特許異議申立
2024-701106
焼成菓子などの食感改良用食品素材
- 審判番号
- 2024-701106
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-010240
- 登録番号
- 7486319
- 請求日
- 2024年11月14日
- 審決日
- 2025年07月09日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱商事ライフサイエンス株式会社
- 【異議申立人】伊藤 幸子
- 審判長/審判官
- 審判長 天野 宏樹
- 審判官 中村 和正
- 審判官 加藤 友也
- 分類
- P1651.113-YAA(A21D) / P1651.121-YAA(A21D) / P1651.536-YAA(A21D) / P1651.537-YAA(A21D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項2号特許法113条4号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7486319号発明「焼成菓子などの食感改良用食品素材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7486319号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第7486319号の請求項2~4に係る特許を維持する。
特許第7486319号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7486319号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和2年1月24日を出願日とする特許出願であって、令和6年5月9日にその特許権の設定登録がされ、同年同月17日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年11月14日に特許異議申立人 伊藤 幸子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象:全請求項)がされ、令和7年1月31日付けで取消理由が通知され、同年4月4日に特許権者 三菱商事ライフサイエンス株式会社(以下「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年4月17日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)が通知され、同年5月26日に申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和7年4月4日にされた訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、「請求項1の酵母菌体又は酵母菌体残渣の細胞壁分解酵素処理物の酵母蛋白質含量が20重量%以上、食物繊維含量が20重量%以上である、請求項1記載の食感改良用組成物。」と、請求項1を引用して記載されているのを、独立形式に改め、「酵母菌体または酵母菌体残渣の細胞壁分解酵素処理物である酵母蛋白質を含有する、ビスケット、クッキー、パイ、シリアルバー、煎餅およびスナック菓子の食感改良用組成物であって、前記酵母菌体又は酵母菌体残渣の細胞壁分解酵素処理物の酵母蛋白質含量が20重量%以上、食物繊維含量が20重量%以上である、食感改良用組成物。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、「請求項1または2」と記載されているのを、「請求項2」に訂正する。
(4)一群の請求項について
訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、訂正前の請求項1~4に対応する訂正後の請求項1~4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項2の訂正は、訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用するものであったところ、訂正事項1によって請求項1が削除されたことに伴い、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項に改めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
そして、訂正事項2の訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3に係る請求項3の訂正は、訂正事項1によって請求項1が削除されたことに伴い、引用先請求項のうち請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3の訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
3 小括
以上のとおり、訂正事項1~3に係る請求項1~4の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1又は4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」のようにいう。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
酵母菌体または酵母菌体残渣の細胞壁分解酵素処理物である酵母蛋白質を含有する、ビスケット、クッキー、パイ、シリアルバー、煎餅およびスナック菓子の食感改良用組成物であって、前記酵母菌体又は酵母菌体残渣の細胞壁分解酵素処理物の酵母蛋白質含量が20重量%以上、食物繊維含量が20重量%以上である、食感改良用組成物。
【請求項3】
酵母菌体又は酵母菌体残渣に細胞壁溶解酵素を作用させる工程を有する、請求項2記載の食感改良用組成物の製造方法。
【請求項4】
前記細胞壁溶解酵素がプロテアーゼを含まないグルカナーゼであることを特徴とする請求項3記載の食感改良用組成物の製造方法。」
第4 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記6に示す甲第1号証~甲第9の2号証(以下、「甲1」~「甲9の2」のようにいう。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。なお、特許異議申立理由の番号は当審が仮に付与した。
1 申立理由1(甲1に基づく新規性欠如)
本件発明1~3は、本件特許の出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲1~4に基づく進歩性欠如)
本件発明1~4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1~4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由3(サポート要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、概略、下記の点で特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないから、本件発明1~4についての特許は同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
発明の詳細な説明には、本件発明1~4において、本件特許の明細書段落【0008】に記載された課題を解決できることの記載および示唆はない。また、当業者が出願時の技術常識に照らしても、本件発明1~4において本件発明の課題を解決できるとは認識できない。
4 申立理由4(実施可能性要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、概略、下記の点で、特許法第36条第4項第1号の要件を満たさないから、本件発明1~4についての特許は同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
本件明細書の発明の詳細な説明が、当業者において、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1~4を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。したがって、本件発明1~4は実施可能要件を充足しない。
5 申立理由5(明確性要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、概略、下記の点で、特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないから、本件発明1~4についての特許は同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
本件明細書、および本件出願日以前の技術常識を踏まえても、本件発明1~2における「酵母蛋白質」の技術的意味を理解することができず、その権利範囲を確定することができない。
6 証拠方法
(1)甲第1号証:特開2019-118263号公報
(2)甲第2号証:特開2013-53083号公報
(3)甲第3号証:石田賢吾,「業界の動向 食品分野で広く活用される酵母菌」, JAS情報52(3), 1-5, 2017年3月
(4)甲第4号証:特開2020-98号公報
(5)甲第5号証:池田咲子,「トルラ酵母調味料「アロマウェイ」の開発と展開」, 月刊フードケミカル403号, 43-47頁, 2018年11月
(6)甲第6号証:「マルチローム」, 食添素材ナビ, インターネット<https://shokuten.tech-d.jp/items/detail/97/>
(7)甲第7号証:特開2010-29183号公報
(8)甲第8号証:「Optimization of a process for high fibre and high protein biscuit」,J Food Sci Technol(March 2015),52(3),第1394-1403頁
(9)甲第8の2号証:甲第8号証の抄訳
(10)甲第9号証:「Development of high protein and low calorie cookies」,J Food Sci Tecnol(January 2014),51(1),第153-157頁
(11)甲第9の2号証:甲第9号証の抄訳
なお、甲第8~9の2号証は、令和7年5月26日に提出された意見書に添付されたものである。証拠の表示は、当審による。
第5 取消理由の概要
令和7年1月31日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。
・取消理由(甲1に基づく新規性・進歩性欠如)について
本件発明1~4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 当審の判断
本件発明2~4に係る特許は、当審において通知した取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された申立理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりであるが、申立理由1及び2は取消理由と同旨であるから、申立理由1及び2は、取消理由とまとめて検討する。
1 取消理由(甲1に基づく新規性・進歩性欠如)並びに申立理由1及び2(甲1に基づく新規性・進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された事項
甲1には以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
・「【0006】
本発明の課題は、焼菓子の食感を改良する方法を提供することである。その際に、基本的な生地の組成を変えたり風味を低下させたりすることなく、また特別な機械器具を使わずに、生地に配合するだけで簡単に食感が改良できる方法が好ましい。また、そこで配合する物は、安価に入手できる安全性の高い食品であることがより好ましい。」
・「【0008】
本発明によると、原材料に酵母酵素分解物を添加するだけで、焼成後の焼菓子の食感が良好なものとなる。さらに、チーズ味の焼菓子に本発明を使用した場合、食感の改善だけでなく、小麦粉臭がマスキングされてチーズ風味が増強されることが見出され、原材料中のチーズの配合量を低減することが可能となった。」
・「【0013】
本発明における焼菓子とは、生地をオーブンやトースターなどで焼成して得られる、水分含量が15重量%以下の菓子であり、例として、クッキー、ビスケット、サブレ、パイ、スコーン、マカロン、プレッツェル、煎餅、あられ、ボーロなどがあげられる。
【0014】
焼菓子の原材料に酵母酵素分解物を添加する方法は、特に制限はなく、いずれかの原材料に含有させておいてもよく、他の原材料と同時に配合してもよく、また焼成前のペースト状の生地に添加し調製しても良い。
たとえば、クッキーの場合、酵母酵素分解物を、小麦粉に添加してミックス粉にして用いてもよいし、小麦粉、バター、砂糖、鶏卵などと同時に配合して生地にしてもよいし、あるいは焼成前の生地に練り込んでもよい。
【0015】
焼成前の焼菓子における、酵母酵素分解物の配合量は、小麦粉および米粉に対して0.1~2重量%が好ましく、より好ましくは0.5~1.0重量%である。
この範囲内になるように添加すると、焼菓子に不快な味を付与することなく、好ましい食感が付与される。」
「【0017】
<製造例>
トルラ酵母の培養菌体100重量部(乾燥重量換算)の10重量%水懸濁液対して、デナチームGEL(長瀬産業製)を4重量部、アルカラーゼ2.4L FG(ノボザイムズ社製)を4重量部添加し、酵母菌体の可溶化処理を行い、可溶化率を80%とした。これを濃縮後、ドラム乾燥をして、得られた酵母酵素分解物を焼菓子の品質改良剤とした。
【0018】
<実施例1> クッキーの調製及び官能評価
以下の手順で、クッキーを調製した。
無塩バター50重量部を白っぽくなるまで練り混ぜ、上白糖40重量部を加えて混ぜ、全卵の溶き卵25重量部を3回に分けて加え、ダマにならないように混ぜた。これに薄力粉125重量部を加え、ひとかたまりになるまで混ぜ、クッキー生地を製した。この生地を冷蔵庫で1時間冷却後、めん棒で延ばして5mm厚さに均一化し、1cm×6cmの長方形に切り分け、170℃に予熱したオーブンで18分焼いて、クッキーを製し、これをコントロールのクッキーとした。
【0019】
前記コントロールのクッキーの製造工程において、薄力粉125重量部を加える際に、併せて前記製造例で製した酵母酵素分解物を1.25重量部加えたものを製し、サンプル1のクッキーとした。
同様に、酵母酵素分解物「アロマウエイ」(興人ライフサイエンス社製)を1.25重量部加えたものを製し、サンプル2のクッキーとした。「アロマウエイ」の水可溶成分を測定すると、45%であった。
同様に、酵母酵素分解物「マルチローム」(ディー・エス・エムジャパン社製)を1.25重量部加えたものを製し、サンプル3のクッキーとした。「マルチローム」の水可溶成分を測定すると、77%であった。
同様に、乾燥ビール酵母菌体「BY-G」(MCフードスペシャリティーズ社製)を1.25重量部加えたものを製し、サンプル4のクッキーとした。
同様に、酵母エキス「アジレックスNH」(興人ライフサイエンス社製)を1.25重量部加えたものを製し、サンプル5のクッキーとした。
同様に、酵母エキス「アロマイルド」(興人ライフサイエンス社製)を1.25重量部加えたものを製し、サンプル6のクッキーとした。
【0020】
各クッキーの生地の組成を表1に示す。
【表1】
[図:0001427972000001.jpg]
【0021】
サンプル1~6のクッキーについて、7人のパネラーで官能評価を行い、食感と呈味についてコントロールのクッキーと比較した。
7人のうち、コントロールと比較してサクサク感が向上したと感じたパネラーの人数と、それ以外に出た感想を、以下に示す。
【0022】
官能評価結果 (コントロールとの比較)
サンプル1:サクサク感の向上:7人中5人。口どけが良い。
サンプル2:サクサク感の向上:7人中6人。歯につく感じが少ない。
サンプル3:サクサク感の向上:7人中6人。ややザクザクした食感。
サンプル4:サクサク感の向上:7人中1人。ボソボソした食感で、もろく崩れやすい。
サンプル5:サクサク感の向上:7人中0人。やや硬い。味は深みが出て良好。
サンプル6:サクサク感の向上:7人中1人。やや硬い。異味を感じる。
以上のことから、酵母酵素分解物を添加したサンプル1~3のクッキーは、サクサクした食感が向上したことが示された。」
(2)甲1に記載された発明
甲1のサンプル1のクッキーに添加される製造例の酵母酵素分解物について整理すると、甲1には以下の発明が記載されている。
「トルラ酵母に対して、デナチームGELとアルカラーゼ2.4L FGを添加し、酵母菌体の可溶化処理を行い、濃縮後、ドラム乾燥をして、得られた酵母酵素分解物であって、当該酵母酵素分解物を添加したサンプル1のクッキーは、サクサクした食感が向上したことが示された、酵母酵素分解物。」(以下「甲1物発明」という。)
「トルラ酵母に対して、デナチームGELとアルカラーゼ2.4L FGを添加し、酵母菌体の可溶化処理を行い、濃縮後、ドラム乾燥をして、酵母酵素分解物を得る方法であって、当該酵母酵素分解物を添加したサンプル1のクッキーは、サクサクした食感が向上したことが示される、方法。」(以下「甲1方法発明」という。)
(3)「酵母菌体または酵母菌体残渣」のうち、「酵母菌体」を選択する場合の本件発明2について
本件発明2には、「酵母菌体または酵母菌体残渣」という2つの択一的な選択肢が含まれているので、まず、前者の選択肢を採用した場合の本件発明2について検討する。
ア 本件発明2と甲1物発明との対比
本件発明2と甲1物発明とを対比すると、甲1物発明の「トルラ酵母」は、本件発明2の「酵母菌体」に相当する。また、「デナチームGEL」や「アルカラーゼ2.4L FG」は細胞壁分解酵素だから、これら細胞壁分解酵素で可溶化処理を行った甲1物発明の「酵母酵素分解物」は、本件発明2の「細胞壁分解酵素処理物」に相当する。そして、甲1物発明の「酵母酵素分解物」を添加したクッキーは、サクサクした食感が向上するので、甲1物発明の「酵母酵素分解物」は、本件発明2の「食感改良用組成物」に相当する。
してみると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「酵母菌体の細胞壁分解酵素処理物を含有する、クッキーの食感改良用組成物。」
(相違点1)
「酵母蛋白質」について、本件発明2は、「細胞壁分解酵素処理物である酵母蛋白質を含有する」と特定するのに対し、甲1物発明はそのように特定されない点。
(相違点2)
「食感改良用組成物」について、本件発明2は、「ビスケット、クッキー、パイ、シリアルバー、煎餅およびスナック菓子の食感改良用組成物」と特定するのに対し、甲1物発明はそのように特定されない点。
(相違点3)
「酵母菌体又は酵母菌体残渣の細胞壁分解酵素処理物」について、本件発明2は、「酵母蛋白質含量が20重量%以上、食物繊維含量が20重量%以上」と特定するのに対し、甲1物発明はそのように特定されない点。
イ 判断
事案に鑑みて、相違点3について検討する。
甲1には、相違点3に係る本件発明2の発明特定事項に関する記載はなく、また、甲1物発明が相違点3に係る本件発明2の発明特定事項を有している蓋然性が高いともいえないことから、相違点3は実質的な相違点である。
また、甲1及び他の証拠には、甲1物発明において相違点3に係る本件発明2の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
したがって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件発明2は、甲1物発明であるとはいえないし、甲1物発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
申立人は、令和7年5月26日に提出された意見書において、甲1の記載から酵母蛋白質含量が20重量%未満となるまでプロテアーゼによる分解反応が進んでいると認められる理由はなく、例えば甲2の比較例1では細胞壁溶解酵素とプロテアーゼの処理後も酵母エキス抽出残渣1kg当たり22.3%の蛋白質が残存しており、甲1の製造例では酵素処理後に濃縮とドラム乾燥を行っていることを考慮すると、甲1物発明での酵母蛋白質含量は20重量%以上である蓋然性が高い旨主張する(同意見書第3頁第10~25行)。
しかし、甲1の【0017】には「酵母菌体の可溶化処理を行い、可溶化率を80%とした」ことが記載されているから、可溶化処理後に残っている細胞壁及び水不溶性蛋白質は合計で20重量%以下であることが明らかであり、この割合は濃縮後も変わらない。また、甲1物発明における酵母菌体の可溶化処理の条件は甲2の比較例1とは異なるから、甲1物発明における酵母蛋白質含量が甲2の比較例1と一致する理由もない。そして、甲1には酵母可溶化処理物の酵母蛋白質含量について具体的に記載されておらず、処理物の酵母蛋白質含量を20重量%以上に限定する動機となる記載もないから、甲1物発明において酵母蛋白質含量が20重量%以上である蓋然性が高いとはいえない。
また、申立人は、同意見書において、酵母蛋白質含量および食物繊維含量の推定時には可溶性成分も考慮すべきであり、甲1物発明において可溶化率が80%であることをもとにしても、甲1物発明は酵母蛋白質含量が20重量%以上、食物繊維含量が20重量%以上を充足する蓋然性が高い旨主張する(同意見書第3頁第26行~第4頁第27行)
しかし、甲1物発明が仮に水溶性蛋白質を含むとしてもその存在量を甲1の記載から求めることはできず、他の全ての証拠の記載を考慮しても水不溶性蛋白質との合計で20重量%以上の酵母蛋白質を含有しているとはいえない。
さらに、申立人は、同意見書において、食感を改良するために酵母蛋白質含量が20重量%以上、食物繊維含量が20重量%以上とすることは甲1および技術常識(甲8及び甲9)から当業者が容易になし得たことである旨主張する(同意見書第5頁第22行~第7頁第4行)
しかし、甲1物発明は、基本的な生地の組成を変えたりすることなく(【0006】)、焼菓子の食感を改良しようとする発明であるのに対し、甲8及び甲9は、スピルリナパウダー又は脱脂大豆粉を添加することで蛋白質の含有量を高めた発明であるから、当業者が甲1物発明に対し甲8及び甲9を組み合わせる動機はなく、さらに、他の全ての証拠の記載を参酌しても、甲1物発明における酵母酵素分解物における蛋白質含量に着目し、その含有量を20重量%以上に特定する動機は見出せない。そして、本件発明2が「味やにおいが少なく、焼成食品に添加することで、風味に影響を及ぼすことなく、ザクザクとした食べ応えのある食感を付与することができる」という効果を発揮することは、甲1及び他の全ての証拠の記載を考慮しても当業者が予測できないことである。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(4)「酵母菌体または酵母菌体残渣」のうち、「酵母菌体残渣」を選択する場合の本件発明2について
本件発明2の「酵母菌体または酵母菌体残渣」という2つの択一的な選択肢のうち、後者の選択肢を採用した場合の本件発明2について検討する。
ア 本件発明2と甲1物発明との対比
上記(3)アを踏まえ、本件発明2と甲1物発明とを対比すると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「酵母菌体成分の細胞壁分解酵素処理物を含有する、クッキーの食感改良用組成物。」
(相違点A)
「細胞壁分解酵素処理物」について、本件発明2は「酵母菌体残渣の細胞壁分解酵素処理物」と特定するのに対し、甲1物発明はそのように特定されない点。
(相違点B)
「酵母蛋白質」について、本件発明2は、「細胞壁分解酵素処理物である酵母蛋白質を含有する」と特定するのに対し、甲1物発明はそのように特定されない点。
(相違点C)
「食感改良用組成物」について、本件発明2は、「ビスケット、クッキー、パイ、シリアルバー、煎餅およびスナック菓子の食感改良用組成物」と特定するのに対し、甲1物発明はそのように特定されない点。
(相違点D)
「酵母菌体又は酵母菌体残渣の細胞壁分解酵素処理物」について、本件発明2は、「酵母蛋白質含量が20重量%以上、食物繊維含量が20重量%以上」と特定するのに対し、甲1物発明はそのように特定されない点。
イ 判断
事案に鑑みて、相違点Dについて検討する。
相違点Dは、上記(3)アの相違点3と同旨であり、同様に判断される。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1物発明であるとはいえないし、甲1物発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件発明3及び4について
本件発明3及び4と甲1方法発明を対比すると、上記(3)及び(4)と同様なことがいえるから、本件発明3及び4は、甲1方法発明であるとはいえないし、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)取消理由(甲1に基づく新規性・進歩性欠如)並びに申立理由1及び2(甲1に基づく新規性・進歩性欠如)についてのまとめ
したがって、本件発明2~4は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項2~4に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由並びに申立理由1及び2によっては取り消すことはできない。
2 申立理由3(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
本件特許の発明の詳細な説明の【0009】によると、本件発明2~4の解決しようとする課題(以下「発明の課題」という。)は、「酵母菌体残渣に細胞壁溶解酵素を適量反応させた組成物を焼成食品に添加することで、この食品にザクザクとした食べ応えのある食感を付与すること」である。
そして、発明の詳細な説明の【0012】には、原料として用いることのできる酵母菌体の種類は酵母細胞壁溶解酵素により溶解可能なものであることが記載され、【0014】には、酵母菌体残渣に水を加えて菌体懸濁液を調製することが記載され、【0015】には、菌体懸濁液に細胞壁溶解酵素を添加することが記載され、【0020】には、酵母菌体を原料として得られた乾燥物中の蛋白質含量が20重量%以上、食物繊維含量が20重量%以上であることが記載され、【0021】には、食感改良用食品素材は焼成食品、特にビスケットやクッキー、パイ、シリアルバー、煎餅、スナック菓子など穀類を原料とする焼成食品に使用することができ、対象食品の風味に影響を及ぼさず、ザクザクとした食べ応えのある食感を付与することができることが記載されている。
さらに、発明の詳細な説明の【0025】~【0033】には本件発明の実施形態について説明があり、【0011】に記載された発明の効果が実際に得られることが記載されている。
そうすると、発明の詳細な説明の記載から、当業者は「酵母菌体または酵母菌体残渣の細胞壁分解酵素処理物である酵母蛋白質を含有する食感改良用組成物」及び「該食感改良用組成物の製造方法」は、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件発明2は、発明の課題を解決できると認識できる上記「食感改良用組成物」をさらに限定したものであり、本件発明3及び4は、発明の課題を解決できると認識できる上記「該食感改良用組成物の製造方法」をさらに限定したものである。
したがって、本件発明2~4は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件発明2~4に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
申立人は、上記第4 3のとおり主張し、特許異議申立書(6-2)(ウ)(ii)において、実施例1~3のうちどの食感改良用食品素材を用いたときにクッキーおよび米粉クッキーの食感を改良したかが不明である旨主張するが、発明の詳細な説明の【0018】に「酵素反応後の組成物が、固形分10質量%の状態で、25℃の粘度が10mPa・s以上となるように酵素反応をする。粘度の調整方法は、当業者であれば採用できる方法で良い。一般的には、酵素反応中に複数回サンプリングし、粘度を測定することで調整する。本願の食感改良効果を得るためには、粘度はより高い方がよい。」と記載され、【0025】~【0027】に、実施例1~3における酵母の酵素反応後の粘度が5700、7200、50mPa・sであったことが記載され、【0030】に「粘度が高い方がより、ザクザクとし、食べ応えのある食感になった」と記載されているとおり、当業者であれば実施例1~3の全てにおいて食感が改良したと理解することができる。
また、申立人は、(iii)において、実施例1~3において焼成菓子の食感を改良できたことを理解できたとしても、酵母蛋白質の配合の有無のみならず、表1~2の組成、および【0028】、【0031】に記載されたクッキーおよび米粉クッキーの製造方法も、焼成菓子の食感に影響を及ぼしている旨を主張するが、(ii)に記載したとおり、当業者は実施例1~3の記載等に基づいて酵母菌体または酵母菌体残渣の細胞壁分解酵素処理物が食感改良効果を発揮することを理解することができ、かつ、本件特許の出願当時の技術常識を参酌することにより、実施例と同様に原料の穀物粉や油脂類、糖類に適宜添加し焼成することにより製造される【0021】に記載された焼成食品においても同様の効果が得られると理解することができる。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(3)申立理由3(サポート要件違反)についてのまとめ
本件特許の請求項2~4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。
3 申立理由4(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件発明2は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
本件発明3及び4は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法を使用し、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
発明の詳細な説明には、前記2(2)に記載したとおり、本件発明2~4の各発明特定事項について、その技術的意義を含め具体的に記載されており、本件発明2~4を満たす実施例についても具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明2を生産し、使用することができる程度の記載があり、本件発明3及び4の使用をし、本件発明3及び4により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件発明2~4に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
申立人は、上記第4 4のとおり主張し、特許異議申立書(6-3)(イ)において、クッキー以外の食品について食感を改良するためには当業者において過度の試行錯誤が必要である旨主張するが、【0012】~【0020】の記載に接した当業者は酵母菌体または酵母菌体残渣の細胞壁分解酵素処理物を製造する方法を理解することができ、また、上記2(2)(iii)に記載したとおり、当業者は、原料の穀物粉や油脂類、糖類に酵母菌体または酵母菌体残渣の細胞壁分解酵素処理物を適宜添加し焼成することで食感が改良したクッキー以外の焼菓子も製造することができることを理解することができ、したがって、本件発明2の食感改良用組成物を製造することができ、かつ、食感改良用組成物をクッキー以外の焼菓子においても使用することができると理解することができる。
請求項2を引用する請求項3及び4も同様である。
したがって、申立人の上記第4 4の主張は採用できない。
(3)申立理由4(実施可能要件違反)についてのまとめ
本件特許の請求項2~4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由4によっては取り消すことはできない。
4 申立理由5(明確性要件)についての判断
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件の判断
本件特許の請求項2~4の記載は、上記第3のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。
したがって、本件発明2~4に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
申立人は、上記第4 5のとおり主張し、令和7年5月26日に提出された意見書においても「酵母蛋白質」の技術的意味を理解することができない旨主張する(同意見書第7頁第10~27行)。
請求項2における「酵母菌体または酵母菌体残渣の細胞壁分解酵素処理物である」という記載は、「食感改良用組成物」を修飾し特定する記載であると理解することができ、したがって、「酵母蛋白質」と同一のものとして記載されたものではないと理解することができる。そして、そのように理解することで「細胞壁分解酵素処理物の酵母蛋白質含量」との記載と矛盾することなく、その技術的意味を理解することができる。
よって、請求項2の記載は明確であり、その権利範囲を確定することができ、第三者の利益が不当に害されるおそれはない。
請求項2を引用する請求項3及び4も同様である。
したがって、申立人の上記第4 5の主張は採用できない。
(3)申立理由5(明確性要件)についてのまとめ
本件特許の請求項2~4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由5によっては取り消すことはできない。
第7 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載されたいずれの申立理由によっても、本件特許の請求項2~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項2~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項1に係る特許は、本件訂正により削除されたため、申立人による請求項1に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-701106