特許異議申立
2021-700306
再生砂の製造方法および鋳物砂の製造方法
- 審判番号
- 2021-700306
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-036722
- 登録番号
- 6767899
- 請求日
- 2021年03月26日
- 審決日
- 2021年10月28日
- 公報発行日
- 2022年03月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ダイハツ工業株式会社
- 【権利者代理人】岡本 寛之
- 【権利者代理人】宇田 新一
- 【異議申立人】石田 祥子
- 審判長/審判官
- 審判長 河端 賢
- 審判官 貞光 大樹
- 審判官 刈間 宏信
- 分類
- P1651.121-YAA(B22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6767899号発明「鋳物砂の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6767899号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-2]について訂正することを認める。
特許第6767899号の請求項2に係る特許を維持する。
特許第6767899号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6767899号(以下、「本件特許」という。)の請求項1-2に係る特許についての出願(特願2017-36722号)は、平成29年2月28日に出願され、令和2年9月24日にその特許権の設定登録がされ、同年10月14日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許に対して特許異議の申立てがあり、その手続の概要は次のとおりである。
令和 3年 3月26日 :特許異議申立人 石田祥子(以下、「申立 人」という。)による請求項1-2に係る 特許に対する特許異議の申立て
同年 6月30日付け:取消理由通知
同年 8月24日 :特許権者 ダイハツ工業株式会社(以下、 「特許権者」という。)による意見書及び 訂正請求書の提出
第2 訂正の適否
1.訂正の内容について
令和3年8月24日に提出の訂正請求書によってされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正事項は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「請求項1に記載の再生砂の製造方法により製造された再生砂」とあるものについて、新請求項2として独立形式に改める。
(3)訂正事項3
明細書の【発明の名称】において、「再生砂の製造方法および鋳物砂の製造方法」を、「鋳物砂の製造方法」に書き改める。
(4)訂正事項4
明細書の【0144】において、「実施例1」を「参考例1」に書き改める。
また、明細書の【0146】において、「実施例1」を「参考例1」に書き改め、また、「実施例2」を「参考例2」に書き改める。
さらに、明細書の【0147】において、「実施例1および2」を「参考例1および2」に書き改める。
さらにまた、明細書の【0149】において、「実施例1~4」を「参考例1~2および実施例3~4」に書き改める。
2.訂正の適否について
(1)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否及び新規事項の有無について
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項の有無について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項2について、訂正前の請求項1を引用するものであったところ、訂正前の請求項1における特定事項を請求項2に記載することにより、訂正前の請求項1を引用しない独立請求項とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項の有無について
訂正事項2に係る事項は、訂正前の請求項1及び2に記載されていたものであるから、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的について
訂正事項3は、上記訂正事項1及び上記訂正事項2に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項の有無について
訂正事項3は、訂正前の請求項1の削除に伴い、訂正前の請求項1に対応する発明「再生砂の製造方法」を削除するというものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
エ 訂正事項4について
(ア)訂正の目的について
訂正事項4は、上記訂正事項1及び上記訂正事項2に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項の有無について
訂正事項4は、訂正前の請求項1の削除に伴い、訂正前の請求項1に対応する発明「再生砂の製造方法」の実施例を、参考例として書き改める訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)一群の請求項及び明細書の訂正に関係する請求項について
ア 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1-2について、訂正前の請求項2は訂正前の請求項1を引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1-2は、一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
イ 明細書の訂正と関係する請求項について
訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項1-2に対応する明細書の記載を訂正するものであるから、訂正事項4に係る訂正と関係する請求項は、訂正前の請求項1-2である。
そうすると、本件訂正請求は、訂正事項4と関係する請求項の全てを請求の対象としているものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。
(3)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1-4について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4-第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1及び2について訂正を認める。
第3 訂正後の本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1-2に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、本件発明1-2をまとめて「本件特許発明」という。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1-2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(なお、下線部は、訂正箇所について特許権者が付したものである。)
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
砂と、前記砂を被覆するコーティング樹脂硬化物を含有する表面改質層とを有する複数の鋳物砂、および、前記複数の鋳物砂を互いに接着するバインダー樹脂硬化物を含有する砂型に対して、機械加工のみを実施することによって製造された再生砂と、コーティング樹脂組成物とを混合する工程と、
前記コーティング樹脂組成物が混合された再生砂に硬化剤を混合する工程と、を含むことを特徴とする、鋳物砂の製造方法。」
第4 取消理由についての当審の判断
1.取消理由の概要
当審が令和3年6月30日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
請求項1に係る発明は、引用文献1(甲第2号証)に記載の発明及び引用文献1-引用文献2(甲第3号証)に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。
引用文献1:「鋳鉄工場への人工砂導入のための指針と事例」、社団法人 日本鋳造協会 技術部会 人工砂委員会、2012年5月1 8日発行、第79-82ページ[甲第2号証]
引用文献2:「現場に役立つ鋳鉄の鋳型マニュアル」、全国銑鉄鋳物工業 組合連合会、平成13年1月発行、第52-55ページ、第 126-133ページ[甲第3号証]
2.取消理由についての判断
上記第3に示すとおり、本件発明1は削除されているから、当審が通知した取消理由により請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要及び申立人が提出した証拠
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要は、本件発明1-2は、甲第1号証-甲第3号証に記載された発明から容易に想到し得る発明である、というものである。(以下、各甲号証を「甲1」などという。)
そして、申立人が提出した証拠である甲1-甲3は、以下のとおりである。
甲1:特開2013-240799号公報
甲2:上記第4の1の引用文献1と同じ
甲3:上記第4の1の引用文献2と同じ
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断
取消理由通知において採用しなかった上記第5の特許異議申立理由について検討する。
1.本件発明1について
本件発明1については、上記第3に示すとおり、本件訂正請求により削除されているから、上記第5の特許異議申立理由により特許を取り消すことはできない。
2.本件発明2について
申立人は、甲1において、本件発明2に対応する事項が記載されているか明らかでない点は、いずれも甲2-甲3の記載に基づいて、当業者が容易になし得ることであるから、本件発明2は甲1-甲3により容易に想到し得る発明である旨を主張しているため、以下に検討する。
(1)甲1について
ア 記載事項
甲1(特開2013-240799号公報)には、次の記載がある。(下線は当審で付与した。以下、同様。)
(ア)「 【0001】
本発明は、鋳造用有機自硬性鋳型に用いられる、三次元積層造型用の鋳物砂に関し、特に、鋳造時にベーニング欠陥の発生しない砂型用の鋳物砂を提供しようというものである。 」
(イ)「 【0006】
しかしながら、熱硬化性タイプの三次元積層造型技術は、それに用いる装置の大型化が難しいために大きな造型物を得られず、仮に、大きな造型物の造型を試みたとしても、その造型には多大の時間を要する。そのため、大きな製品には適用できないという課題がある。また、レーザー照射のみでは十分な強度が得られないため、造型後に熱処理を行い、強度を高める必要があるという手間もある。
これに対して、2液混合の自硬性タイプによる三次元積層造型は、大型のプリンタヘッドを用いることで、大きな造型物を素早く造型することが可能であるため、大きな製品に対しても適用することができ、製造コストや生産性の点からも有利な造型方法である。さらに、樹脂の印刷のみで十分な強度が得られるため、造型後に熱処理を行う必要がないという利点もある。
【0007】
そこで、発明者らは、樹脂を硬化させるための触媒である硬化剤を混ぜた砂に対して、樹脂を印刷する2液混合の自硬性タイプによるRP造型法により作製した三次元積層造型砂型によって、鋳鉄製シリンダヘッドの鋳造を試みた。
ところが、従来の方法に従い、天然硅砂を用いると、図1に示すようなベーニング欠陥と呼ばれるバリ状の欠陥が発生しやすいことが新たに明らかとなった。特に、上記バリ状の欠陥が、複雑に形成された溝などの内部に発生すると、追加工によっても除去することができないため問題が大きい。
【0008】
上記した新たな問題に対し、発明者らはさらに解決を図るべく検討を重ねた。
その結果、現在の三次元積層造型では、主に、ケイ砂により鋳造用の砂型を作製しているが、ケイ砂は、570℃付近で構造相転移を起こして体積が膨張するため、鋳型に微細な割れが発生し、その割れに溶湯が侵入してしまうことが判明した。
【0009】
上記知見を受けて、発明者らは、近年、砂の流動性や、耐火性の向上を目的とした、人工砂、たとえば、特許文献2~4に記載されたような焼結法、溶融法(アトマイズ法)、火炎溶融法などにより、作製された人工砂の低熱膨張性に注目し、三次元積層造型法への適用を試みた(図2参照)。
【0010】
ところが、人工砂と硬化剤とを単に混練しただけでは、鋳物砂の流動性が極めて悪くなり、図3に示すような、複雑形状の形成を目的とした砂の積層を行うリコーターでは、鋳物砂が流れないことがわかった。
なお、前記した熱硬化性タイプは、鋳物砂に対して、予め樹脂をコーティングするため、流動性の問題がないことも合わせて確認された。また、上記自硬性タイプの砂型には、天然砂に硬化剤を加えて混練した砂を用いるのが一般的である。
【0011】
本発明は、上記した問題を有利に解決するもので、自硬性タイプの三次元積層造型砂型を用いて作製する鋳型に用いて好適な、ベーニング欠陥の発生を防止する低熱膨張性を有しつつ、かつ大型で複雑な形状の形成が可能な鋳物砂を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、上記した問題を解決するために、人工砂等の熱膨張性および流動性について、さらに鋭意検討を重ねた。そして、ベーニング欠陥が発生しない熱膨張性を有しつつ、大型で複雑な形状の形成を目的として砂を積層することができる鋳物砂は、所定の熱膨張特性および流動性を持つように混合して求めれば良いことを突き止めた。
本発明は、上記の知見に基づき、完成されたものである。 」
(ウ)「 【0021】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明は、三次元積層造型(RP造型)法の中でも、硬化剤を混ぜて樹脂を印刷する2液混合の自硬性タイプに適用される技術である。
すなわち、本発明では、樹脂を硬化させるための触媒として、硬化剤を混練した三次元積層造型用の鋳物砂を用いるが、その物性として必須の要件は、以下の線熱膨張量と粉末流動性の2つである。 」
(エ)「 【0026】
〔硬化剤〕
本発明で用いる、樹脂を硬化させるための触媒の作用を有する硬化剤としては、従来公知の硬化剤、すなわち常温においてフラン樹脂等の有機性樹脂を硬化させるものであれば、そのいずれもが好適に用いることができる。例えば、キシレンスルホン酸やトルエンスルホン酸を主成分とするものが取扱いの点で優れているため、好ましい。 」
(オ)「 【0028】
本発明では、一般に鋳物砂として用いられ、上記線熱膨張量および上記比(D/d)の値をそれぞれ前記したように満足すれば、特に鋳物砂の原料は限定されないが、例えば、天然硅砂に対し、以下に示す第2成分と前記硬化剤とを混練することが好適である。
〔第2成分〕
上記した第2成分は、天然硅砂よりも線熱膨張量が小さい天然または人工の砂が好ましく、その混練比率は、鋳物砂の質量に対して、40~95質量%の範囲とすることが好ましい。というのは、上記線熱膨張量を有する天然または人工の砂を、上記の範囲で混練するのが、鋳物砂を用いて作製した鋳型の常温から1000℃まで加熱した際の線熱膨張量を、0.9%以下に調整しやすいからである。
なお、天然の砂はジルコン砂が挙げられる。また、本発明における第2成分は、ある一つの酸化物からなる人工砂のように単一物である必要はなく、例えば、天然または人工の砂の混合物でも、以下の人工砂を複数混合したとしても、前記線熱膨張量および前記比(D/d)の値をそれぞれ満足すれば問題はない。
【0029】
〔人工砂〕
本発明では、上記した第2成分として、焼結法、溶融法もしくは火炎溶融法で作製された人工砂であって、新砂、その回収砂およびその再生砂のうちから選んだ少なくとも1種を用いることができる。特に、焼結法で作製された人工砂であって、天然硅砂の平均粒径の0.5~2倍の平均粒径で、具体的には80~200μm程度のものが取扱いの点で好ましい。 」
(カ)「 【0031】
〔天然硅砂〕
本発明において、天然硅砂は、平均粒径:80~250μmの範囲のものが好ましい。
本発明では、上記した天然硅砂に対して、前記第2成分および硬化剤を混練するのが好ましいが、その混練の際に使用する設備は、従来公知の装置で良い。例えば、セメントやモルタル等を混練するような種々の混練装置を用いることができる。また、混練条件は、当該混練装置を用いる際の常法に従えば良い。
【0032】
〔RP造型法および鋳造〕
本発明は、三次元積層造型(RP造型)法を用いるものであるが、上型用の砂型を製造する場合、上型の形状を3DCAD設計して得られたデータに基づき、機械加工を用いずに、材料を一層ずつ積層しながら上型用砂型を直接形成することができる。好ましくは、印刷造型法を用いる。すなわち、RP砂型造型装置(例えば、Prometal RCT S-print(商標)、販売元:株式会社EX ONE)を用いて、まず、図3に記載したようなリコーターを有するブレード機構により、鋳物砂の薄層を、平らな表面上に均一に拡げる。そののち、この薄層における所望の領域に対して、上記した3DCADデータに基づきインクジェットノズルヘッドを走査させて、有機樹脂であるバインダー(結合剤)を印刷する。その際の一層厚さは、200~500μmの範囲とすることが好ましい。より好ましくは200~300μmの範囲である。かかる操作により、より複雑な形状の砂型を形成することができるからである。
【0033】
バインダーが印刷された領域の層は、接合状態になるとともに、既に形成済の下層とも結合する。そして、上型用砂型全体が完成するまで、薄層を上部に順次形成させ、バインダーを印刷する工程を繰り返す。 」
(キ)「 【0035】
なお、上記バインダー(有機樹脂)としては、フラン樹脂を用いるのが好ましい。フラン樹脂としては、例えば、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、フェノール類とアルデヒド類の縮合物、尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種以上か、上記群から選ばれる2種以上の縮合物からなるフラン樹脂が挙げられる。 」
(ク)「 【0037】
以下に実施例を説明する。
天然硅砂と人工砂と硬化剤とを、混練ミキサーを用いて混練して鋳物砂とし、図3に示したリコーターを有するブレード機構を用いて、鋳物砂の薄層を平らな表面上に均一に拡げ、この薄層の所望の領域に対して、所定の3DCADデータに基づきインクジェットノズルヘッドを走査させて、有機樹脂であるバインダー(結合剤)を印刷した。なお、その際の一層厚さは、200~400μmとした。
【0038】
ここに、上記実施例に使用した天然硅砂、人工砂、硬化剤および有機樹脂は以下のとおりである。
人工砂:溶融法により作製されたムライトとシリカの混合組成砂、平均粒径:130μm、真球度:0.98。
なお、上記真球度は、〔粒子の投影面積と同じ面積を持つ真円の周長(mm)〕/〔粒子の投影面の周長(mm)〕の式により求めた値である。また、式中にある2つの周長については、当該粒子の拡大(接写)写真を撮影し、次いでその写真を画像解析装置にかけることによって求めることができる。なお、任意の10個程度の粒子において計算を行い、その平均値を当該粒子の真球度とした。
天然硅砂:平均粒径:140μm
硬化剤:トルエンスルホン酸を主成分とし、5質量%程度の硫酸を含む
人工砂の混練比率が、鋳物砂の質量に対して、60質量%
硬化剤の混練比率が、鋳物砂の質量に対して、0.3質量%
【0039】
上記、素材により作製された鋳型および鋳物砂の物性は次のとおりである。
鋳型の、常温から1000℃まで加熱した際の線熱膨張量:0.8%
スランプの直径(D)とスランプコーンの直径(d)との比(D/d):1.8
なお、本実施例では、開口部の直径(d)が85mm、底面部の直径が58mm、高さが140mmであるスランプコーンを用いた。
【0040】
上記鋳物砂を用いて以下に示す条件でRP造型法による鋳造を行った。
一層の厚さ:300μm
有機樹脂:フルフリルアルコール
鋳造
鋳物の材質(規格):FCD500
形状:ディーゼルエンジン用シリンダヘッド 」
(ケ)「 【0042】
これに対し、比較例として、天然硅砂と硬化剤を混練したもの(比較例1)、および、人工砂と硬化剤を混練したもの(比較例2)を作製し、上記と同じ条件のRP造型法で鋳型を作製し、同じ材質の鋳鋼で、同じ形状の鋳造を行った。
なお、上記天然硅砂と人工砂と硬化剤は、上記発明例と同じ物性のものを使用した。
【0043】
その結果、
比較例1は、
鋳型の、常温から1000℃まで加熱した際の線熱膨張量:1.5%
スランプの直径(D)とスランプコーンの直径(d)との比(D/d):2.0
となり、
また、比較例2は、
鋳型の、常温から1000℃まで加熱した際の線熱膨張量:0.2%
スランプの直径(D)とスランプコーンの直径(d)との比(D/d):1.5
の各物性が得られた。
【0044】
そして、上記鋳物砂を用いて製造した砂型を用いて鋳造を行った。その結果、比較例1は、製品表面のすべての部位に、ベーニング欠陥が多数発生し、一方、比較例2は、鋳物砂の薄層が形成できず、所望の鋳型が製造できなかった。なお、比較例2の鋳型の線熱膨張量は、モルタルミキサーで、発明例と同量の樹脂、硬化剤量を混練して成形したものの線熱膨張量を計測して記載した。 」
イ 甲1の記載事項及び図面から理解できる事項
上記アの(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)、(カ)、(キ)及び(ク)の記載から、甲1記載の砂型は、三次元積層造型(RP造型)法の中でも、2液混合の自硬性タイプにより造型される砂型であり(上記アの(ウ))、当該砂型に含有されるバインダー(有機樹脂)(上記アの(キ))によって、鋳物砂の薄層同士を結合する(上記アの(カ))ものであると理解できる。
ウ 甲1発明
したがって、甲1には、上記アの(オ)、(カ)及び(ク)の記載並びに上記イに示す事項からみて、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「天然硅砂と第2成分と硬化剤を混練した複数の鋳物砂、および、前記複数の鋳物砂の薄層同士を結合するバインダー(有機樹脂)を含有する砂型。」
(2)甲2について
ア 記載事項
甲2には、次の記載がある。
(ア)「 8.4.2 セラビーズの特性
セラビーズの基礎特性を表8.4.1に示す。
[図:0001382383000001.jpg]
特殊砂として期待される耐火度・耐破砕性・熱膨張については、他の特殊砂と比して遜色ない特性を持っている。ただし、熱膨張が低い点に関して、小物・薄物を除く鋳鉄鋳物においては、引け発生・鋳物重量増加のリスクが高まることから、必ずしも歓迎される特性とはいえない。
他の特殊砂と最も異なる点はかさ密度である。セラビーズはかさ密度が低くけい砂に近い値にであるため、鋳型のハンドリングにおいて、けい砂に近い感覚で使用できる。鋳型造型に必要な砂の量は体積で決まるため、かさ密度の低い砂は造型に必要な重量は小さく、逆にかさ密度の高い砂は必要重量が大きくなるためである。 」(第79-80ページ)
(イ)「 (3) フラン
フラン対応セラビーズの生産を開始は2008年であり、それ以前は、新砂セラビーズに夏用の硬化剤を使用したときに硬化不良が発生した。そのため、フランでの採用は少ないが、鋳鉄・鋳鋼ぞれぞれで使用されている事例がある。
新砂では上記のような不安定さを示すが、一度使用・再生されたセラビーズはフラン樹脂が粒子を被覆した状態(図8.4.4) になるため、硬化不良は発生しなくなる。また、1%以下のレジン添加量でも造型可能となる。また、イグロスは、機械式再生機の負荷に応じた数値となる。一般にけい砂比べて高い再生負荷が必要となる。フランでは一般に強力な再生が行われないため、けい砂でも砂再生歩留まりが比較的高く、セラビーズによる歩留り向上メリットを出しにくい。
[図:0001382383000002.jpg]
」(第82ページ)
イ 甲2の記載事項及び図面から理解できる事項
上記(イ)の記載から、一度使用・再生されたフラン対応セラビーズ(図8.4.4の右側の「再生セラビーズ(フラン)」)では、セラビーズ粒子の表面がフラン樹脂により被覆された状態となっており、セラビーズ粒子の表面には、フラン樹脂による表面被覆層が形成されているものと理解される。
そして、甲2の第81ページの「(1) アルカリフェノール」の欄の「アルカリフェノールプロセス」がアルカリフェノール樹脂をバインダー樹脂とする造形方法を意味することが技術常識であることを考慮すると、「(3)フラン」の欄に記載されている上記セラビーズ粒子の表面を被覆するフラン樹脂は、鋳物砂に対してバインダーとして添加されたレジン(樹脂)の硬化物であると理解される。
ウ 甲2に記載された技術的事項
したがって、甲2には、上記アの(ア)及び(イ)の記載並びに上記イに示す事項からみて、次の技術的事項(以下、「甲2に記載された技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
<甲2に記載された技術的事項>
「セラビーズと、前記セラビーズを被覆するフラン樹脂硬化物による表面被覆層とを有する複数の再生セラビーズ(フラン)。」
(3)甲3について
ア 記載事項
甲3には、次の記載がある。
(ア)「 (3) 砂再生装置はなぜ必要か
フラン鋳型では砂再生装置が最も重要であり、造型システムの良否が決まる。心臓部である再生機に前後する付帯設備を含めて再生装置と言う。各社により構成内容が異なるが、代表的設備としては、砂破砕機(サンドクラッシャ)、再生機(リクレーマ)、集じん機(ダクトコレクタ)、砂温調整機(サンドヒータ)、ふるい分級機(ブレーカスクリーン)、空気輸送機(ニュマチックコンベア)等で構成されている。
なお再生機は砂粒子を破砕しないで、砂表面を研磨できるものが好ましい。
市販されている再生方式の特徴および原理を表3.6、表3.73) 13) に示す。
[図:0001382383000003.jpg]
[図:0001382383000004.jpg]
」(第53-55ページ)
(イ)「 6.4 砂再生装置
6.4.1 砂再生装置にはどんな方式があるか
再生装置に要求される機能は、余剰砂を新砂並みかそれに近い品質に回復するため、砂表面に付着する炭化物や老化物などを短時間で効率的に除去することである。この除去方法を大別すると乾式、湿式および焙焼式があり、これらを細分すると表6.24) に示す各方式がある。主な方式の再生原理、特徴などを次に示す。
[図:0001382383000005.jpg]
6.4.2 乾式再生法の概要とその特徴はどんなことか
処理方式には衝撃式、摩擦式、研磨式があり、その原理の概要を図6.35) に示す。焙焼法に比べ装置は安価で、また低燃費で処理できるが、動力費が割高で回収歩留まりに難がある。しかし有機自硬性鋳型やガス硬化鋳型には、この形式が広く普及している。
(1) 衝撃式再生法
処理砂を機械的遠心力や高速噴気流で加速し、砂粒子間の衝突やターゲットへ衝突させて付着物を剥離・除去する。除去効率は付着物の多少や粘性に左右され、再生砂に高品質を求めると衝突力の増加を必要とし、その結果砂粒の破砕が進み細粒化して回収歩留まりは著しく低下する。噴気流型の構造例を図6.46) に示す。
[図:0001382383000006.jpg]
(2) 摩擦式再生法
処理砂を回転羽根やドラムなどで強制的に攪拌し、砂粒子間の摩擦や回転体との摺動で付着物を摩滅・除去する。摩擦力の強化や摩擦時間の延長で高い除去効果が得られ、砂粒の改善効果も大きい。摩擦や摺動を利用するため、砂粒の破砕が少なく細粒化も起こりにくい。羽根やドラムなどを回転させるため動力費は他の方式に比べ割高になる。
垂直軸回転型の構造例を図6.57) に、本方式を組み込んだ無焙焼式再生装置の例を図6.6に示す。この例では水分量が1%以下の砂はそのまま再生処理を行い、それ以上含む場合は乾燥してから処理をする。再生装置は2列4段で構成し、延べ16回処理して焙焼処理相当の品質を実現している。この例での処理回数と全粘土分およびクォーツ分を調査した結果を図6.78) に示す。
[図:0001382383000007.jpg]
[図:0001382383000008.jpg]
[図:0001382383000009.jpg]
(3) 研磨式再生法
処理砂を回転砥石に落下または吹き付けて付着物を研削・除去する。粘性の高い付着物の除去には有効であるが、砂粒の摩滅も進むため回収歩留まりは著しく低下する。
ショット投射方式は鋳放し品を研掃工程で砂落し処理する際、投射材などとの接触で付着物が剥離した砂が発生する。この砂を回収し鉄分除去すると再使用できる。 」(第127-130ページ)
(4)本件発明2についての対比・判断
ア 対比
本件発明2は、鋳物砂の製造方法であるが、砂型についても特定されているところ、本件発明2で特定する砂型と、甲1発明の砂型とを対比すると、甲1発明の「複数の鋳物砂」を構成する「天然硅砂と第2成分と硬化剤」のうち、「天然硅砂」は、本件発明2の「砂」に相当することは明らかである。また、甲1発明の上記「第2成分」には、「人工砂」の「回収砂」及び「再生砂」を用いることができる(上記(1)アの(オ))から、甲1発明の「第2成分」も、本件発明2の「砂」に相当する。そうすると、甲1発明の「天然硅砂と第2成分」は、本件発明2の「砂」に相当する。
そして、甲1発明の「複数の鋳物砂」は、「天然硅砂と第2成分」を有しているものの、当該「天然硅砂と第2成分」を被覆する、本件発明2のような「コーティング樹脂硬化物を含有する表面改質層」を有しているかどうか明らかでないから、甲1発明の「複数の鋳物砂」は本件発明2の「複数の鋳物砂」に、「砂を有する複数の鋳物砂」という限りにおいて相当する。
また、甲1発明の「複数の鋳物砂の薄層同士を結合するバインダー(有機樹脂)」は、「硬化剤」の作用により「硬化」するものである(上記(1)アの(エ))から、「砂型」の状態において、「複数の鋳物砂」に混練された「硬化剤」の作用により硬化している樹脂硬化物であるといえ、「複数の鋳物砂」の薄層同士を互いに接着するものといえるから、本件発明2の「複数の鋳物砂を互いに接着するバインダー樹脂硬化物」に相当する。
イ 一致点及び相違点
そうすると、本件発明2と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の相違点1-2で相違する。
<一致点>
「砂を有する複数の鋳物砂、および、前記複数の鋳物砂を互いに接着するバインダー樹脂硬化物を含有する砂型」に関するものである点。
<相違点1>
本件発明2は、「鋳物砂」を構成する「砂」が、「コーティング樹脂硬化物を含有する表面改質層」により被覆されているのに対し、甲1発明では、「鋳物砂」を構成する「天然硅砂と第2成分」が、「コーティング樹脂硬化物を含有する表面改質層」により被覆されているのかは明らかでない点。
<相違点2>
本件発明2は、「砂型に対して、機械加工のみを実施すること」によって「再生砂」を「製造」し、「製造された再生砂」と、「コーティング樹脂組成物とを混合する工程と、前記コーティング樹脂組成物が混合された再生砂に硬化剤を混合する工程と、を含むこと」により「鋳物砂」を「製造」する方法であるのに対し、甲1発明では、砂型から再生砂を製造することや、どのように鋳物砂を製造するのか不明な点。
ウ 判断
(ア)上記相違点1について検討する。
甲1発明における「鋳物砂」は「天然硅砂と第2成分」を硬化剤とともに混練したものであり、「第2成分」としては、「人工砂」の「回収砂」及び「再生砂」を用いることができる(上記(1)アの(オ))ものである。
そして、甲2には、上記(2)のとおり、甲1発明において「第2成分」として用いることができる「人工砂」に関連して、人工砂である「セラビーズ」を一度使用・再生した「再生セラビーズ(フラン)」では、「セラビーズ」が「フラン樹脂硬化物による表面被覆層」により被覆されていることについては記載されているものの、甲2には、甲1発明における「天然硅砂」に関連して、天然硅砂が「フラン樹脂硬化物による表面被覆層」により被覆されている点については記載されておらず、また、天然硅砂を「フラン樹脂硬化物」とは異なる樹脂硬化物による「表面被覆層」により被覆する点についても記載されていない。
そのため、甲1発明において、甲2に記載された技術的事項を参照した場合、「鋳物砂」を構成する「天然硅砂と第2成分」のうちの「第2成分」として用いることができる「人工砂」の「再生砂」については、甲2に記載された技術的事項のように「フラン樹脂硬化物による表面被覆層」により被覆されている「再生セラビーズ(フラン)」を選択することが当業者にとって容易に想到し得る余地があるといえるものの、「鋳物砂」を構成する「天然硅砂と第2成分」のうちの「天然硅砂」についても、「フラン樹脂硬化物」又は「フラン樹脂硬化物」とは異なる樹脂硬化物により被覆された構成とすることが当業者にとって容易に想到し得るものとまでいうことはできない。
そして、本件明細書の【課題を解決するための手段】についての段落【0010】の「バインダー樹脂硬化物は、表面改質層に付着している。そのため、バインダー樹脂硬化物が鋳物砂の表面改質層に付着する砂型に対して機械加工を実施することにより、バインダー樹脂硬化物を表面改質層から剥離することができる。」及び段落【0011】の「つまり、表面改質層に付着するバインダー樹脂硬化物を、加熱処理なしに機械加工のみにより剥離除去することができ、砂型から再生砂を製造できる。」なる記載からみて、バインダー樹脂硬化物は、再生砂の製造の際に加熱処理なしに機械加工のみにより剥離除去することができるようにするために、砂ではなく、表面改質層に付着することが必要であると認められることから、本件発明2は、全ての砂が表面改質層により被覆されているものであると認められる。
そうすると、上記のように、甲1発明において、甲2に記載された技術的事項を参照しても、「鋳物砂」を構成する「天然硅砂と第2成分」のうちの「天然硅砂」については、「フラン樹脂硬化物」又は「フラン樹脂硬化物」とは異なる樹脂硬化物により被覆された構成とすることが当業者にとって容易に想到し得るものとまでいうことはできない以上、相違点1に係る本件発明2のように、「コーティング樹脂硬化物を含有する表面改質層」が全ての砂を被覆するような構成とすることは当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
また、甲3には、上記(3)アに摘記した事項が記載されているが、「鋳物砂」を構成する「砂」について、「コーティング樹脂硬化物を含有する表面改質層」により被覆することを、示唆するものではない。
したがって、相違点1は、甲1発明、甲2に記載された技術的事項及び甲3の記載に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
(イ)次に上記相違点2について検討すると、相違点2における
a 「砂型」から「製造された再生砂」と、「コーティング樹脂組成物とを混合する工程」(以下、「a工程」という。)と、
b「前記コーティング樹脂組成物が混合された再生砂に硬化剤を混合する工程」(以下、「b工程」という。)は、甲1-甲3のいずれにも記載されていない。
上記両工程のうち、上記a工程における「砂型」から「製造された再生砂」については、本件明細書の【課題を解決するための手段】についての段落【0010】の「バインダー樹脂硬化物が鋳物砂の表面改質層に付着する砂型に対して機械加工を実施することにより、バインダー樹脂硬化物を表面改質層から剥離することができる。」なる記載からみて、表面改質層を有する鋳物砂およびバインダー樹脂硬化物を含有する砂型から機械加工のみを実施することによって製造された(表面改質層からバインダー樹脂硬化物を剥離除去した)再生砂であるといえる。
そして、その再生砂から鋳物砂を製造するにあたり、本件明細書の同段落【0013】の「砂型が含有する鋳物砂のうち、金属溶湯と接触した鋳物砂や、その近傍に位置した鋳物砂では、砂を被覆する表面改質層が焼失している場合がある。この場合、砂型から製造される再生砂には、表面改質層が焼失した再生砂が含まれる。」なる記載、同段落【0014】の「上記の方法によれば、再生砂とコーティング樹脂組成物とを混合した後に、硬化剤を混合するので、コーティング樹脂組成物が、再生砂の各粒子の周囲を取り囲むように被覆した後、硬化剤により硬化してコーティング樹脂硬化物となる。」なる記載及び同段落【0015】の「そのため、再生砂に表面改質層が焼失した再生砂が含まれていても、砂を再コーティングすることができ、砂と、砂を被覆するコーティング樹脂硬化物を含有する表面改質層とを有する鋳物砂を確実に製造(再生)することができる。」なる記載からみて、上記a及びbの工程は、(表面改質層からバインダー樹脂硬化物を剥離除去し、さらに、表面改質層が焼失した)再生砂の表面にコーティング樹脂硬化物を含有する表面改質層が形成された鋳物砂とするために必要な工程といえる。
これに対して、甲2に記載された技術的事項(上記(2)ウ)には、再生セラビーズ(鋳物砂)の表面にフラン樹脂硬化物による表面被覆層(表面改質層)が形成されていることが示されてはいるが、当該表面被覆層は、バインダーとしてフラン樹脂が添加されて、砂型として使用された後に再生されたセラビーズの表面に、バインダーであるフラン樹脂が残留して表面被覆層となったものであると解される(上記(2)イ)。そうすると、甲2に記載された技術的事項の表面改質層(硬化したフラン樹脂が残留した表面被覆層)は、鋳物砂を砂型にする際にバインダーとしてフラン樹脂を添加したものが単に残留したものにすぎず、これをいったん剥離除去ないしは焼失した再生砂から鋳物砂を製造するものではないから、甲2に記載された技術的事項は、鋳物砂を製造するにあたり、鋳物砂の表面に表面改質層を形成するために、再生砂とコーティング樹脂組成物とを混合し、さらに硬化剤を混合することを示しているとはいえない。
したがって、相違点2は、甲1発明、甲2に記載された技術的事項及び甲3の記載に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
(ウ)上記のとおり、相違点1及び2は、甲1発明、甲2に記載された技術的事項及び甲3の記載に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえないから、本件発明2は、甲1発明、甲2に記載された技術的事項及び甲3の記載に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
エ 申立人の相違点1についての主張の検討
相違点1に係る本件発明2の構成について、申立人は、甲1では、「鋳物砂」の砂の例として、第2成分である人工砂が挙げられており、この人工砂は新砂、その回収砂およびその再生砂のうちから選んだ少なくとも1種を用いることができるとされているものの、「鋳物砂」がコーティング樹脂硬化物を含有する表面改質層を有しているかは明らかではなく、この点について、甲2には、人工砂であるセラビーズは新砂の場合に硬化不良を生じるが、一度使用・再生されるとフラン樹脂が粒子を被覆した状態になるため、硬化不良が発生しなくなることが記載されていることから、甲1の第2成分として、硬化不良を抑制するため一度使用・再生することによりフラン樹脂に被覆されたセラビーズを選択することは当業者が容易になし得ることである旨の主張とともに、甲1では、第2成分を天然硅砂と共に使用しているが、甲2のセラビーズは、硅砂に近い感覚で使用できるもので硅砂の代替として使用できることが知られており、甲1の天然硅砂に代えて一度使用・再生されることによりフラン樹脂に被覆されたセラビーズを使用することは当業者が容易になし得ることである旨を主張している(特許異議申立書第7ページ1行-19行)。
上記主張を整理すると、甲1では、「鋳物砂」の砂として、天然硅砂と第2成分とを使用しているところ、このうち、第2成分として、甲2に記載される「一度使用・再生された、フラン樹脂に被覆されたセラビーズ」を選択し、天然硅砂についても、甲2に記載される「一度使用・再生された、フラン樹脂に被覆されたセラビーズ」に代えることは、当業者が容易になし得ること、すなわち、甲1の「鋳物砂」の砂を、「一度使用・再生された、フラン樹脂に被覆されたセラビーズ」のみにより構成することは、当業者が容易になし得ることである旨の主張であると理解される。
しかし、甲1の上記(1)ア(イ)及び(ケ)によると、「砂」として「人工砂」のみを使用(比較例2)して砂型を製造しようとする場合には、「鋳物砂の薄層が形成できず、所望の鋳型が製造できなかった」という問題があることが理解されることから、甲1発明において、「鋳物砂」の「砂」を、「第2成分」である「人工砂」のみにより構成することには阻害事由があるといえるものであり、甲1の天然硅砂に代えて、「人工砂」である「一度使用・再生された、フラン樹脂に被覆されたセラビーズ」(甲2のセラビーズ)を使用することを当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
したがって、上記申立人の主張は採用できない。
オ 申立人の相違点2についての主張の検討
相違点2に係る上記a及びb工程(上記ウ(イ))について、申立人は、鋳物砂の技術分野においては、砂を繰り返し使用することは例を出すまでもなく技術常識であり、その際、使用後の鋳物砂を使用前の鋳物砂と同様の品質に近づけることは当然に要求されることであって、砂再生の工程として、必要に応じて粘結剤(樹脂等)などを追加することは一般的に行われる工程であるから、本件特許発明2のように、鋳物砂を再生する際、使用後の鋳物砂を使用前の鋳物砂と同様の品質に近づけるために、必要に応じて樹脂や硬化剤を混合することは、当業者であれば適宜なし得ることにすぎない旨を主張している(特許異議申立書第9ページ4行-13行)。
しかし、上記ウ(イ)で説示するとおり、甲2に記載された技術的事項の表面改質層(硬化したフラン樹脂が残留した表面被覆層)は、鋳物砂を砂型にする際に、バインダーとしてフラン樹脂を添加したものが単に残留したものにすぎず、これをいったん剥離除去ないしは焼失した再生砂から鋳物砂を製造するものではないから、甲2に記載された技術的事項は、鋳物砂を製造するにあたり、鋳物砂の表面に表面改質層を形成するために、再生砂とコーティング樹脂組成物とを混合し、さらに硬化剤を混合することを示しているとはいえない。
したがって、上記申立人の主張は採用できない。
(5)小括
以上のとおり、本件発明2は、甲1-甲3に記載された発明から容易に想到し得る発明であるとはいえないから、上記第5の特許異議申立理由により特許を取り消すことはできない。
3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についてのむすび
以上のとおり、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について検討しても、本件発明2に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項2に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件請求項2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項1に係る特許については、本件訂正請求により削除されているから、特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-700306