特許異議申立
2020-700258
内燃機関
- 審判番号
- 2020-700258
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-109468
- 登録番号
- 特許第6613055号(P6613055)
- 請求日
- 2020年04月14日
- 審決日
- 2020年07月31日
- 公報発行日
- 2020年09月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ダイハツ工業株式会社
- 【異議申立人】黒田 泰
- 審判長/審判官
- 審判長 平田 信勝
- 審判官 田村 嘉章
- 審判官 尾崎 和寛
- 分類
- P1651.113-Y (F16J) / P1651.121-Y (F16J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6613055号発明「内燃機関」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6613055号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6613055号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、平成27年 5月29日に出願され、令和 1年11月 8日にその特許権の設定登録がされ、令和 1年11月27日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和 2年 4月14日に特許異議申立人 黒田泰 により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1の特許に係る発明(以下「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
シリンダブロックとシリンダヘッド、及び前記シリンダブロックと前記シリンダヘッドとの間に介在したガスケットを備えており、
前記シリンダブロックには、冷却水が流れるブロックジャケットがシリンダボアの群を囲うように形成されている一方、
前記シリンダヘッドにも冷却水が流れるヘッドジャケットが形成されていて、前記ヘッドジャケットには、前記ブロックジャケットに向いた下向き開口部が形成されており、前記下向き開口部は前記ガスケットによって塞がれている構成であって、
前記ガスケットは、前記シリンダブロックと前記シリンダヘッドとの重合部の略全体に広がると共に前記ブロックジャケットを覆うように積層された複数枚の主板材を備えており、前記複数枚の主板材のうち一部の主板材に前記ヘッドジャケットの下向き開口部に対応した切除穴を空けることにより、前記下向き開口部の箇所において主板材の枚数を減らして空気層を無くしている、
内燃機関。」
第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、請求項1に係る特許は特許法第29条第1項第3号、又は同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1に係る特許を取り消すべきものである旨主張すると共に、証拠として
甲第1号証:特開2001-227410号公報
甲第2号証:マグローヒル科学技術用語大辞典編集委員会「マグローヒル科学技術用語大辞典 改訂第3版」日刊工業新聞社 p.1443、1607
を提出している。
第4 甲各号証の記載
1 甲第1号証には、図面と共に次の記載がある。
・ 「【請求項1】多気筒水冷エンジンにおけるシリンダブロックの冷却水通路が各シリンダボァ間を除く全気筒を連続的に包囲して成るオープンデッキ型多気筒水冷エンジンのシリンダブロックとシリンダヘッド間に介挿する積層型のシリンダヘッドガスケットにおいて、前記各シリンダボァと前記冷却水通路との間のデッキ面形状に相当する連続リング形状のストッパプレートが前記シリンダヘッドガスケットの積層中の基板における各シリンダ孔を包囲する位置に重合固定され、前記ストッパプレートと前記基板との重合部に各シリンダ孔を包囲する内側ボァビードとその外周のフラット部を介して各シリンダ孔間を除く全シリンダ孔を連続的に包囲する外側ボァビードが形成されたことを特徴とするオープンデッキエンジン用シリンダヘッドガスケット。」
・ 「【請求項3】前記ストッパプレートの外周における冷却水通路に相当する所要箇所に張出部が形成され、該張出部にかしめ用の盲絞りまたはバーリングを施して前記基板に形成された穿孔部にかしめ結合したことを特徴とする請求項1記載のオープンデッキエンジン用シリンダヘッドガスケット。」
・ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、オープンデッキ型多気筒水冷エンジンのシリンダブロックとシリンダヘッド間に介挿する積層型のオープンデッキエンジン用シリンダヘッドガスケットに関するものである。」
・ 「【0010】一方、オープンデッキ型のシリンダブロック51は、例えば図14に示すようにシリンダボァ54周りに冷却水通路55を連続して設けてあり、シリンダブロック51側の冷却水通路55からシリンダヘッド52側の冷却水通路55’への冷却水流量コントロールは、基板62の冷却水孔60aの内径によって調整するため、この冷却水孔60aの下面周部がシリンダブロック51側の冷却水通路55に露出した構成となる。」
・ 「【0021】本発明によるオープンデッキエンジン用シリンダヘッドガスケット1は、図2に示すようなシリンダブロック3に形成された冷却水通路4が各シリンダボァ5、5間(9で示す部分)を除く全気筒を連続的に包囲して成るオープンデッキ型多気筒水冷エンジン2のシリンダブロック3とシリンダヘッド6(図1参照)との間に介挿され、シリンダヘッド6側のボルト孔からシリンダブロック3側のボルト孔8に挿着されたボルト9によって締結されるものである。
【0022】このようなシリンダブロック3とシリンダヘッド6の間に介挿される本発明のシリンダヘッドガスケット1は、各シリンダボァ5、5…と冷却水通路4との間のデッキ面9aの形状に相当する連続リング形状のストッパプレート10がシリンダヘッドガスケットの積層中の基板(例えば、下側基板17)における各シリンダ孔12、12…を包囲する位置に重合固定され、ストッパプレート10と基板との重合部13(図1参照)に各シリンダ孔12、12…を包囲する内側ボァビード14とその外周のフラット部7を介して各シリンダ孔12、12…間を除く全シリンダ孔12、12…を連続的に包囲する外側ボァビード15が形成された構成を有するものである。
・ 「【0024】(実施例1)この実施例のシリンダヘッドガスケット1-1は、図1に示すようにシリンダヘッド6側の基板である上側基板16とシリンダブロック3側の基板である下側基板17とが積層されると共に、下側基板17の上面にはストッパプレート10が固設されて成るものである。
【0025】図2に示すように、上側基板16と下側基板17とにはシリンダブロック3に形成されたシリンダボァ5の数と等しい数のシリンダ孔12が形成され、各シリンダ孔12、12…の外周にはシリンダブロック3の冷却水通路4に相当する位置に多数の冷却水孔19、19…が形成され、各冷却水孔19、19…は冷却水流量を調整する内径の絞り形状を有し、さらにシリンダヘッドガスケット1-1の外周付近の所定位置にはオイル孔20とボルト孔24とが形成されている。」
・ 「【0031】そして、シリンダブロック3とシリンダヘット6の合わせ面の外周に形成された上側基板16の突出部23と下側基板17の突出部23とがリベット36によって結合されることにより、上側基板16と下側基板17とを固定するようにしている。」
・ 「【0034】上記の形成方法によれば、スクリーン印刷による部分的なコーティングによって下側基板17の冷却水流通経路を避けた位置を非コーティング面26とすることができ、全面スクリーン印刷に比べてコーティング厚さの管理を行うことが容易となる。また、冷却水流通におけるシール材の剥れが防止され、またウォータジェット等によるシール材除去における工数増大と取り残しをなくすことができ、基板の再生加工においても公害上の問題を回避して有利な取扱いとすることが可能となる。」
・ 「【0039】(実施例2)図4において、この実施例のシリンダヘッドガスケット1-2と実施例1のガスケット1-1との共通点は、上側基板16と下側基板17とが積層されると共に下側基板17の上面にはストッパプレート10が全面接着によって固設されている点にあり、ストッパプレート10の形状及び各シリンダボァ5、5…のデッキ面9a上にて下側基板17とストッパプレート10とが重合され、この重合部13の範囲内において上下側基板17に内側ボァビート14と外側ボァビード15とが形成されると共に外周ビード22が形成されたこと、さらにはコーティングの形成位置及び形成方法においても共通している。」
・ 「【0046】(実施例4)この実施例のシリンダヘッドガスケット1-4は、図6に示すように、3枚の基板である上側基板16と中間基板18と下側基板17とを積層して成り、上側基板16は実施例2のシリンダヘッドガスケット1-2の上側基板16と同様の形状を有し、下側基板17は実施例2の下側基板17の上下を逆にした形状を有するため、本実施例の上側基板16と下側基板17に形成された内側ボァビード14は共にシリンダブロック3側に突出した断面円弧形状を有し、外側ボァビード15は上下側基板16、17共に外周側に下がる段差形状を有し、さらに外周ビード22は上下側基板16、17共に外周側に上る段差形状を有するように形成されている。
【0047】本実施例においては、これらの上下側基板16、17の間に連続リング形状のストッパプレート10を重合固定した中間基板18が介挿されている。この中間基板18の下面には、各シリンダボァ5、5…周りのデッキ面9a上にストッパプレート10が全面接着により重合固定されると共に、上下側基板16、17の内側ボァビート14と外側ボァビード15と同様の位置にシリンダヘッド6側に突出した断面円弧形の内側ボァビード14とその外周において外周側に上る段差形状の外側ボァビード15が形成され、それ以降の外周においてはビードを形成しないフラットな状態にされている。
【0048】上記の構成によって、本実施例のシリンダヘッドガスケット1-4は、各シリンダボァ5、5…周りのデッキ面9a上において実施例1または2のガスケットよりも強いビード荷重を発揮するが、内側ボァビード14と外側ボァビートとによる二重シールが各シリンダボァ5、5…周りのデッキ面9aの範囲内に同居した状態で形成された構成は同様であり、各シリンダボァ5、5…からの燃焼ガスの吹き抜けを二重に防止することが可能であり、その他の効果においても実施例1と同様である。
【0049】また、この実施例のシリンダヘッドガスケット1-4の上下側基板16、17においても実施例1と同様の位置関係で同様のコーティングが施され、その効果も実施例1と同様の効果を有する。
【0050】さらに、この実施例において、ストッパプレート10が中間基板18の下面に重合固定されているが、さらにその下部に下側基板17を積層しているため、ストッパプレート10はシリンダブロック3のデッキ面9aに接触することなく下側基板17によって保護されると共に下側基板17の上面側コーティング25に接触しているため、下側基板17に横方向の荷重がかかった場合でも、ストッパプレート10は中間基板18に対する全面的な接着力と内側ボァビード14と外側ボァビード15のビード形状によるガードによって定位置に固定された状態を保つことができる。」
・ 「【0053】(実施例6)この実施例のシリンダヘッドガスケット1-6は、実施例4のガスケット1-4のストッパプレート10を下側基板17の面上に(当審注:「中間基板18の下面に」の誤記と認める。)全面接着によって固定した代わりに、かしめ用のバーリング35によって結合したものであり、連続リング形状のストッパプレート10の外周における冷却水通路4に相当する所要箇所(図8参照)に張出部32が形成され、該張出部32にかしめ用のバーリング35を施して下側基板17(当審注:「中間基板18」の誤記と認める。)に形成された穿孔部34にかしめ結合した構成を有するものであってストッパプレート10をより強固に定位置に固定し得るほか、下側基板17によって冷却水の通過を防止することが可能であり、他の構成は実施例4のシリンダヘッドガスケット1-4と同様であって各種の効果も同様である。」
・ 「【図1】本発明による実施例1のシリンダヘッドガスケットをオープンデッキ型多気筒水冷エンジンに装着する状況を示す部分断面図であり、図2のA-A矢示線に沿う断面位置に該当するものである。
【図2】本発明による実施例1のシリンダヘッドガスケットをオープンデッキ型多気筒水冷エンジンに装着する状況を示す分解斜視図である。」
・ 「【図4】本発明による実施例2のシリンダヘッドガスケットをオープンデッキ型多気筒水冷エンジンに装着する状況を示す部分断面図である。」
・ 「【図6】本発明による実施例4のシリンダヘッドガスケットの部分断面図である。」
・ 「【図8】本発明による実施例5のシリンダヘッドガスケットをオープンデッキ型多気筒水冷エンジンに装着する状況を示す分解斜視図である。
【図9】本発明による実施例6のシリンダヘッドガスケットの部分断面図である。」
・ 「【図13】従来のガスケットをオープンデッキ型多気筒水冷エンジンに装着した状況を示す部分断面図である。
【図14】従来の他のガスケットをオープンデッキ型多気筒水冷エンジンに装着した状況を示す部分断面図である。」
(1) 甲第1号証には、特に、実施例6に係る記載からして、次の「甲1発明」が記載されている。
「シリンダブロック3とシリンダヘッド6、及び前記シリンダブロック3と前記シリンダヘッド6との間に介挿するシリンダヘッドガスケット1-6を有しており、
前記シリンダブロック3には、冷却水が流通する冷却水通路4が各シリンダボァ5、5間を除く全気筒を連続的に包囲して成る一方、
前記シリンダヘッド6にも冷却水が流通するシリンダヘッド側の冷却水通路が形成されていて、前記シリンダヘッド側の冷却水通路には、前記冷却水通路4に向いた下向き開口部が形成されており、シリンダブロック3の冷却水通路4に相当する位置に、シリンダブロック側の冷却水通路4からシリンダヘッド側の冷却水通路への冷却水流量を調整する内径の絞り形状を有する多数の冷却水孔19がシリンダヘッドガスケット1-6に形成されている構成であって、
前記シリンダヘッドガスケット1-6は、前記シリンダブロック3と前記シリンダヘッド6との重合部の略全体に広がると共に前記冷却水通路4を覆うように積層された上側基板16、下側基板17及び中間基板18が固定されており、ストッパプレート10の外周における冷却水通路4に相当する所要箇所に張出部32が形成され、該張出部32にかしめ用のバーリング35を施して中間基板18に形成された穿孔部34にかしめ結合した構成を有するものであってストッパプレート10をより強固に定位置に固定し得るほか、下側基板17によって冷却水の通過を防止することが可能である、
オープンデッキ型多気筒水冷エンジン2。」
なお、上記「シリンダヘッド側の冷却水通路には、前記冷却水通路4に向いた下向き開口部が形成されており」の点は、特に、図1及び4の記載内容から把握できる。また、「上記シリンダヘッドガスケット1-6は、前記シリンダブロック3と前記シリンダヘッド6との重合部の略全体に広がると共に前記冷却水通路4を覆うように積層された」点は、特に、図2及び8の記載内容から把握できる。
(2) また、甲第1号証には、特に、実施例1に係る記載からして、次の「甲2発明」が記載されている。
「シリンダブロック3とシリンダヘッド6、及び前記シリンダブロック3と前記シリンダヘッド6との間に介挿するシリンダヘッドガスケット1-1を有しており、
前記シリンダブロック3には、冷却水が流通する冷却水通路4が各シリンダボァ5、5間を除く全気筒を連続的に包囲して成る一方、
前記シリンダヘッド6にも冷却水が流通するシリンダヘッド側の冷却水通路が形成されていて、前記シリンダヘッド側の冷却水通路には、前記冷却水通路4に向いた下向き開口部が形成されており、シリンダブロック3の冷却水通路4に相当する位置に、シリンダブロック側の冷却水通路4からシリンダヘッド側の冷却水通路への冷却水流量を調整する内径の絞り形状を有する多数の冷却水孔19がシリンダヘッドガスケット1-1に形成されている構成であって、
前記シリンダヘッドガスケット1-1は、前記シリンダブロック3と前記シリンダヘッド6との重合部の略全体に広がると共に前記冷却水通路4を覆うように積層された上側基板16及び下側基板17が固定されている、
オープンデッキ型多気筒水冷エンジン2。」
なお、上記「シリンダヘッド側の冷却水通路には、前記ブロックジャケットに向いた下向き開口部が形成されており」の点は、特に、図1の記載内容から把握できる。また、「上記シリンダヘッドガスケット1-1は、前記シリンダブロック3と前記シリンダヘッド6との重合部の略全体に広がると共に前記冷却水通路4を覆うように積層された」点は、特に、図2の記載内容から把握できる。
(3) さらに、甲第1号証には、特に、実施例2に係る記載からして、次の「甲3発明」が記載されている。
「シリンダブロック3とシリンダヘッド6、及び前記シリンダブロック3と前記シリンダヘッド6との間に介挿するシリンダヘッドガスケット1-2を有しており、
前記シリンダブロック3には、冷却水が流通する冷却水通路4が各シリンダボァ5、5間を除く全気筒を連続的に包囲して成る一方、
前記シリンダヘッド6にも冷却水が流通するシリンダヘッド側の冷却水通路が形成されていて、前記シリンダヘッド側の冷却水通路には、前記冷却水通路4に向いた下向き開口部が形成されており、シリンダブロック3の冷却水通路4に相当する位置に、シリンダブロック側の冷却水通路4からシリンダヘッド側の冷却水通路への冷却水流量を調整する内径の絞り形状を有する多数の冷却水孔19がシリンダヘッドガスケット1-2に形成されている構成であって、
前記シリンダヘッドガスケット1-2は、前記シリンダブロック3と前記シリンダヘッド6との重合部の略全体に広がると共に前記冷却水通路4を覆うように積層された上側基板16及び下側基板17が固定されている、
オープンデッキ型多気筒水冷エンジン2。」
なお、上記「シリンダヘッド側の冷却水通路には、前記冷却水通路4に向いた下向き開口部が形成されており」の点は、特に、図4の記載内容から把握できる。また、「上記シリンダヘッドガスケット1-2は、前記シリンダブロック3と前記シリンダヘッド6との重合部の略全体に広がると共に前記冷却水通路4を覆うように積層された」のは、特に、図2の記載内容から把握できる。
2 甲第2号証には、「バーリング」及び「フランジ成形」に係る技術的事項が記載されている。
第5 判断
1 甲1発明について
本件発明と甲第1号証に記載された甲1発明とを対比すると、
甲1発明の「シリンダブロック3」は本件発明の「シリンダブロック」に相当し、以下同様に、
「シリンダヘッド6」は「シリンダヘッド」に、
「介挿する」は「介在した」に、
「シリンダヘッドガスケット1-6」は「ガスケット」に、
「有しており」は「備えており」に、
「流通する」は「流れる」に、
「冷却水通路4」は「ブロックジャケット」に、
「各シリンダボァ5、5間を除く全気筒を連続的に包囲して成る」は「シリンダボアの群を囲うように形成されている」に、
「上側基板16、下側基板17及び中間基板18が固定され」は「複数枚の主板材を備えており」に、
「オープンデッキ型多気筒水冷エンジン」は「内燃機関」に、
それぞれ相当する。
したがって、両者は、
「シリンダブロックとシリンダヘッド、及び前記シリンダブロックと前記シリンダヘッドとの間に介在したガスケットを備えており、
前記シリンダブロックには、冷却水が流れるブロックジャケットがシリンダボアの群を囲うように形成されている一方、
前記シリンダヘッドにも冷却水が流れるヘッドジャケットが形成されていて、前記ヘッドジャケットには、前記ブロックジャケットに向いた下向き開口部が形成されており、
前記ガスケットは、前記シリンダブロックと前記シリンダヘッドとの重合部の略全体に広がると共に前記ブロックジャケットを覆うように積層された複数枚の主板材を備えている、
内燃機関。」の点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1] 本件発明は「下向き開口部は前記ガスケットによって塞がれている」のに対し、甲1発明では「シリンダブロック3の冷却水通路4に相当する位置に、シリンダブロック3側の冷却水通路4からシリンダヘッド6側の冷却水通路への冷却水流量を調整する内径の絞り形状を有する多数の冷却水孔19がシリンダヘッドガスケット1-6に形成されている」点。
[相違点2] 本件発明は「複数枚の主板材のうち一部の主板材に前記ヘッドジャケットの下向き開口部に対応した切除穴を空けることにより、前記下向き開口部の箇所において主板材の枚数を減らして空気層を無くしている」のに対し、甲1発明では「ストッパプレート10の外周における冷却水通路4に相当する所要箇所に張出部32が形成され、該張出部32にかしめ用のバーリング35を施して中間基板18に形成された穿孔部34にかしめ結合した構成を有するものであってストッパプレート10をより強固に定位置に固定し得るほか、下側基板17によって冷却水の通過を防止することが可能である」点。
上記相違点1について検討すると、甲1発明は、シリンダブロック3側の冷却水通路4とシリンダヘッド6側の冷却水通路とは多数の冷却水孔19で連通しているといえるから、本件発明の上記相違点1に係る「下向き開口部は前記ガスケットによって塞がれている」との構成を備えていない。すなわち、上記相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明は甲第1号証に記載された発明(甲1発明)とはいえない。
さらに、甲1発明は、シリンダブロック3側の冷却水通路4とシリンダヘッド6側の冷却水通路とが連通しているのであるから、これを連通しない形式、すなわち、冷却水孔19が塞がれているものとすることには、阻害要因があるというべきである。
そうすると、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)及び甲第2号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
2 甲2発明について
本件発明と甲第1号証に記載された甲2発明とを対比すると、甲2発明の「シリンダヘッドガスケット1-1」は本件発明の「ガスケット」に相当すると共に、既に、本件発明と甲1発明とを対比したことと同様であるから、両者は、
「シリンダブロックとシリンダヘッド、及び前記シリンダブロックと前記シリンダヘッドとの間に介在したガスケットを備えており、
前記シリンダブロックには、冷却水が流れるブロックジャケットがシリンダボアの群を囲うように形成されている一方、
前記シリンダヘッドにも冷却水が流れるヘッドジャケットが形成されていて、前記ヘッドジャケットには、前記ブロックジャケットに向いた下向き開口部が形成されており、
前記ガスケットは、前記シリンダブロックと前記シリンダヘッドとの重合部の略全体に広がると共に前記ブロックジャケットを覆うように積層された複数枚の主板材を備えている、
内燃機関。」の点で一致し、上記相違点1と同様の点に加えて、次の点で相違する。
[相違点3] 本件発明は「複数枚の主板材のうち一部の主板材に前記ヘッドジャケットの下向き開口部に対応した切除穴を空けることにより、前記下向き開口部の箇所において主板材の枚数を減らして空気層を無くしている」のに対し、甲2発明では当該構成について明らかでない点。
上記相違点1については既に検討したとおりである。
したがって、上記相違点3について検討するまでもなく、本件発明は甲第1号証に記載された発明(甲2発明)とはいえないし、本件発明は、甲第1号証に記載された発明(甲2発明)及び甲第2号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 甲3発明について
本件発明と甲第1号証に記載された甲3発明とを対比すると、甲3発明の「シリンダヘッドガスケット1-2」は本件発明の「ガスケット」に相当すると共に、既に、本件発明と甲1発明とを対比したことと同様であるから、両者は、
「シリンダブロックとシリンダヘッド、及び前記シリンダブロックと前記シリンダヘッドとの間に介在したガスケットを備えており、
前記シリンダブロックには、冷却水が流れるブロックジャケットがシリンダボアの群を囲うように形成されている一方、
前記シリンダヘッドにも冷却水が流れるヘッドジャケットが形成されていて、前記ヘッドジャケットには、前記ブロックジャケットに向いた下向き開口部が形成されており、
前記ガスケットは、前記シリンダブロックと前記シリンダヘッドとの重合部の略全体に広がると共に前記ブロックジャケットを覆うように積層された複数枚の主板材を備えている、
内燃機関。」の点で一致し、上記相違点1及び3と同様の点で相違し、甲2発明と同様である。
したがって、甲2発明について既に検討したように、本件発明は甲第1号証に記載された発明(甲3発明)とはいえないし、本件発明は、甲第1号証に記載された発明(甲3発明)及び甲第2号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
4 特許異議申立人の主張について
(1) 特許異議申立人は、特許異議申立書の7ページ下から3-2行において「図13、図14には、シリンダヘッド52の冷却水通路55’はシリンダヘッドガスケット50、60によって塞がれている点が示されている」とし、同8ページ11行において甲1発明が「E 前記下向き開口部は前記ガスケットによって塞がれている構成であって、」との構成を備える旨主張している。
しかし、図13及び14は、甲1ないし3発明に係る図ではない。また、図13及び14は、シリンダヘッド52の冷却水通路55’はシリンダヘッドガスケット50、60に設けられた冷却水孔50a、60aによって連通しており、塞がれている点が示されているとはいえない。さらに、甲1発明に関し、上記相違点1について既に検討したとおりであるから、かかる主張には理由がない。
(2) 特許異議申立人は、特許異議申立書の12ページ10-13行において「図2には、下側基板17の冷却水通路4に相当する位置で、異議申立人が※マークを付した部分に冷却水孔19が設けられているが、上側側板16には、当該冷却水孔19が設けられていない点が示されている。」と主張しつつ、同12ページ下から6行において甲2発明が「E 前記下向き開口部は前記ガスケットによって塞がれている構成であって、」との構成を備える旨主張している。
しかし、甲第1号証の図2の記載内容に関して、特許異議申立人が主張するような記載は明細書中になされていないから、当該主張は直ちに採用できるものではない。仮に、当該主張が採用できたとしても、図2と同じく甲2発明を示す図1には、下向き開口部とシリンダブロック側の冷却水通路4とが、上側基板16に形成された冷却水孔19と下側基板17に形成された冷却水孔19とにより連通していることが記載されており、また、明細書の段落【0025】には、「図2に示すように、・・・(略)・・・各シリンダ孔12、12…の外周にはシリンダブロック3の冷却水通路4に相当する位置に多数の冷却水孔19、19…が形成され、各冷却水孔19、19…は冷却水流量を調整する内径の絞り形状を有し」と記載され、冷却水孔を冷却水が流通する旨記載されているから、「E 前記下向き開口部は前記ガスケットによって塞がれている構成であって、」との構成を備えるとはいえない。さらに、甲2発明に関し、上記相違点1と同様の点について既に検討したとおりであるから、かかる主張には理由がない。
(3) 特許異議申立人は、特許異議申立書の16ページ9行において甲3発明が「E 前記下向き開口部は前記ガスケットによって塞がれている構成であって、」との構成を備える旨主張している。
しかし、甲3発明に関し、上記相違点1と同様の点について既に検討したとおりであるから、かかる主張には理由がない。
5 まとめ
以上のとおり、本件発明は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700258