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特許異議申立

2025-700307

小麦粉組成物、及び小麦粉二次加工品用ミックス

審判番号
2025-700307
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-187508
登録番号
7553682
請求日
2025年03月14日
審決日
2025年06月25日
公報発行日
2025年08月29日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】昭和産業株式会社
  • 【権利者代理人】野村 悟郎
  • 【異議申立人】志方 志乃
  • 【異議申立人】藤江 桂子
審判長/審判官
  • 審判長 天野 宏樹
  • 審判官 中村 和正
  • 審判官 宮久保 博幸
分類
P1651.113-Y (A23L) / P1651.121-Y (A23L) / P1651.537-Y (A23L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7553682号発明「小麦粉組成物、及び小麦粉二次加工品用ミックス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7553682号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7553682号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、令和5年11月1日の出願であって、令和6年9月9日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年同月18日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、令和7年3月14日に特許異議申立人志方志乃(以下、「申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象:全請求項)がなされ、同年同月17日に特許異議申立人藤江桂子(以下、「申立人B」という。)により特許異議の申立て(対象:全請求項)がなされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A、及び アミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦から得られた小麦粉Bを含み、 体積基準の粒子径分布において、粒子径50μm以下の粒子の割合が、55%以上である小麦粉組成物。 【請求項2】 前記アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦が、硬質小麦である請求項1に記載の小麦粉組成物。 【請求項3】 前記小麦粉Aと前記小麦粉Bの質量比率(小麦粉A:小麦粉B)が、1:1~20である請求項1に記載の小麦粉組成物。 【請求項4】 たん白質含量が、5.5~12質量%である請求項1に記載の小麦粉組成物。 【請求項5】 麺類用である請求項1に記載の小麦粉組成物。 【請求項6】 前記麺類が、加熱調理後に冷蔵及び/又は冷凍される麺類である請求項5に記載の小麦粉組成物。 【請求項7】 請求項1に記載の小麦粉組成物を含む小麦粉二次加工品用ミックス。 【請求項8】 請求項1に記載の小麦粉組成物又は請求項7に記載の小麦粉二次加工品用ミックスが用いられた小麦粉二次加工品。」 第3 特許異議申立理由の概要 申立人A及びBが申し立てた請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨は、次の1及び2のとおりである。 1.申立人Aが申し立てた特許異議申立理由の要旨 申立人Aは、特許異議申立書(以下、「申立書A」という。)とともに下記(3)に示す甲第1号証~甲第4号証(以下、申立人Aが提出した甲第1号証~甲第4号証を、それぞれ「甲1A」~「甲4A」のようにいう。)を提出し、概略、以下の(1)、(2)の特許異議申立理由を主張している。 (1)申立理由1A(甲1Aを主たる証拠とする進歩性) 本件発明1ないし8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1Aに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)申立理由2A(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、以下のとおり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 本件明細書の段落0006の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、小麦粉二次加工品の老化耐性を向上させることができ、特に麺類においては、さらにつるみを有し、加熱調理後のよじれを抑制することができる小麦粉組成物を提供することである。 請求項1には、小麦粉A及び小麦粉Bの含有量について規定されていない。本件明細書の詳細な説明の実施例の記載においては、小麦粉A及び小麦粉Bを合計で100質量%含む小麦粉組成物のみが評価されている。そして、該小麦粉A及び小麦粉Bは、課題を解決するために必須の成分であるものとされており、例えば、小麦粉組成物2(構成要件B、C、Dを満たし、該小麦粉Aが含まれない)や小麦粉組成物16(構成要件A、C、Dを満たし、該小麦粉Bが含まれない)は、いずれも上記課題を解決できていない。そうすると、該小麦粉A及び小麦粉Bの合計含有量が小麦粉二次加工品を製造する際に、合理的に少量用いる場合においてまでも、該小麦粉A及び小麦粉Bを合計で100質量%含む小麦粉組成物の場合と同様に、上記課題を解決できると理解することはできない。 一方、請求項1に記載された小麦粉組成物に係る発明は、該小麦粉組成物中、小麦粉A及び小麦粉Bの含有量について、特に特定がないものである。例えば、モチ性小麦粉でない通常の小麦粉を更に任意の含有量で含む小麦粉組成物をも包含している。 したがって、請求項1の記載には、上記課題を解決するための具体的手段が反映されておらず、これにより、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものとなっている。また、請求項2~8に係る発明についても、小麦粉A及び小麦粉Bの含有量の特定がないことは、請求項1と同様である。よって、請求項1~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 (3)証拠方法 ・甲1A:men_ju_2020、インスタグラム投稿、[online]、2023年9月24日、インターネット、<URL:https://www.instagram.com/men_ju_2020/p/CxjKASchcIV/?img_index=2> ・甲2A:特開2005-328790号公報 ・甲3A:特開平9-191842号公報 ・甲4A:特開2015-33362号公報 なお、証拠の表記については、申立書Aにおける記載におおむね従った。 2.申立人Bが申し立てた特許異議申立理由の要旨 申立人Bは、特許異議申立書(以下、「申立書B」という。)とともに下記(7)に示す甲第1号証~甲第21号証(以下、申立人Bが提出した甲第1号証~甲第21号証を、それぞれ「甲1B」~「甲21B」のようにいう。)を提出し、概略、以下の(1)~(6)の特許異議申立理由を主張している。 (1)申立理由1B(甲1Bを主たる証拠とする新規性・進歩性) 本件発明1ないし5、7及び8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1Bに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件発明1ないし8は、甲1Bに記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由2B(甲7Bを主たる証拠とする新規性・進歩性) 本件発明1ないし5、7及び8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲7Bに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件発明1ないし8は、甲7Bに記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)申立理由3B(甲8Bを主たる証拠とする新規性・進歩性) 本件発明1ないし5、7及び8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲8Bに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件発明1ないし8は、甲8Bに記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (4)申立理由4B(周知技術を主たる証拠とする新規性・進歩性) 本件発明1ないし5、7及び8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲7Bないし甲10Bに例示される周知技術であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件発明1ないし8は、当該周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (5)申立理由5B(甲15Bを主たる証拠とする新規性・進歩性) 本件発明1、4、7及び8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲15Bに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲15Bに記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (6)申立理由6B(甲17Bを主たる証拠とする進歩性) 本件発明1、3、4、7及び8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲17Bに記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (7)証拠方法 ・甲1B:men_ju_2020、インスタグラム投稿、[online]、2023年9月24日、[検索日2025年3月4日]、インターネッ卜<URL:https://www.instagram.com/men_ju_2020/p/CxjKASchcIV/?img_index=l> ・甲2B:今井徹 ほか、「小麦粉の粒度分布による用途分類」、日本食品科学工学会誌、日本食品科学工学会、2000年1月15日、第47巻、第1号、17~22頁 ・甲3B:稲津忠雄 ほか、「市販業務用小麦粉の理化学的性質と製麺適性に関する研究」、研究報告、香川県産業技術センター、2008年6月、第8号、65~69頁 ・甲4B:「ロジン・ラムラー分布」、[online]、粉体工学用語辞典、2022年6月8日(更新日)、[検索日2025年3月4日]、インターネット<URL:https://www.sptj.jp/powderpedia/words/12599/> ・甲5B:高橋清 ほか、「工業材料大辞典」、株式会社工業調査会、初版第1刷、1997年11月20日、1465~1466頁 ・甲6B:特開平9-191842号公報 ・甲7B:Waybackmachine、「うどん屋 ギビツミ-MASH UP!KABUKICHO」、[online]、2023年3月30日、[検索日2025年3月6日]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20230330175431/https://mashup-kabukicho.com/spot/7141> ・甲8B:Waybackmachine、「もち姫とブレンドされたうどんは絶品すぎた!手打ちうどん 紅屋@滝井 麺探偵 こんなん」、[online]、2022年3月28日、[検索日2025年3月6日]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20220328024511/http://kbtigers2.blog.fc2.com/blog-entry-1566.html> ・甲9B:饗 くろ喜 大将ブログ、「明日9/4の朝うどん営業…」、[online]、2022年9月3日、[検索日2025年3月11日]、インターネット<URL:https://ameblo.jp/motenashikuroki/entry-12762348960.html> ・甲10B:絹延橋うどん研究所、「17日(水)~21日(日)昼営業日11時半~14時→20日(土)のみ夜営業17時半~20時(LO.19時半)有り/蕗ご飯・切り干し大根と昆布のサラダ」、[online]、2021年3月16日、[検索日2025年3月11日]、インターネット<URL:https://r.goope.jp/kinuuken/info/3819329>(当審注:塗り潰された右向き三角を「→」と表記した。) ・甲11B:吉川亮 ほか、「高製めん適性,早生・多収の小麦新品種「ネバリゴシ」の育成」、東北農業研究センター研究報告、東北農業研究センター、2002年3月1日、第100号、1~26頁 ・甲12B:Waybackmachine、「もち姫 1kg」、[online]、粉やの息子、2020年11月30日、[検索日2025年3月11日]、インターネッ卜<URL:https://web.archive.org/web/20201130104808/https://www.konayashop.jp/shopdetail/000000002167/> ・甲13B:Waybackmachine、「あやひかり 10kg」、[online]、KT food Lab、2020年9月19日、[検索日2025年3月11日]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20200919143628/https://www.ktfoodlab.com/10000516-2/> ・甲14B:自然栽培米専門店、「自然栽培小麦粉チクゴイズミ(中力粉)の特徴と活用例」、[online]、2022年4月1日、[検索日2025年3月11日]、インターネット<URL:https://shizen-kome.com/information/index-1998> ・甲15B:Waybackmachine、「材料について」、[online]、卵不使用のアニマルクッキー専門店kurimaro、2019年6月12日、[検索日2025年3月11日]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20190612230449/https://cookie-kurimaro.com/ingredients> ・甲16B:Waybackmachine、「桑名もち小麦の通販」、[online]、素材舎、2011年11月17日、[検索日2025年3月11日]、インターネッ卜<URL:https://web.archive.org/web/20111117065451/https://www.sozai-ya.jp/kuwana.html> ・甲17B:特開2012-254053号公報 ・甲18B:特開平9-191818号公報 ・甲19B:田谷省三 ほか、「小麦新品種「ニシノカオリ」の育成」、九州沖縄農業研究センター報告、九州沖縄農業研究センター、2003年3月26日、第42号、19~29頁 ・甲20B:Waybackmachine、「岩手県産もち小麦粉「もち姫」をご紹介します♪」、[online]、パン、お菓子の材料・器具専門店「マルサンパントリー」、2023年2月5日、[検索日2025年3月13日]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20230205023016/https://www.m-pantry.com/fs/mpantry/c/gr659> ・甲21B:Waybackmachine、「小麦粉の科学」、[online]、一般財団法人 製粉振興会、2022年5月25日、[検索日2025年3月13日]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20220525171622/https://www.seifun.or.jp/pages/120/> なお、証拠の表記については、申立書Bにおける記載におおむね従った。また、システム上、表記できない文字は他の文字で代用した。 第4 当審の判断 当審は、申立人A及び申立人Bが申し立てたいずれの特許異議申立理由によっても、本件発明1~8についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおりである。 なお、甲1Aと甲1Bは同一のインスタグラム投稿に基づく証拠であるため、申立理由1A(甲1Aを主たる証拠とする進歩性)及び申立理由1B(甲1Bを主たる証拠とする新規性・進歩性)について、まとめて検討した。 1.申立理由1A(甲1Aを主たる証拠とする進歩性)及び申立理由1B(甲1Bを主たる証拠とする新規性・進歩性)について 甲1Aと甲1Bは同一のインスタグラム投稿に基づく証拠であるため、証拠番号の表示は甲1Aに統一した。 (1)甲1Aの記載事項等 ア 甲1Aに記載された事項 甲1Aには以下の事項が記載されている。 「本日の生地は、熟成0日 全て打ちたての生地のみで、鮮度を優先した低アミロース高加水麺です。 使用した小麦は、三重県産アヤヒカリと九州チクゴイズミに15%もち姫をブレンド致しました。 開店すぐの前半戦は今年初めて提供するこのブレンドです。」 また、甲1Aの写真から、提供される麺がうどんであることが看取される。 イ 甲1Aに記載された発明 甲1Aの記載を整理すると、甲1Aには以下の発明(以下、「甲1A発明」という。)が記載されていると認める。 「三重県産アヤヒカリと九州チクゴイズミに、もち姫を15%ブレンドした、うどん生地を作るための、小麦。」 (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲1A発明との対比 本件発明1と甲1A発明とを対比する。 本件特許明細書(【0012】)を参酌すると、甲1A発明の「もち姫」は本件発明1の「アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦」に相当する。また、甲1A発明の「アヤヒカリ」及び「チクゴイズミ」は本件発明1の「アミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦」に相当する。 うどん生地は小麦粉から製造することが技術常識であって、当該技術常識を考慮すれば甲1A発明の「小麦」は、「ブレンド」された「小麦粉」を意味するから、本件発明1の「小麦粉組成物」に相当する。そして、当該小麦粉組成物には、「三重県産アヤヒカリ」、「九州チクゴイズミ」及び「もち姫」から得られた各小麦粉が含まれている。 そうすると、本件特許発明1と甲1A発明の一致点、相違点は次のとおりである。 <一致点> 「アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A、及び アミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦から得られた小麦粉Bを含む、 小麦粉組成物。」 <相違点1> 本件発明1は、「体積基準の粒子径分布において、粒子径50μm以下の粒子の割合が、55%以上である」との特定を有するのに対し、甲1A発明はそのような特定がない点。 イ 相違点1について 小麦粉には、製粉工程の違い等によって様々な粒径のものが存在することが技術常識であるところ、甲1A発明は小麦粉組成物の粒子径分布について特定していない。そうすると、相違点1は実質的な相違点であり、本件発明1は甲1A発明ではない。 また、甲1Aは所定の飲食店において提供されるうどんの小麦原料のブレンドを紹介した記事であって、小麦粉の粒子径分布を変更する動機付けとなる記載は見いだせず、当業者は小麦粉の粒子径分布を変更すれば甲1A発明により製造されるうどんの食味や風味が変わってしまうものと理解するから(例えば甲2A参照。)、甲1A発明において相違点1に係る特定事項を備えるものとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 そして、甲1A発明は、熟成0日で飲食店において提供されるうどんを製造するためのものであって、製造されたうどんを保存することを想定してないのに対し、本件特許明細書の実施例(【0028】―【0052】)には、相違点1に係る粒子径分布を満たさない小麦粉組成物2、11~13から製造したうどん及び中華麺に対し、当該粒子径分布を満たす小麦粉組成物3~10から製造したうどん及び中華麺は、保存後の弾力、粘り、つるみ及び麺のよじれの評価点が良好であり、老化耐性が向上されたことが示されており、当該効果は、甲1A及び他の証拠から当業者が予測することができないものである。 ウ 申立人Aの主張について 申立人Aは、甲2Aに、粒径が45μm未満の大きさの粒が80質量%以上の小麦粉が麺の食感を向上することが記載されており、甲1A発明において「体積基準の粒子径分布において、粒子径50μm以下の粒子の割合が、55%以上である」とすることは、当業者が容易に想到し得ることである旨を主張している(申立書Aのp.13~14)。しかしながら、上記イに記載したように、甲1Aには小麦粉の粒子径に着目する記載がないから、甲1A発明においてさらに粒子径分布を変更する動機付けがあるとはいえない。また、甲2Aに記載の麺用小麦粉は、単に粒子径のみが規定されるものではなく、原料を「軟質小麦」とすることも必須の要件(請求項1、【0010】等)としているところ、甲1A発明は硬質小麦である「もち姫」を含むものであるから、甲2Aに記載の技術的事項を甲1A発明に適用することには阻害要因があるといえる。そして、老化耐性を向上させ、さらに麺類においてつるみを有し、加熱調理後のよじれを抑制するという本件発明1の効果は、甲1A、甲2A及びその他の証拠から当業者が予測することができないものである。 よって、申立人Aの主張を採用することはできない。 エ 申立人Bの主張について 申立人Bは、甲2Bにうどん用小麦粉の粒度分布として、50μm以下の粒子の割合が55%以上である蓋然性の高い分布が記載されていること、甲3Bにうどん製造に用いられた市販業務用小麦粉として50μm以下の粒子の割合が55%を超えているものが記載されていることを挙げ、甲1A発明の小麦粉組成物についても50μm以下の粒子の割合が55%以上である蓋然性がきわめて高い旨(主張1)、及び、本件特許明細書の実施例における小麦粉組成物5、9に含まれる小麦粉品種が甲1A発明と共通し、もち姫の含有割合も同程度であることから、甲1A発明のうどん用小麦粉組成物の50μm以下の粒子の割合も、当該小麦粉組成物5、9のそれと同程度と考えられ、55%を超えている蓋然性が極めて高い旨(主張2)を主張している(申立書Bのp.44~48)。 上記主張について検討する。主張1について検討すると、申立人Bが指摘するように、甲2B、甲3Bから、50μm以下の粒子の割合が55%以上である小麦粉をうどん用小麦粉として使用しうることが理解できる。しかしながら、うどん用小麦粉ならば必ずそのような粒子径分布を有するとまではいえず、甲1A発明において「粒子径50μm以下の粒子の割合が、55%以上である」蓋然性が高いということはできない。 また、主張2について検討すると、申立人Bが指摘するように、本件特許明細書に記載された小麦粉組成物5、9と甲1A発明とは、小麦品種が一致している。しかしながら、小麦粉の粒子径分布は、小麦品種が同じであっても製粉条件によって異なることが技術常識であり(例えば甲2B参照。)、本件特許明細書に記載された小麦粉組成物と甲1A発明とで小麦品種が一致しているからといって、甲1A発明において「粒子径50μm以下の粒子の割合が、55%以上である」蓋然性が高いということはできない。 よって相違点1は実質的な相違点であり、本件発明1は甲1A発明ではない。また、上記イに記載したように、甲1A発明においてさらに粒子径分布を変更する動機付けがあるとはいえないし、老化耐性を向上させ、さらに麺類においてつるみを有し、加熱調理後のよじれを抑制するという本件発明1の効果は、甲1A、甲2B、甲3B及びその他の証拠から当業者が予測することができないものである。そうすると、甲1A発明において小麦粉の粒子径分布に着目し、さらに「50μm以下の粒子の割合が、55%以上」という特定の粒子径分布を採用することにより相違点1に係る本件発明1の特定事項を満たすものとすることが当業者にとって容易であるとはいえない。 よって、申立人Bの主張を採用することはできない。 オ 本件発明1についてのまとめ 以上のことから、本件発明1は甲1A発明ではなく、甲1A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)本件発明2~8について 本件発明2~8は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。 そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~5、7及び8は、いずれも甲1A発明ではない。また、本件発明2~8は、甲1A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)申立理由1A(甲1Aを主たる証拠とする進歩性)及び申立理由1B(甲1Bを主たる証拠とする新規性・進歩性)についてのまとめ 以上まとめると、本件発明1~5、7及び8は、いずれも甲1A発明ではない。また、本件発明1~8は、甲1A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって、申立理由1A(甲1Aを主たる証拠とする進歩性)及び申立理由1B(甲1Bを主たる証拠とする新規性・進歩性)により本件発明1~8についての特許を取り消すことはできない。 2.申立理由2B(甲7Bを主たる証拠とする新規性・進歩性)について (1)甲7Bの記載事項等 ア 甲7Bに記載された事項 甲7Bには以下の事項が記載されている。 「俳優の内田晴子が手掛ける和風モダンで個性的なデザインが特徴の自家製手打ちのうどん屋。東北の小麦粉ネバリゴシともち姫をブレンドした自家製麺で細めのモチモチとしたうどんは、きつねうどん、野菜天うどん、鶏天うどんなど、幅広い味わいで楽しめるほか、定番から個性派まで取り揃えた天ぷらも人気。食事だけでなくお酒も飲めるため、ランチタイム、ディナータイムと自分に合った過ごし方ができるのもうれしい。」 イ 甲7Bに記載された発明 甲7Bの記載を整理すると、甲7Bには以下の発明(以下、「甲7B発明」という。)が記載されていると認める。 「東北の小麦粉ネバリゴシともち姫をブレンドした、うどん用小麦粉。」 (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲7B発明との対比 本件発明1と甲7B発明とを対比する。 本件特許明細書(【0012】)を参酌すると、甲7B発明の「もち姫」は本件発明1の「アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲7B発明の一致点、相違点は次のとおりである。 <一致点> 「アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦から得られた小麦粉Aを含む、 小麦粉組成物。」 <相違点7-1> 本件発明1は、「アミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦から得られた小麦粉B」を含むのに対し、甲7B発明はそのような小麦粉を含むか不明である点。 <相違点7-2> 本件発明1は、「体積基準の粒子径分布において、粒子径50μm以下の粒子の割合が、55%以上である」との特定を有するのに対し、甲7B発明はそのような特定がない点。 イ 相違点7-2について 事案に鑑み、相違点7-2について検討する。 甲7Bは、甲1Aと同じく所定の飲食店において提供される自家製手打ちうどんの小麦原料のブレンドを紹介した記事であり、小麦粉の粒子径について全く記載がないことから、相違点7-2は、上記1(2)の相違点1と同旨の相違点である。また、申立人Bの相違点7-2についての主張は相違点1についての主張と同じであり、実質的に新たな主張はされていない。よって、相違点7-2は、上記1(2)と同様に判断される。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲7B発明ではなく、甲7B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)本件発明2~8について 本件発明2~8は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。 そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~5、7及び8は、いずれも甲7B発明ではない。また、本件発明2~8は、甲7B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)申立理由2B(甲7Bを主たる証拠とする新規性・進歩性)についてのまとめ 以上まとめると、本件発明1~5、7及び8は、いずれも甲7B発明ではない。また、本件発明1~8は、甲7B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって、申立理由2B(甲7Bを主たる証拠とする新規性・進歩性)により本件発明1~8についての特許を取り消すことはできない。 3.申立理由3B(甲8Bを主たる証拠とする新規性・進歩性)について (1)甲8Bの記載事項等 ア 甲8Bに記載された事項 甲8Bには以下の事項が記載されている。 「このうどんは、九州のチクゴイズミともち姫のブレンド。 このルックス、瑞々しさ、素晴らしいの一語に尽きる。 もう食べる前から絶品と表現して、間違いなし。」 イ 甲8Bに記載された発明 甲8Bの記載を整理すると、甲8Bには以下の発明(以下、「甲8B発明」という。)が記載されていると認める。 「うどん用の、九州のチクゴイズミともち姫のブレンド。」 (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲8B発明との対比 本件発明1と甲8B発明とを対比する。 本件特許明細書(【0012】)を参酌すると、甲8B発明の「もち姫」は本件発明1の「アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦」に相当する。また、甲8B発明の「九州のチクゴイズミ」は本件発明1の「アミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦」に相当する。 うどん生地は小麦粉から製造することが技術常識であって、当該技術常識を考慮すれば甲8B発明の「ブレンド」は、「ブレンド」された「小麦粉」を意味するから、本件発明1の「小麦粉組成物」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲8B発明の一致点、相違点は次のとおりである。 <一致点> 「アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A、及び アミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦から得られた小麦粉Bを含む、 小麦粉組成物。」 <相違点8> 本件発明1は、「体積基準の粒子径分布において、粒子径50μm以下の粒子の割合が、55%以上である」との特定を有するのに対し、甲8B発明はそのような特定がない点。 イ 相違点8について 甲8Bは、甲1Aと同じく所定の飲食店において提供される手打ちうどんの小麦原料のブレンドを紹介した記事であり、小麦粉の粒子径について全く記載がないことから、相違点8は、上記1(2)の相違点1と同旨の相違点である。また、申立人Bの相違点8についての主張は相違点1についての主張と同じであり、実質的に新たな主張はされていない。よって、相違点8は、上記1(2)と同様に判断される。 したがって、本件発明1は甲8B発明ではなく、甲8B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)本件発明2~8について 本件発明2~8は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。 そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2ないし5、7及び8は、いずれも甲8B発明ではない。また、本件発明2~8は、甲8B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)申立理由3B(甲8Bを主たる証拠とする新規性・進歩性)についてのまとめ 以上まとめると、本件発明1ないし5、7及び8は、いずれも甲8B発明ではない。また、本件発明1~8は、甲8B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって、申立理由3B(甲8Bを主たる証拠とする新規性・進歩性)により本件発明1~8についての特許を取り消すことはできない。 4.申立理由4B(周知技術を主たる証拠とする新規性・進歩性)について (1)甲9Bの記載事項等 ア 甲9Bに記載された事項 甲9Bには以下の事項が記載されている。 「明日の朝うどん営業、8:30~11:00もしくは40杯完売で閉店になります。 うどん40食打ちました。 整理券は明日はなしで、普通にゆるく営業しようと思います… 前回の牛コラボの時は、色々な方々がご来店くださり、忙しかったですが、それ以外は、普通にゆる~い営業なので、お時間ありましたらお待ちしてます! 大将のワンオペで楽しみながら、小麦遊びする感じなのでいつもとは違う雰囲気でやってます… 冷やしは茗荷うどんで、温かいのは舞茸と水茄子の天ぷらうどんで、2杯セットで提供します。 今までは単一小麦で打っていましたが、今回は ゆめちから チクゴイズミ もち姫 のブレンドで打ちました。」 イ 甲9Bに記載された発明 甲9Bの記載を整理すると、甲9Bには以下の発明(以下、「甲9B発明」という。)が記載されていると認める。 「うどん用の、ゆめちから、チクゴイズミ、もち姫のブレンドからなる小麦。」 (2)甲10Bの記載事項等 ア 甲10Bに記載された事項 甲10Bには以下の事項が記載されている。(審決で記載できない文字は他の文字で代用した。) 「今週のうどん・・・(水)、(木)、(金)の途中くらいまで ふくほのか+さぬきの夢+岩手ネバリゴシ+岩手もち姫 ネバリゴシが終わりになったので、もち姫で補ったので、 4種の超レアブレンドです。」 イ 甲10Bに記載された発明 甲10Bの記載を整理すると、甲10Bには以下の発明(以下、「甲10B発明」という。)が記載されていると認める。 「うどん用の、ふくほのか、さぬきの夢、岩手ネバリゴシ及び岩手もち姫のブレンド。」 (3)本件発明1について 申立人Bは、甲1B及び甲7Bないし甲10Bに例示されるように、「アミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦から得られた小麦粉と、もち姫を併用したうどん用小麦粉組成物」が本件特許の出願前において周知の組成物であったとして、当該周知の組成物に基づき、本件発明1の新規性欠如及び進歩性欠如を主張している。 上記主張について検討する。甲1B及び甲7Bないし甲10Bは、所定の飲食店で提供されるうどん用の小麦粉のブレンドを紹介した記事である。ここで、甲1B及び甲7Bないし甲10Bの記載は、いずれも単にブレンドに含まれる原料小麦の品種を列記するにとどまり、当該品種を選択した理由や小麦品種の遺伝子の特徴についての記載はない。そうすると、甲1B及び甲7Bないし甲10Bに接した当業者は、もち姫から得られた小麦粉と他の品種の小麦から得られた小麦粉をブレンドした小麦粉をうどん用に使用できることを認識できるものの、「アミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦から得られた小麦粉と、もち姫を併用したうどん用小麦粉組成物」なる周知技術を認識できるとはいえない。 また仮に、甲1B発明及び甲7B発明ないし甲10B発明から「アミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦から得られた小麦粉と、もち姫を併用したうどん用小麦粉組成物」なる発明が認定できるとしても、本件発明1と当該発明との間には少なくとも上記1(2)の相違点1と同様の相違点が存在し、当該相違点については上記1(2)と同様に判断される。 したがって、本件発明1は甲1B及び甲7Bないし甲10Bに例示される周知の発明ではなく、当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)本件発明2~8について 本件発明2~8は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。 そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2ないし5、7及び8は、いずれも甲1B及び甲7Bないし甲10Bに例示される周知の発明ではない。また、本件発明2~8は、当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)申立理由4B(周知技術を主たる証拠とする新規性・進歩性)についてのまとめ 以上まとめると、本件発明1ないし5、7及び8は、いずれも甲1B及び甲7Bないし甲10Bに例示される周知の発明ではない。また、本件発明1~8は、当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって、申立理由4B(周知技術を主たる証拠とする新規性・進歩性)により本件発明1~8についての特許を取り消すことはできない。 4.申立理由5B(甲15Bを主たる証拠とする新規性・進歩性)について (1)甲15Bの記載事項等 ア 甲15Bに記載された事項 甲15Bには以下の事項が記載されている。 「こだわりポイント おいしさのひみつ 小麦粉 三重県産小麦粉100%使用 あやひかり・くわなもち小麦・ニシノカオリをブレンド 特に注目は、ワッフルやパンケーキといったイメージの「くわなもち小麦」。 もちもちとしたお餅のような食感で、そのあまりの美味しさにより現在全国に広がっています。 そんな高級小麦粉である「くわなもち小麦」をクッキーに使用することで食べごたえのある密度の高いクッキーに仕上がります。 舌触りの良い「あやひかり」、香り高い「ニシノカオリ」に加えた桑名が誇る「くわなもち小麦」。それぞれの三重県産小麦粉の特徴を活かして、サクサクでいて、滑らかで優しい食感と風味を生み出しています。」 イ 甲15Bに記載された発明 甲15Bの記載を整理すると、甲15Bには以下の発明(以下、「甲15B発明」という。)が記載されていると認める。 「あやひかり、くわなもち小麦及びニシノカオリをブレンドした、クッキー用小麦粉。」 (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲15B発明との対比 本件発明1と甲15B発明とを対比する。 本件特許明細書(【0012】)を参酌すると、甲15B発明の「あやひかり」は本件発明1の「アミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦」に相当する。また、甲16Bの記載を参酌すると、甲15B発明の「くわなもち小麦」は本件発明1の「アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲15B発明の一致点、相違点は次のとおりである。 <一致点> 「アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A、及び アミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦から得られた小麦粉Bを含む、 小麦粉組成物。」 <相違点15> 本件発明1は、「体積基準の粒子径分布において、粒子径50μm以下の粒子の割合が、55%以上である」との特定を有するのに対し、甲15B発明はそのような特定がない点。 イ 相違点15について 小麦粉には、製粉工程の違い等によって様々な粒径のものが存在することが技術常識であるところ、甲15B発明は小麦粉組成物の粒子径分布について特定していない。そうすると、相違点15は実質的な相違点であり、本件発明1は甲15B発明ではない。 また、甲15Bは所定のクッキー専門店において提供されるクッキーの小麦粉原料のブレンドを紹介した記事であって、小麦粉の粒子径分布を変更する動機付けとなる記載は見いだせず、当業者は小麦粉の粒子径分布を変更すれば甲15B発明により製造されるクッキーの食味や風味が変わってしまうものと理解するから(例えば甲2B、甲17Bを参照。)、甲15B発明において相違点15に係る特定事項を備えるものとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 そして、甲15Bには、小麦粉原料による二次加工品の老化耐性の向上効果について記載されていないのに対し、本件特許明細書の実施例(【0028】―【0052】)には、粒度分布につき本件発明1の特定事項を満たさない小麦粉組成物1、11~13から製造したうどん及び中華麺に対し、本件発明1の特定事項を満たす小麦粉組成物3~10から製造したうどん及び中華麺は、保存後の弾力、粘り、つるみ及び麺のよじれの評価点が良好であり、老化耐性が向上されたこと、及び、本件発明1の特定事項を満たす小麦粉組成物4、5から製造したベーカリー製品(ホットケーキ)は保存後に良好なふんわり感を示したことが示されており、当該効果は、甲15B及び他の証拠から当業者が予測することができないものである。 ウ 申立人Bの主張について 申立人Bは、甲2Bに市販小麦粉において菓子用小麦粉の粒度が最も細かいこと、及び、菓子用小麦粉の粒度分布として50μm以下の粒子の割合が55%以上となる分布が記載されていることを挙げ、甲15B発明の小麦粉組成物についても50μm以下の粒子の割合が55%以上である蓋然性がきわめて高い旨を主張している(申立書Bのp.71~73)。 上記主張について検討する。申立人Bが指摘するように、甲2Bから、50μm以下の粒子の割合が55%以上である小麦粉を菓子用小麦粉として使用しうることが理解できる。しかしながら、菓子用小麦粉ならば必ずそのような粒子径分布を有するとまではいえず、甲15B発明において「粒子径50μm以下の粒子の割合が、55%以上である」蓋然性が高いということはできない。 よって相違点15は実質的な相違点であり、本件発明1は甲15B発明ではない。また、上記イに記載したように、甲15B発明においてさらに粒子径分布を変更する動機付けがあるとはいえないし、二次加工品の老化耐性を向上させ、さらに麺類においてつるみを有し、加熱調理後のよじれを抑制するという本件発明1の効果は、甲15B、甲2B及びその他の証拠から当業者が予測することができないものである。そうすると、甲15B発明において小麦粉の粒子径分布に着目し、さらに「50μm以下の粒子の割合が、55%以上」という特定の粒子径分布を採用することにより相違点15に係る本件発明1の特定事項を満たすものとすることが当業者にとって容易であるとはいえない。 よって、申立人Bの主張を採用することはできない。 エ 本件発明1についてのまとめ 以上のことから、本件発明1は甲15B発明ではなく、甲15B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)本件発明4、7及び8について 本件発明4、7及び8は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。 そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明4、7及び8は、いずれも甲15B発明ではない。また、本件発明4、7及び8は、甲15B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)申立理由5B(甲15Bを主たる証拠とする新規性・進歩性)についてのまとめ 以上まとめると、本件発明1、4、7及び8は、いずれも甲15B発明ではない。また、本件発明1、4、7及び8は、甲15B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって、申立理由5B(甲15Bを主たる証拠とする新規性・進歩性)により本件発明1、4、7及び8についての特許を取り消すことはできない。 5.申立理由6B(甲17Bを主たる証拠とする進歩性)について (1)甲17Bの記載事項等 ア 甲17Bに記載された事項 甲17Bには以下の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 下記(1)~(3)の物性および下記(4)~(6)の粒度分布を有することを特徴とする菓子類用小麦粉。 (1)粗蛋白質含量が6.0~9.5質量% (2)グルテンバイタリティが35~55% (3)α化度が0~5% (4)平均粒径が15~50μm (5)粒径60μm以上の粗粉画分の含有割合が5~30質量% (6)粒径30μm以下の微粉画分の含有割合が50~80質量% 【請求項2】 ケーキ用小麦粉またはカステラ用小麦粉である、請求項1記載の菓子類用小麦粉。 【請求項3】 請求項1記載の菓子類用小麦粉の製造方法であって、軟質系小麦を主体とする原料小麦を、加熱水蒸気により、原料小麦の品温が85~100℃で1~5分間湿熱処理するか、あるいは原料小麦の品温が60~80℃で30分間~3時間湿熱処理し、次いで、この湿熱処理小麦を常法に従って製粉し、得られた小麦粉を粉砕して粒度分布を、下記(4)~(6)の範囲に調整することを特徴とする菓子類用小麦粉の製造方法。 (4)平均粒径が15~50μm (5)粒径60μm以上の粗粉画分の含有割合が5~30質量% (6)粒径30μm以下の微粉画分の含有割合が50~80質量% 【請求項4】 小麦粉を粉砕する手段が、衝撃式粉砕である、請求項3記載の菓子類用小麦粉の製造方法。」 ・「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明の目的は、キメが細かく、しっとりとして口溶けが極めて良好で、しかも崩れるような脆さがある、これまでにはない独特な食感を有するスポンジケーキやカステラ等の菓子類が得られる菓子類用小麦粉およびその製造方法を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者らは、上記目的を達成すべく種々検討した結果、原料小麦を特定条件下で湿熱処理した後、製粉し、これを粉砕することにより得られる、特定の物性および特定の粒度分布を有する小麦粉が、これまでには無い食感を有する菓子類が得られる菓子類用小麦粉として、特にケーキ用小麦粉およびカステラ用小麦粉として著しく優れていることを見出した。すなわち、原料小麦を湿熱処理する特定条件とは、小麦中の蛋白質をある程度変性させるが、小麦中の澱粉はほとんどα化させないような条件であり、また、この湿熱処理した原料小麦を常法に従って製粉した後、さらに粉砕して小麦粉の粒度を細かくし、特定の範囲に調節することにより、本発明の目的物である菓子類用小麦粉が得られることを見出したのである。」 ・「【0030】 原料小麦としては、本発明の菓子類用小麦粉の粗蛋白質含量が6.0~9.5質量%となる小麦を用いる。具体的には、前述したように、アメリカ産ウエスタンホワイト、日本産普通小麦、オーストラリア産麺用小麦などの軟質系小麦を主体とする小麦を用いる。 原料小麦は、上記湿熱処理に先立ち、加水し、テンパリング(調質)を施すことが好ましい。加水・テンパリングは常法に従って行えばよく、例えば原料小麦100質量部に対し、水を3~10質量部、好ましくは4~7質量部を加えて、約4~24時間、好ましくは約8~16時間、例えば約12時間行う。」 ・「【0044】 〔実施例2〕 日本産普通小麦「チクゴイズミ」100質量部(水分含量約12質量%)に、1次加水として3質量部の加水を行い、よく攪拌した後、室温で約12時間のテンパリング(調質)を行った。この原料小麦をテクノベータに投入して、攪拌しながら、約100℃の水蒸気を吹き込んで1.5分間の湿熱処理(原料小麦の品温90℃)を行った。湿熱処理後、冷却用コンディショナーに投入し、約50分間滞留させて、出口品温約30℃に冷却した。次いで、2次加水として1質量部の加水を行い、室温で約6時間のテンパリング(調質)を行った。 次いで、湿熱処理小麦を通常の製粉工程にかけて挽砕し、灰分含量0.38質量%および粗蛋白質含量7.2質量%の小麦粉を得た。この小麦粉の粒度は、平均粒径が62m、粒径60μm以上の粗粉画分が54質量%、粒径30μm以下の微粉画分が40質量%であった。この小麦粉を衝撃式粉砕機(槙野産業製、「ピンミルコロプレックス」)を用いて粉砕した。 得られた本発明の菓子類用小麦粉は、灰分含量0.36質量%、粗蛋白質含量6.7質量%、グルテンバイタリティ48%、α化度4%であった。また、この小麦粉の粒度は、平均粒径が26μm、粒径60μm以上の粗粉画分が9質量%、粒径30μm以下の微粉画分が70質量%であった。 【0045】 〔実施例3〕 日本産普通小麦「チクゴイズミ」100質量部(水分含量約12質量%)に、1次加水として3質量部の加水を行い、よく攪拌した後、室温で約12時間のテンパリング(調質)を行った。この原料小麦を、スチーマー中で2時間の湿熱処理(原料小麦の品温65℃)を行った。湿熱処理後、冷却用コンディショナーに投入し、約50分間滞留させて、出口品温約30℃に冷却した。得られた湿熱処理小麦に、2次加水として1質量部の加水を行い、室温で約6時間のテンパリング(調質)を行った。 次いで、実施例2と同様に製粉して小麦粉を得た。この小麦粉を衝撃式粉砕機(槙野産業製、「ピンミルコロプレックス」)を用いて粉砕した。 得られた本発明の菓子類用小麦粉は、灰分含量0.38質量%、粗蛋白質含量6.9質量%、グルテンバイタリティ53%、α化度5%であった。また、平均粒径は26μm、粒径60μm以上の粗粉画分は10質量%、粒径30μm以下の微粉画分は72質量%であった。 【0046】 〔実施例4〕 原料小麦の湿熱処理温度を77℃(原料小麦の品温75℃)で、湿熱処理時間を1時間とした以外は、実施例3と同様にして、菓子類用小麦粉を得た。 【0047】 〔比較例6〕 原料小麦の湿熱処理時間を3.5時間とした以外は、実施例4と同様にして、菓子類用小麦粉を得た。 【0048】 〔試験例2〕 実施例2~4および比較例6で得られた本発明の菓子類用小麦粉の二次加工性を確認するために、実施例1と同様にして、スポンジケーキを製造し、得られたスポンジケーキの質量および容積を測定するとともに、外観および食感を評点させた。その測定結果および評点結果(平均点)を表3に示す。なお、表3には、菓子類用小麦粉を製造する際の湿熱処理条件、菓子類用小麦粉の物性や粒度分布なども併記した。 【0049】 【表3】 [図:0001425795000001.jpg] 」 イ 甲17Bに記載された発明 甲17Bの記載、特に実施例2~4で得られた小麦粉についての記載を整理すると、甲17Bには以下の発明(以下、「甲17B発明」という。)が記載されていると認める。 「日本産普通小麦「チクゴイズミ」から製造した、灰分含量0.36~0.38質量%、粗蛋白質含量6.7~6.9質量%、グルテンバイタリティ48~53%、α化度4~5%、平均粒径が24~26μm、粒径60μm以上の粗粉画分が7~10質量%、粒径30μm以下の微粉画分が70~75質量%の、菓子類用小麦粉。」 (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲17B発明との対比 本件発明1と甲17B発明とを対比する。 甲17B発明の「菓子類用小麦粉」は、本件発明1の「小麦粉組成物」に相当する。また、本件特許明細書(【0012】)を参酌すると、甲17B発明の「チクゴイズミ」は本件発明1の「アミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦」に相当する。さらに、甲17B発明は、「粒径30μm以下の微粉画分が70~75質量%」であるから、本件発明1の「体積基準の粒子径分布において、粒子径50μm以下の粒子の割合が、55%以上である」との特定事項を満たす。 そうすると、本件特許発明1と甲17B発明の一致点、相違点は次のとおりである。 <一致点> 「アミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦から得られた小麦粉Bを含み、 体積基準の粒子径分布において、粒子径50μm以下の粒子の割合が、55%以上である小麦粉組成物。」 <相違点17> 本件発明1は、「アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A」を含むのに対し、甲17B発明はそのような特定がない点。 イ 相違点17について 甲17B発明の解決すべき課題は、「キメが細かく、しっとりとして口溶けが極めて良好で、しかも崩れるような脆さがある、これまでにはない独特な食感を有するスポンジケーキやカステラ等の菓子類が得られる菓子類用小麦粉およびその製造方法を提供すること」(【0006】)であり、「原料小麦を特定条件下で湿熱処理した後、製粉し、これを粉砕して小麦粉の粒度を細かくし、特定の範囲に調節すること」(【0007】)を解決手段としている。そして、甲17Bの実施例で原料小麦とされた「チクゴイズミ」は、粗蛋白質含量に基づいて「日本産普通小麦」として選択されたもの(【0012】)であり、甲17Bにはアミロース合成遺伝子の欠失に着目して小麦品種を選択することや、他の小麦品種を併用することについての記載はなく、甲18B及びその他の証拠の記載をみても、甲17B発明において、「チクゴイズミ」に加えてさらにアミロース合成遺伝子の欠失の有無が異なる他の小麦から得られた小麦粉を含むものとする動機は見い出せない。 したがって、甲17B発明において、甲18B及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点17に係る本件発明1の発明特定事項を採用することが当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、二次加工品の老化耐性を向上させ、さらに麺類においてつるみを有し、加熱調理後のよじれを抑制するという本件発明1の効果は、甲17B、甲18B及びその他の証拠から当業者が予測することができないものである。 ウ 申立人Bの主張について 申立人Bは、甲18Bには、冷蔵保存後、あるいは冷凍保存後、解凍しても、しっとりとした良好な食感が保持される洋菓子類を提供するべく、アミロース合成遺伝子を完全に欠くモチ性小麦粉を1~30重量%含有するように添加することが記載されており、甲17B発明の小麦粉も、スポンジケーキの製造に用いられるものであり、冷蔵等を経てもしっとりとした食感が好ましいことは明らかであるから、甲17B発明において、甲18の記載を参照し、アミロース遺伝子を完全に欠くモチ性小麦粉を添加せしめることは、当業者が容易に想到し得ることである旨を主張している(申立書Bのp.76~77)。 上記主張について検討する。 甲18Bには、冷蔵保存後、あるいは冷凍保存後、解凍しても、しっとりとした良好な食感が保持される洋菓子類を提供することに関し、アミロース合成遺伝子を完全に欠くモチ性小麦粉を1~30重量%含有する、洋菓子類用穀粉が記載されている(請求項1~4、【0005】~【0010】)。 これに対し、甲17Bの解決すべき課題は、「キメが細かく、しっとりとして口溶けが極めて良好で、しかも崩れるような脆さがある、これまでにはない独特な食感を有するスポンジケーキやカステラ等の菓子類が得られる菓子類用小麦粉およびその製造方法を提供すること」(【0006】)であって、甲17Bと甲18Bとは、「洋菓子類用穀粉」という点で技術分野が共通するといえるものの、課題が共通せず、甲17B発明に接した当業者が、その課題に基づいて甲18Bに記載の技術的事項を適用するよう動機付けられるとはいえない。 また、甲17B発明の「チクゴイズミ」はアミロース合成遺伝子の欠失に着目して選択されたものではないし、甲17Bには他の小麦品種を併用することについての記載もない。そして、甲18Bにはモチ性小麦粉以外の他の穀粉成分としては薄力粉等の通常の小麦粉が例示(【0016】-【0019】)されており、アミロース合成遺伝子の欠失に着目して他の穀粉成分を選択することは記載されていない。そうすると、小麦粉組成物において「アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A」及び「アミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦から得られた小麦粉B」の両方を含有するという技術的思想は甲17Bと甲18Bのいずれにも記載も示唆もされておらず、甲17B発明において当該技術的思想を採用することは、本件発明1を知った上での後知恵といわざるを得ない。 そして、二次加工品の老化耐性を向上させ、さらに麺類においてつるみを有し、加熱調理後のよじれを抑制するという本件発明1の効果は、甲17B、甲18B及びその他の証拠から当業者が予測することができないものである。 よって、申立人Bの主張を採用することはできない。 エ 本件発明1についてのまとめ 以上のことから、本件発明1は、甲17B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明3、4、7及び8について 本件発明3、4、7及び8は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。 そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明3、4、7及び8は、甲18B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)申立理由6B(甲17Bを主たる証拠とする進歩性)についてのまとめ 以上まとめると、本件発明1、3、4、7及び8は、甲17B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって、申立理由6B(甲17Bを主たる証拠とする進歩性)により本件発明1、3、4、7及び8についての特許を取り消すことはできない。 6.申立理由2A(サポート要件)について (1)サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)本件発明の課題について 本件明細書の【0006】等の記載からみて、本件発明1~8の課題は「小麦粉二次加工品に用いることで、小麦粉二次加工品の老化耐性を向上させる小麦粉組成物を提供すること」、「特に麺類においては、さらにつるみを有し、加熱調理後のよじれを抑制する小麦粉組成物を提供すること」にあるものと認められる。 (3)本件明細書の記載事項 本件特許の発明の詳細な説明の【0011】には、「本発明の小麦粉組成物は、アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A、及びアミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦から得られた小麦粉Bを含む。本発明の小麦粉組成物を用いることで、老化耐性が向上された小麦粉二次加工品を製造することができる。特に小麦粉二次加工品が麺類である場合は、さらにつるみを有し、加熱調理後のよじれが抑制された麺類を製造することができる。普通小麦は、異質六倍体であり、A、B及びDの3つのゲノムを持つことが知られている。そして、野生型の普通小麦の胚乳澱粉のアミロース合成をつかさどるアミロース合成遺伝子Wx-1は、それぞれのゲノム上に存在し、それぞれWx-A1、Wx-B1及びWx-D1と称されている。本発明において、アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦は、そのWx-A1、Wx-B1及びWx-D1が全て欠失した小麦を意味し、いわゆる「もち性小麦」である。また、アミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦は、Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1の内、2遺伝子(すなわち、Wx-A1及びWx-B1、又はWx-A1及びWx-D1、又はWx-B1及びWx-D1)が欠失した小麦を意味し、いわゆる「低アミロース小麦」である。なお、本発明におけるアミロース合成遺伝子の欠失は、その遺伝子にコードされている顆粒性澱粉合成酵素の発現や機能が低減又は消失したことをいう。後述の実施例で説明する通り、前記小麦粉A及び前記小麦粉Bの組み合わせることで、初めて上記効果が得られる。」と記載され、【0015】には、「本発明の小麦粉組成物は、体積基準の粒子径分布において、粒子径50μm以下の粒子の割合が、好ましくは55%以上であり、より好ましくは60~75%であり、より好ましくは63~72%である。また、本発明の小麦粉組成物は、中心粒子径が好ましくは20~35μmであり、より好ましくは22~33μmであり、さらに好ましくは23~31μmである。」と記載されている。 そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0028】ないし【0052】には、実施例として、アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A、及びアミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦から得られた小麦粉Bを含み、体積基準の粒子径分布において粒子径50μm以下の粒子の割合が61.5~70.1%の小麦粉組成物3~10、小麦粉Aのみを含み粒子径50μm以下の粒子の割合が43.4%の小麦粉組成物1、小麦粉Bのみを含み粒子径50μm以下の粒子の割合が72.1%の小麦粉組成物2、小麦粉Aとアミロース合成遺伝子が一重欠失した小麦から得られた小麦粉を含み粒子径50μm以下の粒子の割合が36.3~39.4%の小麦粉組成物11、12、小麦粉Bとアミロース合成遺伝子が一重欠失した小麦から得られた小麦粉を含み粒子径50μm以下の粒子の割合が63.2%の小麦粉組成物14、小麦粉Aとアミロース合成遺伝子が野生型の小麦から得られた小麦粉を含み粒子径50μm以下の粒子の割合が60.6~64.3%の小麦粉組成物15、16をそれぞれ調製し、小麦粉組成物3~10を用いたうどん及び中華麺はいずれも良好な弾力、粘り、つるみ、及び麺のよじれの抑制を示したのに対し、小麦粉組成物1、11、12を用いたうどん及び中華麺ではつるみ及び麺のよじれの抑制の評価が低く、小麦粉組成物2を用いたうどん及び中華麺では弾力の評価が低く、小麦粉組成物14を用いたうどん及び中華麺では弾力及び麺のよじれの抑制の評価が低く、小麦粉組成物15を用いたうどん及び中華麺では粘り、つるみ及び麺のよじれの抑制の評価が低く、小麦粉組成物16を用いたうどん及び中華麺では弾力、粘り、つるみ及び麺のよじれの抑制の評価が低かったこと、さらに、小麦粉組成物4、5を用いた保存後の餃子は良好な弾力、粘り、つるみを示したこと、小麦粉組成物4、5を用いた保存後のホットケーキは良好なふんわり感を示したことが示されている。 (4)サポート要件についての判断 本件明細書の一般記載並びにその記載を裏付ける実施例の記載に基づいて、当業者は「本件明細書に記載されたアミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A、及びアミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦から得られた小麦粉Bを含み、体積基準の粒子径分布において、粒子径50μm以下の粒子の割合が55%以上である小麦粉組成物」を用いることにより、老化耐性が向上された小麦粉二次加工品を製造することができ、特に小麦粉二次加工品が麺類である場合は、さらにつるみを有し、加熱調理後のよじれが抑制された麺類を製造することができ、発明の課題を解決し得ると認識することができる。 そして、本件発明1は当業者が発明の課題を解決できると認識することができる上記発明に相当する。 してみると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、又は出願時の技術常識に照らして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項をさらに限定した本件発明2~8も、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、又は出願時の技術常識に照らして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 (5)申立人Aの主張について 申立人Aは、上記第3 1.(2)のように、本件発明1~8が小麦粉A及び小麦粉Bを合計で100質量%含む小麦粉組成物であることを特定しておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものとなっている旨を主張している。 上記主張について検討する。 本件特許の発明の詳細な説明の【0013】には、「本発明の小麦粉組成物は、本発明の効果を損なわない限り、前記小麦粉A及び前記小麦粉B以外のその他の小麦粉を含んでいてもよい。本発明の小麦粉組成物に含まれる前記小麦粉Aと前記小麦粉Bの合計量は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、35質量%以上がさらに好ましい。また、本発明の小麦粉組成物は、前記小麦粉A及び前記小麦粉B以外の小麦粉を含まなくてもよい。」との記載があり、さらに実施例として、小麦粉組成物中の小麦粉A及び小麦粉Bの合計含有量が100質量%となるうどんの例(【0030】~【0039】)に加えて、小麦粉A及び小麦粉Bの合計含有量が50質量%となる中華麺の例(【0040】~【0042】)、及び小麦粉A及び小麦粉Bの合計含有量が37.5質量%となる中華麺の例(【0043】~【0045】)のいずれにおいても良好な弾力、粘り、つるみ、及び麺のよじれの抑制を示したことが記載されており、これらの記載に接した当業者は、小麦粉組成物における小麦粉A及び小麦粉Bの合計含有量が100質量%未満の場合であっても「小麦粉二次加工品の老化耐性を向上させ」、「特に麺類においては、さらにつるみを有し、加熱調理後のよじれを抑制する」という課題を解決し得ると認識することができる。本件発明2~8についても同様である。 よって、申立人Aの主張を採用することはできない。 (6)申立理由2A(サポート要件)についてのまとめ 以上のことから、本件発明1~8は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同条同項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。 よって、申立理由2A(サポート要件)により本件発明1~8についての特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおり、本件発明1~8についての特許は、上記のいずれの特許異議申立理由によっても取り消すことはできない。 また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700307

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