの記載事項からは、本件特許発明4及び5と対比・判断可能な「ケーキ類の日持ち向上方法」の発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明4及び5はいずれも参考資料1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 令和6年11月7日に提出された意見書において特許異議申立人が主張する新たな理由についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし5は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、令和6年11月7日に提出された意見書において特許異議申立人が主張する新たな理由によっては取り消すことはできない。
第9 結語
上記第6ないし8のとおり、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、取消理由(決定の予告)、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由及び令和6年11月7日に提出された意見書において特許異議申立人が主張する新たな理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700071