特許異議申立
2023-700228
麦芽飲料及びその製造方法
- 審判番号
- 2023-700228
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-097130
- 登録番号
- 7126861
- 請求日
- 2023年02月28日
- 審決日
- 2023年08月31日
- 公報発行日
- 2023年11月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】アサヒビール株式会社
- 【権利者代理人】田中 伸一郎
- 【権利者代理人】▲吉▼田 和彦
- 【権利者代理人】須田 洋之
- 【権利者代理人】山崎 一夫
- 【権利者代理人】服部 博信
- 【権利者代理人】松田 七重
- 【異議申立人】山内 慶子
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 磯貝 香苗
- 審判官 淺野 美奈
- 分類
- P1651.113-YAA(C12C) / P1651.121-YAA(C12C) / P1651.537-YAA(C12C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第17条の2第3項、特許法第113条第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第126条第6項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7126861号発明「麦芽飲料及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7126861号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項10について訂正することを認める。
特許第7126861号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
特許第7126861号の請求項10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7126861号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、
平成30年 5月21日に出願され、
令和 4年 8月19日にその特許権の設定登録(請求項の数 10)がされ、
令和 4年 8月29日に特許掲載公報が発行され、
その後、当該特許に対し、
令和 5年 2月28日に 山内 慶子(以下、「特許異議申立人」という。)が全ての請求項に係る特許に対して特許異議申立てを行い、
令和 5年 5月22日付けで取消理由が通知され、
令和 5年 7月20日に特許権者(アサヒビール株式会社)より訂正請求がなされるとともに意見書が提出されたものである。
なお、下記第2のとおり、令和 5年 7月20日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件訂正前の請求項10の削除のみの訂正であって、特許法第120条の5第5項ただし書に規定された特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるときと判断されるから、当審は特許異議申立人に意見書の提出の機会を与えていない。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和 5年 7月20日にされた訂正請求における訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項10を削除する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書、又は、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項10の削除は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項1に係る請求項10の削除は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正前の請求項1ないし10について特許異議の申立てがされているから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項10について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、「本件特許発明1」のようにいい、まとめて「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書の添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
色度が20°EBC以上であって、
コーヒー由来ポリフェノールと、イソα酸と、を含有し、
総ポリフェノール濃度が、200~1000ppmであり、
前記イソα酸の総量に対するイソコフムロンの割合が、33.0~50.0質量%(ただし、45.0質量%以上を除く。)である、
麦芽飲料。
【請求項2】
前記コーヒー由来ポリフェノールの含有量が、30~900ppmである、
請求項1に記載の麦芽飲料。
【請求項3】
前記イソα酸の含有量が、10~30ppmである、請求項1に記載の麦芽飲料。
【請求項4】
前記イソα酸の総量に対する前記イソコフムロンの割合が、33.0~40.0質量%である、請求項1乃至3のいずれかに記載の麦芽飲料。
【請求項5】
色度が50°EBC以上である、請求項1乃至4のいずれかに記載の麦芽飲料。
【請求項6】
着色麦芽由来物を含有する、請求項1乃至5のいずれかに記載の麦芽飲料。
【請求項7】
前記着色麦芽が黒麦芽を含む、請求項6に記載の麦芽飲料。
【請求項8】
麦芽使用比率が、50%以上である、請求項1乃至7のいずれかに記載の麦芽飲料。
【請求項9】
発酵飲料である、請求項1乃至8のいずれかに記載の麦芽飲料。
【請求項10】
(削除)
第4 特許異議申立書に記載した異議申立理由の概要
令和 5年 2月28日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(新規事項)
本件特許の請求項10に係る特許は、下記の点で特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第1号に該当し取り消すべきものである。
願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲には、発酵前の発酵前後(麦汁)におけるイソコフムロンの割合は全く記載されていない。また、イソα酸の総量に対するイソコフムロンの割合は発酵工程で変化する。
したがって、願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲、及び、技術常識において、発酵液(麦汁)におけるイソコフムロンの割合は当業者にとって自明とはいえない。よって、請求項10の補正は、新規事項を追加する補正である。
2 申立理由2(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(明確性)
本件特許の請求項10の記載は、下記の点について、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許の請求項10に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・請求項10の「原料液」について
本件特許の請求項10における「原料液」とは製造工程のどの段階の原料液を意味するのか明確でない。よって、本件特許発明10は明確でない。
4 申立理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし8及び10の記載は、下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件請求項1ないし8及び10に係る特許は、特許法第第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・非発酵の麦芽飲料及びその製造方法について
本件特許発明の課題は、本件特許明細書【0005】に記載されているとおり「濃色の麦芽飲料において、渋味を抑制し、キレを向上させる技術を提供すること」である。
本件特許明細書【0015】には、麦芽飲料は発酵飲料であっても非発酵飲料であってもよいと記載されており、本件特許発明1ないし8及び10は非発酵の麦芽飲料及びその製造方法を含む発明と解される。
しかしながら、発酵工程を経ていない麦芽飲料は麦芽に由来する糖がそのまま存在しており糖度が極めて高く、課題が解決できない飲料であることは明らかである。
甲9に記載のとおり、麦芽と温水が混合されて得られた麦汁はビールとはほど遠い甘みがあるだけの液体であり、渋みを抑制しキレが向上した飲料とは到底いえないものである。
また、甲9に記載のとおり、麦汁に含まれる糖分は発酵工程で添加された酵母が分解しアルコールや炭酸ガスに変化する。
このように発酵工程によって、麦汁に含まれる糖分が資化されてビールの複雑な風味が形性されることになる。
しかしながら、本件特許発明1ないし8及び10は、非発酵の麦芽飲料及びその製造方法を含む発明であり、非発酵の麦芽飲料は発酵工程において糖分が資化されることがないから、ビールとはほど遠い甘みがあるだけの液体である。
したがって、本件特許発明1ないし8及び10に含まれる発酵工程を経ていない麦芽飲料は「渋味を抑制し、キレを向上させる技術を提供する」という課題を解決できない。
5 証拠方法
甲第1号証:世界のウェブアーカイブ|ADVANCED BREWINGウェブサイトに掲載された「ビールキットC」の商品紹介のアーカイブ、2017年、[オンライン]、URL:http://web.archive.org/web/20170825051359/http://advanced-brewing.com/0_kitc.html
甲第2号証:J. Agric.Food Chem.、2009年、57(4)、pp.1253-1259
甲第3号証:「醸造物の成分」、日本醸造協会編、平成11年12月10日発行、181頁~183頁、252頁~254頁
甲第4号証-1:D?borah Arduiniのウェブサイト(2022年4月5日)(ビールの色度に関する写真)URL:https://cervejeirauai.com/tag/european-brewing-convention/
甲第4号証-2:D?borah Arduiniのウェブサイト(D?borah Arduiniの紹介)URL:https://cervejeirauai.com/sobre-mim/
甲第5号証:世界のウェブアーカイブ|Specialty Coffee Associationof Americaのウェブサイトに掲載された「SCAA Standard | Golden Cup」のアーカイブ、[オンライン]、URL:https://web.archive.org/web/20171113192651/http://scaa.org/PDF/resources/golden-cup-standard.pdf
甲第6号証:Czech J. Food Sci.、2015年、33、261頁~266頁
甲第7号証:改訂BCOJビール分析法、ビール酒造組合 国際技術委員会〔分析委員会〕編 2013年 増補改訂、7.2エキス 1/10~10/10頁
甲第8号証:ビールの基本技術、ビール酒造組合 国際技術委員会(BCOJ)編、平成22年4月20日三版改訂、46頁~47頁
甲第9号証:「その飲み方がビールのおいしさを損なう理由 東洋経済オンライン」(2015年7月17日)、(2023年2月20日検索)
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第5 取消理由に通知した取消理由の概要
当審が令和 5年 5月22日付けで通知した取消理由通知における取消理由の概要は次のとおりである。
取消理由(新規事項)
本件特許の請求項10に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第1号に該当し取り消すべきものである。
第6 令和 5年 5月22日付けで特許権者に通知した取消理由についての判断
上記第2 本件訂正により、取消理由の対象となる請求項10が削除されたため、令和 5年 5月22日付けで特許権者に通知した取消理由(新規事項)はその対象がなくなった。
第7 取消理由において採用しなかった申立理由についての当審の判断
以下に記載するように、取消理由において採用しなかった特許異議申立人の申立理由については、そのいずれにも理由がないと判断する。
1 申立理由2(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲1の記載事項等
ア 甲1の記載事項
甲1には、ポータービール等のビールの製造キットについて次の記載がある。
「
[図:0001403677000001.jpg]
」(第1頁)
「
[図:0001403677000002.jpg]
」(第8頁)
イ 甲1に記載された発明
甲1のC09:カフェポーターにより製造されるポータービールを中心に整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「ブルワリーと同じ材料、方法で、コーヒー豆を加えて仕込むポーターであり、仕込み量1リットルあたり、10g~20gの荒く挽いたコーヒー豆を別途用意し、煮込み終了後にアロマ・フレイバーホップと共にウォートに加えて製造したポーター。」
イ 甲4の記載事項
甲4には、ビールの色度について次の記載がある。なお、甲4は外国語のため抄訳を摘記する。
「
[図:0001403677000003.jpg]
」(第4頁)
(2)検討
ア 本件特許発明1についての対比・判断
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「ポーター」は、「アロマ・フレイバーホップと」「ウォート(麦汁)」とから製造される飲料であるから、本件特許発明1における「麦芽飲料」に相当する。
甲1発明においては、「1リットルあたり、10g~20gの荒く挽いたコーヒー豆」が「煮込み終了後」に「アロマ・フレイバーホップと共にウォートに加え」られているから、甲2を参照すると、コーヒー豆由来のポリフェノールが少なくとも含まれている。したがって、甲1発明は本件特許発明1の「コーヒー由来ポリフェノール」「を含有し」との特定事項を満たす。
甲1発明は「煮込」んだ「ホップ」が用いられた「ポーター」ビールであるから、甲3を参照すると、ホップ中のα酸が煮沸工程で熱により異性化して生成するイソα酸が含まれている。したがって、甲1発明は本件特許発明1の「イソα酸と、を含有し」との特定事項を満たす。
また、甲4の写真から、甲1発明におけるポーターは、本件特許発明1の「色度が20°EBC以上」との特定事項を満たすと認められる。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「色度が20°EBC以上であって、コーヒー由来ポリフェノールと、イソα酸と、を含有する麦芽飲料。」
<相違点1>
本件特許発明1は、総ポリフェノール濃度が200~1000ppmであるとの特定を有するのに対し、甲1発明においてはそのような特定を有さない点。
<相違点2>
本件特許発明1は、イソα酸の総量に対するイソコフムロンの割合が、33.0~50.0質量%(ただし、45.0質量%以上を除く。)との特定を有するのに対して、甲1発明においてはそのような特定を有さない点。
事案に鑑み、相違点2について検討する。
特許異議申立人の提出した甲3の第4表には、原料にホップが用いられた若ビールに含まれる総イソα酸とイソコフムロンの含有量の一例が記載されている。しかしながら、イソα酸及びイソコフムロンの含有量は、使用されるホップの種類及び醸造条件により変化するため、甲1発明のイソα酸及びイソコフムロンの含有量は、甲3の第4表の数値から直ちに特定することはできない。したがって、相違点2は実質的な相違点である。
よって、本件特許発明1は甲1発明ではない。
そして、甲1及び他の全ての証拠をみても、甲1発明において、イソα酸の総量に対するイソコフムロンの割合を33.0~50.0質量%(ただし、45.0質量%以上を除く。)とすることについて、動機となる記載はない。
したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
本件特許発明1は、イソα酸の総量に対するイソコフムロンの割合を33.0~50.0質量%(ただし、45.0質量%以上を除く)とすることより、渋味がより抑えられ、よりキレに優れた飲料を得ることができるという顕著な効果を有している。
よって、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2ないし9についての対比・判断
本件特許発明2ないし9は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
したがって、本件特許発明2ないし9は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3) 申立理由2(甲1に基づく新規性・進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、特許法第29条第2項に該当しないから、本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、特許法第113条第2項に該当しない。
よって、申立理由2によって本件特許を取り消すことはできない。
2 申立理由3(明確性)について
上記第2 本件訂正により、申立理由の対象となる請求項10が削除されたため、申立理由3(明確性)はその対象がない。
よって、申立理由3によって本件特許を取り消すことはできない。
3 申立理由4(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下に検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明の【0005】には、「濃色の麦芽飲料では、黒麦芽等の着色麦芽が使用される結果、濃醇な香り、特に麦芽臭が強くなりやすい。その結果、香味のバランスが崩れ、渋味が目立ちやすく、キレに劣る飲料になりやすい。そこで本発明の課題は、濃色の麦芽飲料において、渋味を抑制し、キレを向上させる技術を提供することにある。」と記載されている。
本件特許の発明の詳細な説明の【0006】には本件特許発明1ないし8の各発明特定事項に対応する事項について記載されている。
本件特許の発明の詳細な説明の【0008】には麦芽飲料の色度について、同【0011】ないし【0012】には色度が20°ECB以上である麦芽飲料を得るための着色麦芽について、同【0014】には麦芽飲料の麦芽使用比率について、同【0015】には麦芽飲料が発酵飲料であっても非発酵飲料であってもよいことについて、それぞれ記載されている。
さらに本件特許の発明の詳細な説明の【0018】には麦芽飲料の総ポリフェノールについて、同【0019】にはコーヒー由来ポリフェノールの添加について、同【0020】ないし【0023】には、イソα酸とイソコフムロンについて記載されている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0025】ないし【0055】には、色度20°ECB以上の濃色の麦芽飲料において、コーヒー由来ポリフェノールが添加された麦芽飲料が具体的に製造され、これら麦芽飲料における総ポリフェノール濃度と、イソα酸の総量に対するイソコフムロンの割合に対する渋味の抑制の程度、キレの向上、飲料としての総合評価を検討した実施例・比較例が記載されている。
(4)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明【0005】によると、本件特許発明が解決しようとする課題は(以下、「発明の課題」という。)、「濃色の麦芽飲料において、渋味を抑制し、キレを向上させる技術を提供すること」である。
当該発明の課題の解決手段として、本件特許の発明の詳細な説明【0008】に「色度が20°ECB以上である麦芽飲料は、」「渋味が強く、キレが少ない飲料になりやすい。これに対して、本実施態様では、コーヒー由ポリフェノールが添加されており、総ポリフェノール濃度が200~1000ppmに調整されているため、渋味が抑えられ、キレが増強された飲料となる。」こと、同【0019】には「コーヒー由来ポリフェノールを含有することにより、渋味を抑制し、キレを高めることができる。」ことが記載されている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0025】ないし【0055】の【表2】においてはECB110°、イソコフムロン比率47%の濃色ビールにおいて、総ポリフェノールが200~1000ppmの範囲となるようにコーヒーエキスが添加された麦芽飲料においては、渋味が低減され、キレが向上されていることが示されており、同【表4】においては、ECB20°でイソコフムロン比率33%の中濃色の麦芽飲料において、総ポリフェノール濃度が300~900ppmの場合に、渋味が低減され、キレが向上する結果が示されており、同【表5】においてはECB200°でイソコフムロン比率が33%の濃色の麦芽飲料においても、総ポリフェノール濃度が300~900ppmの場合に、渋味が低減され、キレが向上する結果が示されている。
そうすると、当業者は、色度が20°ECB以上であって、コーヒー由来ポリフェノールを添加し、総ポリフェノール濃度が200~1000ppmである麦芽飲料であれば、発明の課題を解決することができると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし8は、発明の課題を解決できると認識できる上記「麦芽飲料」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし8は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発であり、本件特許の発明の詳細な説明により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1ないし8に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(5)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件特許発明1ないし8は非発酵の麦芽飲料及びその製造方法を含む発明であるところ、発酵工程を経ていない非発酵の麦芽飲料は、麦芽に由来する糖がそのまま存在して糖度が極めて高く、「渋味を抑制し、キレを向上させる技術を提供する」という課題がない旨主張している。
これについて、本件特許の発明の詳細な説明【0003】には「濃色麦芽を含んだ麦芽由来の麦汁と、着色料と、を含む麦芽非発酵飲料であって、エタノール含有量が1体積%未満であり、麦汁由来の色度に対する着色料由来の色度の比率が特定の範囲にあり、麦汁由来の色度が20以上」である「麦芽非発酵飲料」が従来より知られることが記載され、同【0005】には「ところで、濃色の麦芽飲料では、黒麦芽等の着色麦芽が使用される結果、濃醇な香り、特に麦芽臭が強くなりやすい。その結果、香味のバランスが崩れ、渋味が目立ちやすく、キレに劣る飲料になりやすい」ことが記載されている。
このように、濃色の麦芽飲料における渋味とキレの課題は、麦芽非発酵飲料においても存在し、本件特許発明1ないし8は当該課題を解決するものであることは、上記(4)のとおりである。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
(6)申立理由4(サポート要件)についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第4号に該当しない。
よって、申立理由4によって本件特許を取り消すことはできない。
第8 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立理由によって取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
なお、本件特許の請求項10に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項10に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700228