特許異議申立
2023-700155
熱老化に対する耐性を有する低ハロゲンの難燃性のポリアミド組成物
- 審判番号
- 2023-700155
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-549569
- 登録番号
- 7128743
- 請求日
- 2023年02月14日
- 審決日
- 2023年06月15日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】アセンド・パフォーマンス・マテリアルズ・オペレーションズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
- 【権利者代理人】山本 修
- 【権利者代理人】宮前 徹
- 【権利者代理人】松尾 淳一
- 【権利者代理人】鈴木 雄太
- 【異議申立人】浅野 幸義
- 審判長/審判官
- 審判長 近野 光知
- 審判官 細井 龍史
- 審判官 海老原 えい子
- 分類
- P1651.113-Y (C08L) / P1651.121-Y (C08L) / P1651.536-Y (C08L) / P1651.537-Y (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7128743号発明「熱老化に対する耐性を有する低ハロゲンの難燃性のポリアミド組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7128743号の請求項1ないし24に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7128743号の請求項1ないし24に係る特許についての出願は、平成29年10月17日に出願した特願2018-549569であって、令和4年8月23日にその特許権の設定登録(請求項の数24)がされ、同年同月31日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年2月14日に特許異議申立人 浅野 幸義(以下、「申立人」という。)は、特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~24)を行った。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし24に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。また、本件特許発明1~24をまとめて「本件特許発明」ともいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし24に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリアミド樹脂と、
メラミンシアヌレートを含む非ハロゲン難燃剤と、
ハロゲン化銅および有機リン化合物を含む銅含有熱安定剤と
を含む、最大の総ハロゲン含有量が1500ppmである低ハロゲンの熱可塑性のポリアミド組成物であって、
前記ポリアミド組成物の元素臭素含量が、900ppmよりも大きく、1300ppmよりも小さい、
低ハロゲンの熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂が、PA-4,6;PA-6,I;PA-6,T;PA-6,6;PA-6/6,6;およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂が、PA-6,6である、請求項1に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項4】
前記ハロゲン化銅および前記有機リン化合物が、錯体を形成する、請求項1に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項5】
前記有機リン化合物が、トリフェニルホスフィンである、請求項1に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項6】
前記有機リン化合物が、トリフェニルホスファイトである、請求項1に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項7】
前記錯体が、ハロゲン化銅(I)/ビス(トリフェニルホスフィン)である、請求項4に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項8】
前記錯体が、ハロゲン化銅(I)/ビス(トリフェニルホスファイト)である、請求項4に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項9】
前記ハロゲン化銅(I)が、ヨウ化銅(I)である、請求項7または請求項8に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項10】
潤滑剤/離型剤をさらに含む、請求項1に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項11】
前記潤滑剤/離型剤が、ステアリン酸の塩である、請求項10に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項12】
前記ステアリン酸の塩が、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛およびステアリン酸カルシウムからなる群から選択される、請求項11に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項13】
着色剤をさらに含む、請求項1に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項14】
前記着色剤が、カーボンブラックである、請求項13に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項15】
追加の銅含有熱安定剤をさらに含む、請求項1に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項16】
ポリアミド樹脂と、
メラミンシアヌレートを含む非ハロゲン難燃剤と、
ハロゲン化銅および有機リン化合物を含む銅含有熱安定剤と
を含む、最大の総ハロゲン含有量が1500ppmである低ハロゲンの熱可塑性のポリアミド組成物であって、
前記ポリアミド組成物は最大含量900ppmで元素臭素を含む、
低ハロゲンの熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項17】
50~95重量%の前記ポリアミド樹脂と、
前記非ハロゲン難燃剤として、1~20重量%の前記メラミン塩またはメラミン付加体と、
0.03~2.5重量%の銅含有熱安定剤と、
0~10重量%の潤滑剤/離型剤と、
0~10重量%の着色剤と
を含む、請求項1または請求項16に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項18】
前記ポリアミド樹脂が、PA-6,6であり、前記ハロゲン化銅/有機リンの錯体が、ハロゲン化銅(I)/ビス(トリフェニルホスフィン)である、請求項17に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項19】
前記潤滑剤/離型剤が、ステアリン酸の塩である、請求項17に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項20】
前記ステアリン酸の塩が、ステアリン酸亜鉛である、請求項19に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項21】
前記着色剤が、カーボンブラックである、請求項17に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。
【請求項22】
請求項1、16および17のいずれか1項に記載の熱可塑性のポリアミド組成物から得られる物品。
【請求項23】
前記物品が、自動車の部品である、請求項22に記載の物品。
【請求項24】
前記物品が、電気部品または電子部品である、請求項22に記載の物品。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由
1 特許異議申立理由の概要
令和5年2月14日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は、次のとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証に基づく新規性欠如)
本件特許発明1ないし24は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件特許発明1ないし24は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(明確性要件違反)
本件特許の請求項1ないし24に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(4)申立理由4-1(サポート要件違反)
本件特許の請求項1ないし24に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(5)申立理由4-2(実施可能要件違反)
本件特許の請求項1ないし24に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
2 証拠方法
申立書に添付されて提出された証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:特表2015-510963号公報
甲第2号証:「ハロゲンフリー銅張積層板試験方法」JPCA-ES01 -2003 社団法人日本プリント回路工業会
以下、甲第1号証等を、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
申立人がした申立ての理由によっては、本件特許発明1ないし24に係る特許を取り消すことはできない。
その理由は以下のとおりである。
1 申立理由1(甲1に基づく新規性欠如)及び申立理由2(甲1を主引用例とする進歩性欠如)について
(1)証拠等の記載等
ア 甲1の記載事項等
(ア)甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がされている。
なお、下線については当審において付与したものである。以下、同様。
「【請求項1】
熱可塑性成形材料であって、
A)熱可塑性ポリアミド 10~98質量%、
B)赤リン 0.1~60質量%、
C)メラミン化合物 0.5~20質量%、
D)ルチル型の二酸化チタン 1~30質量%、
E)耐衝撃性改良剤 0~40質量%、
F)更なる添加剤 0~60質量%
を含有し、その際に成分A)~F)の質量パーセントの合計が100%になる、
熱可塑性成形材料。」
「【0001】
本発明は、
A)熱可塑性ポリアミド 10~98質量%、
B)赤リン 0.1~60質量%、
C)メラミン化合物 0.5~20質量%、
D)ルチル型の二酸化チタン 1~30質量%、
E)耐衝撃性改良剤 0~40質量%、
F)更なる添加剤 0~60質量%
を含有する熱可塑性成形材料に関し、その際に、成分A)~F)の質量パーセントの合計は100%になる。
【0002】
更に、本発明は、繊維、フィルム(Folien)及び成形体を製造するためのこの種の成形材料並びにこの際に得ることができる、あらゆる種類の成形体、繊維及びフィルムに関する。
【0003】
熱可塑性プラスチック、とりわけ強化された又は充填されたポリアミドへの赤リンの添加が、効果的な防火をもたらすことは知られている(DE-A 1931387、DE-A 2703052、DE-A 19648503、EP-A 71788、EP-A 384232、EP-A 1626066及びWO 2007/042446)。しかしながら、赤リンは、不都合な条件下で、例えば高められた温度下、水分下、アルカリ又は酸素の存在下で、分解生成物、例えば水素化リン及び1~5価のリンの酸を形成する傾向がある。熱可塑性プラスチック中、例えばポリアミド中へ導入された赤リンは、たいてい、該ポリマー中へ埋め込まれている結果、熱酸化に対して大幅に保護されている。
【0004】
リン含有ポリアミドの更なる欠点は、赤色ないし褐色の色傾向である。しかしながら、白色顔料の添加は、その難燃作用、特に燃焼試験の際のオーブン貯蔵後の滴下傾向を劣悪にする。
【0005】
本発明には、ゆえに、薄い固有色及び改善された難燃性(できるだけ有炎物質が滴下しない)を有する、難燃化された成形材料を提供するという課題が基礎となっていた。
【0006】
それに応じて、冒頭に定義された成形材料が見出された。好ましい実施態様は、従属請求項から読み取ることができる。
【0007】
成分A)として、本発明による成形材料は、少なくとも1種のポリアミドを10~98質量%、好ましくは20~96質量%及び特に30~88質量%含有する。
【0008】
本発明による成形材料のポリアミドは一般的に、ISO 307に従い25℃で96質量%硫酸中0.5質量%の溶液中で測定される、90~350ml/g、好ましくは110~240ml/gの粘度数を有する。」
「【0019】
本発明による難燃剤B)は、単体の赤リンであって、特にガラス繊維強化成形材料との組合せであり、該リンは未処理の形態で使用することができる。
・・・
【0025】
本発明による成形材料中の成分B)の含量は、成分A)~F)の合計を基準として、0.1~60質量%、好ましくは0.5~40質量%及び特に1~15質量%である。」
「【0026】
成分C)として、本発明による熱可塑性成形材料は、メラミン化合物を0.5~20質量%、好ましくは1~20質量%及び特に5~15質量%含有する。
【0027】
本発明により好ましくは適している(成分C)メラミンシアヌラートは、好ましくは等モル量の、メラミン(式I)及びシアヌル酸もしくはイソシアヌル酸(式Ia及びIb)からなる反応生成物である。
【化1】
[図:0001399401000001.jpg]
【0028】
該反応生成物は、例えば、90~100℃でのそれらの出発化合物の水溶液の反応により、得られる。商業的に入手可能な該反応生成物は、1.5~7μmの平均粒度d50を有する白色粉末である。
【0029】
更に適した化合物(しばしば塩又は付加物とも呼ばれる)は、メラミン、ホウ酸メラミン、シュウ酸メラミン、リン酸1メラミン、リン酸2メラミン及びピロリン酸2メラミン、ネオペンチルグリコールホウ酸メラミン並びに高分子リン酸メラミン(CAS-No. 56386-64-2)である。
【0030】
特に好ましいメラミンポリホスファートは、BASF SE社製の商標Melapur(登録商標)で得ることができる。好ましいリン含量は、10~15%、特に12~14%であり、その含水量は好ましくは0.3%未満であり、並びにその相対密度は1.83~1.86g/cm3である。
【0031】
好ましいのは、1,3,5-トリアジン化合物のメラミンポリリン酸塩であり、それらの平均縮合度の数nが20~200であり、かつその1,3,5-トリアジン含量が、リン原子1モルあたり、メラミン、メラム、メレム、メロン、アンメリン、アンメリド、2-ウレイドメラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン及びジアミノフェニルトリアジンからなる群から選択される1,3,5-トリアジン化合物1.1~2.0モルである。好ましくは、そのような塩のn値は、一般的に40~150であり、かつリン原子1モルあたりの1,3,5-トリアジン化合物の比は好ましくは1.2~1.8である。更に、EP1095030B1により製造される、塩の10質量%水性スラリーのpHは、一般的に4.5超及び好ましくは少なくとも5.0になる。該pH値は通常、該塩25g及び25℃のきれいな水225gを、300mlビーカー中へ入れ、生じた水性スラリーを30分間撹拌し、次いでそのpHが測定されることによって、決定される。前記のn値、つまり数平均縮合度は、31P-固体NMRを用いて決定することができる。J. R. van Wazer, C. F. Callis, J. Shoolery及びR. Jones, J. Am. Chem. Soc, 78, 5715, 1956からは、隣接したリン酸イオン基の数が唯一の化学シフトを示し、この化学シフトが、オルトリン酸イオンと、ピロリン酸イオンと、ポリリン酸イオンとの間での明らかな区別を可能にすることが知られている。EP1095030B1には、そのうえ、20~200のn値を有し、かつそれらの1,3,5-トリアジン含量が1,3,5-トリアジン化合物1.1~2.0モルである1,3,5-トリアジン化合物の所望のポリリン酸塩の製造方法が記載されている。この方法は、1,3,5-トリアジン化合物をオルトリン酸と反応させてそのオルトリン酸塩を得て、引き続き脱水及び熱処理して、該オルトリン酸塩を該1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩へ変換することを含む。この熱処理は、好ましくは、少なくとも300℃の温度で、及び好ましくは少なくとも310℃で、実施される。1,3,5-トリアジン化合物のオルトリン酸塩に加えて、同じようにその他の1,3,5-トリアジンリン酸塩を、例えばオルトリン酸塩及びピロリン酸塩の混合物を含め、使用することができる。
【0032】
更なるメラミン誘導体として、メラミン縮合物であるメラム、メレム、メロン又は炭窒化物を挙げることができ、これらは同様に使用することができる。」
「【0033】
成分D)として、本発明による成形材料は、ルチル型の二酸化チタンを1~30質量%、好ましくは1~25質量%及び特に10~20質量%含有する。Roempp Online、Version 3.12(2002年3月)によれば、ルチル型は、いわゆるルチル格子であると理解され、すなわち、その結晶系は、複正方両錐、晶族4/mmm-D4hである。それゆえ、該[Ti O6]-八面体は、稜共有によりC軸に平行に鎖状に結合されている。」
「【0039】
成分E)として、該成形材料は、0~40質量%、好ましくは1~30質量%、特に5~20質量%の量で、ゴム弾性ポリマー(しばしば耐衝撃性改良剤、エラストマー又はゴムとも呼ぶ)を含有する。」
「【0086】
成分F)として、本発明による成形材料は、更なる添加剤を60質量%まで、好ましくは50質量%まで含有することができる。
【0087】
繊維状又は粒子形のフィラーF)[D)とは異なる]として、炭素繊維、ガラスファイバー、ガラスビーズ、無定形シリカ、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、白亜、粉末石英、雲母、硫酸バリウム及び長石が挙げられ、これらは1~50質量%、特に5~40質量%、好ましくは10~40質量%の量で使用される。
・・・
【0105】
成分F)として、本発明による成形材料は、0.05~3質量%、好ましくは0.1~1.5質量%及び特に0.1~1質量%の、Cu安定剤、好ましくはCu(I)ハロゲン化物を、特に、アルカリ金属ハロゲン化物、好ましくはKIとの混合物で、特に1:4の比で、又はヒンダードフェノール類又はそれらの混合物を、含有することができる。
【0106】
一価の銅の塩として、好ましくは酢酸銅(I)、塩化銅(I)、臭化銅(I)及びヨウ化銅(I)が考慮に値する。付加的に、ホスフィン錯体(殊にビス-トリフェニルホスフィン-銅ヨージド)が含まれていてもよい。これらは、ポリアミドを基準として、銅5~500ppm、好ましくは10~250ppmの量で含まれている。
【0107】
その有利な性質は、該銅が分子分散してポリアミド中に存在する場合に、特に得られる。これは、該成形材料に、ポリアミドと、一価の銅の塩と、アルカリ金属ハロゲン化物とを均質な固溶体の形態で含有する濃縮物を添加する場合に、達成される。典型的な濃縮物は、例えば、ポリアミド79~95質量%と、ヨウ化銅又は臭化銅及びヨウ化カリウムの混合物21~5質量%とからなる。該均質な固溶体中の銅の濃度は、該固溶体の全質量を基準として、好ましくは0.3~3質量%、特に0.5~2質量%であり、かつヨウ化カリウムに対するヨウ化銅(I)のモル比は、1~11.5、好ましくは1~5である。
・・・・
【0119】
成分F)として、本発明による成形材料は、ニグロシンを0.05~5質量%、好ましくは0.1~2質量%及び特に0.25~1.5質量%含有することができる。
【0120】
ニグロシンは、一般的に、多様な形態(水溶性、脂溶性、アルコール溶性)の、インジュリン類に似た黒色又は灰色のフェナジン染料(アジン染料)の群であると理解され、これらは、羊毛の染色及び捺染の際に、絹の黒色染色の際に、革、靴クリーム、ワニス、プラスチック、焼付けラッカー、インキ等の着色のため、並びに顕微鏡用染色剤として使用される。
【0121】
該ニグロシンはニトロベンゼン、アニリン及び塩酸アニリンと、金属、鉄及びFeCl3との加熱により工業的に取得される(ラテン語のniger=黒に由来する名前)。
・・・
【0124】
成分F)として、本発明による熱可塑性成形材料は、常用の加工助剤、例えば安定剤、酸化遅延剤、熱分解及び紫外線による分解に対する薬剤、滑剤、離型剤、着色剤、例えば染料及び顔料、成核剤、可塑剤等を含有することができる。」
「【実施例】
【0134】
次の成分を使用した:
成分A:
ISO 307に従い25℃で96質量%の硫酸中の0.5質量%溶液として測定される、150ml/gの粘度数VZを有するポリアミド66(これはBASF SE製のUltramid(登録商標) A24を使用した)。
【0135】
成分B:
赤リン
成分C:
メラミンポリホスファート(BASF SE製のMelapur(登録商標) M200/70)
成分D:
【表2】
[図:0001399401000002.jpg]
【0136】
成分E:
エチレンコポリマー:
エチレン59.8質量%
n-ブチルアクリラート35質量%
アクリル酸4.5質量%
無水マレイン酸0.7質量%
成分F/1:
ポリアミド用の標準チョップドガラスファイバー、長さ=4.5mm、直径=10μm。
【0137】
成分F/2:
N,N′-ヘキサメチレン-ビス-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナムアミド(Irganox(登録商標) 1098)
成分F/3:
ステアリン酸Ca
成分F/4:
酸化亜鉛。
【0138】
本発明により記載される改善を証明するするために、コンパウンディングにより、相応するプラスチック成形材料を調製した。個々の成分を、このために、二軸スクリュー押出機ZSK 25(Berstorff社)中で15kg/hの処理量及び約290℃でフラットな温度プロフィールで混合し、ストランドとして排出し、粒状化可能になるまで冷却し、粒状化した。
【0139】
その防火試験を、次のように決定した:
空気下での2d/23℃又は7d(日)/70℃の貯蔵後のUL 94。
【0140】
該成形材料の組成及び該測定の結果は、次の表から読み取ることができる。
F/2 / F/3及びF4の含量は合計でそれぞれ1.5質量%であった。
【0141】
【表3】
[図:0001399401000003.jpg]
」
(イ)甲1に記載された発明
甲1には、その【請求項1】の実施態様である【実施例】の成分1に着目すると以下の発明が記載されているといえる。
「A)熱可塑性ポリアミド
ISO 307に従い25℃で96質量%の硫酸中の0.5質量%溶液として測定される、150ml/gの粘度数VZを有するポリアミド66(BASF SE製Ultramid(登録商標) A24) 36.75質量%、
B)赤リン 1.75質量%、
C)メラミン化合物
メラミンポリホスファート(BASF SE製のMelapur(登録商標) M200/70) 12.5質量%、
D)ルチル型の二酸化チタン
D/1)製品名Ti02 Kronos2220 12.5質量%、
E)耐衝撃性改良剤
エチレンコポリマー(エチレン59.8質量%、n-ブチルアクリラート35質量%、アクリル酸4.5質量%、無水マレイン酸0.7質量%)10質量%
F)更なる添加剤
F/1)ポリアミド用の標準チョップドガラスファイバー、長さ=4.5mm、直径=10μm 25質量%
F/2)N,N′-ヘキサメチレン-ビス-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナムアミド(Irganox(登録商標) 1098)
F/3)ステアリン酸Ca
F/4)酸化亜鉛
F/2 ) F/3)及びF/4)の含量は、合計で1.5質量%
を含有する、熱可塑性成形材料。」(以下、「甲1発明」という。)
イ 甲2の記載事項
甲2には、以下の記載がされている。
「【参考】ハロゲンフリー材の定義 本試験法で測定し,以下の条件を満足している銅張積層板をハロゲンフリー材と定義する。
・塩索(Cl)含有率:0.09wt%(900ppm)以下
・臭索(Br)含有率:0.09wt%(900ppm)以下
・塩素(Cl)及び臭素(Br)含有率総量:0.15wt%(1500ppm)以下」(第5ページ)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「A)熱可塑性ポリアミドであるISO 307に従い25℃で96質量%の硫酸中の0.5質量%溶液として測定される、150ml/gの粘度数VZを有するポリアミド66(BASF SE製Ultramid(登録商標) A24)」は、本件特許発明1における「ポリアミド樹脂」に相当する。また、甲1発明における「B)赤リン」、「C)メラミン化合物であるメラミンポリホスファート(BASF SE製のMelapur(登録商標) M200/70)」は、本件特許発明1の「メラミンシアヌレートを含む非ハロゲン難燃剤」について、「非ハロゲン難燃剤」である限りにおいて相当する。
そして、甲1発明の「熱可塑性成形材料」は、「A)熱可塑性ポリアミド」を含有するものであるから、本件特許発明1の「熱可塑性のポリアミド組成物」に相当する。
してみると、両発明は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
ポリアミド樹脂と、
非ハロゲン難燃剤と、
を含む、熱可塑性のポリアミド組成物。
<相違点1>
非ハロゲン難燃剤が、本件特許発明1は「メラミンシアヌレートを含む」ものであるのに対し、甲1発明は、「B)赤リン」、「C)メラミン化合物であるメラミンポリホスファート(BASF SE製のMelapur(登録商標) M200/70)」である点
<相違点2>
本件特許発明1は、「ハロゲン化銅および有機リン化合物を含む銅含有熱安定剤」を含むのに対し、甲1発明は、当該銅含有熱安定剤を含有するものではない点
<相違点3>
熱可塑性のポリアミド組成物が、本件特許発明1は、「最大の総ハロゲン含有量が1500ppmである低ハロゲンの」ものであるのに対し、甲1発明はそのような特定がされていない点
<相違点4>
本件特許発明1は、「前記ポリアミド組成物の元素臭素含量が、900ppmよりも大きく、1300ppmよりも小さい」と特定されているのに対し、甲1発明はそのような特定がされていない点
そこで、上記相違点について検討する。
<相違点1>及び<相違点2>を併せて検討する。
甲1発明は、「メラミンシアヌレート」も、「ハロゲン化銅および有機リン化合物を含む銅含有熱安定剤」も含まないから、相違点1及び2は、実質的な相違点である。
よって、本件特許発明1は甲1発明ではない。
ついで、容易想到性について検討する。
本件特許発明は、環境への配慮から、難燃剤として、メラミンイソシアヌレートを含む非ハロゲン難燃剤を用いた(段落【0008】【0009】【0040】~【0042】)上で、熱安定剤として、「ハロゲン化銅および有機リン化合物」の組み合わせを用いた場合には、優れた熱安定性を示す一方で、優れた電気的特性をも維持し、さらに、ポリアミド組成物を変色しない(【0044】)との知見に基づいてなされたものである。
そして、本件特許明細書の実施例において、ポリアミド樹脂に、非ハロゲン難燃剤である「メラミンシアヌレート」と銅含有熱安定剤である「ヨウ化銅(Cu)(I)-ビス(トリフェニルホスフィン)錯体」を併用したポリアミド組成物の実施例1は、RTI(電気)値のクラスの全ての厚みにおいて150℃を示し、従来品よりも良い結果となっている。
そうすると、甲1には、「F)更なる添加剤」として「Cu安定剤、付加的に、ホスフィン錯体(殊にビス-トリフェニルホスフィン-銅ヨージド)」が含まれていてもよいことや、「成分C)であるメラミン化合物」の好適なものとして、「メラミンシアヌラート」が記載されているものの、甲1には、電気的特性の維持に着目することなど記載も示唆もされていないし、ましてや、そのような物性に着目して、「Cu安定剤」と「メラミンシアヌレート」を併用することは記載も示唆もされていないから、甲1において、これらの組み合わせを採用することの動機付けはない。
また、甲2にも、「Cu安定剤」と「メラミンシアヌラート」を併用することは記載も示唆もされていない。
してみると、上記<相違点1>及び<相違点2>に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
次に、本件特許発明1の効果について検討する。
本件特許明細書には、実施例1として、ポリアミド樹脂、 PA-6,6(91.4重量%);難燃剤、メラミンシアヌレート(8.0重量%);熱安定剤、ヨウ化銅(Cu)(I)-ビス(トリフェニルホスフィン)錯体(0.5重量%);潤滑剤/離型剤は、ステアリン酸亜鉛(Zn)(0.1重量%)のポリアミド組成物が開示され、第7表に結果(絶縁耐力が20kV/mm、体積抵抗 1019Ω・cm、RTI(電気)値のクラスの0.40mm、0.75mm、1.5mm、3.0mmにおいて150℃、RTI(衝撃)値のクラスの0.40mm、0.75mm、1.5mm、3.0mmにおいて110℃、RTI(強度)値のクラスの0.40mm、0.75mm、1.5mm、3.0mmにおいて130℃、火炎クラスが0.20mm、0.40mm、0.75mm、1.5mm、3.0mmにおいてV-0、GWITが960℃(0.40mm)、960℃(0.75mm)、800℃(1.5mm)、775℃(3.0mm)が示されており、特に「(i) 未充填(unfilled)のPA66組成物に関して、RTI(電気)値のクラス(全ての厚みにおいて150℃)において、最も良い結果を示すこと。」が観察される。
してみると、本件特許発明1が奏する「RTI(電気)値のクラスが、全ての厚みにおいて150℃となる」効果は、甲1及び甲2のいずれにも記載されておらず、当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、本件特許発明1は、上記<相違点3>及び<相違点4>を検討するまでもなく、甲1発明及び甲1、甲2に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たものではない。
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではないし、また、甲1に記載された発明及び甲1、甲2に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たものではない。
イ 本件特許発明2ないし15について
本件特許発明2ないし15は、本件特許発明1を引用するものであるから、上記アで検討したのと同様、本件特許発明2ないし15は、甲1に記載された発明ではないし、また、甲1に記載された発明及び甲1、甲2に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たものではない。
ウ 本件特許発明16について
本件特許発明16と甲1発明とを対比すると、両発明は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
ポリアミド樹脂と、
非ハロゲン難燃剤と、
を含む、熱可塑性のポリアミド組成物。
<相違点16-1>
非ハロゲン難燃剤が、本件特許発明16は「メラミンシアヌレートを含む」ものであるのに対し、甲1発明は、「B)赤リン」、「C)メラミン化合物であるメラミンポリホスファート(BASF SE製のMelapur(登録商標) M200/70)」である点
<相違点16-2>
本件特許発明16は、「ハロゲン化銅および有機リン化合物を含む銅含有熱安定剤」を含むのに対し、甲1発明は、当該銅含有熱安定剤を含有するものではない点
<相違点16-3>
熱可塑性のポリアミド組成物が、本件特許発明16は、「最大の総ハロゲン含有量が1500ppmである低ハロゲンの」ものであるのに対し、甲1発明はそのような特定がされていない点
<相違点16-4>
本件特許発明16は、「前記ポリアミド組成物は最大含量900ppmで元素臭素含量を含む」と特定されているのに対し、甲1発明はそのような特定がされていない点
そこで、上記相違点について検討するに、上記<相違点16-1>及び<相違点16-2>は、上記アの<相違点1>及び<相違点2>と同じである。
よって、上記アに示したのと同様、本件特許発明16は、甲1に記載された発明ではないし、また、甲1に記載された発明及び甲1、甲2に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たものではない。
エ 本件特許発明17ないし24について
本件特許発明17ないし24は、本件特許発明1又は本件特許発明16を引用するものであるから、上記ア、ウで検討したのと同様、本件特許発明17ないし24は、甲1に記載された発明ではないし、また、甲1に記載された発明及び甲1、甲2に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たものではない。
(3)申立人の主張について
申立人は、申立書の第15~16ページにおいて、「甲第1号証の請求項1には、
A)熱可塑性ポリアミド 10~98質量%、
C)メラミン化合物 0.5~20質量%、
F)更なる添加剤 0~60質量%
を含有する熱可塑性成形材料が記載されており、上記成分「C)メラミン化合物」として好適なものとしてメラミンシアヌラートが例示されており(0027段落)、上記成分「F)更なる添加剤」として、Cu安定剤、好ましくはCu (I)ハロゲン化物を含有することができ(0105段落)、一価の銅の塩として、好ましくはヨウ化銅(I)であり、ホスフィン錯体(殊にビス-トリフェニルホスフィン-銅ヨージド)が含まれていてもよいことが記載されている(0106段落)。
上記成分「A)熱可塑性ポリアミド」は、本件特許発明1における「ポリアミド樹脂」に相当し、上記成分「C)メラミン化合物」の具体例であるメラミンシアヌラートは、本件特許発明1における「メラミンシアヌレートを含む非ハロゲン難燃剤」に相当し、上記成分「F)更なる添加剤」の具体例であるCu安定剤は、本件特許発明1における「ハロゲン化銅および有機リン化合物を含む銅含有熱安定剤」に相当する。
したがって、甲第1号証には、本件特許発明1と構成成分が同じ熱可塑性ポリアミド組成物が記載されている。」と主張する。
しかしながら、上記(3)のアで説示したように、甲1の請求項1の実施態様である実施例として、「メラミンシアヌラート」と「Cu安定剤」を併用することはおろか、両者のいずれかを配合したものが記載されていないのであるから、本件特許明細書に各成分が例示されていることをもって、「本件特許発明1と構成成分が同じ熱可塑性ポリアミド組成物が記載されている。」と主張する申立人の主張を首肯することはできない。
よって、申立人の申立理由1及び申立理由2の主張は採用することができない。
(4)まとめ
以上検討したとおり、本件特許発明1ないし24は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし24に係る特許は、申立理由1によっては取り消すことはできない。
また、本件特許発明1ないし24は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし24に係る特許は、申立理由2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3(明確性要件違反)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきものである。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がされている。
「【技術分野】
【0001】
熱老化(又はヒートエイジング)に対する耐性を有する低ハロゲン(性)の難燃性(又は難燃剤)のポリアミド組成物に関する。
【0002】
(発明の背景)
ポリアミド樹脂は、その高い融点、高い再結晶温度(すなわち、より短い射出成形のサイクルタイム)、高流量(又はハイフロー)、靭性(又はタフネス)、弾性、耐薬品性、UL94V2規格の難燃性(inherent UL94 V2 flame retardancy)および耐摩耗性に起因して、多くの用途で使用されることが望まれている。これらの化学的および機械的な特性によって、ポリアミドは、ケーブルタイ、スポーツ用具、熱ブレーク窓、エーロゾルバルブ、食品フィルムパッケージ、自動車用部品/車両用部品(例えば、ラジエータエンドタンク、チャージエアクーラー、ファンおよびシュラウド、プッシュ/プルケーブル)、工業用繊維(例えば、エアバッグ、タイヤコード)および電気部品/電子部品(例えば、コネクタ、ターミナルブロック、バッテリシール、光電池、LED、サーキットブレーカー)などの多様な用途での使用に理想的なものとなる。
【0003】
歴史的には、ハロゲン系の難燃剤は、主として、所望の難燃性の評価(又はレーティング)を達成するために熱可塑性の組成物に添加されていて、ここで、難燃剤は、圧倒的に塩素系または臭素系のいずれかであった。難燃剤は、化学的に(例えば、窒素ガスの遊離によって)および/または機械的に(例えば、泡の形成によって)、固相、液相または気相で作用する。難燃剤は、典型的には、燃焼プロセスの具体的な段階(又はステージ)(例えば、加熱、分解、点火または火炎拡散の間)と干渉する。
【0004】
従来の塩素系の難燃剤の例としては、塩素化パラフィン類、塩素化ポリエチレン類、ドデカクロロペンタシクロオクタデカ-7,15-ジエン(Dechlorane Plus(登録商標)25)および無水HETが挙げられる。従来の臭素系の難燃剤の例としては、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、デカブロモジフェニルオキシド(DBDPO)、オクタブロモジフェニルオキシド、テトラブロモビスフェノールA(TBBA)、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、ビス(ペンタブロモフェノキシ)エタン(BPBPE)、テトラブロモビスフェノールAエポキシ樹脂類(TBBAエポキシ)、テトラブロモビスフェノールAカーボネート類(TBBA-PC)、エチレン(ビステトラブロモフタル)イミド(EBTBPI)、エチレンビスペンタブロモジフェニル、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン(TTBPTA)、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモビスフェノールA(DBP-TBBA)、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモビスフェノールS(DBP-TBBS)、臭素化ポリフェニレンエーテル類(BrPPE)(例えば、ポリ(ジ)ブロモフェニレンエーテル類など)、臭素化ポリスチレン類(BrPPE)(例えば、ポリジブロモスチレン、ポリトリブロモスチレン、架橋され臭素化されたポリスチレン類など)、臭素化され架橋された芳香族ポリマー類、臭素化エポキシ樹脂類、臭素化フェノキシ樹脂類、臭素化されたスチレン-無水マレイン酸ポリマー類、テトラブロモビスフェノールS(TBBS)、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート(TTBNPP)、ポリブロモトリメチルフェニルインダン(PBPI)およびトリス(ジブロモプロピル)-イソシアヌレート(TDBPIC)が挙げられる。
【0005】
ハロゲン系の難燃剤を選択して熱可塑性の材料に配合することを考える場合、重要な要件として、熱可塑性の材料の溶解プロセス中(例えば、押出および成形(又はモールディング)の間)での腐食性ガスの発生を最小にすること、ならびに熱可塑性材料の耐炎性および機械的な特性の維持が挙げられる。かかる要件を満たすハロゲン系の難燃剤の例としては、臭素化ポリフェニレンエーテル類(ポリ(ジ)ブロモフェニレンエーテルなどを含む)および臭素化ポリスチレン類(ポリジブロモスチレン、ポリトリブロモスチレン、架橋され臭素化されたポリスチレンなどを含む)が挙げられ、典型的には、臭素化ポリスチレン類が最も好ましい。
【0006】
また、ハロゲン系の難燃剤は、歴史歴には、1以上の難燃剤の相乗剤を伴う。従来の難燃剤の相乗剤としては、酸化アンチモン(例えば、三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモンおよびアンチモン酸ナトリム)、酸化スズ(例えば、一酸化スズおよび二酸化スズ)、酸化鉄(例えば、酸化鉄(II)およびγ-酸化鉄)、酸化亜鉛およびホウ酸亜鉛が挙げられる。
【0007】
環境への配慮から、非ハロゲン系および低ハロゲン系の難燃性(又は難燃剤)の添加剤は、ますます、熱可塑性物質、とりわけポリアミドにおいて、さらに流行している。かかる添加剤は、所望の程度の難燃性を達成するために、窒素系およびリン系の化学的なメカニズムを利用する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0017】
自動車産業では、環境問題から、排出(又はエミッション)を減らして、燃料消費の効率を増加させる必要がある。かかる目標を達成するための1つの方法は、金属製の部材(又はメタルコンポーネント)を熱可塑性物質の部材(又はコンポーネント)に置き換えることによって、車両の総重量を減らすことである。ポリアミドは、エンジンルームにおいて、理想の重量の減少を、その上述の耐熱性、機械的な強度および全体の外観に基づいて提供する。車両重量の減少と同時に起こることは、ターボチャージャー使用して、燃料効率を増加させる傾向(又はトレンド)であり、これにより、さらにより高い耐熱性を有するポリアミドの要求が増加し、この耐熱性は、この用途における機械的/構造的な要求をも満たすことができる。より高い目標の耐熱性に伴って、自動車産業では、より難燃性の熱可塑性物質を利用している。本発明のポリアミド組成物は、これらのより高い耐熱性および難燃性の要求を扱うために一部で開発され、また、その一方で、所望の全体の重量の減少をも達成し、このような重量の減少は、自動車産業において成功するために必要である。
【0018】
また、本発明のポリアミド組成物は、電気/電子の産業における使用に高度に適していて、この産業では、電子部材(又は電子コンポーネント)の一体化(又は統合又はインテグレーション)に向かう傾向(又はトレンド)によって、かなりより高い耐熱性および難燃性を有するプラスチック材料を用いる必要性、特にコネクタ、サーキットブレーカー、サーキットボードおよびターミナルブロックの用途での必要性の増加がもたらされている。このようなデバイスは、極端な温度および電圧での環境を要求する際に連続して作動させるために頻繁に必要とされる。
【0019】
高い耐熱性のポリアミド組成物の別の必要性は、表面実装技術(SMT)における必要性であり、SMTでは、このような組成物は、無鉛ハンダの融点に耐えなければならず、SMT操作の間でのバブリングまたはブリスタリングを回避しなければならない。本発明のポリアミド組成物の燃焼性および電気的な要求の両方を満足し、また、その一方で、従来のポリアミド組成物と比較して、改善された耐熱性をも提供するする能力によって、本発明のポリアミド組成物が区別され、そして、かかる組成物は、電気/電子の産業によって採用される、ますますチャレンジングな要求を扱うために、理想的に適したものとなる。」
「【課題を解決するための手段】
【0020】
(発明の要旨)
本発明の一態様は、低ハロゲン(性)の熱可塑性のポリアミド組成物であり、当該低ハロゲン(性)の熱可塑性のポリアミド組成物は、ポリアミド樹脂と、銅含有熱安定剤と、非ハロゲン難燃剤とを含み、当該ポリアミド組成物は、優れた電気特性を維持する一方で、優れた熱安定性(又はヒートスタビリティ)を示す。
例示的な実施形態において、ポリアミド組成物の元素の臭素(Br)の含量(又は含有量)は、900ppmよりも大きく、1300ppmよりも小さい。
別の例示的な実施形態において、ポリアミド組成物の最大の元素の臭素(Br)の含量(又は含有量)は、900ppmである。
また、例示的な実施形態において、ポリアミド組成物の最大の総ハロゲン含量(含有量)は、1500ppmである。
【0021】
例示的な実施形態において、低ハロゲンの熱可塑性のポリアミド組成物は、高流量(又はハイフロー)のポリアミド樹脂と、非ハロゲン窒素含有難燃剤と、ハロゲン化銅および有機リン化合物を含む銅含有熱安定剤とを含む。
【0022】
例示的な実施形態において、熱安定剤は、ハロゲン化銅/有機リン化合物に加えて、第2の銅含有化合物を含む。
【0023】
例示的な実施形態において、ポリアミド樹脂は、PA-4,6;PA-6,I;PA-6,T;PA-6,6;PA-6/6,6;およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0024】
特別な実施形態において、ポリアミド樹脂は、PA-6,6である。
【0025】
例示的な実施形態において、非ハロゲン窒素含有難燃剤は、メラミン塩またはメラミン複合体(又はコンプレックス)/付加体(又はアダクト)である。
【0026】
特別な実施形態において、メラミン塩またはメラミン複合体/付加体は、メラミンシアヌレートである。」
「【0040】
本発明の例示的な実施形態において、非ハロゲン窒素含有難燃剤は、メラミン系、例えば、メラミン塩、またはメラミン複合体/付加体である。特別な実施形態において、非ハロゲン窒素含有難燃剤は、1~30重量%、例えば1~20重量%、例えば1~15重量%、例えば1~10重量%のメラミンシアヌレートである。メラミンシアヌレートは、メラミン(式(II))と、シアヌル酸またはイソシアヌル酸(それぞれ、式(IIa)および(IIb))の好ましくは1:1の混合物から形成される複合体(又はコンプレックス)である。
【0041】
【化1】
[図:0001399401000004.jpg]
」
「【0044】
歴史的には、これまで、ポリアミドにとって好ましい熱安定剤は、熱老化(又はヒートエイジング:heat aging)に対する優れた耐性から、ヨウ化銅(単独または典型的にはヨウ化カリウムとの組み合わせ)または酢酸銅であった。しかし、絶縁耐力、表面抵抗および体積抵抗ならびに比較トラッキング指数(CTI)などの電気特性に与える顕著な負の影響のために、これらの銅の塩は、典型的には、電気的/電子的な用途において使用されない。さらに、ヨウ化銅などの銅の塩は、それらが存在する組成物に色を不必要に与える。本発明の例示的な実施形態において、熱安定剤は、有機リン化合物(例えば、トリフェニルホスフィンまたはトリフェニルホスファイトなど)と組み合わされるハロゲン化銅である。特別な実施形態において、熱安定剤は、トリフェニルホスフィンまたはトリフェニルホスファイトとともに錯体を形成したハロゲン化銅である。特別な実施形態において、熱安定剤は、トリフェニルホスフィンまたはトリフェニルホスファイトとともに錯体を形成したヨウ化銅である。特別な実施形態において、熱安定剤は、ヨウ化銅/ビス(トリフェニルホスフィン)錯体である。特別な実施形態において、ヨウ化銅/ビス(トリフェニルホスフィン)錯体は、BRUGGOLEN(登録商標)H3386(Brueggemann Chemicalから入手可能)である。かかるハロゲン化銅および有機リン化合物の組み合わせは、本明細書中に記載のポリアミドに添加される場合、優れた熱安定性を示すポリアミド組成物を予想外にもたらし、また、その一方で、優れた電気特性をも維持する。従って、本発明のポリアミド組成物は、電気/電子の産業での使用に理想的に適したものとなる。さらなる利点として、このハロゲン化銅および有機リン化合物の組み合わせは、ポリアミド組成物を変色しない。」
「【0046】
例示的な実施形態において、本発明のポリアミド組成物中に存在する元素フッ素(F)または元素塩素(Cl)の量はゼロまたは顕著ではなく、存在する元素臭素(Br)の量は、ゼロよりも大きく、2000ppm未満、例えば1700ppm未満、例えば1500ppm未満、例えば1300ppm未満、例えば1200ppm未満、例えば1100ppm未満、例えば1000ppm未満、例えば900ppm未満、例えば800ppm未満、例えば700ppm未満である。特別な実施形態において、存在する元素臭素の量は、500~1500ppm、例えば500~1200ppm、例えば500~1000ppm、例えば500~900ppmの間である。例示的な実施形態において、存在する元素臭素の量は、900ppmよりも大きく、1300ppm未満であり、また、あるいは最大で900ppmである。例示的な実施形態において、本発明のポリアミド組成物での最大の総ハロゲン(元素のフッ素、塩素および臭素)含量(含有量)は、1500ppmであり、典型的には、ULハロゲン試験746Hを用いて決定される。」
「【実施例】
【0049】
(実施例)
実施例1
本発明のポリアミド組成物の一般的な調製
熱安定剤、潤滑剤/離型剤および着色剤をドラムタンブラー中で一緒にブレンドし、続いて、ZSK 40mmの二軸押出機のフィードスロートにおいて、第1のポリアミドフィードストック(又はポリアミド供給原料)と混合した。サイドフィーダーを経由して、非ハロゲン窒素含有難燃剤を添加した。押出機のバレル温度は、220~285℃の範囲内であった。このとき、スクリューの速度は、400rpmであり、処理量(又はスループット)は、100kg/hrであった。
【0050】
機械的および熱的な材料の特性を決定するための成形物品を、VanDorn 50トンの射出成形機で製造した。このとき、シリンダー温度は、250~285℃(ホッパーからノズルまで)であり、鋳型(又はモールド)の温度は、95℃であった。
【0051】
本発明のポリアミド組成物およびかかる組成物から調製した物品の様々な特性を測定するために、以下の国際的に認められている標準的な試験を採用した。
【0052】
引張特性、引張応力、引張ひずみ、および引張モジュラス(又は引張係数)を「ISO 527-2」に従って測定した。
【0053】
曲げ特性、曲げ強度、および曲げモジュラス(又は曲げ係数)を「ISO 178」に従って測定した。
【0054】
シャルピーノッチ付衝撃強度(-30℃および+23℃)を「ISO 179/1eA」に従って測定した。
【0055】
シャルピー非ノッチ衝撃強度(-30℃および+23℃)を「ISO 179/1eU」に従って測定した。
【0056】
アイゾットノッチ付衝撃強度(+23℃)を「ISO 180」に従って測定した。
【0057】
熱変形温度(又は荷重たわみ温度)(1.80MPaの荷重(又はロード)を付与する)を「ISO 75-2/A」に従って測定した。
【0058】
熱変形温度(又は荷重たわみ温度)(0.45MPaの荷重(又はロード)を付与する)を「ISO 75-2/B」に従って測定した。
【0059】
ポリアミド組成物の融点を「ISO 11357-3」に従って決定した。
【0060】
相対粘度の値を「ASTM D789」に従って測定した。
【0061】
メルトフローレート(規定の温度および荷重(又はロード)でオリフィスを通して熱可塑性物質を押し出す速度を測定する)を「ISO 1133」に従って決定した。
【0062】
燃焼性の試験を「UL94規格(又はUL94スタンダード)」に従って様々な厚み(0.4mm、0.75mm、1.5mmおよび3.0mm)のサンプルで行った。
【0063】
グローワイヤー燃焼性指数(GWFI(Glow Wire Flammability Index))を「IEC
60695-2-12」に従って様々な厚み(0.4mm、0.75mm、1.5mmおよび3.0mm)のサンプルで測定した。
【0064】
グローワイヤーイグニション温度(GWIT(Glow Wire Ignition Temperature))を「IEC 60695-2-13」に従って様々な厚み(0.4mm、0.75mm、1.5mmおよび3.0mm)のサンプルで測定した。
【0065】
体積抵抗を「IEC 60093」に従って測定した。
【0066】
絶縁耐力を「IEC 60243」に従って測定した。
【0067】
耐アーク性を「ASTM D495」に従って測定した。
【0068】
比較トラッキング指数(CTI(Comparative Tracking Index))を「IEC 60112」および「ASTM D3638」の両方に従って測定した。
【0069】
高電流アークイグニション(HAI(High Amp Arc Ignition))を「UL 746」に従って様々な厚み(0.4mm、0.75mm、1.5mmおよび3.0mm)のサンプルで測定した。
【0070】
ホットワイヤーイグニッション(HWI(Hot Wire Ignition))を「UL 746」に従って様々な厚み(0.4mm、0.75mm、1.5mmおよび3.0mm)のサンプルで測定した。
【0071】
高電圧アークトラッキングレート(HVTR(High Voltage Arc Tracking Rate))を「UL 746」に従って測定した。
【0072】
相対温度指数(RTI(Relative Thermal Index))の値を「UL 746」に従って電気(Electrical)、衝撃(Impact)および強度(Strength)の基準に関して様々な厚み(0.4mm、0.75mm、1.5mmおよび3.0mm)で得た。
【0073】
第1表は、本発明の例示的なポリアミド組成物について、標準的な試験方法の結果を列挙する。第1表において、ポリアミド樹脂は、PA-6,6(91.4重量%)であった;難燃剤は、メラミンシアヌレート(8.0重量%)であった;熱安定剤は、ヨウ化銅(Cu)(I)-ビス(トリフェニルホスフィン)錯体(0.5重量%)であった;潤滑剤/離型剤は、ステアリン酸亜鉛(Zn)(0.1重量%)であった(以下、実施例1とよぶ)。
【0074】
【表1】
[図:0001399401000005.jpg]
【0075】
【表2】
[図:0001399401000006.jpg]
【0076】
第2表および第3表は、本発明の例示的なポリアミド組成物(第2表)ならびに例示的な比較例(第3表)を列挙する。第4表は、第2表の組成物で選択され試験された特性を列挙し、そして、第5表は、第3表の比較の組成物で選択され試験された特性を列挙する。
【0077】
【表3】
[図:0001399401000007.jpg]
【0078】
A= PA66(低粘度);
B= PA66(高粘度);
C= PA66(配合を補助する微粉末);
D= ステアリン酸アルミニウム(潤滑剤);
E= ステアリン酸カルシウム(潤滑剤);
F= ステアリン酸亜鉛(潤滑剤);
G= Acrawax(登録商標)(潤滑剤);
H= 二酸化チタン(着色剤);
I= メラミンシアヌレート(非ハロゲン窒素含有難燃剤);
J= ナイロン6(PA6);
K= フェノール系有機熱安定剤;
L= 銅熱安定剤
【0079】
【表4】
[図:0001399401000008.jpg]
【0080】
A= PA66(低粘度);
B= PA66(高粘度);
C= PA66(配合を補助する微粉末);
D= ステアリン酸アルミニウム(潤滑剤);
E= ステアリン酸カルシウム(潤滑剤);
F= ステアリン酸亜鉛(潤滑剤);
G= Acrawax(登録商標)(潤滑剤);
H= 二酸化チタン(着色剤);
I= メラミンシアヌレート(非ハロゲン窒素含有難燃剤);
J= ナイロン6(PA6);
K= フェノール系有機熱安定剤;
L= 銅熱安定剤;
M= ヒンダードアミン有機熱安定剤;
N= チオエステル有機熱安定剤;
O= ホスファイト有機熱安定剤
【0081】
【表5】
[図:0001399401000009.jpg]
【0082】
【表6】
[図:0001399401000010.jpg]
【0083】
第6表は、いくつかの市販の(従来の)ポリアミド組成物を列挙し、これらを本発明の例示の組成物(表中の実施例1)に対して試験した。第7表は、かかる組成物の選択された電気特性を比較し、第8表は、その伸び/衝撃の特性を比較する。
【0084】
【表7】
[図:0001399401000011.jpg]
【0085】
【表8】
[図:0001399401000012.jpg]
【0086】
【表9】
[図:0001399401000013.jpg]
【0087】
【表10】
[図:0001399401000014.jpg]
【0088】
【表11】
[図:0001399401000015.jpg]
【0089】
第7表および第8表の結果によって証明される通り、本発明のポリアミド組成物は、従来技術と比較した場合、予想外にも、以下の(i)~(iv)が観察された。
(i) 未充填(unfilled)のPA66組成物に関して、RTI(電気)値のクラス(全ての厚みにおいて150℃)において、最も良い結果を示すこと
(ii) 銅含有熱安定剤の存在下において、優れた電気特性、絶縁耐力、体積抵抗、比較トラッキング指数および高電流アークイグニションを保持すること
(iii) 0.2mmの厚みに至るまで高いUL94 V0レーティングを達成すること
(iv) 高流量(又はハイフロー)を提供し、射出成形の間における薄肉壁の部品の充填と、減少したキャビティおよび射出圧力とを許容すること。
さらに、PA-6,6組成物が、より高価な従来のPA-4,6;PA-6,I組成物と比べて、より高い温度において、同等またはより優れた電気的な性能を示すことができ、その一方で、所望の機械的(例えば、伸び/破断(又はブレーク)/衝撃(又はインパクト))特性を維持することが高度に望まれている。」
(4)申立理由3(明確性要件違反)の趣旨
申立理由3(明確性要件違反)の趣旨は、申立書の第32~33ページによると以下のとおりである。
・申立理由の趣旨ア
「本件特許発明1には、「最大の総ハロゲン含有量が1500ppmである」ことが規定されている。ハロゲンとは、当業者の技術常識として、周期表において第17族に属する元素の総称であり、その第17族に属するフッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる元素族のことをいう。
一方、本件特許明細書の0046段落では、「例示的な実施形態において、本発明のポリアミド組成物での最大の総ハロゲン(元素のフッ素、塩素および臭素)含量(含有量)は、1500ppmであり」と記載されており、ハロゲンからヨウ素が除かれている。
そうすると、本件特許発明1の明細書における「総ハロゲン」の定義は、ヨウ素が除かれている点で当業者の技術常識から逸脱したものと言わざるをえない。
さらに述べると、本件特許発明1においては、ポリアミド組成物中に「ハロゲン化銅」を含み、これは具体的には、「ヨウ化銅(I)」であるので(請求項9)、本件特許発明のポリアミド組成物中にヨウ素が存在する。この場合、本件特許明細書では「総ハロゲン」の定義にヨウ素が含まれていないので、総ハロゲン含有量の値は、当業者の技術常識から大きく異なるものとなる。」
・申立理由の趣旨イ
「本件特許発明17には、「前記非ハロゲン難燃剤として、1~20重量%の前記メラミン塩またはメラミン付加体」と規定されており、末尾で「請求項1または請求項16に記載の熱可塑性のポリアミド組成物。」となっている。
このように「前記メラミン塩またはメラミン付加体」と規定する場合には、請求項1または請求項16中に「メラミン塩またはメラミン付加体」という文言が存在していなければならない。
しかし、請求項1または請求項16中に「メラミン塩またはメラミン付加体」という文言はない。
したがって、本件特許発明17は引用関係が不明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定に違反しており、特許を受けることができないものである。」
(5)明確性の検討
ア 申立理由の趣旨アについて
(ア)本件特許発明1及び16には、「最大の総ハロゲン含有量が1500ppmである」ことが規定されている。ところで、例えば、上記1(1)イの甲2からみると、ハロゲンフリー材で着目される「ハロゲン」は、塩素、臭素であることが技術常識であり、「低ハロゲン」の組成物である本件発明についても、その含有量を規定する「ハロゲン」が「塩素、臭素」を意味するとも理解しうる。
そうすると、「ハロゲン」が、「周期律表のハロゲン」と、「塩素、臭素のみ」のいずれか、あるいはそれ以外を意味するのか明らかでないから、「最大の総ハロゲン含有量」の意味を解釈するため、本件特許明細書を参酌する。
(イ)本件特許明細書の段落【0046】に、「本発明のポリアミド組成物での最大の総ハロゲン(元素のフッ素、塩素および臭素)含量(含有量)は、1500ppmであり、典型的には、ULハロゲン試験746Hを用いて決定される。」と一応の定義付けがされている。
そして、段落【0003】ないし【0005】をみても、ハロゲン系の難燃剤として例示されているのは、塩素系か臭素系のみで、「ヨウ素系」のものは開示されていない。
(ウ)申立人の主張するとおり、一般に「ハロゲン」とは、「周期表において第17族に属する元素の総称であり、その第17族に属するフッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる元素族」を意味するものの、甲2に示されるように、「ハロゲンフリー」あるいは「低ハロゲン」の「組成物」の技術分野においては、「ハロゲン」とは、少なくとも「塩素」及び「臭素」の両者を意味し、「ヨウ素」は含めていないのが技術常識である。
そうすると、上記段落【0046】の、少なくとも「塩素」及び「臭素」を含み、「ヨウ素」を含めていない一応の定義付けは、本件特許の優先日時点の技術常識からも特に齟齬するものではない。
このため、本件特許発明1の、「最大の総ハロゲン含有量」とは、「ヨウ素」を含めていない「フッ素、塩素および臭素の含有量」と解するのが相当である。
(エ)よって、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として判断した結果、請求項1及び請求項16の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
また、本件特許発明1又は16を、直接又は間接的に引用する本件特許発明2ないし15、17ないし24も同様に不明確であるとはいえない。
イ 申立理由の趣旨イについて
本件特許発明17の「メラミン塩またはメラミン付加体」について、本件特許明細書の段落【0040】には、「本発明の例示的な実施形態において、非ハロゲン窒素含有難燃剤は、メラミン系、例えば、メラミン塩、またはメラミン複合体/付加体である。特別な実施形態において、非ハロゲン窒素含有難燃剤は、1~30重量%、例えば1~20重量%、例えば1~15重量%、例えば1~10重量%のメラミンシアヌレートである。」と記載されているように、本件特許発明1及び本件特許発明16の「メラミンシアヌレート」は、本件特許発明17の「メラミン塩またはメラミン付加体」の下位概念である。
そうすると、本件特許発明17の「前記メラミン塩またはメラミン付加体」とは、引用する本件特許発明1及び本件特許発明16に、「メラミン塩またはメラミン付加体」の記載がない以上、「メラミン塩またはメラミン付加体」の下位概念である「メラミンシアヌレート」を意味すると解するのが相当である。
よって、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として判断した結果、請求項17の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
また、本件特許発明17を、直接又は間接的に引用する本件特許発明18ないし24も同様に不明確であるとはいえない。
ウ 小括
以上検討したとおり、本件特許発明1ないし24は明確である。
(6)まとめ
したがって、本件特許の請求項1ないし24に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし24に係る特許は、申立理由3によっては取り消すことはできない。
4 申立理由4-1(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細の記載は、上記2(3)のとおりである。
(4)検討
ア 本件特許発明の課題
本件特許発明の課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0001】【0007】【0017】ないし【0019】からみて、「自動車産業における機械的/構造的な要求をも満たすことができる、又は電気/電子の産業における使用に高度に適することのできる、高い耐熱性および難燃性の低ハロゲンポリアミド組成物を提供すること」であると解される。
イ 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比
本件特許明細書の発明の詳細な説明の一般的な記載を見てみる。
同段落【0020】に、「(発明の要旨)
本発明の一態様は、低ハロゲン(性)の熱可塑性のポリアミド組成物であり、当該低ハロゲン(性)の熱可塑性のポリアミド組成物は、ポリアミド樹脂と、銅含有熱安定剤と、非ハロゲン難燃剤とを含み、当該ポリアミド組成物は、優れた電気特性を維持する一方で、優れた熱安定性(又はヒートスタビリティ)を示す。」と記載されている。
そして、上記「非ハロゲン難燃剤」について、同段落【0040】に、「本発明の例示的な実施形態において、非ハロゲン窒素含有難燃剤は、メラミン系、例えば、メラミン塩、またはメラミン複合体/付加体である。特別な実施形態において、非ハロゲン窒素含有難燃剤は、1~30重量%、例えば1~20重量%、例えば1~15重量%、例えば1~10重量%のメラミンシアヌレートである。メラミンシアヌレートは、メラミン(式(II))と、シアヌル酸またはイソシアヌル酸(それぞれ、式(IIa)および(IIb))の好ましくは1:1の混合物から形成される複合体(又はコンプレックス)である。」と記載されている。
すなわち、上記「非ハロゲン難燃剤」として、「メラミンシアヌレート」を用いることが記載されている。
また、上記「銅含有熱安定剤」について、同段落【0044】に、「本発明の例示的な実施形態において、熱安定剤は、有機リン化合物(例えば、トリフェニルホスフィンまたはトリフェニルホスファイトなど)と組み合わされるハロゲン化銅である。特別な実施形態において、熱安定剤は、トリフェニルホスフィンまたはトリフェニルホスファイトとともに錯体を形成したハロゲン化銅である。特別な実施形態において、熱安定剤は、トリフェニルホスフィンまたはトリフェニルホスファイトとともに錯体を形成したヨウ化銅である。特別な実施形態において、熱安定剤は、ヨウ化銅/ビス(トリフェニルホスフィン)錯体である。特別な実施形態において、ヨウ化銅/ビス(トリフェニルホスフィン)錯体は、BRUGGOLEN(登録商標)H3386(Brueggemann Chemicalから入手可能)である。かかるハロゲン化銅および有機リン化合物の組み合わせは、本明細書中に記載のポリアミドに添加される場合、優れた熱安定性を示すポリアミド組成物を予想外にもたらし、また、その一方で、優れた電気特性をも維持する。従って、本発明のポリアミド組成物は、電気/電子の産業での使用に理想的に適したものとなる。さらなる利点として、このハロゲン化銅および有機リン化合物の組み合わせは、ポリアミド組成物を変色しない。」と記載されている。
すなわち、上記「銅含有熱安定剤」として、「有機リン化合物(例えば、トリフェニルホスフィンまたはトリフェニルホスファイトなど)と組み合わされるハロゲン化銅」を用いることが記載され、特別な実施形態において、「ヨウ化銅/ビス(トリフェニルホスフィン)錯体」であることも記載されている。
ついで、本件特許明細書の実施例について見てみる。
実施例1として、「ポリアミド樹脂、PA-6,6(91.4重量%);難燃剤、メラミンシアヌレート(8.0重量%);熱安定剤、ヨウ化銅(Cu)(I)-ビス(トリフェニルホスフィン)錯体(0.5重量%);潤滑剤/離型剤は、ステアリン酸亜鉛(Zn)(0.1重量%)のポリアミド組成物」が開示され、第7表に結果(絶縁耐力が20kV/mm、体積抵抗 1019Ω・cm、RTI(電気)値のクラスの0.40mm、0.75mm、1.5mm、3.0mmにおいて150℃、RTI(衝撃)値のクラスの0.40mm、0.75mm、1.5mm、3.0mmにおいて110℃、RTI(強度)値のクラスの0.40mm、0.75mm、1.5mm、3.0mmにおいて130℃、火炎クラスが0.20mm、0.40mm、0.75mm、1.5mm、3.0mmにおいてV-0、GWITが960℃(0.40mm)、960℃(0.75mm)、800℃(1.5mm)、775℃(3.0mm)が示されている。
そして、段落【0089】に、「本発明のポリアミド組成物は、従来技術と比較した場合、予想外にも、以下の(i)~(iv)が観察された。
(i) 未充填(unfilled)のPA66組成物に関して、RTI(電気)値のクラス(全ての厚みにおいて150℃)において、最も良い結果を示すこと
(ii) 銅含有熱安定剤の存在下において、優れた電気特性、絶縁耐力、体積抵抗、比較トラッキング指数および高電流アークイグニションを保持すること
(iii) 0.2mmの厚みに至るまで高いUL94 V0レーティングを達成すること
(iv) 高流量(又はハイフロー)を提供し、射出成形の間における薄肉壁の部品の充填と、減少したキャビティおよび射出圧力とを許容すること。」と記載されているように、当該実施例1は、高い耐熱性および難燃性の低ハロゲンポリアミド組成物が得られていることが理解できる。
そうしてみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載より、「ポリアミド樹脂と、銅含有熱安定剤と、非ハロゲン難燃剤とを含み、
銅含有熱安定剤が、有機リン化合物と組み合わされるハロゲン化銅であり、
非ハロゲン難燃剤が、メラミンシアヌレートを含む低ハロゲンの熱可塑性のポリアミド組成物」により、高い耐熱性および難燃性の低ハロゲンポリアミド組成物が得られること、すなわち本件特許発明の課題を解決できると認識するものである。
そして、本件特許発明1及び16は、上記「低ハロゲンポリアミド組成物」を発明特定事項として備えるものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できるものである。
ウ 小括
したがって、本件特許発明1及び16は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
また、本件特許発明1又は本件特許発明16を直接又は間接的に引用する本件特許発明2ないし15、17ないし24についても同様である。
(5)まとめ
以上検討したとおり、本件特許の請求項1ないし24に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし24に係る特許は、申立理由4-1によっては取り消すことはできない。
5 申立理由4-2(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件の判断基準
本件特許発明1ないし24はいずれも物の発明であるところ、物の発明の実施とは、その物の生産及び使用等をする行為であるから、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、上記2(3)のとおりである。
(4)検討
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落には、上記4(4)イで示した事項に加え、段落【0046】には、「例示的な実施形態において、本発明のポリアミド組成物中に存在する元素フッ素(F)または元素塩素(Cl)の量はゼロまたは顕著ではなく、存在する元素臭素(Br)の量は、ゼロよりも大きく、2000ppm未満、例えば1700ppm未満、例えば1500ppm未満、例えば1300ppm未満、例えば1200ppm未満、例えば1100ppm未満、例えば1000ppm未満、例えば900ppm未満、例えば800ppm未満、例えば700ppm未満である。特別な実施形態において、存在する元素臭素の量は、500~1500ppm、例えば500~1200ppm、例えば500~1000ppm、例えば500~900ppmの間である。例示的な実施形態において、存在する元素臭素の量は、900ppmよりも大きく、1300ppm未満であり、また、あるいは最大で900ppmである。例示的な実施形態において、本発明のポリアミド組成物での最大の総ハロゲン(元素のフッ素、塩素および臭素)含量(含有量)は、1500ppmであり、典型的には、ULハロゲン試験746Hを用いて決定される。」と記載されている。
そして、実施例では、「ハロゲン化銅」として、「ヨウ化銅(Cu)(I)-ビス(トリフェニルホスフィン)錯体」を用いている。
そうすると、「ポリアミド樹脂と、
メラミンシアヌレートを含む非ハロゲン難燃剤と、
ハロゲン化銅および有機リン化合物を含む銅含有熱安定剤を含む熱可塑性のポリアミド組成物」において、実施例にならい、特に、「ハロゲン化銅」として、フッ素、塩素および臭素ではない、「ヨウ化銅」を用いることで、「最大の総ハロゲン含有量が1500ppmである低ハロゲンの熱可塑性のポリアミド組成物であって、
前記ポリアミド組成物の元素臭素含量が、900ppmよりも大きく、1300ppmよりも小さい、
低ハロゲンの熱可塑性のポリアミド組成物」、あるいは、「最大の総ハロゲン含有量が1500ppmである低ハロゲンの熱可塑性のポリアミド組成物であって、
前記ポリアミド組成物の元素臭素含量が、900ppmよりも大きく、1300ppmよりも小さい、
低ハロゲンの熱可塑性のポリアミド組成物」を得ることができると理解できる。
よって、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1及び16に係る物を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
また、本件特許発明1又は本件特許発明16を直接又は間接的に引用する本件特許発明2ないし15、17ないし24についても同様である。
(5)申立人の主張について
ア 申立人の主張
申立人は、申立書の第34~37ページにおいて、以下の主張をしている。
・主張ア
「本件特許発明1には、「前記ポリアミド組成物の元素臭素含量が、900ppmよりも大きく、1300ppmよりも小さい」ことが規定されている。また、本件特許発明16には、「前記ポリアミド組成物は最大含量900ppmで元素臭素を含む」ことが規定されている。
しかし、本件特許明細書には、上記臭素含量をどのような手段により制御して達成することができるのかが一切記載されていない。また、そのような制御は当業者の技術常識でもない。そもそも本件特許明細書では、上記臭素元素がポリアミド組成物中のどの成分に由来するものであるかについてかも一切記載されていない。
したがって、この点で本件特許発明1~24は、実施可能性要件違反又はサポート要件違反である。」
・主張イ
「本件特許明細書における実施例8と9は、樹脂組成物の構成成分の配合割合が全く同じである(00073段落の表3)。
しかし、臭素元素の含有量は実施例8が1100ppmなのに対して、実施例9は1300ppmであり、200ppmも相違している。
この相違の原因としては、理由4-1で述べたように、使用した錯体のメーカーが異なるか、又は測定誤差によるもの等が考えられる。
使用した錯体のメーカーが異なるのであれば、前述したように錯体に含まれる臭素元素量を記載していなければ意味のない実施例となってしまう。
測定誤差による場合、200ppmもの誤差が生ずると、臭素元素の含有量を「900ppmよりも大きく、1300ppmよりも小さい」値に正確に制御することは不可能である。」
・主張ウ
「本件特許明細書に記載された実施例1~10には、本件特許発明1で規定された「総ハロゲン含有量」の値が記載されておらず、実施例1~10は本件特許発明1の具体的な実施態様であるとは到底認められない。
なお、実施例1~5については、臭素含量の値も記載されておらず、この点でも本件特許発明1の具体的な実施態様であるとは到底認められない。
また、明確性要件の項で述べたように、本件特許明細書には「総ハロゲン含有量」の定義がなく、実施例にもその値は記載されていない。
したがって、本件特許明細書の記載から明確な「総ハロゲン含有量」の値を把握することはできない。」
イ 申立人の主張の検討
(ア)主張ア及びウについて
本件特許発明に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足することは上記(4)で述べたとおりである。
ところで、本件特許明細書には、「臭素含量」及び「総ハロゲン含有量」をどのような手段により制御して達成することができるのか明確には記載されていない。しかしながら、本件特許発明1及び本件特許発明16である「ポリアミド樹脂と、メラミンシアヌレートを含む非ハロゲン難燃剤と、ハロゲン化銅および有機リン化合物を含む銅含有熱安定剤とを含む熱可塑性のポリアミド組成物」の各成分について、「臭素含量」及び「総ハロゲン含有量」の少ないものを使用しさえすれば、「最大の総ハロゲン含有量が1500ppm」であることや、「元素臭素含量が、900ppmよりも大きく、1300ppmよりも小さい」こと、又は「最大含量900ppmで元素臭素を含む」ことを満たすように各成分の含量を制御できることは、本件特許明細書及び本件特許出願時の技術常識を参酌すると当業者に明らかといえる。
また、申立人は、具体的な証拠を示して、本件特許の発明の詳細な説明が実施可能要件を充足しないことを主張するものではない。
よって、申立人の主張ア及びウは首肯できない。
(イ)主張イについて
実施例8と9の臭素元素の含有量の相違の原因は明細書の記載から把握できない。
しかしながら、本件明細書の総論的な記載及び実施例を基にすれば、実施例8及び9のみを根拠に、本件特許発明が実施可能要件を満たさないとはいえない。
よって、申立人の主張イは首肯できない。
(6)まとめ
以上検討したとおり、本件特許の請求項1ないし24に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし24に係る特許は、申立理由4-2によっては取り消すことはできない。
第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1ないし24に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件特許の請求項1ないし24に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-700155