特許異議申立
2023-700004
非発酵ビール様発泡性飲料に飲み応えを付与する方法
- 審判番号
- 2023-700004
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-211617
- 登録番号
- 7096320
- 請求日
- 2023年01月05日
- 審決日
- 2023年07月06日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】アサヒビール株式会社
- 【権利者代理人】西澤 和純
- 【権利者代理人】大槻 真紀子
- 【権利者代理人】伊藤 英輔
- 【権利者代理人】棚井 澄雄
- 【異議申立人】山内 慶子
- 審判長/審判官
- 審判長 磯貝 香苗
- 審判官 三上 晶子
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-YAA(A23L) / P1651.121-YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7096320号発明「非発酵ビール様発泡性飲料に飲み応えを付与する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7096320号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔5、6〕について訂正することを認める。
特許第7096320号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7096320号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成28年12月15日に出願した特願2016-243662号の一部を令和2年12月21日に新たな特許出願としたものであって、令和4年6月27日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年7月5日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和5年1月5日に特許異議申立人 山内 慶子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし6)がされ、令和5年3月13日付けで取消理由が通知され、同年5月12日に特許権者 アサヒビール株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされるとともに意見書の提出がされ、同年同月18日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を特許異議申立人に対して行ったところ、同年6月22日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。
(1)訂正事項
特許請求の範囲の請求項5に、
「ステビオール配糖体と、0.01~0.03g/Lのイソα酸とを含有し、
ステビオール配糖体の含有量が、0.01~0.08g/Lであり、
イソα酸の含有量に対するイソコフムロンの含有量の割合が26質量%以上であり、イソα酸の含有量に対するイソノルマルフムロンの含有量の割合が63質量%以下であることを特徴とする、非発酵ビール様発泡性飲料。」と記載されているのを、
「ステビオール配糖体と、0.01~0.03g/Lのイソα酸とを含有し、
ステビオール配糖体の含有量が、0.01~0.08g/Lであり、
イソα酸の含有量に対するイソコフムロンの含有量の割合が26質量%以上であり、イソα酸の含有量に対するイソノルマルフムロンの含有量の割合が63質量%以下であり、
前記ステビオール配糖体が、酵素処理ステビアであることを特徴とする、非発酵ビール様発泡性飲料。」に訂正する。
請求項5の記載を引用して特定する請求項6も同様に訂正する。
(2)一群の請求項について
訂正前の請求項5、6について、請求項6は請求項5の記載を引用して特定するものであるから、請求項5、6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
・訂正事項について
訂正事項に係る請求項5の訂正は、訂正前の請求項5の「ステビオール配糖体」を、「酵素処理ステビア」に限定するものである。
したがって、訂正事項に係る請求項5の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の【0013】、【0014】及び実施例の記載からみて、当該訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する他の請求項についても同様である。
3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、訂正前の請求項5、6は一群の請求項に該当するものであるから、本件訂正による請求項5、6についての訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
なお、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし6に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔5、6〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、令和5年5月12日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
糖質含有量が2.0g/100mL未満であり、0.01~0.03g/Lのイソα酸を含有する非発酵ビール様発泡性飲料に飲み応えを付与する方法であって、
前記非発酵ビール様発泡性飲料のイソα酸の含有量に対するイソコフムロンの含有量の割合が26質量%以上であり、イソα酸の含有量に対するイソノルマルフムロンの含有量の割合が63質量%以下であり、
ステビオール配糖体を含有させることを特徴とする、非発酵ビール様発泡性飲料に飲み応えを付与する方法。
【請求項2】
ステビオール配糖体の含有量が、ショ糖換算した含有量で1~15g/Lとなる量である、請求項1に記載の非発酵ビール様発泡性飲料に飲み応えを付与する方法。
【請求項3】
さらに、水溶性食物繊維を含有させる、請求項1又は2に記載の非発酵ビール様発泡性飲料に飲み応えを付与する方法。
【請求項4】
前記非発酵ビール様発泡性飲料が、アルコールを含まない、請求項1~3のいずれか一項に記載の非発酵ビール様発泡性飲料に飲み応えを付与する方法。
【請求項5】
ステビオール配糖体と、0.01~0.03g/Lのイソα酸とを含有し、
ステビオール配糖体の含有量が、0.01~0.08g/Lであり、
イソα酸の含有量に対するイソコフムロンの含有量の割合が26質量%以上であり、イソα酸の含有量に対するイソノルマルフムロンの含有量の割合が63質量%以下であり、
前記ステビオール配糖体が、酵素処理ステビアであることを特徴とする、非発酵ビール様発泡性飲料。
【請求項6】
さらに、起泡剤を含有する、請求項5に記載の非発酵ビール様発泡性飲料。」
第4 特許異議の申立ての理由の概要
令和5年1月5日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の原出願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の原出願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その原出願の出願日前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・「本件発明の課題は、「天然の高甘味度甘味料を用いて糖質含有量を抑えつつ、飲みごたえと後味のしまりの両方が良好な非発酵ビール様発泡性飲料及びその製造方法を提供すること」である。
本件実施例において、特定の原料を用いて特定の製法により得られた非発酵ビール様発泡性飲料について、糖質含有量、イソα酸の含有量、イソα酸の含有量に対するイソコフムロンおよびイソノルマルフムロンの含有量の割合、およびステビオール配糖体の含有量が、本件発明1もしくは5で規定する数値範囲を満たし、上記課題を解決するものであるとされている。
しかしながら、特定の原料を用いて特定の製法により得られた、飲料の糖質含有量、イソα酸およびステビオール配糖体の含有量を特定の範囲である非発酵ビール様発泡性飲料が、飲みごたえおよび後味のしまりが良好であることのみをもって、飲料の糖質含有量、イソα酸およびステビオール配糖体の含有量が特定の範囲内であれば、原料の種類や、他の成分およびその含有量がどのような場合であっても、上記課題が解決できるとは認められない。
そのため、本件発明1および5は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであり、いわゆるサポート要件を満たさない。本件発明2~4および6についても同様である。」
4 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2015/132974号
甲第2号証:一般財団法人 食品分析開発センターSUNATECのウェブサイト、「食品表示基準における熱量の算出方法」、令和4年12月26日(検索日)、http://www.mac.or.jp/mail/180501/03.shtml
甲第3号証:醸造物の成分、252頁、平成11年12月10日、財団法人日本醸造協会
甲第4号証:ステビア抽出物中ステビオール配糖体の分析、平成24年6月、株式会社島津製作所
甲第5号証:特開2016-7138号公報
甲第6号証:国際公開第2013/080354号
甲第7号証:特開2003-47453号公報
甲第8号証:「ステビア甘味料について」、ステビア工業会、URL: https://www.stevia.gr.jp/stevia/standard.html
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。
なお、甲第6ないし8号証は、令和5年6月22日に提出された意見書に添付されたものである。
(以下、順に「甲1」のようにいう。)
第5 当審による取消理由の概要
令和5年3月13日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。なお、取消理由1及び2は、申立理由1及び2とおおむね同旨である。
1 取消理由1(甲第1号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の原出願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 取消理由2(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の原出願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、その原出願の出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 取消理由についての当審の判断
当審は、以下に述べるように、令和5年3月13日付けで通知した取消理由にはいずれも理由がないと判断する。
1 甲1に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項
甲1には、「難消化性デキストリンを含有する非発酵ビール風味飲料」に関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「[請求項1] 難消化性デキストリンを10g/l以上含有し、pH3.0~4.0である非発酵ビール風味飲料。」
・「発明が解決しようとする課題
[0022] 本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、血中中性脂肪の上昇抑制効果を有し、低カロリーでありながら、ビールらしい風味、即ち、「のどにグッとくる飲み応え」及び「飲んだ後のキレの良さ」が適度にバランスされた非発酵ビール風味飲料を提供することにある。
課題を解決するための手段
[0023] 本発明は、難消化性デキストリンを10g/l以上含有し、pH3.0~4.0である非発酵ビール風味飲料を提供する。」
・「[0035] 本発明の非発酵ビール風味飲料は難消化性デキストリンを含有する。難消化性デキストリンを含有することで、得られる飲料は、飲んだときにのどに引っかかる感覚を与える。すなわち、本発明によって、発酵ビール風味飲料の特徴である「バランスの良さ」、「のどにグッとくる飲み応え」及び「飲んだ後のキレの良さ」という特徴を有する非発酵ビール風味飲料が提供される。」
・「[0039] 本発明の非発酵ビール風味飲料は甘味物質を適度に含有することが好ましい。甘味物質とは、ヒトが口に含んだときに甘味を感じる物質をいう。代表的な甘味物質は甘味料である。甘味料とは、飲料又は食品に甘みを付けるために使用される調味料をいう。甘味物質を含有することで、得られる飲料は、酸味と甘味のバランスが良くなり、酸味又は甘味等の後味感を与え難くなり、「飲んだ後のキレの良さ」を増す。
[0040]甘味物質の例として、糖類または糖アルコール類、高甘味度甘味料等が挙げられる。上記糖類としては、ぶどう糖、果糖、木糖、ソルボース、ガラクトース、異性化糖(果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖果糖液糖、高果糖液糖など)、蔗糖、麦芽糖、乳糖、異性化乳糖、パラチノース、イソマルトース、マルトトリオース、ラフィノース、フラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、カップリングシュガー、パラチノースなどが挙げられる。上記糖アルコール類としては、例えば、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、マルトトリイトール、イソマルトトリイトール、パニトールなどが挙げられる。上記高甘味度甘味料としては、例えばアスパルテーム、ステビア、酵素処理ステビア、ソーマチン、スクラロース、アセスルファムK、ネオテーム、ラカンカ等が挙げられる。」
・「[0077] 実施例2
甘味物質の配合
表6に掲げる配合物(単位はg)を混合し1Lになるように水でメスアップし、1時間煮沸を行った後、蒸発分の水を追加し、清澄化のため珪藻土濾過およびフィルター濾過を実施し、液中に炭酸ガスを吹き込む事で炭酸ガスを2.9ガスボリュームとなるように溶解させた。
[0078][表6]
[図:0001402777000001.jpg]
[0079] 甘味物質は、グルコース、マルトース、果糖ぶどう糖、アセスルファムK、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、ソーマチンを、それぞれ甘味度を揃えた上で、配合した。甘味物質のショ糖換算濃度は5g/lである。ホップはBarth-Haas Group社製の「CO2 Hop Extract」(商品名)を用いて、イソα酸含量が0.02g/Lになるように調整した。
[0080] 得られた飲料の評価を表7に示した。評価はビール類専門パネル3人により各9点満点の採点を平均した。官能評価時は香りによる影響を避けるためノーズクリップを鼻に付けた状態で実施した。対照区に比べ、試験区である単糖、2糖類、およびアセスルファムKで「バランスの良さ」、「飲んだ後のキレの良さ」の評価が上昇している事が確認された。またこれらの低分子糖および甘味料を用いたサンプルのエネルギーを確認したところ、アセスルファムKをはじめとする甘味料で非常に低いエネルギー量となり、これは肥満やメタボリックシンドロームを気にする方々のエネルギー摂取量を低減できる配合である事が確認された。
[0081][表7]
[図:0001402777000002.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を試験区8-6に関して整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認める。
<甲1方法発明>
「難消化性デキストリン、0.02g/l(ショ糖換算濃度5g/l)のステビア、大豆タンパク質分解物、カラメル、pH調整剤としてのリン酸、Barth-Haas Group社製の「CO2 Hop Extract」(商品名)であるホップを混合し1Lになるように水でメスアップし、1時間煮沸を行う工程、及び、液中に炭酸ガスを溶解させる工程を含む方法により、0.02g/Lのイソα酸を含有し、エネルギーが3.0kcal/100mlである非発酵ビール風味飲料を提供する方法。」
<甲1飲料発明>
「難消化性デキストリン、0.02g/l(ショ糖換算濃度5g/l)のステビア、大豆タンパク質分解物、カラメル、pH調整剤としてのリン酸、Barth-Haas Group社製の「CO2 Hop Extract」(商品名)であるホップを混合し1Lになるように水でメスアップし、1時間煮沸を行う工程、及び、液中に炭酸ガスを溶解させる工程を含む方法により得られる、0.02g/Lのイソα酸を含有し、エネルギーが3.0kcal/100mlである、非発酵ビール風味飲料。」
2 対比・判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1方法発明とを対比する。
甲1方法発明の「0.02g/Lのイソα酸を含有し」は、本件特許発明1の「0.01~0.03g/Lのイソα酸を含有する」との特定事項を満たす。
甲1方法発明は「液中に炭酸ガスを溶解させる工程」を含む工程により「非発酵ビール風味飲料」を得るものであるから、甲1方法発明の「非発酵ビール風味飲料」が発泡性であることは明らかである。してみると、甲1方法発明の「非発酵ビール風味飲料」は、本件特許発明1の「非発酵ビール様発泡性飲料」に相当する。
本件特許発明1の「非発酵ビール様発泡性飲料に飲み応えを付与する方法」と、甲1方法発明の「非発酵ビール風味飲料を提供する方法」とは、「非発酵ビール様発泡性飲料を提供する方法」との限りにおいて一致する。
甲1方法発明は「0.02g/l(ショ糖換算濃度5g/l)のステビア」を「非発酵ビール風味飲料」中に含有させるものであるところ、ステビアにステビオール配糖体が含まれることは甲4に記載されるように技術常識であるから、甲1方法発明は、本件特許発明1の「ステビオール配糖体を含有させる」との特定事項を満たす。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「0.01~0.03g/Lのイソα酸を含有する非発酵ビール様発泡性飲料を提供する方法であって、ステビオール配糖体を含有させる、非発酵ビール様発泡性飲料を提供する方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明1は「糖質含有量が2.0g/100mL未満」であるのに対し、甲1方法発明の糖質含有量が不明である点。
<相違点1-2>
本件特許発明1は「イソα酸の含有量に対するイソコフムロンの含有量の割合が26質量%以上であり、イソα酸の含有量に対するイソノルマルフムロンの含 有量の割合が63質量%以下」であるのに対し、甲1方法発明の「非発酵ビール風味飲料」のイソα酸の含有量に対するイソコフムロン及びイソノルマルフムロンの含有量の割合が不明である点。
<相違点1-3>
本件特許発明1においては「飲み応えを付与する方法」と特定されているのに対し、甲1方法発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、上記相違点1-3について検討する。
甲1の表7において、試験区8-6の「バランスの良さ」及び「飲んだ後のキレの良さ」はいずれも「×」と評価が低く、「コメント」には「後甘味、違和感あり、イガイガ、不調和」とあることからみて、甲1方法発明が「非発酵ビール風味飲料」に「飲み応えを付与する」ものであるとはいえない。
してみると、相違点1-3は実質的な相違点である。
また、上記のとおり、甲1方法発明が「非発酵ビール風味飲料」に「飲み応えを付与する」ものであるとはいえないから、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1方法発明を「飲み応えを付与する方法」とする、すなわち、相違点1-3に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとする動機付けはない。
したがって、甲1方法発明において、相違点1-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
なお、特許異議申立人は、令和5年6月22日付け意見書の第3において、上記相違点1-3が存在しないことを縷々主張するが、当該主張は上記判断に影響しない。
ウ まとめ
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1方法発明であるとはいえないし、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(2)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1と同様に、甲1方法発明であるとはいえないし、甲1方法発明に基づいて業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明5について
ア 対比
本件特許発明5と甲1飲料発明とを対比すると、両者は、上記(1)アと同様に対比され、以下の点で相違する。
<相違点2-1>
本件特許発明5は「ステビオール配糖体の含有量が、0.01~0.08g/L」であるのに対し、甲1飲料発明のステビオール配糖体の含有量が不明である点。
<相違点2-2>
本件特許発明5は「イソα酸の含有量に対するイソコフムロンの含有量の割合が26質量%以上であり、イソα酸の含有量に対するイソノルマルフムロンの含有量の割合が63質量%以下」であるのに対し、甲1飲料発明のイソα酸の含有量に対するイソコフムロン及びイソノルマルフムロンの含有量の割合が不明である点。
<相違点2-3>
「ステビオール配糖体」に関し、本件特許発明5においては「前記ステビオール配糖体が、酵素処理ステビアである」と特定されているのに対し、甲1飲料発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、上記相違点2-3について検討する。
甲1には、甲1飲料発明の「ステビオール配糖体」が「酵素処理ステビア」であることは記載されていないから、相違点2-3は実質的な相違点である。
また、甲1の表7において、試験区8-6の「バランスの良さ」及び「飲んだ後のキレの良さ」はいずれも「×」と評価が低く、「コメント」には「後甘味、違和感あり、イガイガ、不調和」とあることからみて、甲1飲料発明においては、甘味物質として「ステビア」を配合しても、「のどにグッとくる飲み応え」及び「飲んだ後のキレの良さ」について評価が低いものであるといえる。そうすると、このように評価が低い甲1飲料発明の「ステビア」について、さらに「酵素処理ステビア」のような材料の選択を行う動機はない。
してみると、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1飲料発明において、飲み応えを付与するために「ステビア」として「酵素処理ステビア」を用いる、すなわち、相違点2-3に係る本件特許発明5の特定事項を満たすものとする動機付けはない。
したがって、甲1飲料発明において、相違点2-3に係る本件特許発明5の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明5は、酵素処理ステビアを含有させることで、飲みごたえと後味のしまりが良好という、甲1飲料発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて当業者が予測することができる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
なお、特許異議申立人は、令和5年6月22日付け意見書の第5において、甲1飲料発明に対して「ステビア」に代えて「酵素処理ステビア」を用いることは当業者であれば容易に想到し得るものであり、本件特許発明5の特定事項を満たすことによる格別の効果はない旨を主張するが、上記のとおり判断されるので、当該主張は採用しない。
ウ まとめ
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲1飲料発明であるとはいえないし、甲1飲料発明並びに甲1及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明6について
本件特許発明6は、請求項5を引用して特定するものであり、本件特許発明5の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明6は、本件特許発明5と同様に、甲1飲料発明であるとはいえないし、甲1飲料発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)取消理由1及び2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし6は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2項に該当せず、取消理由1及び2によっては取り消すことはできない。
第7 令和5年3月13日付けで特許権者に通知した取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
令和5年3月13日付けで特許権者に通知した取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は、申立理由3(サポート要件)であるところ、当審は、以下に述べるように、申立理由3には理由がないと判断する。
(1)サポート要件についての判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件についての判断
本件特許発明における発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「天然の高甘味度甘味料を用いて糖質含有量を抑えつつ、飲みごたえと後味しまりの両方が良好な非発酵ビール様発泡性飲料及びその製造方法」を提供すること(【0007】)である。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、天然の高甘味度甘味料の中でも特にステビオール配糖体を用い、さらにイソα酸の含有量を特定の範囲内に調整したため、後味のしまりが良好であり、ビールらしいバランスの良い止渇飲料である。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料において、後味のしまりが良好である理由は明らかではないが、ステビオール配糖体自体の後味は、甘味と特有の収斂味を含む厚みのある味わいであり、この厚みのある後味に、イソα酸を最適なバランスで配合することにより、ステビオール配糖体の厚みのある後味、特にステビオール配糖体特有の収斂味とイソα酸がもたらす苦味とのバランスが最適化される結果、ビールらしい飲みごたえと後味のしまりがもたらされると推察される。ステビオール配糖体の後味に残る収斂味は、ショ糖の代替品としての甘味料としては忌避されるものであるが、この収斂味を含む厚みのある後味が、ビールらしい飲みごたえとしまりのある後味に効果的である。」(【0012】)、「本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料のイソα酸の含有量は、0.01~0.03g/Lである。イソα酸の含有量を前記範囲内とすることにより、ビールらしい苦味としまりのある後味を達成できる。」(【0021】)、「本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料のイソα酸の含有量に対するイソコフムロンの含有量の割合が高いほど、ステビオール配糖体と併用して得られる後味のしまりがより良好になる。また、本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料のイソα酸の含有量に対するイソノルマルフムロンの含有量の割合が低いほど、ステビオール配糖体と併用して得られる後味のしまりがより良好になる。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料中のイソα酸として、各イソα酸の精製品を使用する場合には、本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料中のイソα酸としては、イソコフムロンを使用することが好ましい。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料中のイソα酸として、ホップやホップエキス等の3種のイソα酸の混合物を用いる場合には、本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料中のイソα酸として、イソα酸の含有量に対するイソコフムロンの含有量の割合(以下、「イソコフムロン比率」ということがある。)が26%以上であり、イソα酸の含有量に対するイソノルマルフムロンの含有量の割合(以下、「イソノルマルフムロン比率」ということがある。)が63%以下であることが好ましく、イソコフムロン比率が26~50%であり、イソノルマルフムロン比率が57%以下であることがより好ましく、イソコフムロン比率が26~50%であり、40~57%であることがさらに好ましく、イソコフムロン比率が26~38%であり、イソノルマルフムロン比率が50~57%であることがよりさらに好ましい。」(【0022】)と記載され、加えて、ステビオール配糖体の含有量及びその測定方法(【0016】ないし【0019】)、イソα酸、コイソフムロンの含有量や含有割合の調整方法及び測定方法(【0023】ないし【0027】)、本件特許発明の非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法の一般的な記載(【0043】ないし【0048】)があり、さらには、「ステビオール配糖体と0.01~0.03g/Lのイソα酸とを含有し、イソα酸の含有量に対するイソコフムロンの含有量の割合が26質量%以上であり、イソα酸の含有量に対するイソノルマルフムロンの含有量の割合が63質量%以下である」非発酵ビール様発泡性飲料とすることで飲みごたえと後味しまりの両方が良好となることが実施例により具体的に示されている。
これらの記載に接した当業者であれば、「ステビオール配糖体と0.01~0.03g/Lのイソα酸とを含有し、イソα酸の含有量に対するイソコフムロンの含有量の割合が26質量%以上であり、イソα酸の含有量に対するイソノルマルフムロンの含有量の割合が63質量%以下である」との特定事項を満たせば、定性的に発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし6は、「ステビオール配糖体と0.01~0.03g/Lのイソα酸とを含有し、イソα酸の含有量に対するイソコフムロンの含有量の割合が26質量%以上であり、イソα酸の含有量に対するイソノルマルフムロンの含有量の割合が63質量%以下である」との特定事項を全て有し、かつ、さらに特定するものである。
よって、本件特許発明1ないし6は、明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、サポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第4 3のとおり主張する。
しかしながら、特許異議申立人の主張は、「ステビオール配糖体と0.01~0.03g/Lのイソα酸とを含有し、イソα酸の含有量に対するイソコフムロンの含有量の割合が26質量%以上であり、イソα酸の含有量に対するイソノルマルフムロンの含有量の割合が63質量%以下である」との特定事項を満たしていても発明の課題を解決し得ないとする具体的な証拠を提示するものではない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。
(4)まとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由3は、その理由がない。
第8 結語
上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700004