特許異議申立
2023-700002
加飾シート
- 審判番号
- 2023-700002
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-049025
- 登録番号
- 7094738
- 請求日
- 2023年01月04日
- 審決日
- 2023年12月22日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ダイハツ工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人いくみ特許事務所
- 【権利者代理人】岡本 寛之
- 【権利者代理人】宇田 新一
- 【異議申立人】小泉 紗矢香
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 直欣
- 審判官 稲葉 大紀
- 審判官 久保 克彦
- 分類
- P1651.537-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7094738号発明「加飾シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7094738号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。
特許第7094738号の請求項1及び2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7094738号(以下「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成30年3月16日の出願であって、令和4年6月24日に特許権の設定登録がされ(特許掲載公報 令和4年7月4日発行)、その請求項1及び2に係る特許について、令和5年1月4日に特許異議申立人小泉紗矢香(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。それ以降の経緯は以下のとおりである。
令和5年 4月 7日付け:取消理由通知書
令和5年 5月30日 :意見書及び訂正請求書(以下「本件訂正請求書」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
令和5年 7月11日 :意見書(申立人)
令和5年 8月 4日付け:審尋
令和5年 8月23日 :回答書(特許権者)
令和5年10月11日 :上申書(申立人)
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の趣旨は、「特許第7094738号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~2について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、次の訂正事項を含むものである。なお、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「加飾層と前記加飾層の裏面に設けられる粘着層とを備え、被加飾体に貼着される加飾シートであって、
10N/cmの条件で伸長させたときの伸び率が、0.38%以上0.65%以下であり、」とあるのを、
「加飾層と前記加飾層の裏面に設けられる粘着層とを備え、被加飾体に貼着される加飾シートであって、
前記加飾層が、ポリ塩化ビニルと、可塑剤とを含有し、
前記可塑剤の量が、ポリ塩化ビニル100質量部に対して40質量部以上120質量部以下であり、
前記粘着層が、アクリル系粘着剤から形成され、
前記加飾層の厚みが50μm以上500μm以下であり、
前記粘着層の厚みが20μm以上100μm以下であり、
前記加飾シートの引張特性試験(測定サンプル;ダンベル形状(幅10mm、評点間距離50mm)、引張速度;200mm/min、温度;23℃)において、10N/cmの条件で伸長させたときの伸び率が、0.38%以上0.65%以下であり、」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)
以下、この訂正を「訂正事項1」という。
なお、訂正前の請求項1及び2は、請求項2が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1-2〕について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、以下の訂正事項ア~ウをからなるものであり、以下順に検討する。
(1)訂正事項ア
訂正事項アは、訂正前の請求項1の「加飾層」が、「ポリ塩化ビニルと、可塑剤とを含有し、」「前記可塑剤の量が、ポリ塩化ビニル100質量部に対して40質量部以上120質量部以下であり、」「厚みが50μm以上500μm以下であ」ることを限定するものである。
訂正事項アは、「加飾層」の成分と厚みを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、明細書の【0013】、【0027】~【0029】、【0031】、【0053】及び【0059】の記載に基づくものであるから新規事項を追加するものでもなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項イ
訂正事項イは、請求項1の「粘着層」が、「アクリル系粘着剤から形成され、」「厚みが20μm以上100μm以下であ」ることを限定するものである。
訂正事項イは、「粘着層」の成分と厚みを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、明細書の【0033】~【0036】及び【0039】の記載に基づくものであるから新規事項を追加するものでもなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項ウ
訂正事項ウは、請求項1の「加飾シート」が、「前記加飾シートの引張特性試験(測定サンプル;ダンベル形状(幅10mm、評点間距離50mm)、引張速度;200mm/min、温度;23℃)において、10N/cmの条件で伸長させたときの伸び率が、0.38%以上0.65%以下であ」ることを限定するものである。
訂正事項ウは、「加飾シート」が受ける「引張特性試験」の条件を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、明細書の【0163】~【0165】の記載に基づくものであるから新規事項を追加するものでもなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ということがある)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1及び2にそれぞれ記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
加飾層と前記加飾層の裏面に設けられる粘着層とを備え、被加飾体に貼着される加飾シートであって、
前記加飾層が、ポリ塩化ビニルと、可塑剤とを含有し、
前記可塑剤の量が、ポリ塩化ビニル100質量部に対して40質量部以上120質量部以下であり、
前記粘着層が、アクリル系粘着剤から形成され、
前記加飾層の厚みが50μm以上500μm以下であり、
前記粘着層の厚みが20μm以上100μm以下であり、
前記加飾シートの引張特性試験(測定サンプル;ダンベル形状(幅10mm、評点間距離50mm)、引張速度;200mm/min、温度;23℃)において、10N/cmの条件で伸長させたときの伸び率が、0.38%以上0.65%以下であり、
引張強度が、35N/cm以上70N/cm以下である
ことを特徴とする、加飾シート。
【請求項2】
凹凸面を有する自動車外板パネルを加飾するための自動車外板加飾シートである
ことを特徴とする、請求項1に記載の加飾シート。」
第4 取消理由通知の概要
当審において特許権者に通知した取消理由通知の概要は、次のとおりである。
1(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(1)請求項1のように、「伸び率」及び「引張強度」の特定のみで、「粘着層」の粘着力等を任意とするような発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(2)請求項1のように、「引張強度が、35N/cm以上70N/cm以下である」と特定するのみで、厚みを任意とするような発明の範囲にまで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
2(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
請求項1の「引張強度が、35N/cm以上70N/cm以下である」との記載について、当該記載では厚みが特定されておらず、本件明細書の内容や技術常識を勘案したとしても、技術的意味が不明である。
3(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
本件明細書において、「表皮層」の厚みや、「粘着層」の粘着力について具体的な内容が記載されていないから、出願時の技術常識を考慮しても、請求項1の伸び率と引張強度を有する「加飾シート」を、当業者はどのようにして製造できるのか不明である。
4(進歩性)本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、以下の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<証拠一覧> (以下、甲各号証を「甲1」等といい、乙各号証を「乙1」等という。)
甲1:特開2017-71178号公報
甲3:JIS K 7127:1999 プラスチック-引張特性の試験方法- 第3部:フィルム及びシートの試験条件,財団法人日本規格協会,平成11年10月31日第1刷発行,1~7ページ
甲4の1:JIS K 7161:1994 プラスチック-引張特性の試験方法 第1部:通則,日本規格協会,平成6年
甲6:「3MTMテープ・接着剤製品総合カタログ」,スリーエムジャパン株式会社,2017年,全ページ
<他の証拠一覧>
甲2:特開2010-83137号公報
甲4の2:JIS K 7161:2014 プラスチック-引張特性の求め方-第1部:通則,日本規格協会,平成26年9月22日第1刷発行
甲5:三和化工株式会社,「引張強さと伸び」,「online」,三和化工株式会社のウェブサイト,[令和4年12月28日検索],インターネット<https://www.sanwa-chemi.co.jp/sanwa-admin/wp-content/uploads/2021/03/tensilestrength.pdf>
甲7:特開2009-196169号公報
甲8:特開2011-231218号公報
甲9:特開平9-169963号公報
甲10:特開平9-217040号公報
甲11:テサテープ株式会社,「引きはがし粘着力が大事な理由は?」,[online],テサテープ株式会社のウェブサイト,[令和4年12月3日検索],インターネット<https://www.tesa.com/ja-jp/wikitapia/what-s-the-deal-with-peel-peel-adhesion-that-is.html>
甲12:テサテープ株式会社,「粘着テープの性能の決め手は配合」,[online],テサテープ株式会社のウェブサイト,[令和4年12月3日検索],インターネット<https://www.tesa.com/ja-jp/wikitapia/the-power-of-adhesive-tapes-depends-on-the-mix.html>
甲13:テサテープ株式会社,「粘着テープの基材と特徴」,[online],テサテープ株式会社のウェブサイト,[令和4年12月3日検索],インターネット<https://www.tesa.com/ja-jp/wikitapia/carrying-adhesion-to-the-peak-a-brief-look-on-backings.htmlv>
甲14:日榮新化株式会社,「粘着テープとは?工業用の種類と選び方のポイントを解説」,[online],日榮新化株式会社のウェブサイト,令和3年12月27日,インターネット<https://www.neion.co.jp/blog/useful/a109>
甲15:日榮新化株式会社,「『粘着剤の種類』はどんなものがありますか?」,[online],日榮新化株式会社のウェブサイト,[令和4年12月3日検索],インターネット<https://www.neion.co.jp/faq/adhesive_type.html>
甲16:日榮新化株式会社,「同じ粘着剤なら、フィルム基材が変わっても同じ性能になるのですか?」,[online],日榮新化株式会社のウェブサイト,[令和4年12月3日検索],インターネット<https://www.neion.co.jp/faq/film_substrate.html>
乙1:カタログ「3MTMテープ・接着剤製品総合カタログ」,スリーエムジャパン株式会社 テープ・接着剤製品事業部,2017年,p.4-13,15-17,30-35
乙2:東レ株式会社,プロミラン○R(当審注:○内にR),[online],東レ株式会社のウェブサイト,[令和5年8月22日検索],インターネット
<URL:https://www.toray.jp/mf/product/promilan/>
乙4:株式会社折兼,Glossary用語集の「引張強度」の項目,[online],株式会社折兼のウェブサイト,[令和5年8月22日検索],インターネット
<URL:https://www.orikane.co.jp/glossary/7511/>
引用文献1:特開平10-279757号公報(【0034】)(技術常識を示す文献)
引用文献2:特開2012-214021号公報(【0064】)(技術常識を示す文献)
第5 当審の判断
1 甲1に記載された発明
甲1の特に【請求項1】、【0001】、【0069】、【0081】、【0101】、【0103】の記載を総合し、特に実施例5の態様に着目すると、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「車両部品等の種々の部品の被着面に貼り付けることで部品表面を加飾する物品であって、(【0001】)
意匠面となる表面及び裏面を有する本体部と、
前記本体部の一辺から延在し、該本体部表面に対して所定の角度を形成する表面を有する端部と、
前記本体部の前記裏面側の少なくとも一部に配置される接着部と、を備える物品であって、
前記本体部は、前記被着面の形状に応じて変形可能であるとともに、貼り付け時には実質的に伸展せず、前記接着部を介して前記被着面に貼り付け固定可能であり、(【請求項1】)
当該物品は、住友ベークライト社のポリカーボネートシートEC105の0.2mm厚の片面上に0.05mm厚の黒色ポリウレタン層を設け、ポリカーボネートシートの反対側面に、イソオクチルアクリレート90質量部、アクリル酸10質量部を重合させた固形分40%の溶液にアジリジン硬化剤を1.25質量部加えた粘着剤溶液であるアクリル粘着剤溶液をバーコートにより塗布して80℃熱風オーブンに10分間入れて0.06mm厚塗膜の接着層にした後にロールラミネーターで東セロのSP-PET-01-25-BO剥離処理PETフィルム0.025mm厚をラミネートしたものであり、(【0069】、【0081】)
PET、剥離ライナーを除いたサンプルを10mm幅にカットして、引っ張り試験機を使ってつかみ、間隔50mm、引っ張り速度300mm/minで引っ張った時に求まる2%延伸時荷重が44N/10mmである、(【0101】、【0103】)
物品。」
2 取消理由通知について
(1)取消理由1(サポート要件)について
ア 本件発明の課題は、「良好に加飾できるとともに、浮きや剥がれを抑制できる加飾シート」(【0007】)を提供することであると認める。
当該課題について、発明の詳細な説明の【0158】~【0171】及び【表1】には、厚み50μmのアクリル系粘着剤(粘着層)と各種組成のポリ塩化ビニル(PVC)系樹脂シート(表皮層)を張り合わせて実施例1~4及び比較例1~6の加飾シートを作成し、各加飾シートを乗用車のルーフに貼り付けて浮き及び剥がれの試験を行っており、その結果が示された【表1】には、各加飾シートのうち、本件発明に特定された「伸び率」及び「引張強度」の数値範囲を満たす実施例1~4は、数値範囲を満たさない比較例1~6に比べて浮き及び剥がれの試験結果が良好であったことが示されている。
そうすると、本件発明が、上記課題を解決できるものであることは明らかであり、請求項の記載において、粘着層の粘着力を特定することまでをも要しない。
イ 発明の詳細な説明の【0158】~【0171】及び【表1】には、厚み50μmのアクリル系粘着剤(粘着層)と各種組成のポリ塩化ビニル(PVC)系樹脂シート(表皮層)を張り合わせて実施例1~4及び比較例1~6の加飾シートを作成し、各加飾シートをダンベル形状に打ち抜いて測定サンプルとして引張試験を行い、その結果得られた引張特性(10N/cmの伸び率(%)、引張強度(N/cm)、破断伸び(%))が示されている。
そして、本件発明に特定された「伸び率」及び「引張強度」の数値範囲を満たす実施例1~4は、数値範囲を満たさない比較例1~6に比べて浮き及び剥がれの試験結果が良好であったことが示されている。
加えて、各加飾シートの厚みを変更すれば、該シートの「伸び率」や「引張強度」も変化することは技術常識であるところ、その変化がある場合であっても「伸び率」及び「引張強度」が本件発明の数値範囲を満たす場合に、浮き及び剥がれが改善されることは、当業者であれば認識できるものである。
ウ 以上のとおりであるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。
(2)取消理由2(明確性)について
ア 明確であることについて
積層体などシート状部材の技術分野においては、乙1、乙2、及び乙4に例示されるように、引張強度(破断強度)を、請求項1で特定するように、単位幅当たりの力を単位とすることで、かかった力を、面積ではなく長さで割る表記が採用されているから、請求項1の「引張強度が、35N/cm以上70N/cm以下である」との記載は、請求項1に係る加飾シートの1cm幅当たりの引張強度を意味していることが理解でき、そのように解して矛盾は生じないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、明確である。
イ 申立人の主張について
申立人は令和5年10月11日の上申書において、「乙第1号証、乙第2号証および乙第4号証に記載されている「N/cm」は、乙第1号証、乙第2号証および乙第4号証に記載されているように、各物品の厚さが明記されていることを前提として、種々の製品の比較の便宜として用いられているに過ぎません。すなわち、これらの場合は各物品の厚さが明記されており、その場合厚さが予め掛けられていることから、「N/cm」と標記されているに過ぎず、厚さの値を踏まえてN/mm2(=MPa)への換算が可能であることを当然の前提としております。」(上申書9ページ末行~10ページ6行)と主張している。
しかしながら、申立人も認めるように、シート状部材の引張強度として「N/cm」を用いることにより、シート状製品の引張強度が比較しやすくなっていることは明らかであるし、シート状製品を使用する場面において厚みも引張強度とは別に重要なパラメータであることは明らかであるから、厚みも併せて特定することが引張強度を「N/cm」で表現することができる条件であるとする申立人の主張は採用できない。
(3)取消理由3(実施可能要件)について
発明の詳細な説明の【0158】~【0171】及び【表1】には、厚み50μmのアクリル系粘着剤(粘着層)と各種組成のポリ塩化ビニル(PVC)系樹脂シート(表皮層)を張り合わせて実施例の加飾シートを作成することが記載されており、それらの実施例1~4には、本件特許の範囲に包含されるものであって、上記(1)にて示したように、本件発明の課題を解決するものであるから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。
(4)取消理由4(進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とをその機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲1発明の「車両部品等の種々の部品の被着面に貼り付けることで部品表面を加飾する物品」、「意匠面となる表面及び裏面を有する本体部」、はそれぞれ、本件発明1の「被加飾体に貼着される加飾シート」、「加飾層」に相当する。
甲1発明の「前記本体部の前記裏面側の少なくとも一部に配置される接着部」は、甲1の「接着層4は、・・・感圧接着剤(いわゆる粘着剤)によって構成されてもよい。・・・屋外で使用する場合には耐久性に優れたアクリル系、シリコーン系粘着剤が好ましい。」(【0051】)との記載を踏まえると、本件発明1の「前記加飾層の裏面に設けられる粘着層」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「加飾層と前記加飾層の裏面に設けられる粘着層とを備え、被加飾体に貼着される加飾シート。」
<相違点1>
「加飾層」について、本件発明1では、「前記加飾層が、ポリ塩化ビニルと、可塑剤とを含有し、前記可塑剤の量が、ポリ塩化ビニル100質量部に対して40質量部以上120質量部以下であり、」「前記加飾層の厚みが50μm以上500μm以下であ」るのに対し、
引用発明では、「本体部」が、「0.2mm厚」の「住友ベークライト社のポリカーボネートシートEC105」である点。
<相違点2>
「粘着層」について、本件発明1では、「前記粘着層が、アクリル系粘着剤から形成され、」「前記粘着層の厚みが20μm以上100μm以下であ」るのに対し、引用発明では、「接着層」が「イソオクチルアクリレート90質量部、アクリル酸10質量部を重合させた固形分40%の溶液にアジリジン硬化剤を1.25質量部加えた粘着剤溶液であるアクリル粘着剤溶液をバーコートにより塗布して80℃熱風オーブンに10分間入れて0.06mm厚塗膜の接着層にした」ものである点。
<相違点3>
加飾シートの引張特性について、本件発明1では、「前記加飾シートの引張特性試験(測定サンプル;ダンベル形状(幅10mm、評点間距離50mm)、引張速度;200mm/min、温度;23℃)において、10N/cmの条件で伸長させたときの伸び率が、0.38%以上0.65%以下であり、
引張強度が、35N/cm以上70N/cm以下である」のに対し、
甲1発明では、「PET、剥離ライナーを除いたサンプルを10mm幅にカットして、引っ張り試験機を使ってつかみ、間隔50mm、引っ張り速度300mm/minで引っ張った時に求まる2%延伸時荷重が44N/10mmである」点。
(イ)相違点の判断
事案に鑑み、相違点1について検討する。
甲1には物品の本体部(「加飾層」に相当。)について、「本体部は、被着面の形状に応じて変形する程度の柔軟性と貼り付け時に伸展しない程度の剛性とを有する。・・・また、この剛性により、・・・作業者は、貼り付け時に端部を折り曲げる必要がなく、予め形成された折り曲げ部を利用することで、位置調整を容易にできる。」(【0014】)と、本体部の端部に折り曲げ部を形成することが記載されている。
また、物品の本体部の材質について、「種々の樹脂、例えば、ポリカーボネート樹脂、無延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、硬質塩化ビニル(PVC)樹脂などの単層、あるいは積層体を使用することができるが、特に、ガラス転移温度が130℃以上の樹脂層を含むことが望ましい。・・・特に、耐熱性を有するポリカーボネート層を用いる場合は、80℃以上の温度での端部の折り曲げ加工が容易となる。」(【0018】)と記載されている(下線は当審が付与。)。
そうすると、甲1には、本体部の材質として、「硬質塩化ビニル(PVC)樹脂」が例示されているものの、端部の折り曲げ加工のためにガラス転移温度が130℃以上の樹脂層、例えばポリカーボネート層を用いることが推奨されており、例示されている硬質塩化ビニル(PVC)はガラス転移温度が70℃~80℃であるという技術常識(例えば、特開平10-279757号公報(【0034】)、特開2012-214021号公報(【0064】)も踏まえると、甲1発明の本体部の材質として、ポリカーボネートに代えてポリ塩化ビニルを採用する動機はない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、さらに限定を加えるものであるから、上記アと同じ理由で、本件発明2は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由(サポート要件)について
申立人は特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、本件特許明細書には、本件発明の加飾性(貼付性、追従性など)を確保しながら浮きや剥がれを抑制できるという効果は、引張強度には依存せず加飾シートの伸び率の特定によって得られることが開示されているから、本件発明における引張強度の特定は、課題との関係において技術的意味を持たないと解するほかなく、引張強度の特定により課題が解決できることを当業者が認識できる程度に記載されていないから、本件発明はサポート要件を満たしていない旨主張する(申立書21~25ページ)。
しかしながら、樹脂のように弾性を示す材料において引張強度と伸び率は密接に関連するパラメータであり、本件発明に照らせば、伸び率の特定の結果が引張強度として表れている、あるいは引張強度の特定の結果が伸び率として表れているともいえるから、引張強度の特定が課題との関係において技術的意味を持たないとはいえない。
さらに、発明の詳細な説明の【0158】~【0171】及び【表1】には、実施例1~4及び比較例1~6の加飾シートの引張試験が示されており、その結果を示す【表1】からは、各加飾シートのうち、請求項1の伸び率及び引張強度の数値範囲を満たす実施例1~4は、前記数値範囲を満たさない比較例1~6に比べて浮き及び剥がれの試験結果が良好であったことが示されているから、伸び率及び引張強度が請求項1の数値範囲を満たす場合に、浮き及び剥がれが改善することが当業者であれば認識することができる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、請求項1及び2に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。さらに、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700002