特許異議申立
2023-700340
パンの品質改良剤及び/又は品質改良組成物
- 審判番号
- 2023-700340
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-509768
- 登録番号
- 7149930
- 請求日
- 2023年04月04日
- 審決日
- 2023年10月26日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】株式会社林原
- 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
- 【異議申立人】平野 信恵
- 審判長/審判官
- 審判長 磯貝 香苗
- 審判官 天野 宏樹
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-ZC (A21D) / P1651.121-ZC (A21D) / P1651.537-ZC (A21D) / P1651.536-ZC (A21D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法113条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7149930号発明「パンの品質改良剤及び/又は品質改良組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7149930号の請求項7に係る特許を取り消す。
同請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7149930号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)3月26日(優先権主張 平成29年3月27日)を国際出願日とする出願であって、令和4年9月29日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年10月7日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和5年4月4日に特許異議申立人 平野 信恵(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし7)がされ、同年6月1日に特許異議申立人から上申書の提出がされ、令和5年7月7日付けで取消理由が通知されたところ、その指定期間内に特許権者 株式会社林原(以下、「特許権者」という。)から、何ら応答がなかったものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
天然型のエキソマルトテトラオヒドロラーゼを含む、パンの品質改良剤であって、
前記品質改良が焼き色の改善、または風味の改善である、パンの品質改良剤。
【請求項2】
パン生地中にマルトースを主成分とする糖質が生成するよう設計された、請求項1に記載の品質改良剤。
【請求項3】
マルトースを主成分とする糖質が、エキソマルトテトラオヒドロラーゼの作用により生成したマルトテトラオースが、アミラーゼにより分解されて生じたものである、
請求項1または2に記載の品質改良剤。
【請求項4】
エキソマルトテトラオヒドロラーゼが、シュードモナス・スタッツェリ(Pseudomonas stutzeri)由来である、請求項1~3のいずれかに記載の品質改良剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の品質改良剤を含む、パンの品質改良組成物。
【請求項6】
パン生地材料に請求項5に記載の組成物を添加することにより、マルトースを増加させる工程を含む、パンの製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の組成物を含むことにより発酵前と比較してマルトースが増加した、
マルトースを主成分とする糖質を含むパン。」
第3 特許異議の申立ての理由の概要
令和5年4月4日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は以下のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1及び5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・請求項1の「焼き色の改善、または風味の改善」との記載、請求項2の「マルトースを主成分とする糖質」との記載、請求項6の「マルトースを増加させる」との記載、請求項7の「マルトースが増加した」との記載について、用語の定義、その程度/基準が明確ではない。
4 申立理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・請求項1の「焼き色の改善、または風味の改善」との記載について、エキソマルトテトラオヒドラーゼの酵素を配合した場合、最終的にマルトースの量が増加することは周知技術であり、それを上回る顕著な改善(焼き色や風味の改善)をもたらすための手段が反映されておらず、本件特許発明1ないし7は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
5 申立理由5(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・申立理由4と同様の理由により(どのような構成・条件で焼き色や風味の改善が得られるのかという点)、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
6 証拠方法
(1) 甲第1号証:Enzymes in Bakery: Current and Future Trends, Angelo Samir Melim Miguel, Tathiana Souza Martins-Meyer, Erika Verissimo da Costa Figueiredo, Bianca Waruar Paulo Lobo and Gisela Maria Dellamora-Ortiz, Food Industry, IntechOpen Limited, 2013年1月16日掲載, Chapter 14, p287-321, DOI: 10.5772/53168;
http://www.intechopen.com/chapters/41661
(2) 甲第2号証:米国特許第6667065号明細書(日本語訳として特許第5385228号公報)
(3) 甲第3号証:Geertrui M. Bosmans, Bert Lagrain, Ellen Fierens, and Jan A. Delcour, Impact of Amylases on Biopolymer Dynamics during Storage of Straight-Dough Wheat Bread, Journal of Agricultural and Food Chemistry, ACS Publications, 2013.6.19, vol.61, No.26, 6525-6532, doi: 10.1021/jf402021g
(4) 甲第4号証:Woosung Bae, Sung Ho Lee, Sang-Ho Yoo, Suyong Lee, Utilization of a Maltotetraose-Producing Amylase as a Whole Wheat Bread Improver: Dough Rheology and Baking Performance, Journal of Food Science, Institute of Food Technologists, 2014.7.17, vol.79, No.8, p.E1535-E1540, doi: 10.1111/1750-3841.12538
(5) 甲第5号証:国際公開第2005/003339号(日本語訳として特表2007-526752号公報)
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。また、表記に際し、特殊記号の付いたアルファベットは特殊記号を付けずに表記した。
以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審による取消理由の概要
令和5年7月7日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。
なお、取消理由には、申立理由2のうち本件特許発明7に係る部分が包含される。
・取消理由(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第5 取消理由についての当審の判断
本件特許の請求項7に係る特許について、令和5年7月7日付けで取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。
そして、上記の取消理由は妥当なものと認められるので、本件特許の請求項7に係る特許は、上記の取消理由によって取り消すべきものである。
第6 令和5年7月7日付けで特許権者に通知した取消理由で採用しなかった申立理由についての当審の判断
取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由は、申立理由1、3ないし5と、申立理由2の請求項1ないし6についてである。
当審は、以下に述べるように、上記申立理由にはいずれも理由がないと判断する。
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1にはおおむね次の事項が記載されている。なお、甲1は外国語文献のため、訳文のみを摘記する。
・「酵素は、ベーカリー製品に用いられる重要な成分である。化学添加剤の使用の制限、特に、パンや他の醗酵製品の製造におけるその制限のため、最近では、ベーキングにおけるその重要性がさらに増していると思われる[8]。
この考察では、ベーカリー産業における現在の酵素の使用を説明し、フード産業における今後のトレンドを探る。」(第288頁第2、3段落)
・「パンの皮の褐変(crust browning)は、パン生地作りおよびその醗酵中に、小麦粉の澱粉および複合糖の加水分解によって形成された還元糖(グルコース、フルクトース、マルトースなど)に直接関係する。加熱すると、糖はカラメル化される、および/または還元糖はメイラード反応においてタンパク質の遊離アミノ酸基と反応することができる[54、55]。その他、様々な風味(flavour)化合物が生成され、パンに魅力的な香り(におい)と風味(taste)を与える[55]。」(第294頁第6段落)
・「GH13類には、エキソエンザイムマルトース産生α-アミラーゼ(グルカン1,4-α-グルカンヒドロラーゼ、EC3.2.1.133)および他のマルトオリゴ糖形成アミラーゼ(EC3.2.1.60など)が含まれる。マルトース産生α-アミラーゼは澱粉から主にマルトースを放すものであるが、マルトオリゴ糖産生アミラーゼは、中でもマルトテトラオースまたはマルトヘキサオースを産生する。一方、GH13類に分類される、プルラナーゼ(EC3.2.1.41)およびイソアミラーゼ(EC3.2.1.68)などの脱分岐酵素は、α-(1,6)-結合を加水分解してアミロペクチンから側鎖を取り除く[16、17]。」(第296頁第2段落)
・「麦芽および微生物のα-アミラーゼはベーキング業界で広く使われてきた。麦芽の製造はベーキングにおける多くの他の酵素の商業的な使用への道を開いた[69]。真菌のα-アミラーゼまたは麦芽は、当初醗酵還元糖の量を増やす目的で、通常小麦粉のアミラーゼ活性を最適化するように加えられる。それらの低い耐熱性の観点から、真菌のα-アミラーゼは小麦粉標準化に麦芽アミラーゼよりも適している。α-およびβ-アミラーゼは、製パン工程において異なるが相補的な機能を有する[70]。追加されたα-アミラーゼが、生地段階において壊れた澱粉分子を低分子量デキストリンに分解するのに対して、内因性β-アミラーゼは、これらのオリゴ糖を、酵母または醗酵生地の微生物によって醗酵糖として用いられるマルトースに変える[15、16]。還元糖の量が増加すると、メイラード反応生成物が生成されて、パンの風味とパンの皮の色が強くなる。さらに、これらの酵素は、澱粉のゼラチン化の際に生地の粘度を減らし、醗酵生地のガス保持性を向上させ、その結果、製品のボリュームと柔らかさを改善する[8、22、71]。」(第296頁、第4段落)
・「表2 ベーキングにおける澱粉分解酵素の適用
[図:0001405825000001.jpg]
[図:0001405825000002.jpg]
」(第302頁、表2)
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、グルカン1,4-α-マルトテトラオヒドラーゼに関して整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認める。
<甲1剤発明>
「グルカン1,4-α-マルトテトラオヒドラーゼを含む、パンの風味及び色の強化剤。」
<甲1組成物発明>
「甲1剤発明を含む、パンの風味及び色の強化用組成物。」
<甲1製法発明>
「甲1組成物発明を添加する、パンの製造方法。」
<甲1パン発明>
「甲1組成物発明を含むパン。」
(2)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「非マルトース生成エキソアミラーゼ類及び澱粉の劣化を遅延することへのそれらの使用」に関し、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲2は外国語文献のため、訳文のみを摘記する。
・「特定のDPのマルト-オリゴ糖を生成するいくつかのアミラーゼ、たとえばクレビシェラ・プネウモニア(Klebsiella pneumonia)[5, 6]、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)[7], B. サーキュランスG-6(B. circulans G-6)[8]、B.サーキュランスF-2 [9]、及びB.カルドベロックス(B. caldovelox)[11, 12]が、これまで同定されている。マルトペンタオース-生成アミラーゼは、B.リケニホルミス(B. licheniformis)584 [13] 及びプロイドモナスspp. (Pseudomonas spp.) [14, 15] において検出されている。さらに、マルトテトラオース-生成アミラーゼが、シュードモナス・スツゼリ(Pseudomonas stutzeri)NRRL B-3389 [16, 17]、バチルスsp. MG-4 [14] 及びシュードモナスsp. IMD353 [19] から、及びマルトトリオース-生成アミラーゼが、ストレプトミセス・グリセウス(Streptomyces griseus)NA-468 [20] 及びB. スブチリス[21] から報告されている。
EP-B1-298,645号は、遺伝子工学技法を用いて、シュードモナス・スツゼリ又はP. サッカロフィラ(P. saccharophila)のエキソ-マルトテトラヒドロラーゼを調製するための方法を記載する。
アメリカ特許第5,204,254号は、好アルカリ性細菌(DSM5853)の天然の及び遺伝子的に修飾されたエキソ-マルトペンタヒドロラーゼを記載する。」(第2欄第14-31行)
・「用語“アミラーゼ”は、その通常の意味においては、中でも、澱粉の分解を触媒することができる酵素を意味する。特に、それらは澱粉においてα-D-(1→4)O-グリコシド結合を分解できるヒドロラーゼである。
用語“非マルトース生成エキソアミラーゼ酵素”とは、最初、澱粉を実質的な量のマルトースに分解しない酵素を意味する。非常に好ましい観点においては、その用語はまた、最初、澱粉を実質的な量のマルトース及びグルコースに分解しない酵素を意味する。
本発明の前、非マルトース生成エキソアミラーゼ酵素は、澱粉基材、特に澱粉ゲルの有害な劣化を遅延することについて提案されたことはない。
本発明に従ってアミラーゼ活性を決定するための適切なアッセイは、後で提供される。便利には、このアッセイは“アミラーゼアッセイプロトコール”と呼ばれる。
従って、好ましくは、用語“非マルトース生成エキソアミラーゼ酵素”とは、本明細書に提供される“アミラーゼ活性プロトコール”に記載のような生成物測定方法に従って分析される場合、前記酵素が最初、澱粉を実質的な量のマルトースに分解しないことを意味する。」(第5欄第31-53行)
・「一般的な解説
本発明は、非マルトース生成エキソアミアーゼが澱粉生成物、たとえばベーキングされた生成物において有害な劣化、たとえば老化(staling)を遅延し又は低めることにおいて非常に効果的である驚くべき発見に基づかれている。
本発明者は、本発明の非マルトース生成エキソアミラーゼが、グルコース生成及びマルトース生成エキソアミラーゼよりも、パンにおける有害な劣化、たとえば老化を遅延することにおいてより効果的であり得ることを見出した。
有害な劣化の低下は、当業界において知られている標準の技法により測定され得る。例によれば、いくつかの技法が、セクション標題“劣化の測定のためのアッセイ”において、後で示される。
本発明の研究において、本発明者は、十分な熱安定性を有する、十分な量の活性の非マルトース生成エキソアミラーゼ、たとえばエキソ-マルトテトラヒドロラーゼ(EC 3. 2. 1. 60)をドウ中に導入することによって、たとえば貯蔵条件下で対照のパンの有害な劣化に比較して、低められた、多くの場合、十分に低められた有害な劣化を有するベーキングされた生成物が提供されることを見出した。対照的に、非マルトース生成エキソアミラーゼの熱安定性に匹敵する熱安定性を有するマルトース生成エキソアミラーゼの同じ量の活性を組み込むことによる有害な劣化を低める効果は、有意に劣っている。
従って、非マルトース生成エキソアミラーゼの抗劣化効果は、マルトース生成エキソアミラーゼのその効果よりもより効果的である。本発明者は、この差異が一部、アミロペクチン側鎖が短くされる程度によるかも知れないと信じている。本発明はまた、抗劣化効果が、マルトヘプタオース及び/又はマルトオクタオース及び/又はマルトへキソースを開放する本発明の非マルトース生成エキソアミラーゼを用いる場合、さらにより著しいことも信じている。
本発明の研究において、本発明者はまた、マルトヘキサオースを生成する高いpHで活性な生成物-特異的アミラーゼを精製し、そして特徴づけた。このアミラーゼは、バチルス・クラウジBT-21のアルカリ耐性株から単離された。
さらに、本発明者は、本発明の非マルトース生成エキソアミラーゼを用いることによって得ることができる有害な劣化の遅延が非常に広範囲にわたって、用量応答性であることを見出した。これは、かなり制限され、そして強く低下する用量応答を有するマルトース生成エキソアミラーゼからの効果と対照的である。
アミラーゼ
1つの観点において、本発明は、澱粉生成物、たとえば製パン製品を調製するためへの一定のアミラーゼの使用を提供する。この観点においては、非マルトース生成エキソアミラーゼであるアミラーゼは、澱粉生成物、特にベーキングされた澱粉質パン生成物の老化を遅延し、又は低める(すなわち、老化の速度を低める)。
好ましくは、アミラーゼは、単離された形で及び/又は実質的に純粋な形で存在する。ここで、用語“単離された”とは、酵素がその天然の環境下で存在しないことを意味する。
上記に示されるように、本発明の非マルトース生成エキソアミラーゼ酵素は、最初に、澱粉を実質的な量のマルトースに分解しない。
本発明によれば、非マルトース生成エキソアミラーゼは、アミロペクチンの側鎖の非還元末端から、4~8個のD-グルコピラノシル単位から主に成る線状マルトオリゴ糖を切り離すことができる。この特徴を有し、そして本発明への使用のために適切である非マルトース生成エキソアミラーゼは、アミラーゼアッセイプロトコール(前記)に示されるモデル系におけるゲル化されたモチ状トウモロコシを加水分解するそれらの能力により同定される。
アミラーゼアッセイプロトコールにおける記載される条件下で15分間インキュベートされる場合、本発明への使用のために適切である非マルトース生成エキソアミラーゼは、2~10個のD-グルコピラノシル単位及び任意にはグルコースの1又は複数の線状マルト-オリゴ糖から成る加水分解生成物を生成し、その結果、その加水分解生成物の生成物パターンは、少なくとも60重量%、特に少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも80重量%及び最も好ましくは少なくとも90重量%が、マルトース及びグルコース以外の澱粉加水分解生成物から成る。」(第7欄第42行-第8欄第52行)
・「好ましくは、本発明の使用のために適切である非マルトース生成エキソアミラーゼは、ベーキングの間、活性であり、そして約55℃の温度で開始する澱粉顆粒のゲル化の間及びその後、澱粉を加水分解する。非マルトース生成エキソアミラーゼはより熱安定性であるほど、より長い時間、活性であり、そして従って、より抗老化効果を提供するであろう。しかしながら、約85℃の温度以上でベーキングする間、非マルトース生成エキソアミラーゼは選択的に徐々に不活性化され、その結果、ベーキング工程の後、最終のパンにおいて活性は実質的に存在しない。
従って、好ましくは、本発明への使用のために適切な非マルトース生成エキソアミラーゼは、上記のようにして調製された、50mMのMES、2mMの塩化カルシウム溶液(pH6.0)中、10mg/mlのモチ状トウモロコシ澱粉4mlを含む試験において、40, 45, 50, 55, 60, 65, 70, 75, 80, 85又は90℃で15分間インキュベートされ、そして上記のようにして加水分解生成物の開放についてアッセイされる場合、約45℃~98℃の最適温度を有する。好ましくは、非マルトース生成エキソアミラーゼの最適温度は55℃~95℃であり、そしてさらにより好ましくは、60℃~90℃である。
低い熱安定性であることが見出され得る非マルトース生成エキソアミラーゼは、より熱安定性になるようタンパク質工学を用いて改良され得、そして従って、本発明への使用のために適切である。従って、タンパク質工学により一層熱安定性になるよう変性された非マルトース生成エキソアミラーゼの使用が本発明により包含される。
いくつかの非マルトース生成エキソアミラーゼがいくらかの程度のエンドアミラーゼ活性を有することは知られている。多くの場合、このタイプの活性は減じられるか又は排除される必要がある。なぜならば、エンドアミラーゼ活性は、枝分かれのデキストリンの蓄積のために、粘着性の又はゴム状のパンの中味(crumb)を生成することによって、最終のパン生成物の品質におそらく負の効果を与えるためである。
・・・(略)・・・
本発明への使用のために適切な非マルトース生成エキソアミラーゼの例は、非還元鎖末端から、それぞれマルトテトラオース、マルトペンタオース又はマルトヘキサオースの連続的な残基を除去するために、澱粉質多糖類の1, 4-α-グルコシル結合を加水分解する、エキソーマルトテトラヒドロラーゼ(E. C. 3. 2. 1. 60)、エキソ-マルトペンタヒドロラーゼ及びエキソ-マルトヘキサヒドロラーゼ(E. C. 3. 2. 1. 98)を、包含する。
例としては、シュードモナス・サッカロフィラ及びP. スツゼリ(EP-0298645B1)のエキソ-マルトテトラヒドロラーゼ、好アルカリ性グラム-陽性細菌(アメリカ特許第5,204,254号)及びシュードモナスsp. (Shidaなど., Biosci. Biotechnol. Biochem., 1992, 56, 76-80)のエクソ-マルトペンタヒドロラーゼ、及びバチルスsp. #707(Tsukamoto など., Biochem. Biophys. Res. Commun., 1988, 151, 25-31)、B.サーキュランスF2(Taniguchi, ACS Symp., 1991, Ser. 458, 111-124)及びアエロバクター・アエロゲネス(Kainumaなど., Biochim. Biophys. Acta, 1975, 410, 333-346)のエキソ-マルトヘキサヒドロラーゼを列挙することができる。」(第9欄第66行-第10欄第62行)
・「例-セクションA
例1.シュードモナス・サッカロフィラ非マルトース生成エキソアミラーゼの発酵及び生成
1.1生成:
P.サッカロフィラ株IAM No. 1544を、IAM Culture Collection, Inst. Of Mloecular and Cellular Biosciences, University of Tokyo, Japan から得た。
前記菌株の発酵を、2Lの使用体積を有するApplikon ADIの3Lの生物反応器において、次の条件下で行った:
温度: 30℃
撹拌速度: 1000rpm
通気 1体積空気/1体積培地/分
pH: 2Mの水酸化ナトリウム及び10%(w/v)の塩酸による調節による一定のpH7.4
培地: Bacto Trypton 20g/l
Bacto Yeast 抽出物 20g/l
澱粉 20g/l
Na2HPO4・2H2O 5.6g/l
KH2PO4 1.5g/l。
1日の発酵の後、発酵ブイヨンを遠心分離し、そして濾過し、細胞を除いた。細胞フリーブイヨンにおける非マルトース生成エキソアミラーゼの活性は、上記のようにして決定される場合、5単位/mlであった。
1.2 P.サッカロフィラ非マルトース生成エキソアミラーゼの精製:
P.サッカロフィラの非マルトース生成エキソアミラーゼを、200mMの硫酸ナトリウム、50mMのトリエタノールアミン、2mMの塩化カルシウムを含むA-緩衝液(pH7.2)を含む、150mlのPhenyl Sepharose FF低サブカラム(Pharmacia, Sweden) を用いて、疎水性相互作用グロマトグラフィーにより、部分的に精製した。濾過された発酵ブイヨン(500ml)を、200mMの硫酸ナトリウムによりpH7.2に調節し、そしてカラム上に負荷した。非マルトース生成エキソアミラーゼを、A-緩衝液中、直線的に低下する硫酸ナトリウムグラジエントにより遊離した。エキソアミラーゼ活性を含む画分をプールした。
プールされた画分を水により3倍に希釈し、そしてさらに、50mMのトリエタノールアミン、5mMの塩化カルシウムから成るA-緩衝液(pH7.5)により平衡化された150mlのQ-Sepharose FF (Pharmacia) カラム上でのアニオン-交換クロマトグラフィーにより精製した。非マルトース生成エキソアミラーゼを、A-緩衝液中、0~1Mの塩化ナトリウム直線グラジエントにより溶離した。エキソアミラーゼ活性を含む画分をプールした。この部分的に精製された調製物を、下記試験のために使用した。それは、アミラーゼ活性について染色されたポリアクリルアミドゲル電気泳動システムにおいて試験される場合、14.7単位/mlの活性及びわずか1つのアミラーゼ活性の結合を有した。
1.3 P. サッカロフィラ非マルトース生成エキソアミラーゼの特徴化:
・・・(略)・・・
非マルトース生成エキソアミラーゼの加水分解パターンを、上記のようにして、10mg/mlのモチ状トウモロコシ澱粉4mlを有する試験管において、0.7単位の部分的な精製された非マルトース生成エキソアミラーゼを50℃で15又は300分間インキュベートすることによって生成される加水分解生成物を分析することによって決定した。
15分及び300分後に検出される加水分解生成物のパターンは、表1に示されており、そしてP.サッカロフィラが本発明において定義されるような非マルトース生成エキソアミラーゼを生成し、そしてこの酵素が、それぞれ、15分及び30分の加水分解の後、85.8重量%及び93.0重量%を占める有力な生成物としてマルトテトラオースを開放することを示す。
表1:P.サッカロフィラ非マルトース生成エキソアミラーゼのマルトデカオースへのグルコースの加水分解生成物
[図:0001405825000003.jpg]
例2.P. サッカロフィラ非マルトース生成エキソアミラーゼのベーキング試験
ベーキング試験を、P.サッカロフィラ非マルトース生成エキソアミラーゼの抗固化効果を試験するために設定した。Danish Toast Bread のためのレセピーを使用した。それは、食料粉(2000g)、乾燥酵母(30g)、糖(30g)、塩(30g)及び水(400g Brabender Units (BU)のドウコンシステンシーに対応する約1200g+使用される乾燥酵母を補足するための追加の水60g)を含み、そしてそれらを、遅い速度で2分間及び早い速度で12分間、Hobartミキサー(モデルA-200)において混合する。
ドウ温度は、混合の最後で26℃である。ドウを30℃で10分間、放置し、この後、ドウを750gのドウ部分に分割する。そのドウ部分を、33℃の温度及び85%の相対湿度で試験キャビネットにおいて5分間、放置する。次に、ドウ部分を、次の設定でGlimek成形機(タイプLR-67)上で成形し:1:4、2:2、3:14及び4:12、この後、成形されたドウ部分を、ベーキング用缶に移し、そして33℃の温度及び85%の相対湿度で50分間、試験キャビネットにおいて試験する。最終的に、試験されたドウ部分を、Wachtel オーブン(モデルAE416/38COM)において、220℃の温度で40分間、10秒間の蒸気を伴ってベーキングする。
P.サッカロフィラ非マルトースエキソアミラーゼの部分的に精製された調製物を、食料粉1kg当たり1470単位で、導入されるドウに添加した。ベーキングした後、非マルトース生成エキソアミラーゼを有するか又は有さないパンを20℃に冷却し、そしてその後、プラスチックバックにおいて20℃で貯蔵した。堅さを、ベーキングの後3日目、1つのパンからの10枚のスライスの平均として及び7日目、2個のパンからのそれぞれ10枚のスライスの平均として、それぞれ3日目、Instron 4301 Universal Food Texture Analyzer により決定した。表2は、酵素を有するパンにおいて低い堅さが、両日で観察されたことを示す。
表2:P.サッカロフィラ非マルトース生成エキソアミラーゼの抗固化効果
[図:0001405825000004.jpg]
表3は、7日目、P.サッカロフィラ非マルトース生成エキソアミラーゼの抗固化効果が95%の信頼レベルで統計学的に有意であることを示す。
表3:P.サッカロフィラ非マルトース生成エキソアミラーゼの抗固化効果の統計学的分析
[図:0001405825000005.jpg]
」(第16欄第48行-第19欄第24行)
・「例-セクションB
材料及び方法:
材料:コーンからのアミロペクチン及びアミロース、コーン澱粉、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ウシ血清アルブミン(BSA)、デキストラン、プルラン、マルトース、マルトトリオース、及びマルトテトラオース~マルトデカオースの混合物を、Sigma Chemical Co., St. Louis, USAから得た。可溶性澱粉を、Merck, Darmstadt, Germany から得た。酵素抽出物及びトリプトンは、Difco Laboratories, Detroit, USAから得られた。
Neue Allgemeine Reisgesellschaft mbH, Hamburg, Germany からの完全な玄米が使用された。医薬品種のα-、β-及びγ-シクロデキストリンは、Wacker Chemie Danmark Aps, Glostrup, Denmark から得られた。マルトテトラオースは、前記のようにして調製された[32]。すべての化学物質は、特にことわらない限り、分析用銘柄のものであった。
B.クラウジBT-21の単離:前記株は、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen and Zellkulturen GmbH, Braunshweig, Germany)により同定された、Assens, Denmark により集められた土壌サンプルから単離される。
酵素の生成:B.クラウジBT-21を、ジャガイモからの2.0%可溶性澱粉トウモロコシからのアミロペクチン、コーン澱粉又は完全な玄米、0.5%酵母抽出物、0.5%トリプトン、0.1%KH2PO4, 0.1%Na2HPO4, 0.02%MgSO4・7H2O, 0.02% CaCl2・2H2O 及び0.1%(NH4)2・SO4から成る最適化された液体培地において増殖させた。オートクレーブの後、無菌Na2CO3溶液を添加し、1%の最終濃度にした(約pH10)。グリセロール中の胞子懸濁液(-80℃で貯蔵される)を用いて、100mlの実際の培地を接種し、そして200rpmでの振盪インキュベーターにおいて45℃で18時間インキュベートした(New Brunswick Scientific, Edison, N.J., USA)。
この培養物2mlを用いて、200mlの培地を有する振盪フラスコを接種し、そして振盪インキュベーターにおいて45℃でインキュベートした。アリコートを規則的な間隔で採取し、そして600nmでのODを測定し、培地における菌類の増殖を決定した。サンプル(4ml)を、9600rpmで4℃で10分間、遠心分離し、そしてpH及びアミラーゼ活性を決定した。すべての増殖実験は三重反復して行われた。平均値(X=(Σni=1Xi)/m)及び標準偏差値(std.=√(Σni=1(Xi-X)/(n-1))を決定した。
生成物-特異的アミラーゼの精製:完全な玄米上でのB.クラウジBT-21の52時間の増殖の後、細胞及び完全な米穀粒を、9600rpm及び4℃での15分間の遠心分離により細胞外流体(1000ml)から除いた。生成物-特異的アミラーゼを、エポキシ-活性化されたセファロース6Bマトリックス(Pharmacia Biotech, Uppsala, Sweden)にβ-シクロデキストリンを共有結合することによって調製された親和性ゲルを用いて精製した[33]。細胞外細胞-フリー上清液を、12gのゲルと共に、4℃で1時間、振盪しながらインキュベートした。
・・・(略)・・・
精製された生成物-特異的アミラーゼは、低いDPの主な初期生成物として、1時間のインキュベートの後、可溶性澱粉を、主にマルトヘキサオース及びマルトペンタオース(合計の加水分解された生成物の52%及び19%)に加水分解した(図5)。2時間のインキュベーションの後、マルトヘキサオースの量、及び4時間後、マルトペンタオースの量は低下し、そしてマルトテトラオース、マルトトリオース、マルトース及びグルコースの量は低下した。それらの生成物は延長された加水分解の後、蓄積し、このことは、それらがさらに加水分解されなかったことを示す。
24時間の澱粉加水分解の後、マルト-オリゴ糖の量は3%であり、マルトヘキサオースの量は(3%)マルトヘキサオース、(4%)マルトペンタオース、(41%)マルトテトラオース、(13%)マルトトリオース、(16%マルトース及び(4%)グルコースであった。30分の澱粉加水分解の後に得られる、パルスされた電気滴定検出を有する高性能アニオン-交換クロマトグラフィー(HPAEC-PAD)形跡は(図6)、マルトヘキサオース(DP6)よりも大きな澱粉加水分解生成物が不在であることを示す。マルトヘキサオース-形成生成物-特異的アミラーゼによる可溶性澱粉の加水分解の時間経過研究はまた、マルトヘキサオースが加水分解の初期段階において、選択的に生成されたことも示す[23]。
Kimなど(1995)[26]は、マルトテトラオース-形成生成物-特異的アミラーゼによる澱粉の1時間の加水分解の後の初期加水分解生成物が主にマルトヘキサオース(54%)であり、続いてマルトテトラオース及びマルトースの量の徐々の上昇が存在し、そしてマルトヘキサオースの量が低下したことも見出した。20時間後、マルト-オリゴ糖の組成が、0.6%のマルトヘキサオース、1.3%のマルトペンタオース、53.2%のマルトテトラオース、8.3%のマルトトリオース、27.6%マルトース及び9%のグルコースに変化した。」(第22欄第8行-第26欄第32行)
・「可溶性澱粉に対する酵素分解作用をさらに試験するために、澱粉-ヨウ素青色形成を、還元糖の生成に対してプロットした(図7)。曲線の傾斜は、澱粉分解澱粉加水分解の有力な型の分解機構を示す[31]。エンド-作用性酵素は、エキソ-作用性酵素に比較される小さな値を有する傾斜を生成するであろう。傾斜の小さな値は、A.オリザエからのα-アミラーゼにより示される、ランダム澱粉分解活性による澱粉-ヨウ素青色複合体の早い還元の結果である(傾斜は-61である)。P.スツゼリからの細胞外酵素調製物は、大きな傾斜値により示される有力なエキソ-作用分解機構のための証拠を示した(傾斜は-13である)。精製された生成物-特異的アミラーゼは、エキソ-活性を示す、-6に傾斜値を示した。」(第27欄第12-26行)
イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を、エキソ-マルトテトラオヒドラーゼである非マルトース生成エキソアミラーゼに関して整理すると、甲2には次の発明が記載されていると認める。
<甲2剤発明>
「シュードモナス・サッカロフィラ及びP. スツゼリ(EP-0298645B1)のエキソ-マルトテトラヒドロラーゼ等のエキソーマルトテトラヒドロラーゼ(E. C. 3. 2. 1. 60)を含む、パンの劣化遅延剤。」
<甲2組成物発明>
「甲2剤発明を含む、パンの劣化遅延用組成物。」
<甲2製法発明>
「甲2組成物発明を添加する、パンの製造方法。」
<甲2パン発明>
「甲2組成物発明を含むパン。」
2 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1剤発明とを対比する。
甲1剤発明の「グルカン1,4-α-マルトテトラオヒドラーゼ」は、本件特許発明1の「天然型のエキソマルトテトラオヒドロラーゼ」のうち、「マルトテトラオヒドラーゼ」である限りにおいて一致する。
甲1剤発明の「パンの風味及び色の強化剤」は、本件特許発明1の「パンの品質改良剤であって、前記品質改良が焼き色の改善、または風味の改善である、パンの品質改良剤」に相当する。
してみると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「マルトテトラオヒドロラーゼを含む、パンの品質改良剤であって、
前記品質改良が焼き色の改善、または風味の改善である、パンの品質改良剤。」
そして、両者は、次の点で相違する。
<相違点1>
「マルトテトラオヒドラーゼ」に関し、本件特許発明1は「天然型のエキソ」と特定するのに対し、甲1発明においてはこのような特定がない点。
イ 判断
上記相違点1について検討する。
甲1には、甲1発明が相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を有すると認められるような記載はないし、甲1及び他の証拠をみても、甲1発明が該発明特定事項を有する蓋然性が高いともいえない。
してみると、相違点1は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明であるとはいえない。
また、甲1及び他の証拠には、焼き色または風味の改善をより優れたものとするために、マルトテトラオヒドラーゼとして天然型のエキソ体を含むものとする動機となる記載はない。
したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許の明細書の【0151】及び【0154】の記載からみて、本件特許発明1は、マルトテトラオヒドラーゼとして天然型のエキソ体を含むものとすることで、遺伝子組み換え品であるG4生成酵素を含む比較例5よりも焼き色が改善されるという効果を奏するものであるが、該効果は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、顕著なものである。
なお、特許異議申立人は、本件特許発明1の効果に関し、実施例2、3等における品質改良組成物の含有量は200ppmとなっているのに対し、遺伝子組み換え品であるG4生成酵素を含む比較例5では含有量は9.1ppmとなっており、比較例5の色差が実施例3に比べて多少劣るように見えるのは、単に比較例5の品質改良組成物(G4生成酵素)の含量が少ないためであるから、実施例をみても本件特許発明1の有意な効果は確認できない旨主張する(特許異議申立書第24-25頁)。
しかしながら、実施例2、3等における品質改良組成物の含有量は200ppmであるところ、本件特許の明細書【0119】によれば、該品質改良組成物はエキソマルトテトラオヒドラーゼ(酵素原末)約3%、食品素材約97%となるように混合されたものである。そうすると、実施例3の品質改良組成物のエキソマルトテトラオヒドラーゼの含量は200×0.03=約6ppmと計算され、かかる含量は、比較例5の品質改良組成物(G4生成酵素)の含量である9.1ppmよりも少ない。してみると、実施例3は、酵素の含量が比較例5より少ないにもかかわらず、比較例5よりも焼き色が改善されているといえる。
よって、本件特許発明1は、マルトテトラオヒドラーゼとして天然型のエキソ体を含むものとすることで、遺伝子組み換え品であるG4生成酵素を含む場合よりも焼き色が改善されるという顕著な効果を奏するといえるものであり、特許異議申立人の主張は採用できない。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲1剤発明であるとはいえないし、甲1剤発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(2)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1と同様に、甲1剤発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明5について
本件特許発明5と甲1組成物発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1と同様の相違点があって、該相違点については上記(1)イと同様に判断されるから、本件特許発明5は甲1組成物発明であるとはいえないし、甲1組成物発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明6について
本件特許発明6と甲1製法発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1と同様の相違点があって、該相違点については上記(1)イと同様に判断されるから、本件特許発明6は甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由1についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由1は、その理由がない。
3 申立理由2(甲2に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2剤発明とを対比する。
甲2剤発明の「シュードモナス・サッカロフィラ及びP. スツゼリ(EP-0298645B1)のエキソ-マルトテトラヒドロラーゼ等のエキソーマルトテトラヒドロラーゼ(E. C. 3. 2. 1. 60)」は、甲2の記載からみて「天然型」であるといえ、本件特許発明1の「天然型のエキソマルトテトラオヒドロラーゼ」に相当する。
甲2剤発明の「パンの劣化遅延剤」は、本件特許発明1の「パンの品質改良剤であって、前記品質改良が焼き色の改善、または風味の改善である、パンの品質改良剤」と、「パンの品質改良剤」である限りにおいて一致する。
してみると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「天然型のエキソマルトテトラオヒドロラーゼを含む、パンの品質改良剤。」
そして、両者は、次の点で相違する。
<相違点2>
「パンの品質改良剤」に関し、本件特許発明1は「前記品質改良が焼き色の改善、または風味の改善である」と特定するのに対し、甲2発明においてはこのような特定がない点。
イ 判断
上記相違点2について検討する。
甲2及び他の証拠には、焼き色または風味の改善をより優れたものとするために、甲2剤発明の天然型のエキソマルトテトラオヒドロラーゼを焼き色または風味の改善剤として用いる動機となる記載はない。
したがって、甲2発明において、上記相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許の明細書の【0151】及び【0154】の記載からみて、本件特許発明1は、マルトテトラオヒドラーゼとして天然型のエキソ体を含むものとすることで、遺伝子組み換え品であるG4生成酵素を含む比較例5よりも焼き色が改善されるという効果を奏するものであるが、該効果は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項からみて、顕著なものである。
なお、特許異議申立人は、本件特許発明1の効果に関し、上記2(1)イのとおり主張するが、上記2(1)イと同様の理由により、当該主張は採用できない。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲2剤発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1と同様に、甲2剤発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明5について
本件特許発明5と甲2組成物発明とを対比すると、少なくとも上記相違点2と同様の相違点があって、該相違点については上記(1)イと同様に判断されるから、本件特許発明5は甲2組成物発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明6について
本件特許発明6と甲2製法発明とを対比すると、少なくとも上記相違点2と同様の相違点があって、該相違点については上記(1)イと同様に判断されるから、本件特許発明6は甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由2についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由2は、その理由がない。
4 申立理由3(明確性要件)について
(1)判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
これを踏まえ、以下検討する。
(2)判断
請求項1の「焼き色の改善、または風味の改善」との記載は、それ自体明確であり、本件特許の明細書の【0063】及び【0065】の記載とも整合している。
また、請求項2の「マルトースを主成分とする糖質」との記載、請求項6の「マルトースを増加させる」との記載は、それ自体明確であり、本件特許の明細書の【0077】、【0078】、【0082】ないし【0084】の記載とも整合している。
したがって、請求項1の「焼き色の改善、または風味の改善」との記載、請求項2の「マルトースを主成分とする糖質」との記載及び請求項6の「マルトースを増加させる」との記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
そして、他に、請求項1ないし6に不明確な記載はない。
よって、本件特許発明1ないし6に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえず、本件特許発明1ないし6は明確である。
(3)申立理由3についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由3は、その理由がない。
5 申立理由4(サポート要件)について
(1)サポート要件についての判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件についての判断
本件特許発明における発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「酵素の作用により、パンの品質を改良すること」(【0006】)である。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、エキソマルトテトラオヒドロラーゼの作用に関し、「本発明のパンの品質改良剤は、エキソマルトテトラオヒドロラーゼを含むが、パンにおけるマルトース量を増加させる。そのため、焼成後のパンにおけるボリュームアップ効果、老化防止効果(焼成後のパンの弾力、しなやかさの改善、および固化現象の防止または柔らかさの持続の維持)に加え、パンの焼き色の鮮明化、発酵促進、食感の改善(くちゃつき感の低減、もちもち感の改善、口どけ感の改善)、その他しっとり感の改善、風味の改善(甘い味、香り)といった効果を奏する。」(【0019】)、「後述するように、本発明においてエキソマルトテトラオヒドロラーゼはマルトテトラオースを生成し、マルトテトラオースが小麦粉原料中に含まれるアミラーゼにより分解されてマルトースを生じる。したがって、品質改良剤はパン生地中にマルトースを主成分とする糖質が生成するよう設計されたものであることが好ましい。また、マルトースを主成分とする糖質は、エキソマルトテトラオヒドロラーゼの作用により生成したマルトテトラオースが、アミラーゼにより分解されて生じたものであることが好ましい。」(【0049】)、「糖組成:従来の方法で製造したパンでは、糖質の主成分はフルクトースである。これに対し、本発明では、エキソマルトテトラオヒドロラーゼがマルトテトラオースを生成し、マルトテトラオースが小麦粉原料中に含まれるアミラーゼにより分解されてマルトースを生じる。ここで、糖質の主成分とは、パンの糖組成において最大比率を占める成分をいう。マルトース量の増加により比容積、色差、食感、および風味が改善する。」(【0077】)との定性的な記載がある。また、エキソマルトテトラオヒドラーゼ及び天然型のエキソマルトテトラオヒドラーゼについては、【0021】、【0022】及び【0035】等に記載され、品質改良の「焼き色」又は「風味」については【0062】、【0063】、【0065】、【0069】、【0070】、【0086】に記載され、マルトースが主成分であること及びマルトースなどの糖組成の測定方法については【0078】ないし【0085】に記載され、【0088】ないし【0111】には、品質改良剤を添加してパンを製造する方法の一般的な記載がある。
さらには、【0119】ないし【0224】に、天然型のエキソマルトテトラオヒドラーゼを含む品質改良組成物が、酵素を含有しないか、他のアミラーゼを含有するものと比較して、マルトース含量が増大し、パンの焼き色および風味を顕著に改善でき、さらに、遺伝子組み換え品であるG4生成酵素よりもパンの焼き色および風味を改善できたことが具体的に示されている。
これらの記載に接した当業者であれば、天然型のエキソマルトテトラオヒドラーゼを含むことにより、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし6は、天然型のエキソマルトテトラオヒドラーゼを含むとの特定事項を有するものである。
よって、本件特許発明1ないし6は、明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、サポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第3 4において、エキソマルトテトラオヒドラーゼの酵素を配合した場合、最終的にマルトースの量が増加することは周知技術であり、請求項1にはそれを上回る顕著な改善(焼き色や風味の改善)をもたらすための手段が反映されておらず、本件特許発明1ないし6は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである旨主張する。
しかしながら、サポート要件については上記(2)のとおり判断されるものであり、特許異議申立人が主張する、周知技術を上回る顕著な改善をもたらすための手段は、サポート要件の判断とは関係がない。
したがって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
(4)申立理由4についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由4は、その理由がない。
6 申立理由5(実施可能要件)について
(1)実施可能要件についての判断基準
本件特許発明1ないし5は、上記第2のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
また、本件特許発明6は、上記第2のとおり、「物を生産する方法」の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法を使用し、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件についての判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、エキソマルトテトラオヒドロラーゼの、焼き色または風味の改善等の作用に関し、【0019】、【0049】、【0077】に定性的な記載があり、また、エキソマルトテトラオヒドラーゼ及び天然型のエキソマルトテトラオヒドラーゼについては、【0021】、【0022】及び【0035】等に記載され、品質改良の「焼き色」又は「風味」については【0062】、【0063】、【0065】、【0069】、【0070】、【0086】に記載され、マルトースが主成分であること及びマルトースなどの糖組成の測定方法については【0078】ないし【0085】に記載され、【0088】ないし【0111】には、品質改良剤を添加してパンを製造する方法の一般的な記載がある。
さらには、【0119】ないし【0224】に、天然型のエキソマルトテトラオヒドラーゼを含む品質改良組成物を製造し、該品質改良組成物を用いてパンを製造したことや、天然型のエキソマルトテトラオヒドラーゼを含む品質改良組成物を含有するパンが、マルトース含量が増大し、焼き色および風味が改善されたことが具体的に示されている。
これらの記載によれば、発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし5に関し、過度の試行錯誤を要することなく当業者が本件特許発明1ないし5を生産し、使用することができる程度の記載があり、また、本件特許発明6に関し、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明6を使用し、本件特許発明6により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし6に関する発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は上記第3 5のとおり主張するが、実施可能要件については上記(2)のとおりに判断されるものであり、特許異議申立人の主張は、上記(2)における検討に何ら影響するものではない。
(4)申立理由5についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由5は、その理由がない。
第7 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
また、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
他に、本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700340