特許異議申立
2022-700981
発泡性発酵麦芽飲料の噴きの発生抑制方法
- 審判番号
- 2022-700981
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-068131
- 登録番号
- 7048791
- 請求日
- 2022年10月05日
- 審決日
- 2023年03月17日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】アサヒビール株式会社
- 【権利者代理人】棚井 澄雄
- 【権利者代理人】大槻 真紀子
- 【異議申立人】山内 慶子
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 磯貝 香苗
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.121-Y (C12C) / P1651.537-Y (C12C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7048791号発明「発泡性発酵麦芽飲料の噴きの発生抑制方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7048791号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7048791号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、
令和 2年 9月10日に出願された特願2020-152205号をもとの特許出願として、その一部を、
令和 3年 4月14日に分割して新たな特許出願とし、
令和 4年 3月28日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、
令和 4年 4月 5日に特許掲載公報が発行され、
令和 4年10月 5日に山内慶子(以下、「特許異議申立人」という。)により全ての請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、まとめて「本件特許発明」という。)は、ぞれぞれ、特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
ホップを原料としない発泡性発酵麦芽飲料の開栓時の噴きの発生を抑制する方法であって、
少なくとも麦芽及び水を原料とし、ホップを原料とせずに麦汁を調製する仕込工程と、
前記麦汁を酵母により発酵させて発酵液を得る発酵工程と、
前記麦汁又は前記発酵液中のポリフェノール濃度を5w/w%以上減少させる低減工程と、
を有し、
前記低減工程を、前記麦汁又は前記発酵液の濾過処理により行い、
前記濾過処理において、ポリビニルポリピロリドンを使用し、
前記低減工程後の麦汁又は発酵液のポリフェノール濃度を、120mg/L以下とする、
発泡性発酵麦芽飲料の噴きの発生抑制方法。
【請求項2】
原料中における麦芽比率が50~100w/w%である、請求項1に記載の発泡性発酵麦芽飲料の噴きの発生抑制方法。
【請求項3】
前記麦汁のエキスが9~15w/w%である、請求項1又は2に記載の発泡性発酵麦芽飲料の噴きの発生抑制方法。
【請求項4】
前記低減工程において、前記麦汁又は前記発酵液中のポリフェノール濃度を10w/w%以上減少させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の発泡性発酵麦芽飲料の噴きの発生抑制方法。
【請求項5】
前記発泡性発酵麦芽飲料の全窒素量が400~800mg/Lである、請求項1~4のいずれか一項に記載の発泡性発酵麦芽飲料の噴きの発生抑制方法。
第3 特許異議申立書に記載した申立理由の概要
令和 4年10月 5日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載された申立理由は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の原出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その原出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第3号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の原出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、その原出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
具体的理由は概ね次のとおりである。
・ポリフェノール以外の要因について
噴きの原因としてはポリフェノール以外の不溶性物質等の核が原因となるのであり、ポリフェノール濃度等だけを限定しても噴きを抑制できない。よって、ポリフェノール濃度等だけを限定している請求項1ないし5に係る発明は発明の課題を解決することができない態様を含む。
・麦汁エキスの濃度について
麦汁エキスが高濃度になれば、ポリフェノール等の核となる不溶物質の濃度も上昇して安定性が低下し、噴きが引き起こされやすくなることは明らかであるところ、麦汁のエキス濃度が限定されていない請求項1、2、4、5に係る発明と、麦汁のエキス濃度の最大値が15w/w%の請求項3に係る発明は発明の課題を解決することができない態様を含む。
・麦汁をポリビニルポリピロリドン処理する態様について
麦汁についてポリビニルポリピロリドン処理をする条件及びこのようにして製造された飲料については発明の詳細な説明に記載がない。麦汁についてポリビニルポリピロリドン処理された飲料については噴きが抑制される理由も発明の詳細な説明に説明されていない。よって麦汁についてポリビニルポリピロリドン処理する態様を含む請求項1ないし5に係る発明は本願明細書に記載されたものではない。
4 証拠方法
以下の証拠が提出された。
甲第1号証:特許第6719626号公報
甲第2号証:醸造物の成分、平成11年12月10日発行、財団法人日本醸造協会編、p.281
甲第3号証:BREWING INDUSTRY RESEARCH FOUNDATION(SOME OBSERVATIONS ON THE TREATMENT OF GUSHING BEERS WITH NYLON POWDER)、1962年、J.R.Hudson、Ph.D.,F.R.I.C、p.460-466
甲第4号証:Evaluation of Rapid Colloidal Stabilization with Polyvinylpolypyrrolidone(PVPP),Journal of the American Society of Brewing Chemists,55:2,38-43(1997)
甲第5号証:お酒のはなし(酒類総合研究所情報誌 平成15年7月4日第4号)
甲第6号証:生活におけるタンニン類の利用(生活工学研究 第2巻 第1号(2000)、p.108-109
甲第7号証:特表2002-515236号公報
甲第8号証:特表2004-522438号公報
甲第9号証:特表2009-542238号公報
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
以下に記載するように、特許異議申立人の申立理由にはいずれにも理由がないと判断する。
1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には「ビールテイスト飲料、およびビールテイスト飲料の製造方法」として、おおむね次の事項が記載されている。
「【請求項1】
イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下、全窒素量が40~200mg/100mL、総ポリフェノール量が30~180質量ppm、リナロールの含有量が20~1200質量ppb、および、全窒素量(mg/100mL)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.35~3.0であるビールテイスト飲料。」
「【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のビールテイスト飲料を製造する方法であって、
水および麦芽を含む原料に、酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程を有する、ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項7】
ホップを配合する工程を有しない、請求項6に記載のビールテイスト飲料の製造方法。」
「【0064】
ビールテイスト飲料の官能評価(実施例1~3、比較例1、2)
粉砕した大麦麦芽を温水120Lが入った仕込槽に投入した後、段階的に温度を上げて保持し、ろ過して麦芽粕を除去した。その後、当該原料液を煮沸釜に投入し、温水で100Lに調整して熱麦汁を得た。熱麦汁を冷却し、酸素による通気を実施することで酵母添加前の発酵前液60Lを得た。
【0065】
このようにして得られた発酵前液を煮沸してから冷却した後、得られた発酵もろみにビール酵母(下面発酵酵母)を添加して約1週間発酵させた後、さらに約1週間の熟成期間を経て、酵母をろ過で除去して、エキス調整水およびリナロールを添加しビールテイスト飲料を調製した。なお、このようにして得られた飲料は、容器に詰めた後、加熱殺菌を実施した。
得られたビールテイスト飲料における全窒素量、総ポリフェノール量、イソα散の含有量および原麦汁エキス濃度は表2に記載のとおりであり、いずれもpHは4.0未満であった。
【0066】
ビールテイスト飲料の官能評価(実施例4~6、比較例3、4)
粉砕した大麦麦芽を温水120Lが入った仕込槽に投入した後、段階的に温度を上げて保持し、ろ過して麦芽粕を除去した。その後、当該原料液を煮沸釜に投入し、麦芽比率70質量%になるように糖液を添加し温水で100Lに調整して熱麦汁を得た。熱麦汁を冷却し、酸素による通気を実施することで酵母添加前の発酵前液60Lを得た。
【0067】
このようにして得られた発酵前液を、実施例1~3と同様に処理してビールテイスト飲料を調製した。なお、このようにして得られた飲料は、容器に詰めた後、加熱殺菌を実施した。
このようにして得られたビールテイスト飲料における全窒素量、総ポリフェノール量、イソα散の含有量および原麦汁エキス濃度は表3に記載のとおりであり、いずれもpHは4.0未満であった。」
「【0076】
【表3】
[図:0001396295000001.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
上記アの実施例4についてまとめると、甲1には、ビールテイスト飲料の製造方法として次の発明が記載されていると認める(以下、「甲1発明」という。)。
<甲1発明>
「イソα酸の含有量が0.1質量ppm、全窒素量が122.6mg/100mL、総ポリフェノール量が112.6質量ppm、リナロールの含有量が50質量ppbであるビールテイスト飲料を製造する方法であって、水および麦芽を含む原料に、酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程を有する、ビールテイスト飲料の製造方法。」
(2)本件特許発明についての対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「水および麦芽を含む原料に、酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程を有」する「ビールテイスト飲料の製造方法」は、本件特許発明1における「少なくとも麦芽及び水を原料とし、麦汁を調整する仕込工程と、前記麦汁を発酵させて発酵液を得る発酵工程」を有する「発泡性発酵麦芽飲料」の方法に相当する。
また、甲1発明のビールテイスト飲料の製造方法では、その原料としてホップを用いていないことから、甲1発明のビールテイスト飲料の製造方法は、本件特許発明1における「ホップを原料とせずに麦汁を調整する」との発明特定事項を満たす。
さらに、甲1発明における「総ポリフェノール量が112.6質量ppm」は、本件特許発明1における「発酵液のポリフェノール濃度」が「120mg/L以下」との発明特定事項を満たすことも明らかである。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ホップを原料としない発泡性発酵麦芽飲料の方法であって、少なくとも麦芽及び水を原料とし、ホップを原料とせずに麦汁を調整する仕込工程と、前記麦汁を酵母により発酵させて発酵液を得る発酵工程と、発酵液のポリフェノール濃度を、120mg/L以下とする、発泡性発酵麦芽飲料の方法。」
<相違点1-1>
本件特許発明1においては、発泡性発酵麦芽飲料の「開栓時の噴きの発生を抑制する」方法であるのに対し、甲1発明においてはそのような特定はない点。
<相違点1-2>
本件特許発明1においては、麦汁又は発酵液中のポリフェノール濃度を5w/w%以上減少させる低減工程を有し、前記低減工程を前記麦汁又は前記発酵液の濾過処理により行い、前記濾過処理において、ポリビニルピロリドンを使用するとの特定を有するのに対し、甲1発明においてはそのような特定はない点。
相違点1-1について検討する。
甲1には発泡性発酵麦芽飲料の噴きに関する記載はなく、噴きを抑制するという動機がない。
したがって、甲1発明において、相違点1-1に係る発明特定事項とすることは、当業者といえども容易になし得たものであるとはいえない。
してみると、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由1(甲1に基づく進歩性)についてのまとめ
申立理由1(甲1に基づく進歩性)はその理由がない。
2 申立理由2(甲3に基づく進歩性)について
(1)甲3に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項
甲3には以下の記載がある。なお、甲3は外国語文献のため訳文のみ摘記する。また、下線は説明のために当審にて付したものである。
「使用されたビールはニッケルを非常に高濃度で含有しており、当初発生した激しい噴きの唯一の原因とは考えにくかったため、ニッケルに起因すると断定できる噴きがナイロンでろ過することによって抑えられるかどうか、3度目の検証を行った。そこで、Foundationパイロットビール工場からの通常の安定なビール(10gal.)をニッケル(5p.p.m)で処理し、2つの部分に分割し、そのうちの1つを、瓶詰めおよび低温殺菌の前にナイロンを用いて濾過した。各バッチからのボトルの半分を、ヘッドスペース内の空気の量を最小限にするために充填時にフォビングし、残りをフォビングしないままにした。続いて、ボトルを15℃で保存し、試料を定期的に採取し、20℃で時間加熱し、開封前後に秤量し、表IIIの結果を得た。」
(第462頁左欄下から第14行~同頁右欄第7行)
「苦味化合物以外のホップ物質が噴きに何らかの影響を及ぼすかどうかを試験し、ニッケルおよびイソフムロンの別々の影響を評価するために、原材料にホップが用いられていないビールのバッチをニッケル、イソフムロンAおよびニッケルイソフムロンA複合体で処理した。再び、ビールの半分をナイロン粉末を通して濾過し、試験下の種々の物質の添加をボトリングで行い、種々の処理および結果を表IVに示す一連の試料を得た。ニッケルを含有しないこれらのシリーズからの試料が噴出しなかったことが明らかになったとき、噴出が誘導され得るかどうかを見出すために、Thorne HelmおよびGray Stone試験を使用した(表V)。」
(第462頁右欄第8行~同頁右欄下から第14行)
「ビールをナイロンで処理すると、アントシアノーゲンの含有量が減少し、その一部は大麦に由来するので、大麦アントシアノーゲンの溶液が噴きを招くかどうかについて調査した。これらの物質の化学的性質は、麦芽製造および醸造中に変化する可能性があるにもかかわらず、幾つかの形態の過剰発泡が欠陥のある大麦の麦芽から生じ得るという示唆(上記参照)を考慮すると、噴きと大麦アントシアノーゲンとの間のいかなる関係も興味深い。」
(第462頁右欄下から第13行~同頁右欄末行)
「
[図:0001396295000002.jpg]
」
(第464頁上欄)
イ 甲3に記載された発明
上記ア.の記載から、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。
<甲3発明>
「原材料にホップが用いられておらず、大麦を使用するビールの開栓時の噴きの発生を抑制する方法であって、ビールのアントシアノーゲンの含有量を減少させるために、ビールをナイロンで処理する方法。」
(2)本件特許発明についての対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明における「原材料にホップが用いられておらず、大麦を使用するビールの噴きの発生を抑制する方法」は、本件特許発明1における「ホップを原料としない発泡性発酵麦芽飲料の噴きの発生を抑制する方法」に相当する。
甲3発明における「ビールをナイロンで処理する」構成は、本件特許発明1における「発酵液の濾過処理」に相当する。
また、甲3発明のビールは、原料にホップが用いられておらず、かつ、大麦を使用するものであるから、本件特許発明1の「少なくとも麦芽及び水を原料とし、」「麦汁を調整する仕込工程と、前記麦汁を酵母により発酵させて発酵液を得る発酵工程」により製造するとの発明特定事項を満たす。
そうすると、本件特許発明1と甲3発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ホップを原料としない発泡性発酵麦芽飲料の開栓時の噴きの発生を抑制する方法であって、少なくとも麦芽及び水を原料とし、ホップを原料とせずに麦汁を調整する仕込工程と、前記麦汁を酵母により発酵させて発酵液を得る発酵工程と、前記発酵液の濾過処理を行う、発泡性発酵麦芽飲料の噴きの発生抑制方法。」
<相違点3-1>
本件特許発明1においては、麦汁又は発酵液のポリフェノール濃度を5w/w%以上減少させる低減工程を有し、低減工程はポリビニルポリピロリドンを使用した濾過処理により行うとの特定を有するのに対し、甲3発明においてはそのような特定はない点。
<相違点3-2>
本件特許発明1においては、低減工程後の麦汁又は発酵液のポリフェノール濃度を、120mg/L以下にするとの特定を有するのに対して、甲3発明においてはそのような特定はない点。
事案に鑑み、相違点3-2について検討する。
甲3においては、アントシアノーゲン濃度についての言及はあるが、アントシアノーゲン以外の、すなわち、フラバン-3,4-ジオール類以外のポリフェノールの総濃度を調整し、低減工程後の麦汁又は発酵液のポリフェノール濃度を120mg/L以下とすることについて示唆はない。
したがって、甲3発明において、相違点3-2に係る発明特定事項とすることは、当業者といえども容易になし得たものであるとはいえない。
してみると、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由2(甲3に基づく進歩性)についてのまとめ
申立理由2(甲3に基づく進歩性)はその理由がない。
3 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、以下に検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
本件特許の発明の詳細な説明【0006】ないし【0007】の記載によると、本件特許発明1ないし5の解決しようとする課題は(以下、「発明の課題」という。)は、「ホップを原料としない発泡性発酵麦芽飲料であって、飲料の安定性が高く、開栓時の噴きが抑えられている発泡性発酵麦芽飲料を製造する方法を提供すること」である。
そして、本件特許の発明の詳細な説明【0015】には、本件特許発明に係る発泡性発酵麦芽飲料の製造方法について記載され、同【0016】には、ホップを原料としないことについて記載されている。
また、本件特許の発明の詳細な説明【0022】には麦汁中のポリフェノールと麦汁エキスについて記載されており、同【0032】ないし【0035】にはポリフェノールの低減工程について記載されている。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明【0044】ないし【0065】には、ホップを原料とせず、少なくとも麦芽及び水を原料とする発泡性麦芽発酵飲料において、ポリビニルポリピロリドンを使用したポリフェノール低減工程を経た発泡性発酵麦芽飲料において、発酵液中のポリフェノール濃度が5w/w%以上減少され、低減工程後の発酵液のポリフェノール濃度を120mg/L以下とした例において、飲料の安定性(噴き試験)が良好であったことが記載されている。
そうすると、当業者は、ホップを原料としない発泡性発酵麦芽飲料であって、少なくとも麦芽及び水を原料とし、ホップを原料とせずに麦汁を調整する仕込工程と、麦汁を酵母により発酵させて発酵液を得る発酵工程を経て製造される発泡性発酵麦芽飲料において、麦汁又は発酵液中のポリフェノール濃度を5w/w%以上減少させる低減工程として、ポリビニルポリピロリドンを使用した濾過処理を行い、低減工程後の麦汁又は発酵液のポリフェノール濃度を、120mg/L以下とすることにより、発泡性発酵麦芽飲料の噴きの発生を抑制することができること、すなわち、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし5は、上記発明の課題を解決できると認識できる全ての特定事項を有するものであるから、当然、発明の課題を解決できるものである。
よって、本件特許発明1ないし5は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できる範囲のものであるといえる。
本件特許発明1ないし5に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 3の主張について検討する。
特許異議申立人は、特許異議申立書において要するに、噴きの原因はポリフェノール以外の不溶性物質等の核によるものがあること、麦汁エキスの濃度にも依存すること、麦汁についてPVPP処理した例の記載がないことなどをあげ、本件特許発明1ないし5では、発明の課題を解決できない部分を含む旨主張する。
しかしながら、上記(2)でも検討したとおり、少なくともPVPPを使用してポリフェノールを低減する工程を経たものは、ポリフェノールを低減しなかったものに比べて、開栓時の噴きの発生を抑制できること、すなわち、発明の課題を解決するものであることは、当業者であれば認識できるものであるから、特許異議申立人の上記主張はいずれも判断に影響するものではない。
(4)申立理由3(サポート要件)についてのまとめ
申立理由3(サポート要件)はその理由がない。
第5 むすび
上記第4のとおり、本件特許発明1ないし5に係る発明は、特許異議申立書に記載した特許異議申立の理由によって取り消すことはできず、また、他に取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700981